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松浦良充研究会 2014 年度 夏課題
就学援助制度おける国の不十分な調査体制の指摘
―就学援助法制定過程に着目してー
慶應義塾大学 文学部 人文社会学科
教育学専攻 4 年 松浦良充研究会
学籍番号:11111699
中丸美乃里
1
目次●まえがき
●序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4第 1 節 子どもの貧困の現状と家庭の教育費負担
第 1 項 子どもの貧困とは
第 2 項 子どもの貧困の現状
第 3 項 教育費の家計負担
第 4 項 義務教育の無償性
第 2 節 就学援助制度の概要
第 1 項 制度の根拠法令、対象、内容
第 2 項 運用の現状
第 3 項 就学援助制度運用上の財源
第 3 節 就学援助制度の課題
第 1 項 先行研究から見る就学援助制度の課題
第 2 項 先行研究の整理と筆者の問題意識
●第 1 章 本研究の目的及び検証方法の提示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20第 1 節 序章のまとめと筆者の主張
第 2 節 本研究の目的と検証方法の提示
●第 2 章 就学援助制度の実態に関する調査状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・
21 第 1 節 就学援助制度の実態に関する国の調査と公表状況
第 2 節 国の就学援助制度に対する実態把握不足の指摘
第 1 項 国の予算から見る現状認識不足の指摘
第 2 項 国会の答弁における国の現状認識不足の指摘
●第 3 章 就学援助制度の成立過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
25
●第 4 章 イギリスにおける子どもの貧困と対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・
27
2
●夏課題の反省と今後の見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
●参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
● まえがき 本研究は、経済的理由によって就学困難な児童・生徒への援助として存在する就学援助
制度を対象とし、その制度上の課題の要因を就学援助制度の制定過程をたどることで考察
するものである。
就学援助は、経済的な理由で就学困難な児童・生徒に対して、教育の機会を保障する制
度として存在するが、今日ではさまざまな制度上の課題が指摘されている。特に 2005 年、
就学援助法が改正され国庫補助が一般財源化されてから、自治体による運用の格差が指摘
されるようになり、制度の整備・改善が叫ばれている。それにもかかわらず、就学援助
制度は改正される様子が見られない。筆者はこのような現状に対して問題意識を持つ。調
べを進めていくうちに筆者は、「就学援助の実態についての調査が十分に行われていな
いのではないか」という疑問を抱いた。そして、調査が不十分であり、実態を把握して
いないことこそが就学援助制度が改正されない大きな要因となっているのではないか、
と考えるに至った。では、なぜ制度上の課題が指摘され、改正が叫ばれているにもかか
わらず調査が不十分なまま進展しないのであろうか。筆者はその要因として「就学援助
制度制定過程において国と地方の役割が曖昧化したこと」があるのではないかと考え、
これを検証することとした。ここで先に本論の大枠の流れを提示しておきたいと思う。
まず、序章では、本章への導入として子どもの貧困状況や教育費の家計負担について概
観した上で、就学援助制度の概要・運用の現状を述べる。その上で、就学援助制度の課題
を先行研究を通じて示し、最後に筆者の立場を述べる。ここまでで論点を「就学援助制度
に対する国の関与」に絞ったうえで、「制度改善が叫ばれているにもかかわらず国レベ
ルでの制度の改善がみられない」という筆者の問題意識を明確にし、次章にすすむ。
第 1 章では、序章のまとめを行ったのち、「①貧困が拡大し、就学援助制度に関する
様々な問題点が指摘されながらも、国レベルでの制度改善が行われない要因の 1 つは就
学援助制度の実態に関する調査が不十分であり、現状を十分に把握できていないことであ
り、②就学援助制度に関する調査が不十分である要因は、就学援助制度制定過程において
国と地方の役割が曖昧化したことである」という筆者の仮説を述べる。仮説を検証して
いくにあたり言葉の定義を定め、検証の流れを確認する。
第 2 章では、検証として就学援助制度の実態に対する国の把握体制について確認し、国
の就学援助制度に関する調査が不十分であり、また現状把握も十分にできていないこと
3
を示す。(構想途中)
第 3 章では、就学援助制度制定過程をおうことで、国と地方の役割が曖昧化したことを
確認する。(構想途中)
第 4 章では、イギリスにおける子どもの貧困と対策について述べる。(構想途中)
最後に夏課題の反省と今後の見通しを述べて本研究を終える。
● 序章 近年、我が国の子どもの貧困問題がクローズアップされている。1本章では子どもの貧
困の現状を概観した上で、教育の機会均等を保障するための就学援助制度についてその課
題を探り、次章の仮説へとつなげる。第 1 節ではまず、貧困の現状と貧困の世代間連鎖に
ついて述べる。次に、教育が貧困の継承防止に大きな役割を果たし得ることを示したう
えで、義務教育にかかる教育費についてみていき、教育費の家計負担が貧困家庭の大きな
負担となっている現状を述べる。また同時に、義務教育の無償性とはどのようなことを
示しているのかを確認する。第 2 節では経済的理由で就学困難な児童生徒に対して、教育
の機会を保障するための就学援助制度について概観した上で、運用の現状とその課題を探
る。その上で本論文における論点と筆者の問題意識を明確にし、次章の仮説へと繋げる。
第 1 節 子どもの貧困の現状と家庭の教育費負担
第 1 項 子どもの貧困とは
子どもの貧困の現状を述べる前に、子どもの貧困とは何か、貧困が子どもにどのよう
な負の影響を与えるのかについて述べ、この問題に取り組む意義を考えたい。
子どもは大人と違い、自分の置かれる環境を選択できない。そして、その与えられた
環境が貧困状態であると、経済的次元を超えてさまざまな不利を被ることになる。これ
らの不利は連鎖・複合化して子どもの能力の伸長を阻み、低い自己評価をもたらし、人や
社会との関係性を断ち切っていく。家に勉強机もなく、不安定な生活のため学力もあがら
ない、みんながもっているゲームも持っていない、衣服が古い、そのようなことがいじ
めの原因になったり、仲間外れにされるきっかけとなり、自己肯定感が傷つけられる。
また、貧困がもたらす不利は年齢とともに蓄積されていき、子どもの様々な可能性と選
択肢を制約する。貧困にある子どもは「高校卒業」「大学進学」や「正社員としての就
職」などの道が閉ざされることが多く、その結果、不安定な労働・生活に陥り大人になっ
てからも継続して貧困の中におかれる可能性がある。子ども時代の貧困は、子どもの現
在の状況に影響を与えるのみならず、長期にわたって固定化し、次の世代へと引き継が
1 2009 年、NHK が「NHK スペシャル」や「クローズアップ現代」などの番組で子どもの貧困を取り上げたことに始まり、世論の関心が高まりつつある。
4
れる可能性、つまり貧困が世代間連鎖していく可能性を含んでいる。子どもの貧困が問題
とされるのは、「現時点を生きている子どもの状態が悪化し権利が侵害されるからだけ
でなく、同時に子ども期の貧困がほかの社会的不利を招き、人生の長い時間にわたる貧困
をもたらす可能性がある」2からであるといえる。
貧困を放置すればどれくらいの社会の損失になるかを知ることも有益である。阿部3は
「貧困の社会的コスト」について次のように述べている。
ある子ども A君の貧困状況を放置したとしよう。A君は、適切な教育を受け、才能を
開花させれば著名な科学者となったかもしれないし、有能な経営者になったかもしれ
ない。まあ、謙虚に見積もって平均的な労働者になるとしよう。しかし、貧困状態に放
置されたことで A君は高校を中退することとなり、簡単な作業に従事する不安定雇用
にしか就くことができなくなる。賃金も低く、課税最低限未満しか稼ぐことが出来ず、
税金も社会保険料も収めることが出来ない。場合によっては、生活保護を受給するよう
になるかもしれない。また、貧困層の人々は、非貧困層の人々に比べ、健康を悪化させ
るリスクも高いので、A君は多くの医療サービスを受ける必要があるかもしれない。
医療サービスの七割は国・自治体の負担であり、A君が生活保護を受けたらこの比率は
一〇割である。
もし、国が A君の子ども期に、彼が貧困を脱却する可能性を高めるような支援をし
ていたら、どうであろう。国は、A君が払ったであろう税金・社会保険料を受け取るこ
とができるうえに、生活保護費や医療費などの追加費用を払う必要がなくなる。つま
り、長い目で見れば、子ども期の貧困は「ペイ(pay)」する可能性が高い。逆にいえ
ば、貧困を放置することは「お高く」つく。これが「貧困の社会的コスト」である。
このように、長期的に貧困問題を考えると、一見コストがかかるように見える貧困対
策も未来の投資となるということがわかる。だからこそ貧困問題はその子どもと家庭だ
けの問題ではなく、社会全体で取り組まなければならない問題であるといえる。
第 2 項 子どもの貧困の現状
子どもの貧困は、子どもが暮らす世帯全体の貧困をも意味する。子どもの貧困を考察し
ていく前提として、親世代を含むわが国の拡大する貧困の状況を概観する。厚生労働省は
2 松本伊智朗(2013)「教育は子どもの貧困対策の切り札か?」『貧困研究 Vol.11』明石書店、6頁3 阿部彩(2014)『子どもの貧困Ⅱ』岩波書店、26頁
5
「平成 22 年国民生活基礎調査の概況」4において、日本の貧困率を公表している。5これ
によれば、平成 21 年における日本の「相対的貧困率」は 16.0%、17歳以下の「子ども
の貧困率」は 15.7%となっている。「相対的貧困率」とは、等価可処分所得の中央値の
半分として定められた「貧困線」に満たない世帯員の割合である。子ども自身が所得を得
ていることはほとんどないため、「子どもの貧困率」は世帯の所得に基づいて、全ての
子どものうち、貧困線より低い所得で生活している世帯に属している子どもの割合を示
している。つまり、「普通の暮らしをしている家庭の半分の収入の家庭で暮らしている
子どもが、子ども全体に占める割合」が子どもの貧困率ということになる。このデータ
から考えると、子どもがいる世帯の実に 6、7世帯に 1世帯が貧困の状態に置かれている
ということになる。貧困が身近な問題となっていることが見て取れるであろう。日本政
府は相対的貧困率をこの「平成 22 年国民生活基礎調査」まで公表してこなかったが、本
調査において 1985 年から 2009 年までの貧困率の推移が公表された。これによると、
1985 年から 2009 年にかけて、貧困率の上昇が 20 年以上続いていることが分かる。注
目すべきなのは、1985 年の時点において子どもの貧困率がすでに 10.9%であったこと
である。この時期は、バブル経済に突入する頃であり日本は平等社会であるといわれて
いた時期である。すなわち、子どもの貧困は決して、リーマン・ショック以降の新しい
社会問題ではない。景気の動向にかかわらず、根本的なトレンドとして、貧困率は上昇
しているといえる。
図表 1 相対的貧困率の推移6
4 厚生労働省「平成 22 年国民生活基礎調査の概況、7 貧困率の状況」(2014 年 8月 17日取得)http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/2-7.html5 国民生活基礎調査は毎年行われているため最新の結果としては「平成 24 年国民生活基礎調査」があるが、大規模調査は 3 年に 1回であるため、貧困のデータとして最新であるのは平成 22 年のデータである。6 厚生労働省「平成 22 年国民生活基礎調査の概況、7 貧困率の状況」、前掲
6
1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2006 200989
1011121314151617
全体 子ども
年
%
国際的に見ても日本の子どもの貧困率は決して低くない。ユニセフの推計(2011 年)
によると、2000 年代半ばにおいて、日本の 18歳未満の子どもの貧困率は、先進 35 か国
の中で上から 9 番目の高さにある。7先進国のなかでも、一人当たり GDP が 3万 1000ドル以上の国に限ると、日本は 20 か国中 4 番目に子どもの貧困率が高い国となる。8
図表 2 先進 20 か国の子どもの貧困率9
7 UNICEF「Measuring child poverty」(2014 年 9月 9 日取得)http://www.unicef-irc.org/publications/pdf/rc10_eng.pdf8 同上9 UNICEF「Measuring child poverty」前掲
7
アイスランドオランダデンマークオーストリアアイルランドフランス
オーストラリアルクセンブルク
日本スペイン
0 5 10 15 20 254.7
5.36.16.16.5
7.37.3
8.18.48.58.8
10.210.9
12.112.3
13.314.9
15.917.1
23.1
%
また、OECD諸国の所得格差の平均は 1980 年代半ばから 12%増となっているが、同
時期における日本では 30%も拡大している。10経済大国であるはずの日本において貧困
率の割合が国際的にも高水準にあること、そして貧困が徐々に拡大していっていること
がわかるであろう。
さらに貧困が拡大している現状を確認できる資料として、「平成 24 年国民生活基礎調
査の概況」11から児童(18歳以下)がいる世帯の平均年収をみていきたい。児童がいる
世帯の平均年収は、1990 年代半ばから大幅に下がっている。核家族化の進行と平均児童
数の減少を反映して平均世帯人員は減っているが、有業人員平均はほとんどかわってい
ないため、平均年収減少の要因はそのまま賃金の減少であるといえる。後藤12は、児童の
いる世帯について、低所得の基準を 30歳代世帯主世帯は 400万円未満、40歳代世帯主
世帯については 450万円未満としている。この基準をもとにみてみると、1990 年代半
ばに比べて 30歳代世帯主世帯の低所得率は 18%から 31%へ、40歳代世帯主世帯では
10 OECD編著(2010)『格差は拡大しているか』赤石書店、31頁11 厚生労働省「平成 24 年国民生活基礎調査の概況 結果の概要」(2014 年 9月 1 日取得)http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa12/dl/12.pdf12 後藤道夫(2013)「第二章 日本の子育て世帯の貧困拡大と学校教育」『教育機会格
差と教育行政』福村出版、29-32頁
8
18%から 25%へと大きく増えている。ここで、後藤が低所得世帯の基準とした 400万円と 450万円という数値について後藤の論から引用・紹介したい。
38歳、35歳、8歳、6歳という 4 人家族を想定すると、その生活保護基準による最
低生活費は、大都市部で年額 360万程度、小都市部で 280万程度である。仮に賃金年
収を 400万円とすると、公租公課(直接税、社会保険料、勤労必要経費、医療費等)は
120万~140万程度が想定できる。その分をひくと、この 4 人家族は大都市部はもち
ろん小都市部でも生活保護基準が想定する最低生活には届かない可能性が高い。ちなみ
に、子育て世帯の平均世帯員数は 4.2 人である。子どもの年齢が上がれば最低生活費も
増えることを念頭に置けば、30歳代世帯主世帯にとって 400万円、40歳代の 450万円は子育て世帯にとっても大まかな貧困基準と考えて無理がない。13
このように考えると、改めて貧困が身近な問題であり、かつ子育て世帯の貧困が拡大
していることがわかるであろう。これまで貧困は母子世帯や障害世帯などの「特殊」な
問題と理解される場合が多かったが、現在の状況は決してそうではない。
第 3 項 教育費の家計負担
第 1 項で子どもの貧困が社会全体で取り組むべき問題であること、第 2 項で子どもの
貧困が拡大し、身近な問題となっていることを確認した。本項では教育を貧困の世代間連
鎖を防ぐ有効な手段と捉えた上で、教育費の家計負担について述べる。
教育を受ける権利は憲法 26条で保障されている。しかしながら、本項で述べるように、
現在の日本では子どもの教育機会が家庭の経済力により大きく左右される状況になって
おり、貧困家庭の子どもの教育機会の保障という観点から問題が生じている。今日の社会
で生活していくためには、読み書きをはじめとする基礎的学力や他者との人間関係を構
築し社会とかかわる力が必要であり、この力を育むことは教育によって保障されなけれ
ばならない。すなわち、子どもたちに対して教育を保障することは、将来の社会の担い
手を育てることであり、活力ある社会を築く基盤となりうる。貧困の世代間連鎖を防ぎ、
また子どもたちが将来貧困に陥ることを防ぐためにも、教育の果たす役割は極めて大き
いといえる。この様な考えから、本項からは貧困対策として教育に着目をし、論を展開
していく。
日本国憲法 26条は、「義務教育はこれを無償とする」と規定している。これを受けて、
教育基本法 54 項は「国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については授
業料を徴収しない」と授業料の無償化を明記し、教科用図書も無償化されている。しかし
義務教育段階の公立小・中学校においても保護者の私的教育負担は相当な額に上っている
13 後藤道夫(2013)「第二章 日本の子育て世帯の貧困拡大と学校教育」前掲、32頁
9
のが現状である。文部科学省の「平成 24 年度子どもの学習費調査」14でこの点を確認し
たい。
公立の小中学校では授業料や教科書代は徴収されないが、学校で授業や特別活動などに
参加するために必要な「学校教育費」のうち保護者の私的負担は、公立小学校で 55197円、公立中学校では 131534円にものぼる。(図表 3)これに給食費も合わせた額は公立
小学校で 97232円、公立中学校で 167648円となり、貧困家庭にとっての大きな負担と
なっている。
図表 3 公立小学校・中学校の学校教育費の内訳15
この額にクラブ活動等にかかる経費は含まれていない。特に中学校では自分の望む部
活に入るためには、当然のように用意しなければならないものが多い。ある中学校では、
剣道部に入って活動をするためには防具などの購入費に約 6万円が必要となるという。16
また、ある年に吹奏楽部に入部した子どもたちが購入した楽器代は最高約 40万円、最低
でも約 20万円であった。17このように、中学校入学時から金銭的な理由で子どもの希望
する方向が左右されてしまうような現実がある。
また、世帯の年間収入と学習費総額(「学校教育費」(授業料、教材費、学用品等)、「学校給食費」「学校外活動費」(塾、習いごと等)の総額)の関係を見る
と、年間収入が 400万円未満の世帯の場合、学習費の総額は、公立の小学校では約 23万
14 文部科学省「平成 24 年度子どもの学習費調査」(2014 年 4月 20 日取得)http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/01/10/1343235_3.pdf15 同上16 藤本典裕(2009)『学校から見える子どもの貧困』大月書店、40頁17 同上
10
3000円、公立の中学校では約 36万 3000円だが、年間収入が 1200万円以上の世帯の
場合、公立の小学校では約 56万 1000円、公立の中学校では約 60万 3000円となって
いる。18 世帯の年間の収入が増加するほど学習費総額が多くなる傾向がみられ、保護者
の経済状況が子どもの教育費に直接影響を与えていることが分かる。
次に、家計負担の重さを海外と比較してみていきたい。教育費をだれが負担するのか、
という問題に対しての考え方は国によって異なる。この考え方の違いによって、各国の
教育費の公的負担と私的負担の割合は国によって著しい差がある。OECD加盟国中、全て
の教育費負担についてみると、家計負担が最も重いのは韓国の 30%であるが、日本はこ
れに次いで 22%となっている。19ヨーロッパ諸国は公的負担割合が高く、家計負担は少
ない。特に北欧諸国では家計負担の割合が低く、スウェーデンの家計負担はゼロとなっ
ている。教育費負担に関して、家計負担の多い家族主義的な韓国や日本などの東アジア諸
国と個人主義と福祉国家的な北欧諸国は、著しいコントラストをなしている。20この背景
には、1970 年代以降、教育が商品化され、そのサービスを受けるものがそのサービスに
応じてその費用を負担すべきという「受益者負担」主義の傾向が強まった歴史がある。 21
教育の公共性が弱体化していくなか、教育予算の削減が進められ、保護者の教育費の負担
は拡大していったのである。
このような背景から、日本においては教育費の家計負担が増大し、貧困の連鎖の要因と
もなっている。では、国及び地方自治体が教育に対して支出する金額はどの程度だろう
か。2006 年に国及び地方自治体が教育機関に対して支出した学校教育費及び教育行政費
の全教育段階における対 GDP 比は、前年と比較して 0.6%減少し、3.3%であった。22OECD 各国の平均は 4.9%であり、日本は、OECD 加盟国 28 か国中 27 位である。23GDP に対する割合が相対的に低いことから、教育や福祉に投じられた絶対額が少ない
とは言えないが、家庭の所得格差に応じて、子どもの利益に大きな違いが生み出される
ことは間違いない。つまり、日本社会において「貧困な家族」に生を受けた子どもたち
は、何らかの是正措置がないかぎり、不利になる構造におかれているということになる。
なおこれらの構造的な特徴とも関連して、税の再配分前と再配分後の動向に目を向ける
と、日本では社会保障の再分配効果が極めて弱く、子どもの貧困率をむしろ再分配後に上
昇させるような構造にあることが注目されている。24貧困からの脱出の困難さは、北欧な
18 文部科学省「平成 24 年度子どもの学習費調査」前掲19 OECD「Education at a glance」(2014 年 9月 2 日取得)http://www.oecd.org/edu/skills-beyond-school/educationataglance2008oecdindicators.htm20 子どもの貧困白書編集委員会(2009)『子どもの貧困白書』明石書店、185頁21 日本弁護士連合会(2011)『日弁連子どもの貧困レポート―弁護士が歩いて書いた報告書』赤石書店、86頁22 日本教育行政学会研究推進委員会編(2013)『教育機会格差と教育行政』前掲、17頁23 同上24 同上、子どもの貧困白書編集委員会(2009)『子どもの貧困白書』前掲、26頁など
11
どに比較すればきわめて大きいことがわかる。
第 4 項 義務教育の無償性
憲法 26条 2 項では「義務教育は、これを無償とする」と規定されているにもかかわら
ず、その義務教育段階であっても、教育費の家計負担が重くなっていることを前項にお
いて述べた。では、憲法でいわれている「無償制」とは何を示すのだろうか。
無償性をめぐっては、教育基本法第 4条第 2 項「国または地方公共団体の設置する学校
における義務教育については、授業料は、これを徴収しない」を根拠に私立学校を除い
た「授業料無償説」が永らく採られてきた。この説が広く受け入れられるようになった
きっかけとして、1961 年から行われた無償性をめぐる裁判がある。25これは公立小学校
に在学する児童の保護者が、義務教育期間中に支払うこととなる教科書代金は日本国憲法
26条 2 項後段の規定により国が支払うべきであるとして提訴した裁判である。この裁判
では、憲法 26条第 2 項後段にいう無償とは「授業料不徴収の意味」であって、「教科書、
学用品そのほか教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたも
のと解することはできない」と判断された。
この裁判により、一応の無償範囲としては「授業料無償説」がとられたが、1967 年に
は「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」によって、義務教育段階の教
科書に関しては私立学校も含めて無償となり、現在は授業料、教科用図書、教職員給与、
学校建築費などが無償の範囲とされている。
第 2 節 就学援助制度の概要
前節までの流れを確認する。まず、子どもの貧困とは何かと子どもの貧困の現状を確
認した。そして、教育が貧困の世代間連鎖を防ぐ重要な役割を果たし得ることを述べた上
で、教育費の家計負担の現状を確認し、また日本社会は貧困から抜け出しにくい構造に
なっていることを述べた。最後に義務教育の無償性とは何か、現在の無償範囲はどのよ
うに定められているのか、ということを確認した。前節までで、子どもの貧困が身近な
問題となっている中、教育費の家計負担が重く、かつ義務教育の無償の範囲も限定されて
いるということ、また、国際的に見ても日本の貧困率と家計負担率はかなり高いことが
わかった。次節からはこのような状況におかれている経済的に困難な家庭の子どもたち
に対して、教育の機会を保障する制度としての就学援助制度について述べていきたい。
第 1 項 制度の根拠法令、対象、内容
憲法 26条において、「義務教育は、これを無償とする」と規定されているが、現在で
はその無償範囲として「授業料無償説」がとられ、無償の範囲は限られており、現実には
多額の家計負担が存在することを前節において確認した。このような教育費の家計負担分
25 藤本典裕(2009)『学校から見える子どもの貧困』前掲、30-31頁
12
について、経済的理由によって就学が困難な者に対して教育扶助と就学援助という 2 つの
制度を通じて経済的援助が提供されている。本論文では、この 2 つの制度のうち就学援助
制度について論じていくが、その理由については本節第 2 項で改めて後述したい。
就学援助制度とは、義務教育課程(小中学校)にある児童生徒のうち、経済的理由に
よって就学困難と認められる者に対して市区町村が実施する経済的援助のことである。本
項ではまず、就学援助制度の①根拠法令②対象③内容を整理する。
①根拠法令:憲法 26条は、その 1 項で国民の教育を受ける権利を定めるとともに、2項後段で義務教育の無償をうたっている。これを受けて、教育基本法 4条 3 項は、「国及
び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対
して、奨学の措置を講じなければならない」とし、また、学校教育法 19条は「経済的理
由によって、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、
必要な援助を与えなければならない」と定めており、これらが就学援助の総則的規定と
なっている。この市町村が行う就学援助に対して国は、「就学困難な児童生徒に係る就学
奨励に関する法律」(以下就学奨励法)第 2条、学校給食法 7条、学校保健安全法 18条により、予算の範囲内において必要な経費の一部を補助している。これら 3 つの法(就
学奨励法、学校給食法、学校安全保健法)を総称して就学援助制度と呼ばれる。
② 対象:就学援助の対象となるのは、生活保護基準に該当する「要保護世帯」と要保護
世帯に準ずる程度に困窮していると認められる「準要保護世帯」のうち、義務教育課程に
ある児童生徒のいる世帯である。準要保護世帯の認定基準、つまり「要保護者に準ずる程
度」の困窮度合いは国によって具体的な基準が定められているわけではないため、市町
村によってその基準は異なる。現在は多くの自治体で準要保護世帯の客観的な認定基準と
して、前年の「所得が生活保護基準の 1.3倍以下」といったような世帯の所得と生活保護
基準との比較や、「4 人家族ならば所得が 270万円未満」といった所得の数値基準がつ
くられている。26
③内容:要保護世帯の児童生徒には教育扶助の対象として学校給食費・通学用品費・学
用品費が給付される。就学援助制度は、要保護世帯の児童生徒に対して教育扶助の対象と
ならない修学旅行費などを支給するとともに、準用保護世帯の児童生徒に義務教育にとも
なう費用の一部を給付している。 (図表 4)給付の仕方は、金銭給付のみとする自治体と、
金銭給付と現物給付とを併用している自治体がある。27
図表 4 生活保護(教育扶助)と就学援助の関係28
26 藤本典裕(2009)『学校から見える子どもの貧困』前掲、83頁27 藤澤宏樹(2007)「就学援助制度の再検討・1」『大阪経大論集』58、202頁28 鳫咲子(2009)「第三章 就学援助制度における自治体間格差」『子どもの貧困白書』明石書店、169頁をもとに筆者作成
13
ややこしいところであるため用語を再度確認しておくと、生活保護法に基づく教育扶助
を受給している者が要保護者、要保護者に準ずる程度に困窮している者が準用保護者であ
る。就学援助制度は基本的には準用保護者が対象であるが、要保護者が受給する教育扶助
に修学旅行費等は含まれていないため、これらに限っては就学援助から支給されること
になる。
第 2 項 運用の現状
文部科学省の資料29によれば、要保護者と準要保護者の合計である「就学援助対象者」
が小中学生総数に占める割合は、平成 7 年度の約 77万人(6.10%)から平成 24 年度約
155万人(15.64%)と実数・割合ともに 2倍以上に増加している。(図表 5)全国で 6人~7 人に 1 人の小中学生が経済的理由により就学困難と認められている。
図表 5 要保護及び準要保護児童生徒数の推移(平成 7 年度~24 年度)30
7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 240
20
40
60
80
100
120
140
160
180
9 8 8 8 9 9 10 11 12 13 13 13 13 13 14 15 15 15
68 70 70 75 81 89 96 104 113 121 124 128 129 131 135 140 142 140
準要保護児童生徒数 要保護児童生徒数年度
万人
このように義務教育段階における子どもへの生活保護と就学援助の適用の現状を見ると、
生活保護の要保護率と就学援助も含めた援助対象率は約 10倍の開きがあることがわかる。
29 文部科学省「平成 24 年度要保護及び準要保護児童生徒数について」(2014 年 4月 20日取得)http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/02/__icsFiles/afieldfile/2014/02/12/1344115_01_1_1.pdf30 同上をもとに筆者作成
14
生活保護の割合が低い理由として、その認定基準の厳しさが挙げられる。生活保護を受け
るためには世帯の資産調査があり、住宅ローンなど借り入れがある場合は原則として受
けられない。他にも、親から譲られた家があると申請を受けにくい、車が生活上不可欠
な地域であっても生活保護を申請する際の障害となるといった状況がある。31それに対し
て、就学援助には資産調査はなく、通常親の所得のみが基準となっており、申請への障壁
は比較的低い。32子どもの相対的貧困率と就学援助を受けている子どもの割合が共に 14から 15パーセント程度である33ことから、就学援助は生活保護よりも容易に、且つ多く
の人に利用できる制度となっていることが分かる。このような観点から本論文では、子
どもの教育機会を保障する制度として教育扶助ではなく就学援助に着目して論じていき
たい。
ところで、近年就学援助率が上昇している背景として、バブル崩壊後のわが国の経済の
長期低迷が影響していると考えられている。文部科学省が 2005 年度に全国 125 の市区
町村教育委員会を対象に実施した調査によれば34、就学援助受給者の変化(増加)の要
因・背景として挙げられた理由の第一位は「企業の倒産やリストラなど経済状況の変化に
よるもの」であり、第二位が「離婚等による母子・父子家庭の増加、児童扶養手当受給者
の増加」であった。
第 3 項 就学援助制度運用上の財源
就学援助制度は、経済的理由によって就学困難な児童生徒に対して援助を行う地方公共
団体へ、国が必要な補助を与えるものである。しかし、小泉政権時の三位一体の改革によ
り 2005 年に就学援助の国庫補助が一般財源化され、まとめて交付税で措置されることと
なった。つまり、従来就学援助に使うための国から市町村への補助金だったものが、三
位一体改革後は何に使ってもよい一般財源として国から市町村に交付されている。
この法律の改正にあたり、一般財源化を機に多くの地方自治体が就学援助の事業規模を
縮小するのではないかとの危惧が示されたが、中山成彬文部科学相は「学校教育法におき
まして、就学援助の実施義務は市町村に課せられていること、それから準用保護者の認定
は、従来通り地域の実情に応じて市町村の判断でおこなっていくこと、財源につきまし
ては、これは所得譲与税として財源移譲されるとともに、所要の事業費が地方財政計画に
計上されて、地方交付税を算定する際の基準財政需要額に算定されることになっておりま
して、市町村における事業が縮小することはない」と答弁した 35。しかし、実際には
31 鳫咲子(2012)「子どもの貧困とセーフティネット」『鶴見学園女子大学マネジメント学部紀要』、95頁32 鳫咲子(2013)『子どもの貧困と教育機会の不平等』明石書店、44頁33 阿部彩他(2008)『生活保護の経済分析』東京大学出版会、43頁34 鳫咲子(2013)『子どもの貧困と教育機会の不平等』前掲、37頁35 第百十二回国会集議院文部科学委員会議録第六号(2005 年 3月 16 日)36頁(藤澤宏樹(2007)「就学援助制度の再検討・1」前掲、201頁から孫引き)
15
2005 年度に一般財源化されて以降、多くの市町村において各自治体の厳しい財政状況を
理由に基準を厳しくしたり、市町村合併を契機に基準をそろえたりする動きがあった 。
2008 年度も 74 の市町村で認定基準の厳格化等が行われている。36次節では、就学援助の
このような現状を把握した上で、先行研究ではどのような課題が指摘されているのかを
紹介していく。
第 3 節 就学援助制度の課題
前節において就学援助制度の内容と運用状況を整理し、経済的な理由で就学困難な児童
生徒に対して、教育の機会を保障する制度となっていること、またその受給者は年々増
えていること、2005 年に国の補助が一般財源化され、各自治体で援助が縮小傾向にある
こと等を確認した。本節第 1 項では、先行研究者が挙げている就学援助制度の問題点を紹
介し、第 2 項において論点と筆者の問題意識を明確にする。
第 1 項 先行研究から見る就学援助制度の課題
先行研究者が挙げる問題点を、①制度運営における自治体間格差、②教育と福祉の関係
性に分けて紹介する。
① 制度運営における自治体間格差
前節第 3 項でも述べたとおり、2005 年に就学援助の国庫補助が一般財源化され、まと
めて交付税で措置されることとなった。そのため、事業内容は市町村に任される部分が
大きく、市町村ごとに認定基準や方法、援助する内容に違いがある。2006 年度において、
児童生徒総数に対する準用保護者の割合(=準要保護率)が最も高い 20 の市区町村の保
護率平均は 31.36%であった。他方、準要保護率がゼロの市区町村が 34 もあった。37こ
のような事態を受け、湯田の『知られざる就学援助 驚愕の市町村格差』 38をはじめとし、
多くの論文の中でこの問題が扱われている。39では、市町村格差が生じている要因として
どのようなことが述べられているのだろうか。
一つ目の原因として指摘されているのは、自治体による財政力の違いである。旧文部
省の「昭和 39 年度就学援助に関する調査報告書」40では、財政力の低い市町村ほど就学
援助受給者が多く、就学援助を行う必要に迫られながら十分な援助が実施されにくいこと
が認識されていた。1964 年度の調査以外に文部科学省による就学援助に関する詳しい分
析は行われていないが、現在においても市町村の財政力の低い県はおおむね援助率が高
36 鳫咲子(2013)『子どもの貧困と教育機会の不平等』前掲、52-53頁37 小林庸平「就学援助制度の一般財源化 地域別データを用いた影響分析」『経済のプリズム』38湯田伸一(2009)『知られざる就学援助 驚愕の市町村格差』学事出版39阿部彩(2014)『子どもの貧困Ⅱ』前掲、藤本典裕(2009)『学校から見える子どもの貧困』前掲、他多数40 資料未入手
16
い傾向がみられる。41しかし、大阪府および東京都では、財政力が高く、かつ就学援助率
も高い。このことに関連して、自治体ごとに就学援助率が異なる要因の一つとして制度周
知の差が指摘されている。42
「事務取扱要綱・手引きがない」「制度広報をしない」「制度案内書を配布しない」と
いうように制度周知に消極的な回答をした市町村を人口規模別にみると、規模が小さい市
町村が多い。逆に人口規模が大きい市町村や特別区では「制度案内書を全数配布する」
「所得基準額を明示する」等、住民に周知して制度活用を促す運用が積極的に行われてい
る。(図表 5)すなわち、大都市では就学援助の運用に積極的な自治体が多い。就学援助
の案内書を全員に配布したり、案内書で就学援助を受けられる所得基準を明記したりして
いるところが多い。人口規模の小さい自治体では積極的な運用は少なく、就学援助の事務
取扱手引きがなかったり、制度の広報を全くしなかったりというところがある。43つまり、
大阪府および東京都はいずれも大都市圏に所在し、制度周知が充実している人口規模の大
きい自治体を抱えているため、他の都道府県よりも就学援助率が高くなっている可能性
がある。
図表 5 人口規模と就学援助制度の運用実態44
41 鳫咲子(2013)『子どもの貧困と教育機会の不平等』前掲、55頁42 湯田伸一(2009)『知られざる就学援助 驚愕の市町村格差』前掲、102-109頁、鳫咲子(2013)「子どもの貧困とセーフティネット」前掲、110頁など43 鳫咲子(2013)「子どもの貧困とセーフティネット」前掲、110頁44 同上より引用
17
このように、2005 年の国庫補助制度廃止後、就学援助制度の運用のほとんどが自治体
に任され、財政余力の乏しい自治体における制度の縮小・自治体間の格差が顕在化してい
る。自治体の担当者も先に述べたような就学援助の財源に関する制度変更を必ずしも望ま
しいとは考えていない。湯田は 2007 年に自治体担当者が考える就学援助制度の「財源措
置の望ましい方法」について調査を行っている。45この調査によると、現行制度でよい、
制度変更は良かったと考えている担当者は全国で 6%にすぎない。ほとんどの自治体担当
者は、国庫負担が必要である、あるいは就学援助に振り向けられる財源の確保が必要であ
ると考えている。
図表 6 自治体担当者が考える就学援助制度の「財源措置の望ましい方法」46
全額国庫負担 32.6%財源担保制度が必要 27.6%従前の国庫補助制度が必要 27.2%従前の国庫補助制度を改善 6.2%現行制度 5.8%その他 2.3%
この様な現状に対して、鳫47は子どもの貧困に対応すべき就学援助制度の運用のほとん
どが市町村に任せられている現状は再考する必要があると述べている。湯田は「児童生
徒にかかる就学援助制度の公正な運用には、広く共通理解がもたれる運用規定整備を全国
レベルですすめていかなければならない」48、「さらにそのためには、「国の補助規定」
も再考し、財源も国庫負担とすることが望まれます」49と述べている。
②教育と福祉の関係性
生活保護法上の教育扶助と就学援助との関係性も問題視されている。どちらも子どもが
いる経済的に厳しい家庭にとって就学保障に役立っている制度であるが、この二つの制
度が連携して対応されているわけではない。この就学援助制度と生活保護制度間の非整合
性の問題について言及している研究者として、小椋や中嶋がいる。
生活保護は本来最後のセーフティーネットとして、他の制度・施策による扶助が尽きた
45 湯田伸一(2009)『知られざる就学援助 驚愕の市区町村格差』学事出版、130頁46 同上をもとに筆者作成47 鳫咲子(2013)「子どもの貧困とセーフティネット」前掲、111頁48 湯田伸一(2010)「第二部1 就学援助制度の市町村格差問題と課題」『子ども・学生の貧困と学ぶ権利の保障』平和文化、123頁49 同上
18
ところで機能することが予定された制度である。したがって義務教育費については、就
学援助が優先してまず実施されるはずである。しかし、おそらく就学援助が市区町村に
よる制度とされているために、要保護者については教育扶助の不足を就学援助が補足す
る形になっている。
「学校教育法第二十五条による市町村の就学援助と生活保護法による教育扶助との関係
について」(1996 年 12月 10 日)では、市町村の就学援助が生活保護制度に優先するこ
とが厚生省との間で確認されている。50しかしながら、市町村による就学援助制度の運
営・実施について、教育法令研究会によると「経済的に困難な家庭についてはまず教育扶
助が行われ、これに準ずる程度の家庭について就学援助が行われる場合が多いようであ
る」と説明されている。51このように、義務教育期の教育費援助を行うに当たり、就学援
助制度と生活保護制度との関係整理は上記のように両制度の非整合性を残したままとなっ
ている。
中嶋52は就学援助と教育扶助の成立史を整理した上で、現行制度は両者の競合関係の結
果生まれたものであり、経済的理由による就学困難な児童生徒に対する援助の全体像は検
討されていないと指摘している。小椋53は「就学援助制度で教育扶助受給の有無に関係な
く援助を行うように修正するのであれば、教育扶助の存続是非の議論が不可欠となる」、
「就学援助制度―生活保護制度間の調整によらず、たとえば児童手当の拡充によって就学
援助制度がこれに統合されるなど、生活保護制度以外の子どもへの経済的援助制度との調
整が図られるという選択肢もある」と述べている。両者に共通している指摘は、就学援
助を就学困難な児童生徒に対する経済的援助の全体像の中で捉えるべきであるとしている
点である。
第 2 項 先行研究の整理と筆者の問題意識
以上先行研究をみてきたが、筆者は就学援助を検討する際には 3 つの異なるレベルを
捉える必要があると感じた。まず 1 つ目が義務教育期の経済的援助策の全体的枠組みであ
る。これは教育と福祉の関係性について先行研究者らが述べていたことと類似している。
教育と福祉の関係性が見直され、就学援助が教育扶助に吸収されることも考えられるし、
またその逆もあり得る。また、いつしか義務教育が完全に無償化されれば、就学援助制度
自体が意味をなさなくなる。このように、義務教育期の経済的支援策の全体像の中から就
学援助を捉える議論が必要になってくる。2 つ目が就学援助制度に対する国の関与につい
てである。就学援助制度の実施主体は市町村となっているが、国がどこまで市町村の実施
50 小椋佑紀(2008)「就学援助制度研究における社会福祉分野の課題」『社会福祉学』49、22頁51 同上52 中嶋哲彦(2013)「第 4 章 子供の貧困削減の総合的施策―教育と福祉の分裂に着目して」『教育機会格差と教育行政』日本教育行政学会研究推進委員会、86-87頁53 小椋佑紀(2008)「就学援助制度研究における社会福祉分野の課題」前掲、22-23頁
19
に関与し、最低限度の保障を行っていく必要があるのか、という議論である。3 つ目が市
町村における制度実施レベルである。制度の実施主体は市町村であるから、市町村におい
て認定基準や支給費目、支給額などを適切に定め、住民に対して広報活動を行っていくこ
とが必要とされる。この 3 つのレベルのイメージ図が図表 6 であるため、参照していた
だきたい。
図表 6 就学援助制度検討の際の 3 つのレベル
就学援助制度の課題や先行研究で指摘されてきた事柄がこれら 3 つのいずれか 1 つに
明確に属するわけではない。就学援助制度の課題はこれら 3 つのレベルが複合的に合わ
さって生じているものであるといえるであろう。そのため、これら 3 つのレベルでひと
つひとつの課題を分析し、就学援助制度に関する課題の全体像を把握できることが望まし
い。しかしながら、筆者の力量と本論文で論じることのできる範囲には限りがあるため 、
1 つのレベルに限定して、今後の論を展開したい。筆者がこの 3 つのレベルの中で最も関
心をもつものは、2 つ目の「就学援助制度に対する国の関与」についてである。ここで、
1 つ目と 3 つ目のレベルにおける議論を切り捨てる理由を述べておきたい。まず 1 つ目
のレベルであるが、筆者は就学援助制度自体に関心を持っていること、また義務教育期の
経済的支援策の枠組みに全体を捉えた上で議論することは本論では困難であると感じた
め、除くこととした。(もう少し論理的に述べたい)そして 3 つ目のレベルであるが、
筆者は 2 つ目のレベル、つまり就学援助制度に対する国の関与が適切に行われれば、市町
村における制度実施の問題は最小限に抑えられるのではないかと考える。国の関与とし
ては、財政面から実施規定まで様々な方法が考えられるが、国として最低限度の保障をす
ることで、各市町村においても適切な援助が行われると考える。このような考えから、
本論文では就学援助制度に対する国の関与について論じていきたい。
20
義務教育期の経済的援助策
32
1
国⇒市町村⇒国民
義務教育無償化
教育扶助
就学援助
子ども手当
では、2 つ目のレベルにおける筆者の問題意識をここで述べたい。現在就学援助制度の
自治体間格差が広がっているが、子どもの貧困が深刻化している現状から考えれば、今
すぐにでも制度の整備・改正が行われるべきである。一部の市町村では、何かしらの努
力が行われ制度運用において改善に向かっているところもあるかもしれない。しかしな
がら、多くの地域で地域の実情を考慮しないまま援助縮小の動きがでてきている。この
ままでは、就学援助自体がさらに縮小され、最低限度の保障をも提供されない事態が危惧
される。このような現状を改善する為には市町村にすべてを委任するのではなく、国と
して制度を整備・改善していくことが必要であると考える。このように、筆者は、貧困
が拡大し制度の改善が叫ばれているにもかかわらず、国レベルでの制度の改善がみられ
ないことに問題意識を持つ。次章からは、なぜ制度の改善がみられないのか、という要
因について考えていきたい。
● 第 1 章 本研究の目的及び検証方法の提示 第 1 節 序章のまとめと筆者の主張
本研究の目的を提示する前に、これまで序章で述べてきたことに関して簡単なまとめ
を行い、論の流れを確認したい。
まず、序章第 1 節では、子どもの貧困の現状と家庭の教育費負担について述べた。貧
困が子どもと社会にとってどのような負の影響を与えるのかを第 1 項で述べた上で、子
どもの貧困が拡大し、身近な問題となっていることを第 2 項で確認した。第 3 項では、
このように貧困が拡大している中、教育が貧困の世代間連鎖を防ぐ有効な手段となるとみ
た上で、日本の教育費の実情について述べた。日本では教育費の家計負担が他国に比べて
重く、貧困家庭の負担となっている事、また世帯の年収によって児童生徒にかける学習費
が変動しており、保護者の経済状況が子どもの教育費に直接影響を与えている現状を確認
した。最後に第 4 項では、義務教育の無償性について述べ、現在の義務教育の無償の範囲
は「授業料無償説」がとられており、無償の範囲が限定されていることがわかった。
このように教育費の家計負担が重くなっている日本であるが、経済的理由によって就
学が困難な者に対して教育の機会を保障する制度として就学援助制度が存在する。序章の
第 2 節では、この就学援助制度について概観した。就学援助制度の根拠法令・内容・対象
を第 1 項で確認した上で、運用の現状を第 2 項において述べた。生活保護に比べて比較的
容易に申請ができ、多くの人に利用されている就学援助制度であるが、第 3 項での述べ
たように、2005 年度の国庫補助一般財源化により、就学援助制度実施主体である自治体
によって運用の格差が生じるようになった。第 3 節では、先行研究を通して就学援助制度
の課題を探ったうえで、筆者の考えを示した。先行研究では、就学援助制度の課題として
制度運営における自治体間格差や教育と福祉の関係性が指摘されていた。2 項では先行研
究で指摘されている問題を 3 つのレベルで捉えなおし、筆者の関心が「就学援助制度に
21
対する国の関与」にあることを述べた。最後に、貧困が拡大し制度の改善が叫ばれてい
るにもかかわらず、国レベルでの制度の改善がみられないという筆者の問題意識を示し
た。
ここまでが序章で述べてきたことである。では、筆者が問題視している「国レベルで
の制度の改善がみられないこと」の要因は何だろうか。その要因については、財源の確
保の難しさなど様々なものが考えられるが、筆者は研究を進めるにあたって一つの要因
に思い当った。それは、就学援助制度の実態についての調査が不十分であり、実態の把握
が出来ていないのではないか、ということである。このように考えるに至ったのは、筆
者が先行研究を読み込むにあたり、文部科学省の数年前の調査を引用している研究者が多
く、調査が頻繁に行われていないのではないかと感じたことがきっかけである。筆者が
調査体制を問題視する理由としては、調査の量が不十分であれば政策の策定を行うことは
難しく、行ったとしても抽象的な計画や努力目標しか定めることが出来ないのではない
かと考えるためである。逆にいえば、実態を把握し、具体的な目標が定められてはじめ
て、政策の実行・評価・分析が出来るのではないかと考える。そのため、国は就学援助制
度の実施体制を適切に把握し、その援助が適切であるかを評価・分析し、市町村への指導
を行っていくべきである。
それでは、なぜ制度改善が叫ばれているにもかかわらず、就学援助制度に関する国の
調査は十分になされていないのだろうか。その要因として筆者は「就学援助制度制定過程
において国と地方の役割が曖昧化したこと」がいえるのではないかと考えた。次節では
このような筆者の考えを改めて研究目的として提示し、その検証方法や流れを説明して
いきたい。
第 2 節 本研究の目的と検証方法の提示
前節を踏まえ、本研究の目的を改めて提示したい。本研究では「①貧困が拡大し、就学
援助制度に関する様々な問題点が指摘されながらも、国レベルでの制度改善が行われな
い要因の 1 つは就学援助制度の実態に関する調査が不十分であり、現状を十分に把握でき
ていないことであり、②就学援助制度に関する調査が不十分である要因は就学援助制度制
定過程において国と地方の役割が曖昧化したことであること」を示す。
まず、言葉の定義として「調査が不十分であり、現状を十分に把握できていない状態」
(または「調査が十分であり、現状を十分把握できている状態」)を「構想中」と定める。
また、「国と地方の役割が曖昧化した」とは本論文では「構想中」であることとする。
以下で検証の流れを説明していきたい。
まず第 2 章において実際に就学援助制度の実態に関する国の調査と認識が不十分である
ことを証明する。そのために、第 1 節では、就学援助制度の実態に関する調査としてど
のようなものが行われてきたのかを確認し、調査体制が十分でないことを確認する。第 2節では、国の予算と国会における答弁を見ることで、就学援助制度の実態について国が十
22
分に認識していない現状を示す。(構想途中)
第 3 章では、就学援助制度制定過程をたどっていき、国と地方の役割が曖昧化したこと
を確認する。(構想途中)
第 4 章では、イギリスにおいては、綿密な調査に基づく政策策定が行われていること
を確認する。(構想途中)
● 第 2 章 就学援助制度の実態に対する国の把握体制(構想途中) 本章では、実際に就学援助制度の実態に関する国の調査と認識が不十分であるというこ
とを検証していく。まず、第 1 節では、就学援助制度の実態に関する調査としてどのよ
うなものが行われてきたのかを確認し、調査体制が十分でないことを確認する。第 2 節
では、国の予算と国会における答弁を見ることで、就学援助制度の実態について国が十分
に認識していない現状を示す。
第 1 節 就学援助制度の実態に関する国の調査と公表状況
就学援助に関する調査はどのように行われきたのだろうか。残念ながら、文部科学省
は調査の結果を積極的に公表しておらず、得られる資料は非常に少ない。調査を行ってい
るのかどうかわからない年も多い。そのため本節では、文部科学省が一般に公表してい
る限りの資料と、先行研究で利用されている就学援助制度に関する国の調査の履歴をみて
いきたい。その上で、前章で示した調査が十分に行われていない基準「構想中」に照ら
し合わせ、今日まで十分な調査が行われていないことを示す。
・1962 年の調査
1961 年就学奨励法が制定されたことに伴い、就学援助を要する児童生徒数の調査を行っ
ている。この調査では、児童生徒の約一割は就学奨励のための援助が必要であるとの報告
を行っている。54
・1964 年の調査
旧文部省は、「昭和 39 年度就学援助に関する調査報告書」を出している。この調査に
おいて、財政力の低い市町村ほど就学援助受給者が多く、就学援助を行う必要に迫られな
がら十分な援助が実施されにくいことが認識されていた。当時は全校 50 人未満の小規模
校で就学援助率が高く、都道府県別では北海道と鹿児島が高く、この 2道県で全体の 3 分
54 初等中等教育局「就学援助を要する児童・生徒数―約一割は援助が必要―」教育委員会月報第 6 号、157頁
23
の 1 をしめていたという。この旧文部省の調査では、市町村ごとの就学援助率を分析し
ているが、これ以降就学援助に関する詳しい分析は行われていない。55
・2004 年度の調査
文科省が行った 2004 年度の就学援助の調査結果を 2006 年 1月に朝日新聞が「就学援
助4年で4割増」と報道した。56内容は、要保護と準要保護を合わせた就学援助受給者が
2004 年度に全国で約 1337000 人となり、2000 年度より 5 年間で約 37%も増え、就学
援助率の全国平均は 12.8%になったというものであった。
・2006 年の調査
文科省は 2006 年 6月、市区町村教育委員会を対象とした「就学援助受給者数の変化の
要因などに関するアンケート調査」の結果を公表した。この調査では、市区町村の教育委
員会に対して行われたもので、就学援助を受給者数が大幅に増加した要因や認定基準の変
化などについて調査・分析を行っている。この調査結果についても一般には公開されて
いない。この調査について藤澤が言及している。57「2006 年調査については、発表され
た資料が A4サイズで 3枚と、分析するには少量すぎ、現状を明らかにするという目的か
らしても不十分なものであるといわざるをえない。」藤澤は文部科学省に電話をし 、
2006 年調査の報告書が出版される予定もないことを確認している。
・2014 年の調査
2014 年には 2 つの調査が行われている。2014 年 2月には、「平成 24 年度要保護及
び準要保護児童生徒数について」58という調査がなされ、調査結果が公表された。この調
査によって、平成 7 年度から 24 年度にかけての要保護児童生徒数と準要保護児童生徒数、
また都道府県別の就学援助率も公表された。
2014 年 6月には、「生活扶助基準の見直しに伴う就学援助制度への影響等について」
という調査結果が報告された。この調査は生活扶助基準の見直しに伴う各自治体における
準要保護に係る認定基準の運用などについて把握する事を目的として実施されたもので
ある。具体的には、平成 26 年度の準要保護に係る認定基準の設定状況などについて各都
道府県教育委員会を通じ、市町村教育委員会など(1768 教育委員会等)に対して調査を
実施している。
以上のような調査が今まで行われてきた。(「調査が不十分である」という基準を定
めていないため、以下からは構想途中)ここで筆者が指摘したいことは調査の内容が不
十分であり、また公表されている事実が少ないということである。1964 年に制度の細か
い分析が行われて以来、40 年近く制度の実施体制について明らかになっていない。この
55 鳫咲子(2013)『子どもの貧困と教育機会の不平等』前掲、54-55頁56 『朝日新聞』2006 年 1月 3 日付朝刊「学用品や給食費の就学援助、4 年で 4 割増 東京・大阪、4 人に 1 人」57 藤澤宏樹「就学援助制度の再検討(1)」204頁58 文部科学省「平成 24 年度要保護及び準要保護児童生徒数について」前掲
24
間、文部科学省における調査は行われているかもしれないが、筆者の調査した限りでは
この間の調査に関する情報は得られなかった。(まだ調査不足であり引き続き調査する
必要有)また 1964 年から 40 年近くたって 2004 年、2006 年の調査の内容が明らかに
なっているが、どちらも現状を明らかにするために十分な情報が含まれているものとは
いいがたい。2014 年には 2 つの調査が公表されたが、「平成 24 年度要保護及び準要保
護児童生徒数について」では、文字通り要保護・準要保護の児童生徒数と都道府県別の援
助率が示されたのみで、各市町村の取り組みや財政状況等細かい調査は行われていない。
「生活扶助基準の見直しに伴う就学援助制度への影響等について」では、生活扶助基準の
見直しに伴って、準要保護に係る認定基準の変化などを調査・公表したことについては評
価できる。しかしながら、この調査は題名の通り「生活扶助基準の見直しに伴う就学援助
制度への影響等」を調査したのみで、各市町村の取り組みなどを具体的に調査したもので
はなかった。
また、文部科学省のホームページにおける就学援助に関する記載も非常に簡素である 。59ここでは、就学援助制度の概要・援助の対象者・国の補助・補助対象品目(要保護者に
対するもののみ)について数行記載されているのみである。また、文部科学省によって
毎年発行されている、教育・文化・科学技術などにおける状況をまとめ基本理念や施策を
まとめる文部科学白書というものがあるが、筆者が調べた限りではこの中で就学援助制
度がとりあげられたことは、2009 年のたった 1回である。60しかもその記事は 1ページ
に満たないほどの量であった。
就学援助制度の目的に対して十分な運用が各自治体で行われているかを検証する為には、
まず文部科学省が市町村の運用実態に関するデータについて適切な調査を行ったうえで、
ホームページ・白書などで広く国民に情報提供することがその第一歩となるのではない
か。
第 2 節 国の就学援助制度に対する実態把握不足の指摘
第 1 項 国の予算から見る現状認識不足の指摘
文部科学省は、準要保護者への国庫補助が廃止される直前の 2004 年度は、要保護者・
準要保護者合わせて 4.8%としていた。しかしながら、この年の就学援助率は 12.77%で
あり、予算上の 2.6倍の認定があったことになる。この低い予算上の援助率で予算が編成
されていたため、市区町村に対しての 2 分の 1 を国庫補助するとしながら、実際の 2004年度における補助率は 20.11%となっている。61
現在は準要保護に対する国庫補助がないため、補助率としては比較できないが、国庫補
助金を含む地方財政措置額は 2003 年度以降に大きな変化はない。これでは、就学援助が
59 文部科学省「就学援助制度について」(2014 年 9月 9 日取得)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/017.htm60 文部科学省(2009)『文部科学白書』佐伯印刷、9頁61 藤本典裕(2009)『学校から見える子どもの貧困』前掲、108頁
25
急増しているという現状認識が不足しているといわざるをえない。
第 2 項 国会の答弁における国の現状認識不足の指摘
さらに、文部科学省が援助の実態を把握できていないことを国会における答弁からも
確認したい。622005 年度から国からの補助は要保護者に対する就学援助に限定されたた
め、準用保護者に対する援助は自治体によってかなりの格差が生じるようになった。こ
のことに対して、宮本岳志議員は 2010 年 2月 18 日の衆議院予算会議において「保護者
の負担を救う命綱ともいうべきものが就学援助であります。ところが、その命綱も切ら
れようとしている現状があるということを、残念ながらお示しせざるを得ません」とし、
大阪府・山口県・東京都・兵庫県において受給率がこの数年で下がってきている現状を示
した。これらの都県では、就学援助の支給抑制が行われ、自治体による審査基準を厳しく
し、対象者を減らしているという現状がある。63宮本議員はこうした事実を示しながら、
「文部科学省、こういう現状をつかんでおられますか」と迫った。これに対して川端文
部科学大臣は「委員御指摘の状況に 4 つがあることは承知しております」と、事実を認め
ながら「背景は正確にはまだ把握しきれていないのが現状でございます。必ずしも基準
や単価を下げたからということではない面もあるのかなというのが、今のところの現状
です」と答弁した。宮本議員は続けて「経済危機の中で、この就学援助など就学を保障す
る命綱が切られようとしている、こういう実態については問題だと私は思うのですが、
文科大臣の認識をお伺いしたいと思います。」と詰め寄った。しかし、川端文部科学大臣
は「準要保護者の認定基準は市町村に任されております。先ほど申し上げました学校教育
法十九条の規定も含めて、主体は市町村でありますので、基本的には市町村で出来るだけ
実態に合わせてしっかりやっていただきたいというのが私たちの立場であります。」と
述べた。
この答弁から筆者が考えることは、国は責任を市町村に転嫁しているということであ
る。確かに援助の主体は市町村であり、基準の設定から運用まで市町村に任されている。
しかしながら、教育を受ける権利を保障する制度として、最低限の保障は国で行わなけ
ればならない。そのために、就学援助制度の実態の把握は国で適切に行うべきであると
考える。
以上、第 1 節において就学援助制度に関する国の調査が十分に行われていないこと、第
2 節において就学援助制度の現状について十分に国が認識していないことが確認された。
62 平野厚哉(2010)「制度の今日的問題点と改善方向―党の国会論戦から(就学援助制度の拡充を)」『議会と自治体』(149)、60-67頁63 たとえば準用保護者の認定基準は、大阪市の場合 2005 年度では収入目安が 4 人世帯で328万円以下とされていたが、2009 年度には 309万円以下へと 19万円も認定基準が引き下げられた。
26
● 第 3 章 就学援助制度の成立過程(構想途中) 本章では、就学援助制度の成立過程を探ることで、そのなかで国と地方の役割が曖昧に
なり、それが調査の不十分さにつながっていったことを証明していく。(国と地方の役
割が曖昧になったとする定義が定められていないため、夏課題では就学援助制度の成立
過程のみ記述させていただく。)
◆就学援助制度前史
明治期義務教育制度成立後、学校に行かない児童生徒への就学奨励が行われていた。これ
を「就学督励」といい、学校教育を不要とみなして児童を登校させない保護者を説得した
り、学校へ行こうとしない児童生徒を登校させるという内容のものだった。経済的理由
で義務教育を受けることが困難な児童への援助が意識され始めたのは大正中期に入って
からのことである。1919 年、ILO により、日本における幼年労働者の最低年齢問題が指
摘され、社会問題として明確に認識されるようになった。その後、内務省(現厚労省)と
文部省(現文科省)との二系列の援助制度が設けられることになる。内務省では 1932 年
から救護法が施行された。救護法では、救済の対象となる 13歳以下の幼者について、生
活扶助の中で、学用品等の義務教育費を扶助するという方法がとられた。文部省では
1928 年の学齢児童就学奨励規程がある。この規程は、学齢児童の就学を奨励し、国民教
育の普及徹底を図ることは国家にとって喫緊の課題であるとする立場から、貧困によっ
て就学困難な学齢児童の就学を奨励する為、教科書、学用品、被服、食料その他生活費の
一部または全部を給付するというものである。学齢児童就学奨励規程は 1947 年の旧生活
保護法の制定に伴い、生活保護費に吸収される形で廃止された。この後しばらくは、現在
の就学援助制度に該当するものは存在せず、空白期となった。
◆義務教育就学奨励法案
1951 年、文部省は「義務教育就学奨励法」案を立案した。これは生活保護法の教育扶助
を分離し、「就学奨励費」として一元化することを図ったものであった。その理由は、
①義務教育費の不徴収にとどまらず、国民の義務教育に対する権利を積極的に保障する施
策に進むべきであること、②また経済的理由による不就学者、長期欠席者、更にその他社
会的、教育的理由により就学困難な者を就学させるためには、経済的保護とともに教育的
見地からの総合的施策が必要であること、であった。文部省は不就学、長期欠席は「家庭
の教育的無関心」が大きな要因となっているとみて、家庭に対する扶助において教育費
を生活費から独立させることを意図したのである。同法案は、要保護児童生徒の就学に必
要な経費について、生活保護法の教育扶助の規定にならって、国 8 割、市町村 2 割の負担
区分により補助を行うというものであり、これにより、いわゆるボーダーライン層にあ
る者を含めて、生活保護法の教育扶助の受給者の 2倍ほどがその対象になると算定されて
27
いた。しかし、教育扶助日の移管問題で厚生省の同意が得られず法案は廃止になったため
教科書の無償給与に関する部分についてのみ「昭和 26 年度に入学する児童に対する教科
用図書の給与に関する法律」(1951 年法)として実施されることとなった。
◆教科書給与法としての就学奨励法
「昭和 26 年度に入学する児童に対する教科用図書の給与に関する法律」(1951 年法)
は、義務教育無償の拡大と公共心の滋養を目的とし、国は、市町村が、昭和 26 年度に市
町村立の小学校に入学する児童に対して、国語および算数の教科書用図書を給与するとき
には、予算の範囲において、その給与に要する経費の二分の一を補助することにすると
いうものである。国は教科書の無償給与を奨励するというものであり、実施の主体は市
町村であった。
翌年、「新たに入学する児童に対する教科用図書の給与に関する法律」(「 1952 年
法」)が恒久立法として成立した。この法律は、今後毎年、小学校、盲学校及び養護学校
に入学する 1 年生の児童に対して、児童の国民的自覚に資するとともに、その前途を祝福
するという見地から、全額国庫負担により、国語と算数の教科書を給与するというもの
であった。
1952 年法は、2 年実施されただけで、財政上の理由から 54 年、55 年度には実施が停
止されてしまった。そこで 1956 年、これまで全ての児童に給与することが前提とされ
ていた教科書給与政策が転換された。
「就学困難児童のための教科用図書の給与に対する国の補助に関する法理」(「 1956年法」)は、「義務教育の円滑な実施に資することを目的」とし、要保護児童生徒および
準用保護児童生徒に教科書の無償給与を行う為、地方公共団体に対して国が予算の範囲内
で、政令に定める補助基準に従って必要な援助を行うというものであり、国の財政補助に
よって市町村の就学援助を促進させることを図ったものであった。つまり、それまでは
全児童への教科書給与の実現をめざし、一時期であるにせよ実現した文部省は、まずは困
窮している世帯の児童への給与から始めるという方針に転換したのである。
1957 年、教科書給与の範囲が中学校にまで広げられ、それに合わせて法律名が「州が
困難な児童及び生徒のための教科用図書の級に対する国の補助に関する法律」(「1957年法」)と改められた。
1957 年法までの諸法が、教科書配布の範囲をどのように設定するかという性格を有し
ていたのに対して、1959 年の改正は、その性格を変えるものであった。1959 年の改正
により、小学校 6 年の児童又は中学校 3 年の生徒に係る修学旅行費への援助が加えられた。
それまでは「教育扶助においては修学旅行にかかる費用を、社会通念としてまた法律の
精神からも、学習に直接必要な経費として認めがたい」と考えられていたが、これは
1958 年に学習指導要領が改訂され、修学旅行が教育課程の一領域として「学校行事等」
の 1 つとして明確に位置づけられたため、これに対応したものと考えられる。この改正
28
で、修学旅行費の給与の対象者が、教育扶助受給者にまで広げられた。
1961 年、準要保護児童に学用品および通学費を支給することになり、法律名も「州が
困難な児童及び生徒に係る就学奨励についての国の援助に関する法律」(就学奨励法)と
改められた。これは、学用品は児童生徒が学習を行う為に不可欠なものであり、その購入
に要する経費は困窮家庭にとって相当の負担となること、また、遠距離通学する児童生徒
の交通費も困窮家庭にとっては重荷になっているということで、このような困窮家庭の
児童生徒に対しても国の援助が拡大されたのである。また、最高学年以外の児童生徒の修
学旅行に要する経費についても補助の対象とされた。国の補助率は二分の一となった。
制定当初の就学奨励法は、準要保護児童、要保護児童に教科書が支給されることになっ
ていた。1962 年には「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」が制定されて、
全児童生徒への教科書無償化が実現することになった。経過措置を経て、1967 年、教科
書無償化が完全実現された。
● 第 4 章 イギリスにおける子どもの貧困と対策(構想途中) 本章では、比較対象国としてのイギリスの子どもの貧困とそれに対する取り組みを見
ることで、日本への示唆を提示したい。
第 1 節 イギリスの選定理由
イギリスでは日本と同様、子どもの貧困が深刻な状況にある。しかし、イギリスでは
その状況を真正面から受け止め、次々と対策を打ち出し、実行してきた。1997 年に政権
をとった労働党のトニー・ブレア首相は、1999 年に次のような演説を行った。「私たち
の歴史的な目標は、子どもの貧困を終わらせる最初の世代となることです。それは 20 年
のミッションとなりますが、必ず実現できると信じています。」64そして、具体的な目標
設定をした。子どもの貧困を 2004 年までに 4 分の 1削減する、2010 年までに半減させ
る、2020 年までに根絶する、と。この目標達成のため、イギリスでは様々な再作を実行
に移し、効果を上げてきた。IPPR というシンクタンクによれば、1997 年に 340万人で
あった貧困状態にある子どもの数は、2007 年には 290万人まで減少している。設定し
た目標には届いていないが、かなり評価できる結果であるといえよう。OECD の報告に
よると、1990 年代半ばから 2005 年ころまでの間、各国の子どもの貧困率が上昇する中
で、イギリスは子どもの貧困率を 3.6%減らしている。そのため、貧困対策が喫緊の課題
となっている日本にとって、イギリスの貧困に対する取り組みと動向をみていくことは
有意義な事であると考え、比較対象国としてイギリスを選択した。
第 2 節 イギリスにおける教育費の概要
64日本弁護士連合会(2011)『日弁連 子どもの貧困レポート―弁護士が歩いて書いた報告書』前掲、159頁
29
教育の制度体系が異なるため、単純な比較はできないが、イギリスに比べると日本は
親の教育費負担が格段に大きい。基本的にイギリスの公営学校における授業料は無償であ
る(5~16歳まで義務教育)。テキスト、副教材についても、学校での学習に使用するも
のとして共同使用されており、その意味で無償である。しかし、近年では個人使用で消
耗性の激しいもの(ノート、書き込み用ドリルなど)は私費負担となっている場合が多
い。今日では給食費は有償だが、給食はオプションであり、弁当などを持参することも
できる。65
イギリスでは、周産期から社会に出るまでの継続した貧困に対する支援プログラムが
ある。たとえば、子どもがいる世帯への経済的支援であるタックスクレジットという制
度がある。労働党政権は、子どもがいる世帯への経済的支援を充実させてきた。中でも注
目されるのはタックスクレジットというシステムである。タックスクレジットとは、課
税対象所得の控除ではなく、税額自体を控除するもので、低所得世帯には給付がなされる。
そのため、負の所得税とも言われている。そのうち、ワーキング・タックスクレジット
は、低所得の就労世帯を対象としている。働くことで得をするように設計されており、
就労への動機づけも図られている。税と社会保障による所得再分配前に比べて所得再分配
後の子どもの貧困率が上昇するという異常な逆転現象が生じている日本において、再分配
の在り方の一つの方法として参考になる。
この様な制度が多々存在するイギリスであるが、筆者がイギリスの取り組みにおいて
もっとも評価したい点が、貧困に対する徹底した調査・分析が行われている点である。
また、イギリスでは多くの民間団体が存在し、大学などの研究機関とともに、福祉政策の
策定や実施、評価に広く関わっている。民間の研究機関が調査に基づく新たな研究を発表
した際には、テレビ・新聞などのメディアに取り上げられ、直ちに議会で野党が政府の
見解や方針を問いただすことになる。
イギリスでは、政策が証拠に基づいた議論によって策定され、その有効性がその都度
検証され、修正されている。2010 年 3月には「児童貧困法」が成立している。同法は、
児童貧困の根絶がいかなる場合に成功したといえるのかを定義づけ、期限目標を設定し
て、それについての国家と地方レベルの責任と取り組みを法律で明確化している。それ
を可能にしているのが、これまで築きあげられてきた調査の手法と充実したデータの集
積であるといえるのではないか。
● 夏課題の反省と今後の方向性 ここまで私の拙い論文に目を通していただき、ありがとうございました。以下、夏課題
の反省と今後の方向性について述べさせていただきます。
65日本教育行政学会研究推進委員会編(2013)『教育機会格差と教育行政―転換期の教育保障を展望する』前掲、139頁
30
◆反省点及び迷っている点
・先行研究から仮説への流れが唐突であると感じている。
・仮説検証における言葉の定義が不十分。何をもって「調査が不十分である」「国と地方
の役割が曖昧化した」と述べるか、という大事なところがまだ定められていないため、
ここをしっかりと定義した上でさらに検証をすすめたい。また、就学援助制度の制定史
については何人か先行研究者が述べているため、どのように検証にオリジナリティをだ
していくかを考えなければならない。
・就学援助制度をメインにして扱っているため、海外比較をどのようにして取り入れる
かを迷っている。
◆今後の方向性
・「子どもの貧困」がタイムリーな話題であるからこそ、論文の方向性を定めることが
難しいと感じている。「子どもの貧困対策の推進に関する法律」66が 2013 年 6月 26 日
に定められている。法律制定の時点では、政府が対処しなければならない事を明記して
いるのみで、その具体的内容はこれから定められる大綱に委ねられることとなっていた。
しかし、2014 年 8月 29 日に「子どもの貧困対策に関する大綱」67が示された。この大
綱では、貧困と援助に関する国の調査が不十分であることを認識したうえで、今後の調査
の取り組み姿勢について示している。8月 29 日には論文の方向性がある程度決まってい
たため大きく方向性を変えることはしなかったが、今後の国が具体的な対応・施策に
移っていくに当たって方向性を変えなければならないかもしれない。以下に「子どもの
貧困対策に関する大綱」において国の調査・研究について言及されている箇所を抜粋する。
(下線は筆者)
第 2 子どもの貧困対策に関する基本的な方針
3 子どもの貧困の実態を踏まえて対策を推進する。
子どもの養育について、家族・家庭の役割と責任を過度に重く見る考え方などの影響
により、子どもの貧困の実態は見えにくく、捉えづらいといわれている。子どもの貧
困対策に取り組むに当たっては、子どもの貧困の実態を適切に把握した上で、そうし
た実態を踏まえて施策を推進していく必要がある。
我が国における従来の調査研究の取組状況を見た場合、子どもの貧困の実態が明らか
になっているとはいい難い点が認められる。このため、実態把握のための調査研究に
取り組み、その成果を対策に生かしていくよう努める。
66 内閣府「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(2014 年 9月 2 日所得)http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/pdf/hinkon_law.pdf67 内閣府「子どもの貧困対策に関する大綱」(2014 年 9月 9 日取得)http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/pdf/taikou.pdf
31
4 子どもの貧困に関する指標を設定し、その改善に向けて取り組む。
子どもの貧困対策を進めるに当たっては、本大綱において子どもの貧困に関する指
標を設定して、その改善に向けて取り組むこととしている(下記第3及び第4参照)。
指標の動向を確認し、これに基づいて施策の実施状況や対策の効果等を検証・評価す
るとともに、必要に応じて対策等の見直しや改善に努める。
第 4 指標の改善に向けた当面の重点施策
(3)就学支援の充実
(義務教育段階の就学支援の充実)
義務教育に関しては、学校教育法第 19条の規定に基づき、市町村が就学援助を実施
している。就学援助については、国庫補助事業の実施や、市町村が行う就学援助の取組
の参考となるよう、国として就学援助の実施状況等を定期的に調査し、公表するととも
に、「就学援助ポータルサイト(仮称)」を整備するなど、就学援助の適切な運用、き
め細かな広報等の取組を促し、各市町村における就学援助の活用・充実を図る。
さらに、義務教育段階における子どもの貧困対策として、引き続き必要な経済的支援を
行うとともに、研修会の実施による子どもの貧困問題に関する教職員の理解増進、家庭
における学習支援等の推進及び支援を必要とする者と制度とをつなぐスクールソー
シャルワーカーの配置等の教育相談体制の充実を図る。
第 5 子どもの貧困に関する調査研究等
これまで我が国においては、子どもの貧困に関する調査研究が必ずしも十分に行わ
れてきたとはいえない状況にある。上記第2の基本的な方針を踏まえ、今後の対策推進
に資するよう、以下に掲げるような子どもの貧困に関する調査研究等に取り組むこと
とする。
1 子どもの貧困の実態等を把握・分析するための調査研究
子どもたちが置かれる貧困の実態や、そのような子どもたちが実際に受けている各
種の支援の実態を適切に把握し、分析するための調査研究を継続的に実施する。
また、今後、子どもの貧困対策として様々な施策が実施されることになるが、それ
らの施策の実施状況や対策の効果等の検証・評価に資するよう、子どもの貧困対策の効
果等に関する調査研究の実施について検討する。
2子どもの貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究
子どもの貧困に関する指標については上記第3に掲げているところであるが、子ど
もの貧困対策を今後さらに適切に推進していくため、必要となる新たな指標の開発に向
32
けた調査研究の実施について検討する。
3 子どもの貧困対策に関する情報の収集・蓄積、提供
国や地方公共団体における子どもの貧困対策の企画・立案、実施に資するよう、子ど
もの貧困の実態や国内外の調査研究の成果等子どもの貧困対策に関する情報の収集・蓄
積を行う。
また、地方公共団体が地域における子どもの貧困の実態、地域の実情を踏まえた対策
を企画・立案、実施できるよう、全国的な子どもの貧困の実態や特色ある先進施策の事
例など必要な情報提供に努める。
第 6 施策の推進体制等
1 国における推進体制
本大綱に基づく施策を総合的に推進するため、子どもの貧困対策会議を中心に、内閣
総理大臣のリーダーシップの下、関係府省が連携・協力しつつ、施策相互の適切な調整
を図り、政府が一体となって子どもの貧困対策に取り組む。その際、子どもに関連する
全ての政策分野、特に、児童虐待対策分野、青少年育成支援分野等との緊密な連携に留
意する。
さらに、子どもの貧困対策会議が、施策の総合推進機能を十分に発揮できるよう、同
会議の事務局である内閣府の担当部署を中心に、必要な推進体制の構築とその効果的な
運用に努める。
これらがいわゆる「理念法」で終わらず、実効性のある政策を伴うのか、問うことに
関して注目していかなければならない。日本の財政事情が厳しい中、どのような子ども
の貧困対策法が制定されるだろうか。今後特に①貧困対策に向けて具体的な目標となる指
標が定められ、それに向けて調査・分析・評価が行われるのか②第 6 でいわれるように、
各省庁が連携・協力して施策を適切に実施していけるのか、に着目したい。
● 参考文献一覧 【書籍】
・OECD編著、児島克久・金子能宏訳「格差は拡大しているか OECD加盟国における所
得分布と貧困」明石書店
・青木紀・杉村宏編著(2007)『日本・アメリカの現実と反貧困戦略』、明石書店
・浅井春夫(2010)『脱「子どもの貧困」への処方箋』、新日本出版社
・阿部彩(2014)『子どもの貧困.Ⅱ.解決策を考える』、岩波書店
・岩重佳治他(2011)『イギリスに学ぶ子どもの貧困解決:日本の「子どもの貧困対策
法」にむけて』、かもがわ出版
33
・小川正人(2010)『教育改革のゆくえ:国から地方へ』、ちくま新書
・鳫咲子(2013)『子どもの貧困と教育機会の不平等:就学援助・学校給食・母子家庭
をめぐって』、明石書店
・子どもの貧困白書編集委員会(2009)『子どもの貧困白書』、明石書店
・斉藤由里恵(2010)『自治体間格差の経済分析』、関西学院大学出版会
・就学援助制度を考える会(2009)『就学援助制度がよくわかる本』、学事出版
・杉村宏(2007)『格差・貧困と生活保護:「最後のセーフティネット」の再生に向け
て』、明石書店
・日本教育行政学会研究推進委員会編(2013)『教育機会格差と教育行政―転換期の教
育保障を展望する』、福村出版
・日本財政学会編(2011)『グリーン・ニューディールと財政政策』、有斐閣
・日本社会保障法学会(2012)『ナショナルミニマムの再構築』、法律文化社
・日本弁護士連合会(2011)『日弁連 子どもの貧困レポート―弁護士が歩いて書いた
報告書』赤石書店
・貧困研究会編集委員会(2013)『貧困研究 Vol.11』、明石書店
・藤本典裕(2009)『学校から見える子どもの貧困』、大月書店
・星野菜穂子(2013)『地方交付税の財源保障』、ミネルヴァ書房
・三上和夫(2005)『教育の経済 成り立ちと課題』、春風社
・宮下与兵衛編、白鳥勲ほか執筆(2010)『子ども・学生の貧困と学ぶ権利の保障:貧
困の実態と教育現場のとりくみ』、平和文化
・湯田真一(2009)『知られざる就学援助:驚愕の市区町村格差』、学事出版
・横山純一(2012)『地方自治体と高齢者福祉・教育福祉の政策課題』、同文舘出版
・世取山洋介、福祉国家構想研究会編(2012)『公教育の無償制を実現する:教育財政
法の再構築』、大月書店
【雑誌論文】
・阿部 彩(2012)「「豊かさ」と「貧しさ」 : 相対的貧困と子ども」発達心理学研究
23(4)、362-374頁・逸井 岳周(2013)「子どもの学びの保証=就学援助のさらなる拡充を(子どもの育ち
を支える)」議会と自治会(178)、80-86頁・大橋 徹之(2011)「就学援助制度の意義と市町村の役割―今求められる就学援助制度
の在り方とは」マッセOsaka 研究紀要(14)、123-139頁・小椋 佑紀(2008)「就学援助制度研究における社会福祉学分野の課題」社会福祉学
49(3)、17-28頁・小椋佑紀(2010)「就学援助制度の実施体制」『東洋大学社会福祉研究』(3)、59-64頁
34
・小椋 佑紀(2010)「就学援助制度の実施体制:子どもの権利保障の視点から」、博士
論文
・小椋 佑紀(2011)「子育て家庭の貧困と子ども施策―就学援助制度から考える」子ど
もの権利研究(19)、101‐104頁・小椋佑紀(2010)「就学援助制度の実施体制:子どもの権利保障の視点から」博士論
文
・鳫咲子(2009)「子どもの貧困と就学援助制度-国庫補助制度廃止で顕在化した自治
体間格差」経済のプリズム 65、28‐49頁・鳫咲子(2012)「子どもの貧困とセーフティーネット―就学援助制度を中心として
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