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Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本における商慣行を考慮したモデル分析 Sub Title Author 松尾, 武将(Matsuo, Takemasa) 渡邊, 直樹(Watanabe, Naoki) Publisher 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 Publication year 2018 Jtitle JaLC DOI Abstract Notes 修士学位論文. 2018年度経営学 第3477号 Genre Thesis or Dissertation URL https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40003001-0000201 8-3477 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)に掲載されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作者、学会または出版社/発行者に帰属し、その権利は著作権法によって 保護されています。引用にあたっては、著作権法を遵守してご利用ください。 The copyrights of content available on the KeiO Associated Repository of Academic resources (KOARA) belong to the respective authors, academic societies, or publishers/issuers, and these rights are protected by the Japanese Copyright Act. When quoting the content, please follow the Japanese copyright act. Powered by TCPDF (www.tcpdf.org)

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Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 :日本における商慣行を考慮したモデル分析

Sub TitleAuthor 松尾, 武将(Matsuo, Takemasa)

渡邊, 直樹(Watanabe, Naoki)Publisher 慶應義塾大学大学院経営管理研究科

Publication year 2018Jtitle

JaLC DOIAbstract

Notes 修士学位論文. 2018年度経営学 第3477号Genre Thesis or DissertationURL https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40003001-0000201

8-3477

慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)に掲載されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作者、学会または出版社/発行者に帰属し、その権利は著作権法によって保護されています。引用にあたっては、著作権法を遵守してご利用ください。

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慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程

学位論文 ( 2018 年度)

論文題名

アパレルメーカーのEⅭ市場参入とオムニチャネル戦略

―日本における商慣行を考慮したモデル分析―

指導教員 渡邊 直樹 准教授

副指導教員 坂爪 裕 教授

副指導教員 坂下 玄哲 准教授

副指導教員

氏 名 松尾 武将

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論 文 要 旨

所属ゼミ 渡邊ゼミ 氏名 松尾 武将

(論文題名

アパレルメーカーのEⅭ市場参入とオムニチャネル戦略-日本における商慣行を考慮

したモデル分析-

(内容の要旨)

本研究では、アパレルメーカーと小売企業による実際の商取引を反映させたモデル

を作成し、様々な条件におけるメーカー・小売・消費者の利潤を比較することで、ア

パレルメーカーにおける E コマース(以後、EC と略記)参入またはオムニチャネル化が

有効である条件を検討した。

オムニチャネル化とは、単純に EC のチャネルを増やすマルチチャネルと異なり、既

存の実店舗と EC のサービスを連携し、その他ダイレクトメールや SNS を活用すること

で、消費者にとっての利便性を高め、固定客そして売上を増やすメーカーまたは小売

業者の取り組みである。

分析の結果、どのアパレルメーカーも EC を行っていない場合、アパレルメーカーは

EC 市場に参入することで利潤を増やすことができる。他のアパレルメーカー1 社が既

に EC 店舗を運営している場合は、アパレルメーカーは EC 市場に参入しない方が良い

が、販売は行わない電子上でのカタログサービスを行うことで実店舗の売り上げに貢

献し、利潤を増やすことができる。また他のアパレルメーカー2 社が EC 店舗を運営し

ている場合は、アパレルメーカーは実店舗から自社の EC 店舗に誘導するオムニチャネ

ルを構築することで、利潤を上げることができる。

近年多くのアパレルメーカーは、様々な環境変化により、売り上げを落としてい

る。その環境変化のなかで、アパレルメーカーにおいて特に重要な検討課題を突きつ

けたのは EC の出現である。アパレルメーカーは実店舗とのカニバリゼーションを懸念

し、EC 市場進出に消極的であったのに対して、EC 専門の新たな業者が出現し、アパレ

ルメーカーは売上を奪われる形となった。しかし、本研究の分析の結果から、アパレ

ルメーカーにとって EC 市場参入そしてオムニチャネル化は自社の利潤を上げる有効な

戦略であることが判った。

Page 4: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

1

目次

1. 序論(pp.3-6)

1-1 目的

1-2 先行研究

1-3 分析結果

1-4 本稿の構成

2. 背景(pp.7-8)

日本における商取引と Eコマース市場の登場

3. アパレルメーカーによる EC市場参入のモデルと考察(pp.9-16)

3-1 モデル

3-2 各パターンにおける需要と企業の利潤

3-3 各段階における意思決定

3-4 結果

4. アパレルメーカーによる消費者のウェブルーミング行動を活かしたオムニチャネ

ル戦略のモデルと考察(pp.17-24)

4-1 モデル

4-2 各パターンにおける需要と企業の利潤

4-3 各段階における意思決定

4-4 結果

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2

5. アパレルメーカーによる消費者のショールーミング行動を活かしたオムニチャネ

ル戦略のモデルと考察(pp.25-27)

5-1 モデル

5-2 各パターンにおける需要と企業の利潤

5-3 各段階における意思決定

5-4 結果

6. 結語(pp.28-32)

6-1 結論

6-2 将来の課題

謝辞

参考資料

参考文献

付録 A アパレルメーカー衰退の要因となる環境変化

付録 B 後方帰納法によるサブゲーム完全ナッシュ均衡の導出

Page 6: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

3

1. 序論

1-1 目的

インターネットなどのネットワークで財の売買を行う E コマース(以後、EC と略

記)の出現により、アパレルメーカーは EC 市場への参入の判断を迫られたが、多く

のアパレルメーカーは実店舗とのカニバリゼーションを懸念し、EC 市場への参入に

は消極的であった。しかし、インターネット利用率は年々上昇し、アパレルメーカ

ーの売上高が下がっている中で、EC は無視できない市場となっている。図 1 はアパ

レルメーカーの 2 大企業であるオンワードホールディングス(以下、オンワード)、

ワールドホールディングス(以下、ワールド)と EC 店舗業者であるスタートトゥデ

イ、3 社の売上高推移を示している 1,2,3,5。額の大きさはオンワードホールディング

スやワールドが上回っているものの、2015 年からのスタートトゥデイの成長に伴い

アパレルメーカー2 社の売上高が減少している。

図 1:既存アパレルメーカーと EC 店舗業者の売上高推移

(オンワード、ワールド、スタートトゥデイ)

オンワード、ワールド、スタートトゥデイ、各社企業 HPより作成 1,2,3,5

2015年ほどから ECモールを行っているスタートトゥデイの売上が伸び始め、メーカー系アパレ

ルであるオンワード、ワールドの売上が落ち始めている。

また EC を通じた商品の販売を行うことで単純にチャネルを増やすマルチチャネル

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4

から、それぞれのチャネルにおけるサービスを連携し、メールや SNS 上でも顧客情

報を統合することで消費者にとっての利便性を高め、売り上げにつなげるオムニチ

ャネルを形成するメーカーが登場した。

しかし、某アパレルメーカー社長の談話では、実際に EC の運営や顧客情報の統合

を行うとなると多大な投資が必要であるが、既存のアパレルメーカーにおける販売

は対面販売が基本であり、アパレルメーカーに所属する社員はインターネット上で

どのような情報・サービスが必要か判らず、これらの懸念が実店舗とのカニバリゼ

ーションに加え、EC 市場への参入とオムニチャネル化のハードルとなっていた。

よって、本研究ではアパレルにおけるアパレルメーカーと小売企業の商取引を記

述する数理モデルを作成し、様々な条件におけるメーカー、小売、消費者の利潤を

比較することで、アパレルメーカーにおける EC 市場への参入またはオムニチャネル

化が有効である条件を検討する。

1-2 先行研究

産業組織論の一分野でもある流通の経済学の観点から、EC 店舗が実店舗そして財

の市場にどのような影響を及ぼすかという研究は Balasubramanian (1998)を始めと

して、Shin (2007)などが挙げられる。Balasubramanian (1998)は円環状の空間競争

モデルを用いてネット販売の分析を行い、EC 店舗を利用する場合に付随する財に関

する情報が不足しているというデメリットと実店舗に訪れる際の移動費の 2 つのデ

メリットを消費者が比較して購買を行うことで、実店舗と実店舗の間の空間に EC 店

舗が商圏を獲得できることを考察し、Shin (2007)は実店舗と EC店舗が併用されるマ

ルチチャネルにおけるただ乗り問題を考察している。

消費者が実店舗を訪れて財の情報を得るが、購買は価格の安い EC 店舗で行うとい

うショールーミングの理論的研究は Balakrishnan et al. (2014)や Ksuda(2016)によ

って行われた。これらの研究では、実店舗と EC 店舗での購買におけるメリットとデ

メリットを比較し、実店舗を訪れて商品を購入する消費者、EC 店舗で購入する消費

者、実店舗でショールーミング行動を行った後に EC 店舗で購入する消費者の 3 種類

に消費者を分けている。

オムニチャネルについては、Rigby (2011)や Zuimmerman (2012)によるレポートが

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契機となり、最近では Gu and Tayi (2017)によって研究が行われた。これらの研究

では複数のチャネルを用いて財配置戦略を考察することで、実店舗から自社の EC 店

舗へと誘導するショールーミング行動により、利潤を増加させるオムニチャネル戦

略が考察された。

オムニチャネル研究としては、橋爪他(2017)が挙げられ、そこではショールーミ

ング行動への対策としてオムニチャネルが有効であることを示されている。

これらのレポートや論文の公刊年からも判る通り、オムニチャネルの理論的研究

は始まって間もない状況であり、評価の定まった国際専門誌掲載論文を探しても、

未だに目星しいものは、上記のもの以外、見当たらない。また上述した通り、オム

ニチャネル研究は、Gu and Tayi (2017)によって研究が行われたショールーミング行

動を活かす、または楠田(2016)や橋爪他(2017)によって研究が行われたショールー

ミング行動に対抗した戦略の研究がほとんどであり、ウェブで商品を閲覧して実店

舗で商品を購入するウェブルーミング行動に関して述べられたものが存在しない。

マーケティング分野によるオムニチャネル研究は、Verhoef et al. (2015)が様々

な論文をまとめ、オムニチャネル研究における論点を挙げているが、オムニチャネ

ルにおけるチャネルの焦点を、企業から消費者への一方的な影響ではなく、相互の

影響を考慮しており、マスコミュニケーション媒体も活用することとしている。そ

れに対し、本稿はオムニチャネルを考察しているが、実店舗と EC 店舗という 2 つの

チャネルにおける消費者行動への影響に注力している。そこにリストされている他

の論文については Verhoef et al. (2015)を参照せよ。

1-3 本稿の分析結果

そこで、本稿では、実店舗の特徴である立地を差別化要因として組み込むため

に、産業組織論において標準的分析となっている立地論をベースとして、ショール

ーミング行動そしてウェブルーミング行動がどちらも観察できる数理モデルを作成

し、企業による EC 参入・オムニチャネル戦略といった販売戦略の意思決定の分析を

行う。

本稿は、既存の研究と異なり、アパレル産業における実際の業態(第 2 章参照)

を描写している。つまり、販売者と消費者における取引だけでなく、日本のアパレ

ル産業におけるメーカーと小売の間の商取引を考慮することで、よりオムニチャネ

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ル戦略が有効である範囲を限定することができている。

これらの特徴に加え、本稿のモデルでは財を同質財と仮定している。一般にアパ

レル業界における財は水平的差別化が図られている場合が多いが、今回のモデルで

は財が実店舗で購買されるのか、または EC 店舗で購買されるのかに注力するため、

財を同質財としている。

また消費者の購買行動を何度でも購買可能ではなく、一度きりの購買を前提とし

てモデルを作成している。消費者は 1 度目の購買で、そのブランドや店舗に対する

好意が形成され、2 回目の購買を行う際の重要な判断材料となるが、今回のモデルで

はそれぞれの店舗における価格とサービスレベル、また実店舗での移動費用と EC 店

舗での待機費用を比較し、消費者がどの店舗で購買をするか検討するため、一度き

りの購買を前提としている。

どのアパレルメーカーも ECを行っていない場合、アパレルメーカーは EC市場に参

入することで利潤を増やすことができる。しかし、EC 市場へ参入することで、実店

舗での売上が減少するため、小売業者の反発が考えられる。EC 市場参入により、ア

パレルメーカーと小売業者の共同利潤は上昇するため、アパレルメーカーは小売業

者に追加でマージンを払ってでも EC市場に参入すべきである。

他のアパレルメーカー1 社が既に EC 店舗を運営している場合は、アパレルメーカ

ーは EC 市場に参入しない方が良いが、販売は行わない電子上でのカタログサービス

を行うことで実店舗の売上に貢献し、利潤を増やすことができる。この場合は実店

舗での売上が上がるため、小売業者からの反発は起きえない。

また他のアパレルメーカー2 社が EC 店舗を運営している場合は、アパレルメーカ

ーは実店舗から自社の EC 店舗に誘導するオムニチャネルを構築することで、利潤を

上げることができる。

1-4 本稿の構成

本稿の構成は次の通りである。第 2 章では論文の背景日本におけるアパレルメー

カーと小売業者の商取引、そしてアパレル業界における EC 市場の登場を示し、第 3

章は EC 市場の参入を考察した基本モデルの設定と結果の分析を行い、第 4,5 章では

EC 市場参入に加えてオムニチャネル化を考察した発展モデルの設定と結果の分析を

行う。第 6章ではそれぞれの分析結果の考察を示し、将来の課題を述べる。

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2. 背景

日本における商取引と Eコマース市場の登場

日本においてアパレルメーカーは百貨店などの小売業者の成長とともに売上を増

やしていった。アパレルメーカーと小売業者の契約は売上の一部をアパレルメーカ

ーが小売業者に支払うマージン制が多く、実店舗の内装や店員はアパレルメーカー

の負担である。しかし、様々な環境変化から既存のアパレルメーカーの売上が減少

し(詳細は付録 A を参照)、特に近年の EC 市場の台頭により既存アパレルメーカーの

売上は低迷し、大手アパレルメーカーであるオンワード、ワールドも売上が減少し

ている(図 1)。インターネット上に新たな販路ができたが、既存のアパレルメーカー

は既に出店している実店舗での売上の減少を懸念し、EC市場への参入が遅れた。

以上のことから、既存のアパレルメーカーは市場の EC 市場に何らかの対応策を打

つ必要があり、その対応策の 1 つがオムニチャネル化だと考えられる。既存のアパ

レルメーカーはアパレルにおける商取引を考慮して、アパレルという製品に適した

オムニチャネル戦略を考察する必要がある。また、アパレルメーカーの EC 市場参入

を考察するために、実店舗と EC 店舗の違いである立地の存在を数理モデルに組み込

んだ。そこで本研究では小売業者は百貨店と専門店を想定し、小売業者は財の価格

決定権はないが、販売スペースつまり供給量を決めることができるため、アパレル

メーカーが実店舗と EC店舗におけるサービスレベルと EC店舗における財の価格を決

定し、小売業者が実店舗における財の供給量を決定するとした。

本研究では、立地論をベースに、独占契約を結んだアパレルメーカーと小売業者

が 2 存在する場合の価格とサービスの競争を考察している。オムニチャネルを「他

のチャネルで購買を行う場合でも、訪れたチャネルにおいてサービスを受けること

ができる」と定義し、消費者が①実店舗に訪れ購買を行う、②EC 店舗で購買を行

う、③ウェブルーミング行動により実店舗で購買を行う、④ショールーミング行動

により EC 店舗で購買を行う、といった 4 つの購買パターンを選択できる中で、各企

業の EC 参入・オムニチャネル化の意思決定の分析を行う。

他のアパレルメーカーが EC 店舗を運営していない場合は、アパレルメーカーは

EC に参入することで、利潤を増やすことができる。しかし、オムニチャネル化を行

うと自社内でのウェブルーミングによりメーカーは利潤を減らしてしまう。他のア

パレルメーカー1社が ECを行っている場合は、アパレルメーカーは ECに参入しない

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方が良いが、販売は行わない電子上でのカタログサービスを行い、ウェブルーミン

グ行動を誘発することで実店舗の売り上げに貢献し、利潤を増やすことができる。

また他のアパレルメーカー2 社が EC を行っている場合は、アパレルメーカーは実店

舗から自社の EC 店舗に誘導し、ショールーミング行動を自社内で行わせることで利

潤を上げることができると予想した。

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3. アパレルメーカーによる EC市場参入のモデルと考察

3-1 モデル

このモデルはアパレルメーカーと小売業者における商取引を表している。2 社のメ

ーカー(メーカー1,メーカー2)が財を製作し、それぞれと独占契約を結んだ小売業者

(小売業者 1,小売業者 2)が財を販売する状況を想定する。小売業者は実店舗をメー

カーに貸し出し、財の売上からマージンを徴収する。小売業者が存在する土地(𝑡 =

𝑡𝑖(i=1,2))、マージンの割合(𝜃 = 𝜃𝑖(𝑖 = 1,2), (0 < 𝜃2 < 𝜃1 < 1))は予め定められてい

るとする。それぞれの小売業者が存在する土地は十分に離れていて、それぞれの店

舗における価格・サービスはもう一方の需要に影響しないとする。小売業者が実店

舗を運営するだけでなく、メーカーが EC 店舗を経営し、財を販売する状況も想定す

る。2 社のメーカーが販売する財は完全な同質な財であり、差はないとする。メーカ

ーは財 1単位ごとに cのコストをかけて財を製作し、ECにおける販売価格𝑝𝑒𝑖(𝑖 = 1,2)

を決定する。小売業者はメーカーに実店舗を貸し出し、その際に貸し出す実店舗の

大きさから販売量を決定する。またメーカーはそれぞれの店舗のサービスレベルを

決めることができ、サービスレベルに応じた費用がかかる。実店舗、EC のサービス

レベルをそれぞれ𝑆𝑟𝑖、𝑆𝑒𝑖とし、かかる費用を

𝜂

2𝑆𝑟𝑖2 ,

𝜂

2𝑆𝑒𝑖2 (i=1,2)とし、それぞれの費

用は独立である。

市場には 2 種類のタイプの消費者が存在し、タイプ 1 の消費者(以下では「消費者

1」と略す)はネットを使うが、タイプ 2の消費者は(以下では「消費者 2」と略す)は

ネットを使わない。タイプ 1(2)の消費者の割合を𝜓(1 − 𝜓)とする(0 < 𝜓 < 1)。消費

者 2 は EC サイトを見ることができず実店舗でしか財を購入できない。またすべての

消費者は 1 つの商品しか購入しないものとする。消費者は店頭または EC でサービス

を受けることで効用が増える。ただし、実店舗に行くと移動費用がかかり、EC で財

を買うと財が届くまでの待機時間が費用としてかかるとする。今回のモデルでは財

を服飾と想定しているため、実店舗で財を購入後に発生する持ち帰り費用は限りな

く小さいと考えている。また消費者は 1 つまでしか財を購入できないため、EC 購入

時の配送費用は一定とすることができ、今回のモデルでは限りなく小さいと考えて

いる。消費者の移動費用は消費者ごとに異なり、タイプ 1,2 の消費者がそれぞれ

[0,T]上に一様に分布していて自身のいる位置(t)と実店舗の位置(𝑡 = 𝑡𝑖(𝑖 = 1,2))と

の差を移動費用とする。待機費用は単純化のため、すべての消費者にとって等しい

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とする。ここで t の値と自分のタイプについては各消費者のみが知る私的情報であ

るが、Lの値と tの分布は公に知られているとする。また消費者間での最低取引は行

われないと想定する。

今回のモデルでは 4 段階ゲームを検討する。第 1 段階において、メーカーが EC に

おける販売価格𝑝𝑒𝑖(𝑖 = 1,2)を設定・公表する(EC における販売が無い場合、第 1 段階

は検討しない)。第 2 段階では、小売業者が販売量𝑞𝑟𝑖(𝑖 = 1,2)を設定・公表する。第

3 段階では、メーカーが実店舗・EC におけるサービスレベル𝑆𝑟𝑖, 𝑆𝑒𝑖(𝑖 = 1,2)を設定・

公表する。第 4 段階では各消費者がどのチャネルで購入を行うかまたは購入しない

かを決定する。消費者 1 の購入パターンが①実店舗で購入、②EC で購入の 2 つの方

法があるとする(消費者 2 は①実店舗で購入のみ)。それぞれの効用を𝑣𝑖(𝑟), 𝑣𝑖(𝑒)(𝑖 =

1,2)とすると

𝑣𝑖(𝑟) = 𝑚𝑎𝑥{0, 𝑎 + 𝑆𝑟𝑖 −𝑝𝑟𝑖 − |𝑡− 𝑡𝑖|}

𝑣𝑖(𝑒) = 𝑚𝑎𝑥{0, 𝑎 + 𝑆𝑒𝑖− 𝑝𝑒𝑖 −𝐿}

で与えられる。ここで𝑎は財を消費することから得られる基礎的効用を表す。財を購

入しない場合の留保効用は 0とし、財を購入する場合の効用が 0の場合、消費者は財

を購入すると仮定する。また各メーカーの EC における効用が同じ場合、消費者はメ

ーカー1の EC店舗で購入を行うとする。

この 4 段階ゲームの部分ゲーム完全均衡を後方帰納法によって求める。下図 2,3 は

4 段階ゲームと各パターンを図示している。今回の研究ではマーケックリアリングコ

ンディションを仮定しており、需要量が供給量となる。またこの仮定は結論に重要

な結果を与えているため、後にマーケットクリアリングコンディションが仮定され

ている場合と仮定されていない場合を比較し、考察する。

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図 2:4 段階ゲームと消費者 1の効用

図 3:4 段階ゲームと消費者 2の効用

3-2 各パターンにおける需要と企業の利潤

今回の研究では店舗が実店舗のみの場合、片方のメーカーが EC店舗を運営する場

合、両方のメーカーが EC店舗を運営する場合の 3パターンを考察する。

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① 店舗が実店舗のみの場合

消費者は自分の移動費用を参考に、各店舗で購入した場合の効用また財を購入し

なかった場合の効用を比較し、𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 0の中から最も効用の高い選択を行う。そ

れぞれのメーカーにおける需要は𝑣𝑖(𝑟) ≥ 0となった消費者の人数のため、横軸を消

費者の移動費用、縦軸を消費者の効用とすると下図 4 の様に各店舗における需要

(𝐷𝑟1, 𝐷𝑟2)を図示することができる。またマーケットクリアリングコンディションの

仮定より各店舗における供給量(𝑞𝑟1, 𝑞𝑟2)は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(𝑎+ 𝑆𝑟1−𝑝𝑟1)

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(𝑎+ 𝑆𝑟2−𝑝𝑟2)

と表すことができる。

各メーカーは店舗での売上から小売業者へのマージン𝜃𝑖(𝑖 = 1,2)を支払う。残った

売上から財の生産コスト、店舗でのサービスレベルの費用を差し引いたものが各メ

ーカーの利潤となる。小売店はメーカーからマージンを受け取り、費用はかからな

いものとする。各企業の利潤は

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1−𝜂2𝑆𝑟12

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

図 4:パターン①における消費者の効用関数と需要

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② メーカー1が EC 店舗を導入した場合

消費者 2 は①のパターンと変わらないが、消費者 1 は EC 店舗でも財の購入を行う

ことができるため、自分の移動費用を参考に、𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 𝑣1(𝑒), 0の中から最も効用

の高い選択を行う。消費者 1における効用と需要は下図 5の様に図示することができ

る。各実店舗また EC 店舗における供給量は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1 − 𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟1− 2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟1 + 2𝜓𝑝𝑒1

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1 − 𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟2− 2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟2 + 2𝜓𝑝𝑒2

𝑞𝑒1 = 𝐷𝑒1 = 𝜓(𝑇− 4𝐿+ 4𝑆𝑒1− 2𝑆𝑟1− 2𝑆𝑟2− 4𝑝𝑒1 + 2𝑝𝑟1 +2𝑝𝑟2)

と表すことができる。

パターン①と比べ、メーカー1 は ECによる売上が増えたが、EC店舗での売上は小

売業者にマージンを支払わないものとする。各企業の利潤は

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1+ (𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 + 𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

図 5:パターン②における消費者 1の効用と需要

③ メーカー1,2両方が EC店舗を導入した場合

消費者 2 は①のパターンと変わらないが、消費者 1 はそれぞれの EC 店舗でも財の

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14

購入を行うことができ、自分の移動費用を参考に、𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 𝑣1(𝑒), 𝑣2(𝑒), 0の中から

最も効用の高い選択を行う。EC 店舗においては効用の高い店舗が需要を総取りで

き、移動費用による違いも存在しないため、メーカー1,2 による価格とサービスレベ

ルの競争となる。そのため消費者 1における効用と需要は下図 6の様に図示すること

ができる。各実店舗また EC店舗における供給量は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1 −𝜓)(𝑎+ 𝑆𝑟1 −𝑝𝑟1)

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1 −𝜓)(𝑎+ 𝑆𝑟2 −𝑝𝑟2)

𝑞𝑒1 = 𝐷𝑒1 = 𝜓𝑇

𝑞𝑒2 = 𝐷𝑒2 = 0

と表すことができる。各企業の利潤はパターン②と同様にして

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1+ (𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 + 𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂

2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

図 6:パターン③における消費者 1の効用と需要

3-3 各段階における意思決定

後方帰納法により、各企業の意思決定のナッシュ均衡を求める。第 4 段階における

消費者の意思決定により、各店舗における需要関数が決まる。またマーケットクリ

アリングコンディションを仮定しているため、需要関数が供給関数となる。第 3 段

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階において各メーカーは自身の利潤を最大化する実店舗・EC 店舗におけるサービス

レベルを決定する。次に第 2 段階において各小売企業は自身の利潤を最大化する供

給量を決定する。最後に第 1 段階において各メーカーは自身の利潤を最大化する EC

店舗における価格を決定する。ここでマーケットクリアリングコンディションを仮

定しているため、実店舗における価格は小売業者が供給量を決定した第 2段階で 1つ

に定まっている。

① 店舗が実店舗のみの場合

パターン①では EC 店舗が存在しないため、第 1 段階における意思決定は省略さ

れ、第 3段階における EC店舗のサービスレベルの決定も省略される。

③ メーカー1,2両方が EC店舗を導入した場合

EC店舗は実店舗と違い、立地による差別化を図ることができいため、利潤が 0とな

るまでメーカー同士の EC 店舗のサービスレベルと価格の競争が行われる。具体的に

は EC における利潤が 0 以上という条件のもと、消費者が EC で購入した時の効用

𝑣1(𝑒), 𝑣2(𝑒)の最大化が行われる。

3-4 結果

各パターンにおける計算結果に数値を代入し、比較する(詳しい計算過程・結果、

実際に代入した値は付録参照)。各企業の利潤の変化は下図 7の様になった。

メーカー1が新たに EC店舗を始めた場合(パターン①から②)、メーカー1の利潤は

増えるが、実店舗での供給量が減るため、小売業者 1 の利潤が減ってしまう。しか

し、メーカー1 と小売業者 1 の利潤の合計は増加する。またメーカー2 と小売業者 2

の利潤は減少する。

次にメーカー2 が続いて EC 店舗を始めると(パターン②から③)、EC 店舗において

サービス・価格競争となってしまい、全ての企業が利潤を減らす。

よって今回の結果からメーカーが小売企業に対して力を持っている場合または、

EC店舗での売上で小売業者の利潤を補填した場合、メーカーは EC店舗の運営を始め

る。そして残りのメーカーは ECの運営を行わず、ECを行うメーカーと行わないメー

カーが混在することとなる。

Page 19: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

16

図 7:パターン①,②,③における各企業の利潤の変化

以上の分析結果を次の命題にまとめておく。

命題 1:どのアパレルメーカーも EC 市場に参入を行っていない場合、アパレルメー

カーは EC 市場に参入することで利潤を増やすことができる。他のアパレルメーカー

1社が既に EC店舗を運営している場合は、アパレルメーカーは EC市場に参入するこ

とで、メーカー、小売業者ともに利潤を減らすため、EC 市場に参入しない方が良

い。

Page 20: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

17

4. アパレルメーカーによる消費者のウェブルーミング行動を活かしたオムニチャネ

ル戦略のモデルと考察

4-1 発展モデル

基本モデルに加えて、メーカーによるオムニチャネル構築を考察する。この論文

ではメーカーは実店舗と EC 店舗のサービスを連動させることによりオムニチャネル

を形成し、実店舗または EC 店舗におけるサービスにより、もう一方の店舗で購買を

行う消費者 1 の効用が上昇することとする。特に EC 店舗を閲覧してから実店舗で購

買を行う消費者 1 の行動をウェブルーミング、実店舗で商品を閲覧して EC 店舗で購

買を行う消費者 1 の行動をショールーミングとする。またウェブルーミングを行う

消費者 1 の効用を𝑣𝑖(𝑤)(𝑖 = 1,2)、ショールーミングを行う消費者の効用を𝑣𝑖(𝑠)(𝑖 =

1,2)とするとそれぞれの効用は

𝑣𝑖(𝑤) = 𝑚𝑎𝑥{0, 𝑎 + 𝑆𝑟𝑖+ 𝑆𝑒𝑖−𝑝𝑟𝑖 − |𝑡 − 𝑡𝑖|}

𝑣𝑖(𝑠) = 𝑚𝑎𝑥{0, 𝑎 + 𝑆𝑒𝑖+ 𝑆𝑟𝑖 −𝑝𝑒𝑖 − 𝐿− |𝑡 − 𝑡𝑖|}

で与えられる。

今回のモデルでは財をアパレルとし、持ち帰り費用を考えていないため、実店舗

に比べて EC 店舗における財の価格が相当安くない限り、ショールーミングは行われ

ない。

次にメーカーが EC サイトを運営するが、EC において販売は行わず電子カタログの

みを行う場合を考察する。消費者 1 は EC 店舗で購入を行うことはできないが、実店

舗で購買を行う際に電子カタログを用いることで効用を上げることができるとする

(ウェブルーミング)。

4-2 各パターンにおける需要と企業の利潤

基本モデルでのパターン①~③に加えて、メーカーがオムニチャネルを形成する

場合のパターンを考察する。

④ メーカー1が EC 店舗を導入した場合(ウェブルーミング)

メーカー1 は EC 店舗におけるサービスを実店舗でも活用できるサービスとして構

築する。消費者 2 は①のパターンと変わらないが、消費者 1 は EC 店舗でも財の購入

を行うことができるため、自分の移動費用を参考に、𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 𝑣1(𝑒), 𝑣1(𝑤), 0の中

Page 21: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

18

から最も効用の高い選択を行う。消費者 1における効用と需要は下図 8の様に図示す

ることができる。各実店舗また EC 店舗における供給量は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1−𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟1− 2𝑝𝑟1 + 2𝜓𝑝𝑒1

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1 − 𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟2− 2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟2 + 2𝜓𝑝𝑒2

𝑞𝑒1 = 𝐷𝑒1 = 𝜓(𝑇− 4𝐿+ 2𝑆𝑒1− 2𝑆𝑟1− 2𝑆𝑟2− 4𝑝𝑒1 + 2𝑝𝑟1 +2𝑝𝑟2)

と表すことができる。

各企業の利潤は

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1+ (𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 + 𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

図 8:パターン④における消費者 1の効用と需要

⑤ メーカー1,2両方が EC店舗を導入した場合(ウェブルーミング)

消費者 2 は①のパターンと変わらないが、消費者 1 はそれぞれの EC 店舗でも財の

購 入 を 行 う こ と が で き 、 自 分 の 移 動 費 用 を 参 考 に 、

𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 𝑣1(𝑒), 𝑣2(𝑒), 𝑣1(𝑤), 𝑣2(𝑤), 0の中から最も効用の高い選択を行う。EC 店舗に

おいては効用の高い店舗が需要を総取りでき、移動費用による違いも存在しないた

め、メーカー1,2による価格とサービスレベルの競争となる。そのため消費者 1にお

ける効用と需要は下図 9 の様に図示することができる。EC 店舗で購入する場合の消

費者 1 の効用が非常に高いため、ウェブルーミングが行われることはなくパターン

Page 22: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

19

③と同じ需要となる。各実店舗また EC店舗における供給量は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1 −𝜓)(𝑎+ 𝑆𝑟1 −𝑝𝑟1)

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1 −𝜓)(𝑎+ 𝑆𝑟2 −𝑝𝑟2)

𝑞𝑒1 = 𝐷𝑒1 = 𝜓𝑇

𝑞𝑒2 = 𝐷𝑒2 = 0

と表すことができる。各企業の利潤は

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1+ (𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 + 𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

図 9:パターン⑤における消費者 1の効用と需要

⑥ メーカー1が電子カタログを導入した場合(ウェブルーミング)

メーカー1 は EC において販売は行わないが、実店舗でも活用できるサービスとし

て電子カタログを構築する。消費者 2は①のパターンと変わらないが、消費者 1は自

分の移動費用を参考に、𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 𝑣1(𝑤), 0の中から最も効用の高い選択を行う。消

費者 1 における効用と需要は下図 10 の様に図示することができる。各実店舗また EC

店舗における供給量は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2𝑎+ 2𝑆𝑟1+2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟1

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2𝑎+ 2𝑆𝑟2−2𝑝𝑟2

と表すことができる。

Page 23: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

20

各企業の利潤は

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1 − 𝑐}𝑞𝑟1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 +𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

図 10:パターン⑥における消費者 1の効用と需要

⑦ メーカー1,2両方が電子カタログを導入した場合(ウェブルーミング)

消費者 2 は①のパターンと変わらないが、消費者 1 は自分の移動費用を参考に、

𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 𝑣1(𝑤), 𝑣2(𝑤), 0の中から最も効用の高い選択を行う。各実店舗また EC 店舗

における供給量は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2𝑎+ 2𝑆𝑟1+2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟1

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2𝑎+ 2𝑆𝑟2+2𝜓𝑆𝑒2− 2𝑝𝑟2

と表すことができる。各企業の利潤は

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1 − 𝑐}𝑞𝑟1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 +𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2 − 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2(𝑆𝑟2

2 +𝑆𝑒22 )

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

Page 24: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

21

図 11:パターン⑦における消費者 1の効用と需要

⑧ メーカー1が EC 店舗を導入し、メーカー2が電子カタログを導入した場合(ウェ

ブルーミング)

消費者 2 は①のパターンと変わらないが、消費者 1 は自分の移動費用を参考に、

𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 𝑣1(𝑒), 𝑣1(𝑤), 𝑣2(𝑤), 0の中から最も効用の高い選択を行う。各実店舗また

EC店舗における供給量は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1−𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟1− 2𝑝𝑟1 + 2𝜓𝑝𝑒1

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1 −𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟2− 2𝜓𝑆𝑒1+ 2𝜓𝑆𝑒2 −2𝑝𝑟1 + 2𝜓𝑝𝑒1

𝑞𝑒1 = 𝐷𝑒1 = 𝜓(𝑇− 4𝐿+ 2𝑆𝑒1− 2𝑆𝑟1− 2𝑆𝑟2− 2𝑆𝑒2− 4𝑝𝑒1 + 2𝑝𝑟1 +2𝑝𝑟2)

と表すことができる。各企業の利潤は

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1+ (𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 +𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2 − 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2(𝑆𝑟2

2 +𝑆𝑒22 )

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

Page 25: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

22

図 12:パターン⑧における消費者 1の効用と需要

4-3 各段階における意思決定

基本モデルと同様に後方帰納法を用いて、各企業の意思決定のナッシュ均衡を求め

る。

パターン⑥,⑦では EC店舗が存在しないため、第 1段階における意思決定は省略さ

れるが、電子カタログを行うため、第 3 段階における EC 店舗のサービスレベルの決

定は行う。

パターン⑤ではパターン③の場合と同様に利潤が 0 となるまでメーカー同士の EC

店舗のサービスレベルと価格の競争が行われる。具体的には EC における利潤が 0 以

上という条件のもと、消費者が EC で購入した時の効用𝑣1(𝑒), 𝑣2(𝑒)の最大化が行われ

る。

4-4 結果

基本モデルと同様に各パターンにおける計算結果に数値を代入し、比較する。各企

業の利潤の変化は下図 13,14の様になった。

メーカーが EC 店舗を運営し、オムニチャネルを考慮する場合(パターン①から④)

は基本モデルの結果も変わらなかった。メーカーが小売企業に対して力を持ってい

る場合または、EC店舗での売上で小売業者の利潤を補填した場合、メーカーは EC店

舗の運営を始める。そして残りのメーカーは EC の運営を行わず、ECを行うメーカー

と行わないメーカーが混在することとなる。

Page 26: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

23

図 13:パターン①,④,⑤における各企業の利潤の変化

メーカー1 が EC の運営を行わないが、実店舗で購買を行う消費者 1 の効用を上げ

るための電子カタログを始めた場合(パターン①から⑥)、メーカー1も小売業者 1も

利潤を増加させるため両者にとって良いし施策と考えられる。また小売店同士では

競争が行われていないため、メーカー2 も電子カタログを始めることでメーカー2、

小売業者 2 の利潤を増加させることができる(パターン⑥から⑦)。この状態でメー

カー1 が電子カタログではなく、EC での販売を行った場合(パターン⑦から⑧)、メ

ーカー1は大幅に利潤を上げることができるが、小売業者 1 は利潤が減る。さらにメ

ーカー2 が EC を行った場合(パターン⑧から⑨)、EC における競争となってしまうた

め、全ての企業が利潤を減らす。

Page 27: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

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図 14:パターン①,⑥,⑦,⑧,⑤における各企業の利潤の変化

本章における分析結果を次の命題にまとめておく。

命題 2:どのアパレルメーカーも EC 市場に参入を行っていない場合、アパレルメ

ーカーは EC 市場に参入することで利潤を増やすことができるが、オムニチャネル化

を導入するとアパレルメーカーは少し利潤を減らすこととなる。他のアパレルメー

カー1社が既に EC店舗を運営している場合は、アパレルメーカーは EC市場に参入す

ることで、メーカー、小売業者ともに利潤を減らすが、電子カタログを導入し、実

店舗の補助としてオムニチャネル化を行うことでアパレルメーカー、小売業者とも

に利潤を増やすことができる。

Page 28: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

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5. アパレルメーカーによる消費者のショールーミング行動を活かしたオムニチャネ

ル戦略のモデルと考察

5-1 モデル

すでに他社 2 社以上が EC 店舗を運営しており、サービスレベル・価格の競争に陥

っている場合を想定する。ECを使うことができる消費者は全て EC店舗で購入を行う

ため、電子カタログによる消費者のウェブルーミング誘導は意味がなくなる。この

ような状況な対策として、消費者に自社の実店舗でショールーミング行動をしても

らい自社の EC店舗で購買に結び付ける施策が考えられる。

5-2 各パターンにおける需要と企業の利潤

⑨ メーカー1が EC 店舗を導入した場合(ショールーミング)

メーカー1 は実店舗におけるサービス EC 店舗でも活用できるサービスとして構築

する。消費者 2 は①のパターンと変わらないが、消費者 1 は EC 店舗でも財の購入を

行うことができるため、自分の移動費用を参考に、𝑣1(𝑟), 𝑣2(𝑟), 𝑣1(𝑒), 𝑣1(𝑠), 𝑣(𝑒), 0の

中から最も効用の高い選択を行う(ここで𝑣(𝑒)は他社の EC店舗で購買を行った場合の

効用を示す)。消費者 1における効用と需要は下図 15の様に図示することができる。

各実店舗また EC店舗における供給量は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1−𝜓)(𝑎 + 𝑆𝑟1 −𝑝𝑟1)

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1 −𝜓)(𝑎 + 𝐿+ 𝑆𝑟2− 𝑝𝑟2)

𝑞𝑒1 = 𝐷𝑒1 = 2𝜓(𝑆𝑒1+ 𝑆𝑟1−𝑆𝑒2 −𝑝𝑒1 + 2𝑝𝑒2)

𝑞𝑒2 = 𝐷𝑒2 = 𝜓{𝑇 − 2(𝑆𝑒1+ 𝑆𝑟1−𝑆𝑒2 −𝑝𝑒1 +2𝑝𝑒2)}

と表すことができる。

各企業の利潤は

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1+ (𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 + 𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

Page 29: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

26

図 14:メーカー1がショールーミングを導入した場合の消費者 1の効用と需要

5-3 各段階における意思決定

基本モデルと同様に後方帰納法を用いて、各企業の意思決定のナッシュ均衡を求め

る。

他社の EC は利潤が 0 となるまで、サービスレベルと価格の競争を行い、パターン

③と⑤と同様の EC 店舗でのサービスレベルと価格設定が行われる。それに対してア

パレルメーカー1 はこの競争に参加せず、実店舗から EC 店舗での購買に誘導するこ

とで、実店舗 1の付近にいる消費者 1に購買を促す。

5-4 結果

基本モデルと同様に各パターンにおける計算結果に数値を代入し、比較する。パ

ターン③と⑨を比較することで、メーカーは他社 2 社以上が EC 店舗を運営し、サー

ビスレベルと価格の競争を行っているでも消費者のショールーミング行動を活かし

て、実店舗から EC 店舗での購買に誘導することでアパレルメーカーも小売業者も利

潤が増加した。消費者のショールーミング行動により単純に EC 店舗での需要が増え

ただけでなく、実店舗でのサービスレベルの需要性が増したため、アパレルメーカ

ーはより実店舗でのサービスレベルに投資を行い、消費者 2 の実店舗での需要も増

加した。

本章における分析結果を次の命題にまとめておく。

Page 30: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

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命題 3:他社 2 社以上が EC 店舗を運営し、サービスレベルと価格が競争に陥って

しまっている場合は、EC 店舗で購買をする場合でも実店舗に訪れることで、実店舗

でのサービスを享受できるオムニチャネルを構築することで、消費者を自社の実店

舗でサービスを受け、EC 店舗で購買を行ってもらうショールーミング行動に誘導す

ることができ、アパレルメーカーと小売業者ともに利潤を上げることができる。

Page 31: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

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6. 結語

6-1 結論

今回のモデルは基本・発展モデルともに小売店同士は十分に距離が離れていて、

互いのサービスレベル・店頭価格が一方の小売の需要に影響を及ぼさない状況下で

計算を行った。同じパターンを小売店同士の距離がある程度近く、互いの需要に影

響を与える場合においても計算を行ったが、同じ結果が得られた。つまり田舎の様

にライバルとなる小売店同士が離れている場合においても、都会の様にライバルと

なる小売店が近くに存在する場合でも、どちらか一方のメーカーが EC 店舗を運営

し、もう一方は EC店舗を持たない。

またメーカーと小売業者の力関係によってもどのような形態の EC を運営するかが

変わってくる。メーカーだけの利潤を考えるのであれば、オムニチャネルを考えず

EC店舗を運営すべきである。小売業者が力を持っている場合は EC店舗の運営によっ

て小売業者の利潤が減ってしまうため、メーカーは減額した分の利潤の補填を行う

必要がある。もしくは EC 店舗ではなく電子カタログを導入した場合はメーカーだけ

でなく、小売業者の利潤を上げることができる。しかしメーカーと小売業者の共同

利潤で考えると EC 店舗を運営した場合が最も高くなるため、メーカーは電子カタロ

グより EC店舗を運営し、小売業者の利潤の補填を行うべきである。

他のメーカーがすでに EC店舗を運営している場合は、メーカーは EC店舗の運営を

行うと EC 店舗同士のサービスレベル・価格の競争に陥ってしまう。そのためメーカ

ーは EC 店舗ではなく実店舗を活かす電子カタログを導入し、小売店における売上を

増加させるべきである。

すでに 2 社以上が EC 店舗を運営しており、サービスレベル・価格の競争に陥って

いる場合は、ECを使うことができる消費者は全て EC店舗で購入を行うため、電子カ

タログによる消費者のウェブルーミング誘導は意味がなくなる。また小売店舗で購

入する場合と比べて、EC 店舗で購入する場合の消費者の効用が大幅に大きく、今後

配送技術の発展により待機費用が小さくなることを考えると消費者は EC を使う消費

者の割合は増加していくことが考えられる。EC を使う消費者の割合が増えれば増え

るほど、メーカーと小売業者の利潤は減ってしまう。このような状況な対策とし

て、消費者をショールーミングへ誘導することが考えられる。小売店舗でのサービ

スを自社のメーカーが運営する ECに活かすことで、他の EC店舗よりもいくらか高く

Page 32: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

29

価格を設定しても、ある程度の需要を得ることができる。

今回のモデルではマーケットクリアリングコンディションを仮定していて、供給

量の限界を考慮していない。

モデルではマーケットクリアリングコンディションを仮定しているため、この様

な結果となったが、実際のアパレル業界では需要を予測することは非常に難しく、

売れ残りとセールが頻発している。マーケットクリアリングコンディションを仮定

されていなければ、メーカーは小売店舗での販売価格を上げることが予想でき、消

費者の小売店舗での効用が下がってしまう。そのためメーカーは元の需要量を保つ

ため、小売店舗でのサービスレベルを上げるまたは、EC 店舗でのサービスを小売店

舗に活かすオムニチャネルがより有効となる。また需要量=供給量とならないた

め、売れ残りまたは売り逃しが発生する。売れ残った商品はディスカウントして再

販することもでき、新たなマーケットとして消費者は減少した基礎的効用𝑎と価格

を、新商品と比較し購買を行う。

モデルでは供給量の限界を考慮していないが、供給量の限界を考慮すると需要量

が供給量の限界を超えていた場合、小売店舗における価格の高止まりが予想され

る。供給量の限界の原因がメーカーの場合、メーカーは EC 店舗を行うためには供給

量を増やす必要があり、工場のラインを増やすなど新たな投資が必要となる。投資

した結果、自社のみが EC店舗を行えば十分に儲けを出す可能性はあるが、EC店舗が

競合した場合は EC 店舗で利潤を上げることができず投資費用の分だけ損になってし

まう。供給量の限界の原因が小売業者の場合、EC 店舗はそこまで価格を下げなくて

も需要を確保できるため、小売店舗だけでなく、EC 店舗における販売価格も上がる

ことが予想される。

最後に今回のモデルでは、消費者の心理的側面を捨象し、企業の販売戦略に焦点

を置いているため、消費者行動論が対象とする心理学的成果は考えていない。消費

者の心理的側面として具体的には、購買行動の経時的変化、移動コスト以外の消費

者の多様性、EC 店舗で購買時の知覚リスク、そして異なった商品の品揃えなどが挙

げられる。これらの消費者の心理的側面をモデルに組み込むことは可能であり、欧

米を中心に行動産業組織論として研究されている。

Page 33: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

30

6-2 将来の課題

本研究では、アパレルメーカーによる EC 市場への参入とオムニチャネル戦略を考

察するため、アパレルメーカーと小売企業の商取引を反映させたモデルを作成し、

どの企業も EC市場に参入していない場合は EC市場に参入し、他のアパレルメーカー

1 社が EC 店舗を運営している場合は電子カタログを用いたオムニチャネル化を進

め、他のアパレルメーカー2社以上が EC店舗を運営している場合は EC市場に参入し

実店舗から自社の EC 店舗へと誘導するショールーミングとしてのオムニチャネル化

を進めるべきだという結果を得た。

しかし、今回のモデルでは計算単純化と結果に重要な影響を及ぼさないという観

点から、アパレルという財の特性を反映させていない。アパレルという財は防寒な

どといった機能的な側面もあるが、それ以上に自己表現のための財という側面が強

い。そのため水平的な差別化がしやすい財と考えられる。それに対して、今回のモ

デルでは財を全くの同質としており、財の水平的差別化を考慮できていない。財の

水平的差別化をモデルに組み込む場合、水平的差別化の消費者ごとの好みを変数と

し一様に存在すると仮定することで、消費者の立地と水平的差別化の好みを 2 軸と

して 2 次元上の消費者のマップを作製でき、今回のモデルと同様に需要量を計算す

ることができる。EC 店舗を誰も運営していない場合、または 1 社が運営している場

合の結論は変わらないが、2 社が EC 店舗を運営している場合は水平的差別化により

それぞれの EC 店舗の棲み分けが可能となるため、本研究での結論である限界までの

価格とサービスレベルの競争にはなり得ない。しかし、水平的差別化の観点から同

質または近い財を販売する 2 つの企業が EC 市場に参入した場合は本研究の結論と同

じように価格とサービスレベルの競争に陥ってしまい、EC 店舗からは利潤を得るこ

とができない。

また、自己表現のための財という側面から、実際に試着しサイズ感だけでなく、

自身に合っているか確認することが重要な財であることが考えられるが、本研究で

は実店舗で購入した場合も EC 店舗で財を購入した場合も財を受け取ることによって

得られる基礎的な効用に差を設けていない。試着せず EC 店舗で購入を行った場合は

自身に合わないかもしれないというリスクを抱えているため、基礎的な効用を確率

で減少させるか、返品の場合をモデルに組み込む必要がある。確率で基礎的効用を

減少させる場合はそれに応じて EC店舗におけるサービスレベルを上げるか EC店舗で

Page 34: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

31

の販売価格を下げる必要がある。しかし、このモデルの変化ではアパレルメーカー

が EC 店舗から得られる利潤が減少するものの、本研究の結果には何も影響を与えな

い。次に消費者が EC 店舗で財を購入し、実際に着ると自身に合っておらず返品する

場合をモデルに組み込む。EC 店舗で財を購入した消費者は確率で自分に財が合わな

いことがあるとし、返品コストは財の価格の一部負担とすると、財が合わないこと

が少ない場合、アパレルメーカーは返品を行う消費者を無視しサービスレベルと価

格の変更は行わないが、財が合わないことがよくある場合、アパレルメーカーは返

品を行う消費者を無視できすサービスレベルを上げるまたは価格を下げる必要があ

る。

次に、再販市場の可能性を考える必要がある。今回のモデルでは、マーケットク

リアリングコンディションを仮定している上に、消費者は一度きりの購買しか行わ

ないため、再販市場を考察することはできないが、多期間のモデルを想定する場合

は在庫管理だけでなく、売れ残った商品の管理や中古品市場の対応を考察する必要

がある。再販市場はアパレルという財に関わらず存在するが、アパレル業界ではア

ウトレットという商業形態が流行している上、近年はメルカリなどといった EC サイ

トを用いた消費者間の再販市場も急速に拡大している。財の再販価格が、定価と関

係がないとは考えにくく、アパレルメーカーは再販市場を考慮した上での価格設定

を行う必要がある。消費者が再販時に財を購入した場合の財を購入したことで得ら

れる基礎的な効用は初販で購入した場合と比べて減少すると考えられる。アパレル

メーカーは基礎的効用が減少した分、再販市場ではサービスレベルを上げるまたは

価格を下げる必要がある。しかし、売れ残りを減らすために再販市場で価格を下げ

ると、定価で財が売れなくなり、再販市場で販売しなければならない財の量が増え

るという負のスパイラスに陥ってしまうと考えられる。そのため、マーケットクリ

アリングコンディションが仮定されておらず、再販市場を考慮する場合においてア

パレルメーカーは供給量を限定することで、機会損失は起きてしまっても、売れ残

りを減らし再販市場をできるだけ少なくする必要がある。近年は消費者間のインタ

ーネット上での再販市場が流行しており、使用済みの財が通常より大幅に安く売買

されている一方で、限定品などは転売され定価よりも高い値段で売買されている。

つまり、アパレルメーカーが自社で再販市場に参入しない場合でも、自社の生産し

た財が再販市場で売買される可能性があり、再販市場の影響を考慮し、初販での定

Page 35: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

32

価を下げる必要が出てくると考察できる。それに対して、消費者間の再販市場はデ

メリットだけでなく、メリットも存在する。消費者間の再販市場はオークション形

式の市場も多く、自社の財の適正価格を検討する一つの指標となりうる。

最後に、EC 店舗で購入した場合の商品を受け取るタイミングの遅れをより深く考

察するべきである。本研究では EC 店舗での購入による商品の到着の遅れを待機費用

𝐿とし、全ての消費者において一定の値にしているが、実際の消費者の感度は人によ

って異なるはずである。楠田(2018)では消費者ごとに異なる時間割引率を設定し、

モデルに組み込んでいる。今回のモデルに待機費用ではなく、消費者ごとに異なる

時間割引率を設定すると、時間割引率が大きいことから EC 店舗で購買を行なわない

消費者が存在する一方、時間割引率が小さいことから移動費用が小さくても EC 店舗

で購買を行う消費者が存在する。よって今回のモデルでは深く考察していないショ

ールーミング行動での購買に積極的に行うことができ、アパレルメーカーのサービ

スレベルそして価格の決定そして小売業者の供給量の決定はより複雑になると予想

できる。

Page 36: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

33

謝辞

本論文の作成にあたり、終始懇切丁寧なご指導、ご教鞭を賜りました渡邊直樹先生

に心から御礼申し上げます。研究に対する取り組み方、考え方について丁寧にご教

授いただくとともに鋭いご指摘を多くしていただき大変勉強になりました。

副査をお引き受けいただいた坂爪裕先生ならびに坂下玄哲先生には、本論文の方

向性や内容に関する貴重なご助言をいただきました。

最後に、経営管理研究科での 2 年間を通じて、多大な援助いただいた両親、家族

ならびに同学年の皆様の皆様に心より感謝致します。

参考資料

[1] 株式会社オンワードホールディングス HP https://www.onward-hd.co.jp/

[2] 株式会社ワールドホールディングス HP http://world-hd.co.jp/

[3] WORLD 50th anniversary book

[4] 株式会社ファーストリテイリング HP http://www.fastretailing.com/jp/

[5] 株式会社スタートトゥデイ HP https://www.starttoday.jp/

[6] 総務省「通信利用動向調査」

[7] 経済産業省「平成 29年度電子商取引に関する市場調査」別紙 2報告書

[8] 日経ビジネスオンライン「ワールド大量退店が変える商業施設の未来図」

https://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150526/281588/?P=2

参考文献

Balasubramanian, S. (1998) Mail versus mall: A strategic analysis of competition between

direct marketers and conventional retailers. Marketing Science, 17(3), 181-195.

Page 37: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

34

Balakrishnan, A., Sundaresan, S., and Zhang, B. (2014) Browse-and-switch: Retail-online

competition under value uncertainty. Production and Operations Management, 23(7), 1129-

1145.

Gu, J. Z. and G. K. Tayi, (2016) Consumer pseudo-showrooming and omni-channel product

placement strategies. Manage-ment Information Systems Quarterly 41, issue 2.

Kusuda, Y., (2016) Showrooming and shipping costs in price competition between online and

physical stores. 日本福祉大学経済論集 52, 67‒86.

Zimmerman, A., (2012) Showdown over ‘showrooming’. The Wall Street Journal, Janulary 23.

Rigby, D. (2011) The future of shopping: successful companies will engage through ``Omni-

channel'' retailing: a mashup of digital and physical enterprise, harvard Business Review 85

(12), 65-74.

Shin, J. (2007) How does free riding on customer service affect competition? Marketing

Science, 26(4),488-503.

Verhoef, P.C., Kannan, P.K., and Inman, J.J. (2015) From Multi-Channel Retailing to Omni-

Channel Retailing Introduction to the Special Issue on Multi-Channel Retailing. Journal of

Retailing, 91(2), 174-181

楠田康之 (2016) ショールーミング行動と実店舗型小売業者の投資戦略. 日本福祉大学経済論集

53, 1‒22.

楠田康之 (2018) 時間割引を伴うオムニチャネル戦略. 行動経済学 11, 14-23.

橋爪亮、成生達彦、柯素虹 (2017) ショールーミングへの対策としてのオムニチ ャネル. 流通研

究 20(1), 23-41.

Page 38: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

35

付録 A

アパレルメーカー衰退の要因となる環境変化

現在、アパレルメーカーはオンワードホールディングス(以下、オンワード)とワ

ールドホールディングス(以下、ワールド)の2強となっている。しかし、近年、様々

な環境変化から上記 2 社だけでなく、多くのアパレルメーカーの売上が減少してい

る。その環境変化を年代の推移を軸に述べる。大きな環境変化は主に次の 3 つが考

えられる。(1) 1990 年代の百貨店の衰退、(2) 2000年代のファストファッションの

流行、(3) 2010年代の ECの出現

(1) 1990 年代の百貨店の衰退

1970 年から 1980 年頃、アパレルメーカーの主な販路は百貨店か専門店であり、そ

れら販路についてメーカー間では住み分けができていた。オンワードが百貨店を主

な販路として拡大したのに対して、ワールドは専門店を中心に実店舗を展開してい

った。1990 年代になると、自家用車の普及とともに、ショッピングセンターという

新たな販路が拡大した。既存のアパレルメーカーが百貨店、専門店などの従来の販

路とのカニバリゼーションを避け、ショッピングセンターでの出店を避けたのに対

し、新たに誕生したアパレルメーカーが続々とショッピングセンターに進出し、売

り上げを伸ばしていった。1930 年代までは大規模小売店舗立地法により海外の大型

店が自由に日本に進出することができなかったが、米国からの反発もあり、2000 年

に大規模小売店舗立地法が廃止された。この影響により、複数の大型小売店舗が一

つの場所に集まったモール型ビジネスはさらに加速していった。

元々、百貨店や専門店という販路を持つ従来のアパレルメーカーは出店を渋って

いたが、ショッピングセンターは新たなアパレルメーカーと手を組み、消費者から

の支持を得ていった。

地方の百貨店や商店街はショッピングセンターの出現によって売上が減少し、百

貨店や専門店を販路とするアパレルメーカーはショッピングセンターに出店せざる

を得なくなり、地方百貨店や専門店のさらなる衰弱につながった。

また、駅ビルの出現により、都心の百貨店のマーケットも浸食されてしまった。

駅ビルにはアパレルメーカーではなく、セレクトショップが出店したため、百貨店

を主な販路としていたオンワードなどのアパレルメーカーは衰退していった。そう

Page 39: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

36

いった中、専門店を中心に展開していたワールドは、ショッピングセンターやファ

ッションビルに販路を移すことで、1990 年代に売上を伸ばすことに成功した。この

オンワードとワールドの違いは既存販路におけるアパレルメーカーと小売業者の力

関係の差が大きく起因していると考えられる。百貨店の交渉力が強く、新たな販路

への移行が難しかったオンワードに対して、専門店よりも交渉力が強かったワール

ドは、他のアパレルメーカーと比べ、スムーズにショッピングセンターや駅ビルへ

の販路の移行に成功したと考えられる 8。

(2) 2000 年代のファストファッションの流行

2000 年代にはファストファッションが流行し、小売から SPA へと変革したアパレ

ル企業が出現した。SPAとは Specialty store retailer of Private label Apparel

の略であり、企画から製造、小売までを一貫して行うアパレルのビジネスモデルで

ある。これらの企業は従来のアパレルメーカーとはコスト構造が異なり、従来のア

パレルメーカーに対して低価格で攻勢をかけることで売上を伸ばしていった。図 15

と 16 は 1997 年から 2018 年までのオンワード、ワールド、ファーストリテイリン

グ、3 社の売上と営業利益率の比較である 1,2,3,4。売上高を見ると、オンワードもワ

ールドもあまり変化していないが、ファーストリテイリングが急速に売上を伸ば

し、2000 年には 2 社を追い抜いて日本のアパレル企業としては売上高 1 位となって

いる。また上述した通り、SPA 型アパレルはコスト構造も異なるため、従来のアパレ

ルメーカーに対して低価格で販売しているにも関わらず、営業利益率はオンワード

やワールドよりも高い水準を維持している。ファーストリテイリングが急速に伸ば

し始めた 2005 年頃からオンワード、ワールドは両社とも大幅に営業利益率が下がっ

ており、これらの営業利益率減少はファストファッションの登場やそれに伴う消費

者の購買行動の変化に苦戦していることが原因だと考えられる。

Page 40: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

37

図 15:既存アパレルメーカーとファストファッション企業の売上高推移

(オンワード、ワールド、ファーストリテイリング)

オンワード、ワールド、ファーストリテイリング、各社企業 HPより作成 1,2,3,4

2000年頃からメーカー系アパレルのオンワード、ワールドの売上を SPA型アパレルのファース

トリテイリングが抜き、オンワード、ワールドが伸び悩んでいる中、ファーストリテイリングの

売上高が急激に伸び続けている。

図 16:営業利益率推移(オンワード、ワールド、ファーストリテイリング)

オンワード、ワールド、ファーストリテイリング、各社企業 HPより作成 1,2,3,4

Page 41: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

38

ファーストリテイリングが売上を伸ばし始めた 2000年以降、メーカー系アパレルであるオンワ

ード、ワールドが営業利益率を落としている。

(3) 2010 年代の EC の出現

インターネットの普及により、サイバー空間に新たな販路が出現したが、多くの

アパレルメーカーは実店舗とのカニバリズムの発生を懸念し、EC 市場への参入には

消極的であった。そのため、EC 市場のみで販売を行い、実店舗を持たないスタート

トゥデイなどは競争相手が比較的少ない中、成長を遂げることができた。図 1 はオ

ンワード、ワールド、スタートトゥデイ、3 社の売上高推移を示している 1,2,3,5。額

の大きさはオンワードホールディングスやワールドが上回っているものの、2015 年

からのスタートトゥデイの成長に伴い 2 社は売上が減少しており、今後ファースト

リテイリングの様に 2 社を追い抜く可能性も十分考えられる。このような EC 市場の

台頭に対して、ファーストリテイリングなどの SPA 型アパレルメーカーは、直営店

も多かったことから、既存販路に対する発言力も強く、自社での EC 市場参入が容易

であった。近年は EC 店舗でのみ販売を行っていた企業が、EC店舗で得た情報力を武

器に実店舗へと参入してきている。インターネット上に新たな販路ができたが、EC

市場への参入が遅れたこと、既存の販路に EC 販売中心の企業が参入してきたこと、

これらによって既存のアパレルメーカーの売上は減少していった。

また、スマートフォンの普及により、従来はインターネットを利用していなかっ

た世代も、インターネットを利用してショッピングするようになり、EC の追い風と

なっている(図 17,18)6。

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39

図 17:世代別インターネット利用率

総務省「通信利用動向調査」より作成 6

2002年から 2014年でどの世代でもインターネット利用率は上昇し、特に 50歳から 80歳の間で

は 40%ほど上昇している。

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40

図 18:世代別インターネットショッピング利用率

総務省「通信利用動向調査」より作成 6

2002年から 2014年でどの世代でもインターネットショッピング利用率は大きく上昇し、50歳以

上でもインターネットショッピングを利用している人が少なくないことが分かる。

ここで、アパレルという財が EC 市場にどれほど適しているか確認するため、アパ

レル以外の製品も含め、製品毎に現在の EC 市場規模そして EC 化率(その製品の全て

の販路の市場規模に対する EC市場規模の割合)を比較する。表 1には物販系分野にお

ける BtoC の EC 市場規模、EC 化率を示している 7。衣類・服装雑貨等の EC 化率は

11.54%となっていて、すでに市場の十分の一は EC にとって代わられている。また市

場規模の前年比伸び率も 7.6%となっており、今後も市場は拡大していくことが予想

される。また事務用品や家電そして書籍の EC 化率は 20%を超えているのに対して、

食品や化粧品の EC 化率は 5%程とあまり高くなく、製品ごとに EC 化率が大きく異な

ることが分かる。

表 1:物販系分野における BtoCの EC 市場規模と EC化率

経済産業省「平成 29年度電子商取引に関する市場調査」より作成 7

どの分野においても ECの市場規模は伸び続けているが、分野ごとに EC化率が大きく異なってい

る。

EC市場規模(億円)EC化率(%) EC市場規模(億円)EC化率(%) EC市場規模(億円)EC化率(%) EC市場規模(億円)EC化率(%)前年比伸び率(%)

事務用品、文房具 1,599 28.12% 1,707 28.19% 1,894 33.61% 2,048 37.38% 8.2%

生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 12,706 24.13% 13,103 28.34% 14,278 29.93% 15,332 30.18% 7.4%

書籍、映像・音楽ソフト 8,969 28.12% 9,544 21.79% 10,690 24.50% 11,136 26.35% 4.2%

雑貨、家具、インテリア 11,590 15.49% 12,120 16.74% 13,500 18.66% 14,817 20.40% 9.8%

衣類・服装雑貨等 12,822 8.11% 13,839 9.04% 15,297 10.93% 16,454 11.54% 7.6%

化粧品、医薬品 4,415 4.18% 4,699 4.48% 5,268 5.02% 5,670 5.27% 7.6%

自動車、自動二輪車、パーツ等 1,802 1.98% 1,874 2.51% 2,041 2.77% 2,192 3.02% 7.4%

食品、飲料、酒類 11,915 1.89% 13,162 2.03% 14,503 2.25% 15,579 2.41% 7.4%

その他 2,227 0.56% 2,348 0.63% 2,572 0.75% 2,779 0.80% 8.1%

合計 68,043 4.37% 72,398 4.75% 80,043 5.43% 86,008 5.79% 7.5%

2014年 2015年 2016年 2017年

Page 44: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

41

付録 B

後方帰納法によるサブゲーム完全ナッシュ均衡の導出

パターン②の場合

各店舗における供給量と各企業の利潤は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1 − 𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟1− 2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟1 + 2𝜓𝑝𝑒1

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1 − 𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟2− 2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟2 + 2𝜓𝑝𝑒2

𝑞𝑒1 = 𝐷𝑒1 = 𝜓(𝑇− 4𝐿+ 4𝑆𝑒1− 2𝑆𝑟1− 2𝑆𝑟2− 4𝑝𝑒1 + 2𝑝𝑟1 +2𝑝𝑟2)

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1+ (𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1−𝜂2(𝑆𝑟1

2 + 𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

第 3段階において、メーカーの利潤を最大化するサービスレベルを決定する。

𝜕2𝛱𝑚1

𝜕𝑆𝑟12 =

𝜕2𝛱𝑚1

𝜕𝑆𝑒12 =

𝜕2𝛱𝑚2

𝜕𝑆𝑟22 = −𝜂 < 0

より 2 階微分が負となるため、

𝜕𝛱𝑚1

𝜕𝑆𝑟1=𝜕𝛱𝑚1

𝜕𝑆𝑒1=𝜕𝛱𝑚2

𝜕𝑆𝑟2= 0

となる𝑆𝑟1, 𝑆𝑒1, 𝑆𝑟2において、𝛱𝑚1,𝛱𝑚2は最大となる。

よって

𝑆𝑟1 =2(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 2𝜓𝑝𝑒1 −2(1−𝜓)𝑐

𝜂

𝑆𝑒1 =4𝜓𝑝𝑒1− 2𝜓(1 − 𝜃1)𝑝𝑟1−2𝜓𝑐

𝜂

𝑆𝑟2 =2(1 − 𝜃2)𝑝𝑟2 −2𝑐

𝜂

と計算できる。

次に第 2段階において小売店舗における供給量を決定する。

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1 − 𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟1− 2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟1 + 2𝜓𝑝𝑒1

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1 − 𝜓)𝑎+ 2𝜓𝐿 + 2𝑆𝑟2− 2𝜓𝑆𝑒1− 2𝑝𝑟2 + 2𝜓𝑝𝑒2

より𝑆𝑟1, 𝑆𝑒1, 𝑆𝑟2を代入し、左辺が𝑝𝑟1, 𝑝𝑟2になるように整理すると

𝑝𝑟1 =−𝜂𝑞𝑟1 +2𝜂(1 −𝜓)𝑎+ 2𝜂𝜓𝐿 + 2𝜓(𝜂 − 2− 4𝜓)𝑝𝑒1 −4 (1 −𝜓−𝜓2

)𝑐

2{𝜂 − 2(1− 𝜃1) (1 +𝜓2)}

Page 45: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

42

𝑝𝑟2 =−𝜂𝑞𝑟2 + 2𝜂(1 −𝜓)𝑎 + 2𝜂𝜓𝐿 + {4𝜓2

(1 − 𝜃1)}𝑝𝑡1+ 2𝜓(𝜂 − 4𝜓)𝑝𝑒1 −4 (1 −𝜓2) 𝑐

2{𝜂 − 2(1− 𝜃2)}

となる。

小売業者の利潤の供給量における 2階微分は

𝜕2𝛱𝑟1

𝜕𝑞𝑟12 = −

𝜂𝜃1𝜂 − 2(1 − 𝜃1)(1 + 𝜓2)

𝜕2𝛱𝑟2

𝜕𝑞𝑟22 = −

𝜂𝜃2𝜂 − 2(1 − 𝜃2)

と計算できる

𝜂 > 2(1 − 𝜃1)(1 + 𝜓2), 𝜂 > 2(1 − 𝜃2)

より 2 階微分が負となるため、

𝜕𝛱𝑟1

𝜕𝑞𝑟1=𝜕𝛱𝑟2

𝜕𝑞𝑟2= 0

となる𝑞𝑟1, 𝑞𝑟2において𝛱𝑟1,𝛱𝑟2は最大となる。

よって

𝑞𝑟1 =𝜂(1−𝜓)𝑎+ 𝜂𝜓𝐿 +𝜓(𝜂 − 2− 4𝜓)𝑝𝑒1 − 2 (1−𝜓−𝜓2

) 𝑐

𝜂

𝑞𝑟2 =

−𝑎𝜂(−1 + 𝜓)(𝜂 + (−1 + 𝜃1)(2 + 𝜓2)) + 2𝑐(𝜂(−1 + 𝜓2) + (−1 + 𝜃1)(−2 + 𝜓2 − 𝜓3 + 𝜓4))+

𝜓(𝐿𝜂(𝜂 + (−1 + 𝜃1)(2 + 𝜓2)) + 𝑝𝑒1(𝜂2 − 2(−1 + 𝜃1)𝜓(4 − 𝜓 + 2𝜓2)

+𝜂(−2 − 4𝜓 − 𝜓2 + 𝜃1(2 + 𝜓2))))

(𝜂(𝜂 + 2(−1 + 𝜃1)(1 + 𝜓2)))

最後に第 1段階において𝑑2𝛱𝑚1

𝑑𝑝𝑒12 < 0の条件のもと、

𝑑𝛱𝑚1

𝑑𝑝𝑒1= 0となる𝑝𝑒1を設定する(具体

的な値は省略)。

すべての条件を満たす範囲で文字に値を代入する。

𝑎 = 100, 𝑐 = 10, 𝑇 = 400, 𝜂 = 4, 𝐿 = 20, 𝜃1 = 0.3, 𝜃2 = 0.25, 𝜓 = 0.1

このとき

𝜕2𝛱𝑚1

𝜕𝑆𝑟12 =

𝜕2𝛱𝑚1

𝜕𝑆𝑒12 =

𝜕2𝛱𝑚2

𝜕𝑆𝑟22 < 0,

𝜕2𝛱𝑟1

𝜕𝑞𝑟12 < 0,

𝜕2𝛱𝑟2

𝜕𝑞𝑟22 < 0,

𝜕2𝛱𝑚1

𝜕𝑝𝑒12 < 0

の条件を満たす。

2 店舗間の距離が十分に離れていて互いのサービスレベル・価格がもう一方の需要

Page 46: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

43

に影響を与えない場合の 2店舗の立地場所を

𝑡1 = 100, 𝑡2 = 300

とし、2 店舗間の距離がある程度近く、互いのサービスレベル・価格がもう一方の需

要に影響を与える場合の 2店舗の立地場所を

𝑡1 = 190, 𝑡2 = 210

として計算を行った。

パターン③の場合

メーカー1,2 による EC 店舗はサービスレベルと価格での競争において、消費者 1

の効用が上回った店舗は需要を総取りできる。そのためメーカー1,2 は需要総取りの

場合の EC 店舗における利潤が 0 となるサービスレベルと価格を設定する。そのとき

𝑣1(𝑒)= 𝑣2(𝑒)となり、消費者 1 の EC 店舗における効用が等しくなるため、消費者 1

はメーカー1の EC店舗で購買を行う。

各店舗における供給量と各企業の利潤は

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1−𝜓)(𝑎 + 𝑆𝑟1 −𝑝𝑟1)

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1−𝜓)(𝑎 + 𝑆𝑟2 −𝑝𝑟2)

𝑞𝑒1 = 𝐷𝑒1 = 𝜓𝑇

𝑞𝑒2 = 𝐷𝑒2 = 0

𝛱𝑚1 = {(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 𝑐}𝑞𝑟1+ (𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1−𝜂

2(𝑆𝑟1

2 + 𝑆𝑒12 )

𝛱𝑚2 = {(1− 𝜃2)𝑝𝑟2− 𝑐}𝑞𝑟2−𝜂2𝑆𝑟22

𝛱𝑟1 = 𝜃1𝑝𝑟1𝑞𝑟1

𝛱𝑟2 = 𝜃2𝑝𝑟2𝑞𝑟2

と表すことができる。

第 3 段階において、メーカーの利潤を最大化する小売店舗のサービスレベル、EC に

おける利潤を 0にする EC店舗のサービスレベルを決定する。

𝜕2𝛱𝑚1

𝜕𝑆𝑟12 =

𝜕2𝛱𝑚2

𝜕𝑆𝑟22 = −𝜂 < 0

より 2 階微分が負となるため、

𝜕𝛱𝑚1

𝜕𝑆𝑟1=𝜕𝛱𝑚2

𝜕𝑆𝑟2= 0

Page 47: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

44

となる𝑆𝑟1, 𝑆𝑟2において、𝛱𝑚1, 𝛱𝑚2は最大となる。

よって

𝑆𝑟1 =2(1− 𝜃1)𝑝𝑟1− 2𝜓𝑝𝑒1 −2(1−𝜓)𝑐

𝜂

𝑆𝑟2 =2(1 − 𝜃2)𝑝𝑟2 −2𝑐

𝜂

と計算できる。

また EC 店舗における利潤が 0のとき

(𝑝𝑒1 − 𝑐)𝑞𝑒1 − 𝜂𝑆𝑒12

2= 0

より EC 店舗におけるサービスレベルは

𝑆𝑒1 = √2𝜓𝑇𝜂

(𝑝𝑒1 − 𝑐)

となる。

次に第 2段階において小売店舗における供給量を決定する。

𝑞𝑟1 = 𝐷𝑟1 = 2(1−𝜓)(𝑎 + 𝑆𝑟1 −𝑝𝑟1)

𝑞𝑟2 = 𝐷𝑟2 = 2(1−𝜓)(𝑎 + 𝑆𝑟2 −𝑝𝑟2)

より𝑆𝑟1, 𝑆𝑟2を代入し、左辺が𝑝𝑟1, 𝑝𝑟2になるように整理すると

𝑝𝑟1 =−𝜂𝑞𝑟1 +2𝜂(1 −𝜓)𝑎− 4(1 −𝜓)2𝑐

2(1 −𝜓){𝜂 − 2(1− 𝜃1)(1−𝜓)}

𝑝𝑟2 =−𝜂𝑞𝑟2 +2𝜂(1 −𝜓)𝑎− 4(1 −𝜓)2𝑐

2(1 −𝜓){𝜂 − 2(1− 𝜃2)(1−𝜓)}

となる。

小売業者の利潤の供給量における 2階微分は

𝜕2𝛱𝑟1

𝜕𝑞𝑟12 = −

𝜂𝜃1𝜂 − 2(1 − 𝜃1)(1 − 𝜓)

𝜕2𝛱𝑟2

𝜕𝑞𝑟22 = −

𝜂𝜃2𝜂 − 2(1 − 𝜃2)(1 − 𝜓)

と計算できる

𝜂 > 2(1 − 𝜃1)(1 − 𝜓), 𝜂 >> 2(1 − 𝜃2)(1 − 𝜓)

より 2 階微分が負となるため、

𝜕𝛱𝑟1

𝜕𝑞𝑟1=𝜕𝛱𝑟2

𝜕𝑞𝑟2= 0

Page 48: Title アパレルメーカーのEC市場参入とオムニチャネル戦略 : 日本 …

45

となる𝑞𝑟1, 𝑞𝑟2において𝛱𝑟1,𝛱𝑟2は最大となる。

よって

𝑞𝑟1 =𝜂(1−𝜓)𝑎− 2(1−𝜓)2𝑐

𝜂

𝑞𝑟2 =𝜂(1−𝜓)𝑎− 2(1−𝜓)2𝑐

𝜂

最後に第 1 段階において消費者 1 の EC 店舗における効用𝑣1(𝑒)が最大となる EC 店

舗における価格を決定する。

𝑣1(𝑒)= 𝑎+ 𝑆𝑒1− 𝑝𝑒1 −𝐿

より𝑆𝑒1を代入して、

𝑣1(𝑒)= 𝑎+√2𝜓𝑇

𝜂(𝑝𝑒1− 𝑐)− 𝑝𝑒1 − 𝐿

𝑑2𝑣1(𝑒)

𝑑𝑝𝑒12 < 0の条件のもと、

𝑑𝑣1(𝑒)

𝑑𝑝𝑒1= 0となる𝑝𝑒1を設定し

𝑝𝑒1 =𝜓𝑇

2𝜂+ 𝑐

𝑆𝑒1 =𝜓𝑇2𝜂

と計算できる。このとき確かに全ての消費者 1 にとって𝑣1(𝑒)> 𝑣1(𝑟), 𝑣1(𝑒) > 𝑣2(𝑟)

となり、消費者 1は EC店舗で購買を行う。