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大学の研究と企業の開発
鷲見和彦
青山学院大学
2012年9月2日
略歴
1982年:京都大学 電気工学科卒業
1984年:京都大学大学院 電気電子工学専攻修了
1984年:三菱電機 生産技術研究所 入社
1988年:三菱電機 産業システム研究所
1989年:メリーランド大学客員研究員
1990年:三菱電機 産業システム研究所
2002年:三菱電機 先端技術総合研究所
2003年:京都大学 研究員(COE)客員教授
2006年:三菱電機 先端技術総合研究所
2011年:青山学院大学 理工学部(現在)
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 2
良い研究・良い開発とは
学術:
パラダイムシフトが生じた
多くの研究で使われている
多くの派生研究が生じた
産業:
社会が変わった・産業構造が変化した
企業の利益に貢献した
企業の認知に貢献した
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 3
定量的に表現すると
産業:私の経験から
年間売上3兆円 → 売り上げに1%の寄与がある新製品は 300億円の規模が求められる
27年間の在職期間で,これに匹敵するもの
大してハイテクじゃなかった
技術としてハイレベルな開発事例
特定用途や特定顧客のものが多く,規模は小さい
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 4
大学の先生から見た実用化 ロボット学会実用化技術賞(最初の8年分)
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 5
1996: 配電作業活線ロボットの開発 安川電機、九州電力
1997: 動き追跡処理システム「トラッキングビジョン」 富士通、東京大
力制御仕上げロボット「バリボ」の商品開発 東芝
複数台ロボット制御技術の造船パネルへの適用 神戸製鋼所、日本鋼管
減速機構をもつロボットアームの絶対位置検出方法 セイコーエプソン
1998: ジャイロモーメントを利用した吊荷旋回制御装置 大林組、三菱重工、神戸大
ランダムドットステレオを用いた物流ロボット視覚システムの開発 三菱電機
1999: 高齢者の自立生活支援のための歩行訓練機の開発 日立製作所
可搬式汎用知能アームの実用化 三菱重工
2000: ミニ組立工場CACの開発 -Circular Assembly Cell- デンソー
研究用プラットフォームとしての普及型歩行ロボット 東工大,東京精機
閉リンク方式による小型精密ロボット 三菱電機
2001: 罫書き・切断および溶接ロボットシステム 川崎重工
全方位移動型パワーアシストカート 松下電工
2002: エンターテイメントロボットAIBO ソニー
自動車組立作業支援装置「スキルアシスト」 トヨタ自動車, 豊田工大
ロボQ(遠隔操縦ロボット) フジタ, 国交省
2003: 人間型ロボットハンドGifu Hand III 岐阜大,ダイニチ,岐阜ギアー工業ほか 手術支援のためのマニピュレータ技術 日立,東京女子医大,信州大,九大ほか
大学の先生から見た実用化 画像センシングシンポジウム高木賞
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 6
2007: テクスチャ背景差分とシルエットモデルを用いた車両追跡手法
関真規人、藤原秀人、鷲見和彦(三菱電機)
2008: 小型システムのための高性能画像処理 LSI Super Vchip の開発
村松彰二(日立製作所)、小林芳樹、大塚裕史、廣瀬健二、今井聡彦、山田茂義
2009: 顔画像センシング技術 OKAO Vision
川出雅人、勞 世竑、木下航一、瀧川えりな、井尻善久、山下隆義(オムロン)
2010: IMAP シリーズ動画像認識処理プロセッサの研究開発とその製品化
京 昭倫、岡崎信一郎(ルネサスエレクトロニクス)、藤田善弘、山下信行(NEC)
2011: 画像解析型架線検測システム CATENARY EYE
渡部勇介、庭川 誠、藤原伸行(明電舎)、木下信夫(九州旅客鉄道)
2012: 高次局所自己相関特徴を用いた適応学習型汎用認識システム
大津展之 (独立行政法人産業技術総合研究所)
技術的先進性と事業的価値 基本的には相容れない
技術的に先進的なものは
コストが高い
技術が難しい,使いこなせる人がいない
応用事例が少なくリスク管理が困難
売れる新製品は
顧客が欲しいものを,すぐに実現したもの
シンプルに,安く,確実に,安定して実現
顧客から見ると中身はどうでもよい
BtoB: 顧客の効率・利益の最大化
BtoC: ユーザ経験の最大化
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 7
事業的成功例:エアコン 「省エネと快適の両立」が受けて売上Up
エアコン事業は元から大きかった
保有ネタ多数,短期開発,学会発表は無
使ってる技術は古典的
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 8
まあまあの成功例:粒子線治療 治療時間のうち一番長い位置決めを高速化
一施設で治療できる人数が増加(病院収益向上)
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 9
技術的成功例:ロボットビジョン 三次元形状認識を使った積荷の荷下し
論文・発表あり、表彰も受賞
ここまで頑張って自動化したい顧客は僅か
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 10
技術的成功例:道路監視システム テクスチャー背景差分,三次元車両モデル,実時間追跡など,1996年当時の最先端技術を投入
論文・発表あり,表彰も受賞
100億円のビジネスのはずだったが実際には1/10
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 11
技術的成功例:監視カメラ画像解析 監視カメラ全体では100億の売り上げがある
解析を望む顧客もいるが,差別化の核ではない
デジタル化により価格破壊が生じ,ビジネスは苦しい
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 12
顔認識(他社様の例) コンピュータビジョン分野では成功事例として扱われている
量販店に行くと,顔認識の性能は●か,「 」(空白)か,の違いでしかない
たまに「スマイル」「ペット」「個人」など,機能表現はあり
「他社より性能が2倍いい」とかは誰も気にしてないのだ…
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 13
分析
技術重視の商品は事業的には成功しない
「これはいい!」と顧客が思うことが重要
B-to-C: ユーザーエクスペリエンスの最大化
B-to-B: 顧客目的(利益・効率)の最大化
数値上のスペックなどどうでも良い
機能があるかないか,ちゃんと動くか
一部の技術が秀逸でも,全体として商品バランスが悪ければ失敗
性能だけじゃない
コスト,使いやすさ,サービス,メンテナンス…
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 14
成功するモデル 事業者Aは,どこで,だれが,なにを欲しがっているかが分かっている
開発者Bは,だれが,どんな技術をすぐに提供できるか問題解決者 Xi (i=1,…,N) を多数知っており,統合することができる
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 15
問題解決者となるために
すぐに使える方法を持っていること
目新しく,オリジナリティがある技術がある
基本性能向上が著しい
汎用的で用途や条件が限定されない
使い方・トラブル回避策など豊富な知識がある
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 16
ダメな人
ニーズを聞いてから考え始める
遅すぎる(完成時にはもう不要になっている)
良く似た技術がすでにあるのに始める
よほど差が無ければ古い技術の方が良い
原理が複雑で条件が変わると性能が変わる
使いこなせない,怖くて使えない
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 17
Open Innovation
世界中から解決の候補を集め,誰よりも早くビジネスを始めるのが、新しい常識になる
GE: Open innovation コーディネーター 200人
Innocentive: (http://www.innocentive.com/)
企業のニーズを解釈してインターネット上で解決策を公募,コンペで勝ち残った解決策を買い取るビジネス
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 18
問題解決期間は通常1-3か月!
このスピードについて行けるか?
Awarded Solutions
Solution Realized!
Low-cost Rainwater Storage
Sunlight/UV-light dose indicator
Dual-use, Off-grid Flashlight
Human Potential Index Challenge
21st Century Cyber Schools
Solar Powered Mosquito Repellant
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 19
Check http://www.innocentive.com/for-solvers/winning-solutions/
現在募集中のチャレンジ
残留指紋
野生動物管理
タンパク質
…..
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 20
問題解決期間は3か月!
このスピードについて行けるか?
Check https://www.innocentive.com/ar/challenge/browse/
公的資金配分のからくり 予算総額はトップダウンで決まることが多いが, 応募件数に比例して配分されることも多い.
研究者が多く,外部資金獲得に熱心な分野は潤う.
採択率は25%程度のことが多い.
すなわち,4人中3人はトップの1人を潤わすために存在する.
自分がトップじゃないとわかったら,さっさとトップをとれるフィールドを見つけてリーダになれ!
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 21
さいごに 科学や共通技術として、取り組む価値のある研究をやろう
人の研究を見て面白そうだからと追従するのはやめよう
やるからには使えるところまで完成させよう
そうすれば誰かのニーズに即答できるチャンスが増える
逆に、いかにも役立つような作文をして外部資金を集め、反動で研究分野の火を消さないでください
2012/9/2 電子情報通信学会 PRMU パネル 22