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516 金属表面技術 Zn-Al合 田野 和 広 *1,岡 裏 二 *2,蒲 稔 *3,大 部 操*4 Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet Kazuhiro TANG, Joji OKA, Minoru KAMADA, Misao OBU Effect of increasing Al content of Zn coating bath on the durability of hot dip galvanizing steel sheet is studied. After investigating the corrosion mechanism, easiness of coating operation and economical merit of Zn-Al coating, Zn-4.5% Al-0.1% Mg alloy coated steel sheet has been developed. It has an excellent corrosion performance in various atmosphere and a superior coating adherence to the conventional galvanized steel sheet. On the basis of long period exposure test results, it is expected to decelerate the development of red rust on the painted sheet. Therefore, it has a bright future as a resource-savable coated steel sheet. 1. 近 年,屋 根壁など建材用途に用いられる材料に長寿命 化 が 要 請 され て きて い る。 従 来,こ の分野には亜鉛鉄板 が 主 に用 い られ て きた 。 これ は,亜 鉛が腐食環境中で表 面に生成 した腐食生成物が内部を保護 する と と も に, Galvanic Protectionに よ る防 食 作 用 を持 ち,し か も亜 鉛 そ の もの が安 価 で,比 較的容易にめっきできるためで あ る。 しか し,長 寿 命 化 の 要請 に対 して は そ の防 食 メカ ニ ズ ムか ら,目 付 量 を 高 め る以外 に は 方 法が な く自 ら限 界 が あ るo 一方 ,既 に市 場 に 供 され て い る アル ミニ ウムめ っ き鋼 板 は,優 れた 耐 食 性,高 温特性を有する高級表面処理鋼 板 と して評 価 を得 て い る もの の,完 全な無欠陥表面が得 に くい こ と,合 金 層 が 厚 い た め皮 膜 の加 工 性 が不 足,経 済性 な どの た め,最 も耐食 性 の あ る鋼 板 と して の地 位 を 固 め るに 至 って い な い。 か か る情勢 か ら,亜 鉛鉄 板 よ りも長 寿 命 を狙 った,亜 鉛とアルミニウムの合金めっき化の研究が試みられてき た1)~7)。 これ らの中 で 著 名 な もの と して は,米 国 ベ ス レヘ ム社 の55%Al-43-5% Zn-1.5% Si合 金めっき鋼板5 これ は魅 力 あ る外 観,裸 使用時の高耐食性を武器に需要 を伸 ば しつ つ あ る。 また,ベ ルギーの金属研究センター (C.R.M.)が 開発 しつ つ あ るZn-5%Al-ミ ッシ ュメ ル め っ き鋼 板6)は,通 常の亜鉛めっき皮膜 より優れた耐 食 性,良 好 な成 型 性 を特 徴 に挙 げ て い る。 当社 で も,以 前 か ら長 寿 命化 を狙 っ て,Zn-Al合 金め っ き鋼 板 を 研 究 開発 してお り,最 近 商 品化 を行 な った の で,そ の開 発 の経 過,品 質について報 告す る こ と と す る。 2. 実験方法及び結果 2-1 基本めっき組成に関する検討 2-1-1 Al含 有量 と屋外暴露に よ-る腐食減量 の関係 表1に 示す浴組成,浴 温 度 で,板 厚0.8mm× 板 幅100 mm×coilの 冷延 板 をパ イ ロ ッ トライ ンで め っ き し,種 々 のAl含 有 量 を 有 す るZn-Al合 金めっき鋼板を得た。 そ れ らの め っ き鋼 板 を長 期 屋 外 暴 露 試験 に 供 し,腐 食 生 Fig. 1 Relation between Al content and weight loss on outdoor exposure test (Tobata, industrial environment) *1 新 日本製鉄(株)八幡製鉄所(〒805 北九 州市 八 幡 東 区 枝光1-1-1) Yawata Works, Nippon Steel Corp. (1-1, Edami- tsu-1 chome,Yawata-Higashi-ku, Kitakyusyu-shi 805) *2 新 日本 製 鉄(株)基礎研 究 所(〒211 川崎市中原区井田 1618) Fundamental Research Labo., Nippon Steel Corp. (1618, Ida, Nakahara-ku, Kawasaki-shi 211) *3 新 日本 製 鉄(株)生産 技 術 研 究所(〒805 北九州市八幡 東 区 枝 光1-1-1) Process Technology R & D Labo., Nippon Steel Corp. (1-1, Edamitsu-1 chome, Yawata-Higashi-ku, Kitakyusyu-shi 805) *4 新 日本 製 鉄(株)本社(〒100 東 京 都 千 代 田 区 大 手 町2- 6-3) Head Office, Nippon Steel Corp. (6-3, Otemachi- 2chome, Chiyoda-ku, Tokyo 100) -78-

Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

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Page 1: Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

516 金属表面技術

Zn-Al合 金 め っ き 鋼 板

田野 和 広*1,岡 裏 二*2,蒲 田 稔*3,大 部 操*4

Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

Kazuhiro TANG, Joji OKA, Minoru KAMADA, Misao OBU

Effect of increasing Al content of Zn coating bath on the durability of hot dip galvanizing steel sheet is studied. After investigating the corrosion mechanism, easiness of coating operation and economical merit of Zn-Al coating, Zn-4.5% Al-0.1% Mg alloy coated steel sheet has been developed. It has an excellent corrosion performance in various atmosphere and a superior coating adherence to the conventional galvanized steel sheet. On the basis of long period exposure test results, it is expected to decelerate the development of red rust on the painted sheet. Therefore, it has a bright future as a resource-savable coated steel sheet.

1. 緒 言

近年,屋 根壁 など建材用途 に用 いられる材料に長寿命

化が要請され てきている。従来,こ の分野には亜鉛鉄板

が主に用 いられて きた。 これは,亜 鉛が腐食環境中で表

面に生成 した腐食生成物が内部を保護 する と と も に,

Galvanic Protectionに よる防食作用を持ち,し か も亜

鉛 そのものが安価で,比 較 的容易にめ っきできるためで

ある。 しか し,長 寿命化の要請 に対 してはその防食 メカ

ニズムか ら,目 付量を高め る以外には方法が な く自ら限

界があ るo

一方,既 に市場に供 されているアル ミニ ウムめ っき鋼

板は,優 れた耐食性,高 温特 性を有する高級表面処理鋼

板 として評価を得 ているものの,完 全な無欠 陥表面が得

に くいこと,合 金層が厚いため皮膜 の加工性が不足,経

済性 などのため,最 も耐食 性のある鋼板 としての地位を

固めるに至 っていない。

かか る情勢か ら,亜 鉛鉄 板 よ りも長寿命を狙 った,亜

鉛 とアル ミニウムの合金めっき化 の研究が試み られてき

た1)~7)。

これ らの中で著名な ものとしては,米 国ベス レヘム社

の55%Al-43-5% Zn-1.5% Si合 金めっき鋼板5)が ある。

これは魅力あ る外観,裸 使用時の高耐食 性を武器に需要

を伸 ば しつつあ る。また,ベ ルギ ーの金属研究セ ンター

(C.R.M.)が 開発 しつつあ るZn-5%Al-ミ ッシ ュメタ

ルめっき鋼板6)は,通 常 の亜鉛め っき皮膜 より優れた耐

食 性,良 好な成型 性を特徴に挙げ ている。

当社 でも,以 前か ら長寿命化 を狙 って,Zn-Al合 金め

っき鋼板を研究開発 してお り,最 近 商品化 を行 なったの

で,そ の開発の経過,品 質について報 告す る こ と と す

る。

2. 実験 方 法 及 び結 果

2-1 基本め っき組成に関する検討

2-1-1 Al含 有量 と屋外暴露に よ-る腐食減量 の関係

表1に 示す浴組成,浴 温度で,板 厚0.8mm× 板幅100

mm×coilの 冷延板 をパ イロッ トライ ンでめっき し,種

々のAl含 有量を有す るZn-Al合 金 めっき鋼板を得た。

それ らのめっき鋼 板を長期屋外暴露試験 に供 し,腐 食生

Fig. 1 Relation between Al content and weight loss on outdoor exposure test

(Tobata, industrial environment)

*1 新 日本製鉄(株)八幡製鉄所(〒805 北九 州市八幡東区

枝光1-1-1)

Yawata Works, Nippon Steel Corp. (1-1, Edami-tsu-1 chome,Yawata-Higashi-ku, Kitakyusyu-shi 805)

*2 新 日本製鉄(株)基礎研究所(〒211 川崎市中原区井 田

1618)

Fundamental Research Labo., Nippon Steel Corp.(1618, Ida, Nakahara-ku, Kawasaki-shi 211)

*3 新 日本製鉄(株)生産技術研究所(〒805 北九 州市八幡

東区枝光1-1-1)Process Technology R & D Labo., Nippon Steel Corp. (1-1, Edamitsu-1 chome, Yawata-Higashi-ku, Kitakyusyu-shi 805)

*4 新 日本 製 鉄(株)本社(〒100 東京 都 千 代 田 区大 手 町2-

6-3)

Head Office, Nippon Steel Corp. (6-3, Otemachi-2chome, Chiyoda-ku, Tokyo 100)

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Page 2: Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

Vol.33, No.10, 1982 Zn-Al合 金 め っ き 鋼 板 517

Table 1 Sample preparation

Table 2 Sample preparation

Fig. 2 Effect of Al content on conversion

coating weight.

Fig. 3 Effect of Al content on the corrosion re-sistance of bended paint layer (Salt spray test 240hrs, 2mmφ bend).

成物を除去後 の減量で比較 した結果を図1に 示す。通常

の溶融亜鉛 あっき鋼板に相 当す るAl0.15%含 有浴が,

30~359/m2・ 年 の割合で減量 を示すのに対 し,Alを4.5

~10%添 加す ると,そ の量が20~25g/m2・ 年 と約2/3に

減 じる。更にAl量 を15%に 増加す ると,逆 に腐食減量

は大 きくなる。 この現象は,J.C. Zoccolaら8)の 結果 と

一致する。

2-1-2 Al含 有量 と塗装性能の関係

表2に 示 した種 々のZn-Al合 金め っき鋼板の塗装前処

理用化成処理性,塗 装性を調査 した。

図2に,リ ン酸塩処理性及 び クロメー ト処理性に対す

るAl含 有量 の影響を調べた結果を示す。

リン酸 塩処理性には,Al含 有量が影響 し,そ の量が

多 くな るに従い付着量を減少させ,55% Alで は亜鉛 め

っきの1/2~1/3以下 になる。 蚕たス ンプ法 で皮膜の結晶析

出状態を調べた結果,Alが 増すに従 い,リ ン酸 塩結晶が

粗粒にな る傾向が認め られ ることか ら,Alの 増大は リ

ン酸塩処理時の反応を抑制 してい るもの と考 えられ る。

一方,ク ロメー ト処理に対 するAl含 有量 の影響はあ

ま り顕著でない。 これは,採 用 した クロメー ト処理が非

反応のCoating Typeで あ るためであろ う。

上記,2種 類 の化成処理板に メラ ミンアルキ ッド系の

塗装を20μm施 し,一 般 に行われてい るエ リ ク セ ン 加

工(7mm),デ ュポン衡撃(50cm-kg),ゴ バ ン目試験,

及び折 曲げ(2mmφ,180°)で 塗料密着性を調べた結果を

表3に 示すが,Zn-Al合 金め っきは亜鉛 めっきと同程度

の塗料密着性を有 していることがわか る。

リン酸塩処理及び クロメー ト処理後の塗装後,耐 食性

を塩水噴霧試験で評価 した。代表的なデ ータ として,塗

装材の折 曲げ部(2mmφ,180°)の 耐食性 とAl含 有量 の

関係を,塩 水噴霧試験時240間 後 のテー ピングに よる塗

膜は く離 状況 で評価 し た結果 を図3に 示 す が,Alが

4.5~10%の 部分に,塗 装後耐食性 の良 いピークが認 め

ちれた。

-79-

Page 3: Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

518 研 究 金属表面技術

2-1-3 Al含 有量 と陽 分極特性の関係

亜鉛めっき浴中にAl含 有量 を増加 してい くと,分 極

特性が変化 して くる。 図4に,3%食 塩水 中の陽分極 曲

線を示すが,Al含 有量が増すに従って分極は 大 き くな

り,同 一電位 での亜鉛溶出速度が小 さくなることか ら,

Alの 添加に よって亜鉛の 活性溶出が 抑制 され るもの と

考 えられる。

2-1-4 Al含 有量 とめ っき作業の難易

先述,表1,表2の サ ンプル作成 を通 じて得 られたAl

含有量 とめっき作業性の難易 は次の如 くである。

亜鉛浴中にAlを 添加す ると粘性は低下す る9)は ずで

あるが,パ イロ ットライ ンに よる連続め っき作業では,

実感 として相当,高 粘 性で

ある。 これは,め っき浴中

へ のFeの 溶込みに よる ド

ロスの生成及び浴面でのAl

の選択酸化に よ り生 じた

Al2O3が 浴表面 を覆 い,浴

の粘度を高め るため と思わ

れ る。浴面に於け る高粘性

は,Zn-Al合 金め っき作業

のひ とつのポイ ン トで あ

る。浴中Alが8%を 越す と,

めっき面に ドロス粒 子が付

着す る機会が多 くなる。 ま

た,Zn-Al二 元合金では,

Al5%に 共 晶点が 存 在 し

て,融 点が382℃ と最低 で

ある。共晶点近傍で作業で

行 うこの技術 では,通 常 の

亜鉛め っきよ りめ っき浴温

を低 くで き,め っき作業 が

行いやすい。更にAlを20%

以上添加すると,浴 温,板

温,素 材種類 によって合金層の異常発達を もた らす こと

がある。著者 らの実験では,Alが20%以 上の場合,Al

めっきの経験 を活か して(Siを 添加す る と合金層の舌

状 発達を抑制 し,そ の量が3~5%で ほぼ 飽 和 す る)

Alに 対 して5%のSiを 添加 してサンプルを作成 した。な

お,こ のAl増 大に よる合 金層成長は,め っき釜,浸 せ

きロール等のめっき機械素材の溶食につながる現象で も

あ り,高Al浴 作業では,こ の点 に工夫を要す るものと

考え られた。

以上 の実験結 果を総合的に判断 して,亜 鉛 浴 中 へ の

Al添 加量は4.5%程 度にす ることを基本的に決定 した。

2-2 他元素の影響

溶融亜鉛めっきでは,従 来,浴 中に合金 層抑制 のため

のAlの 他,Pb, Cdを 添加 してい る。Pb, Cdの 主な添加

目的 は ス パ ング ル形 成 で あ るが,高 速 め っ き時 の め っ き

面 の平 滑 性,連 続 性 の確 保 の ため で もあ る。 著 者 らの研

究 に お い て も この点 を 考 慮 し,Pb, Cdの 他,Sn, Fe(必

ず 混 入 す る)が,Zn-Al合 金 め っ き の作 業 性,性 能 に 及

ぼ す 影 響 を調 査 した 。

基 本 浴 とな るZn-4.5%Al浴 は,JIS H2107特 種 亜 鉛 地

金 相 当品 と,JIS H2102特1種 アル ミニ ウ ム地 金 で 調整

し,Pbを0.005, 0.01, 0.02, 0.03, 0.05, 0.10, 0.20

0.50%, Snを0.001, 0.01, 0.02, 0.05%, Cdを0.005

0.01, 0.03, 0.05%,及 びFeを0.01, 0.03, 0.05, 0.1,

0.2%,各 々 単独 で添 加 して め っ き を行 な った 。 そ の結

果,ラ イ ン速 度 が5~10m/分 程 度 のパ イ ロ ッ トラ イ ン

Table 3 Effect of Al content on the properties after painting

1) * Cracking

2) Treating condition

phosphate treating 〔Bt 3305-Pn 62,70℃, 9sec.〕

chromium treating 〔Bt 712, 55℃, 10sec.〕

3) ◎ Excellent, ○ Good, △ Fair, × Bad

Fig. 4 Effect of Al content on anodic polarization in 3% NaCl solution (potentiostatic method).

-80-

Page 4: Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

Vol.33, No.10, 1982 Zn-Al合 金 め っ き鋼 板 519

Fig. 5 Effect of Pb and Sn content in bath on

coating adhesion.

Fig. 6 Effect of Mg content on coating

adhesion.

Fig. 7 Coating adhesion on Si containing

substrate.

Fig. 8 Outdoor exposure test results of galvanized,

and Zn-Al-Mg coated steel sheets in several

places.

では,い ずれの場合 も均一で良好 なめ っき面 が 得 られ

た。次に これ らのめっき板について,Zn-Al合 金に見 ら

れる粒界腐食 の有無を中心に調査 した。試験法は,め っ

き鋼板 の特徴を考慮 し,70℃, 100%湿 度雰囲気24h放

置後に ポールイ ンパ ク ト試験 を行 い,更 にテー ピングを

行 なって,め つき層 のは く離状態で判定する方法を採用

した。

Pb, Sn, Cd, Feの うち,Cdは0.05%以 下,Feは め っ

き浴中に存在 し得 る0.2%以 下(そ れ以上 は ドロス とし

て析出す る)で あれば,性 能上に何 ら悪 影響 を及ぼ さな

いことがわか った。 しか し,Pb, Snに ついては,そ の量

に よってはか な りめ つき層 のは く離が認 め られる。図5

にその結果 を示すが,Pbは0.1%, Snは0.02%以 下に

す る必要のあることが明 らにな った。

Pb, Snの 存在が,粒 界腐食に より,密 着性劣化を も

た らす ことは,表 面処理鋼板 の特性上,確 実に解決すべ

き重要な問題 であ る。 そのためには,Pb,Sn量 を各 々制

限する ことが有効であることは先に述べたが,製 品の使

用条件,製 造上の条件変動を考えれば,更 に別の手段を

組合わせ て,完 全な対策を講 じることが得策であ る。 そ

こで,更 に別 の元素を人為的に添加 し,Pb,Snの 影響 を

打消す方法 の検討を行 なった。添加元素 として,Mg, Ti,

Cu, Beを 検討 した結果,効 果,添 加法,管 理,価 格等

でMgが 最 も実用的であ ることを見 出 した。幾多の実験

を実施 し,Pb, Snの 悪影響を打消すMgの 量 と,Pb, Sn

量 の関係 を図6の 如 く明 らかに した。

以上,浴 成分の検討 を続けた結果,Zn-Al系 合金めつ

きの基本組成を,Zn-4.5%Al-0.1%Mgに 置 き,現 場製

造 ライン実験へ移行 した。

2-3 実ラインめっき作業とその性能

現場規模の ライ ンで実際にZn-4.5% Al-0.1% Mgの

合金め つき板を試 作 し,現 場作業性,性 能 を検討 した。

め っき作業は装置材料,操 業条件 に若干 の工夫を施 し

た以外は,通 常の亜鉛め つき作業 とほとん ど同等の条件

で遂行で きた。

次に,得 られた めつき板の性能 につ いて述べ ることと

す る。

2-3-1 め つき層 の加工性

Zn-Al-Mg合 金め つき鋼板 は,め つき付着量 が100~

150g/m2の 場合,プ レス成型 時のめつき密着性が極めて

優れ ている。実験室的に幾つかのプ レス成型を行なった

結果,い ずれの場合 も,め つき層のは く離は全 く起 こら

なか った。

一方,曲 げ加工に よる曲げ頂部 には,1t (t=板 厚)

曲げ以下の場合,微 細な亀裂が発生す るが,め っき層の

は く離は起 こらなか った。

また,通 常の亜鉛 めつき作業では良好 なめつき密着性

を確保 し難い,含Si鋼 をZn-Al-Mg合 金 めつき した場

-81-

Page 5: Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

520 研 究 金属表面技術

合のめ っき密着性を図7に 示す。Zn-Al-Mg合 金 めっき

鋼 板は,め っ き付着量が多 くなっても通常の亜鉛 めっき

鋼 板が呈する ような,密 着性劣化 の傾向が非 常 に 小 さ

い。

2-3-2 耐食性

Zn-Al-Mg合 金め っきの最大 の特徴は,優 れた耐食性

に ある。種 々の暴露地 で実際に屋外暴露 した場合の腐食

速度を図8に 示す。Zn-Al-Mg合 金め っきの腐食減量が

従来 の亜鉛鉄板 の1/1・5~1/2・5であ ることがわか る。

また重工業地帯で長期 暴露 した場合,切 口端部か ら赤

銃が発生 し始め る期間 を,種 々の 目付量 の板について比

較 した結果 を図9に 示す。

図8,図9か ら,Zn-Al-Mg合 金めっき鋼板は,同 一

付着量 の亜鉛 めっき鋼板 よ り相当長期間の寿命延長が期

待 できる ことがわか る。

次 に,高 温多湿雰囲気での使用を想定 した湿 気槽腐食

促 進試験結果を図10に,ま た,代 表的な腐食促 進試験 で

ある塩水噴霧試験に於 ける腐食速度を図11に 示す。

いずれの試験において も,Zn-Al-Mg合 金 めっき鋼板

は,従 来の亜鉛めっき鋼板 よ り格段 と優れた耐食性を示

してお り,実 用上,相 当有効な特性 を発揮す るもの と思

われ る。

2-3-3 塗装後 の耐食性

Zn-Al-Mg合 金め っき鋼板の塗装後耐食性は,促 進試

験,例 えば塩水噴霧試験における塗膜ス クラ ッチ部 のフ

ク レ幅が従来 の亜鉛めっき よ り相 当優れて いることが確

認で きたが,実 際に建材,屋 外設置物等に使用され る場

Fig. 9 Relation between coating weight and

years to first rust (Outdoor exposure test in industrial environment).

Fig. 10 Corrosion performance of galvanized, and

Zn-Al-Mg coated steel sheet on Humidity

cabinet test.

Fig. 11 Corrosion performance of galvanized, and

Zn-Al-Mg coated steel sheets on salt

spray test.

Fig. 12 Appearance of painted specimens after 5

years' exposure in Tobata

(Acrylic paint, 30μm)

-82-

Page 6: Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

Vol.33, No.10, 1982 Zn-Al合 金 め っ き鋼 板 521

合 の挙動は,長 期屋外 暴露試験で確認すべ きであろ う。

また,実 用途では当然,施 工時の成型加工部,取 扱 い疵

部,使 用中の疵 つ き部 などの表面損傷部か ら,優 先 的に

劣化が進行す ると思われ る。著者 らは,か な り長期 間に

亘 る屋外暴露試験 を実施中 であ るが,5~6年 経過す る

と実用上問題 となる赤銹 の発生に有意差が認め られ るよ

うであ る。5年 間の暴露に よるス クラッチ部の変化 の一

例を図12に 示す が,ス クラ ッチ部か らの赤銃の拡 が りは

Zn-Al-Mg合 金めっき鋼板 の方が,小 さいことが明 らか

である。

3. 考 察

亜鉛 めっき浴 中にAlの 添加量 を増加 していった場合,

通常 の亜鉛め っき鋼 板 よ り表面 の分極が大 き くな り,耐

食性が大幅に向上す る ことを述べた。この現象について

更に検討を進めた結果,腐 食生成物皮膜に よる腐食 抑制

とい う考え方の とれ ることがわか った。吉原 ら7),10)はア

ル ミニウム粉 末を複合 したZn-Alめ っきの防食機構 を次

のよ うに説明 している。Alは 本来,局 部 カソ-ド と し

て働 くはずであ る が,AIの 表面は電気伝 導度が小 さい

酸化皮膜で覆われて いるため,酸 素還元反応 が 抑 制 さ

れ,ア ノー ド反応であ るZnの 溶出速度は,そ れだけ小

さ くな る。と同時に腐食生成物であるZn酸 化物は,Al

粉末に保持され て表面被覆層を形成 し,拡 散抵抗が大 き

くな るので,腐 食が抑制されているとしている。著者 ら

は更に 一歩進んで,腐 食 生成物が何故耐食性に効果があ

るかを検討 した。

Znの 腐食反応は次のよ うに表わ される。

アノー ド反応:Zn+2H2O→Zn(oH)2+2H++2e…(1)

Zn(OH)2→ZnO+1/2H20………(2)

カソー ド反応:1/2O2+H2O+2e→20H-………(3)

Zn(OH)2は 電気伝 導度 が小 さいので,こ の皮膜がZn

の表面に形成されると,Zn表 面 での酸 素 還元反応 であ

る(3)式を抑制するといわれてい る。 しか し,Zn単 独 め

っきの場合にはZn(OH)2は,(2)の 反応でn型 半導体 で

Fig. 13 Electron micrographs of Fe-Al-Zn alloy lager.

あ るZnOに 変化す るので,酸 素還元反応抑制効果は小

さい。岡 田ら11)は,Znの 凝似サ ビを用い,Zn(OH)2中

にある種 の金属を添加す ると,(2)の 反応が抑制 され るこ

とを見出 してい る。

(2)の反応が抑制 されれば,Zn(OH)2皮 膜に よ り(3)の

反応 も抑制 さ れ る の で,そ の対応反応 として,(1)の 反

応,す なわち,腐 食が抑 制され ることに なる。岡田 らの

主張に従い,Al, Mgを 添加 して凝似サ ビを作 り,X線

回折 を行な った結果,Zn単 独の凝似 サ ビがZnOか らな

っているのに対 し,Al,Mgを 添加 して作 った ものは,

Zn(OH)2か らなってい ることがわか り,Al, MgはZn

(OH)2を 安定化 させ る挙動のあることが判 明 した。更

に,Zn-Al-Mg合 金めっき鋼 阪の塩水噴霧試験42,72時

間後の腐食生成物をX線 回折 で調べた。その結果,生 成

す るサ ビは,ZnCl2・4Zn(OH)2で あ り,ZnOに 変わ り

に くいことが認め られた12)。

す なわ ち,Zn-Al-Mg合 金めっき鋼板の防食機構 とし

て,腐 食 の初期に生成 した腐食皮膜 は,め っき表面を覆

うが,Al, Mgの 役割で腐食生成 物が電導度 の小 さいZn

(OH)2リ ッチに保持 され,酸 素還 元反応が抑制 される も

のと考え られ る。

一方,Zn-Al-Mg合 金めっき鋼板は,優 れため っき密

着性を示す。Alを0.1~0.2%含 む通常の溶融亜鉛 めっき

では,め っ き時,生成す る合金層は,地 鉄側にFe2Al513),

あるいは,Fe-Al-Zn三 元合金層14)が形成 され,更 に そ

の外側に これ らに よって量を抑 制 された1μm前 後 の

Fe-Zn合 金層が生成する。 これに対 し,Zn-Al-Mg合 金

め っきでは,電 気化学的方法で,め っき層,合 金層をは

く離 して行 くと,Fe-Zn合 金層はほとん ど認め られず,

またFe-Al-Zn合 金層は,定 電流電解において通常 の亜

鉛め っき鋼板 と同様 な電流-電 位曲線を示 し,その厚 さも

薄い。図13に 両者 のFe-Al-Zn合 金層の外観 を比較 して示

すが,Zn-Al-Mg合 金め っきの場合のち密 さがわか る。

この ような合金特性 であ るZn-Al-Mg合 金め っき鋼板

は,プ レス加工等に よって,め っき層のは く離が起 こ り

難 い。

また,め っき密着性 確保に難点のあ るSi

を含む素材で も,健 全 なFe-Zn合 金層が生

成す るため,良 好なめ っき密着性 を確保 し

得 るもの と考えられ る。

ダイキ ャス ト合 金(Zn-Al, Zn-Al-Mg

合金)か らの情報 で予見された粒界腐食15)

はめ っきの場 合,適 正な条件 でめ っきしな

いと経時に よるめっき密着性劣化,腐 食量

増大 とい う形 で現われた。 いず れ の 場 合

も,粒 界での腐食進行 と,そ れに よるめ っ

き層のぜい弱化現象 であろ う。め っき板 の

場合,ダ イキ ャス ト合金 と異 な る点 は,

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Page 7: Zn-Al Alloy Coated Steel Sheet

522 研 究 金属表面技術

Fe, Cdの 存在が実用上,問 題にな らない点 であ る。特に

Feの 存在 が品質に影響 しないことは,め っき時,Feの

混入が避け られないだけに,工 業的に意義が大 きい。め

っきとダイキ ャス ト間のこれ らの相違点は,高 速 で冷却

された凝固組織であるめっき層特有の ものと 思 わ れ る

が,前 述合金層 の組成,Mgの 挙 動とともに,今 後解明

してい く必要があると思われ る。

4. 結 言

溶融亜鉛めっ き鋼板 の長寿命化を狙 って,め っき浴中

のAl含 有 量を増加 させる研究を行な った結果,防 食効

果,め っき作業の容易 さ,経 済性などを総合 的 に 評 価

し,Zn-4.5%Al-0.1%Mgを 基本浴成分 とす るZn-Al-

Mg合 金め っき鋼 板を開発 した。

このめ っき鋼板は,裸 の耐食性が種 々の腐食雰囲気で

非 常に優れているほか,め っき密着性 も通常 の亜鉛めっ

き鋼板 よ り良好 である。 また,塗 装後の性能 も,長 期暴

露試験 の結果,赤 銃 の発生が遅 いことが期待 で き る な

ど,今 後,省 資源型合金め っき鋼板 として有望であ ると

考え られ る。 (1982-6-23受 理)

文 献

1) W.C. Sievert, et al.; Method of Hot Dip Coat-

ing with a Zinc Base Alloy Containing Magnesium

and the Resulting Product, USP 3505042(1970)

2) H.H. Lee, et al.; Al-Mg-Zn Alloy Coated Ferr-

ous Metal Sheet, USP 3505043(1970)

3) W.P. Roe, et al.; Galvanized Ferrous Articles,

USP 3320040 (1967)

4) H.H. Lee; Zn-Al Hot Dip Coated Ferrous Sheet,

USP 4029478 (1977)

5) A.R. Borzillo, et al.;被 覆 鉄 製 品,特 公 昭 46-7161

6) J. Pelerin, et al.; GALFAN-溶 融 亜 鉛 め っ き用

合 金 と技 術,鉛 と亜 鉛,第106号 〔3〕 (1982)

7) 木 村 肇,吉 原 敬 久,原 田俊 一;高 耐 食 性Zn-Al複

合 電 気 め っ き鋼 板 の 開 発,川 崎製 鉄 技 報 12, 〔4〕 65

(1980)

8) J.C. Zoccola, et al.; Atmospheric Corrosion Be-havior of Zn-Al Alloy Coated Steel, Paper of 1976

ASTM Symposium on Atmospheric Corrosion (19

76, 5月)

9) H.R. Thresh, et al.; Properties of Molten Zinc

and Zinc Alloys Part II; Viscosity, Physical Met-

allurgy Division Internal Report PM-R-64-27 (by

ILZRO) (1965, 10月)

10) 吉 原 敬 久,木 村 肇,原 田 俊 一;高 耐 食性 亜 鉛-ア

ル ミニ ウ ム複 合 電 気 め っ き鋼 板 に 関 す る 研 究 ,鉄 と

鋼, 66 〔7〕, 779 (1980)

11) H. Okada, K. Yamamoto, I. Ito; Proceeding In-

ternational Congress on Metallic Corrosion , p. 275

(1972)12) 岡 裏 二,朝 野秀 次郎,高 杉 政 志,山 本 一 雄;鉄 と

鋼, 68 〔2〕 A57 (1982)

13) D. Horstmann; The Influence of Steel and of

Galvanizing Conditions on the Properties of Gal-

vanized Steel and Strip, Proc. 7th Inter. Conf. on

Hot Dip Galvanizing, p. 146 (1967)

14) A.R.P. Ghuman, et al.; Reaction Mechanisms for

the Coatings Formed During the Hot dipping of

Iron in 0 to 10pct Al-Zn Baths at 450° to 700℃,

Met. Trans. 2, 2903 (1971)

15) 日本 鉛 亜 鉛 需 要 研究 会 編;亜 鉛 ハ ン ドブ ッ ク,p 112

(1977, (株)日刊工 業 新 聞社)

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