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030 |2012|10 2012|10|031 けないそれは照明同士の関係建築と照明の 関係さらには人間と照明の関係の中で照明を考 えていくことだと思いますその時に人間の心の 感じ方までデザインできないかと思ったのです明器具やそれによる明るさをデザインするのではな くて照明を設置した結果人間が暖かみを感じて いるのか満足しているのか暗いと感じているの それを数値で表せないだろうかと思っていまし そんな矢先F eu に出会ったのですFeu照度ではなく輝度を基にした指標ですよね視角に 入る面の輝度がどれだけ高いかその平均値によっ て人間が受ける空間の明るさ感がわかる照明空間人の目という3者の関係の中で光を考え るというのは僕としてはとても納得できましたそう したFeuのような指標を活用しながら建築におい ての照明を考えていかなければいけないと思います輝度が高い面を増やす ーー実際の作品ではどのように設計をされています 山梨 木材会館 本誌0909のワークプレイスは Feuの発想と同じで天井が明るくなるような計画 をしています机上面照度は500lxですが体感と しては750lxと大きな差がなく 省エネですまたワークプレイス以外では歩いて行く方向に明るい 照度への懐疑 ーーこれまでの建築設計のご経験を踏まえて照明 に関してどのようなご感想をお持ちですか 山梨知彦 以下山梨設計する立場にとって はまず 照度を理解することが一般的ですかつて日本でインテリジェントビルが出始めた時は机上 面照度の議論がいろいろなところでなされていまし 明るさを定量化して機能を満たすための基準 を決めなくてはならないそれが現在まで続く照 度による照明計画が始まったきっかけだと思いますしかし僕は平均机上面照度だけで考えることは不 自然だと思っていました人が感じる空間の明るさ を考えなければなりませんし仕事で多用するパソ コンのディスプレイを考えても机上面に対して平行 ではありませんそうした状況で照度だけを基準 にする照明計画は本当に正しいのだろうかと思い始 めたのです人間と照明の関係の中で ーーではどのような照明計画が今後必要だと思い ますか 山梨 私はモノとして照明を扱うことに加えう少し違った照明の扱い方をしたいと思っていますつまり 電球そのものにとらわれるのではなく の本来の機能の 照らすことをより考えなければい ないのですが明るい面に向かっているので明るく 感じますソニーシティ大崎 本誌1109でも天井を明るくして照 度を抑えつつも視角に入る輝度の高い面をいかに 多くするかを考えましたそこで場所によって天 井面から突き出す高さが変わる照明器具を開発した のです照明の出方によっては下への配光は減るけ れど天井は明るくなるなどの変化が付けられますそれによって食堂では光の状態を均一にするので はなく みんなで話ながら食べるところと落ち着 いて食べるところなど光の質によって場所の変化を つくっています動的Feu 山梨 照明は今や点けるか消すかを単純に考 える要素ではなくなっていると思います僕が考え るこれからの照明は3Dの空間に時間軸を加えた 4Dに対応するように変わっていくのではないでしょ うかFeuは僕自身の期待としては人のアクティ ビティに合わせたより動的なものに変わっていくと 思いますたとえば明順応と暗順応の要素を取り 入れたFeuがあってもいい外から玄関ロビーに入っ 廊下をたどって会議室に入る時前後の空間 の関係で明るく感じたり 暗く感じたりしますまではその場所だけの絶対値の照度や輝度だけで 判断していましたしかし前後の空間の明るさを 考えて最適な照明にすることでその空間が最も引 き立つ照明で人間にとって最適な明るさにするこ とができるさらに省エネにも繋がるはずですまた時間によって照明の色温度を変化させることも計画 できるようになればよいと思いますこのようにシークエンシャルな照明計画をできるようなFeuあるとよいと思います動的なFeuを使いながら照明だけを考えるのではなく 建築そして人との 関係をデザインすることを目指さなければいけない と思いますそのためには建築をつくってから照 明を付けるのではなくて建築と照明を一緒に考え 設計の段階から照明と建築の関係を考えていけ シークエンシャルで最適な照明計画が実現でき るはずですITを駆使する ーー LEDを光源とした照明が増えていきますがどのようなことが考えられるでしょうか 山梨 LEDの画期的なメリットはコンピュータ や情報通信技術と相性がいい点です人間にとって 最初の照明といえる火から白熱灯や蛍光灯を経て LEDへと進んできたわけですがLEDは建築や人 との関係をつくるのに最も適した光だと思いますその関係を取り持つ鍵はITですもちろん建築に は自然光のようなプリミティブな光も必要ですしか SmartArchi LEDベースライト FYY26672 昼白色5000Kベースライト断面ソニーシティ大崎4階食堂照明は今回開発されたディフューザー付きLEDライト左下照明シミュレーション照度の検証右下輝度の検証.(2点提供日建設計木材会館エントランス事務室天井面の明るさ感 を出す上下配光器具はパナソニック特注品ホキ美術館ギャラリーLEDで写実絵画に特化した 照明計画をしているSmartArchi LEDベースライト使用したパナソニック東京汐留ビルSmartArchi Webサイトでは各空間のFeuを使った設計 モデルプランなど照明設計に役立つさまざまなコンテンツ を用意しているhttp://www2.panasonic.biz/es/lighting/ smartarchi/ 透明と乳白色のプリズムセードの2色を一体形成直下は乳白プリズムセードによってまぶしさを抑えながら必要な照 度を確保し透明プリズムセードによって天井に光を反射さ 空間の明るさ感 Feuをアップ蛍光灯をLEDにする ことで消費電力を大幅にダウンさせると共に同じ明るさ Feuを確保する40の省エネが可能となるFeu天井の影響を総合的に捉えて数値化した 人の感じる空間の明るさ感を示す照明における新しい指標パナソニックの建築照明器具SmartArchiスマートアーキに対する率直なご意見要望を含めて右記URLからアンケートにお答えくださいhttp://www.cgc.ne.jp/panasonic201210/ 面があるように設計しています明るい面に向かっ て歩いて行くと輝度が高い面を見ることになるた め暗さを感じませんその効果を狙って必ず窓に向 かって歩くように動線を決めたことで照明を少な くできましたエントランスの照度は80lx程度しか 連載 建築 自由 える 照明 by 2 山梨知彦氏に聞く 人との関係で考える建築照明山梨知彦 やまなしともひこ1960年神奈川県生まれ1984年東京藝術大学美術学部建 築科卒業1986年東京大学大学院修士課程修了1986 日建設計現在執行役員 設計部門代表 スマートアーキ LEDの時代になったのですからITを徹底的に駆 使して照明を使うことが重要ですコンピュータや LEDが手に入りやすくなり 複雑な制御が簡単かつ 安価にできるようになったのに白熱灯や蛍光灯と 同じような使い方ではいけないと思います今は単 体で存在していた光からさまざまなものとの関係 を築く光への移行期ですLEDを徹底的に活用して自然光や風人間のアクティビティに合わせて制御 してそれを徹底する省エネなのに何も違和感な く心地よい照明計画に挑戦すべきだと思います2012830日建設計にて 文責本誌編集部SmartArch LED ベースライト資料提供パナソニック 資料提供パナソニック 乳白 プリズムセード 透明 プリズムセード Feu値 :10.6 平均照度:594 lx 均斉度 :0.69 消費電力:3168W 器具台数:72台 従来器具 蛍光灯ベースライト(フリーXF312PFA PH9) Feu値 :10.0 平均照度:468 lx 均斉度 :0.72 消費電力:1890W 器具台数:54台 新商品 LEDベースライト(FYY26672 LX9) (単位 Ix) 18m 10.8m 300 300 300 300 500 400 600 400 ・設置条件 : 空間 18m×10.8m 天井高さ3m 反射率 天井50%、壁30%、床10% 床上0.7mの平均照度 500 500 500 500 300 300 400 18m 10.8m (単位 Ix) 省エネや効率を考えながらいかに快適 な光環境をつくれるか改めて建築に おける照明が果たす役割が問われていま この連載ではパナソニックの建築 照明器具SmartArchiスマートアーキを題材に各回建築がより自由になる ための照明設計のヒントとなるトピックを 取り上げます2回は木材会館 本誌0909),ホキ美 術館 1112などを設計された日建設 計の山梨和彦氏に建築における照明の考 え方や設計に関してお伺いしました.(

grid version 2.11 4C を える · 山梨 木材会館(本誌0909)のワークプレイスは Feuの発想と同じで,天井が明 るく なよう 計画 をしています.机上面照度は5

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Page 1: grid version 2.11 4C を える · 山梨 木材会館(本誌0909)のワークプレイスは Feuの発想と同じで,天井が明 るく なよう 計画 をしています.机上面照度は5

0 3 0 |2012|10

『新建築』    年 月号   頁/  折ー  4C 出力見本grid version 2.11

2012|10|0 3 1

『新建築』 2009年  月号  頁/  折ー 4C 出力見本grid version 2.11

けない.それは,照明同士の関係,建築と照明の

関係,さらには人間と照明の関係の中で,照明を考

えていくことだと思います.その時に,人間の心の

感じ方までデザインできないかと思ったのです.照

明器具やそれによる明るさをデザインするのではな

くて,照明を設置した結果,人間が暖かみを感じて

いるのか,満足しているのか,暗いと感じているの

か,それを数値で表せないだろうかと思っていまし

た.そんな矢先,Fフ ー

eu*に出会ったのです.Feuは

照度ではなく輝度を基にした指標ですよね.視角に

入る面の輝度がどれだけ高いか,その平均値によっ

て人間が受ける空間の明るさ感がわかる.照明,建

築(空間),人の目という3者の関係の中で光を考え

るというのは僕としてはとても納得できました.そう

したFeuのような指標を活用しながら,建築におい

ての照明を考えていかなければいけないと思います.

輝度が高い面を増やす

ーー実際の作品ではどのように設計をされています

か?

山梨  木材会館(本誌0909)のワークプレイスは

Feuの発想と同じで,天井が明るくなるような計画

をしています.机上面照度は500lxですが,体感と

しては750lxと大きな差がなく,省エネです.また,

ワークプレイス以外では,歩いて行く方向に明るい

照度への懐疑

ーーこれまでの建築設計のご経験を踏まえて,照明

に関してどのようなご感想をお持ちですか?

山梨知彦(以下,山梨)  設計する立場にとって

はまず「照度」を理解することが一般的です.かつて,

日本でインテリジェントビルが出始めた時は,机上

面照度の議論がいろいろなところでなされていまし

た.明るさを定量化して,機能を満たすための基準

を決めなくてはならない.それが,現在まで続く照

度による照明計画が始まったきっかけだと思います.

しかし,僕は平均机上面照度だけで考えることは不

自然だと思っていました.人が感じる空間の明るさ

を考えなければなりませんし,仕事で多用するパソ

コンのディスプレイを考えても机上面に対して平行

ではありません.そうした状況で,照度だけを基準

にする照明計画は本当に正しいのだろうかと思い始

めたのです.

人間と照明の関係の中で

ーーでは,どのような照明計画が今後必要だと思い

ますか?

山梨  私はモノとして照明を扱うことに加え,も

う少し違った照明の扱い方をしたいと思っています.

つまり,電球そのものにとらわれるのではなく,光

の本来の機能の「照らす」ことをより考えなければい

ないのですが明るい面に向かっているので,明るく

感じます.

ソニーシティ大崎(本誌1109)でも天井を明るくして照

度を抑えつつも,視角に入る輝度の高い面をいかに

多くするかを考えました.そこで,場所によって天

井面から突き出す高さが変わる照明器具を開発した

のです.照明の出方によっては下への配光は減るけ

れど,天井は明るくなるなどの変化が付けられます.

それによって,食堂では光の状態を均一にするので

はなく,みんなで話ながら食べるところと,落ち着

いて食べるところなど光の質によって場所の変化を

つくっています.

動的Feu

山梨  照明は今や,点けるか消すかを単純に考

える要素ではなくなっていると思います.僕が考え

るこれからの照明は,3Dの空間に時間軸を加えた

4Dに対応するように変わっていくのではないでしょ

うか.Feuは僕自身の期待としては,人のアクティ

ビティに合わせたより動的なものに変わっていくと

思います.たとえば,明順応と暗順応の要素を取り

入れたFeuがあってもいい.外から玄関ロビーに入っ

て,廊下をたどって,会議室に入る時,前後の空間

の関係で,明るく感じたり,暗く感じたりします.今

まではその場所だけの絶対値の照度や輝度だけで

判断していました.しかし,前後の空間の明るさを

考えて最適な照明にすることで,その空間が最も引

き立つ照明で,人間にとって最適な明るさにするこ

とができる.さらに省エネにも繋がるはずです.また,

時間によって照明の色温度を変化させることも計画

できるようになればよいと思います.このように,

シークエンシャルな照明計画をできるようなFeuが

あるとよいと思います.動的なFeuを使いながら.

照明だけを考えるのではなく,建築,そして人との

関係をデザインすることを目指さなければいけない

と思います.そのためには,建築をつくってから照

明を付けるのではなくて,建築と照明を一緒に考え

る.設計の段階から照明と建築の関係を考えていけ

ば,シークエンシャルで最適な照明計画が実現でき

るはずです.

ITを駆使する

ーー LEDを光源とした照明が増えていきますが,

どのようなことが考えられるでしょうか?

山梨  LEDの画期的なメリットは,コンピュータ

や情報通信技術と相性がいい点です.人間にとって

最初の照明といえる火から,白熱灯や蛍光灯を経て

LEDへと進んできたわけですが,LEDは建築や人

との関係をつくるのに最も適した光だと思います.

その関係を取り持つ鍵はITです.もちろん,建築に

は自然光のようなプリミティブな光も必要です.しか

上:SmartArchi LEDベースライト FYY26672 昼白色・5000K.下:ベースライト断面.

上:ソニーシティ大崎,4階食堂.照明は今回開発されたディフューザー付きLEDライト.左下:照明シミュレーション.照度の検証.右下:輝度の検証.(2点提供:日建設計)

上:木材会館,エントランス.下:事務室.天井面の明るさ感を出す上下配光器具はパナソニック特注品.

ホキ美術館,ギャラリー.LEDで写実絵画に特化した照明計画をしている.

SmartArchi LEDベースライト使用した,パナソニック東京汐留ビル.

SmartArchiのWebサイトでは,各空間のFeuを使った設計モデルプランなど,照明設計に役立つさまざまなコンテンツを用意している.

http://www2.panasonic.biz/es/lighting/smartarchi/

透明と乳白色のプリズムセードの2色を一体形成.直下は,乳白プリズムセードによってまぶしさを抑えながら必要な照度を確保し,透明プリズムセードによって天井に光を反射させ,空間の明るさ感(Feu)をアップ.蛍光灯をLEDにすることで,消費電力を大幅にダウンさせると共に,同じ明るさ感(Feu)を確保する.約40%の省エネが可能となる.

* Feu:床,壁,天井の影響を総合的に捉えて数値化した人の感じる空間の明るさ感を示す照明における新しい指標.

パナソニックの建築照明器具SmartArchi(スマートアーキ)に対する率直なご意見,要望を含めて,右記URLからアンケートにお答えください.  http://www.cgc.ne.jp/panasonic201210/

面があるように設計しています.明るい面に向かっ

て歩いて行くと,輝度が高い面を見ることになるた

め暗さを感じません.その効果を狙って必ず窓に向

かって歩くように動線を決めたことで,照明を少な

くできました.エントランスの照度は80lx程度しか

連載 建築に自由を与える照明by

《第2回》 山梨知彦氏に聞く「人との関係で考える建築照明」

山梨知彦(やまなし・ともひこ)1960年神奈川県生まれ/ 1984年東京藝術大学美術学部建築科卒業/ 1986年東京大学大学院修士課程修了/ 1986年~日建設計/現在,執行役員 設計部門代表

スマートアーキ

し,LEDの時代になったのですからITを徹底的に駆

使して照明を使うことが重要です.コンピュータや

LEDが手に入りやすくなり,複雑な制御が簡単かつ

安価にできるようになったのに,白熱灯や蛍光灯と

同じような使い方ではいけないと思います.今は単

体で存在していた光から,さまざまなものとの関係

を築く光への移行期です.LEDを徹底的に活用して,

自然光や風,人間のアクティビティに合わせて制御

してそれを徹底する.省エネなのに,何も違和感な

く心地よい照明計画に挑戦すべきだと思います.

(2012年8月30日,日建設計にて 文責:本誌編集部)

SmartArch 「LEDベースライト」

資料提供:パナソニック

資料提供:パナソニック

乳白プリズムセード

透明プリズムセード

Feu値 : 10.6平均照度: 594 lx均斉度: 0.69消費電力: 3168W器具台数: 72台

従来器具 蛍光灯ベースライト(フリーXF312PFA PH9)

Feu値 : 10.0平均照度: 468 lx均斉度: 0.72消費電力: 1890W器具台数: 54台

新商品 LEDベースライト(FYY26672 LX9)

(単位 Ix)

18m

10.8m

300 300

300 300

500

400

600

400

・設置条件 : 空間 18m×10.8m 天井高さ3m 反射率 天井50%、壁30%、床10% 床上0.7mの平均照度

500 500500 500

300

300400

18m

10.8m

(単位 Ix)

省エネや効率を考えながら,いかに快適な光環境をつくれるか.改めて,建築における照明が果たす役割が問われています.この連載では,パナソニックの建築照明器具SmartArchi(スマートアーキ)を題材に,各回,建築がより自由になるための照明設計のヒントとなるトピックを取り上げます.第2回は木材会館(本誌0909),ホキ美術館(同1112)などを設計された日建設計の山梨和彦氏に建築における照明の考え方や設計に関してお伺いしました.(編)