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PL トポロジーの基礎 yamyamtopo 2017 10 15 PL トポロジーとは、大雑把には、三角形分割できる空間である「多面体」と、多面体の 間のしかるべく良い性質をもった写像である「区分線型写像」の研究である。区分線型写 像のことは「PL 写像 (Piecewise Linear map)」と呼ぶのが通例である。多面体と PL 像のなす圏における同型であるところの「PL 同相」により、多面体(ないし多面体とそ の部分多面体の組)を分類することが、PL トポロジーの目標であるということができる。 可微分多様体を可微分同相により分類することを目標とする微分トポロジーの導入部分 については、大学数学科のカリキュラムでも「多様体論」として取り入れられ、比較的、 学ぶための環境が整っている。PL トポロジーにおいても、PL 多様体の概念が定義され、 とくに高次元多様体の PL 構造の存在問題・分類問題で極めて実り多い結果が得られた 1960 年代はトポロジーの黄金期とも呼ばれた。しかし、そのような重要な位置を占める PL トポロジーを学ぶためのハードルは決して低くない。どの本を取ってみても行間は広 く、その行間も、図から明らかだろうとして読者の幾何的直観に訴えているのか、長い議 論を読者自身で補完することが期待されているのかもよく分からないところがある。そ こで読むことをあきらめる人が何人もいたとすれば、何とも勿体ないことではないだろ うか。 本稿は、まさに PL トポロジーの基礎であり、微分トポロジーでいえば、学部 1 年の講 義で扱われるような微積分の基本的な事実(やそれから導かれる初等的な事実)に相当す る部分であろう。しかし、このような基本的な結果をしっかりとした証明の付いた形で述 べておくことは、より深く広範囲にわたる結果を理解するために大いに役立つのではない かと期待する。 1

トポロジーの基礎...PL トポロジーの基礎 yamyamtopo 2017 年10 月15 日 PL トポロジーとは、大雑把には、三角形分割できる空間である「多面体」と、多面体の

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PLトポロジーの基礎

yamyamtopo

2017年 10月 15日

PLトポロジーとは、大雑把には、三角形分割できる空間である「多面体」と、多面体の

間のしかるべく良い性質をもった写像である「区分線型写像」の研究である。区分線型写

像のことは「PL写像 (Piecewise Linear map)」と呼ぶのが通例である。多面体と PL写

像のなす圏における同型であるところの「PL同相」により、多面体(ないし多面体とそ

の部分多面体の組)を分類することが、PLトポロジーの目標であるということができる。

可微分多様体を可微分同相により分類することを目標とする微分トポロジーの導入部分

については、大学数学科のカリキュラムでも「多様体論」として取り入れられ、比較的、

学ぶための環境が整っている。PLトポロジーにおいても、PL多様体の概念が定義され、

とくに高次元多様体の PL 構造の存在問題・分類問題で極めて実り多い結果が得られた

1960年代はトポロジーの黄金期とも呼ばれた。しかし、そのような重要な位置を占める

PLトポロジーを学ぶためのハードルは決して低くない。どの本を取ってみても行間は広

く、その行間も、図から明らかだろうとして読者の幾何的直観に訴えているのか、長い議

論を読者自身で補完することが期待されているのかもよく分からないところがある。そ

こで読むことをあきらめる人が何人もいたとすれば、何とも勿体ないことではないだろ

うか。

本稿は、まさに PLトポロジーの基礎であり、微分トポロジーでいえば、学部 1年の講

義で扱われるような微積分の基本的な事実(やそれから導かれる初等的な事実)に相当す

る部分であろう。しかし、このような基本的な結果をしっかりとした証明の付いた形で述

べておくことは、より深く広範囲にわたる結果を理解するために大いに役立つのではない

かと期待する。

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基本的な記法

実数全体の集合を R で表し、I = [0, 1] = {t ∈ R | 0 ≦ t ≦ 1} とする。n ≧ 1 に

対して、n 次元 Euclid 空間 Rn は n 個の直積 R × · · · × R として定義される。また、In = [0, 1]n ⊂ Rn とする。

後々の都合から、Rn 上の距離を次のような「ℓ∞ 距離」により定義する。まず、x =

(x1, . . . , xn) ∈ Rn のノルム ∥x∥を ∥x∥ = supi |xi|で定め、距離を d(x, y) = ∥x− y∥で定める。a ∈ Rn および ε > 0に対して、

Nε(a) = {x ∈ Rn | d(x, a) ≦ ε}

Nε(a) = {x ∈ Rn | d(x, a) = ε}

とする。Nε(a) の定義式には < でなく ≦ が使われていることに注意する。さらに、P ⊂ Rn とするとき、

Nε(a, P ) = {x ∈ P | d(x, a) ≦ ε} = P ∩Nε(a)

Nε(a, P ) = {x ∈ P | d(x, a) = ε} = P ∩ Nε(a)

と定義する。

位相空間X の部分集合Aに対して、AのX における閉包 (closure)、内部 (interior)

をそれぞれClX A, IntX A

で表す。また、Aの X における境界 (frontier) ClX A \ IntX Aを

FrX A

で表す。混乱のおそれのない場合、これらを ClA, IntA, FrAと略記する。

上のほかに、本文中では線分・単体・胞体・多様体について「内部 (interior)」「境界

(boundary)」と呼ばれる概念を定義するが、別のものであるので注意されたい。これら

の内部・境界は、すべて多様体の内部・境界の特別なものだと考えられる。

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1 多面体と PL写像

1.1 多面体の定義と基本的な構成

C ⊂ Rn が凸集合 (convex set) であるとは、任意の x, y ∈ C と t ∈ I に対して

(1 − t)x + ty ∈ C となることをいう。V ⊂ Rn が Rn のアフィン部分空間 (affine

subspace)であるとは、任意の x, y ∈ V および t ∈ Rに対して (1− t)x+ ty ∈ V が成

り立つことをいう。空でないアフィン部分空間 V は、線型部分空間を平行移動したもの

にほかならない。したがって、その線型部分空間の次元として、V の次元を定義すること

ができ、それを dimV で表す。また、dim ∅ = −1とする。

凸集合 C ⊂ Rn, D ⊂ Rm に対して、f : C → Dがアフィン写像 (affine map)である

とは、任意の x, y ∈ C および t ∈ I に対して f((1− t)x+ ty) = (1− t)f(x) + tf(y)と

なることをいう*1。アフィン写像 f : C → D が全単射であるとき、f : C → D はアフィ

ン同型 (affine isomorphism) であるという。アフィン写像 f : Rm → Rn とは、ある

線型写像 f0 : Rm → Rn と y0 ∈ Rn によって f(x) = f0(x) + y0 (x ∈ Rm)の形に表され

る写像にほかならない*2。

多面体は Euclid空間の部分集合で一定の局所構造をもつものとして定義されるが、そ

れを述べる前に、まずジョインの概念を導入する。

定義 1.1. A,B ⊂ Rn に対して、Aと B のジョイン (join)AB を

AB = A ∪B ∪ {(1− t)a+ tb | t ∈ I, a ∈ A, b ∈ B}

で定義する。

上の定義で、A = ∅のときは AB = B であり、B = ∅のときは AB = Aである。こ

れらの例外を除けば、AB = {(1− t)a+ tb | t ∈ I, a ∈ A, b ∈ B}であり、AB は Aの点

と B の点を結ぶ線分すべての和集合であるということができる。

なお、A = {a}であるときには AB を aB とも書く。B = {b}のときの Abという表

記についても同様である。a, b ∈ Rn かつ a = bのとき、abとは aと bを結ぶ線分のこと

である。ジョインについては、交換法則 AB = BAが成り立ち、和集合について分配的、

つまり A(B ∪ C) = AB ∪AC である。また、結合法則 (AB)C = A(BC)が成り立つか

*1 この関係式は結果的には t ∈ I でなくても (1 − t)x + ty ∈ C を満たす任意の実数 t に対して成り立つ(とくに、C がアフィン部分空間であるときは任意の実数 t に対して成り立つ)。実際、t > 1 のときはy = (1− t−1)x+ t−1((1− t)x+ ty) により f(y) = (1− t−1)f(x) + t−1f((1− t)x+ ty)を得るから、f((1− t)x+ ty) = (1− t)f(x) + tf(y)が分かる。いまの議論で t, x, y をそれぞれ 1− t, y, xに置き換えた式を考えれば、t < 0の場合も同じ結論が成り立つと分かる。

*2 脚注*1から分かる。

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ら、3個以上の有限個の集合のジョイン A1A2 · · ·An を考えることができる。ジョインの

演算について空集合 ∅は単位元の役割を果たす。

例 1.2. 平面 R2 内でのジョインの例を考えよう。

(1) a = (0, 0)として、L = ({1}× I)∪ (I×{1})とする。このとき、aL = I2 である。

(2) さらに、D = {(x, y) ∈ I2 |x+ y ≧ 1}とする。このときも、aD = I2 である。

上の例 1.2(1)において、ジョイン I2 = aLの点は、aを除いて (1− t)a1+ tb (t ∈ I, b ∈L)の形に一意的に表される。しかし、(2)においてはジョイン I2 = aD の a以外の点を

同様の形に表す方法は一意的ではない。

この (1)のような一意性をもつジョインは、PLトポロジーで非常に重要な役割をもつ。

定義 1.3. a ∈ Rn, B ⊂ Rn とする。ジョイン aB が a を頂点とし B を底とする錐

(cone) であるとは、a /∈ B であって、かつ、任意の x ∈ aB \ {a}に対して

x = (1− t)a+ tb, t ∈ I, b ∈ B

を満たす組 (t, b)が一意的に存在することをいう。

上の条件が成り立つとき、簡単に「aB は錐である」という場合がある。これはあくま

で簡略な表現である。実際、例 1.2から分かるように、aB という集合だけでなく、aと

B が与えられないと錐になっているかは判断できない。「aB は錐である」とは、集合 aB

の性質ではなく、点 aと集合 B との関係である。

線分 ab に対して、ab から端点を除いた集合 ab \ {a, b} をその線分の内部 (interior)

といい、(ab) で表す。(ab) の点を abの内点 (interior point)という。

次の 2つの命題は簡単に証明できる。

命題 1.4. aB が錐であるとき、次が成り立つ。

(1) 任意の B′ ⊂ B に対して、aB′ は錐である。

(2) 任意の B′, B′′ ⊂ B に対して、a(B′ ∩B′′) = aB′ ∩aB′′, a(B′ ∪B′′) = aB′ ∪aB′′

である。

命題 1.5. a ∈ Rn, B ⊂ Rn, a /∈ B であるとき、次は同値である。

(1) aB は錐である。

(2) 任意の異なる b, b′ ∈ B に対して、ab ∩ ab′ = {a}である。(3) 任意の異なる b, b′ ∈ B に対して、(ab) ∩ (ab′) = ∅である。(4) 任意の b ∈ B に対して、(ab) ∩B = ∅である。

さて、錐の概念を用いて、多面体の定義を与えよう。

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定義 1.6. P ⊂ Rn が多面体 (polyhedron)であるとは、任意の a ∈ P に対して、コン

パクト集合 L ⊂ P が存在して、N = aLが錐であり、かつ aの P における近傍をなすこ

とをいう。

上での N を aの P における錐近傍、あるいはスター (star)という。コンパクト集合

L は aの P におけるリンク (link)と呼ばれる。錐近傍はコンパクト集合となるので、多

面体は局所コンパクトである。多面体 P の部分集合 Qがそれ自身多面体であるとき、Q

を P の部分多面体 (subpolyhedron)であるという。

後に見るように、多面体は三角形分割をもつ Rn の部分集合と結果的に同じものになる

(定理 2.48)。しかし、PLトポロジーの研究対象が個別の三角形分割にはよらないもので

あるという点を強調する意味で、この定義を採用した。

例 1.7. I = [0, 1] ⊂ Rは多面体である。一般に、Rの連結部分集合は、すべて多面体である。とくに、R+ = {x ∈ R |x ≧ 0}は多面体である。

例 1.8. Rnは多面体である。実際、a = (a1, . . . , an) ∈ Rnとすると、N1(a) = aN1(a) =∏ni=1[ai − 1, ai + 1] は aの Rn における錐近傍である。もちろん、任意の ε > 0 に対し

て Nε(a) = aNε(a)は錐近傍である。

例 1.9. (1) 円周 {(x, y) ∈ R2 |x2 + y2 = 1}は多面体ではない。(2) 開円板 D = {(x, y) ∈ R2 |x2 + y2 < 1}は多面体であるが、D ∪ {(1, 0)}は多面体ではない。

多面体 P における aの錐近傍 N = aLにおいて、N \Lは必ずしも P の開集合ではな

い。たとえば、P = {(x, y) ∈ R2 |xy = 0}という「十字」は多面体であり、a = (1, 0) ∈ P

に対して L = {−2, 2} × {0}は錐近傍 N = aLを与えるが、N \L = (−2, 2)× {0} は P

の開集合ではない。しかし、次の命題から、常に N \ Lが開集合となるように錐近傍 aL

を取り直すことができる。さらに、その錐近傍は距離についての ε閉近傍の形に取れる。

正確には、次のことが成り立つ。

命題 1.10. P を多面体とし、a ∈ P とする。このとき、N = Nε(a, P ), L = Nε(a, P )と

おけば、十分小さい ε > 0に対して次が成り立つ。

(1) N = aLとなり、これは錐であって aの錐近傍を与える。

(2) N \ Lは P の開集合である。

証明. 平行移動により、a = 0であるとしてよい。P は多面体なので、0は P において錐

近傍N0 = 0L0 をもち、L0 はコンパクトである。N0 は 0の P における近傍であるから、

ε > 0を十分小さくとると、N = Nε(0, P ) ⊂ N0 \ L0 となる。L = Nε(0, P )に対して、

0Lは錐である(例 1.8と命題 1.4(1)を参照)。また、N \ Lは明らかに P の開集合であ

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る。あとは、N = 0Lを証明すればよい。

x ∈ N , x = 0 とする。N ⊂ N0 = 0L0 であるから、ある t ∈ I, b ∈ L0 に対して

x = tbである。ε > 0の取り方から、∥b∥ > εである。そこで、y = ε∥b∥−1bとおけば、

y ∈ 0L0 = N0 ⊂ P かつ ∥y∥ = εであるから、y ∈ Nε(a, P ) = Lである。さらに、xは

y の定数倍であり、∥x∥ ≦ ε = ∥y∥ であるから、x ∈ 0Lである。

逆に、x ∈ 0L, x = 0 とすると、ある y ∈ L と t ∈ I に対して x = ty である。する

と、y ∈ L ⊂ N ⊂ N0 であるから、ある b ∈ L0, s ∈ I に対して y = sb である。よっ

て、x = tsb ∈ 0L0 = N0 ⊂ P である。一方、x ∈ 0Lにより ∥x∥ ≦ ε も成り立つから、

x ∈ Nε(0, P ) = N である。

上の命題 1.10は、錐近傍をいくらでも小さく取れることを含んでいる。また、条件 (2)

を満たすように錐近傍 N を取っておけば、U = N \ L は aの P における開近傍であり、

P \ L は互いに交わりのない開集合 U,P \ N の和集合に表される。いわば、P は L に

よって aを含む側 U とそうでない側 P \N に「切り分けられる」。多面体の例を体系的に構成するには、次の命題が有効である。

命題 1.11. 錐の直積は錐となる。すなわち、Ci = aiBi ⊂ Rni (i = 1, 2)がそれぞれ錐で

あるとき、a = (a1, a2) ∈ Rn1+n2 , B = (B1 × C2) ∪ (C1 × B2) ⊂ Rn1+n2 とおけば aB

は錐であって、aB = C1 × C2 が成り立つ。

この命題の証明のために記法を導入する。aB が錐で B = ∅のとき、

aB→ = {(1− t)a+ tb | t ≧ 0, b ∈ B}

とする。aB→ \ {a}の元は (1− t)a+ tb, t > 0, b ∈ B の形に一意的に表すことができる。

命題 1.11の証明. 平行移動により、a = 0であるとしてよい。B1 = ∅または B2 = ∅であるときは易しいので、B1, B2 = ∅ であるとする。写像

f : 0B1→ × 0B2→ → R+

を f(t1b1, t2b2) = max{t1, t2} (ti ∈ I, bi ∈ Bi) により定義すると、f−1(0) = {0},f−1(1) = B, f−1(I) = C1 × C2 である。また、任意の x ∈ 0B1→ × 0B2→ と α ≧ 0に

対して、αx ∈ 0B1→ × 0B2→ であって、

f(αx) = αf(x)

が成り立つ。f の以上の性質を用いて、0B = C1×C2 であることは簡単に確かめられる。

また、命題 1.5(4)の条件が確かめられ、0B は錐であることも分かる。

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Rn の部分集合族 (Aλ) が局所有限であるとは、任意の x ∈∪

λ∈Λ Aλ に対して、x の

Rn における開近傍 U が存在して U ∩Aλ = ∅となる λが有限個に限ることをいう*3。

命題 1.12. 多面体について、次のことが成り立つ。

(1) P が多面体であるとき、P の任意の開集合は多面体である。

(2) P1, P2 ⊂ Rn が多面体であるとき、P1 ∩ P2 は多面体である。

(3) P ⊂ Rn, Q ⊂ Rm が多面体であるとき、P ×Q ⊂ Rn+m は多面体である。

(4) (Pλ)λ∈Λ が Rn 内の多面体の局所有限な族であり、各 λ に対して Pλ は Rn の閉集

合であるとする。このとき、和集合 P =∪

λ∈Λ Pλ は多面体である。

(5) f : Rm → Rn がアフィン写像、P ⊂ Rn が多面体であるとき、f−1(P )は多面体で

ある。

命題 1.12の証明. (1) 命題 1.10により、多面体の各点において、いくらでも小さい錐近

傍を取れることから分かる。

(2) a ∈ P1 ∩ P2 とする。ε > 0を十分小さく取り、i = 1, 2に対して Nε(a, Pi) = aLi

が a の Pi における錐近傍をなすようにする。ただし、Li = Nε(a, Pi) とする。さ

て、Nε(a) = aNε(a) は錐であり、L1, L2 ⊂ N(a, ε) であるから、命題 1.4 により、

a(L1 ∩ L2) = aL1 ∩ aL2 = Nε(a, P1) ∩Nε(a, P2) = Nε(a, P1 ∩ P2)である。よって、a

は P1 ∩ P2 において錐近傍 a(L1 ∩ L2)をもつ。

(3) これは命題 1.11から分かる。

(4) a ∈ P =∪

λ∈Λ Pλ とする。局所有限性により、a ∈ Pλ となる λは有限個しかない

ので、それらを λ1, . . . , λm とする。さらに、Pλ がそれぞれ閉集合であることも考慮する

と、Pλi(i = 1, . . . ,m) に関して同時に命題 1.10 の条件を満たす ε > 0 を十分小さくと

り、λ /∈ {λ1, . . . , λm}ならば Nε(a) ∩ Pλ = ∅となるようにできる。P ′ =

∪mi=1 Pλi

とおく。このとき、Nε(a) = aNε(a)が錐であることと命題 1.4により、

aNε(a, P′)も錐であって、さらに、

aNε(a, P′) =

m∪i=1

aNε(a, Pi) =m∪i=1

Nε(a, Pi) = Nε(a, P′) = Nε(a, P )

となる。よって、aは P において錐近傍をもつ。

(5) Rm や Rn の自己アフィン同型を合成することで、f は

f(x1, . . . , xm) = (x1, . . . , xr, 0, . . . , 0) ∈ Rn

という形であるとしてよい。このとき、Rr = Rr × {0} ⊂ Rn とみなせば f−1(P ) =

(P ∩ Rr)× Rm−r となるので、(3)と例 1.8により f−1(P )は多面体である。

*3 本稿での局所有限性の定義では、x ∈ Rn \∪

λ∈Λ Aλ の場合に U ∩Aλ = ∅となる λが有限個となるような xの近傍 U の存在は仮定していないので注意する。

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上の命題を踏まえて、さらに多面体の基本的な例を挙げる。

例 1.13. (1) 上半空間 Rn+ = {(x1, . . . , xn) ∈ Rn |xn ≧ 0}は多面体である。

(2) 例 1.7と命題 1.12(3)により、直方体∏n

i=1[ai, bi] ⊂ Rn は多面体である。とくに、

a = (a1, . . . , an)を中心とする立方体

N(a, r) =

n∏i=1

[ai − r, ai + r]

は多面体である。上の式の右辺において、直積因子 [ai − r, ai + r] のうちのいく

つかを {ai − r} または {ai + r} に置き換えて得られる集合、および空集合を立方体 N(a, r) の面 (face) という。立方体の面は多面体である。また、2n 個の点

(a1 ± r, . . . , an ± r)のそれぞれを N(a, r)の頂点 (vertex)という。

(3) Nr(a) = {x ∈ Rn | d(x, a) = r}は多面体である。実際、Nr(a) は Nr(a)の面の有

限和として表すことができるので、命題 1.12(4)により多面体となる。

(4) 命題 1.10では、多面体 P の点 aに対して ε > 0を十分小さくとると、L = N(a, ε)

をリンクとする錐近傍 N = Nε(a) = aL が得られることを示した。上の (2)と命

題 1.12(2)により、ここでの L,N はともに多面体である。

注意 1.14. 命題 1.10 と例 1.13(4) により、多面体 P における点 a における錐近傍

N = aLは、いつでも次のような条件を満たすようにとれる。

• N \ Lは P の開集合である。

• N,Lは多面体である。

さらに、そのような錐近傍をいくらでも小さくとることができる。以下では、多面体の点

の錐近傍は断りがなくても上の条件を満たすことを仮定する。

ここで錐の概念の一般化を述べておこう。

定義 1.15. A,B ⊂ Rnが独立 (independent)*4であるとは、A∩B = ∅ であって、条件

a, a′ ∈ A, b, b′ ∈ B, (ab) ∩ (a′b′) = ∅ =⇒ a = a′, b = b′

を満たすことをいう。

A が 1 点 a からなるとき、{a}, B が独立であるとは aB が錐であることにほかなら

ない。

例 1.16. (1) R3 の部分集合

A = [−1, 1]× {0} × {0}, B = {0} × [−1, 1]× {1}

*4 joinable という用語を使う文献も多い。

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は独立である。

(2) より一般的に、任意の S ⊂ Rm, T ⊂ Rn に対して、Rm × Rn × Rの部分集合

A = S × {0} × {0}, B = {0} × T × {1}

は独立である。

(3) R2 の部分集合 A = [0, 1]× {0}, B = [0, 1]× {1}は独立でない。

注意 1.17. (1) A,B が独立であることは、次の条件と同値であることが簡単に確かめら

れる:任意の x ∈ AB は、x = (1− t)a+ tb, a ∈ A, b ∈ B, t ∈ I の形に、次の意味で一

意的に表される。

x = (1 − ti)ai + tibi (i = 1, 2)ならば、t1 = t2 が成り立つ。さらに、0 < t1 < 1

であるときは、a1 = a2, b1 = b2 である。

したがって、A,B が独立であるとき、自然な写像 f : AB → I が f((1− t)a+ tb) = t に

より定義される。

(2) A,B が独立であり、A′ ⊂ A, B′ ⊂ B であるならば、A′, B′ も独立である。

さて、独立性について次のことが成り立つ。

補題 1.18. A,B,C ⊂ Rn に対して、A,B が独立であり、AB,C が独立であるならば、

A,BC は独立である。

証明. A,B,C のどれも空集合でないとしてよい。A ∩ BC = ∅ であることをまず確認しよう。仮定より、A,B,C はどの 2 つも交わらないから、もし A ∩ BC = ∅ であったとすれば、a ∈ A, b ∈ B, c ∈ C が存在して a は線分 bc の内点となる。すると、

(ac) ∩ (bc) = (ac) = ∅ となり、AB,C の独立性に反する。

次に、ai ∈ A, zi ∈ BC (i = 1, 2)に対して (a1z1) ∩ (a2z2) = ∅であるとすると、ある0 < ti < 1 (i = 1, 2)に対して (1 − t1)a1 + t1z1 = (1 − t2)a2 + t2z2 である。このとき、

a1 = a2, z1 = z2 を示せばよい。

zi ∈ BC だから、si ∈ I と bi ∈ B, ci ∈ C が存在して zi = (1− si)bi + sici (i = 1, 2)

である。以上と tisi ≦ ti < 1により、

(1− t1s1)

(1− t11− t1s1

a1 +t1 − t1s11− t1s1

b1

)+ t1s1c1

=(1− t2s2)

(1− t21− t2s2

a2 +t2 − t2s21− t2s2

b2

)+ t2s2c2

である。AB,C は独立だから、注意 1.17(1)より、t1s1 = t2s2 である。

もし、t1s1 = t2s2 > 0であれば、0 < tisi < 1 (i = 1, 2)であるから、AB と C の独立

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性から、c1 = c2 および

1− t11− t1s1

a1 +t1 − t1s11− t1s1

b1 =1− t21− t2s2

a2 +t2 − t2s21− t2s2

b2

が成り立つ。再び、0 < tisi < 1 (i = 1, 2)により、A,B の独立性から、a1 = a2, b1 = b2,1−t1

1−t1s1= 1−t2

1−t2s2が分かる。最後の式と t1s1 = t2s2 より、t1 = t2, s1 = s2 なので、

z1 = z2 である。

次に、t1s1 = t2s2 = 0であるとする。このときは、ti > 0 (i = 1, 2)により s1 = s2 = 0

であり、よって zi = bi (i = 1, 2)および (1− t1)a1 + t1b1 = (1− t2)a2 + t2b2 が成り立

つ。A,B は独立だから、a1 = a2, b1 = b2 である。したがって、z1 = z2 である。

命題 1.19. P がコンパクト多面体であるとき、錐 Q = aP は多面体である。

証明. P はコンパクトであるから、aのQにおける錐近傍としてはQ自身がとれる。そこ

で、x0 ∈ Q\{a}とする。このとき、x0 = (1− t0)a+ t0b0となる t0 ∈ (0, 1], b0 ∈ P が一

意的に存在する。b0 の P における錐近傍 N0 = b0L0 を一つとり固定し、N = aN0 ⊂ Q

とする。U0 = N0 \ L0 は P の開集合であるから、U = aU0 \ {a}は Qの開集合である。

さらに、x0 ∈ U ⊂ N であるから、N は x0 の近傍である。あとは、あるコンパクト集合

Lに対して N が x0Lの形の錐構造をもつことを示せばよい。

いま、L0, {b0}は独立であり、L0b0 = N0, {a}は独立である。よって、補題 1.18によ

り、L0, b0aは独立である。ところで、b0aは x0 を頂点とする錐の構造 b0a = x0L1 をも

つ。実際、t0 = 1のときは、L1 = {a}とおけばよく、0 < t0 < 1のときは、L1 = {a, b0}とおけばよい。このとき、{x0}, L1 は独立であり、x0L1 = b0a, L0 は独立であるから、再

び命題 1.18により、L = L1L0 とおくとき {x0}, Lは独立である。すなわち、x0Lは錐

である。しかも、x0L = x0L1L0 = b0aL0 = ab0L0 = aN0 = N である。

1.2 PL写像

多面体は後でみるように三角形分割をもち、単体複体の構造を与えることができる。こ

の立場で見れば、PL写像とは大雑把には、定義域の単体複体を適当に細分したとき各単

体上アフィンとなるような写像である。たとえば、写像 f : I → I が PL写像であること

は、f のグラフが折れ線であることにほかならない。

しかし、ここでも三角形分割によらない多面体の構造を重視し、PL写像を、局所的錐

構造を保つ写像として定義する。

定義 1.20. 多面体の間の写像 f : P → Qが点 a ∈ P において区分線型写像 (piecewise

linear map)である、あるいは略して PL写像であるとは、aの錐近傍 N = aLが存在

して、f((1− t)a+ tx) = (1− t)f(a) + tf(x)

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が任意の x ∈ L, t ∈ I に対して成立することをいう*5。任意の a ∈ P に対して f が aに

おいて PL写像であるとき、f : P → Q は PL写像であるという。

上の定義における錐近傍 N 上で f は連続となるから、PL写像は連続である。

注意 1.21. PL写像の基本的な例と性質を挙げよう。

(1) V ⊂ Rn をアフィン部分空間とするとき、アフィン写像 f : V → Rm は PL写像で

ある。

(2) f : P → QがPL写像であり、P ′ ⊂ P が P の部分多面体であるならば、f |P ′ : P ′ →Qも PL写像である。

(3) 多面体 P ⊂ Rn, Q ⊂ Rm に対して、写像 f : P → Qがアフィン写像であるとは、

f があるアフィン写像 Rn → Rm の制限であることをいう。(1), (2)により、多面

体の間のアフィン写像は PL写像である。

PL写像のさらなる性質を示すためには、次の定理による PL写像の特徴づけを使うの

が便利である。

定理 1.22. P ⊂ Rn, Q ⊂ Rm を多面体とする。連続写像 f : P → Qが PL写像である

ためには、グラフΓf = {(x, y) ∈ Rn+m |x ∈ P, y = f(x)}

が多面体であることが必要十分である。

証明.【必要性】連続写像 f : P → Q のグラフ Γf が多面体であるとし、a ∈ P , a =

(a, f(a)) ∈ Γf とする。Γf は多面体であり f は連続だから、ε > δ > 0 が存在して、

NP = Nδ(a, P ) = aNδ(a, P ), NQ = Nε(f(a), Q), NΓ = Nε(a,Γf )はそれぞれ P,Q,Γf

における a, f(a), aの錐近傍を与え、f(NP ) ⊂ NQ が成り立つ。すなわち、

Γf ∩ (NP × Rm) ⊂ NΓ (⋆)

である。さて、任意に x ∈ Nδ(a, P )と t ∈ I を与える。f((1− t)a+ tx) = (1− t)f(a)+

tf(x)を示せばよい。(⋆)より x = (x, f(x)) ∈ NΓ であり、NΓ は aを頂点とする錐だか

ら、(1− t)a+ tx ∈ NΓ ⊂ Γf であるが、これはまさに示すべきことを意味している。

【十分性】f : P → Q が PL 写像であるとして、a = (a, f(a)) ∈ Γf とする。a の

Γf における錐近傍を構成しよう。a の P における錐近傍 NP = aLP と f(a) を、

f((1− t)a+ tx) = (1− t)f(a) + tf(x) (x ∈ LP , t ∈ I)となるようにとる。このとき、

NΓ = Γf ∩ (NP × Rm)

*5 「区分線型」の「線型 (linear)」という語は、アフィン写像の意味で用いられている。しかし、区分線型という語やその略である PLはすでに定着しているものなので、あえて「区分アフィン」と直すことはしなかった。

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とおくと、NΓ は aの Γf における近傍である。さらに、LΓ = Γf ∩ (LP × Rm)とおく

と、NΓ = aLΓ であること、および、これが錐であることが容易に確かめられる。

注意 1.23. 命題 1.22 において、f の連続性は本質的である。たとえば、P を正方形

の周 N(0, 1) ⊂ R2 とし、Q = R+ = [0,∞) とする。v0 = (−1,−1), v1 = (1,−1),

v2 = (1, 1), v3 = (−1, 1) とし、n > 3 に対して vn = (−1,−1 + 2−(n−4)) とおき、

f(vn) = n ∈ Q (n = 0, 1, 2, . . .)とする。各 nに対して、f が線分 vnvn+1 上でアフィン

となるように f を拡張すると、v0 において連続でない写像 f : P → Qが得られる。この

とき、グラフ Γf は多面体であるが、f は点 (−1,−1)で PL写像でない。

次に挙げる PL写像の性質は、定理 1.22を使えば簡単に証明できる。

命題 1.24. PL写像に関して、次が成り立つ。

(1) f : P → Qが多面体の間の写像で、(Pλ)λ∈Λ が P の閉部分多面体の局所有限な族

で P =∪

λ∈Λ Pλ を満たすものとする。このとき、各 λ ∈ Λに対して f |Pλが PL

写像であるならば、f は PL写像である。

(2) fi : Pi → Qi (i = 1, 2)が PL写像であるならば、f1 × f2 : P1 × P2 → Q1 ×Q2 も

PL写像である

(3) f : P1 → P2, g : P2 → P3 が PL写像であるならば、g ◦ f : P1 → P3 は PL写像で

ある。

f : P → Qをコンパクト多面体の間の写像とする。aP, bQがそれぞれ錐であるとき、f

上の錐 f ′ : aP → bQを f ′((1− t)a+ tx) = (1− t)b+ tf(x) (t ∈ I, x ∈ P ) により定義

する。

系 1.25. f : P → Qがコンパクト多面体の間の PL写像であるとき、錐 f ′ : aP → bQも

PL写像である。

証明. aP ⊂ Rn, bQ ⊂ Rm であるとすると、グラフ Γf ⊂ Rn+m は定理 1.22 によりコン

パクト多面体である。さらに、a = (a, b) ∈ Rn+m とすると、aΓf は錐であり、aΓf = Γf ′

であることが直ちに確かめられる。よって、命題 1.19により Γf ′ は多面体だから、再び

定理 1.22により、f ′ は PL写像である。

定義 1.26. f : P → Qを多面体の間の写像とする。f が PL写像かつ同相写像であると

き、f は PL同相写像 (PL homeomorphism)であるという。

PL同相写像の定義に、逆が PL写像であることが含まれていないが、これは自動的に

成り立つ。

系 1.27. f : P → Qが PL同相写像であるとき、逆写像 f−1 : Q → P は PL同相写像で

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ある。

証明. Γf が多面体ならば Γf−1 も多面体となるから、この主張は定理 1.22から従う。

つまり、PL同相写像は、多面体と PL写像のなす圏における同型射である。こうして、

PL トポロジーは多面体を PL 同相で分類する分野であると、一応定義づけることがで

きる。

注意 1.28. (1) 単射 PL写像は、必ずしも PL同相写像ではないので注意が必要である。

例えば、注意 1.23の写像 f : P → Qは全単射であり、g = f−1 : Q → P は単射 PL写像

である。しかし、f は連続でなかったから、g は PL同相写像でない。

(2) さらに、多面体の単射 PL 写像による像が多面体であるとも限らない。簡単な例

としては、P = {0, 1, 2, . . .}, Q = R, f(0) = 0, f(n) = 1/n (n ≧ 1) で定義される

f : P → Qを挙げることができる。

上の注意を踏まえて、PL埋め込みの概念を次のように定義する。

定義 1.29. 多面体の間の単射 PL 写像 f : P → Q が PL 埋め込み (PL embedding)

であるとは、f(P )が Qの部分多面体であって、f : P → f(P )が PL同相写像となるこ

とをいう。

2 単体複体と単体写像

いままで多面体を錐構造をもとに内在的に扱ってきたが、実際には多面体を単体分割し

て、単体複体として扱うのが便利である(定理 2.48参照)。また、PL写像も、少なくと

も定義域がコンパクトであるときは、単体複体を適当に細分することで単体写像と見るこ

とができる(系 2.57参照)。以下で、その詳細を見ていくことにする。

2.1 単体

m ≧ 0とする。点 v0, . . . , vm ∈ Rn がアフィン独立 (affinely independent)である

とは、∑m

i=0 ti = 0 を満たす t0, . . . , tm ∈ R に対して∑m

i=0 tivi = 0 ならば t0 = · · · =tm = 0となることをいう。これは、m個のベクトル v1 − v0, . . . , vm − v0 が 1次独立で

あることと同値である。

v0, . . . , vm がアフィン独立であるとき、ジョイン σ = v0v1 · · · vm は

σ =

{m∑i=0

tivi

∣∣∣∣∣m∑i=0

ti = 1, ti ≧ 0

}と表される。この σ を m 単体 (m-simplex) といい、点 v0, . . . , vm は単体 σ の頂点

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(vertex) であるという。また、v0, . . . , vm(あるいは集合 {v0, . . . , vm})は σ を張る

(span) という。単体 σ の点 xは x =∑m

i=0 tivi,∑m

i=0 ti = 1, ti ≧ 0の形に一意的に表

される。このときの t0, . . . , tm を点 xの重心座標 (barycentric coordinates) という。

m単体はm− 1単体を底とする錐であるから、命題 1.19から帰納法により、すべての

単体は多面体であることが分かる。

単体 σ の頂点全体の集合を V (σ)で表す。すなわち、m単体 σ = v0 · · · vm に対して、

V (σ) = {v0, . . . , vm}

と定義する。容易に証明される次の命題から、V (σ) が σ のみで定まる集合であることが

分かる。

命題 2.1. 点 v0, . . . , vmがm単体 σの頂点であるとき、x ∈ σに対して、x ∈ {v0, . . . , vm}であるためには x ∈ abとなる任意の a, b ∈ σ に対して x = aまたは x = bが成立するこ

とが必要十分である。

さらに、m単体 σ に対して dimσ = mと定義し、mを σ の次元 (dimension)とい

う。σ の点 σ = (m+ 1)−1∑m

i=0 vi を σ の重心 (barycenter)という。

命題 2.2. σ = v0 · · · vk ⊂ Rn が k 単体、f : σ → Rm が単射アフィン写像のとき、f に

よる像 f(σ)は f(v0), . . . , f(vk)を頂点とする k 単体である。

証明. k = 0 のときは明らかなので、k ≧ 1 とする。f がアフィン写像であることから

f(σ) はジョイン f(v0) · · · f(vk) に等しいので、f(v0), . . . , f(vk) ∈ Rm がアフィン独立

となることを示せばよい。そこで、t0, . . . , tk ≧ 0,∑k

i=0 ti = 0,∑k

i=0 tif(vi) = 0 とす

る。ε > 0 を十分小さくとり、ε · maxi |ti| < (k + 1)−1 となるようにする。このとき、

x = σ, y = x + ε∑k

i=0 tivi とおけば、x, y ∈ σ であって、f がアフィン写像であるこ

とから f(y) = f(x) + ε∑k

i=0 tif(vi) = f(x) となる。よって、f の単射性により x = y

となるから、∑k

i=0 tivi = 0 を得る。したがって、v0, . . . , vk のアフィン独立性により

t0 = · · · = tk = 0である。

σ が単体であるとき、各部分集合 T ⊂ V (σ)に対して T はある単体 τ を張るが、この

ようにして得られる単体 τ を σ の面 (face) といい、τ ≦ σ と書く。さらに、τ = σ で

あるとき、τ は σ の真の面 (proper face)であるといい、τ < σ と書く。各 v ∈ V (C)

に対して、{v} は σ の 0 次元の面である。単体 σ の真の面すべての和集合を σ の境界

(boundary)といい、σ で表す。また、σ = σ \ σ と定義し、σ を σ の内部 (interior)

という。重心 σ は内部 σ の点である。

σ を含む Rn の最小のアフィン部分空間を ⟨σ⟩で表す。

命題 2.3. 単体 σに対して、σ, σはそれぞれ ⟨σ⟩ における σの境界 Fr⟨σ⟩ σ, 内部 Int⟨σ⟩ σ

に等しい。

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証明. σ が m + 1個の点 e0 = (0, . . . , 0), e1 = (1, 0, . . . , 0), . . . , em = (0, . . . , 0, 1) で張

られる Rm 内の m単体である場合に示せば十分であり、その場合は直接の計算で証明さ

れる。

さらに、空集合 ∅は −1単体であると定義し、任意の単体の面であると考える。

命題 2.4. コンパクト多面体は、有限個の単体の和集合として表される。

証明. P ⊂ Rn とする。P を含む Rn の最小のアフィン部分空間 ⟨P ⟩の次元 n = dim⟨P ⟩についての帰納法で証明する。n ≦ 0のときは自明である。n ≧ 1とし、n未満での命題

の成立を仮定する。P ⊂ Rn = ⟨P ⟩であるとしてよい。P はコンパクトであるから、P の

各点のある近傍が、有限個の単体の和集合となることを示せば十分である。そこで、a ∈ P

とする。aの錐近傍を、ε近傍Nε(a, P ) = aNε(a, P )の形にとる。Nε(a, P ) = Nε(a)∩P

で、Nε(a) は、例 1.13(3)で注意したように立方体Nε(a)の面の有限和である。F をその

ような面の任意の 1つとすると、F ∩ P は多面体で、dim⟨F ∩ P ⟩ < nであるので、帰納

法の仮定から、F ∩ P は単体の有限和である。したがって、Nε(a, P ) = Nε(a) ∩ P も単

体の有限和であるから、aの錐近傍 Nε(a, P ) = aNε(a, P ) もそうである。

系 2.5. 任意の多面体 P は、単体の局所有限な族 (σλ)λ∈Λ の和集合として P =∪

λ∈Λ σλ

と表される。

上の系 2.5を用いて、多面体の次元の概念が定義される。

定義 2.6. 多面体 P に対して存在する系 2.5のような単体の族 (σλ)に対して、maxλ σλ

を多面体 P の次元といい、dimP で表す。

この値は (σλ)の取り方によらず定まっている。このことは、n単体が n次元未満の単

体の有限個の和集合に含まれることはない、という事実に注目すれば分かる。もちろん、

m単体 σ の多面体としての次元はmである。

命題 2.7. 多面体の次元について、以下のことが成り立つ。

(1) P ⊂ Qならば、dimP ≦ dimQである。

(2) アフィン部分空間 V ⊂ Rn の多面体としての次元は、アフィン部分空間としての次

元に等しい。

証明. (1) P を単体の局所有限和で P =∪

λ∈Λ σλ と表し、Q を単体の局所有限和で

Q =∪

µ∈M τµ と表せば、{σλ ∈ λ ∈ Λ} ∪ {τµ |µ ∈ M} も和集合が Qとなる局所有限な

族なので、dimP = maxλ dimσλ ≦ max{maxλ dimσλ,maxµ dim τµ} = dimQである。

(2) 以下では dim は常に多面体としての次元を表す。V ⊂ Rn をアフィン部分空間

とし、アフィン部分空間としての次元が k であるとする。このとき、V はアフィン独

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立な k + 1 個の点 v0, . . . , vk をもち、したがって、k 単体 v0 · · · vk を含んでいるから、dimV ≧ k である。もし dimV > k であれば V は k + 1単体を含むから、その頂点はア

フィン独立な k+2個の点となり、V のアフィン部分空間としての次元が kであることに

反する。よって、dimV = k である。

系 2.8. f : P → Qが多面体 P ⊂ Rn から Q ⊂ Rm への PL写像であるとき、P を単体

の局所有限な族 (σλ)λ∈Λ の和集合に表し、各 λ ∈ Λに対して f |σλ: σλ → Q ⊂ Rm がア

フィン写像であるようにできる。

証明. グラフ Γf は多面体であるから、命題 2.5により、Γf を局所有限な単体の族 (σλ)λ∈Λ

の和集合として表すことができる。π : Γf → P , π′ : Γf → Qを射影とすると、各 λ ∈ Λに

対して、π|σλは単射アフィン写像なので、命題 2.2により、σλ = π(σλ)は単体である。する

と、∪

λ∈Λ σλ = P であり、(σλ)は局所有限である。f |σλ= π′ ◦(π|σλ

)−1 : σλ → Q ⊂ Rm

だから、f |σλはアフィン写像の合成としてアフィン写像である。

命題 2.9. 単体のアフィン写像による像は多面体となる。

証明. σ ⊂ Rm を単体とし、f : σ → Rp をアフィン写像とするとき、f(σ)が多面体とな

ることを n = dimσ に関する帰納法で示そう。n ≦ 0 のときは明らかである。n ≧ 1 と

する。f が単射であるときは、命題 2.2により、f(σ)は n単体である。f が単射でない

とき、f(σ) = f(σ) (⋆)

が成り立つ。これを示すため、y ∈ f(σ) とする。f をアフィン写像 f : ⟨σ⟩ → Rp に拡

張しておけば、f が単射でないことから f−1(y) は ⟨σ⟩ の 1 次元以上のアフィン部分空

間となるので、コンパクトでない連結集合である。他方、σ は ⟨σ⟩ のコンパクト集合でf−1(y) ∩ σ = ∅ だから、命題 2.3 により、f−1(y) ∩ σ = f−1(y) ∩ Fr⟨σ⟩ σ = ∅ である。よって、f−1(y) ∩ σ = ∅であるから、y ∈ f(σ)である。これで (⋆)が示された。

(⋆)により、σ の n − 1次元の面を τ0, . . . , τn とすれば f(σ) =∪n

i=0 f(τi)である。帰

納法の仮定から f(τi)は多面体であるので、その有限和として f(σ)は多面体となる。

位相空間の間の連続写像 f : X → Y が固有 (proper)であるとは、Y の任意のコンパ

クト部分集合 Lに対して、f−1(L)がコンパクトとなることをいう。

系 2.10. コンパクト多面体の PL写像による像は多面体である。より一般に、多面体の

固有 PL写像による像は多面体である。

証明. 後半の主張だけを示そう。P,Q を多面体、f : P → Q を固有 PL 写像とする。系

2.8 により、P =∪

λ∈Λ σλ となる局所有限な単体の族 (σλ)λ∈Λ が存在して、f |σλは各

λ に対してアフィン写像となる。命題 2.9 により、各 λ に対して、像 f(σλ) はコンパク

トな多面体である。命題 1.12(4)によれば、あとは (f(σλ))λ∈Λ の局所有限性を示せばよ

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い。そこで、y ∈ f(P ) とする。Q は局所コンパクトなので、y の Q におけるコンパク

ト近傍 N が存在する。f は固有であるから、f−1(N) ⊂ P はコンパクトである。よっ

て、(σλ)の局所有限性により、f−1(N)∩ σλ = ∅ となる λは高々有限個である。これは、

N ∩ f(σ) = ∅となる λが高々有限個であることを意味している。

2.2 胞体とその面

定義 2.11. C ⊂ Rn が線型 n胞体 (linear n-cell)、あるいは単に n胞体 (n-cell)であ

るとは、C がコンパクトかつ凸な多面体で、C を含む最小のアフィン部分空間 ⟨C⟩の次元が nであることをいう。

注意 2.12. (1) n単体や In は n胞体である。0胞体、1胞体はそれぞれ 0単体、1単体

と同じものである。空集合は −1胞体である。

(2) 胞体のアフィン写像による像は、系 2.10により胞体である。

(3) アフィン独立とは限らない a0, . . . , ar ∈ Rn に対して、ジョイン C = a0 · · · ar は胞体であり、C は a0, . . . , ar(あるいは集合 {a0, . . . , ar})によって張られるという。実際、C は r単体のアフィン写像による像となる。逆に、任意の胞体はある有限個の点によって

張られることが示される(命題 2.22(5)(7))。

(4) 2個の胞体の共通部分、および 2個の胞体の直積は胞体である。

(5) 胞体とアフィン部分空間の共通部分は胞体である。一般に、C ⊂ Rn が胞体、

P ⊂ Rn が閉かつ凸集合である多面体であるとき、C ∩ P は胞体となる。

(6) 胞体を底とする錐は胞体である。

胞体 C ⊂ Rn に対して、Fr⟨C⟩ C, Int⟨C⟩ C をそれぞれ C の境界 (boundary)、内部

(interior)と呼び、C, C で表す*6。

命題 2.13. n ≧ 0のとき、n胞体 C ⊂ Rm に対して次が成り立つ。

(1) C は少なくとも一つの n単体を含み、C の多面体としての次元 dimC = nである。

(2) 任意の n単体 σ ⊂ C に対して、σ ⊂ C である。とくに、C = ∅である。(3) C は、「どの y ∈ C に対しても線分 yxを xを越えて C 内の線分に延長できる」と

いう性質をもつ x ∈ C 全体の集合に等しい。すなわち、

C = {x ∈ C | ∀y ∈ C ∃ε > 0 (1 + ε)x− εy ∈ C}

である。

*6 場合により、内部を表す記号は (C ∩D) のように右上肩に付ける。

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証明. (1) ⟨C⟩のアフィン部分空間としての次元は nだから、C にはアフィン独立な n+1

点 v0, . . . , vn が存在しなければならない。よって、C は n単体 v0 · · · vn を含むから、多面体としての次元 dimC ≧ nである。また、命題 2.7により、dimC ≦ dim⟨C⟩ ≦ nも

成り立つ。

(2) σ ⊂ C を n単体とする。⟨C⟩, ⟨σ⟩はともに n次元で ⟨σ⟩ ⊂ ⟨C⟩ だから、⟨σ⟩ = ⟨C⟩である。よって、命題 2.3により、σ = Int⟨σ⟩ σ = Int⟨C⟩ σ ⊂ Int⟨C⟩ C = C である。

(3) 左辺が右辺に含まれることは明らかである。右辺の元 xを任意に与える。(1) によ

り存在する n単体 σ = v0 · · · vn ⊂ C を一つ固定し、ε > 0を、x′ = (1 + ε)x− εσ ∈ C

となるように取り、wi = (1 + ε)−1(εvi + x′) (i = 0, . . . , n)とおく。すると、w0, . . . , wn

は容易に確かめられるようにアフィン独立で、n単体 τ = w0 · · ·wn に対して τ = xであ

るから、(2)により、x ∈ τ ⊂ C である。

胞体の面の概念を定義するために(定義 2.17)、まず次の定義をする。

定義 2.14. 胞体 C ⊂ Rn と x ∈ Rn に対して、

⟨C|x⟩ = {y ∈ Rn | ∃ε > 0 (|t| < ε ⇒ (1− t)x+ ty ∈ C)}

と定義する。

注意 2.15. 上の定義の図形的な意味は易しい。x ∈ C のとき、y ∈ ⟨C|x⟩ であるとは、y = xであるか、または y と xを通る直線と C との共通部分が xを内部の点にもつ線分

となることである。x /∈ C のときは ⟨C|x⟩ = ∅であることに注意する。

次の補題は、上の注意を念頭に図を描いてみれば証明のヒントが得られるだろう。

補題 2.16. ⟨C|x⟩は Rn のアフィン部分空間である。

証明. x = 0であるとして証明してよい。y, z ∈ ⟨C|0⟩, λ ∈ Rとする。w = (1−λ)y+λz

とおくとき w ∈ ⟨C|x⟩を証明しよう。ε > 0を十分小さく取り、|t| < εならば ty, tz ∈ C

となるようにする。

【場合 1: 0 ≦ λ ≦ 1のとき】|t| < εとすると、C の凸性により tw = (1−λ)ty+λtz ∈ C

となる。よって、w ∈ ⟨C|0⟩である。【場合 2: λ ≦ 0のとき】|t| < ε/(1− 2λ)とすると、y′ = (1− 2λ)ty, z′ = −(1− 2λ)tz

とおくとき y′, z′ ∈ C であり、0 ≦ −λ1−2λ < 1/2 ≦ 1であって

tw =

(1− −λ

1− 2λ

)y′ +

−λ

1− 2λz′

となるから、C の凸性により tw ∈ C である。よって、w ∈ ⟨C|0⟩である。【場合 3: λ ≧ 1のとき】y と z の立場を入れ換えれば、場合 2に帰着される。

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定義 2.17. 胞体 C ⊂ Rn に対して、

Cx = C ∩ ⟨C|x⟩

と定義する。補題 2.16と注意 2.12(5)により、Cx は胞体となる。ある x ∈ Rn に対して

Cx の形に表される胞体を C の面 (face)といい、D が C の面であることを D ≦ C で表

す。すぐに注意 2.18(2)で見るように、C 自身は C の面である。D ≦ C かつD = C であ

るとき、Dは C の真の面 (proper face)であるといい、D < C で表す。また、{x} ≦ C

であるとき、xを C の頂点 (vertex)という。C の頂点全体の集合を V (C)で表す。

注意 2.18. (1) 胞体 C は凸集合であるから、面 Cx は次のようにも表すことができる。

Cx = {y ∈ C | ∃ε > 0 (1 + ε)x− εy ∈ C}= {y ∈ C | ∃ε0 > 0 (0 < ε < ε0 =⇒ (1 + ε)x− εy ∈ C)}

x ∈ C のときは、上の図形的な意味は明瞭である。すなわち、C の点 y に対して y ∈ Cx

であるとは、y = xであるか、または線分 yxを xを越えて C 内の線分に延長できること

である。x /∈ C のときは、Cx = ∅である。よって、空集合 ∅は任意の胞体の面となる。(2) 胞体 C が空でないとき、命題 2.13(2)により、x ∈ C が存在するが、このとき (1)

により Cx = C である。よって、任意の胞体 C に対して、C ≦ C が成り立つ。

(3) 胞体 C と x ∈ C に対して、x ∈ Cx である。このことは、命題 2.13(3)から直ちに

導かれる。さらに、このことの逆が成り立つ(補題 2.21(2))。

(4) A,B ⊂ Rn が胞体で x ∈ Rn のとき、(A∩B)x = Ax ∩Bx である。また、A ⊂ Rn,

B ⊂ Rm が胞体のとき、(A×B)(x,y) = Ax ×By である。

(5) いままで立方体や単体に定義された面・頂点の概念は、ここで定義されたものと一

致することが簡単に確かめられる。

胞体を実際に扱うための諸性質を確立するため、もう少し幾何的考察を行う。次の補題

の証明は図を描いてみれば容易に理解できるだろう。

補題 2.19. 胞体 C ⊂ Rn と a, b ∈ Rn に対して、a ∈ Cb ならば Ca ⊂ Cb である。

証明. a /∈ C または b /∈ C のときは明らかであるから、a, b ∈ C であるとしてよい。

a ∈ Cb, u ∈ Caとすると、ε > 0が存在して c = (1+ε)b−εa ∈ C, a′ = (1+ε)a−εu ∈ C

である。このとき、

b′ =ε

1 + 2εa′ +

1 + ε

1 + 2εc

とおけば C の凸性から b′ ∈ C であり、簡単な計算により、b′ = (1+ δ)b− δu を得る。た

だし、δ = ε2/(1 + 2ε)である。よって、u ∈ Cb である。

系 2.20. C を胞体とするとき、次が成り立つ。

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(1) a ∈ Cb, b ∈ Ca ならば Ca = Cb である。

(2) a ∈ C のとき、Ca は aを含む C の最小の面である。

補題 2.21. C を胞体とするとき、次が成り立つ。

(1) D が C に含まれる(面とは限らない)胞体のとき、Dx ⊂ Cx である。

(2) D ≦ C, x ∈ D ならば Cx = D である。

(3) F,D ≦ C, F ∩ D = ∅ならば F = D である。

(4) D ≦ C, x ∈ D ならば Cx = Dx である。

(5) x ∈ C, y ∈ Cx ならば (Cx)y = Cy である。

証明. (1) これは定義から明らかである。

(2) D ≦ C, x ∈ D とすると、D = Cy となる y ∈ D が存在する。このとき、x ∈ D,

y ∈ D により、y ∈ Dx ⊂ Cx であり、x ∈ D = Cy である。よって、系 2.20(1)により、

Cx = Cy = D である。

(3) x ∈ F ∩ D とすると、(1)により、F = Cx = D である。

(4) D ≦ C, x ∈ D とする。D = Cy となる y ∈ D を取る。(1) により、Cx ⊂ Dx の

み示せば十分である。そこで、z ∈ Cx, z = xとする。線分 zxは xを越えて C 内の線分

zx′ に延長できる。このとき、x′ ∈ Cx である。ところが、系 2.20(2)により Cx ≦ D で

あるので、z, x′ ∈ D である。D 内の線分 zx′ は xを内点にもつから、z ∈ Dx である。

(5) (4)の言い換えである。

命題 2.22. C を胞体とするとき、次が成り立つ。

(1) D < C ならば、dimD < dimC である。

(2) F ⊂ D ≦ C のとき、F ≦ D は F ≦ C と同値である。とくに、F ≦ D ≦ C なら

ば F ≦ C である。

(3) F,D ≦ C ならば F ∩D ≦ C である。

(4) 集合としての直和分解 C =⨿

F≦C F , C =⨿

F<C F が成り立つ。

(5) C の頂点全体の集合 V (C)は有限集合である。

(6) F ≦ C のとき、V (F ) = V (C) ∩ F である。

(7) C は V (C)によって張られる。

(8) C の面の個数は有限である。

(9) x ∈ C のとき、B =∪{F |F < C, x /∈ F}とおけば、C は錐 xB となる。

(10) 凸部分集合 D ⊂ C が C の面の和集合で表されるならば、D ≦ C である。

証明. (1) D = Cx < C とすると、⟨C|x⟩ ⫋ ⟨C⟩ でなければならないから、dimD ≦dim⟨C|x⟩ < dim⟨C⟩ = dimC である。

(2) これは補題 2.21(4)の帰結である。

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(3) F ∩ D = ∅ としてよい。命題 2.13(2) により、x ∈ (F ∩ D) が存在する。補題

2.21(4)により、Fx = Cx = Dx だから、Cx ⊂ F ∩D である。他方、注意 2.18(2)と補

題 2.21(1) により、F ∩D = (F ∩D)x ⊂ Cx である。

(4) 各 x ∈ C に対して x ∈ Cx だから、C =∪

F≦C F であるが、これは補題 2.21(3)に

より直和となる。C = C \ C により、第二の直和分解も得られる。(5) C の各点 xは錐近傍 Nx = xLx をもつ。Ux = Nx \Lx は xの開近傍であって(注

意 1.14 を参照)、Ux ∩ V (C) ⊂ {x}を満たす。C のコンパクト性により、C =∪m

i=1 Uxi

となる x1, . . . , xm が存在するから、V (C) ⊂ {x1, . . . , xm}である。(6) これは (2)の帰結である。

(7) n = dimC についての帰納法で示す。V (C) = {v0, . . . , vr}として、A = v0 · · · vrとする。C の凸性により A ⊂ C なので、C ⊂ A を示せばよい。そこで、x ∈ C とす

る。x ∈ C であれば、(4) により、x ∈ F となる真の面 F < C が存在する。(1) により

dimF < dimC = nだから、帰納法の仮定より F は V (F )によって張られるが、(6)に

より V (F ) ⊂ V (C)だから、F ⊂ Aとなる。よって、x ∈ Aである。x ∈ C であれば、x

を内点にもつ線分 yz で y, z ∈ C となるものが存在する。すでに見たように y, z ∈ Aだ

から、x ∈ Aである。

(8) これは (6)(7)の帰結である。

(9) C の凸性から、xB ⊂ C である。y ∈ C, y = xとする。線分 xy を y の側に延長し

て得られる半直線 lに対して、l ∩ C は線分であるが、その端点のうち xでない方を z と

する。すると、x /∈ Cz であるから、z ∈ Cz ⊂ B であり、よって y ∈ xB である。あと

は、xB が錐であることを示せばよい。もし、そうでないとすると、命題 1.5(4)により、

異なる y, z ∈ B であって y ∈ xz であるものが存在する。すると x ∈ Cy ⊂ B であるから

矛盾する。

(10) 空でない凸集合 D ⊂ C が C の面の和集合として D =∪r

i=1 Fi, Fi ≦ C と表され

るとする。このとき {Fi | i = 1, . . . , r}が包含関係についてただ一つの極大元をもつことを示せばよい。そこで、Fi, Fj がともに極大元であるとする。Fi = Cx, Fj = Cy と表せ

ば、xy ⊂ D である。内点 z ∈ xy を取れば、z ∈ Fk となる k が存在する。x ∈ Cz だか

ら系 2.20(2) により Fi = Cx ⊂ Cz ⊂ Fk であり、よって極大性から Fi = Fk である。同

様に、Fj = Fk であるから、Fi = Fj である。

アフィン写像と面の関係についても少し調べておく。

命題 2.23. C ⊂ Rm, D ⊂ Rn を胞体、f : C → Rn をアフィン写像とするとき、次が成

り立つ。

(1) C ∩ f−1(D)は胞体であって、任意の x ∈ C ∩ f−1(D)に対して (C ∩ f−1(D))x =

Cx ∩ f−1(Df(x))である。

(2) x ∈ C に対して、Cx ⊂ f−1(f(C)f(x))である。

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証明. (2) は (1) において D = f(C) とおけば得られるので、(1) のみ示せばよい。

命題 1.12(5) と注意 2.12(5) により、C ∩ f−1(D) は胞体である。(C ∩ f−1(D))x ⊂Cx∩f−1(Df(x))は定義から簡単に示される。逆の包含を示すため、y ∈ Cx∩f−1(Df(x))

とする。y ∈ Cx により、ある ε > 0 に対して (1 + ε)x − εy ∈ C である。また、

f(y) ∈ Df(x) だから、0 < δ < εとなる δ が存在して、(1 + δ)f(x)− δf(y) ∈ D である。

このとき、(1 + δ)x− δy ∈ C ∩ f−1(D)であるから、y ∈ (C ∩ f−1(D))x である。

2.3 錐と放射投影

aB ⊂ Rn が錐であるとき、π((1 − t)a + tb) = b (t ∈ I, b ∈ B)により定義される写像

π : aB \ {a} → B を放射投影 (radial projection)という。

注意 2.24. 次のことは簡単に確認できる。

(1) B がコンパクトであるとき、π は連続写像である。

(2) コンパクトな C ⊂ aB \ {a}に対して、aC が錐であるならば、π|C : C → π(C)は

同相写像である。

以下では、B がコンパクトな凸集合であるときを考える。まず注意すべきことは、π は

必ずしもアフィン写像ではないということである。

例 2.25. a = (0, 0) ∈ R2, B = [0, 1] × {1} ⊂ R2 とすると、aB は錐である。p =

(0, 1), q = (1/2, 1/2) ∈ aB を考える。π がアフィン写像であれば、t ∈ I に対して

π((1− t)p+ tq) = (t, 1) でなければならないが、実際には

π((1− t)p+ tq) = (t/(2− t), 1)

である。よって、π はアフィン写像ではない。

しかし、放射投影は次の意味でアフィン写像に近い。

命題 2.26. コンパクト凸集合 B を底とする錐 aB の放射投影を π : aB \ {a} → B とす

る。線分 pq ⊂ aB \ {a}が aを端点とする線分に含まれないとき、π(p) = p′, π(q) = q′

とすると、π(pq) = p′q′ であり、π は pq から p′q′ への同相写像を与える。

証明. p = (1 − u)a + up′, q = (1 − v)a + vq′ (u, v ∈ (0, 1], b, c ∈ B, p′ = q′)と表すこ

とができる。このとき、t ∈ I に対して、

π((1− t)p+ tq) = (1− λ(t))p′ + λ(t)q′,

ただし、λ(t) = tv/((1− t)u+ tv)となる。λ(0) = 0, λ(1) = 1 であり、λ : I → I は狭義

単調増加な連続写像であるから、π は線分 pq から線分 p′q′ への同相写像を与える。

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系 2.27. コンパクト凸集合 B を底とする錐 aB の放射投影を π : aB \ {a} → B とする。

胞体 C ⊂ aB \ {a}に対して、aC が錐であるとすると、次が成り立つ。

(1) π(C)は胞体であり、π|C : C → π(C)は同相写像である。

(2) 任意の面 D ≦ C に対して、π(D) ≦ π(C)である。

命題 2.28. 胞体 B を底とする錐 aB に対して、胞体 aB の面全体の集合は

{F |F ≦ B} ∪ {aF |F ≦ B}

で与えられる。

証明. B = ∅であるとしてよい。C = aB とし、アフィン写像 f : C → I を f((1− t)a+

tb) = tで定義する。各 x ∈ C に対して Cx を調べよう。

主張 1. b ∈ B のとき Cb = Bb である。また、Ca = {a}である。

主張 1の証明. f(C) = I, f(b) = 1であるから、命題 2.23(2)により、Cb ⊂ f−1(I1) =

f−1({1}) = B である。よって、補題 2.21(1)(5) により、Cb = (Cb)b ⊂ Bb ⊂ Cb だか

ら、Bb = Cb である。同様にして、Ca ⊂ f−1({0}) = {a}となるから、Ca = {a}である。

主張 2. x = (1− t)a+ tb, 0 < t < 1, b ∈ B のとき、Cx = aBb である。

主張 2の証明. 定義から直ちに、a ∈ Cx が分かる。同様に、b ∈ Cx であるから、補題

2.19により、Bb ⊂ Cb ⊂ Cx となる。以上から、Cx の凸性により、aBb ⊂ Cx である。逆

の包含を示すため、y ∈ Cx とする。明らかに x ∈ ab ⊂ aBb なので、y = xとしてよい。

このとき、z ∈ C \ {a}が存在して、線分 yz は xを内点にもつ。π : C \ {a} → B を放射

投影とし、π(y) = y′, π(z) = z′ とすると、命題 2.26により、線分 y′z′ ⊂ B は π(x) = b

を内点にもつ。よって、y′ ∈ Bb であるから、y ∈ ay′ ⊂ aBb である。

以上の主張 1, 2から命題が従う。

2.4 胞体複体とその細分

定義 2.29. Rn 内の胞体からなる集合 K が(Rn 内の)胞体複体 (cell complex)であ

るとは、次の条件を満たすことをいう。

(0) ∅ ∈ K である。

(1) C ∈ K, D ≦ C ならば D ∈ K である。

(2) C,D ∈ K ならば C ∩D ≦ C である。

(3) K は局所有限である。

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K に属する胞体すべての和集合 |K| を胞体複体 K の台多面体 (underlying polyhe-

dron) という。K が有限集合であるとき、K は有限 (finite) であるという。

実際に与えられた胞体の集合が胞体複体であることを確かめるときには、条件 (2)の証

明が難しいことが多い。そのような場合には次の命題を利用する。

命題 2.30. 胞体複体の定義 2.29において、(1)のもとで (2)は次の条件 (2′), (2′′)のどち

らとも同値である。

(2′) C,D ∈ K, C ∩D = ∅ならば C ≦ D である。

(2′′) C,D ∈ K, C = D ならば C ∩ D = ∅である。

証明.【(2) =⇒ (2′)】Rn 内の胞体の集合 K が (1), (2) を満たすとする。C,D ∈ K,

C ∩ D = ∅ とすると、C ∩ (C ∩ D) = C ∩ D = ∅ であるから、命題 2.22(4) により、

C ∩D = C である。ところが、(2)により C ∩D ≦ D であるから、C ≦ D である。

【(2′) =⇒ (2′′)】K が (1),(2′)を満たすとする。C,D ∈ K, C ∩ D = ∅とすると、(2′)

により C ≦ D かつ D ≦ C となるので、C = D である。

【(2′′) =⇒ (2)】K が (1), (2′′) を満たすとする。C,D ∈ K, C ∩ D = ∅ とする。x ∈ (C ∩ D) を一つ固定しよう。このとき、(1) により Cx, Dx ∈ K である。一方、

x ∈ (C ∩ D)x = Cx ∩ Dx となるので、(2′) により、Cx = Dx である。したがって、

C ∩D = (C ∩D)x = Cx ∩Dx = Cx ≦ C である。

任意の胞体複体は、高々可算個の胞体からなり、その多面体は局所コンパクトかつ第二

可算である。胞体複体が有限であることは、その多面体がコンパクトであることと同値で

ある。胞体複体K に属する胞体の次元の最大値をK の次元といい、dimK で表す。

胞体複体 K の元である胞体のことを、簡単に K の胞体と呼ぶ。K の胞体の頂点の

ことを、K の頂点 (vertex) といい、K の頂点全体の集合を V (K) で表す(定義 2.17

を参照)。また、K の部分集合 L がそれ自身胞体複体をなすとき、L を K の部分複体

(subcomplex)という。Lが K の部分複体であることは、∅ ∈ Lかつ任意の C ∈ Lお

よび D ≦ C に対して D ∈ Lとなることと同値である。K の部分複体の任意個の和集合

および共通部分は、再び部分複体となる。

例 2.31. (1) 胞体 C ⊂ Rn に対して、

K(C) = {D |D ≦ C}, K(C) = {D |D < C}

とおく。これらは命題 2.22によりそれぞれ有限胞体複体となり、|K(C)| = C, |K(C)| =C を満たす。

(2) K,Lを Rn 内の胞体複体であるとき、注意 2.18(4)により、

{A ∩B |A ∈ K,B ∈ L}

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は胞体複体である。これをK,Lの共通部分 (intersection)という。また、K,Lがそれ

ぞれ Rm, Rn 内の胞体複体であるとき、注意 2.18(4)により、Rm+n 内の胞体の集合

{A×B |A ∈ K,B ∈ L}

は胞体複体である。これをK,Lの直積 (product)といい、K × Lで表す。

(3) K が胞体複体、a|K|が錐であるとき、K を底とする錐 aK を

aK = K ∪ {aC |C ∈ K}

により定義する。命題 2.28および命題 1.4により、aK は胞体複体であり、|aK| = a|K|を満たす。

(4) 胞体複体 K と整数 r ≧ 0 に対して、Kr = {C ∈ K | dimC ≦ r} は K の部

分複体である。Kr を K の r 骨格 (r-skeleton) という。|K| はある有限次元のユークリッド空間 Rn に含まれているから、十分大きい r に対して Kr = K である。また、

K0 = {{v} | v ∈ V (K)} ∪ {∅} である。(5) 胞体複体K と C ∈ K に対して、

st(C,K) = {F ∈ K |ある D ∈ K に対して C ≦ D, F ≦ D}

はK の部分複体となる。st(C,K)を C のK におけるスター (star) という。

補題 2.32. 胞体複体K に対して、次が成り立つ。

(1) 集合としての直和分解 |K| =⨿

C∈K C が成り立つ。

(2) K の部分複体 L1, L2 に対して、|L1| ⊂ |L2| ならば L1 ⊂ L2 である。とくに、

|L1| = |L2|ならば L1 = L2 である。

証明. (1)は命題 2.30の条件 (2′′)および命題 2.22(4) から分かる。(2)は (1)から直ちに

導かれる。

命題 2.33. K1,K2 がともに Rn 内の胞体複体で、ある共通の部分複体 L ⊂ K1,K2 に

対して |K1| ∩ |K2| = |L| が成り立つとする。このとき、K1 ∪ K2 は胞体複体であり、

|K1 ∪K2| = |K1| ∪ |K2|である。

証明. K1 ∪ K2 が命題 2.22 の条件 (2′′) を満たすことを示せばよい。そこで、C ∈ K1,

D ∈ K2 として、C ∩ D = ∅を示そう。C ∈ Lなら、C,D ∈ K2 となるから、K2 に対す

る条件 (2′′)により、C ∩ D = ∅である。よって、C ∈ K1 \ Lとしてよいが、このときは、K1 に対する条件 (2′′)および Lに対する補題 2.32(2)により、C ∩ |L| = ∅ である。したがって、C ∩ D ⊂ (|K1| \ |L|) ∩ |K2| = ∅となる。

定義 2.34. 胞体複体 K,K ′ に対して K ′ が K の細分 (subdivision) であるとは、

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|K ′| = |K| であって、各 C ∈ K ′ に対して D ∈ K が存在して C ⊂ D となることをい

う。K ′ がK の細分であるとき、K ▷K ′ と書く。

補題 2.35. K ▷K ′ を胞体複体の細分とし、D ∈ K ′ とする。このとき、C ∈ K であっ

て、D ⊂ C となるものが一意的に存在する。さらに、この C は D を含むK の最小の胞

体に等しく、とくに D ⊂ C を満たす。

証明. D = ∅ としてよい。C を、D を含む K の最小の胞体と定義する。x ∈ D とする

と、Dx ⊂ Cx であるが、C の最小性から Cx = C である。よって、x ∈ C であるから、

D ⊂ C である。他の C1 ∈ K が D ⊂ C1 を満たしたとすると、C1 ∩C ⊃ D = ∅なので、命題 2.30の条件 (2′)により、C1 ≦ C である。よって、C の最小性から、C1 = C であ

る。

命題 2.36. Lを胞体複体K の部分複体とする。K ▷K ′ のとき、K ′ の部分複体 L′ を

L′ = {C ∈ K ′ |C ⊂ |L|}

で定義すると、L▷ L′ を満たす。

この L′ を、K の細分K ′ が誘導する Lの細分という。

証明. |L| = |L′| を示せばよく、そのためには |L| ⊂ |L′| を示せばよい。x ∈ |L| とすると、x ∈ C となる C ∈ L が存在する。また、|L| ⊂ |K| = |K ′| なので、x ∈ C ′ となる

C ′ ∈ K ′ が存在する。補題 2.35により、C ′ ⊂ D となるD ∈ K が存在するが、このとき

補題 2.35 の後半の主張より x ∈ D∩ C なので、命題 2.30の条件 (2′′)によりD = C ∈ L

である。よって、C ′ ⊂ D ⊂ |L| なので、C ′ ∈ L′ となるから、x ∈ C ′ ⊂ |L′|である。

注意 2.37. 補題 2.32(2)により、K の細分K ′ が誘導する Lの細分 L′ はK ′ の部分複体

であって |L′| = |L|を満たすものとして特徴づけられる。誘導される細分を実際に求めるときにはこの特徴づけを用いるのが便利なことが多い。

補題 2.38. 胞体複体 K に対して dimK = n ≧ 1 であり、L は Kn−1 ⊂ L ⊂ K を満

たす部分複体であるとする。また、L′ を Lの細分とする。各 n胞体 C ∈ K \ Lに対して K(C)の細分 K ′(C)が与えられ、各 C ∈ K \ Lと D < C に対して、K ′(C)と L′ は

K(D)に同じ細分を誘導すると仮定する。このとき、

K ′ = L′ ∪∪

{K ′(C) |C ∈ K \ L}

はK の細分を与える。

証明. K ′ が胞体複体であることを示せば十分である。それには、K ′ について命題 2.30

の条件 (2′′)が成り立つことが言えればよい(他の条件は容易である)。さらに、(2′′)を確

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かめるためには、任意の C ∈ K \ L, C ′ ∈ K ′(C)に対して、C ′ ∩ |L′| = ∅と C ′ ∈ L′ の

少なくとも一方が成立することを示せばよい。

そこで、C ∈ K \ L, C ′ ∈ K ′(C)とする。K(C) ▷K ′(C)だから、命題 2.35により、

C ′ ⊂ D となる D ≦ C がただ一つ存在し、さらに、C ′ ⊂ D が成り立つ。C ′ ∩ |L′| = ∅とすると、D ∩ |L| ⊃ C ′ ∩ |L′| = ∅ だから、D = C つまり D < C でなければならない。

よって、K ′(C)と L′ はK(D)に同じ細分を誘導するので、C ′ ∈ L′ である。

命題 2.39. L を胞体複体 K の部分複体とする。任意の細分 L ▷ L′ に対して、細分

K ▷K ′ であって Lに誘導する細分が L′ であるようなものが存在する。

証明. 各 i ≧ 0に対して、Ki = L ∪Ki とする。十分大きい iに対して Ki = K である

ことに注意する。細分 Ki ▷K ′i であって、Lに誘導する細分が L′ となり、i ≧ 1のとき

K ′i−1 ⊂ K ′

i となるようなものを帰納的に構成する。まず、K ′0 = K0 とする。

K ′i−1 まで構成されたとしよう。K \ Lに属する各 i胞体 C に対して、aC ∈ C を固定

し、細分K ▷K ′i−1 が誘導するK(C)の細分をK ′(C)と書くとき、

K ′i = K ′

i−1 ∪∪

{aCK ′(C) |C はK \ Lに属する i胞体 }

とおく。ここで、aCK′(C) は胞体複体の錐である(例 2.31(3) と命題 2.22(9) を参照)。

補題 2.38により、このK ′i はKi の細分である。また、L′ ⊂ K ′

i なので、K ′i が Lに誘導

する細分は L′ である。十分大きい iに対するK ′i が求める細分K ′ を与える。

注意 2.40. 上の命題 2.39の証明で構成された細分K ′ は、具体的には

K ′ = L ∪ {aC1· · · aCk

D | k ≧ 1, C1 > · · · > Ck ∈ K \ L, D ∈ L′, D ⊂ Ck}

で与えられる。上の表記では ∅ ∈ L′ に注意する。

定義 2.41. 命題 2.39の証明において、L′ = Lである場合に構成されるK の細分K ′ を、

K の Lを保つ導細分 (derived subdivision)と呼ぶ。これはK \Lの各胞体 C の内部

の点 aC ∈ C の取り方に依存して決まるが、常に Lを部分複体にもち、具体的には

K ′ = L ∪ {aC1· · · aCk

D | k ≧ 1, C1 > · · · > Ck > D, D ∈ L, Ck ∈ K \ L}

で与えられる。とくに L = {∅}である場合、K ′ をK の導細分 (derived subdivision)

と呼び、K(1) で表す。第 r導細分 (r-th derived subdivision)は帰納的に(内点を選

ぶことで)K(r) = (K(r−1))(1) で定義される。

2.5 多面体と単体複体

定義 2.42. 胞体複体 K が単体複体 (simplicial complex) であるとは、任意の胞

体 C ∈ K が単体であることをいう。胞体複体 K の細分 K ′ が単体細分 (simplicial

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subdivision)であるとは、K ′ が単体複体であることをいう。

例 2.43. 胞体複体 K に対して、K の第 1導細分 K(1) は常に K の単体細分である。し

たがって、第 r 導細分K(r) (r ≧ 1)はすべてK の単体細分となる。

さらに、K が単体複体である場合、K の導細分を定義するときに各単体 σ ∈ K の内部

に取る点として常に重心 σ を選ぶことができる。このようにして得られる導細分を、K

の重心細分 (barycentric subdivision)という。

定理 2.44. 任意の胞体複体 K に対して、頂点を増やさない K の単体細分 K ′ が存在す

る。すなわち、単体複体 K ′ であって、K ▷K ′ かつ V (K) = V (K ′)となるものが存在

する。

証明. K の頂点全体の集合に全順序を導入する(K の頂点は高々可算個なので、これは

整列定理を使うまでもなくできる)。各 C ∈ K に対して、C の頂点のうちこの順序につ

いて最大であるものを vC とし、K(C) = {D ∈ K(C) | vC /∈ D}と定める。すると、命題 2.22(9) により C は錐 vC |K(C)|である。r ≧ 0 に対して、r 骨格 Kr の単体細分 K ′

r で次の条件を満たすものを帰納的に構成

する。

(i) V (K ′r) = V (K)

(ii) K ′r ⊂ K ′

r+1

(iii) 各 C ∈ Kr に対して、細分 K ▷ K ′r が K(C), K(C) に誘導する細分をそれぞれ

K ′r(C), K ′

r(C)で表すとき、K ′r(C) = vCK

′r(C) である。

まず、K ′0 = K(0) とする。K ′

r−1 まで、上の (i)-(iii)を満たして構成されたとする。

主張. K の各 r 胞体 C と D < C に対して、細分 K(C)▷ vCK′r−1(C)が K(D)に誘導

する細分K ′r−1(D,C)とK ′

r−1(D)は一致する。

主張の証明. まず、vC ∈ D の場合を考える。このときは命題 2.22(4) と vC , vD の定義

により vD = vC である。K ′r−1(D) ⊂ K ′

r−1(C) により、vDK ′r−1(D) ⊂ vDK ′

r−1(C) =

vCK′r−1(C) であるから、注意 2.37によりK ′

r−1(D,C) = vDK ′r−1(D) である。一方、帰

納法の仮定 (iii) により K ′r−1(D) = vDK ′

r−1(D) であるので、K ′r−1(D,C) = K ′

r−1(D)

である。

vC /∈ D の場合、D ∈ K(C)であるので、K ′r−1(D,C)は K(C) ▷ K ′

r−1(C)が K(D)

に誘導する細分に等しいが、それはK ′r−1(D)である。

主張と補題 2.38により、

K ′r = K ′

r−1 ∪ {vCK ′r−1(C) |C はK の r 胞体 }

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は Kr の細分を与え、(i)-(iii)を満たす。十分大きい r に対して、K ′ = K ′r とおけば K ′

は求める単体細分を与える。

系 2.45. 胞体複体 K1,K2 に対して |K1| = |K2|ならば、K1,K2 の共通の単体細分 K ′

が存在する。

証明. K をK1 とK2 の共通部分(例 2.31(2)参照)とし、K ′ を定理 2.44 により存在す

るK の単体細分とすればよい。

補題 2.46. 任意の単体 σ ⊂ Rn に対して、単体複体K であって、|K| = Rn かつ σ ∈ K

となるものが存在する。

証明. K0 を、[m1,m1 + 1]× [m2,m2 + 1]× · · · × [mn,mn + 1] (mi ∈ Z) の形の立方体とその面の全体からなる胞体複体とし、K ′

0 を定理 2.44により得られるK0 の単体細分と

する。K ′0 を Rn の適切なアフィン同相で写したものを K とすれば、σ ∈ K, |K| = Rn

となる。

定理 2.47. P をコンパクト多面体、Q1, . . . , Qr ⊂ P を有限個のコンパクト部分多面体

とする。このとき、単体複体 K とその部分複体 Li であって、|K| = P , |Li| = Qi (i =

1, . . . , r)となるものが存在する。

証明. 命題 2.4 により、P は単体の有限和として P =∪s

j=1 σj と表される。このとき、

各 i ∈ {1, . . . , r}に対して Qi は {σj | j = 1, . . . , s}に属するいくつかの単体の和集合に表されるとしてよい。補題 2.46 により、各 j に対して、σj ∈ Kj , |Kj | = Rn となるよ

うな単体複体 Kj が存在する。K ′ を、系 2.45 により存在する K1, . . . ,Ks の共通の単体

細分とする。K = {σ ∈ K ′ |σ ⊂ P}, Li = {σ ∈ K ′ |σ ⊂ Qi} (i = 1, . . . , r) とおけば、

|K| = P であり、Li はK の部分複体で |Li| = Qi である。

定理 2.48. 任意の多面体 P ⊂ Rn に対して、単体複体 K で P = |K|となるものが存在する。

証明. D1 = [−1, 1]n, Dm = [−m,m]n \ (−m+ 1,m− 1)n (m = 2, 3, . . .)とすると、各

mに対して Dm は直方体の有限和で表されるからコンパクトな多面体である。

Pm = P ∩Dm, Qm = Pm ∩ Pm+1

とおくと、m ≧ 1に対して Pm はコンパクトな多面体で Qm−1, Qm はその部分多面体で

ある。ただし、Q0 = ∅とする。定理 2.47により、|Km| = Pm となる単体複体Km と部

分複体 L+m−1, L

−m ⊂ Km−1 であって |L+

m−1| = Qm−1, |L−m| = Qm となるものが存在す

る。系 2.45により、各m ≧ 1に対して L+m, L−

m に共通の単体細分 Lm を取ることができ

る。また、L0 = ∅とする。命題 2.39により、Km の細分K ′m であって、Lm−1 ∪ Lm を

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部分複体にもつようなものが存在する。

さて、

K1 =

∞∪k=1

K ′2k−1, K2 =

∞∪k=1

K ′2k, L =

∞∪m=1

Lm

とおけば、K1,K2 は単体複体であり(局所有限性の条件に注意)、L は K1,K2 の共通

の部分複体で、|K1| ∩ |K2| = |L|, |K1| ∪ |K2| = P である。よって、命題 2.33により、

K = K1 ∪K2 は単体複体であって |K| = P となる。

定理 2.48の証明とまったく同様の議論により、より強い次の定理を示すことができる。

定理 2.49. 多面体 P ⊂ Rn および P の部分多面体の族 (Qλ)λ∈Λ が、次の条件を満たす

とする。

• 各 λ ∈ Λに対して、Qλ は P の閉集合である。

• (Qλ)λ∈Λ は P において局所有限である。すなわち、任意の x ∈ P に対して、xの

P における開近傍 U で U ∩Qλ = ∅となる λ ∈ Λが有限個に限るようなものが存

在する。

このとき、単体複体K とその部分複体の族 (Lλ)λ∈Λ で P = |K|, Qλ = |Lλ| となるものが存在する。

2.6 PL写像と単体写像

定義 2.50. K,L を単体複体とする。写像 f : |K| → |L| が K から L への単体写像

(simplicial map)であるとは、各 σ ∈ K に対して、f |σ がアフィン写像であり、かつf(σ) ∈ Lであることをいう。

f : |K| → |L| が K から L への単体写像であるとき、簡略に「単体写像 f : K → L」

「f : K → Lは単体写像である」などと言う。命題 1.24(1)により、K から Lへの単体写

像は多面体の間の写像として |K|から |L| への PL写像となる。次は容易に証明できる。

命題 2.51. K,Lを単体複体とし、頂点集合の間の写像 f0 : V (K) → V (L) が与えられて

いるとする。このとき、各 σ ∈ K に対して f(V (σ)) ⊂ V (L)が Lのある単体を張るなら

ば、f0 を拡張する単体写像 f : K → Lが一意的に存在する。

定理 2.52. f : P → Q ⊂ Rn を PL写像とする。このとき、P = |K|となる単体複体 K

が存在して、各 σ ∈ K に対して f |σ : σ → Rn はアフィン写像となる。

証明. 系 2.8により、単体の局所有限な族 (σλ)λ∈Λで、P =∪

λ∈Λ σλでありかつ各 λ ∈ Λ

に対して f |σλ: σλ → Rn がアフィン写像となるものが存在する。次に、定理 2.49 によ

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り、単体複体K とその部分複体の族 (Lλ)λ∈Λ で |Lλ| = σλ となるものが存在する。この

とき、K が求めるものである。

系 2.53. K,Lを単体複体、f : |K| → |L| ⊂ Rn を PL写像とする。このとき、単体細分

K ▷K ′ が存在して、各 σ ∈ K ′ に対して f |σ : σ → Rn はアフィン写像となる。

証明. 定理 2.52と系 2.45から分かる。

定理 2.54. K,Lを単体複体とし、f : |K| → |L|とする。各 σ ∈ K に対して Lの部分複

体 Lσ が存在して、次を満たすとする。

(1) f |σ はアフィン写像である。(2) f(σ) = |Lσ|である。

このとき、単体細分K ▷K ′ であって、f : K ′ → Lが単体写像となるものが存在する。

証明. σ ∈ K, τ ∈ Lに対して、C(σ, τ) = σ ∩ f−1(τ) と定義する。命題 2.23(1)により、

C(σ, τ) は胞体であって、C(σ, τ)x = C(σx, τf(x))

を満たす。よって、K ′

0 = {σ ∩ f−1(τ) |σ ∈ K, τ ∈ L}

とおけば、K ′0 は胞体複体の定義 2.29の条件 (1)を満たす。また、条件 (0)(3)も満たすこ

とが容易に確かめられる。よって、K ′0 が胞体複体であることを示すには、命題 2.30 の条

件 (2′′)を確かめればよい。

そこで、σ, σ′ ∈ K, τ, τ ′ ∈ Lとし、x ∈ C(σ, τ ) ∩ C(σ′, τ ′) とする。x ∈ σ ∩ σ′ によ

り x ∈ (σx) ∩ (σ′x) となるので、σx = σ′

x である。f(x) ∈ τ ∩ τ ′ に注目すれば、同様に

して、τf(x) = τ ′f(x) も分かる。よって、

C(σ, τ) = C(σ, τ)x = C(σx, τf(x)) = C(σ′x, τ

′f(x)) = C(σ′, τ ′)x = C(σ′, τ ′)

となる。これで条件 (2′′)が確かめられ、K ′0 は胞体複体であることが分かった。

主張. 任意の σ ∈ K, τ ∈ Lに対して、f(C(σ, τ)) ≦ τ である。

主張の証明. もちろん、C(σ, τ) = ∅としてよい。f |σはアフィン写像なので、f(C(σ, τ))は

胞体のアフィン写像による像として胞体となる。f(C(σ, τ)) = f(σ ∩ f−1(τ)) = f(σ)∩ τ

だが、仮定から f(σ) ∩ τ は τ の面の有限和であるので、命題 2.22により、f(σ) ∩ τ ≦ τ

である。よって、f(C(σ, τ)) ≦ τ である。

主張で C(σ, τ)が 1点である場合を考えると、V (K ′0) ⊂ V (L) となることが分かる。こ

れと f(C(σ, τ)) ⊂ τ により、

f(V (C(σ, τ))) ⊂ V (τ) (⋆)

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を得る。K ′ を、定理 2.44 により得られる K ′0 の単体細分で V (K ′) = V (K ′

0) となる

ものとする。このとき、任意の ρ ∈ K ′ に対して、f |ρ はアフィン写像である。また、ρ ⊂ C(σ, τ)となる σ, τ を選べば、

V (ρ) = V (ρ) ∩ C(σ, τ) ⊂ V (K ′) ∩ C(σ, τ) = V (K ′0) ∩ C(σ, τ) = V (C(σ, τ))

となることと (⋆)により f(V (ρ)) ⊂ V (τ)となるので、f(V (ρ))は Lの単体を張る。よっ

て、命題 2.51により、f はK ′ から Lへの単体写像である。

系 2.55. f : K → Lが単体写像、L▷ L′ が単体細分のとき、ある単体細分K ▷K ′ が存

在して f : K ′ → L′ は単体写像となる。

定理 2.56. f : P → Qを固有 PL写像とする。このとき、P = |K|, Q = |L|となる単体複体K,Lが存在して f : K → Lは単体写像となる。

証明. 定理 2.52により、P = |K0|となる単体複体 K0 で、各 σ ∈ K0 に対して f |σ がアフィン写像となるものが存在する。f は固有であるから、(f(σ))σ∈K0

は Qにおいて局所

有限な多面体の族である。よって、定理 2.49 により、Q = |L|となる単体複体 Lとその

部分複体の族 (Lσ)σ∈K0で |Lσ| = f(σ)となるものが存在する。最後に定理 2.54 により、

単体細分K0 ▷K で f : K → Lが単体写像となるものが存在する。

系 2.57. PL写像 f : P → Qにおいて P がコンパクトならば、P = |K|, Q = |L|となる単体複体K,Lが存在して f : K → Lは単体写像となる。

例 2.58. 定理 2.56は f : P → Qが固有であるという条件なしには成り立たないので注意

が必要である。実際、P = R+ = [0,∞), Q = I として、f : P → Qを、各 n ∈ R+∩Zに対して f(n) = 1/(n+1)かつ f |[n,n+1]はアフィン写像であるという条件により定義する。

すると、f は命題 1.24(3)により PL写像である。もし、定理 2.56のようなK,L が存在

すれば、各 R+∩Z ⊂ V (K) であるから {1, 1/2, 1/3, . . .} = {f(n) |n ∈ R+∩Z} ⊂ V (L)

となり、これは Lの局所有限性に反する。

P,Qにあらかじめ単体複体としての分割 P = |K|, Q = |L|が与えられている場合は、定理 2.56の証明の途中で系 2.45を用いて適切に共通細分を取る修正を加えることで、次

を証明できる。

定理 2.59. 任意の単体複体 K,L と固有 PL 写像 f : |K| → |L| に対して、単体細分K ▷K ′, L▷ L′ が存在して f : K ′ → L′ は単体写像となる。

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3 PL多様体

Coming soon(?)

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参考文献

[1] C. P. Rourke and B. J. Sanderson, Introduction to Piecewise-Linear Topology,

Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete, Band 69. Springer-Verlag,

New York-Heidelberg, 1972.

[2] K. Sakai, Geometric Aspects of General Topology, Springer Monographs in Math-

ematics. Springer, Tokyo, 2013.

本稿をまとめるにあたって主に参考にしたのは、現在も PLトポロジーの基本文献とし

て挙げられる Rourke-Sanderson [1]である。この本は、PL多様体の h同境定理(やそ

の系である高次元ポアンカレ予想)を目標に書かれている。そのために、微分トポロジー

での管状近傍に相当する正則近傍の理論や一般の位置の議論が扱われている。多面体を

「局所錐状空間」として内在的に定義する流儀は、この Rourke-Sanderson の本の特色で

あり、本稿もこれに依った。また、証明の細部については、Sakai [2]を参考にした部分が

ある。この本は、無限次元の単体複体の細分や位相的扱いについても詳細に書かれた数少

ない文献である。

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