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ダム貯水池における放線菌に由来するカビ臭のモデル化 Modeling of Musty Odor Caused by Actinomycetes in Dam Reservoir 杉原 幸樹 *  高田 賢一 **  山下 彰司 *** Kouki SUGIHARA,Ken-ichi TAKADA,and Shouji YAMASHITA 漁川ダムにおいては1993年(平成5年)頃からカビ臭の発生が顕著になった。これまでの調査によ ると、カビ臭発生の原因は湖内の富栄養化によるプランクトンの異常増殖によるものよりむしろ、堆 砂によって形成された棚状の地形(堆砂棚)が放線菌の増殖を促したことによる影響が大きいと推察 されている。しかし、堆砂棚のどのような作用によってカビ臭が発生するかは不明な点が多い。そこ で本研究はカビ臭発生をシミュレーションにより再現し、抑制対策の検証を行うことを目的とした。 まずシミュレーションモデルを構築するために放線菌を用いた室内試験を行い、モデルパラメーター を決定した。次にモデルにより漁川ダムのジェオスミン分布を見積もり、湖底形状に対する感度分析 を行った。この分析で得られた結果から、堆砂棚の形成により湖内の鉛直方向の流動が抑制され、 DO の供給が減少するために湖底において嫌気化が進行し、放線菌の死滅によってジェオスミンの放 出が増加することが推察された。これにより、カビ臭抑制のためには鉛直循環の回復が重要であるこ とが示された。 ≪キーワード : 漁川ダム、放線菌、ジェオスミン、カビ臭、シミュレーションモデル、堆砂棚、鉛直 循環≫ The occurrence of musty odor in the Izari River Dam became apparent around 1993. Previous studies suggested that this odor is caused by the proliferation of actinomycetes, which is promoted by the formation of a sediment shelf, rather than being caused by eutrophication-related proliferation of plankton. However, it is not yet clear by what mechanism the sediment shelf influences the occurrence of the musty odor. This study developed a model to simulate the occurrence of the musty odor, towards possible control measures. A laboratory experiment using actinomycetes was conducted to determine parameters for a simulation model. The model was then used to estimate geosmin distribution in the Izari River Dam, toward analyzing the sensitivity of geosmin distribution to changes in the bottom shape of the reservoir. It was suggested that the release of geosmin is promoted by the death of actinomycetes, which occurs when an anaerobic layer forms at the bottom because of reduction in dissolved oxygen supply. This reduction occurs due to the stagnancy of vertical water flow in the dam. These results show that the recovery of vertical circulation is important in controlling the musty odor at the dam. 《Keywords:Izari River Dam, actinomycetes, geosmin, musty odor, simulation model, sediment shelf, vertical circulation》 報 文 10 北海道開発土木研究所月報 №630 2005年11月

ダム貯水池における放線菌に由来するカビ臭のモデ …ダム貯水池における放線菌に由来するカビ臭のモデル化 Modeling of Musty Odor Caused by

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ダム貯水池における放線菌に由来するカビ臭のモデル化

Modeling of Musty Odor Caused by Actinomycetes in Dam Reservoir

杉原 幸樹 *  高田 賢一 **  山下 彰司 ***Kouki SUGIHARA,Ken-ichi TAKADA,and Shouji YAMASHITA

 漁川ダムにおいては1993年(平成5年)頃からカビ臭の発生が顕著になった。これまでの調査によると、カビ臭発生の原因は湖内の富栄養化によるプランクトンの異常増殖によるものよりむしろ、堆砂によって形成された棚状の地形(堆砂棚)が放線菌の増殖を促したことによる影響が大きいと推察されている。しかし、堆砂棚のどのような作用によってカビ臭が発生するかは不明な点が多い。そこで本研究はカビ臭発生をシミュレーションにより再現し、抑制対策の検証を行うことを目的とした。まずシミュレーションモデルを構築するために放線菌を用いた室内試験を行い、モデルパラメーターを決定した。次にモデルにより漁川ダムのジェオスミン分布を見積もり、湖底形状に対する感度分析を行った。この分析で得られた結果から、堆砂棚の形成により湖内の鉛直方向の流動が抑制され、DOの供給が減少するために湖底において嫌気化が進行し、放線菌の死滅によってジェオスミンの放出が増加することが推察された。これにより、カビ臭抑制のためには鉛直循環の回復が重要であることが示された。≪キーワード : 漁川ダム、放線菌、ジェオスミン、カビ臭、シミュレーションモデル、堆砂棚、鉛直循環≫

 The occurrence of musty odor in the Izari River Dam became apparent around 1993. Previous studies suggested that this odor is caused by the proliferation of actinomycetes, which is promoted by the formation of a sediment shelf, rather than being caused by eutrophication-related proliferation of plankton. However, it is not yet clear by what mechanism the sediment shelf influences the occurrence of the musty odor. This study developed a model to simulate the occurrence of the musty odor, towards possible control measures. A laboratory experiment using actinomycetes was conducted to determine parameters for a simulation model. The model was then used to estimate geosmin distribution in the Izari River Dam, toward analyzing the sensitivity of geosmin distribution to changes in the bottom shape of the reservoir. It was suggested that the release of geosmin is promoted by the death of actinomycetes, which occurs when an anaerobic layer forms at the bottom because of reduction in dissolved oxygen supply. This reduction occurs due to the stagnancy of vertical water flow in the dam. These results show that the recovery of vertical circulation is important in controlling the musty odor at the dam.

《Keywords:Izari River Dam, actinomycetes, geosmin, musty odor, simulation model, sediment shelf, vertical circulation》

報 文

10 北海道開発土木研究所月報 №630 2005年11月

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を適用した。図-3に示すように貯水池を格子状に分割し、各格子(コントロールブロック)中で流出入を考慮しており、さらにコントロールブロック内でカビ臭発生モデルを新たに付加した。計算項目は流向・流速、水温、濁度、カビ臭発生項目としてDO、COD、放線菌数、ジェオスミン濃度となる。また、横寺らの底質モデル9)を参考に底質が関与する場合のカビ臭発生モデルの模式図を図-4に示すが、放線菌は SSに付着して輸送され、底質内で有機物(COD成分の一部)を摂餌して増殖するものと考えられる。その後、増殖あるいは死滅した放線菌によりジェオスミンが生成、放出されるモデル構成となっている。また、CODの分解、放線菌の死滅条件としてDOを考慮した。DO

1.はじめに

 本研究の対象とした漁川ダムは北海道恵庭市西部に位置し、恵庭市街から約15㎞と比較的都市部に近い位置に建設されているが、ダム上流の集水域は森林地域で湖水も清澄である(図-1)。ダムの諸元は、集水面積113.3㎢、総貯水容量15,300千㎥、有効貯水容量14,100千㎥を有し、ダム本体の規模および形式は堤高45.5m、堤頂長270.0m のロックフィルダムであり、流域一帯の洪水被害軽減、上水道用水の供給などを目的として、昭和55年(1980)に完成した多目的ダムである。水道用水は恵庭市、千歳市、北広島市、江別市の32.8万人に対して供給されている。 漁川ダム貯水池では集水域に特定の汚濁源は存在しないが、平成5年(1993)よりカビ臭の発生が顕在化し、水道利用者より早急な対策が求められていた。これまでに行ってきた調査1)、2)によりカビ臭発生の原因生物は放線菌であり、その発臭プロセスは図-2に示すように「①土砂がダム貯水池内に堆積し、この堆砂棚上で放線菌が繁殖する。②増殖した放線菌が嫌気化されている貯水池深層部へ沈降し、死滅する。③放線菌が死滅し、体内に保有していたジェオスミンを放出し、カビ臭が発生する。」と推定されている3)、4)、5)、6)。しかし、このようなメカニズムを定性的に述べただけでは、カビ臭の具体的な抑制対策を実施しがたく、定量的な検証が必要条件となる。 そこで本研究はカビ臭の発生状況を再現計算により把握することを目的とし、パラメーター決定のために各室内試験を行った結果と、そのパラメーターを用いて構築されたモデルによるカビ臭原因物質濃度の分布状況について報告する。

2.水質シミュレーション

 臭気物質濃度を見積もるために本研究では鉛直2次元貯水池モデル7)にカビ臭発生モデルを組み込んだ。鉛直2次元貯水池モデルは森北らの二次元差分モデル8)

図-3 鉛直2次元モデル模式図

図-1 漁川ダム位置図

図-2 カビ臭発生プロセス

図-4 カビ臭発生モデル模式図

北海道開発土木研究所月報 №630 2005年11月 11

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は底質、CODの分解により消費され、嫌気条件下では好気性菌である放線菌の死滅がおこるとしている。なお、底質が関与しないコントロールブロックにおいては放線菌の流入のみを考慮し、DO条件により死滅がおこり、増殖はしないという条件を設定している。 以下に、モデルの基礎式とその説明を記す。2-1 ~2-4における基礎式は流下方向、鉛直上向きをそれぞれ正として二次元差分モデル8)に従うものとする。また、各式中のパラメーターの値、設定根拠については補遺にまとめた。 2-1 水の連続式

2-2 運動量保存則(水平方向)

2-3 運動量保存則(鉛直方向)

ここで、x、zはそれぞれ流下方向、鉛直方向の座標(m)、u、vは流下方向、鉛直方向の流速(m/s)、ρW:水の密度(kg/ ㎥)、P : 水圧(Pa)、Dmx : 流下方向の運動量拡散係数(㎡/s)、Dmz : 鉛直方向の運動量拡散係数(㎡/s)、g : 重力加速度(m/s2)を表す。

2-4 SS 収支式

ここで、Css:SS 濃度(mg/L)、w0 : 懸濁粒子の平均沈降速度(m/s)、Dcx : 流下方向の濁質拡散係数(㎡ /s)、Dcz : 鉛直方向の濁質拡散係数(㎡ /s)、なお w0は(5)式(ストークスの式)より求める。g : 重力加速度(m/s2)、ρS : 土粒子の密度(kg/ ㎥)、ρW : 水の密度(kg/ ㎥)、

m : 水の粘度 (kg/m/s)、d : 代表粒径(m)を表す。なお、(6)式、(7)式のTは水温(℃)である。

2-5 熱収支式

ここで、T : 水温(℃)、V:コントロールボックス体積(㎥)φT : 水面への熱フラックス((9)式ではdegree/s なので、(8)式中では86,400を乗じる)、S↓:日射量(W/㎡)、L↓:下向き長波放射量(W/㎡)、A:水面積(㎡)、ρW:水の密度(kg/ ㎥)、CW:水の比熱(J/kg/degree)、α:水面アルベド、ε:射出率、σ:Stefan-Boltzmann 係数(W/㎡ /K4)、H:顕熱(W/㎡)、lE:潜熱(W/㎡)を表す。L↓、H、lEについては(10)~(20)式を用いた。

ここで、Ta:気温(℃)、ea:水蒸気圧(hPa)、esat:飽和水蒸気圧(hPa)、cp:空気の定圧比熱(J/kg/degree)、CH:バルク輸送係数、U:水面上風速(m/s)、l:水の気化潜熱(J/kg)、β:蒸発効率、Pa:気圧(hPa)、N:日照時間(h)、N0:可照時間(h)、W:湿度(%)、

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ρa:空気密度(kg/ ㎥)を表し、日射量(S↓)、気圧(Pa)、気温(Ta)、湿度(W)、風速(U)、日照時間(N)といった気象データはダム管理所で計測している値を用いた。

2-6 カビ臭発生モデル項目

 カビ臭に関わるDO、COD、放線菌、ジェオスミンの基礎式は(21)式のように表す。

ここで、M : 水質成分 N(DO(mg/L)、COD(mg/L)、放線菌(個/L)、ジェオスミン(ng/L))の濃度、DMx:流下方向(X)の N成分拡散係数(㎡ /s)、DMz:鉛直方向(Z)の N成分拡散係数(㎡ /s)、φM(N) :N成分の内部生産消費項を表す。 カビ臭発生項目における内部生産消費項について以下の(1)~(4)にまとめる。

(1)DO 内部生産消費項

ここで、[COD]:COD濃度(mg/L)、T:水温(℃)、K1 : 再曝気係数(1/day)、[DOsat]:飽和 DO濃度(mg/L)、K2:20℃における光合成によるDO生産率(mg/μg/day)、θDOP:光合成によるDO生産率に対する温度係数、[PP]:クロロフィル a濃度(μg/L、本研究では現地水質調査の平均値7.0で与えた)、f1:分解、無機化補正係数、f2:DO消費補正係数、θCOD:COD物質分解の温度係数、K3:COD物質によるDO消費率(1/day)、r:底泥による DO 消費率 (g/ ㎡ /day)、θWDO:底泥によるDO消費率に対する温度係数、AB:底泥面積(㎡)、V:コントロールボックス体積(㎥)を表す。さらに他の変数は以下の式で表す。

ここで A1 : 水面表面積(㎡)、V1:表層の貯水容量(㎥)、

D:分子拡散係数(㎡ /s)、U:風速(m/s)、kDO:DOに関する半飽和定数 (mg/L)、[DO]:DO濃度(mg/L)を表す。

(2)COD 内部生産消費項

ここで Kp:植物プランクトン中のCOD物質量とクロロフィル a 量の比(mg/μg)、[PP]:クロロフィル a濃度(μg/L)、λ: 懸濁態 COD分解時の懸濁態 CODとしての残存率、RPC: 懸濁態 COD の分解率 (1/day)、θCOD:COD 物質分解の温度係数、ξ:全 CODにおける溶存態 CODの割合、RDC:溶存態 CODの分解率 (1/day)、RWC:底泥からの COD溶出率(g/ ㎡/day)、f3:溶出補正係数、θWC:CODの底泥からの溶出率に対する温度係数、νCOD : 懸濁態 CODの沈降速度(m/day)を表し、λは(29)式で与えた。

 (3)放線菌内部生産消費項

 放線菌の増減を見積もるため以下の式を設定した。

ここで、GH:放線菌の増殖関数(1/day)、DH:放線菌の死滅関数(1/day)、[HO]:放線菌量(個 /L)を表す。

(4)ジェオスミン内部生産消費項

 カビ臭の原因物質であるジェオスミンはジェオスミン生成生物である放線菌の量と性質に依存するため、以下の式を設定した。

ここで、CG:ジェオスミン濃度(ng/ ㎥)、S(HOG) : 増殖した放線菌のジェオスミン生成総量速度関数(ng/day)、S(HOD) : 死滅した放線菌のジェオスミン生成総量速度関数(ng/day)、V;コントロールボックス容積(㎥)、μB: ジェオスミンの分解速度(1/day)、ΓG、ΓD :生菌、死菌のジェオスミン放出割合を表す。

3.カビ臭モデルパラメーター

 これまでプランクトンを中心とした生態系モデルはいくつか報告例10)、11)、12)、13)があるが、放線菌やジェオスミンを推定するモデルは存在しなかった。そこで(21)式、(30)式、(31)式に示すような基礎式を設

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定した。さらに設定した放線菌、ジェオスミンの内部生産消費項において各関数、パラメーターを決定する必要がある。前節において未決定の関数、パラメーター は(30) 式 中 の GH、DH、(31) 式 中 の S(HOG)、S(HOD)、μB、ΓG、ΓD である。ここで GH、DH、S(HOG)、S(HOD)を以下の式のように設定した。

ここで μG:放線菌の比増殖速度(1/day)、μD:放線菌の死滅速度(1/day)、st1 : 増殖状態係数(泥中=1、水中 =0)、st2: 死滅状態係数(泥中=1、水中嫌気=1、水中好気 =0)、Mf:放線菌のミカエリス関数、[COD]:COD の濃度(mg/L)、KS:COD の半飽和定数(mg/L)、S(HOG):生菌ジェオスミン生成関数(ng/day)、S(HOD):死菌ジェオスミン生成関数(ng/day)、[HO]:放線菌生菌数(個 /L)、[HOD]:放線菌死菌数(個/L)、S:ジェオスミン生成速度(1/day)、Ge:放線菌1万個あたりのジェオスミン生成量(ng/10,000個)を表す。 これより求めるパラメーターは μG、μD、KS、S、Ge、μB、ΓG、ΓDであり、各室内試験によりパラメーターを決定した。パラメーター決定の詳細については次節に記す。なお、状態係数は図-5に示す放線菌の生活史より菌糸が成長し、増殖するためには着床する必要があり、水中と泥中で増殖、死滅ともに条件分けが必要となるために設定した。

4.室内試験

4-1 放線菌培養試験

 漁川ダム底泥から放線菌を分離し、増殖特性、発臭特性を定量化するために培養を行い、最も発臭能の高い放線菌株の選定を行った。図-1に示すダムサイト、湖心、上流の3地点より2002年2月26日に底泥を採取し、底泥から放線菌を成長させる初期培養を行い、そのコロニーを寒天培地に接種して室内試験を行うのに十分なだけ放線菌を培養、増殖させた。同時に感応試験により各地点の放線菌の発臭能を確認した結果、ダムサイト底泥から採取した放線菌が最も発臭能が高く、この放線菌株を以後の試験に用いることとした。

4-2 放線菌増殖速度試験

 寒天培地で増殖させた放線菌のコロニーを液体培地に添加して一定期間経過後の放線菌数とジェオスミン濃度を計測した。ここで、液体培地は表-1に示す組成で、pHを8.0に調整したものを用いている。写真-

1に試験の様子を示すが、器壁に放線菌のコロニーが形成されていることが分かる。なお、1つのコロニーは1菌糸より形成されていると仮定し、コロニー数を菌体数とした。また、ジェオスミン濃度はガスクロマトグラフィーにより計測し、上澄み液の分析値を菌体外のジェオスミン濃度とし、フラスコ内を均一に攪拌した後、超音波処理したものの分析値を全ジェオスミン濃度とした。これより全ジェオスミン濃度と菌体外ジェオスミン濃度の差から菌体内ジェオスミン濃度を算出した。さらにコロニーを SS として計測すると図

表-1 液体培地組成

図-5 放線菌生活史

写真-1 増殖速度試験の様子

   左:液体培地に増殖した放線菌コロニー

   右:水面上のコロニー(褐色)

図-6 放線菌数と SS の関係

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-6に示すようによい相関が得られ、放線菌数を SSの関数として表すことができることがわかった。 この関係より便宜的に濁質に付着して流入する放線菌、あるいは水中にある放線菌を(35)式で表した。

ここで [HOin] は流入放線菌(個 /L)をあらわし、(21)式の差分表示式より放線菌量を(36)式のように表す。

ここで tは時間を表し、[HO]tは時間 tでの放線菌量(個/L)、[HOin]tは時間 tでの流入放線菌量(個 /L)、At

は時間 tでの(21)式の差分表示式より導かれた放線菌数(個 /L)(詳細は文献8)参照)を表し、放線菌量は(36)式に従い更新するとした。 次に菌体数の経時変化を図-7に示す。一般的な菌体数の増殖傾向の解析法22)により、いずれの水温においても対数増殖期は0~7日目に相当しており、対数近似により比増殖速度を算出した。

図-7 増殖速度試験結果

表-2 増殖・死滅速度

 また、好気条件下における死滅速度は増殖期の比増殖速度と定常期の比増殖速度の差である22)とし、算出された比増殖速度と死滅速度を表-2に示す。さらに、水温依存性を考慮し、好気条件における放線菌の比増殖速度 μG、死滅速度 μDは図-8に示すように(37)、(38)式のようになった。ここで、各近似式は相関係数が最も高くなり、かつ生物的矛盾を解消できるものを選択している。また、COD濃度を変化させ

たときの増殖速度の変化を確認し、ミカエリス定数Ks を決定し、さらにジェオスミン分解速度の水温依存性を確認した結果を図-9に示す。 この試験により得られたパラメーターを以下にまとめる。 好気条件下の増殖速度と死滅速度

 ミカエリス定数とジェオスミン分解速度

ここで、T:水温(℃)を表す。

図-8 増殖・死滅速度の水温依存性

図-9 分解速度の水温依存性・ミカエリス関数

4-3 カビ臭生成能試験

 次にカビ臭物質であるジェオスミンに関するパラメーターを決定するためにカビ臭生成能試験を行った。まずジェオスミンの生成速度 Sを見積もるためダムサイト株による菌体外ジェオスミン生成量の経時変化を図-10に示す。どの水温においても0~ 14日までは直線的にジェオスミン量が増加し、その後定常状態になっていることがわかる。ジェオスミン生成速度は菌体の死滅の影響を考慮しないように対数増殖期(0~7日)を対象として算出した。これから算出されたジェオスミン生成速度 Sは表-3に示す。また、水温依存性は図-12に示すようになった。

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 次に図-10のジェオスミン生成量を放線菌1万個あたりのジェオスミン生成量に換算したものを図-11に示す。放線菌1万個当たりのジェオスミン生成量は培

養温度条件により異なっており、水温が高いほど生成量が多くなる傾向が認められる。ただし、10℃、15℃では培養開始から14日目にピークを持ち、その後は低下の傾向を、20℃の条件では培養開始から7日目にピークを持ち、その後は低下の傾向を示した。ピークまでの期間は指数的に放線菌1万個あたりのジェオスミン生成量が増加しており、初期生成量を0.001ng として(42)式ように指数関数により近似すると、指数部分は表-4の結果を得た。このときの係数 Xの水温依存性は図-12に示す。この試験により生菌が放出するジェオスミン生成速度関数 S(HOG)が見積もられた。 この試験により得られたパラメーターを以下にまとめる。 ジェオスミン生成速度

 放線菌1万個あたりのジェオスミン生成量

ここで、T:水温(℃)を表す。 4-4 死滅・分解試験

(1) 菌体量変化

 さらに死菌によるジェオスミン放出量を定量化するために死滅・分解試験を行った。試験は液体培地を用い、1週間目までは同一条件下(20℃)で培養した。その後、嫌気化(20℃)、温度上昇(25℃)、温度低下(10℃)、継続培養(対照)(20℃)の4条件にそれぞれ培養条件を変更し、さらに1週間培養を行った。菌体量は SS との関係式(35)式から算出した SS 換算値を用いて計測した。経時的な菌体量(SS 換算値)の変化を図-13に示す。嫌気条件下における死滅試験は、20℃の条件でのみの実施である。図-13より菌体量を比較すると、初期培養により1週間目に14mg であった菌体量は、継続培養した対照試料では2週間目には39mg にまで増加する状況が認められる。この菌体量を基準とすると、温度上昇及び温度低下条件下の菌体量はそれぞれ105%(41mg)、100%(39mg)と

図-10 カビ臭生成速度試験結果

表-3 カビ臭生成速度

図-11 カビ臭生成量の経時変化

表-4 カビ臭生成量

図-12 ジェオスミン生成速度、生成量水温依存性

図-13 死滅・分解試験結果(菌体量変化)

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なり、ほとんど基準値と変わらないことがわかった。 一方、嫌気条件下に暴露した試料では2週間目の菌体量が22mg(対照2週間目基準の56%)となり、1週間目よりは増加してはいるものの、水温変化条件に比較して増加量が低い水準に留まっている事がわかる。ただし、DO条件が嫌気化した場合のように大きく放線菌量が変化する場合には SS 換算値にもその影響が現れ、菌体量の増殖が好気条件の約1/2程度にまで抑制されることが示されている。なお、培養条件を変更した結果、嫌気化したケースでは明らかに放線菌のコロニーが萎縮し、フラスコ底面から剥離して水面に浮上しているコロニーが目視によっても多数確認された(写真-1右図参照)。以上の結果から、放線菌の死滅には水温条件の変化よりもDO条件が大きく影響していることが明らかとなった。 次にこのときの増殖、死滅速度について考えると、対照試料の7日目~ 14日目までの菌体量変化は前節4-2の放線菌増殖速度試験で得られた20℃の増殖速度(μG)と20℃の平常時死滅速度(μD)が加味された増殖速度(見かけの増殖速度)に従い増加していると考えられる。 表-5に死滅・分解試験で得られた見かけの増殖速度を示すが、対照試料での値は0.146(1/day)と得られ、増殖速度試験で推定した増殖速度(4-2 試験結果μG)と死滅速度(4-2 試験結果 μD)の差(=0.102(1/day))に比較して幾分大きいものの、ほぼ妥当な値であると考えられる。一方、嫌気条件化の菌体量は培養条件の変化により明らかに影響されており、対照に比べ増加量が少なくなっている。これは嫌気化により対照と比べ増殖は同程度起こるが、死滅がより進行しやすくなったと考え、対照と嫌気の見かけの増殖速度の差分(0.081(1/day))だけ嫌気化の死滅が進行するとして対象の死滅速度に加え0.998(1/day)を得た。なお、図-5の放線菌の生活史を考慮して、シミュレーション上は流下する放線菌は増殖しないと考え、かつ嫌気条件下では一方的に死滅するものとした。

表-5 増殖・死滅速度

(2)ジェオスミン量変化

 次に、各培養条件におけるジェオスミン生成量(菌体内、菌体外に分離)を図-14に、ジェオスミンの保持率を図-15に示す。初期培養(20℃、1週間)では、菌体内に162ng、菌体外に26ng のジェオスミンが確認されていたが、継続培養した基準試料では2週間目の菌体内ジェオスミンは838ng、菌体外ジェオスミンが243ng となり、全ジェオスミン生成量の約78%が菌

体内に保持されていることがわかる。菌体内に保持されている割合は、1週間目の初期培養値(約86%)よりも低くなっているがそのほとんどが菌体内に保持されている状況には変化が見られていない。一方、25℃に温度を上昇させた場合には放線菌量が増加していることもあり、菌体内には1387ng、菌体外には688ng のジェオスミンが確認され、その菌体内保持率は約67%に低下する。これは、温度を上昇させたことにより放線菌の増殖が活発である一方で、死滅する個体も増加したことが原因であると考えられる。 また、10℃に温度を低下させた場合には菌体内に352ng、菌体外に80ng のジェオスミンが確認され、その菌体内保持率は約81%であった。このように、対照条件(水温20℃)から低水温条件(水温10℃)に変化させたときでは菌体量は対照試験結果とほぼ同程度(図-13参照)であるが、生成されるカビ臭物質は1/2以下、菌体外に放出されるカビ臭物質も少なくなることが示された。 一方、嫌気化試料では菌体内に36ng、菌体外に430ng のジェオスミンが確認され、菌体内保持率は約8%に過ぎない。これは、急激なDO濃度の低下によって菌体の活性低下、或いは死滅・分解が生じ、菌体内に蓄積されていたジェオスミンが菌体外に多量に放出されたことを意味している。以上の結果から(31)式中 ΓG、ΓDはそれぞれ0.2、0.9と決定された。

図-14 ジェオスミン量変化

図-15 ジェオスミン保持率

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(3)死滅放線菌量

 ジェオスミンの生成、放出量は菌体が生きているか死んでいるかで大きく異なることが前節で明らかになった。そのため、ジェオスミンのシミュレーションにおいて生菌と死菌を分離する必要がある。生菌量は[HO] で表されるが、死菌量の見積もりができない。そこで(34)式における [HOD] は図-16のスキームに示すように Δtの時間変化の間に死滅した放線菌量と考え、好気の場合は内部生産消費で死滅したもののみ(図中円囲み部)、嫌気の場合は内部生産消費の死滅に加え流入放線菌も一方的に死滅するとして与えた(図中網掛部)。

図-16 死滅放線菌算出スキーム

 これより死滅放線菌量は(44)式で推定した。

ここで [HOD]:放線菌死菌数(個 /L)、[HO]:放線菌数(個 /L)、[HOin]:流入放線菌数(個 /L)、T:水温(℃)を表す。

5.放線菌、ジェオスミン内部生産消費項

 前章の室内試験よりカビ臭モデルパラメーターが決定したので、以下に放線菌とジェオスミンの内部生産消費項をまとめる。

ここで、特に表記のない場合は時間 tでの算出式を示し、[COD]:COD の濃度(mg/L)、S(HOG):生菌ジェオスミン生成関数(ng/day)、S(HOD):死菌ジェオスミン生成関数(ng/day)、[HOD]:放線菌死菌数(個 /L)、[HO]:放線菌数(個 /L)、[HOin]:流入放線菌数(個/L)、T:水温(℃)、Δt:時間変化量(day)を表す。

6.貯水池シミュレーション

6-1 計算条件

 前段までに構築した鉛直2次元カビ臭モデルを用いて漁川ダム貯水池におけるジェオスミン分布の確認を行った。計算に用いた貯水池形状はカビ臭発生が顕著になってきた2000年の横断測量結果より水平距離100mごとに補間断面を作成し、鉛直距離0.5mごとの川幅を算出し、コントロールブロックの座標を求めたものを使用した。 また漁川ダムは上流域に顕著な汚濁源がないにもかかわらず、カビ臭発生が問題となっていることから物理要因が主原因と考えられる。そのため比較としてダム完成直後の1981年の貯水池形状についても同じ計算を試みた。2000年の貯水池形状の特徴として、計画堆砂容量の70%にあたる約80万㎥が堆砂しており、堆砂棚が発達している。さらに棚と制限水位との水深差は2~3m程度であるが、堆砂棚の下流端からダムサイトまでは13 ~ 15mの水深で推移している。一方、1981年の貯水池形状は急激な水深変化はなく、なだらかに変化しているのが特徴である。

6-2 DO 計算結果

 図-17にDOの計算結果を示す。初期のDO分布は2000年7月のダムサイトにおける定期水質調査の分析値を水平方向に一様であると仮定して与えた。このときのDOは上層(水深1m)10mg/L、中層(水深7m)9mg/L、下層(水深11m)3mg/L であった。計算期間は2000年7月1日から1週間とし、気象データは2000年7月の対応期間のものを両断面に適用した。流出入量は2000年7月のダム管理日報より時間データを与え、取水位置は実運用にあわせ、水深1mとした。なお、計算期間の流入量平均は4.5㎥ /s、放流量平均は5.3㎥ /s であり、この結果、水位は7日間で40㎝低下する。結果をみると両断面ともに時間の経過にとも

18 北海道開発土木研究所月報 №630 2005年11月

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ない、底層から DOの低下が起こり、1週間後には1981年断面ではDOが4mg/L ほどで分布し、2000年断面では2mg/L ほどで分布していた。また、底泥のDO消費が大きく、底泥接触部分からDOの低下が進行するが、湖水流動によるDOの再供給(上層のDOが下層へ供給)が河床形状により異なるため、2000年断面のほうが1981年断面に比べてDOの低下が顕著であった。また、計算終了時の2000年7月7日前後のダムサイトにおける実測値と比較するとDOの躍層位置が1mほど高く計算されているが、妥当な鉛直分布であった。さらに、1981年当時のDOの湖内分布は測定されておらず、当時のDO分布を推定するうえで本シミュレーションが有用であると考えられる。

6-3 水交換量の推算

 このように嫌気層の形成は河床形状に由来すると考えられ、求めた流速より棚の末端標高にあたるEL=158m 断面における水交換量を算出した。結果を図-18に示し、水交換量を表-6にまとめる。なお交

換量の正の値は上向き、負の値は下向きの水の移動を表しており、各計算ボックスにおける移動量を図に示している。また、断面における累積移動量を表にまとめている。この結果より、EL=158m 断面での移動総量において2000年河床形状では堆砂棚の形成により湖内の鉛直水交換量が1981年河床形状に比べ61%減少していることがわかる。この理由として断面積が縮小したこと、鉛直方向の平均流速が減少したこと、つまり流入水が放流口に向かい、より直進化されて、湖水の鉛直混合が抑制されていることが考えられる。

図-18 水交換量比較

表-6 水交換量比較

6-4 ジェオスミン計算結果

 次にジェオスミンの計算結果を図-19に示す。初期条件を0ng/L で与え開始させると、時間の経過とともに底層よりジェオスミンが発生していく結果となった。ジェオスミン濃度はDOに強く影響され、計算上は好気・嫌気の区別はDO 3mg/L で区別させているためモザイク上の分布形状を示している。そのため1981年断面ではDOが3mg/L 以下になる部分が底泥直上付近しかないために底泥に沿う形でジェオスミンの分布が計算されている。このときジェオスミンの発生源成分としては増殖した放線菌による生成とその死滅による放出がある。一方、2000年断面においては湖内のDOが広範囲にわたって3mg/L 以下になっているためにジェオスミンが広く分布する形状となった。このときの発生源成分は上述の2つに加え濁質(流入負荷)として流入する放線菌の死滅もある。2000年7

図-17 DO 計算結果(左:1981年断面、右:2000年断面)(上より初期状態、3日後、7日後)

北海道開発土木研究所月報 №630 2005年11月 19

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7.まとめ

 本研究の成果を以下に記す。①各種室内試験により放線菌、ジェオスミンの生成・消滅に関するパラメーターを取得した。

②取得したパラメーターをもとにカビ臭発生モデルを構築した。

③これらカビ臭発生モデルは精度的な問題点も多く更なる改良が必要ではあるが、計算結果より河床形状により流動、水質が大きく異なることが明らかとなった。

④この結果よりカビ臭抑制対策としては湖水の鉛直循環を回復することが有効であると考えられる。

⑤今後の課題として堆砂棚から巻上げで供給される放線菌の見積もりが必要である。

謝辞

 本研究を進めるにあたり、漁川ダム管理所より多くのデータを提供していただいた。ここに記して謝意を表する。

参考文献

1)北海道開発局 石狩川開発建設部;H13年度直轄ダム周辺環境整備事業の内 漁川ダム貯水池水質対策保全工法検討業務

2)北海道開発局 石狩川開発建設部;H14年度直轄ダム周辺環境整備事業の内 漁川ダム貯水池水質保全対策工検討業務

3)杉山直樹,小林睦子,益塚芳雄,野口朋毅,橘治国;漁川ダム湖における臭気物質の動態と発生機構,土木学会第55回年次学術講演会論文集,pp.220-221,2000.

4)小林睦子,鹿野愛,橘治国,益塚芳雄,稲澤豊;漁川ダム湖における臭気物質の発生機構,土木学会第57回年次学術講演会論文集,pp.127-128,2002.

5)玉川尊,村椿健治,小倉和紀,三俣晴由;漁川ダムにおけるカビ臭発生の原因究明と対策について,河川技術論文集,第10巻,pp.531-536,2004.

6)矢挽哲也,中津川誠;カビ臭による水質障害について,北海道開発土木研究所月報,No.615, pp.33-43,2004.

7)中津川誠,矢挽哲也,高田賢一;放線菌に由来するカビ臭発生要因の解析,日本水環境学会年会講演集,pp.291,2003.

8)森北佳昭,畑考治,三浦進;貯水池の冷濁水ならびに富栄養化現象の数値解析モデル(その2),土木研究所資料,第2443号,1987.

9)横寺宏,野正博之;土木学会第57回年次学術講演要旨集,pp.513-514,2001.

10)丹羽薫,天野邦彦 ;2次元貯水池水質解析モデルの開発,ダム技術,No.37,pp.45-54,1990.

月7日前後のダムサイトにおける水質調査の実測値は鉛直方向3点(上層、中層、下層)のみのデータであるが、計算結果とほぼ一致していた。中層において計算結果はジェオスミン自体の拡散影響や流入放線菌によるジェオスミンの見積もりが過大になっているが、現段階では実際に評価することができず、今後の検討課題である。 このように河床形状の違いによりDO、ジェオスミンの分布形状に大きな差が確認された。これらの分布変化はいずれも地形変化に起因する流動変化が原因と考えられる。このことから、放線菌由来のカビ臭対策として嫌気層の破壊、放線菌の増殖抑制、湖水の鉛直循環の回復が重要であることが示唆された。これより実際には堆砂掘削による増殖場の削除、湖水循環の回復、さらに湖水循環装置による嫌気層の破壊が有効であると考えられる。また、水質分布の変化は流動変化により堆砂棚上部での流速増加による底泥の巻上げとともに湖内に供給される放線菌の増加も重要な要因と考えられ、今後は堆砂棚における底泥の巻上げにより放線菌の供給が水質にどのような影響を及ぼすかを詳細に検討したい。

図-19 ジェオスミン計算結果(左:1981年断面、右:2000年断面)(上より1日後、3日後、7日後)

20 北海道開発土木研究所月報 №630 2005年11月

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11)森北佳昭,天野邦彦 ; 貯水池水質の予測・評価モデルに関する研究,土木研究所報告,第182号,1991.

12)松尾直規,岩佐義朗,椎野佐昌,山田哲也;平面多層モデルによる貯水池の富栄養化現象の数値解析,水工学論文集,No.35,pp.203-210,1991.

13)丹羽薫,関根秀明;ダム湖水質予測モデルの標準化と高度化,ダム技術,No.154,pp.9-17,1999.

14)松尾直規,山田正人,宗宮功;貯水池上流端における流動特性と淡水赤潮現象との関係,土木学会水工学論文集,Vol.40,1996.

15)岡野眞久,梅田信,田中則和,横森源治;洪水時におけるダム貯水池流入微細土砂の挙動と貯水池堆砂管理への応用,河川技術論文集,第9巻,pp.73-78,2003.

16)北海道開発局 石狩川開発建設部;H14年漁川ダム掘削土砂調査業務

17)濱原能成,加藤晃司,中津川誠;茨戸川の富栄養化に関する総合的解析その1,北海道開発土木研究所月報,No.613号,pp.3-15,2004.

18)杉原幸樹,濱原能成,加藤晃司,中津川誠;茨戸川の富栄養化に関する総合的解析その2,北海道開発土木研究所月報,No.615号,pp.10-24,2004.

19)北海道開発土木研究所;H15年度漁川ダム水環境調査試験業務

20)近藤純正;水環境の気象学,朝倉書店,1994.21)日本化学会;化学便覧 第6版,丸善,2003.22)小島貞男;環境微生物図鑑,講談社,1995.

補遺 使用パラメーター一覧

北海道開発土木研究所月報 №630 2005年11月 21

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杉原 幸樹 *Kouki SUGIHARA

北海道開発土木研究所環境水工部環境研究室依頼研修員(株式会社福田水文センター)

高田 賢一 **Ken-ichi TAKADA

北海道開発土木研究所環境水工部環境研究室研究員

山下 彰司 ***Shouji YAMASHITA

北海道開発土木研究所環境水工部環境研究室室長

22 北海道開発土木研究所月報 №630 2005年11月