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99V1-1 複雑病変を伴ったBarlow’s diseaseに対する僧帽弁形成術 ○丹治 雅博, 高橋 皇基, 高野 智弘 太田西ノ内病院 心臓血管外科 【目的】Barlow’s disease(BD)は粘液変性によるexcess tissue、billowing、prolapseによ り僧帽弁逆流(MR)が生じる疾患で、prolapseが両弁尖に生じ複雑病変になりやすいこと、 正常なreference pointが分かりづらいこと、若年者に多く耐久性が求められること、SAM のリスクがあることなどから外科医にとってはchallengingな弁形成術になる。当院で施行 したBDに対する僧帽弁形成術について報告する。【対象及び方法】2005年5月より2017年7 月までMRに対し僧帽弁形成術を施行した329例のうち、BDは12例(3.6%)で、年齢は49.4± 16.0歳、 女 性7例 で あ っ た。逸 脱 病 変 が2つ のsegmentに 及 ぶ 複 合 病 変 が6例(P2及 びP3 prolapse:2 例 ,A2 ~ A3 prolapse:1 例 ,Antero-lateral commissure 及 び P2 prolapse:1 例 ,P2 prolapse及びleaflet cleft:1例,P3 prolapse及びleaflet cleft:1例)、1つのsegment病変が4例(P2 prolapse:2例,P3 prolapse:2例)、chordal elongationとannular dilatationに よ るMRが2例 で あった。活動期IEで脳梗塞を発症した症例と、急性MRでPCPS管理になった症例に対しては 緊急で弁形成術を施行した。BD弁形成術のstrategyは、術中の経食道心エコー (4Dカラー ドップラー法)により逆流ジェットの部位や方向からMRの機序を詳細に検討し術式を決定 すること、複雑病変に対しては原則後尖逸脱病変のrepairを優先しそれに合うように前尖を 調整することとしている。前尖逸脱病変に対しては人工腱索再建術を、後尖逸脱病変に対し ては人工腱索再建術または弁尖切除術を基本術式とし、leaflet cleftが逆流に関与している 場合には積極的にrepairを行った。全例にjust sizeのMAPを併施した。【結果】術式は、 sliding leaflet technique:3例,quadrangular resection+人工腱索再建:2例,人工腱索再建:2例 , folding plasty2例,commissure repiar+quadrangular resection:1例 で、chordal elongation とannular dilatation の2例ではMAPのみを施行した。MAPに使用した人工弁輪はPhysio II(sizeは26 ~ 34)で、SAMは生じなかった。退院時及び遠隔期の心エコー MR評価では退院 時は全例trivial以下、遠隔期ではtrivial以下 7例、mild 5例と良好な結果であった。【結語】 複雑病変を伴ったBDに対しては、種々の手技を組み合わせることで弁形成術が可能であ り、緊急手術にも対応可能であった。術中の4Dカラードップラー法で逆流を正確に評価し術 式を決定することが重要であった。

複雑病変を伴ったBarlow’s diseaseに対する僧帽弁形成術

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Page 1: 複雑病変を伴ったBarlow’s diseaseに対する僧帽弁形成術

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V1-1

複雑病変を伴ったBarlow’s diseaseに対する僧帽弁形成術

○丹治 雅博, 高橋 皇基, 高野 智弘太田西ノ内病院 心臓血管外科

【目的】Barlow’s disease(BD)は粘液変性によるexcess tissue、billowing、prolapseにより僧帽弁逆流(MR)が生じる疾患で、prolapseが両弁尖に生じ複雑病変になりやすいこと、正常なreference pointが分かりづらいこと、若年者に多く耐久性が求められること、SAMのリスクがあることなどから外科医にとってはchallengingな弁形成術になる。当院で施行したBDに対する僧帽弁形成術について報告する。【対象及び方法】2005年5月より2017年7月までMRに対し僧帽弁形成術を施行した329例のうち、BDは12例(3.6%)で、年齢は49.4±16.0歳、女性7例であった。逸脱病変が2つのsegmentに及ぶ複合病変が6例(P2及びP3 prolapse:2例,A2 ~ A3 prolapse:1例,Antero-lateral commissure及 びP2 prolapse:1例,P2 prolapse及びleaflet cleft:1例,P3 prolapse及びleaflet cleft:1例)、1つのsegment病変が4例(P2 prolapse:2例,P3 prolapse:2例)、chordal elongationとannular dilatationに よ るMRが2例 であった。活動期IEで脳梗塞を発症した症例と、急性MRでPCPS管理になった症例に対しては緊急で弁形成術を施行した。BD弁形成術のstrategyは、術中の経食道心エコー (4Dカラードップラー法)により逆流ジェットの部位や方向からMRの機序を詳細に検討し術式を決定すること、複雑病変に対しては原則後尖逸脱病変のrepairを優先しそれに合うように前尖を調整することとしている。前尖逸脱病変に対しては人工腱索再建術を、後尖逸脱病変に対しては人工腱索再建術または弁尖切除術を基本術式とし、leaflet cleftが逆流に関与している場合には積極的にrepairを行った。全例にjust sizeのMAPを併施した。【結果】術式は、sliding leaflet technique:3例,quadrangular resection+人工腱索再建:2例,人工腱索再建:2例 , folding plasty2例,commissure repiar+quadrangular resection:1例で、chordal elongationとannular dilatation の2例ではMAPのみを施行した。MAPに使用した人工弁輪はPhysio II(sizeは26 ~ 34)で、SAMは生じなかった。退院時及び遠隔期の心エコー MR評価では退院時は全例trivial以下、遠隔期ではtrivial以下 7例、mild 5例と良好な結果であった。【結語】複雑病変を伴ったBDに対しては、種々の手技を組み合わせることで弁形成術が可能であり、緊急手術にも対応可能であった。術中の4Dカラードップラー法で逆流を正確に評価し術式を決定することが重要であった。

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V1-2

Barlow type両尖病変に対する人工腱索およびindent plicationによる非切除僧帽弁形成

○岡本 一真, 当广 遼, 杉山 博信, 三里 卓也, 林 太郎, 戸部 智明石医療センター

【背景】両尖ともに弁尖組織が余剰かつ後尖の高さが高いBarlow typeの僧帽弁閉鎖不全症に対しては余剰弁尖の切除による弁形成が主流である。しかし切除デザインの決定は難易度が高く、極力弁尖を切除せず、人工腱索再建と後尖のindent plicationを組み合わせた術式を採用している。ただし、僧帽弁後尖の高さが温存されるため、SAMの発生が危惧される。

【方法】僧帽弁両尖に及ぶ広範囲逸脱を伴った僧帽弁閉鎖不全症に対して人工腱索再建およびindent plicationにより弁尖を切除せずに右小開胸アプローチで僧帽弁形成を施行した。右側左房切開により僧帽弁を展開、僧帽弁鈎で前尖をよけることで左室内を展開した。CV-4で作成した8mm長のループセット(4ループ)を前乳頭筋、後乳頭筋に1セットずつ縫着した。後尖はP1-3の全部分で逸脱し、弁高も25mmを越えていた。5-0 Proleneを用いてP1-P2、P2-P3に1針ずつZ縫合した。この際、弁尖組織を左室側に押し込み、左房側からみると後尖が一枚の平面になるデザインで縫合した。後乳頭筋に縫着したループセットの1ループをアンカーにして、前尖A3に対する人工腱索再建をCV-4を用いたloop-in-loop法で施行した。A1からA2までの前尖の逸脱は軽微であったため同部位への人工腱索再建は不要と判断した。この時点で施行した水試験で逆流は制御されていたが、SAM予防として前乳頭筋、後乳頭筋それぞれのループセットを用いて後尖をループセットに直接縫着した。最後にCG Future band 34mmを縫着して僧帽弁形成を終了した。【成績】大動脈遮断時間99分、体外循環時間160分、手術時間259分で無輸血手術であった。術後経過良好で術後7日目に退院した。術後経胸壁エコーで、僧帽弁逆流はtrivial、僧帽弁位の圧較差はmeanで3.8mmHgであった。また軽度のSAMを認めるものの左室流出路の加速血流はなかった。2016年11月以降の僧帽弁形成25例(両尖4例、前尖4例、後尖12例、弁輪拡大5例)において弁尖切除を一切施行せず、人工腱索再建と弁尖のplicationのみで僧帽弁形成を完遂している。【結論】人工腱索再建およびindent plicationによる弁尖非切除僧帽弁形成は両尖にわたる余剰弁尖組織が豊富でSAMが危惧される症例において有効な手段である。簡便かつ再現性が高く、やり直しも自在であるため、複雑病変の弁形成完遂率を向上できる汎用性の高い方法である。

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V1-3

Barlow症候群に伴う僧帽弁閉鎖不全症に対する右小開胸低侵襲僧帽弁形成術の治療成績

○鈴木 亮, 美甘 章仁, 池下 貴広, 藤田 陽, 中村 玉美, 高橋 雅弥, 白澤 文吾, 濱野 公一山口大学 大学院器官病態外科学 心臓外科

【背景】右小開胸MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)僧帽弁形成術(MVP)は僧帽弁を正面視することができ、Barlow症候群に伴う僧帽弁閉鎖不全症(MR)のような広範囲逸脱症例でも良好な視野で確実なMVPが可能である。しかし、特殊な手術器具が必要で、複雑病変では手術時間の延長や治療成績が低下する可能性がある。【目的】当院におけるBarlow症候群に伴うMRに対する右小開胸MICS MVPの治療成績ならびに中期成績を示し、非Barlow症候群のMRに対する成績と比較すること。【対象】2013年1月~ 2017年7月に右小開胸MICS MVPを行ったMR症例40例で、Barlow症候群6例(B群)とNon-Barlow症候群34例(N群)を2群に分け比較検討した。【術式】6cmの皮切を加え、右第4肋間開胸でアプローチする。人工心肺は大腿動脈送血、右内頸静脈経由上大静脈、右大腿静脈経由下大静脈脱血で確立する。必要時は右腋窩動脈送血も併施する。大動脈遮断は開胸創よりflexible clampを用いて行う。MVPは人工腱索を基本とし、余剰部分はresection & sutureを行うが、病変のあるrough zoneをresectionし、clear zoneでcoaptaionするようにsutureする。【結果】平均年齢はB群:43±14歳、N群:62±14歳でB群が有意に若年であった(p=0.05)。併施手術を8例に施行し、左房縫縮がB群:0例、N群:1例、左心耳縫縮がB群:1例、N群:1例、不整脈手術がB群:1例、N群:4例、他の手術がB群:0例、N群:1例(重複例含む)であった。【結果】手術時間はB群:514分、N群:462分で両群間に有意差を認めなかったが(p=0.14)、人工心肺時間B群:327分、N群:270分、大動脈遮断時間B群:269分、N群:194分で、有意にB群で長時間であった(p=0.05、p=0.0017)。平均の人工腱索の本数はB群:1.0本、N群:0.8本で両群間に有意差を認めなかったが、平均の人工弁輪の径はB群:33.7mm、N群:29.9mmでB群で有意に大きかった(p=0.0003)。在院死亡は認めず、術後入院期間はB群:9日、N群:11日で有意差を認めなかった。MRの程度は退院時に全例mild以下に改善したが、N群の3例は遠隔期にmoderate MRとなり、3年のmoderate MR回避率はB群:100%、N群:83.4%であった。【結語】当院のBarlow症候群に伴うMRに対する右小開胸MICS MVPの治療成績ならびに中期成績は良好であった。非Barlow症候群のMRと比較して人工心肺時間や大動脈遮断は長時間であるが成績は遜色なかった。

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V1-4

心房性僧帽弁閉鎖不全症に対するExtended posterior mitral leaflet augmentation

○光山 晋一, 青木 智之, 内田 考紀, 片岡 紘士, 上野 洋資, 安藤 豪志, 門脇 輔, 高垣 昌巳, 山口 裕己昭和大学江東豊洲病院 心臓血管外科

【背景と目的】弁形成術が標準術式となっている器質性の僧帽弁閉鎖不全症(MR)に比べ、弁尖自体に異常のない機能性MR(FMR)に対する形成術の成績は未だ十分とは言えない。FMRの病因としては虚血性心筋症などがあるが、心房細動に伴うMR(Atrial FMR)も重要である。我々は虚血や心筋症に伴うFMRに対する弁形成において、十分な接合を得ることが最も重要と考え、左室や弁下組織には介入せず後尖のほぼ全体を自己心膜で拡大するExtended posterior mitral leaflet (PML) augmentationという術式を行い良好な成績を報告してきた。Atrial FMRのメカニズムとしては虚血や心筋症の際の両弁尖のtetheringではなく、高度な左房拡大に伴う後尖のhamstringingが重要とされている。従来のRing annuloplastyのみでは十分にMRが制御できない症例があり、これらに対して我々はこの術式を施行してきた。今回はその早期成績について報告する。【対象と方法】2014年10月から2017年7月にAtrial FMRに対してExtended PML augmentationを施行した13例を対象とし、術前後及び外来での経胸壁心臓超音波検査の結果を比較検討した。後尖拡大術は両交連部のみを温存し後尖のほぼ全体を弁輪部から切離し、グルタールアルデヒド処理した6×3cmの楕円形の自己心膜を5-0 polypropyleneの連続縫合で縫着するという方法で行った。

【結果】平均年齢は70.6 ± 15.4歳。早期死亡は認めず、遠隔期に敗血症によって1例を失った。術直前MRはModerate 4例、Moderate to severe 3例、Severe 6例であったが、術後MRはnone 4例、trivial 8例、mild 1例と良好に制御され、Coaptation lengthも9.3 ± 2.8mmと十分に確保されていた。使用した人工弁輪のサイズは31.7 ± 1.6mmで有効弁口面積は2.8 ± 0.7cm2、僧帽弁を介したmean PGは4.5 ± 1.0mmHgと良好であった。また術前後で左室拡張末期径(LVDd) 52.4 ± 6.4mm VS 46.0 ± 6.5mm (P < 0.05)及び左房容量係数99 ± 63ml/m2 VS 50 ± 16 ml/m2 (P < 0.05)は有意に縮小した。現在フォローアップ期間は 384 ± 223日(最長867日)となっているがMRの増悪はみられず、継時的にLVDdは低下し左室駆出率も有意に改善していた(53.2 ± 11.3% VS 61.6 ± 6.9%, P < 0.05)。【結語】Atrial FMRに対する自己心膜を用いたExtended PML augmentationの早期成績は良好であった。今後も症例を重ねるとともに術式の適応を検討する必要がある。

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Pseudo prolapseによるMRに対するpapillary muscle sandwich technique

○華山 直二, 松下 弘関東労災病院 心臓血管外科

僧帽弁閉鎖不全症の原因として乳頭筋起始部が左室拡大により偏移しtetheringを起こしている症例が散見される。乳頭筋には解剖学的variationが多くあるが前外側乳頭筋が前尖側、後尖側に分枝しA1、P 1側を、後内側乳頭筋も同様に分枝しA3、P 3側を中心に腱索が分布していることが多い。左室拡大を呈した症例は前尖側、後尖側共にtetheringを生じていることが多いが、その程度に差があるため生じる相対的なprolapse(pseud prolapse)が逆流の原因となっていることがある。今回我々はpseudo prolapseによる僧帽弁閉鎖不全症を前尖、後尖への乳頭筋分枝をフェルトで挟み縫合すること(papillary muscle sandwich technique)で逆流を制御し得た症例を2例経験した。症例1は45歳男性で重度僧帽弁閉鎖不全症、心不全で手術適応と判断した。超音波検査ではpseudo prolapseの状態であった。前乳頭筋の前尖、後尖への分枝をフェルトで挟み込み逆流を制御した。症例2は40歳男性でEF34%の低心機能症例でであった。超音波検査ではA3、P3のpseudo tetheringで重度僧帽弁閉鎖不全症を呈していた。前乳頭筋の前尖、後尖への分枝をフェルトで挟み込み逆流を制御した。上記症例につき手術ビデオを供覧し報告する。

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V1-6

異種、自己心膜を用いた僧帽弁形成術

○田中 裕史, 井上 武, 松枝 崇, 邊見 宗一郎, 幸田 陽二郎, 中井 秀和, 陽川 孝樹, 池野 友基, 大北 裕神戸大学

背景:僧帽弁形成術において、弁の短縮、あるいは感染により広範な破壊を伴う症例においては、補填物を用いて形成を行ってきた。当院での心膜を用いた僧帽弁形成術症例を検討し、ビデオで手技を供覧する。患者と方法:対象は2005年5月から2017年5月までに自己あるいは異種心膜を用いて僧帽弁形成術をおこなった28例。年齢58(19- 73)歳。男性17例。病因はリウマチ性1例、退行性13例、感染性14例。うち退行性病変に対する僧帽弁形成術後の再形成術が4例。 術前MRはsevere 22 例、moderate 6 例。用いた心膜はグルタールアルデヒド処理自己心膜20例、異種心膜8例。 用いた手技は、1.前尖病変に対し、弁縁を温存し、パッチ形成、あるいは弁尖の延長を行った症例5例、2.破壊された前尖(交連部、後尖の一部含む)を切除し、心膜で弁尖再建、人工腱策再建 6例、3.後尖の短縮、tethering、穿孔に対する弁縁を温存した後尖の延長、修復 14例、4.後尖切除、心膜による再建 3例。全例でリング形成術を追加した。これらの成績を検討した。結果:手術死亡はなし。フォローアップ期間は2.3 年(0.4-12)年。遠隔期にmoderate 以上のMRの再発を4例に認め、うち2例に再形成術を行い、2例は経過観察中。Moderate 以上のMR の回避率は3年85%、再手術の回避率は3年89%。弁置換回避率は100%。2例にsevere MSを認めているが、フォロー中。その他の症例ではMSはなし。再手術となった症例は、2、4各一例ずつで、いずれも感染性心内膜炎症例であった。MSとなった症例はリウマチ性であった1.一例、感染性2.一例であった。結語:心膜を用いた僧帽弁形成術の中期成績は良好であった。手術症例をビデオで供覧する。 

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V2-1

LVOTO, SAMを有するMRに対するcine-CT/MRIを用いた正確な僧帽弁形成術

○大島 英揮, 成田 裕司, 阿部 知伸, 藤本 和朗, 六鹿 雅登, 徳田 順之, 寺澤 幸枝, 吉住 朋, 伊藤 英樹, 碓氷 章彦名古屋大学大学院医学系研究科 心臓外科

【背景】HCMに代表される非対称性中隔心筋肥大(ASH)が収縮期僧帽弁前方運動(SAM)と左室流出路狭窄(LVOTO)の主原因である場合には十分な中隔心筋切除により僧帽弁逆流(MR)は制御可能である。しかし、軽度のASHの場合には中隔心筋の肥厚に加えて僧帽弁の構造異常(とくに乳頭筋と腱索の異常)がSAM、LVOTOの発生機序となっていることが多く、かかる症例では中隔心筋切除だけではMRの制御は不完全であり、僧帽弁尖や弁下組織に対する外科的介入が必要である。【目的】自験例を検討した結果、最近では心エコーだけでなくcine-CT/MRIを術前に行い正確にMRのメカニズムを解明し僧帽弁形成術(MVP)を施行することしたので、その成績について手術ビデオを供覧し報告する。【対象】2007 - 2017年の間でLVOTO, MRに対してmyectomy+MVPを施行した9例を対象とした。前期5例は、edge-to-edge 3例、前尖パッチ拡大1例、後尖切除縫縮1例であった。後期4例は全例cine-CT/MRIを術前に施行し、全例腱索切除+人工腱索再建を施行した。術前のcine-CT/MRIにて異常な弁下組織を全例認めており、収縮期早期に左室流出路に前尖組織もしくは弁下組織が突出しLVOTOを発生させていた。術式の詳細については表を参照。【結果】前期5例のうち2度以上のMRを再発した症例は3例あり、edge-to-edgeにおいては2例(66%)において術後1ヶ月以内に縫合部断裂を生じ、1例はMVRを必要とした。後期4例は、全てMR再発なくLVOTOも解除されている。【結語】近年の研究によりLVOTO, MRのメカニズムは詳細に判明してきており、かつてのような紋切り型のmyectomyだけでは質の高い手術とは言えない。Gold-standardは術前の経胸壁心エコー・経食道心エコーによる病態評価であるが、cine-CT/MRIを用いることにより4D的なイメージを把握し正確なMVPが可能になる。唯一の問題点は、心房細動時には画像構築ができないことである。

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V2-2

僧帽弁形成術における人工腱索長をより簡単に決定する方法

○西 宏之大阪警察病院 心臓血管外科

【目的】僧帽弁形成術において、人工腱索の長さが簡便に決定できたらよりその汎用性が広がる。Memo 3D Rechordは、人工弁輪の後尖側にあらかじめ縫着された輪となった糸を利用して人工腱索の長さを決定する新しいリングである。今回、我々はMemo 3D Rechordを用いた人工腱索至適長決定における適切な症例選択と簡便かつ再現性のある縫着方法について検討したのでビデオにて供覧する。【対象および方法】2016年3月から2017年8月にMemo 3D Rechordを使用して僧帽弁形成術を施行した21例(平均年齢67.8歳、男性13例)を対象とした。逸脱部位は前尖6例、後尖11例、両尖4例であり、11例はMICSで施行され、合併手術はCABG1例AVR1例、TAP6例、Myectomy1例、MAZE5例であった。Rechordのみ(±交連部やcleftの微調整)で終了した15例(S群)と人工腱索や他の弁尖への追加手技を必要とした6例(A群)について比較検討を行った。【手術手技】術前の3Dエコーで逸脱部位、範囲に基づき、縫着部位、本数を決定。僧帽弁輪に全周性に人工弁輪縫着用の糸をおき、前尖の大きさから適切なリングサイズを選択し、逸脱部位を正確に評価して乳頭筋にCV-5を必要数縫着した後に、先に弁尖にCV-5を左室側から左房側に通して水テストを行い、適切なバランスになるまで繰り返す。人工弁輪装着後にCV-5をMemo 3D Rechordの適切な部位の輪の部分を通した後にもう一周CV-5を通す。もう1本も同様に通して、CV-5を結紮。最後に輪となっていた糸を抜去する。【結果】(1)手術成績:人工腱索数は4対:1例、3対:2例、2対:14例、1対:4例であり、前乳頭筋に7例、後乳頭筋に17例縫着。縫着部位は前尖に9例、後尖に12例で、追加手技は交連部edge to edge:2例、cleft closure:4例、追加の人工腱索(loop):4例、plication2例であった。術後MRはnone :5例、I度:15例、I-II度:1例。(2)2群間の比較:S群では前尖4例、後尖11例であり、A群の前尖2例、後尖4例に対して差はなかったが、交連部病変はS群1例、A群3例で、A群に多い傾向にあった。A群では人工腱索縫着後に対側の逸脱が顕在化した症例を4例認め、あらかじめCV-5の位置を水テストで確認する前の症例が2例であった。【まとめ】Memo 3D Rechordを用いた人工腱索再建は、片側の逸脱症例で、交連部病変の少ない症例に対して、術前3Dエコーと術中の評価により弁尖の縫着部位を適切に行うことで、簡便に再現性の高い方法で施行可能であると考えられた。

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V2-3

高度tethering を伴う機能的僧帽弁閉鎖不全症に対する前尖方向乳頭筋吊り上げ術

○藤原 立樹, 水野 友裕, 大井 啓司, 八島 正文, 八丸 剛, 黒木 秀仁, 竹下 斉史, 横山 賢司, 櫻井 翔吾, 櫻井 啓暢, 久保 俊裕, 荒井 裕国東京医科歯科大学大学院 心臓血管外科

【背景】機能的僧帽弁閉鎖不全症(Functional MR: FMR)は僧帽弁輪拡大と左室拡大に伴うTetheringが要因であり、弁輪縫縮(MAP)による二次元的な矯正のみでは逆流遺残・再発が問題となる。更にMAPは前尖の開放を制限し、拡張期に機能的僧帽弁狭窄(Functional MS: FMS)を生じ得ることも指摘されている。【方法】FMRの再発予防には弁下組織を含めた僧帽弁複合体の三次元構造の補整が重要と我々は考えている。そこで高度tethering (後尖閉鎖角>45度)を伴う広範囲逸脱病変に対しては、MAPに加えて、FMSを予防すべく前尖方向への乳頭筋吊り上げ(Papillary muscle relocation to anterior mitral annulus: APMR)を基本術式としている。更に後尖閉鎖角に応じて自己心膜パッチによるaugmentationや、低心機能症例に対しては完全心拍動下で手術を行っている。2005年以降にFMRに対してAPMRを行った17例を検討した。【結果】年齢:66±11歳、術前LVDd:65±5mm、EF:30±6%、後尖閉鎖角:64±17度であった。観察期間2.2±2.9年において中等度以上のMR回避率は100%であった。最近の症例(Type I + II + IIIbの複雑病変)に対する手術を中心に自施設の手術手技を供覧する。【症例】67歳女性。原疾患は心サルコイドーシス。急性心不全にて入院、ショック状態となりIABPとPCPSが開始された。LVDd/Ds 67/62mm、EF 30%、tethering height 12mm、後尖閉鎖角80度、前尖prolapseを伴うsevere MRであった。【手術所見】心停止下に弁を観察すると、弁輪の拡大(Type I)、前尖A2、A3と後尖のtethering (Type IIIb)、さらにA1、AC、P1を支配する腱索断裂による同領域の逸脱病変(Type II)を認めた。前乳頭筋に人 工 腱 索 を3対 移 植 しA1、AC、P1に 固 定 し た。後 尖 に は 自 己 心 膜 パ ッ チ に よ るaugmentationを実施した。前乳頭筋と後乳頭筋に乳頭筋吊り上げのGore-Tex糸(CV-4)を縫着した。MAPにはPhysio II (28mm)を使用した。水テストで接合形態を評価し、人工腱索長と吊り上げ長の決定を試みたが、吊り上げ長と人工腱索長が相対的に変化するため困難であった。そこで心拍動下に調整する方針とした。まずA2-P2及びA3-P3の接合形態を見ながら吊り上げ長の決定を行い、適切な位置で結紮固定した。この状態で人工腱索長の調整を行い、逆流が制御される位置で結紮固定した。【結語】FMRに対してはMAPにAPMRを加えることにより、高い再発予防効果を有する弁形成が可能になると考えられた。

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V2-4

乳頭筋分化異常に起因した僧帽弁逆流に対する僧帽弁形成術

○竹下 斉史, 水野 友裕, 大井 啓司, 八島 正文, 八丸 剛, 黒木 秀仁, 藤原 立樹, 横山 賢司, 櫻井 翔吾, 櫻井 啓暢, 久保 俊裕, 荒井 裕国東京医科歯科大学大学院

【背景】乳頭筋分化異常症はきわめてまれな疾患群であり, 低分化な乳頭筋, 腱索が直接僧帽弁尖に付着することで弁尖の可動域を制限し, 僧帽弁逆流を引き起こす. 当院において乳頭筋分化異常に起因した僧帽弁逆流症例2例に対して僧帽弁形成術を施行し良好な結果を得たため, その手術手技をにつき報告する.

【症例】症例183歳男性. 労作時息切れ精査の心エコーにてsevere AS, moderate MRを認め, MRは肥厚した乳頭筋が直接僧帽弁前尖に付着することによる可動域制限が原因と考えられた. 手術において大動脈切開, 弁尖切除をしたところで経大動脈弁輪で僧帽弁前尖に付着する二次腱索に相当する異常乳頭筋を2本とも切離した. CEP Magna 19mmを用いた大動脈弁置換術施行後, 右側左房切開を行い, 僧帽弁輪にCosgrove 26 mmを縫着して弁輪縫縮を施行した.症例233歳女性. 下腿浮腫, 労作時息切れ精査の心エコーにてmoderate MR, severe TRを認め, MRは広範な前尖逸脱, 後尖の短縮, 可動域制限によるものと考えられた. 術中所見では前尖の広範な逸脱に加えて, 後尖全体が低形成で, 前乳頭筋や周囲の二次腱索と付着し, 可動性が低下していた. 逸脱した前尖に対しては人工腱索を移植し, 後尖は付着する前乳頭筋と二次腱索を切離した. Physio II 26 mmにて弁輪縫縮し, 手技を終了した. 三尖弁に対してはContour 3D 26 mmにて弁輪縫縮を行った.

【結果】Case 1はtrivial MR, 僧帽弁圧較差3.7 mmHg (術後15 ヶ月時), Case 2はmild MR, 僧帽弁圧較差5.3 mmHg (術後3 ヶ月時)で経過している. いずれも心不全症状なく外来経過観察中である.

【結語】乳頭筋分化異常症による僧帽弁逆流症に対して弁形成術を施行し良好な結果を得た. 術前エコーで弁尖の可動域制限を認める場合, 腱索, 乳頭筋との関係を十分観察し, 経大動脈弁的アプローチも含めた弁下組織への手技が有用となる場合がある.

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V2-5

脆弱弁輪に対する後尖温存僧帽弁置換術における後尖Detach&Retouch法

○徳永 滋彦1, 落合 由恵1, 久原 学1, 馬場 啓徳1, 安東 勇介1, 宮城 ちひろ1, 瀧川 友哉1, 柳 浩正2, 塩瀬 明3

1JCHO九州病院 心臓血管外科, 2神奈川県立循環器呼吸器病センター 心臓血管外科, 3九州大学病院 心臓血管外科

近年僧帽弁形成術(MVP)数の著しい伸びが認められる中、僧帽弁置換術(MVR)症例は弁輪石灰化(MAC)や再手術症例(redo)、他弁手術との併施などの複雑症例が多く見られる。我々の過去7年のMVR49例でもMAC症例: 26.5%(13/49), redo症例: 57.1%(28/49; うち23例はOMC, CMC, MVP, MVRのいずれか), 大動脈弁との二弁置換術症例: 46.9% (23/49)となっている。このような状況の中、MVRの際には心機能維持のためにも可能な限り後尖温存を目指すが、後尖温存法では後尖が弁輪左室側を覆っているため、通常弁輪左室側の刺入部(または刺出部)が適切な部位にあるか否かは厳密には定かではない。このため我々は後尖温存MVRにおいて弁輪付着部に沿って後尖を一度切離することで後尖弁輪左室側を可視化し確実な弁輪への糸かけを行っている(後尖Detach & Retouch法)。本法ではValve sutureのかけ方はEverting mattressの際は左房側から弁輪に刺入し弁輪左室側を確認のうえ刺出し、その糸で弁輪より切離した後尖をとり後尖温存とする。Non-everting mattressの際はまず弁輪より離断した後尖をとり弁輪左室側刺入位置を目視確認の後に刺入し弁輪左房側から刺出する(図)。脆弱弁輪症例では弁輪へのストレスを回避するためEverting mattressではなく本法によるNon-everting mattress sutureとしSupra-positionに人工弁を置く。心膜での弁輪補強部やMAC残存の場合も同様である。本法により石灰化除去や再手術後の脆弱弁輪症例においても確実な糸かけによるMVRが可能で弁周囲逆流は皆無であった。今回この後尖Detach & Retouch法による脆弱弁輪症例でのMVRをビデオにて供覧する。

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V2-6

僧帽弁複合病変, 広範囲病変に対するnon-resectional mitral repair

○飯野 賢治, 野 宏成, 上田 秀保, 新谷 佳子, 西田 洋児, 鷹合 真太郎, 山本 宜孝, 加藤 寛城, 木村 圭一, 竹村 博文金沢大学 医学部 先進総合外科

2015年1月から2017年7月までに53例の高度僧帽弁閉鎖不全症に対して形成術を行った。Carpentier 分類ではType 1 が8例、2が38例、3が7例であった。Type2病変に対しては、弁尖に高度石灰化病変があり、どうしても切除が必要な場合を除き、切除は行わず、弁尖組織を温存したまま形成術を行っている。後尖限局性病変には、Plication 法、後尖広範囲病変および前尖病変には人工腱索、交連部含む病変にはFixation法を基本に行い、複合病変, 両尖病変にはこれらを組みあわせて対応している。Type 2病変38例では、Plication法のみ施行した症例は15例であり、逸脱部位は14例が後尖、1例が前尖であった。Fixation法のみ施行した症例は8例(AC 3例、PC 5例)、人工腱索のみ施行した症例は6例(1対~ 6対)、Resectionのみを行った症例は1例(P2石灰化病変)であった。複合手技を行った症例は8例(Plication+人工腱索 2例、Fixation+人工腱索 5例、Plication+Resection(P2石灰化病変)1例、double Plication 1例) であった。術後平均MR 0.3度、全例生存、術後合併症はなかった。僧帽弁複合病変, 広範囲病変に対する手術手技を供覧する。症例1は28歳女性、両尖の肥厚とbillowing を認め、middle scallopおよび、medial側の両尖逸脱を伴ったBarlow症例。手術はA2、3に人 工 腱 索、P2に Plication、A1、ACにfixationを 行 っ た。症 例 2 は57歳 男 性、medical portionからPCにかけての逸脱に対して、A3,P3のfixationをおこなった。人工心肺離脱後mean PGは1.7であったが、術中にストレスエコーでは7.9であった。Fixation法の限界と思われた。症例3は54歳男性、P2の広範囲逸脱に対して、curtain effectを避けるためにP2にplication2個所行い、just sizeのCG Future34mmを使用した。Plication法、Fixation法は広範囲病変には限界があるものの、人工腱索と組みあわせることで、広範囲病変、複合病変に対しても対応が可能である。また、やり直し、微調整が可能であり、複雑病変には有用な方法であると思われた。

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V3-1

急性僧帽弁閉鎖不全症に対する緊急僧帽弁手術の4例

○藤田 知之, 福嶌 五月, 島原 佑介, 松本 順彦, 山下 築, 久米 悠太, 川本 尚紀, 小林 順二郎国立循環器病研究センター 心臓外科

【症例】1例目は感染性心内膜炎(IE)による急性僧帽弁閉鎖不全症(MR)の54歳男性。生来健康で手術1か月前から発熱があるも放置。呼吸困難間出現し近医受診。IEによるMRと診断され当院紹介。エコー上、P2 prolapseと前尖にvegetation指摘。手術は僧帽弁形成術(MVP)を施行。P2はresection and suture、A2はvegetectomyのみ施行し温存。経過は感染兆候の再燃なく良好。2例目は感染性心内膜炎(IE)による急性僧帽弁閉鎖不全症(MR)の42歳男性。急性心不全にて挿管、IABP挿入され紹介。A2, A3, P3の広範囲逸脱。人工腱索2対、resection and sutureにて再建した。感染再発なく、逆流もほとんどなく自宅退院するもMR再発し、7か月後僧帽弁置換術(MVR)施行。以降の経過は良好。3例目はアトピー性皮膚炎の既往を持つ人工弁感染(PVE)の47歳の女性。これまでIEおよび繰り返すPVEに対して合計4回のMVRを施行されていた。今回は長引く発熱の精査で入院していたところ、心不全が増悪し、経食道エコーでmassive paravalvular leakageを発見。また、巨大なvegetationも認めたため緊急手術となった。手術は4回目のre-MVR施行。Medial sideに弁輪部膿瘍を認め、人工弁が逸脱していた。同部位をウシ心膜で再建後MVR施行。経過は感染兆候の再燃なく良好。4例目は急性心筋梗塞およびpapillary muscle ruptureによる急性MRの65歳の男性。5日前に胸痛があるも放置、突然息切れ出現し、Walk-inで来院。エコーにてMR, PML prolapseの診断。数時間後に突然心不全悪化し、PCPS, IABP挿入され、緊急手術となった。Medial sideの乳頭筋の完全断裂を認め、修復不可能なため、MVRを施行し、PCPSからの離脱に成功。1週間後にIABPも離脱し、経過は良好。【まとめ】急性MRは急性心不全を引き起こす病態で、緊急手術の対応が求められる。いずれも重篤な病状であったが、特に4例目はおそらく乳頭筋部分断裂であったところ、完全断裂したものと考えられる。Bystanderであったことも 救命できた要因と考えられた。IEは基本的にはMVPが望ましいが、広範囲の逸脱の場合、困難である場合もある。

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V3-2

Spiral Opening法による活動期人工弁感染に対する再二弁置換術の一例

○深田 穣治, 田宮 幸彦, 中島 智博小樽市立病院

【はじめに】大動脈弁、僧帽弁の二弁置換術後に行う再二弁置換術では、弁輪が強固に固定され可動性がなく視野展開が難しい。特に人工弁感染では弁輪周囲の状態を入念に観察し、完全に感染巣を切除する必要があるため、不良な視野での操作では確実な手術結果を期待できない。今回我々は、superior transseptal approachによる左房天井部の切開を大動脈弁輪方向に進めて僧帽弁弁輪を前尖弁輪中央で切断し、さらに無冠尖弁輪中央で大動脈弁弁輪を切断して大動脈切開と接続する切開法(spiral opening法)を採用した。この切開では胸腹部大動脈瘤の手術時に横隔膜を切開することで得られる開放的な視野と同じように、大動脈弁、僧帽弁の弁輪が離断されることで両弁を同時に真上から一望することが可能となる。従って、人工弁の切除を安全、容易に行え、人工弁の逢着時にも広いワーキングスペースが得られ、パッチの大きさを調節することで両弁位ともに任意のサイズの人工弁を移植できる。【症例】77歳、二弁置換術後の男性、消化器外科でS状結腸癌、胃癌手術後に併発したCandida glabrataによる人工弁感染に対し、活動期に上記の方法を用いて手術を行い、術後感染兆候なく二か月後に転院した。ビデオにて供覧する。

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V3-3

感染性心内膜炎の複雑僧帽弁病変に対する僧帽弁形成術の工夫

○吉川 泰司, 戸田 宏一, 宮川 繁, 秦 広樹, 斎藤 俊輔, 堂前 圭太郎, 澤 芳樹大阪大学

【背景】感染性心内膜炎 (IE)に対する弁膜症手術は感染巣の切除及び弁置換になることが多いが、僧帽弁の場合、弁形成術 (MVP)が可能な場合も少なからず存在する。しかし感染巣が広範囲で弁破壊や弁輪破壊を伴う場合、局所再発や弁周囲逆流などの術後合併症を防ぐために感染巣の切除および再建方法に工夫を要する。今回当院のIEに対するMVPの工夫およびその成績について検討した。【対象】2002年から2017年において当院で手術となったIE 160例中、MVRを施行した症例は39例であったが、MVPを施行した48例であった。MVP48例中、Active IE (A)は33例で、Healed IE (H)は15例であった。A群では、感染が限局している後尖病変の場合はresection and suture (RS)を、感染が広範囲に及んでいる場合は感染領域をできるだけ切除し心膜パッチ (PP)+ chordae transfer (CT)またはPP+人工腱索による形成を施行し、H群ではRSまたは弁尖を温存しCTまたは人工腱索による再建を施行することを当科の方針としている。【結果】A群では、施行術式の内訳はRS 11例 (33%)、PP 19例 (CT 9例、人工腱索10例) (58%)、debridement 3例 (9%)であった。H群ではRS 7例 (47%)、弁尖温存 6例(CT 2例、人工腱索 4例) (40%)、PP 2例 (人工腱索2例) (13%)であった。MRがmoderate以上の症例は6例((A群:RS 2例、人工腱索2例、debridement 1例, H群:人工腱索1例)で、そのうち周術期MVRとなった症例は3例、感染制御できず院内死亡となった症例が2例であった。遠隔期では1例のみMRが再発しMVRとなったが、それ以外MRはmild以下であった。【結語】IEの僧帽弁病変に対してMVPを積極的に行い満足いく成績であった。感染巣の完全切除を基本とし、感染巣が広範囲で複雑病変の場合、心膜パッチを用い対側の一次腱索移植または人工腱索による再建は有用であると考えられた。

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V3-4

重度僧帽弁輪石灰化(MAC)を伴う僧帽弁病変に対する手術

○庄嶋 賢弘, 有永 康一, 飛永 覚, 高瀬谷 徹, 大塚 裕之, 高木 数実, 税所 宏幸, 財満 康之, 菊先 聖, 朔 浩介, 福田 倫史, 明石 英俊, 田中 啓之久留米大学 外科学講座

【目的】僧帽弁輪石灰化(MAC)は僧帽弁支持組織の線維性、非炎症性変性による石灰化である。MACを伴う僧帽弁手術は左室破裂や房室接合部断裂、弁周囲逆流などを生じる可能性があり手術に難渋する。2011年以降当施設では重度MACを有する僧帽弁疾患に対して、(術式A)中等度以上の僧帽弁狭窄症がなく、僧帽弁逆流が形成可能であればMACは放置し弁形成のみ行う(術式B)僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁置換術を必要とする場合、MACの内側に適切なサイズの人工弁が留置可能であれば弁尖と左房壁を縫合しMACの内側に新たな弁輪を形成し僧帽弁置換術を行う(術式C)適切なサイズの人工弁留置にMACの除去が必要であれば、可及的にMACを切除・脱灰し僧帽弁置換術を行う(術式D)適切なサイズの人工弁留置にMACの全切除が必要であれば、MACの切除後に左室心筋と左房壁を縫合固定後、異種心膜を補填し弁輪形成の後に僧帽弁置換術を行う方針としている。重度MACを有する僧帽弁手術のビデオおよびその成績を報告する。【対象】2011年から2017年6月までに重度MACを有する僧帽弁疾患に対して手術を施行した11例を対象とした。術式Aが2例、術式Bが2例、術式Cが4例、術式Dが3例であった。【結果】いずれの術式も手術死亡および遠隔期死亡は認めなかった。(術式A)僧帽弁形成は人工腱索再建およびedge to edge techniqueが行われた。2例とも僧帽弁逆流の再然なく、中等度以上の僧帽弁狭窄も認めず経過していた。(術式B)SJM弁による僧帽弁置換術が行われた。1例において術後急性期より溶血性貧血、弁周囲逆流を認め外来経過観察中であった。(術式C)SJM弁2例、CEP弁1例、Mosaic弁1例による僧帽弁置換術が行われた。SJM弁を用いた1例において術後急性期より溶血性貧血、弁周囲逆流を認めたが、他院にて経過観察中に溶血性貧血は軽快した。(術式D)SJM弁2例、Mosaic弁1例による僧帽弁置換術が行われた。SJM弁を用いた1例において術後左室瘤を形成し、術後14日目に再手術を必要とした。異種心膜で補填できていなかった後交連側の僧帽弁輪直下に左室瘤の入口部を認め、パッチ閉鎖術を行った。【結語】いずれの術式も致死的合併症の発生はなかったが、僧帽弁置換術を施行した9例中3例において重篤な合併症(弁周囲逆流2例、左室瘤1例)を経験した。MACを有する僧帽弁疾患に対しては、症例に応じた手技の選択が必要である。

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V3-5

冠動脈バイパス術後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症の右開胸、両尖温存心拍動下僧帽弁置換術

○在國寺 健太1, 水野 明宏1, 小川 辰士1, 齊藤 慈円1, 須田 久雄2

1名古屋市立東部医療センター , 2名古屋市立大学 心臓血管外科

冠動脈バイパス術後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するアプローチは様々な報告があるが、一定した見解はなく、症例に応じて対応している現状である。症例は69歳男性。2005年に冠動脈バイパス術3枝(LITA-LAD,RA-HL-OM)の既往があり、今回重度僧帽弁閉鎖不全のため手術方針となった。術前の心臓超音波検査でEF43%、後下壁にasynergyを認め、僧帽弁のtethering heightは16mmと著明であった。術前CAGでバイパスグラフトはすべて開存していた。手術は右開胸、心拍動下の生体弁僧帽弁置換術を予定した。分離肺換気、軽度上半身左側臥位、皮膚切開10cmの右第4肋間開胸でアプローチし、第5肋間にカメラポートを追加して補助的に内視鏡を使用した。右大腿動静脈送脱血で体外循環を確立し、心嚢内の癒着剥離を行った。術野から上大静脈に脱血管を追加し、左房と上行大動脈にベントを留置し、心拍動が温存される深部温32度の軽度低体温とした。開胸直後からCO2を右胸腔に送気し、TEEで大動脈弁の閉鎖を確認した。右側左房切開で僧帽弁に到達。前尖はvolume reductionを行うためラグビーボール状に弁腹を切除し、両尖を温存した生体弁置換術(Mosaic 27mm)を施行した。癒着と小開胸のため用手的な結紮は困難であり、弁縫着はnot-pusherを使用した。ベントを左室に留置し左心耳を閉鎖し、十分にair抜きを行い左房閉鎖した。TEEで人工弁に異常はなく、左室内のairはごく少量であった。復温後の体外循環からの離脱は容易で、カメラポートから右胸腔にドレーンを留置し手術を終了した。手術時間249分、人工心肺時間172分であった。術後経過は良好で術当日に人工呼吸器を離脱し、術後7日に退院した。心拍動下、右開胸での僧帽弁置換術について文献的な考察を含め提示する。

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V3-6

食道亜全摘、胸骨前再建術後の僧帽弁形成術の経験

○在國寺 健太1, 水野 明宏1, 小川 辰士1, 齊藤 慈円1, 須田 久雄2

1名古屋市立東部医療センター , 2名古屋市立大学 心臓血管外科

食道癌術後の開心術、特に胸骨前再建術後の開心術の報告は極めて少なく、そのアプローチには工夫を要する。また、食道癌術後は経食道心臓超音波検査(TEE)が不可能であり、僧帽弁形成術を施行した症例は検索範囲内に認めなかった。症例は68歳男性、2016年9月に食道亜全摘および胸骨前胃管再建術を施行された。癌は再発なく経過していたが、2017年5月に心不全のため入院し、重度僧帽弁閉鎖不全症、中等度三尖弁閉鎖不全症、発作性心房細動が指摘され手術適応と判断した。前回食道癌手術は右第4肋間開胸で施行されており、右開胸では同一創部からのアプローチとなり強固な癒着が予想された。そのため胸骨正中切開アプローチを選択した。手術はまず上腹部のScarに沿って小開腹し再建胃管を同定した。胃管前面は比較的軽度の癒着で、鋭的・鈍的に剥離をすすめ皮膚切開を胸部正中に徐々に延長した。胃管右側を皮下組織に沿って慎重に剥離し、肋骨前面まで到達した後は再建胃管を筋膜と一塊に剥離することで、再建胃管や栄養血管を損傷することなく胸骨前面が露出でき、通常の胸骨正中切開が可能であった。開胸器はMICS用も含め複数準備をしていたが、通常の開胸器をかけることができ、さらに頚部と上腹部を十分に剥離するとほぼ通常の視野を得ることが可能であった。両側PV isolationを行い、完全体外循環下に右側左房切開で左房に到達し左心耳を閉鎖した。僧帽弁はP3の腱索断裂、一部石灰化を認める病変で、肉眼的に治癒後の感染性心内膜炎と思われた。P3の三角切除・縫合、30mmのannuloplasty ringで弁輪縫縮を行った。次いで三尖弁輪縫縮術を追加した。僧帽弁の評価はepicardial echoで評価し、MRなく手術を終了した。手術時間298分、人工心肺時間115分、心停止時間70分、剥離に要した時間はおよそ70分であった。術後経過は良好で、術翌日に人工呼吸器を離脱し術後6日に退院した。再建胃管の剥離についてビデオを供覧し、文献的な考察を含め本症例の知見を提示する。

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V4-1

TAVR後の重症MRに対しMVPを施行した1例

○山根 心, 柴田 利彦, 村上 貴志, 藤井 弘通, 高橋 洋介, 森崎 晃正, 西村 慎亮, 左近 慶人大阪市立大学

TAVR後の僧帽弁手術においては、大動脈弁位人工弁の特性に配慮する必要がある。我々はCoreValve留置後の高度MRに対して僧帽弁形成術を行ったので、報告する。症例は79歳女性。うっ血性心不全で前医に搬送され、精査にて重度のASと重度のMRを指摘された。心不全の加療に伴いMRが中等度まで改善したため、ASに対し他院にてTAVRを施行された。TAVR後、半年が経過してもMRは改善せず、うっ血性心不全による入院加療を繰り返し心不全コントロールに難渋したため、MRの手術加療目的に当院に紹介となった。心エコーにて、弁輪拡大に伴うcoaptation不良と後尖の硬化、軽度のtetheringに伴う重度のMRを認め、逸脱はなかった。僧帽弁の形成は、弁輪縫縮、二次腱索の切断、edge to edge repairを行った。TAVR後のMVPにおける戦略としては1)CoreValveを使用されており、上行大動脈遠位で大動脈遮断を行うため必要があるため右腋窩送血を行った。2)心筋保護液は22度であったため、低温によるNitinolの変形を回避するために、初回の順行性の心筋保護液注入の際には心房の牽引を解除した。3)アプローチは、CoreCalveにストレスなく良好な視野を得るために経中隔アプローチを行った。4)前尖の弁輪から約1cm程度CoreValveが突出しており前尖の弁輪への糸かけはCoreValveを損傷するリスクがあるため、後尖弁輪にTaylor bandを縫着し弁輪縫縮を行った。術後、MRはmildに改善し、術後22日目にリハビリ目的に転院となった。現在まで心不全再発なく経過している。今回、TAVR施行後の重症MRに対しMVPを施行する上で、様々な工夫を行い、安全に手術を施行し得た。

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V4-2

僧帽弁位生体弁機能不全に対し、右開胸・心室細動下にvalve-on-valve法を施行した1例

○梶山 洸, 寺西 智史, 澤田 康裕, 庄村 遊, 藤永 一弥, 天白 宏典, 水元 亨安城更生病院

【はじめに】近年、僧帽弁再置換術の成績は向上しているが、初回弁置換術に比べ死亡率は約2倍との報告もある。今回我々は、3度の開心術(左開胸1回・胸骨正中切開2回)の既往のある患者に対し、手術侵襲の軽減を目的に右開胸、心室細動下にvalve-on-valve法を施行した1例を経験したので報告する。【症例】63歳女性。既往歴:僧帽弁狭窄症(MS)に対し1965年左開胸にてCMC施行、1982年、MS進行に対しMVR(CEP27mm)、2000年生体弁機能不全に対し再MVR(CEP31mm)+TAP施行。2011年10月頃より心不全を来し精査の結果、生体弁機能不全(MS)と診断され、再手術となった。今回は、機械弁でのMVRをご希望された。心臓も大きく癒着も高度であることが予測されたため右小開胸アプローチを選択した。また大動脈周囲の癒着も懸念されたため、大動脈遮断は行わず心室細動下で行うこととした。右第4肋間開胸施行し右側左房および大動脈一部を可弓的に剥離した。右大腿静脈(23Fr)および右総頚静脈脱血(14Fr経皮的に挿入)、右大腿動脈送血(18Fr)で人工心肺を開始し右上肺静脈からヴェントチューブを挿入した。29℃まで冷却し心室細動となったところで、右側左房切開施行しCE弁の弁尖のみを切除した。弁座はそのまま留置しSJM弁27mmを用いて弁座どうしが密着するように2-0エチボンドプレジェット付きマットレス縫合14針にて縫着した。人工心肺からの離脱は容易であった。手術時間は308分、体外循環時間は204分であった。輸血はRCC4単位。術当日に呼吸器より離脱し、術後心エコー検査でも異常を認めず術後14日で退院となった。【まとめ】僧帽弁位生体弁再手術においては、癒着剥離といった手術手技の煩雑さや、生体弁を取り外す際の心破裂、また再弁置換術後のperivalvular leakageといった問題がある。これらの問題を軽減するため右開胸・心室細動下のvalve-on-valve法は有用な術式の一つと考えられた。

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V4-3

A弁位CEP弁SVDに対する Valve on valve techniqueによる再弁置換術

○岡本 浩, 為西 顕則, 藤井 恵, 藤本 靖幸市立四日市病院心臓血管外科

【目的】生体弁構造劣化 (SVD)に対する再弁置換術では弁をまるごと切除すると高率に弁輪欠損から弁輪破裂の危険を伴う。心膜patchで弁輪再建を行えば長時間の心停止を要するなど手術riskが高まる。弁尖とステントポストのみを切除して弁座上に新しい弁を縫着するValve on valve techniqueはこのriskを回避する優れた術式であるが、内側から金属フレームで弁尖をステントポストに圧着しているCEP弁(特にA弁位)にこの術式を適用するには工夫を要する。当科では80歳以上のCEP弁SVD 2例にValve on valve techniqueを行い良好な結果を得たのでその工夫をビデオで供覧したい。【症例1】65歳時ARに対しAVR (CEP 25)を行った男性で、77歳頃より弁尖の硬化による圧格差が増大(90mmHg)。80歳時、心不全症状が増悪して再弁置換術となった(Magna 21、pump 183 min, cross-clamp 83 min)。上行大動脈の拡大もあり(φ5cm)、Reduction Ascending Aortoplastyも併施した。術後3Wで独歩退院。【症例2】65歳時ARに対しAVR (CEP 23)を行った男性で、84歳頃より弁尖の硬化による圧格差が増大(57mmHg)。86歳時、心不全症状のため再弁置換術となった(Magna 19、pump 122 min, cross-clamp 86 min)。術後3Wで独歩退院。【手術】右腋窩動脈送血、上下2本脱血による体外循環、心停止下に大動脈を切開した(症例1はhockey-stick incision, 症例2はcircular incision)。A弁位CEP弁の内側の金属フレームと3か所のステントポストを覆うダクロンヴェロアを尖刃で切離し全周にわたり繋げると内側の金属フレームと弁尖は自然にくり抜かれる形で切除できた。ステントポストは柔らかく容易に剪刃で切除できたので、あとは残された平らになった弁座(cuff)に2-0 nespolene糸のmattress sutureをかけ新しい弁をsupra-annular positionに縫着した。【結論】対象が高齢者であることを考慮すると、弁輪再建を伴う再AVRのような侵襲の大きい長時間手術は極力避けたい。Valve on valve techniqueはこれを回避する有用な方法である。初回の弁がブタ大動脈弁なら弁尖とステントポストの切除は容易であるが、内側に金属フレームのあるCEP弁ではフレームと弁尖をステントポストから切離し、その後ステントポストを切除する2段階法で同様の術式を行うことができた。ただし新しい弁は1-2 size downとなるので、初回弁は21以上のsizeが必要である。

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V4-4

右腋窩小切開による大動脈弁置換-ストーンヘンジテクニックによる新しい視野展開法-

○山崎 真敬, 吉武 明弘, 木村 成卓, 高橋 辰郎, 千田 佳史, 川口 新治, 林 可奈子, 稲葉 佑, 泉田 博彬, 山下 健太郎, 大野 昌利, 川合 雄二郎, 饗庭 了, 伊藤 努, 高梨 秀一郎, 志水 秀行慶應義塾大学医学部 外科(心臓血管)

【背景】右腋窩小切開アプローチによる大動脈弁置換術が新たな低侵襲術式として注目を集めている。この方法は正中切開に比し美容的利点を有しており、胸骨に切開を加えることもないため早期の社会復帰が可能だが、その一方で上行大動脈基部までの深い外科的視野と手術操作の難しさは明らかな欠点である。必然的に低侵襲手術に特化した長いシャフトを持つ器具やノットプッシャーなどの習熟が必要で、大動脈遮断時間や体外循環時間の延長、予想外の吻合部出血など緊急時の対処が困難となる懸念もある。我々は正中開胸下の大動脈弁置換術と同様に安全かつ簡便に手術が行えるよう、特殊な方法で心臓全体を右胸壁に引き寄せることを考案した。心膜を引き寄せる牽引糸が創部の外周を取り囲むように配置されることから、英国の遺跡にちなんでこれをストーンヘンジテクニックと名付けた。【方法】大動脈基部の位置に従って通常は右第3または第4肋間開胸で右胸腔内に到達する。大腿動静脈を利用して人工心肺を確立した後、切開した心膜の牽引糸を創部の外周上に導き、出来るだけ心臓を右胸壁に引き寄せた状態で固定する。特に術者側手前の数針によって心膜を強く右胸壁側やや頭側に牽引すること、そして頭側の牽引糸は前方に引き寄せ、大動脈遮断が容易になるよう配置しておく。Wound protectorがあれば良好な視野を作ることが出来るため、開胸器は使用しない。このような方法で上行大動脈および基部は術者の指が届く範囲にまで引き寄せられる。この新しい視野展開法の要点は以下のとおりである。1.上行大動脈および基部を指の届く範囲に引き寄せることで、ノットプッシャーや長いシャフトの道具を必要としない通常の大動脈弁置換が可能である(大動脈遮断時間や体外循環時間が短縮できる)。2.牽引糸を一定間隔で創部の外周上に導くことで、術中に虚脱肺の加圧が視野の妨げにならず可能である(再膨張性肺水腫の発生予防に役立つ)。3.Wound protectorにより胸壁の厚みを出来る限り圧縮し、創部から上行大動脈および基部までの距離を短くすることが可能である。【結語】この新しい視野展開法は胸骨正中切開の大動脈弁置換術と同じぐらい簡便かつ安全に遂行でき、大動脈遮断時間、体外循環時間の短縮が可能であった。これらの経験はまだlearning curveの段階にあり、今後の経験数増加やsutureless valveの使用開始とともに更なる手術時間の短縮が可能である。

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V4-5

弁輪部膿瘍が心室中隔へ伸展した大動脈弁位感染性心内膜炎症例に対するKonno手術

○土居 寿男, 小尾 勇人, 横山 茂樹, 深原 一晃, 芳村 直樹富山大学

<背景>Konno手術は、小児の狭小弁輪や左室流出路狭窄を伴ったASに対する有効な弁輪拡大術であるが、成人においても様々な病態に対して応用可能である。今回我々は、大動脈弁輪部膿瘍が心室中隔へ伸展した大動脈弁位感染性心内膜炎症例に対して、Konno手術を施行し良好な結果を得たので供覧する。<症例>58歳、男性。発熱と咳嗽が持続し、当院内科を受診。連鎖球菌による感染性心内膜炎と診断された。頭部MRIで多発性新規脳梗塞を認めたため、抗生剤投与後待機的に手術予定とした。しかし、心エコー上、右冠尖弁輪部に膿瘍形成が疑われ、心室中隔方向へ伸展していったため、準緊急手術の方針とした。<手術>上行大動脈前壁を縦切開した。大動脈弁は二尖弁であり、完全に切除すると、右冠動脈入口部直下から左冠尖に向かって弁輪部膿瘍があり、弁輪を超え心室中隔にも広範囲にポーチ状の膿瘍腔が存在した。十分な心室中隔の膿瘍腔の郭清、形成を行うためにKonno Incisionを用いることとし、主肺動脈弁輪より2cm程中枢側で右室流出路を横切開し、その切開線を右側へ延長した。上行大動脈縦切開線を弁輪を超えて中枢側へ延長し、右室流出路の横切開線とつなげ、さらに膿瘍腔を形成した心室中隔を大きく切開した。膿瘍腔を十分に郭清し、心室中隔切開縁に4-0アスフレックスフェルト付を左室から右室に抜くようにU字縫合でかけ、木の葉状にトリミングしたHemashieldパッチを心室中隔切開部に縫着し、心室中隔を形成した。次いで、残存した大動脈弁輪及びHemashieldパッチで形成された大動脈弁輪に2-0エチボンドプレジェット付を掛けて、SJM 27mmでAVR施行した。大動脈切開部は、心室中隔にあてたHemashieldパッチ片縁を用い4-0プロリンにて連続縫合閉鎖した。最後に、右室流出路切開部を、別のもう1枚のHemashield パッチにて閉鎖した。房室ブロックを併発することなく、人工心肺から容易に離脱した。術後抗生剤を4週間継続し、炎症反応は正常化した。心エコー上、人工弁は良好に機能し形成した中隔も問題なく、術後20日目に独歩退院した。<結語>Konno手術は、大動脈弁輪から心室中隔へ広範囲に膿瘍腔が伸展した大動脈弁位感染性心内膜炎に対し、膿瘍腔を十分に郭清しつつ大動脈弁置換術を施行し得る優れた術式と考えらえた。

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V4-6

Porcelain AortaとLMT3枝病変合併したASに対するApico-Aortic Bypassの1例

○大林 民幸, 三木 隆生, 羽鳥 恭平, 平井 英子, 安原 清光, 大木 聡伊勢崎市民病院

【始めに】狭小な全周性大動脈石灰化(Porcelain Aorta)に、LMTの冠動脈3枝病変を合併した重症ASではTAVR全盛の昨今においてもその治療戦略に工夫を要する。今回の我々の症例では右大脳動脈の99%狭窄、左右総腸骨動脈の閉塞、脳幹部髄膜腫を合併していた。当初心尖部アプロ-チTAVRも検討されたが大動脈硬化のためカテ操作が困難と判断され、更に大動脈基部置換+CABGも考慮されたが循環停止下末梢側人工血管吻合に難渋しそうなため、Apico-Aortic bypassにon-pump CABGを同時施行する方針とした。本術式ではLV connectorの使用できない現況では出血予防のため左室へのconduitの吻合方法などに注意を要するため、ビデオで供覧する。【症例】79歳の小柄な女性でCCS3度の不安定狭心症の状態であった。体表心エコーではPSV3.9m/s、AVA0.5cm2の重症ASでEF62%。MildのARとMRを合併。上腕からの心カテでは大動脈石灰化のめカテ操作が十分できずRCA#1の閉塞とLMT病変の疑い。術前に右中大脳動脈狭窄にPTA施行。右総腸骨動脈CTOの拡張は不能で左腸骨動脈狭窄は拡張に成功。【手術】仰臥位でSVG2本を採取。改めて右側臥位とし左第6肋間開胸。大腿動脈送血は不能にて横隔膜上の下行大動脈から送血。右大腿静脈から脱血して体外循環を確立。Th6に22mm1分枝人工血管を端側吻合して送血は分枝送血に変更。Th5に自動吻合器でSVGを中枢側吻合。心嚢を切開して肺動脈本幹に脱血管を追加。心拍動下にLADにSVGの末梢側吻合。別のSVGでPL最終枝に末梢側吻合して先のSVGにY型に吻合した。電気的心室細動として心尖部左側を尖刀で切開して16mm、24mmのpuncherを使用して十分な吻合口を作成。吻合口周囲にはド-ナツ型の牛心膜をあて、8cmの20mm人工血管を5cm内側に折り返し内腔から貫壁性に心外膜側に14対のマットレス縫合をかけて結節縫合。更に開口部全周に連続縫合。直流除細動して折り返した人工血管を左室から引き出し、生体弁を内装した22mm人工血管と吻合、更に下行大動脈からの人工血管と吻合して完成。第2病日に呼吸器を離脱して26病日に独歩転院した。【結語】重度大動脈石灰化を合併したハイリスク重症ASでもTAVRの困難な症例が存在し、一つのオプションとして本術式は有効であると思われる。

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V5-1

Manouguian 変法による弁輪拡大を伴う大動脈弁置換術の出血させないコツ

○松下 努, 増田 慎介, 林田 恭子, 神崎 智仁国家公務員共済組合連合会 舞鶴共済病院

【はじめに】大動脈弁置換術は確立された手術であり、人工弁の改良によって、patient-prosthesis mismatch (PPM)の問題も解消されつつある。とはいえ、まれではあるが特に生体弁使用時に狭小弁輪に遭遇することもある。この際に、多少のPPMを許容したり、機械弁や新しい有効弁口面積が大きいといわれている生体弁を植え込む方法もあるが、昔から行われている弁輪拡大術もひとつの選択肢であると思われる。Manouguian変法による弁輪拡大術について、特に、最大の危惧である底部からの出血防止法を中心に供覧する。【症例供覧】73歳女性。中等度大動脈弁狭窄症および左冠動脈主幹部75%狭窄に対して生体弁による大動脈弁置換術および冠動脈バイパス2本を行った。BSA=1.59m2。であったため、Mosaic ultra弁の指摘サイズ23mmに対して21mmのサイザーが通過したのみであり、弁輪拡大を行うことにした。大動脈斜切開を左冠尖と無冠尖の交連部を超え、僧帽弁前尖の手前まで延長した。弁輪拡大部には2重にした牛心膜パッチを補填したが、この際、底部にmattressで固定した5-0 モノフィラメント糸を、mattressより底部側にももう一度針を通し2重縫合とした。また大動脈弁輪より底部に関しては、牛心膜パッチ側から針を刺入する際にパッチとnative組織の両方を通すようにして出血予防とした。【結果】2010年7月より2017年8月までに15例(女性13例)に対してこの弁輪拡大術を施行した。平均BSA=1.50m2併施手術は冠動脈バイパス4例、三尖弁形成1例であった。平均大動脈遮断時間144分。当初EOAi=0.76であったが弁輪拡大後0.94に改善した。この術式で弁輪拡大部底部よりの出血は認めず、出血再開胸症例もなかった。【考察】Manouguian変法による弁輪拡大を伴うAVRは PPMを回避する第一選択と考えている。この術式由来の出血関連合併症は認めていない。 この方法でEOAiは弁輪拡大を行わなかった場合の0.76から0.94に改善した。

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V5-2

Fenestrationを伴うARに対する自己弁温存大動脈基部置換術(VPARR: Remodeling)

○三浦 友二郎, 川口 信司, 川口 保彦地方独立行政法人 静岡市立静岡病院 ハートセンター 心臓血管外科

cusp fenestration (以下Fenest) の多くは先天性かつ非機能性であるが大動脈弁形成時には逆流の原因となる可能性があり、時には軽視出来ない病態となる。FenestによるARを術前TEE-3Dでも正確に診断するのは容易ではなく、それ以外が逆流の主因となっているときは尚更である。また、Fenestは交連を挟んだ対側弁尖にも別のFenestを合併することは少なくない。今回Fenestを伴う重症ARに対する3例のRemodelingを経験したので手術ビデオを供覧する。各症例比較的大きなFenestがあり、Fenestと弁尖逸脱の場所により対処を変更し た。Remodelingは ド イ ツHomburgのSchaefers法 に 則 り、CV-0に よ るSuture Annuloplasty(SAP)を併施した。1例目40歳男性 NYHA III AAE ARと持続性心房細動に対するRemodelingと肺静脈隔離術を施行。術前のエコーでFenestが原因のARは同定されていなかった。Fenestが原因のprolapseが残りsecond clamp、心膜補強にて形成した。2例目60歳男性 NYHA II AAE ARに対するRemodelingを施行。Fenestのある弁尖に逸脱がないため放置した。3例目:57歳男性 NYHAII AAE ARに対するRemodelingを施行。Fenestのある弁尖に逸脱を認めていたため予め心膜補強にて形成。いずれの症例も逆流なく形成は終了し、術後は良好な転帰を辿った。Fenestに対する心膜補強を伴う大動脈弁形成術は診断の難しさや手技の煩雑さなどあるが適切な逆流の部位診断で安全な時間内に逆流は制御でき、若い患者層には理想的な手術である。Suture dehiscenceや遠隔期のmaterial calcification,また残ったstrand ruptureによるARなどの可能性もあり、今後の経過観察が大切である。

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V5-3

一尖大動脈弁による大動脈弁閉鎖不全症に対する大動脈弁形成術

○安元 浩1, 天願 俊穂1, 伊志嶺 徹1, 中須 昭雄1, 川副 浩平2

1沖縄県立中部病院 心臓血管外科, 2関西医科大学総合医療センター

はじめに;術前二尖弁と診断されていた一尖大動脈弁による大動脈弁閉鎖不全症(AR)に対する大動脈弁形成術について報告する。症例; 47歳、女性。8歳時にARと診断され、その後経過観察されていた。次第に左室が拡大してきたため手術予定となった。術前心エコーでは左右型の二尖弁で左冠尖から偏心性のAR Jetを認めた。手術は自己心膜切除後、心膜をグルタールアルデヒドにて10分間処理しておいた。大動脈弁を観察すると、左冠尖と右冠尖の間に交連を認めたが他に交連のない一尖大動脈弁であった。交連側の弁は正常であったが、交連と反村側の弁は肥厚し一部石灰化していた。肥厚部をメスを用いてスライスし薄くすることによって可動性を向上させた。さらに石灰化部分を切除し、同部位を準備しておいた自己心膜で補填した。心膜が一部余った形になったため余剰心膜を切断し縫合した。また右冠尖側の側の弁尖が少し落ちていたためplicationをおいて引き上げた。今回弁輪拡大は見られなかったため弁輪縫縮は行わなかった。人工血管はJグラフト24mm直管を選択し、ST junctionを縫縮した。術後経過は良好で術後14日目に退院した。退院時の心臓超音波検査ではARを認めなかった。

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V5-4

大動脈基部病変に対する術中aortic root endoscopyの有用性

○蒲原 啓司, 古賀 秀剛, 高木 淳, 吉田 望長崎光晴会病院

【目的】大動脈弁形成術では、病態を加味した術式選択と的確な術中評価が重要である。ただ、術中弁評価は心停止下の大動脈が開放された状況で行うしかなく、最終的に心拍動再開後TEEに頼るところが大きい。当科では、生理的状況に近い形で弁形態評価を行うため術中内視鏡を導入している。今回、上行基部病変を伴うARに対して術中内視鏡が有用であった症例を経験したので内視鏡所見を中心にビデオで供覧する。【対象】2015年11月-2017年7月に内視鏡を施行した6例。平均年齢61歳(42-73)で内男性4例、Marfan症候群1例。病変はroot拡大2例, root+ascending拡 大3例, ascending拡 大1例。AR3.2度(2-4)で 内BAV 2例。弁 輪、Valsalva、STJ径はそれぞれ23 mm(19-26)、47 mm(39-56)、39 mm(32-47)。【術式】CPB導入後、遮断下にSTJ末梢で大動脈前面を切開。選択的冠灌流にて心停止。大動脈切開部を一旦閉鎖後、遮断鉗子直下の巾着縫合通しで硬性内視鏡(5 mm)をroot内に挿入。Crystalloid cardioplegic solutionをroot内に注入し圧を掛けた状態で弁形態評価。STJレベルで大動脈離断後弁尖性状、EH及びGH、弁輪径等測定し初回内視鏡所見と併せて術式決定。弁形成及び基部グラフト縫着後EH等各項目測定。再度内視鏡評価行い必要に応じてcentral plicationや annuloplasty追加。内視鏡で弁形態を最終評価。【結果】残存ARのため再心停止を要した症例、手術、病院死亡なし。Root型4例にremodeling法(内2例annuloplasty追加)、ascending型1例に上行置換+STJ plication施行。弁温存した同5例ともにAR 0-1度。Root型1例はremodelingを試みたが最終内視鏡で弁中央接合不全が残存したためBentallに術式変更した。Central plicationやring annuloplasty例では追加前後でEH改善に加え内視鏡でも弁接合改善を確認できた。【結論】術中内視鏡を各手技ごとに行うことで、段階的なに弁形成の効果判定及び弁形態評価が可能であり有用である。

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V5-5

大動脈弁形成術における内視鏡的評価の有用性

○松濱 稔, 國原 孝, 佐々木 健一, 有村 聡士心臓血管研究所付属病院

【目的】大動脈弁形成術後の評価は交連を均等に牽引して直視下で行うが、最適な角度、方向、強度で牽引するのは困難で、生理的な状態とは言い難い。そこで人工血管に水圧をかけた生理的に近い状態における内視鏡による弁尖形態評価法の有用性を検討した。【対象と方法】2014年3月から2017年7月までの大動脈弁形成術94例中、待機的単独弁形成術39例のうち、remodeling + external suture annuloplastyを行った23例を2015年12月の内視鏡評価導入前の11例(A群)と後の12例(B群)にわけて検討した。二尖弁はA群2例 (18%)、B群7例 (58%)、Marfan症候群はB群に1例だった。評価は基部に縫着した人工血管内部に硬性鏡を弁尖の中央に向けて垂直に挿入し、末梢側の人工血管を閉鎖し、中枢側に留置した心筋保護カニューラよりクリスタロイド心筋保護液を50-60 mmHgの圧で注入して施行した。観察後に必要に応じてcusp repairを行い、再度内視鏡による評価を行った。内視鏡の使用に関しては院内倫理委員会の承認を得、全ての症例より同意を取得した。【結果】両群とも在院死、出血再開胸その他重篤な合併症を認めなかった。A群と比較してB群では人工心肺時間(129±14 vs. 176±44分、P=0.005)、遮断時間(109±13 vs. 141±34分、P=0.010)ともに有意に延長した。三尖弁に限っても人工心肺時間(130±15 vs. 178±10分、P<0.001)、遮断時間(108±14 vs. 142±7分、P=0.001)とB群で有意に延長した。B群の7 例で内視鏡評価後に手技を追加した。大動脈閉鎖不全の重症度は術前で有意差を認めず(3.5±0.7 vs. 2.8±1.6、P=0.22)、術後も同様であった(0.8±0.7 vs. 0.4±0.8、P=0.24)。A群の二例で縫合裂開、弁腹穿孔により、B群の一例で心膜パッチ部からの逆流により、いずれも術後在院中に再手術を必要とした以外は21±12 ヶ月の経過観察中、両群とも再手術を認めていない。【結語】内視鏡評価により操作時間が延長したが安全範囲内であった。一方、内視鏡評価により半数以上に追加のcusp repairを行うことができ、二尖弁が過半数を占めるB群にもかかわらず術後の大動脈閉鎖不全の重症度をA群と同等以下に保つことができた。水圧をかけた生理的な状態で観察することで無用な再遮断を防いだ可能性があり、安全で確実な大動脈弁形成を行う一助となると思われた。

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V6-1

両側冠動脈口閉鎖を伴うPA/IVSに対し,Ao-RV shuntにより救命しえた1例

○櫻井 一, 野中 利通, 櫻井 寛久, 小坂井 基史, 大沢 拓哉, 和田 侑星JCHO中京病院 心臓血管外科

【はじめに】PA/IVSにRVDCC (RV dependent coronary circulation)を伴うと周術期の虚血性eventが高くなるとされるが,さらに両側冠動脈口閉鎖も合併した例では,心移植以外での救命例の報告はない.今回,同症例に対し,初回のBT shunt術にAo-RV shuntを加えることで耐術し,BDGまで到達した症例を経験したので報告する.【症例】胎児期に単心室症を疑われ当院紹介,在胎39週6日,3052 gで出生.生後PA/IVS, PDA, 低形成右室,右室冠動脈類洞交通と診断しPGE1投与を開始.日齢22に心カテおよびBASを施行.LV 63/e8, RV 90/e13, LVEDV 258%N, RVEDV 9%Nで,AoGでは冠動脈は造影されず,RVGから両冠動脈が造影された.これまで心移植以外で救命例がないため,1) 移植,2) 内科的治療またはBTSののち生後3か月すぎのBDGを待機,3) Ao-RV shunt + BTS,4) 看取りのみなどの選択を示し両親と相談の上,3)を選択し日齢41で手術施行.手術はCVPを低下させないよう慎重にCPBを開始し,full flowにするとともにRV前面から逆行性冠還流用のバルーン付きカテーテルをタバコ縫合をかけてRV内に挿入し,Ao遮断して心筋保護液を経RVで注入し,心停止とした.上行AoからRVへEPTFE 3.0 mmのgraftで冠血流路を再建し右BTSとPDA閉鎖も行った.POD4二期的閉胸,POD7抜管し,術後左心機能の改善を認めた.日齢77に,PDA収縮に伴うnon-confluent PAに対し左肺動脈形成術を介し,生後4 ヵ月でBDGを施行し,経過は良好である.【考察と結語】両側冠動脈口閉鎖を伴うPA/IVSは,これまでに10例あまり報告されているが心移植以外での救命例は見当たらない.診断前や術前に状態が悪化し死亡することが多く,疾患自体の頻度はおそらくより多いものと推測される.RVDCCに対するAo-RV shuntは報告されているが,両側冠動脈口閉鎖を伴う例はなく,本疾患での移植以外での救命例はほとんどないと思われ,術式とあわせ文献的考察をまじえて報告する.

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V6-2

大動脈弓離断複合に対する大動脈弓再建の工夫

○石丸 和彦1, 荒木 幹太1, 坂本 滋2

1金沢医科大学病院 小児心臓血管外科, 2金沢医科大学病院 心臓血管外科

大動脈弓離断症(IAA)複合に対する治療成績は向上しており、様々な大動脈弓再建方法が報告されている。しかし、術後大動脈再狭窄、反回神経麻痺、気管支狭窄などの術後合併症も散見されている。今回B型IAA複合症例に対する2心室修復術時の大動脈弓再建に工夫を行った症例を経験したので報告する。(症例) 1か月男児、体重 3kg。在胎37週4日2656gで出生、診断はIAA(type B), VSD, PDA, PFO, bicuspid aortic valve, 22q11.2欠失症候群。出生後多呼吸が進行、大動脈弁輪径5.4mm(90% of normal)、大動脈弁下狭窄はなく、上行大動脈径 5.6mm、、LVDd 90% of normalであったが、大動脈弁の開放制限を指摘されたため、生後2日目両側肺動脈絞扼術を先行する方針とした。その後循環動態は安定し、PGE1投与を継続、その後の精査で二心室修復可能と判断され、生後1か月時手術施行となった。手術は右腕頭動脈、下行大動脈送血を行い、下行大動脈遮断、選択的脳灌流、選択的冠灌流下に動脈管を結紮離断後、上行大動脈壁をL字切開後flapとして下行大動脈と吻合し大動脈弓後壁を作成した。つづいて心停止後、自己肺動脈前壁を採取し、大動脈弓前壁patchとして縫合し大動脈弓を作成後(図参照)、肺動脈弁越しにVSDを閉鎖したのち大動脈遮断解除を行った。心拍動下で主肺動脈欠損部は新鮮自己心膜で補填した。術後経過はおおむね良好で、術後再建大動脈狭窄、気管支狭窄は認めず。(まとめ) 上行大動脈のL字切開によるflap作成、前面を自己肺動脈壁で補填することで術後吻合部狭窄を回避し得た。

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V6-3

著明な右室拡大を伴う三尖弁閉鎖不全に対する三尖弁乳頭筋間縫縮術

○池田 義, 井出 雄二郎, 坂本 和久, 金光 ひでお, 植山 浩二, 山崎 和裕, 湊谷 謙司京都大学 心臓血管外科

右室拡大に伴う二次性三尖弁閉鎖不全(TR)に対しては一般に弁輪縫縮が行われるが、小児例においては患児の成長を考慮する必要があり、術式に工夫を要する。今回われわれは、著明な右室拡大に伴う二次性TRを呈した低体重小児例に対し、三尖弁乳頭筋間縫縮を行い良好な結果を得たので供覧する。【症例】症例は2歳男児。手術時体重2.7kg。診断は心房中隔欠損 (ASD)、動脈管開存。在胎30週、848gで出生。日齢1に動脈管結紮術を施行。その後慢性肺疾患、肺高血圧のため在宅酸素療法を施行していた。経過中にASDによる左右短絡が増加し、右室拡大とsevere TRによる心不全増悪のため手術となった。術前の心エコーでTRの主因は右室拡大による三尖弁のtetheringと判断した。術中所見では三尖弁の弁尖、弁下組織に異常を認めず、弁輪拡大は中等度であった。経三尖弁的に三尖弁前乳頭筋根部と対側の心室中隔間にU-stay sutureをかけ、前乳頭筋と中隔尖に付着する乳頭筋との距離を縫縮した。これによって術中水テストによる逆流はほぼ消失した。児の成長を考慮し、弁輪縫縮は行わなかった。ASDは直接閉鎖した。術後1 ヶ月後の心エコーではTRはmildに改善していた。【考察】左室拡大に伴う僧帽弁tetheringによる僧帽弁閉鎖不全に対しては僧帽弁乳頭筋間縫縮が一定の逆流制御効果を持つ。本症例の術前心エコーにおける三尖弁病変が形態的に左室拡大の僧帽弁tetheringと類似していたため、乳頭筋間縫縮を行ったところ良好な結果が得られた。本法は簡便かつtake-downも容易であり、右室拡大を伴うTRに対して選択肢となりうる術式であると思われた。また、弁輪、弁下組織の成長を妨げることが無いため、特に小児においては有用な方法と考えられる。【結語】右心室拡大を伴うTRに対して、三尖弁乳頭筋間縫縮は有用な手術手技であると思われた。

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V6-4

LV training/palliative atrial switchを経てDouble switch手術を行った無脾症の1例

○今井 健太, 猪飼 秋夫, 廣瀬 圭一, 村田 眞哉, 菅野 勝義, 石道 基典, 福場 遼平, 坂本 喜三郎静岡県立こども病院

【はじめに】LV training/palliative atrial switchを経て,Double switch手術(DSO)を行い得た無脾症例を経験したのでビデオを中心に報告する。【症例】7歳男児。診断はAsplenia, Right isomerism, Dextrocardia, iAVSD(closed VSD), l-TGA, VA discordance, supra PS, TAPVC2b, Bilateral SVC。4歳まで介入なく観察が行われ, DSOを希望し紹介となった。aLVEDV265%,aLVP43mmHg,PAV97%/PR-,TV(aRV房 室 弁)93%/TRmoderate,MV(aLV房室弁)137%/MRmildであった。LV trainingのためPABを計画した。【手術1,4歳】肺血流減/動静脈血混合不良(エコーでPV還流血は主にaLVへ流入)からのチアノーゼ増強およびTRが懸念され,PV血流転換とTVP追加を念頭に手術を行った。PVの開口は全て右側(aLV側)の心房,かつ近傍に筋束による隔壁を認めaRVへの流入不良が想定された。このためPV血をaRVへ導くpalliative atrial switchを併用することとした。自己心膜による房室弁の分割,TVPを行った後,自己心膜に続ける形でPTFEパッチを用いて全てのPV血をaRVへreroutingした。この際LSVCをPTFEの腹側を通し全てのSIVC血をaLVへreroutingする経路を同時に作成した。心房壁は自己心膜で補填/閉鎖しSIVC route狭窄を防いだ。PABをLVP/RVP=0.7まで行った。【手術2,7歳】aLVP90mmHg,aLV重量82g/m2。TR/MRmoderate。DSO(Definitive atrial switch/ASO),TVP/MVPの方針。前回のPTFEを除去。reTVP後,心房壁をAV groove,心膜とのgrooveの2つのラインで切開。このフラップをTV側,PV開口側それぞれの心房内壁へ縫合しSIVCをaRVへreroutingした。MVP後,PV routeを右側心膜で大きく作成(mSenning)。ASOはLecompte法なしで行った。遮断時間239分。術後の経過は良好,CVP5mmHg,PVO-,両心室機能良好であった。【結語】balanced two ventriclesを有する無脾症例に対し,palliative atrial switch/PABを経てDSOを行い良好な結果を得た。今後も注意深い経過観察が必要である。

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V6-5

小児cardiac Behcet diseaseによるLV-Ao. discontinuityに対するmodified Konno-Manouguan-Bentall手術

○岡田 典隆あいち小児保健医療総合センター 心臓血管外科

【背景】小児期に発症するcardiac Behcet diseaseは非常に稀であり,中でも最重症型であるLV-Ao. discontinuityの病態まで進行したcaseは報告に乏しい.今回,いかに左室流出路-大動脈基部を外科的再建したかを中心に,その手技を動画で供覧したい.【症例】12歳男児.経過からIEを疑われ,前医で抗生剤治療が開始されたが,血培はいずれも陰性であった.CTでAo rootに血流の定かでない腔を認め,Ao root abscessと診断された.コントロール不良な重度のARを呈し,救命目的に当院で緊急手術となった.【手術】大動脈基部は膨瘤,拡大し,外膜は浮腫状に発赤し,外膜,中膜の著しい肥厚が際だっていた.R-valsalvaが大きく欠損し,右室流出路壁との間で仮性瘤になっていた.NCC弁輪部はruptureし,弁尖がfloatingしていた.左室流出路方向に仮性瘤が進展し,穿破したと推察した.組織破壊は著しく僧帽弁前尖弁輪から左房天井まで伸展していた.病変組織を完全除去し,結果として,LCC弁輪の一部とR-N commissure部付近のみを残し,左室流出路心筋の一部を含む大動脈基部の大部分を切除することとなった.僧帽弁輪-左房天井はグルタルアルデヒド処理自己心膜で補填し,次のBentall graftの固定糸をこれに運針した.NCC,RCC部はkonno手術に類似して自己心膜で補強しながら心室中隔心筋から運針し左室内膜に刺出した.これらをJ-graft24mmに運針しBentall graftをanchorした.graft断端には縦切開を入れ,これに遺残したLCC弁輪から連続する左冠動脈開口部を含む大動脈壁を連続縫合した.SJM 24 Regentをgraft内に逢着し,右冠動脈ボタンを逢着し左室流出路-大動脈基部を再建した.【結語】敢えて命名するとmodified Konno-Manouguan-Bentallとも言うべき術式となった.後日,病理検査でNoninfectious aortitis and endocarditisと判明.精査の結果cardiac Behcet diseaseと診断され ステロイドと免疫抑制療法が開始された.

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V7-1

再々手術を意識してvalved conduitによる肺動脈基部置換を行うファロー四徴症再手術

○小渡 亮介, 大徳 和之, 鈴木 保之, 福田 幾夫弘前大学医学部胸部心臓血管外科

[背景]ファロー四徴症(TOF)術後など、成人期に右室流出路狭窄(RVOTS)に対して手術が必要な症例が増加している。そのような症例に対し、trans annular patch法による肺動脈弁置換が行われるが、人工弁逢着角度の調整に難渋するなどの問題がある。今回、簡便で再々手術を考慮した右室流出路再建法を報告する。[症例1]41歳、男性で、検診で心雑音を指摘され受診した。6歳時にtrans annular patch法によるTOF修復術を施行された。心エコー上severe pulmonary regurgitation (PR)、推定圧格差64mmHgのRVOTSを認め、狭窄の主な原因は両側肺動脈分岐部だった。手術は胸骨再正中切開アプローチ、心停止下で行った。左右肺動脈末梢を非狭窄部で離断し、24mmのリング付き人工血管で左右肺動脈を吻合した。次に、28mmの人工血管と25mmの生体弁で作成したconduitのスカートを、後面は短く、前面長くpatchを切除して右室前壁の形にあわせて舌状に作成し、肺動脈弁輪から右室前面に連続縫合で縫い上がり、中枢側吻合を行った。リング付きグラフトのリングを一部除去し、吻合口を作成してconduitの末梢側吻合を行った。術後心エコーで推定圧格差は13mmHgに改善し、CT上、右室、conduit、肺動脈は直線的に再建されていた。[症例2]41歳、男性で、心室頻拍による動悸を主訴に受診した。5歳時にtrans annular patchによるTOF修復術が施行された。心エコー上moderate PRと推定圧格差67mmHgのRVOTSを認めた。カテーテルアブレーション後に胸骨再正中切開アプローチ、心停止下で手術を行った。事前作成したconduitのスカート形状を整え、後面の弁輪から、前面のpatchを右室前壁に連続縫合で縫い上がり、中枢側吻合を行った。肺動脈幹を左右肺動脈分岐部直前で離断して末梢側吻合を行った。術後心エコーで推定圧格差は23mmHgに改善し、CT上、右室、conduit、肺動脈は直線的に再建されていた。[まとめ]本法では右室流出路形態にskirt形状を整えたconduitを作成するため、人工弁逢着時の角度調整は不要で、簡便に直線的な右室流出路再建を作成できる。これは、人工血管のkinkingや屈曲によるエネルギー損失を防ぐだけでなく、将来的に経カテーテル弁置換の追加も可能な右室流出路再建法と考える。中枢側吻合は、inclusion法で肺動脈弁輪から右室前面を縫い上がることで簡便に行える。肺動脈狭窄合併症例にも応用が可能な本法は、成人のRVOTSに対し有用な術式と考えられる。

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V7-2

低侵襲を目指した右腋窩小切開による小児心房中隔欠損閉鎖術

○佐々木 孝, 鈴木 憲治, 山田 直輝, 井関 陽平, 上田 仁美, 青山 純也, 森嶋 素子, 廣本 敦之, 栗田 二郎, 坂本 俊一郎, 宮城 泰雄, 石井 庸介, 師田 哲郎, 新田 隆日本医科大学付属病院 心臓血管外科

(背景)心房中隔欠損(ASD)に対するデバイス閉鎖が導入され、手術による閉鎖は欠損孔が大きな症例や辺縁欠損例に限られてきた。手術は皮膚切開創が残るという美容上の問題があり、また人工心肺のリスク、術後疼痛など、デバイス治療に比べ侵襲が大きい。当院では性別に関わらず右腋窩前方小切開でアプローチし、また術後疼痛コントロールを十分に行う工夫をしている。(方法)全身麻酔導入後左半側仰臥位をとる。大胸筋の外縁で前腋窩線から身長の5%長の逆S字皮膚切開を置く。大胸筋を温存、前鋸筋を肋骨付着部からはずし、第5肋骨の上縁で肋間筋を切開し開胸。肺を背側に圧排し心膜切開、吊り上げ視野を得る。上行大動脈送血、上大静脈/下大静脈脱血で人工心肺を確立。上行大動脈遮断後心基部から心筋保護液を注入し心停止を得る。右房切開し心房内を観察。ASDを自己心膜パッチで閉鎖。心基部から空気抜きを十分に行った後遮断を解除し、右房切開を閉鎖。人工心肺から離脱後心膜を半閉鎖し、第5肋間からドレーンを挿入。第4肋間筋に肋間神経ブロックカテーテルを留置し、層々に閉創する。術後0.1%レボブピバカインを0.15ml/kgで持続投与し、疼痛時0.1ml/kgをボーラス投与する。(結果)目立たない腋窩に小切開を置くことで、正中切開に比べ美容上優れたアプローチである。また小さな術創であるがセントラルカニュレーションを行うことで、鼠径からのアクセスに比べ大きなサイズのカニューレが選択でき、安定した人工心肺管理が可能である。また小児の細い大腿動脈からカニュレーションを行うことで生じうる術後狭窄の懸念もない。持続肋間神経ブロックは疼痛コントロールに有用で、経口・静注鎮痛剤の使用頻度を減らし、早期の離床を可能にした。(結語)右腋窩小切開によるASD閉鎖は、今後手術症例で増えることが予想されるパッチ閉鎖を心停止下に施行することが可能で、また持続肋間神経ブロックを使用することで術後疼痛も容易にコントロール可能である。さらなる低侵襲を求めるためには心停止、人工心肺時間の短縮等技術の向上が必要である。

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V7-3

傍心臓型総肺静脈還流異常に対する山岸変法

○松久 弘典1, 大嶋 義博1, 日隈 智憲1, 岩城 隆馬1, 村上 優1, 圓尾 文子2, 山本 真由子2

1兵庫県立こども病院 心臓血管外科, 2加古川中央市民病院 心臓血管外科

【諸言】当院では傍心臓型総肺静脈還流異常(Darling IIa)に対するcut back法術後の右側肺静脈狭窄の経験から、右側sutureless法+心房中隔前方転位(ATS2013)を施行してきた。一方本疾患に対しては右側隔壁を前方転位するYamagishi法(JTCVS2002)が報告されている。この度双方の利点を組み合わせた術式を施行したので報告する。【症例】生後チアノーゼか傍心臓型総肺静脈還流異常と診断され、経過観察中に明らかな肺静脈狭窄は認めないが、頻脈、多呼吸の進行を認め、日齢18、体重2.8kg時に開心修復術となった。【手術】手術は右心房-上大静脈/下大静脈の吸引脱血で施行し、テーピングは施行せず。人工心肺開始と同時に右側に透見する右肺静脈にmarking stitchをおき、視野確保の為左心耳よりventを挿入。中等度低体温にて大動脈遮断を行い、stay sutureをおきつつ冠状静脈洞壁から左房後壁(右肺静脈前壁)、右側心房壁を貫通しつつ背側の二次中隔へと続くflapを作成、右側上下肺静脈が開口した形態を作り、右側sutureless repair(心房-心膜縫合)、その後はYamagishi法に準じてflapを縫着(一部自己心膜補填)。循環停止なし、大動脈遮断49分、人工心肺時108分。【術後経過】術後合併症なく、3日目に抜管。3D-CTにて拡大された右肺静脈および左心房を確認し、3 ヶ月のfollow up期間にて肺静脈の全ての分枝に狭窄は認めず。【考察・結語】本術式は以下の利点を有すると思われる。(1)従来のYamagishi法より大きなflapが作成可能で、新生児例にも施行可能である。(2)右側の隔壁を可及的に切除しつつ、心房中隔全切除に伴う洞結節動脈の損傷リスクを回避し得る。

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V7-4

肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損 主要体肺動脈側副血行路に対する乳児期一期的手術

○猪飼 秋夫, 福場 遼平, 石道 基典, 今井 健太, 菅野 勝義, 伊藤 弘毅, 村田 真哉, 廣瀬 圭一, 坂本 喜三郎静岡県立こども病院 心臓血管外科

肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損、主要体肺動脈側副血行路(PAVSD, MAPCA)に対して、中心肺動脈の有無に関わらず乳児期早期にprimary unifocalization(UF)を行い、術中flow studyによりVSD閉鎖を判断し一期的修復を行う方針であり、ビデオ供覧する。【症例】4ヶ月女児、体重6.3kg 診断:PAVSD MAPCA、右側大動脈弓。MAPCA:右肺は動脈管相当の1本、左肺は左鎖骨下動脈起始1本、下行大動脈より左房背側を通る1本、更に下方で左下葉に灌流する1本の計4本。【ビデオ供覧】左後側方開胸にて、心臓背側の左側への2本のMAPCAを大動脈起始部から肺内流入部まで剥離。左下葉へのMAPCAは灌流域が少なく中心肺動脈に届かないと判断し、結紮切除しパッチとして採取。一旦閉胸後胸骨正中切開。右肺へのMAPCAは肺門部を越えて剥離。左鎖骨下動脈からのMAPCAは起始部から気管から左気管支に沿って、肺門部、更に肺内肺動脈の枝4本まで剥離。左開胸にて剥離したMAPCAの同定は容易。ここで人工心肺を開始。MAPCAをclippingした。左側:左開胸で剥離したMAPCAは、灌流域に対する血管径が細いと判断し、MAPCAを折り返しパッチ拡大。左鎖骨動脈からのMAPCAも肺門部での径が不十分と判断し、肺内肺動脈4本の枝の入口部が確認出来る部位まで切開し、鎖骨下動脈側より採取したMAPCAパッチにて拡大。この2本を側側吻合し左側を終了。右側:MAPCAから右下葉枝まで切開し、左開胸にて採取したMAPCAパッチを補填拡大。中心肺動脈形成: MAPCA壁にて中心肺動脈後壁を形成。前面に新鮮自己心膜を補填し中心肺動脈を作成。縫合糸は8-0ポリプロピレンを使用。中心肺動脈に送血管、圧ラインを挿入し、ventを挿入。3.0 l/min/m2で圧は24mmHgであり、VSD閉鎖の方針とした。自作14 mm 3弁付き導管を肺動脈側に縫着。心停止としてVSDをパッチ閉鎖し、心拍動下に導管を右室に縫着。人工心肺後の右室圧は体血圧の6割。手術時間12時間、人工心肺時間5時間50分、大動脈遮断時間33分。【結語】primary UFとflow study による一期的修復術は、中心肺動脈を有しないPAVSD MAPCA症例においても可能で有り、手術介入回数を減らす可能性がある有効な方法である。

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V8-1

EVAR術後瘤径拡大例に対する加療方針とその実際

○赤木 大輔, 佐野 允哉, 仁田 淳, 宮原 和洋, 瀬尾 明彦, 木村 賢, 牧野 能久, 須原 正光, 赤井 淳, 高山 利夫, 山本 晃太, 保科 克行, 渡邉 聡明東京大学 血管外科

【目的】EVAR術後の最大の問題点の一つに瘤拡大がある。東京大学血管外科では2009年より腹部大動脈瘤に対しステントグラフト内挿術(EVAR)を導入し、当初からのZenithやGore Excluderのみならず、機種特性を考慮し使用可能な全機種を満遍なく使用し治療している。瘤拡大例に対する方針として、まずシンスライスの造影CTによる精査を行い、エンドリーク(EL)の種類を判定する。Type 1a, 1b, 3, 4 ELについては、追加ステントグラフト内挿術を考慮する。Type 2 ELについては経動脈的塞栓術を検討する。8cmを超え、type 2 ELのコントロールが困難な症例は開腹下瘤縫縮術を考慮する。【対象】東京大学血管外科において2009年4月から2017年8月の間に腹部大動脈瘤に対し瘤径拡大に関連しEVAR術後に再介入を要した14例(うち3例は他院で初回EVARを施行)を対象とした。(男9例、女5例)、初回手術時平均年齢74歳(61-94)、初回手術時平均瘤径56mm(45-68)であった。【結果】2回以上の介入を行った症例は3例あった。初回介入までの平均期間は35月 (8-113) であった。ステントグラフト追加内挿 7例、Type 2 ELに対する経動脈的塞栓術 9例(うち1例は不成功)。開腹下瘤縫縮 2例であった。経過観察中死亡は3例であったが、破裂・瘤関連死は認めず。Type 1 (1a, 1b) ELは5例に認めたが、うち4例 (80%) はtype 2 ELを経過観察中に瘤径増大に伴って発生したものであった。Type 2 ELの経動脈塞栓術後に拡大した症例は3例あり、うち1例は開腹下瘤縫縮を行った。【手術】経動脈的塞栓術では、下腸間膜動脈には上腸間膜動脈経由で、腰動脈には腸腰動脈経由でアプローチし、瘤内に入り造影される枝をコイルで塞栓する。この手技を供覧するとともに、介入前画像診断でtype2 ELで腰動脈の塞栓術を施行したが術中血管撮影にてtype 1b ELを認めレッグ内挿術を追加した症例もあり、示唆的と考えられた。開腹下瘤縫縮は大動脈非遮断下で可及的に瘤嚢が小さくなるよう施行した。【結論】瘤拡大例に対する方針は標準化にはまだ検討の余地があるが、持続するType 2 ELは瘤拡大によりtype 1 ELの原因となると考えられ、この管理は重要であると考えられた。

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V8-2

EVAR術後type2エンドリークあるいはendotensionによる瘤径増大に対する開腹瘤縫縮術

○原 正幸, 阿部 正, 百瀬 匡亨, 大森 槙子, 手塚 雅博, 馬場 健, 瀧澤 玲央, 前田 剛志, 立原 啓正, 金岡 祐司, 大木 隆生東京慈恵会医科大学 血管外科

(はじめに)AAAに対する腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)の問題として術後のtype II endoleak(EL)とendotensionである.その扱いは議論の分かれる所だが,顕著な瘤径増大を伴う場合AAAによる大動脈消化管瘻の発生が懸念される.これらに対し開腹瘤縫縮術を行ったので報告する.(対象と結果)2006年6月から2016年12月までに行い術後6か月以上経過を確認したEVARは1395例であった.その内329例(23.9%)にtypeIIELを認め,著しい増大を認めた34例にコイルを行ったが,その内5例は引き続き瘤径が増大したため最終的に開腹瘤縫縮術を行った.また,3例にはコイルを行う事なく開腹瘤縫縮術を施行した.typeIIELのないendotensionは5例(38%)だった.術前のCTでEL8例の責任血管は腰動脈7例,正中仙骨動脈3例,下腸間膜動脈4例(重複あり)からのtype2ELと責任血管不明だったもの1例がだった.開腹手術を行った計13例の平均年齢は75.5歳で,全例が男性で初回EVARから開腹までの期間は平均78.9か月(43-114か月)で使用ステントグラフト(SG)はExcluder6例,Zenith6例,Endurant1例であった.開腹術前のAAAの最大短径は93mm(76-142)で,EVAR術前よりも平均32mmの拡大を認めた.全例,全身麻酔下で,まず大腿動脈からの血管造影を行いtype I,IIIELがない事を再確認した.全例,最小限の皮切で腹部正中切開(約13cm程度)した.開腹後瘤周囲を十分に剥離し,左右の尿管を同定した後に大動脈遮断をせずに瘤を切開した.Type IIEL症例7例すべてで腰動脈からのELを認め平均1.85本を結紮した.IMAは4例(57% )で,正中仙骨動脈は3例(42%)で結紮した.瘤内を十分洗浄し瘤壁の一部を切除して可及的に瘤を縫縮してwater tightに閉鎖した.1例で術中正中仙骨動脈からの出血が強く,SGにより視野が悪かったのでSG脚を離断して止血し後に再吻合した.閉腹に先立ちSGのずれや脚の屈曲などがない事を血管造影で確認した.平均手術時間は234分,平均出血量677mlであった.術後在院日数は13.3日で全例軽快退院した. 術後CTでtype II ELが残存した症例はなく,縫縮後のAAA最大短径は46±6.5mmと術前に比べて平均で47mm縮小できた.術後観察期間は9.3±5.3月で追加治療なく全例生存している.(結語)Type II ELおよびendotesionに対する開腹瘤縫縮術は大動脈遮断の必要がなく,低侵襲・安全で大動脈消化管瘻の予防に効果的な方法である.術後SG のmigrationや新たなEL発生に備えて瘤はできるだけ小さく縫縮することが得策である.

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V8-3

EVAR術後の破裂または瘤径拡大に対する外科治療

○千葉 清1, 西巻 博1, 小川 普久2, 北 翔太1, 鈴木 寛俊1, 桜井 祐加1, 盧 大潤1, 永田 徳一郎1, 小野 裕國1, 大野 真1, 近田 正英1, 宮入 剛1

1聖マリアンナ医科大学病院 心臓血管外科, 2聖マリアンナ医科大学病院 放射線医学科

【背景】EVAR後のエンドリークはある一定の割合で発症し、open repairと比較して遠隔期に血管内治療を含めた追加治療が、一つの問題である。またエンドリークに対する追加血管内治療後もType5(endtension)や瘤壁の脆弱化を含んだ瘤径拡大要因の除外が難しい症例も少なくない【対象と方法】当院でこれまで2011年から2017年8月までに234例のEVARを行い、Type 1Aエンドリークによる(Type2またはType5が持続し、中枢ネック拡大し、新たなType1を生じた)open convertを4例経験し(1例他院でのEVAR)、内3例が破裂による緊急手術を行った。使用Deviceは Powerlink 1例 Endurant 2例 AORFIX 1例である。手術方法として、【開腹前】大動脈遮断に伴う血管損傷時に備えて片方の大腿動脈をあらかじめ露出し、大動脈閉塞バルーンを挿入できる準備をしておく。【開腹後】1) supra rena l stentのデバイスは、stentが内膜に強固に癒合しているため、中枢ネックがある場合は、腎動脈下で大動脈とステントグラフトを遮断し、吻合口を作成(胸骨ワイヤー cutterにてステントは切除)した。更に外膜補強で15mmフェルトを使用し、中枢吻合を行った。2) 同様のデバイスで中枢ネックが瘤化し、腎動脈下で遮断できない場合は、両側腎動脈を確保し、ベアステントの位置を触診で確認しつつ、その上で遮断をすることで遮断による内膜損傷を予防した。Type1bと3がないことを確認できれば、人工血管を既存の左右の脚に吻合した。何れもsupra renal stentは残した。3)suprarenal stentがない場合は、腎動脈上遮断とし、ステントグラフトを可及的に抜去し、腎動脈直下で通常のY-graftingを施行した。4) 全例、瘤開放時に腰動脈及び正中仙骨動脈のback flowを確認し、結紮止血を行った。5) 全例可及的に瘤壁によるラッピングを行った。【考察】EVAR後は、破裂しても比較的安定した状態で手術はできるが、手技が煩雑となる。以上文献的考察を踏まえ、手技の詳細をビデオで供覧する。

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V8-4

Aorfixを使用したEVAR後、総腸骨動脈瘤径拡大に対して外科的治療を要した1例

○阪本 瞬介, 小野田 幸治新宮市立医療センター 心臓血管外科

症例は重複大動脈瘤の81歳男性。他院にて、2014年7月に近位下行大動脈瘤に対してopen stent graft挿入術施行。次いで、同年10月に腹部大動脈瘤(AAA)、両側総腸骨動脈瘤(CIAA)に対して両側内腸骨動脈のコイル塞栓術とAorfixステントグラフト(SG)を使用したEVAR

(中枢ネックにPalmazステント追加)が施行された。その後、緩徐な瘤径拡大と下腸間膜動脈からのType2エンドリークを認めたことから、2016年6月に下腸間膜動脈塞栓術を施行された。しかしながら瘤径の拡大が進行するため(CIAA最大径65×65mm)、今回当院にて2017年6月に開腹再手術を行った。CTにて腹腔動脈上大動脈径は40×45mmに拡大しており、腎動脈上大動脈はshaggyであったため、Aorfix SG留置部位より1cm中枢側の腎動脈直下大動脈で遮断した。瘤を切開すると、瘤内は新鮮血栓が充満しており、腰動脈からの出血を認めたためこれを結紮止血した。その他にエンドリークは認めなかった。Aorfix SGはPalmazステントより末梢側で大動脈ごと離断し、ステント部分をカッターで切断・抜去したうえで、新たな人工血管(J-graft16×8mm:Y型)と中枢吻合した。末梢吻合は人工血管脚を両側総大腿動脈と端側吻合した。Aorfix SG脚には両側とも外腸骨動脈にかけてLuuminexxステントが留置されており抜去不可能なため断端を縫合閉鎖するとともに、外腸骨動脈をSG含めて外側より結紮した。EVAR後に一定の頻度でエンドリークが出現し、一部の症例では開腹再手術が必要になるが、その成績は満足できるものではない。Aorfix SGは2014年8月に承認された比較的新しいAAA用SGで、開腹再手術に至った症例の報告はない。今回我々はAorfix SGを使用したEVAR後に瘤径拡大を来したため、SG部分切除・人工血管置換術を行った症例を経験したので、手術時の工夫や注意点を中心に報告する。

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V8-5

開腹、Cattel-Braasch操作により人工血管置換を行った腹部大動脈瘤の1例

○北原 睦識, 大畑 俊裕, 山田 裕堺市立総合医療センター 心臓血管外科

症例は88歳、女性。ADLは自立していた。腹部膨満感、ふらつきを主訴に近医を受診。採血検査で貧血を認め、腹部CTを施行し腹部大動脈瘤と診断され救急搬送となった。造影CTで腎動脈下に78mmの腹部大動脈瘤と右総腸骨動脈瘤を認めた。動脈瘤の拡大に伴い中枢側neckが頭側に押し上げられ肝門部に達しており、逆S字型に屈曲していた。中枢側neckの高度の屈曲によりEVARは困難と考えられた。また動脈瘤の直上に十二指腸、膵臓、横行結腸間膜が渡っていた。右総腸骨動脈は瘤化しており、左総腸骨動脈は動脈硬化性変化が強く、吻合困難であった。この症例に対して人工血管置換の方針とした。動脈瘤への到達法を検討したが、開腹、 Cattel-Braasch操作を行う事とした。腹部正中切開。十二指腸よりKocherの授動を行い、更に結腸肝弯曲部から上行結腸外側の腹膜移行部の切開に繋げて後腹膜を剥離した。腹腔内臓器を左方に授動することにより、動脈瘤中枢側の視野は良好となった。腎動脈下で大動脈遮断しYグラフト置換を行った。末梢は両側とも総腸骨動脈で断端を閉鎖して人工血管を外腸骨動脈に吻合した。手術時間 4:33。術後は麻痺性イレウスによる経口摂取開始の遅延を認めたが、保存的に改善し、術後50日目に転院となった。腹部大動脈瘤への到達法は大きくは開腹approach、後腹膜approachに分類され、それぞれの利点、欠点はすでに議論されているが、本症例のように開腹、Cattel-Braasch操作による到達を行った報告は非常に少ない。今回の症例を通じてその利点と欠点を考察し報告する。

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V8-6

EVAR後のendotensionにより瘤径増大を来したAAAに対し開腹手術を施行した1例

○長内 享, 竹谷 剛, 三浦 純男, 福田 幸人, 大野 貴之, 高本 眞一社会福祉法人三井記念病院

本邦においてAAAに対する治療の約半数はEVARが占めている。EVAR後のendoleakによりopen surgeryを施行した症例報告が散見されるようになり、当院においても5例(type I:2例、type II:1例、type I+II:2例)経験している。今回、報告の少ないtype V endoleak、いわゆるendotensionにより瘤径増大を来した症例に対するopen surgeryを経験したため手術ビデオと共に供覧する。症例は82歳男性。2009年にAAAを発見され、2014年に68x52mmへ増大し同年にY字型ステントグラフト(EndurantII:Medtronic社)を用いたEVARを施行した。留置成功し術中造影でendoleak認めず、その後の2015年までの造影CTでもendoleak認めず瘤径変化無く経過していた。しかし2017年に心窩部痛精査目的の単純CTで95x56mmと著明な瘤径増大を認めた。CKD(血清Creatinine 2.42mg/dL)のため造影CTは施行できなかったが、腹部超音波検査ではendoleakは認めなかった。全てのendoleakを想定しつつ手術加療の方針とした。全身麻酔・上中腹部正中切開で開腹し、不意の大動脈遮断に備え十二指腸授動し瘤頸部を剥離しておいた。直接エコーで瘤内血流は認めず、瘤内部は液状化した部位と血栓化した部位が混在。瘤内圧を測定すると70mmHgであった。瘤を切開すると漿液の噴出と黄白色血栓の充満を認めこれらを可及的に除去。下腸間膜動脈や腰動脈、正中仙骨動脈からのback flowは認めず。露出したステントグラフトを観察したが、Type III、Type IV endoleakは認めなかった。瘤径拡大の原因はステントグラフトからの血漿成分滲出によるEndotension(Type V endoleak)と思われた。ステントグラフトにフィブリン製剤を散布。瘤内腔・瘤切開部を縫縮するように閉鎖して手術終了。手術時間91分、出血量37ml。術後2日目に経口摂取開始、術後17日目に独歩退院となった。CKDにより造影剤による術前検査が施行できない症例であったが、全てのendoleak、各々の対処法を想定した上で手術に臨み良好な結果を得たので報告する。

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V9-1

EVAR後endoleakに対する開腹瘤内止血術

○尾崎 健介, 山本 晋, 大島 晋, 櫻井 茂, 島村 淳一, 平井 雄喜, 広上 智宏, 沖山 信, 栃木 秀一, 笹栗 志郎川崎幸病院大動脈センター

【背景】EVAR術後のtype II endoleakによる瘤径拡大と診断した症例に対し、当センターではまず血管内治療を施行するが、効果に乏しい症例に対して開腹アプローチによる瘤内止血術を施行している。【方法】2016年4月から2017年5月にtype II endoleakと術前診断し、開腹による瘤内止血術を施行した12例を対象とした。平均年齢76.7±7.1歳。男性70%。術前検査として大動脈造影、造影CT、MRIを行なっている。MRIは瘤内血栓の評価に有用である。腹部正中切開にて腹部大動脈瘤にアプローチしたのち、瘤切開後のtype I endoleakの可能性を考慮し、瘤中枢側に遮断部位を作成する。瘤切開前に穿刺吸引による瘤内の減圧を行う。瘤壁を切開した後血栓を除去し、腰動脈のbackflowに対する結紮等、瘤内の止血処理を行う。止血確認後は、縫縮して瘤壁を閉鎖する。術後4日目、10日目にCT検査を行い、瘤の拡大が無いことを確認している。【結果】平均手術時間は147.7 ±38.0分。在院日数は15.5 ±8.6日であった。在院死亡を認めていない。術中所見としてtype II endoleakを8 例(75%)、type II + IIIb endoleakを2例(12.5%)、type IIIb endoleakを2例(12.5%)に認めた。術後合併症として、腹壁瘢痕ヘルニアを1例に認めている。【結語】当センターで施行した開腹による瘤内止血術の短期成績は許容できるものであった。術前type II endoleakと診断した症例に対しては、潜在的なtype IIIb endoleakの可能性を考慮して診断、治療を行うべきであると考えている。同手術手技をビデオにて供覧し紹介する。

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V9-2

EVAR後Endoleakに対するステントグラフト温存Open repair術式の工夫

○三和 千里, 阪口 仁寿, 瀧本 真也, 吉田 幸代, 恩賀 陽平, 多良 祐一, 山中 一朗天理よろづ相談所病院心臓血管外科

背景 腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療はstandardな術式として確立しているがEndoleakは10-15%に見られる合併症である。その治療は経カテーテル的に塞栓術等で行われるが時に奏功せず瘤径拡大が継続する場合がある。当科では上記のような症例に対してはOpen Repairを行なっている。今回我々の方法を提示するとともに成績を検証する方法 Open repairの適応はEVAR後endoleakを伴う症例のうち血管内治療奏功せず拡大が継続するもの。術式は腹部正中切開で開腹後、腰動脈をステントグラフトの全長に渡って切離。その後中枢則のリークに備えてtapingしたのち動脈瘤を縦切開し内部の血栓を除去してリークを確認し漏れが残存していればこれを閉鎖。その後、対側レッグとの継ぎ目に帯フェルトで補強。 瘤壁は縫縮して閉鎖し中枢則にも帯フェルトで補強する方法を取っている。結果 Open repair 6例のうち4例に上記方法を行った。初回EVARからの平均介入期間は3.6年で、全て症例で術前に血管内治療が試みられていた。 術前の大動瘤の平均径は56mmであった。 4例とも術前画像診断上のleakの原因血管は中枢吻合近傍の腰動脈と診断されていたが手術初見では4例中3例でterminal aortaの腰動脈が開存していた。手術は全てヘパリンなしで無輸血で終了し、術後は全症例で瘤径は縮小しendoleak再発は認めていない。考察 手術初見からterminal aortaの腰動脈開存が多かったため現在は初回治療時にL 4腰動脈を中心に積極的にコイル塞栓を行っている。今回の術式は大動脈遮断を伴わずヘパリンも用いないことから回復の人工血管置換術よりもより安全性が高い術式と考えられ、標準術式となりうると思われる。結語 血管内治療が奏功しないEndoleakに対してステントグラフトを温存したopen repairは安全に行える術式と考えられる

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V9-3

EVAR後追加治療の検討

○小澤 英樹, 鈴木 達也, 福原 慎二, 打田 裕明, 小西 隼人, 本橋 宜和, 神吉 佐智子, 大門 雅広, 勝間田 敬弘大阪医科大学外科学講座胸部外科学教室

<目的>当科における腹部大動脈瘤手術の術式選択の原則は、開腹人工血管置換術であり、開腹手術のハイリスクかつ解剖学的適応例に限定してEVARを選択してきた。EVARでは一般的に術後7年で10-20%程度の追加治療が必要とされ、治療方法は施設により異なる。当科で行われたEVARの追加治療を検討した。<対象および方法>2008年11月から2017年6月までに当科で行われたEVAR200例を対象とした。患者背景は年齢79歳(中央値、最高97歳)、男167人女33人であった。使用したステントグラフト機種はEndurant77,Zenith59,Excluder53,Aorfix10,AFX1であった。同時手術として内腸骨動脈コイル塞栓40、中枢側カフ追加13、外腸骨動脈ステント留置3、F-Fバイパス2、大腿動脈形成2を行った。手術死亡は1例(0.5%)であった。退院後のフォローアップは6ないし12ケ月毎にCT検査を行った。追加治療は、エンドリークのタイプがIおよびIIIに対しては術前より5mm以上の拡大で行い、タイプ IIの場合は術前より10mm以上の拡大で行った。<成績>遠隔期死亡は30例で瘤関連死亡2例(ステントグラフト感染1、不明1)を認めた。非瘤関連死亡は28例で癌死13、肺炎5、心不全3、その他7であった。追加治療は14例に21回行われた。タイプIaエンドリークは2例であり、Zenith flexを用いたEVAR4年後に瘤径拡大した症例は全腹部分枝debranchingとTEVARを一期的に行った。Endurantを用いたEVAR1年後に瘤径拡大した症例は、左右の腎動脈起始位置が1cm異なっていたため片側腎動脈へのsnorkel stent留置とaorta extender追加を行った。タイプIbエンドリークは5例であり、全例Zenith flexを用いたEVAR後で術後2から5.5年であった。いずれも内腸骨コイル塞栓と脚延長を行った(片側3例、両側2例)。タイプIIエンドリークは7例でコイリングを施行したが、1回のみは4例で2回施行が3例であった。2回施行のうちの1例は再度瘤径拡大あり、開腹瘤縫縮を行った。タイプIIIエンドリークは1例で脚追加を行った。追加治療での死亡は無かった。<結論>綿密なフォローアップと追加治療により瘤破裂は回避された。タイプIIエンドリークの追加治療は複数回におよぶことが多く治療に難渋する為、患者の初回手術時のタイプIIエンドリークを回避する治療戦略が重要と考えられた。

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V9-4

EVAR 関連合併症に対する術中・術後介入症例の検討

○山下 淳, 内田 徹郎, 浜崎 安純, 黒田 吉則, 水本 雅弘, 林 潤, 廣岡 秀人, 石澤 愛, 赤羽根 健太郎, 五味 聖吾, 貞弘 光章山形大学医学部 外科学第二講座

【はじめに】血管内治療の普及により腹部大動脈瘤(AAA)に対する腹部ステントグラフト手術(EVAR)の適応が拡大してきた。一方で、EVAR 後の合併症として endoleak による瘤拡大や、脚トラブル、感染などを理由に外科的治療の再介入を要する症例が存在し、しばしば治療に難渋する。当科における EVAR 関連合併症の外科的介入症例を検討するとともに、興味深い EVAR 後開腹術症例をビデオ供覧する。【対象および結果】当科で EVAR 導入後の 2010 年 7 月から 2017 年 8 月に EVAR を施行した 264 例を対象とした。アクセストラブルの対処あるいは予防として、22 例で術中にベアステント留置を追加した。術中アクセス動脈損傷により、人工血管置換を 3 例で要した。Type 1 あるいは Type 2 endoeak に起因する再介入症例は無かったが、Type 3 endoleak に対する再介入を 1 例経験し、追加ステントグラフトで endoleak を制御した。術後遠隔期にステントグラフト脚トラブルによる再介入が 5 例で、2 例で FF バイパス、3 例で血管内治療を施行した。AAA 破裂症例に対する緊急 EVAR は 13 例で、そのうち 2 例は腹部コンパートメント症候群のため術当日に開腹処置を行った。腹部大動脈 - 腸管瘻に対して救命目的に EVAR 施行後、ステントグラフト感染を併発した 2 例に対して、二期的に開腹手術を施行した。【手術ビデオ供覧】64 歳,男性.10 年前に他院で Y グラフト置換既往あり。吐血と下血で救急搬送され、 Y グラフト中枢側吻合部仮性瘤の十二指腸穿破と診断した。救命目的に緊急 EVAR(Excluder Aortic extender 2 本留置)を施行した。抗生剤加療を継続し、2 カ月の治療間隔を経て根治術(Y グラフト再置換+膵頭温存十二指腸部分切除)を施行した。術後経過は順調で、根治術より 2 カ月後に独歩退院した。【まとめ】EVAR 後のアクセストラブルに対する処置を約 10% の症例に経験した。Type 1 および 2 endoleak への術後再介入は認めなかった。AAA 破裂に対する EVAR は有効であったが、EVAR 単独では対処困難の症例も少なからず存在する。

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V9-5

EVAR後の瘤拡大に対する開腹Endoleak制御術における注意点と術式の工夫

○羽室 護1, 瀬戸崎 修司1, 山本 賢二1, 榎本 栄1, 川東 正英2

1医療法人社団 宏和会 岡村記念病院 心臓血管外科, 2京都大学 心臓血管外科

【背景】EVAR後の瘤拡大において開腹手術で治療を行う場合、通常の開腹人工血管置換術とは異なる注意点があり、術式には工夫を要する。【治療方針】当院ではEVAR後のCT評価は、退院後1週間、6ヶ月、1年、その後は1年毎に行っており、10mm以上の瘤拡大を認めた症例には追加治療を考慮する。単純なType II Endoleakにはカテーテル治療による塞栓術も考慮するが、開腹によるEndoleak制御術も積極的に選択している。【術式】通常の人工血管置換術と異なる主な注意点は、I ) ヘパリン化や大動脈遮断は不要であるが、閉鎖すべき腰動脈の前に存在するステントグラフトをよけて視野を確保する必要があり、その際にLanding Zoneや接合部の脱落の危険性があること、II ) 術後もEndotension (Type V)による瘤拡大の可能性が残存すること、である。これらに対する当院の術式の工夫は、I ) に対しては、脱落の危険性のある操作を行う前にグラフトの固定を行うこと、II ) に対しては、瘤壁を可能な限り縫縮閉鎖することと、Landing Zoneの結紮補強を行い瘤内への微小な血圧の伝播も防ぐことである。具体的には、1) Landing Zone、下腸間膜動脈をテーピングして確保、2) 末梢は脱落予防のため外側から動脈壁とグラフトを縫合固定、3) 可能な限り腰動脈は血管外からクリッピング、4) 以上を行った上で瘤切開、5) 瘤内血腫除去前に、脱落予防のため接合部を縫合固定、6) 下腸間膜動脈を結紮閉鎖、腰動脈とグラフトからの出血を縫合閉鎖、7) Landing Zoneを外側から結紮補強、8) 瘤壁を可能な限り縫縮閉鎖、としている。【結果】2012年8月から2017年8月までに、当院で腹部大動脈瘤に対してEVARを行なった61例のうち、5例(Endurant 3例、Excluder 1例、Zenith 1例)においてEVAR後瘤拡大に対する開腹手術を行なった。EVAR時は年齢75.2±6.1歳、瘤最大径56.6±7.2mmであった。開腹手術までの期間は3.7±0.6年であり、開腹手術時は年齢78.6±5.7歳、瘤最大径71.2±4.4mm, 瘤拡大14.6±3.0mm、主なEndoleakの術後診断はType II 3例、Type V 2例であった。全例でEndoleakを制御し、グラフトの全抜去を要した症例は無く、術後CTで瘤の再拡大は認めていない。【結語】EVAR後の瘤拡大に対する開腹でのEndoleak制御術には、通常の人工血管置換術とは異なる注意点があるが、種々の工夫により安全な手術が可能であり、その結果も良好である。

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V9-6

EVAR術後type IIIb endoleakによる瘤破裂に対し人工血管置換術を施行した1例

○大塚 裕之, 鬼塚 誠二, 今井 伸一, 金本 亮, 新谷 悠介, 奈田 慎一, 高瀬谷 徹, 飛永 覚, 廣松 伸一, 明石 英俊, 田中 啓之久留米大学外科学

【緒言】腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)後のステントグラフト(SG)破損によるtype IIIb endoleak (EL)は、本治療の耐久性を脅かす事象であるが、その臨床報告は散見される。今回type IIIb ELによって瘤破裂をきたした症例を経験したので報告する。【症例】症例は88歳男性で、腹部大動脈瘤 (AAA) 69mmに対し、2013年 Endurant II SG (Medtronic社)を用いたEVARを施行し、技術的臨床的成功を得て退院していた。1年後まで瘤径不変で経過していたが、2014年に冠動脈形成術を施行され、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)開始後から 5mm以上の拡大に転じていた。腎機能障害を併存していたため単純CTで観察していたが、中枢と末梢の密着部に形態変化は無く、腰動脈等からのtype II ELによる瘤径拡大と推察していた。2017年に突然の腹痛が出現し、4日後の当科受診時CTでAAA破裂と診断した。バイタルサインは安定しており、開腹下人工血管置換術の適応とした。SGの中枢と末梢を大動脈壁ごと遮断し瘤を切開するに、SG前面にのみ新鮮な血液貯留を認めた。他は器質化血栓で、これを全て除去しても腰動脈からの逆流は無く、下腸間膜動脈も閉塞していた。また中枢末梢の遮断を解除しても、type I ELやtype IIIa ELは認めなかった。唯一、SG main body前面に数mmの孔が同定され、持続的出血を生じていた。この小孔の内側には、Endurant対側脚中枢端に僅かに露出しているステント骨格が接触していた。SGの main bodyと両脚を離断し、動脈壁ごとY型人工血管と端々吻合して置換術とした。術後経過良好で退院となった。【結論】本症例はEndurant EVAR直後の造影CTでいずれのELも無く、瘤径不変で経過したが、DAPT開始後に拡大に転じ破裂をきたした。術中所見ではSG小孔からの出血とその前面の血液貯留以外、ELは認めなかったため、最終診断をSG破損(type IIIb EL)による瘤破裂とした。当科で2006年から2017年に施行したEVAR 266例(Endurant 84例)中、CTでtype IIIb ELを同定した症例は無く、開腹移行した他の5例においてもtype IIIb ELは認めなかった。文献的考察を踏まえビデオを供覧する。

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V10-1

巨大な上行大動脈置換後末梢側吻合部瘤に対する血管内治療

○浅野 宗一, 林田 直樹, 松尾 浩三, 椛沢 政司, 阿部 真一郎, 長谷川 秀臣, 池内 博紀, 伊藤 貴弘, 小泉 信太郎, 村山 博和千葉県循環器病センター

【背景】上行大動脈人工血管置換術後末梢側吻合部瘤の再手術は、胸骨正中切開時の瘤破裂に対し低体温循環停止を必要としたり、末梢側吻合部の癒着が無名静脈を巻きこんでいることで長時間体外循環下の剥離を要し侵襲が過大となる。文献的にはその死亡率は7.6 ~60%と極めて高い。我々は、frailtyが高く、胸骨裏に接する形態の上行大動脈置換術後末梢側吻合部瘤2例に対し、胸骨正中切開・体外循環を行わない血管内治療にて比較的低侵襲に治療しえたので報告する。【症例1】66歳女性。脳梗塞にて車椅子生活。X-5年、急性A型大動脈解離にて上行置換+CABG施行。外来followの単純CTで人工血管周囲血腫増大あり造影CTで弓部~腹部の慢性解離と吻合部近傍のentry、偽腔と交通のある径64×68mmの胸骨に接する吻合部仮性瘤を認めた。また左主気管支の圧排により吸気時呼吸困難を訴えていた。Amplatzer Vascular Plug (AVP)およびExcluder Aortic Extenderにてentryをcoverし、追加コイル塞栓にて仮性瘤へのendoleakは消失した。エンドリークのfollowのため術後40日入院したが気管支圧迫は軽減し退院。19 ヶ月後瘤径50×53mmに縮小している。【症例2】72歳女性。X-2年、急性A型大動脈解離にて上行置換施行。定期受診時、出血傾向を訴え単純CTで人工血管周囲血腫増大あり、造影CTで胸骨に接する径62×63mmの吻合部仮性瘤と消費性凝固障害を認めた。仮性瘤入口部はφ4mm程度でありAVPおよびExcluder Aortic Extenderを挿入しendoleak(-)。消費性凝固障害消失し術後28日目に退院。29 ヶ月後瘤径38×40mmに縮小している。AVPの使用に関して、血管壁欠損部に留置し止血を図るという使用方法は特殊ではあるが、、院内倫理委員会で議論し使用承諾を得、本人・御家族にも特殊な使用方法であることの説明と通常開胸手術との比較を説明したうえで本術式の同意を得た。【結語】胸骨裏に接する上行大動脈人工血管置換術後末梢側吻合部瘤2例に対し胸骨切開なく低侵襲に血管内治療を行った。Frailtyが高い症例で、吻合部仮性瘤への入口部が小さい場合は今回のような治療がオプションとして選択できると思われる。遠隔期の成績は不明なため今後も注意深い経過観察を要する。

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V10-2

右開胸アプローチTEVAR

○田中 啓介, 後藤 祐樹, 山本 良太, 矢澤 翼, 秋田 翔, 加藤 亙, 酒井 喜正, 田嶋 一喜名古屋第二赤十字病院 心臓外科

【背景】Shaggy Aorta、狭小な腸骨動脈、大動脈高度蛇行といったアクセスルート不良症例に対するTEVARの強引な施術は、多発血栓塞栓症、動脈損傷、大動脈解離などの重大な合併症につながる。Shaggyかつ、下行大動脈の瘤化に伴い大動脈が高度に蛇行した2症例に対し、右側開胸アプローチにてTEVARを施行したので報告する。【症例1】80歳男性。下行大動脈瘤切迫破裂(径79mm)。リスクファクターはCOPD、OMI、TVD、慢性腎不全、Shaggy Aorta、胸腹部大動脈の走行がヘアピンカーブ。手術は分離肺換気とし、左下側臥位にて右第7肋間後側方開胸で右方に偏位した大動脈にアプローチ。仰臥位に体位変換すると、手技継続が困難であったため前方へ切開を延長。シースは大動脈内にわずかしか挿入できないため、助手による用手固定。TEVAR施行後にシースとワイヤーを抜去。再度側臥位として閉胸。手術時間は2回の体位変換、消毒を含めて3時間50分、出血量200mlで無輸血。翌日、両下肢血栓塞栓症を合併し血栓除去術を施行。左腓骨神経麻痺が遺残したためリハビリ転院。その後は瘤径75mmに縮小。術後1年1ヶ月後に進行胃癌により永眠も、大動脈イベント再発なし。

【症例2】77歳男性。下行大動脈瘤(径70mm)。リスクファクターは維持透析、COPD、Moderate AR、担癌、Shaggy Aorta、腸骨動脈高度石灰化、胸腹部大動脈の走行がヘアピンカーブ。手術は分離肺換気とし、仰臥位にて右第6肋間前側方開胸で偏位した大動脈にアプローチ。シースは助手による用手固定としてTEVAR施行。手術時間2時間43分、出血量500ml。meanBP>80mmHgを維持していたが、対麻痺が出現したため翌日CSFドレナージを施行。著明な改善を認めたものの、軽度な不全麻痺が遺残したためリハビリ転院。【まとめ】大動脈高度屈曲症例に対してもTEVARを施行せざるを得ない場合がある。通常Tug of wire法を用いて経大腿動脈アプローチで施行されるが、血管損傷、特に大動脈解離のリスクは高く、さらにShaggy aortaの場合には血栓塞栓症のリスクが増大する。本症例のように、胸腹部大動脈の走行が右胸腔内へ大きく偏位している場合には、右開胸アプローチが有用であり、蛇行という問題点が一気に解決する。

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V10-3

TEVAR時におけるアクセス不良例の検討

○折本 有貴1, 石橋 宏之1, 杉本 郁夫1, 山田 哲也1, 丸山 優貴1, 今枝 佑輔1, 三岡 裕貴1, 細川 慶二郎1, 石口 恒男2

1愛知医科大学 血管外科, 2愛知医科大学 放射線科

【はじめに】デバイス進化が進みTEVARは普及したが、アクセス確保に追加手技を要する症例や、アクセストラブルに遭遇し術後管理に難渋する症例がある。アクセスに工夫を要した症例やアクセスで難渋した症例を検討した。【対象と方法】当科で現在も主に使用するCTAG、TX2、VALIANTを用いTEVARを施行した2015年1月以降の70例を対象とした。術中にアクセスに対してPTAバルーン拡張以外に追加処置やシースに工夫を要した5例と退院時造影CTでアクセスの解離が判明した5例を対象とした。【結果】CTAGデバイスの先端/手元チップを削って16Frシース内に挿入したものが1例、open iliac conduitでもendoconduitでもデバイスが挿入できず直接腹部大動脈からTX2を挿入した症例を1例認めた。ステントグラフト展開後アクセストラブルで治療を要した症例3例(4.4%)認めた。内訳はシース抜去後腸骨動脈の損傷でExcluder leg挿入を要した症例が1例(CTAG)、総大腿動脈の内膜が損傷し修復を要した症例が1例(CTAG)、血栓内膜摘除を要した症例が1例(TX2)であった。これらのアクセス最小血管径とシース外径の差は平均-2.6mmであった。退院時造影CTではじめてアクセスの解離が判明した5例(CTAG:4例、TX2:1例)は、全例ABIの低下なく臨床症状もないため、追加治療は施行せず経過観察している。これらアクセス最小血管径とシース外径の差は平均+0.9mmであったが、全例総腸骨動脈から外腸骨動脈にかけて蛇行が高度であった。最後に腹部大動脈から両総腸骨動脈に高度石灰化を伴い、両外腸骨動脈に8mmステントが留置されているため、open iliac conduitでもendoconduitでもデバイスが挿入困難であったマルファン胸部下行大動脈瘤の1例を供覧する。【まとめ】TEVARにおけるアクセストラブルはある一定の割合で合併する。アクセス最小血管径がシース外径よりも細い場合には、無理な大腿動脈からのアクセスを回避する方法も含めて術前に十分検討する必要がある。また、アクセス最小血管径がシース外径より太い場合でも腸骨動脈の蛇行が強い場合にはアクセストラブルを常に念頭におく必要がある。

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V10-4

残存するTypeIIエンドリークの罪業

○東 隆, 笹生 正樹, 磯村 彰吾, 古田 明久, 飯島 正樹, 新浪 博士東京女子医科大学

背景:EVAR後に残存するTypeIIエンドリークはそれ自体問題になることはない。しかしながら動脈瘤内においてステントグラフトが背側からの持続的な血流にさらされることにより前方への位置移動という経年変化を引き起こすことになる。動脈瘤前後径の拡大、瘤内でのステントグラフトの前方移動は遠隔期においてTypeIa、IbおよびIIIエンドリークに発展し急速な瘤径拡大につながる危険性がある。症例:2012年にEVARを施行した82歳女性、術後2年で残存するTypeIIエンドリークにより動脈瘤前後径の拡大及びステントグラフトの前方移動を認め、腰動脈経由の瘤内及び責任腰動脈のコイル塞栓術を施行した。術後5年目に急激な瘤径拡大を認めた。CT上瘤内への造影剤の漏出はZenithステントグラフトの両側脚の引き抜けにともなうTypeIIIエンドリークによるものと判断された。方法:全身麻酔下に両側大腿動脈アプローチにて手術を施行した。術前の造影CTでは明らかなTypeIaエンドリークは同定されなかったが、造影剤の漏出がTypeIIIエンドリークにマスクされている可能性を考慮し、動脈瘤内から逆行性にTypeIaエンドリークに対するコイル塞栓術を施行可能な治療戦略を立てた。手術手技の工夫は以下のとおりである。1, まず両側のアクセスを確保する。左側はPull throughテクニックを用いてメインボディと引き抜けたレッグとのアクセスを確保し、右側は通常通りのカニュレーションを行いstiff wireでアクセスを確保した。2, 脚の再建を完成させる前にTypeIaエンドリークの有無を確認する。左側の脚を追加した後、右側の脚追加を行う前にメインボディ右側脚をバルーン閉塞し中枢側からDSAを行ったところTypeIaエンドリークが同定できた。3, 中枢側のコイルはより確実な瘤内アプローチで行う。右側を再建する前に引き抜けたレッグから瘤内を経由し中枢側へアプローチすることでエンドリーク部位へのアクセスは容易であり、バックアップ良好で確実な塞栓が可能であった。4, 手技中のグラフト内血栓を予防する。先行して左側脚を留置しシースを抜去することでグラフト内血流を確保した。コイル塞栓術中に右脚バルーン閉塞による血栓形成を予防することができた。結語:術後造影CTにおいてもエンドリーク認めず、経過良好である。

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V10-5

長期留置カテでSVC血栓閉塞、血栓内膜摘除・自己心膜パッチ形成で透析路を確保した1例

○渡邊 達也, 平林 葉子, 湯川 拓郎, 森田 一郎, 杭ノ瀬 昌彦川崎医科大学 総合医療センター

症例は39歳男性。精神発達遅滞のある透析患者で、1998年神経陰性膀胱にて尿管逆流を起こし1999年に膀胱ろう増設となっている。多発性嚢胞腎により腎機能低下し2005年に透析導入となった。2005年は左前腕人工血管シャント、2006年左大腿人工血管シャント増設を行ったが、発達障害の影響もあり穿刺による透析を安全に行うことが困難だった。2009年からは右鎖骨下静脈にヒックマンカテーテルを留置し、透析を行っていた。2014年右鎖骨下静脈閉塞により前医へ紹介。両手の血管造影を行ったところ左は橈骨動脈・尺骨動脈ともに閉塞しており骨間動脈のみ開存している状態でシャント作成によるsteal現象は必発と思われた。左は鎖骨下静脈で閉塞していた。大腿動静脈シャントは穿刺を行うことが困難であったため作製できなかった。鎖骨下静脈のカフ型カテーテルの交換を行いながら右内頚静脈から下大静脈にパリンドローム14Frを留置して透析を行っていたが、経過中に半奇静脈よりも右房側で上大静脈が血栓閉塞し、上肢の血流は半奇静脈を介してIVCへ還流している状態となった。再循環も生じ、透析効率の維持が困難となっていた。CT上SVCは器質化血栓による閉塞。血栓除去でカテーテルによる透析が継続可能になると判断され当院へ紹介となった。全身麻酔下にて胸骨正中切開でアプローチ。上行大動脈に送血管、下大静脈に脱血管、腕頭静脈からベントを留置し、拍動下で手術を行った。SVCを切開すると器質化血栓で充満しており、右房の内腔が明らかな部分を起点として頭側へ向かって血栓内膜摘除を行った。右鎖骨下静脈と内頚静脈分岐部まで血栓を除去、バックフロウが良好にあることを確認した。心膜を切除しグルタールアルデヒド固定を行い、SVC切開部分にサイズを合わせてパッチ形成を行った。術後造影CTで上大静脈の良好な血流が確認でき、透析効率の改善もみられた。良性疾患による上大静脈症候群は透析カテーテルやペースメーカーリード留置によるものが多く、治療の第一選択としてはPTA、ステントによる治療を行われていることが多い。手術としては自家静脈または人工血管を使用したバイパス術が行われていることが多い。今回の症例では持続留置カテによる透析継続が求められ、バイパス術では透析効率の改善が望めないため、上大静脈の血栓内膜摘除・自己心膜パッチ形成を行った初めての症例である。映像とともに手術方法を報告する。

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V11-1

A型急性大動脈解離でのCentral Repair とAorto-Carotid Bypass の同時施行

○阿部 知伸, 伊藤 英樹, 吉住 朋, 寺澤 幸枝, 徳田 順之, 藤本 和朗, 六鹿 雅登, 成田 裕司, 大島 英揮, 秋田 利明, 碓氷 章彦名古屋大学医学部心臓外科

【背景】急性A型大動脈解離の治療において腕頭動脈、総頚動脈の解離はしばしば遭遇する病態であり、周術期Strokeの危険因子であることも示されている。我々は、殊にStatic Obstruction で、術前のTIA症状を伴うものは周術期Stroke のリスクが非常に高いと考えAorto-Carotid Bypass の併施をCentral Repairと同時に行い良好な結果を得ている。この発表ではビデオを用いて手技の実際を紹介したい。

【方法】供覧する症例は2例、いずれも50台男性の急性大動脈解離で術前TIA症状を繰り返しており、複数の画像診断法で頸動脈のStatic Obstructionが確認されている。一例は右に、一例は左にバイパスを行っている。特に右の場合は、右内頚静脈からのライン挿入をあらかじめ避けてもらう必要がある。体位は仰臥位、頭部をバイパスの反対側に少し向け、耳介の直下から消毒する。胸骨正中切開後、頸部胸鎖乳突筋前縁を切開し、型のとおり頸動脈の剥離を行う。次にヘパリン化し6mm~8mmグラフトを頸動脈に単純遮断で吻合する。いずれの症例も中枢側からのフローは全くなかったので、この遮断は脳になんら悪影響を与えないはずである。pump on と同時に総頚動脈につないだ人工血管を通じて脳灌流を開始、送血開始直後に対側より低かった閉塞側の脳局所酸素飽和度は著名な上昇を示している。2例は部分弓部置換、1例は上行置換を行っている。末梢側吻合完了後、大動脈人工血管と頸動脈へのグラフトを吻合し、大動脈頸動脈バイパスを成立させたのち復温している。いずれも覚醒後全く神経学的異常を認めず、画像上も脳梗塞を認めなかった。遠隔期にも問題を認めていない。

【結語】術前TIA症状がある頸動脈系Static Obstruction を伴う急性A型解離においてCentral Repair 時とAorto-carotid Bypassの同時手術 は周術期のStroke なく行われ得る。頸動脈も分岐後の頭側まで露出する必要がなければ、局所解剖は決して複雑ではなく、吻合手技も容易である。

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V11-2

胸骨裏面に固着した巨大上行大動脈瘤に対する手術

○真鍋 晋, 平山 大貴, 安川 峻, 平岡 大輔, 大貫 雅裕, 広岡 一信土浦協同病院 心臓血管外科

【目的】動脈瘤が巨大化し周囲臓器に強く固着した症例での外科治療には、多くのピットフォールが存在する.胸骨裏面に固着し、さらに上大静脈、気管を圧迫、閉塞した上行大動脈瘤に対する部分弓部置換術の手術手技を動画にて供覧する.【方法と結果】症例は62歳、男性.主訴は呼吸困難で、気管がほぼ閉塞し、気管内挿管され、救急搬送された.最大径90mmの上行大動脈瘤が胸骨右半分の裏面に固着し、背側では上大静脈も閉塞していた.胸骨離断時の動脈瘤損傷が危惧されたため、循環停止下に正中切開する方針とした.手術開始後、心室細動となり、心臓マッサージ下に左大腿動静脈より体外循環を確立し、即座に全身冷却を行った.深部温25度まで冷却し、循環停止下に胸骨を離断した.離断はなるべく左寄りに行い、離断時の動脈瘤の損傷はなく、すぐに体外循環を再開した.しかし、瘤が右側胸骨に広く固着していたため、胸骨離断後も縦隔はほとんど展開できなかった.固着した動脈瘤を胸骨から鋭的に剥離したが、前面の瘤壁は摩耗しており、途中で動脈瘤が破裂した.この時点で循環停止とし、動脈瘤壁を切開し、内腔より弓部三分枝にカニュレーションを行い、選択的脳分離体外循環を確立した.末梢側の吻合部位は腕頭動脈と左総頸動脈の間とし、一分枝付き人工血管を用いた部分弓部置換術の方針とした.末梢側吻合は動脈壁を離断し、外側をフェルト帯補強したexclusion法で行った.吻合後、右房から脱血管を挿入しなおし、さらに右上肺静脈より左室ベントを挿入し、体外循環を確実にした.中枢吻合部はST接合部直上とし、同様に外側をフェルト帯補強したexclusion法で中枢側吻合を行った.最後に腕頭動脈は分枝グラフトを用いて再建し、手術を終えた.手術時間6時間8分、体外循環時間231分、脳分離169分、下半身循環停止62分だった.術後は合併症なく順調に経過、術後20日で独歩退院できた.【結論】低体温、循環停止下の胸骨離断や瘤内腔からの選択的脳潅流は、脳合併症を生じることなく安全に施行可能であった.本症例のような巨大瘤では、様々な周囲臓器との癒着が強固であることが予測され、剥離には十分な注意が必要となる.剥離が困難な場合には、inclusion法での吻合も考慮するべきと考えられた.

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V11-3

左肺動脈閉塞右肺動脈狭窄を合併した巨大弓部大動脈瘤の一手術例

○庄嶋 賢弘, 有永 康一, 飛永 覚, 高瀬谷 徹, 大塚 裕之, 高木 数実, 税所 宏幸, 財満 康之, 菊先 聖, 朔 浩介, 福田 倫史, 明石 英俊, 田中 啓之久留米大学 外科学講座

【症例】78歳、女性。呼吸苦、嗄性にて肺炎の治療がなされていた。呼吸苦の増悪、胸部圧迫感から造影CTが行われ、弓部小弯側に突出する70mm大の嚢状大動脈瘤を認め、周囲の血腫像から切迫破裂と診断された。嚢状大動脈瘤の圧排により左肺動脈(LPA)は閉塞し、右肺動脈(RPA)に高度狭窄を認めた(図:術前CT)。緊急全弓部大動脈置換術の方針となった。【手術】両側腋窩動脈と右総大腿動脈からの送血と右房脱血にて人工心肺を確立した。循環停止とし大動脈切開後、順行性脳灌流を開始した。弓部大動脈小弯側に嚢状瘤の大きな開口部を認め、内側に多量の血栓を認めた。血栓を除去すると自然に肺動脈内腔へ交通し、肺動脈壁は破綻しており大動脈瘤が肺動脈へ穿破していた。肺動脈壁が大きく欠損したため肺動脈形成を必要とした。肺動脈壁は脆弱で壁構造がはっきりせず、内膜のみとなった部位もあり大動脈瘤壁より肺動脈外膜を剥離し、欠損した肺動脈壁の外側から広く内膜側にマットレス縫合をかけた。循環停止時間の延長を避けるため、この時点で弓部大動脈の末梢側吻合を行い体循環を再開した。ウシ心膜パッチに先のマットレス縫合を通し、肺動脈壁欠損部を補填した。大動脈の中枢側吻合後、分枝再建を行った。人工心肺からの離脱に問題なく、止血も良好であった。【術後経過】術後経過は良好で、術後31日で自宅退院となった。術後造影CTでは再建した弓部大動脈および肺動脈の血流、形態に問題は認めなかった(図:術後CT)。胸部大動脈瘤の肺動脈穿破は極めて稀な病態であり左右短絡により急激な心不全症状や呼吸障害を呈すると報告されている。本例では弓部小弯側の嚢状瘤の周囲に血腫を形成しており、右肺動脈を圧排し左肺動脈を閉塞していた。術前は全弓部大動脈置換術を行い瘤内血腫が除去されれば肺血流は回復すると考えていたが、血栓除去後に大きな肺動脈欠損口を生じパッチによる肺動脈形成を必要とした。

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V11-4

術中急性A型大動脈解離症例の経験

○新谷 悠介, 飛永 覚, 金本 亮, 今井 伸一, 奈田 慎一, 高木 数実, 庄嶋 賢弘, 大塚 裕之, 高瀬谷 徹, 鬼塚 誠二, 廣松 伸一, 明石 英俊, 田中 啓之久留米大学 外科

【背景】術中急性A型大動脈解離は開心術後の発生率は0.16-0.35%と非常に稀であるが、発症すれば重篤な状態に陥りやすいため迅速な診断、治療が必要となる。【目的】今回術中急性A型大動脈解離症例を動画で供覧するとともに診断、人工心肺、手術手技のピットフォールなどについて文献的考察をふまえて報告する。【症例】82歳、女性。重症大動脈弁狭窄症、上行大動脈瘤の診断で大動脈弁置換術、上行大動脈置換術の予定となった。CTで上行大動脈に石灰化、一部アテローム性病変を疑われたため、人工心肺は右腋窩動脈送血、上下大静脈より行うこととし、末梢側吻合は中等度低体温、逆行性脳潅流下に行う予定とした。【手術】右腋窩動脈を剥離後、胸骨正中切開を行った。右腋窩動脈送血(20Fr送血管)、上下大静脈脱血にて人工心肺を確立し中心冷却を行った。送血回路圧は180mmHg前後であり流量も問題なかったが、膀胱温27℃の時点で突然、上行大動脈末梢から大動脈解離を認めた。直ちに送血を停止し左大腿動脈を露出し送血管挿入を試みるがカニュレーションできず、循環停止のまま大動脈切開し内腔を確認後、粥腫のない部位から20Frカニューラを真腔へ挿入し送血路を行った。基部を確認したところ、右冠動脈解離を認めた。鼓膜温17.6℃で循環停止、順行性脳分離体外循環を開始した。大動脈解離は上行大動脈-基部に認めた。腕頭動脈、左総頸動脈間で大動脈を切離し、断端形成後26mmダクロングラフトを用いて末梢吻合を行った。側枝より順行性送血を再開した。右冠動脈Seg.3へ大伏在静脈を吻合し、右冠動脈開口部を縫合閉鎖した。中枢側の断端形成を行い、腕頭動脈は断端形成後10mm側枝にて再建した。大動脈弁は三尖弁であり、硬化した大動脈弁を切離し19mm生体弁にてAVR施行した。大動脈の中枢吻合を行い、大動脈遮断解除した。最後に上行大動脈をサイドクランプ下に冠動脈バイパスの中枢吻合を行い手術終了した。手術時間8時間14分、人工心肺時間332分、大動脈遮断時間233分であった。術後経過は問題無かった。結論)術中大動脈解離症例に対し迅速な診断と外科治療にて救命することができた。腋窩動脈カニュレーションによる送血では頻度は少ないものの血管損傷や解離などの合併症の報告が散見される。術中大動脈解離発症後は新たな送血路の作成、臓器保護など迅速な判断と対応が必要となる。

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V11-5

PCI中の冠動脈破裂・急性大動脈解離に対する右冠洞・無冠洞のPartial remodeling

○山本 暁邦, 齋藤 俊英, 松浦 昭雄, 宮原 健, 竹村 春起, 林 泰成一宮市立市民病院 心臓血管外科

【症例】81歳男性。右冠動脈#1:75%の病変に対しPCIを施行。術中に冠動脈解離・冠動脈破裂をきたした。冠動脈造影ではバルサルバ洞への解離の波及も疑われた。Perfusion balloonにより破裂部を圧迫止血しつつ,心嚢ドレナージを行うことにより血行動態は維持された。ただちに手術室に搬送し,緊急手術とした。【手術】心嚢ドレナージチューブからの持続的な出血を認めなかったため,体外循環確立前に胸骨正中切開した。心膜を切開し,大動脈エコーを施行したところ基部から弓部大動脈に至る偽腔開存型大動脈解離を認めた(4/5周解離)。経食道エコーでは下行大動脈に解離を認めなかった。大腿動脈送血で体外循環を確立し全身冷却。右室前面に広範な血腫を認めたが,エコーを用いて右冠動脈を同定した。Perfusion balloonをdeflateしたところ右冠動脈とバルサルバ洞の接合部から出血を認めた。#1を離断し,冠動脈を結紮閉鎖した。膀胱温23度で循環停止とし,SCP下に腕頭動脈の近位で末梢側吻合(#26 トリプレックス)。終了後側枝送血を開始し復温。基部を観察したところRCC・NCC・R/N交連部は完全に解離していた。LCCには解離は及んでいなかった。RCC・NCCを5mmのレムナントを残しトリミング。バイオグルーを用いた。#26 Jグラフトに1/3周ずつの舌を作成。4-0プロリンRB-1を用いNCCのnadirから連続縫合。次いでRCCのnadirから連続縫合した。LCCは短く切った舌を1cm折り返し外翻内挿の形態で縫合した。人工血管同士を斜めに離断し縫合した。右冠動脈#2にSVGを吻合。中枢側吻合は基部グラフト右側に置いた。大動脈遮断を解除したところ基部縫合線からおびただしい出血を認め,多数の追加針を要した。幸いFFP・PC・フィブリノーゲン投与後に止血に至り,手術を終了することができた。手術時間538分,体外循環時間359分,心虚血時間185分。【術後経過】第3病日に人工呼吸器を離脱。その後の経過は良好。術後心エコーではARを認めなかった。弓部の解離腔も消失していた。【まとめ】PCI中に生じた大動脈解離であったため,極力人工弁を使用したくないという事情もあり今回の術式を選択した。術中の出血には大いに苦しんだが,結果的にはARを認めず良好な結果を得ることができた。一方で,定型的手術としてのBentall手術の価値を再認識させられた症例であった。

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V11-6

先天性2尖弁を伴う急性A型大動脈解離に対する自己弁温存基部置換+弓部置換術

○田村 健太郎, 平岡 有努, 都津川 敏範, 近沢 元太, 坂口 太一, 吉鷹 秀範心臓病センター榊原病院

先天性2尖弁(BAV)に対する弁形成術は主に海外から良好な成績が報告されているが、その手術手技は未だchallengingである。当院では2013年1月から2017年7月まで当院ではBAVに対する弁形成を10例(平均44±3.6歳、19-60歳)に行い、そのうち8例にreimplantationを行った。Reimplantationの手術手技全例Valsalva graftを用いcommissureを180°に固定し、effective heightが7mm以上になるように両尖ともcentral plicationを追加している。今回、先天 性2尖 弁(BAV)を 伴 う 急 性A型 大 動 脈 解 離 例 に 対 す るreimplantation+total arch replacement+frozen elephant trunk施行例をビデオで供覧する。[症例]39歳男性。朝4時発症の喉から胸の不快感で当院救急搬送され、心エコー、造影CTで偽腔開存型急性A型解離と診断し緊急手術となった。心エコー上AR modであったが、術前BAVの診断はできなかった。手術は上腕+大腿動脈送血で対外循環を確立。膀胱温30℃で上行遮断し、selectiveにCPを注入し心停止を得た。Intimal tearはLMT直上から半周性にあり基部置換を行う方針とした。膀胱温25℃で循環停止とし、左総頸動脈-鎖骨下動脈間で大動脈をトリミングし、J-Graft Open Stent 25mm×9cmを挿入後、J-Graft24mm 4分枝管を用いdistal吻合を行った。大 動 脈 弁 はtype I BAV (L/R)で、Geometical heightはNCC 22mm、RCC相 当 部20mm、LCC相当部20mm、Bruxelle height25mm、弁輪は24mm sizerが通過し、人工血管はValsava graft 26mmを選択した。Commissureが180°になるように1st low stichを行った。Non fused cusp (NCC)のeffective heightが7mmになるようにcentral plicationを行い、bulging sutureを追加。Non fused cuspをreferenceとしてfused cuspをcentral plication。Rapheの肥厚部位は一部slicingを行った。両側冠動脈はcarrel patch法で再建。人工血管-人工血管吻合を行った後遮断解除。頚部3分枝を再建後pump offは容易であった。手術時間490分、大動脈遮断時間221分、下肢循環停止時間32分、最低膀胱温25℃であった。術後人工血管反応熱と思われる発熱が遷延したものの、経過は良好で術後43日目に退院した。術後6 ヶ月後の心エコーではAR trivial、平均圧較差15mmHg、AVA 1.65cm2であった。

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V11-7

心不全で発症した大動脈縮窄症に対する外科治療の経験

○北本 昌平, 山下 洋一, 中川 さや子, 堀井 泰浩香川大学医学部 心臓血管外科

【緒言】大動脈縮窄症の根治手術はResection & Replacementであるが、成人期症例では長期の高血圧から上行大動脈や冠動脈疾患、二尖弁合併症例では大動脈弁疾患を有すことも有り、左開胸を基本とする同術式ではこれらに対する同時治療が困難な場合がある。今回開心操作と同時に上行-下行大動脈バイパス術を行った一例を経験したので報告する。【症例】出生生育歴に問題のない成人男性で、20代から高血圧で内服治療中。56歳より労作時呼吸苦が出現し、心不全として加療開始された。原因の確定には難渋したが、両下肢の血圧低下(ABI 0.6台)から58歳時に大動脈縮窄症を診断され、当科紹介となった。後負荷によるafterload mismatchからの心不全で、左室は拡大し(d/s 60/46mm)、左室収縮能も低下していた(EF 49%)。加えて、強い弁尖変性を有す中等度大動脈弁逆流、及び上行大動脈拡張も診断され、これらに対する同時治療を予定した。【手術】十分な心脱転操作が得られるよう二本脱血とし、脊髄や腹部臓器の還流不全を防ぐべく上行大動脈+大腿動脈送血で人工心肺確立。頭側へ心脱転し傍食道で後壁側心膜を切開、胸部下行大動脈を露出。低体温下に下行大動脈を部分遮断し、血管同径の16mm J-graftを端側吻合。Graftは下大静脈前面から右室右房の外側を走行させ、大動脈弁及び上行大動脈置換後に、上行大動脈右側へ端側で中枢吻合。その後問題無く人工心肺離脱し、手術終了した。【結果】術後合併症なく、早期より離床も順調に回復。術後ABIは 0.9台へ改善、著明に発達した側副血行路も退縮を呈した。また左室径もほぼ正常化しており、Bypassによる下半身血流増加及び後負荷改善の効果は良好であった。心不全症状も無く、32病日に独歩退院した。【結語】成人大動脈縮窄症に対し、開心操作と同時に上行-下行大動脈バイパス術を施行し良好な結果であった。

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V12-1

カテーテルアブレーションに合併した肺静脈狭窄に対する肺静脈パッチ形成術

○森田 英幹, 清水 寿和, 住吉 力, 青木 雅一, 長野 博司さいたま赤十字病院 心臓血管外科

整脈治療目的のカテーテルアブレーションは、今日広く行われるようになってきている。その稀な合併症に肺静脈狭窄がある。無症状で経過するものもあれば、増悪すれば、心不全や喀血をきたすこともあり、積極的な治療が必要となる。今回我々は、ショックをきたした肺静脈狭窄に対して、ウシ心膜を用いて肺静脈拡大パッチ形成術を行い、良好な経過がえられたため、手術ビデオを供覧し報告する。症例は64歳男性。健診で心房細動を指摘され、2014年7月当院循環器科でカテーテルアブレーション(PVI)を施行した。退院後、咳嗽、労作時息切れ、両側胸水を認めた。心エコーでRV-PA圧の上昇、心臓CTで両側4本とも肺静脈狭窄を認め、肺静脈狭窄による心不全と診断された。2014年11月1回目のPTAを施行した。一旦改善したものの、再狭窄により再び心不全症状が増悪し、2015年3月2回目のPTAを施行した。その際、脳梗塞を合併し、左上下肢の不全麻痺をきたした。心不全は改善し転院したが、2016年1月より再び症状が出現した。2月に心不全が急速に悪化し、当院に搬送された。エコーでは右心が著明に拡大し、左心が虚脱していた。TR-PG102mmHgと高値で、カテコラミン投与下で血圧が70mmHg台と低いため、緊急手術の方針とした。手術開始時、血圧が30mmHg台、脈拍が30回/分まで低下したため、急いで体外循環を確立した。肺静脈周囲は癒着していたが、左右とも肺門近くまで剥離を進めた。心停止下に左房から上下肺静脈にV字型に切開した。肺静脈は全周性に肥厚し、狭窄していた。ウシ心膜パッチを、1辺3cmで90°広げた扇形にトリミングした。上下肺静脈を接合するように、パッチを4-0PPPの連続縫合で縫着し、形成した。両側とも同様の方法でパッチ形成を行った。手術時間は5時間2分、体外循環時間は179分、大動脈遮断時間は 116分であった。術後3日目に気管内挿管を抜管した。心不全は著明に改善し、術後1か月目の右心カテーテル検査では、31/12(20)mmHgと正常に復した。造影CTでも肺静脈の形態は良好であった。退院後も自覚症状はなく、良好な経過がえられてる。

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V12-2

2本のネラトンをガイドに用いた高周波アブレーションデバイスによる左房後壁隔離術

○齋藤 俊英, 松浦 昭雄, 宮原 健, 竹村 春起, 林 泰成, 山本 暁邦一宮市立市民病院 心臓血管外科

【はじめに】当院では以前より高周波アブレーションデバイス(bipolar)を用いた左房メイズ手術(左房後壁隔離)を行ってきた。当初は単純に右側左房切開線と左心耳断端の両方からデバイスを挿入していたが,各々の焼灼線がうまくつながらない危惧が少なからずあった。また,デバイスを挿入する際にその先端で左房後壁を穿孔させた経験もある。より安全・確実に左房後壁隔離を行うための工夫を報告する。【手技】先端約2cmを切り落とした9EGネラトンカテーテル(外径5.5mm×全長330mm,イズモヘルス社製)を2本用意する。上大静脈を十分に剥離。心停止後に右側左房切開を置き,左心耳を離断。大型の強彎ケリー鉗子を用い,ネラトンを術者側から心膜横洞を通す。さらにその先端を上大静脈の下を通し,左房天井外側のガイドとする。次にケリー鉗子を左房切開線から左心耳断端に通し,左房天井内側のガイドとなるネラトンを通す。各々のネラトンの助手側はコッヘルとペアンで把持し区別が付くようにしておく。90°の角度に曲げたCardioblate LP(メドトロニック社製)の各々の先端をネラトンにはめ込み,助手側からネラトンをゆっくり引いて左房天井を挟むようにデバイスを誘導。左心耳断端から約1cm出してネラトンをはずし,3回焼灼。術者側の左房壁がアコーディオン様となっている可能性を考え,デバイスを手前に数cm引き再度焼灼。次いで左房切開線から左心耳断端にケリー鉗子を通し下壁内側のガイドとなるネラトンを通す。次いで下大静脈を剥離し,ケリー鉗子によりネラトンを心膜斜洞を通し下壁外側のガイドとする。デバイスの先端を2本のネラトンにはめ込み,左房下壁を挟むように先端を誘導する。左心耳側でネラトンをはずし3回焼灼。手前に引き焼灼。最後に左房切開線から僧帽弁綸に向かいデバイスで3回焼灼し,弁輪に近い部分は冷凍凝固。【成績】2013年11月から2017年7月までの間にこの方法を用いた左房メイズ手術を33例施行した。29例(87.9%)に右房峡部焼灼術を併施した。洞調律復帰率は退院時84.8%(28/33例),フォローアップ(平均14.9±13.2 ヶ月)で81.3%(26/32例)で あ っ た。洞 調 律 に 復 帰 し な か っ た6例 の う ち5例 はlongstanding persistent AFであった。左房損傷を認めなかった。【まとめ】非常に病歴の長い患者も除外せずにメイズ手術を行っている中,まずまずの成績を残すことができている。この方法は安全に左房後壁隔離術を行う上で有用である。

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V12-3

HOCMに対する低侵襲中隔心筋切除とCT Virtual endoscopyを用いた術前シミュレーション

○都津川 敏範, 大月 優貴, 平岡 有努, 田村 健太郎, 吉鷹 秀範, 坂口 太一心臓病センター榊原病院

【緒言】経大動脈弁的な中隔心筋切除術は肥大型閉塞性心筋症(HOCM)に対する有効な治療手段だが、肥厚した心室中隔のため左室奥深くの視野がとりにくい。そのため、右肋間小開胸による手術では術前のシミュレーションが特に重要となる。今回我々は、HOCMに対する右肋間小開胸での中隔心筋切除術と、CT Virtual endoscopyを用いた術前シミュレーションについて供覧する。【症例】症例は61歳、女性。2001年にHOCMと診断され、薬物治療でフォローされていた。2016年7月になり症状が悪化。BNPが 444pg/mlに上昇し、手術目的で当科紹介となった。心エコーでの最大圧較差は110mmHg、中隔厚は16mm。経食道心エコーで中隔に限局した筋性肥厚と大動脈弁下の膜様狭窄が認められた。右肋間小開胸で手術を行うため、心電図同期造影CTを用いて大動脈弁から左室に至るVirtual endoscopy像を作成し(図)、術前シミュレーションを行った。中隔に付着する2条の異常筋束(矢頭)と乳頭筋(PM)の位置関係を明らかにし、右第3肋間小開胸(7cm)からアプローチした。F-F bypassで人工心肺を確立。白く肥厚した大動脈弁下の膜様狭窄は僧帽弁前尖(AML)から右冠尖まで広がっており、これをすべて切除した。MPR像を参考に7mm厚、10mm幅、25mm長の中隔心筋を切除し、異常筋束2本も併せて切除した(矢印)。術後心エコーでは左室流出路の圧較差は 7mmHgに減少し、僧帽弁の前方運動も認められなかった。術後Air leakのためドレーン抜去に1週間要したが、それ以外合併症もなく、術後15日目に退院となった。【結語】CT Virtual endoscopyで予めシミュレーションを行うことで、小切開手術でも安全に中隔切除術を施行できた。

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V12-4

midventricular levelで心室中隔、乳頭筋を含む心筋切除を要した肥大型心筋症の一例

○伊藤 久人, 鳥羽 修平, 山本 直樹, 真栄城 亮, 小沼 武司, 新保 秀人三重大学胸部心臓血管外科

34歳、男性。2年前に心雑音を契機に閉塞性肥大型心筋症と診断された。その後失神発作を繰り返すようになり、手術適応と判断された。心臓カテーテル検査にて左室心尖部と上行大動脈の圧較差は45mmHgで、Brockenbrough現象陽性(45→120mmHg)であった。心エコーでは著明な左室の求心性肥大と左室内乱流を認めた。左室内圧較差62mmHgでValsalva負荷後にて79mmHgに増悪した。Mid-ventricular obstruction typeと診断された。また僧帽弁前尖の収縮期前方偏位による僧帽弁逆流を認めた。手術は胸骨正中切開、右側左房切開にてアプローチした。僧帽弁尖に異常はなかった。前尖を切除した。内側、外側乳頭筋を基部で切除した。また心室中隔の心筋を切除した。後尖は温存したが、腱索は切除し、後尖弁輪下の左室自由壁の心筋束に割を入れた。僧帽弁は機械弁で置換した。体外循環開始前に測定した上行大動脈―左室圧格差は約35mmHgであったが、体外循環離脱後は圧較差が消失し、ドブタミン負荷にても圧格差を認めなかった。術後心エコーにても左室内圧較差の著明な改善を認めた。

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V12-5

収縮性心膜炎に対する心膜切除術・Waffle procedureの工夫

○松崎 寛二1,2, 塚田 亨1, 佐藤 真剛1, 渡辺 泰徳1

1日立製作所日立総合病院, 2筑波大学附属病院

【はじめに】収縮性心膜炎の術式として心膜切除術にWaffle procedureを加える手法の有効性が報告されている。ただし、胸骨正中切開アプローチは左前胸壁が障害となって左室壁の操作に難渋することが多く、人工心肺を要することも少なくない。一方、人工心肺は出血を助長するためWaffle procedureに伴う止血困難や心臓損傷が危惧される。そのため我々は胸骨切開法を工夫して手術視野の改善を図り、人工心肺を使わない手術を目指した。また、心膜剥離や心外膜切開法にも工夫を加えて止血困難や合併症の防止に努めた。良好な治験をえたので、ビデオ画像を中心に報告する。【対象】症例1:44歳、男性、9か月前に急性心膜炎を発症した。症例2:81歳、男性、半年前に永久ペースメーカー植え込み術後の遅発性心タンポナーデを合併した。いずれも収縮性心膜炎を続発して心不全をくり返すため手術適応となった。【方法】1)左第3あるいは第4肋間の前側方肋間開胸とそれ以下の部分胸骨切開を組み合わせたAnterolateral thoracotomy with partial sternotomy(ALPS法)にてアプローチした。そして右室前壁から左室の前壁、外側、心尖部、横隔膜辺縁まで心膜を露出した。2)超音波凝固切開装置(ハーモニックSYNERGY)のフックブレードを用いて、肥厚した心膜を心外膜から慎重に剥がし、心膜切除を行った。3)心外膜ダイレクトエコーにて左前下行枝など主要冠動脈の走行を確認し、心外膜の予定切開ラインをマーキングした。4)電気メス(凝固モード)を用いて約1.5cm間隔の格子状に心外膜切開を加えた。5)石灰化を来した心外膜に対しては超音波手術器(SONOPET)あるいは超音波吸引器(CUSA)を用いて石灰化病変を除去した。【考察】1)ALPS 法は左室側の手術視野を展開しやすいため、収縮性心膜炎に対する心膜切除術およびWaffle procedureを、人工心肺を使わずに広範に行ううえで有用であった。2)超音波凝固切開装置、電気メス、超音波手術器を適材適所に使うことが心膜剥離と心外膜切開を安全かつ効果的に行うために有用であった。3)病的心外膜下の冠動脈を同定するためにダイレクトエコーが有用であった。

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V12-6

Slime法(フィブリン糊を使用した新しい止血法)の実験的考察

○松下 努, 増田 慎介, 林田 恭子, 神崎 智仁国家公務員共済組合連合会 舞鶴共済病院

【はじめに】心臓血管外科手術において吻合部出血は重要な問題である。フィブリン糊は最も一般的な局所止血薬であるが臨床の場において、出血点にフィブリン糊を噴霧しても、有効な止血効果を得ることは難しい。我々は以前からフィブリン糊の使用においてSlime法と命名した、あらかじめフィブリノゲン溶液とトロンビン溶液を匙の上で軽く混ぜ合わせ、ゼリー状(フィブリンゲル)になったところで出血部位に置き、用手的に圧迫止血する方法を発表してきた(Eur J Cardiothorac Surg. 2011;39:782-3)。この方法は単にフィブリン糊を塗布するより、糊が止血部に強固に固着または圧入され、より効果的な止血力を発揮する。臨床的に効果は認められたが、今回は実験的研究を行ったためこれについて報告する。【方法と結果】フィブリンゲルと血管の接着状態を確認を確認する目的で、標本作成を行った。作成に当たっては、直径8mmのPTFEグラフト(GORE-TEX Stretch Vascular Graft, GORE)を、 圧力測定器[Pressure gauge](PG-208-102GH-S, COPAL Electronics)に接続し、カテーテルインフレーションデバイス[Inflation device] (QLR 2030, AtrionR Medical)にて血液を送り込める系を確立して行った。尚、血液は3か月齢のウサギ(日本白色種)から採取し、フルヘパリン化して使用した。手順は、PTFEグラフトにSH針(プロリーン,Johnson & Johnson)を用いて針孔を作成し、血液を送り込み、継続した出血ある状態でフィブリン糊を圧迫して止血を行い、100mmHgの加圧下にて3分間圧迫を行った後、圧迫を解除して出血が無いことを確認した後、標本を作製した。フィブリン糊の圧迫にあたっては、匙にトロンビン液を0.5mL滴下し、続いてフィブリノゲン液を0.5mL滴下し、適度に攝子で撹拌を加えた後、形成されたゲルを人差し指にて圧迫した。標本をHE染色し顕微鏡で観察した結果、フィブリンゲルは針穴部で人工血管内に圧入され、人工血管ほぼ全層の深さまで充満していた。【考察】この実験結果からSlime法の臨床的効果が裏打ちされた。

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V13-1

心拍動下冠動脈バイパス術におけるNo-touch saphenous veinのKnack & Pitfalls

○山崎 真敬1,2, 西川 幸作2, 山田 敏之3, 吉武 明弘1, 木村 成卓1, 高橋 辰郎1, 千田 佳史1, 川口 新治1, 林 可奈子1, 稲葉 佑1, 泉田 博彬1, 山下 健太郎1, 大野 昌利1, 川合 雄二郎1, 伊藤 努1, 饗庭 了1, 高梨 秀一郎1, 志水 秀行1

1慶應義塾大学医学部 外科(心臓血管), 2榊原記念病院 心臓血管外科, 3国立病院機構東京医療センター 心臓血管外科

【背景】左冠動脈領域に対する両側内胸動脈を使用した冠動脈バイパス術は優れた長期開存率と生存率を示しているが、両側内胸動脈に続く第3のグラフト選択に関しては未だ明確な見解は得られていない。今なお静脈グラフトが頻用されるが両側内胸動脈に比し、その開存率は不良である。近年、no touch techniqueによるsaphenous vein graft (SVG)の良好な開存率と遠隔成績が報告されるようになり今後が期待されているが、一方で高いSSIの発生率やグラフト側枝からの後出血などの問題点も存在している。我々のno touch SVGの使用経験から、そのKnack & Pitfallsを供覧する。【対象と方法】2015年9月から2016年3月までに当院で施行した初回単独冠動脈バイパス術87例のうち82例にno touch SVGを使用した。末梢吻合前に全てのSVGは上行大動脈へ中枢吻合を行い、自己圧にてgraftの拡張を図った。術直後にグラフト造影を施行したのは62例で、術直後および1年後に各々グラフト造影を施行したのは31例であった。【結果】対象となった82例全例で心拍動下冠動脈バイパス術を完遂し、On-pumpへのconversionはなかった。平均吻合数4.67±1.17本で、77例に両側内胸動脈、11例に右胃大網動脈を使用した。橈骨動脈は使用しなかった。在院死亡は1例で、誤嚥性肺炎にて失った。術後出血を2例に認め、いずれもSVG側枝からの遅延性出血だった(1PODと3POD)。8例にSVG採取部の創傷治癒遅延を認めた。また経過観察中に脳梗塞にて1例を失った。術直後および1年後にグラフト造影を施行した31例144吻合における開存率は、グラフト別にleft internal thoracic artery が術直後100.0%/1年後100.0%、right internal thoracic artery 100.0%/97.1%、gastroepiploic artery 100.0%/100.0%、SVG97.1%/95.7%であった。これらのグラフト造影の結果から、術直後のグラフト造影では見逃されていたものの、グラフトの捩れにより遠隔期に閉塞する症例が存在することがわかった。【結語】no-touch techniqueによる採取法にはlearning curveが存在し、初期にはgraft側枝からの出血やgraftの捩れ、採取部の創傷治癒遅延が多く見られた。またこの採取法を用いると静脈弁の位置が把握できないため、吻合部位と一致してしまう場合に、グラフト走行の変更を余儀なくされることもある。ただし経験の蓄積によりno-touch SVGに関連する合併症は概ね解消が可能である。

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V13-2

大伏在静脈 Sequential Anastomosis での Parallel Anastomosis の応用

○阿部 知伸, 伊藤 英樹, 吉住 朋, 寺澤 幸枝, 徳田 順之, 藤本 和朗, 六鹿 雅登, 成田 裕司, 大島 英揮, 秋田 利明, 碓氷 章彦名古屋大学心臓外科

【目的】Sequential anastomosis における最適なグラフトデザインについては未だ議論があり、本総会においても会長要望演題として取り上げられているとおりである。Saphenous Vein Graft (SVG) では長期開存率とグラフト流量が強く相関することが知られており、sequential anastomosis はグラフト長・手術時間の節約のみならず、開存率改善の意義も持つかも知れない手法である。SVGでは屈曲によってKinking しやすいこと、最短距離を考えるとDiamond 吻合が合理的である解剖が多いことなどからDiamond 吻合が多く用いられていると思われる。しかしDiamond 吻合はhost vessel の切開長が限られるなどの弱点もあり、著者らは性状不良な血管などで、parallel anastomosis をしばしば用いている。この発表では我々のグラフトとりまわしと手技を紹介したい。

【方法】著者らはいくつかの状況で、距離的には少々不利であるparallel 吻合を用いたSaphenous Vein Graft のSequential Anastomosis を あ え て 用 い て い る。Parallel Anastomosis を用いるような状況は、1.近位測 side-to-side anastomosis の標的となる血管が性状不良で、長めの切開が望ましいとき。2.遠位測の標的血管より近位測の標的血管の方が非常に重要であると思われるとき。3.同一標的血管内でのSkip graft などである。グラフトの取り回しは大動脈-#4PD-#4AV が最も多く、大動脈-Diagonal (High Lateral)-PL (OM) もときどき行っている。

【結果】特に近位測 side-to-side anastomosis において、#4PD-#4AV ではしばしば性状不良でdiffuse 病変も多い#4PD で十分な切開長でしっかり開いた吻合を得ている。吻合は針数が多くなる分だけDiamond anastomosis より若干時間を要するが、仕上がりは大きな吻合口で流量も多く、内科医からも好ましい評価を得ている。遠位測End-to-end 吻合も原則長軸方向に寝る吻合デザインとしており、やはり吻合口は大きくとっている。現在までside-to-side anastomosis、End-to-end anastomosis とも閉塞はない。【結語】SVG でのparallel anastomosis を 用 い た sequential graft は、 こ と に、 近 位 測 の 標 的 血 管 がDiamond anastomosis に不向きなときに合理的な解決法となるoption である。

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V13-3

BITAを用いたMICSCABG ―RITA to LCXの実現―

○穴井 博文1,2, 和田 朋之2, 田中 秀幸2, 首藤 敬史2, 川野 まどか2, 河島 毅之2, 梅野 惟史2, 吉村 健司2, 内田 かおる2, 宮本 伸二2

1大分大学医学部臨床医工学センター , 2大分大学医学部心臓血管外科学講座

【はじめに】低侵襲心臓手術として、小開胸心臓手術(MICS)が各領域で進められ、冠動脈バイパス術(CABG)においても、MICS CABGによる多枝バイパスが限られた施設で行われてきている。その中でも両側内胸動脈(BITA)の使用は、長期予後を考慮した上で重要であり、さらにLITA to LAD、RITA to LCXは、多くの冠動脈外科医が標準手技としており、MICS-CABGにおいてもその実現化が望まれる。我々は、胸骨正中切開で標準的に行っているLITA to LADおよび,in situ RITA to LCX via transvers sinusをMICS-CABGにおいて世界で初めて実現したので、その手法をこれまでの成績と併せて報告する。【当施設でのMICS-CABG】1998年4月から2017年7月までの非正中切開でのCABGは1枝バイパスのMIDCABが28例(2.5%)、多肢バイパスであるMICS=CABGが13例(施行期間の7.7%)、その他9例

(0.9%)である。2013年から開始したMICS-CABG、13例の詳細は、年齢:61-81歳、女:男=1:12、バイパス本数:2-4本(平均2.6)、使用graftは、LITA+SVG:9、BITA:3、BITA+SVG:1であった。結果は、在院死亡なし、遠隔期死亡なし、graft開存率97%(33/34)、合併症として横 隔 神 経 麻 痺:2、LITA解 離2、 追 加PCI:1例 で あ っ た。【In situ RITA to LCX via transverse sinusの方法】第4-5肋間にて小開胸。LITA、RITAの順に、両側とも起始部から第6肋間まで採取。RITA処理後、10mmペンローズドレインの内部に通しておく。心膜を切開、上大静脈前面に付着する心膜翻転部を切開し、同部から上大静脈、右無名静脈外側に沿って鉗子を挿入しRITAを挿入したペンローズを一端心嚢内に引き出す。続いて心左側からtransverse sinusに鉗子を通し、誘導抜去する。RITAを損傷、捻転することなく最短距離にてLCX領域へ誘導できる。これまでに2例に施行し良好な開存を得ている。【まとめ】当施設でのMICS-CABGは正中切開によるCABGに遜色ない結果であった。当初LITA解離等の合併症があったが、克服しながら症例を重ねている。MICS-CABGはいまだに挑戦的な領域であるが、胸骨縦切開に伴う感染のリスクの低減という最大のメリットがあり、今後器具の開発や手技の向上で普及してゆくと考えられる。またin situ RITA to LCX via transvers sinusの方法は正中切開では標準的な手法であり、本法を用いれば安全に行うことが可能である。

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V13-4

内胸動脈グラフトが開存した心不全例に胸骨正中切開を回避しOPCABを施行した2例

○林 一郎1, 吉川 英治1, 加島 一郎2

1自衛隊中央病院, 2国家公務員共済組合連合会三宿病院

CABG術後で内胸動脈グラフトが開存し他のグラフトや冠動脈の病変により心不全に陥った症例では、胸骨正中再切開中にグラフトを損傷すると急激に循環動態が破綻をして対応が困難となることが懸念される。そこで胸骨正中切開をせずグラフト周囲の剥離を回避してOPCABを施行することにより安全に再手術ができると考え2例の手術を施行した。症例1は80 歳男性、6年前に当院で CABG(RITA-LAD,LITA-D1,SVG-PL-15PD)を施行。外来通院中に突然呼吸困難が出現し緊急入院。救外で心停止となり心肺蘇生後に人工呼吸器、IABP装着。CAGではRITA、LITAは開存、SVGが中枢で閉塞しPL-15PDのみ開存。PCIを試みるもガイドワイヤーが通過せず断念、その後も意識障害の遷延と発熱を認めWBC13490、CRP33.61、PCT21.7と上昇、肺炎を合併したため再度PCIを試みたがLCXが解離となり断念。意識レベルは徐々に回復したが発熱と心不全が遷延し当科コンサルトとなり翌日手術となった。手術は肺炎も考慮し正中切開や左開胸は避けて上腹部正中切開で行った。心横隔膜面の露出は胸骨裏面への癒着により心臓の受動が困難であったので左肋骨弓を吊り上げ鈎で左腋窩方向へ牽引して剥離を行った。GEA採取後横隔膜を縦切し数針のポリアミド糸をかけて尾側に牽引し作業スペースを確保し15PDにバイパスを行った。グラフトのフローは74ml, PI 2.5でSVGを介しPLも還流されていると判断し手術を終了した、手術時間は 3 時間41分であった。術後経過は良好で1病日IABP抜去5病日には気管チューブを抜去し独歩退院となった。症例2は82歳男性、慢性腎不全で維持透析中であった。2年前に当院で CABG(LITA-LAD),MVP, Mazeを施行。退院後他院で維持透析を受けていたが透析前の心不全と透析後の意識消失が出現、徐々に増悪傾向を認め紹介入院。CAGではLITA-LADは開存、新たにLMTとLCx(#11)に90~95%の狭窄を認め回旋枝領域へのバイパス目的に当科紹介となった。手術は左第六肋間開胸で行った。下行大動脈にパーシャルクランプをかけてSVCを2か所に吻合しSVG-PLとSVG-LH-D1の3か所にバイパスを行った。手術時間は 4時間55分であった。術後経過良好で1病日には気管チューブを抜去し独歩退院となった。胸骨正中切開をせずグラフト周囲の剥離を回避してOPCABを施行することにより安全に再手術ができると考え上腹部正中切開と左開胸による再手術を施行し安全に施行し得た症例を経験したので供覧する。

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V13-5

右室切開による心室中隔穿孔の外科的治療の2症例

○中川 博文, 奥山 浩, 寺田 拡仁, 平沼 進, 南淵 明宏昭和大学横浜市北部病院 循環器センター 

【背景】心室中隔穿孔(VSP)は現在でも手術死亡が約30%と予後不良な疾患である.術式も様々報告されてきたが,最近ではextended sandwich patch法が様々な施設で行われ,良好な結果が報告されている.今回われわれは左前下行枝、右冠動脈をそれぞれ責任病変とするVSP2例に対し穿孔部位に応じた右室アプローチによるextended sandwich patch法を用い良好な結果を得た.【症例1】75歳女性.前下行枝#6-7,左回旋枝#11,右冠動脈#1-2にそれぞれ複数回冠動脈形成術(PCI)の既往がある.腹腔鏡下胆のう摘出術の術後8日目に労作時の呼吸苦と全身浮腫出現.心エコー検査にて前壁の壁運動低下とVSPを認め当院救急搬送となった.緊急冠動脈造影検査にて#1:75%,#4AV:90%,#6:75%,#7:90%と多枝冠動脈病変を認め,さらに左室造影検査にて前壁中隔の心尖部寄りにLV→RV shuntを認めた.Qp/Qs:1.9.心エコー検査では20mm大のVSPを認めた. IABP挿入下に緊急手術を施行した.術野エコーを用いて右室切開部位を確実にし,LADに平行に右室切開を施行.牛心膜パッチを用いたexteded sandwich patch法にてVSPを閉鎖した.また同時手術として左前下行枝と,右冠動脈にそれぞれ大伏在静脈グラフト(SVG)を用いた2枝バイパスを施行した.術後4日目にIABP離脱,また同日に抜管.その後の心エコー検査では有意なシャントなくまた左室機能は術前と比較し改善を認めた.【症例2】71歳男性.全身倦怠感を主訴に受診し,心電図変化で急性冠症候群疑われ、緊急冠動脈造影を施行したところ,#2:100%,#6:90%,#13:75%と多枝冠動脈病変を認めた.#2に対しPCIを施行(#2:100%→0%).翌日の心エコーにて下壁中部付近の心室中隔に1mm大のVSPを認めた.Qp/Qs:3.0.IABP挿入下に準緊急手術を施行した.4PDに平行に右室切開を施行.牛心膜パッチを用いたextended sandwich patch法にてVSPを閉鎖.また同時手術として左前下行枝にSVGを用いたバイパスを施行した.術後7日目にIABP離脱,術後8日目に抜管.その後の心エコー検査では有意なシャントなく左室機能は術前の状態が保持されていた.【結語】右室アプローチによるextended sandwich patch法は手技が比較的容易でありかつVSPの確実な閉鎖が可能である.さらに非梗塞左室心筋への外科的侵襲を避けることで術後の左室リモデリングの進行を最小限に抑制する効果も期待できる.

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V13-6

生体両側肺葉移植と併せて行ったECMO補助・自己心拍動下冠動脈バイパス術

○植山 浩二1, 坂本 和久1, 井出 雄二郎1, 金光 ひでお1, 山崎 和裕1, 池田 義1, 湊谷 謙司1, 青山 晃博2, 伊達 洋至2

1京都大学 心臓血管外科, 2京都大学 呼吸器外科

【背景】我が国において肺移植は1998年から実施され、2015年末時点で累計数は464例に及び、良好な5年生存率を誇っている.今回我々は、生体両側肺移植が予定された患者の術前検査で2枝病変の冠動脈疾患(CAD)が判明したため、肺移植の際に冠動脈バイパス(CABG)を併施する治療戦略とし、手術遂行.術後良好な経過を辿った症例を経験した.手術ビデオを供覧し、考察を含め報告する【症例】患者は64歳男性.急速に呼吸機能が悪化する特発性間質性肺炎を発症.最大の内科的治療が施されるも改善を認めなかった.年齢の点で脳死肺移植の適応から外れ、家族から肺提供の強い希望があり、生体両側肺葉移植を検討.術前全身評価で右冠動脈(RCA)#2 100%閉塞、側副血行の供給源である回旋枝(CX)#14に90%狭窄を認める2枝狭心症が判明.合同カンファレンスで肺移植と同時のCABGが望ましいと判断した【手術内容】胸部アプローチはClamshell切開、同時に両側下腿より大伏在静脈グラフト(SVG)を採取.上行送血、右大腿静脈脱血にてECMO開始.心拍動下に中枢吻合を2箇所作成.次いで右心房から上大静脈へ脱血管を挿入し2本脱血.両側胸部に掛けた開胸器に、冠動脈固定器、心尖部吸引器を固定することで通常のon pump beating CABGが可能であった.中枢吻合を行ったSVGをCX, RCAにそれぞれ遠位側吻合施行.グラフト血流が良好であることを確認し、両側肺葉移植へ移行.肺移植終了し術中ECMOは順調に離脱出来た.心臓はウマ心膜を用いて被覆した.【術後経過】麻酔覚醒に問題なし.術後2日目に予定通り気管切開を行った.5日目からリハビリ開始.内服薬は免疫抑制剤、ステロイドに少量アスピリンを加えた【考察】CADの存在は肺移植レシピエントの適応において「Relative contraindication」の項目に配されている.その一方、術前あるいは術中に治療がなされたCAD(術前カテーテル治療、術中CABG)を合併する脳死肺移植例の生命予後は、CADを伴わない症例群と同様であるとの報告も散見される.本例は本邦で初めての生体肺葉移植とCABGの同時施行例と考えられるが、今後Native coronaryやSVGの状況、ならびに心機能を含め慎重な定期観察が必要である.

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V14-1

上行弓部大動脈置換後人工血管感染に対する再手術

○水野 友裕, 大井 啓司, 八島 正文, 八丸 剛, 藤原 立樹, 黒木 秀仁, 竹下 斉史, 横山 賢司, 櫻井 翔吾, 櫻井 啓暢, 久保 俊裕, 荒井 裕国東京医科歯科大学大学院心臓血管外科

【背景】上行・弓部大動脈人工血管置換後の人工血管感染は,非解剖学的経路での再建が困難であり,感染再発を含めて満足な治療成績が得られていない。特に弓部置換後の感染は,置換部全域を大網で完全に被覆することが困難なことも多く,感染再燃が心配される。【対象】当院おいて2012年から2016年までに232例に胸部大動脈手術を行った。再手術症例は31例

(13.4%)で,17例が仮性瘤等同部位の大動脈再手術,新規病変が12例で,人工血管感染による再手術は2例(0.8%)にとどまった。この2例について感染に対する対応,工夫を動画で供覧する。【結果】症例1:58歳,女性。外傷性急性大動脈解離のため,上行弓部大動脈置換術を行った。大腿骨骨折治療後に一旦リハビリ転院となったが,発熱のため当院に再入院し,人工血管感染の診断となった。起因菌は多剤耐性緑膿菌で弓部末梢側吻合周辺の感染が疑われた。感染部位に人工物が残存しないように,非解剖学的再建を行った。まず,上行大動脈にリファンピシン塗布4分枝付人工血管を吻合後,末梢断端は右胸腔内,横隔膜,腹腔内を通して,同時に施行した腹部大動脈置換の人工血管に吻合した。下行大動脈は左胸腔内で離断し縫合閉鎖した。腕頭動脈は右胸腔内を通して腋窩動脈にバイパス,左総頚動脈はin situで再建,左鎖骨下動脈は,腋窩-腋窩動脈間バイパスとした。感染人工血管は完全に除去し,感染領域(遠位弓部)に遺残人工物はなくなった。縦隔内人工血管周囲に大網を充填した。一旦,感染は改善したが術後3か月で感染による多臓器不全で死亡した。解剖では縦隔内感染はなく,右腋窩部,腹部人工血管周囲に真菌感染が確認された。症例2:66歳,男性。急性Type A大動脈解離のため緊急上行大動脈置換を行った。1年後に発熱のため他院に入院。CTで縦隔・胸腔内内血腫があったため当院に搬送された。仮性瘤破裂の診断で緊急手術を行ったが,血腫内に膿の貯留があり,人工血管感染による吻合部破綻と診断した。感染人工血管を除去し,再置換後,大網を充填した。起因菌は黄色ブドウ球菌。 再手術後1年半後に末梢側吻合部仮性瘤を形成し,弓部置換を追加施行したが経過良好である。【結語】リファンピシン塗布人工血管,大網充填は人工血管感染後の再手術に有効と思われた。弓部置換後の人工血管感染は更なる術式の工夫が必要である。

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V14-2

胸部大動脈仮性瘤再手術時の脳保護の工夫-両側総頸動脈直接カニュレーション

○川本 俊輔, 細山 勝寛, 高橋 誠, 寺尾 尚哉, 鷹谷 紘樹, 長沼 政亮, 渡邊 晃佑, 坂爪 公, 高原 真吾, 鈴木 佑輔, 早津 幸弘, 河津 聡, 吉岡 一朗, 高橋 悟朗, 安達 理, 秋山 正年, 熊谷 紀一郎, 齋木 佳克東北大学 心臓血管外科

【背景および目的】仮性動脈瘤が胸骨に接している症例の再手術において,胸骨再切開の際に仮性動脈瘤が破裂した場合,脳保護と心筋保護の両方を迅速に確立すること求められるが,縦隔に癒着のある状態では必ずしも容易ではない.たとえF-Fバイパスにより部分体外循環を確立していたとしても,大動脈からの大出血により体外循環流量が不十分となり,重篤な脳障害を引き起こす危険性がある.当院では,再開胸時の破裂リスクの高い症例に対し,開胸前に両側総頸動脈に直接カニュレーションし順行性脳潅流を行い,総頸動脈領域の脳循環を担保した上で再開胸を行っている.この手技をビデオで供覧するとともに,これまでの実施症例を後方視的に検証する.【手術手技】前額部でrSO2モニタリング.全身麻酔導入後,両側の胸鎖乳突筋前方に小切開を加え,両側総頸動脈を露出テーピング.全身ヘパリン化の後,まずF-Fバイパスによる部分体外循環を開始,緩徐に全身冷却を開始.30℃前後まで体温が下がった時点で,両側総頸動脈をcut downし12Frのバルーン付きカニューレ挿入し選択的順行性脳潅流を開始.潅流量はカテーテル先端圧(50-70mmHgを目安)および前額部rSO2の値をもとに5-10mL/kg/minで調節.脳循環を担保した上で胸骨再正中切開を行い,その後の大動脈手術を完遂した.【症例】2004年から2017年までに合計15例(うち男性12例)で本手技を併用した.再手術時の平均年齢は59(20-77)歳であった.仮性瘤の位置は,大動脈基部2例,上行大動脈8例,弓部3例,頸部分枝2例であった.緊急手術1例,準緊急手術7例,待機手術7例であった.【結果】再開胸時に仮性瘤破裂を来した症例は4例であった.体外循環開始から再開胸までの時間は平均80分,心停止までの時間は平均160分,総体外循環時間(平均)は525分,総頸動脈個別潅流時間(平均)は290分であった.術後せん妄を4例で認めたが,後遺症となる脳合併症の発生はなかった.在院死亡は2例で,再建後の出血により再心停止を要した1例がLOS/MOFで,大動脈食道瘻となっていた感染性仮性瘤の1例がSepsisからNOMIを発症し死亡退院となった.【結語】本手技の併用により,体外循環時間は長くなる傾向にあるが,再開胸時に破裂を来した症例においても神経学的後遺症を合併することなく手術を完遂できた.大動脈再手術の際の安全性を高める工夫の一つとして有用と考える.

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V14-3

マルファン類似疾患の胸腹部大動脈瘤(Safi分類I型)に対する人工血管置換術

○鈴木 伸一, 益田 宗孝, 磯松 尚幸, 郷田 素彦, 町田 大輔, 富永 訓央, 渋谷 泰介横浜市立大学附属病院

はじめに)胸腹部大動脈瘤(TAAA)手術は高侵襲治療であり、特に症候性大動脈疾患では、血管壁の脆弱性による吻合部出血などのリスクが懸念される。今回、我々はマルファン類似疾患患者にTAAA(Safi 分類I型)の外科手術を施行したので報告する。症例)17歳男性既往歴)1)生後2 ヶ月:動脈管開存症手術(左開胸)2)13歳:脳梗塞(右中大脳動脈領域)3)15歳;大動脈弁輪拡張症に対して自己弁温存基部置換術;術後右上腕動脈の血栓閉塞合併症)ぶどう膜炎現症)身長172cm、体重51kg診断)胸腹部大動脈瘤(Safi分類I型);最大径7cm。造影CT検査でAdamkiewics動脈は左Th10より分岐していた。手術)胸腹部大動脈瘤切除人工血管置換術(Safi分類I型)モニター)手術前日に脳脊髄液ドレナージ挿入し、手術時はMEPを測定した。補助循環)部分体外循環による軽度低体温法;脱血管は左大腿静脈よりカテーテル操作で右房へ挿入、Distal perfusionの送血路は左総腸骨動脈に9mmJ-graftを端側吻合した。腹部主要分枝および再建後肋間動脈への送血システムは脳分離体外循環回路を使用。ヘパリンは3mg/kg投与し、術野の出血はサッカーにより体外循環システムへ回収しdistal perfusionより返血することで、上下半身とも血圧を維持して対麻痺発生を予防した。手術方法)大動脈置換範囲は左鎖骨下動脈分岐部末梢の胸部下行大動脈から腹部大動脈の腎動脈分岐部直上までとし、腹腔動脈(CA)と上腸間膜動脈(SMA)は人工血管再建、Th9-11の肋間動脈は16mm人工血管を使用したLoop法で再建した。再建手順は、大動脈分節遮断により1)大動脈中枢吻合、2)上位肋間動脈閉鎖、3)下位肋間動脈(Th9-11)再建、4)大動脈末梢吻合、5)CA、SMA再建とした。血管壁の脆弱性あり、吻合部の止血はフェルト、プレジェットの補強と、生体糊(Fibrin glue、GioGlue)の使用が必要であった。また、PDA術後で左肺が胸壁および大動脈に癒着し剥離が必要、後腹膜剥離操作で損傷した脾臓からの出血は電気メス、タコシ-ル、ハイドロフィット、Fibrin glueで止血した。体外循環時間6時間3分、止血操作にも時間を要し、手術時間は13時間33分となったが、術後は再出血および脳脊髄合併症なく良好な経過であった。術後19日に軽快退院した。まとめ)マルファン類似疾患患者のTAAA手術では、入念な止血操作が必要であったが、良好な結果を得たのでビデオで紹介する

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V14-4

急性大動脈解離における外膜内翻法による断端形成とテレスコープ法による人工血管吻合

○田中 敬三, 別所 早紀, 夫津木 綾乃, 山本 希誉仁, 平岩 卓根浜松医療センター 心臓血管外科

The crucial aspects of surgical treatment for acute aortic dissection is to achieve complete anastomotic hemostasis as well as obliteration of false lumen. We have reported that the adventitial inversion technique provides an excellent hemostasis and facilities thrombotic closure of false lumen. We have devised a new technique for further anastomotic improvements. Surgical Methods: The distal and proximal stump construction is performed using the adventitial inversion technique without reinforcement of Teflon felt strip. The running suture with graft is started from the most dependent portion of the anastomosis. This is performed with continuous 4-0 polypropylene sutures on an RB needle, which pass through the graft (8 to 10mm from the edge, in-out), through the aorta (8 to 10mm from the edge, out-in), and then through edge of graft (1mm from the edge, out-in) to telescope the graft material deep into the aorta. Therefore, this technique requires three stitches (graft twice) for each turn. After the dorsal anastomosis is performed, suture is continued to complete the ventral anastomosis. Thus, Dacron graft was anastomosed exactly to reinforce aorta just below 5-0 polypropylene horizontal mattress suture which tacked the inverted adventitia to the luminal surface of the intima. Results: Since June 2013, 18 patients underwent emergent surgery for acute type A aortic dissection using this technique. All patients underwent ascending aorta/hemiarch replacement. Mean operation time was 267±54 min, mean extracorporeal time was 147±21 min, mean circulatory arrest time 36±9 min. There was no reexploration or death. Postoperative computed tomography showed complete obliteration of false lumen in aortic root in all of patients, and aortic arch in 94.4% (17/18) of patients.Conclusion: Graft telescoping insertion technique with adventitial inversion method provided a leakproof attachment between the aortic wall and the graft with satisfactory surgical outcomes.

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V14-5

Bentall手術後の冠状動脈ボタン瘤に対する人工血管による冠状動脈再建

○中村 喜次, 平埜 貴久, 奥薗 康仁, 西嶋 修平, 黒田 美穂, 中西 祐介, 伊藤 雄二郎, 堀 隆樹千葉西総合病院 心臓血管外科

((背景)Bentall手術における冠状動脈の再建は冠状動脈ボタンを作成しcarrel patch法で行うことが一般的である.このボタンが遠隔期に瘤化してきた場合,その手術法は確立されておらず報告も少ない.我々はそのような症例に対し瘤切除,小口径人工血管による再建を行ったので手術時の工夫とともに報告する.(症例)症例は45歳,男性.マルファン症候群.12年前に急性大動脈解離に対しbentall手術を受けていた.人工弁は機械弁,冠状動脈は左右ともフェルトなしのcarrel patchで再建されていた.当院外来受診時のCTでは左冠状動脈

(LCA)ボタンが35 mm,右冠状動脈(RCA)ボタンが23 mmに瘤化していた.大動脈壁と冠状動脈の境界は不明瞭で一体となって瘤化していた.左前下行枝と回旋枝の間は13 mm離れていた.なお,残存解離腔の拡大も認め腕頭動脈が34mm,胸腹部大動脈は65 mmと拡大していた.ボタン瘤の破裂リスクが高いと考え,まず全弓部置換とボタン瘤の切除,再建を行う方針とした.(手術)再胸骨切開,漏斗胸のため心臓は左胸腔に変位していた.右腋窩送血,大腿静脈とSVC脱血で人工心肺確立.癒着が激しく基部からのボタン瘤の露出は不可能であった.そのため心臓全体を剥離し脱転,挙上し肺動脈の左側からLCAボタン瘤の前下行枝と回旋枝が分岐部する部位付近を露出した.冷却後,まず下半身循環停止で弓部置換施行,循環再開.前回の人工血管を切開し内腔を確認するとボタンの孔自体も径20 mmに拡大していた.ボタン瘤内に指を挿入し瘤壁を確認しつつ肺動脈左側で瘤を外側から切開.前下行枝と回旋枝を一緒にして新たな一つのボタンとしてくり抜いた.そのままでは面積が大きく再度瘤化する可能性があったため両者の間をV字に切開,縫縮し10x20 mm大のボタンとした.7 mm ePTFEリング付き人工血管をボタンに合わせbevelingし吻合し,LCAボタン瘤の内腔を通し基部に誘導した.前回人工血管のボタン孔は大き過ぎて使用不能であるため,その人工血管の中枢側を剥離し離断した.前回人工血管と弓部置換の人工血管を端端吻合,その右側後方に小孔を穿ち7 mm ePTFE人工血管を端側吻合した.RCA ボタン瘤も同様の方法で再建した.循環停止時間61分,心停止時間253分,体外循環時間342分であった.

(まとめ)冠状動脈ボタンの瘤に対し瘤切除,人工血管による冠状動脈再建を行い良好な結果を得た.

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V14-6

Hemiarch後 自己弁温存基部置換+全弓部置換+Open stent graft留置術施行の1例

○村上 博久, 河嶋 基晴, 長尾 兼嗣, 長谷川 翔大, 辻本 貴紀, 野村 佳克, 泉 聰, 松森 正術, 本多 祐, 内田 直里, 吉田 正人, 向原 伸彦兵庫県立姫路循環器病センター 心臓血管外科

緒言)再開胸による開心術症例は近年明らかに増加している。今回、最近行った保険償還されている術式の中でも高点数手術をビデオ供覧する。対象)2002年から2017年8月までに当院 で 施 行 し た 大 血 管 術 後 に 大 血 管 手 術 介 入 を 要 し た36例。前 回 手 術 にBentall8例、Hemiarch20例、Hemiarch+Bentall1例、Total arch7例。。手術介入理由は、Bentallでは末梢側瘤拡大5例、中枢側仮性瘤1例、感染1例、溶血1例。Hemiarch(+Bentall)後では中枢側 基部拡大3例 吻合部仮性瘤5例、末梢側瘤(解離)拡大10例、残り3例はそれぞれ、基部再解離+末梢瘤拡大、基部拡大+末梢瘤拡大、AR+末梢瘤拡大。TAR後では中枢吻合部仮性瘤2例、基部拡大4例、基部再解離1例に拠った。施行手術はBentall 13例、Partial Remodling1例、Reimplantation1例、Reimplantation +TAR+OSG2例、STJplication+TAR1例、TAR14例、TAR+OSG2例、Aoパッチ形成2例の内訳。結果)病院死亡3例で、脳梗塞2例、MOF1例。遠隔死亡は4例で肺炎1例、脳梗塞1例、心不全1例、突然死1例。1年/5年生存率は 75/45%。近年開胸時に心臓・動脈損傷の懸念症例にはECC onとし心臓および血管の除圧を行いながらあるいは循環停止下に再開胸剥離を行う方針を採用。NoAssist 20例、ECCon12例、循環停止4例で、出血による血行動態破綻を来した症例はNoAssist 2例、ECCon1例の3例、これらはいずれも2005年以前の初期症例で、近年の30例はECCon/循環停止/NoAssistの使い分けにて血行動態の破綻症例はない。提示症例)62歳男性。急性大動脈解離に対し、緊急Hemiarch術施行。術後CTにて基部再解離、弓部偽腔開存型で拡大傾向のため、初回手術より1年7か月後に再手術介入。末梢側はOpen-stentを真腔挿入し、Total arch置換術、62歳と若年で大動脈弁性状も問題ないことから中枢側は自己弁温存基部置換施行。ECC355分、ACC281分と長時間に及んだが、術後出血も少量で、術翌日抜管、術17日目に独歩退院。結語)再手術におけるReimplantation法は STJ(Felt strip)までの剥離に難渋するがそこより中枢側は通常組織に近い印象であった。また、手術デバイスの進歩(Open-stent)、再開胸時のストラテジーの確立(開胸時ECC/循環停止)等で高難易度・複合手術も可能となってきたため、比較的若年者に対し自己弁温存術式を選択する意義は高いといえる。

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V15-1

Stanford A型急性大動脈解離手術後の再手術における工夫

○山崎 琢磨, 松崎 雄一, 法里 優, 平松 健司京都第二赤十字病院

【背景】A型急性大動脈解離(TAAAD)の手術成績は近年著しく向上してきているが、残存解離腔の拡大等による再手術を要する症例も多い。今回TAAAD術後の遠隔期に再開胸手術を必要とした症例について検討するとともに、その手術手技の工夫を供覧する。【対象】2000年5月以降にTAAADに対して手術を行い、生存退院した220例のうち遠隔期に残存解離拡大や感染によって再開胸手術を行った26例(11%)について検討した。うち4例は再々開胸手術で、男性10人(38%)、結合織疾患1例。平均年齢は67±13歳。初回手術の術式はHAR21例、TAR2例、Bentall3例。再手術までの平均期間は62±41 ヶ月で、再開胸手術の原因はグラフト感染3例、残存解離の拡大20例、基部再解離2例、人工血管仮性瘤1例であった。【手術】frailな症例では術前に介入を行う。開胸前に体外循環をスタンバイ。胸骨への癒着が高度の場合は、冷却し臓器損傷に備える。胸骨ワイヤーを牽引しイチョウ刃を用いてワイヤーごと胸骨切開。横隔膜面、上行大動脈~上大静脈の順にハーモニック等で癒着剥離をすすめ、最後に右心系の剥離をする。癒着度合いによって胸膜を一部切除して開胸とする。左室側の剥離は必 要 最 小 限 に 留 め る。TARの 場 合 はFrozen elephant trunkを 用 い て 頸 部 分 枝 をtranslocationして再建することで手術を簡略化する。【結果】再手術の術式は部分弓部置換(PAR)1例、HAR2例、TAR20例(FET併用10例,段階的TEVAR追加3例)、Bentall3例であった。同時合併手術はDVR2例、MVR1例、AVR2例、AVP1例、CABG3例。平均手術時間452±107分、人工心肺時間222±74分、大動脈遮断時間118±73分、挿管時間1.2±0.6日、ICU滞在日数3.1±1.5日、在院日数27±16日であった。術後合併症は肺炎2例、大腿創部離解1例、出血再開胸1例、透析1例、院内死亡は2例(8%)でいづれも再々手術症例で吻合部出血およびLOSによりPCPS挿入され離脱できずに失った。平均観察期間34±29 ヶ月において1年生存率87%、2年生存率83%であった。またFETを用いてTARを行った症例に脊髄神経障害等の主要合併症は認めず、遠隔期のエンドリーク等による瘤径拡大も認めていない。【結語】当院におけるTAAAD術後の大動脈再手術の成績は概ね良好であった。胸骨再切開によるリスクは高くないが、3度目の大動脈手術では出血コントロールが重要である。また、再手術のTARではFETを用いて術式を簡略化することで成績向上に寄与する可能性がある。

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V15-2

急性大動脈解離術後、吻合部仮性瘤破裂に対する治療戦略

○六鹿 雅登, 伊藤 英樹, 吉住 朋, 寺澤 幸枝, 徳田 順之, 藤本 和朗, 阿部 知伸, 成田 裕司, 大島 英輝, 碓氷 章彦名古屋大学 心臓外科

Stanford A型急性大動脈解離に対する救命目的の上行大動脈置換は、今やGold standardな治療である。しかし、左鎖骨下動脈下のentry残存および偽腔の拡大もしくは、吻合部の解離、仮性瘤形成、破裂などは、再手術の適応となる。緊急再手術の際、侵襲をいかに少なくするかが重要である。今回、我々はこういった症例に対して、二期的にに治療する方法を選択し、救命した症例を経験したので、ビデオにて供覧する。症例は、40歳、男性。体重100kgで肥満。他院にてStanford A型の急性大動脈解離(血栓閉塞型)に対し緊急上行大動脈置換手術を施行し、中枢側の小さな仮性瘤形成、左鎖骨下動脈下のentryおよび偽腔の拡大を認め、手術時期を検討していた矢先に、仮性瘤のimpending rupture及び上行大動脈の人工血管の圧迫に伴う溶血尿を認め当院に緊急手術依頼となった。手術前の戦略として、左鎖骨下のentry閉鎖をTEVARにて施行できるかどうかを血管外科と協議した。その結果、total de-branchingすれば末梢側のentry処理はTEVARにて可能と判断した。中枢側は、上行大動脈置換のみで完結できるのか、大動脈基部置換になるのかは、術前のCT評価では困難であった。手術は、両側鎖骨下動脈に人工血管を再建し、右大腿動静脈を露出後に、胸骨再正中切開施行。その後、瘤周囲は高度癒着のため、剥離困難であり、右大腿動静脈および両鎖骨下動脈で人工心肺を確立。咽頭温度22℃まで冷却し、循環停止下で仮性瘤open した。すぐさま末梢側の人工血管を遮断し、循環停止を解除した。中枢側は、以前の吻合部がST junctionに近く断端のトリミングを施行すると冠動脈口のすぐ上となるも、基部置換の必要はないと判断し、大きな単結節とし、上行大動脈中枢側の吻合を施行した。腕頭動脈および左総頸動脈の剥離を施行し、単純遮断でTrifurcate graftの分枝graftと吻合し、順次潅流しながら、上行大動脈の送血用分枝と吻合した。最後に予め再建した左鎖骨下動脈と吻合し終了した。左鎖骨下動脈の起始部は、TEVAR時にcoilで閉塞させた。循環停止時間3分、心停止時間104分、手術時間632分で手術を無事終了することができた。TEVAR時のCTも合わせて供覧する。

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V15-3

大血管手術後の再手術(open)における工夫:ハイブリッド弓部置換

○大石 恭久, 牛島 智基, 園田 拓道, 檜山 和弘, 帯刀 英樹, 田ノ上 禎久, 塩瀬 明九州大学病院心臓血管外科

(背景)急性A型大動脈解離に対する治療法として、エントリー閉鎖を含む上行(弓部)大動脈人工血管置換術が一般的である。しかしながらエントリーが残存した場合には、慢性期に瘤径の拡大をきたし、再手術を必要とすることは珍しくない。急性大動脈解離に対して上行置換術後、2回の開心術を要した症例に関して、ビデオで供覧する。(症例)71歳、女性。6年前に急性大動脈解離を発症し、上行大動脈置換術を施行された。経時的に大動脈弓部以遠の拡大および大動脈弁逆流の増悪を認めるようになり、発症4年後に再手術の方針となった。手技の低侵襲化を図るために、弓部、下行置換術ではなく、上行大動脈から弓部分枝をdebranchした後にTEVARを行う方針とした。サイドクランプ下のdebranchは、弓部分枝の解離所見や脳血流予備能低下の観点および、十分な距離のランディング長確保が困難であることから不適当と判断した。両側腋窩動脈送血、選択的脳潅流を採用し、あらかじめdebranchグラフトを吻合した新たな人工血管を用いて、既に吻合済みの人工血管と吻合することで、吻合の簡便さとランディング長の確保を両立させた。大動脈弁逆流に対しては生体弁による大動脈弁置換術を同時施行した。状態安定後、上行大動脈の人工血管を中枢側ランディングとするTEVARを行った。経過良好で偽腔の血栓化も進んでいたが、術後1年半から大動脈弁の逆流が出現し、増悪を認めることから、大動脈弁再置換術の適応とした。3度目の胸骨正中切開で開胸。人工血管周囲の癒着は高度であった。人工心肺の送血は大腿動脈から行った。Debranchグラフトと大動脈基部間の距離が短く、同部位での遮断困難であったため、頭側でステントグラフトごと遮断する必要があった。その場合、別に脳血流の確保が必要であり、debranchグラフトからも送血を行った。大動脈弁位の生体弁は、右冠尖が短縮することにより逆流を生じていた。術後経過良好で、脳合併症も認めなかった。(結語)大血管手術後の再手術においては、安全な開胸および人工心肺操作はもちろんのこと、剥離操作および吻合を容易にする工夫が重要と考える。その点で上行置換術後に弓部置換を要する場合には、ステントグラフトを組み合わせたハイブリッド弓部置換術が有用と考える。ハイブリッド弓部置換術後の再手術も、送血路の工夫によって安全に施行可能である。

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V15-4

胸部大動脈再手術症例の現状と工夫

○内田 敬二, 輕部 義久, 南 智行, 長 知樹, 出淵 亨, 伏見 謙一, 藪 直人, 金子 翔太郎, 額田 卓, 益田 宗孝横浜市立大学附属 市民総合医療センター

【目的】大動脈疾患は加齢とともに進行するため,再手術を完全に回避することはできない.胸部大動脈における再手術の現状とその成績を検討する.【対象および方法】過去10年間に施行した胸部大動脈(胸腹部を含む)に対するOpen surgery 770例のうち,105例(14%)が再手術症例であった.今回の検討では胸部大動脈手術(胸腹部を含む,TEVARを含む),開心術の既往のあるものを再手術と定義した.再手術の到達経路により,2回目以上の正中切開でおこなったものを正中群,2回目以上の左開胸で行ったものを左開胸群,再手術ではあるが,別経路で施行し得たものを別経路群とし,手術成績について検討した.【結果】再手術105例のうち,2回目手術は82例,3回目18例,4回目2例,5回目2例,7回目1例.再手術群を初回手術群と比較すると,手術死亡率が高く(14.3% vs 5.6%, P<0.01),生存例の術後入院日数が長く(47±38日 vs 39±38日,P<0.05),術後補助循環使用率が高く(5.7% vs 1.7%, P<0.05),新規透析導入率が高く(5.7% vs 3.4%, P<0.05),出血再開胸率が高い傾向があり(6.7% vs 3.2%, P=0.07),SSI発生率が高かった(14.3% vs 6.6%, P<0.05).再手術群のうち,正中群の死亡率は6%と,初回手術群と同様であった.左開胸群の死亡率は17%,別経路群の死亡率は23%と高かったが,別経路群の死亡症例には破裂や急性解離の緊急症例が多かった.【再手術を安全に行うための工夫】1.胸郭内仮性大動脈瘤に対する胸骨正中切開においては,FF部分体外循環による減圧が有効.症例により左小開胸による心尖ベントを用いた胸骨正中切開前の低体温循環停止を行うこともある.より危険な症例には頚動脈,腋窩動脈,大腿動脈送血とオクルージョンバルンを組み合わせた全身分離体外循環を用いる.2.再左開胸での肺癒着対策として,開胸創を2肋間以上ずらし視野を確保することが必須である.しかし初回開胸時から,再開胸を防ぐような戦略を検討することが重要である.【結語】血管内治療手技を応用することにより,胸部大動脈再手術の成績は向上しつつあるが,未だ十分ではない.初回手術におけるElephant trunk,Frozen elephant trunkの使用,TEVARと組み合わせた手術戦略などを症例毎に考慮する必要がある.

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V15-5

下行大動脈人工血管置換術後の胸腹部大動脈人工血管置換術

○大島 晋, 尾崎 健介, 島村 淳一, 櫻井 茂, 圷 宏一, 平井 雄喜, 広上 智宏, 栃木 秀一, 沖山 信, 藤川 拓也, 山本 晋, 笹栗 史朗川崎幸病院 川崎大動脈センター

背景: 慢性大動脈解離において、胸部下行大動脈人工血管置換術後に遠位側の胸腹部大動脈が瘤化することはよくある。当センターではこのような症例に対してopen surgeryによる胸腹部大動脈人工血管置換術を第1選択としている。人工血管置換術後の胸腔内は肺癒着が強固であり、副損傷をいかに減らすかが重要である。当センターの胸腹部大動脈人工血管置換術における基本方針として中等度低体温、左肺静脈脱血、左大腿動脈送血による左心バイパス法を用いて胸腹部大動脈人工血管置換術を行う。ただし再手術症例の場合には副損傷を減らすために肺静脈を用いずに、人工血管に置換された下行大動脈から脱血し、左大腿動脈に送血する左心バイパス回路を用いたシャントを使用することもある。今回、このシャントを用いた方法が再手術症例に有効であるかを検討する。方法:2008年1月から2016年12月まで下行大動脈人工血管置換術後の胸腹部大動脈瘤に対して開胸開腹下での胸腹部大動脈人工血管置換術を54例に施行した。51例のうち39例に左心バイパス、3例にFF bypass、12例にシャント回路を用いた。この内、左心バイパスを使用した症例をL群、シャント回路を使用した症例をS群とし2群を比較した。結果:L群とS群でそれぞれ比較すると平均年齢61.2±8.5歳, 65.4±13.9歳、慢性解離33例(82%)、9例(75%)、であった。手術時間はL群630±171分、S群514±107分(p=0.03)、在院死亡はL群2例(5.1%)、S群0例、対麻痺はL群0例、S群では緊急症例の1例(8.3%)、気管切開を要する呼吸不全は3例(7.7%)、1例(8.3%)であった。L群とS群の1年生存率はそれぞれ92%、91%であった。結語:当センターの手術成績は概ね良好であった。慢性大動脈解離の症例では下行大動脈治療後に胸腹部瘤の拡大の懸念があり、その場合、ステントグラフトだけでは治療が完結できない。今回、シャント群で手術時間が短い傾向にあったのは、主に肺などの副損傷回避と止血時間の短縮によるのではないかと考えた。再手術であっても手術を工夫することで手術リスクを軽減できている可能性がある。今後も症例を積み重ねて検討していく必要がある。

Page 86: 複雑病変を伴ったBarlow’s diseaseに対する僧帽弁形成術

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V15-6

胸部大動脈ステントグラフト後、再手術戦略と成績

○井上 武, 大山 詔子, 藤末 淳, 池野 友基, 幸田 陽次郎, 陽川 孝樹, 邉見 宗一郎, 後竹 康子, 中井 秀和, 松枝 崇, 田中 裕史, 大北 裕神戸大学 心臓血管外科

【目的】TEVAR後の大動脈関連合併症に対する外科治療では、留置ステントグラフト(SG)の扱いを含めた大動脈置換範囲や術式の決定が重要である。我々の戦略と成績を提示する。

【対象と方法】2001年4月から2017年8月までに当院で施行されたTEVAR後の再手術でSG部の操作を必要とした44例を対象とした。再手術時の平均年齢66±12 (38 ~ 84)歳、男性33例

(75%)初回SG時の診断は解離性瘤27例(慢性12例)、非解離16例、外傷性大動脈損傷1例であった。初回治療から再手術まで平均36.7±42.3か月 (1日~ 169か月)であった。初回TEVARで留置したSG種類はTAG 19例、Z stent 9例、MK 6例などであった。手術適応はEndoleak 15例(Type1:12、Type3:3)、SG感染12例(大動脈食道瘻7、大動脈肺瘻2)、残存大動脈拡大9例、SGによる逆行性解離5例、その他3例であった。胸部手術アプローチは左肋間開胸36例、胸骨正中切開7例、正中切開+左肋間開胸1例であり、術式は弓部置換7例、弓部下行置換6例、下行置換16例、胸腹部置換15例であった。SGは完全切除22例、部分切除6例、非切除16例であった。23例にSG遮断を行い、19例にはSG断端への吻合を行った。【結果】在院死亡を6例(13.6%)に認め、死因は人工血管感染2例、MOF2例、脳出血1例、肺炎1例であった。多変量解析による在院死亡の危険因子は年齢(OR 1.1, 95% CI 1.0-1.4, p=0.02)、SG感染(OR 8.3, 95% CI 1.0-89.8), p=0.04)であった。在院死亡を除く遠隔期生存率は5年92.6%、8年83.3%、再手術回避率は5年86.1%、8年60.2%であった。【結語】TEVAR後の再手術の早期成績は良好とはいえず年齢とステントグラフト感染は独立危険因子であった。しかし耐術症例では遠隔期再手術率も比較的低く良好な予後を得られる。