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Page 1: 第24 号 December 2018 - JICA...他機関との連携事例 基礎 (全世界)GPEを「活用」しよう①(GPEの仕組みの解説) 10 KMN好事例 歴史の教訓(全世界)

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目次 ニュース アフガニスタン基礎教育プロジェクト関係者が JICA理事長賞を授賞! (アジア)

1 国際会議・援助動向 加速する国際機関連携 (全体) 2 プロジェクト紹介 基礎 エジプト・日本学校 35校が開校 (エジプト) 3 プロジェクト紹介 基礎 「遊びや環境を通した学び」をカンボジアの幼児教育へ (カンボジア) 4 プロジェクト紹介 TVET 日本の「確かな技術力」をウガンダへ (ウガンダ) 5 プロジェクト紹介 社会保障 知識へのアクセシビリティ向上で、誰ひとり取り残さない世界の実現を! (エジプト) 6 プロジェクト紹介 高等 マレーシアで日本式工学教育を実践 (マレーシア) 7 プロジェクト紹介 高等 ベトナムと日本をつなぐ架け橋になれ (ベトナム) 8 プロジェクト紹介 高等 障害があるからこそできるビジネスを (アフリカ) 9 他機関との連携事例 基礎 GPE を「活用」しよう①(GPE の仕組みの解説) (全世界)

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KMN好事例 歴史の教訓 (全世界) 11 世界で輝く協力隊 基礎 私がジャマイカに残る理由と可能性 (中南米) 12 専門員リレー寄稿 基礎 (全体)教育協力のこれまでとこれから (國枝専門員) 13

ニュース アフガニスタン基礎教育プロジェクト関係者が

第 14回 JICA理事長賞を授賞! ―遠隔ながらも協力を継続してきた功績が讃えられました―

第 24号 December 2018

LEAF2プロジェクト(2010.4~2018.7)とは? 長年の内戦で学校教育の機会が奪われた結果、アフガニスタンの成人識字率は

34.8% と世界最低水準にあります。このような状況を改善するため、本プロジェクトでは、アフガニスタン教育省識字局の行政能力強化を通じた識字教育の質の向上を目指し活動を行ってきました。特に、活動の一つとして実施されたコミュニティを巻き込んだ識字教室は、専門家チームの提案により始まり、地元の人々を積極的に識字教室の運営に巻き込むことで、識字教室への認知度や信頼が高まり、男女問わずより多くの人が識字教室に参加するようになりました。この成果に教育省識字局も手ごたえを感じ、彼らの手で全国展開を進め始めています。

今後も本プロジェクトの成果が継続し、学びたいと思う人が誰でも近くの教室で質

の高い識字教育を受けられるようになることが期待されます。

JICA教育ナレッジマネジメントネットワーク ニュースレター

識字委員会設立会議の様子 (ナンガルハル県カマ郡)

JICAでは、毎年、国際協力事業を通じて開発途上国の人材育成や社会発展に多大な貢献をされた個人・団体に対し、その功績を讃え、表彰しています。第 14回目となる今年は、49個人・団体に「JICA理事長賞」が授与されました。

基礎教育グループの案件では、アフガニスタン国「識字教育強化プロジェクトフェーズ2(LEAF2)」「教師教育における特別支援教育強化プロジェクトフェーズ2(STESE2)」)が受賞しました!!

治安状況により日本人専門家の渡航が見合わせとなる中、“誰一人取り残さない教育”を実現するために、TV 会議や第三国で

の研修実施を通じ、遠隔ながらもプロジェクト関係者全員が力を合わせて事業を継続してきた功績が讃えられ、関係者を代表しての受賞となりました。

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聴覚障害に関する 教科書を作成している様子

加速する国際機関連携 ―JICAは世銀、UNICEF とのパートナーシップを発展・強化します―

JICA と世界銀行グループ、教育での連携強化で合意

JICA と世界銀行グループの最高経営層が顔を合わせてグローバルな開発課題について議論する「JICA・WBG ハイレベル対話」。”Deep Dive”の別名で呼ばれるこの定期ハイレベル対話では、JICA 理事長や世銀総裁をはじめとする両機関のトップマネジメントが参加して、地域別・テーマ別の開発課題について議論を行います。 5回目を迎えた今年のハイレベル対話(2018 年 10 月 15-16 日)で特筆すべきは、教育が初めて主要テーマのひとつとして議

論されたことです(人間開発の文脈では、これまで保健(UHC, 栄養)を中心に議論)。その背景には、10 月に世銀が立ち上げた Human Capital Projectにおいて「貧困削減と経済成長に必要な人的資本の蓄積には保健と教育への投資が決定的に重要」とされていることがあります。ハイレベル対話の席上では世界銀行から「とくに社会・情緒的(socio-emotional)な教育における日本の経験を高く評価している、この分野への貢献を JICA にリードしてもらいたい」と強い期待が表明されました。 さて、ハイレベル対話を通じて JICA と世銀は教育セクターにおける連携をさらに進めることで合意しました。連携のスコープには早期

教育(ECD、就学前、初等低学年)への取り組みの強化、学びの質の向上と行政システム強化の両面における ICT の活用などが含まれています。 さらに、教育における連携強化を確実なものとするために、両機関は覚書に署名することで合意しました。この覚書では両者の包括

的な連携が明文化されます。今後、最終化作業を経て来年夏頃にローンチする予定です。 UNICEF とMoCを署名 また、保健や教育分野の重要な協力相手であるUNICEF とはMoCを締結し、パートナーシップをさらに発展させることで合意しまし

た。この MoC は UNICEF のフォア事務局長と北岡理事長が会談を経て合意したもので、多様性(diversity)や包摂性(inclusivity)に最大限配慮しつつ、UHC や母子保健、水と衛生、ECD や初等教育における学びの改善を通じて、両機関が SDG達成に向けた連携を強化することを確認する内容になります。 ハイレベル会合や UNICEF との MoC締結については、ソーシャルメディアにも関連記事がたくさんありますので、ぜひご覧ください。

(人間開発部基礎教育第二チーム 森本 俊輔)

「STESE2プロジェクトとは?」(2013.1~2018.6) アフガニスタンでは、長年の内戦や地雷の被害などから、学齢期の障害のある子どもは 20 万人

に上ると言われています。しかし、学齢期の多くの障害児が学校に通えておらず、障害児のニーズに応じた教育支援をできる教員が少ない等の課題がありました。このような状況を改善するため、教員養成校で使用する視覚障害・聴覚障害に関する教科書・シラバス(6教科・16単位分)の開発が行われました。開発過程においては、文化や言語の壁を乗り越え、日本人教授陣とアフガニスタンチームの間で熱い議論が交わされました。2019 年以降、これらの教科書で学んだ教員の卵たちにより、学校現場で障害児のニーズに応じた教育が促進されることが期待されています!

(人間開発部基礎教育第一チーム 渡久地 舞)

国際会議 ・援助動向

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自分たちで教室を掃除

エジプトで「Tokkatsu」 エジプトの学校教育においては、児童数の急増による教室の過密化、暗記や試験偏重主

義、実技や実験機会の不足等、様々な課題を抱えています。その中、JICAは 2017年に技術協力「学びの質向上のための環境整備プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトでは、エジプトの児童が学校で社会性を醸成できるよう、エジプト教育省と共に、学級会や掃除といった活動を含む日本の特徴的カリキュラムである「特別活動(特活、現地でも Tokkatsu)」の導入準備を進めてきました。 エジプト・日本学校開校 約 2年に渡るパイロット期間を経て、今年 9月23日に日本式教育を取り入れたエジプト・

日本学校(Egypt-Japan School:EJS)35校が開校し、一期生となる幼稚園 1・2年生と小学校 1年生が入学しました。EJSでは学級会、学級指導、日直、掃除といった特活を実施するほか、学校施設においても、広い教室面積、児童一人ひとりに一組の机とイス、屋内外の運動用スペース、実技教科用の特別教室、職員室等、各所に日本式の要素を取り入れています。 2 ヶ月が経ち… 授業が始まって約 2か月。先日 3つの EJSを訪問しましたが、どの学校でも熱心な先生方

とおそろいの制服を着た元気いっぱいの児童たちが楽しそうに授業を行っていました。ある教室ではどこか誇らしげな顔で日直としてクラスの出欠をとる児童の姿も。一方で、これまでのエジプトには無かった新しい学校の船出ということもあり、現場には様々な課題があることも事実です。児童たちが将来通ってよかったと思える学校となるように、教育省や専門家の方々と共に丁寧に対応を図っていきたいと思っています。 さらなる普及に向けて また、エジプト政府はこうした特活を中心とする日本式教育をエジプトの公立校へさらに普

及していきたい意向です。JICA は財政支援を通じてその取り組みを後押しすべく、今年 2 月には「エジプト・日本学校支援プログラム(エジプト・日本教育パートナーシップ)」の円借款貸付契約にも署名しています。更には基礎教育分野の協力隊も今後 EJS の現場で活躍予定です。一連の取り組みが一人でも多くの子供たちのより良い未来につながることを信じて、引き続き支援を行っていきます。

(エジプト事務所 山上 千秋)

エジプト・日本学校 35校が開校 ―エジプトで広まる Tokkatsuの取り組み― プロジェクト紹介

広い教室にひとりずつの机で勉強

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「遊びや環境を通した学び」をカンボジアの幼児教育へ ―日本とカンボジアの実践から幼児教育カリキュラムへ―

プロジェクト紹介

日本の幼児教育で重視されている「遊びや環境を通した学び」。幼児にとっての「遊び」は

発達の基礎を培う重要な学習であり、幼児が主体的に身近な「環境」と関わり合う中で学べるよう工夫することが大切であるとの考え方です。

シャンティ国際ボランティア会は2016年から、草の根技術協力事業(地域活性化特別枠)でカンボジアの幼児教育支援を行っており、「遊びや環境を通した学び」について学ぶ本邦研修やカンボジアでの技術指導を、静岡県の社会福祉法人天竜厚生会の子ども園の先生と実施してきました。今回はその活動の一端をご紹介します。

「先生、できたよ!」―廃材を使った制作活動

カンボジア王国バッタンバン州のチュレイ幼稚園。周囲に田んぼが広がる農村部の幼稚園です。「先生、できたよ!」年長クラスのメイメイちゃんは、ストローとペットボトルのふたで作った「聴診器」を、うれしそうにソヴァンナ先生に見せました。「よくできたね!」と先生。一方、別の園児は廃材を使った「腕時計」作りに没頭。材料を工夫し、好きな色を選んで文字盤に色を塗る姿は真剣そのものです。

この活動は、本邦研修を通じ天竜厚生会の子ども園で実習を受けたソヴァンナ先生が考案したもの。日本で遊びの大切さを実感した先生は、「子どもが自ら考える遊びや身の回りの物を使った制作活動に取り組みたい」と話していました。

活動のモニタリングに訪れていた天竜厚生会の先生からは、「子どもが楽しそうな姿が良かった」「今後さらに子どもの自由な発想を引き出せれば」など活動へのアドバイスをいただきました。 幼稚園の新カリキュラムへ

本事業の一連の取り組みは、教育省が 2018年 6月に承認した幼稚園の新カリキュラムにも影響しました。カンボジアでは教員が一方的に「教え込む」指導になりがちですが、新カリキュラムは、幼児期の学習は「遊び」を通して行われるべきとし、さらに園児の主体的な学びを「手助けする」存在としての教員像を示したのです。

本邦研修に共に参加した教育省の行政官は、新カリキュラム起草の担当者でもあります。「カンボジアの幼児教育は今変わらなければ」と意気込む彼の姿に、私も励まされました。 次の挑戦は、新カリキュラムの理念が現場の幼稚園で定着するよう支援すること。次の目標に向け、シャンティは活動を続けていきたいと思います。

((公社)シャンティ国際ボランティア会 カンボジア事務所 幼児教育事業プロジェクト・マネージャー 萩原宏子)

カンボジアの幼稚園の新カリキュラム

制作活動を楽しむメイメイちゃん(中央)

日本で実習に参加するカンボジアの先生

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式典でよさこいを披露する ウガンダの小学生

プロジェクト紹介

日本の「確かな技術力」をウガンダへ ―ウガンダ・ナカワ職業訓練校協力 50周年記念式典―

「専門家の木」の並木道 (専門家が帰国する際に1本ずつ植えられて いったもので、50年の支援を象徴する風景)

ナカワ職業訓練校のシンボルである給水塔

国際協力機構(JICA)がウガンダのナカワ職業訓練校(Nakawa Vocational Training Institute:NVTI)への協力を開始したのは 1968 年。以来半世紀に亘り、JICA は同校への支援を実施してきました。本年、協力開始から50年の節目を迎えるにあたり、10月10日に首都カンパラで、ウガンダ教育省、在ウガンダ日本国大使館、JICAウガンダ事務所が、協力50周年記念式典を開催しました(詳しくはこちら)。

協力の歴史は、1968 年から 74 年にかけて実施された技術協力「ウガンダ職業訓練センタ

ー協力」に始まります。途中ウガンダ内戦のため約20年間協力は途絶えましたが、その間も、日本人専門家の指導を受けた指導員らにより訓練活動が続けられました。内戦終結後、JICAは94 年に協力を再開。以後現在に至るまで、同校の指導員の能力向上や機材整備等に取り組んできました。これまで同校で育成された指導員と管理職(マネージャー)は 1,000 名を超え、さらに、これまで同校から巣立った卒業生は約 5,500 名以上と言われており、現在、国内随一の産業人材育成センターとして、国内及び周辺国であるケニア・タンザニア・ザンビア・エリトリアの指導員を対象に指導員訓練を実施する等、産業人材育成の中核的役割を担うまでに成長しています。

現在実施中の技術協力「産業人材育成体制強化支援プロジェクト」(2015 年-20 年)では、ウガンダで初となる理論と実践的技能が両立した職業ディプロマコース(短大レベル)の開講を支援しています。経済発展に伴い産業界が求める人材像の多様化・高度化が進む中、NVTI は、民間企業と連携し、ニーズを把握し、カリキュラム開発を進めてきており、既存の中等レベルに加え、高等教育レベルのコースを開講するもので、2018年 9月に開講にこぎつけることができました。これもひとえに、専門家の皆様の技術指導および現地のトヨタウガンダのご厚意による OJT支援の賜物です。

50 年の支援を通じ、JICA がウガンダの産業人材育成のために築こうとしてきたもの、それは、進化し続ける産業界のニーズに応える「確かな技術力」を持ち続ける人材です。NVTI の一層の発展により、この「確かな技術力」を持つ技術者たちがウガンダの、さらにはアフリカ地域の産業発展に貢献していくことを目指し、今般 50周年記念式典が今後の更なる発展の契機となればと考えています。

(元 人間開発部社会保障チーム 齋藤 理子) ※現在は資金協力業務部所属

式典でよさこいを披露する ウガンダの小学生

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プロジェクト紹介

知識へのアクセシビリティ向上で、誰ひとり取り残さない世界の実現を! ―アラビア語圏の IT大国・エジプト X 日本企業の技術―

写真:アレキサンドリア図書館 知識の集積・発信の中心地であるアレキサンドリア図書館の持つ情報が、よりアクセシブルになることが期待されます。

みなさんは「読書障害」についてご存知でしょうか? 視覚障害、ディスレクシア、学習障害、身体障害により腕や眼球をうまく動かすことができないなど、様々な原因により印刷された本などを読むことに困難のある人は数多くいます。たとえば日本では、全国の通常学級に在籍している約 24万人の児童・生徒に読み書きの困難があるといわれています*1。そのような困難がある人が情報にアクセスし知識を得ることを助けるツールに、マルチメディアDAISY(=Digital Accessible Information System)があります。DAISY を活用することで、テストで 10 点しか取ることができなかった児童が、80 点取ることができた、というような事例は数多く報告されており、日本の学校でも DAISY の活用を普及する取り組みが広がっています。 一方エジプトでは、公式には発表されていませんが、25 パーセント近くの人が非識字であるといわれています。特に障害のある子ども

が教育を受ける機会は非常に限られており、アラビア語に対応する DAISY のような支援ツールの不足も一因となっていると考えられています。そこで JICAは、アラビア語と同じく特殊言語である日本語に対応するDAISYの開発を行ってきた技術と経験を持つシナノケンシ株式会社との連携により、エジプトで世界初(!)のアラビア語対応マルチメディア DAISY 図書製作ソフトウェアの開発を行っています*2(民間技術普及促進事業)。現在ソフトウェアはほぼ完成しており、これから12月まで現地の実施機関であるアレキサンドリア図書館で実際に DAISY 図書を製作しながら、マイナーな修正を行っていくということです。この成果を踏まえ、今後エジプトで実施予定の技術協力プロジェクト*3では、DAISY図書を製作する人材を育成するとともに、アラビア語のアクセシブルな情報提供の普及に取り組んでいく予定です。特に、基礎教育や、防災や健康など生命に関わるような情報は、すべての人に届かなければいけない情報であり、「アクセスを保障すること」は SDGsを考えるうえで不可欠な要素です。JICA の事業をよりインクルーシブなものにするために、「その知識や情報は、本当にすべての人がアクセスできるものか?」を、是非考えてみてください!

(人間開発部社会保障チーム 山中嶋 美智)

*1: 平成 24年 12月「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査に ついて」文部科学省初等中等教育局特別支援教育課

*2: 読書障害者用 DAISY図書製作ソフトウェア普及促進事業(2018~2019) *3: 情報アクセシビリティの改善による障害者の社会参画促進プロジェクト

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マレーシアで日本式工学教育を実践 ―マレーシア日本国際工科院の第2期プロジェクトの開始―

MJIIT の学生

キーワードは「自立発展性」 2011年9月に、マレーシア東方政策*1の集大成として、マレーシア工科大学(Universiti

Teknologi Malaysia:UTM)の傘下に、マレーシア日本国際工科院(Malaysia-Japan International Institute of Technology:MJIIT)が開校しました。MJIITは、研究重視・研究室中心の日本型工学教育を導入し、JICAはこれまでMJIITに対し、教育研究機材の供与や日本式の工学教育の特長を生かした教育・研究の実践に向けた支援をしてきました。 開校後7年が経過し、機械精密工学、電子システム工学、環境・グリーン技術/化学プロ

セス工学、技術経営、防災の5分野で1,300名の学生が在籍し、卒業生の多くはマレーシアの企業や現地日系企業等で活躍をしています。また、学部4年生の卒業研究が、マレーシアエンジニア協会(The Institute of Engineers, Malaysia:IEM)の最優秀卒業研究賞を受賞するなど、日本式の工学教育の成果が現れています。 マハティール首相が政権復帰し、MJIITへの期待がますます高まる中、今年7月には、日本

の大学、マレーシアや日本の産業界との更なる連携促進、MJIITの自立的な教育研究体制の確立を目指して、第2期のプロジェクトが開始しました。プロジェクトでは、MJIITと日本の大学による共同研究を促進し、プロジェクト終了後も、他の外部資金等を活用しながら大学間で教育・研究面で持続的に連携できる基盤を作る予定です。

ルビヤ前院長のJICA理事長賞受賞 今年の 10月には、MJIITの前院長 Professor Datin Dr. Rubiyah Binti Yusofが

JICA理事長賞を受賞されました。Rubiyah前院長は、2014年から 4年間にわたり院長を務められ、日本型工学教育の強みをマレーシアで活かしたいという熱意の下、MJIIT の発展やマレーシア及び日本における認知度や評価向上に貢献されました。また、本邦大学との共同学位プログラムや日本企業による冠講座を立ち上げる等、日本の教育機関や民間企業との関係強化に取り組まれました。

(人間開発部高等・技術教育チーム 三浦 佳子)

*1: マレーシアのマハティール首相(当時)が、1981 年に提唱した東方政策(Look East Policy)。西欧諸国ではなく、同じアジアの日本や韓国の成功や発展に学ぼうと、産業技術分野の研修生や大学・高専への留学生を日本に派遣し、マレーシアの発展に生かすべく、技術面に加え、労働倫理や経営哲学についても多くを吸収してきた。

RD署名式

プロジェクト紹介

JICA理事長賞の表彰状を ルビヤ前院長にお渡ししました

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第 1期生の学位記授与式 日本とベトナムの両国政府の協力により2016年9月に開学した日越大学。JICAが技術協力

で支援する6つのプログラム(地域研究、公共政策、企業管理、環境工学、ナノテク、社会基盤)を修了した 56名の第 1期生の学位記授与式が、7月 21日、ハノイ市内で開催されました。 卒業生総代の決意 総代を務めた社会基盤プログラムのグエン・マイン・トゥンさんは、日越大学での 2 年間を振り返

り「知識だけでなく、日本の文化やビジネスのやり方を学べて大きく成長できました。日本企業で働きながら専門的なスキルを身につけ、会社の中核を担う存在になりたい」と語りました。 トゥンさんを含む第1期生の多くは 2017年に約 3か月間、日本でのインターンシッププログラム

で、日本人の修士学生や留学生と肩を並べて教育研究に取り組むとともに、日本企業での研修にも参加しました。 その後トゥンさんは東京の建設会社に内定し、12 月から勤務開始予定です。「日本とベトナム

の架け橋となり、日本でもベトナムの良さを知ってもらうようにしていきたい」と今後の抱負を力強く語ります。 それぞれの未来へ進む卒業生 第 1 期 卒業生の中には、日本企業の本社に採用が内定している学生や、日本の大学の博

士課程への留学が決定している学生が多くおり、卒業後は日本に渡りそれぞれの道へ進んでいます。また、ベトナム国内の日系企業に就職した学生も多く、日越大学の卒業生として、今後の産業界・学術界で活躍することが大いに期待されています。 恩師から卒業生へのエール 古田学長は祝辞にて、卒業生に対し、今後、社会の持続可能な発展を推進する上では、人

間と自然、短期的な目標と長期的な目標、過去と未来、個人の利益と社会の利益の均衡を求めることが重要であると言及しました。また、日越大学は、日本とベトナムの友好関係のシンボルであり、卒業生はその象徴として、卒業後も、日本とベトナム双方の文化的価値と精神を体現する模範となるよう激励しました。

(人間開発部高等・技術教育チーム 神田 恭子)

ベトナムと日本をつなぐ架け橋になれ ―日越大学から初の卒業生 56名の巣立ち― プロジェクト紹介

学位記授与の様子 (左:古田元夫学長)

授与式の様子

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障害があるからこそできるビジネスを ―ABE イニシアティブ留学生 Zuki さんのインターンシップー

プロジェクト紹介

Zuki さんを歓迎する 東京支社メンバー

最終日のプレゼンを終え、 ミライロ社長の垣内と

弊社にとって初めての海外インターン受入れでしたが、他国の障害者とともに、「障害者だからこそ」できるビジネスを通じて、誰もが住みやすい社会づくりを進めていきたいという気持ちを強くする機会となりました。Zukiさんを含む、JICAが育成した途上国の障害者リーダーたちとの連携を実現させたいです。

(株式会社ミライロ 事業推進室 合澤 栄美)

「他の企業ではなく、ミライロでインターンを経験したいんです。」南アフリカ共和国出身の Zukiさんは、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABE イニシアティブ)」により、東洋大学に留学して、障害者政策の比較研究を行っています。車いす使用者である彼女は、自国で会社を立ち上げ、障害者の視点を活かした障害平等研修(DET)などの啓発プログラムを提供しています。そんな彼女は「障害を価値に変える」という企業理念を掲げている株式会社ミライロに共感し、インターンを希望していました。

ミライロは、2010 年に当時大学生の垣内俊哉が友人と共に立ち上げた会社です。彼自身

の車いす使用者としての経験をふまえ、障害は強みや価値となる、という考えにもとづき、ユニバーサルデザインに関するコンサルティング会社を起業しました。現在社員は 52名で、そのうち 11名に障害があります。誰もが自分らしく生活できる社会の実現に向けて、意識・環境・情報に関するバリアをなくすための取り組みを進めています。高齢の方や障害のある方との向き合い方(ユニバーサルマナー)に関する検定や研修、施設や製品などへのユニバーサルデザインの導入、アクセシビリティに関する情報を共有するアプリ(Bmaps)の開発などの事業を行っています。

Zuki さんは、特にユニバーサルマナーに関心を寄せており、南アで連携事業を展開したいとい

う意欲も示していました。9月下旬に3週間にわたり実施したインターンシップでは、ミライロの事業全体に関する説明、ユニバーサルマナー検定の受検、経営層との意見交換、南アに関する発表、連携可能性の検討などを行いました。これまで「海外展開するなら最初はアジア地域かな」と漠然と考えていましたが、Zuki さんの受け入れを通じ、「南アで何かできるかもしれない」という関心が沸いてきました。また、社員と積極的にコミュニケーションを取ろうとする彼女の影響で、国際的な事業に対する社員の関心や、英語力向上に向けた意欲も高まるという効果も見られました。

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GPE を「活用」しよう①(GPEの仕組みの解説)

GPEは、世界銀行のもとの信託基金(Education for All Fast Track Initiative: EFA-FTI)をもとに 2002年に改称・設立された、①マルチステークホルダー(開発途上国、ドナー、国際機関、市民社会組織、民間財団、民間企業)によるパートナーシップであり、かつ②資金プラットフォームです。GPE に加盟した開発途上国を対象としたグラントとして、教育セクター計画(Education Sector Plan:ESP)を策定するためのグラント(Education Sector Plan Development Grant: ESPDG)(上限額は 50万米ドル)、教育セクター計画に位置付けられるプログラムの実施のためのグラント(Education Sector Program Implementation Grant: ESPIG)(上限額は 1億米ドルまでの範囲で各国のニーズ・インデックスをもとに定められる)、ESPIGの対象とするプログラムの計画策定のためのグラント(Program Development Grant: PDG)(上限額は 20万米ドル)があります。

GPE におけるパートナーシップの側面は、グローバルなレベルでのパートナーシップと、開発途上国における国レベルのパートナーシップの 2つのレベルに分けられます。開発途上国における国レベルでは、途上国政府・ドナー・国際機関・NGO・教員組合・民間企業・他の支援機関からなる現地教育グループ(Local Education Group: LEG)が、教育セクター計画の策定・モニタリング、GPE グラントの使途等に係る協議の枠組みとなります。LEG の調整を担う機関がコーディネーティング・エージェンシー(Coordinating Agency: CA)、GPE グラントの執行を担う機関がグラント・エージェント(Grant Agent: GA)です。

LEG は、従来から開発途上国にある援助協調のための協議メカニズムが LEG として位置付けられる、または同メカニズムが発展する形で LEG として設置されることが一般的です。CAは、教育セクター計画の策定・モニタリングやGPEグラントの申請等に係る調整をリードします。GAはGPEグラントの申請書類を作成し、GPEグラントの執行を担います。CAは資金執行に直接関与しないのに対し、GA は GPE グラントの執行を担うことから、GPE グラントの承認後、資金執行手続や権限・責任を記した合意文書(Financial procedures agreement)を世界銀行(GPE グラントの信託管理者)との間で締結します。 ご担当国が GPE に加盟している場合、GPEのパートナーシップメカニズムの活用をぜひ考えてみましょう。 https://www.globalpartnership.org/

ご質問は、丸山まで(tmaruyama★globalpartnership.org)★を@に変えてメールしてください。 GPE事務局にて 2018年 9月~2019年 3月まで研修中。以下のブログもぜひご覧ください。 https://www.globalpartnership.org/blog/better-math-skills-children-niger

(GPE出向 Education Specialist 丸山 隆夫)

他機関との連携事例

「教育 KMN」とは JICA 教育ナレッジマネジメントネットワーク(KMN)は、JICA の教育協力事業の質向上を目標に、JICA の教育協力に関する知見

や経験を一元的に蓄積し、事業に活かすとともに対外的に発信するために、人間開発部を中心に活動を行っています。具体的には、①戦略(事業戦略、ドナー連携等)、②ナレッジの創造(プロジェクト研究、インパクト評価等)、③ナレッジの共有(民間・大学とのネットワーキング)、④広報(ナレッジの蓄積・発信)等の活動を実施しています。 「教育だより」では、こうした教育 KMNの取り組みのほか、教育協力に関わる国際的な動向や実施中の案件情報等をあわせてお伝えしていきます。 教育 KMN および JICA 基礎教育、高等・技術教育、社会保障グループからの各種お知らせを希望の方は、(1)名前、(2)ふりが

な、(3)所属、(4)役職 (5)職業 (6) E メールアドレスを明記のうえ、[email protected] までお送りください。

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歴史の教訓 -ポーランド・日本情報工科大学への協力に学ぶ- KMN好事例

昔々(十年ひと昔とすれば本当にそれくらいの 1994 年末)、ワルシャワにポーランド・日本情報工科大学が設立されました。私は1996 年から大使館に出向し、経済協力班で全ての JICA 事業を担当していました。現在と異なり当時のポーランドはまだ市場経済への移行の最中で、DAC リストの「パートⅡ」(2005年に廃止)に位置付けられたODA対象国として、JICAも技術協力(プロジェクト方式技術協力、開発調査、政策アドバイザー専門家、青年海外協力隊など)をかなりのボリュームで実施していました。

ポーランド・日本情報工科大学プロジェクトは 1996年からの 5年間だけ実施され、日本の大学などから累計で 75名の専門家派遣(長期・短期)、17 名の研修員受入、約 5 億円の機材供与が実施されました。設立当初は情報処理分野の単科大学でしたが、今では博士課程はもちろん、海外分校や付属高校、日本学部まで有し、ポーランドの情報系トップ大学にランクされています。 なぜ成功したのか。

もともとポーランドをはじめとする対東欧支援は時限的で、プロジェクトは最初から出口を見据えておく必要があったこと(海部内閣

公約:ポーランドとハンガリーに対し総額 19億 5000万ドル、うち技協については 1990年から 5年で 2500万ドル)、そのためにプロジェクト以外の外部資金の活用に積極的であったこと(食糧援助見返り資金による校舎整備、EU 資金を活用した対ウクライナ・対ベトナムの大学支援等)、そして一番大事なのは、大学の発展に情熱を注ぐ日本人とポーランド人の存在、でした。これらの要因については、元プロジェクト専門家の方々からのヒアリングでも共通に指摘されています。

ポーランド・日本情報工科大学イェジ・ノヴァツキ学長と。1999年!

20年が過ぎた現在、JICAは E-JUSTや日越大学といった大規模な大学設立案件を実施中ですが、ポーランドの事例をよく検証し、教訓を生かす努力を怠ってはならないと思います。残念なことに字数の関係でここまでとしますが、ポーランド・日本情報工科大学プロジェクトの成功の要因とその教訓については、いずれどこかで皆さんとも詳しく共有する機会を持てればと思っています。

(人間開発部次長兼高等教育・社会保障グループ長 熊谷 真人)

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私がジャマイカに残る理由と可能性 ―協力隊後の新たなキャリアを拓く―

はじめまして。私は、2016年度 1次隊として今年 6月まで数学教育の分野でジャマイカに派遣されており、現在はかつての活動先であった教育省で現地の教員を指導する Math Coach と呼ばれる役職で仕事をしています。 ジャマイカの子どもの可能性を感じた隊員時代 隊員時代は、小学校 1,2年生を対象に活動をしていました。 数感覚の乏しさを改善するために、木材会社と共同でブロック教材を開発し指導実践をした

り、具体物操作に近い体験ができるような幼児用算数アプリの開発に取り組んだりしました。 その結果、生徒の成績には大幅な改善が見られました。テストの成績が 2倍,3倍というスケ

ールで変化する子どもたちの能力と伸びしろに可能性を感じ、この国でなら大きな変化が作れるのではないか、と思うようになりました。 幸運にも活動を評価していただき、協力隊任期終了後の今、再びジャマイカに戻ってくること

ができました。 ジャマイカの教育の課題とこれから 私は、ジャマイカの教育の最大の問題はカリキュラムにあると考えています。主に米国のカリキ

ュラムを取り入れて作られていますが、現地の子ども達の能力や文化に適していません。ほとんどの子どもが付いていけないスピードで展開される授業は、子ども達のみならず教員達のモチベーションをも著しく下げています。 このような状況の改善に向けて、現在私は 2 つの事に取り組んでいます。 第一に、カリキュラムを変えていくための提言を続けることです。現在の貴重なポジションを生

かして関係性を構築し、教育省内部からじわじわと働きかけていければと思います。 第二に、教員が効率的に教えられるような新たな仕組みの導入です。現在のジャマイカ人に

適さないカリキュラムの中では、知識のある先進国の教員ですら正しく教えるのは不可能であるように思えます。まして、モチベーションの低い現地の教員にどれだけ知識を伝えようと思っても上手くいかないのは明白です。私はその解決策の一つとして、e-Learning を考えています。基礎的な認知能力については、効率的に正しい指導が行われる適切な教材を適切に導入していくことで大きな変化を作れると考えており、こちらは自身で設立した NPOの活動として挑戦していきます。 個人で戦える教員が求められている 現在文科省が行っている EDU-Port のように、日本型の教育を海外に輸出していく流れは

今後ますます強くなっていくと思っています。その時に、現地の実情に精通し強いつながりを持つ個人の存在は必ずや大きな力になるはずです。その先駆けとして、まずは私が日本とジャマイカの教育をつなげる橋渡し役となれるよう全力を尽くします。

★古田さんの Blog: ジャマ育.com ( https://fruta-math.com/ )

(ジャマイカ教育省 Match Coach 古田優太郎)

隊員時代の教え子と再会

木材タイル教材で指導実践をした 隊員時代

世界で輝く協力隊

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今年度の第 3 四半期はトップレベルでのドナー連携が目白押しとなりました。この大きな連携枠組みを後ろ盾に、現場での円滑な連携も期待されます。そのような折、海外出張の機会を得、連携先との協議を持ちましたが、連携先においても本部と現地事務所間の情報共有には意外とタイムラグがあり、垂直・水平・斜めから情報を発信・獲得していく必要性を感じました。

JICA が現場で得たエビデンスは、様々なパートナーとの連携にあたっての強力な材料となりますが、エビデンスの蓄積には時間がかかることも事実です。エビデンスを蓄積するプロセスも開示、又は参画を促進することにより、面的展開への道筋もつきやすくなるように感じられましたので、協力の様々なステージでの意見交換を一層推進していければと思います。

國枝 信宏(くにえだ・のぶひろ) 1997年4月、米国ピッツバーグ大学で経済社会開発の修士号を取得。その直後にケニアに渡り、コミュニティ開発系NGOの設立と運営に参画。続いて同NGO東京事務所で事務局長を5年務めたのち、2004年より JICA 専門家としてエチオピアの住民参加型基礎教育案件に参加。その後、JICA 基礎教育グループ特別嘱託を経て、2008年からニジェールで、そして2010年から2015年までセネガルで、「みんなの学校」プロジェクト専門家としてコミュニティ参加型教育改善モデルの構築と国際機関連携によるモデル全国普及に従事。2015年 4月より現職。業務外では 2018年 3月まで 2年間、日本の公立中学校の PTA会長を務め、一保護者としてコミュニティの教育参加の実際について学ぶ。

【略 歴】

教育協力のこれまでとこれから ―子どもの成長を社会全体で応援していけたら― 専門員リレー寄稿

人間開発部基礎教育グループ基礎教育第一チーム 江崎 千絵

【マダガスカル】床を黒板代わりにみんなで勉強

【編集後記】

EFAの功罪 2000 年のダカール会議以後、各国で EFA を達成すべく、基礎教育無償化の動きが加速しました。その頃、NGO 職員としてケニア

で村落開発協力に携わっていた私は危機感を持っていました。それまで学校運営に積極的に関わっていた保護者や地域住民が、「教育の提供は行政の責任」と、参加を放棄し始めたからです。 結果は周知のとおり、各地で就学率が飛躍的に伸びた一方で、子どもたちが受ける教育の質は急激に悪化しました。この

“Schooling for All, Learning for Few” という危機的状況の背景には、カリキュラムや教科書の不備、教員の能力・意欲不足、学校運営の機能不全といった途上国の教育行政の限界が複合的にからみあっています。行政や学校の枠を超え、コミュニティを含む社会全体が一丸となって問題解決に取り組まない限り、事態はますます悪化するでしょう。

コミュニティ参加の形 今年初めにマダガスカルの小学校を訪れた時のこと。保護者や地元の 10 代の若者たちが、

週に数回、放課後の補習教室の無償ボランティアとして小学生に読み書きや計算を教えていました。彼らは、農作業、大工、家事、学業などの合間に、「学んだ知識を役立てたい」「我が子/きょうだいに教えるついでに」「将来先生になるための経験を積みたい」と、それぞれの想いで児童と向き合い、手ごたえを感じていました。これも立派なコミュニティ参加だと思いませんか?

ついに私も当事者に 日本ではどうでしょう。PTA とは本来、保護者と教員が協力して子どもの成長を応援する枠組みですが、実際には義務的に参加させ

られ負担でしかないという批判的な声が少なくありません。かくいう私も、アフリカでは「コミュニティ参加を!」などと長年訴え続けてきながら、我が子たちの教育にどこまで積極的に関わってきたのか。そんな反省から日本のPTAに関わってみて、アフリカの保護者や地域の方々を同志と思えるようになりました。国の発展段階を問わず、社会全体で子どもの成長を支えていくことが大切だと学びました。

JICAから世界へ 学校とコミュニティが力を合わせ、すべての子どもたちの良質な学びと人間的成長を、できるところから、みんなで応援していく。そんな仕

組みをつくって各地で広げていくことが、SDGs ゴール 4の達成、そしてその先の教育協力に欠かせません。ニジェールやセネガルで実績のある世界銀行や GPE との連携、そして最近盛り上がってきた J-PALや Pratham との連携など、今後も世界とのつながりを意識して業務に励んでいきたいです。


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