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9 表.現時点での FCV EV の特徴 出所:「第10回水素・燃料電池戦略協議会配布資料『水素社会実現に向けた戦略の方向性』」 (経済産業省、2017 年 9 月) 現状で FCV は水素ステーションの未整備によって、いつ、どこでも燃料を補給できると いう状態ではない。しかし 1 回の充填にかかる時間は満充填でも約 3 分と利便性が高い。 FCV と比較すると、EV の充電時間は急速充電でも 80%充電で約 30 分、普通充電では 8 時間と待ち時間が非常に長くなる。したがって 1 回の充電時間が長い EV は普段使いの中 で、家庭やショッピングモールといった生活圏内で手軽に一部補充する使い方が適してい ると思われる。一方、中・長距離移動の中でサービスエリアや遠方の目的地付近といった 場所での補給を考えた場合は FCV の方が適していると思われる。米国では既に、カリフォ ルニア州を中心に日本を上回る勢いで FCV の普及が進んでいる。これはカリフォルニア州 が早期に ZEV 規制を導入し、各自動車メーカーの対応が義務付けられている他、集中的水 素ステーションの普及戦略に加え米国のユーザー事情が関連している。米国では 1 回あた りの自動車走行距離が長く、航続距離の長いエコカーが求められているためである。 サービスエリアや観光地のような時間当たりの充電/充填自動車数が集中して発生する可 能性が高い地域の場合、1 回あたりの充電/充填時間が短い方がユーザーには優しい。高速 道路走行車両のうち 20%が EV に変わった場合、1 カ所のサービスエリア 1 カ所あたりに 必要な急速充電スタンドは 60 基であるといった試算もあり、集中需要への対応には不利で あるため充電渋滞は避けられない。スタンドの周辺住民にとっても、頻繁に渋滞が発生す るようなことは望ましくない。 以上のような特徴の比較から、EV FCV は主要な使われ方の違いにより、下図のよう なすみ分けがされていくと予測される。

FCV EV - pref.niigata.lg.jp · 2001 年に民間によって設立された燃料電池実用化推進協議会(fccj)では、2010 年に 「fcv と水素ステーション(st)の普及に向けたシナリオ」を提案し、さらに2016

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表.現時点での FCV と EV の特徴

出所:「第 10 回水素・燃料電池戦略協議会配布資料『水素社会実現に向けた戦略の方向性』」

(経済産業省、2017 年 9 月)

現状で FCV は水素ステーションの未整備によって、いつ、どこでも燃料を補給できると

いう状態ではない。しかし 1 回の充填にかかる時間は満充填でも約 3 分と利便性が高い。

FCV と比較すると、EV の充電時間は急速充電でも 80%充電で約 30 分、普通充電では 8時間と待ち時間が非常に長くなる。したがって 1 回の充電時間が長い EV は普段使いの中

で、家庭やショッピングモールといった生活圏内で手軽に一部補充する使い方が適してい

ると思われる。一方、中・長距離移動の中でサービスエリアや遠方の目的地付近といった

場所での補給を考えた場合は FCV の方が適していると思われる。米国では既に、カリフォ

ルニア州を中心に日本を上回る勢いで FCV の普及が進んでいる。これはカリフォルニア州

が早期に ZEV 規制を導入し、各自動車メーカーの対応が義務付けられている他、集中的水

素ステーションの普及戦略に加え米国のユーザー事情が関連している。米国では 1 回あた

りの自動車走行距離が長く、航続距離の長いエコカーが求められているためである。 サービスエリアや観光地のような時間当たりの充電/充填自動車数が集中して発生する可

能性が高い地域の場合、1 回あたりの充電/充填時間が短い方がユーザーには優しい。高速

道路走行車両のうち 20%が EV に変わった場合、1 カ所のサービスエリア 1 カ所あたりに

必要な急速充電スタンドは 60 基であるといった試算もあり、集中需要への対応には不利で

あるため充電渋滞は避けられない。スタンドの周辺住民にとっても、頻繁に渋滞が発生す

るようなことは望ましくない。 以上のような特徴の比較から、EV と FCV は主要な使われ方の違いにより、下図のよう

なすみ分けがされていくと予測される。

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図.EV と FCV のすみわけのイメージ

出所:トヨタ自動車、ホンダ技研工業、豊田自動織機、Alstom、日産自動車、三菱自動車、

三菱ふそう各社 HP、テクノバ作成

EV は普及初期には普段使いしやすい短航続距離小型自動車が主流であったが、最近では

EV トラックの量産が開始されるなど、長航続距離・大型車両サイズへの適用が矢印の方向

に広がっている。一方 FCV は長航続距離の中型自動車が主流であり、FC バス、大型トラ

ックや鉄道の FC 車両も走行している。現在では小型車両は FC フォークリフトが中心であ

るが、それ以外の小型車両への FC 化も、矢印の方向に進んできている。 このような車載蓄電池の技術開発に加え水素ステーションの整備の加速によって、徐々

にすみ分けははっきりしなくなっていくが、将来的にも一箇所あたりの補給(充電)設備

の設置のし易さは EV、また長距離化対応のし易さは FCV であるために、お互いの弱点を

補い合っていく全体像は変わらないものと思われる。

2-2水素ステーションの特徴

FCV は水素ステーションで水素を充填することができる。高圧水素を安全に取り扱うた

め、水素ステーションには様々な装置が設置されている。

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図.水素ステーション保安設備設置イメージ図

出所:「水素ステーションの保安設備」HySUT 公開資料より抜粋

このような設計段階の安全対策に加え、運用面でも基本原則の徹底や保安体制の規定に

より水素ステーションは安全に運用されている。

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図.水素ステーション安全運営基本方針

出所:「Suiso なセカイへ」水素エネルギーナビ

表.水素ステーション運営に求められる保安体制

出所:各種資料よりテクノバ作成

水素は最も分子量が小さいガスであるため、特に漏えい対策が重要である。現時点では 1スタンドあたりに発生する漏えい事故の割合は他の燃料種のスタンドに比べ比較的大きい。

水素ステーション運営者から得られる水素漏えい防止策に関する知見は迅速に他の運営者

に展開されており、漏えい対策が確実に進められている。

※1 保安統括者代理と保安係員代理は兼任可

※2 保安係員と保安係員代理は常駐が必要(その他は常駐不要)

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表.ガス種別事故件数割合の比較(2016 年)

出所:第 4回 「燃料電池自動車等の普及促進に関わる自治体連携会議配布資料『燃料電池自動車・水素

ステーションに係る規制等への取組について』」経済産業省(2017 年 9 月)よりテクノバ作成

水素ステーションには設置場所や水素の需要といった要因により、さまざまなタイプの

ものが選択されている。

表.水素ステーション比較表

出所:各種資料よりテクノバ作成

2-3FCV と水素ステーションの普及の課題

FCV は普及開始後間もないため、その環境性や先進性は、まだ知れ渡っていない。その

ためそれらの利点を広く紹介することは FCV の需要喚起につながる。また、水素という新

たなエネルギー媒体を用いる FCV や水素ステーションの普及には県民の理解・社会受容性

事故件数 スタンド数事故件数/スタンド数

水素スタンド 24 79 30.4%

うち、多量の漏えい※2 12 79 15.2%

6 282 2.1%

6 1,458 0.4%

CNGスタンド※1

LPGスタンド※1

※1 CNG スタンド、LPG スタンドでは、締結部又は開閉部からの微量の漏えい(石けん水を塗布した場合気泡が生ずる程度の漏えい)を除く。

※2 多量の漏えいとは、装置が自動停止するレベルの漏えい。事故件数については精査が必要。

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の向上が不可欠である。県内に FCV の需要を広げ、水素ステーションの設置を円滑に推進

するためにも水素ステーションの情報展開に加え、FCV の普及啓発が重要となる。 四大都市圏に含まれる自治体は普及啓発のため様々な取組みを実施している。

表.自治体による FCV 普及啓発の取組み例 講演会 試乗会 パンフレット作成 新聞・広報誌掲載

人材育成講座設置 見学会 その他体験イベント 研究会発足

新潟県でもこれまで普及啓発事業を行っているが、今後の FCV・水素ステーション普及

の取組みの中で、民間事業者等との連携も活用しつつ、さらなる加速を検討する必要があ

る。 2001 年に民間によって設立された燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)では、2010 年に

「FCV と水素ステーション(ST)の普及に向けたシナリオ」を提案し、さらに 2016 年に

その改訂版のシナリオを公開した。この中で FCV の導入可能地域を拡大するため先行整備

を進めることが明記されている。 水素ステーションの整備コストは、普及初期段階では4~5億円程度とされており、通

常のガソリンスタンドの整備コスト(1億円未満)と比較しても非常に高額な状況となっ

ている。

図.FCCJ による普及シナリオ

出所:FCCJ ホームページ

FCCJ では、2020 年代後半以降の水素ステーションの自立化には、1 箇所あたり 900 台

の FCV が定常的に訪れる必要があるとしているが、FCVの普及初期においては、水素需

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要も少ないことから、当面は水素ステーションを事業者が自力で整備・運営することは現

状では難しい状況となっている。

このため、将来の自立化に向け、普及の初期段階においては、国の助成のほか、整備に

かかる経費負担や用地の提供等といった公的支援を地方自治体においても検討する必要が

ある。

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第3章 新潟県内における FCV 普及台数試算

3-1将来普及台数試算の必要性と方策

水素ステーションの整備にあたっては、将来の普及台数の見通しが必要となる。そこで、

ロードマップにおける FCV の普及目標台数と、全国の新車販売台数に占める新潟県の割合

を用いることで FCV の普及の試算を行った。この中で、普及初期の FCV 割合は新車のう

ち高級車の割合に近づくと仮定し、時期によって以下のように割合を分けて試算した。 今回用いた割合は、2018 年(県内に水素ステーションが整備される初年度と想定)~2025

年(ロードマップにおける FCV の車両価格がボリュームゾーンにまで低減される年)は、

新車販売台数のうちさらにラグジュアリーカー(500 万円以上、セダンタイプ)に限定した

割合である。一方、2026 年以降は FCV の価格低下を想定して全ての車両における新潟県

内新車登録台数の割合を用いた。

3-2将来の普及台数試算

全国の新車販売台数に占める新潟県の割合は以下のとおり。

出所:日本自動車販売協会連合会「新車登録台数年報」よりテクノバ作成

これまでの報道資料、ロードマップの目標値から試算される、FCV の全国販売台数は以

下のとおり。FCV の累計台数に関する各種情報より作成した近似曲線から販売台数を試算

した。

図.FCV の全国販売台数試算値

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図.FCV の全国販売台数試算値

全国の新車販売台数に占める新潟県の割合、およびロードマップ目標値等から得られた

FCV の全国販売台数の試算値より、新潟県内における FCV 販売台数の試算値を以下のよう

に得た。 表.新潟県における FCV 普及試算値

年度 累計台数 年間台数

2015 500 500

2016 1,483 984

2017 2,999 1,516

2018 12,052 9,053

2019 24,523 12,470

2020 39,998 15,476

2021 58,810 18,812

2022 82,031 23,220

年度 累計台数 年間台数

2023 111,474 29,443

2024 149,695 38,221

2025 199,993 50,298

2026 266,406 66,413

2027 353,717 87,311

2028 467,448 113,731

2029 613,865 146,417

2030 799,975 186,110

年度全国販売

台数

新潟県

割合

新潟県

販売台数

新潟県

累計台数

2018 9,053 1.15 104 139

2019 12,470 1.15 143 282

2020 15,476 1.15 178 460

2021 18,812 1.15 216 676

2022 23,220 1.15 267 943

2023 29,443 1.15 339 1,282

2024 38,221 1.15 440 1,721

2025 50,298 1.15 578 2,300

2026 66,413 1.87 1,242 3,542

2027 87,311 1.87 1,633 5,175

2028 113,731 1.87 2,127 7,301

2029 146,417 1.87 2,738 10,039

2030 186,110 1.87 3,480 13,520

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ただし、この試算には前提として県内において水素ステーションが全国並みに普及して

いくという仮定がおかれている。また初期需要の立ち上がりや新潟県民の FCV への期待が

考慮されていないため、正確ではない点がある。 FCV の需要は人口に依存するため、人口の多い市町村ほど需要が大きいと考えられる。

そうした市町村に優先して水素ステーションを配置した場合の、FCV 需要試算値への影響

を分析すると以下のような結果を得た。

表.新潟県内人口カバー率ごと累計台数試算値

※約 70%=人口の多い市町村上位 7 位までの想定。約 50%=同上位 3 位までの想定。

3-3FCV による CO2削減効果の算出

上記累計台数試算値に対し、CO2 削減効果を算出した。1 台のガソリン車が FCV(オン

サイト都市ガス改質由来水素を利用)に代替される場合、46.3%(68g-CO2/km)の CO2

削減となる。ガソリン自動車の年間走行距離を 1 万 km と仮定した場合、以下のような CO2

削減効果となる。 表.新潟県内人口カバー率ごと CO2削減効果[t/y]

※約 70%=人口の多い市町村上位 7 位までの想定。約 50%=同上位 3 位までの想定。

年度/カバー率 100% 約70%※ 約50%※

2020 460 328 254

2025 2,300 1,639 1,272

2030 13,520 9,633 7,474

年度/カバー率 100% 約70%※ 約50%※

2020 313 223 173

2025 1,564 1,114 865

2030 9,193 6,550 5,082

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第6章 新潟県内における水素サプライチェーンと低炭素水素の

展開シナリオ

6-1FCV 以外の用途の水素利活用技術の普及による水素需要の試算

水素を活用したモビリティの普及はまず FCV から始まっているが、既にフォークリフト

やバスの FC 化が始まっている。 東京都では 2020 年までに 100 台の燃料電池バス(FC バス)を導入する計画であり、既

に現在でも一般の乗客に利用されている。1 台の水素需要を FC バスが 7,940kg、FCV が

86kg とすると、1 台の FC バスは FCV 約 92 台分の水素需要を持つことになる。水素ステ

ーションの採算性については 1 カ所当たり 800 台から 900 台が必要とされており、FC バ

ス換算では 10 台で 1 カ所の水素ステーションの採算性成立に貢献できると言える。

表.FCV と FC バスによる水素の需要の推測値

出所:「第 3回燃料電池自動車等の普及促進に係る自治体連携会議配布資料『燃料電池バスの普及及び導入

支援策について』国土交通省(2016 年 10 月)

水素ステーションを FC バスに対応させるためには、追加の設置費用が必要となるため精

査が必要であるが、新潟市のようなバス交通の発達している地域において導入を検討する

ことは、CO2削減と水素ステーション運営企業誘致を両立させる方策にもつながる。 さらに水素の用途が FCV 以外にも広がると、新たな産業としての価値が大きくなってく

る。例えば、エネルギーマネジメントとして燃料電池による発電や水素貯蔵設備によるエ

ネルギー貯蔵技術へ対応することは、自動車産業技術の他産業への展開につながることと

なる。成長が見込める水素への取組を中長期的に進めることは、県内産業の育成や活性化、

雇用拡大など経済波及効果が期待できる。