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PTH ビタミンD の巻 PTH ビタミンD の巻 監修: 新柏クリニック 院長  木村 敬太 先生 CKD-MBDとは、 Chronic Kidney Disease-Mineral and Bone Disorder の略で、日本語では「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル 代謝異常」と訳します。 入門編

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PTHとビタミンDの巻

PTHとビタミンDの巻

監修:新柏クリニック 院長  木村 敬太先生

CKD-MBDとは、Chronic Kidney Disease -Mineral and Bone Disorderの略で、日本語では「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常」と訳します。

入門編

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カルシウム受容体

血中カルシウムが少ないとき血中カルシウムが多いとき PTH分泌増加PTH分泌抑制

「PTH」とは何ぞや?PTHは副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone)の略称です。副甲状腺(parathyroid)は、甲状腺の背面にある米粒程度の大きさの非常に小さな臓器です。ヒトは通常4つの副甲状腺を持っています。

PTHはここで産生・分泌され、血流に乗って全身に運ばれ、骨と腎臓に作用します。透析患者さんでは骨に対する作用が主になります。

PTH分泌のしくみ副甲状腺細胞は、『カルシウム受容体』という、血中のカルシウム濃度を感知するセンサーを持っています。血中カルシウム濃度が高いと、このセンサーが反応してPTH分泌は抑制されます。逆に血中カルシウム濃度が低いと、分泌は抑制されず、結果としてPTHの分泌は増加します。1)

PTHには骨からカルシウムを血液中に溶出させ、血液中のカルシウム(Ca)を増加させるはたらきがあり、この際にリン(P)も一緒に骨から放出されます。

Couchman L, et al. Clin Chem Lab Med. 2014;52:1251-1263. より作図

Leach K, et al.Trends Pharmacol Sci. 2015;36:215-225. より作図

1)永野 伸郎ら. 日本薬理学雑誌. 2008;132:301-308.

PTHのアミノ酸配列

カルシウム受容体

副甲状腺

甲状腺

骨骨血液血液

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カルシウム受容体減少

副甲状腺の肥大

血管石灰化

骨密度低下

P, Ca溶出

P, Ca定着

PTH過剰産生

PTH分泌抑制

P, Ca溶出P, Ca溶出

P, Ca定着P, Ca定着

P, Ca溶出P, Ca溶出

P, Ca定着P, Ca定着

血中カルシウムが増えたとき

PTH分泌増加

血中カルシウムが減ったとき

副甲状腺による血中カルシウム濃度の調節PTHは骨の細胞に作用し、骨からのカルシウム溶出を増やすはたらきがあります。この際、カルシウムとペアで貯蔵されているリンも一緒に骨から溶け出ていきます。血中のカルシウム濃度が上昇すると、副甲状腺がこれを感知し、PTH分泌は抑制されます。この反応により骨からのカルシウム溶出は減少し、血中カルシウム濃度は正常域まで低下します。逆に血中のカルシウム濃度が低い場合には、PTH分泌が増加して骨からのカルシウム溶出を増やし、血中カルシウム濃度を上昇させます。こうして、血中カルシウム濃度は一定に保たれます。

二次性副甲状腺機能亢進症透析患者さんに見られる二次性副甲状腺機能亢進症では、血中のカルシウム濃度を感知するセンサーであるカルシウム受容体の数が減ってしまい、血中カルシウム濃度が上昇してもPTHの分泌が抑制できなくなっています。また副甲状腺自体も細胞の増殖により大きくなっています。このため過剰なPTHが分泌され続ける結果、骨から大量のリン・カルシウムが溶出され、骨が脆くなる(線維性骨炎)、高カルシウム血症、高リン血症、余剰なリン・カルシウムの沈着による血管石灰化などCKD-MBDに特徴的な病態につながります。

:Ca:P

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OH

H3CCH3

CH2

HO

CH3

CH3H

H

H3CCH3

CH2

HO

OH

CH3

CH3H

H

ビタミンDの化学構造 活性型ビタミンDの化学構造

「ビタミンD」とは何ぞや?

ビタミンDは、腸からのリン・カルシウムの吸収を増やし、丈夫な骨を維持するのに必要なビタミンです。また、最近では脳や筋肉、免疫系などの機能維持にも役割を持つことが分かっており、健康を保つために欠かせない物質の一つと言えます。2)

「活性型ビタミンD」は体の中で作られる

ビタミンDは魚、キノコ類(特にキクラゲ、干しシイタケ)などに多く含まれ、食事から摂取されるほか、コレステロールを原料に、日光の紫外線の作用を借りて皮膚内でも作られています。

ビタミンDが作用を発揮するためには、この後さらに肝臓と腎臓で活性化され、活性型ビタミンDへと変化することが必要です。

活性型ビタミンDは、腸から吸収されるリン・カルシウムを増やして骨を丈夫にします。

ビタミンDが不足する傾向にあり、さらにビタミンDから活性型ビタミンDを作る力も弱まっています。

ビタミンDの不足や過剰で起こる病気ビタミンDが不足すると、丈夫な骨を作ることが出来なくなり、小児では成長障害や骨の変形(くる病)、成人では骨の痛みや骨折(骨軟化症)が起こります。高齢者においては、ビタミンD不足状態が長期にわたって続くと、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まります。一方、ビタミンDを過剰に摂取すると、血液中のカルシウム濃度が異常に高まり、嘔気、倦怠感、意識障害、腎障害などの中毒症状が生じます。

2)Jean G, et al. Nutrients. 2017;9:328-334.

小椋 陽介. 日本内科学会雑誌.1978;67:683-693.

~PTHとビタミンDの巻~ 入門編

ビタミンDを多く含む食物

紫外線

プロビタミンD

ビタミンD

腎不全患者さんでは・・・・

肝臓で付加

腎臓で付加

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FGF23

FGF23

FGF23

活性型ビタミンDは、腸から吸収されるリン・カルシウムを増やすはたらきがあるPTHは、骨から血中へ溶け

出すカルシウムを増やすはたらきがある

FGF23は腎臓に作用し、尿中へのリン排泄を促進する

副甲状腺PTH製造装置

腎臓リン・カルシウムの出口活性型ビタミンD製造装置

腸リン・カルシウムの入口

骨リン・カルシウムの貯蔵庫

カルシウム濃度を感知するセンサー

(カルシウム受容体)

PTHの産生を抑制

PTHの産生を抑制

活性型ビタミンDの産生を促進

カルシウム排泄を抑制

リン排泄を促進

活性型ビタミンDの産生を抑制

骨形成

骨吸収

3)永野 伸郎ら. 日本透析医学会雑誌. 2013;46:519-533.

生命活動を維持するためには、血中のリン・カルシウム濃度を一定に保つ必要があります。本巻に登場したPTHとビタミンDは、協調してこの重要な役割を担っています。リン・カルシウムは腸管から吸収され、不要な分は尿中に捨てられます。骨は貯蔵庫としての機能を持ち、必要に応じリン・カルシウムを貯蔵、放出しています。活性型ビタミンDは、リン・カルシウムの腸管からの吸収を、PTHはカルシウムの骨からの出入りを調節し、血中のリン・カルシウム濃度のバランスを保っています。また、PTH、ビタミンDはリン・カルシウムの腎臓からの排泄にも影響を与えています。さらに最近では骨から分泌されるFGF23(fibroblast growth factor 23:線維芽細胞増殖因子23)という物質が、腎臓からのリン排泄に重要な役割を果たしていることが分かってきました。3)

PTHと活性型ビタミンDによる血中リン•カルシウム濃度の調節

~PTHとビタミンDの巻~ 入門編

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OKD00512020年2月作成

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