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1. はじめに 風車の設計は、IEC(国際電気標準会議)61400-1 (1) GL (ドイツロイド船級協会)ガイドライン (2) に記載されている設計 条件を基に、空力弾性連成解析を実施して荷重の評価を行 う。 風車の設計では、風車を解析用にモデル化し、各設計荷 重条件に対して、風車ロータやタワーに働く空力荷重を求め、 ロータブレードやタワーなどの風車の構造に対する時刻歴 応答計算を実施し、終局荷重や疲労荷重を求める。ここでは、 アメリカの国立再生可能エネルギー研究所(NREL)で開発さ れた空力弾性シミュレーションコードで FAST (3),(4) について概 説する。 2. FAST の概要 FASTFatigue, Aerodynamics, Structures, and Turbulenceは風車の認証機関である GL から、風車荷重解析ツールとし ての認証を得ている。また、同様に認証を得ている GL ガラ ードハッサン社(GLGH)の Bladed と異なり、ソースコードが 公開されており、FAST のコードをユーザがカスタマイズする ことも可能である。なお、FAST のカスタマイズに際し、コード そのものの販売は認められていないが、FAST を使用した商 用サービスの提供は許可されている。 1 FAST による空力弾性解析のフローを示す。FAST には、空力解析モジュールとして翼素運動量理論モデル BEM)をベースとした AeroDyn が組み込まれており、構造 計算(FAST)との連成解析を行うための空力計算を行う。空 力計算結果を入力として、構造系に働く応力等が FAST によ り計算され、ブレードの挙動が再び AeroDyn の計算にフィー ドバックされる。時系列解析はこのプロセスを各時刻で計算 を行うものである。計算結果として、発電出力、各要素に働く 荷重および構造変位等の時系列データが出力される。 FAST では、風車全体を図 2 に示すようなモデルで表し、 ブレードおよびタワーはモードシェイプで表される。ブレード は、フラップ方向を 2 次、エッジ方向は 1 次のモードシェイプ で表され(図 3)、タワーは 2 次のモードシェイプでモデル化 される。モードシェイプは、ブレードまたはタワーの質量およ び剛性分布から多項式近似により求める。 FAST で扱うことのできる自由度(DOF)を表1 に示す。表1 には浮体式洋上風車で扱うプラットフォームの自由度も記載 している。 疲労寿命等の予測に必要な変動風の時系列データは、 Turbsim などにより生成した風データを用い、FAST への入 力データとする。乱流場は、風車ロータ回転面を含む断面の 格子点上に、風速変動の時系列データが Turbsim により生 成される。 Fig.1 Flowchart of aeroelastic simulation by FAST Fig.2 Definition of wind turbine model for FAST Fig.3 Mode shape of the rotor blade (flapwise and edgewise) Measurements (power, loads, accel., wind) Aerodynamics (AeroDyn) Structural Dynamics (FAST, ADAMS) Controls (user-defined) Wind Field (TurbSim, field exp., etc.) Actuator Inputs (blade pitch, gen. torque, yaw) Aerodynamic Loads (lift, drag, pitch mom.) Blade Motions (blade pitch, element pos. & vel.) Wind-Inflow Time Series Loads (forces, moments) Time Series Motions (defl., vel., accel.) Output Other External Conditions External Loads (earthquake, wave) Platform Motions (defl., vel., accel.) 2 荷重連成解析 — 17 — Vol.37, No.1 日本風力エネルギー学会誌 特集 「風車に対する風況解析と荷重連成解析」個別ソフトの紹介 風車空力弾性シミュレーションコード FAST 株式会社風力エネルギー研究所 今村 博

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風車空力弾性シミュレーションコード FAST

株式会社風力エネルギー研究所 ��� �

1. はじめに

風車の設計は、IEC(国際電気標準会議)61400-1(1)や GL(ドイツロイド船級協会)ガイドライン(2)に記載されている設計

条件を基に、空力弾性連成解析を実施して荷重の評価を行

う。 風車の設計では、風車を解析用にモデル化し、各設計荷

重条件に対して、風車ロータやタワーに働く空力荷重を求め、

ロータブレードやタワーなどの風車の構造に対する時刻歴

応答計算を実施し、終局荷重や疲労荷重を求める。ここでは、

アメリカの国立再生可能エネルギー研究所(NREL)で開発さ

れた空力弾性シミュレーションコードで FAST(3),(4)について概

説する。 2. FAST の概要

FAST(Fatigue, Aerodynamics, Structures, and Turbulence)は風車の認証機関である GL から、風車荷重解析ツールとし

ての認証を得ている。また、同様に認証を得ている GL ガラ

ードハッサン社(GLGH)の Bladed と異なり、ソースコードが

公開されており、FAST のコードをユーザがカスタマイズする

ことも可能である。なお、FAST のカスタマイズに際し、コード

そのものの販売は認められていないが、FAST を使用した商

用サービスの提供は許可されている。 図 1 に FAST による空力弾性解析のフローを示す。FAST

には、空力解析モジュールとして翼素運動量理論モデル

(BEM)をベースとした AeroDyn が組み込まれており、構造

計算(FAST)との連成解析を行うための空力計算を行う。空

力計算結果を入力として、構造系に働く応力等が FAST によ

り計算され、ブレードの挙動が再び AeroDyn の計算にフィー

ドバックされる。時系列解析はこのプロセスを各時刻で計算

を行うものである。計算結果として、発電出力、各要素に働く

荷重および構造変位等の時系列データが出力される。 FAST では、風車全体を図 2 に示すようなモデルで表し、

ブレードおよびタワーはモードシェイプで表される。ブレード

は、フラップ方向を 2 次、エッジ方向は 1 次のモードシェイプ

で表され(図 3)、タワーは 2 次のモードシェイプでモデル化

される。モードシェイプは、ブレードまたはタワーの質量およ

び剛性分布から多項式近似により求める。 FASTで扱うことのできる自由度(DOF)を表1に示す。表1

には浮体式洋上風車で扱うプラットフォームの自由度も記載

している。

疲労寿命等の予測に必要な変動風の時系列データは、

Turbsim などにより生成した風データを用い、FAST への入

力データとする。乱流場は、風車ロータ回転面を含む断面の

格子点上に、風速変動の時系列データが Turbsim により生

成される。

Fig.1 Flowchart of aeroelastic simulation by FAST

Fig.2 Definition of wind turbine model for FAST

Fig.3 Mode shape of the rotor blade (flapwise and

edgewise)

Measurements(power, loads, accel., wind)

Aerodynamics(AeroDyn)

StructuralDynamics

(FAST, ADAMS)

Controls(user-defined)

Wind Field(TurbSim, field

exp., etc.)

Actuator Inputs(blade pitch, gen. torque, yaw)

Aerodynamic Loads(lift, drag, pitch mom.)

Blade Motions(blade pitch, element pos. & vel.)

Wind-Inflow

Time Series Loads(forces, moments)

Time Series Motions(defl., vel., accel.)

OutputOther

ExternalConditions External Loads

(earthquake, wave)

Platform Motions(defl., vel., accel.)

2 荷重連成解析

— 17 —Vol.37, No.1 日本風力エネルギー学会誌

特集 「風車に対する風況解析と荷重連成解析」個別ソフトの紹介

風車空力弾性シミュレーションコードFAST株式会社風力エネルギー研究所

 今村 博

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4. 波荷重解析 FAST では、着床式及び浮体式洋上風車の風車構造連成解析も可能である。ここでは、風車‐浮体の連成解析につい

て述べる。風車‐浮体の連成解析では、風車に働く風荷重

をFAST/AeroDynで、浮体に働く波荷重をHydroDynでそれぞれ計算し、弱連成による時間領域における計算を行う。図

4に FASTの風車‐浮体の連成解析モジュールの関係を示す。

FAST の波荷重に関するシミュレーションは、浮体運動解析モジュールHydroDynを用いて行われる。HydroDynの概要を図5に示す。HydroDynの主なモデルを以下に示す。 ! 線形バネによる復元力 ! 入射波、潮流、浮体運動による付加質量および自由表面のメモリ効果を含めた線形wave-radiationによる減衰力などを考慮した非線形抗力

! 規則または不規則波の線形 diffractionからの入射波による励起

! Morison式による流体の流れ方向から作用する動的流体力評価 浮体に働く荷重はその形状に依存することから、FAST では、任意の形状に対する流体力係数は WAMIT(WAve Massachusetts Institute of Technology)(6)を用いて算出したデ

ータを入力する。WAMIT は周波数領域における計算手法であるため、時間領域で計算を実施する FASTd では、HydroDyn により、WAMIT で求めた流体力係数に関して畳みこみを行っている。 なお、HydroDyn では、非線形深水波および砕波、渦励起振動(VIV)、氷荷重などは考慮しない。また、平均移動の二次オーダー効果、長周期および和周波数の励起も考慮され

ていない。

5. 開発履歴(3)

FASTは、2002年に、Jonkman と Buhlにより、それまで 2枚および 3枚ブレード用に分かれていたプログラムが統合さ

れ、I/Oなども見直され、Fortranによる現在の基本コードに書き直された。行列計算の扱いも改善され、自由度を新しく追

加することも可能となった。また、Laino により、Aerodyn の空力ルーチンと FASTの構造解析パートのインターフェースの改良が行われている。

2003 年には、制御設計用のルーチンの追加、MSC.ADAMS用のデータセットを扱えるようになった。

2004 年には、ロータの横方向オフセット及びスキュー角、ロータシャフト、ロータファーリング、テールファーリング、テ

ール慣性と空力、ヨー制御、高速シャフト(HSS)ブレーキ制御を扱えるようになった。また、GH Bladedで用いられているダイナミックリンクライブラリ(DLL)用インターフェース及びMATLAB+Simulink用のインターフェースも開発された。

2005年には、ナセルの運動評価パラメータの追加、タワー歪みゲージ出力、簡易的な可変速制御モデルのアップグレ

ード、洋上支持構造の運動及び荷重計算機能が追加された。

新しく支持構造用の 6自由度解析が追加されたものの、コードの最適化により、以前のバージョンよりも計算時間は 15%速い。

2010 年には、FAST はアップデートされた AeroDyn v13.00.00 と共に、NWTC サブルーチンライブラリ(7)からダウ

ンロード可能となった。2013年には、FASTの出力をバイナリ

Tab.1 Degree of Freedom (DOF) in FAST

Component DOFs No. of DOF

Blade Flap2, Edge1/Blade 3!3

Tower Fore-Aft2, Side-Side2 4

Drivetrain Generator1,Shaft torion1 2

Nacelle yaw Yaw hinge1 1

Rotor-Teeter Rotor hinge1 1

Rotor-Furl Furl hinge1 1

Tail-Furl Furl hinge1 1

Fig.4 Interfacing modules to achieve aero–hydro–

servo-elastic simulation

Fig.5 Summary of the HydroDyn calculation procedure

FAST orMSC.ADAMS

HydroDyn

AeroDyn

External Conditions

Applied Loads

Wind Turbine

TurbSim

Hydro-dynamics

Aero-dynamics

Waves & Currents

Wind-Inflow Power Generation

Rotor Dynamics

Platform Dynamics

Mooring Dynamics

Drivetrain Dynamics

Control System

Nacelle Dynamics

Tower Dynamics

— 18 —Journal of JWEA 2013年

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— 19 —Vol.37, No.1 日本風力エネルギー学会誌

風車空力弾性シミュレーションコードFAST