18
高大接続改革 現在 今年7月に文部科学省から「大学入学共通テスト 実施方針」「高校生のための学びの基礎診断実施方 針」「2021(平成 33)年度大学入学者選抜実施要 項の見直しに係る予告」が公表された。また、大学 入試センターからは記述式とマークシート式問題の モデル問題例も公表された。ようやく高大接続改革 の具体的なありようが見え始めている。 一方で、各大学における多面的・総合的な評価に よる大学入学者選抜の改革も徐々に進んでいる。 今回の特集では、「高大接続改革の現在」として、 高大接続改革が今後どのように進展しようとしてい るのか、多面的・総合的な評価に基づく大学入学者 選抜とはどのような選抜になるのか、それは今まで の大学入学者選抜と異なるのかといったことを知る ために、大学入試の研究者や、各大学の入学者選抜・ 高大接続改革を取材した。 Part 1の概説では、今後、大学入学者選抜で重 要な役割を果たすであろうアドミッション・ポリシ ーやその課題、今後の大学入学者選抜の在り方につ いて、佐賀大学西郡大教授に話をうかがった。 Part 2では、3つの大学と1つの高校を紹介す る。3つの大学とも、推薦入試や AO 入試での取り 組みで、知識の再生を重視した選抜から、生徒の思 考力・判断力・表現力や主体性・多様性・協働性を 評価する選抜への取り組みを始めている。いずれの 大学とも、高校教育や大学教育と、入学者選抜との 接続を重視している点も共通している。郁文館高校・ グローバル高校は、ルーブリック評価型入試を高校 入試で取り入れている。プレゼンテーション、グル ープディスカッションなどを通して受験生の表現力、 論理的思考力、コミュニケーション能力などを評価 する。高校入試と大学入試という場は違えど、めざ す方向性や取り組みは通底するものがある。 高大接続改革の端緒をご覧いただき、今後のご指 導の一助となれば幸いである。 Part 1 概説 求められるアドミッション・ポリシーの「実質化」 アドミッション・ポリシーを核にした「相互選択」をめざして 佐賀大学アドミッションセンター 西郡 大 教授 Part 2 大学・高校での改革 お茶の水女子大学 大学入学後の知の営みを体験できる、教育面も意識した「新フンボルト入試」 北陸大学 思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性を重視した「21 世紀型スキル育成 AO 入試」 四国学院大学 グループワークを通じて、主体性・多様性・協働性を評価する「推薦入学綜合選考」 郁文館中学校・高等学校・グローバル高等学校 求める人材像を明確にした「ルーブリック評価型入試」を導入 CONTENTS ............................................................................................................................... p3 ............................................................................................................................ p7 ....................................................................................................................................... p10 ................................................................................................................................. p13 .................................................................................. p16 特 集 Kawaijuku Guideline 2017.9 2

高大接続改革 現在...2 Kawaijuku Guideline 2017.9 高大接続改革の現在 「求める学生像」と「実際の受験者像」との懸隔 APで大学と受験生の相互理解を促進

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 高大接続改革の現在 今年7月に文部科学省から「大学入学共通テスト実施方針」「高校生のための学びの基礎診断実施方針」「2021(平成 33)年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」が公表された。また、大学入試センターからは記述式とマークシート式問題のモデル問題例も公表された。ようやく高大接続改革の具体的なありようが見え始めている。 一方で、各大学における多面的・総合的な評価による大学入学者選抜の改革も徐々に進んでいる。 今回の特集では、「高大接続改革の現在」として、高大接続改革が今後どのように進展しようとしているのか、多面的・総合的な評価に基づく大学入学者選抜とはどのような選抜になるのか、それは今までの大学入学者選抜と異なるのかといったことを知るために、大学入試の研究者や、各大学の入学者選抜・高大接続改革を取材した。 Part 1の概説では、今後、大学入学者選抜で重要な役割を果たすであろうアドミッション・ポリシ

    ーやその課題、今後の大学入学者選抜の在り方について、佐賀大学西郡大教授に話をうかがった。 Part 2では、3つの大学と1つの高校を紹介する。3つの大学とも、推薦入試や AO 入試での取り組みで、知識の再生を重視した選抜から、生徒の思考力・判断力・表現力や主体性・多様性・協働性を評価する選抜への取り組みを始めている。いずれの大学とも、高校教育や大学教育と、入学者選抜との接続を重視している点も共通している。郁文館高校・グローバル高校は、ルーブリック評価型入試を高校入試で取り入れている。プレゼンテーション、グループディスカッションなどを通して受験生の表現力、論理的思考力、コミュニケーション能力などを評価する。高校入試と大学入試という場は違えど、めざす方向性や取り組みは通底するものがある。 高大接続改革の端緒をご覧いただき、今後のご指導の一助となれば幸いである。

    Part 1 概説求められるアドミッション・ポリシーの「実質化」アドミッション・ポリシーを核にした「相互選択」をめざして佐賀大学アドミッションセンター 西郡 大 教授

    Part 2  大学・高校での改革●お茶の水女子大学大学入学後の知の営みを体験できる、教育面も意識した「新フンボルト入試」

    ●北陸大学思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性を重視した「21世紀型スキル育成AO入試」

    ●四国学院大学グループワークを通じて、主体性・多様性・協働性を評価する「推薦入学綜合選考」

    ●郁文館中学校・高等学校・グローバル高等学校求める人材像を明確にした「ルーブリック評価型入試」を導入

    CONTENTS

    ............................................................................................................................... p3

    ............................................................................................................................ p7

    ....................................................................................................................................... p10

    ................................................................................................................................. p13

    .................................................................................. p16

    特 集

    Kawaijuku Guideline 2017.92

  • 高大接続改革の現在

    「求める学生像」と「実際の受験者像」との懸隔AP で大学と受験生の相互理解を促進

     文部科学省「大学における教育内容等の改革状況につ

    いて(平成 26 年度)」によると、AP を学部段階で定め

    ている大学の割合は 99.7%である。また、すべての大

    学が学内外へ公表している。つまり、現在、ほぼ全ての

    国公私立大学が AP を策定し公表している。AO 入試の

    実施大学・学部等の増加に伴い、高校の進路指導におい

    ても、存在感が高まってきた AP だが、現段階では十分

    に機能しているとは言い難いところがある。

     それについて、西郡教授は「現在、公表されている

    AP にはいくつかの課題があります。1つは、そこで示

    される『求める学生像』が理想型になっているため、実

    際にその大学を受験する受験生像と合致していない場合

    があることです」と話す。AP で示す「求める学生像」

    に合致していない受験生は、本来不合格となるはずであ

    るが実際にはそうなってはいないのが現状だ。

     さらに、西郡教授は「AP が示す『求める学生像』が、

    入学時に求める能力や資質等ではなく、その大学・学部

    等が大学教育を通じて育成したい人物像になっている場

    合も多く見られます。これが実際の受験生と合致しない

    理由の1つです」と説明する。

     また、AP で「積極的な意欲と行動力」を求めながら、

    学力試験によって入学者選抜を行うなど、求める能力を

    測定している入試方法とはいえないようなケースも見ら

    れる。西郡教授は「これまでのような、言わば『形式的

    な AP』から、実際の入試方法や入学後の教育と連動し

    た『実質的な AP』に転換していくことが必要です。実

    際の入試において AP が実質的に機能するようになって

    いけば、受験生の AP 理解の動機づけが図られるでしょ

    うし、大学は AP の示し方次第で受験生について知りた

    い情報を入試で引き出すことができます」と AP を見直

    すことで、大学と受験生の相互理解と相互選択につなげ

    ることが大切だと話す。

    求められる3つのポリシーの一貫性と整合性

     ところで、2016 年 3 月 31 日に公表された、中央教

    育審議会大学分科会大学教育部会「卒業認定・学位授与

    の方針」(ディプロマ・ポリシー、以下 DP)、「教育課

    程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー、以下

    CP)及び「入学者受入れの方針」(AP)の策定及び運

    用に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」)では、

    3つのポリシーを一貫性・整合性を持って策定するよう

    求めている。さらに、AP については、DP 及び CP を

    踏まえるとともに「学力の3要素」を念頭に置き、入学

    前にどのような多様な能力をどのようにして身に付けて

    きた学生を求めているか、入学後にどのような能力をど

    のようにして身に付けられる学生を求めているかなど、

    多様な学生を評価できるような入学者選抜の在り方につ

    いて、できる限り具体的に示すよう記載されている。ま

     2017 年4月1日、「学校教育法施行規則の一部を改正する省令」が施行された。今回の改正では、3つの方針(卒業の認定に関する方針、教育課程の編成及び実施に関する方針、入学者の受入れに関する方針)を策定し、公表することを全ての大学に求めている。さらに、各大学は現在の3つのポリシーを検証し、場合によっては改定を行う必要がある。中でもアドミッション・ポリシー(入学者の受入れに関する方針、以下 AP)は大学入試に直接関わるため、高校の先生方にとっても今後の動向に注目する必要があるだろう。現在の AP の課題や今後の在り方、さらには大学入学者選抜のこれからの方向性などについて、佐賀大学アドミッションセンター西郡大教授にお話をうかがった。

    Part 1 概説

    求められるアドミッション・ポリシーの「実質化」アドミッション・ポリシーを核にした「相互選択」をめざして

    佐賀大学 アドミッションセンター 西郡 大 教授

    特集

    Kawaijuku Guideline 2017.9 3

  • 特集 特集

    た、必要に応じて入学前に学習しておくことが期待され

    る内容についても示すことを求めている。加えて、留意

    事項として入学者選抜において、AP を具現化するため

    にどのような評価方法を多角的に活用するのか、それぞ

    れの評価方法をどの程度の比重で扱うのか(下線は編集

    部)等を具体的に示すことが記載されている。

     「ガイドライン」の要件を満たした AP とすることが

    法令で求められているのだ。

    入学後の学習活動において必要な資質・能力を示すことで3つのポリシーの一貫性と整合性を担保

     では、「DP 及び CP を踏まえる」とは、どのようなこ

    とか。

     「これまでのように入試成績が入学後の学習成果を予

    測するという考え方ではなく、入学後の学習活動に取り

    組む上で必要な能力や資質等を有している学生群とそう

    ではない学生群を入試で識別できたかどうか、という選

    抜の基本に立ち返ることが必要ではないでしょうか」(西

    郡教授)

     具体的には、卒業時等の学習成果とそこに至るまでの

    学習活動の中で、特に初年次での学習活動に必要な準備

    が整っているかという学習レディネスを AP として具体

    的に落とし込むことで、DP 及び CP を踏まえた AP 策

    定につなげることを提案している<図表1>。 学習成果は DP と、学習活動は CP と密接に関係して

    いる。CP に基づき学士課程教育で学

    生の付加価値をつける。学士課程教育

    に取り組む上で習得が前提となる学習

    活動が何かを設定し(図表1の学習活

    動①)、学習活動①で必要なレディネ

    スを AP で示す。そしてそのレディネ

    スを見るために、入試で評価する内容

    を示し、その具体的な測定方法(評価

    方法)が、個別の入試に該当する。こ

    うして DP、CP、AP の一貫性・整合

    性を担保するという考え方である。

     「これからの AP は、『求める人材像』

    だけではなく、測定する内容とその方

    法・形式を同時に示すものになってい

    くのではないでしょうか」と西郡教授

    は予測する。例えば、AP で「高校で習得すべき幅広い

    基礎学力」を求めた場合、その測定(評価)方法・形式

    として大学入試センター試験を課す、などが具体的な提

    示方法となる。

     「今後は、上級学年での学習に取り組む上で修得が前

    提となる科目や学習活動群を抜き出して、これらの科目・

    学習活動に耐えうる能力・資質を AP として提示します。

    また、AP に沿った学生の受入れができているかを検証

    することも認証評価で重視されますが、これらの科目・

    学習活動に耐えられる能力・資質を持っていた学生を各

    入試区分で選抜できているかが追跡調査のポイントにな

    るでしょう。なお、学習活動とあるのは科目ではなくて

    もよいという考えからです。例えば、学士課程教育にお

    いてグループワークにより自ら考える力を養うのだとす

    れば、同学習活動が成立するために最低限必要なスキル

    や態度を AP に入れて大学入試で評価する、となります」

    (西郡教授)

    入試で測定する内容と評価方法、配点をマトリックスで示す

     「ガイドライン」では、上記に加えて、どのような評

    価方法を用いるのか、それぞれの評価方法をどの程度の

    比重で扱うのか等を具体的に示すことも求めている。こ

    れに対応する方法について、西郡教授は、選抜方法と対

    象となる受験生像を、さらに AP =測定する内容と測定

    (評価)方法・形式をマトリックス表に整理し、該当す

    <図表1> DP・CP を踏まえた AP の策定

    (西郡大教授)

    Kawaijuku Guideline 2017.94

  • 特集 高大接続改革の現在特集

    <図表2> AP の具体的提示案

    (注)理工学部、農学部の推薦入試Ⅰで「基礎学力・学習力テスト」として導入。試験時間は 60 分程度。数学、物理、化学、生物、英語から複数問題を出題。解答終了後、間違った問題について解説を見て再チャレンジ問題を解き、学習力を測る。基礎学力・学習力テストは即時採点し、面接に活かす。詳細は佐賀大学のホームページを参照のこと。

    る箇所に比重(配点等)を記載する方法を提案

    している<図表2>。 前述のように AP は、初年次での学習活動の

    「核」となる資質・能力等の要素を示すことにな

    るため、各選抜方法でこれらの測定する内容(要

    素)と測定(評価)方法・形式について、配点

    等の重み付けを行い、表の形式で提示する。こ

    れにより各資質・能力等の重視する度合いを一

    覧表で示すことができる。受験生から見ると、ど

    のような内容をどの程度準備すれば良いかが明

    示され、入試対策や進学指導の際のポイントと

    なる。

     <図表2>の表中では配点が0の場合も想定

    されている。「学力の3要素」は、必ず評価の対

    象とすべきではあるものの、西郡教授は「いずれは学力

    の3要素をすべて満たす必要がありますが、当面は、選

    抜方法によっては評価しない資質・能力があるのは仕方

    ない」とまずは受験生と大学の相互理解に向けた改善に

    踏み出すことの重要性を説く。

     なお、佐賀大学は平成 30(2018)年度入学者選抜要

    項においてこのような形で AP を示した<図表3>。さらに、かねてから研究開発中の佐賀大学版 CBT につい

    ても大学入試で初めて導入する(注)。

    評価方法の多様化で高校の情報収集力が問われる可能性も

     今後、各大学の AP 見直しが進み、また、多面的・総

    合的な評価が拡大していくと、どのようなことが考えら

    れるのだろうか。

     西郡教授は「ペーパーテストによる学力試験の場合は、

    ほぼ均一条件で行われ、手続きについても均一でした。

    その意味では公平に行われていたといえるでしょう。し

    かし、面接、グループ討論、高校時代の実績に基づく評

    価など、多面的・総合的な評価の場合は、従来のような

    『公平』な手続きで行うことは難しいでしょう」と課題

    を指摘する。

     そこで重要となるのが AP である。「情報開示とも関

    連しますが、大学側は AP に沿った人材を選抜できたか

    を説明できることが不可欠です。そのためには追跡調査

    が重要になります。さらに、受験生が『公正』に処遇さ

    れたと納得できるような工夫も必要となるでしょう。例

    えば、面接試験で受験生が準備してきたことを十分にア

    ピールする時間や環境を作ることは重要です。そうする

    ことによって試験や試験結果に対する納得感を高めるこ

    とができます」(西郡教授)

     また、評価方法の多様化は、高校にも影響を及ぼすと

    予想される。1つは高校の情報収集力である。

     「各大学が評価方法に工夫を凝らすとさまざまな大学

    の入試情報(評価観点など)を収集する必要性が出てき

    ます。ますます、情報収集力が重要となる可能性があり

    ます」(西郡教授)

     さらに、情報収集力だけでなく、今後の入試では高校

    までに学んできた知識・経験、考え方など生徒自身の包

    括的な学習の成果が問われてくることになると西郡教授

    は予測する。

     「生徒自身が考え、その考えをアウトプットしたもの

    を評価する方向です。生徒の思考力等を伸ばすには、教

    員の指導法、教材の多様性、多様な経験を得られる環境

    かなど、高校の『教育力』が問われることになるでしょ

    う」(西郡教授)

    入試改革の4つの方向性

     今後、多面的・総合的な評価を軸とする入試改革の方

    向性は4分類に類型化されると西郡教授は整理している。

    縦軸に「発掘志向」「育成志向」を取り、横軸に「ター

    ゲット設定志向」「マッチング志向」を取って、それぞ

    (西郡大教授)

    Kawaijuku Guideline 2017.9 5

  • 特集 特集

    れの象限を<図表4>のように位置付けている。 中でも、「教育プログラム一体型」の入試が、実質化

    された AP との親和性が高く、「入学後の教育プログラ

    ムと入試を一体的に捉え、プログラムを遂行できる人材

    を獲得、あるいは育成していくという方法です。将来的

    にはこの方法が望ましい方向性だと考えています」と西

    郡教授は話す。なお、佐賀

    大学では、「教師へのとび

    ら」「科学へのとびら」「医

    療人へのとびら」という継

    続・育成型高大連携カリキ

    ュラムを開発・実施し、教

    育プログラム一体型を意識

    した高大接続改革を進めて

    いる。

     高大接続改革は、当初か

    ら大学入学者選抜改革のみ

    ならず、大学教育、高校教

    育との三者一体改革とされ

    てきた。今回のように AP

    の実質化という観点から見ただけでも、大学、高校の双

    方にとって影響は小さくはない。また、上記の4分類に

    学問分野による違いなどを併せると、その組み合わせは

    さらに多様なものとなる。今後、大学入学共通テストな

    ど制度の変更だけでなく、AP の見直しなどの動向につ

    いても注目する必要があるだろう。

    ■芸術地域デザイン学部地域デザインコース① 高等学校で修得すべき幅広い教科・科目の知識・技能と,これらを踏まえた基本的な思考力・判断力② 国内に限らずグローバルな視点で情報収集,情報発信できる英語の読解力と表現力③ 専門分野の内容を学習するために必要な読解力,論理的思考力,分析力,考察力④ 地域社会が抱える問題に関心があり,芸術を通じて地域社会を機能的に繋げていける企画力,発想力,表現力⑤ 主体的にものごとに取り組むことができる積極的な行動力⑥ 継続的に地域の文化芸術活動に参画する意欲と態度⑦ 高等学校入学以降の主体的な実績・活動

    入学後の学習に必要な能力や適性 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦

    」等性体主「」等力考思「知識・技能」「

    選抜方法

    前期日程

    後期日程

    AO入試面接

    センター

    学力3要素との対応64

    67

    36

    11 22

    50

    3020

    個別試験

    センター個別試験

    適性検査

    小論文

    ◎書由理願志

    ◎◎書査調

    特色加点 ☆

    ⅰ.数値は,各入試区分で評価する重み(総合点に対する各配点のウエイト[%])ⅱ.◎は,点数化はしないが,段階評価するもの(合否,ABCなど)ⅲ.○は,間接的に評価したり,内容を確認するものⅳ.☆は,加点評価

    <図表3>佐賀大学の入試で評価する入学後の学習に必要な能力や適性等

    お見合い型入学後のミスマッチを抑制するために、自大学と相性の良い学生を探し出そうとするもの。

    多様人材獲得型学習活動の活性化を目的に、他学生へ好影響をもたらすような新たなターゲット層を設定し、同ターゲットに合致した人材を発掘しようとするもの。

    マッチング醸成型入学後のミスマッチを抑制するために、入学試験までの接触を通じてマッチング意識を醸成することで、自大学と相性の良い学生を育成するもの。

    教育プログラム一体型教育プログラム(あるいはカリキュラム等)と入試を一体的に捉え、同プログラムを遂行できる人材を獲得して育成していこうとするもの。

    発掘志向

    育成志向

    マッチング志向 ターゲット設定志向

    <図表4>入試改革の方向性による分類(平成 30 年度佐賀大学入学者選抜要項、7月4日現在より)

    (西郡大教授)

    Kawaijuku Guideline 2017.96

  • 特集 高大接続改革の現在特集

    Part 2 大学・高校での改革 お茶の水女子大学

    旧 AO 入試の実績をベースに多様な資質を評価する入試を構想

     近年、お茶の水女子大学では大幅なカリキュラム改革

    が進められてきた。とりわけ教養教育においては、

    2008 年度から「21 世紀型文理融合リベラルアーツ」と

    名付けられた教育プログラムが導入されている。文理融

    合型の5つのテーマを設定し、学生がその中から1テー

    マを選択し、体系的に学ぶ中で、幅広い視野や課題発見

    解決能力を養う教育プログラムで、学生の満足度も高い。

     「そうした新しい教育に適した学生を選抜できる入試

    が必要だと考えました。詰め込んだ知識量だけを問うの

    ではなく、思考力、探究力、コミュニケーション力など、

    多様な資質を評価する入試とはどのようなものか、それ

    を考えるところから新しい入試の構想がスタートしまし

    た。もっとも、本学には、それらの資質を重視する入試

    が既に存在していました。2008 年度入試から導入した

    AO 入試です。2日間、模擬授業を受け、英語での授業

    もあり、文系と理系の授業を受け、その上で小論文、グ

    ループ討論などを課す入試です。この AO 入試による入

    学者は、大学入学後の成績もよく、優秀な学生を選抜で

    きているという手応えを感じていましたが、一方で課題

    もありました。理系では英語や小論文を苦手にする受験

    生も見られ、結果として文系受験生の合格者が多くなる

    傾向が生じたのです。また、理系の生徒であれば、理系

    の専門的な内容を評価したいという意見もありました。

    そこで、これまでの AO 入試をベースにしつつ、課題を

    改善する形で構築したのが新しい AO 入試である『新フ

    ンボルト入試』です」(安成教授)

    高2生も参加できるプレゼミナール大学生と同じ内容をプレゼミナールで実施

     新フンボルト入試では特に2つの点に留意したと、安

    成教授は語る。

     「受験生や保護者、および高校の先生方に『なぜ不合

    格だったのか、わからない』と言われる入試であっては

    よくありません。受験後に納得してもらうには、丁寧な

    入試にする必要があります。また、旧 AO 入試の定員

    10 名に対して、新フンボルト入試の定員は 20 名と2

    倍になっていますが、それでも受験者が多ければ、多く

    の受験生が不合格になることが予想されます。私たちは、

    たとえ新フンボルト入試で不合格になっても、それで終

    わりではなく、次のステップにつながるような入試にし

    たいと考えたのです」

     そうした思いがどのような形で反映されているのか。

    新フンボルト入試の流れに沿って見てみよう<図表1>。 まず、一次選考を兼ねるプレゼミナール(2018 年度

    入試は 9 月 23・24 日)が行われる。初日は午前、午後

    1コマずつ(各 90 分)の授業を受ける(一部、午前の

    み実施のセミナーもある)。文系受験者は5つのセミナ

    ーの中から自分の興味・関心のあるもの、理系受験者は

    志望学科に関連するセミナーを選択する<図表2>。興味深いのは、AO 入試を受験しない高3生や高2生も受

    け入れていることである。実際、2016 年度の実施では、

    セミナー受講者 358 名のうち、約 45%の 161 名が非

    AO 受験者だった。また、高校教員の見学も受け入れて

    おり、17 名が訪れた。

     「プレゼミナールは、単に入試のための場ではなく、

    大学入学後の知の営みを体験できる教育面も意識した「新フンボルト入試」

    入試推進室長 安成 英樹 教授

     2014 年度に始まった文部科学省の「大学教育再生加速プログラム(AP)」は、各大学の先進的な教育改革を支援する事業である。いくつかのテーマに分けて募集しているが、お茶の水女子大学は「入試改革」に採択された。それを受けて、2017 年度入試から、受験生の多様な資質を丁寧に見極めるユニークな新型 AO 入試

    (=新フンボルト入試)が実施された。この入試の狙いは何か。高校の学びとどのように接続させ、大学入学後の学びにどのようにつなげようとしているのか。入試推進室長の安成英樹教授にお話をうかがった。

    Kawaijuku Guideline 2017.9 7

  • 特集 特集

    オープンキャンパスのアカデミック版と位置づけていま

    す。本学でどのような授業が受けられるのか、体感して

    もらうことが目的です。ですから、あえて高校生向けに

    やさしい授業内容にはしていません。分野によっては最

    先端の研究内容の授業をすることもあります。それでも、

    高校生は必死に受講しています。大学教員にとっても負

    担の大きい入試ですが、目を輝かせて聞く高校生を相手

    に授業をするのはやりがいがあり、セミナーを担当した

    教員からは『引き受けて良かった』という声が聞かれま

    す」(安成教授)

     プレゼミナールの満足度は高く、参加者へのアンケー

    トによると、ほぼ全員が「全体的に満足できるものだっ

    た」と回答。高度な内容にも関わらず、セミナーについ

    ても、9 割以上が「理解できた」「担当教員の説明がわ

    かりやすかった」と回答している(「とてもそう思う」「ど

    ちらかといえばそう思う」の合計)。

    推薦入試、一般入試で再チャレンジして合格を果たす受験生も

     プレゼミナール終了後、ミニレポートを作成する。AO

    入試に出願する生徒は、出願書類に加えてプレゼミナー

    ルのミニレポートが評価され、それらが一次選考となる。

     二次選考は、文系は「図書館入試」、理系は「実験室

    入試」と呼ばれる。

     文系の「図書館入試」の場合、1日目は大学附属図書

    館で自由に資料を検索しながら、与えられた課題のレポ

    ートを仕上げる。2日目はグループ討論と面接だ。

     「図書館入試は、まさに大学における学びそのもので

    す。最初に、レポートを書く際の作法を説明します。例

    えば、文献をそのまま引用することは厳禁で、必ず注を

    つける、引用と自分の考えは分けて書くなど、レポート

    を書く上での留意点は、大学での学び、さらには社会に

    出てからも必要な姿勢であり、それを経験し、身につけ

    てもらうことが図書館入試の核になっています。つまり、

    入試ではあるものの、相当に教育面を意識した内容にな

    っています。もちろん、受験生にとって簡単なことでは

    <図表1>お茶の水女子大学 新フンボルト入試の流れ

    第一次選考

    プレゼミナール初日のいずれかのセミナーを必ず受講ミニレポート(セミナー受講時に作成)、出願書類(志望理由書・活動報告書・外国語試験成績等)を総合的に評価*理学部生物学科・生活科学部食物栄養学科は出願時

    に自主研究発表のポスター提出(縮小版)を必須

    第二次選考

    文系学科「図書館入試」

    1日目:附属図書館の図書などを自由に参照し、課題についてのレポートを作成

    2日目:グループ討論・面接

    理系学科「実験室入試」

    理学部生物学科、生活科学部食物栄養学科、人間・環境科学科:自主研究のポスター発表・質疑応答、個人面接上記以外の理系学科:思考力や探究力などの能力をみる専門性のある試験課題例)実験、実験演示や実験データをもとにし

    て考察/黒板などを使って考え方を説明

    (2018 年度特別入試学生募集要項 AO 入試をもとにガイドライン編集部で作成)

    <図表2> 2017 年度プレゼミナールのセミナー一覧

    文系「コトバとモノ : 伝える力、伝わる事物」

    ●セミナー 1(人文地理学):人工的な都市と自然的な都市は、どこが違うのだろうか

    ●セミナー 2(言語学、第一言語習得):子どもはどのようにことばを習得するのだろうか

    ●セミナー 3(発達心理学、認知心理学):コミュニケーションの科学 : よりよいコミュニケーションとは ?

    ●セミナー4(比較文化論、生活造形論):国宝《大井戸茶碗 喜左衛門井戸》を見る

    ●セミナー5(文化人類学、ジェンダー研究):ことばラボ、はじめます-ことば素材の分析を通じて人間や社会について考えてみたいかた、求む!

    理系

    ●セミナーA(生活科学部人間・環境科学科) :生活工学への誘い

    ●セミナーB(生活科学部食物栄養学科) :食べ物の基本

    ●セミナーC(理学部数学科):複素数を、よい性質を持った『数』に広げてみよう

    ●セミナーD(理学部物理学科):宇宙の中の回転

    ●セミナーE(理学部化学科):エネルギー問題と環境問題を考慮した「電池」の未来

    ●セミナーF(理学部生物学科):食品アオサ・アオノリ類の DNA 鑑定

    ●セミナーG(理学部生物学科):DNA と RNA の抽出と電気泳動

    ●セミナーH(理学部情報科学科):ゲームを通して考える情報科学

    (「2017 年プレゼミナールのご案内」より)

    Kawaijuku Guideline 2017.98

  • 特集 高大接続改革の現在特集

    ありません。短時間で適切な情報を取捨選択し、自分の

    論理を組み立てて書くのは、大学生でも簡単ではありま

    せん。それを受験生に課すのは、大学入学後の知の営み

    とはこういうものであることを感じ取ってほしいからな

    のです。ですから、オリジナルな論が展開されていれば

    当然合格するでしょうが、そこまでの水準に達していな

    ければ不合格になるというものでもありません。葛藤し

    て考えたプロセスの中に、キラリと光る資質が感じられ

    れば高く評価されます。また、レポートだけではなかな

    か資質が見えなくても、2日目のグループ討論や面接を

    通して、じっくり観察する中で『文章にうまく表現でき

    ていないが、この受験生は物事を深く考えている』と、

    わかることも少なくありません。逆の場合もあります。

    受験生一人ひとりの多様な資質をきちんと評価するため

    にも、このように丁寧な入試をする必要があるのです」

    (安成教授)

     一方、理系受験生は「実験室入試」に挑む。自主研究

    のポスター発表・質疑応答を課す学科もあるし、数学科

    は難しい数学の問題を解くなど、入試の内容は学科によ

    って異なる。

     注目されるのは、新フンボルト入試で不合格だった受

    験生のお茶の水女子大学の再受験率が高いことである。

    推薦入試は、新フンボルト入試に出願した生徒のうち、

    33 名が再受験し 10 名合格、一般入試は 55 名が再受験

    し、18 名が合格している。

     「この結果を見ると、新フンボルト入試を、不合格に

    なって終わりの入試にはしたくないという願いが達成さ

    れています。プレゼミナールや図書館入試、実験室入試

    で、本学の学びに魅力を感じて、他の選抜方法で再受験

    した受験生がこれだけの数に上ったことを、とても喜ば

    しく感じています。しかも、一般入試で合格した受験生

    が数多くいたことは、新フンボルト入試の受験者はペー

    パーテストにも十分対応できる力を備えていたといえま

    す」(安成教授)

     なお、プレゼミナール、二次選考と複数回、キャンパ

    スに足を運ばなければならない入試であることから、地

    方の受験生には負担が大きく、首都圏の高校生で占有さ

    れるのではないかとの危惧もあったそうだ。受験状況を

    聞くと、確かに受験者の約 7 割は首都圏で占められて

    いたそうだが、受験者がいなかったのは全国 47 都道府

    県のうち2県のみ。合格者の約半数が首都圏(1都3県)

    を除く地域からの合格者で、安成教授は「地方公立進学

    校の生徒のパワーが感じられた」との印象を持っている。

    入学前教育の充実に力を注ぐ個別の学生チューターにも相談できる体制

     入学前教育も充実している。合格が決まった 11 月に

    は、さっそく研修会が開催される。学園祭の開催に合わ

    せており、ひと足早く大学の行事の雰囲気を味わっても

    らうことも目的の1つだが、それ以外にも狙いがある。

     「大学入学までの半年間、気の緩みが生じないように

    することが目的です。まずは高校の授業を真面目に受け

    るように指導します。それが大学での学びの基礎になる

    ことを強調しています。さらに、プラスアルファの学び

    として、大学入学後に役立つ知識も身につけてもらいま

    す。本学では以前から、推薦入試合格者を対象に推薦図

    書リストを配布していましたが、新フンボルト入試合格

    者には、推薦図書を読み、感想文を提出することを求め

    ています。

     それを確実に行うために、一人ひとりに上級生チュー

    ターを配置しています。研修会はその顔合わせの場でも

    あります。その後は、チューターと生徒はメールなどで

    連絡を取り合い、一緒に推薦図書を読み進めることもあ

    るようです。何らかの悩み、不安が生じたときに、いつ

    でもチューターに相談できるメリットも大きいでしょう。

    そのほか、本学にはeラーニングのシステムもあり、ア

    カウントを先行して発行することで、英語の自主学習な

    どに役立てられています」(安成教授)

     このように順調に船出した新フンボルト入試だが、

    2017 年度入試で入学した学生の様子や、今後の新フン

    ボルト入試について、安成教授は、「多様な形態の入試

    を実施し、さまざまな資質を備えた学生を選抜するのが、

    望ましい入試の在り方だと考えています。高校での堅実

    な学習をペーパーテストで評価する一般入試も重要な入

    試です。新フンボルト入試の入学者を特別扱いするつも

    りはありませんが、大学における一種の起爆剤となり、

    他の選抜方法による入学者との化学反応が起こることを

    期待しています。個人的な感想ですが、初年度の新フン

    ボルト入試では、優秀な学生が入学してきたと感じてお

    り、その感触が学内に浸透していくことで、新フンボル

    ト入試を、多少の改善は加えつつも、AP 事業以降も入

    試の柱の1つとして育てていく可能性が高いと考えてい

    ます」と展望を語ってくださった。

    Kawaijuku Guideline 2017.9 9

  • 特集 特集

    北陸大学

    教育プログラムの一環として位置づけられた21 世紀型スキル育成 AO 入試

     「21 世紀型スキル育成 AO 入試」は、学力の3要素の

    うち、「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協

    働性」の2つの要素を重視し、これまでの知識・技能中

    心の大学入試では測りきれなかった学生の能力を多面

    的・総合的に評価しようとする入試である。その目的を、

    山本教授は次のように語る。

     「本学のように、定員は充足しているものの、選抜性

    がそれほど高くない大学においては、大学入試に高大接

    続の側面を強化することが重要になります。接続が図れ

    なければ、学生が大学入学後の教育プログラムにうまく

    対応できないからです。そして、接続を意識すると、大

    学入試は限りなく教育プログラムに近づいていきます。

    つまり、21 世紀型スキル育成 AO 入試は、教育プログ

    ラムの一環として位置づけられた入試なのです。そのた

    め、アドミッション・ポリシー(AP)はもちろん、カ

    リキュラム・ポリシー(CP)やディプロマ・ポリシー(DP)

    を視野に入れた大学入試を構築しています。3つのポリ

    シーを見れば、どのような入試にすべきか明確にもなり

    ます。例えば、経済経営学部の DP はリーダーシップ、

    諸課題に柔軟に対応できる力、広い視野、行動力などで

    す。国際コミュニケーション学部は課題解決力、コミュ

    ニケーション能力、実践的な語学運用能力、日本語リテ

    ラシーなど、両学部ともにいわゆるジェネリックスキル

    の育成を掲げています。当然、ジェネリックスキルをあ

    る程度備えた学生の入学を期待しており、それを評価す

    る入試の導入が不可欠になるわけです」(山本教授)

     「21 世紀型スキル育成 AO 入試」は 2 タイプに分かれ

    る<図表1>。経済経営学部はコンピテンシー(行動特性)評価型、一方の国際コミュニケーション学部はグロ

    ーバルスキル評価型、すなわち思考力・判断力・表現力

    といったリテラシーと学生の海外への関心度を中心に評

    価する。両学部が異なる力を評価する大学入試にしたの

    は、学部の特徴の違いが関係している。

     「過去の PROG テスト(注1)によれば、経済経営学部

    の学生はコンピテンシーが高く、リテラシーが低め、国

    際コミュニケーション学部の学生はコンピテンシーが低

    めで、リテラシーが高いという結果が出ています。まず

    はそれぞれの学部の特徴に合った学生が選抜できる入試

    にしようと考えました。私たちもそのタイプの学生が入

    学してくれば、確実に力を伸ばすことができるという自

    信もあります。もちろん、一方で、多様な学生が集うこ

    とも重要です。しかし、それは、一般入試やセンター試

    験利用入試の役割であり、第一志望者が受験する AO 入

    試では、既存の学生の特徴に近く、より高い能力を備え

    た学生に入学してもらい、大学の核となる存在になって

    くれることを期待しているのです」(山本教授)

    グローバルスキル評価型は、グループワーク・プレゼンテーション・レポート作成

     では、具体的に入試の仕組みを見てみよう。

     国際コミュニケーション学部のグローバルスキル評価

    型入試では、入試当日、課題に関連した資料を読み、ア

    クティブ・ラーニング型のグループワーク(75 分+休

    憩を挟んで 40 分)が行われる。5名前後の受験生でデ

    (注1)PROG テスト…河合塾と株式会社リアセックが共同で開発。PROG テストには「リテラシーテスト」と「コンピテンシーテスト」の 2 つがあり、知識を活用して問題解決する力(リテラシー)と経験を積むことで身についた行動特性(コンピテンシー)の 2 つの観点でジェネリックスキルを測定している。

    思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性を重視した「21世紀型スキル育成AO入試」

    経済経営学部長 山本 啓一 教授

     2017 年度、薬学部、医療保健学部、経済経営学部、国際コミュニケーション学部の4学部となった北陸大学。それを機に、経済経営学部と国際コミュニケーション学部で、受験生の力を多面的・総合的に評価する「21世紀型スキル育成 AO 入試」が導入された。この入試の狙いは何か。入試とその後の大学教育はどうつながるのか。発案者である経済経営学部長の山本啓一教授にお話をうかがった。

    Kawaijuku Guideline 2017.910

  • 特集 高大接続改革の現在特集

    <図表1>北陸大学 21 世紀型スキル育成 AO 入試

    ィスカッションし、意見を集約して 20 分のプレゼンテ

    ーションを実施する。その後、個々にレポートを作成し、

    それに基づいた面談が行われる。

     「この方法は、教育プログラムと連動した入試であり、

    ここで行うグループワークは、初年次教育の基礎ゼミナ

    ールの内容に近いものです。今後、思考力・判断力・表

    現力を評価する入試の方法は、このような形式がスタン

    ダードになると私は考えています。グループワークの際

    の態度や、面談なども評価対象にしていますが、リテラ

    シーを評価するのですから、評価の中心はプレゼンテー

    ションやレポートです。それらの成果物を通じて、情報

    をどう分析し、課題を発見し、自分の意見を明確に表現

    できているかを客観的に評価できます」(山本教授)

    コンピテンシー評価型では「自己評価力」が大切自己評価のベースとなる振り返りを重視

     一方の経済経営学部のコンピテンシー評価型入試は、

    全国的に見ても意欲的な試みである。以降、経済経営学

    部のコンピテンシー評価型入試について見ていく。

     大学入試当日は、受験生は約 20 名ずつのグループに

    分かれ、屋外体験学習プログラムである「アドベンチャ

    ープログラム」研修を、午前中 80 分と午後 80 分にわ

    たって受ける 。他のメンバーと協力しながら、課題を

    クリアする中で、コンピテンシーが評価される。

     コンピテンシーはどう評価するのが妥当なのか。山本

    教授は、前任校の九州国際大学で、文部科学省「産業界

    のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」(注2)

    の採択を受けて、学生のジェネリックスキルの育成と評

    価に関する研究に携わった経験を踏まえて、以下のよう

    な知見を得ている。

     「学生のコンピテンシーについては、教員の観察評価

    の割合を大きくすべきではないという結論に達していま

    す。職場の上司と部下の関係や、小中高のように教員と

    生徒が毎日顔を合わせている関係なら可能ですが、週1

    コマだけ会う学生のコンピテンシーを教員が観察評価す

    るのは困難です。十分に評価できるものではありません

    し、無理に評価しようとすると学生は演技するようにな

    るからです。むしろ、コンピテンシー評価で最も大切な

    のは、学生の自己評価力を高めることです。メタ的に自

    分を見て、何が不足しているか、次にどうするかを考え

    ることが重要なのです。ですから、『21 世紀型スキル育

    成 AO 入試』でも自己評価を中心にしています」

     自己評価による評価のため、受験生には事前に評価基

    準が明示される<図表2>。親和力、統率力、主体性・積極性、感情制御力、計画立案力の 5 項目ごとに、3 段

    階のルーブリックが作られている。受験生はそれを意識

    しつつ研修に臨む。研修中は、教員4名、職員4名が観

    察評価を行う。研修後はグループで振り返りを行った上

    で、一人ひとりが「振り返りシート」を作成するととも

    に、ルーブリックに基づいて自己評価をする。

     「いわゆる高得点をめざすのではなく、自分のありの

    ままのレベルを適正に自己評価できることが大切だと伝

    えています。自己評価が高いだけでは、合計点が上がる

    仕組みになっていません。教職員の観察評価と、受験生

    の自己評価や振り返りシートを比較しながら、評価者が

    面談を実施しますが、あまりにも観察評価とかけ離れた

    (注2)産業界のニーズに対応した人材育成の取り組みを行う大学・短期大学が地域ごとにグループを形成して、地元の企業、経済団体、地域の団体や自治体等と産学協働のための連携会議を設置して取り組みを実施することにより、社会的・職業的に自立し、産業界のニーズに対応した人材の育成を行うもの。

    <図表2>評価基準(ルーブリック)評価尺度 レベル 3

    1.対人スキル(お互いの努力を最大限に評価する。自分を含めたメンバーをけなしたり、軽んじたりしない)

    A 親和力参加者全員が気軽に話しあい、相談できる雰囲気を作ることに貢献できた。参加者の失敗を責めず,努力を褒めることができた。

    B 統率力 様々な意見が出た時に、すべての意見にきちんと耳を傾けつつ、全員が納得する解決策を提案できた。2.対自己スキル(自分自身で挑戦レベルとその方法を決定できる) C 主体性・ 積極性

    自分がどこまで挑戦し、チームに何を貢献するかを自分で決め、それを積極的に実行することができた。

    D 感情制御力自分自身の感情をコントロールできた。思い通りにならない事があっても直接的にぶつけることなく、効果的に伝えられた。

    3.対課題スキル(課題に対する有効な解決策を考えることができる)

    E 計画立案力 目標を実現するための有効な計画を具体的に立案し、提案できた。

    国際コミュニケーション学部グローバルスキル評価型入試

    経済経営学部コンピテンシー評価型入試

    学部が求める学生像

    海外経験に関心があり、日本語リテラシーを持つ学生

    行動力や意欲・熱意に富んでいる学生

    マッチする学生像

    リテラシーが高く、留学の意欲のある学生

    コンピテンシーが高く、成長意欲のある学生

    評価するスキルや意欲

    思考力・判断力・表現力、異文化や語学を学ぶ意欲

    主体性・多様性・協働性

    入試形態 グループワーク、レポート作成と面接

    「アドベンチャープログラム」研修に参加

    評価方法 成果物に対する直接評価 自己評価(+観察評価)

    (山本啓一教授)

    (山本啓一教授)※レベル3のみ抜粋

    Kawaijuku Guideline 2017.9 11

  • 特集 特集

    自己評価の場合は、当然ながら面談の評価が低くなるか

    らです」(山本教授)

     入学後の調査からは、この入試の狙い通りの学生が入

    学しているだけでなく、評価結果の妥当性や信頼性も証

    明されている。

     「PROG テストの結果を見ると、この入試の学生のコ

    ンピテンシーは、スポーツ推薦の学生より少し低いもの

    の、他の入試方式の学生よりも圧倒的に高くなっていま

    す。しかも、リテラシーとのバランスがとれているとこ

    ろに特色があります。また、PROG テストのコンピテ

    ンシーと、本入試の合計点を比較すると、相関関係が高

    いことがわかります<図表3>。この入試できちんとコンピテンシーが評価できていると自負しています」(山

    本教授)

    選抜のツールから接続のツールをめざす課外活動のポイント制などでコンピテンシーを高める意欲を喚起

     この入試は、その後も学生のコンピテンシーを高める

    教育プログラムが用意されている。そこに魅力を感じて、

    「今は自分のコンピテンシーに自信がないが、大学に入

    ってぜひ高めたい」という思いで、この入試を選択した

    受験生も少なくない。

     注目されるのが充実した入学前教育だ。合格した学生

    には、入試結果のデータを開示した上で、今後、どのよ

    うな力をつけることが大切になるかを考えさせる。その

    ほか、「アドベンチャープログラム」による仲間づくりや、

    グループワークを通じて資料を読解し、課題を発見して

    レポートを書くスクーリングなども行われる。

     ポイント制という制度もある。オープンキャンパ

    スのスタッフ、学園祭実行委員、地域ボランティア

    活動など、さまざまな課外活動を行った学生に対し

    て、ポイントを与えるというものだ。この入試で入

    学した学生には、年間 20 万円の奨学金が給付され

    るが、それを次年度も継続して受けるためには、一

    定のポイントを得ていることが条件になる。

     「コンピテンシーは、授業だけで伸びるものでは

    なく、多様な課外活動に取り組む中で高まっていき

    ます。入試の観察評価者に職員が含まれていますが、

    それは課外活動プログラムには職員が関わることが

    多いからです。このポイント制によって、学生たち

    は課外活動に主体的、積極的に取り組んでおり、それが

    他の学生にも刺激を与えるという相乗効果を生んでいま

    す」(山本教授)

     さらに、当然のことながら、育成するのはコンピテン

    シーだけではない。初年次教育はむしろリテラシー育成

    を重視している。例えば、1年次には、資料を読解し、

    ペアワークやグループワークを組み込みながら、レポー

    トを作成する「文章表現科目」が必修だ。「ゼミナール」

    も1・2年次必修である。1年次は現代社会で問題とな

    っているテーマ、2年次は学部の専門性に踏み込んだテ

    ーマで、担当教員全員で作成した共通のオリジナル教材

    のもと、資料を深く読み込み、ディスカッションしたり

    プレゼンテーションを行う力を養っている。

     1・2年次の「ゼミナール」は、通常の 90 分に、リ

    フレクションを中心とするキャリア科目として 45 分を

    加え、合計 135 分で実施している点も特色である。キ

    ャリア科目もゼミ担当教員がそのまま実施する。リフレ

    クションの方法として 10 分間スピーチや、1 分間動画

    の作成等を行い、これまでにどんな力が身についたかを

    自己評価させ、次のステップにつなげている。入試から

    入学後の学びまで連動し、接続していることがよくわか

    る。

     北陸大学では、この入試の導入によって、経済経営学

    部ではコンピテンシーの向上に意欲的な学生が入学し、

    活気が生まれていることに手応えを感じており、2018

    年度からは、薬学部、医療保健学部の AO 入試でも、模

    擬授業を踏まえたグループによる科学実験によって、思

    考力・判断力・表現力や主体性・多様性・協働性などを

    総合的に評価する入試が導入される予定である。

    <図表3>評価結果 PROG テストと入試結果の相関

    (山本啓一教授)

    Kawaijuku Guideline 2017.912

  • 特集 高大接続改革の現在特集

    四国学院大学

    グループワークを通じて主体性・多様性・協働性を評価する「推薦入学綜合選考」

    演劇コースの設置が契機コミュニケーション能力育成が目標

     2010 年に、大阪大学リーディング大学院選抜試験にお

    いて、演劇創作を取り入れた2泊3日の試験を行っていた

    平田教授のもとを末吉高明学長が訪れたことが契機となり、

    四国学院大学でもコミュニケーション能力の育成というカ

    リキュラムの特色と連動した入試の導入についての検討が

    始まった。

     四国学院大学のカリキュラムは、1年次に全員が共通の

    教養教育を学んだ後、2年次からそれぞれの学生が1つ

    のメジャー(主専攻領域)と1つのマイナー(副専攻領域)

    から専攻を選んで学ぶ。メジャーの1つとして、2010 年

    より「身体表現と舞台芸術マネジメント」(略称、演劇コ

    ース)が開設された。演劇コースの設置により、演劇コー

    スをメジャーとして専攻していない学生にも、学生のコミ

    ュニケーション能力を伸ばすために、4年間を通じて演劇

    と関わる機会を設けている。演劇を通じて学生の感受性や

    表現力を磨くことでコミュニケーション能力の育成をめざ

    す「ドラマ教育」は、四国学院大学の特色でもある。

     一方、入試改革については、学内でプロジェクトチーム

    が編成され、検討を重ねた結果、2016 年度入試から「推

    薦入学綜合選考」(以下、綜合選考)として、まず指定校

    制推薦入試においてグループワークを取り入れた試験を

    導入することとなった。こうした形式の入試について、平

    田教授は「これまでのように受験生を選ぶ試験ではなく、

    受験生の特質を見極めるための試験です。これまでのよう

    な長時間の勉強による努力を測るという、言わば知識の量

    を量る試験から、学ぶ仲間を選ぶ試験への転換です」と

    大学と受験生の双方にとって顔が見える試験を行う意義

    を説明する。綜合選考導入以降、香川県内の高校での周

    知も進み、志願者数、入学者数も増加したことから、新し

    い入試方式は高校・高校生に対するメッセージの役割も

    果たしているという。

    試験問題に内在する議論を活性化させるための工夫

     グループワークを行うグループは原則として6~8人1

    組である。受験生同士が、できるだけ初対面となるよう、

    可能な限り、同じ高校からの受験者は別グループにしてい

    る。綜合選考はアイスブレイクから始まる。その後、説明

    文が配付され、試験の進め方についての解説の後に試験

    会場に移動して、そこでグループワークで取り組む問題が

    示される<図表1>。 「試験は会場に入った時から始まっています。試験会場

     四国学院大学は香川県善通寺市にある文学部、社会福祉学部、社会学部の3学部から構成される大学で、リベラルアーツ教育に特徴がある。2016 年度入試より、グループワークを用いた推薦入学綜合選考を導入した。グループワークでは、一つの事例として、当日、与えられた問題でディスカッションドラマ(討論劇)を創作する。受験生はグループに分かれて議論を進め、協力して時間内にドラマを創作して発表まで行わなければならない。なぜ、入試に演劇の要素を取り入れたのか。導入の経緯や意図等について、平田オリザ 客員教授・学長特別補佐、杉本孝作 教学担当副学長、西村和宏 身体表現と舞台芸術マネジメントメジャー(略称、演劇コース)メジャーコーディネーター(M・C)にお話をうかがった。

    左から平田 オリザ 学長特別補佐杉本 孝作 教学担当副学長西村 和宏 演劇コースメジャーコーディネーター

    Kawaijuku Guideline 2017.9 13

  • 特集 特集

    となる部屋には、机と椅子が置いてありますが、グループ

    ワークを進めるためのレイアウトも自分たちで考えます。

    椅子の並べ方のリーダーシップを誰が取るのか、ディスカ

    ッションドラマの創作を進めるためのホワイトボードをど

    う活用するのかといったことも評価のポイントです」(平

    田教授)と備品などの使い方なども評価されている。また、

    試験会場にはパソコンが2台設置されており、試験中に情

    報検索に利用することを認めていることも綜合選考の特徴

    である。1つのグループに対して3名の教員が審査に当た

    り、さらにこれとは別に2名の教員が各グループ間で採点

    に差が出ないよう全体を巡回する。採点結果をグループ間

    で話し合って補正する場合もあるからだ。

     綜合選考で出題される問題には、さまざまな工夫がさ

    れている。例えば 2016 年度入試問題の1つでは、「3つ

    ある本州四国連絡橋のうち2本を廃止して1本だけを残

    す」という刺激的なテーマが題材となっており、受験生は

    香川県、徳島県、愛媛県、兵庫県、岡山県、広島県の各

    県代表となって、どの橋を残すかを議論するディスカッシ

    ョンドラマを創る。問題文では「自分の県に関係する橋を

    残すための意見を主張すると共に、他の県、他の橋につい

    て的確な攻撃を加えてください。その攻撃に対して、反論

    も考えてください」と指示されている。この “ 攻撃 ” とい

    う強い言葉には議論を活性化させる目的があるという。

     平田教授は「受験生に自由に議論をしてくださいと指示

    をしても、推薦入試ということもあり、また受験生の間で

    同調圧力が強いため、自分たちで議論の落とし所を探して

    しまう傾向があります」と話し、議論を活性化させるため

    に敢えて “ 攻撃 ” という言葉を使用しているそうだ。

     「どうすれば議論が活性化するか、そしてその過程をい

    かに可視化するかを考えて出題しています。そのために敢

    えて対立する状況を作り出しています」(平田教授)

     また、課題は<図表2>のようなディスカッションドラマ創作だけではない。2017 年度入試では「香川県を舞台

    に浦島太郎を題材にして紙芝居を創りなさい」という問題

    が出題されるなどさまざまなパターンが用意されている。

    この紙芝居創作の問題文中では、「小学校1年生くらいを

    対象として想定してください」との指示もあるが、この意

    図について平田教授は「ただ単にディスカッションをする

    だけではなく、アウトプットを意識させるために対象を指

    定しています。ただ話し合うだけではなく、何のために話

    し合うのか目的を明確に設定する必要があります」と出題

    の意図を説明する。

    演技力ではなく、主体性・多様性・協働性を評価

     グループワークでは、個々の受験生を評価項目ごとに評

    価する(各評価項目は5点満点)。なお、課題がディスカッ

    ションドラマ創作の場合でも評価の際に演技力は問われな

    い。平田教授は「発表や演技のうまい受験生が有利とな

    る試験ではありません。ドラマを素材としているのは、フ

    ィクションの状況設定とすることで、より多様な意見が出

    て、議論を活性化させることが目的です」と演技力は評価

    <図表1> 2017 年度四国学院大学 推薦入学綜合選考(指定校S・公募制S)の流れ

    出願時提出書類・調査書・推薦書

    <試験当日>

    アイスブレイク・説明

    ・アイスブレイク(約 30 分)・グループワークの説明

    グループワーク

    ・6~8名のグループによるグループワークインプット(理解)とアウトプット(表現)を意識した課題を出題 (60 分)

    ・グループ発表(5 ~ 12 分)

    個人インタビュー ・ 専門委員3名によるインタビュー(約 10 分)

    (取材をもとにガイドライン編集部で作成。2018 年度入試の出願にあ

    たっては学生募集要項等で必ずご確認ください)

    <図表2> 2017 年度推薦入学綜合選考 問題

     これから皆さんには、ディスカッションドラマ(討論劇)を創ってもらいます。 ディスカッションドラマというのは、文字通り、ディスカッション

    (議論)の様子をドラマにしたものです。人の出入りや動きなどは、あまり必要ありません。

    <問題> 以下の題材で、ディスカッションドラマ(討論劇)を創りなさい。

     2040 年を目処に、四国に新幹線を通すことになりました。 しかし、その経済効果を疑問視する声もあります。 新幹線誘致賛成派、反対派、条件付き賛成派、フル規格派、ミニ新幹線派、無関心派などに別れてディスカッションドラマを創りなさい。

     ディスカッションドラマですので、ディスカッションをして自分の意見を通すことが目的ではありません。各自が役割を分担して、どうすれば議論が盛り上がるかを考えて、最後に、10 分前後のディスカッションドラマを創っていただきます。

     60 分しかありませんので、時間の使い方をよく考えてください。

    <参考> それぞれの主張に、一長一短があればあるほど議論は盛り上がります。たとえば新幹線は利便性は高いですが、地元の費用負担が大きく、ストロー効果も懸念されます。 どの路線を通すかでも意見は分かれるでしょう。 まず、役割分担を全員で考えましょう。

     さらに、誰が、どの順番で、どのように発言すれば議論が盛り上がるかを考えてください。議論がかみ合うだけが目的ではありません。わざと脱線させたり、その脱線にヒントがあったりするかもしれません。

    Kawaijuku Guideline 2017.914

  • 特集 高大接続改革の現在特集

    の対象ではないと話す。実際の評価項目は、年度によって

    異なる場合もあるが、「自分の主張を論理的、具体的に説

    明できたか」「ユニークな発想があったか」「他者の意見に

    耳を傾けられたか」「建設的、発展的な議論の進め方に寄

    与できたか」「タイムキープを意識し、議論をまとめるこ

    とに貢献したか」「地道な作業をいとわずに、チーム全体

    に対して献身的な役割を果たせたか」といった内容である。

     ところで、こうした形式の入試の場合、各評価者による

    評価の違いが課題となる。これについては、「綜合選考を

    実施してわかりましたが、評価者による評価結果の違いは

    ほとんどありませんでした。ドラマ創作を評価する場合で

    も、演劇を専門とする教員と演劇以外を専門とする教員の

    評価もほぼ同じ結果となりました」(西村 身体表現と舞台

    芸術マネジメントメジャー M・C)と評価者間での差が問

    題になることはないそうだ。その理由として、綜合選考を

    導入するにあたって、評価を担当する教員のために在学生

    の協力を得て “ 模擬試験 ” を行い、参加した教員の意見

    を評価のポイントに反映させるなど、事前に綜合選考のた

    めの準備を周到に行っていたこともあげられる。

     また、午後に行われる個人インタビューは、グループワ

    ークを審査していた3名の教員によって行われるため、グ

    ループワークで十分に力を発揮できなかった受験生の性

    格や素質、個性などを見極めることができる。受験生は午

    前中に行われたグループワークのことを面接で質問される

    ため、あらかじめ面接での質問が想定される一般的な推

    薦入試の面接とは異なり、事前の準備がしづらい。そのた

    め素の受験生の特徴を見ることができる。「グループワー

    クの時にどのように考えたか、誰の意見が参考になったか

    などを聞くことで、グループワークではあまり活発に意見

    が言えなかった受験生でも、その個性をキャッチアップし

    て、個々の素質や個性をより深く理解することができます」

    (西村 身体表現と舞台芸術マネジメントメジャー M・C)

     面接する教員と受験生は、午前中から同じ時間を共有

    していることで、自然な形で信頼関係が構築され、入試と

    いう場でありながら、和やかな雰囲気で個人インタビュー

    が進むこともあるそうだ。

    プレカリキュラムとして初年次教育と接続綜合選考の入学者が授業の雰囲気を変える

     綜合選考での入学者は1学年の約3割にのぼる。そのた

    め、綜合選考を実施してから、授業の雰囲気も変わったと

    言う。杉本 教学担当副学長は、「綜合選考で入学した学

    生は、よく発表したり、演習の授業でリーダーシップを発

    揮したり、授業の雰囲気を活性化してくれています」と効

    果を実感している。「当初は懐疑的に見ていた教員も、綜

    合選考で入学した学生の反応が、これまでの学生と違うこ

    とは授業を通してわかっています」と語るなど、綜合選考

    に対する学内の理解も進んでいる。

     また、初年次の必修科目「初年次基礎演習」は演習に

    よって大学生活に必要な基礎的スキルなどを養うための

    科目である。授業ではディスカッションを通じてコミュニ

    ケーション能力を高めることを目的としているため、綜合

    選考はそのプレカリキュラムとしても位置づけられており、

    入学者選抜と初年次教育が接続している。このほか、「ピア・

    リーダー制度」があり、上級生がピア・リーダーとなって

    新入生をサポートする。ここでも綜合選考で入学した学生

    が活躍している。「1年生がスムーズに大学生活に馴染め

    るように支援するのがピア・リーダーの役割ですが、『初

    年次基礎演習』の授業運営の補助も行います。そこでは

    綜合選考で入学した学生がピア・リーダーとなり、リーダ

    ーシップを発揮しています」(杉本 教学担当副学長)

     効果測定については、個人の就学記録である「就学ポ

    ートフォリオ」が電子化されたことから、これらを利用し

    てさらなる調査を進め、効果を検証していく予定だ。

    学外のワークショップにも積極的に協力地域の教育全体の活性化に貢献する

     演劇コースが設置されており、綜合選考を実施すること

    から、学外からワークショップへの協力依頼も多い。これ

    までの香川県内の学校だけでなく、今年から、岡山県の複

    数の高校が合同で実施する地域連携講座でのワークショ

    ップにも全面協力する。参加する高校生が地域の課題を

    調べ、議論を重ねてディスカッションドラマを創作する4

    日間の講座は、課題や内容などの制度設計を高校の先生

    方と協力して作り上げた。こうした取り組みの目的は、地

    域の教育の活性化である。そこには、大学の発展には、地

    域の教育の活性化が欠かせないという考えがある。このよ

    うに演劇の持つ力を活かす動きが広がり始めている。綜合

    選考以外のトピックでも、「ドラマ教育」というカリキュラ

    ム上の特色と、その特色を活かした四国学院大学のこれ

    からの活動が注目される。

    Kawaijuku Guideline 2017.9 15

  • 特集 特集

    郁文館中学校・高等学校・グローバル高等学校

    とを事前に記載して提出する。一方、中学校では試験当

    日に小学校時代の活動や将来の夢・目標、入学後に取り

    組みたい活動などを記載する<図表1>。 郁文館高校とグローバル高校の入試では、プレゼンテ

    ーションに続いて、グループディスカッション(約60分)

    が行われる。グループディスカッションのテーマは当日

    示され、各グループで問題解決のためのディスカッショ

    ンを行い、課題の解決方法の発表を行う。具体的なテー

    マは公表されてはいないが、新聞記事などの中から社会

    で起きている現象をテーマとして取り上げている。

    求める人材像を明確にした「ルーブリック評価型入試」を導入

    教頭 土屋 俊之 先生

     郁文館中学校・高等学校・グローバル高等学校では、2017 年度入試より「ル-ブリック評価型入試」を導入した。新しい入試方式は、プレゼンテーション、グループディスカッションなどを通して、教科学力ではなく、受験生の表現力や論理的思考力、コミュニケーション能力などを評価する。新方式導入の背景には、高大接続改革の動向を視野に入れつつも、同校の特色ある教育活動に関わる課題もあったという。導入の経緯や実施方法、実施結果に対する現段階での評価などについて、教頭の土屋俊之先生にお話をうかがった。

    <図表1> 2017 年度「ル-ブリック評価型入試」スケジュール等郁文館高校・グローバル高校 郁文館中学校

    出願期間 2017 年 1 月 25 日~ 2 月 4 日 出願期間 2017 年 1 月 20 日~ 2 月 1 日

    出願時提出書類

    ・学習歴報告書

    ・自己紹介シート

    ・発表資料持ち込み申請書

    出願時提出書類 ・発表資料持ち込み申請書

    入試内容

    2017 年 2 月 11 日14:30 集合 14:45 ~ 15:00 説明

    15:00 ~プレゼンテーション(最大 10 分)

    15:30 頃~グループディスカッション(約 60 分)

    入試内容

    2017 年 2 月 2 日14:15 集合 14:30 ~ 14:40 説明

    14:40 ~ 15:00 活動報告書の記入(約 20 分)

    15:00 ~プレゼンテーション(最大 10 分)

    15:10 ~Q&A(約 5 分)

    合格発表 試験当日発送 合格発表 2017 年 2 月 2 日

    プレゼンテーションやグループディスカッションなどを評価

     郁文館中学校・高等学校・グローバル高等学校で導入

    された「ルーブリック評価型入試」は、従来型の入試で

    は測ることのできない「思考力・表現力・コミュニケー

    ション能力」などをプレゼンテーションやグループディ

    スカッションを通して評価する入試である。

     中学校と高校では出願書類が一部異なるが、高校では

    中学時代に学習面・文化面・運動面で取り組んできたこ

    (2017 年度生徒募集要項をもとにガイドライン編集部で作成)

    Kawaijuku Guideline 2017.916

  • 特集 高大接続改革の現在特集

     土屋教頭は「社会で起きている現象、つまり世の中の

    トピックとなるようなテーマをディスカッションしても

    らいます。いずれも正解のない課題で専門家でも簡単に

    答えが出せない内容です。課題を考察するためのデータ

    や図表なども示し、今、社会で起きている課題について、

    自分ごととして捉え、自分たちなりの解決策を考えても

    らう内容です」と説明する。

     グループディスカッションの評価については「グルー

    プ発表の内容も大切ですが、そこに至るまでのプロセス

    がさらに大切です」(土屋教頭)とグループでの協働作

    業への取り組みの重要性を指摘する。「グループのメン

    バーそれぞれの異なる意見を調整し、合意形成を行うに

    は、お互いに協力し合うことが必要です。議論をリード

    しようとする受験生やサポート役に徹する受験生など、

    グループ内での役割によって、議論への貢献の仕方も異

    なります」(土屋教頭)と自己アピールがうまい受験生

    が必ずしも高い評価ではないと説明する。

     また、グループディスカッションは1つの会場で行う

    ため(今春は講堂)、評価を行う教員たちは試験会場の

    中を巡回しながら、各グループでの議論に注意を向ける。

    土屋教頭が「評価をする教員たちの行動が、受験生のプ

    レッシャーにならないように配慮しつつ、議論のプロセ

    スはしっかり見ています」と話すように、評価は複数の

    教員によって行われている。1つのディスカッション・

    <図表2> 2017 年度「ル-ブリック評価型入試」ルーブリック表

    表は郁文館グローバル高校の評価表・合格基準。郁文館高校も同じ評価表を利用しているが、合格基準が異なる。※郁文館グローバル高校の合格基準:観点①・②・④において、B評価、観点③においてC評価を上回ること。ただし、最低1つの観点で、A評価を得ること。※郁文館高校の合格基準:観点①・④でC評価、観点②・③でB評価を上回ること。ただし、観点①・④のいずれか一方はB評価以上を得ること。

    A B C D

    ① 表現力(プレゼンテーション力)

    きわめて優れた表現力(プレゼンテーションスキル)を有しており、聞き手の好奇心を強く揺さぶり、発表者への興味関心を喚起させている。

    優れた表現力(プレゼンテーションスキル)を有しており、発表者への興味関心をある程度喚起させている。

    聞き手に自分の伝えたいメッセージを届けることが出来るが、発表者への興味関心をさほど 喚 起 す る ほ ど に は至っていない。

    聞き手に自分の伝えたいメッセージを届けられず、発表者への興味関心を喚起させていない。

    論理的思考力(誰にでも分かりやすく伝える力=情報の単純化・構造化)

    伝えたい情報を極めて適 切 に 分 類・ 整 理 し、かつ、聞き手に理解しやすい情報量にまとめ、発言している。

    伝えたい情報を適切に分 類・ 整 理 し、 か つ、ある程度聞き手に理解しやすい情報量にまとめ、発言している。

    伝えたい情報をある程度分類・整理しているが、聞き手に理解しやすい情報量にまとめて発言することができていない。

    伝えたい情報を分類・整理することも、聞き手に理解しやすい情報量にまとめて発言することもできていない。

    アントレプレナーシップ・他者との協働力

    (異なる人々と新しい価値を創造しようとする力)

    他者の発言に傾聴しつつ、それらの意見を踏まえて自らの主張を展開することで、周囲からの共感・信頼を幅広く得るとともに、チーム内に新しい価値の創造をもたらす多大な貢献をしている。

    他者の発言に傾聴しつつ、それらの意見を踏まえて自らの主張を展開することで、周囲からの一定の共感・信頼を得るとともに、チーム内に新しい価値の創造をもたらす貢献をしている。

    周囲と一定のコミュニケーションをとることで、チームのメンバーとして周囲に認められているが、チーム内に新しい価値の創造をもたらす貢献をしているとまでは言えない。

    周囲とのコミュニケーションも不十分で、チーム内に新しい価値の創造をもたらすことに貢献していない。

    社会的事象に対する関心・理解・問題解決力

    (知識をベースとした多面的・客観的思考力と実行力)

    世の中の出来事に幅広い関心と豊かな知識を有している。また、それらに対する多面的な見 方・ 考 え 方 を 以 て、問題解決の道筋を見出そうとする姿勢が顕著にみられる。

    世の中の出来事に一定の関心と知識を有している。また、それらに対する多面的な見方・考え方を以て、問題解決の道筋を見出そうとする姿勢が垣間見える。

    世の中の出来事に一定の関心と知識を有しているが、それらに対する多面的な見方・考え方は有しておらず、自らの意見を述べるに留まっている。

    世の中の出来事への関心・知識が乏しく、また自らの見方・考え方もほとんど有していない。

    ※評価A:十分満足できるB:概ね満足できるC:やや、期待するレベルに到達していないD:期待するレベルに到達していない

    (表中に色がついている箇所はグローバル高校の合格基準による)

    Kawaijuku Guideline 2017.9 17

  • 特集 特集

    グループは5~6人で構成され、今年度の入試では郁文

    館高校、グローバル高校の受験者混成で行われた。

     複数の教員による評価だが、個々の評価者によって評

    価が大きく異なることがないよう、事前研修が行われて

    いる。「評価を担当する教員から、多くの意見を出して

    もらい、さまざまなケースを想定し、それぞれのケース

    への対応を一つひとつ詰めていきました」(土屋教頭)

    と準備を重ねた。評価が大きく異なる場合、グループデ

    ィスカッション全体を見ている教員も含めて、議論し、

    プレゼンテーションや活動報告書など事前の提出物も含

    めた複数の視点により、最終的な合否が決定する。

     また、評価基準となるルーブリック表と合格基準は事

    前に公開されている<図表2>。

    生徒が主体的に取り組むゼミ活動などディスカッション中心の特色ある教育活動

     このように新しい入試を導入した背景には、現在、国

    が進めている高大接続改革も影響しているが、それ以上

    に学園の教育活動が密接に関係している。

     学校法人郁文館夢学園では、中学校・高校・グローバ

    ル高校の全ての学校で、NIE(Newspaper In Education)

    を行っている。毎朝、生徒それぞれが持参した新聞記事

    を使用して、「0時間目」の時間帯にさまざまな社会問

    題についてディスカッションおよびプレゼンテーション

    を行う。この活動によって、現代社会の事象に興味・関

    心を持ち、意見交換を通じてコミュニケーション力を磨

    き、主体的に思考・判断する力を身につけ、社会で活躍

    できる素地をつくり上げることを目的としているのだ。

    世の中の出来事に対して、議論を通じて多面的な見方や

    考え方ができるよう、高校とグローバル高校が合同 NIE

    を行うこともある。

     また、この他にも「協働ゼミ」「社会探究」「社会貢献」

    など自らが関心を持ったテーマについて探究することに

    より、「主体性」「表現力」を養う授業もある。

     「協働ゼミ」は、グローバル高校で行われている教育

    活動で、大学のゼミナールとほぼ同じ活動が行われてい

    る。グローバル高校の生徒が 16 種類のゼミに分かれて、

    社会で活動している人たちと連携して実践的な学びを深

    める。なお、ここでいう社会とは、大学、企業、NPO

    や学校周辺の地域などである。外部機関などと連携しな

    がら、各生徒は自分の研究テーマを追究する。例えば「ア