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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title アバナシーの「生産性ジレンマ」モデルに関する検討(A Review of Abernathy's Model of the Productivity Dilemma) 著者 Author(s) , 拓志 掲載誌・巻号・ページ Citation 研究年報. 經營學・會計學・商學,40:137-188 刊行日 Issue date 1994 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81004181 PDF issue: 2020-05-15

Kobe University Repository : Kernelアバナシーの「生産性ジレンマ」モデルに関する検討 139 のトレードオフ関係である2。いずれのジレンマについても,経験的には従来

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Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

アバナシーの「生産性ジレンマ」モデルに関する検討(A Review ofAbernathy's Model of the Product ivity Dilemma)

著者Author(s) 原, 拓志

掲載誌・巻号・ページCitat ion 研究年報. 經營學・會計學・商學,40:137-188

刊行日Issue date 1994

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81004181

PDF issue: 2020-05-15

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アバナシーの 「生産性ジレンマ」モデルに関する検討

原 拓 志

1.開 題:現 代 の 工 業 経 営 と 「生 産 性 ジ レ ンマ 」

皿.ア バ ナ シー モ デ ルの 概 観

皿.1.モ デ ル の 目的

皿.2.モ デ ル の 概 要

皿.3.技 術 管 理 に対 す るイ ンプ リケ ー シ ョ ン

皿.ア バ ナ シー モ デ ル の論 理 構 造 の検 討

皿.1.諸 概 念 の検 討

皿.2.ア バ ナ シー モ デ ル の 諸 前 提

皿.3.ア バ ナ シー モ デ ル の 論 理 構 造

IV.ア バ ナ シー モ デ ル の 限 界

IV.1.ア バ ナ シー モ デ ルの 展 開

IV.2.ア バ ナ シ ーモ デ ル に対 す る諸 批 判

IV.3.ア バ ナ シ ーモ デ ル の限 界

V.結 語

V.1.要 約

V.2.歴 史 的 位 置 づ け

V.3.今 後 の 研 究 課 題

1.開 題:現 代の工業経営と 「生産性 ジレンマ」

現代の先進諸国における工業経営 について考察す る際に配慮しなければなら

ない状況には,情 報技術の発展,消 費の飽和,国 際化の進展がある。 マイクロ

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エレク トロニクス(ME)技 術は生産技術の特性に一定の変でヒを与えたし,消

費 の 飽 和 は需 給 調 整 の 困 難 を も た ら して い る。 経 済 の 国 際 化 は競 争 と協 力 とを

制 度 や 文 化 の異 な る範 囲 に まで 広 げ,従 来 の経 営 活 動 の ル ー ル を 反 故 に しっ っ

あ る。 総 じて これ らの状 況 は工 業 経 営 に と って は機 会 と も脅 威 と もな り う る。

現 代 の工 業 経 営 を取 り巻 く状 況 は,.少 な くと も第 二 次世 界 大 戦 後 か ら1960年 代

ま で の状 況 と比 べ て 不 確 実 性 に満 ち て い る と い って 間 違 い な い で あ ろ う。

「生 産 性 ジ レ ンマ 」(theproductivitydilemma)と はハ ーバ ー ド経 営 大 学 .

院 の故 ア バ ナ シー(W.J.Abernathy)教 授 の1978年 に 出 版 さ れ た 著 書 の 題 名

で あ る。 ア バ ナ シ ー は,合 衆 国 の 自動 車 産 業 な ど を 経 験 基 礎 に お き な が ら製 造

領 域 に お け る技 術 や 労 働 ・組 織 の変 化 と製 品 市 場 の変 化 を 結 び つ け た製 法 変 化

(processchange)と 革 新(innovation)と の記 述 的 モ デ ル をMITの ア タ ー

バ ッ ク(J .M.Utterback)教 授 と共 同 で 作 り上Gた 。 そ の モ デ ルの 帰 結 は,彼

自 身 の 言 を 借 りる と 「一 般 的 に 言 って,生 産 性(productivity)向 上 を 達 成 し

よ う とす る な らば必 ず や革 新 能 力(innovativecapacity)の 喪 失 を 伴 わ ね ば

な ら な い 。 逆 に言 う と,急 速 な 革 新 的 変 化 に必 要 な 条 件 は,高 い 生 産 効 率

(productionefficiency)を 支 え る条 件 と大 い に異 な る1。 」 と い う 「生 産 性」

と 「革 新 」 との ジ レン マで あ る。 ま た,彼 の モ デ ル に は,も う一 っ の ジ レ ン マ

が 含 ま れ て い る。 そ れ は よ り消 極 的 な 表 現 に な っ て い る が,彼 の モ デ ル が 「生

産 シス テ ムが 弾 力 的(flexible)で 非 効 率 的 な(inefficient)」 段 階 か ら 「生 産

シス テ ム が硬 直 的(rigid)で 効 率 的 な(efficient)」 段 階 に 向 か う と い う粋 組

み に な って い る こ とか ら抽 出 さ れ る 「生 産 性 」 と 「弾 力 性 」(flexibility)と

1)Abernathy,W.J.(1978),TheProductivityDilemma:Roadblocktolnnoua-

tionintheAutomobileIndustry,Baltimore:JohnHopkinsUniversityPr.,

p.4.

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アバ ナ シーの 「生産性 ジレンマ」モ デルに関す る検討 139

の トレー ドオフ関係である2。 いずれのジレンマについて も,経 験的には従来

より言われていたことである。とりわけ後者にっいては,工 業経営の研究 にお

いて も伝統的に議論されてきたジレンマであり,今 なお重要な意義を有 してい

る3。 敢えて,後 者のジレンマをも取 り出 してきたの1ま,そ のような経緯 に基

づ く。 「生産性ジレンマ」とは,こ れら二局面でのジレンマを指 している。

では,現 代の工業経営にとって,な ぜ 「生産性 ジレンマ」が重要 なのであろ

うか。その答は先に述べた現代の工業経営を取 り巻 く状況と関わる。さまざま

な製品を大量生産によって供給する大規模工業経営は,い ま需要の飽和 ・不安

定化に直面 している。従来通 りに大量生産 して低価格を武器に大量販売すると

いう戦略が通用 しな くなる産業が増えてきた。 ますます必要とされているのは

多彩な需要への対応と新規需要の開拓である。大規模工業経営は効率だけを追

求す ることは許されず,・それに加えて需要への弾力的な対応や革新的な製品の

開発による需要の創出を も行わなければならないのである。 「生産性ジレンマ」

は,こ の問題の解決法がないことを示すが,本 当にそ うなのであろうか。それ

を明らかにするためには 「生産性 ジレンマ」が成り立っ論理を検討 しなければ

ならない。それによって,大 規模工業経営の進み方 も見いだされてくるであろ

う。また;他 の二っの状況変化すなわちME技 術と経済 ・経営の国際化 もこう

した課題に対 して一定の機会を与えると同時に脅威を増幅する。 この問題は中

小工業経営にとって も他人事ではない。大規模工業経営がこれらの問題にうま

2)Ibid.,p.71,彼 は そ れ以 前 の論 文 にお いて 「高 い生 産 性 の便 益 は,弾 力 性 と革 新 能

力 との 減 少 と い う犠 牲 の 下 で しか達 せ られ な い 」 と して,生 産 性 に 対 して 弾 力 性 と

革 新 能 力 と が 対 立 す る と い う表 現 を と っ て い た 。Utterback,JM.andW.J.

Abernathy(1975),"ADynamicModelofProcessandProductInnovation ,"

Omega,3(6):639-656;Abernathy,W.J.andP.L.Townsend(1975),"T

echnology,ProductivityandProcessChange,"TechnologicalFore-

castingandSocialChange,7(4):379-396.

3)Behrborm,P.(1985),FlexibilitatinderindustriellenProduhtion ,Frank-

furta.M./Bern/NewYork:PeterLang,S.164ff;宗 像正 幸(1989)『 技 術 の 理

論:現 代 工 業 経 営 問 題 へ の技 術 論 的接 近 』 同 文 舘,322-349頁 。

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140 研 究 年 報XXXX

く対処できないのであれば,そ れは中小工業経営にとっては活動の場とな るで

あろう。逆に,大 規模工業経営が先に対処策を見いだせば,中 小工業経営は,

その特殊な市場さえ失 うかもしれない。そうなる前に中小工業経営 も生 き残 り

の対応策を模索しておく必要があろう。 このように,現 在の経済や技術にお け

る諸状況は,全 ての工業経営が 「生産性ジレンマ」の問題に取り組むことを強

いているといえる。現代工業経営を考える上で 「生産性 ジレンマ」 は避けて通

れない重大なテーマなのである。

本稿は,こ の 「生産性 ジレンマ」の問題構造を,ア バナシーのモデル4の 論

理的分析を通 して明 らかにしようとする試みである。アバナシーモデルは,従

来か ら経験的には言われていた 「生産性 ジレンマ」の問題を論理的に説明 した

研究 としては最 も総合的で明快なものといえる。それゆえ,ア バナシーモデル

は,「生産性 ジレンマ」問題への対処を迫 られて いる現在 の工業経営,特 にそ

こでの技術管理(managementoftechnology)を 考えるうえでの出発点 とな

り基礎 となるべきものであり,こ の認識に立 って本稿ではアバナシーモデルを

分析対象に選んだ。本稿では以下に四っの節が続 く。第二節では,ア バ ナシー

モデルの要旨を述べる。第三節では,そ のモデルの論理構造を諸概念と諸前提

の検討を通 して分析する。第四節では,ア バナシーモデルに対す る批判 を踏ま

えなが ら,ア バナシーモデルの限界を明 らかにする。最後に第五節で は,議 論

を振 り返 りながら歴史的な位置づけを試みる。そ して今後の研究の展望を述べ

ることとする。

1

4)ア バナ シー=ア ターバ ックの モデル とい うべ きなのか もしれ ないが,こ の二人 の関

心 は微 妙 に異 なり,本 稿 で はアバ ナ シーを中心 と した議論 の展 開を検討 してゆ くの

で,以 下,こ れ をアバ ナ シーモデル と称す ることにす るp

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アバ ナシーの 「生産性 ジ レンマ」モデル に関す る検討 141

II.ア バナ シーモデルの概観

II.1.モ デ ル の 目的

アバナシーモデルの目的は,従 来個々に論 じられていた生産性 ・革新 ・生産

組織 ・労働者の熟練 ・生産設備の進歩 ・原材料の供給源という諸要素間の関係

を明 らかにす ることであった。その基礎にはアバナシーの革新に対する問題意

識がある。彼は,合 衆国の産業競争力の相対的衰退に際 して,革 新や生産性向

上を単に強調すれば良いとする思考を安易すぎると退け,革 新はコス ト削減や

組織統制などの他の要因をなおざりにして追求できるものではないと主張 して

゜ いる5。彼のモデルの主目的は,統 括管理者が革新を他の経営問題 と関連づけ

て管理す るための理論的枠組みの提供にある。

II.2.モ デルの概要

アバナシーモデル6の 概要は,表2-1の ように表される。 なお,彼 らは分

析単位に 「生産単位」(productiveunit)と いう概念を使 っている。生産単位

は 「特定の製品系列を生産するために同一の管理のもとで同一場所に位置する

統合的生産過程」 と定義される7。

5)Abernathy,W.J.(1978),op.cit.,pp.ix-x,p.4.6)Abernathy(1978),op.cit.,pp.75-83,pp.147-153;Abernathy,W.J.andJ.M.

Utterback(1978),"PatternsofIndustrialInnovation,"TechnologyReuiew,80:41-47;cf.Utterback&Abernathy(1975),op.cit.;Abernathy&Townsend(1975),op:cit.;Abernathy,W.J.andK.Wayne(1974),"Limits

oftheLearningCurve,"HarvardBusinessReview,52(5):109-119.7)Abernathy(1978),op.cit.,p.48,p.68.

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142 研 究 年 報XXXX

表2-1丁 生産単位」の移行と諸要因の特性変化

流動的段階 過渡的段階 特定的段階

競争 の重点 製 品 機 能 製品多様性 コ ス ト削 減

革新への刺激ユーザー要求 の情報

ユーザーの技 術情報

拡大する内部技術力

による機会

コス ト削減 と品質 向

上への圧力

革新の優勢形態

製品の頻繁で大ぎな

変更

量産のための大きな

製法変更

生産性と品質の累積

的改善効果を伴う製

品製法の漸進的革新

製 品 系 列

多様,し ば しば注 文

設 計

相 当の量産 に適 した

少 な くとも一っ の安

定的 な製品 デザイ ン

殆ど差の無い標準化

製品

製 法

弾力的で非効率的;

大きな変更に容易に

適応しうる

より硬直的だが要所

での変更はある

効率的,資 本集約 的

硬 直的;変 化 のコス

トは高 い

設 備汎用目的,高 度な熟

練労働を必要とする

部分的自動化;「 自

動化の島」創出

専用目的殆ど自動監

視 ・制御労働が主

原 材 料一般に利用可能な原

材料

一定の供給業者から

専用の原材料も

専用の原材料を要求

不可能なら垂直統合

工 場

小 規模,ユ ーザー か

技 術の源泉の近辺 に

立地

特化部門を伴う汎用

目的

大規模

特定製品に高度に特

組 織 統 制

非公式的,企 業家的 リエ ゾ ン関 係,プ ロ

ジ ェ ク トチ ー ム,タ

ス ク フ ォー ス

構造 ・目標 ・規則 の

強調

出所:Abernathy&Utterback(1978),op.CIC.,p.40..

製 品 ラ イ フサ イ ク ル と 製 法 ラ イ フ サ イ ク ル の 相 互 連 関8を 基 礎 と す る 彼 ら の

モ デ ル に よ れ ば,生 産 単 位 は,市 場 の 競 争 圧 力 の も と で,流 動 的 段 階 か ら 特 定

的 段 階 へ の 移 行 傾 向 を 有 す る 。 そ の 際 の 転 換 点 は 標 準 的 設 計 仕 様 で あ る 「支 配

8)Ibid.,p.7;Utterback&Abernathy(1975),op.cit.;Abernathy&Townsend

(1975),op.cit.;Hayes,R.H.andS.C.Wheelwright(1984),RestoringOur

CompetitiveEdge:CompetingthroughManufacturing,NewYork:Wiley,

PP・19?-298.

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アバ ナ シーの 「生産性 ジレンマ」 モデルに関す る検討 143

的デザイン」(dominantdesign)の 出現である。流動的段階の諸特徴は,ラ

ディカルな製品革新,多 様な製品,柔 軟だが非効率な製法,緩 やかな組織,原

材料の購買,小 規模な工場などである。やがて 「支配的デザイン」が確立す る

と,市 場競争はコス ト削減圧力を増 し,そ の対応のための生産性向上の追求 は

必然的に設備や組織の専門化 ・特定化を招 くとする。特定的段階の諸特徴は,

漸進的な改善,標 準製品,硬 直的だが効率の高い製法,官 僚制組織,垂 直統合,

大規模な工場などである。そ して,こ の状態への移行は技術や組織の弾力性を

必要とする技術革新の実現を困難にす る。 この含意を一言で表 したものが 「生

産性ジレンマ」である。彼 らのモデルに含 まれる諸命題とその相互関連をいく

っかの項目に分けて少 し整理 してみよう。

(1)市 場と製品

アバナシーモデルの市場 と製品に関する諸命題は製品ライフサイクル論9

を基礎 としている。その内容は,市 場の要求が初期に不明確であった ものが

次第に明確になるという命題10と,初 期の競争の重点が製品機能であるのに

対 し 厂支配的デザイン」出現後には価格競争へと移行するという命題11,そ

して,特 定の製品系列は,ラ イフサイクルの初期の段階において多様であ っ

たものが 「支配的デザイン」出現以降は標準化が進み最終的にはほとんど差

異のない状態になってしまうという命題12である。

(2)製 造 設 備

アバナシーモデルの製造設備変化の命題は市場に関する命題に強く関連 し

ている。上述のように製品は標準化が進み,競 争の鍵はコス ト削減へ と移 り

9)Wells,L.T.(1972),"lnternationalTrade:TheProductLifeCycleApproach,"inTheProductLifeCycleinInternationalTrade,L.T.Wells,ed.,Boston:DivisionofResearch,GraduateSchoolofBusinessAdmin-istration,HarvardUniversity,p.8.

10)Abernathy(1978),op.cit.,p.71,p,75,p.78.11)Ibid.,p.72,p.74,pp.75-76.12)Ibid.,p.76,pp.147-151.

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144 研 究 年 報XXXX

生産性が重要になる13。それに呼応 して,製 品 ライフサイクル初期の汎用機

を使っていたジョブショップ型の製法が,製 品デザインの標準化にっれてそ

れに特殊化され,専 用機 とその連結によって高い効率が達成されるよ うにな

り,同 時に自動化 も進展 し 「目動化の島」か ら完全なオー トメーションへ と

向か うというのが設備変化に関する命題14である。製法技術発展 についての

このような見方は当時の経営研究ではかなり一般的な見方であったようだ15。

なお,こ れには機械の信頼性が統合化によって増すという命題が前提にある16。.

そして,こ れ らの命題を前提として,製 品製法間の相互関係は次第 に強 くな

り,最 終的には製品変化は製法変化 と同 じ意義を もっようになる。一個 の シ

ステムのようになった製法 は製品変化を非常に費用のかかるものにする17。

ここに,「生産性 ジレンマ」の基礎がある。

(3)労 働

アバナシーモデルの労働に関する命題は,上 述の製造設備の変化に関す る

命題 と不可分に結びっいてお り,製 法変化として同時に議論されている。す

なわち流動的段階におけるジョブショップ型の製法では熟練労働が用いられ

るが機械化 ・自動化の進行とともに直接労働は半熟練 ・不熟練労働となる。

機械の統合化が進むにっれ信頼性は増 し労働の介入はより不要とされる。上

述のようにそれには人間の信頼性は機械の信頼性より劣 るという前提が関連

している。特定的段階における連続的製法においては直接労働は機械に代替

され,主 たる労働は監視保全労働となる。以上のように直接労働における低

13)Ibid.,p.76;cf.Ibid.,p.73.

14)Ibid.,p.77,pp.148-149,pp.150-151.

15)Bright,J.R.(1958),AutomationandManagement,Boston:Divisionof

Research,GraduateSchoolofBusinessAdministration,HarvardUniver-

sity,pp.15-17;Woodward,J.(1965),IndustrialOrganization,London

OxfordUniversityPr.,pp.39-40;Wells(1972),op.cit.,p.10;cf.Abernathy&

Townsend(1975),op.Clt.:宗 像(1989),前 掲 書,289頁 。

16)Abernathy(1978),op.cit.,p.151;Bright(1958),op.cit.,p.17.

17)Abernathy(1978),op.cit.,p.77,pp.151-152.

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アバナ シーの 「生産性 ジ レンマ」モ デルに関す る検討 145

熟練化,機 械への代替がこのモデルでの労働に関する命題である18。

(4)組 織

組織に関する命題も,市 場に関する命題や製法技術に関する命題 と関連 し

ている。当初,不 確実な環境下においては情報処理能力を高めるために有機

的組織が採用される。やがて需要がより明確になり製品の標準化が進む と,

組織はバッファーやスラック資源の保持や同質の課業を担う単位の創出によっ

て情報処理の必要性を減 らす方策をとる。組織構造はより公式的 ・階層的 ・

専門的な機械的組織となる19。この命題は製法技術と組織構造 との関係にっ

いてのコンティンジェンシー理論 などの先行研究20に基づ くものである。

(5)原 材料供給

アバナシーモデルにおける原材料の供給に関する命題 も,市 場要求 の明確

化やそれに伴 う製品 ・製法の特定化という上述の諸命題と関連する。それに

よれば,ラ イフサイクル初期においては汎用的な原材料を外部から購買 して

いたものが,不 確実性の減少によって専用的な原材料の利用へと移行 し供給

源は緊密に垂直統合されるようになるという21。これには生産性の向上 には

緊密な連結 と統制が必要であるという命題22が 前提 となっている。

(6)工 場 規 模

工場規模に関する命題は小規模から大規模へというものである23。これは

18)Ibid.,p.77,pp.148-149,p.151.

19)Ibid.,pp.79-80

20)Woodward,J.(1965),op.cit.;Harvey,E.(1968),"Technologyandthe

StructureofOrganizations,"AmericanSociologicalReview,33(2),pp.247-

259;Burns,T.andG.M.Stalker(1961),TheManagementofInnovation,

London:Tavistock;Galbraith,J(1973),DesigningComplexOrganiza-

tions,Reading,Mass.:Addison-Wesley,pp.14-19.ウ ッ ドワ ー ドは,技 術 の

単 品 ・小 ロ ッ ト生 産 → 大 ロ ッ ト ・大 量 生 産 → 装 置 生 産 を 複 雑 性 の 増 大 と 捉 え,ハ ー

ヴ ェ イ は 同 様 の 展 開 を 複 雑 性 の 減 少 と 捉 え た 。 ア バ ナ シ ー モ デ ル で は 不 確 実 性 の 減

少 と い う 把 握 が な さ れ て い る こ と か ら 後 者 の 見 方 に 立 っ て い る と い え よ う 。

21)Abernathy(1978),op.cit.,p.72,pp.148-149,p.152.

22)Ibid.,p.152.

23)Ibid.,p.70,p.72,p.82,pp.148-149.

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146 研 究 年 報XXXX

規模の経済の追求によるものであるが,製 法や原材料供給源における統合化

傾向とも関連するであろう。そして製法の統合化とともに変化の費用を高 く

する要因となる。このように市場 と技術の動態によって基礎づけられた 「生

産性ジレンマ」は,組 織の官僚制化や垂直統合の進展,工 場規模の増大 とい

う組織に関わる諸側面か らも促進されるという論理展開になっている。

皿.3.技 術管理に対するインプ リケーション

アバナシーは,こ のモデルを絶対的 ・客観的な法則として提示しようとした

のではなく,企 業あるいは政府による技術管理 ・技術政策を検討する際の基礎

として利用されることを狙いとした。彼は,流 動的段階か ら特定的段階へ の移

行が一方向的で操作不可能 と考えたわけではなく,全 く逆に,逆 行 もあ りうる

とし,移 行の方向や速度を主体的に管理できると主張 している24。

アバナシーモデルと,そ れを踏まえた自動車エンジン工場 ・自動車組立工場

にっいての実証研究などから,彼 が導きだ した技術管理に対す るインプ リケー

ションは,生 産単位 レベルのものと企業 レベルのものとか らなる。生産単位 に

おいて考えられる技術管理では,生 産単位の変遷の各項目とりわけ製品 と製法

における発展段階のズレを利用す ることが可能 とされる。すなわち,製 品の標

準化が進んでも製法の統合化 ・自動化への移行を遅 らせることにより,製 品革

新に対する弾力性を保持 しようというものである。 しか し,全 部の項目の進展

が揃わなければ生産性向上による経済利益 も充分には得 られないたあ結局 は生

産単位 レベルでは 「生産性 ジレンマ」からは逃れられない25。企業 レベルでの

技術管理にっいては,異 なる発展段階にある複数の生産単位をポートフォリオ

として管理することによって,ラ ディカルな革新とコス ト削減のための累積的

改善の両方の能力を保有することが可能 とされる。ただ し,こ の場合において

24)Ibid.,p.173.

25)Ibid.,p.153.

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アバ ナ シーの 厂生産性 ジレンマ」 モデルに関す る検討 147

も,ア バナシーは,そ れが理論的には可能であるとしても,生 産単位間の適合

性やバ ランスの制約か ら,実 際には,非 常に異なった段階の生産単位を効果的

に管理するのは困難であるとしている26。したがって,企 業 レベルにおいても

「生産性 ジレンマ」の作用はなくならない。 こうして,ア バナシーによって主

張される技術管理とは,「生産性 ジレンマ」モデルを前提と した うえで,そ の

段階のなかで企業や生産単位がどの段階を追求 していくかということが中心と

なり,そ の段階と論理的に整合 した革新への刺激策を採用することなどが内容

となっている。例えば,研 究開発の投資効率が最大 となるのは,不 確実性 が高

す ぎず革新か らの利益 も残っている生産単位発罹の中間段階であるという。そ

して,モ デルに反するような技術の管理は有効zな いとする。例えば,製 品多

様性 と最高の生産効率との同時追求,頻 繁な製品革新と垂直統合によるコス ト

削減 との同時追求,さ らには職務充実と製法オー トメーションの推進との両立

などである。モデルが明 らかにす る技術の発展段階による利益と損失を踏まえ

たうえでの技術選択,そ して諸側面での決定がモデルに反することのないよう

相互の整合性に留意す ることが,ま さにアバナシーが想定 している技術管理 な

のである27。

なお, ,アバナシーは,生 産単位の発展の逆行を,政 府による規制や消費者の

関心のような市場条件における変化が,も たらすこともあるとしている。 それ

を個別企業の経営者が統制す ることはできないが,政 府が産業技術政策 として

利用できることを示唆している28。

ここまで,ア バナシーの論旨に沿って彼のモデルの概要と帰結を見てきたが,

「生産性 ジレンマ」モデルの論理構造をより明確にす るには,い ったん彼の論

旨か ら離れて,モ デルの中心となる諸概念の定義がいかになされているかとい

26)Ibid.,p.168,pp.163-164.

27)1わid.,pp.169_174.

28)Ibid.,p.167,p.169.

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148 研 究 年 報XXXX

うことや,モ デルに含まれる諸命題め前提 は何かということにっいて考察 して

おく必要がある。そのような検討を通 じて,「生産性 ジレンマ」 とは何 と何 と

のジレンマであるのか,そ して,そ の条件は何であるのかが,よ り明 らかにな

るであろう。

皿.ア バナシーモデルの論理構造の検討

皿.1.諸 概念の検討

(1)生 産 性

アバナシヲの 「生産性ジレンマ」モデルでは,「生産性」 にっ いて の積極

的な定義づけはなされていない。そこで考え られる一っの手段 は,彼 の叙述

か ら他の概念との関連においてアバナシーモデルにおける 「生産性」の概念

あるいは特性を抽出することである。まず,「生産効率」 と 「生産性」 にっ

いては,ア バナシーは,ほ ぼ同義に扱っている29。次に,「コス ト」30と「生産

性」について も彼は直接的な関係で捉えている。例えば,生 産性向上を製品

29)Ibid.p,4,p.8.「 生 産 性 」 を 「生 産 効 率 」 と ほ ぼ 同義 に解 す る の は さ ほ ど特 殊 で

は な い よ う で あ る。cf,,Clark,KB.,R.H.Hayes,andC.Lorenz,ed.(1985),

TheUneasyAlliance:ManagingtheProductivity-TechnologyDilemma,

Boston:HarvardBusinessSchoolPr.,p.5;Kendrick,J.W.andE.S.

Grossman(1980),ProductivityintheUnitedStates,Baltimore:John

HopkinsUniversityPr.,p.11;Levitan,S.A.andD.Werneke(1984),Pro-

ductiuity:Problems,Prospects,andPolicies,Baltimore:JohnHopkins

UniversityPr。PP.4-5.た だ し,ケ ン ドリ ッ ク(1977)は,一 っ の 「要 素 生 産 性 」

と して の 「労 働 生 産 性 」 は 、必 ず し も 「生 産 効 率 」 の変 化 だ け を反 映 す る の で は な

く投 入 要 素 の比 率 変 化 な い し要 素 代 替 を も反 映 す る と して い る 。

Kendrick,J.W(1977),UnderstandingProductivity,Baltimore:John

HopkinsUniversityPr。,p.14,p.16.し か し,投 入 要 素 の比 率 を一 定 と した ケ ン

ド リッ クの 「生 産 効 率 」 は,単 に 「労 働 の能 率 」 だ け を 表 して い る 。 ア バ .ナ シー の

「生 産 効 率 」 は,よ り広 い意 味 を 含 ん で い る 。

30)こ こで 議 論 され て い るの は 製 造 コ ス ト(costof.manufacture)で あ る 。 他 方,ア

バ ナ シー の 議論 で も う一 っ 重 要 な コ ス トは 「弾 力 性 」 や 「革 新 能 力 」 に 関 わ る 製 品

変 化 の コ ス ト(costofproductchange)で あ る 。 そ して,彼 が 「コ ス ト削 減 」 と

言 う場 合,ふ っ う前者 の コ ス トの削 減 を指 して い る。

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アバ ナ シーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関す る検討 149

単位あたりのコス トの変化で捉えたり31,「コス ト」 と 「生産性」が連動 して

いることを暗示する表現が見 られたりする0他 方,「生産性 ジレンマ」の内

容そのものだが,「生産性」は 「革新」や 「弾力性」 とは トレー ドオフ関係

にあると捉えられる。これらの 「革新」や 「弾力性」の概念にっいては次に

検討する。アバナシーの 「生産性」概念を把握するためのもう一っの手がか

りは彼の実証研究にある。彼の自動車産業の実証研究における生産性の指標

は,車 やエンジンー台を作るのにかかる労働時間33であ る。 これは,普 通 に

労働生産性を考える場合の逆数になっている。製品が比較的複雑で特に当該

産業初期においてはこの表現の方が適 していたか らであろう。労働時間と生

産量とで構成されることから,こ れは 「価値的生産性」ではなく 「物量的生

産性」である。以上によりアバナシーの 「生産性」は第一義的には物量的に

捉えた労働生産性を指 していると解 してよいであろう。最後に,ア バナシー

モデルにおける 「生産性」向上の方法について確認 しておこう。彼は自動車

エンジン工場の歴史的実証研究に基づいて 「生産性」向上の方法を大 きく二

つに分けている。一っは,学 習曲線効果にもとつくもので製品の標準化,製

法革新,課 業の専門化などによって実現され る。つまり彼らのモデルにおけ

る流動的段階から特定的段階への移行による 「生産性」向上である。もう一

っの方法は,特 定的段階にほぼ到達 した後の方法であり,全 く新 しい統合化

された工場を建てるか買収することによる 「生産性」向上である襁。特 に前

者の方法がアバナシーモデルを理解するうえで重要 となる。製品が標準化す

ること,製 法が統合されること,課 業が専門化されること,こ れらはすべて

異質な要因あるいは人間の裁量をはじめとす る攪乱要因の排除を志向 してい

31)Abernathy(1978),op.cit.,p.76.

32)Ibid.,p,69.P.73,p.168.な お,「 コ ス ト」 と 「効 率 」 と の 同 様 の 連 動 関 係 に っ い

て も示 唆 す る表 現 も あ る 。Ibid.:P.152.

33)Ibid.,p.22,pp.32-33,pp.155-166,pp.178-179.

34)Ibid.,pp.157-158;cf.Ibid.,pp.76-77;Abernathy&Wayne(1974),op.cit.

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150 研 究 年 報XXXX

る。それが 「生産性」向上の鍵 となるというのが彼の思考である。

(2)弾 力 性

アバナシーモデルでは 「弾力性」概念やその対概念 「硬直性」(rigidity)

にっいても積極的な定義は見 られない35。それでも,以 下 の諸点 に関 して は

把握で きる。まず,何 の 「弾力性」かという問題。 これに関 してアバナ シー

の記述には,大 きく二通りの 「弾力性」が見 られる。一っは 「生産単位の弾

力性」・「生産 システムの弾力性」36であり,も う一っは 「製法の弾力性」37,

である。前者は,後 者の技術的な 「弾力性」に加えて 「組織の弾力性」 を も

包含しているようである。 しか し,ア バナシーの議論で主に扱われているの

は後者の技術的な弾力性であり 「組織の弾力性」に関す る直接的な記述はな

い認。第二に,そ れ らの 「弾力性」の意味に関する点。 これ にっ いての手が

かりとなるのは 「変化」,特 に 「製品変化」とい う事態であ る。すなわち,

35)本 稿 で は 「弾 力性 」・「硬 直 性 」 を一 組 の 概 念 と考 え,表 現 上 「弾 力 性 」 と い う語 に

代 表 さ せ て扱 う こ とに す る。

36)Abernathy(1978),op.cit.,p.9,p.71,p.153,p.159.

37)Ibid.,p.80,pp.104-105,p.150,p154.

38)「 弾 力 性 」 「フ レキ シ ビ リテ ィ」 は,経 営 学 だ け で な く社 会 科 学 の 諸 分 野 で 議 論 の 焦

点 とな って い る概念 で あ るが,ア バ ナ シー モ デ ル で扱 わ れ て い る 「弾 力 性 」 は,「 労

働 市場 と労 働 の フ レキ シ ビ リテ ィ」 や 生 産 体 制 論 で扱 わ れ る マ ク ロ的 な 「フ レキ シ

ビ リテ ィ」 で は な く,ミ ク ロ次 元 で の よ り技 術 的 な概 念 と解 さ れ る 。 「生 産 シス テ

ム 」 や 「生 産 単 位 」 の 「弾 力 性 」 に包 含 さ れ る 「組 織 の 弾 力 性 」 に っ い て は,職 務

配 置 に 関 す る ア トキ ンソ ンの 「機 能 的 弾 力 性 」(functionalflexibility)概 念 に 通

じ る もの と推 察 され るが 確 証 の得 られ る記 述 は 見 出 され なか っ た 。 あ る い は 彼 ら が

以 前 の 論 文[ア タ ーバ ック=ア バ ナ シー(1975)]で 参 照 し モ デ ル に包 摂 して い る バ ー

ン ズ=ス トー カ ーの 「有 機 的 組 織 」(organicsystem)概 念 カゴ有 す る職 務 の 「弾 力

性 」 が そ の根 拠 に成 り得 る か も しれ な い 。 な お,熟 練 工 の もっ 作 業 上 の 弾 力 性 に っ

い て は 「製 法 」 の 「弾 力 性 」 と し て 捉 え て お く 。cf.Atkinson.J.(1985),"Fl

exibility,UncertaintyandManpowerManagement,"IMSReportNa89,

Falmer,Brighton:InstituteofManpowerStudies,UniversityofSussex;

Utterback&Abernathy(1975),op.cit.;Burns&Stalker(1961).,op.cit.,

p.121.

こ こで 述 べ た 「弾 力 性 」 の 様 々 な概 念 にっ いて は,以 下 の諸 文 献 を 参 照 。 宗 像 正

幸(1992)「 『フ レキ シ ビ リテ ィ』 論 議 に よ せ て 」,国 民経 済 雑 誌,166巻4号,85-109

頁;Meulders,D.andL.Wilkin(1987),"LabourMarketFlexibility:

CriticalIntroductiontotheAnalysisofaConcept,"LabourandSociety,

12(1):3-17.

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アバ ナ シーの 「生産性 ジ レンマ」モデ ルに関 す る検討 151

「製品変化」に対 して 「製法技術」がいかに柔軟 に対応 し得るかが 「弾力性」

と表現されているのである39。実証研究でも,具 体的な 「弾力性」の指標 は

与え られていないが,「製品変化にかかるコス ト」 という観点から 「弾力性」

が論 じられているao。また,「生産単位の弾力性」にっいて も,「製品革新」

に対す る 「弾力性」として表現されている41。もちろん,そ れには 「製品革

新」に対する 「製法の弾力性」が関与 していることは疑いない。以上か らア

バナシーモデルでの 「弾力性」の意味は,「製品変化」に対す る主に 「製法」

の適応能力と解釈できる。第三に,「弾力性」を形成する要因。 これに関 し

ては,エ ンジン工場との比較においてアバナシーが把握 した自動車組立工場

の 「弾力性」についての記述が参考になる。彼はそこで,人 手の利用や単純

な製法技術,変 化を当然視す る組織の志向性を挙げている42。最後に他の概

念との関係にっいてであるが,「生産性」との関係は前述 した。 厂革新」 と

の関係については上にも述べたように 「製品革新」に対 しての前提 とされて

いる。 「コス ト」との関係にも注意 したい。先にも触れたが,ア バナシーは

実証研究で 「弾力性」を 「製品変化のコス ト」という観点から捉えていた。

「弾力性」があれば 「製品変化のコス ト」が少ないという関係である。 この

意味では 「弾力性」は 「コス ト」削減に作用す ると解される。 しか し,「製

品変化」の必要 とされない状況においてはどうか。モデルでは明 らかに 「弾

力性」確保は 「生産性」向上を妨げ 「製造 コス ト」削減に相反する方向に作

用するものとされている。っまり,「弾力性」 と 「コス ト」 との間には 「製

39)Abernathy(1978),op.cit.,p.60,p.112,p.150.

40)Ibid.,pp.104-105。 こ こで アバ ナ シ ー は,自 動 車 産 業 の初 期 の 時 代 に は,製 品 変 化

に伴 う工場 閉 鎖 の 期 間 や設 備 の廃 棄 ・取 り替 え の 量 な ど で 「変 化 の コス ト」 が 把 握

で きた が,複 数 の 工 場 が 所 有 され るよ うに な る と,そ れ らを 尺 度 に使 え な くな った

と述 べ て い る。 した が って,戦 後 の エ ン ジ ン工 場 の 「硬 直性 」 に っ い て は 計 数 的 な

根 拠 は 示 され て い な い 。 あ る工 場 管理 者 の 発 言 や 公 害 規 制 の変 化 に 際 して の 困 難 な

状 況 そ の も のが 拠 り所 と され て い る。

41)Ibid.,p.153.

42)Ibid.,p.9.

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152 研 究 年 報XXXX

品変化」の有無が介在 しており,そ の作用の方向を規定 していると考え られ

る。

(3)革 新

「生産性ジレンマ」の議論において 「革新」概念は上の二っの概念 と比較

して最も詳細 に記述されている。それは換言すれば,一 般に 「革新」概念が

最 も不明瞭であるという認識の現れとも理解できる。革新とは,本 来的には,

製品や生産方法における変革のみな らず,新 市場や新供給源泉の開拓,新 し

い労働編成方法,新 たな形態の事業組織の設立など経済の諸要素の新結合の

遂行によって,連 続的な経済成長ではなく非連続的な経済発展をもた らす現

象一般を指 しているが43,ア バナシーモデルで論 じられているのは明 らか に

「技術的な革新」(technologicalinnovation)で ある44。なお,ア バナシー

は実証研究に際して,「革新」を 「デザインアプローチにおける一つのある

いは一連の改善(improvement)」 と定義 している。 ここで 「デザイ ンアプ

ローチ」 とは,基 本的な工学上の問題に対する技術的解決法としての設計様

式とされる45。ここか らも,彼 の 「革新」概念が専 ら技術的な革新であるこ

とが伺える。 もっとも,彼 は 「革新」を抽出する場合の基準が技術的関心に

あるのではなく商業的な重要性にあることを明確に断っている菊。アバナシー

は,一 方において,「生産単位」の視点から,そ の 「革新」を 「製品革新」 と

93)Schumpeter,J.A.(1939),BusinessCycles,Vol .1,NewYork:McGraw-

Hill;pp.84-102.(吉 田 昇 三 監 修 ・金 融経 済 研 究 所 訳P景 気 循 環 論1』 有 斐 閣,1958

年,121-149頁);Schumpeter,J.A.(1926),TheoriederWirtschaftlichen

Entcuicklrtng,2.Aufl.,Berlin,S。100ff,.(塩 野 谷 祐 一 ・中 山 伊 知 郎 ・東 畑 精 一

訳 『経 済 発 展 の理 論 』岩 波 書 店,1977年,180-185頁)

44)フ リー マ ンは,「 革 新 」 に っ い て,「 新 た な あ る い は改 良 され た 製 品 ・製 法 の 経 済 へ

の導 入 ・展 開 」 をtechnicalinnovationま た は 単 にinnovaionと 表 現 し,「 生 産 や

財 の 獲 得 に 関 わ る 知 識 上 の 進 歩 」 をtechnologicalinnovationと し て い る 。

Freeman,C.(1982),TheEconorrcicsofIndustrialInnovation,2nded .,

Cambridge,Mass.:MIT'Pr.,p.4.n.,p.15.ア バ ナ シ ー の 言 うtechnological

innovationは,フ リー マ ンのtechnicalinnovationに 該 当 す る 。

45)Abernathy(1978),op.CLL.,p.54.

46)Ibid.,p.50.

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アバ ナシーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関 す る検討 153

「製法革新」 とに明確に分けている47。もちろん,特 定の生産単位における

「製品革新」は,そ れを生産手段として利用する別 の生産単位か ら見 たとき

には 「製法革新」 となる48。他方,製 品形態を大幅に変革 したり,大 きな生

産性 向上を もた らした りする 「革新」を 厂ラデ ィカルな革新」(radical

innovation)な いし 「メジャーな革新」(majorinnovation)と 称 し49,そ

れに対 して,製 品や製法の小さな変更によって累積的にコス ト削減や機能 向

上に寄与する 「革新」・「改善」を「漸進的な革新」(incrementalinnovation)50

と呼んで区別 している。 こうして,概 念上では,二 行二列のマ トリックスで

表現 される四種の 「革新」がもた らされるが,モ デルで主に扱われているの

は,「ラディカルな製品革新」 と 「漸進的な製法革新」 の二っである。 モデ

ルでは,「生産単位」の 「流動的段階」 においては 「ラディカルな製品革新」

が中心的であったものが,「支配的デザイ ン」が確立 して 「特定的段階」へ

の移行が始まると 「漸進的な製法革新」が代わ って主流となるという 「革新

形態」(thetypeofinnovation)の 変化が指摘 される51。 「ラデ ィカルな

製品革新」の焦点は画期的な製品の導入や製品機能 ・性能の大幅な向上にあ

り,「漸進的な製法革新」の主関心は製造 コス トの削減や生産性の向上にあ

47)Ibid.,p.50-53,p.71.ミ ク ロ的 視 点 に お け る製 品 技 術 と 製 造 技 術(製 法)と の 分

離 にっ いて は,宗 像(1989),前 掲 書,250-283頁 を参 照 。

48)Abernathy(1978),op.cit.,p.167.

49)Ibid.,p.4,pp.70-71,p.168;cf.Ibid.,pp.59-so.ア バ ナ シー は,「 支配 的 デ ザ イ

ン」 を もた らす もの が 「ラデ ィ カ ル な革 新 」 で は な い こ とを 注 意 して い る 。 多 く の

「革 新 」 が一 定 の 厂デ ザ イ ンア プ ロ ー チ」 に傾 倒 す る こ と が 累 積 す る と,そ こ か ら

「支 配 的 デ ザ イ ン」 が 生 じ る と して い る 。Ibid.,p.57.

50)Ibid.,p:4,p.6,p.69,p.71,p。168;cf.Ibid。,pp.59-60.注 意 を要 す る こ と は,「 漸

進 的 な革 新 」 の市 場 成 果 が 「ラ デ ィカ ル な革 新 」 よ り も必 ず し も小 さ い こ と はな く,

む しろ 「特 定 的 段 階 」 に お いて は大 きな即 時 的 な経 済 効 果 を もた らす こ と を ア バ ナ

シ ー は 明確 に述 べ て い る。Ibid.,p.71.

51)Ibid.,p.4,pp.71-72,p.76,pp.159-161;cf.Utterback&Abernathy(1975),op.

CLC.た だ し,「 漸 進 的 な 製 法 革 新 」 は 「漸 進 的 な 製 品 革 新 」 も伴 い,そ の 意 味 で は

正 確 に は 「漸 進 的 な 革 新 」 と表 現 す べ き か も しれ な い が,移 行 の 状 況 で の モ デ ル 上

の主 眼 は 明 らか に 「製 法 革 新 」 に あ るた め,敢 え て この 表 現 を採 っ た。

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154 研 究 年 報XXXX

る瓰。 「漸進的な製法革新」の内容は,新 設備の導入,工 程の組織化,既 存

設備の統合化,全 体工程のシステム化であり,こ の順に進め られ るとする。

つまり,彼 らの想定する製法技術発展の道に沿 った展開すなわち統合化 。自

動化へ と向かうこと自体歩 「製法革新」とされている53モデルによれば,こ

うした製法技術の発展は製法の特定化 ・システム化をもた らし,結 果的 に,

製品変化にかかるコス トを増大させる。言い換えれば,ア バナシーモデルの

想定す る 「製法革新」は 「製法の弾力性」と矛盾することになる。以上より

明 らかに 「生産性ジレンマ」のテーゼで 「生産性」 とトレー ドオフの関係に

あると言われる 「革新」とは 「ラデ ィカルな製品革新」を指 している0

(4)諸 概念り相互関係

以上,ア バナシーモデルにおいて中心的な概念として 「生産性」・「革新」・

厂弾力性」を取 り上げて検討 してきたが,こ こで,そ れぞれの意味と関係を

確認のために整理 しておこう。 「生産性」 は物量的に捉えた 「労働生産性」

を指 していた。 「弾力性」にっいては 「製品変化」に対す る 「製法の弾力性」

がその主たる内容であった。 「革新」 は 「技術的な革新」であり,そ の中で

52)Abernathy(1978),op.cit.,pp.69-70,p.76,pp.157-158.

53)Ibid.,pp.54-55,p.77;cf.p.26.

54)ア バ ナ シ ー モ デ ル で 「生 産 単 位 」 の 「発 展 」 が 「革 新 」 に もた らす 作 用 と して,本

文 で 述 べ た 「革 新 形 態 」 の 変 化 の ほ か に,も う一 っ の 大 き な 論点 と して,「 革 新 の 源

泉(場)」(sourceofinnovation;10cusofinnovation)の 変 化 が 論 じ ら れ て い

る。 そ れ に よれ ば,「 製 品 革 新 」 にっ い て は,初 期 段 階 に お い て 潜 在 的 ニ ー ズ に 詳 し

い ユ ー ザ ーが 「革 新 の 源泉 」 で あ った も のが,移 行 に っ れ て 需 要 条 件 が 明 確 に な る

と,メ ー カ ー の研 究 開発 機 関 が そ れ に 代 わ る と され る 。Ibid.,pp.70-71,pp.77-79,

pp.171-172.他 方,「 製 法 革 新 」 に っ い て は,「 流 動 的 段 階 」 に お いて,汎 用 設 備 を

外 部 か ら購 買 して い た もの が,中 間段 階 に は,自 分 自身 の 要 求 に あ わ せ た 設 備 の 自

製 もな さ れ る。 「特 定 的段 階 」 に近 づ く と要 求 が 明 確 化 し量 も増 え る た め に,専 門 の

設 備 供 給 業 者 が 厂革 新 の場 」 と な る と され る。Ibid.,p.81,pp.160-163,pp.170-171,

こ う した関 係 は 「製 品 」 と 「製 法4と の 相 互 関 係 を考 え て も整 合 して い る。 た だ し,

アバ ナ シー は設 備 に 関 す る 「製 法 革 新 」 は全 て の段 階 を 通 じて,供 給 業 者 に よ っ て

も た ら され る場 合 が 多 い と して い る。Ibid.,p.81.し か し,こ う した 事 情 は合 衆 国

独 自 の産 業 構 造 を反 映 して い る もの と思 わ れ,モ デ ル の 一 般 性 に っ い て の 一 っ の 疑

問 が こ こに も生 ず る。

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アバナ シーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関す る検討 155

「ラディカルな製品革新」と 「漸進的な製法革新」とが主に議論されていた。

それぞれの概念の関係 は次のようになる。

「ラディカルな製品革新」の多発はやがてそこか ら 「支配的デザイ ン」を

生みだ し 「製法革新」を促進する。 「製法革新」は製法を特定化 し,統合化 ・

自動化によって一個のシステムへ と向かわせ,そ れに伴 って 「労働生産性」

が向上する。製品変化の少ない安定 した条件下においての 「製造コス ト」は

低下する。他方,そ のように緊密に結合 した製法体系は,製 品変化に対す る

「弾力性」を失 う。すなわち 「製品変化にかか るコス ト」 を潜在的に引き上

げ,結 果的に 「ラディカルな製品革新」を抑制す る。 なお,「組織の変化」

にっいては,モ デルの記述 は明快さをやや欠 くが55,次 のように関係づけ ら

れていると推察 される。 「支配的デザイン」の確立後,組 織の公式化 ・階層

化 ・専門化が進展 し,ま た原材料供給源への垂直統合が進行する。それによっ

て,「労働生産性」の向上が促進されるが,同 時に,生 産や原材料供給に関す

る諸変化に対 して柔軟に適応す る 「組織の弾力性」が減殺され,「 製法」の

場合 と同様に 「ラディカルな製品革新」を阻害するようになる。 「規模の増

大」にっいても把握に充分な論述を欠 くが,結 果的に 「労働生産性」に正の,

「製法の弾力性」や 「組織の弾力性」に負の作用を及ぼすと考えられている。

これ らの関係を図で示す と,図3-1の ようになる。この図を見ればわかる

ように 「ラディカルな製品革新」の発生は各事象を経て進行 していくと結局

さらなる 「ラディカルな製品革新」の抑制へと作用することになる。っまり,

逆説的な表現をとれば,ア バナシーの 「生産性 ジレンマ」 とは過去の 「製品

55)ア バナ シー(1978)の 第7章 で は自動車産業で の実証研究 を踏 まえて詳 細 な アバ ナ

シーモデルが提示 されて いるが,そ こで は組織 に関 して垂 直統合 以外 には特 に触 れ

られていな い。そ の第4章 やい くっかの論文で は組織 に関 してより詳 しく述 べ られ

てい るが,そ れを参照 して も,コ ンティ ンジェ ンシー理論 などのい くっ かの研究

結果(本 稿 注20参 照)が 組 み合わせ られて いるだ けで,な ぜ組織 の公式 化 ・階層化・専 門化が 「生産性」 向上 に作 用 し 「弾力性」 や 「革新能 力」の喪失 に行 き着 くの

かに関 して充分 な説 明は提供 されて いない。

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156 研 究 年 報XXXX

革新」 と将来の 「製品革新」 とのジレンマであり,「製品革新」 がいずれ自

己収縮 してしまうというテーゼなのである。ただ し,前 述のように,ア バナ

シー自身は,経 営者や政府 による技術管理や外的条件の変化が進行の停滞 や

逆行をもたらすとして,モ デルが内包 しているこのような収縮傾向の絶対性

を否定 している。

ところで,こ うした関係を成立させている諸前提 とは何であろうか。次 に

それ らを確認 してお こう。

図3-1諸 概念の相互関係

ラデ ィカ ル な製 品革 新

支配的デザインの確立

十 十

製 法 革 新

(特定化・統合化・自動化)

組 織 の 変 化

(公 式化・階 層 化専門化・垂直統合)

規 模 の 拡 大

一一F

十 十

組 織 の 弾 力 性 労 働 生 産 性 製 法 の 弾 力 性 鹽

製 品変化 の コス ト 安 定 状況 で の製 造 コス ト

ラ デ ィ カ ル な 製 品 革 新

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アバナ シーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関す る検討 157

皿.2.ア バナシーモデルの諸前提

前項で述べた諸概念の関係には,さ しあたり以下のような前提条件が考え ら

れる。それらは,ほ ぼモデルの展開に即した順序で挙げてある。段を下げた小

項目は,先 頭の番号が示 している大項 目の前提か ら派生する命題であるが,独

立 した別個の前提が必要な場合は,新 たに大項目として挙げている。したがっ

て,例 えば(2-1)の 命題は(1)(2)を 前提 としている。

(1)市 場においても技術においても不確実性は減少する傾向をもっ。市場の

要求内容はより明確になり,同 時に技術的な解決方法 も明確化する。 しか

も,そ れらは一点に収斂する傾向を持っ。

(1-1)競 争の鍵 は製品機能か ら価格へと移行す る。

(1-2)製 品の多様性 は減少 し標準化へと指向する。

(1-3)次 第に技術革新か らの収穫は逓減す る。

(2)製 造 コス ト削減の主要な方法は労働生産性の向上である。

(2-1)製 法の弾力性や製品革新能力よりも労働生産性が重視されるようになる。

(2-2)製 法革新は労働生産性向上を目的とする。そのために漸進的な製

品革新を も伴 う。

(3)製 法技術は,そ の構造や機能におけるスラックを排除し攪乱要因 を可能

な限り減 らす ことによって最大限の生産性を確保 しうる。新たな機能を追

加す るためには構造の変更が必要である。(技 術上の機械原理)

(3-1)製 法は製品に特定化 ・一体化する方向へと向かう。

(3-2)支 配的デザイン確立後に製法革新が本格化する。

(3-3)製 法革新は,製 法の弾力性を犠牲 とするように進行する。

(4)組 織にも技術 と同様 に機械原理が効いている。すなわち,構 造上機能上

のスラックを排除するほど生産性は向上する。

(4-1)組 織構造 も製品に特定化する。

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158 研 究 年 報XXXX

(4-2)垂 直統合が有利になる。

(5)人 間は機械に比べて信頼性が低 く攪乱要因である。

(5-1)設 備の統合化 ・自動化によって労働を製法か ら排除することが生

産性向上をもたらす。

(5-2)組 織において も,公 式化 ・階層化 ・専門化 によって従業員の自由

裁量を極力排除す る方が生産性を向上させる。

(6)規 模の経済が作用す る。

(6-1)生 産単位は次第に大規模化す る。

(7)外 部から市場条件を大きく変えて再び不確実性を高めるような作用が加

わる。(政 府による規制,消 費者の関心の変化など)

こうした前提が立てられた背景には,ア バナシーらが,1970年 代前半 ごろの

市場や技術 ・組織に関する主に合衆国の研究者による先行研究を理論的基礎 と

していること,合 衆国における自動車産業などの加工組立産業を主 として経験

対象としており,そ れ らの産業の当時までの歴史経過を経験基礎 としているこ

とが関わっている。 したがって,そ れには歴史的特殊性,地 理 的特殊性,産 業

的特殊性などさまざまな特殊性が反映 していることを注意 しておく必要がある。

皿.3.ア バナシーモデルの論理構造

諸概念 ・諸前提を総合すると,ア バナシーモデルの大略的な構造を次のよ う

に表す ことができる。

まず,製 品革新を媒介に市場 と技術における不確実性が減少 し,「支配的デ

ザイン」の確立を境に多様な製品仕様は急速に標準化にむか う。市場の要求や

技術的対処法は確実かっ画一的な もの となり,競 争の焦点は製品機能の新奇性

よりも価格へと移 る。そのよう な状源下で製法の弾力性よりも労働生産性が重

要 となり製法革新はその方向に行われる。 ここで機械原理に則 り製法は製品に

特定化される。また,組 織 も同様の機械原理に基づ き専門化され原材料供給源

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アバ ナ シーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関す る検討 159

の垂直統合も進む。 しか も,そ のとき人間は典型的な攪乱要因とされるため製

法や組織か ら排除される。製法においては統合化 ・自動化が進み,組 織におい

ては公式化 ・階層化 ・専門化によって自由裁量の幅は極力排除される。安定し

た状況下で規模の経済が追求され工場は大規模化する。これら0連 の動きによっ

て変化に対処す る時間と費用が非常に増大する。すなわち弾力性の失われた製

法と組織とは,外 部条件の変化によって製品市場の不確実性がふたたび増 した

ときに,新 たな製品革新を阻害するように働 く。 これらを図示すると図3-2

のようになる。

図3-2ア バナ シー モデ ルの論 理構造

②コスト削減方法

としての労働生

産性の重視

ラデ ィカル な製 品 革新①市場と技術の不確

実性減少,収 斂化

支配的デザインの確立

組 織 の 変 化

(公 式化 。階 層 化専門化 ・垂直統合)

⑤人間の攪

乱要因視

s'

④組織の機

械原理

製 法 革 新

(特定化・統合化・自動化)

,プ

,,'

組織の弾力性低下

規模 の拡 大

丶、、

\ ⑥規模の経済

一一一 一  冒'一∴ ③技術 上の

機械 原理

労働生産性向上 製法の弾力性低下

製 品変化 のコス ト上昇 安 定状況 での コス ト低 下

ラディカルな製品革新の困難性

⑦不確実性の再発生

ジ レン マ

ラディカルな製品革新の必要性

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160 研 究 年 報XXXX

これにより,「労働生産性」 と 「製法の弾力性」 あるいは 「労働生産性」 と

「製品革新」のジレンマを示 した 「生産性ジレンマ」が,い ずれの場合に して

も直接的な関係ではなく,こ のように様 々な関連 ・条件を通 して生 じて くる ト

レー ドオフの関係であることが明 らか となる。また,「労働生産性」 と 「製品

革新」 とのジレンマの基礎に 「労働生産性」と 「製法の弾力性」とのジレンマ

があることも把握できる。

IV.ア バナ シーモデル の限界

IV.1.ア バナシーモデルの展開

アバナシー=K.ク ラークeカ ントロウ(1983)に おいて,ア バナシーモデ

ルの展開が見られる。前節で明らかに したモデルの諸前提をもとに,そ の展開

内容の検討をしておこう。

議論の展開の経験基礎にあるのは,自 動車産業での国際競争のさらなる激化

と市場の嗜好変化とりわけ多様化 とい う状況変化であり,そ の中で高業績 をあ

げる日本企業の生産実践である。それ らに直面 して,ア バナシー らは 「脱成熟

化」(de-maturity)と いう事態として捉え,そ の理解のために従来のモデルの

展開を図っている。そこで彼 らは前節であげた諸前提のいくつかに関 してより

詳 しく述べるとともに,い くっかの前提にっいては否定ないし修正を行 ってい

る。また,「革新」の類型にっいても変化が見 られる。

詳 しい説明が与えられたのは,前 述の不確実性の減少に関する第一前提と最

後の不確実性の再発生の前提である。不確実性の減少にっいては,生 産者 と消

費者の双方における 「学習過程」(learningprocess)に 根拠 が求め られる。

それを通 じた両者間のコンセ1ンサスの形成によって不確実性は減少 し製品デザ

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アバナ シーの 「生産性 ジ レンマ」モデル に関す る検討 161

インの階層が確立されるというのが趣旨である56。より強調されるのは,「脱成

熟化」のモデル上での解釈の基礎 となる不確実性の再発生に関する叙述である。

彼らは,従 来モデルで示 した通常の 「生産単位」の発展傾向すなわち 「流動的」

段階か ら 「特定的」段階への移行傾向が決 して硬直的なものではなく,「逆行」

(reversal)の 可能性があることを従来以上に強調 している。 まさに,そ れが

「脱成熟化」を彼 らのモデルに取り込む基礎 となるふらである57。その 「逆行」

の契機となるのは,技 術と消費との関係における変化であり,具 体例に代替製

品の価格の急変や新たな技術の導入などが挙げられている。それらによって,

需給間のコンセンサスが崩壊 し再び両者による学習過程が開始される。これが

厂逆行」を意味するというのである。また,彼 らは特定の環境条件に完全 に適

応 した生産単位が技術や消費のわずかな変化に対 しても脆弱になるとして説明

を補強している田。以上のように,ア バナシーモデルの特に市場と生産 との関

係での不確実性の前提が,よ り洗練されている59。

他方,ア バナシー=K.ク ラーク=カ ントロウ(1983)は,第 五前提すなわ

56)Abernathy,W.J.,K.B.ClarkandA.M.Kantrow(1983),lndustrialRenais-

sance:ProducingaCompetitiveFutureforAmerica,NewYork:Basic,

pp.21-27.(望 月嘉 幸 監 訳 ・日本 興 業 銀 行 産 業 調 査 部 訳 『イ ンダ ス トリア ル ・ル ネ サ

ン ス 』,TBSブ リ タニ カ,1984年,45-55頁);cf.Clark,K.B.(1983),"Com-

petition,TechnicalDiversity,andRadicalInnovationintheU.S.Auto

Industry,"inResearchonTechnologicalInnovation,Managementand

Policy,editedbyR.S.Rosenbloom,Vol.1,Greenwich,Conn.:JAIPr.,

pp.103-149.

57)Abernathy,Clark&Kantrow(1983),op.ctt.,pp.19-21.(邦 訳,42-44頁)

58)Ibid.,pp.27-29.(邦 訳,55-58頁)

59)こ う し た特 徴 は 「革 新 」 の 類 型 の変 化 に も現 れ て い る。 技 術 的 斬 新 性 と生 産 シス テ

ムへ の 影 響,市 場 と製 品 と のっ な が りに 与 え る影 響 と い う側 面 が そ れぞ れ 分 離 さ れ,

特 に 後 二 者 の関 係 か ら 「建 築 的 革 新 」 「通 常 段 階 的 革 新 」 「ニ ッチ市 場 創 出 的 革 新 」

「革 命 段 階 的 革 新 」 と い う類 型 化 を 行 って い る。 そ の 趣 旨 は,産 業 創 出 時 の 革 新 と

「脱 成 熟 」 期 の革 新 との 区 別 に あ る。 す な わ ち,創 出 期 の 革 新 と違 って 「脱 成 熟 」 期

の 革 新 は既 成 の市 場 の 中 で 大 量 生産 の も とで 高 度 に 明 確 な市 場 の要 求 に 応 え な が ら

遂 行 さ れ な け れ ば な ら な い と され て い る。Ibid.,pp.97-98,pp.110-114,p.123.(邦

訳,174-175頁,193-200頁,215頁)だ が,こ の よ う な区 別 と 「脱 成 熟 化 」 を従 来 の モ

デ ル上 に お け る 「逆 行 」 と す る把 握 と は論 理 的 に必 ず し も一 貫 す る と は い え な い で

あ ろ う。

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162 研 究 年 報XXXX

ち人間を機械と比 して攬乱要因 と見なす前提にっいては,否 定か少なくとも限

定の立場を示 している。すなわち,日 本の経営実践の研究をもとに人的資源の

活用の有効性を強調している。「機械操作という意味が急速に変化 してい るに

しても,複 雑な機械は,よ り高度な熟練を備えた操作員を必要とする。効率の

優先は,機 械の立ち上げ時間や操作員が専用設備か ら最高の機能を引き出すた

めの漸進的な改善をより重要なものにする60。」この論述を見れば,た とえ生産

性に重点の置かれる状況でさえ,人 間を製法か ら排除 しようという従前の前提

は取り下げ られているといえよ う。「脱成熟化」のもとでという限定っきか も

しれないが,む しろ彼 らは,労 働を製法の中に組み込み,そ の技能 と能力 とを

競争におけるテコとすることを強調さえしているのである61。

アバナシー教授は1983年 に他界 したため,彼 自身によるモデルの展開 はこれ

以上はなされなか った。 しか し,世 界各国の多 くの論者が彼のモデルに批判を

加えなが らも影響を受けている。それらの中か ら,い くっかの批判にっいて次

に見てみよう。

IV.2.ア バナシーモデルに対する諸批判

アバナシーモデルに対する様々な論者の批判にっいて,前 節で述べたアバ ナ

シーモデルの七っの前提に関連づけながら検討 してゆくこととす る。

MITの 国際的自動車研究プログラムの1984年 の報告書[ア ル トシzラ ー他

(1984)]は,ME技 術を導入 した弾力的な生産設備によって,「生産性 ジレンマ」

か ら脱 したとしている。これにより,労 働生産性の向上と製法の弾力性の両方

を高 くできるとする62。したがって,こ れは,第 三 の前提であ る技術の機械原

60)Ibid.,pp.91-92.

61)Ibid.,pp.78-83.(邦 訳,140x149頁)

62)Altschler,A. .etal.(1984),TheFutureofAutomobile:TheReportofMIT's

InternationalAutomobileProgram,Cambridge,Mass.:MITPr.,pp.135-

137.(申 村 英 夫 ・大 山 昊 人 訳 『自動 車 の将 来 』,日 本 放 送 出 版 協 会,1984年,179-181

頁)

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アバ ナ シーの 「生産性 ジレンマ」モデルに関す る検討 163

理からの離脱を意味 している。また,そ の報告書は生産の社会的組織の変化 に

っいても言及 している。やはり日本企業の実践をもとに,製 法改善などでの労

働者の能力活用が品質を高めるだけでなく間接労働の投入量を減らし結果的に

労働生産性を高めると指摘 している。供給業者など企業間の関係についても資

金的 ・法律的な統合だけが唯一の方法ではなく,企 業集団のなかで機能的な調

整関係(operationalcoordination)に よる方法がより優れた方法 として挙げ

られている餡。これ らは,人 間を攪乱要因とする第五前提の否定であるととも

に,組 織の機械原理に関する第四前提に対する否認で もある。

同様にヘイズeウ ィールライ ト(・ ・,)も,ア バナシーモデルとほぼ同一の

含意を持っ彼 ら独自のモデJVの 限界として,M 、E技術と日本でのJIT(just-

in-time)シ ステムの生産実践とが,高 い機械稼働率 ・低 いコス トの もとでの

弾力的な生産を可能にすることを示唆 している嫐。また,ヘ イズ=ウ ィールラ

イ トは,製 品ライフサイクルと市場のライフサイクルが必ずしも一致 しないこ

とを指摘 している。その一っの場合は成熟市場 においても製品革新によって製

品が多様化 して 「逆行」が生 じることである。もう一っは,一 定の製品系列が

特性の異なる複数の市場を持 っている場合である。例としてテレビ産業はテレ

ビ受像機の市場が成熟 してもパーソナルコンピュータのディスプレイの市場が

成長 している事例が挙げられている65。前者の場合はアバナシーモデルや 「脱

成熟化」の論理でも認識 されている。 しかし,後 者にっいては第一前提 に対す

る批判にっながる。っまり,一 定の製品系列の機能は必ずしも一義的に決まる

とは限 らず複数の用途を有 しているかもしれないということである。さらに彼

らはアバナシーモデルに直接言及 して,製 品革新から製法革新へというモデル

で示されたパ ターンをとらず,製 品革新を次々と追求する企業や,逆 に様々な

63)Ibid.,pp.137-139.(邦 訳,181-184頁)

64)Hayes&Wheelwright<1984),op.cit.,pp.222-223

65)Ibid.,pp.223.

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164 研 究 年 報XXXX

製品の 「支配的デザイン」確立を待 って参入 し製法革新で市場を奪う企業があ

ることを指摘 している。 これらは,ア バナシーモデルの立場か ら言えば,新 た

な別の 「生産単位」の追加に過 ぎず個別の 厂生産単位」を対象としたモデルの

批判とは成りえないと反駁できるかもしれない。だが,そ うした反駁に利用す

るならば 「生産単位」 こそ恣意的な概念といえる。なぜなら,「生産単位」が

そこに含まれる製品の機能や構造をすでに予定 し,そ の範囲内での製品革新だ

けを 「生産単位」における 「製品革新」として捉え,そ こから逸脱する製品革

新を新たな 「生産単位」の創出とすることは,は じめか ら 「製品革新」 の定義

を制限 していることに相違無いからであるss。したがって,ヘ イズ らのこの批

判 も,ア バナシーモデルの第一前提に対 して疑問を投げかけるものと解す るこ

とができる。

ヘイズ=K .ク ラーク(1985a)は,定 量的分析方法によって,「生産性」 に

影響する要因を求めている。その際,彼 らは 「生産性」の指標 として,労 働生

産性ではなく総要素生産性(TotalFactorProductivity)を 用 いている。 そ

の中で,中 間在庫と総要素生産性との問 に逆相関がみ られ ること,生 産量の変

化 ・製品 タイプの数 ・計画変更の頻度 ・設計変更要求 ・新設備の導入などの指

標で捉えられる混乱発生活動がやはり総要素生産性と逆相関の関係にあること

を明 らかにしているs7。これは,ア バナシーモデルの第三前提である製法にお

ける機械原理の有効性をある程度裏づけるとともに,人 間以外の攪乱要因を明

らかにして,攪 乱排除の方法が設備の統合化 ・自動化だけではないことを示 し

ている。その意味では第五前提に限定を与える根拠にもなる。

また,ヘ イズ=K.ク ラーク(1985b)は,や はり定量的方法を使 って 「生

66)宗 像(1989),前 掲 書,273-274頁 。

6?)Hayes,R.H.andK.B:Clark ,(1985a),."ExploringtheSourcesof

ProductivityDifferencesattheFactoryLevel,"inTheUneasyAlliance,

K.B.Clark,R.H.HayesandC.Lorenz,ed.,Boston:HBSPr.,pp.151-188.

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アバ ナ シーの 「生産性 ジレンマ」モデル に関す る検討 165

産性 ジレンマ」の実証を試みているss。その分析結果か ら,彼 らは,加 工組立

産業における垂直統合が 厂生産性」 と 厂弾力性」ないし 「革新」との トレー ド

オフに作用するが,装 置産業における垂直統合は トレー ドオフに作用 しないこ

となどを明らかにし,「生産性 ジレンマ」の態様が産業によって異 なり,装 置

産業には必ず しも通用 しないことを指摘 している。垂直統合の作用の相違を彼

らは,製 品特性すなわち装置産業における新製品が混合率など生産条件の変更

だけで開発できることに求あている。これは,機 械原理が装置産業では必ず し

も製品特定化に働 くとは限らないという意味で,ア バナシーモデルの第三前提

を再考する材料を提供 している。同時にアバナシーモデルが主に加工組立産業

を経験基礎としていたことの限界を示唆するもの69とも受けとめられる。

こうした産業間における相違にっいて,定 性的なが らより強力な議論を提供

しているのは,ポ ーター(1983)で ある。彼は,技 術変化と産業成熟に関 して

アバナシーモデルを検討 し,そ のパ ターンが複数あるうちの一っに過 ぎない と

している。っまり産業成熟 とともに製品革新から製法革新へというパ ターンの

他にも製品革新申心の航空機産業や製法革新中心の化学産業などがあるとして,

こうしたパ ターンの変化を生み出す変数の検出を行っている。それによれば,

規模の増大 ・製品製法における学習曲線 ・不確実性の減少と模倣 ・技術拡散 ・

製品製法における技術革新からの収穫の逓減 という 「動的過程」(dynamic

process)が,暗 黙の前提としてアバナシーモデルのパ ターンを作 り出 してい

68)Hayes,R.H.andK.B.Clark(1985b),"ExploringFactorsAffecting

InnovationandProductivityGrowthwithintheBusinessUnit,"inThe

UneasyAlliance,pp.425-458.こ こで は,「 生 産 性 」 の 指 標 と して 総 要 素 生 産 性

の 向上 率が,「 革 新 」 の指 標 と して 新 製 品 開 発 の 率 が 取 り上 げ られ て い る。 前者 は諸

要 素 の 投入 量 の 増 量 を売 上 の増 量 か ら控 除 した もの,後 者 にっ い て は 過 去3年 間 の

新 製 品 の売 上 の 率 を利 用 して い る。 この よ うな デ ー タの 取 り方 は,資 料 収 集 上 の 制

約 や経 営者 の 実 践 的 関 心 を反 映 して い る もの と解 さ れ る が,測 定 対 象 が 異 な る た め

ア バ ナ シー モデ ル に忠 実 だ とは 決 して いえ な い。

69)な お,ア バ ナ シ ー 自身 も,ア パ ナ シ ー モ デル が 全 て の 事 例 を代 表 し な い こ と を 断 わ

って い る 。 特 に 連 続 的 な装 置産 業 な どが 例 外 と して 挙 げ られ る。

Abernathy(1976),op.cit.,p.84,pp.172-173.

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166 研 究 年 報XXXX

るとし,さ らに,製 品固有の物理的な差別化可能性 ・買い手の要求 の細分化 ・

成熟における単位量(規 模)・ 潜在的な規模の経済と学習効果 ・製 品製法問の

っながり・代替に対す るモチベーション ・技術的機会 という産業の 「構造媒介

変数」(structuralparameters)が,パ ターン創出過程の速度や程度を制御 し

ているとする70。これを図示すると,図m1の ようになる。 アバナシーモデ

ルのパターンは,「構造媒介変数」にっいて,製 品が物理的に差別化可能で,買

い手の要求の細分化が低く,成 熟期において製法の高度の自動化を支持するだ

け単位量が大きく,規 模の経済や学習曲線の効果が大 きく,製 法製品間のっ な

がりが強 く,代 替のモチベーションは製品機能にあり,技 術的改善の機会が中

程度であるときに,も たらされるという。彼の指摘 しているアバナシーモデル

の前提は本稿のものと次のように対応させることができる。規模の増大は本稿

で挙げた第六前提の結果である。学習曲線 も前提というより結果であり第一 ・

第二 ・第三の前提に基づ く。不確実性の減少 ・技術拡散 は第一前提に相当 し,

革新の収穫逓減は第一前提の帰結といえる。 「構造媒介要因」とされる製品特

性 。需要特性 ・代替の動機 ・技術的機会は第一前提の具体的内容に当たり,製

品製法の連関は第三前提に関わるものである。このようにポーターの挙げてい

る諸要因には前提というよりは帰結と考えられるものも含まれているが,関 係

する諸前提に対 して再考を促す ものといえる。特に第一 ・第三 。第六の諸前提

に関する産業による相違を指摘 し,経 験基礎を主 に加工組立産業においていた

70)Porter,M.E.(1983),"TheTechnologicalDimensionofCompetitive

Strategy,"inResearchonTechnologicalInnovation,Managementand

Policy,editedbyR.S.Rosenbloom,Vol.1,Greenwich,Conn.:JAIPr.,

pp.1-33;cf.Porter,M.E.(1985),CompetitiveAduan.tage,N.ewYork:Free

Pr.,pp.194-198.(土 岐坤 ・中 辻 萬 治 ・小 野 寺 武 夫 訳 『競 争 優 位 の 戦 略 』,ダ イ ヤ モ

ン ド社,1985年,240-244頁)な お,ポ ー タ ー(1985)で は 「構 造 媒 介 変 数 」・と し

て 「技 術 の源 泉 」 が 加 わ り,r成 熟 に お け る単 位 量 」 が 外 され て い る 。 ま た 「製 品 製

法 間 の っ なが り」 は 「価 値 活 動 間 の 技 術 的 連 結 」 と 改 め られ 情 報 シス テ ム技 術 な ど

も含 め 企 業 活 動 全 体 の技 術 との関 係 に まで 視 野 が広 げ られ て い る 。cf.Ibid.,p.167.

(邦 訳,210頁)

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アパ ナ シーの 「生産性 ジレンマ」 モデルに関 す る検討 167

アバナシーモデルの限界を明 らかにしている。

図4-1ポ ーター(1983)に よるアバナ シーモデ ルの諸条件

動 的 過 程

・規模 の増大

・学 習 曲 線

・不確実性減少と模倣

・技 術 拡 散

・革新か らの収穫逓 減

,

構 造 変 数

製品革新か ら製法革新へ

(ア バ ナ シー モデ ル)

・製品固有の物理的差別化可能性(+)

・買い手の ニーズの固有 の差別化(一)

・成熟 にお ける単位量(規 模)(+)

・潜在 的な規模 の経済 と学 習効 果(+)

・製品 ・製法間 のっ なが り(+)

・代替 に対す るモチベー ション

・技術的機会

()内 は作用 の方 向

ドイッのツェルギーベル(1983)は,ア バナシーモデルの問題点 として,あ

まりに機械的 ・必然的であること,定 量化が困難であること,製 品製法間の区

別が困難な場合があること,化 学産業など連続工程による産業にはモデルが実

際上妥当しないこと,発 展過程を止めることが可能なことを挙げている71。こ

のうち,定 量化の問題 と製品製法間の区別の問題以外はアバナシー自身 も認め

ていることであ り72,製法革新 と製品革新との区別が困難 というのはッェルギー

ベルの挙げる工作機械産業など限 られた領域だけに該当す る。 しかし,化 学産

71)Zorgiebel,W.W.(1983),TechnologieinderWettbewerbsstrategie,BerlinErichSchmidt,S.36ff.

72)Abernathy(1978),op.cit.,p.84,p.153,p.169;Abernathy,Clark&Kantrow

(1983),op.cit.

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168 研 究 年 報XXXX

業と工作機械産業というドイッにおける主要産業の二っにおいて妥当性を欠 く

限 りにおいて,ア バナシーモデルを一般的モデルというのには,ド イツのよう

な国か ら見れば,と ても無理があろう。

イギリスのウィップ=P.ク ラーク(1986)は,ア バナシーモデルを踏まえ

て英国ローバー社 ・BL社 の事例研究を行 った後 に,ア バナシーの研究の批判

点を提示 している。それは一っに,製 品製法にくらべて作業組織についての分

析の綿密さが欠けること,組 織過程や組織の政治学についての考慮に欠けるこ

とである。作業組織にっいては,労 使の信頼関係が欠如 していると非公式 な慣

行のために革新の新奇性がそこから抵抗を受 けるか もしれないこと,組 織過程

や組織内政治にっいては,企 業を統一的な集権的な実体として捉えているが実

際には内部の対立や競争が存在 していることが指摘されている。それゆえ,彼

ら自身の分析次元には製品 ・製法に,現 場か ら経営まで全てのレベルの(広 義

の)「作業組織」が加えられている73。こうした労働や組織に関するアバナシー

モデルの脆弱性はとりわけ第四の前提に対する批判の論拠となりうるが,同 時

に製品市場や技術以外にも労働や組織という不確実性の源泉があることをアバ

ナシーが軽視 していることをも示唆 している。資本 ・経営 ・労働 という企業内

の各勢力問およびその内部の関係の如何によっては革新の展開にも一定の変化

が現れるであろうということである74。第二に,製 品市場や技術の不確実性に

ついて も,ア バナシーが仮定するよりも複雑であ り,「支配的デザイ ン」 が出

現 しても輸入品など外部からの圧力や同業者間の競争か ら発生する内的な駆動

力が存在する場合があるとしている。例えばイギ リスと合衆国との技術的 ・市

73)Whipp,R.andP.Clark(1986),Innou¢tion¢ndtheAutolndustry:Product,

ProcessandWorkOrganization,London:FrancisPinter,p.2,p.17,pp.199一ノ200,p.202;cf.pp.89-99,pp.115-123,pp.137-140.

74)Ibid.,p.200.彼 らの組 織 重 視 の 指 向 性 は,対 象 で あ る革 新 に 組 織 革 新 を 加 え る こ

とに も反 映 す る こ と に な る。Ibid.,p.36.

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アバ ナ シーの 「生産性 ジレンマ」モデル に関す る検討 169

場的不確実性の変遷は図4-2の ように相違 しているという。さらに,彼 らは

アバナシーが日常的 ・季節的に存在する市場の問題や不確実性をあまりに軽視

していると批判する75。第三に,さ らに外在的な不確実性 として地域的な制度

や労働市場 ・住民運動などの諸条件の存在をアバナシーモデルが考慮 していな

いことも批判 している76。以上の批判はいずれもアバナシーモデルの第一前提

に対するものと解す ることができる。 ウイップ=ク う一クは,こ れ らの問題の

大きな原因としてアバナシーが社会的なコ ンテキス トの比較の観点を欠き,合

衆国の特殊性に基づく前提を充分に分離 しえなかったところに求めている77。

図4-2自 動車産業の米 ・英比較:市 場 と技術

市場 の撹乱 、

1市 場細分化1高 邑 1900-20年 1全 体流動的1

技術

一一一一一一一一

1920-60年

0

1970年 代i

イギ リス

1gOO-10合 衆 国

1

低.

1910-70年

r的

高 攪

L

1980年 代

1975-90年,一 一 騨 →一膨

レ レーチ・化1低, 1技 術細分化1

(出所)ウ ィップ=ク ラーク(1986),p.30.

ウ ィ ップ=ク ラー クが 作 業 組 織 を製 品 ・製 法 の 他 に分 析 あ るい は戦 略 の 次元

と して 明 確 に提 示 した の に対 し,労 働 者 の 責 任 を製 品 ・製 法 の次 元 と明 確 に分

離 した例 が オ ー ス トラ リア の バ ッ ダム=マ シ ュ ー ズ(1989)で あ る。 彼 らは生

産 シス テ ム の分 析 モ デ ル の軸 と して 図4-3の よ うに製 品 革 新 ・製 法 の可 変性

75)Ibid.,pp.30-31,p.82,p.201.76)Ibid.,p.202;cf.p.140.

77)Ibid.,p.201.

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i70 研 究 年 報XXXX

(製法変更の頻度と程度)・ 労働者に付与 された責任の程度の三者を挙げている。

労働者の責任の程度 は 「直接統制」 と 「責任ある自治」との両極間に位置づけ

られる78。彼 らの意図はアバナシーモデルのそれとは異なるが,ア バナシーモ

デルにおいて労働の変化が製法の変化 と一体的に考え られていたことへの再考

を促す。第五前提の見直 しをする際に一っの参考になるであろう。

図4-3バ ッダム=マ シューズ(1989)に よる生産 システムの次元

労 働者 の責任

製法可変性

製品革新、

出所:Badham&Mathews(1989),opCL1.,p.207.

岡本康雄(1985)も 組織論の観点からウイップ=ク ラークと同様にアバナシー

モデルにおける組織や管理にっいての分析不足を批判 している。アバナシーモ

デルでは組織や管理が技術革新の移行過程の従属変数 として捉え られるにとど

まっており,企 業内部の組織状況が企業における技術革新にどのような影響を

与えるかにっいての考察が不足 しているということである。そ して,製 法技術

を 厂ハードな工程(製 法)革 新」 と生産管理システムのような 「ソフ トな工程

革新」 とに分けアバナシー(1978)が 前者を中心に考察 しているのに対 し,後

者の重要性を強調 し,そ れがコス ト改善や品質改善にとどまらず製品革新 にも

影響を与える可能性があるとしている。その根拠は技術に固有の不確実性がよ

78)Badham,R.andJ.Mathews(1989),"TheNewProductionSystems

Debate,"Labour&Industry,2(2):194-246.

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アバ ナ シーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関 する検討 17i

り大 きな技術ポテンシャルを生み出す可能性に求められている。そして,こ れ

の戦略的 ・計画的誘導により,さ らなる累積的でマイナーな製品革新を誘発す

ることが可能であろうとしている79。 「ソフトな工程革新」を生産管理方式や

作業組織に求めるな らば,こ の批判も全体としてアバナシーモデルの労働や組

織の分析に関する問題を指摘 しているものと解される。

中本和秀(1992)は アバナシー(1978)の 実証研究の検討から「特定的段階」

に移行 した生産単位を複数持っことによって企業全体 としての製品多様性を効

率性と両立できたこと自体が,個 別生産単位での特定化進行を許容 したという

興味深い分析をおこなっている80。これを展開すれば,製 品市場全体の規模が

非常に大きくて同質的な憎部分だけで一個以上の生産単位の供給量を吸収でき

るな らば,個 別生産単位にとっての需給調整の不確実性は減少す るということ

になる。アバナシーらは不確実性の減少を主に需給双方の学習過程に求めてい

たが,市 場拡大が生産単位にとっての不確実性を減 じるということが,第 一前

提を補強す る,あ るいは規定する別の論理として考えられるかもしれない。

宗像正幸(1985)は,ア バナシーモデルが合衆国自動車産業で経験的に実現

された技術に視点をおいているがために,そ の枠外にある技術的可能性の近年

の展開 との関連の視点に欠ける点を指摘 している81。これは具体的にはME技

術を利用した機械の可能性などを指 しており,そ れ らを視野に入れた上での製

法技術における機械原理の貫徹に関する第三前提に対する見直しを示唆するも

のであろう82。また,ア バナシーモデルは高生産性のために革新能力が失われ

79)岡 本康 雄(1985)「 技術革新 と経営戦 略」,『技術革新 と企業行動 』(岡 本康 雄 ・若 杉

敬 明編)所 収,東 京大学出版会,3-45頁 。ただ し,本 稿 第3節 注51で 述 べた よ うに

アバナ シー も漸進的 な製法革新 が漸進的な製品革新 を伴 うことを明確 に述 べている。

80)中 本和秀(1992)「 アメ リカ型 自動車 生産 シス テムの技 術的 基礎 に関す る一考察:

アバ ナシー 『生産性 ジレンマ』 の検討を通 して」,札幌学院商経 論集,9巻1号,19-55

頁。

81)宗 像正幸(1985)「 合衆 国自動 車工 業経営研究 の展開」,国 民経 済 雑誌,152巻6号,

45-62頁 。

82)ア バ ナ シーは以前 の論文 において は,ME新 技術 が製品 製法 間 の相 互連 関 を結局 は

弱 めて,技 術変化 のパ ター ンか らの逸脱が生 じるか もしれない と述べ て い る。 しか

し,そ の広 範 な実 現 まで に はか な り時 間 が か か る と見 て いた よ うで あ る 。

Utterback&Abernathy(1975),op.cit.,p.646.

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172 研 究 年 報XXXX

るということで,近 年の合衆国自動車産業の技術革新における停滞を理 由づけ

るものであったが,他 の論者の研究やアバナシー自身の後の研究83が認 めてい

るように近年において例えば日本の自動車工場と比較 したとき合衆国の自動車

工場はむしろ生産性で劣 っている。宗像によれば,こ れはアバナシーが生産性

を合衆国自動車産業それ自体の内部における絶対的水準を問題としていること

に帰せ られる緲。こうした指摘は,全 体としてアバナシーモデルの現実説明力

や将来予測力に限界があること,特 に自動車産業だけ取 り上げて も最近の動向

や国際競争力の相違を説明で きないことを明確にしている。宗像(1989)は ,

そのほか先に述べた 「生産単位」 と 「製品革新」の規定上における問題を指摘

し,そ れらに見 られるアバナシーモデルの狭隘性の主な原因として ,彼 の技術

特性把握における方法上の問題と特定の経験的諸条件におけるパ ターンの一般

化を挙げている85。

以上のように多 くの論者がアバナシーモデルに様々な側面から批判を加えて

いる。 これらの批判にはモデルの諸概念に関わるものも含まれるが ,多 くはモ

デルの諸前提の妥当性を疑問視するものである。次にこれらを指針としなが ら

アバナシーモデルの限界をその諸前提の検討に沿いなが ら整理 しよう。

IV.3.ア バナシーモデルの限界

アバナシーモデルは,市 場戦略や工業経営における製品と製法という二側面

の技術,労 働,企 業組織 企業間関係などの諸要素間の連関を ,一 定の先行研

究 と歴史的資料 に基づいて論理的に明確にした。そ して,そ の連関を基礎 とし

て,労 働生産性と技術革新,製 法の弾力性 との間の トレー ドオフの関係 を明 ら

かにし,そ れ らを管理す るための基礎理論を提供 した。 このことは,そ れ以前

'

83)Abernathy,Clark&Kantrow(1983),op.cct .,pp.57-67.(邦 訳,105-122頁)

84)宗 像(1985),前 掲 稿,56頁 。

85)宗 像(1989),前 掲 書,271-275頁 。

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アバ ナシーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関 す る検討 173

には未解明であった生産と技術革新 との動的な関係の理解を大 きく進歩させ,

本格的な技術管理研究の道を開いた86。

生産性 ・弾力性 ・革新という 「生産性ジレンマ」に関わる問題は,い ずれ も

工業経営にとって最重要な課題であり,と くに今日のように先進諸国における

需給調整の問題がクローズアップされている状況においては産業界 ・労働組合 ・

学界 ・政策当局のいずれもが注目している切実な問題である87。これ ら各主体

の管理や政策を立案する際の基礎として も彼 らのモデルは参考となるであろう。

これはアバナシーモデルの実践的貢献 といえる。

以上のように,ア バナシーの 「生産性ジレンマ」モデルは,技 術管理の領域

'に おいて,理 論 と実践の両面で大 きな意義を有 している。しか しながら,彼 の

モデルから導かれる技術管理へのインプ リケーションは先に見たように 「生産

性 ジレンマ」を前提とし,そ の枠内での選択に限定されていた。今日の製造業

において求められている,コ ス ト削減と製品変化に関する弾力性の確保や技術

革新の実施 との同時達成を考えるうえで,こ うした限定的な見方だけでは明 ら

かに不足である。 「生産性 ジレンマ」の克服を単に不可能 と片づけるのではな

く,そ の可能性を追求す ることが必要とされているか らである。こうした,モ

デルのイ ンプ リケーションにおける限界には,モ デルの論理構造上の問題が関

係 しているに違いない。 これにっいて,諸 論者による批判を踏まえながら,ア

バナシーモデルの各前提の妥当性か ら考えてゆくことにしよう。

86)技 術 管 理 論 の 概 観 と そ の分 析 視 角 の 特 徴 に っ い て は,拙 稿(1992)「 技 術 管 理 論 の 分

析 視 角 にっ いて の一 考 察 ~ 新 た な 生 産 論 へ の展 望 」(神 戸 大 学 大 学 院 経 営 学 研 究 科

修 士 論 文)を 参 照 。

87)こ う した状 況 を よ く反 映 して い る もの と して例 え ば 以 下 の 文 献 を参 照 。

Dertouzos,M.L.,etal.(1989),MadeinAmerica,Cambridge,Mass.:MIT

Pr.(依 田 直 也 訳 『MadeinAmerica』,草 思 社,1990年);Cohen,S.C.and

J.Zysman(1988),ManufacturingMatters,NewYork:Basic(大 岡 哲 ・岩

田 悟 志 訳 『脱 工 業 化 社 会 の 幻 想 』,TBSブ リタ ニ カ,1990年);Piore,M.」.and

C.F.Sabel(1984),TheSecondIndustrialDivide,Cambride,Mass.:MIT

Pr.(山 之 内 靖 ・永 易 浩 一 ・石 田 あ っ み 訳 『第 二 の産 業 分 水 嶺 』,筑 摩 書房,1993年).

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174 研 究 年 報XXXX

第一前提は,消 費者や生産者の行動 は学習によって同質化に向かい,製 品機

能 ・構造に関する不確実性は減少するということであるが,そ こに必然性は存

在 しない。なぜなら,需 給双方の個々の主体が必ず しも一様に進むとは限 らな

いからである。違いの追求は不断に起 こりうる。製品の多義性 ・需要の多様性 ・

競争者の戦略 ・技術秘匿など市場と生産 との同意を崩す可能性を もった諸要因

は常に存在する。これらが活発化すれば,学 習過程 は阻害され不確実性 の減少

は望めない。ただ し,そ れが必ず しも経済的に合理的であるとは限らない。 と .

いうのは,あ る程度,学 習過程が進行 しないと販売量を増や し利益を得ること

ができないからだ鴎。また,製 品構造が単純である場合,技 術的改良機会が限

られている場合や市場規模の全体的拡大に伴い相当な規模を持っ部分的な同質

的市場が創出されて くる場合などにおいては学習過程がすみやかに進行 し不確

実性は急速に減少するかもしれない。これらを合わせて考えると,需 給双方の

学習による製品機能 ・構造に関す る不確実性の減少は確かに市場規模が一定の

大 きさに達するまでの間は進むが,そ の後においては上記の諸状況因の様態次

第でこの不確実性の動向は左右されると考え られる。

不確実性はその解決の可能性を提供するという意味で一般に技術革新の機会

であると考えられる。工業経営ないし生産単位にとっての不確実性は,上 に述

べた製品機能 ・構造 に関する不確実性以外にも,ア バナシーモデルが軽視 して

いると批判 されていた種々の不確実性が存在する。まず,ウ イ ップ=ク ラーク

(1986)の 指摘する日常のあるいは季節的な需要変動である。 このような量的

な不確実性を軽視すべきではない。製品革新による差別化によって,こ れを減

らす ことができれば大きな経済効果が期待される。次に,生 産技術固有の不確

実性の存在がある。アバナシーモデルは製品 ・製法技術が市場 との関係で特定

'

88)敢 えて一定 の技術 を公開 し,自 社 規格 の市場 を拡大 しよ うとす る 「オ ープ ン ・ア ー

キテクチ ャ」戦 略な どの狙 いは消費 者にお ける学習過程 の進行 ない し同意 の形成 に

あるといえ る。

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アバ ナ シーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関 す る検討 175

の解決方法に集約するように仮定 しているが,技 術的に代替的な方法がないわ

けではない。それ らは多 くの場合,ア バナシーモデルの示すように淘汰がなさ

れることが多いが,場 合によっては共存 している例 もある。それには,ド ット

インパ ク ト方式のプ リンタに対する熱転写方式,イ ンクジェット方式 ,レ ーザー

プ リンタというように価格の相違を伴いある程度棲み分けがなされている場合

もあれば,フ ィルム生産におけるインフレーション方式とTダ イ方式89のよう

に競合する場合もある。宗像(1989)の 指摘するように技術的可能性の次元で

考えた場合,常 にこうした技術的不確実性が存在するといって差 し支えないで

あろう。第三に,ウ イ ップ=ク ラーク(1986)や 岡本(1985)が 示すように,

アバナシーモデルは企業という主体を均質的 ・統一的に捉えており,組 織内部

の人間行動や政治過程に対 して充分に配慮 しているとはいえない。いわば組織

的な不確実性という側面が看過 されている。例えば,組 織によっては特定の製

法を受け入れないかもしれない。ロボッ トの導入に対する抵抗などはその典型

であろう。こうした場合,製 法革新が組織状況に適合する方向や克服す る方 向

に進むと考えられる。製品 もその連関によって設計変更されるかもしれない。

最後に,企 業や産業の外部に存在する圧力が生み出す不確実性がある。 アバナ

シーが挙げている資源危機 ・政府規制 ・新 しい要素技術のほかにも,ポ ーター

(1983)が 指摘する代替品 ・輸入製品,ウ イ ップ=ク ラークの指摘する地域条

例や住民運動,そ して労働組合がある。さらに,株 主 ・消費者団体 ・供給業者 ・

マスコミ・国際世論 ・知的所有権保有者などか らの圧力 ,金 利や為替 レー トの

変動なども挙げることがで きるであろう。アバナシーモデルでは,概 して,こ

れらは第七前提の 「脱成熟化」の論理に利用されている。 しかし,こ れ らは少

なくとも潜在的には常に存在 しているといえる。以上のように,製 品機能 ・構

89)イ ンフ レー ション方式 は材料 に空気 を送 り込 んで風 船状 に して切 り開 く方式 であ り,Tダ イ方式 はT字 型の金型 か らフィルム状 に押 し出す方式。 メーカーに よ って採 用

す る方法 が異 な り,少 な くと も現在 の段階で は競 合 して いる。 日刊工業新聞社(1992)

『モノづ くり解体新 書[二 の巻]』,145頁 参照 。

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176 研 究 年 報XXXX

造に関する不確実性以外にも企業や生産単位にとっての不確実性は多岐にわた

り存在する。アバナシーモデルは,こ れ らの不確実性の存在を軽視 している。

確かに,こ れ らの不確実性にっいては,一 定の市場規模に達す るまでは,さ ほ

ど問題 にならないかもしれない。 しかし,あ る程度,製 品あるいは産業 と して

の認知が高まり関与する主体が増えてくると無視できないものになってくるで

あろう。要するに,製 品機能 ・構造に関する不確実性とこれらの種 々の不確実

性 とを合わせ考えると,一 定の市場規模に達す るまではアバナシーモデルの第

一前提は妥当性をもっであろうが,そ れは絶対的なものではない。市場規模が

拡大するにっれて,種 々の不確実性が増加する傾向が見 られる。これを第七前

提の 「脱成熟化」と解することもできようが,こ れも必然的ではない。その動

向は個々の不確実性源とその規定諸要因 との様態に掛か っているのである。

不確実性に関する第一前提 はモデルにとって基幹である大前提といえる。不

確実性が減 らないのであれば,機 械原理は採用されないであろう。 コス ト削減

は唯一の目標ではな くなる し,製 品革新の経済的誘因 も減少 しない。このよう

に第一前提の妥当性はモデル自体の妥当性を根幹か ら左右する特性を持っ。し

か し,モ デルの発展性を考える場合,他 の前提固有の限界をも検討 してお く必

要がある。そこで,引 き続 き他の前提についての固有の限界を明らかにしてゆ

くことにする。

第二前提すなわち製造 コス ト削減の方法を主に労働生産性の向上に求めるこ

と。これにっいては,企 業の観点か らの 「生産性」の意味を検討する必要があ

る。広 く生産力の観点から言えば労働生産性の向上 は,そ れ自体,有 意義な事

象であるが,企 業のコス ト的観点か ら考えた場合,一 生産要素 としての労働力

だけが問題ではなく,資 本など他の生産要素 と合わせた全体としての投入 と産

出の関係が問題になる。 したがっτ,企 業のコス ト的観点か ら 「生産性」を考

える際,と りわけ直接労働が減少 してきた今日の大規模工業経営にお いて,ヘ

イズ・=クラーク(1985a,b)の ように 「総要素生産性(TFP)」 の方が重要視

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アバ ナ シーの 「生産性 ジ レンマ」 モデルに関す る検討 177

されるのは当然と言えよう。「総要素」の観点にあれば必ず しも労働節約だけ

がコス ト削減の方法とは限 らず原料節約や資本節約 という別の方法が考え られ

るようになる。 「総要素生産性」の向上を目指す製法革新はより多様な形態を

とるかもしれない。ただ し,前 述のように基幹前提である第一前提が妥当でな

いならば,製 法革新の目的は 「総要素生産性」の追求です らな く,「弾力性」

の追求に向けられるか もしれない。

技術上の機械原理である第三前提の妥当性にっいては,加 工組立産業におい

てはME技 術の利用による,そ の原理か らの離脱傾向を考慮する必要がある。

制御情報の処理を数値化することにより限定的なが ら機能変更のための物理的

な構造変更の負荷をかなり小さくすることが可能になり,そ の結果,高 度の生

産性を保ちなが ら一定範囲の弾力性を機械に負荷す ることができるようになっ

たからである。 しか し,ア ル トシ1ラ ー他(1984)の ように,こ の新技術によっ

て簡単に 「生産性 ジレンマ」から脱却 したというのは無理があるかもしれない。

というのも,技 術原理の変更は制御領域に限られ加工領域にっいては従来 どお

りの原理に もとついていることか ら一定範囲以上の弾力性要求に対 しては従来

の機械同様に内部構造を変換するか,そ れを回避するには統合化によって機械

構造を拡大することによって対応するしかないからである。たとえ後者の道を

採ったにして も,そ のことは一方で機械全体から見た遊休部分を増やす ことに

なり,他 方で部分工程の弾力性をシステム全体としての規格 ・許容範囲内に限

定することになる。また制御領域でもソフ トウェアがハー ドウェアの機械的構

造に規定されるがためにプログラム構造自体,一 種の機械的な論理構造に従わ

ざるを得ないことか ら完全に機械原理か ら離脱 しているわけではない。したがっ

て,ME新 技術によって 「生産性 ジレンマ」 は完全に無 くなるわけではない。

結局,ME新 技術の利用による製造設備は,全 体 として継続的な需要の確保が

見込まれ,か っ需要の質的 ・量的変動が一定範囲に収まるような領域に適 して

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178 研 究 年 報XXXX

いるということがいえる。goこのように技術上の機械原理はME新 技術 によっ

て全 く妥当性を失ったわけではない。けれども,制 約的なが らも機械原理を緩

和する作用を持っていることは看過できない事実である。そのほか,ヘ イズ=

クラーク(1985b)や ポーター(1983),ツ ェルギーベル(1983)な どが指摘 し

ているように,装 置産業においては加工組立産業のような機械原理が必ず しも

貫徹 しない。設備構造の変化がなくても材料の混合率や生産条件の変更で異な

る製品を生産 しうるからである。ただ し,こ の場合 も一定範囲の弾力性に限 ら

れることは言 うまでもないであろう。以上で明らかなように技術上の機械原理

は完全に解消されたわけではないが,そ の部分的な緩和 は見 られる。

第四前提すなわち組織の機械原理の妥当性 は遥かに疑わしい。というのは構

成要素はあくまでも生身の人間であり,機 械部品のように機械原理を貫徹 しよ

うにも,構 成要素の段階で有機的な不確実性をすでに含んでいるからである。

ウイップ=ク ラーク(1986)が 明らかにしているように組織の各成員には抵抗

したり推進 したりしようとす る意志があり,そ れに従 った行動を採 ることは常

に有 り得る。 したがって,組 織における機械原理は技術上の機械原理とは信頼

性において全 く比較にならないほど低いといえる。アバナシーモデルには,な

ぜ 「特定的段階」への移行が 「機械的組織」化を伴 うのか,安 定的な環境にお

いて 「機械的組織」が 「有機的組織」より高い生産性をあげる必然性がどこに

あるのか明確な論理は見 られない。

第五前提っまり人間は機械にくらべて信頼性が低 く攪乱要因であるとす る前

提91についてはアル トシュラー他(1984)な ど多くの異論が見 られた。アバナ

90)ME技 術 の 機 能 的 限 界 に関 す る よ り詳 しい議 論 に つ い て は,宗 像(1989),前 掲 書,

336-349頁 。cf.Piore&Sabel(1984),op.CLC....259-260.(邦 訳,332。333頁 。 な

お 邦 訳 書 で は,・プ ロ グ ラム制 御 に よ る組 立 が 「理 論 的 に い って,生 産 量 が 多 い場 合

よ り も,生 産 量 が 少 な い 方 が,,あ る い は注 文 生産 の 方 が 有 利 に な る」 と な って い る

が,こ れ は必 ず し も正確 と は いえ な い 。原 著者 が 主 張 して い る こ と は,そ れ が 単 種

疆 鑿 騾 謡1轡糶 縦湯隻a鵡)、籀 難孅 盥Zysman(1988),op.cit.,pp.156-157.

91)も ちろん,「革新」 には人間 の能 力が必 要で ある ことは自明で あ り,そ れ まで を アバ

ナ シーモデルが否定 しているわけで はな い。 しか し,岡 本(1985)が 指摘 す るよ うに組織 やその成員が 「革新 」に如何 に作用す るのか積 極的 な議論 もまた見 られない。

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アバ ナ シーの 「生産 性 ジ レンマ」 モデル に関 する検討 179

シー自身の後年の 「脱成熟化」研究でも,こ の前提は取 り下げられていた。改

めて,人 間は製法にとっての攪乱要因としてではなく,逆 に,製 法の問題を取

り除 く 「攪乱排除要因」ないし 「改善遂行要因」として製法への組み込みが主

張されるようになったのである。こうした再考の論理的な基礎は機械に内在す

る不確実性と機能的限界に求められるであろう。本来,機 械は自然発生 してき

たわけではなく人間の確実性の希求すなわち技術獲得への志向を客体化 したも

のに他ならない。 したが って,機 械に認められる確実性 とはまさに人問の作 り

だ した確実性であり,人 間は機械の確実性の源でもあると同時に機械には人間

の不確実性が移転 されている。そのうえ物質によって構成される機械はその物

質固有に内在 している不安定性を抱え込んでいる。また,機 械に与えられてい

る機能は,そ れを作 った人間によって事前に予想された必要な機能とそれを果

たすための構造 とに限定されているがために,そ の予想を越えた要求 には応え

ることができない。このような機械に内在する限界を補い,目 的の確実な遂行

を図るには生 きた人間の能力が必要とされるのである。確かに予測された一定

の作業を確実に行うという点で短期的に見れば機械の信頼性は人間に勝 るであ

ろう。 しかし,長 期的に見ればたとえ安定 した状況下でも客体化された技術の

信頼性は物的に劣化す るであろうし,ま してや環境が不確実性を有 しているな

らば,人 間を単に攪乱要因扱いす ることは決して合理的とはいえない。

第六前提 は規模の経済であった。ポーター(1983)が アバナシーモデルの前

提 として指摘 している以外に,こ れに触れている批判は見 られなかった。 しか

し,規 摸の経済それ自体の限界はある。その最も直接的なものは 「規模の不経

済」の議論 に現れる。第一に分配の不経済である。生産における規模の経済の

追求は,生 産の集中化に帰す るために流通 コス トの増大を招 く。第二は官僚制

の不経済あるいは組織管理の不経済である。組織肥大化に伴う管理 コス トの増

大に関わるものである。第三は混乱による不経済である。人間以外にも異質の

要素が統合され累積されるために混乱が増大する。そのたあに管理 コス トある

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いは調整 コス トの増大を招 くというものである。最後に,危 険に対する脆弱性

が挙げ られる。災害や事故 ・事件が発生 したときに,集 中は損害を拡大する。92

したがって,規 模の経済は無制限に有効ではなく,こ のような 「規模の不経済」

の反作用に制約される。

以上のようにアバナシーモデルを支える前提はいずれ も妥当性に疑わしい点

が認められた。それにも関わ らずこのモデルには一定の説得力があるのは,な

ぜであろうか。その理由も考えてみよう。

第一前提にっいては,先 に述べたように,生 産単位にとっての不確実性は,

全く新 しい製品の創出後一定の時期まで減少傾向にあ り,そ の後は反転 して増

加するという経過をとると推察することができる。 しか し,そ の時期を定める

ことはできないであろう。それを決めるのは不確実性に関わる諸要因の特殊な

様態である。アバナシー等は今世紀初頭から1970年 代初期にかけての合衆国に

おける自動車産業や電機産業などを経験基礎においてモデルを構築 している。

合衆国のこれ らの産業は,こ の期間,比 較的安定 した環境を享受で きたのでは

ないだろうか。 ヨーロッパや日本が世界大戦の打撃か ら復興 し国際市場 に攻勢

をかけるまで,ま た耐久消費財を含めた一通りの生活物資を満たされた消費者

の嗜好が多様化の傾向をとるまで,輸 入品に脅かされることも少な く,広 範で

比較的に同質的な国内市場を充分に占有できたと思われるからである。経済的

にll贋調な時期は,組 織内外の各主体 とのコンフリク トも少ないであろう。 さ ら

にいえば,寡 占体制下,脅 威の少ない状況下で,既 に安定 した位置を占めてい

る大企業が,あ えて大 きな費用をかけ危険を冒してまで革新を行お うとするで

あろうか。革新は妨げられたというより回避 されたのである。こうした歴史的

な特殊状況によって種々の不確実性は抑えられていたと考えられる。この もと

で,製 品機能 ・構造 に関する不確実性は順調に減少 していったのである。 とこ

92)Hayes&Wheelwright(1984),op.cit.,pp.61-64.

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うが,1970年 代になるとオイルショックや輸入品の攻勢などを契機に潜在 して

いた不確実性が噴出 した。不確実性の動向はここで反転 したといえる。こうし

た不確実性の状況は,程 度の差こそあれ,ヨ ーロッパ諸国や日本にもあてはまっ

たのではないだろうか。 これらの諸国にとって も,戦 後の成長期は現在 と比べ

れば種々の不確実性が少ない時期であったと見受けられるからである。アバナ

シーモデルでは,他 の不確実性の歴史的にもたらされた少なさは与件 としてモ

デルから捨象され,製 品に関わる不確実性だけが前面 に出されている。捨象さ

れてもそれ らの条件に大 きな変化がなければ問題は顕在化 しない。そして,近

年まで大 きな条件の変化は見られなかった。 このことがアバナシーモデルを経

験的に一定の説得力を備えたものにしていると考えられる。

アバナシーモデルの説得力は他の前提が一定の妥当性を未だ保持 しているこ

とにも基づいている。第二前提に対する批判はコス ト削減の道が労働生産性だ

けではないことであった。 しか し,労 働生産性も依然として重要なコス ト削減

の一っの鍵であるには違いない。技術上の機械原理(第 三前提)も 前述のよう

に完全に克服 されているわけではない。新技術でも装置産業の連続工程技術で

も機械原理によって未だ制約を受けている。規模の経済(第 六前提)も 「規模

の不経済」によって制限されるけれども,そ の限度までは作用する。組織や労

働に関す る第四前提と第五前提だけは,か なり妥当性は低いといえるであろう。

しか し,ア バナシーモデルにおいて組織と労働の側面は副次的な要素になって

いる。 したがって,こ れらの前提が妥当でなくて も,他 の前提が成 り立っな ら

ば,「生産性 ジレンマ」の論理は成立す るであろう93。また,組 織成員の信頼性

が非常に低い場合,そ してそれを高めることが何 らかの理由で困難である場合,

第四前提や第五前提も今なお成立 しうるかもしれない。

93)こ れを返 せば,革 新理 論 と してのアバナ シーモデ ルの一面性 を示 す もの といえ るか

もしれない。 ウイップ=ク ラーク(1986)や 岡本(1985)が 指摘す るよ うに組織 状

況 が技術革新 に与え る作用 が軽視 されて いるといえ るか らで ある。

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このように一定の条件下においてはアバナシーモデルの前提が成立すること

が認められる。もちろん,条 件が変われば先に述べたように前提の妥当性 は失

われる。 しかし,理 念型 としてのモデルが,特 定の前提条件に基づ いているこ

と自体は別に問題ではない。問題は,そ のモデルを成り立たせている前提が充

分に明示されていないことである。例えば,不 確実性の前提に関 して言えば,

確かに,捨 象された他の不確実性に大きな変化がなければ問題はないであろう。

しか し,圧 倒的に多数の既成産業において,近 年はそうも言ってい られない動

きが見 られる。競争 は国際的になり激 しさを増 し,消 費は多様化 し,新 たな技

術が導入され,様 々な主体 との問のコンフリク トも増加傾向にあると見受 けら

れる。アバナシーらはこの動きを 「脱成熟化」 として捉えているが,こ うした

「脱成熟」 しっっある産業にとって,ア バナシーモデルは殆ど実践的な指針を

持ち合わせていない。アバナシーモデルは 「脱成熟化」 までの作用は提示する

が,「脱成熟」後の説明が不充分だか らである。そ して,噴 出 しっっあ る様々

な不確実性要因をどのよ うに扱えばよいのかにっいて,そ れらを捨象 している

アバナシーモデルは無力である。 これが該当する産業が圧倒的に多いがゆえに,

アバナシーモデルにとって,こ のことは非常に重要な問題 といえるであろう。

しかしながら,そ れにも関わらずアバナシーモデルは有意義である。なぜな

らば,そ れが,特 定の条件の下において という但 し書 きが付せ られるにしても,

少なくともその条件下での工業経営における技術 ・市場 ・組織 という諸要素の

作用を実に論理的 ・体系的に明快に示 しているからである。こうした堅牢な論

理構造を有 しているために,こ れを基礎としなが ら,暗 黙の前提 となっている

特定の諸条件を明 らかに し,よ り詳 しく検討することによって,モ デルの妥当

性はより高まり,よ り説明力があり実践に役立っ技術管理の理論を展開する足

がか りとなると思われるか らであるdと りわけ,現 在の主要な産業で要求 され

ている 「生産性 ジレンマ」の克服への道にっいては,そ の可能性を論理的に否

定するアバナシーモデルの論理上の抜け穴を探索するのが最 も確実な方法とい

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え る 。

V.結 語

V.1.要 約

アバナシーの 「生産性 ジレンマ」モデルは,不 確実性の減少傾向 ・コス ト削

減方法として労働生産性向上の重視 ・技術上の機械原理 ・組織の機械原理 ・人

的資源を攪乱要因として見ること・規模の経済 という諸前提の下で,「 生産単

位」の発展に伴う 「労働生産性」の追求が,「製法の弾力性」 を減少 させ 「ラ

ディカルな製品革新」を阻害す るという関係を,論 理的 ・体系的に示 した。 し

か し,そ こでは重要ないくっかの前提を暗黙のままに放置 し,そ れ らの変化に

対する説明力や対処力を欠いていた。そのため,現 在の多 くの既成産業 にっい

て,必 ずしも有効な技術管理の方法を提示 しているとはいえない。モデルの妥

当性を増 し有用性を高めるためには暗黙の前提とされていた技術的 ・組織的 ・

社会的あるいは経済的な諸要因や諸条件を明確に し,そ の作用を検討 してゆ く

必要があるといえよう。

V.2.歴 史的位置づけ

アバナシーモデルの一っの特徴は,ツ ェルギーベル(1983)の 指摘す るよう

にその機械性 ・必然性にあると思われる。もちろん,ア バナシー自身,そ のよ

うに把握されることを恐れ,モ デルの教条性を強 く否定 している。執拗 なほど

に 「逆行」の可能性を繰り返 していたのも,そ うした危惧の現れであろう。 し

か し,そ れにも関わ らず,彼 のモデルの前提は機械的な思考に支配されている

といえる。それには,彼 がもともと物理学の修士号を持 ったシステム ・エ ンジ

ニアであった経歴が影響 しているのかもしれないが ,こ こでは,そ れよりむ し

ろ,従 来の経営学研究に支配的であった世界観の反映ではないかと考える。計

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画重視 ・静態的な合理性の重視などで表現 しうるような志向性である。最近の

国際比較 。文化比較的な研究動向などによって,こ うした機械的思考の絶対視

には疑問が投げかけられっっある。試行錯誤的学習への注目 ・多様な合理性の

発見 ・動的な秩序形成への注目などが新たな考え方として現れっっある。もち

ろん,機 械的思考が全 く無効になったということではない。依然として,そ れ

が技術においても社会において も根底に潜んでいて,そ れが通用する局面 は少

なくない。アバナシーモデルの問題は現在喧伝されている 「リス トラクチャリ

ング」に対する指針の不足であった。アバナシーモデルを古い見方として切 り

捨てて しまうのではなく,そ こに新 たな考え方を取 り入れることで,こ うした

現状の要求に応えうる新 しい技術管理理論の基礎モデルの構築への道が見い出

されると考えられる。 、

V.3.今 後の研究課題

アバナシーモデルは,工 業経営における技術 ・市場 ・組織という諸要素の作

用を論理的 ・体系的に示 している数少ない研究の一っである。 しか も,そ こに

はモデルとしての発展性を秘めている。そのことは本稿 におけるアバナシーモ

デルの限界の指摘 と表裏の関係にある。アバナシーモデルは工業経営における

技術管理の新 しいモデルを作 り出すうえで最善の叩き台になると考えられる。

しか しながら,彼 の提供 した 「生産性 ジレンマ」モデルに対 して,直 接的 ・包

括的な議論が充分になされているとは見受けられない。ともすれば,単 純1こ解

され 「生産性」 と 「革新」との,あ るいは 「効率」と 「創造性」 との矛盾 を表

す命題 として紹介されることが少な くない。そのような一般的な 「格言」 とし

ての理解では,こ のモデルを新 しい技術管理のモデルに発展 させることは望め

ないであろう。したがって,本 稿では,で きるだけ詳 しくアバナシーモデルの

論理を分析 しようと努力 した。 もちろん,検 討の不足 ・認識の間違い等が多 々

有るに違いない。それにも関わらず,本 稿によってアバナシーモデルのい くつ

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かの発展の鍵 となる限界を見いだすことができた。続 く課題は,そ れらの諸要

因とモデルとの関係を個々に詳 しく検討 してゆ くことである。その際 実践的

な研究目標を掲げてお くことも研究を効率的に進めるには有効であるかもしれ

ない。それは一っに,日 本型技術管理の解明である。アバナシーらにモデルの

前提を一部変えさせるほど衝撃を与えた日本型の技術管理 とは一体いか.なる論

理のもとで成 り立 っているのであろうか。また,そ め限界は何か。アバ ナシー

モデルを発展させることで,そ れを説明できる理論を探求 してゆくことが今後

の日本における技術管理研究の具体的な主要課題の一っであろう。アバナシー

教授が亡 くなってやがて十年がたっ。彼の求あた理論はこれから新たな発展を

遂げてゆくことになろう。、

(1993.10.11)

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