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電磁気学 孝文

北 孝文 - 北海道大学phys.sci.hokudai.ac.jp/~kita/PhysicsII//Electrodynamics.pdf第1 章 クーロンの法則 2 物質群として「半導体」がある。金属では電子が固体内を自由に移動できるので「電流」が流

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電磁気学

北 孝文

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目次

第 1章 クーロンの法則 1

1.1 原子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 物質と帯電 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.3 クーロンの法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

1.4 クーロンの法則のベクトル表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.5 重ね合わせの原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.6 遠隔作用と近接作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.7 電荷が連続的に存在する場合の電場 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

1.8 ディラクのデルタ関数(数学) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

1.9 (1.12)式の再現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

第 2章 ガウスの定理とストークスの定理 8

2.1 ベクトル場と湧き出し・渦 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.2 面積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.3 ガウスの定理(湧き出し定理) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.4 ストークスの定理(渦定理) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

第 3章 クーロンの法則からガウスの法則へ 14

3.1 ガウスの法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.2 静電場は渦なし . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.3 静電ポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

第 4章 ガウスの法則による静電場の計算 19

4.1 半径 aの球内に全電荷 Qが一様に分布した場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

4.2 無限に長い直線上に電荷が一様に分布した場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

4.3 金属表面の電場 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

4.4 コンデンサー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

第 5章 マクスウェル方程式 25

5.1 マクスウェル方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

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目次 ii

5.2 電流の作る磁場 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

5.3 電磁誘導 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

第 6章 電磁波 30

6.1 自由空間のマクスウェル方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30

6.2 一方向に伝搬する電磁場の方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30

6.3 波動方程式の解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32

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1

第 1章

クーロンの法則

1.1 原子

我々の世界を形作る様々な物質は原子の集合体である。その原子はまた、原子核とその周り

を運動する電子 (electron) からできている。電子軌道の半径は 10−10m 程度である。一方、原

子核の半径は 10−15m程度で、電子軌道の半径に較べて極めて小さい。さらに原子核は、陽子

(proton)と中性子 (neutron)から成る。電子の質量は、me = 9.11× 10−31kgで、陽子や中性子の

質量 mp ≈ mn = 1.67 × 10−27kgに較べて非常に小さい。一方電気的には、中性子が中性である

のに対し、陽子と電子は同じ大きさ

e = 1.60 × 10−19C (1.1)

で反対符号の電荷を持っており、陽子の電荷が正と定義されている。ここで現れた Cは電荷の

単位で、「クーロン」と読む。安定な原子における電子と陽子の数は同じで、電気的に中性で

ある。

電子(電荷 −e)

陽子(電荷 +e)中性子(電荷 0)

Li 原子の構造模式図

原子核

以上の原子の構造は、原子の殻模型で直感

的に理解できる。右の図は陽子 3 個と電子 3

個を持つ Li 原子の模式図である。電子の運

動する軌道は量子化されており、半径の小さ

い軌道から電子が詰まっていく。一番内側の

軌道から順に、K殻 (n = 1の殻)、L殻 (n = 2

の殻)、M殻 (n = 3の殻)と名付けられ、それ

ぞれ 2, 8, 18個(一般に 2n2 個)の電子が収容

可能である。メンデレーエフの周期律表は、

この原子の殻模型で理解できる。

1.2 物質と帯電

固体は周期的に配列した原子から構成されている。固体内の電子は、最外殻にある電子が特

定の原子に束縛されているか否かで、「絶縁体」と「金属」に大別でき、その中間の性質を示す

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第 1章 クーロンの法則 2

物質群として「半導体」がある。金属では電子が固体内を自由に移動できるので「電流」が流

れ得るのに対し、絶縁体は電気を通さない。

二つの絶縁体をこすると、一方から他方に電子が移り電気的中性が破れることがある。エボ

ナイト棒を乾いた布でこすったり、プラスチックの下敷きを衣服でこすったりした場合がそう

である。このように、物質の電気的中性条件が破れることを、「帯電」という。帯電は我々に身

近な物理現象である。乾燥した冬に金属のドアノブを触ると、バチッと音がして急激な(不愉

快な)「放電」が起こることがある。これは、帯電した我々の身体に溜まった電荷が、指先を

通して金属のドアノブに急激に流れることで起こる。体の帯電は乾燥している冬に起こりやす

い。一方、湿った夏には体から空気中への放電が自然に起こり、ドアノブなどでの急激な放電

は生じない。

1.3 クーロンの法則

1785年に、フランス人のクーロンは、ねじり天秤を用いた実験により、二つの荷電粒子間に

次の法則が成り立つことを見出した。「電荷 Q1 と Q2 を持つ二つの荷電粒子の間には、電荷の

積 Q1Q2 に比例し、それらの距離 rの二乗に反比例する大きさの力 F が働く。力の方向は二つ

の荷電粒子を結ぶ直線上にあり、比例定数 kは正である。」式で表すと、次のようになる。

F = kQ1Q2

r2 . (1.2)

したがって、電荷の符号が同じ場合には「斥力」が、異なる場合には「引力」が働くことにな

る。クーロンの法則は、ニュートンの万有引力の法則と同じ形をしており、力の距離に関する

逆二乗則が自然界の普遍法則であることを予想させる内容になっている。

Q1

Q2

+ +

rF F

Q1

Q2

+ −

r

F F

Q1

Q2

− −

rF F

クーロンの法則における「距離 r の二乗に反比例する」という事実には、当然の事ながら

実験誤差が含まれているので、どの程度正確に成り立っているかを確かめる必要がある。r−2

を r−2−δ と置きかえて δの大きさを評価する作業も行われてきた。その値の変遷は次の通りで

ある。

|δ| < 150

キャベンディッシュ (1773年)

|δ| < 121600

マクスウェル (1870年代)

|δ| < 2 × 10−9 現代

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第 1章 クーロンの法則 3

実は、クーロンに先立つこと約 10年、英国人のヘンリー・キャベンディッシュが、クーロンの

法則が成り立つことを見出していた。しかし、彼はその成果を公にしなかったので、(1.2)式は

「クーロンの法則」の名前で呼ばれている。

比例定数 k の大きさは、電荷の大きさをどのように表すかに依存する。現在、最も標準的に

用いられているのが「MKSA有理単位系」であり、そこでは基本単位として次のものが採用さ

れている。

MKSA有理単位系の基本単位

長さ: m(メートル)質量: kg(キログラム)時間: s(秒)電流: A(アンペア)

「MKSA有理単位系」のMKSAは、各単位の最初のアルファベットをつないだものである。ま

た、補助単位として次のものがある。

MKSA有理単位系の補助単位

力: N(ニュートン) 1 N = 1 kg ·m · s−2

エネルギー: J(ジュール) 1 J = 1 kg ·m2 · s−2

電荷: C(クーロン) 1 C = 1 A · s

電流・力・エネルギー・電荷の単位には、いずれもそれぞれに関連の深い物理学者の名前が用

いられている。

MKSA単位系における比例定数 k は、1Cの電荷を持つ二つの点電荷が 1m離れた距離にあ

る時に働く力の測定から決めることができ、k = 8.9876 × 109N·m2·C−2 の値を持つことがわ

かっている。MKSA有理単位系では、この kを、単位球の表面積 4πを用いて

k =1

4πε0ε0 = 8.854 × 10−12C2 · N−1 ·m−2 (1.3)

と表す。ε0 は「真空の誘電率」と呼ばれる。この比例定数を用いると、クーロンの法則は次の

ように表現できる。

クーロンの法則

F =1

4πε0

Q1Q2

r2 . (1.4)

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第 1章 クーロンの法則 4

1.4 クーロンの法則のベクトル表現

x

y

z

r1=(x1,y1,z1)

r0=(x0,y0,z0)

r0−r1

クーロンの法則の数式表現 (1.4)は、ベクトルを用いるこ

とで、力の方向まで表現できるように改良できる。図中の

位置ベクトル r0 = (x0, y0, z0)と r1 = (x1, y1, z1)で表される

2点に、それぞれ電荷 Q0 と Q1 がある場合を考える。ベク

トルは、r1 ≡ r1 のように、矢印の代わりにボールドフェイ

スで表すことにする。2点の間の距離は、

|r0 − r1| ≡[(x0 − x1)2 + (y0 − y1)2 + (z0 − z1)2

]1/2(1.5)

と書ける。従って、電荷 Q1 が Q0 に及ぼす力の大きさは、

クーロンの法則 (1.4)により、

F(r0) =1

4πε0

Q0Q1

|r0 − r1|2(1.6)

となる。これに力の方向まで加えるには、r1 から r0 方向へ向かう単位ベクトル

r0 − r1

|r0 − r1|(1.7)

をかければ良い。そのようにして、力の方向まで取り込んだベクトル表現のクーロンの法則が、

F (r0) =1

4πε0

Q0Q1

|r0 − r1|2r0 − r1

|r0 − r1|=

Q0Q1

4πε0

r0 − r1

|r0 − r1|3. (1.8)

と得られる。これは、電荷 Q1 が(位置 r0 にある)電荷 Q0 に及ぼす力を表している。また、

力の方向は、Q0Q1 > 0(同符号)の時に r0 − r1 方向(斥力)、Q0Q1 < 0(異符号)の時に

−(r0 − r1) = r1 − r0 方向(引力)となり、方向まで正しく表現されていることが理解できる。

1.5 重ね合わせの原理

(1.8)式は、多数の電荷がある場合に拡張できる。位置 r j ( j = 1, 2, · · · , n)に電荷 Q j がある

場合を考える。これら n個の電荷が、位置 r0 にある電荷 Q0 に及ぼす力は、(1.8)式を n個の

電荷について足しあわせた形

F (r0) =n∑

j=1

Q0Q j

4πε0

r0 − r j

|r0 − r j|3(1.9)

に表現できることが、実験からわかっている。(1.9)式が成立することを、「重ね合わせの原理

が成り立っている」と表現する。

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第 1章 クーロンの法則 5

1.6 遠隔作用と近接作用

(1.8)式は、ニュートンの万有引力の法則と同様に、離れた位置にある二個の点電荷が直接力

を及ぼし合う形になっている。従って、一個の点電荷が存在しても空間に何の変化も生じない

ことになる。18世紀から 19世紀後半にかけては、この「遠隔作用」の立場が支配的であった。

一方、実験家ファラデー (1791–1867)は、この遠隔作用の立場に疑問を持ち、電荷が空間を歪

めることで力が伝わるのではないかと考えた。ファラデーの考えを数式に表現したのがトムソ

ン (1824–1907)とマクスウェル (1831–1879)である。

ファラデーの着想を数式で表現すると、(1.8)は次のように書き換えられる。

F (r0) = Q0E(r0)   :力, (1.10)

E(r) =Q1

4πε0

r − r1

|r − r1|3   :電場. (1.11)

つまり、電荷の存在により、空間の歪みを表す「電場」E(r)が生じるという考えである。この

「場」が実在するとする立場を「近接作用」の立場という。遠隔作用の立場と異なり、この場

は、一個の電荷のみが存在する場合にも生じることになる。場が実在することは、後にヘルツ

(1857–1894)により、電磁波の放射として実験的に証明された。場の概念は、現代物理学の基

礎となっている。電場の単位は N/Cである。

近接作用の立場による (1.9)式は、やはり (1.10)式のように表され、電場の表現が

E(r) =n∑

j=1

Q j

4πε0

r − r j

|r − r j|3(1.12)

へと変化することになる。電場は、下図のように電気力線として可視化することが可能である。

+ −

(a)

+ + + −

(b) (b) (b)

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第 1章 クーロンの法則 6

1.7 電荷が連続的に存在する場合の電場

ri

∆3riρ(ri)

ρ(ri)∆3ri

i

電荷が連続的に分布している場合には、空間を微

小な領域に分割してその各領域からの電場を重ね

合わせれば良い。具体的に、位置 r における電荷

密度を ρ(r) とし、空間を微小な直方体に分けて添

字 i で区別する。領域 i の電荷は、ri での電荷密

度に領域の体積 ∆3ri ≡ ∆xi∆yi∆zi をかけることで、

Qi = ρ(ri)∆3ri と得られる。従って、領域 iの電荷が

位置 r に作る電場は、

Qi

4πε0

r − ri

|r − ri|3=ρ(ri)4πε0

r − ri

|r − ri|3∆3ri (1.13)

と表せる。この表現を領域 iについて足し合わせ(重ね合わせ)ると、

E(r) =1

4πε0

∑i

ρ(ri)r − ri

|r − ri|3∆3ri

となる。さらに分割を無限に小さくすることで、和は積分に移行し、

E(r) =1

4πε0

∫ρ(r′)

r − r′|r − r′|3 d3r′ (1.14)

が得られる。ここで、積分変数を ri → r′ と置き換えた。

1.8 ディラクのデルタ関数(数学)

電荷が連続的に分布する場合の (1.14) 式は、点電荷の場合の (1.12) 式を一般化した式であ

る。実際、(1.12)式は (1.14)式から再現できる。このことを見るために、まず、ディラクのデ

ルタ関数を定義しよう。具体的に、このデルタ関数は、次の性質を持つ関数として定義されて

いる。

ディラクのデルタ関数(定義)

1. δ(x) =

∞ : x = 0

0 : x , 0  (x = 0のみで非零)

2. δ(−x) = δ(x)  (偶関数)

3.∫ ∞

−∞δ(x)dx = 1  (積分すると 1)

4.∫ ∞

−∞δ(x − x0) f (x)dx = f (x0)

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第 1章 クーロンの法則 7

-1.0 -0.5 0.5 1.0

-0.5

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5「超関数」の一つであるディラクのデルタ

関数は、「極限形で定義するとわかりやすい

かもしれない。具体的に、a > 0 をパラメー

ターとして含む次の関数を考える。

g(x; a) ≡ 12

eax − e−ax

eax + e−ax =12

tanh(ax). (1.15)

この関数は、x ± ∞ で ± 12 の値をとる奇関数

で、かつ単調増加関数である。この g(x; a)を

xについて微分した関数

g′(x; a) ≡ 2a(eax + e−ax)2 =

a

2 cosh2(ax)(1.16)

は、 ∫ ∞

−∞g′(x; a)dx = g(∞; a) − g(−∞; a) = 1 (1.17)

および g′(0; a) = a/2を満たす(上図は a = 5の場合の g(x, a)と g′(x, a))。すなわち、x軸と囲

む面積が常に 1であり、原点での値は aに比例して増大する。ディラクのデルタ関数は、この

g(x; a)を用いて、

δ(x) = lima→∞

g′(x; a) (1.18)

と定義できる。

ディラクのデルタ関数を三次元に拡張すると、位置ベクトル r ≡ (x, y, z)を用いて

δ3(r) ≡ δ(x)δ(y)δ(x) (1.19)

と表現できる。

1.9 (1.12)式の再現

(1.19)を用いると、点電荷 Q j ( j = 1, 2, · · · , n)が位置 r j にある場合の電荷密度 ρ(r)が

ρ(r) =n∑

j=1

Q jδ3(r − r j) (1.20)

と表せる。この式を (1.14)に代入してデルタ関数の性質を用いると、

E(r) =1

4πε0

∫ρ(r′)

r − r′|r − r′|3 d3r′

=1

4πε0

n∑j=1

Q j

∫δ3(r′ − r j)

r − r′|r − r′|3 d3r′

=1

4πε0

n∑j=1

Q jr − r j

|r − r j|3(1.21)

となって、(1.12)式が再現できた。

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第 2章

ガウスの定理とストークスの定理

「電磁気学」は、空気や水の流れを記述する「流体力学」と類似した構造を持っおり、同じ数

学で記述可能である。水や空気の流れを決めるのに重要な要素として、泉や水道の蛇口などか

らの「湧き出し」と、台風や竜巻などの「渦」がある。そして、電磁気学でも「湧き出し」と

「渦」の概念が有用である。具体的には、電場は電荷から湧き出し、磁場は電流の周りで渦を巻

くように作られる。

ここでは、電磁気学を学ぶ準備として、「湧き出し密度」と「渦密度」を数学的に定義する

のに用いられる二つの定理、すなわち「ガウスの定理」(湧き出し定理)と「ストークスの定

理」(渦定理)を提示し、それらを証明する。この章の主な結果は、湧き出しに関する (2.5)式

と (2.6)式、渦に関する (2.9)式と (2.10)式である。

2.1 ベクトル場と湧き出し・渦

電磁気学は「ベクトル場」を用いて記述される。「ベクトル場」の身近な例として、川の水の

流れや地球上の大気の流れ、海水の循環などを表現する「速度場」v(r) = (vx(r), vy(r), vz(r))

が挙げられる。下図は速度場の三つの例である。左端の図は一方向に進む流れで、上下端で速

さの減衰が見られる。一方、左から二番目の図では湧き出しが、三番目の図では渦があるのが

はっきりと確認できる。これら三つの速度場を重ね合わせると右端の図が出来上がる。この右

端の図では、渦は目で確認できるものの、湧き出しの存在はやや不明瞭になっている。「湧き

出し」と「渦」を「ベクトル場」v(r)を用いて数学的に明確に定義するのがこの章での目的で

ある。

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第 2章 ガウスの定理とストークスの定理 9

2.2 面積分

riri

x

y

z

ri :

ni

ni=n(ri) :

vi=v(ri) :

vi

S : f(x,y,z)=c

∆Si

∆Si : i

まず、ベクトル場の面積分を定義しよう。右図のよ

うに、曲面 S を N 個の微小な長方形に分割し、各曲

面の中心における位置ベクトルを ri (i = 1, 2, · · · ,N)、

曲面に垂直な単位ベクトル(=単位法線ベクトル)を

ni ≡ n(ri)、微小曲面 i の面積を ∆S i とする。そして、

ベクトル場 v(r)の曲面 S 上での面積分を、分割数 N を

無限に大きくする(=各微小曲面を無限に小さくする)

極限を用いて、次のように定義する。

面積分 (surface integral)∫Sv(r) · n(r)dS ≡ lim

N→∞

N∑i=1

v(ri) · n(ri)∆S i. (2.1)

定義式の具体的なイメージをつかむには、川の中に水分

子が通過できる膜を張った状況を考え、v(r)として(密度が一定であるような)川の水の流れ

の場を思い浮かべれば良い。v(r)と単位法線ベクトル n(r)とのスカラー積をとって面積分す

る (2.1)の計算により、膜を通して毎秒流れる水量がわかる。

曲面 S 上の単位法線ベクトル n(r)はどのように構成すれば良いのであろうか。三次元空間

での曲面は、数学の言葉で表すと「二次元の多様体」であり、r ≡ (x, y, z)の間に一つの関係式

を持ち込むことで構成できる。曲面 S が、方程式

f (r) = c (2.2)

で記述できるとしよう。ただし c は定数である。さて、空間を r → r + dr と移動した時の

f (r)の変化は、演算子ナブラ

∇ ≡(∂

∂x,∂

∂y,∂

∂z

)(2.3)

を用いて

d f (r) =∇ f (r) · dr, ∇ f (r) ≡ grad f (r) ≡(∂ f (r)∂x,∂ f (r)∂y,∂ f (r)∂z

)(2.4)

と表せる。特に、曲面 S 上での移動 drを考えると、(2.2)式右辺の値が一定であることから f の

変化はなく、d f (r) = 0が成立する。これより、曲面 S 上での変化 dr に対して grad f (r) ⊥ dr

が成立すること、すなわち、「grad f (r) は曲面 S に垂直である」ことがわかる。従って、

grad f (r)/|grad f (r)|を作れば、上向きあるいは下向きいずれかの単位法線ベクトルとなる。

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第 2章 ガウスの定理とストークスの定理 10

2.3 ガウスの定理(湧き出し定理)

数学の定理である「ガウスの定理」は、水の流れを表す速度場 v(r) を例にとって考えるの

が最も理解しやすいであろう。(水分子が自由に通過できる)閉曲面 S で囲まれた空間の中に、

湧き出しがあるかどうかを見るためには、その閉曲面を通って毎秒流れ出る水量を計算すれば

良い。それを与えるのが次式の左辺で、n(r)は閉曲面 S 上の点 r における外向き単位法線ベ

クトルである。「ガウスの定理」は、表面 S を毎秒出て行く水量が、右辺のように、領域 S で

囲まれた体積 V の中での∇ · v の体積積分に変換できることを表している。

ガウスの定理∫Sv(r) · n(r)dS =

∫V∇ · v(r) d3r. (2.5)

ここで、∇ · v ≡ divv はベクトル場 v = (vx, vy, vz)の発散 (divergence)と呼ばれ、次式で定義

されている。

湧き出し密度

divv(r) ≡∇ · v(r) ≡ ∂vx(r)∂x

+∂vy(r)∂y

+∂vz(r)∂z. (2.6)

(2.5)式の意味を考えると、この divv(r)は、点 rにおける湧き出し密度の定義式と見なせるこ

とがわかる。この定義では、排水溝のような「吸い込み口」は「負の湧き出し口」と見なせる。

B(x,y,z)

B

x

y

z

x,y,z)x,y,z

(x+∆x,y,z)

(x+∆x,y+

∆y,z+

∆z)

A

証明は二段階で行える。まず、微小な直方体につい

て証明する。図の黄色面 (A 面) および薄緑面 (B面) で

の単位法線ベクトルは、それぞれ n = (1, 0, 0) と n =

(−1, 0, 0) であり、それらの面の面積は共に ∆S = ∆y∆z

と表せる。したがって、この二つの面からの (2.5)左辺

への寄与は、次のように計算できる。∫A+B

v(r) · n(r)dS ≈ [vx(x + ∆x, y, z) − vx(x, y, z)

]∆y∆z

≈ ∂vx(x, y, z)∂x

∆x∆y∆z =∂vx(r)∂x∆3r.

(2.7)

ただし、∆3r ≡ ∆x∆y∆zは直方体の体積である。y軸に垂直な二つの面と z軸に垂直な二つの面

からの寄与も同様に計算できるので、次式を得る。∫Sv(r) · n(r)dS ≈

[∂vx(r)∂x

+∂vy(r)∂y

+∂vz(r)∂z

]∆3r ≈

∫V∇ · v d3r. (2.8)

この式は、∆3r → 0の極限で正確に成立する。

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第 2章 ガウスの定理とストークスの定理 11

S

領域 i

領域 i+1

次に、曲面 S で囲まれた有限の領域を、微小な直方体に分

割して考察する。すると、隣り合う微小な直方体の共有面から

の v(r) · n(r) への寄与は、n が逆向きであることから相殺す

ることがわかる(右図は断面図)。従って、次式が近似的に成

立する。 ∫Sv(r) · n(r) dS ≈

∑i

∫S i

v(r) · n(r) dS

≈∑

i

∫Vi

∇ · v(r) d3r ≈∫

V∇ · v(r) d3r.

この式は、分割数が無限大の極限で正確に成立するので、(2.5)が証明できたことになる。

(2.5)式によると、空間の点 r における湧き出しの強さは、(2.6)で定義された divv(r)で与

えられることになる。

2.4 ストークスの定理(渦定理)

C

v(s)ds

n(r)

r

O

s

数学の定理である「ストークスの定理」も、水や空気の流れを表す

速度場 v(r) を例にとって考えるのが最も理解しやすいであろう。曲

線 C の内側に渦中心があるかどうか、およびその強度を調べるには、

C に回る向きを与え、C 上で速度場 v(r)を線積分すれば良い。これ

が次式の左辺で、「ストークスの定理」は、そのように直感的に定義

された C 内の渦強度が、右辺のように、曲線 C で囲まれた表面 S 上

での∇ × v と右ネジ方向単位法線ベクトル n(r)のスカラー積の面積

分に変換できることを表している。

ストークスの定理∫Cv(s) · ds =

∫S

[∇ × v(r)] · n(r) dS . (2.9)

ここで、∇ × v ≡ rotv はベクトル場 v = (vx, vy, vz)の回転 (rotation)あるいは渦 (curl)と呼ば

れ、ナブラ演算子 (2.3)を用いて次式で定義されている。

渦密度

rotv(r) ≡∇ × v(r) ≡(∂vz(r)∂y

−∂vy(r)∂z,∂vx(r)∂z

− ∂vz(r)∂x,∂vy(r)∂x

− ∂vx(r)∂y

). (2.10)

(2.9)式の意味を考えると、この rotv(r)は、点 r における渦密度の定義式と見なせることがわ

かる。

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第 2章 ガウスの定理とストークスの定理 12

(2.9) 式で v(r) → (ux(x, y), uy(x, y), 0) と置き、曲面 S を xy 面上の閉領域 S ′ で置き換える

と、n(r) = (0, 0, 1)となり、(2.9)式は二次元領域におけるグリーンの定理∫C′

[ux(x, y)dx + uy(x, y)dy

]=

∫S ′

[∂uy(x, y)∂x

− ∂ux(x, y)∂y

]dS ′ (2.11)

に還元される。従って、ストークスの定理は、グリーンの定理の三次元版であると見なせる。

また、(2.9)式で vx のみが有限である場合を考えると、∫C

vx(r)dx =∫

S

[∂vx(r)∂z

ny(r) − ∂vx(r)∂y

nz(r)]

dS (2.12)

が成立することもわかる。

Cn(r)

x

y

z

C’

S

S’

証明は、グリーンの定理 (2.11) を既知として、(2.12) 式

について行う。何故なら、同様の証明が vy あるいは vz の

みが有限である場合にも実行でき、(2.9)はそれら三つの式

を足し合わせることで得られるからである。さて、曲面 S

が方程式 z = f (x, y)で表せるものとすると、S 上での速度

場 vx(r) は、vx(x, y, f (x, y)) と表せる。この (x, y) のみの関

数を、新たに

ux(x, y) ≡ vx(x, y, f (x, y)) (2.13a)

と置くことにする。すると、(2.12) 式の右辺第二項の微分

は、合成関数の微分則を用いて、

∂ux(x, y)∂y

=∂vx(x, y, f (x, y))

∂y=

[∂vx(x, y, z)∂y

+∂vx(x, y, z)∂z

∂ f (x, y)∂y

]z= f (x,y)

(2.13b)

と表せる。一方、グリーンの定理 (2.11)で uy(x, y) = 0とおくと、∫C′

ux(x, y)dx = −∫

S ′

∂ux(x, y)∂y

dS ′ (2.14)

が成立する。(2.14)式の両辺に (2.13)式を代入すると、∫C′

vx(x, y, f (x, y))dx = −∫

S ′

[∂vx(x, y, z)∂y

+∂vx(x, y, z)∂z

∂ f (x, y)∂y

]z= f (x,y)

dS ′ (2.15)

となる。さらに ∫C′

vx(x, y, f (x, y))dx =∫

Cvx(x, y, z)dx, dS ′ = nz(r)dS (2.16)

に注意すると、(2.15)式は∫C

vx(x, y, z)dx = −∫

S

[∂vx(x, y, z)∂y

nz(r) +∂vx(x, y, z)∂z

∂ f (x, y)∂y

nz(r)]

dS (2.17)

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第 2章 ガウスの定理とストークスの定理 13

へと書き換えられる。一方、曲面 S の方程式は f (x, y) − z = 0で与えられるので、その曲面上

での単位法線ベクトル n(r)は、勾配 grad[f (x, y) − z

]に比例することになる。つまり、

n(r) ∝ grad[f (x, y) − z

]=

(∂ f (x, y)∂x

,∂ f (x, y)∂y

,−1)

(2.18)

すなわち ny : nz = ∂ f (x, y)/∂y :−1が成立する。これより、

∂ f (x, y)∂y

nz(r) = −ny(r) (2.19)

が得られる。この関係を (2.17)式に代入すると、(2.12)式が得られる。証明終。

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14

第 3章

クーロンの法則からガウスの法則へ

光は、電磁場が振動する「電磁波」の一種であることがわかっている。この電磁波は、光ファ

イバーを通した情報伝達、スーパーのレジでのバーコードの読み取り、肺などの X 線検査な

ど、我々の日常生活の数多くの場面で用いられている。一方、クーロンの法則 (1.4) は、電場

を媒介しないで力が伝わるという遠隔作用の立場に基づいた表現で、電場が時間的に変動する

「電磁波」を記述することができない。ここでは、力を表現したクーロンの法則を、電場に関す

る「ガウスの法則」に書き換え、「電場」という物理概念とそれが従う方程式ができていく過程

を追っていくことにする。この章の目標は、静電場の湧き出しと渦に関する (3.7)と (3.10)式

を導くことである。

3.1 ガウスの法則

+

(1.11)式によると、原点にある一個の電荷 Q > 0が位置 r に作る電場は、

E(r) =Q

4πε0

r

|r|3 (3.1)

となる。この電場は、電気力線を用いて右図のように表現でき、電荷から電

場が「湧き出し」ている状況が理解できる。流体力学とのアナロジーでは、

電荷 Qは水などの流体の「湧き出し口(泉)」、電場 E(r)は「流体の速度場

v(r)」に対応する。ここでは、クーロンの法則を、電場の湧き出しに関する「ガウスの法則」に

書き換える。目標は (3.7)式である。

S dS

n(r) E(r)

dScosθ

θ

OS0

r

泉の湧き出しの強さ調べるには、泉の周りの閉曲面を通

して毎秒出て行く水量を測定すれば良い。同様に、電荷の

大きさを測るには、電荷の周りで閉曲面を作り、その閉曲

面を通して出て行く「電場」の総量を計算すればいいであろ

う。そこで、(3.1)式を、右図のような原点 Oを含む閉曲面

S 上で面積分してみる。半径 rの球面の表面積は 4πr2 と半

径 r の二乗に比例する。従って、右図で dS cos θ/dΩ = r2

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第 3章 クーロンの法則からガウスの法則へ 15

が成立する。このことを用いると、面積分が次のように変形できる。∫SE(r) · n(r)dS =

Q4πε0

∫S

r · n(r)|r|3 dS =

Q4πε0

∫S

r cos θr3 dS =

Q4πε0

∫S

dS cos θr2

=Q

4πε0

∫S 0

dΩ =Qε0. (3.2)

このように、(3.1)の閉曲面に関する面積分は、電荷 Qを含んでいる限りどのような閉曲面を

取っても同じで、その値は電荷 Qを真空の誘電率 ε0 で割ったものに等しい。

SdS1

n1 E

1θ1

O

r1

dS2

n2

E2θ

2

r2

第二に、電荷 Q を含まない閉曲面 S につ

いての電場 (3.1)の面積分を同様に考察する。

すると、右図の微小曲面 dS 1 と dS 2 からの寄

与は、次のように相殺することがわかる。

E(r1) · n(r1)dS 1 +E(r2) · n(r2)dS 2

=Q

4πε0

dS 1 cos θ1r2

1

+dS 2 cos θ2

r22

= dΩ + (−dΩ)= 0. (3.3)

ここで、曲面 dS 2 では、n(r2)が外向きである一方、E(r2)は閉曲面の内側に向いているので、

E(r2) · n(r2) ∝ cos θ2 < 0 となることを用いた。従って、閉曲面 S が電荷 Q を含まない場合

には、 ∫SE(r) · n(r)dS = 0 (3.4)

が成立することになる。

第三に、以上の二つの場合の結論は、下図のようなより複雑な曲面の場合にも、一対の外向

き電場と内向き電場の寄与が相殺するので、同じように成立する。

Q

Q

Q/ε0 0

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第 3章 クーロンの法則からガウスの法則へ 16

Q1

Q2

Qn

Qn+2

Qn+1

Qn+m

第四に、重ね合わせの原理より、閉曲面 S が Q1,· · · ,Qn の電

荷を含み、Qn+1,· · · ,Qn+m がその外側にある場合には、∫SE(r) · n(r)dS =

n∑j=1

Q j

ε0(3.5)

となることもわかる。

以上の結果を電荷密度 ρ(r) を用いて一般化して表現する。

閉曲面 S 内の電荷の総量は、ρ(r) の領域内の体積積分として

表されることに注意すると、次の結論を得る。

ガウスの法則(積分形)∫SE(r) · n(r)dS =

1ε0

∫Vρ(r) d3r. (3.6)

ただし、V は閉曲面 S で囲まれた領域を表す。

さらに、(3.6)式の左辺に数学の定理である「ガウスの定理」、すなわち (2.5)式を適用すると、∫V

divE(r) d3r =1ε0

∫Vρ(r) d3r ←→

∫V

[divE(r) − ρ(r)

ε0

]d3r = 0

が得られる。そして、最後の式で領域 V が任意に選べることに注意すると、最終的に次の結論

にたどり着く。

ガウスの法則(微分形)

divE(r) =1ε0ρ(r). (3.7)

この式は、ρ(r)=ε0divE(r)のように変形して、「電荷は電場の湧き出し」と読むことができる。

ただし定数 ε0 は本質的でないので読みを省略した。

3.2 静電場は渦なし

(3.7)式は電場の湧き出しを記述する式である。渦に関する式はどうなるであろうか? (3.1)

式から渦密度を (2.10)式に従って計算してみよう。(3.1)式を成分表示すると、

E(r) =Q

4πε0

(x

(x2 + y2 + z2)3/2 ,y

(x2 + y2 + z2)3/2 ,z

(x2 + y2 + z2)3/2

)(3.8)

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第 3章 クーロンの法則からガウスの法則へ 17

となる。(2.10)式の v(r)としてこの E(r)を用い、(2.10)式の z成分を計算すると、次のよう

になる(引数 r は省略する)。

(∇ ×E)z =∂Ey

∂x− ∂Ex

∂y=

Q4πε0

[∂

∂xy

(x2 + y2 + z2)3/2 −∂

∂yx

(x2 + y2 + z2)3/2

]=

Q4πε0

[y∂

∂x1

(x2 + y2 + z2)3/2 − x∂

∂y1

(x2 + y2 + z2)3/2

]=

Q4πε0

y − 32 · 2x

(x2 + y2 + z2)5/2 − x− 3

2 · 2y

(x2 + y2 + z2)5/2

= 0. (3.9)

同様の計算は∇ ×E の x成分と y成分についても実行でき、同じ結論が得られる。従って次

の結論を得る。

静電場は渦なし

rotE(r) = 0. (3.10)

電場についての重ね合わせの原理から、この式は一般の電荷分布に対しても成立する。

3.3 静電ポテンシャル

φ(r)=c+∆c φ(r)=c φ(r)=c−∆c

(∆c > 0)

E

E(r)が渦なしであることを表す (3.10)式は、電場が

E(r) = −gradϕ(r) (3.11)

のように、あるポテンシャル ϕ(r) を用いて表せることと等価

である。電場に対するこのポテンシャル ϕ(r) を「静電ポテン

シャル」という。(2.4)式の下で勾配について述べたことから、

E(r)は静電ポテンシャルが一定の平面、すなわち「等電位面」

に垂直であることが結論づけられる。

(3.10)式と (3.11)式が等価なことは、次のように証明できる。まず、(3.11)式が成立すると

する。すると、その渦密度の z成分は、次のように 0となることが示せる。

(∇ ×E)z =∂Ey

∂x− ∂Ex

∂y=∂

∂x

(−∂ϕ∂y

)− ∂∂y

(−∂ϕ∂x

)= − ∂

∂x∂y+∂2ϕ

∂y∂x= 0. (3.12)

x, y成分についても同様なので、(3.11)式が成立すれば (3.10)式も成立することが示せた。一

方、(3.10)式が成立するものとする。そして、下図のような閉曲線 C で囲まれた曲面 S につい

C

E(s)ds

n(r)

rotE(r)

s0

s1

C1

C2

て、(3.10) 式に単位法線ベクトル n(r) をかけて面積分を実行し、ス

トークスの定理 (2.9)を用いて次のように変形する。

0 =∫

SrotE(r) · n(r) dS =

∮CE(s) · ds

=

∫ s1

s0(C1)E(s) · ds −

∫ s1

s0(C2)E(s) · ds (3.13)

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第 3章 クーロンの法則からガウスの法則へ 18

これより、s0 から s1 までの E(s) の線積分が経路によらないことがわかる。従って、基準点

s0 を適当に選んで、線積分

ϕ(s1) ≡ −∫ s1

s0

E(s) · ds (3.14)

で ϕ(s1)を定義すれば、その積分値は積分経路によらず一つに決まり、−gradϕ(s1) = E(s1)も

満たす。つまり、(3.10)式が成立すれば (3.11)式も成立することが示せた。証明終。

(3.1)式に対する位置 r の静電ポテンシャル ϕ(r)を求める。r 方向の無限遠点を積分経路の

始点にとり、積分値が積分経路によらないことを考慮して、積分経路として最も単純な経路で

ある直線経路を選ぶ。その経路の一般の点 sと微小変位 dsは、r 方向の単位ベクトル r ≡ r/r

を用いて、 s = rsds = rds

(r ≤ s ≤ ∞) (3.15)

と表せる。これらを用いると、直線経路上の E(s)の線積分は、次のように容易に実行できる。

ϕ(r) = −∫ r

∞rE(s) · ds = −

∫ r

∞E(rs) · rds = −

∫ r

Q4πε0

rss3 · rds = − Q

4πε0

∫ r

dss2

=Q

4πε0

[1s

]r

s=∞=

Q4πε0r

. (3.16)

これにより次式が証明できた。

E(r) =Q

4πε0

r

|r|3 ←→ ϕ(r) =Q

4πε0r. (3.17)

同様に、重ね合わせの原理から、(1.14)式に対する静電ポテンシャルも

E(r) =1

4πε0

∫ρ(r′)

r − r′|r − r′|3 d3r′ ←→ ϕ(r) =

14πε0

∫ρ(r′)|r − r′|d

3r′ (3.18)

と得られ、ρ(r′) = Qδ3(r′)とすると (3.17)式を再現する。

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19

第 4章

ガウスの法則による静電場の計算

電荷分布が高い対称性を持つ場合には、ガウスの法則の積分形 (3.6)を用いて電場が容易に

計算できる。以下でその例を幾つか示す。

4.1 半径 aの球内に全電荷 Qが一様に分布した場合

a

r

Q

E(r)n(r)

右図のように、半径 aの球内に全電荷 Qが一様に分布し

ている場合を考える。球の中心を原点に取ると、電荷分布

の対称性から、この場合の電場は原点に関して回転対称性

を持ち、原点から放射状に広がっているものと考えてよい。

そこで、(3.6)式の領域 V として原点を中心とする半径 rの

球を考えると、その右辺は

1ε0

∫Vρ(r)d3r =

Qε0

43πr

3

43πa

3=

Qε0

r3

a3 : r < a

Qε0

: r ≥ a

(4.1a)

と計算できる。ここで 43πr

3/(

43πa

3)は、半径 r と aの球の

体積比である。一方、(3.6) 式の左辺では、E(r) ∥ n(r) よ

り、それらのスカラー積が E(r) · n(r) = E(r) と球面上の点によらず一定である。従って積

分が、 ∫SE(r) · n(r)dS = E(r)

∫S

dS = 4πr2E(r) (4.1b)

と計算できる。ただし、4πr2 は半径 rの球面の表面積である。(4.1a)式と (4.1b)式を等号で結

ぶと、電場の大きさが

E(r) =Q

4πε0×

ra3 : r < a

1r2 : r ≥ a

(4.2)

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第 4章 ガウスの法則による静電場の計算 20

と求まる。

(4.2)式の電場に対応する静電ポテンシャル ϕ(r)を、(3.14)式に基づいて求めよう。積分経

路として r 方向の直線経路 (3.15)を選び、次のように積分を変形する。

ϕ(r) = −∫ r

∞rE(s) · ds = −

∫ r

∞E(s)r · rds = −

∫ r

∞E(s)ds (4.3)

r ≥ aの時のこの積分は、(4.2)式の下の表式を代入して

ϕ(r) = − Q4πε0

∫ r

dss2 =

Q4πε0r

(r ≥ a) (4.4a)

と計算できる。一方、r < aの時は、(4.4a)式から得られる ϕ(ra)の値に a ≥ s ≥ r の積分を加

えて

ϕ(r) = ϕ(ra) − Q4πε0a3

∫ r

asds =

Q4πε0a

− Q4πε0a3

r2 − a2

2=

Q4πε0a3

3a2 − r2

2(r < a) (4.4b)

が得られる。

(4.2) 式と (4.4) 式を、それぞれ Q/4πε0a2 と Q/4πε0a を単位として r/a の関数として描く

と、次のようになる。

0 1 2 3 4

0.5

1

r/a

E(r)/(Q/4

πε0a2)

0 1 2 3 4

0.5

1

1.5

r/a

φ(r)/(Q/4

πε 0a)

4.2 無限に長い直線上に電荷が一様に分布した場合

E(r)n(r)

λ

rr

右図のように、無限に長い直線上に電荷が一様に分布

した場合を考える。その直線上に z軸をとると、電荷分

布の対称性から、この場合の電場は z軸に関して回転対

称性を持ち、z軸周りに放射状に広がっているものと考

えてよい。そこで、(3.6) 式の領域 V として、z 軸を中

心軸とし、半径が rで z方向に長さ 1を持つ円柱を考え

る。(3.6) 式の右辺は、直線上での単位長さあたりの電

荷量を λとして、

1ε0

∫Vρ(r)d3r =

λ

ε0(4.5a)

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第 4章 ガウスの法則による静電場の計算 21

と計算できる。一方、(3.6)式の左辺では、円柱の側面で E(r) ∥ n(r)が成立し、それらのスカ

ラー積がE(r) ·n(r) = E(r)と側面の点によらず一定である一方、円柱の底面ではE(r) ⊥ n(r)

で積分への寄与はゼロとなる。従って、∫SE(r) · n(r)dS = E(r)

∫円柱側面

dS = 2πrE(r) (4.5b)

と計算できる。ただし、2πrは半径 rの底面を持ち高さが 1の円柱側面の表面積である。(4.5a)

式と (4.5b)式を等号で結ぶと、電場の大きさが

E(r) =λ

2πε0r(4.6)

と求まる。

この電場に対しては、静電ポテンシャルを無限遠点で 0と選ぶことがことができない。しか

し、2点間 r0 と r1 の間の静電ポテンシャルの差は次のように計算できる。

ϕ(r1) − ϕ(r0) = −∫ r1

r0

E(r)dr = − λ2πε0

∫ r1

r0

drr= − λ

2πε0[ln r]r1

r=r0= − λ

2πε0ln

r1

r0(4.7)

ただし、ln r ≡ loge rは自然対数である。

4.3 金属表面の電場

4.3.1 金属の帯電の性質

金属は自由に動ける荷電粒子が存在することで特徴付けられ、有限の電気抵抗を持つ。この

ことから、平衡状態の金属内部は正負電荷が相殺して電気的に中性であり、帯電は表面のみに

存在し得ることが結論づけられる。なぜなら、もし金属中に帯電が起これば、ガウスの法則に

従って電場が発生し、自由に動ける荷電粒子が加速されて電荷の再配置に向けた非平衡状態と

なるからである。さらに、平衡状態における金属表面の電場は表面に垂直である。なぜなら、

もし表面に平行な電場成分があれば、自由に動ける荷電粒子が加速されて電荷の再配置に向け

た非平衡状態となるからである。まとめると、平衡状態における金属の帯電は表面のみで可能

で、対応する電場は外向きで表面に垂直である。

∆S

E

σ

そこで、(3.6)式の V として、導体表面を囲み底面が

導体に平行な薄い円柱を考える。対応する (3.6)式の左

辺は、 ∫SE(r) · n(r)dS

=

∫内側底面 +外側底面 +側面

E(r) · n(r)dS

=

∫外側底面

E(r) · n(r)dS

= E∆S (4.8)

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第 4章 ガウスの法則による静電場の計算 22

と計算できる。ここで、電場が表面に垂直で外向きであることを使った。∆S は円柱底面の面

積である。一方、(3.6)式の右辺は、円柱導体の表面における電荷の単位面積当たりの密度(面

密度)σを用いて、σ∆S/ε0 と計算できる。この結果と (4.8)式を等号で結ぶと、導体表面の外

向き電場の大きさが、

E =σ

ε0(4.9)

と求まる。

4.3.2 半径 aの金属球に全電荷 Qが貯まった場合の電場

E(r)n(r)

a

rQ

半径 a の金属球内に全電荷 Q が貯まった場合を考え

る。この場合の電荷は、金属の性質から、金属表面のみ

に存在する。そこで、(3.6)式の領域 V として原点を中

心とする半径 rの球を考えると、その右辺は

1ε0

∫Vρ(r)d3r =

0 : r < aQε0

: r ≥ a(4.10)

と計算できる。一方、(3.6)式の左辺は、(4.1b)のように

計算できる。(4.10)式と (4.1b)式を等号で結ぶと、電場

の大きさが

E(r) =Q

4πε0×

0 : r < a

1r2 : r ≥ a

(4.11)

と求まる。対応する静電ポテンシャル ϕ(r)は、(4.4)式の導出と同様の計算により、

ϕ(r) =Q

4πε0×

1a

r < a

1r

r ≥ a(4.12)

と求まる。このように、金属球内では帯電がないことから、静電ポテンシャルは一定値をとる。

(4.11)式と (4.12)式を、それぞれ Q/4πε0a2 と Q/4πε0aを単位として r/aの関数として描く

と、次のようになる。

0 1 2 3 4

0.5

1

r/a

E(r)/(Q/4

πε0a2)

0 1 2 3 4

0.5

1

1.5

r/a

φ(r)/(Q/4

πε 0a)

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第 4章 ガウスの法則による静電場の計算 23

4.4 コンデンサー

++ + + + +

++

−− − − − −

−−

+Q

−Q

E

A

B

二つの導体を絶縁して向かい合わせ、電圧を加えて

電荷を貯めるようにしたものを「コンデンサー(蓄電

器)」という。右図のように、導体 Aと Bにそれぞれ電

荷 Q > 0と −Qを蓄えると、導体 Aから導体 Bに向け

て電場ができる。導体の電位は一定なので、導体 AB間

の電位差 ϕ(A)− ϕ(B)が定義できる。電荷量 Qをこの電

位差 ϕ(A) − ϕ(B)で割った量

C ≡ Qϕ(A) − ϕ(B)

(4.13)

は、「コンデンサーの電位を 1V上げるのに必要な電荷量」という意味を持ち、「静電容量」と

呼ばれている。電位差と静電容量の単位の単位として、それぞれ V(ボルト)と F(ファラッ

ド)を新たに導入する。1F = 1C/Vである。

+Q

−Q

E

A S

d

B S

例として、表面積 S の金属平板2枚を距離 d だけ隔

てて平行に配置した「平行板コンデンサー」の静電容

量を求めよう。一方に電荷 Q、もう一方に電荷 −Q を

貯めると、電場が存在する空間をなるべく小さくする

ため、電荷は向かい合った表面にたまる。その結果生じ

る電場は、平板に垂直方向で平板間のみに存在すると

見なせる。+Q がたまった金属平板の表面電荷密度は、

σ = Q/S である。従って、生じる電場の大きさは、(4.9)式より、

E =Qε0S

(4.14)

と求まる。これと E = −∇ϕの関係より、平板間の電位差 ϕ(A) − ϕ(B)が、平行板に垂直方向

電場を積分して

ϕ(A) − ϕ(B) = Ed =Qdε0S

(4.15)

と計算できる。この式を (4.13)に代入すると、平行板コンデンサーの静電容量が、

C = ε0Sd

(4.16)

と得られる。

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第 4章 ガウスの法則による静電場の計算 24

E

+Q −Q

a

b

もう一つの例として、半径 a の導体球 A を、内径が b の導体球殻

Bで包み、内側に電荷 Q、外側に電荷 −Qを与える。導体球の中心を

原点とする半径 r の球を考えると、球内の総電荷は、(4.10)と同様の

考察により、

1ε0

∫Vρ(r)d3r =

Qε0

: a ≤ r ≤ b

0 : r < a, b < r(4.17)

と求まる。一方、(3.6) 式の左辺は、(4.1b) 式のように計算できる。

(4.17)式と (4.1b)式を等号で結ぶと、電場の大きさが

E(r) =

Q

4πε0r2 : a ≤ r ≤ b

0 : r < a, b < r(4.18)

と求まる。Aと Bの電位差は、E = −∇ϕ式より、(4.18)に −1をかけて r = bから r = aまで

積分することにより、

ϕ(a) − ϕ(b) = −∫ a

bE(r)dr = − Q

4πε0

∫ a

b

drr2 =

Q4πε0

[1r

]a

r=b=

Q4πε0

(1a− 1

b

)(4.19)

と得られる。この結果を (4.13)式に代入すると、静電容量が

C =4πε0abb − a

(4.20)

と求まる。

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25

第 5章

マクスウェル方程式

静電場に関する (3.7)式と (3.10)式は、マクスウェルによって、電磁場の「マクスウェル方程

式」へと一般化された。その方程式は、電場とともに磁場に関しても「湧き出し密度」と「渦

密度」を用いて記述され、電磁場の時間変化も記述することができる。このマクスウェル方程

式を提示し、その応用例として静磁場と電磁誘導を扱う。

5.1 マクスウェル方程式

マクスウェル方程式は、場所 r と時間 t についての関数である電場 E = E(r, t)と磁束密度

B = B(r, t)についての方程式である。「磁束密度」は、高校で物理を履修していない学生には

耳慣れない言葉かもしれないが、「磁場」を物理的により明瞭に定義するために導入された概念

と考えて頂きたい。マクスウェル方程式は、電場と磁場の湧き出しと渦がどのように生じるか

を、「数学」という言葉で表しており、次の4つの方程式からなる。

divE =1ε0ρ, (5.1a)

rotE =−∂B∂t, (5.1b)

divB = 0, (5.1c)

rotB = µ0j +1c2

∂E

∂t, (5.1d)

S

I

j = I/S

(5.1a) 式はすでに学んだ「ガウスの法則」で、(3.7) 式が時間変化のある電

場と電荷密度 ρ = ρ(r, t)に対しても成り立つことを示している。この式は、

「電場の湧き出しは電荷」が作ると読める。(5.1b)式は「ファラデーの電磁誘

導の法則」で、静電場に対する (3.10)式を時間変化のある磁場が存在する場

合に一般化したものである。この式は、「渦電場は磁場の時間変化」により生

じると読める。ただし、読みの単純化のため「磁束密度」を「磁場」で置き

換えた。(5.1c)式は磁場に関する「ガウスの法則」で、「磁場の湧き出しはな

い」と読める。四番目の (5.1d)式は「アンペール–マクスウェルの法則」で

ある。右辺の、j = j(r, t)は「電流密度」と呼ばれ、電流 I が流れている時、

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第 5章 マクスウェル方程式 26

その流れ方向に垂直な面の単位面積当たりの電流である。定数 cと µ0 は

c ≡ 3.00 × 108 m/s:光速, µ0 ≡1

c2ε0= 4π × 10−7N/A2 :真空の透磁率 (5.2)

を表す。(5.1d)式は、「渦磁場は電流と時間変化する電場」により生じると読める。右辺が電流

項のみの場合は「アンペールの法則」と呼ばれる。時間変化する電場の項は、マクスウェルが

「電荷の保存則」を満たすようにつけ加えた項である。

このように電場と磁場の方程式は、「湧き出し」と「渦」という我々に身近な物理量で書けて

いる。実に美しく「神の摂理」を感じる! 電磁場に関する現象は、これらの方程式で予言可能

なのである。

マクスウェル方程式に関して二つ注釈しておく。第一に、MKSA単位系で書かれた (5.1)式

には ε0 と µ0 が現れ、少々煩わしい。実際には、光速 cのみが本質的な物理パラメーターで、

それを二つの定数 ε0 と µ0 に分割したのが MKSA 単位系である。理論物理では、ε0 と µ0 が

現れないような単位系も頻繁に用いられている。第二に、(5.1)式は自然界の基礎方程式である

が、金属や誘電体などの我々の身の回りの物質を実際に記述するのは不便もある。そこで、物

質内の原子核に束縛された電荷や電流からの影響を物質定数 (ε, µ)に繰り込んで、方程式を簡

略化することも行われている。具体的に、物質内の電磁場を表現するのに、補助場

D = εE :電束密度, H =1µB :磁場 (5.3)

を導入して束縛電荷と束縛電流の影響を繰り込み、マクスウェル方程式 (5.1)を次のように書

き換える。

divD = ρe, (5.4a)

rotE = − ∂B∂t, (5.4b)

divB = 0, (5.4c)

rotH = je +∂D

∂t, (5.4d)

ここで ρe は導体中の自由に動ける電荷からの帯電への寄与、また、je は(導体中を流れる電流

のように)外から注入できる電流を表す。(5.4)式を「現象論的マクスウェル方程式」という。

以下では、専ら (5.1) 式に基づいて議論を進める。その場合の磁場 H と磁束密度 B は、

H = µ0B と定数 µ0 が違うだけでなので、「磁束密度」と「磁場」は本質的に同じ場を表すこ

とに注意しておく。

5.2 電流の作る磁場

(5.1d)式で電場の時間変化がない場合の式は

rotB = µ0j (5.5)

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第 5章 マクスウェル方程式 27

となり、「アンペールの法則」と呼ばれる。この式は、電流の周りに渦状の磁場が生じることを

表している。電流分布が高い対称性を持つ場合には、この式にストークスの定理 (2.9)を適用

して、生じる磁場を求めることができる。

I

B

2a

s

C

dsS

n

例として、無限に長い直線電流が作る磁場分布を計算し

よう。図のように、半径 aの無限に長い導線中を、定常で

一様な電流 I が流れている状況を考え、導線の中心を z 軸

に選ぶ。この場合の磁束密度は、z軸の中心軸に対して回転

対称性を持つと考えていいだろう。そこで、(5.5)式と z方

向の単位ベクトル n = (0, 0, 1)とのスカラー積をとり、z軸

に垂直な面内で半径 sの円周 Cによって囲まれた領域 Sに

ついて、面積分を実行する。(5.5) 式の左辺からの寄与は、

ストークスの定理 (2.9)を用いて次のように変形できる。∫S

rotB(r) · ndS =∮

CB(s) · ds = B(s)

∫ 2π

0sdθ = 2πsB(s). (5.6a)

ただし、(i)経路 C 上でB(s)と dsは平行であり、(ii)|B(s)| = B(s)及び |ds| = sdθ (0 ≤ θ ≤ 2π)

となることを用いた。一方、(5.5)式の右辺からの寄与は、次のように計算できる。

∫Sj(r) · ndS =

s2

a2 µ0I s ≤ a

µ0I s > a. (5.6b)

(5.6a)式と (5.6b)式を等号で結び、s→ rと引数を置き換えると、z軸から垂直方向に距離 rの

点における磁束密度の大きさ B(r)が、

B(r) =µ0I2π×

ra2 r ≤ a

1r

r > a. (5.7)

と求まる。その方向は電流に対して右ネジ方向に渦巻き状である。下図はこの B(r)を µ0I/2πa

を単位として r/aの関数として描いたグラフである。

0 1 2 3 4

0.5

1

B(r)/(µ0I/2πa)

r/a

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第 5章 マクスウェル方程式 28

5.3 電磁誘導

5.3.1 時間変化する一様磁場中に置かれた円環導線中の電場

B(t)

C

n

s

ds

E

a

(5.1b)式は、磁束密度の時間変化が渦電場を生じさせ

るという「ファラデーの電磁誘導の法則」である。この

式を、空間的に一様で時間変化する磁場中に、半径 aの

円環導線が磁場に垂直に置かれている系に適用し、導線

内に生じる電場を求める。磁場方向の単位ベクトル n

と (5.1b) 式とのスカラー積を取り、円周 C で囲まれた

平面領域内で面積分を実行する。対称性から、この場合

の電場は円周方向を向いて大きさは一定であると考えてよい。すると、(5.1b)式の左辺からの

寄与が、ストークスの定理 (2.9)を用いて次のように計算できる。∫S

rotE(r, t) · ndS =∮

CE(s, t) · ds = E(t)

∫ 2π

0adθ = 2πaE(t) (5.8a)

ただし、(i)円周上でE(s, t)と dsは平行であり、(ii)|E(s, t)| = E(t)及び |ds| = adθ (0 ≤ θ ≤ 2π)

となることを用いた。一方、(5.1b)式の右辺からの寄与は、

−∫

S

dB(t)dt

· ndS = −dB(t)dt

∫S

dS = −dB(t)dtπa2 (5.8b)

と計算できる。(5.8a)式と (5.8b)式を等号で結ぶと、導線内に生じる電場 E(t)が、

E(t) = −a2

dB(t)dt

(5.9)

と求まる。例えば B(t) = B0 cosωt のような振動磁場の場合には、E(t) = 12 aB0ω sinωt の振動

電場が導線内に生じることになる。

5.3.2 レンツの法則と発電機の原理

C

ds

n(r)

r

O

s

S

(5.1b)式からは、「発電機の原理」として知られる物理的意味が異な

る現象も予言できる。(5.1b)式を、右図のような空間に固定された曲

面 S 上で面積分を行う。その左辺の寄与は、次のように変形できる。∫S

rotE(r, t) · n(r)dS =∮

CE(s, t) · ds ≡ ϕem(t). (5.10a)

この ϕem(t) は、閉曲線 C の誘導起電力という意味を持つ。一方、右

辺の寄与は、曲面 S が空間に固定されていることを考慮すると、次の

ように書き換えられる。

−∫

S

∂B(r, t)∂t

· n(r)dS = − ddt

∫SB(r, t) · n(r)dS = −dΦ(t)

dt(5.10b)

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第 5章 マクスウェル方程式 29

ここで

Φ(t) ≡∫

SB(r, t) · n(r)dS (5.11)

は閉曲線 C を貫く全磁束である。(5.10a)式と (5.10b)式を等号で結ぶと、

ϕem(t) = −dΦ(t)dt

(5.12)

となり、「回路の誘導起電力は回路を貫く全磁束の時間変化にマイナスをつけたものに等しい」

という「レンツの法則」(あるいは「ノイマンの式」)が得られた。

ωt

B

S

(5.12) 式は、マクスウェル方程式を空間に固定された閉曲線 C

に適用して導かれたのであるが、時間変化する回路の誘導起電力

も正しく記述できることが知られている。右図のように、磁束密

度 B の一様静磁場中に、面積が S の長方形型の導線を初期時刻

t = 0 に面が磁場と平行になるように配置し、長方形の一つの中

心軸の周りに角速度 ωで回転させる。回路を貫く全磁束 Φ(t)は、

Φ(t) = BS sinωtと時間変化する。これを (5.12)に代入すると、回

路に生じる誘導起電力が、

ϕem(t) = −BSω cosωt (5.13)

と求まる。この結果は発電機の原理として用いられ、現代文明の礎となっている。例えば水力

発電では、回路を回転させるのに水の運動エネルギーが用いられている。

なお、今考えた系では、B は時間変化せず回路も空間内で回転して時間変化する。従って、

空間に固定された経路と時間変動する磁束密度に対して導かれた (5.12)式は、この系に使えな

いようにも思える。実際、この系で起こっていることは、運動するコイル内の荷電粒子に働く

「ローレンツ力」によって理解するのがより適切である。しかし、両者が同じ結果を与えること

は、「特殊相対性理論」によって保障されている。

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30

第 6章

電磁波

マクスウェル方程式からは、電場と磁場の時間変化が波として伝わり、その速さが光速

c = 3.00 × 108m/sに等しいという結果が得られる。マクスウェルによって得られたこの結果に

より、光が電磁波であることが初めて明らかになった。電磁波は、ヘルツにより実験的に発生

させられて光速で伝搬することが確認され、ファラデーによって予想された電場と磁場の実在

が証明された。ここでは、マクスウェル方程式から、電磁波が存在することを理論的に導く。

6.1 自由空間のマクスウェル方程式

マクスウェル方程式 (5.1) によると、時間変化する電荷密度 ρ(r, t) は時間変化する電場

E(r, t)の湧き出しを作り出し、時間変化する電流密度 j(r, t)は時間変化する磁束密度 B(r, t)

の渦の源となる。ここでは、一旦作られた時間変化する電磁場が、電荷と電流のない「自由空

間」をどのように伝わっていくのかを明らかにする。(5.1)式で ρ = 0及び j = 0と置くと、自

由空間のマクスウェル方程式

divE = 0, (6.1a)

rotE = − ∂B∂t, (6.1b)

divB = 0, (6.1c)

rotB =1c2

∂E

∂t, (6.1d)

が得られる。

6.2 一方向に伝搬する電磁場の方程式

z方向に伝搬する波の存在の可能性を探るため、方程式 (6.1)を、E とB が共に (z, t)のみに

依存するという簡単な場合

E(r, t) = (Ex(z, t), Ey(z, t), Ez(z, t)), B(r, t) = (Bx(z, t), By(z, t), Bz(z, t)) (6.2)

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第 6章 電磁波 31

について考察する。ここでの目標は、この電磁場の時間変動成分が (6.7)式のように表され、電

場と磁場が垂直で、それらは「波動方程式」(6.8)に従うことを示すことである。

(6.2)式を (6.1a)式と (6.1c)式に代入し、湧き出し演算子 divの定義式 (2.6)を用いると、そ

れぞれ

∂Ez(z, t)∂z

= 0, (6.3a)

∂Bz(z, t)∂z

= 0, (6.3b)

が得られる。一方、(6.2)式を (6.1b)式に代入し、渦演算子 rotの定義式 (2.10)を用いると、そ

れらの x, y, z成分からそれぞれ

−∂Ey(z, t)∂z

= − ∂Bx(z, t)∂t

, (6.3c)

∂Ex(z, t)∂z

= −∂By(z, t)∂t

, (6.3d)

0 = − ∂Bz(z, t)∂t

(6.3e)

が得られる。同様に、(6.2)式を (6.1d)式に代入し、渦演算子 rotの定義式 (2.10)を用いると、

それらの x, y, z成分からそれぞれ

−∂By(z, t)∂z

=1c2

∂Ex(z, t)∂t

, (6.3f)

∂Bx(z, t)∂z

=1c2

∂Ey(z, t)∂t

, (6.3g)

0 =1c2

∂Ez(z, t)∂t

(6.3h)

が導かれる。(6.3a)式と (6.3h)式、および、(6.3b)式と (6.3e)式より、それぞれ

Ez(z, t) =定数, Bz(z, t) =定数 (6.4)

が結論づけられる。従って、電磁場の z成分は波ではなく、存在したとしても一様な静電磁場

である。それゆえ、それらが 0の場合を考え、以下の考察から除くことにする。

すると、電場は E(r, t) = (Ex(z, t), Ey(z, t), 0)と書くことができる。さらに、座標軸を z軸の

周りに適当に回転させることにより、

Ey(z, t) = 0 (6.5a)

とできる場合を考える。この式を (6.3c)式と (6.3g)式に代入すると、

∂Bx(z, t)∂t

= 0,∂Bx(z, t)∂z

= 0 ←→ Bx(z, t) =定数

となり、Bx も静磁場で考察から除くことができる。そこで、

Bx(z, t) = 0 (6.5b)

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第 6章 電磁波 32

と置くことにする。

残る有限な成分は Ex(z, t)と By(z, t)で、それらの方程式は (6.3d)と (6.3f)で与えられる。そ

こで、(6.3d)式をもう一度 zで偏微分し、右辺で z微分と t微分の順序を入れ替え、(6.3f)を代

入すると、

∂2Ex(z, t)∂z2 = − ∂

∂z∂By(z, t)∂t

= − ∂∂t∂By(z, t)∂z

= − ∂∂t

[− 1

c2

∂Ex(z, t)∂t

]=

1c2

∂2Ex(z, t)∂t2 (6.6a)

となる。同様に、(6.3f)式をもう一度 zで偏微分し、右辺で z微分と t 微分の順序を入れ替え、

(6.3d)を代入すると、

−∂2By(z, t)∂z2 =

1c2

∂z∂Ex(z, t)∂t

=1c2

∂t∂Ex(z, t)∂z

=1c2

∂t

[−∂By(z, t)∂t

]= − 1

c2

∂2By(z, t)∂t2 (6.6b)

が得られる。

以上をまとめると、(z, t)のみに依存し (6.5a)とおける場合の変動電磁場は、

E(r, t) = (Ex(z, t), 0, 0), B(r, t) = (0, By(z, t), 0), (6.7)

と表すことができ、電場と磁場が垂直で、それらは次の方程式に従う。

∂2Ex(z, t)∂z2 =

1c2

∂2Ex(z, t)∂t2 ,

∂2By(z, t)∂z2 =

1c2

∂2By(z, t)∂t2 . (6.8)

電場 Ex と磁束密度 By に対する方程式は、同じ形をしている。この形の方程式は「波動方程

式」と呼ばれる。実際、(6.8)は、速さ cで伝わる波の伝搬を記述することが以下で明らかにな

る。(6.8)の二つの式は独立ではなく、Ex と By は (6.3d)式と (6.3f)式、すなわち次の関係を満

たすように決めなければならない。

∂By(z, t)∂t

= −∂Ex(z, t)∂z

,∂By(z, t)∂z

= − 1c2

∂Ex(z, t)∂t

. (6.9)

6.3 波動方程式の解

関係式 (6.9)を満たす (6.8)式の解は、次のように表せる。

Ex(z, t) = f+(z − ct) + f−(z + ct), By(z, t) =f+(z − ct) − f−(z + ct)

c(6.10)

ここで f±(z)は zについて二階連続微分可能な任意の二つの関数である。添字がいささか混乱

を招くかもしれないが、以下ですぐ見るように、z − ct の関数は z 軸の + 方向に伝搬する波、

z + ct の関数は z軸の −方向に伝搬する波を表すので、このような添え字にした。 f+ と f− は

二つの独立な任意の関数であることを強調しておく。

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第 6章 電磁波 33

(6.10)式の証明は以下の通りである。 f±(z ∓ ct)(複合同順)は次式を満たす。

∂ f±(z ∓ ct)∂z

= ∓1c∂ f±(z ∓ ct)∂t

. (6.11)

すなわち、z ∓ ct の関数を zで微分することは、t で微分して ∓c−1 をかけることに等しい。こ

のことと (∓c−1) = c−2 より、次式も容易に得られる。

∂2 f±(z ∓ ct)∂z2 =

1c2

∂2 f±(z ∓ ct)∂t2 (6.12)

従って、 f±(z ∓ ct)の線形結合である (6.10)式は (6.8)式を満たす。さらに、(6.10)式の Ex と

By が (6.9)の関係を満たすことも、(6.11)を用いて容易に示せる。

z

f+(z−ct0) f+(z−ct1)

t0 t1

z1=z0+c(t1−t0)z0

すでに触れたように、関数 f±(z ∓ ct)は、±z方向に速

さ c で伝搬する波を表現している。実際、 f± の時刻 t0における位置 z0 の関数値は、未来の時刻 t1 (> t0) を用

いて次のように書き換えられる。

f±(z0 ∓ ct0) = f±(z0 ± c(t1 − t0) ∓ ct1) (6.13)

この式より、時刻 t0 における位置 z0 の関数値が、時刻

t1 における位置 z1 ≡ z0 ± c(t1 − t0)の関数値に等しいこ

とを示している。このことから、関数 f±(z ∓ ct)が、±z方向に速さ cで伝搬する波であること

がわかった。上図には、 f+(z − ct)についてこの事情を描いた。

光通信では、関数 f±(z)の波形の違いを用いて情報を伝達している。我々が、波形の違う音

声を発して会話(=情報の交換)を行っているのと同じ原理であるが、会話が音速 ∼ 340m/sで

伝わるのに対し、光通信でははるかに高速 ∼ 3 × 108m/sの情報伝達が可能である。

z

x

y

Ex

By

特に、

Ex(z, t) = E0 sin(ωt − kz), By(z, t) =E0

csin(ωt − kz)

(6.14)

と表される電磁波を、単色直線偏光の平面波と呼ぶ。

その波数 k (m−1) は、角周波数 ω (rad/s) と光速 c =

3.00 × 108 (m/s)を用いて

k =ω

c= 2π

ν

c=

2πλ

(6.15)

と表せる。また、ここで定義した ν (s−1)と λ (m)はそれぞれ振動数および波長と名づけられ、

ω = ckの関係は「分散関係」と呼ばれる。

人間の目が識別できる「可視光線」も電磁波の一種で、波長が約 400nm= 4.0 × 10−7m(紫

色)から 750nm(赤色)の間にある。波長が可視光よりも長く 750nm~1mmの間にある電磁

波を「赤外線」、可視光よりも短い 10nm~ 400 nmの領域の光を「紫外線」と呼ぶ。