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OLIVE通信 13Kagoshima University Medical and Dental Hospital Certified Nurse specialist Nurse Practitioner Certified Nurse Magazine Vol. 13 OLIVE(オリーブ)とは・・・ 「ともに生きる」という意味があり、生きる力を支える・看護者として支援するという私たちの思いがあります。 今回は、がん化学療法看護についての特集です。 多く相談を受ける「抗がん剤の血管外漏出」について取り上げます。 抗がん剤による血管外漏出とは、静脈注 射した薬剤や輸液が、カテーテルの先端 の移動などによって、血管外の周辺組織 に漏れた時に、組織の炎症や壊死をもた らすものです。 発赤、痛み 潰瘍、壊死 抗がん剤の点滴更新時は、ライン内に逆血もあり、点滴の自然滴下も良好でした。しかし、抗がん剤投与中に 刺入部周囲が腫れています。 痛みはあまりないと言っていますが、これも抗がん剤による血管外漏出ですか? A 抗がん剤の血管外漏出として対処します。抗がん剤の血管外漏出の典型的な症状は、灼熱痛、紅斑、腫脹、 ライン内の血液逆流がない、自然滴下の消失ですが、血管外漏出のリスク因子(下記)がある場合、典型的 な症状が見られないことがあります。 ①高齢者(血管の弾力性や血流量の低下 ②栄養不良者 ③糖尿病患者 ④肥満患者(血管を見つけにくい) ⑤血管が細くて脆い患者 ⑥化学療法を繰り返ししている患者 ⑦多剤併用化学療法中の患者 ⑧循環障害のある四肢の血管(上大静脈症候群や 腋下リンパ節郭清後などの病変や手術の影響などで 浮腫を伴う患肢側の血管 ⑨輸液などですでに使用中の血管ルートの再利用 ⑩腫瘍浸潤部位の血管 ⑪放射線療法を受けた部位の血管 ⑫同一血管に対する穿刺のやり直し例 24時間以内に注射した部位より遠位側 ⑭創傷瘢痕がある部位の血管 ⑮関節運動の影響を受けやすい部位への穿刺 血管外漏出の主なリスク因子 抗がん剤が漏れた 起壊死性 抗がん剤 炎症性 抗がん剤 非炎症性 抗がん剤 直ちに抗がん剤の注入をやめる 抗がん剤の種類を確認する ①すぐに留置針を抜かず に、薬液や血液を吸引・ 除去 ②注射針・ルートの抜去 ③局所の処置 ・ステロイド剤+麻酔剤 の局注(左記参照) ・ステロイド軟膏塗布 ・アンスラサイクリン系の抗 がん剤(下記参照)漏 出時にはサビーンの投与 ・局注後は生食湿布 ④ステロイド外用剤の塗 漏れた量の確認 大量 少量 対症療法 注射部位の変更 消炎・鎮痛 記録 インシデント報告 高度漏出の際は、皮膚科へ相談 血管外漏出時の対応アルゴリズム 血管外漏出部位 注射範囲 ステロイド剤+麻酔剤の 局注は、漏出部位より 大きく、周囲より中心に 向かって、まんべんなく何 回も皮下に局注する。 ステロイド剤(+麻酔剤)の処方例 ①デキサート(1.65㎎)2A ②1%キシロカインポリアンプ1本のうち1㎖使用 ③生食20㎖1Aのうち3㎖使用(①②③の合計が 5㎖になるように調製する) アンスラサイクリン系抗がん剤 イダマイシン カルセド ダウノマイシン ドキソルビシン ノバントロン ビノルビン ファルモルビシン 起壊死性抗がん剤・炎症性抗 がん剤・非炎症性抗がん剤の 分類は医療安全・感染対策医 療スタッフマニュアル(第5版) p34参照ください。

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Page 1: OLIVE通信 第13号 - Kagoshima Unurse/images/olive_vol13.pdf · ・点滴の滴下速度の 減少はないか? ・蛇行している血管 ・末梢静脈ライン内の 血液逆流の消失は

OLIVE通信 第13号

Kagoshima University Medical and Dental Hospital Certified Nurse specialist Nurse Practitioner Certified Nurse

Magazine Vol. 13 OLIVE(オリーブ)とは・・・ 「ともに生きる」という意味があり、生きる力を支える・看護者として支援するという私たちの思いがあります。

今回は、がん化学療法看護についての特集です。 多く相談を受ける「抗がん剤の血管外漏出」について取り上げます。

抗がん剤による血管外漏出とは、静脈注射した薬剤や輸液が、カテーテルの先端の移動などによって、血管外の周辺組織に漏れた時に、組織の炎症や壊死をもたらすものです。 発赤、痛み 潰瘍、壊死

Q 抗がん剤の点滴更新時は、ライン内に逆血もあり、点滴の自然滴下も良好でした。しかし、抗がん剤投与中に 刺入部周囲が腫れています。 痛みはあまりないと言っていますが、これも抗がん剤による血管外漏出ですか?

A 抗がん剤の血管外漏出として対処します。抗がん剤の血管外漏出の典型的な症状は、灼熱痛、紅斑、腫脹、 ライン内の血液逆流がない、自然滴下の消失ですが、血管外漏出のリスク因子(下記)がある場合、典型的 な症状が見られないことがあります。

①高齢者(血管の弾力性や血流量の低下 ②栄養不良者 ③糖尿病患者 ④肥満患者(血管を見つけにくい) ⑤血管が細くて脆い患者 ⑥化学療法を繰り返ししている患者 ⑦多剤併用化学療法中の患者 ⑧循環障害のある四肢の血管(上大静脈症候群や腋下リンパ節郭清後などの病変や手術の影響などで浮腫を伴う患肢側の血管 ⑨輸液などですでに使用中の血管ルートの再利用 ⑩腫瘍浸潤部位の血管 ⑪放射線療法を受けた部位の血管 ⑫同一血管に対する穿刺のやり直し例 ⑬24時間以内に注射した部位より遠位側 ⑭創傷瘢痕がある部位の血管 ⑮関節運動の影響を受けやすい部位への穿刺

血管外漏出の主なリスク因子

抗がん剤が漏れた

起壊死性

抗がん剤

炎症性

抗がん剤

非炎症性

抗がん剤

直ちに抗がん剤の注入をやめる

抗がん剤の種類を確認する

①すぐに留置針を抜かずに、薬液や血液を吸引・除去 ②注射針・ルートの抜去 ③局所の処置 ・ステロイド剤+麻酔剤の局注(左記参照) ・ステロイド軟膏塗布 ・アンスラサイクリン系の抗がん剤(下記参照)漏出時にはサビーンの投与 ・局注後は生食湿布 ④ステロイド外用剤の塗布

漏れた量の確認

大量 少量

対症療法 注射部位の変更 消炎・鎮痛

記録 インシデント報告

高度漏出の際は、皮膚科へ相談

血管外漏出時の対応アルゴリズム

血管外漏出部位

注射範囲

ステロイド剤+麻酔剤の局注は、漏出部位より大きく、周囲より中心に向かって、まんべんなく何回も皮下に局注する。

ステロイド剤(+麻酔剤)の処方例 ①デキサート(1.65㎎)2A ②1%キシロカインポリアンプ1本のうち1㎖使用 ③生食20㎖1Aのうち3㎖使用(①②③の合計が5㎖になるように調製する)

アンスラサイクリン系抗がん剤 イダマイシン カルセド ダウノマイシン ドキソルビシン

ノバントロン ビノルビン ファルモルビシン

起壊死性抗がん剤・炎症性抗がん剤・非炎症性抗がん剤の分類は医療安全・感染対策医療スタッフマニュアル(第5版)p34参照ください。

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フレア反応

・症状:かゆみ・痛みや灼熱感は少ない ・皮膚色:血管に沿って、しみ・しま状の蕁麻疹状の紅斑 ・血液の逆流:通常ある。

静脈炎

・症状:疼くような痛み、締め付け感 ・皮膚色:血管に沿った紅斑or暗い色に変色 ・血液の逆流:通常はある。

発行:鹿児島大学病院 認定看護師会 編集:丸野なお子 (H27年12月9日)

血管外漏出に類似した症状との鑑別

対応:炎症の鎮静目的で冷罨法を行う。投与中に起こった場合、滴下速度を遅くして様子を見ることもある。

対応:局所のアレルギー反応であるため、30分以内に消失することが多く、様子を見る。

患者へ異常(点滴部位の違和感、疼痛、腫脹、灼熱感)を感じたらすぐに報告するよう指導しておくことが重要です。 また、抗がん剤投与後2.3日してから炎症症状が起こってくる場合もあり、そのことを伝えておくことが必要です。抗がん剤投与数日で退院される場合、自宅で抗がん剤投与部位の炎症所見が認められた際は、連絡をもらうように指導します。

例 「脱毛する抗がん剤を使うけど、キャップ、ウィッグの情報が足りないな。」 「抗がん剤の曝露対策、患者指導はどうしたらいいのかな。」

コンサルテーション方法 e-kanjaサマリ→認定看護師依頼票→がん化学療法看護

痛みの訴え ・灼熱痛(耐え難いような痛み)

刺入部の 視覚的変化 ・刺入部が赤い ・腫れている

輸液ラインの確認 ・点滴の滴下速度の減少はないか? ・末梢静脈ライン内の血液逆流の消失は ないか? ・自然滴下はあるか?

抗がん剤投与中は、点滴を更新する度に点滴速度及び刺入部の皮膚の変化をチェックします。

血管外漏出の早期発見ポイント 血管外漏出予防のために

血管確保は、①末梢から選択する ②太く弾力のある血管を選択する ③穿刺針の固定が容易な 部位を選択する

避けた方が良い部位 ・30分以内に穿刺した血管 ・肘関節窩 ・下肢静脈 ・利き手 ・出血斑や硬化組織のある部位 ・蛇行している血管 ・骨突出部位や関節付近 ・神経や動脈に隣接した部位

手背中手静脈

尺側皮静脈

橈側 皮静脈

背静脈弓

前腕正中皮静脈

橈側 皮静脈

尺側 皮静脈

固定が難しく、体動の影響を受けやすい部位患者の体動も妨げる

引用文献 抗がん剤の血管外漏出の予防と対応ガイド:監修 国立がん研究センター中央病院 田村研二、山崎直也、朝鍋美保子