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〔書 評〕 弘前大学経済研究第 28 52-56 2005 12 Z7HaroldCheewithChrisWest MythsAboutDoingBusinessinChina P ALG RA VEMACMILLAN /2004 年/ 162 頁/ 本体27 米ドル/ISBNl-4039-4458-X 評者は ,2005 年に幸運にも 中国を代表する先 進二大都市を訪れる機会を得た。そこで痛切に 感じたことは,背後に恐ろしく巨大な「国家力J を穣らせているメトロポリタン北京,地下から 涌きあがるような力強い「地域力jを顕著化し ている上海,遡れば「東方見聞録」が書かれた 時代以来,世界は永きにわたりこの国に対し様 々な想いを抱いてきたであろうということであ る。 現在もこの中国経済に対する世界の見方は様 々な視角から何通りも存在する。すなわち,今 後も持続的発展を継続していくという見方や, WTO 加盟により世界経済の中心へ突き進むと いう見方や,発展途上の中国経済は,地方の低 所得・低賃金の労働者に支えられており貧困地 域は無くならないという見方や,現在の急激な 経済発展はバブルであるという見方等々が存在 する 。 また.中国社会や中国人に対する見方も 何通 りも存在する。すなわち,儒教の教えが色濃 く のこ っており仁義を重んじる風土であるという 見方や,その一方で賄賂が横行している 不正社 会であるという見方等々が存在する 。 このように,中国の経済や社会や人々に対す る何通りもの見方がある中で,その真意を見極 ※弘前大学大学院地域社会研究科 (博士後期課程)地威産 業研究講座 Regional IndustrialStudies. RegionalStudies (Doctoral Course), GraduateSchoolofHirosakiUniversity 剛治めることは .実際に 中国でビジネ スをおこなう 者にと っては事業成否 にかかわる 重要なことで ある 。 本書は 。 このように 中国 の経済や社会や人 々 に対して何通りもの見方がある 中で,中国でビ ジネス展開を推進していくにあたり,成功のた めの背景知識を明記した実務書である。 しか し実務書でありながら経済書,歴史書,文化 風俗書の性格も有している。その理由として, 未知の要素が多 い複雑系中国社会に切り こむた めには。方法論的複眼が必要である ということ から,著者は本書に実務以外の ジャンルを導入 したものと思われる。 本書は 2 人の実務経験者によ って書かれてい る。HaroldChee は,長年,中国での企業勤務 経験を有し現在ビジネススクールで,中国ビ ジネスに関してのマーケティング論とリーダー シップ論を教授してい る。 また, ChrisWest 中国の企業家やビジネスを題材としている執筆 家であり, 1985 年以来,定期的に中国を訪れて いる 。 構成にあた っては各章ごとに Myth(俗説)と Real ity (実際の状態)を対比する形で記述・展開 されているので,具体的に対中ビ ジネスにおい て直面するケースがリア/レに理解することが可 能であり,その点が同種他書との比較優位を有 しているといえる 。 また ,欧米人からの視角で 記述されているため,我々日本人にと っては新 鮮に映るア プローチがみられる。中国進出をお -52-

Myths About Doing Business in China

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Page 1: Myths About Doing Business in China

〔書 評〕 弘前大学経済研究第28号 52-56頁 2005年 12月Z7日

Harold Chee with Chris West著

Myths About Doing Business in China P ALG RA VE MACMILLAN /2004年/162頁/

本体27米ドル/ISBNl-4039-4458-X

評者は,2005年に幸運にも中国を代表する先

進二大都市を訪れる機会を得た。そこで痛切に

感じたことは,背後に恐ろしく巨大な「国家力J

を穣らせているメトロポリタン北京,地下から

涌きあがるような力強い「地域力jを顕著化し

ている上海,遡れば 「東方見聞録」が書かれた

時代以来,世界は永きにわたりこの国に対し様

々な想いを抱いてきたであろうということであ

る。

現在もこの中国経済に対する世界の見方は様

々な視角から何通りも存在する。すなわち,今

後も持続的発展を継続していくという見方や,

WTO加盟により世界経済の中心へ突き進むと

いう見方や,発展途上の中国経済は,地方の低

所得 ・低賃金の労働者に支えられており貧困地

域は無くならないという見方や,現在の急激な

経済発展はバブルであるという見方等々が存在

する。

また.中国社会や中国人に対する見方も何通

りも存在する。すなわち,儒教の教えが色濃く

のこ っており仁義を重んじる風土であるという

見方や,その一方で賄賂が横行している不正社

会であるという見方等々が存在する。

このように,中国の経済や社会や人々に対す

る何通りもの見方がある中で,その真意を見極

※弘前大学大学院地域社会研究科 (博士後期課程)地威産

業研究講座

Regional Industrial Studies. Regional Studies (Doctoral

Course), Graduate School of Hirosaki University

剛治※

めることは.実際に中国でビジネスをおこなう

者にと っては事業成否にかかわる重要なことで

ある。

本書は。このように中国の経済や社会や人々

に対して何通りもの見方がある中で,中国でビ

ジネス展開を推進していくにあたり,成功のた

めの背景知識を明記した実務書である。 しか

し実務書でありながら経済書,歴史書,文化

風俗書の性格も有している。その理由として,

未知の要素が多い複雑系中国社会に切り こむた

めには。方法論的複眼が必要であるということ

から,著者は本書に実務以外のジャンルを導入

したものと思われる。

本書は 2人の実務経験者によ って書かれてい

る。HaroldCheeは,長年,中国での企業勤務

経験を有し現在ビジネススクールで,中国ビ

ジネスに関してのマーケティング論とリーダー

シップ論を教授している。また, ChrisWestは

中国の企業家やビジネスを題材としている執筆

家であり, 1985年以来,定期的に中国を訪れて

いる。

構成にあた っては各章ごとにMyth(俗説)と

Reality(実際の状態)を対比する形で記述 ・展開

されているので,具体的に対中ビジネスにおい

て直面するケースがリア/レに理解することが可

能であり,その点が同種他書との比較優位を有

しているといえる。また,欧米人からの視角で

記述されているため,我々日本人にと っては新

鮮に映るアプローチがみられる。中国進出をお

- 52 -

Page 2: Myths About Doing Business in China

Myth About Doing Business in China

こなう企業の方や,地域交流を進める自治体の

方にお勧めしたい著書である。

本書は 10の章から構成される。それぞれの

Mythごとに纏まりのある構成となっている。

それゆえ,章によってそのタイトルは実際の状

態とは逆を表記していることがあるということ

になる。以下に記述するようにその内容から大

きく 3つのカテゴリーに分けることができる。

第 lのカテゴリーは,第l章 “Onemarket:

1.3 billion people (『13億人の単一市場?』)”,第

2主主“The Chinese market will grow forever

(『成長の止まらない中国市場?』)”,第 3章

“The market is easy (『中国市場への参入は容

易かつ』)”から構成されている。

第 1章では,まず地理 ・環境的視角のアプ

ローチから中国市場について述べている。著者

は,中国はヨーロッパ大陸と同等の国土面積

(約9印万km')を有しているが, 山脈と砂漠が

大半を占め,耕作に適する土地は全体の約 7%

しかないという。また,著者は言葉の問題も指

摘している。すなわち,多数民族である漢族が

使用する漢語は呉語,福建語,広東語,客家語

等,多くの方言に分かれており意志疎通の障

害にもなるということである。さらに,著者は

人口問題ではその住居地域と年齢構成に着目し

ている。現在,中国全人口の約36%(約 5億 2

百万人)が都市部に住み,その約半数が人口 75

万人以上の 88都市に住んでいる。著者は,この

時点での人口増加は抑止されつつあるが問題は

その構成であるという。すなわち, 2025年には

約 5億 2千6百万人が50歳以上となる予測(20

歳~49歳は約 5億 9千 8百万人, 20歳以下は約

2億7千 8百万人)をし,すさまじい高齢社会

の到来とその状況から予測されるであろうマー

ケティング上の様々な負の現象を危倶している。

第 2章は中国市場の経済発展動向について述

べている。これまで中国は20数年間にわたり,

低物価,低労働賃金,低税率を背景に外国資本

設備投資を積極的に受け入れることにより経済

開発に注力し各産業分野において急成長を成し

遂げてきた。著者はこのような中国の今後の経

済発展についてポジティブ,及びネガティブな

2つのシナリオを描いている。著者はシナリオ

の各状況のポイントを絞り現状を記述した上

で,中国経済発展動向についての自身の考えを

まとめている。すなわち,中国は今後も経済成

長はしていくであろうが,いくつかのセクター

はバブルであり,特に金融が心配であるとして

いる。 しかし, 日本の金融システムと中国の金

融システムを比較検討しつつ. 日本の金融シス

テムの長所を参考にして,中国の遅れている金

融システムを解決していくことが将来の中国経

済の繁栄につながると主張している。

第 3章は中国市場に既に参入しビジネス活動

をおこなっていく際の市場状況の実態が述べら

れている。著者によれば, 一見,容易に中国市

場にアクセス可能な印象をもっ傾向にあるが,

実際は,既に非常に競争が激しい市場状況と

なっているという。なぜなら世界の著名な大

企業は参入を果たし済みであり,現存の中国企

業も競争者としてしのぎを削 っている状況だか

らである。著者は,近年において,中国企業の

躍進が極めて顕著であるという。例えば, 1990

年代後半まで中国のテレビ販売市場でのトップ

ブランドであったのはパナソニックであった

が, l叩9年にはその売り上げ上位5社は全て中

国企業となったという。一方。中国特有の宮僚

的風土もビジネスに影響を与えているという実

態も記述している。周知のとおり中国は,社会

主義市場経済というスタンスで国家を運営して

いる。大きく変化する市場に照応しつつ法律は

常に変化し,商的規制も随時変わっていく 。著

者は,このような舵取りの難しい市場に単独で

参入することはリスクが大きいという。成功し

ている多くの外国企業同様にビジネスコンサル

タントの必要性を説き注意を促している。

このように,第 lのカテゴリーでは中国市場

の基本的な概略を述べている。特に,第 2章,

- 53ー

Page 3: Myths About Doing Business in China

第 3章から,これまでの先進国間のみでの経済

循環では経済発展が行き詰るがゆえに,いかに

して発展途上国との聞に強い経済循環を造り上

げていくことが肝要であることを評者として教

示された。

第 2の カ テ ゴ リーは,第4章“China1s

Westeming (『欧米化 しつつある中国つ』)”第 5

章“Guanxiis a time-corns山 ningsideshow to

the real business of business (「関係」はビジネ

ス展 開 のためには 邪 魔者つ)”第 6章“The

Chinese are irrationally xenophobic (『中国人の

外国人嫌いは不合理つ』)”第 7章“The

Mask of Fu Manchu . the myth of inscrutability (小型上のE遂の中国人のこと)

(『フー・マンチュウの神話 「謎」の真実?』)”

第 8章“Rulesare rules negotiating in China

is like negotiating everywhere else (『共通原

則 交渉術は不要つ』)” から構成されている。

第 4章では,欧米化が進む中国の風土が述べ

られている。企業マネジメン卜手法はもちろ

ん,ファッション,音楽,ウエディングスタイ

ル等の文化面でも大きな変化を遂げているとい

う。中国は 1978年より改革開放政策を打ち出

し,とれにより経済改革が始まった。それ以来

今日まで高度経済成長を維持しているが,この

改革は単なる欧米への市場移行ではないと著者

は指摘する。独自の中国的市場創造を目指した

ものだという。その一例として著者は, ビジネ

ス社会でも儒教の教えを継承しているように特

異な現象がみられることを挙げる。主従関係

親子関係,夫婦関係,友人関係などの血筋や人

脈を重視する風土がそれである。表面上でマス

ターされた様々な中国式方法によって外国人が

対応することには期待せず, 自分たちへの畏敬

の念を抱いて対応することに期待しているとい

つ。

第 5章では,中国特有の概念である Guanxiに

ついて述べられている。中国での最も重要な概

念に Guanxi(日本でいう 「関係」)があると著者

は指摘する。ネットワーク,コネク ション, リ

レーションシップ,信頼などが合意である。 し

かし欧米の同義語とはコンセプ卜を異にする。

ここでいうネットワーク等は,長期間の関係と

幅広い範囲の関係を基礎としたものである。ま

たその関係も欧米的グループ関係ではなく個人

の関係を重視するという。個人関係の利得が組

織の利得より重要視される。初めて中国で車を

生産した GMや,保険契約で参入したAIGなど

中国市場で成功した外資企業はこの Guanxiの

概念を上手くビジネスで利用 したと述べてい

る。

第6章では,中国と諸外国との歴史的関わり

から考察を試みている。中国と諸外国の関係

は,東インド会社との取引に始まる。アヘン戦

争での敗北,また日清戦争,朝鮮戦争, ソ連と

の国境紛争やベトナム戦争などの直接参加や間

接参加の歴史背景がある。著者によればこれま

で外国に対する不信感は確かに存在していたと

いう。特に日本に対しては第二次世界大戦時の

行為が尾を引いており,歴史教科書の問題等で

政治問題化していることから, 日本企業も中国

人労働者に対し注意喚起せねばならない旨を主

張している。著者によれば.一般論として,外

国人側も畏敬の念,謙譲の心をもって中国人と

接しなければならないと結んでいる。

第 7章では,一般的に不可解なイメージのあ

る中国人に対する記述が中心的に述べられてい

る。著者は一般的に不可解といわれている中国

人をそうでないと否定し,中国の伝統的アプ

ローチである交渉術を理解することが重要であ

ると結んでいる。つまり文化の違いが不可解を

もたらす理由だということである。このことに

ついては,コミュニケーション方法を事例とし

て欧米社会との比較において分析をおこなって

いることから導きだしている。その分析によれ

ば,著者は世界には文化により,論理性を重視

する国と叙情性を重視する固とに分けられる

が,中国は日本と同様に叙情性に重きをおいて

いる国であると指摘している。それゆえ,十分

54ー

Page 4: Myths About Doing Business in China

Myth About Doing Business in China

に口頭で明確に意思を伝えないコミュニケー

ション手法が誤解をまねくという。また中国で

は徐々に人間関係を築いていくなかでビジネス

コミュニケーションを展開していくが,欧米で

はそうではないと述べている。

第 8章では, ビジネスにおける交渉ごとにつ

いて具体的に記述している。中国におけるピジ

ネス交渉プロセスは次のとおり集約される。①

まず会合にて互いの役職,業務内容,個人の

パックグラウンド等を話す.②次の展開方法と

して,可能な限り 「会話jをし,情報交換をし,

相手に好意の有り無しを感覚的に表現し伝え

る,③互いに焦点を絞り,共通の土台で同意事

項を模索していく,④最後に両者がメリットを

あげるシナリオを作成し同意に至る。つまり,

論理性,結果主義,満足度主義といった欧米の

スタンスとは全く逆であると述べている。つま

り,第 5章で述べたGu紅立1の概念をくみつつ前

述のビジネス交渉プロセスを踏まえていくこと

が肝要であるということである。

このように 1 第 2のカテゴリーでは中国での

ビジネス展開において,中国の伝統的文化とい

うものを充分に配慮、して取り組まなければなら

ないことを主張している。したがって,中国へ

のビジネス参入には第4章から 8章までのこと

を深慮しつつ,適応性のある自分自身の方法論

を確立させていかなければならないのである。

第3のカテゴリーは,第 9掌“Chinese

business people are not凶 stworthy(『中国ビジ

ネスマンは信頼ならないつ』)”第 10章“The

Chin巴seare di血cultto manage (『中国人は扱い

にくい っ』)”から構成されている。

第9章では,中国ビジネスにおける人的資源

管理についてまず記述されている。また,社会

主義市場経済における官僚とビジネスとの問の

汚職問題も取り扱っている。 しかしながらこの

ような汚職現象は伝統的なものではないとい

う。中国の年輩者たちはこの現象に当惑してい

る。過去 5年間で約8,300人の官僚が処罰された

ように国家も取り締まりに力を入れている現状

を述べている。そして,中国でビジネス展開を

おこなっていく過程で汚職に巻き込まれるよう

な事態に直面した場合は,当該企業が中国で成

功するために.そのような事態を許さず取り除

いていかなければならないと著者は強く断言し

ている。

第 10章では,中国人労働者の資質について言

及している。著者は中国人をマネジメントする

に際し,共産党支配の中国人はイマジネーショ

ンに欠け, 自主的活動ができないという欧米人

の見方に対して反論している。現代の中国人ビ

ジネスマンはビジネスについて学習し,ビジネ

スの現場では欧米のマネジメン卜方式をとりい

れ活用していることにより当該企業において成

功を収めている。したがって,このようなビジ

ネス環境に身を置く多くの中国人ビジネスマン

は将来起こりうる変革に備え学習を絶やさない

という。 しかしながら,中国人労働者は欧米の

マネジメン ト手法に関しては経験がな く抵抗が

ある。それゆえ,特に外国人マネージャーは,

伝統的な中国文化を尊重し,フレキシブルにマ

ネジメン 卜することが重要であると述べてい

る。

このように, 第 3のカテゴリーではビジネス

を推進する上で一般的に障害となっている事柄

について記述されている。留意すべきは.市場

化の過程において第 9章に記述されているよう

な汚職問題が顕著化しても,国体は正常に維持

されている点である。なぜなら,改革開放政策

は,政府主導で実施しているからである。そこ

が国家が積極的に介入しない市場主導で経済改

革を実施し,これに失敗したロシアとの違いな

のである。実際,中国市場においてはビジネス

と政府は強く結ひやついている。中国政府には価

格局と呼ばれる市場価格政策をおこなう部署が

ある。個々の企業サービスの価格は各企業が決

定するが,参考資料として 「価格一覧表」を提

出しなければならない。もちろん市場の需給パ

- 55 -

Page 5: Myths About Doing Business in China

ランスにより価格決定がおこなわれるが,ここ

まで国家統制の仕組みが保持されているのであ

る。

以上全ての章の概要を述べてきたが,評者に

とって.最終カテゴリーの中の,第 9章

“Chinese business people are not trustworthy

(『中国ビジネスマンは信頼ならないつ』)”が。

特に興味深い内容を有している。なぜなら,第

9章ではこれらの部分において実際に中国での

ハイテク産業分野と大学の役割(人材供給)に

ついての検討が別枠の補論形式にて付け加えら

れているからである。さらに理由を述べるな

ら評者は,ビジネスにとってやはり結局は人

的資源が重要であると考えているからである。

著者によればMicroso貨やIntel,IBM等は投資リ

スクを回避するために中国にリサーチセンター

を設置しているという。その主たる目的は人材

の確保であると指摘する。中国トップクラスの

理工系大学は優秀なエンジニアやプログラマー

の輩出する宝庫である。それは米国大学との数

的比較において評価されている。人口約 13億人

から選抜されたともいえる大学生は約 3百万人

であり,同様に人口約2.9億人うち約 l千7百

万人の大学生を有する米国と比較し質の面の

比較優位を強調する。

評者はこの中国でのハイテク産業分野と大学

の役割(人材供給)についての議論に補充が必

要と考える。これらの人材や外資が生かされる

仕組みの存在の記述が必要であるからである。

具体的には,実際に中国で取組まれている大学

主体の「新産業を生み出す地域システムjの付

記が必要と考える。

評者の中国現地調査によれば,1993年に理工

系 トップレベjレにある清華大学(北京市)は清

華科技園の運営を開始した。清華科技園は大学

主導サイエンスパークのパイオニアであり清華

大学の南に位置し 中関村科技園区の中心に計

画された中 (約700,000ぱ)にある。清Z医科技園

周辺には,多くの大学や研究所が存在し,中国

で最大の知的集積地域である。現在,科学技術

省と教育省は清華科技閣を中国の重点サイエン

スパーク 22の中のーっとして選定している。清

華科技鴎は企業のスター卜アップ時のインキュ

ベータ機能を有している。起業に対する全ての

必要な要素の改善提案,そして起業へ向けて可

能な限り高い機会提供を含むためにイニシア

ティブをとる。清華科技園は競争と協働の現代

的コンセプトにより, ビジネス環境をより改善

させていくといった積極的精神をあわせもって

いる。それがゆえに主要な国内,国際企業の双

方が注目する多様化した地域となった。だから

こそP&G,サンマイクロシステム, NEC等を含

む世界ト ップクラスの企業は清華科技闘にて調

査 ・研究開発を行なっているのである。

以上の実態は著者が第 9章の補論において,

発展途上マーケットにおける自社モデjレ構築の

理由で,外資企業が中国現地で多くの中国人を

雇いたがっていると記述されていることからも

理解できる。

周知のように,現代中国は政府主導での改革

開放政策を積極的に実施し,ビジネス展開にお

いては人的資源開発を戦略的に実施している。

したがって, 中国でビジネス展開を推進してい

く場合,このような戦略的ロジックに,Guanxi

の概念他,中国特有の要素を上手く取り入れ運

用していくことがビジネスの成功につながる。

評者は,本書をとおして筆者が最も訴えたかっ

たこのメ ッセージに.同意を覚えるものであ

る。

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