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15 ランチョン セミナー 内臓脂肪測定のスタンダードは腹部臍高位のCTであるが、CTでの測定は被曝やコストの問題を伴う。 また、健診等で用いられている腹囲測定は、測定の精度や再現性の問題がある。そこで我々は、非侵襲 で簡便、かつ高精度で繰り返し内臓脂肪を測定することのできるDUAL-BIA法を開発した。 一般的な体組成計に用いられる生体インピーダンス法(BIA法)として、両手両足間で測定する方法 があるが、全身を測定対象とした方式(全身方式BIA法)であり、計測される全身のインピーダンス値 における腹部の情報が10%程度しかなく、腹部のみを測定することができない。そのため、次に腹部 に限定したインピーダンスを測定するBIA法として、腹部に電極を設けた腹部生体インピーダンス法が 提案されたが、この方式は1種類の腹部インピーダンスしか測定しない方法(腹部シングルBIA法)で あり、皮下脂肪を分離計測することができず、内臓脂肪を正確に測定することはできない。 DUAL-BIA法は、腹部に限定したインピーダンスを測定し、かつ皮下脂肪を分離するために、2種類 のインピーダンスを測定することで内臓脂肪を正確に測定できる唯一のBIA法である。さらに、腹囲で はなく、腹部断面の縦幅と横幅を別々に測定することで腹部断面積を正確に測定する。前記のように DUAL-BIA法は、2種類のインピーダンス、および腹部断面の縦幅と横幅の実測されたパラメータのみ で、腹部全断面積、除脂肪面積、および皮下脂肪面積を算出し、腹部全断面積から除脂肪面積と皮下脂 肪面積を除くことで内臓脂肪面積を算出する。 DUAL-BIA法の測定精度は、180名(男女比率1:1、腹囲65 ~ 120cm、年齢18 ~ 80歳)を対 象に、多施設治験により検証し、CTによる内臓脂肪面積と相関係数R=0.88と高い相関が得られた。 男女別に評価しても、それぞれの回帰直線に差異はほとんどなく、男女差を生じる要因と考えられる皮 下脂肪の影響が低減されていることが確認された。また、人間ドック施設からも、同様の測定精度の結 果が報告されている(福井他、人間ドック 2012)。 一方、内臓脂肪測定における測定精度を確保するための最も注意すべき点は、測定時の呼吸位相であ る。CTにおいても、呼気位相に比べて吸気位相では、内臓脂肪面積が平均で20%増加することが報告 されている(善積ら、肥満研究 2000)。DUAL-BIA法もCTと同様に呼吸位相の影響を受けるが、 CTとは異なり、測定者が目の前で呼吸位相を確認しながら測定可能であるという利点がある。DUAL- BIA法では、腹部断面の縦幅と横幅の測定時、およびインピーダンスの測定時に、それぞれCTの測定 条件と同じである軽呼気位相にする必要があるが、測定者が目の前で呼吸位相を確認しながら軽呼気位 相を再現性良く得ることができる。まず、腹部断面の縦幅と横幅の測定時には、被験者に安静にするよ う指示し、呼吸位相を確認するため、腹部の上下動を2 ~ 3回観察した後に、軽呼気位相で「確定」ボ タンを押す。測定は一瞬で終了するため、被験者に息を止めるように指示はしない。次に、インピーダ ンス測定時も被験者には安静にするよう指示し、腹部の上下動を2 ~ 3回観察し、軽呼気位相になった ときに息止めの指示を行う。呼吸が止まっているのを確認してから、本体の「START/STOP」ボタ ンを押す。いずれの測定時も、軽呼気位相で測定ができなかった場合は、測定を中断し、軽呼気位相で 測定できるまで繰り返す。 このような計測法を現場で留意することにより、高精度で再現性の高い内臓脂肪測定が可能となる。 志賀 利一 オムロンヘルスケア株式会社 技術開発統轄部 DUAL-BIA 法による内臓脂肪測定法の測定原理、 測定精度、および測定時の呼吸位相を安定させる方法

ランチョン DUAL-BIA法による内臓脂肪測定法の測定原理 ...DUAL-BIA法は、腹部に限定したインピーダンスを測定し、かつ皮下脂肪を分離するために、2種類

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ランチョンセミナー

 内臓脂肪測定のスタンダードは腹部臍高位のCTであるが、CTでの測定は被曝やコストの問題を伴う。また、健診等で用いられている腹囲測定は、測定の精度や再現性の問題がある。そこで我々は、非侵襲で簡便、かつ高精度で繰り返し内臓脂肪を測定することのできるDUAL-BIA法を開発した。 一般的な体組成計に用いられる生体インピーダンス法(BIA法)として、両手両足間で測定する方法があるが、全身を測定対象とした方式(全身方式BIA法)であり、計測される全身のインピーダンス値における腹部の情報が10%程度しかなく、腹部のみを測定することができない。そのため、次に腹部に限定したインピーダンスを測定するBIA法として、腹部に電極を設けた腹部生体インピーダンス法が提案されたが、この方式は1種類の腹部インピーダンスしか測定しない方法(腹部シングルBIA法)であり、皮下脂肪を分離計測することができず、内臓脂肪を正確に測定することはできない。 DUAL-BIA法は、腹部に限定したインピーダンスを測定し、かつ皮下脂肪を分離するために、2種類のインピーダンスを測定することで内臓脂肪を正確に測定できる唯一のBIA法である。さらに、腹囲ではなく、腹部断面の縦幅と横幅を別々に測定することで腹部断面積を正確に測定する。前記のようにDUAL-BIA法は、2種類のインピーダンス、および腹部断面の縦幅と横幅の実測されたパラメータのみで、腹部全断面積、除脂肪面積、および皮下脂肪面積を算出し、腹部全断面積から除脂肪面積と皮下脂肪面積を除くことで内臓脂肪面積を算出する。 DUAL-BIA法の測定精度は、180名(男女比率1:1、腹囲65 ~ 120cm、年齢18 ~ 80歳)を対象に、多施設治験により検証し、CTによる内臓脂肪面積と相関係数R=0.88と高い相関が得られた。男女別に評価しても、それぞれの回帰直線に差異はほとんどなく、男女差を生じる要因と考えられる皮下脂肪の影響が低減されていることが確認された。また、人間ドック施設からも、同様の測定精度の結果が報告されている(福井他、人間ドック 2012)。 一方、内臓脂肪測定における測定精度を確保するための最も注意すべき点は、測定時の呼吸位相である。CTにおいても、呼気位相に比べて吸気位相では、内臓脂肪面積が平均で20%増加することが報告されている(善積ら、肥満研究 2000)。DUAL-BIA法もCTと同様に呼吸位相の影響を受けるが、CTとは異なり、測定者が目の前で呼吸位相を確認しながら測定可能であるという利点がある。DUAL-BIA法では、腹部断面の縦幅と横幅の測定時、およびインピーダンスの測定時に、それぞれCTの測定条件と同じである軽呼気位相にする必要があるが、測定者が目の前で呼吸位相を確認しながら軽呼気位相を再現性良く得ることができる。まず、腹部断面の縦幅と横幅の測定時には、被験者に安静にするよう指示し、呼吸位相を確認するため、腹部の上下動を2 ~ 3回観察した後に、軽呼気位相で「確定」ボタンを押す。測定は一瞬で終了するため、被験者に息を止めるように指示はしない。次に、インピーダンス測定時も被験者には安静にするよう指示し、腹部の上下動を2 ~ 3回観察し、軽呼気位相になったときに息止めの指示を行う。呼吸が止まっているのを確認してから、本体の「START/STOP」ボタンを押す。いずれの測定時も、軽呼気位相で測定ができなかった場合は、測定を中断し、軽呼気位相で測定できるまで繰り返す。 このような計測法を現場で留意することにより、高精度で再現性の高い内臓脂肪測定が可能となる。

志賀 利一オムロンヘルスケア株式会社 技術開発統轄部

DUAL-BIA 法による内臓脂肪測定法の測定原理、測定精度、および測定時の呼吸位相を安定させる方法