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PL トポロジーの基礎 yamyamtopo PL トポロジーとは、大雑把には、三角形分割できる空間である「多面体」と、多面体の 間のしかるべく良い性質をもった写像である「区分線型写像」の研究である。区分線型写 像のことは「PL 写像 (Piecewise Linear map)」と呼ぶのが通例である。多面体と PL 像のなす圏における同型であるところの「PL 同相」により、多面体(ないし多面体とそ の部分多面体の組)を分類することが、PL トポロジーの目標であるということができる。 可微分多様体を可微分同相により分類することを目標とする微分トポロジーの導入部分 については、大学数学科のカリキュラムでも「多様体論」として取り入れられ、比較的、 学ぶための環境が整っている。PL トポロジーにおいても、PL 多様体の概念が定義され、 とくに高次元多様体の PL 構造の存在問題・分類問題で極めて実り多い結果が得られた 1960 年代はトポロジーの黄金期とも呼ばれた。 しかし、そのような重要な位置を占める PL トポロジーを学ぶためのハードルは決して 低くない。PL トポロジーにはいくつかの成書があるが、どの本についても、「図を描いて みれば明らかにそうなっている」ことについては詳しく書かない傾向がある。たぶんどの 筆者にも、「図を描いても決して明らかではない」ような事実の証明に早く到達したいと いう気持ちがあったのだろう。 ただ、身近に専門家もおらず、定理の正しいことを納得しながら読みたいという読者に とっては、そのような本しかないことは辛いことかもしれない。本稿は、そのような事 情を考えて、どの定理にもできるだけ詳細な証明を与えることにした。そのため、かな りページ数は多くなってしまった。また、本稿は全体として、まさに PL トポロジーのであり、幾何的により興味深い内容を据えるための土台である。概要を手早く理解した いという読者や、その先のトピックを知りたい読者は、 Rourke-Sanderson [2] の最初の部 分を合わせて読まれることをおすすめする。 1

yamyamtopo · PL トポロジーの基礎 yamyamtopo PL トポロジーとは、大雑把には、三角形分割できる空間である「多面体」と、多面体の 間のしかるべく良い性質をもった写像である「区分線型写像」の研究である。区分線型写

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PLトポロジーの基礎

yamyamtopo

PLトポロジーとは、大雑把には、三角形分割できる空間である「多面体」と、多面体の

間のしかるべく良い性質をもった写像である「区分線型写像」の研究である。区分線型写

像のことは「PL写像 (Piecewise Linear map)」と呼ぶのが通例である。多面体と PL写

像のなす圏における同型であるところの「PL同相」により、多面体(ないし多面体とそ

の部分多面体の組)を分類することが、PLトポロジーの目標であるということができる。

可微分多様体を可微分同相により分類することを目標とする微分トポロジーの導入部分

については、大学数学科のカリキュラムでも「多様体論」として取り入れられ、比較的、

学ぶための環境が整っている。PLトポロジーにおいても、PL多様体の概念が定義され、

とくに高次元多様体の PL 構造の存在問題・分類問題で極めて実り多い結果が得られた

1960年代はトポロジーの黄金期とも呼ばれた。

しかし、そのような重要な位置を占める PLトポロジーを学ぶためのハードルは決して

低くない。PLトポロジーにはいくつかの成書があるが、どの本についても、「図を描いて

みれば明らかにそうなっている」ことについては詳しく書かない傾向がある。たぶんどの

筆者にも、「図を描いても決して明らかではない」ような事実の証明に早く到達したいと

いう気持ちがあったのだろう。

ただ、身近に専門家もおらず、定理の正しいことを納得しながら読みたいという読者に

とっては、そのような本しかないことは辛いことかもしれない。本稿は、そのような事

情を考えて、どの定理にもできるだけ詳細な証明を与えることにした。そのため、かな

りページ数は多くなってしまった。また、本稿は全体として、まさに PLトポロジーの基

礎であり、幾何的により興味深い内容を据えるための土台である。概要を手早く理解した

いという読者や、その先のトピックを知りたい読者は、Rourke-Sanderson [2]の最初の部

分を合わせて読まれることをおすすめする。

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目次

1 多面体と PL写像 4

1.0 凸集合とアフィン写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.1 多面体の定義と基本的な構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.2 PL写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

2 単体複体と単体写像 15

2.1 単体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

2.2 胞体とその面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

2.3 錐と放射投影 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

2.4 胞体複体とその細分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

2.5 多面体と単体複体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31

2.6 PL写像と単体写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34

2.7 多面体の貼り合わせと埋め込み . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

3 PL多様体 42

3.1 PL多様体の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42

3.2 リンクの PL不変性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44

3.3 単体のリンク . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 47

3.4 独立な多面体のジョイン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 48

3.5 PL多様体の三角形分割 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52

3.6 座標変換を用いた定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54

付録 A アフィン写像の特徴づけについて 58

付録 B PL多様体の境界について 59

基本的には、どの節もそれまでの節を前提に書かれているが、次の 2点は例外である。

• §3.1「PL多様体の定義」は、§1.2「PL写像」の直後に読むことができる。

• §2.7「多面体の貼り合わせと埋め込み」の内容は、§3.6「座標変換を用いた定義」のみで使われる。したがって、§2.7は §3.6を読む直前まで後回しにしてもよい。

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基本的な記法

実数全体の集合を R で表し、I = [0, 1] = {t ∈ R | 0 ≦ t ≦ 1} とする。n ≧ 1 に

対して、n 次元 Euclid 空間 Rn は n 個の直積 R × · · · × R として定義される。また、In = [0, 1]n ⊂ Rn とする。後々の都合から、Rn 上の距離を次のような「ℓ∞ 距離」により定義する。まず、x =

(x1, . . . , xn) ∈ Rn のノルム ∥x∥を ∥x∥ = supi |xi|で定め、距離を d(x, y) = ∥x− y∥で定める。a ∈ Rn および ε > 0に対して、

Nε(a) = {x ∈ Rn | d(x, a) ≦ ε}

Nε(a) = {x ∈ Rn | d(x, a) = ε}

とする。Nε(a) の定義式には < でなく ≦ が使われていることに注意する。さらに、P ⊂ Rn とするとき、

Nε(a, P ) = {x ∈ P | d(x, a) ≦ ε} = P ∩Nε(a)

Nε(a, P ) = {x ∈ P | d(x, a) = ε} = P ∩ Nε(a)

と定義する。

位相空間X の部分集合Aに対して、AのX における閉包 (closure)、内部 (interior)

をそれぞれClX A, IntX A

で表す。また、Aの X における境界 (frontier) ClX A \ IntX Aを

FrX A

で表す。なお、多様体 M の内部の意味での IntM との混乱を防ぐため、上記の記号を

ClA, IntA,FrAのように略すことはしない。

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1 多面体と PL写像

1.0 凸集合とアフィン写像

PLトポロジーでは単体という凸図形の組み合わせとして図形を把握する。そのため凸集合やアフィン写像の概念が常に使われるので、その基本的性質を整理しておく。有限個の元 x0, . . . , xk ∈ Rn (k ≧ 0)が与えられたとする。

∑ki=0 ti = 1を満たす実数

t0, . . . , tk を用いて∑ki=0 tixi と表される Rn の元を x0, . . . , xk のアフィン結合 (affine

combination)という。また、上の条件「∑ki=0 ti = 1」を「

∑ki=0 ti = 1かつ ti ≧ 0」に

置き換えたものを、x0, . . . , xk の凸結合 (convex combination)という。次の補題から分かるように、3個以上の元のアフィン結合や凸結合は、2個の元のアフィン結合や凸結合を反復したものになる。

補題 1.1. k ≧ 1とし、x =∑ki=0 tixiを x0, . . . , xk ∈ Rn のアフィン結合とする。このと

き、ある i ∈ {0, . . . , k}に対して、x0, . . . , xi−1, xi+1, . . . , xk のアフィン結合∑j =i sjxj

および u ∈ Rが存在して、

x = (1− u)xi + u∑j =i

sjxj

となる。「アフィン結合」をすべて「凸結合」に置き換えた場合、「u ∈ R」を「u ∈ I」に置き換えて、さらに「ある i」を「任意の i」に置き換えても同様のことが成り立つ。

証明. k ≧ 1,∑ki=0 ti = 1 であるから、ある i に対して、ti = 1 である。このとき、

u = 1 − ti, sj = tj/(1 − ti) (j = i) とおけばよい。凸結合の場合もこれと同様であるが、ti = 1であることが許される。実際、このときは tj = 0 (j = i)となるので、u = 0,

sj = 1/k (j = i)とおけばよい。

V ⊂ Rn が Rn のアフィン部分空間 (affine subspace)であるとは、任意の x, y ∈ V

および t ∈ Rに対して (1− t)x+ ty ∈ V が成り立つことをいう。補題 1.1によって、アフィン部分空間とはアフィン結合について閉じた Rn の部分集合のことであると言ってもよい。また、空でないアフィン部分空間 V は、線型部分空間を平行移動したものにほかならない。したがって、その線型部分空間の次元として、V の次元を定義することができ、それを dimV で表す。また、dim ∅ = −1とする。点 v0, . . . , vk ∈ Rnがアフィン独立 (affinely independent)であるとは、

∑ki=0 ti = 0

を満たす t0, . . . , tk ∈ R に対して∑ki=0 tivi = 0ならば t0 = · · · = tk = 0となることを

いう。これは、k 個のベクトル v1 − v0, . . . , vk − v0 が 1次独立であることと同値である。したがって、アフィン部分空間 V ⊂ Rn の次元は、V が含むアフィン独立な元の最大個数から 1を引いたものに等しい。

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集合 C ⊂ Rn が凸 (convex)であるとは、任意の x, y ∈ C と t ∈ I に対して (1− t)x+ty ∈ C となることをいう。補題 1.1によって、凸集合とは凸結合について閉じた Rn の部分集合のことであると言ってもよい。凸集合 C ⊂ Rm, D ⊂ Rn に対して、f : C → Dがアフィン写像 (affine map)であるとは、任意の x, x′ ∈ C および t ∈ I に対して f((1 − t)x + tx′) = (1 − t)f(x) + tf(x′)

となることをいう。

命題 1.2. 凸集合 C ⊂ Rm, D ⊂ Rn と写像 f : C → D に対して、次は同値である。

(1) f はアフィン写像である。(2) C の元の任意の凸結合

∑ki=0 tixiに対して、f(

∑ki=0 tixi) =

∑ki=0 tif(xi)である。

(3) C の元のアフィン結合∑ki=0 tixiに対して

∑ki=0 tixi ∈ C ならば、f(

∑ki=0 tixi) =∑k

i=0 tif(xi)である。(4) ある線型写像 f0 : Rm → Rn と y0 ∈ Rn が存在して、f(x) = f0(x) + y0 (x ∈ C)

である。

この命題の証明については、付録A「アフィン写像の特徴づけについて」を参照のこと。アフィン写像 f : C → D が全単射であるとき、f : C → D はアフィン同型 (affine

isomorphism) であるという。このとき、f−1 : D → C もアフィン写像である。

1.1 多面体の定義と基本的な構成

多面体は Euclid空間の部分集合で一定の局所構造をもつものとして定義されるが、それを述べるために、まずジョインの概念を導入する。

定義 1.3. A,B ⊂ Rn に対して、Aと B のジョイン (join) AB を

AB = A ∪B ∪ {(1− t)a+ tb | a ∈ A, b ∈ B, t ∈ I}

で定義する。

上の定義で、A = ∅のときは AB = B であり、B = ∅のときは AB = Aである。これらの例外を除けば、AB = {(1− t)a+ tb | t ∈ I, a ∈ A, b ∈ B}である。なお、A = {a}であるときには AB を aB とも書く。B = {b}のときの Abという表記についても同様である。a, b ∈ Rn かつ a = bのとき、abとは aと bを結ぶ線分のことである。ジョインについては、交換法則 AB = BAが成り立ち、和集合について分配的、つまり A(B ∪C) = AB ∪AC である。また、補題 1.1 から確かめられるように結合法則(AB)C = A(BC)が成り立つから、3個以上の有限個の集合のジョイン A1A2 · · ·Ak を考えることができる。ジョインの演算について空集合 ∅は単位元の役割を果たす。

例 1.4. 平面 R2 内でのジョインの例を考えよう。

(1) a = (0, 0)として、L = ({1}× I)∪ (I×{1})とする。このとき、aL = I2 である。

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(2) さらに、D = {(x, y) ∈ I2 |x+ y ≧ 1}とする。このときも、aD = I2 である。

上の例 1.4(1)において、ジョイン I2 = aLの点は、aを除いて (1−t)a+tb (t ∈ I, b ∈ L)

の形に一意的に表される。しかし、(2)においてはジョイン I2 = aD の a以外の点を同様の形に表す方法は一般には一意的ではない。この (1)のような一意性をもつジョインは、PLトポロジーで非常に重要な役割をもつ。

定義 1.5. a ∈ Rn, B ⊂ Rn とする。ジョイン aB が a を頂点とし B を底とする錐(cone) であるとは、a /∈ B であって、かつ、任意の x ∈ aB \ {a}に対して t ∈ (0, 1]とb ∈ B の組 (t, b)が一意的に存在して、

x = (1− t)a+ tb

となることをいう。

上の条件が成り立つとき、簡単に「aB は錐である」という場合がある。これはあくまで簡略な表現である。実際、例 1.4から分かるように、aB という集合だけでなく、aとB が与えられないと錐になっているかは判断できない。「aB は錐である」とは、集合 aB

の性質ではなく、点 aと集合 B との関係である。線分 ab に対して、ab から端点を除いた集合 ab \ {a, b} をその線分の内部 (interior)

といい、(ab) で表す。(ab) の点を abの内点 (interior point)という。次の 3つの命題は簡単に証明できる。

命題 1.6. a ∈ Rn, B ⊂ Rn, a /∈ B であるとき、次は同値である。

(1) aB は錐である。(2) 任意の異なる b, b′ ∈ B に対して、ab ∩ ab′ = {a}である。(3) 任意の異なる b, b′ ∈ B に対して、(ab) ∩ (ab′) = ∅である。(4) 任意の b ∈ B に対して、(ab) ∩B = ∅である。

命題 1.7. aB が錐であるとき、次が成り立つ。

(1) 任意の B′ ⊂ B に対して、aB′ は錐である。(2) 任意の B′, B′′ ⊂ B に対して、a(B′ ∩B′′) = aB′ ∩aB′′, a(B′ ∪B′′) = aB′ ∪aB′′

である。

命題 1.8. a ∈ Rn, (Bλ)λ∈Λ を Rn の部分集合族とし、各 λ ∈ Λに対して aBλ は錐であるとする。このとき、任意の λ, µ ∈ Λに対して aBλ ∩ aBµ ⊂ a(Bλ ∩Bµ)が成立するならば、a(

∪λ∈ΛBλ) は錐である。

さて、錐の概念を用いて、多面体の定義を与えよう。

定義 1.9. P ⊂ Rn が多面体 (polyhedron)であるとは、任意の a ∈ Aに対して、コンパクト集合 L ⊂ P が存在して、N = aLが錐であり、かつ aの P における近傍をなすこ

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とをいう。

上での N を aの P における錐近傍、あるいはスター (star)という。コンパクト集合L は aの P におけるリンク (link)と呼ばれる。錐近傍はコンパクト集合となるので、多面体は局所コンパクトである。多面体 P の部分集合 Qがそれ自身多面体であるとき、Qを P の部分多面体 (subpolyhedron)であるという。後に見るように、多面体は三角形分割をもつ Rn の部分集合と結果的に同じものになる

(定理 2.52)。しかし、PLトポロジーの研究対象が個別の三角形分割にはよらないものであるという点を強調する意味で、この定義を採用した。

例 1.10. I = [0, 1] ⊂ Rは多面体である。一般に、Rの連結部分集合は、すべて多面体である。とくに、R+ = {x ∈ R |x ≧ 0}は多面体である。

例 1.11. Rnは多面体である。実際、a = (a1, . . . , an) ∈ Rnとすると、N1(a) = aN1(a) =∏ni=1[ai − 1, ai + 1] は aの Rn における錐近傍である。もちろん、任意の ε > 0 に対し

て Nε(a) = aNε(a)は錐近傍である。

例 1.12. (1) 円周 {(x, y) ∈ R2 |x2 + y2 = 1}は多面体ではない。(2) 開円板D = {(x, y) ∈ R2 |x2 + y2 < 1}は多面体であるが、D ∪ {(1, 0)}は局所コンパクトではないから、多面体ではない。

多面体 P における aの錐近傍 N = aLにおいて、N \Lは必ずしも P の開集合ではない。たとえば、P = {(x, y) ∈ R2 |xy = 0}という「十字」は多面体であり、a = (1, 0) ∈ P

に対して L = {−2, 2} × {0}は錐近傍 N = aLを与えるが、N \L = (−2, 2)× {0} は P

の開集合ではない。しかし、次の命題から、常に N \ Lが開集合となるように錐近傍 aL

を取り直すことができる。さらに、その錐近傍は距離についての ε閉近傍の形に取れる。正確には、次のことが成り立つ。

命題 1.13. P ⊂ Rn を多面体とし、a ∈ P とする。このとき、N = Nε(a, P ), L =

Nε(a, P )とおけば、十分小さい ε > 0に対して次が成り立つ。

(1) N = aLとなり、これは錐であって aの錐近傍を与える。(2) N \ Lは P の開集合である。

証明. 平行移動により、a = 0であるとしてよい。P は多面体なので、0は P において錐近傍N0 = 0L0 をもち、L0 はコンパクトである。N0 は 0の P における近傍であるから、ε > 0を十分小さく取ると、N = Nε(0, P ) ⊂ N0 \ L0 となる。L = Nε(0, P )に対して、0Lは錐である(例 1.11と命題 1.7(1)を参照)。また、N \Lは明らかに P の開集合である。あとは、N = 0Lを証明すればよい。x ∈ N とする。N ⊂ N0 = 0L0 であるから、ある t ∈ I, b ∈ L0 に対して x = tb

である。ε > 0 の取り方から、∥b∥ > ε である。そこで、y = ε∥b∥−1b とおけば、y ∈ 0b ⊂ 0L0 = N0 ⊂ P かつ ∥y∥ = εであるから、y ∈ Nε(0, P ) = Lである。さらに、

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xは y の定数倍であり、∥x∥ ≦ ε = ∥y∥ であるから、x ∈ 0y ⊂ 0Lである。逆に、x ∈ 0L とすると、ある y ∈ L と t ∈ I に対して x = ty である。すると、

y ∈ L ⊂ N ⊂ N0 であるから、ある b ∈ L0, s ∈ I に対して y = sb である。よって、x = tsb ∈ 0L0 = N0 ⊂ P である。一方、x ∈ 0L により ∥x∥ ≦ ε も成り立つから、x ∈ Nε(0, P ) = N である。

上の命題 1.13は、錐近傍をいくらでも小さく取れることを含んでいる。また、条件 (2)

を満たすように aの錐近傍 N を取っておけば、U = N \ L は aの P における開近傍であり、P \ Lは互いに交わりのない開集合 U,P \N の和集合に表される。いわば、P はLによって aを含む側 U とそうでない側 P \N に「切り分けられる」。多面体の例を体系的に構成するには、次の命題が有効である。

命題 1.14. 錐の直積は錐となる。すなわち、Ci = aiBi ⊂ Rni (i = 1, 2)がそれぞれ錐であるとき、a = (a1, a2) ∈ Rn1+n2 , B = (B1 × C2) ∪ (C1 × B2) ⊂ Rn1+n2 とおけば aB

は錐であって、aB = C1 × C2 が成り立つ。

この命題の証明のために記法を導入する。aB が錐で B = ∅のとき、

aB→ = {(1− t)a+ tb | t ≧ 0, b ∈ B}

とする。命題 1.6(4)から分かるように、aB→ \ {a}の元は (1− t)a+ tb, t > 0, b ∈ B の形に一意的に表すことができる。

命題 1.14の証明. 平行移動により、a = 0であるとしてよい。B1 = ∅または B2 = ∅であるときは易しいので、B1, B2 = ∅ であるとする。写像

f : 0B1→ × 0B2→ → R+

を f(t1b1, t2b2) = max{t1, t2} (ti ≧ 0, bi ∈ Bi) により定義すると、f−1(0) = {0},f−1(1) = B, f−1(I) = C1 × C2 である。また、任意の x ∈ 0B1→ × 0B2→ と α ≧ 0に対して、αx ∈ 0B1→ × 0B2→ であって、

f(αx) = αf(x)

が成り立つ。f の以上の性質を用いて、0B = C1×C2であることを示そう。まず、Ci = 0Bi ⊂ 0Bi→により、0B ⊂ 0(C1 × C2) = C1 × C2 である。次に、C1 × C2 ⊂ 0B をみるため、x ∈ C1 ×C2(⊂ 0B1→ × 0B2→)とする。x = 0ならば、もちろん x ∈ 0B である。x = 0

のときは、0 < f(x) ≦ 1だから、α = f(x)−1 とおくと f(αx) = αf(x) = 1であり、よって αx ∈ B であるから、α−1 = f(x) ∈ I により x = α−1(αx) ∈ 0B である。以上により、0B = C1 × C2 である。最後に、0B が錐であることをみるため、命題 1.6(4)の条件が確かめよう。この条件がもし成り立たなければ、ある b ∈ B に対して (0b)◦ ∩B = ∅ であるから、ある 0 < t < 1

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に対して tb ∈ B である。しかし、このとき f(tb) = tf(b) = t · 1 = t < 1 となるから、tb /∈ f−1(1) = B となり矛盾する。

Rn の部分集合族 (Aλ)λ∈Λ が局所有限であるとは、任意の x ∈∪λ∈ΛAλ に対して、x

の Rn における開近傍 U が存在して U ∩Aλ = ∅となる λが有限個に限ることをいう*1。

命題 1.15. 多面体について、次のことが成り立つ。

(1) P が多面体であるとき、P の任意の開集合は多面体である。(2) P1, P2 ⊂ Rn が多面体であるとき、P1 ∩ P2 は多面体である。(3) P ⊂ Rn, Q ⊂ Rm が多面体であるとき、P ×Q ⊂ Rn+m は多面体である。(4) (Pλ)λ∈Λ が Rn 内の多面体の局所有限な族であり、各 λ に対して Pλ は Rn の閉集合であるとする。このとき、和集合 P =

∪λ∈Λ Pλ は多面体である。

(5) f : Rm → Rn がアフィン写像、P ⊂ Rn が多面体であるとき、f−1(P )は多面体である。とくに、Rm のアフィン部分空間は多面体である。

命題 1.15の証明. (1) 命題 1.13により、多面体の各点において、いくらでも小さい錐近傍を取れることから分かる。(2) a ∈ P1 ∩ P2 とする。ε > 0を十分小さく取り、i = 1, 2に対して Nε(a, Pi) = aLiが a の Pi における錐近傍をなすようにする。ただし、Li = Nε(a, Pi) とする。さて、Nε(a) = aNε(a)は錐であり、L1, L2 ⊂ Nε(a)であるから、命題 1.7により、a(L1 ∩ L2)

は錐であって a(L1 ∩ L2) = aL1 ∩ aL2 = Nε(a, P1) ∩Nε(a, P2) = Nε(a, P1 ∩ P2)である。よって、aは P1 ∩ P2 において錐近傍 a(L1 ∩ L2)をもつ。(3) これは命題 1.14から分かる。(4) a ∈ P =

∪λ∈Λ Pλ とする。局所有限性により、a ∈ Pλ となる λは有限個しかない

ので、それらを λ1, . . . , λm とする。さらに、Pλ がそれぞれ閉集合であることも考慮すると、Pλi

(i = 1, . . . ,m) に関して同時に命題 1.13 の条件を満たす ε > 0 を十分小さく取り、λ /∈ {λ1, . . . , λm}ならば Nε(a) ∩ Pλ = ∅となるようにできる。P ′ =

∪mi=1 Pλi

とおく。このとき、Nε(a) = aNε(a)が錐であることと命題 1.7により、aNε(a, P

′)も錐であって、さらに、

aNε(a, P′) =

m∪i=1

aNε(a, Pλi) =

m∪i=1

Nε(a, Pλi) = Nε(a, P′) = Nε(a, P )

となる。よって、aは P において錐近傍をもつ。(5) Rm や Rn の自己アフィン同型を合成することで、f は

f(x1, . . . , xm) = (x1, . . . , xr, 0, . . . , 0) ∈ Rn

*1 本稿での局所有限性の定義では、x ∈ Rn \∪

λ∈Λ Aλ の場合に U ∩Aλ = ∅となる λが有限個となるような xの近傍 U の存在は仮定していないので注意する。

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という形であるとしてよい。このとき、Rr = Rr × {0} ⊂ Rn とみなせば f−1(P ) =

(P ∩ Rr)× Rm−r となるので、(2), (3)と例 1.11により f−1(P )は多面体である。

上の命題を踏まえて、さらに多面体の基本的な例を挙げる。

例 1.16. (1)例 1.10と命題 1.15(3)により、上半空間Rn+ = {(x1, . . . , xn) ∈ Rn |xn ≧ 0}は多面体である。(2) 同様に、直方体

∏ni=1[ai, bi] ⊂ Rn は多面体である。とくに、a = (a1, . . . , an)を中

心とする立方体

Nr(a) =

n∏i=1

[ai − r, ai + r]

は多面体である。上の式の右辺において、直積因子 [ai − r, ai + r] のうちのいくつかを{ai − r}または {ai + r} に置き換えて得られる集合、および空集合を立方体 Nr(a)の面(face) という。立方体の面は 3n + 1 個あり、それぞれ多面体である。また、2n 個の点(a1 ± r, . . . , an ± r)をそれぞれ Nr(a)の頂点 (vertex)という。(3) Nr(a) = {x ∈ Rn | d(x, a) = r}は多面体である。実際、Nr(a) は Nr(a)の面の有限和として表すことができるので、命題 1.15(4)により多面体となる。(4)命題 1.13では、多面体 P の点 aに対して ε > 0を十分小さく取ると、L = Nε(a, P )

をリンクとする錐近傍 N = Nε(a, P ) = aL が得られることを示した。上の (2), (3)と命題 1.15(2)により、ここでの L,N はともに多面体である。

注意 1.17. 命題 1.13 と例 1.16(4) により、多面体 P における点 a における錐近傍N = aLは、いつでも次のような条件を満たすように取れる。

• N \ Lは P の開集合である。• N,Lは多面体である。

さらに、そのような錐近傍をいくらでも小さく取ることができる。以下では、多面体の点の錐近傍は断りがなくても上の条件を満たすように取ることにする。

ここで錐の概念の一般化を述べておこう。

定義 1.18. A,B ⊂ Rnが独立 (independent)*2であるとは、A∩B = ∅ であって、条件

a, a′ ∈ A, b, b′ ∈ B, (ab) ∩ (a′b′) = ∅ =⇒ a = a′, b = b′

を満たすことをいう。

命題 1.6(3)によれば、Aが 1点 aからなるとき、{a}, B が独立であるとは aB が錐であることにほかならない。なお、定義により、A,B の少なくとも一方が空集合であるとき、A,B は独立である。

*2 joinable という用語を使う文献も多い。

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例 1.19. (1) R3 の部分集合

A = [−1, 1]× {0} × {0}, B = {0} × [−1, 1]× {1}

は独立である。(2) より一般的に、任意の S ⊂ Rm, T ⊂ Rn に対して、Rm × Rn × Rの部分集合

A = S × {0} × {0}, B = {0} × T × {1}

は独立である。

注意 1.20. (1) A,B ⊂ Rn(A∩B = ∅とは仮定しない)が独立であることは、次の条件と同値であることが簡単に確かめられる:任意の x ∈ AB は、x = (1− t)a+ tb, a ∈ A,

b ∈ B, t ∈ I の形に、次の意味で一意的に表される。

x = (1 − ti)ai + tibi, ai ∈ A, bi ∈ B, ti ∈ I (i = 1, 2)ならば、t1 = t2 が成り立つ。さらに、0 < t1 < 1であるときは、a1 = a2, b1 = b2 である。

(2) A,B が独立であり、A′ ⊂ A, B′ ⊂ B であるならば、A′, B′ も独立である。(3) A,B が独立であるとき、任意の A1, A2 ⊂ A, B1, B2 ⊂ B に対して

(A1B1) ∩ (A2B2) = (A1 ∩A2)(B1 ∩B2)

である。(4) 錐についての命題 1.8 の自然な一般化として、次が成り立つ。Rn の部分集合族

(Aλ)λ∈Λ, (Bµ)µ∈M が与えられ、各 λ, µに対して Aλ, Bµ は独立であると仮定する。もし、さらに、各 λ1, λ2, µ1, µ2 に対して (Aλ1

Bµ1)(Aλ2

Bµ2) = (Aλ1

∩ Aλ2)(Bµ1

∩ Bµ2)

であるならば、∪λ∈ΛAλ,

∪µ∈M Bµ は独立である。

さて、独立性について次のことが成り立つ。

補題 1.21. A,B,C ⊂ Rn に対して、A,B が独立であり、AB,C が独立であるならば、A,BC は独立である。

証明. A,B,C のどれも空集合でないとしてよい。A ∩ BC = ∅ であることをまず確認しよう。仮定より、A,B,C はどの 2 つも交わらないから、もし A ∩ BC = ∅ であったとすれば、a ∈ A, b ∈ B, c ∈ C が存在して a は線分 bc の内点となる。すると、(ac) ∩ (bc) = (ac) = ∅ となり、AB,C の独立性に反する。次に、ai ∈ A, zi ∈ BC (i = 1, 2)に対して (a1z1) ∩ (a2z2) = ∅であるとすると、ある

0 < ti < 1 (i = 1, 2)に対して (1 − t1)a1 + t1z1 = (1 − t2)a2 + t2z2 である。このとき、a1 = a2, z1 = z2 を示せばよい。zi ∈ BC だから、si ∈ I と bi ∈ B, ci ∈ C が存在して zi = (1− si)bi + sici (i = 1, 2)

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である。以上と tisi ≦ ti < 1により、

(1− t1s1)

(1− t11− t1s1

a1 +t1 − t1s11− t1s1

b1

)+ t1s1c1

=(1− t2s2)

(1− t21− t2s2

a2 +t2 − t2s21− t2s2

b2

)+ t2s2c2

である。AB,C は独立だから、注意 1.20(1)より、t1s1 = t2s2 である。もし、t1s1 = t2s2 = u > 0であれば、0 < u < 1であるから、AB と C の独立性から、

c1 = c2 および1− t11− u

a1 +t1 − u

1− ub1 =

1− t21− u

a2 +t2 − u

1− ub2

が成り立つ。よって、今度は A,B の独立性を使えば、 1−t11−u = 1−t2

1−u から t1 = t2 を得

て、s1 = u/t1 = u/t2 = s2 が分かる。s1 = s2 < 1 のときは、0 < 1−t11−u < 1 である

から、a1 = a2, b1 = b2 であり、したがって z1 = z2 である。また、s1 = s2 = 1 のときは、上の式で b1, b2 の係数が 0 となるので、t1 = t2 を考慮すると a1 = a2 であり、z1 = c1 = c2 = z2 である。次に、t1s1 = t2s2 = 0であるとする。このときは、ti > 0 (i = 1, 2)により s1 = s2 = 0

であり、よって zi = bi (i = 1, 2) および (1 − t1)a1 + t1b1 = (1 − t2)a2 + t2b2 が成り立つ。0 < ti < 1 だから、A,B の独立性により a1 = a2, b1 = b2 である。したがって、z1 = z2 である。

命題 1.22. P がコンパクト多面体であるとき、錐 Q = aP は多面体である。

証明. P はコンパクトであるから、aのQにおける錐近傍としてはQ自身が取れる。そこで、x0 ∈ Q\{a}とする。このとき、x0 = (1− t0)a+ t0b0となる t0 ∈ (0, 1], b0 ∈ P が一意的に存在する。b0 の P における錐近傍 N0 = b0L0 を一つ取り固定し、N = aN0 ⊂ Q

とする。U0 = N0 \ L0 は P の開集合であるから、U = aU0 \ {a}は Qの開集合である。さらに、x0 ∈ U ⊂ N であるから、N は x0 の近傍である。あとは、あるコンパクト集合Lに対して N が x0Lの形の錐構造をもつことを示せばよい。いま、L0, {b0}は独立であり、L0b0 = N0, {a}は独立である。よって、補題 1.21により、L0, b0aは独立である。ところで、b0aは x0 を頂点とする錐の構造 b0a = x0L1 をもつ。実際、t0 = 1のときは、L1 = {a}とおけばよく、0 < t0 < 1のときは、L1 = {a, b0}とおけばよい。このとき、{x0}, L1 は独立であり、x0L1 = b0a, L0 は独立であるから、再び補題 1.21により、L = L1L0 とおくとき {x0}, Lは独立である。すなわち、x0Lは錐である。しかも、x0L = x0L1L0 = b0aL0 = ab0L0 = aN0 = N である。

1.2 PL写像

多面体は後でみるように三角形分割をもち、単体複体の構造を与えることができる。この立場で見れば、PL写像とは大雑把には、定義域の単体複体を適当に細分したとき各単

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体上アフィンとなるような写像である。たとえば、写像 f : I → I が PL写像であることは、f のグラフが折れ線であることにほかならない。しかし、ここでも三角形分割によらない多面体の構造を重視し、PL写像を、局所的錐構造を保つ写像として定義する。

定義 1.23. 多面体の間の写像 f : P → Q が点 a ∈ P において区分線型 (piecewise

linear)である、あるいは略して PLであるとは、aの錐近傍 N = aLが存在して、

f((1− t)a+ tx) = (1− t)f(a) + tf(x)

が任意の x ∈ L, t ∈ I に対して成立することをいう*3。任意の a ∈ P に対して f が aにおいて PL写像であるとき、f : P → Q は PL写像 (piecewise linear map)であるという。

上の定義における錐近傍 N 上で f は連続となるから、PL写像は連続である。

注意 1.24. PL写像の基本的な例と性質を挙げよう。

(1) V ⊂ Rn をアフィン部分空間とするとき、アフィン写像 f : V → Rm は PL写像である。

(2) f : P → QがPL写像であり、P ′ ⊂ P が P の部分多面体であるならば、f |P ′ : P ′ →Qも PL写像である。

(3) f : P1 → P2, g : P2 → P3 が PL写像であるならば、g ◦ f : P1 → P3 は PL写像である。

PL写像のさらなる性質を示すためには、次の定理による PL写像の特徴づけを使うのが便利である。

定理 1.25. P ⊂ Rn, Q ⊂ Rm を多面体とする。連続写像 f : P → Qが PL写像であるためには、グラフ

Γf = {(x, y) ∈ Rn+m |x ∈ P, y = f(x)}

が多面体であることが必要十分である。

証明.【必要性】f : P → Qが PL写像であるとして、a = (a, f(a)) ∈ Γf とする。aの Γfにおける錐近傍を構成しよう。aの P における錐近傍NP = aLP を、f((1− t)a+ tx) =

(1− t)f(a) + tf(x) (x ∈ LP , t ∈ I)となるように取る。このとき、

NΓ = Γf ∩ (NP × Rm)

*3 「区分線型」の「線型 (linear)」という語は、アフィン写像の意味で用いられている。しかし、区分線型という語やその略である PLはすでに定着しているものなので、あえて「区分アフィン」と直すことはしなかった。

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とおくと、NΓ は aの Γf における近傍である。さらに、LΓ = Γf ∩ (LP × Rm)とおくと、NΓ = aLΓ であること、および、これが錐であることが容易に確かめられる。【十分性】連続写像 f : P → Q のグラフ Γf が多面体であるとし、a ∈ P , a =

(a, f(a)) ∈ Γf とする。Γf は多面体であり f は連続だから、ε > δ > 0 が存在して、NP = Nδ(a, P ) = aNδ(a, P ), NQ = Nε(f(a), Q), NΓ = Nε(a,Γf )はそれぞれ P,Q,Γfにおける a, f(a), aの錐近傍を与え、f(NP ) ⊂ NQ が成り立つ。よって、

Γf ∩ (NP × Rm) ⊂ NΓ (⋆)

である。さて、任意に x ∈ Nδ(a, P )と t ∈ I を与える。f((1− t)a+ tx) = (1− t)f(a)+

tf(x)を示せばよい。(⋆)より x = (x, f(x)) ∈ NΓ であり、NΓ は aを頂点とする錐だから、(1− t)a+ tx ∈ NΓ ⊂ Γf であるが、これはまさに示すべきことを意味している。

注意 1.26. 定理 1.25 において、f の連続性は本質的である。たとえば、P を正方形の周 N(0, 1) ⊂ R2 とし、Q = R+ = [0,∞) とする。v0 = (−1,−1), v1 = (1,−1),

v2 = (1, 1), v3 = (−1, 1) とし、n > 3 に対して vn = (−1,−1 + 2−(n−4)) とおき、f(vn) = n ∈ Q (n = 0, 1, 2, . . .)とする。各 nに対して、f が線分 vnvn+1 上でアフィンとなるように f を拡張すると、v0 において連続でない写像 f : P → Qが得られる。このとき、グラフ Γf は多面体であるが、f は連続でないから PL写像でない。

次に挙げる PL写像の性質は、定理 1.25と命題 1.15 を使えば簡単に証明できる。

命題 1.27. PL写像に関して、次が成り立つ。

(1) f : P → Qが多面体の間の写像で、(Uλ)λ∈Λ が P の開被覆であるとき、各 λ ∈ Λ

に対して f |Uλが PL写像であるならば、f は PL写像である。

(2) f : P → Qが多面体の間の写像で、(Pλ)λ∈Λ が P の閉部分多面体の局所有限な族で P =

∪λ∈Λ Pλ を満たすものとする。このとき、各 λ ∈ Λに対して f |Pλ

が PL

写像であるならば、f は PL写像である。(3) fi : Pi → Qi (i = 1, 2)が PL写像であるならば、f1 × f2 : P1 × P2 → Q1 ×Q2 も

PL写像である。

定義 1.28. f : P → Qを多面体の間の写像とする。f が PL写像かつ同相写像であるとき、f はPL同相写像 (PL homeomorphism)であるという。PL同相写像 f : P → Q

が存在するとき、P と Qは PL同相 (PL homeomorphic)であるという。

PL同相写像の定義に、逆が PL写像であることが含まれていないが、これは自動的に成り立つ。

命題 1.29. f : P → Qが PL同相写像であるとき、逆写像 f−1 : Q→ P は PL同相写像である。

証明. Γf が多面体ならば Γf−1 も多面体となるから、この主張は定理 1.25から従う。

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つまり、PL同相写像は、多面体と PL写像のなす圏における同型射である。こうして、PL トポロジーは多面体を PL 同相で分類する分野であると、一応定義づけることができる。

注意 1.30. (1) 全単射 PL 写像は、必ずしも PL 同相写像ではないので注意が必要である。例えば、注意 1.26 の写像 f : P → Q は全単射であり、g = f−1 : Q → P は全単射PL写像である。しかし、f は連続でなかったから、g は PL同相写像でない。(2) さらに、多面体の単射 PL 写像による像が多面体であるとも限らない。簡単な例としては、P = {0, 1, 2, . . .}, Q = R, f(0) = 0, f(n) = 1/n (n ≧ 1) で定義されるf : P → Qを挙げることができる。

上の注意を踏まえて、PL埋め込みの概念を次のように定義する。

定義 1.31. 多面体の間の単射 PL 写像 f : P → Q が PL 埋め込み (PL embedding)

であるとは、f(P )が Qの部分多面体であって、f : P → f(P )が PL同相写像となることをいう。

最後に、PL写像の錐の概念について述べる。f : P → Qをコンパクト多面体の間の写像とする。aP, bQがそれぞれ錐であるとき、f 上の錐 f : aP → bQを f((1− t)a+ tx) =(1− t)b+ tf(x) (x ∈ P, t ∈ I) により定義する。

命題 1.32. f : P → Qがコンパクト多面体の間の PL写像であるとき、錐 f : aP → bQ

も PL写像である。さらに、f が PL同相写像であるならば、f は PL同相写像となる。

証明. f : P → Qをコンパクト多面体の間の PL写像とする。命題 1.22により、aP, bQはコンパクト多面体である。aP ⊂ Rn, bQ ⊂ Rm であるとすると、グラフ Γf ⊂ Rn+m

は定理 1.25 によりコンパクト多面体である。さらに、a = (a, b) ∈ Rn+m とすると、aΓfは錐であり、aΓf = Γf であることが容易に確かめられる。よって、命題 1.22により Γfは多面体である。f は連続写像だから、定理 1.25により f は PL写像である。もし、f がPL同相写像であれば、PL写像 f−1 : Q → P にも同じ議論が使え、その錐は PL写像となるので、f は PL同相写像である。

2 単体複体と単体写像

いままで多面体を錐構造をもとに内在的に扱ってきたが、実際には多面体を単体分割して、単体複体として扱うのが便利である(定理 2.52参照)。また、PL写像も、少なくとも定義域がコンパクトであるときは、単体複体を適当に細分することで単体写像と見ることができる(系 2.62参照)。以下で、その詳細を見ていくことにする。

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2.1 単体

m ≧ 0とする。点 v0, . . . , vm ∈ Rn がアフィン独立であるとは、∑mi=0 ti = 0を満たす

t0, . . . , tm ∈ R に対して∑mi=0 tivi = 0ならば t0 = · · · = tm = 0となることをいうので

あった。これは、m 個のベクトル v1 − v0, . . . , vm − v0 が 1 次独立であることと同値である。

補題 2.1. v0, . . . , vm ∈ Rn に対して、次は同値である。

(1) v0, . . . , vm はアフィン独立である。(2) ジョイン v0v1 · · · vm の任意の点 xは、v0, . . . , vm の凸結合として一意的に表される。すなわち、x =

∑mi=0 tivi,

∑mi=0 ti = 1, ti ≧ 0を満たす (t0, . . . , tk)が一意的

に存在する。

証明. (1) =⇒ (2): (1)が成り立つとする。xが v0, . . . , vk の凸結合で表されることは、mに関する帰納法で示される。もし、x =

∑mi=0 tivi =

∑mi=0 t

′ivi, と凸結合で 2通りに表さ

れたとすると、∑i=0(ti− t′i)vi = 0,

∑mi=0(ti− t′i) = 0 であるから、v0, . . . , vm のアフィ

ン独立性から ti = t′i (i = 0, . . . ,m)である。(2) =⇒ (1): (2)が成り立つとして、

∑ki=0 tivi = 0, t0, . . . , tk ≧ 0,

∑ki=0 ti = 0とす

る。ε > 0を十分小さく取り、ε ·maxi |ti| < (k + 1)−1 となるようにする。このとき、

m∑i=0

(m+ 1)−1vi =m∑i=0

((m+ 1)−1 + εti)vi ∈ v0v1 · · · vm

となるので、(2) により (m + 1)−1 = (m + 1)−1 + εti (i = 0, . . . ,m) となる。よって、t0 = · · · = tk = 0である。

v0, . . . , vm ∈ Rn がアフィン独立であるとき、ジョイン σ = v0v1 · · · vm を m 単体(m-simplex) といい、点 v0, . . . , vm は単体 σ の頂点 (vertex) であるという。このとき、v0, . . . , vm(あるいは集合 {v0, . . . , vm})は σ を張る (span) という。m単体 σ に対して dimσ = mと定義し、mを単体 σ の次元 (dimension)という。補題 2.1 で見たように、単体 σ の任意の点 xは v0, . . . , vm の凸結合として一意的に表される。このときの t0, . . . , tm を点 xの重心座標 (barycentric coordinates) という。空集合 ∅は−1単体であると定義する。このとき、各m ≧ 0に対してm単体は (m−1)

単体を底とする錐であるから、命題 1.22から帰納法により、すべての単体は多面体であることが分かる。さらに、次のことも補題 2.1から直ちに確かめられる。

命題 2.2. (1) σ が v0, . . . , vk を頂点とする k単体、f : σ → Rn が単射アフィン写像のとき、像 f(σ)は f(v0), . . . , f(vk)を頂点とする k 単体である。(2) σ が v0, . . . , vm を頂点とする m単体のとき、錐 vσ は v, v0, . . . , vm を頂点とする

(m+ 1)単体である。

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単体 σ の頂点全体の集合を V (σ)で表す。すなわち、m単体 σ = v0 · · · vm に対して、

V (σ) = {v0, . . . , vm}

と定義する。容易に証明される次の命題から、集合 V (σ) や次元 dimσ が σ のみから定まっていることが分かる。

命題 2.3. v0, . . . , vm を頂点とするm単体 σ の点 x ∈ σ に対して、x ∈ {v0, . . . , vm}であるためには σ \ {x} が凸であることが必要十分である*4。

σ が単体であるとき、各部分集合 T ⊂ V (σ)に対して T はある単体 τ を張るが、このようにして得られる単体 τ を σ の面 (face) といい、τ ≦ σ と書く。ここで、T = ∅のときには τ = ∅であるとする。したがって、−1単体 ∅は任意の単体の面である。τ ≦ σ かつ τ = σ であるとき、τ は σ の真の面 (proper face)であるといい、τ < σ と書く。各v ∈ V (σ)に対して、{v}は σ の 0次元の面である。m単体 σ = v0 · · · vm ⊂ Rn の真の面すべての和集合を σ の境界 (boundary)といい、

σ で表す。また、σ = σ \ σ と定義し、σ を σ の内部 (interior)という。m ≧ 0のとき、σ の点 σ = (m+ 1)−1

∑mi=0 vi を σ の重心 (barycenter)という。重心 σ は内部 σ の点

であるから、m ≧ 0のとき σ = ∅である。σ を含む Rn の最小のアフィン部分空間を ⟨σ⟩で表す。⟨σ⟩は v0, . . . , vm のアフィン結合∑mi=0 tivi (

∑mi=0 ti = 1) の全体であり、⟨σ⟩ の点をこのようなアフィン結合に表す方

法は一意的である。

命題 2.4. 単体 σに対して、σ, σはそれぞれ ⟨σ⟩ における σの境界 Fr⟨σ⟩ σ, 内部 Int⟨σ⟩ σ

に等しい。

証明. σ が m + 1個の点 e0 = (0, . . . , 0), e1 = (1, 0, . . . , 0), . . . , em = (0, . . . , 0, 1) で張られる Rm 内の m単体である場合に示せば十分であり、その場合は直接の計算で証明される。

命題 2.5. コンパクト多面体は、有限個の単体の和集合として表される。

証明. P を Rm 内のコンパクト多面体とする。P を含む Rm の最小のアフィン部分空間 ⟨P ⟩ の次元 n = dim⟨P ⟩ についての帰納法で証明する。n ≦ 0 のときは自明である。n ≧ 1 とする。m = n かつ ⟨P ⟩ = Rn の場合に示せば十分である。さらに、P はコンパクトであることに注意すれば、P の各点のある近傍が、有限個の単体の和集合となることを示せばよいことが分かる。そこで、a ∈ P とする。a の錐近傍を、ε 近傍Nε(a, P ) = aNε(a, P )の形に取る。Nε(a, P ) = Nε(a) ∩ P で、Nε(a) は、例 1.16(3)で

*4 この命題から、v0, . . . , vm を頂点とする m 単体 σ に対して、σ = w0 . . . wm と表されたならば{w0, . . . , wm} = {v0, . . . , vm} でなければならない。(実際、vi /∈ {w0, . . . , wm} とすると σ \ {vi}の凸性から vi /∈ w0 · · ·wm = σ となり矛盾する。)このことを根拠に、「v0, . . . , vm を頂点とするm単体 σ」と書く代わりに「m単体 σ = v0 · · · vm」と書くことがある。

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注意したように立方体 Nε(a)の面の有限和である。F をそのような面の任意の 1つとすると、F ∩ P は多面体で、dim⟨F ∩ P ⟩ < nであるので、帰納法の仮定から、F ∩ P は単体の有限和である。したがって、Nε(a, P ) = Nε(a)∩ P も単体の有限和であるから、aの錐近傍 Nε(a, P ) = aNε(a, P ) もそうである。

この命題をコンパクトとは限らない多面体に対して一般化するため、次の補題を示しておく。

補題 2.6. 任意の多面体 P に対して、コンパクト多面体の局所有限な族 (Pi)∞i=1 で、次の

条件を満たすものが存在する。

• P =∪∞i=1 Pi

• |i− j| > 1のとき Pi ∩ Pj = ∅

証明. P は第二可算かつ局所コンパクト Hausdorffだから、P のコンパクト部分集合の列(Ci)

∞i=1 を、Ci ⊂ IntP Ci+1 かつ P =

∪∞i=1 Ci となるように取れる。さらに、i ≧ 1に対

して、Di = Ci \ IntP Ci−1, Ui = IntP Ci+1 \Ci−2 と定義する。ただし、C0 = C−1 = ∅とする。Di の各点 x に対して、x の P における錐近傍 Nx が存在し、Nx ⊂ Ui となる。さらに、Nx は多面体に取ることができる。ところが、Di はコンパクトなので、Di はそのような錐近傍の有限和 Pi に含まれる。すると、Pi はコンパクト多面体であり、Pi ⊂ Ui かつ P =

∪∞i=1 Pi である。(Ui)

∞i=1 は P の局所有限な開被覆だから、(Pi)∞i=1 も局所有限で

ある。また、|i− j| > 1のとき Ui ∩ Uj = ∅だから、Pi ∩ Pj = ∅である。

命題 2.7. 任意の多面体 P は、単体の局所有限な族 (σλ)λ∈Λの和集合として P =∪λ∈Λ σλ

と表される。

証明. P に対して補題 2.6のような族 (Pi)∞i=1 を選び、次に命題 2.5を用いて Pi を単体の

有限和として表せばよい。

命題 2.7を用いて、多面体の次元の概念が定義される。

定義 2.8. 多面体 P に対して命題 2.7のような単体の族 (σλ) を選ぶとき、maxλ dimσλを多面体 P の次元といい、dimP で表す。

上の定義において、maxλ dimσλ は (σλ)の取り方によらず定まっている。このことは、n単体が n次元未満の単体の有限個の和集合に含まれることはない、という事実に注目すれば分かる。もちろん、m単体 σ の多面体としての次元はmである。

命題 2.9. 多面体の次元について、以下のことが成り立つ。

(1) P ⊂ Qならば、dimP ≦ dimQである。(2) アフィン部分空間 V ⊂ Rn の多面体としての次元は、アフィン部分空間としての次元に等しい。

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証明. (1) P に対して、補題 2.6 のような族 (Pi)∞i=1 を選び、Pi を有限個の単体の和

集合として Pi =∪n(i)j=1 σi,j と表しておく。すると、dimP = maxi,j σi,j = maxi Pi

である。次に、Q を単体の局所有限和で Q =∪µ∈M τµ と表せば、各 i に対して、

{σi,1, . . . , σi,n(i)} ∪ {τµ |µ ∈M} も和集合が Qとなる局所有限な族なので、

dimPi = maxjσi,j ≦ max{max

jσi,j ,max

µτµ} = dimQ

である。よって、dimP = maxi dimPi ≦ dimQである。(2) ここでは dim は常に多面体としての次元を表す。V ⊂ Rn をアフィン部分空間とし、アフィン部分空間としての次元が k であるとする。このとき、V はアフィン独立な k + 1 個の点 v0, . . . , vk をもち、したがって、k 単体 v0 · · · vk を含んでいるから、dimV ≧ k である。もし dimV > k であれば V は k + 1単体を含み、その頂点はアフィン独立な k+2個の点となり、V のアフィン部分空間としての次元が kであることに反する。よって、dimV = k である。

系 2.10. f : P → Qが多面体 P ⊂ Rn から Q ⊂ Rm への PL写像であるとき、P を単体の局所有限な族 (σλ)λ∈Λ の和集合に表し、各 λ ∈ Λに対して f |σλ

: σλ → Q ⊂ Rm がアフィン写像であるようにできる。

証明. グラフ Γf は多面体であるから、命題 2.7により、Γf を局所有限な単体の族 (σλ)λ∈Λ

の和集合として表すことができる。π : Γf → P , π′ : Γf → Q を射影とすると、各 λ ∈ Λ

に対して、π|σλは単射アフィン写像なので、命題 2.2(1)により、σλ = π(σλ)は単体であ

る。すると、∪λ∈Λ σλ = P であり、(σλ)は局所有限である。f |σλ

= π′ ◦ (π|σλ)−1 : σλ →

Q ⊂ Rm だから、f |σλはアフィン写像の合成としてアフィン写像である。

命題 2.11. 単体のアフィン写像による像は多面体となる。

証明. σ = v0 · · · vn ⊂ Rm を n単体とし、f : σ → Rp をアフィン写像とするとき、f(σ)が多面体となることを nに関する帰納法で示そう。n ≦ 0のときは明らかである。n ≧ 1

とする。f が単射であるときは、命題 2.2(1)により、f(σ)は n単体である。f が単射でないとき、

f(σ) = f(σ) (⋆)

が成り立つ。これを示すため、y ∈ f(σ) とする。f をアフィン写像 f : ⟨σ⟩ → Rp にf(∑ni=0 tivi) =

∑ni=0 tif(vi)(ただし

∑ni=0 ti = 1)により拡張しておけば、f が単射で

ないことから f−1(y)は ⟨σ⟩の 1次元以上のアフィン部分空間となるので、コンパクトでない連結集合である。他方、σ は ⟨σ⟩のコンパクト集合で f−1(y) ∩ σ = ∅だから、命題2.4により、f−1(y)∩ σ = f−1(y)∩Fr⟨σ⟩ σ = ∅である。よって、f−1(y)∩ σ = ∅であるから、y ∈ f(σ)である。これで (⋆)が示された。(⋆)により、σ の n − 1次元の面を τ0, . . . , τn とすれば f(σ) =

∪ni=0 f(τi)である。帰

納法の仮定から f(τi)は多面体であるので、その有限和として f(σ)は多面体となる。

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位相空間の間の連続写像 f : X → Y が固有 (proper)であるとは、Y の任意のコンパクト部分集合 Lに対して、f−1(L)がコンパクトとなることをいう。

系 2.12. コンパクト多面体の PL写像による像は多面体である。より一般に、多面体の固有 PL写像による像は多面体である。

証明. 後半の主張だけを示せば十分である。P,Q を多面体、f : P → Q を固有 PL 写像とする。系 2.10により、P =

∪λ∈Λ σλ となる局所有限な単体の族 (σλ)λ∈Λ が存在して、

f |σλは各 λに対してアフィン写像となる。命題 2.11により、各 λに対して、像 f(σλ)は

コンパクトな多面体である。命題 1.15(4)によれば、あとは (f(σλ))λ∈Λ の局所有限性を示せばよい。そこで、y ∈ f(P )とする。Qは局所コンパクトなので、y の Qにおけるコンパクト近傍 N が存在する。f は固有であるから、f−1(N) ⊂ P はコンパクトである。よって、(σλ)の局所有限性により、f−1(N) ∩ σλ = ∅ となる λは高々有限個である。これは、N ∩ f(σ) = ∅となる λが高々有限個であることを意味している。

2.2 胞体とその面

定義 2.13. C ⊂ Rn が線型 n胞体 (linear n-cell)、あるいは単に n胞体 (n-cell)であるとは、C がコンパクトかつ凸な多面体で、C を含む最小のアフィン部分空間 ⟨C⟩の次元が nであることをいう。

注意 2.14. (1) n単体や In は n胞体である。0胞体、1胞体はそれぞれ 0単体、1単体と同じものである。空集合は −1胞体である。(2) 胞体のアフィン写像による像は、系 2.12により胞体である。(3) アフィン独立とは限らない a0, . . . , ar ∈ Rn に対して、ジョイン C = a0 · · · ar は胞体であり、C は a0, . . . , ar(あるいは集合 {a0, . . . , ar})によって張られるという。実際、C は r単体のアフィン写像による像となる。逆に、任意の胞体はある有限個の点によって張られることが示される(命題 2.24(5)(7))。(4) 2個の胞体の共通部分、および 2個の胞体の直積は胞体である。(5) 胞体とアフィン部分空間の共通部分は胞体である。一般に、C ⊂ Rn が胞体、

P ⊂ Rn が閉かつ凸集合である多面体であるとき、C ∩ P は胞体となる。(6) 胞体を底とする錐は胞体である。

胞体 C ⊂ Rn に対して、Fr⟨C⟩ C, Int⟨C⟩ C をそれぞれ C の境界 (boundary)、内部

(interior)と呼び、C, C で表す*5。

命題 2.15. n ≧ 0のとき、n胞体 C ⊂ Rm に対して次が成り立つ。

(1) C は少なくとも一つの n単体を含み、C の多面体としての次元 dimC = nである。

*5 場合により、内部を表す記号は (C ∩D) のように右上肩に付ける。

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(2) 任意の n単体 σ ⊂ C に対して、σ ⊂ C である。とくに、C = ∅である。(3) C は、「どの y ∈ C に対しても線分 yxを xを越えて C 内の線分に延長できる」という性質をもつ x ∈ C 全体の集合に等しい。すなわち、

C = {x ∈ C | ∀y ∈ C ∃ε > 0 (1 + ε)x− εy ∈ C}

である。

証明. (1) ⟨C⟩のアフィン部分空間としての次元は nだから、C にはアフィン独立な n+1

点 v0, . . . , vn が存在しなければならない。よって、C は n単体 v0 · · · vn を含むから、多面体としての次元 dimC ≧ nである。また、命題 2.9により、dimC ≦ dim⟨C⟩ ≦ nも成り立つ。(2) σ ⊂ C を n単体とする。⟨C⟩, ⟨σ⟩はともに n次元で ⟨σ⟩ ⊂ ⟨C⟩ だから、⟨σ⟩ = ⟨C⟩である。よって、命題 2.4により、σ = Int⟨σ⟩ σ = Int⟨C⟩ σ ⊂ Int⟨C⟩ C = C である。(3) 左辺が右辺に含まれることは明らかである。右辺の元 xを任意に与える。(1) により存在する n単体 σ = v0 · · · vn ⊂ C を一つ固定し、ε > 0を、x′ = (1 + ε)x− εσ ∈ C

となるように取り、wi = (1 + ε)−1(εvi + x′) (i = 0, . . . , n)とおく。すると、w0, . . . , wnは容易に確かめられるようにアフィン独立で、n単体 τ = w0 · · ·wn に対して τ = xであるから、(2)により、x ∈ τ ⊂ C である。

胞体の面の概念を定義するために(定義 2.19)、まず次の定義をする。

定義 2.16. 胞体 C ⊂ Rn と x ∈ Rn に対して、

⟨C|x⟩ = {y ∈ Rn | ∃ε > 0 (|t| < ε =⇒ (1− t)x+ ty ∈ C)}

と定義する。

注意 2.17. 上の定義の図形的な意味は易しい。x ∈ C のとき、y ∈ ⟨C|x⟩ であるとは、y = xであるか、または y と xを通る直線と C との共通部分が xを内部の点にもつ線分となることである。x /∈ C のときは ⟨C|x⟩ = ∅であることに注意する。

次の補題は、上の注意を念頭に図を描いてみれば証明のヒントが得られるだろう。

補題 2.18. ⟨C|x⟩は Rn のアフィン部分空間である。

証明. x = 0であるとして証明してよい。y, z ∈ ⟨C|0⟩, λ ∈ Rとする。w = (1−λ)y+λzとおくとき w ∈ ⟨C|x⟩を証明しよう。ε > 0を十分小さく取り、|t| < εならば ty, tz ∈ C

となるようにする。【場合 1: 0 ≦ λ ≦ 1のとき】|t| < εとすると、C の凸性により tw = (1−λ)ty+λtz ∈ C

となる。よって、w ∈ ⟨C|0⟩である。【場合 2: λ ≦ 0のとき】|t| < ε/(1− 2λ)とすると、y′ = (1− 2λ)ty, z′ = −(1− 2λ)tz

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とおくとき y′, z′ ∈ C であり、0 ≦ −λ1−2λ < 1/2 ≦ 1であって

tw =

(1− −λ

1− 2λ

)y′ +

−λ1− 2λ

z′

となるから、C の凸性により tw ∈ C である。よって、w ∈ ⟨C|0⟩である。【場合 3: λ ≧ 1のとき】y と z の立場を入れ換えれば、場合 2に帰着される。

定義 2.19. 胞体 C ⊂ Rn に対して、

Cx = C ∩ ⟨C|x⟩

と定義する。補題 2.18と注意 2.14(5)により、Cx は胞体となる。ある x ∈ Rn に対してCx の形に表される胞体を C の面 (face)といい、D が C の面であることを D ≦ C で表す。すぐに注意 2.20(2)で見るように、C 自身は C の面である。D ≦ C かつD = C であるとき、Dは C の真の面 (proper face)であるといい、D < C で表す。また、{x} ≦ C

であるとき、xを C の頂点 (vertex)という。C の頂点全体の集合を V (C)で表す。

注意 2.20. (1) 胞体 C は凸集合であるから、面 Cx は次のようにも表すことができる。

Cx = {y ∈ C | ∃ε > 0 (1 + ε)x− εy ∈ C}= {y ∈ C | ∃ε0 > 0 (0 < ε < ε0 =⇒ (1 + ε)x− εy ∈ C)}

x ∈ C のときは、上の図形的な意味は明瞭である。すなわち、C の点 y に対して y ∈ Cxであるとは、y = xであるか、または線分 yxを xを越えて C 内の線分に延長できることである。x /∈ C のときは、Cx = ∅である。よって、空集合 ∅は任意の胞体の面となる。(2) 胞体 C の点 v ∈ C が C の頂点であることは、C 内のいかなる線分 xy も v を内点にもたないことと同値である。(3) 胞体 C が空でないとき、命題 2.15(2)により、x ∈ C が存在するが、このとき (1)

により Cx = C である。よって、任意の胞体 C に対して、C ≦ C が成り立つ。(4) 胞体 C と x ∈ C に対して、x ∈ Cx である。このことは、命題 2.15(3)から直ちに導かれる。(5) A,B ⊂ Rn が胞体で x ∈ Rn のとき、(A∩B)x = Ax ∩Bx である。また、A ⊂ Rn,

B ⊂ Rm が胞体で x ∈ Rn, y ∈ Rm のとき、(A×B)(x,y) = Ax ×By である。(6) いままで立方体や単体に定義された面・頂点の概念は、ここで定義されたものと一致することが簡単に確かめられる。たとえば、m 単体 σ = v0 · · · vm の場合、x ∈ σ がx =

∑kj=0 tijvij , tij > 0と表されるとすれば、σx はいままでの意味での σの面 vi0 · · · vik

となることが確かめられる。

胞体を実際に扱うための諸性質を確立するため、もう少し幾何的考察を行う。次の補題の証明は図を描いてみれば容易に理解できるだろう。

補題 2.21. 胞体 C ⊂ Rn と a, b ∈ Rn に対して、a ∈ Cb ならば Ca ⊂ Cb である。

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証明. a /∈ C または b /∈ C のときは明らかであるから、a, b ∈ C であるとしてよい。a ∈ Cb, u ∈ Caとすると、ε > 0が存在して c = (1+ε)b−εa ∈ C, a′ = (1+ε)a−εu ∈ C

である。このとき、

b′ =ε

1 + 2εa′ +

1 + ε

1 + 2εc

とおけば C の凸性から b′ ∈ C であり、簡単な計算により、b′ = (1+ δ)b− δu を得る。ただし、δ = ε2/(1 + 2ε)である。よって、u ∈ Cb である。

系 2.22. C を胞体とするとき、次が成り立つ。

(1) a ∈ Cb, b ∈ Ca ならば Ca = Cb である。(2) a ∈ C のとき、Ca は aを含む C の最小の面である。

補題 2.23. C を胞体とするとき、次が成り立つ。

(1) DがC に含まれる(面とは限らない)胞体のとき、任意の x ∈ Dに対してDx ⊂ Cxである。

(2) D ≦ C, x ∈ D ならば Cx = D である。(3) F,D ≦ C, F ∩ D = ∅ならば F = D である。(4) D ≦ C, x ∈ D ならば Cx = Dx である。(5) x ∈ C, y ∈ Cx ならば (Cx)y = Cy である。

証明. (1) これは定義から明らかである。(2) D ≦ C, x ∈ D として、y ∈ D を D = Cy となるように取る。注意 2.20(3) から

Dx = D なので、(1)により y ∈ Dx ⊂ Cx である。また、x ∈ D = Cy である。よって、系 2.22(1)により、Cx = Cy = D である。(3) x ∈ F ∩ D を一つ固定すると、(2)により、F = Cx = D である。(4) D ≦ C, x ∈ D とする。(1) により、Cx ⊂ Dx のみ示せば十分である。そこで、

y ∈ Cx, y = xとする。線分 yxは xを越えて C 内の線分 yx′ に延長できる。このとき、x′ ∈ Cx である。ところが、系 2.22(2) により Cx ≦ D であるので、y, x′ ∈ D である。D 内の線分 yx′ は xを内点にもつから、y ∈ Dx である。(5) (4)の言い換えである。

命題 2.24. C を胞体とするとき、次が成り立つ。

(1) D < C ならば、dimD < dimC である。(2) F ⊂ D ≦ C のとき、F ≦ D は F ≦ C と同値である。とくに、F ≦ D ≦ C ならば F ≦ C である。

(3) F,D ≦ C ならば F ∩D ≦ C である。(4) 集合としての直和分解 C =

⨿F≦C F , C =

⨿F<C F が成り立つ。

(5) C の頂点全体の集合 V (C)は有限集合である。(6) F ≦ C のとき、V (F ) = V (C) ∩ F である。

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(7) C は V (C)によって張られる。(8) C の面の個数は有限である。(9) x ∈ C のとき、B =

∪{F |F < C, x /∈ F}とおけば、C は錐 xB となる。

(10) 凸部分集合 D ⊂ C が C の面の和集合で表されるならば、D ≦ C である。

証明. (1) D = Cx < C とすると、⟨C|x⟩ ⫋ ⟨C⟩ でなければならないから、dimD ≦dim⟨C|x⟩ < dim⟨C⟩ = dimC である。(2) これは補題 2.23(4)の帰結である。(3) F ∩ D = ∅ としてよい。命題 2.15(2) により、x ∈ (F ∩ D) が存在する。補題

2.23(4)により、Fx = Cx = Dx だから、Cx ⊂ F ∩D である。他方、注意 2.20(3)と補題 2.23(1) により、F ∩D = (F ∩D)x ⊂ Cx である。(4) 各 x ∈ C に対して、注意 2.20(4)により x ∈ Cx だから、C =

∪F≦C F であるが、

これは補題 2.23(3)により直和となる。C = C \ C により、第二の直和分解も得られる。(5) C の各点 xは錐近傍 Nx = xLx をもつ。Ux = Nx \Lx は xの開近傍である(注意

1.17 を参照)。さらに、注意 2.20(2)から、Ux ∩ V (C) ⊂ {x}が分かる。C のコンパクト性により、C =

∪mi=1 Uxi

となる x1, . . . , xm が存在するから、V (C) ⊂ {x1, . . . , xm}である。(6) これは (2)の帰結である。(7) n = dimC についての帰納法で示す。V (C) = {v0, . . . , vr}として、A = v0 · · · vrとする。C の凸性により A ⊂ C なので、C ⊂ A を示せばよい。そこで、x ∈ C とする。x ∈ C であれば、(4) により、x ∈ F となる真の面 F < C が存在する。(1) によりdimF < dimC = nだから、帰納法の仮定より F は V (F )によって張られるが、(6)により V (F ) ⊂ V (C)だから、F ⊂ Aとなる。よって、x ∈ Aである。x ∈ C であれば、xを内点にもつ線分 yz で y, z ∈ C となるものが存在する。すでに見たように y, z ∈ Aだから、x ∈ Aである。(8) これは (6)(7)の帰結である。(9) C の凸性から、xB ⊂ C である。y ∈ C, y = xとする。線分 xy を y の側に延長して得られる半直線 lに対して、l ∩ C は線分であるが、その端点のうち xでない方を z とする。すると、x /∈ Cz であるから、z ∈ Cz ⊂ B であり、よって y ∈ xB である。以上から、C = xB である。あとは、xB が錐であることを示せばよい。もし、そうでないとすると、命題 1.6(4) により、y, z ∈ B であって y ∈ (xz) であるものが存在する。するとx ∈ Cy ⊂ B であるから矛盾する。(10) 空でない凸集合 D ⊂ C が C の面の和集合として D =

∪ri=1 Fi, Fi ≦ C と表さ

れるとする。このとき {Fi | i = 1, . . . , r}が包含関係についてただ一つの極大元をもつことを示せばよい。そこで、Fi, Fj がともに極大元であるとする。Fi = Cx, Fj = Cy と表せば、xy ⊂ D である。x = y のときは、Fi = Fj である。x = y のときは xy の内点 z を一つ固定すれば、z ∈ Fk となる k が存在する。x ∈ Cz だから系 2.22(2) によりFi = Cx ⊂ Cz ⊂ Fk であり、よって極大性から Fi = Fk である。同様に、Fj = Fk であるから、Fi = Fj である。

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アフィン写像と面の関係についても少し調べておく。

命題 2.25. C ⊂ Rm, D ⊂ Rn を胞体、f : C → Rn をアフィン写像とするとき、次が成り立つ。

(1) C ∩ f−1(D)は胞体であって、任意の x ∈ C ∩ f−1(D)に対して (C ∩ f−1(D))x =

Cx ∩ f−1(Df(x))である。(2) 任意の x ∈ C に対して、Cx ⊂ f−1(f(C)f(x))である。

証明. (2) は (1) において D = f(C) とおけば得られるので、(1) のみ示せばよい。命題 1.15(5) と注意 2.14(5) により、C ∩ f−1(D) は胞体である。(C ∩ f−1(D))x ⊂Cx∩f−1(Df(x))は定義から簡単に示される。逆の包含を示すため、y ∈ Cx∩f−1(Df(x))

とする。y ∈ Cxにより、ε0 > 0が存在して、0 < ε < ε0ならば (1+ε)x−εy ∈ C である。また、f(y) ∈ Df(x) だから、0 < δ < ε0 となる δ が存在して、(1 + δ)f(x)− δf(y) ∈ D

である。このとき、(1 + δ)x− δy ∈ C ∩ f−1(D)であるから、y ∈ (C ∩ f−1(D))x である。

2.3 錐と放射投影

aB ⊂ Rn が錐であるとき、π((1 − t)a + tb) = b (t ∈ I, b ∈ B)により定義される写像π : aB \ {a} → B を放射投影 (radial projection)という。図形的には、x ∈ aB \ {a}に対して線分 axを xの側に延長した半直線を考えたとき、それと B との交点が π(x)である。

命題 2.26. B がコンパクトであるとき、放射投影 π は連続写像である。

証明. 仮定から、錐 aB は対応 (1− t)a+ tb 7→ (b, t) により商空間 B × I/B × {0} と同相である。あとは、自然な写像の合成 B × (0, 1] → B × I → B × I/B × {0} が像への同相写像であることに注目すればよい。

以下では、B がコンパクトな凸集合であるときを考える。まず注意すべきことは、π は必ずしもアフィン写像ではないということである。

例 2.27. a = (0, 0) ∈ R2, B = [0, 1] × {1} ⊂ R2 とすると、aB は錐である。p =

(0, 1), q = (1/2, 1/2) ∈ aB を考える。π がアフィン写像であれば、t ∈ I に対してπ((1− t)p+ tq) = (t, 1) でなければならないが、実際には

π((1− t)p+ tq) = (t/(2− t), 1)

である。よって、π はアフィン写像ではない。

しかし、放射投影は次の意味でアフィン写像に近い。

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命題 2.28. コンパクト凸集合 B を底とする錐 aB の放射投影を π : aB \ {a} → B とする。線分 pq ⊂ aB \ {a}が aを端点とする線分に含まれないとき、π(p) = p′, π(q) = q′

とすると、π(pq) = p′q′ であり、π は pq から p′q′ への同相写像を与える。

証明. p = (1 − u)a + up′, q = (1 − v)a + vq′ (u, v ∈ (0, 1], b, c ∈ B, p′ = q′)と表すことができる。このとき、t ∈ I に対して、

π((1− t)p+ tq) = (1− λ(t))p′ + λ(t)q′,

ただし、λ(t) = tv/((1− t)u+ tv)となる。λ(0) = 0, λ(1) = 1 であり、λ : I → I は狭義単調増加な連続写像であるから、π は線分 pq から線分 p′q′ への同相写像を与える。

系 2.29. コンパクト凸集合 B を底とする錐 aB の放射投影を π : aB \ {a} → B とする。胞体 C ⊂ aB \ {a}に対して、aC が錐であるとすると、次が成り立つ。

(1) πC = π|C : C → π(C) は同相写像である。さらに、π(C) は凸集合であって、πCは C 内の線分全体の集合から π(C)内の線分全体の集合への全単射を誘導する。

(2) x ∈ C, L ⊂ C に対して、xLが錐であるためには π(x)π(L)が錐であることが必要十分である。

(3) π(C)は胞体である。(4) D ⊂ C に対して、D ≦ C であるためには π(D) ≦ π(C)が必要十分である。(5) C が k 単体であるならば、π(C)も k 単体である。

証明. (1)(2)(3)(4)は命題 2.26, 2.28から順次簡単に確かめられる。(5)を k に関する帰納法によって証明しよう。k = 0のときは明らかである。k > 0のとき、C の頂点を一つ選んでそれを v とすれば、ある面 D < C について、C は錐 vD となる。このとき、(1)

により π(C)はジョイン π(v)π(D)となるが、これは (2)により錐である。帰納法の仮定により、π(D)は単体だから、π(C) も単体となる。

補題 2.30. aB が凸集合 B 上の錐であるとき、f((1− t)a+ tb) = t (b ∈ B, t ∈ I) で定義される写像 f : aB → I はアフィン写像である。

証明. まず、f の定義域 aB が凸集合であることを示す*6。x1, x2 ∈ aB, s ∈ I として、(1− s)x1 + sx2 ∈ aB を示そう。x1, x2 の少なくとも一方が aである場合は簡単に示せるので、そうではないとする。このとき、xi = (1 − ti)a + tibi (bi ∈ B, ti ∈ I)と表せば、ti = 0であり、u = (1− s)t1 + st2, v = st2/u とおくとき

(1− s)x1 + sx2 = ((1− s)(1− t1) + s(1− t2))a+ (1− s)t1b1 + st2b2

= (1− u)a+ u((1− v)b1 + vb2)

である。B の凸性から (1− v)b1 + vb2 ∈ B なので、上の式から (1− s)x1 + sx2 ∈ aB で

*6 アフィン写像の定義域は凸集合であると仮定していた。

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ある。さらに、同じ式から

f((1− s)x1 + sx2) = u = (1− s)t1 + st2 = (1− s)f(x1) + sf(x2)

も分かる。よって、f : aB → I はアフィン写像である。

命題 2.31. 胞体 B を底とする錐 aB に対して、胞体 aB の面全体の集合は

{F |F ≦ B} ∪ {aF |F ≦ B}

で与えられる。

証明. B = ∅であるとしてよい。C = aB とし、f : C → I を補題 2.30のアフィン写像とする。各 x ∈ C に対して Cx を調べよう。

主張 1. b ∈ B のとき Cb = Bb である。また、Ca = {a}である。

主張 1の証明. f(C) = I, f(b) = 1であるから、命題 2.25(2)により、Cb ⊂ f−1(I1) =

f−1({1}) = B である。よって、補題 2.23(1)(5) により、Cb = (Cb)b ⊂ Bb ⊂ Cb だから、Bb = Cb である。同様にして、Ca ⊂ f−1({0}) = {a}となるから、Ca = {a}である。

主張 2. x = (1− t)a+ tb, 0 < t < 1, b ∈ B のとき、Cx = aBb である。

主張 2の証明. 定義から直ちに、a ∈ Cx が分かる。同様に、b ∈ Cx であるから、補題2.23(1), 2.21により、Bb ⊂ Cb ⊂ Cx となる。以上から、Cx の凸性により、aBb ⊂ Cx である。逆の包含を示すため、y ∈ Cx とする。y ∈ abならば y ∈ aBb となるので、y /∈ ab

としてよい。z ∈ C \ {a} を、線分 yz が x を内点にもつように取る。π : C \ {a} → B

を放射投影とし、π(y) = y′, π(z) = z′ とすると、命題 2.28 により、線分 y′z′ ⊂ B はπ(x) = bを内点にもつ。よって、y′ ∈ Bb であるから、y ∈ ay′ ⊂ aBb である。

以上の主張 1, 2から命題が従う。

2.4 胞体複体とその細分

定義 2.32. Rn 内の胞体からなる集合 K が(Rn 内の)胞体複体 (cell complex)であるとは、次の条件を満たすことをいう。

(0) ∅ ∈ K である。(1) C ∈ K, D ≦ C ならば D ∈ K である。(2) C,D ∈ K ならば C ∩D ≦ C である。(3) K は局所有限である。

K に属する胞体すべての和集合 |K| を胞体複体 K の台多面体 (underlying polyhe-

dron) という。K が有限集合であるとき、K は有限 (finite) であるという。

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実際に与えられた胞体の集合が胞体複体であることを確かめるときには、条件 (2)の証明が難しいことが多い。そのような場合には次の命題を利用する。

命題 2.33. 胞体複体の定義 2.32において、(1)のもとで (2)は次の条件 (2′), (2′′)のどちらとも同値である。

(2′) C,D ∈ K, C ∩D = ∅ならば C ≦ D である。(2′′) C,D ∈ K, C = D ならば C ∩ D = ∅である。

証明. (2) =⇒ (2′): Rn 内の胞体の集合 K が (1), (2) を満たすとして、C,D ∈ K,

C∩D = ∅とする。(2)により C∩D ≦ C であり、しかも C∩ (C∩D) = C∩D = ∅ であるから、命題 2.24(4)により、C ∩D = C である。ところが、再び (2)により C ∩D ≦ D

であるから、C ≦ D である。(2′) =⇒ (2′′): K が (1),(2′)を満たすとする。C,D ∈ K, C ∩ D = ∅とすると、(2′) により C ≦ D かつ D ≦ C となるので、C = D である。(2′′) =⇒ (2): K が (1), (2′′) を満たすとする。C,D ∈ K, C ∩ D = ∅ とする。

x ∈ (C ∩D) を一つ固定しよう。このとき、(1)により Cx, Dx ∈ K である。一方、注意2.20(3)により x ∈ Cx ∩ Dx となるので、(2′′)により Cx ≦ Dx である。したがって、注意 2.20(2)(4)により C ∩D = (C ∩D)x = Cx ∩Dx = Cx ≦ C である。

注意 2.34. 任意の胞体複体は、高々可算個の胞体からなり、その多面体は局所コンパクトかつ第二可算である。胞体複体が有限であることは、その多面体がコンパクトであることと同値である。

胞体複体 K の元である胞体のことを、簡単に K の胞体と呼ぶ。K の胞体の頂点のことを、K の頂点 (vertex) といい、K の頂点全体の集合を V (K) で表す(定義 2.19

を参照)。また、K の部分集合 L がそれ自身胞体複体をなすとき、L を K の部分複体(subcomplex)という。Lが K の部分複体であることは、∅ ∈ Lかつ任意の C ∈ Lおよび D ≦ C に対して D ∈ Lとなることと同値である。K の部分複体の任意個の和集合および共通部分は、再び部分複体となる。胞体複体 K に属する胞体の次元の最大値を K

の次元といい、dimK で表す。

例 2.35. (1) 胞体 C ⊂ Rn に対して、

K(C) = {D |D ≦ C}, K(C) = {D |D < C}

とおく。これらは命題 2.24(2)(3)(8)によりそれぞれ有限胞体複体となり、|K(C)| = C,

|K(C)| = C を満たす。(2) K,Lがともに Rn 内の胞体複体であるとき、注意 2.20(5)により、

{A ∩B |A ∈ K,B ∈ L}

は胞体複体である。これをK,Lの共通部分 (intersection)という。また、K,Lがそれ

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ぞれ Rm, Rn 内の胞体複体であるとき、注意 2.20(5)により、Rm+n 内の胞体の集合

{A×B |A ∈ K,B ∈ L}

は胞体複体である。これをK,Lの直積 (product)といい、K × Lで表す。(3) K が胞体複体、a|K|が錐であるとき、K を底とする錐 aK を

aK = K ∪ {aC |C ∈ K}

により定義する。命題 2.31および命題 1.7により、aK は胞体複体であり、|aK| = a|K|を満たす。(4) 胞体複体 K と整数 r ≧ 0 に対して、Kr = {C ∈ K | dimC ≦ r} は K の部分複体である。Kr を K の r 骨格 (r-skeleton) という。|K| はある有限次元のEuclid 空間 Rn に含まれているから、十分大きい r に対して Kr = K である。また、K0 = {{v} | v ∈ V (K)} ∪ {∅} である。(5) 胞体複体K と C ∈ K に対して、

st(C,K) = {F ∈ K |ある D ∈ K に対して C ≦ D, F ≦ D}

はK の部分複体となる。st(C,K)を C のK におけるスター (star) という。

補題 2.36. 胞体複体K に対して、次が成り立つ。

(1) C,D ∈ K に対して、V (C ∩D) = V (C) ∩ V (D)である。(2) 集合としての直和分解 |K| =

⨿C∈K C が成り立つ。

(3) K の部分複体 L1, L2 に対して、|L1| ⊂ |L2| ならば L1 ⊂ L2 である。とくに、|L1| = |L2|ならば L1 = L2 である。

証明. (1)は、C ∩D ≦ C, C ∩D ≦ D であることと命題 2.24(2)から分かる。(2)は命題 2.33の条件 (2′′)および命題 2.24(4) から分かる。(3)は (2)から直ちに導かれる。

命題 2.37. K1,K2 がともに Rn 内の胞体複体で、ある共通の部分複体 L ⊂ K1,K2 に対して |K1| ∩ |K2| = |L| が成り立つとする。このとき、K1 ∪ K2 は胞体複体であり、|K1 ∪K2| = |K1| ∪ |K2|である。

証明. K1 ∪ K2 が命題 2.24 の条件 (2′′) を満たすことを示せばよい。そこで、C ∈ K1,

D ∈ K2 として、C ∩ D = ∅ を示そう。C ∈ L なら、C,D ∈ K2 となるから、K2

に対する条件 (2′′) により、C ∩ D = ∅ である。よって、C ∈ K1 \ L としてよいが、このときは、補題 2.36(2) を K1 と L に適用して、C ∩ |L| = ∅ を得る。したがって、C ∩ D ⊂ (|K1| \ |L|) ∩ |K2| = ∅となる。

定義 2.38. 胞体複体 K,K ′ に対して K ′ が K の細分 (subdivision) であるとは、|K ′| = |K| であって、各 C ∈ K ′ に対して D ∈ K が存在して C ⊂ D となることをいう。K ′ がK の細分であるとき、K ▷K ′ と書く。

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補題 2.39. K ▷K ′ を胞体複体の細分とし、∅ = D ∈ K ′ とする。このとき、C ∈ K であって、D ⊂ C となるものが一意的に存在する。さらに、この C は D を含むK の最小の胞体に等しく、とくに D ⊂ C を満たす。

証明. C を、Dを含むK の最小の胞体と定義する。x ∈ Dとすると、D = Dx ⊂ Cxであるが、C の最小性から Cx = C となるので、注意 2.20(3)により x ∈ C である。したがって、D ⊂ C である。他の C1 ∈ K が D ⊂ C1 を満たしたとすると、C1 ∩ C ⊃ D = ∅なので、命題 2.33の条件 (2′)により、C1 ≦ C である。よって、C の最小性から、C1 = C

である。

命題 2.40. Lを胞体複体K の部分複体とする。K ▷K ′ のとき、K ′ の部分複体 L′ を

L′ = {C ∈ K ′ |C ⊂ |L|}

で定義すると、L▷ L′ を満たす。

この L′ を、K の細分K ′ が誘導する Lの細分という。

証明. |L| = |L′| を示せばよく、そのためには |L| ⊂ |L′| を示せばよい。x ∈ |L| とすると、x ∈ C となる C ∈ L が存在する。また、|L| ⊂ |K| = |K ′| なので、x ∈ C ′ となる C ′ ∈ K ′ が存在する。補題 2.39 により、C ′ ⊂ D, C ′ ⊂ D となる D ∈ K が存在するが、このとき x ∈ D ∩ C なので、補題 2.36(2) により D = C ∈ L である。よって、C ′ ⊂ D ⊂ |L| なので、C ′ ∈ L′ となるから、x ∈ C ′ ⊂ |L′|である。

注意 2.41. 補題 2.36(3)により、K の細分K ′ が誘導する Lの細分 L′ はK ′ の部分複体であって |L′| = |L|を満たすものとして特徴づけられる。誘導される細分を実際に求めるときにはこの特徴づけを用いることが便利な場合が多い。

補題 2.42. 胞体複体 K に対して dimK = n ≧ 1 であり、L は Kn−1 ⊂ L ⊂ K を満たす部分複体であるとする。また、L′ を Lの細分とする。各 n胞体 C ∈ K \ Lに対して K(C)の細分 K ′(C)が与えられ、各 C ∈ K \ Lと D < C に対して、K ′(C)と L′ はK(D)に同じ細分を誘導すると仮定する。このとき、

K ′ = L′ ∪∪

{K ′(C) |C ∈ K \ L}

はK の細分を与える。

証明. K ′ が胞体複体であることを示せば十分である。それには、K ′ について命題 2.33

の条件 (2′′)が成り立つことが言えればよい(他の条件は容易である)。さらに、(2′′)を確かめるためには、任意の C ∈ K \ L, C ′ ∈ K ′(C)に対して、C ′ ∩ |L′| = ∅と C ′ ∈ L′ の少なくとも一方が成立することを示せばよい。そこで、C ∈ K \ L, C ′ ∈ K ′(C)とする。K(C) ▷K ′(C)だから、命題 2.39により、

C ′ ⊂ D となる D ≦ C がただ一つ存在し、さらに、C ′ ⊂ D が成り立つ。C ′ ∩ |L′| = ∅

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とすると、D ∩ |L| ⊃ C ′ ∩ |L′| = ∅ だから、D = C つまり D < C でなければならない。よって、K ′(C)と L′ はK(D)に同じ細分を誘導するので、C ′ ∈ L′ である。

命題 2.43. L を胞体複体 K の部分複体とする。任意の細分 L ▷ L′ に対して、細分K ▷K ′ であって Lに誘導する細分が L′ であるようなものが存在する。さらに、K が単体複体であれば、K ′ は単体複体に取れる。

証明. 各 i ≧ 0に対して、Ki = L ∪Ki とする。十分大きい iに対して Ki = K であることに注意する。細分 Ki ▷K ′

i であって、Lに誘導する細分が L′ となり、i ≧ 1のときK ′i−1 ⊂ K ′

i となるようなものを帰納的に構成する。まず、K′0 = L′ ∪K0 とする。

K ′i−1 まで構成されたとしよう。K \ Lに属する各 i胞体 C に対して、aC ∈ C を固定

し、細分K ▷K ′i−1 が誘導するK(C)の細分をK ′(C)と書くとき、

K ′i = K ′

i−1 ∪∪

{aCK ′(C) |C はK \ Lに属する i胞体 }

とおく。ここで、aCK ′(C) は胞体複体の錐である(例 2.35(3) と命題 2.24(9) を参照)。補題 2.42により、このK ′

i はKi の細分である。また、L′ ⊂ K ′i なので、K

′i が Lに誘導

する細分は L′ である。十分大きい i に対する K ′i が求める細分 K ′ を与える。作り方か

ら、もしK が単体複体ならば、細分K ′ も単体複体となる。

注意 2.44. 上の命題 2.43の証明で構成された細分K ′ は、具体的には

K ′ = L′∪{aC1· · · aCk

D | k ≧ 1, C1 > · · · > Ck, D ∈ L′, D ⊂ Ck, C1, . . . , Ck ∈ K \L}

で与えられる。上の表記では ∅ ∈ L′ に注意する。

定義 2.45. 命題 2.43の証明において、L′ = Lである場合に構成されるK の細分K ′ を、K の Lを保つ導細分 (derived subdivision)と呼ぶ。これはK \Lの各胞体 C の内部の点 aC ∈ C の取り方に依存して決まるが、常に Lを部分複体にもち、具体的には

K ′ = L ∪ {aC1· · · aCk

D | k ≧ 1, C1 > · · · > Ck > D, D ∈ L, C1, . . . , Ck ∈ K \ L}

で与えられる。とくに L = {∅}である場合、K ′ をK の導細分 (derived subdivision)

と呼び、K(1) で表す。第 r導細分 (r-th derived subdivision)は帰納的に(内点を選ぶことで)K(r) = (K(r−1))(1) で定義される。

2.5 多面体と単体複体

定義 2.46. 胞体複体 K が単体複体 (simplicial complex) であるとは、任意の胞体C ∈ K が単体であることをいう。多面体 P と単体複体 K に対して P = |K| であるとき、K は P の三角形分割 (triangulation)であるという*7。

*7 この三角形分割の定義は、Rourke-Sanderson のテキスト [2] とは異なっているので注意する。

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胞体複体K の細分K ′ が単体細分 (simplicial subdivision)であるとは、K ′ が単体複体であることをいう。

例 2.47. 胞体複体 K に対して、K の第 1導細分 K(1) は常に K の単体細分である。したがって、第 r 導細分K(r) (r ≧ 1)はすべてK の単体細分となる。さらに、K が単体複体で Lがその部分複体である場合、K の Lを保つ導細分を定義するときに各単体 σ ∈ K の内部に取る点として常に重心 σ を選ぶことができる。このようにして得られる導細分を、K の Lを保つ重心細分 (barycentric subdivision)といい、SdLK で表す。SdLK は、具体的には

SdLK = L ∪ {σ1 · · · σkτ | k ≧ 1, σ1 > · · · > σk > τ, τ ∈ L, σ1, . . . , σk ∈ K \ L}

で与えられる*8。とくに、L = {∅}であるときは、これをK の重心細分といい、SdK で表す。SdK は、

SdK = {σ1 · · · σk | k ≧ 1, σ1 > · · · > σk, σ1, . . . , σk ∈ K} ∪ {∅}

で与えられる。

定理 2.48. 任意の胞体複体 K に対して、頂点を増やさない K の単体細分 K ′ が存在する。すなわち、単体複体 K ′ であって、K ▷K ′ かつ V (K) = V (K ′)となるものが存在する。

証明. K の頂点全体の集合に全順序を導入する(K の頂点は高々可算個なので、これは整列定理を使うまでもなくできる)。各 C ∈ K \ {∅}に対して、C の頂点のうちこの順序について最大であるものを vC とし、K(C) = {D ∈ K(C) | vC /∈ D}と定める。すると、命題 2.24(9) により C は錐 vC |K(C)|である。r ≧ 0に対して、r 骨格 Kr の単体細分 K ′

r で次の条件 (i)-(iii)を満たすものを帰納的に構成する。

(i) V (K ′r) = V (K)

(ii) K ′r ⊂ K ′

r+1

(iii) 各 C ∈ Kr に対して、K ′r(C) = vCK

′r(C)

ここで、各 C ∈ Kr, D ∈ Kr+1 に対して、K ′r(C), K

′r(D)は、それぞれ細分Kr ▷K ′

r がK(C), K(D)に誘導する細分を表す。まず、K ′

0 = K(0) とする。K ′r−1 まで、上の (i)-(iii)を満たして構成されたとする。

主張. K の各 r 胞体 C と D < C に対して、細分 K(C)▷ vCK′r−1(C)が K(D)に誘導

する細分K ′r−1(D,C)とK ′

r−1(D)は一致する。

*8 この表示において、構成から明らかなように、σ = σ1 · · · σkτ は τ からはじめて σkτ, σk−1σkτ, . . .

と錐を繰り返し取ることで構成されている。よって、dimσ = dim τ + k で、その頂点集合は V (σ) =

V (τ)∪ {σ1, . . . , σk} である。特別な場合として、この後の SdK の表示に現れる単体 σ1 · · · σk は実際に σ1, . . . , σk を頂点とする (k − 1)単体になっている。

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主張の証明. まず、vC ∈ D の場合を考える。このときは命題 2.24(4) と vC , vD の定義により vD = vC である。K ′

r−1(D) ⊂ K ′r−1(C) により、vDK

′r−1(D) ⊂ vDK

′r−1(C) =

vCK′r−1(C) であるから、注意 2.41によりK ′

r−1(D,C) = vDK′r−1(D) である。一方、帰

納法の仮定 (iii) により K ′r−1(D) = vDK

′r−1(D) であるので、K ′

r−1(D,C) = K ′r−1(D)

である。vC /∈ D の場合、D ∈ K(C)であるので、K ′

r−1(D,C)は K(C) ▷ K ′r−1(C)が K(D)

に誘導する細分に等しいが、それはK ′r−1(D)である。

主張と補題 2.42により、

K ′r = K ′

r−1 ∪ {vCK ′r−1(C) |C はK の r 胞体 }

はKr の単体細分を与え、(i)-(iii)を満たす。十分大きい r に対して、K ′ = K ′r とおけば

K ′ は求める単体細分を与える。

系 2.49. 胞体複体 K1,K2 に対して |K1| = |K2|ならば、K1,K2 の共通の単体細分 K ′

が存在する。

証明. K をK1 とK2 の共通部分(例 2.35(2)参照)とし、K ′ を定理 2.48 により存在するK の単体細分とすればよい。

補題 2.50. 任意の単体 σ ⊂ Rn に対して、単体複体K であって、|K| = Rn かつ σ ∈ K

となるものが存在する。

証明. K0 を、[m1,m1+1]× [m2,m2+1]×· · ·× [mn,mn+1] (mi ∈ Z) の形の立方体とその面の全体からなる胞体複体とし、K ′

0 を定理 2.48により得られるK0 の単体細分とする。K ′

0 を Rn の適切な自己アフィン同型で写したものをK とすれば、σ ∈ K, |K| = Rn

とできる。

定理 2.51. P をコンパクト多面体、Q1, . . . , Qr ⊂ P を有限個のコンパクト部分多面体とする。このとき、P の三角形分割K とその部分複体 Liであって、|Li| = Qi (i = 1, . . . , r)

となるものが存在する。

証明. 命題 2.5 により、P は単体の有限和として P =∪sj=1 σj と表される。このとき、

各 i ∈ {1, . . . , r}に対して Qi は {σj | j = 1, . . . , s}に属するいくつかの単体の和集合に表されるとしてよい。補題 2.50 により、各 j に対して、σj ∈ Kj , |Kj | = Rn となるような単体複体 Kj が存在する。K ′ を、系 2.49 により存在する K1, . . . ,Ks の共通の単体細分とする。K = {σ ∈ K ′ |σ ⊂ P}, Li = {σ ∈ K ′ |σ ⊂ Qi} (i = 1, . . . , r) とおけば、|K| = P であり、Li はK の部分複体で |Li| = Qi である。

定理 2.52. 任意の多面体は三角形分割をもつ。

証明. P を多面体とすると、補題 2.6により、P =∪∞i=1 Pi となるコンパクト多面体の局

所有限な族 (Pi)∞i=1 であって、|i− j| > 1のとき Pi ∩ Pj = ∅であるものが存在する。

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Qi = Pi∩Pi+1 (i ≧ 1), Q0 = ∅とおく。定理 2.51により、各 i ≧ 1に対して、|Ki| = Piとなる単体複体 Ki と部分複体 L+

i−1, L−i ⊂ Ki で、|L+

i−1| = Qi−1, |L−i | = Qi となるも

のが存在する。系 2.49により、各 i ≧ 1に対して L+i , L

−i に共通の単体細分 Li を取るこ

とができる。また、L0 = {∅} とする。命題 2.43 により、Ki の単体細分 K ′i であって、

Li−1 ∪ Li を部分複体にもつようなものが存在する。さて、

K1 =∞∪k=1

K ′2k−1, K2 =

∞∪k=1

K ′2k, L =

∞∪i=1

Li

とおけば、K1,K2 は単体複体であり(局所有限性の条件に注意)、L は K1,K2 の共通の部分複体で、|K1| ∩ |K2| = |L|, |K1| ∪ |K2| = P である。よって、命題 2.37により、K = K1 ∪K2 は単体複体であって |K| = P となる。

定理 2.52の証明とまったく同様の議論により、より強い次の定理を示すことができる。

定理 2.53. 多面体 P ⊂ Rn および P の部分多面体の族 (Qλ)λ∈Λ が、次の条件を満たすとする。

• 各 λ ∈ Λに対して、Qλ は P の閉集合である。• (Qλ)λ∈Λ は P において局所有限である。すなわち、任意の x ∈ P に対して、xのP における開近傍 U で U ∩Qλ = ∅となる λ ∈ Λが有限個に限るようなものが存在する。

このとき、P の三角形分割K とその部分複体の族 (Lλ)λ∈Λ で Qλ = |Lλ| (λ ∈ Λ)となるものが存在する。

2.6 PL写像と単体写像

多面体の間の PL写像 f : P → Qが与えられたとき、P,Qをそれぞれうまく三角形分割し、f が単体複体の構造を保つようにすることを考える。まず、単体複体の構造を保つ写像として、単体写像を定義しよう。

定義 2.54. K,Lをそれぞれ Rn, Rm 内の単体複体とする。写像 f : |K| → |L|がK からLへの単体写像 (simplicial map)であるとは、各 σ ∈ K に対して、f |σ : σ → |L| ⊂ Rm

がアフィン写像であり、かつ f(σ) ∈ L であることをいう。さらに、f が全単射であって f−1 : |L| → |K|が Lから K への単体写像であるとき、f は K から Lへの単体同型(simplicial isomorphism)であるという。

f : |K| → |L| が K から L への単体写像であるとき、簡略に「単体写像 f : K → L」「f : K → L は単体写像である」などと言う。単体同型についても同様である。命題1.27(2)により、K から Lへの単体写像は多面体の間の写像として |K|から |L| への PL

写像となる。また、K から Lへの単体同型は |K|から |L|への PL同相写像となる。

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命題 2.55. 単体写像 f : K → L が |K| から |L| への写像として全単射であるならば、f : K → Lは単体同型である。

証明. f−1 : L → K が単体写像であることを示せばよい。そこで、∅ = τ ∈ Lとする。τの重心 τ に対して x = f−1(τ)とおき、σ ∈ K を、x ∈ σ◦ となるように取る。f が単体写像かつ全単射であることから、f |σ はアフィン写像で f(σ) ∈ Lであり、f−1|f(σ) もアフィン写像である。あとは、f(σ) = τ を示せばよい。命題 2.25(2)により、

f(σ) = f(σx) ⊂ f(σ)τ

である。したがって、f(σ) = f(σ)τ なので、τ ∈ f(σ) である。よって、f(σ) ∩ τ = ∅となるから、f(σ) = τ である。

単体写像 f : K → Lの制限は頂点集合の間の写像 f0 : V (K) → V (L) を定めるが、逆に f はその制限 f0 から決定される。実際、次の命題が簡単に確かめられる。

命題 2.56. K,Lを単体複体とし、頂点集合の間の写像 f0 : V (K) → V (L) が与えられているとする。このとき、各 σ ∈ K に対して像 f0(V (σ)) が L のある単体を張るならば、f0 を拡張する単体写像 f : K → Lが一意的に存在する。さらに、f0 が全単射で、S ⊂ V (K)に対して「S がK の単体を張る ⇐⇒ f0(S)が L

の単体を張る」となるならば、単体写像 f : K → Lは単体同型である。

定理 2.57. f : P → Q ⊂ Rn を PL写像とする。このとき、P = |K|となる単体複体 K

が存在して、各 σ ∈ K に対して f |σ : σ → Rn はアフィン写像となる。

証明. 系 2.10 により、単体の局所有限な族 (σλ)λ∈Λ で、P =∪λ∈Λ σλ でありかつ各

λ ∈ Λに対して f |σλ: σλ → Rn がアフィン写像となるものが存在する。次に、定理 2.53

により、単体複体 K とその部分複体の族 (Lλ)λ∈Λ で |Lλ| = σλ となるものが存在する。このとき、K が求めるものである。

系 2.58. K,Lを単体複体、f : |K| → |L| ⊂ Rn を PL写像とする。このとき、単体細分K ▷K ′ が存在して、各 σ ∈ K ′ に対して f |σ : σ → Rn はアフィン写像となる。

証明. 定理 2.57と系 2.49から分かる。

定理 2.59. K,Lを単体複体とし、f : |K| → |L|とする。各 σ ∈ K に対して Lの部分複体 Lσ が存在して、次を満たすとする。

(1) f |σ はアフィン写像である。(2) f(σ) = |Lσ|である。

このとき、単体細分K ▷K ′ であって、f : K ′ → Lが単体写像となるものが存在する。

証明. σ ∈ K, τ ∈ Lに対して、C(σ, τ) = σ ∩ f−1(τ) と定義する。命題 2.25(1)により、

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C(σ, τ) は胞体であって、C(σ, τ)x = C(σx, τf(x))

を満たす。よって、K ′

0 = {σ ∩ f−1(τ) |σ ∈ K, τ ∈ L}

とおけば、K ′0 は胞体複体の定義 2.32の条件 (1)を満たす。また、条件 (0)(3)も満たすこ

とが容易に確かめられる。よって、K ′0 が胞体複体であることを示すには、命題 2.33 の条

件 (2′′)を確かめればよい。そこで、σ, σ′ ∈ K, τ, τ ′ ∈ Lとし、x ∈ C(σ, τ ) ∩ C(σ′, τ ′) とする。x ∈ σ ∩ σ′ により x ∈ (σx) ∩ (σ′

x) となるので、σx = σ′x である。f(x) ∈ τ ∩ τ ′ に注目すれば、同様に

して、τf(x) = τ ′f(x) も分かる。よって、

C(σ, τ) = C(σ, τ)x = C(σx, τf(x)) = C(σ′x, τ

′f(x)) = C(σ′, τ ′)x = C(σ′, τ ′)

となる。これで条件 (2′′)が確かめられ、K ′0 は胞体複体であることが分かった。

主張. 任意の σ ∈ K, τ ∈ Lに対して、f(C(σ, τ)) ≦ τ である。

主張の証明. もちろん、C(σ, τ) = ∅としてよい。f |σはアフィン写像なので、f(C(σ, τ))は胞体のアフィン写像による像として胞体となる。f(C(σ, τ)) = f(σ ∩ f−1(τ)) = f(σ)∩ τだが、仮定から f(σ) ∩ τ は τ の面の有限和であるので、命題 2.24により、f(σ) ∩ τ ≦ τ

である。よって、f(C(σ, τ)) ≦ τ である。

主張で C(σ, τ)が 1点である場合を考えると、f(V (K ′0)) ⊂ V (L) となることが分かる。

これと f(C(σ, τ)) ⊂ τ により、

f(V (C(σ, τ))) ⊂ V (τ) (⋆)

を得る。K ′ を、定理 2.48 により得られる K ′0 の単体細分で V (K ′) = V (K ′

0) となるものとする。このとき、任意の ρ ∈ K ′ に対して、f |ρ はアフィン写像である。また、ρ ⊂ C(σ, τ)となる σ, τ を選べば、

V (ρ) = V (ρ) ∩ C(σ, τ) ⊂ V (K ′) ∩ C(σ, τ) = V (K ′0) ∩ C(σ, τ) = V (C(σ, τ))

となることと (⋆)により f(V (ρ)) ⊂ V (τ)となるので、f(V (ρ))は Lの単体を張る。よって、命題 2.56により、f はK ′ から Lへの単体写像である。

系 2.60. f : K → Lが単体写像、L▷ L′ が単体細分のとき、ある単体細分K ▷K ′ が存在して f : K ′ → L′ は単体写像となる。

定理 2.61. f : P → Qを固有 PL写像とする。このとき、P,Qの三角形分割 K,L が存在して f : K → Lは単体写像となる。

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証明. 定理 2.57により、P = |K0|となる単体複体 K0 で、各 σ ∈ K0 に対して f |σ がアフィン写像となるものが存在する。f は固有であるから、(f(σ))σ∈K0

は Qにおいて局所有限な多面体の族である。よって、定理 2.53 により、Q = |L|となる単体複体 Lとその部分複体の族 (Lσ)σ∈K0 で |Lσ| = f(σ)となるものが存在する。最後に定理 2.59 により、単体細分K0 ▷K で f : K → Lが単体写像となるものが存在する。

系 2.62. PL写像 f : P → Qにおいて P がコンパクトであるか、または f が PL同相写像であるならば、P,Qの三角形分割K,L が存在して f : K → Lは単体写像となる。

例 2.63. 定理 2.61は f : P → Qが固有であるという条件なしには成り立たないので注意が必要である。実際、P = R+ = [0,∞), Q = I として、f : P → Qを、各 n ∈ R+∩Zに対して f(n) = 1/(n+1)かつ f |[n,n+1]はアフィン写像であるという条件により定義する。すると、f は命題 1.27(2)により PL写像である。もし、定理 2.61のようなK,L が存在すれば、各 R+∩Z ⊂ V (K) であるから {1, 1/2, 1/3, . . .} = {f(n) |n ∈ R+∩Z} ⊂ V (L)

となり、これは Lの局所有限性に反する。

あらかじめ P,Qにそれぞれ三角形分割 K,Lが与えられている場合は、定理 2.61の証明の途中で系 2.49を用いて適切に共通細分を取る修正を加えることで、次を証明できる。

定理 2.64. 任意の単体複体 K,L と固有 PL 写像 f : |K| → |L| に対して、単体細分K ▷K ′, L▷ L′ が存在して f : K ′ → L′ は単体写像となる。

最後に、PL同相写像を単体写像で表した場合は、それが必ず単体同型となることを注意しておこう。

定理 2.65. PL同相写像 f : P → Qと P,Qの三角形分割K,Lに対して f : K → Lが単体写像ならば、f : K → Lは単体同型である。

証明. PL 同相写像 f は |K| から |L| への全単射となるので、これは命題 2.55 から従う。

2.7 多面体の貼り合わせと埋め込み

多面体どうしを PL同相写像で貼り合わせて新たな多面体を構成できることを示そう。まず、次の補題からはじめる。I = [0, 1]の三角形分割 {∅, {0}, {1}, I}をK(I)で表す。

補題 2.66. K を単体複体、L を部分複体とする。このとき、K ′ を K の重心細分(例2.47)とすると、単体写像 φ : K ′ → K(I) が存在して、φ−1(0) = |L|が成り立つ。

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証明. Lの重心細分を L′ と表す。単体写像 φ : K ′ → K(I)を、

φ(σ) =

{0 σ ∈ L のとき

1 σ ∈ K \ L のとき

により定める。このとき、φ−1(0) = |L|であることを確かめよう。そこで、x ∈ |L|とする。x ∈ ρとなる ρ ∈ L′を選ぶと、Lの単体の列 σ1 > · · · > σk が存在して、ρ = σ1 · · · σkである。ところが、このとき各 i に対して φ(σi) = 0 だから、φ(x) = 0 である。逆に、x ∈ |K| に対して φ(x) = 0 であると仮定する。ρ ∈ K ′ を x ∈ ρ となるように取り、ρを K の単体の列 σ1 > · · · > σk を用いて ρ = σ1 · · · σk と表す。すると、x =

∑ki=1 tiσi,∑k

i=1 ti = 1, ti > 0 と表すことができる。もし、ある i に対して σi /∈ L であれば、φ(σi) = 1であるから、φ(x) ≧ ti > 0となり矛盾する。よって、σ1, . . . , σk ∈ Lなので、x ∈ ρ ⊂ |L′| = |L|である。

注意 2.67. 上の補題で、K を重心細分に置き換える操作は一般には省略できない。例えば、K = K(I)とし、Lをその部分複体 L = {∅, {0}, {1}} とすれば、φ−1(0) = |L|となるような単体写像 φ : K → K(I)は存在しない。

定理 2.68. Qi ⊂ Pi ⊂ Rni (i = 1, 2)を閉部分多面体の列とする*9。P1, P2 を PL同相写像 h : Q1 → Q2 により貼り合わせて得られる商位相空間 P1 ∪h P2 を考える。このとき、ある nに対して、Rn の閉部分多面体 P を像にもつ位相的埋め込み P1 ∪h P2 → P ⊂ Rn

が存在し、各 iに対して合成 Pi → P1 ∪h P2 → P が PL埋め込みとなるようにできる。

証明. 定理 2.53により、各 i ∈ {1, 2}に対して Pi の三角形分割Ki を取り、Ki のある部分複体 Li に対して |Li| = Qi となるようにできる。必要なら K1, L1 をその重心細分に置き換えれば、補題 2.66により、単体写像 φ : K1 → K(I) を φ−1(0) = |L1| = Q1 となるように取れる。v ∈ V (K1)に対して h(v) ∈ Rn2 を

h(v) =

{h(v) v ∈ V (L1) のとき

0 v /∈ V (L1) のとき

と定義し、さらに K1 の各単体上アフィン写像として拡張すれば、hを拡張する PL写像h : P1 → Rn2 を得る。同様の構成を k = h−1 : Q2 → Q1 に適用して、k を拡張する PL

写像 k : P2 → Rn1 も得られる。

*9 ここで、Pi が Rni の閉集合であるという仮定は外すことができる。実際、どんな多面体 P ⊂ Rn に対しても、像が閉集合であるような PL埋め込み i : P → Rn+1 が存在する。その構成の概略を述べよう。説明を簡単にするため、P は連結とする。P の三角形分割 K を取り、頂点 v0 ∈ V (K) を一つ固定する。v ∈ V (K) に対して、各 i について vi, vi+1 が K の単体を張るような列 v0, v1, . . . , vn = v が存在する最小の nを n(v)としよう。このとき i(v) = (v, n(v))で定義される i : V (K) → Rn+1 をK の各単体上にアフィン写像として拡張すると、像が閉である PL埋め込み i : P = |K| → Rn+1 を得る。

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以上の準備のもと、αi : Pi → Rn1 × Rn2 × R = Rn1+n2+1 (i = 1, 2)を

α1(x) = (x, h(x), φ(x)), α2(y) = (k(y), y, 0) (x ∈ P1, y ∈ P2)

で定義する。h, k, φは PL写像なので、像 P1 = α1(P1), P2 = α2(P2)は PL写像のグラフとして多面体であり、α1, α2 はそれぞれ PL埋め込みである。また、Pi が Rni の閉集合であるという仮定から、n = n1 + n2 + 1とおけば P1, P2 は Rn の閉集合である。よって、P = P1 ∪ P2 は Rn の閉部分多面体である。さらに、αi は Pi から P への PL埋め込みを与え、同相写像 P1 ∪h P2 → P を誘導する。

上の定理を、有限個の多面体の貼り合わせに拡張しよう。Pi ⊂ Rni (i = 1, . . . ,m) をそれぞれ閉部分多面体とし、Pi には閉部分多面体 Qij (j = 1, . . . ,m) が与えれているとする。さらに、各 i, j に対して PL同相写像 hij : Qji → Qij が与えられ、各 iに対してQii = Pi, hii = idPi であり、かつ、各 i, j, kに対して条件 hjk(Qki ∩Qkj) ⊂ Qji および

hij(hjk(x)) = hik(x) (x ∈ Qki ∩Qkj) (⋆)

を満たすとする。このとき、直和位相空間⨿mi=1 Pi 上の関係 ∼を

x ∼ hij(x) (x ∈ Qji, 1 ≦ i, j ≦ m)

で定義すれば、∼ は同値関係になる*10。そこで、商位相空間 P = (⨿mi=1 Pi)/ ∼ を考

える。

系 2.69. 上の状況において、ある nに対して、Rn の閉部分多面体 P を像にもつ位相的埋め込み P = (

⨿mi=1 Pi)/∼→ P ⊂ Rn が存在し、各 i に対して合成 Pi → P → P が

PL埋め込みとなるようにできる。

証明. mについての帰納法で証明する。m = 1のときは明らかであり、m = 2のときは定理 2.68そのものである。m ≧ 3とする。同値関係 ∼を

⨿mi=2 Pi に制限したものを再

び ∼と書くとき、商空間 P ′ = (⨿mi=2 Pi)/∼を考える。帰納法の仮定により、ある n′ に

対して閉部分多面体 P ′ ⊂ Rn′を像とする位相的埋め込み P ′ → P ′ ⊂ Rn′

が存在し、各i ≧ 2に対して Pi → P ′ → P ′ は PL埋め込みとなる。この PL埋め込みを hi : Pi → P ′

と書こう。Q′ =

∪mi=2 hi(Qi1)とおくと、hi(Qi1)が P ′ の閉部分多面体となることから、Q′ は P ′

の閉部分多面体である。また、Q1 =∪mi=2Q1i は P1 の閉部分多面体である。自然な PL

同相写像 h : Q1 → Q′ を定義したい。i, j ≧ 2と x ∈ Q1i ∩ Q1j に対して、hji(hi1(x)) = hj1(x) ∈ Qj1 となるので、hi1(x)と hj1(x) は P ′ における像が等しく、よって hi(hi1(x)) = hj(hj1(x)) である。よって、PL写像 h : Q1 → Q′ が x ∈ Q1i のとき h(x) = hi(hi1(x))とすることにより定義される。

*10 反射律は明らかで、(⋆)において i = k として、h−1ij = hji を得るから対称律が成り立つ。推移律は若干

の注意を要する。hij(hjk(x)) が定義されるときにそれが hik(x) に等しいことをいえばよく、(⋆) によれば、それには hkj(Qji ∩Qjk) ⊂ Qki が言えればよいが、それは既に仮定している条件である。

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h が PL 同相写像であることを示すため、h の連続な逆 k : Q′ → Q1 を構成しよう。i, j ≧ 2と x ∈ hi(Qi1) ∩ hj(Qj1)に対して、h−1

i (x) ∈ Qi1 ⊂ Pi と h−1j (x) ∈ Qj1 ⊂ Pj

は P ′ における像が等しいから、h−1j (x) ∈ Qji かつ hij(h

−1j (x)) = h−1

i (x) である。

よって、(⋆) により、h1i(h−1i (x)) = h1i(hij(h

−1j (x))) = h1j(h

−1j (x)) である。よって、

x ∈ hi(Qi1)に対して k(x) = h1i(h−1i (x)) とすることで、k : Q′ =

∪mi=2 hi(Qi1) → Q1

が定義される。k は各閉集合 hi(Qi1)上で連続であるから、k は連続である。k が hの逆を与えることは定義から直ちに確認できる。これで h : Q1 → Q′ が PL 同相写像であることが分かった。P1 と P ′ を h により貼り合わせた空間 P1 ∪h P ′ を考える。自然な同相写像

(⨿mi=1 Pi)/∼= P → P1 ∪h P ′ があるので、この同相写像により、以下では P1 ∪h P ′ と

P を同一視する。定理 2.68により、ある nに対して、Rn の閉部分多面体 P を像にもつ位相的埋め込み

P1∪hP ′ = P → P ⊂ Rnが存在し、合成 P1 → P → P , P ′ → P → P はそれぞれ PL埋め込みとなる。i ≧ 2に対して、自然な写像 Pi → P ′ は PL埋め込みだったから、これを上の合成写像にさらに合成して、Pi → P → P が PL埋め込みであることが分かる。

次に、与えられた n次元以下の多面体、あるいはそれらを可算個直和したものを、2n+1

次元の Euclid空間に閉部分多面体として埋め込めることを証明しよう。

定理 2.70. (Pi)∞i=1 を多面体の族とし、Pi の次元はすべて n以下であると仮定する(定

義 2.8)。このとき、PL埋め込み hi : Pi → R2n+1 (i = 1, 2, . . .) で、次を満たすものが存在する。

(1) 直和空間からの写像⨿∞i=1 hi :

⨿∞i=1 Pi → R2n+1 は位相的な埋め込みである。

(2)∪∞i=1 hi(Pi)は R2n+1 の閉部分多面体である。

証明. 定理 2.52 により、各 i に対して、Pi の三角形分割 Ki を取ることができる。注意2.34により、頂点の集合 V (Ki) は高々可算だから、直和集合 V =

⨿∞i=1 V (Ki)は高々可

算である。そこで、V = {vk | k = 1, 2, . . .}と番号づける(V は以下では無限集合とするが、有限集合の場合でも同様である)。pk = (k, 0, . . . , 0) ∈ R2n+1 (k = 1, 2, . . .)とする。k ≧ 1について帰納的に qk ∈ R2n+1

を以下の条件を満たすように取る。

(i) |pk − qk| < 1/2

(ii) 任意の 1 ≦ l0 ≦ · · · ≦ l2n ≦ k − 1に対して、qk は ql0 , . . . , ql2n が張る(高々 2n

次元の)アフィン部分空間に属していない。

R2n+1 において 2n次元以下のアフィン部分空間は内点をもたない閉集合であるから、qkを取ることは実際に可能である。このように帰納的に定義された {qk | k = 1, 2, . . .}から任意の (2n+ 2)個以下の元を選ぶと、(ii)により、それらは常にアフィン独立となっていることに注意する。

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さて、h : V → R2n+1を h(vk) = qkにより定義し、hi = h|V (Ki)とする。各 iに対して、hi を Ki の各単体上でアフィン写像として拡張すると、PL写像 hi : Pi = |Ki| → R2n+1

が得られるが、この hi (i = 1, 2, . . .)が条件を満たすことを示そう。

主張 1. 各 iに対して、hi : Pi → R2n+1 は単射である。

主張 1の証明. x, y ∈ |Ki| として、hi(x) = hi(y) とする。x ∈ σ ∈ Ki, y ∈ τ ∈ Kj

となる σ, τ ∈ Ki を取る。V (σ ∩ τ) = V (σ) ∩ V (τ), V (σ), V (τ) の元の個数をそれぞれ r, s, t とおき、V (σ) ∩ V (τ) = {vk1 , . . . , vkr}, V (σ) = {vk1 , . . . , vks}, V (τ) =

{vk1 , . . . , vkr , vks+1, . . . , vkN } と表そう。 ただし、N = s+ t− rとする。このとき、x, y

はそれぞれ σ, τ の頂点の凸結合として x =∑Nj=1 sjvkj , y =

∑Nj=1 tjvkj と表すことがで

きる。ただし、vkj /∈ V (σ), vkj /∈ V (τ)のときはそれぞれ sj = 0, tj = 0 であるとする。このとき、

N∑j=1

sjqkj =N∑j=1

sjf(vkj ) = f(x) = f(y) =N∑j=1

tjf(vkj ) =N∑j=1

tjqkj

である。ところが、N = s + t − r ≦ s + t = dimσ + dim τ + 2 ≦ 2n + 2 により、qk1 , . . . , qkN はアフィン独立であるから、sj = tj (j = 1, . . . , N) である。よって、x =

∑Nj=1 sjvkj =

∑Nj=1 tjvkj = y である。

主張 1と全く同じ議論により、i = j のとき hi(Pi) ∩ hj(Pj) = ∅ であることも証明できる。よって、

⨿∞i=1 hi :

⨿∞i=1 Pi → R2n+1 は単射である。あとは、次の主張が示せれば

よい。

主張 2.⨿∞i=1 hi :

⨿∞i=1 Pi → R2n+1 は固有写像である。

実際、⨿∞i=1 hi が固有写像といえれば、この写像は単射かつ固有であるから、閉埋め

込みであり、とくに像∪∞i=1 hi(Pi) は R2n+1 は閉集合である。さらに、各 i に対して

hi : Pi → R2n+1 も固有 PL写像となるから、系 2.12により、hi(Pi)は多面体となり、したがって hi は PL埋め込みである。さらに、

⨿∞i=1 hi の固有性により (hi(Pi))

∞i=1 は局所

有限となるから、∪∞i=1 hi(Pi)も多面体となり、これですべて証明が終わる。

主張 2の証明. 各 k ≧ 1に対して、

Ck =∞∪i=1

{x ∈ Pi | pr1 ◦hi(x) ≦ k}

が⨿∞i=1 Pi のコンパクト集合であることを示せばよい。ここで、pr1 : R2n+1 → R は第 1

座標への射影とする。まず、i0 ≧ 1を十分大きく取り、

∪i0i=1 V (Ki) ⊃ {v1, . . . , vk}となるようにする。i > i0

とすると、v ∈ V (Ki)に対して pr1 ◦hi(v) > k である。したがって、hi が Ki の各単体

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上アフィン写像であることにより、任意の x ∈ Pi = |Ki|に対して pr1 ◦hi(x) > k である。以上から、Ck ⊂

⨿i0i=1 Pi である。

Ck,i = {x ∈ Pi | pr1 ◦hi(x) ≦ k} とおく。C =∪i0i=1 Cki であるから、各 i ≦ i0

に対して Ck,i がコンパクトであることを示せばよい。i ≦ i0 とし、Vi を有限集合Vi = V (Ki) ∩ {v1, . . . , vk}とする。σ ∈ Ki, V (σ) ∩ Vi = ∅とすると、任意の v ∈ V (σ)

について pr1 ◦hi(v) > k であり、よって σ ∩ Ck,i = ∅である。したがって、

Ck,i ⊂∪

{σ ∈ Ki |V (σ) ∩ Vi = ∅}

である。Vi は有限集合だから、Ki の局所有限性により、上の式の右辺はコンパクト集合の有限和となっている。よって、Ck,i はコンパクトである。

以上で定理が示された。

3 PL多様体

3.1 PL多様体の定義

微分トポロジーでの可微分多様体に対応して、PL トポロジーの中心的な研究対象となっているのが PL多様体である。ここでは、「境界つき多様体」を単に多様体と呼ぶ流儀を取る。n次元の閉じた上半空間を Rn+ で表す。つまり、

Rn+ = {(x1, . . . , xn) ∈ Rn |xn ≧ 0}

とする。n = 0の場合は、R0+ = R0 = {0}とする。

定義 3.1. n ≧ 0 とする。多面体M が n 次元 PL 多様体 (PL n-manifold) であるとは、任意の x ∈ M に対して、xのある開近傍 U から Rn+ のある開集合 V への PL同相写像 h : U → V が存在することをいう。

定義から明らかに、PL 多様体であることは PL 不変な概念である。すなわち、M とN が PL 同相な多面体であるとき、M が n 次元 PL 多様体であれば N も n 次元 PL

多様体である。n 次元 PL 多様体 M の点 x に対して、定義 3.1 のような PL 同相写像h : U → V を x の座標近傍 (coordinate neighborhood) と呼ぶ。次の命題は、初歩的な代数的トポロジーから証明される*11。

*11 実際、命題を示すには次が分かればよい:「開集合 V,W ⊂ Rn+ と x ∈ V および同相写像 h : V → W に対

して、x ∈ Rn−1×{0} ならば h(x) ∈ Rn−1×{0} である」。この事実を証明するには、ホモロジー群の切除定理からHn(Rn

+,Rn+ \{x}) ∼= Hn(V, V \{x}) ∼= Hn(W,W \{h(x)}) ∼= Hn(Rn

+,Rn+ \{h(x)})

となることに注意すればよい。

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命題 3.2. n ≧ 1のとき、n次元 PL多様体M の点 xに対して次は同値である。

(1) xのある座標近傍 h : U → V に対して、h(x) ∈ Rn−1 × {0}となる。(2) xの任意の座標近傍 h : U → V に対して、h(x) ∈ Rn−1 × {0}となる。

なお、§3.2で示す結果(リンクの PL不変性)を用いれば、この命題を PLトポロジーの手法のみで証明することも可能である。詳細については、付録 B「PL多様体の境界について」を参照のこと。n次元 PL多様体M に対して、上の命題 3.2の同値な条件を満たすような点 x全体の集合をM の境界 (boundary) といい、∂M で表す(n = 0の場合は、∂M = ∅ と定義する)。∂M はM の閉集合である。∂M = ∅であるような PL多様体M を、境界のないPL多様体 (PL manifold without boundary)という。境界のない PL多様体M がコンパクトであるとき、M を閉多様体 (closed manifold)という。n次元 PL多様体M に対して、M の開集合 IntM =M \∂M をM の内部 (interior)

という。IntM は境界のない n次元 PL多様体となる。また、n ≧ 1のとき ∂M は境界のない (n− 1)次元 PL多様体となる。

例 3.3. (1) Rn,Rn+ は n次元 PL多様体である。また、I = [0, 1]は 1次元 PL多様体である。(2) n次元 PL多様体の開集合は n次元 PL多様体である。(3) m次元 PL多様体M と n次元 PL多様体 N に対して、M ×N は (m + n)次元

PL多様体で、∂(M ×N) = (∂M ×N) ∪ (M × ∂N) となる。

上の例のうち (1)(2)は簡単に確かめられる。(3)はそれほど明らかではないが、次の補題により「カドを平らにする」ことですぐに分かる。補題を述べる前に、多面体の組の PL 同相についての記法と用語を導入しておく。

P,Q を多面体、P ′ ⊂ P , Q′ ⊂ Q をそれぞれ部分多面体とするとき、PL 同相写像f : (P, P ′) → (Q,Q′) とは PL 同相写像 f : P → Q であって f(P ′) = Q′ を満たすものを意味する。このような f が存在するとき、(P, P ′)と (Q,Q′) は PL同相であるという。とくに P ′, Q′ がそれぞれ一点集合 {a}, {b} であるときは、f : (P, a) → (Q, b)と書く。

補題 3.4. (Rm+ ×Rn+, L) と (Rm+n+ ,Rm+n−1) は PL同相である。ここで、L = (Rm−1×

Rn+) ∪ (Rm+ × Rn−1)とする。

証明. まず、m = n = 1の場合は、求める PL同相写像 h : R1+ × R1

+ → R2+ が

h(x, y) =

{(x− y, y) x ≧ y ≧ 0 のとき

(x− y, x) y ≧ x ≧ 0 のとき

により定義できる。一般の場合は、φ : Rm+n → Rm+n を

φ(x1, . . . , xm+n) = (x1, . . . , xm−1, xm+1, . . . , xm+n−1, xm, xm+n)

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で定めれば、合成 (idRm+n−2 ×h) ◦ φ : Rm+ × Rn+ → Rm+n+ が求める PL 同相写像であ

る。

例 3.3(1)(3)により、n ≧ 0に対して、In = [0, 1]n はコンパクト n次元 PL多様体である。In と PL同相な多面体を PL n次元球体、あるいは単に PL n球体 (PL n-ball)

という。また、In の境界は、(3)により

∂In = {(x1, . . . , xn) ∈ In |ある i に対して xi ∈ {0, 1}}

となる。また、∂In はコンパクトで境界のない (n − 1)次元 PL多様体、つまり (n − 1)

次元閉 PL多様体である。∂In と PL同相な多面体を PL (n− 1)次元球面、あるいは単に PL (n − 1) 球面 (PL (n − 1)-sphere) という。PL (−1) 球面は空集合である。PL

(−1)球体は空集合であると定義する。

命題 3.5. B1, B2 をそれぞれ PL n 次元球体とする。このとき、任意の PL 同相写像∂B1 → ∂B2 は PL同相写像 B1 → B2 に拡張できる。

証明. B1 = B2 = [−1, 1]n としてよい。[−1, 1]n は原点 0を頂点とし ∂[−1, 1]n を底とする錐であるから、命題 1.32 により、任意の PL同相 ∂[−1, 1]n → ∂[−1, 1]n は錐を取ることで PL同相 [−1, 1]n → [−1, 1]n に拡張できる。

3.2 リンクの PL不変性

PL多様体の三角形分割は、各頂点の周りの様子によって特徴づけることができる。これを定式化して証明するため、しばらく単体複体と多面体についての一般論に戻る。K が単体複体で v が K の頂点であるとき、v の K におけるスター (star) とリンク

(link)を

st(v,K) = {σ ∈ K |ある τ ∈ K に対して v ∈ τ かつ σ ≦ τ}lk(v,K) = {σ ∈ st(v,K) | v /∈ σ}

で定義する。このうち、st(v,K)は胞体複体におけるスター(例 2.35(5))の特別な場合である。st(v,K), lk(v,K)はK の部分複体である。さらに、K の局所有限性から分かるように、これらは有限部分複体である。各 σ ∈ lk(v,K)に対して、vσは錐である。さらに、σ, τ ∈ lk(v,K)に対して補題 2.36(1)

により、V (vσ ∩ vτ) = V (vσ) ∩ V (vτ) = {v} ∪ (V (σ) ∩ V (τ)) = {v} ∪ V (σ ∩ τ) =

V (v(σ ∩ τ)) となることから、vσ ∩ vτ = v(σ ∩ τ) である。よって、命題 1.8 により、v| lk(v,K)| は錐であることが分かる。したがって、単体複体としてスターはリンクの錐であること、すなわち、

st(v,K) = v lk(v,K)

が分かる。

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さらに、v のK におけるオープンスター (open star) O(v,K)を

O(v,K) = | st(v,K)| \ | lk(v,K)|

= |K| \∪

{σ ∈ K | v /∈ σ}

と定義する。O(v,K) は v の |K| における開近傍である。よって、| st(v,K)| =

v| lk(v,K)|は多面体 |K|における v の錐近傍を与え、しかも、この錐近傍は命題 1.13 の条件を満たしている。後になって使う事実であるが、オープンスターの全体は開被覆をなす。

補題 3.6. 単体複体K に対して、{O(v,K) | v ∈ V (K)} は |K|の開被覆である。

証明. x ∈ |K| に対して、x ∈ σ となるように σ ∈ K を選び(補題 2.36(2))、σ の頂点v を一つ固定する。このとき、x ∈ O(v,K) である。実際、そうでないとすると、あるτ ∈ K に対して x ∈ τ , v /∈ τ であるが、このとき x ∈ σ ∩ τ により σ ∩ τ = ∅であるから、命題 2.33の条件 (2′)により、v ∈ σ ≦ τ となり矛盾する。

次の補題が、リンクの PL同相不変性(定理 3.10)の証明の鍵となる。

補題 3.7. K を単体複体、v をK の頂点、K ▷K ′ を単体細分とする。このとき、PL同相写像 | lk(v,K ′)| → | lk(v,K)|が存在する。

証明. 最も安直な方法は、x ∈ | lk(v,K ′)|に対して、線分 vxを xの側に延長した半直線を考え、それと | lk(v,K)|との交点を π(x)と定めることだろう。しかし、例 2.27から分かるように、この π : | lk(v,K ′)| → | lk(v,K)|は一般には PL写像ではない。そこで、次のような修正を行う。σ ∈ lk(v,K ′)とする。vσ ⊂ vτ となるように τ ∈ lk(v,K)を選ぶと、π|σ は放射投影

vτ \{v} → τ の制限に等しい。よって、系 2.29(5)により、π(σ)は単体である。したがって、L = {π(σ) |σ ∈ K}は単体からなる集合である。さらに、系 2.29(4)を用いると、Lが単体複体で lk(v,K)▷Lであり、各 σ ∈ lk(v,K ′) に対して π(V (σ)) = V (π(σ))であることが分かる。よって、命題 2.56 により、π′

0 = π|V (lk(v,K′))は単体同型 π′ : lk(v,K ′) → L

を誘導し、これは PL同相写像 π′ : | lk(v,K ′)| → |L| = | lk(v,K)|を定める。

上で定義された PL 同相写像 π′ : | lk(v,K ′)| → | lk(v,K)| を擬放射投影 (pseudo-

radial projection)という。

補題 3.8. v, w をそれぞれ単体複体 K,L の頂点とする。(|K|, v) と (|L|, w) が PL 同相であるならば、(| st(v,K)|, | lk(v,K)|)と (| st(v, L)|, | lk(w,L)|)も PL同相である。

証明. f : (|K|, v) → (|L|, w) を PL 同相写像とする。系 2.62 および定理 2.65 により、K,L の単体細分 K ′, L′ が存在して f : K ′ → L′ は単体同型となる。f は PL 同相写像| lk(v,K ′)| → | lk(w,L′)|を誘導するが、これと補題 3.7の PL同相写像を合成すること

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で、PL同相写像 | lk(v,K)| → | lk(w,L)|が得られる。この写像の錐を取ることで、求める PL同相写像を得る。

多面体のリンクの PL不変性を示すため、次をあらかじめ証明しておく。

補題 3.9. P を多面体、a ∈ P とし、N = aLを aの P の錐近傍で、命題 1.13の条件を満たすものとする。すなわち、Lは P の部分多面体で、N \ Lは P の開集合であると仮定する。このとき、aを頂点にもつ P の三角形分割K で | lk(a,K)| = Lとなるものが存在する。

証明. 定理 2.53により、P の aを頂点にもつ三角形分割K0とその部分複体 J で、|J | = L

となるものが存在する。さらに、単体複体K1 を錐 aJ と定義すると、|K1| = N である。次に、U = N \ L とおき、K0 の部分複体 K2 を K2 = {σ ∈ K0 |σ ∩ U = ∅} で定める。K1,K2 を「貼り合わせて」K を作りたいが、そのために次を示す。

主張. |K2| = P \ U である。

主張の証明. 定義から |K2| ⊂ P \ U である。逆の包含を示すため、x ∈ P \ |K2|とする。x ∈ σ となる σ ∈ K0 を取れば、σ ∩ U = ∅ である。U は開集合で σ は σ で稠密だから、σ ∩ U = ∅である。また、σ ∩ L = σ ∩ |J | = ∅ とすれば補題 2.36(2)により σ ∈ J

であり、よって σ ⊂ Lだから、σ ∈ K2 となり x /∈ |K2| に反する。よって、σ ∩ L = ∅である。P \ Lは二つの開集合 U,P \N の交わりのない和集合であり、σ は連結だから、σ ⊂ U でなければならない。よって、x ∈ U である。

K1,K2 はともに J を部分複体にもち、|K1| ∩ |K2| = N ∩ (P \ U) = L = |J | であるから、命題 2.37 により、K = K1 ∪ K2 は単体複体であり、|K| = P , | lk(a,K)| =| lk(a,K1)| = |J | = Lである。

定理 3.10. P1, P2 を多面体、a1 ∈ P1, a2 ∈ P2 とし、Ni = aiLi を ai の Pi における錐近傍とする (i = 1, 2)。ただし、Li は Pi の部分多面体であるとする。このとき、(P1, a1)

と (P2, a2)が PL同相ならば、(N1, L1)と (N2, L2)も PL同相である。

証明. i = 1, 2に対して Ui = Ni \ Li が Pi の開集合である場合については、補題 3.8 と補題 3.9を組み合わせれば従う。Ui が開集合と限らない場合は、命題 1.13 を用いて、L′

i が部分多面体であるような a

の Pi における錐近傍 N ′i = aL′

i ⊂ Ni を、U ′i = N ′

i \L′i が Pi の開集合であるように取れ

る。あとは、(Ni, Li)と (N ′i , L

′i)が PL同相であればよいが、これは、Ui, U ′

i がともに多面体 Ni の開集合であることに注目すれば先に示した特別な場合から従う。

リンクの PL不変性の応用として、n胞体が PL n球体になることが確かめられる。

定理 3.11. 任意の n胞体 C に対して、(C, C)は (In, ∂In) と PL同相である。とくに、C は PL n球体、C は PL (n− 1)球面である。

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証明. C を n胞体とする。C ⊂ Rn, 0 ∈ C であるとしてよい。ε > 0を十分小さく取れば、Nε(0,Rn) = 0Nε(0,Rn) は 0 の C における錐近傍である。一方 C = 0C も 0 の錐近傍を与えるので、定理 3.10により、(C, C) は (Nε(0,Rn), Nε(0,Rn)) に PL同相である。

上の定理から、n胞体 C の n次元 PL多様体としての境界 ∂C と内部 IntC がそれぞれ C, C に等しいことも分かる。そこで、以下では、胞体 C の境界、内部はそれぞれ ∂C,

IntC で表す。

定理 3.12. n次元 PL 多様体M の点 xに対して、部分多面体 L ⊂ M が xのリンクであるとする。すなわち、xLが xの錐近傍をなすとする。このとき、x ∈ IntM ならば L

は PL (n− 1)球面、x ∈ ∂M ならば Lは PL (n− 1)球体である。

証明. 定理 3.10により、それぞれ一つの具体例について示せば十分である。そこでM をn単体 σ とする。x ∈ σ = Intσ のとき、σ は xのリンクであるが、これは定理 3.11により PL (n− 1)球面である。また、xを σ の頂点の一つとすると、x ∈ σ = ∂σ であるが、このときは σ のある (n− 1)次元の面 τ について σ は錐 xτ となる。よって、τ は v のリンクであるが、τ は定理 3.11により PL (n− 1)球体である。

3.3 単体のリンク

ここでは単体複体における頂点のリンクの概念を単体のリンクへと拡張し、いくつかの補題を証明しておく。単体複体 K と単体 σ ∈ K に対して、σ の K におけるスターは st(σ,K) = {τ ∈

K |ある ρ ∈ K に対して σ ≦ ρ, τ ≦ ρ}で定義される(例 2.35(5))。さらに、σ の K におけるリンク (link)を

lk(σ,K) = {τ ∈ st(σ,K) | τ ∩ σ = ∅}

で定義する。これは K の有限部分複体である。また、σ の K におけるオープンスター(open star) O(σ,K)を

O(σ,K) =∩

v∈V (σ)

O(v,K)

= |K| \∪

{τ ∈ K |σ は τ の面ではない }

で定義する。

補題 3.13. 単体複体K とその単体 σ ∈ K に対して、

Intσ ⊂ O(σ,K) ⊂ | st(σ,K)|

が成り立つ。よって、| st(σ,K)|は Intσ の閉近傍である。

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証明. 命題 2.33の条件 (2′)により、τ ∈ K に対して Intσ ∩ τ = ∅ならば σ ≦ τ である。よって、Intσ ⊂ O(σ,K) である。もう一つの包含関係を示すため、x ∈ |K| \ | st(σ,K)|とする。x ∈ τ となる τ ∈ K を選ぶと、σは τ の面ではあり得ないので、τ ∩O(σ,K) = ∅である。よって、x /∈ O(σ,K) である。

単体 σ と面 τ ≦ σ に対して、τ に属していない σ の頂点すべてが張る単体を σ/τ で表す。ただし、v が σ の頂点で τ = {v}のときは σ/τ を σ/v で表す。次の性質は簡単に確かめられる。

補題 3.14. K を単体複体とし、τ ≦ σ ∈ K, ρ ∈ K とするとき、次が成り立つ。

(1) σ/σ = ∅, σ/∅ = σ

(2) σ/τ ≦ σ, (σ/τ) ∩ τ = ∅(3) ρ ≦ σ, ρ ∩ τ = ∅ =⇒ ρ ≦ σ/τ

(4) τ ≦ ρ, σ/τ ≦ ρ =⇒ σ ≦ ρ

(5) τ ∩ ρ = ∅, (σ/τ) ∩ ρ = ∅ =⇒ σ ∩ ρ = ∅

補題 3.15. 単体複体K と単体 σ ∈ K および σ の面 τ に対して、τ ′ = σ/τ とおけば、

lk(σ,K) = lk(τ, lk(τ ′,K))

である。

証明. 以下では、補題 3.14で述べられた性質は断りなく用いる。τ, τ ′ ≦ σ, τ ∩ τ ′ = ∅なので、τ ∈ lk(τ ′,K)である。よって、示すべき式の右辺 lk(τ, lk(τ ′,K))は意味を持つ。ρ ∈ lk(σ,K)とする。このとき、ρ1 ∈ K が存在して、σ ≦ ρ1, ρ ≦ ρ1, ρ ∩ σ = ∅である。よって、τ ′ ≦ ρ1, ρ∩ τ ′ = ∅ であるから、ρ ∈ lk(τ ′,K)である。さらに、ρ2 = ρ1/τ

とすると、ρ ≦ ρ2 ∈ lk(τ ′,K), τ ≦ ρ2, ρ ∩ τ = ∅ であるから、ρ ∈ lk(τ, lk(τ ′,K)) である。逆に、ρ ∈ lk(τ, lk(τ ′,K))とすると、ρ1 ∈ lk(τ ′,K)が存在して、ρ, τ ≦ ρ1, ρ∩τ = ∅である。さらに、lk(τ ′,K) の定義により、ρ2 ∈ K が存在して、ρ1, τ ′ ≦ ρ2, ρ1∩τ ′ = ∅である。すると、τ, τ ′ ≦ ρ2 であるから σ ≦ ρ2 であり、一方 ρ ≦ ρ2 である。また、ρ∩ τ = ∅かつ ρ ∩ τ ′ = ∅だから ρ ∩ σ = ∅である。以上から、ρ ∈ lk(σ,K)である。

3.4 独立な多面体のジョイン

A,B ⊂ Rn が独立であるとは、A ∩B = ∅であって、条件

a, a′ ∈ A, b, b′ ∈ B, (ab) ∩ (a′b′) = ∅ =⇒ a = a′, b = b′

を満たすことをいうのであった(§1.1)。とくに、A = {a}の場合、A,B が独立であることは、aB が錐であることにほかならない。

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以下では、A,B ⊂ Rn が独立であるときに、強調の意味で、ジョイン AB のことをA ⋆ B と書くことがある。

補題 3.16. σ, τ が単体 ρ ⊂ Rn の面であるとき、σ ∩ τ = ∅ならば、σ, τ は独立である。

証明. p = dimσ, q = dim τ とするとき、p ≦ q である場合に限って示せばよい。さらにこれを pに関する帰納法で示す。p = −1のときは明らかであるから、p ≧ 0としよう。σの頂点 v を一つ選び、σ′ = σ/v とすると、στ は錐 v(σ′τ)なので、{v}, σ′τ は独立である。また、帰納法の仮定より、σ′, τ も独立である。よって、補題 1.21により、σ = vσ′,

τ も独立である。

上の補題の逆として、次も成り立つ。

補題 3.17. σ, τ ⊂ Rn が二つの独立な単体であるとき、σ ⋆ τ は単体であり、その頂点全体の集合は V (σ ⋆ τ) = V (σ) ∪ V (τ)で与えられる。

証明. p = dimσ, q = dim τ とする。p+ q に関する帰納法によって示そう。p+ q = −2

のとき、すなわち σ = τ = ∅ であるときは明らかである。そこで、p + q ≧ −1 とする。このとき、σ, τ の少なくとも一方は空でない。たとえば、σ = ∅ であるとし、v を σ の頂点の一つとする。σ′ = σ/v とおく。このとき、σ′, τ は独立だから、帰納法の仮定から、σ′τ = σ′ ⋆ τ は単体で、V (σ′ ⋆ τ) = V (σ′) ∪ V (τ) である。一方、σは錐 vσ′ なので、{v}, σ′ は独立である。また、σ = vσ′, τ は仮定により独立である。よって、補題 1.21 により、{v}, σ′τ は独立であるから、σ ⋆ τ は v を頂点として単体σ′ ⋆ τ を底とする錐である。よって、命題 2.2(2) により、στ = σ ⋆ τ は単体であり、V (σ ⋆ τ) = {v} ∪ V (σ′ ⋆ τ) = {v} ∪ V (σ′) ∪ V (τ) = V (σ) ∪ V (τ)である。

K,L が Rn 内の単体複体であるとき、K,L が独立 (independent) であることを、|K|, |L| ⊂ Rn が独立であることとして定義する。有限単体複体K,Lが独立であるとき、K,Lの単体ジョイン (simplicial join) KLを

KL = {σ ⋆ τ |σ ∈ K, τ ∈ L}

によって定義する。補題 3.17により、これは Rn 内の単体からなる集合である。さらに、注意 1.20(3) により、任意の σ, σ′ ∈ K, τ, τ ′ ∈ L に対して、

(σ ⋆ τ) ∩ (σ′ ⋆ τ ′) = (σ ∩ σ′) ⋆ (τ ∩ τ ′)

である。このことから、KLは有限単体複体となることが分かる。σ∅ = σ, ∅τ = τ であることからK,LはそれぞれKLの部分複体となっていることに注意する。

注意 3.18. K,Lに有限性を仮定しない場合、上のようにKLを定義しても一般には局所有限性の条件が成り立たず、単体複体とならない。

§3.2の最初に見たように、単体複体K の頂点 v に対して、スター st(v,K)はリンクの錐として st(v,K) = v lk(v,K)と表されるのだった。これを一般化して、次が成り立つ。

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命題 3.19. K を単体複体、σ ∈ K とするとき、σ, | lk(σ,K)| は独立であって、

st(σ,K) = K(σ) lk(σ,K), | st(σ,K)| = σ ⋆ | lk(σ,K)|

となる。ここで、K(σ)は σ の面全体のなす単体複体である。

証明. 注意 1.20(4)を用いて、σ と | lk(σ,K)|の独立性を示そう。各 τ ∈ lk(σ,K)に対して、σ と τ はあるK の共通の単体の面であり、σ ∩ τ = ∅であるから、補題 3.16 により、σ, τ は独立である。また、τ1, τ2 ∈ lk(σ,K)とすると、補題 3.17と補題 2.36(1)により、

V ((σ ⋆ τ1) ∩ (σ ⋆ τ2)) = V (σ ⋆ τ1) ∩ V (σ ⋆ τ2)

= (V (σ) ∪ V (τ1)) ∩ (V (σ) ∪ V (τ2))

= V (σ) ∪ (V (τ1) ∩ V (τ2))

= V (σ) ∪ V (τ1 ∩ τ2)= V (σ ⋆ (τ1 ∩ τ2))

である。よって、(σ ⋆ τ1) ∩ (σ ⋆ τ2) = σ ⋆ (τ1 ∩ τ2)である。以上から、注意 1.20(4)により、σ, | lk(σ,K)|は独立である。残る二つの式は、定義からすぐに示される。

P,Q ⊂ Rn を独立なコンパクト多面体とする。このとき、P = |K|, Q = |L|と三角形分割すると、K,Lは有限単体複体であるから(注意 2.34)、KLが定義され、P ⋆Q = |KL|となるから、ジョイン P ⋆ Qは多面体である。次に、P,Q ⊂ Rm および P ′, Q′ ⊂ Rn がそれぞれ独立なコンパクト多面体であるとし、

PL写像 f : P → P ′, g : Q→ Q′ が与えられたとする。このとき、f と g のジョインと呼ばれる写像 f ⋆ g : P ⋆ Q→ P ′ ⋆ Q′ を、f ⋆ g|P = f , f ⋆ g|Q = g および

f ⋆ g((1− t)x+ ty) = (1− t)f(x) + tg(y) (x ∈ P, y ∈ Q, t ∈ I)

によって定義する。

命題 3.20. P,Q ⊂ Rm および P ′, Q′ ⊂ Rn をそれぞれ独立なコンパクト多面体とし、f : P → P ′, g : Q→ Q′ を PL写像とする。このとき、ジョイン f ⋆ g : P ⋆ Q→ P ′ ⋆ Q′

は PL写像である。

証明. 定理 2.61 により、P = |K|, P ′ = |K ′|, Q = |L|, Q′ = |L′| と三角形分割して、f : K → K ′, g : L → L′ がそれぞれ単体写像となるようにできる。いま KL, K ′L′ はP ⋆Q, P ′ ⋆ Q′ の三角形分割となるが、このとき f ⋆ g : KL→ K ′L′ が単体写像であることを示せばよい。

主張. 任意の σ ∈ K, τ ∈ Lに対して、(f ⋆ g)|σ⋆τ はアフィン写像である。

主張の証明. φ : σ ⋆ τ → Rn を、v ∈ V (σ) のとき φ(v) = f(v), w ∈ V (τ) のときφ(w) = g(w) という条件によって定まるただ一つのアフィン写像とする。すると、

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f = f ⋆g|σ と φ|σ はともにアフィン写像で V (σ)上で値が一致するから、φ|σ = f である。同様に、φ|τ = gである。さらに、φがアフィン写像であることから、x ∈ σ, y ∈ τ, t ∈ I

に対して φ((1−t)x+ty) = (1−t)φ(x)+tφ(y) = (1−t)f(x)+tg(y) = f ⋆g((1−t)x+ty)である。以上から、f ⋆ g = φとなるので、f ⋆ g はアフィン写像である。

任意の σ ∈ K, τ ∈ Lに対して、f, g が単体写像であることから f(σ) ∈ K ′, g(τ) ∈ L′

であり、定義から f ⋆ g(σ ⋆ τ) = f(σ) ⋆ g(τ) ∈ K ′L′ である。よって、上の主張と合わせて f ⋆ g : KL→ K ′L′ が単体写像であることが示された。

PL写像のジョインについては、関手性 id ⋆ id = id, (f ⋆g)◦ (f ′ ⋆g′) = (f ◦f ′)⋆ (g ◦g′)が成り立つ。したがって、次が得られる。

系 3.21. 命題 3.20のような P, P ′, Q,Q′ と PL同相写像 f : P → P ′, g : Q→ Q′ に対して、f ⋆ g : P ⋆ Q→ P ′ ⋆ Q′ は PL同相写像となる。とくに、P ⋆ Qの PL同相型は P,Q

の PL同相型から決まる。

注意 3.22. 一般に、コンパクト多面体 P,Qは共通の Euclid空間に含まれているとも限らないし、独立であるとも限らない。このような P,Qに対して P ⋆ Qを構成する方法を考えよう。まず、十分大きな次元の Euclid空間内に P , Qとそれぞれ PL同相なコピー P0, Q0 を作り、P0, Q0 が独立であるようにできる。実際、P ⊂ Rm, Q ⊂ Rn をコンパクト多面体とするとき、Rm × Rn × R = Rm+n+1 の部分集合

P0 = P × {0} × {0}, Q0 = {0} ×Q× {1}

はそれぞれ P,Qと PL同相な多面体である。さらに、例 1.19(2) により、P0, Q0 は独立であるので、ジョイン P0 ⋆ Q0 が得られる。このとき P,Q をそれぞれ P0, Q0 と同一視することで、P0 ⋆ Q0 のことを P ⋆ Q と書くことがある。これを P,Q の外部ジョイン(external join)という。

命題 3.23. Bn, Sn をそれぞれ PL n球体、PL n球面とするとき、次の PL同相が存在する。ただし、以下では p, q ≧ 0とする。

(1) (Bp ⋆ Bq, (∂Bp) ⋆ Bq ∪Bp ⋆ (∂Bq)) ∼= (Bp+q+1, ∂Bp+q+1)

(2) (Bp ⋆ Sq, (∂Bp) ⋆ Sq) ∼= (Bp+q+1, ∂Bp+q+1)

(3) Sp ⋆ Sq ∼= Sp+q+1

証明. それぞれ、特別な一つの場合に証明すれば十分である。(1) については、Bp, Bq

として独立な単体を取れば、補題 3.17 から分かる。(2)については、Rp × Rq+1 の部分集合として、Bp = [−1, 1]p × {0}と Sq = {0} × ∂[−1, 1]q+1 を考える。[−1, 1]q+1 が錐0∂[−1, 1]q+1 となることを用いると、Bp, Sq ⊂ Rp × Rq+1 は独立であることがすぐに確かめられる。さらに、このときジョイン Bp ⋆ Sq は

Bp ⋆ Sq = {(x, y) ∈ Rp × Rq+1 | ∥x∥+ ∥y∥ ≦ 1}

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と表すことができる。よって、Bp ⋆Sq は胞体である。よって、定理 3.11により、Bp ⋆Sq

は PL (p+ q+1)球体である。これで、(2)のうち「Bp ⋆ Sq ∼= Bp+q+1」の部分が確かめられた。さらに、定理 3.11により、さきほどの Bp ⋆Sq の境界として得られる PL (p+ q)

球面 ∂(Bp ⋆ Sq)は胞体としての Bp ⋆ Sq の境界に等しく、

∂(Bp ⋆ Sq) = FrRp×Rq+1(Bp ⋆ Sq)

= {(x, y) ∈ Rp × Rq+1 | ∥x∥+ ∥y∥ = 1}= ∂Bp ⋆ Sq

である。これで、(2)の残る部分とともに、(3)も確かめられた。

3.5 PL多様体の三角形分割

単体複体の言葉で定義される多様体の概念として、組合せ多様体がある。組合せ多様体は、PL多様体の三角形分割を特徴づけているという意味で重要である。

定義 3.24. 単体複体 K が n 次元組合せ多様体 (combinatorial manifold) であるとは、K の各頂点 v に対して、| st(v,K)|が PL n球体であることをいう。

定理 3.25. 単体複体K に対して、次は同値である。

(1) K は n次元組合せ多様体である。(2) |K|は n次元 PL多様体である。(3) K の各頂点 v に対して、| lk(v,K)|は PL (n − 1)球面または PL (n − 1)球体である。

(4) 任意の 0 ≦ p ≦ nとK の各 p単体 σに対して、| lk(σ,K)|は PL (n− p− 1)球面または PL(n− p− 1)球体である。

証明. (1) =⇒ (2): K を n 次元組合せ多様体 K とする。K の各頂点 v に対して、| st(v,K)|は PL n球体であり、O(v,K)はその開集合として n次元 PL多様体である。したがって、補題 3.6により、|K|は n次元 PL多様体をなす開集合で被覆されることになる。よって、|K|は n次元 PL多様体である。(2) =⇒ (3): |K|が n次元 PL多様体であるとし、vをK の頂点とする。このとき、定理 3.12により、x ∈ Int |K|のとき | lk(v,K)|は PL (n− 1)球面であり、x ∈ ∂|K|のとき | lk(v,K)|は PL (n− 1)球体である。(3) =⇒ (1): | st(v,K)|が錐として v| lk(v,K)|と表されることによる。(4) =⇒ (3): p = 0の場合を考えればよい。(3) =⇒ (4): この含意関係は nについての帰納法で証明する。n = 0のときは明らかである。n ≧ 1とし、単体複体K の各頂点 v に対して、| lk(v,K)|が PL (n− 1)球面または球体であることを仮定する。0 ≦ p ≦ n とし、σ ∈ K を p 単体とする。| lk(σ,K)| がPL (n− p− 1)球面または PL(n− p− 1)球体であることを証明しよう。

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p = 0 のときは、示すべきことは正しい。p ≧ 1 であるときは、σ の頂点 v を一つ選ぶと、τ = σ/v に対して、補題 3.15 により、lk(σ,K) = lk(τ, lk(v,K)) である。いま、| lk(v,K)|は PL (n− 1)球面または球体であり、とくに (n− 1)次元 PL多様体であるから、すでに示されている (2) ⇐⇒ (3)によって、lk(v,K)は n− 1に対して (3)を満たしている。よって、帰納法の仮定により、| lk(τ, lk(v,K))|は PL (n− p− 1)球面または球体である。

系 3.26. K が n次元組合せ多様体であるとき、|K|は K の n単体すべての和集合に等しい。

証明. nについての帰納法で示す。n = 0のときは明らかなので、n ≧ 1とする。v を K

の任意の頂点とするとき、| st(v,K)| が K の n単体の和集合として表されることを示せばよい。L = lk(v,K)とおくと、st(v,K)は錐として vL と表されることに注意しよう。いま、定理 3.25により Lは (n− 1)次元組合せ多様体だから、帰納法の仮定により、|L|は Lの (n− 1)単体すべての和集合に等しい。よって、| st(v,K)| = |vL|はK の n単体の和集合で表される。

定理 3.25(4)で、| lk(σ,K)|が球面になるか、球体になるかは以下の定理によって判定できる。

定理 3.27. n ≧ 1とする。K を n次元組合せ多様体とし、σ ∈ K を p単体 (0 ≦ p ≦ n)

とするとき、次の同値性が成り立つ。

(1) | lk(σ,K)|が PL (n− p− 1)球体 ⇐⇒ σ ⊂ ∂|K|(2) | lk(σ,K)|が PL (n− p− 1)球面 ⇐⇒ Intσ ⊂ Int |K|

証明. B = | st(σ,K)|, L = | lk(σ,K)| とおく。定理 3.25 により、L は PL (n − p − 1)

球面または PL (n − p − 1) 球体である。命題 3.19 により、B = σ ⋆ L である。よって、命題 3.23(1)(2) により、次が分かる。「L が球面であっても球体であっても、B はPL n球体である。さらに、Lが球面のときは Intσ ⊂ IntB であり、Lが球体のときはIntσ ⊂ ∂B である。」ところが、補題 3.13により、B は n次元 PL多様体 |K|におけるIntσ の近傍であった。よって、Lが球面のときは Intσ ⊂ Int |K|であり、Lが球体のときは Intσ ⊂ ∂|K| である。後者の場合は、∂|K| が閉集合であることにより、σ ⊂ ∂|K|である。

系 3.28. 単体複体K に対して、次は同値である。

(1) |K|は境界のない n次元 PL多様体である。(2) K の各頂点 v に対して、| lk(v,K)|は PL (n− 1)球面である。(3) K の各 p単体 σ に対して、| lk(σ,K)|は PL (n− p− 1)球面である。

定理 3.29. K を n次元組合せ多様体 (n ≧ 1)とするとき、∂|K|はK の (n− 1)単体であってK のちょうど 1個の n単体の面であるようなもの全体の和集合に等しい。

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証明. M = |K| とする。まず、∂M が K の (n − 1) 単体の和集合として表されることを確かめよう。定理 3.27 により、K の任意の単体 σ に対して Intσ ⊂ IntM またはIntσ ⊂ ∂M である。よって、∂M は少なくとも K の単体の和集合の形に表されるから、K の部分複体 Lが存在して、|L| = ∂M となる。∂M は (n− 1)次元 PL多様体であるから、Lは (n − 1)次元組合せ多様体である。よって、系 3.26により、|L| = ∂M は Lの(とくにK の)(n− 1)単体の和集合として表される。次に、(n− 1)単体 σ ∈ K に対して σ ⊂ ∂M となるのは、定理 3.27により、| lk(σ,K)|が PL 0球体、つまり 1点となることと同値である。これはさらに、σ がちょうど 1個のn単体の面であることと同値である。以上により定理の主張が得られる。

3.6 座標変換を用いた定義

PL多様体の定義には、可微分多様体の定義と同じように、座標変換が PL同相写像であるような座標近傍の族を与える方法もあり、これを採用する文献も多い。ここでは、このように座標変換を用いて定義された PL多様体と、いままで述べてきた PL多様体との間の関係を明らかにする。説明の便宜上、座標変換で定義された PL多様体をいままでのものと区別して PL′ 多様体と呼ぶことにして、次のように定義する。

定義 3.30. X を第二可算公理を満たす Hausdorff空間とする。S が X 上の n次元 PL

座標近傍系であるとは、次を満たすことをいう。

(1) S は次のような組 (U,φ) からなる集合である:U は X の開集合であり、φ は U

から Rn+ のある開集合への同相写像である。(以下、記法を分かりやすくするため、S = {(Uλ, φλ) |λ ∈ Λ} と添え字を付ける。)

(2)∪λ∈Λ Uλ = X である。

(3) 任意の λ, µ ∈ Λに対して、φµ|Uλ∩Uµ◦φ−1

λ |φλ(Uλ∩Uµ) : φλ(Uλ∩Uµ) → φµ(Uλ∩Uµ)は PL同相写像である。

S が X 上の n次元 PL座標近傍系であるとき、(X,S)を n次元 PL′ 多様体という。

X 上に n次元 PL座標近傍系が存在すれば、X は第二可算な局所コンパクトHausdorff

空間だから、とくにパラコンパクトとなることに注意する。X 上の n次元 PL座標近傍系 S, S ′が同値であるとは、任意の (U,φ) ∈ S, (U ′, φ′) ∈ S ′

に対して φ′|U∩U ′ ◦ φ−1|φ(U∩U ′) : φ(U ∩ U ′) → φ′(U ∩ U ′)が PL同相写像であることをいう。これは、和集合 S ∪ S ′ が再び n次元 PL座標近傍系になるということにほかならない。同値な PL 座標近傍系は実質的に同じ PL′ 多様体を定めているものと考えることは、可微分多様体のときと同様である*12。S, S ′ が同値であることを、S ∼ S ′ と書く。

*12 もちろん、同値な座標近傍系の取り換えの自由度をなくすために、はじめから座標近傍系が極大であると

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関係 ∼は X 上の n次元 PL座標近傍系全体の集合の上の同値関係となる。S が X 上の n次元 PL座標近傍系で h : X → Y が同相写像のとき、S を hによって写して得られる Y 上の n次元 PL座標近傍系を h∗S と書く。すなわち、

h∗S = {(h(U), φ ◦ h−1) | (U,φ) ∈ S}

とする。PL多様体が与えられると、以下のようにして PL′ 多様体を自然に構成することができる。M を(いままでの意味での)n次元 PL多様体とする。このとき、SM を、M の開集合 U と Rn+ のある開集合 V への PL同相写像 φ : U → V の組 (U,φ)の全体と定義すると、(M,SM )は n次元 PL′ 多様体となる。このとき、M は n次元 PL座標近傍系 SMは極大性をもつ。すなわち、SM ∼ S となる任意の n 次元 PL 座標近傍系 S に対して、S ⊂ SM である。さて、PL′ 多様体は、次の定理のような意味で、いままでの PL多様体と同値な概念である。

定理 3.31. (X,S)を n次元 PL′ 多様体とする。このとき、n次元 PL多様体M と同相写像 h : M → X が存在して、h∗SM と S は X 上の同値な n 次元 PL 座標近傍系となる。さらに、M , hは次のような意味で一意的である。n次元 PL多様体M ′ と同相写像h′ : M ′ → X も上の条件を満たすならば、PL同相写像 Φ: M → M ′ が一意的に存在して、h′ ◦ Φ = hである。

この定理を示すためには何を示せばよいかを、まず考察しよう。ひとまず、前半のM,h

の存在は後回しにして、一意性の部分を考える。定理の条件を満たす Φ: M → M ′ はh′−1 ◦hの他にはあり得ないから、問題は h′−1 ◦hが PL同相写像であるかということである。ところで、h∗SM ∼ S ∼ h′∗SM ′ であるから、(h′−1 ◦ h)∗SM = (h′−1)∗h∗SM ∼ SM ′

である。よって、前に述べた SM , SM ′ の極大性を用いることで、(h′−1 ◦ h)∗SM = SM ′

を得る。これから、h′−1 ◦ hが PL同相写像であることが分かる。これで一意性の部分は解決したので、次に、M,h が満たすべき条件 h∗SM ∼ S について考える。SM は極大であるから、この条件は実際には S ⊂ h∗SM と同じことである。これは、定義から、任意の (U,φ) ∈ S に対して φ ◦ h|h−1(U) : h

−1(U) → φ(U) が PL同相写像であるということにほかならない。最後に、S ∼ S ′であるとき、定理 3.31の主張が (X,S)について成り立つことは (X,S ′)

について成り立つことと同値である。よって、定理 3.31 の証明で S を都合の良い同値な座標近傍系に取り換えて問題ない。以上から、定理 3.31の証明は、次を示すことに帰着されると分かった。

定理 3.32. (X,S) を n 次元 PL′ 多様体とする。このとき、S と同値な n 次元 PL 座標近傍系 S ′ と n 次元 PL 多様体 M および同相写像 h : M → X が存在して、任意の

仮定する方法もある。ただし、ここでは証明の簡明さのためにその仮定を置かないことにする。

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(U,φ) ∈ S ′ に対して φ ◦ h|h−1(U) : h−1(U) → φ(U) は PL同相写像となる。

証明. (X,S)を n次元 PL′ 多様体とする。S = {(Uα, φα) |α ∈ A} とすると、(Uα)α∈Aは X の開被覆である。この開被覆を細分する局所有限な X の可算開被覆 (Vi)

∞i=1 で、各

iに対して ClX Viがコンパクトであるようなものを取る。さらに、各 iに対して α(i) ∈ A

を Vi ⊂ Uα(i) であるように選んでおく。X の開被覆 (Wi)∞i=1 を ClXWi ⊂ Vi であるよ

うに選び、ψi = φα(i)|Vi , ψi = φα(i)|Wi とおくと、

S ′ = {(Wi, ψi) | i = 1, 2, . . .}

は S と同値な n次元 PL座標近傍系である。各 i ≧ 1に対して、コンパクト多面体 Pi ⊂ Rn+ を ψi(ClXWi) ⊂ Pi ⊂ ψi(Vi)となるように取る。i, j ≧ 1に対して

Qij = ψi(ψ−1i (Pi) ∩ ψ−1

j (Pj)) = Pi ∩ (ψi ◦ ψ−1j (Pj))

とおき、hij = ψi ◦ ψ−1j |Qji

: Qji → Qij と定義すると、Qij は Pi のコンパクト部分多面体で、hij は PL同相写像である。さて、自然数の増大列 1 = ν1 < ν2 < · · · を適切に取れば、Ik = {i ∈ N | νk ≦ i < νk+1}とおくとき、Ck =

∪i∈Ik ψ

−1i (Pi) に対して次が成り立つようにできる。

(i) |k − k′| ≧ 2ならば Ck ∩ Ck′ = ∅である。

各 k に対して有限個の多面体 Pi (i ∈ Ik) を貼り合わせることで、多面体 Ck を構成しよう。位相的な直和

⨿i∈Ik Pi 上の同値関係 ∼ を x ∼ hij(x) (x ∈ Qji) で定める。

このとき、系 2.69 により、ある nk に対して、閉部分多面体 Ck ⊂ Rnk と同相写像(⨿i∈Ik Pi)/∼→ Ck が存在して、各 i ∈ Ik に対して合成 ιki : Pi → (

⨿i∈Ik Pi)/∼ → Ck

は PL埋め込みとなる。さらに、これに ψi を合成したもの

ψ−1i (Pi)

ψi→ Piιki→ Ck

を i ∈ Ikについて貼り合わせれば、Ck =∪i∈Ik ψ

−1i (Pi)から Ckへの同相写像 αk : Ck →

Ck が得られる。さらに、定理 2.70により、次のように仮定してよい。

(ii) すべての k ≧ 1に対して nk = 2n+ 1であり、よって Ck ⊂ R2n+1 である。(iii) k = k′ のとき Ck ∩ Ck′ = ∅である。(iv) (Ck)

∞k=1 は局所有限である。

(v)∪∞k=1 Ck は R2n+1 の閉部分多面体である。

次に、M1 =∪∞l=1 C2l−1, M2 =

∪∞l=1 C2l とおく。M1, M2 の定義の右辺は、(iii)によ

りそれぞれ交わりのない和集合である。また、(iv)(v)により、M1, M2 はともに R2n+1

の閉部分多面体である。M1 とM2 を貼り合わせることで、目的のM を構成しよう。

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Dk = Ck ∩ Ck+1 (k ≧ 1)と定義し、Dk,ε ⊂Mε (k ≧ 1, ε ∈ {1, 2})を

D2l−1,1 = α2l−1(D2l−1), D2l,1 = α2l+1(D2l),

D2l−1,2 = α2l(D2l−1), D2l,2 = α2l(D2l)

により定義する。このとき、Dk,ε はMε のコンパクト部分多面体である。実際、たとえば

D2l−1,1 = α2l−1(C2l−1 ∩ C2l) =∪

i∈I2l−1

ι2l−1i ◦ ψi(ψ−1

i (Pi) ∩ C2l)

=∪

i∈I2l−1

∪j∈I2l

ι2l−1i (Qij)

により D2l−1,1 は C2l−1 の(したがってM1 の)コンパクト部分多面体であることが分かる。D2l,1, D2l−1,2, D2l,2 の場合も同様である。また、k = k′ のとき Dk,ε ∩ Dk′,ε = ∅であることも (i)(iii) から容易に分かる。さらに、(iv) により、交わりのない和集合Nε =

∪∞k=1 Dk,ε はMε の閉部分多面体となる。

同相写像 βk : Dk,1 → Dk,2 を

β2l−1 = α2l ◦ α−12l−1|D2l−1,1

, β2l = α2l ◦ α−12l+1|D2l,1

で定める。β2l−1|ι2l−1i (Qij)

= ι2lj ◦ hji ◦ (ι2l−1i )−1 (i ∈ I2l−1, j ∈ I2l) となるから、

β2l−1 は PL 同相写像である。β2l についても同様に PL 同相写像となる。したがって、β : N1 → N2 を β|Dk,1

= βk で定義すれば、β は PL同相写像である。

定理 2.68により、ある n′に対して、閉部分多面体M ⊂ Rn′と同相写像M1∪βM2 →M

が存在して、合成Mε → M1 ∪β M2 → M を ιε と書くとき ιε : Mε → M (ε = 1, 2) はPL埋め込みとなる。連続写像 h : M → X を

h ◦ ι1|C2l−1= α−1

2l−1, h ◦ ι2|C2l= α−1

2l

で定義しよう。このとき、h の連続な逆写像 h−1 : X → M が h−1|C2l−1= ι1 ◦ α2l−1,

h−1|C2l= ι2 ◦ α2l で与えられることから、h : M → X は同相写像となる。

さて、任意に (Wi, ψi) ∈ S ′ を与える。h−1 ◦ ψ−1i |ψi(Wi) : ψi(Wi) → h−1(Wi) が PL

同相写像となることを示そう。i ∈ Ik となる k ≧ 1を選ぶと、Wi ⊂ ψ−1i (Pi) ⊂ Ck であ

る。たとえば、k が奇数で k = 2l − 1の場合、α2l−1|ψ−1i (Pi)

= ι2l−1i ◦ ψi により

h−1 ◦ ψ−1i |ψi(Wi) = ι1 ◦ α2l−1 ◦ ψ−1

i |ψi(Wi) = ι1 ◦ ι2l−1i |ψi(Wi)

となる。また、同様に k = 2lの場合は h−1 ◦ ψ−1i |ψi(Wi) = ι2 ◦ ι2li |ψi(Wi) である。ιε, ι

ki

は PL埋め込みであったから、h−1 ◦ ψ−1i |ψi(Wi) : ψi(Wi) → h−1(Wi)は PL同相写像で

ある。

以上で、定理 3.32が証明され、したがって定理 3.31が証明された。

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付録 A アフィン写像の特徴づけについて

この付録では、アフィン写像のいくつかの特徴づけを述べた次の命題を証明する。凸集合 C ⊂ Rm, D ⊂ Rn に対して、f : C → D がアフィン写像 (affine map)であるとは、任意の x, x′ ∈ C および t ∈ I に対して f((1− t)x+ tx′) = (1− t)f(x) + tf(x′)となることをいうのであった。

命題 1.2 (再掲). 凸集合 C ⊂ Rm, D ⊂ Rn と写像 f : C → D に対して、次は同値である。

(1) f はアフィン写像である。(2) C の元の任意の凸結合

∑ki=0 tixiに対して、f(

∑ki=0 tixi) =

∑ki=0 tif(xi)である。

(3) C の元のアフィン結合∑ki=0 tixiに対して

∑ki=0 tixi ∈ C ならば、f(

∑ki=0 tixi) =∑k

i=0 tif(xi)である。(4) ある線型写像 f0 : Rm → Rn と y0 ∈ Rn が存在して、f(x) = f0(x) + y0 (x ∈ C)

である。

証明. (1) =⇒ (2): 補題 1.1からすぐに分かる。(2) =⇒ (3): (2)を仮定する。C の元の任意のアフィン結合 x =

∑ki=0 tixi ∈ C に対し

て f(x) =∑ki=0 tif(xi) となることを k についての帰納法で示そう。k = 0 のとき、こ

れは明らかである。k ≧ 1としよう。もし、すべての iに対して ti ≧ 0なら、(2)によりf(x) =

∑ki=0 tif(xi) である。そこで、ある i に対して ti < 0 であるとしよう。たとえ

ば、t0 < 0 であるとしてよい。このとき、u = 1 − t0, x′ =

∑ki=1 sixi, si = u−1ti とお

けば、x′ は x1, . . . , xk のアフィン結合であって、x = (1 − u)x0 + ux′ である。よって、x′ = u−1x+ (1− u−1)x0 である。u = 1− t0 > 1により u−1 ∈ I であるから、C の凸性により x′ ∈ C であり、(2)により f(x′) = u−1f(x) + (1 − u−1)f(x0) となる。よって、(2)と帰納法の仮定により、f(x) = (1−u)f(x0)+uf(x′) = t0f(x0)+uf(

∑ki=1 sixi) =

t0f(x0) + u∑ki=1 sif(xi) =

∑ki=0 tif(xi)である。

(3) =⇒ (4): (3) を仮定する。C = ∅ としてよい。C のアフィン独立な元を最大個数取り、それらを x0, . . . , xk とする。必要なら C を平行移動することで、x0 = 0 であるとしてよい。V を x0, . . . , xk で張られる Rm のアフィン部分空間とすると、V はx1, . . . , xk を基底とする Rm の線型部分空間である。このとき、k の最大性から C ⊂ V

である。さて、xk+1, . . . , xm ∈ Rm を追加して Rm の基底 x1, . . . , xm をつくり、線型写像 f0 : Rm → Rn を

f0

(m∑i=1

tixi

)=

k∑i=1

ti(f(xi)− f(x0))

で定め、y0 = f(x0)とする。このとき、x ∈ C に対して、C ⊂ V により x =∑ki=1 tixi

と表すことができる。t0 = 1 −∑ki=1 ti とおけば、x は x0, . . . , xk のアフィン結合とし

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て x =∑ki=0 tixi,

∑ki=0 ti = 1 と表されるので、(3) により、f(x) =

∑ki=0 tif(xi) =

f(x0) +∑ki=0 ti(f(xi)− f(x0)) = y0 + f0(x)である。

(4) =⇒ (1) は明らかである。

付録 B PL多様体の境界について

この付録の目的は、PL 多様体の境界の定義において重要な役割を果たす次の命題を、PLトポロジーの手法のみを用いて証明することである。

命題 3.2 (再掲). n ≧ 1のとき、n次元 PL多様体M の点 xに対して次は同値である。

(1) xのある座標近傍 h : U → V に対して、h(x) ∈ Rn−1 × {0}となる。(2) xの任意の座標近傍 h : U → V に対して、h(x) ∈ Rn−1 × {0}となる。

ここで使われる主な道具は、リンクの PL 不変性(定理 3.10)である。ただし、ここでは PL 多様体の境界の概念はまだ使うことができないので、単体 σ の境界 σ や内部σ = σ \ σ だけを使って議論することにしよう。

補題 B.1. σ を n単体 (n ≧ 1)とするとき、任意の x ∈ σ に対して、σ のある (n− 1)次元の面 τ と PL同相写像 h : σ → σ が存在して、h(x) = τ が成り立つ。

証明. σ の頂点を v0, . . . , vn とする。x =∑ni=0 tivi と x を v0, . . . , vn の凸結合で表す

とき、t0 > 0であるとしてよい。τ を、v1, . . . , vn で張られる σ の面とする。このとき、命題 2.24(9) により、τ = τ τ , v0τ はそれぞれ錐であり、x ∈ (v0τ) \ τ , τ ∪ (v0τ) = σ,

τ ∩ (v0τ) = τ である。PL同相写像 h1 : τ = τ τ → v0τ を、恒等写像 id : τ → τ の錐として定義し、PL同相写像 h1 : σ → σ を

h1|τ = h1, h1|v0τ = h−11

により定義する(τ を球面 σ の赤道と考えたとき、h1 は赤道は動かさずに北半球 v0τ と南半球 τ を入れ換える PL 同相写像である)。このとき、y = h1(x) とおくと y ∈ τ であるから、命題 2.24(9) により、τ は錐として τ = yτ と表される。そこで、PL 同相写像 h2 : τ = yτ → τ τ = τ を、恒等写像の錐として定義すれば、h2(y) = τ である。h2を v0τ 上で恒等写像として拡張すれば、PL 同相写像 h2 : σ → σ が得られる。最後にh = h2 ◦ h1 : σ → σ とおけば、hは h(x) = τ を満たす PL同相写像である。

補題 B.2. σ を n 単体 (n ≧ 1) とするとき、任意の x, y ∈ σ に対して PL 同相写像h : σ → σ であって h(x) = y となるものが存在する。

証明. 補題 B.1により、(n − 1)次元の面 τ1, τ2 および PL同相写像 h1, h2 : σ → σ が存在して、h1(x) = τ1, h2(y) = τ2 となる。さらに、頂点を入れ換えることで、PL同相写

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像 h3 : σ → σ で h3(τ1) = τ2 となるものが得られる。h = h−12 ◦ h3 ◦ h1 が求める PL同

相写像である。

補題 B.3. n単体 σ と (n+ 1)単体 τ に対して、σ と τ は PL同相ではない。

証明. nについての帰納法で証明する。n = 0のときは明らかである。n ≧ 1として、PL

同相写像 h : σ → τ が存在すると仮定する。v を σ の頂点の一つとしよう。τ に補題 B.2

を用いることで、τ のある頂点 w に対して h(v) = w であるとしてよい。σ′, τ ′ を、それぞれ、σ, τ の v, w 以外の頂点すべての張る σ, τ の面とする。σ = vσ′ は v の σ における錐近傍であり、wτ ′ は h(v) = w の τ における錐近傍である。よって、定理 3.10により、σ′ と τ ′ は PL同相であるが、これは帰納法の仮定に反する。

命題 3.2の証明. 記法を簡単にするため、Rn−1×{0}をRn−1と同一視する。V, V ′ ⊂ Rn+が開集合で h : V → V ′ が PL同相写像であるとき、h(V ∩ Rn−1) ⊂ Rn−1 であることを証明すればよい。そこで、x ∈ V ∩Rn−1, h(x) /∈ Rn−1 であるとして矛盾を導こう。xを内部の点にもつ (n− 1)単体 σ ⊂ V ∩ Rn−1 と v ∈ V \ Rn−1 を取り、n単体 vσ が V に含まれるようにする。また、n単体 τ ⊂ V ′ \ Rn−1 を、h(x) ∈ τ となるように取る。このとき、B = vσ は錐なので、(n − 1)単体 σ = σσ と PL同相である。しかも、Bは vσ の x を含まない面すべての合併に等しいから、命題 2.24(9) により、vσ は錐として xB と表され、x の V における錐近傍を与える。一方、やはり命題 2.24(9) により、τ = h(x)τ は h(x) の V ′ における錐近傍となる。よって、定理 3.10 により、B と τ はPL同相であるが、B は (n− 1)単体と PL同相であり、τ は n単体であったから、これは補題 B.3に反する。

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参考文献

[1] T. Benny Rushing, Topological embeddings, Pure and Applied Mathematics, Vol.

52. Academic Press, New York-London, 1973.

[2] C. P. Rourke and B. J. Sanderson, Introduction to Piecewise-Linear Topology,

Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete, Band 69. Springer-Verlag,

New York-Heidelberg, 1972.

[3] K. Sakai, Geometric Aspects of General Topology, Springer Monographs in Math-

ematics. Springer, Tokyo, 2013.

本稿をまとめるにあたって主に参考にしたのは、現在も PLトポロジーの基本文献として挙げられる Rourke-Sanderson [2]である。この本は、PL多様体の h同境定理(やその系である高次元ポアンカレ予想)を目標に書かれている。そのために、微分トポロジーでの管状近傍に相当する正則近傍の理論や一般の位置の議論が扱われている。多面体を「局所錐状空間」として内在的に定義する流儀は、この Rourke-Sanderson の本の特色であり、本稿もこれに依った。また、胞体複体の諸性質の証明については、Sakai [3]を参考にした部分がある。この本は、無限次元の単体複体の細分や位相的扱いについても詳細に書かれた数少ない文献である。単体のリンクによる組合せ多様体の特徴づけ (§3.5) については、Rushing [1]の第 1章の記述を参考にした。

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