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2009.5.12 少子化と教育費 少子化と教育費 小林雅之 東京大学 大学総合教育研究センター

少子化と教育費 - Cabinet Office...2008 年にグラントを導入(生活保護世帯,地方など) 2009.5.12 少子化と教育費 18 日本学生支援機構奨学生数の

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2009.5.12 少子化と教育費 0

少子化と教育費

小林雅之

東京大学 大学総合教育研究センター

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2009.5.12 少子化と教育費 1

発表内容

少子化と教育費の関連

重い教育費負担と「無理する家計」

授業料の高騰と諸外国の奨学金改革

ローン負担とローン回避

提言1 奨学金の予約制の拡大

提言2 所得連動型ローン・給付型奨学金(返還免除)・教育減税の必要

提言3 一人ひとりに応じたきめ細かな対応の必要

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2009.5.12 少子化と教育費 2

少子化と教育費の関連

少子化の原因のひとつは,重い教育費の家計負担にある。

様々な調査(社会保障人口問題研究所(2005)や「社会意識に関する調査」(2008)など)の結果

多くの研究で指摘されている(鈴木他(2007),山口(2005)など)。

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2009.5.12 少子化と教育費 3

教育費負担の各国比較

3022 21 21 20 20 15 12 11 5 5 4 0

5969

7867 73

8080

7589

94 91 92 97

12 9

0

126

0 5

13

1 1 4 4 3

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

韓国

日本

ニュージーランド

アメリカ

オーストラ

リア

メキシコ

イギリス

カナダ

スペイン

ギリシャ

オランダ

デンマーク

スウェーデン

その他私的

公的

家計

OECD, Education at Glance, 2008

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2009.5.12 少子化と教育費 4

高等教育費負担の各国比較

53 52

36 36 3531

25 23 22 19 18 14 12 10 7 3 00

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

日本

韓国

オーストラ

リアアメリカ

イスラエルメキシコイギリス

ポルトガ

カナダスペインイタリー

アイルランド

オランダフランス

ハンガリー

デンマークギリシャ

その他私的

公的

家計

データ:OECD, Educaiton at Glance, 2008.

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2009.5.12 少子化と教育費 5

所得分位別教育費を負担しようとする高3保護者の意志

83 1 1 1

85 5 2 1

16

13

84 1

23

1815

10

6

10

14

11

11

8

20

24

26

22

23

51

58

69

77

87

33 34

40

48

61

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

-400 -600 -800 -1000 1000- -400 -600 -800 -1000 1000-

学費 生活費

全額負担するつもり

5割

全くできない

(データ)学術創成科研「保護者調査」2005年11月

教育費を負担しようとする強い意志=無理する家計

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2009.5.12 少子化と教育費 6

所得分位別中3成績別大学進学率

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

-400 -600 -800 -1,000 1,000-

下中の下中中の上上

家計所得

(データ)学術創成科研「高校生調査」2005年11月,2006年3月

所得階層別進学率の格差が小さいのは無理する家計の存在による

中3成績

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2009.5.12 少子化と教育費 7

教育費=学費+生活費

70

132

64

135

35

40

113

112

0 50 100 150 200 250 300

国立自宅

私立

国立アパート

私立

学費生活費

105

172

177

247

万円

(データ)日本学生支援機構「学生生活調査」2006年度

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2009.5.12 少子化と教育費 8

国立大学授業料の推移

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

700,000

800,000

900,000

1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000

年度

授業料

入学金

初年度 納付金 計

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2009.5.12 少子化と教育費 9

私立大学授業料の推移

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

1,400,000 1975

1976

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

年度

国立 授業料

私立 入学金

私立 施設設備費

私立 初年度 納付金 計

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2009.5.12 少子化と教育費 10

授業料の家計負担無理する家計の無理は続くか?

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004

年度

国立大学 初年度納付金/第I分位

国立大学 初年度納付金/第V分位

私立大学 初年度納付金/第I分位

私立大学 初年度納付金/第V分位

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2009.5.12 少子化と教育費 11

少子化対策としての教育費負担の軽減

少子化対策として,教育費の家計負担を軽減することは大きな意味がある。将来の教育費に対する負担感が強く,子どものファイナンシャル・プランを立てにくい状況にある。子どもの将来に希望をもたせること,とりわけ明るい将来見通しを示すことが重要となっている。このためにも,教育機会を保証することは大きな意味がある。

教育費負担の軽減のためには,将来を見通したファイナンシャル・プランを立てられるような経済的支援とりわけ奨学金が最も効果的である。

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2009.5.12 少子化と教育費 12

各国の授業料/奨学金政策

高奨学金

低奨学金

高授業料低授業料

アメリカ公立旗艦大学

イギリス大学(1980年代)

日本私立大学日本国立大学(1970年代)

中国国立大学(1980年代)アメリカ私立大学

中国私立大学

ヨーロッパ国立大学

アメリカ公立大学

スウェーデン

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2009.5.12 少子化と教育費 13

授業料/奨学金政策の推移

高奨学金

低奨学金

高授業料低授業料

エリート養成

人材養成+教育機会

教育費の私的負担

教育需要への対応

教育費の公的負担

学生獲得

収入増

費用負担の分化

教育費の公私分担

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2009.5.12 少子化と教育費 14

各国の改革に共通の動向

授業料と奨学金のセット改革

高授業料・高奨学金政策ハーバードなど 定価授業料3.3万ドル,実質は7千ドル

教育費分担のシフト

もともとは公的負担の比重が高かったが,公的負担から私的負担へ,グラント(給付奨学金)からローンの比重の拡大→親負担から子負担へ

再びグラントの重視へ

ローンの回収スキームの改革

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2009.5.12 少子化と教育費 15

授業料の徴収と値上げ授業料の徴収

オーストラリア 1989年 HECS導入イギリス 1998年より授業料徴収ドイツ 一部の州で一部の長期在学学生などから授業料徴収

授業料の大幅値上げ

アメリカ私立大学・アメリカ公立旗艦大学

イギリス 2006年より3,000ポンドに,現在3,225ポンド中国 高騰のため,国公立大学は上限設定6,000元韓国 高騰が社会問題化(ソウル地区の国公私立大学)

背景

高等教育のマス化

公財政の逼迫

学生1人当たりの教育コストの上昇

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2009.5.12 少子化と教育費 16

授業料と奨学金のセット改革

オーストラリアのHECS(Higher Education Contribution Scheme)授業料相当額の卒業後後払い制度

アメリカの大学の高授業料/高奨学金政策大学独自給付奨学金により授業料をディスカウント私立大学から公立旗艦大学へ普及

イギリスの2006年度からの改革2006年度 各大学が授業料設定(最高3,225ポンド)9割の大学が3,225ポンドと設定2,700ポンド以上の授業料を設定した場合,大学独自奨学金(0~5,000ポンドを提供する義務受給基準,受給額は各大学が設定政府給付奨学金(maintenance grant)の拡大スチューデント・ローン・カンパニーの教育ローンの大幅拡大以上により授業料と生活費をカバーする

スウェーデン授業料無償,生活費はグラントとローンでカバー(学生自身の支出なし)

教育機会均等のための施策

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2009.5.12 少子化と教育費 17

グラント(給付奨学金)からローンへの移行,さらにグラントの重視へ再転換

アメリカ

1960年代以降,グラントが連邦学生援助の中心1990年代に連邦グラントより連邦ローンの金額の方が多くなり,機会均等と教育費負担が問題化

ブッシュ政権(第2期)とオバマ政権はグラントを重視に転換

イギリス

1990年代まで半額給付奨学金,半額ローン1998年にグラントを廃止,すべてローンに2004年に,グラントを復活

中国

1990年代にローンを大幅に導入2000年代に入り,グラントを強化

韓国2006年までローンを大幅に拡大2008年にグラントを導入(生活保護世帯,地方など)

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2009.5.12 少子化と教育費 18

日本学生支援機構奨学生数の推移

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

400,000

450,000

500,000

1968

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

年度

大学一種

大学二種

短大一種

短大二種

修士

博士

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2009.5.12 少子化と教育費 192009.2.19 比治山大学 19

奨学金は教育費負担を軽減しうるか

奨学金はどの程度必要とされているか

奨学金は必要に応えるだけ受給されているか

将来のローン負担を恐れて奨学金に応募しないのではないか

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2009.5.12 少子化と教育費 20

所得分位別アルバイト・奨学金の必要性(保護者)

2217 19 18

13

2520

16 148

6570 68

66

61

50

5153

47

44

10 9 1011

1617

20 22

25

26

3 3 35

10 8 9 1014

22

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

-400 -600 -800 -1000 1000- -400 -600 -800 -1000 1000-

アルバイト 奨学金

全く必要でない

必要でない

必要

不可欠

所得

学術創成科研「保護者調査」2005年

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2009.5.12 少子化と教育費 21

所得分位別・母学歴別貸与奨学金(ローン)を借りたくない

データ:学術創成科研「保護者調査」2005年

6 5 5 7 9 5 6 6 8 14

3330 33

3741 45

34 3439

43

52 58 5551

46 4154 54

46 29

9 7 7 6 58 7 6 7

14

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1 2 3 4 5

中学校

高校

短大・高専

大学

大学院

家計所得5分位 母学歴

全くそうは思わないそうは思わないそう思う強くそう思う

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2009.5.12 少子化と教育費 22

ローンの回収スキーム

ローンの負担を軽減させ,回収率を上げる方法が重要所得連動型(Income Contingent)返済卒業後,所得に応じて支払う英 所得の0~3.6%, 豪HECS 所得の0~8%最低額以下の所得場合,返済を猶予(英豪とも約300万円)一定期間や一定年齢で返済を免除する場合も所得から源泉徴収される場合が多い豪HECS,イギリス,スウェーデン,アメリカなどで採用されている豪と英はインフレスライド分のみで実質的には無利子アメリカでは高利子負担のため所得連動型は人気がない(全体の7%程度)

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2009.5.12 少子化と教育費 23

教育費問題を考える視座

これからの世代は,教育費だけでなく,介護,医療,年金など,負担が重くなる。さらに,自分の教育費も支払わなければならないとすれば,負担増を恐れて,進学を選択しない恐れがある。これは,個人として,能力を生かせないという損失を生むだけでなく,社会全体も人材の損失を招くことになる。

このように,教育費と少子化の問題は,時間的にも3世代にわたる長期的な視野が求められるとともに,空間的にも,教育の問題だけでなく,福祉や経済などの問題として,広く捉えることが必要である。

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2009.5.12 少子化と教育費 24

提言1 日本学生支援機構の予約奨学制度の拡大

予約奨学制度は進路選択に効果があると考えられる入学後のファイナンシャル・プランを立てられる安心して進学準備

在学時採用大学が推薦することで,大学の望む学生に奨学金を受給学業を励行する効果予約奨学生でも学業成績などのチェックは可能

大学進学機会の保障のためには,予約奨学制度の拡大の方がメリットが多いと考えられる

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2009.5.12 少子化と教育費 25

提言2 所得連動型ローン・公的給付奨学金・教育減税の必要性

日本の学部生に対する公的奨学金は学生ローンのみでグラントはほとんどない(各国の中ではきわめて異例)ただし,授業料減免と日本学生支援機構無利子奨学金は大きな特色日本学生支援機構奨学金返還免除は実質的に給付奨学金として機能していたが,教職特別免除は,1997年に廃止,大学院研究職についても2004年度に廃止現在は大学院生についてのみ,大幅に返還免除が拡大

高等教育機会の均等のために返還免除や給付奨学金は必要ローン未返済のペナルティ強化だけではローン負担の増大を恐れて,進学選択に影響するため,所得連動型ローンの導入が望ましい学力があり進学が可能でありながら経済的理由やローン負担問題で進学できない者のための給付奨学金と組み合わせる必要

教育減税なども実質的には給付奨学金として機能,導入を検討する必要ただし,減税の恩恵を被らない低所得層にはあまり効果がないことも考慮する必要

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提言3 一人ひとりに応じたきめ細かな対応の必要性こうした所得連動型ローン,返還免除,給付奨学金は,所得や家計の状況(在学中の兄弟姉妹,母子家庭など)や学力を考慮して一人ひとりきめ細かな受給基準で決定する必要がある教育費と少子化の関連についての研究によれば,高所得層ほど,子ども1人当たりにかける教育費は高い。また,第1子や第2子に比べ,第3子にかける教育費は少ない。

このため,単純に教育費負担を軽減しても,子どもの数を増やすのではなく,ひとり当たりの子どもにかける教育費を増やす可能性がある。

これを制限するためには,子どもの数を考慮した教育費の軽減策をとる必要がある。たとえば,日本学生支援機構の奨学金は,在学中の兄弟姉妹数と世帯人数や母子家庭など家族の状況によって,受給基準の所得金額を引き下げる控除がある。返還免除や給付奨学金や教育減税についても,同じように,子ども数などに応じて額を変化させる。

このように,単なる教育費負担の軽減ではなく,子ども一人ひとりに対応する,よりきめの細かい施策が必要である。

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2009.5.12 少子化と教育費 27

参考文献

鈴木俊裕他 2007年 『教育費が少子化にあたえる影響』慶應義塾大学樋口美雄研究会社会保証班。

山口一男 2005年 『少子化の決定要因と具体的対策』経済産業研究所。

小林雅之 2009年 『大学進学の機会』 東京大学出版会。

小林雅之 2008年 『進学格差』 ちくま新書。

小林雅之編 2008年『奨学金の社会・経済効果に関する実証研究』東京大学大学総合教育研究センターものぐらふ。

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資料4-2

アメリカ イギリス オーストラリア スウェーデン ドイツ 中国 韓国 日本

20-100万円 0-48万円 33-69万円 登録料(数千円) 18-35万円 59-61万円

(2005年の平均は63万円)

大学・専攻によって異なる

バンドによって異なる 一部の州で一部の学生から授業料

入学金4分割として計算

入学金4分割として計算

授業料支払い 前納,在学中 卒業後 (所得連動型ローン)

卒業後 (所得連動型ローン)

なし 前納,在学中,未払いの場合学位記を出さない

前納,在学中 前納,在学中

公的給付奨学金受給率 約44% 約6割 少数 学生援助全体でほぼ全員

約16% 10%程度か 授業料免除・基礎生活者奨学金

(授業料減免者2.7%)国立大学で授業料収入の約6%

平均受給年額 35万円 0-75万円 多額 最大39万円(9ヶ月) 約52-65万円(半額給付)

6万円 基礎生活者奨学金30万円

(国立大学の場合は授業料年額56万円(半額28万円)相当)

主な学生ローン スタッフォードローン 授業料ローン+生活費ローン

HECS (高等教育拠出金制度)

生活費ローン BaföGの奨学金 国家助学ローン 政府保証ローン 日本学生支援機構

主体 連邦政府(直接ローン)金融機関(政府保証ローン)

スチューデント・ローン・カンパニー(SLC)

政府 CNS(学生支援機構) 銀行 KHFC(韓国住宅金融公社)(国民銀行他14銀行に委託)

日本学生支援機構

最大限度年額 利子補給85万円,利子補給なし約200万円

129万円 授業料相当額 73万円(9ヶ月) 9万円 26万円 120万円

平均受給年額 51万円 授業料ローン45万円,生活費ローン53万円

授業料相当額 約52-65万円(半額給付)

11万円 第一種奨学金(無利子)は54-78万円、第二種奨学金(有利子)は36-144万円)

公的教育ローン受給率 約3割 8割以上 授業料相当分全員 78% 16-30%(地域差が激しい)

50%が目標 約3割

支払方法 主として4種類 所得連動型(年間所得225万円の超過9%)

所得連動型前払い割引

所得連動型所得の5%

均等型

口座振替他

均等型(利率固定方式と利率見直し方式の選択)

徴収方法 小切手等 雇用主から徴収 国税局 小切手・口座振込 口座引落し・振込

利子率 在学中無利子/有利子(固定金利3.4~8.5%)

実質無利子 実質無利子 政府利子率の7割 7% (低所得者は、0%や2%となることあり)

無利子と有利子(3%以下)

返済猶予 一部のみ(経済的事由により最大3年まで。猶予中も利子が生じる。)

一定所得(225万円)以下

一定所得以下(本人の収入が一定以下の年は返還義務なし。配偶者や両親の収入は考慮せず。)

一定所得以下(収入により返還額が減額)

一定所得以下(本人の所得月額が一定以下の場合は返還が延期)

一部のみ(在学、災害(り災)、傷病等)最長5年

政府補助 一部在学中利子補給 利子補給(インフレ率を超える利子)

利子補給 利子補給 (利子率の30%)

50%利子補給 一部利子補給(低所得層等)

利子補給(有利子貸与は猶予期間中など)

換算率 1ドル=100円 1ポンド=150円 1ドル=85円 1クローネ=18円 1ユーロ=139円 1元=15円 1ウォン=0.07円

国(公)立大学授業料 無償 上限約8万円

各 国 の 授 業 料 と 奨 学 金