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てらさわ授業・WS用(@terasawa0)
https://twitter.com/terasawa0
LETワークショップ(2016年8月7日)
外国語学習・教育・授業の
研究「方法論」入門 ―量的研究と非量的研究―
寺沢 拓敬 (関西学院大学) [email protected]
検索: terasawa0
1
自己紹介
専門
教育社会学
言語社会学(社会言語学)
英語教育研究
研究内容 1. 日本社会における言語(とくに英
語)をめぐる世論
2. 仕事と英語
3. 英語教育制度史
4. 応用言語学・社会言語学の方法論 『「日本人と英語」
の社会学』
(研究社、2015)
『「なんで英語やるの?」
の戦後史』
(研究社、2014)
2
本日お伝えしたいメッセージ
1. あるメソッドの「概要」を数時間聞いたところで、そのメソッドの
「概要」を理解できる人はまずいない
そのメソッドが使われている著作を大量に読まなければ「概要」すら理解でき
ないのでは・・・
2. メソッドを取捨選択する際のガイドラインなら役立つかもしれない
3. 日本の外国語教育研究はなぜか「統計帝国主義」になっている。こ
の学問では、ディシプリンが非常に多様であるにもかかわらずメソ
ドロジーが均質的で、とても奇妙
4. 最近では「質的研究も大事だよね!」などと言われるが、リスペク
トの上にそう言われているのかかなり怪しい
「アリバイ作り」的な「質的・量的トライアンギュレーション」
5. 史資料の研究(狭義の「文献研究」)はほぼ無視されている
3
×学位がとれる
×先生にほめられる
×デキる同期を見返せる
×あの人に「すごいね…見なおしたよ…」
と言わせられる
○ヒューマンに必然的につきまとう
認知バイアスのある部分を軽減できる
メソッドという非ヒューマン的な手続きを介在させることで、「悪
しき直感」によるバイアスを軽減し、「事実」に近似する
正しい答えが直感的にわかる現象をリサーチしても仕方がない
Q. 正しいリサーチメソッドを選択することで可能になることは何か?
4
ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー』(上・下)(早川書房,2014)
5
統計による 要約
複雑な現象
=ヒューマンの認知能力の限界を優に超えた 膨大な情報量のデータ
意味ベースの要約
論理(学) ベースの要約
的確に要約したい 豊かなアイディアを提
案したい
解釈的 アプローチ
批判的 アプローチ
6
意味ベースの
要約に
向いている
意味ベースの
要約に
向いていない
直感的に正確な知見に到達できる現象
動機づけ
プログラムXの
教育効果
統計ベースの要約に
向いていない
統計ベースの要約に
向いている
アイデンティティ
個人の
意味付け
特定の教室における
プログラムXの受容プロセス
統計による要約
Why 型 What 型
共変量 自動調整 ○
共変量 自動調整 ×
介入→結果 ○
介入→結果 ×
一般化 ○
一般化 ×
調査エラー ○ 転用可能性 ○
調査エラー × 転用可能性 ×
ヒューマンの認知能力の限界を優に超えた膨大な情報量のデータ
意味ベースの要約
対話的 データ収集
○
対話的 データ収集
×
歴史的 ○
歴史的 ×
自覚のない言動の記述
○
論理(学) ベースの要約
RCT
準実験
無作為抽出調査
史料の分析
非歴史的な
ドキュメント分析
事例研究としての統計調査
意義の不明な量的調査 (ネットばらまき型アンケート等)
エスノグラフィー
半構造化/非構造化インタビュー
a) 主流の言語学 (ALで言えば例えば談話分析)
b) 会話分析
c) 質的比較分析(ブール代数アプローチ)
自覚のない言動の記述×
一般化 ○
一般化 ×
相関デザイン
(要因果推論)
7
統計による要約・情報圧縮の意義
• 大数の直感的観察は困難
• 観察した事例すべてを等しい重み付けで直感的に理解することは不可能
• ある事象が「偶然の範囲内かどうか」を直感的に判断することは困難
• 3つ以上の変数の関係を直感的に理解するのは困難
8 http://labaq.com/archives/51843939.html
注) 大量観察に伴うバイアスと無関係の現象に無理に適用すると「ナンセンスな計量研究」に
量的研究における重要な区別
(典型的な)実験と、(典型的な)観察調査を分かつポイント
”What?” の問い(事実をめぐる問い)
vs.
“Why?”の問い(因果をめぐる問い)
9
定量的調査系メソッドの選択において
重視するポイント
1. 「(母集団に)一般化できること」を優先するか否か
無作為抽出 無作為性(確率)の力を使って対象者を選べ
ば、調査者(ヒューマン)の「悪しき作為」
が混入しないので、サンプルが勝手に
母集団に近づく!
有意抽出
2. 「事例研究としての意義」を重視するか否か
a. 調査エラーへの対処:調査プロセスに深刻なエラーが生じていて
も事後的に修復可能
b. 転用可能性 対象集団の正確な限定化・文脈の把握 10
因果探求系メソッドの選択において
重視するポイント
1. 共変量の自動調整を優先させるか?
– 無作為性(確率論)の力を使えば、実験者が事後的に数値をいじらなくても、勝手にバイアスが減少する
– Randomized Controlled Trial (狭義の実験)
2. 「介入→結果」というデザインを優先させるか?
– 因果関係の必要条件のいくつかは保証される
👉 See “Bradford Hill Criteria(ヒルの基準)”
注)相関デザインでは本来、因果関係はわからない。ただし、データ取得後に事後的に行う「統計上の工夫」によって、因果関係の蓋然性を高めることは可能
👉 See “統計的因果推論”
11
意味解釈中心のメソッドの選択
において重視するポイント
1. 「対話的にデータを収集できること」を重視するか否か
フィールドワーク
調査対象者との相互交渉を通じながら、リサーチクエスチョンに対応したデータを引き出すことができる
史資料(文書)の分析
文書は何も反応してくれない
12
意味解釈中心のメソッドの選択において重視するポイント(続き)
2. 「本人ですら自覚していない言動を、第三者で
ある調査者が記述できること」を重視するか
エスノグラフィー
記述できる。参与観察のひとつの強み
半構造化/非構造化インタビュー
記述できない。あくまで「調査者との相互作用の過程」を記述
している。
13
意味解釈中心のメソッドの選択
において重視するポイント(続き)
3. 「歴史的分析ができること」を重視するか否か
メリット1「諸要因→帰結」という歴史的な過程を
踏まえた分析ができる
メリット2 実験や調査をめぐる倫理的問題が起きにくい
(esp. 低頻度現象、政治問題)
メリット3 同時代バイアスが除去できる
広義の「制度」をめぐる問いには、現在の現象だけ分析してい
ても満足に解けないものも多い
👉 See “経路依存性 (path dependence)”
14
落ち穂拾い (1)
批判的アプローチについて
15
Pennycook, A. (2001). Critical applied linguistics: A critical introduction. Lawrence Erlbaum.
久保田竜子 『英語教育と文化・人種・ジェンダー』&『グローバル化社会と言語教育 : クリティカルな視点から』 (くろしお出版, 2015)
「社会言語学」刊行会編『社会言語学』 1号~15号
http://www.geocities.co.jp/HeartLand/2816/
👉 See also 「批判的応用言語学の『批判的』に関する誤解」 – こにしき(言葉・日本社会・教育)2013年10月24日http://d.hatena.ne.jp/TerasawaT/20131024/1382623285
落ち穂拾い (2)
論理(学)ベースの要約
談話分析、会話分析、数理的分析…
– データは質的(談話/テクスト)の場合もあるが、談話の「意
味」に関心があるわけではない
– かといって、量的研究のように、確率論に重きを置かず、
TRUE/FALSEを重視する( 少数派の事例を「例外」と見なさず、
あくまで「少数派の事例」として重視する)
👉 See “質的比較分析 (Qualitative Comparative Analysis)”
“ブール代数アプローチ (Boolean Algebra Approach)”
引用 会話分析の本質的な要素は、相互行為(=会話)が構成される形式上の特徴
の分析である。会話者にとっての主観的な意味や意図は分析には入ってこない。
(ウヴェ・フリック『質的研究入門』春秋社、2002. p. 249)
16
落ち穂拾い (3)
マナー 方法としてのリサーチ倫理
17
調査実習をする気のない学生を、むりやり調査に出したくないと思う。
なぜなら…社会を調査するということは、どれほどその営みを正当化する
理屈をこねようとも、「人の家に土足であがりこむ」ことになるのだから。
そのうえで、だからそうした営みをしてはならないということにはならない、
調査という営みなしに、社会学は成立しないからだ…。
では、どうしたらいいのだろうか。
靴について土をきれいにはらってからあがりこむ。いや、まず靴を脱いで
からあがりこむ。いや、靴を脱いで、あがっていいかと確認してからあがり
こむ。いや、とりあえず家の人の都合をうかがって、あがってもいいときを
確認する。
好井裕明『「あたりまえ」を疑う社会学 質的調査のセンス』
(光文社, 2006, p. 16)