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ゴミ投資家のための
金融シティ香港入門
電子書籍PDF復刻版
本書は2000年7月にメディアワークスより発行されたオルタブックス「ゴミ投資家のための金融シティ香港入門」を、ドキュメントスキャナによりPDF化した電子書籍です。
INTRODUCTION
香港の111:力は買い1吻と中華闘カllj’1;やないこれまで日本で出版された香港のガイドブックがいったい何冊あるのかは知
りませんが、おそらくその数が100種類を下回ることはないでしょう。その中
には、貧乏旅行者向けのガイドブックもあれば、超豪華な中華レストランや高
級ブランドショップを詳細なマップ付きで紹介したりするものもあります。香
港返還を間近に控えた1990年代半ばには香港ブームが頂点に達し、映画やポッ
プス、アイドル曽伊|冑、さらにはハッカー御用達の「電脳中心(コンピュータ・
センター)」を大特集する本まで登場しました。
ところが、一見、研究しっくされたかに見える香港ですが、これまでなぜか、
香港の金融機関を使いこなすための実践的なガイドブックは一冊もありません
でした。一時期、「香港上海銀行に外貨預金口座をっくろう」という本が話題
になりましたが、残念なことにこの本には、自分の口座をどのように管理・運
用すればいいのかは書いてありませんでした。これでは、せっかく口座をつく
っても宝の持ち腐れです。
本書は、個人投資家の視点から/ツジァの金融センター”香港の活用法を
具体的に紹介した、はじめての本です。本書をお読みいただければ、誰でも銀
行口座を開設し、香港市場で株式を売買し、あるいは世界中のオフショア・フ
ァンドを自由に購入できるようになるはずです。
これまで「ゴミ投資家」シリーズでは、ヨーロッパのオフショァ・バンクに
メールオーダーで銀行口座を開設したり、アメリカのオンライン証券会社を利
用して米国株を売買する方法を紹介してきました。しかし実は、これまでの試
みには、ひとっだけ不満がありました。それは、自分か利用している金融機関
をこの目で見ることができない、ということです。
その点、日本人にもっとも身近な観光地のひとつである香港は、私たちが気
軽に銀行や証券会社を訪ねることができる、数少ないオフショァ金融センター
でもあります。そうであれば、こんな素晴らしい機会を利用しない手はありま
2
INTRODUCTION
せん。
香港で資産運用するいちばんのメリットは、銀行預金の利子や株式の配当、
株式の売却益などに一切税金がかからないことです。もちろんこの中には日本
で税務申告しなければならないケースもありますが、合法的に無税の特典を享
受できる場合もあります(詳細は『税金天国入門』などを参照)。
香港では、ォフショア・ファンドやヘッジファンド、ォフショア生命保険な
ど、日本からではアクセスすることすら難しい魅力的な金融商品を簡単に購入
することもできます。
さらに、香港の金融機関を利用すれば、“世界標準”の金融サービスがどの
ようなものか、身をもって体験することもできます。片言の英語さえ話せれば、
いろんな金融機関を訪ね、顧客カウンターで相談や質問をすることもできます
から、見たこともない銀行にメールオーダーで口座をつくるよりもずっと安心
感があるでしょう。その意味で香港は、“海外投資初心者”には格好のウォー
ミングアップの場かもしれません。
香港のもっとも代表的な銀行が香港上海銀行ですが、パワー・バンテージ
Powervantage口座を開設すると、香港ドル預金のほか、USドルや日本円を
はじめとする外貨預金、ォフショア・ファンド、個別株式、さらには金(Gold)
まで、日本からでも電話一本で売買することが可能になります。銀行が、証券
会社や商品会社の機能まで持っているのです。当座預金もセットになっていま
すから、小切手帳もその場で発行されます。
香港上海銀行から送られてくるステートメントは、預金や株式、ファンドな
ど、すべての金融商品の残高や明細かひとつの口座にまとめられ、一覧できる
ようになっています。最初は正直、びっくりしましたが、今にして思えば、驚
愕すべきなのは、こんなこともできない日本の金融機関のほうでした。
本書は、お読みになったみなさまが実際に香港の金融機関を自在に活用でき
るように、徹底的に実用的にっくられています。買い物と中華料理だけが香港
の魅力ではありません。本書によって、香港のまったく新しい魅力をお伝えで
きたならば、こんなうれしいことはありません。
HaveaGoodTimeinHongKong!海外投資を楽しむ会
3
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香港で唯一リテール窓口を設けているJardineFlemingはここに。2階のセンターで、購入ファンドの相談や売買もできる。
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エスカレーターで超高層ビルの中に吸い込まれる。ビルの外壁には、HSBCと瀧豊の文弓
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今年3月にオープンしたばかりの支店。こじんまりとした、フレンドリーな雰囲気。
目次CONTENTs
INTRODUCTION
香港の魅力は買い物と中華料理だけじゃない………2
Prolo9ue“金融シティ ”香港の旅は、国際空港の両替商から始まった………12
■香港の空港にはなぜATMがないのか?■香港はなぜ“超過密都市”になったのか?■“風水の危険地帯”セントラルヘようこそ!■香港の金融サービスは銀行が中心
p a r ・ I I 銀 行 編
1 . 香 港 上 海 銀 行 T h e H o n g k o n g a n d S h a n g h a i
BankingCorporationLimited………24
S T E P I 口 座 と サ ー ビ ス 概 要 を 知 ろ う … … … 2 6
■預金サービスDepositServices■融資サービスLendingServices
■投資サービスlnvestmentServices■保険サービスlnsuranceServices■総合サービスロ座lntegratedAccounts
S T E P 2 口 座 は 何 を 選 べ ば い い の か … … … 3 5
■口座開設と英語力
■香港と日本の支店の関係■口座の選択
S T E P 3 パ ワ ー ・ バ ン テ ー ジ の 詳 細 … … … 3 9
■預金サービスDepositServices■当座賃越保証OverdraftProtection■投資サービスlnvestmentServices
■信用貸しサービスCreditFacilities■旅行サポート・サービスPowervantageTravelAssist■3種類の口座番号AccountNumber■口座手数料Chargeと免除条件■月次報告書MonthlyStatement
目次
S T E P 4 口 座 へ の ア ク セ ス い ろ い ろ … … … 5 ァ❼キャッシュカードAccountcardと手数料
■小切手Chequeと手数料・テレフォン・バンキングPowervantagePhonebanking■支店窓口ln・branchcountersと営業時間
・電信送金TelegraphicTransfer、(送金)小切手Cheque/BankDraftと手数料
S T E P 5 パ ワ ー ・ バ ン テ ー ジ に 口 座 を 開 設 す る に は … … … ァ 1■本店HongKongHeadofficeにて
■PowervantageAccountopeningFormの記入方法■共同名義口座の口座開設からの流れ■lnvestmentServices口座の開設方法
■UnitTrust注文書の記入方法
S T E P 6 パ ワ ー ・ バ ン テ ー ジ を 徹 底 的 に 活 用 し よ う … … … l o l■ATMとキャッシュカードの使い方
■香港本支店窓口の利用法■小切手の書き方・テレフォン・バンキングの利用法
■投資サービス用テレフォン・バンキングの利用法■月次報告書の読み方
■パワー・バンテージを100%活用する方法
2.スタンダード・チャータード銀行StandardCharteredBank………150
S T I P I 個 別 □ 座 と パ ー ソ ナ ル ・ プ ラ ン の 概 要 … … … 1 5 3■個別口座Singleaccount・パーソナル・バンキング・プランPersonalBankingPlan
■その他の口座サービス
S T E P 2 投 資 サ ー ビ ス の 内 容 を 知 ろ う … … … 1 6 1■株式サービスSecuritiesServices
■ファンド・サービスlnvestmentFundServices・パーソナル・インベストメント・プランPersonallnvestmentPlan
S ・ 「 I P 3 口 座 へ の アク セ ス い ろ い ろ … … … 1 6 6
■キャッシュカードMoneylinkcardとATMと手数料
■小切手Chequeと手数料■テレフォン・バンキングPhoneBankingと手数料■支店への電話TelephoneとFAX
■支店窓口ln-branchcountersと営業時間・電信送金TelegraphicTransfer、(送金)小切手Cheque/BankDraftと手数料
S T E P 4 口 座 開 設 の 流 れ … … … 1 7 2
■口座開設時の英会話■上手に口座を開くテクニック
S T I P 5 口 座 を 1 0 0 % 活 用 す る 方 法 … … … l z 8
■ATMとキャッシュカードの利用法■本支店窓口の利用法■テレフォン・バンキングの利用法
■ファンド・サービスの利用法・パーソナル・インベストメント・プランの利用法
3 。 シ テ ィ バ ン ク 香 港 C i t i b a n k 、 N . A . i n H o n g K o n g … … … 1 8 4
S T I P I 口 座 の 種 類 と 手 数 料 の 概 要 … … … 1 8 6
■普通預金口座Savingsaccount・当座預金口座Checkingaccount・カレンシー・マネージャーロ座CurrencyManageraccount
■口座維持手数料Charge
S T E P 2 投 資 サ ー ビ ス の 内 容 を 知 ろ う … … … 1 9 0
1株式サービスlntemetSecuritiesServices
■ファンド・サービスMutualFundServjces
■ファンド・セレクト積立プランCitibankFundSelectSavingsPlan■クレジットカード・サービスCreditcardと手数料
S T E P 3 口 座 へ の ア ク セ ス い ろ い ろ … … … 1 9 6
■キャッシュカードCiticardとATMと手数料■小切手Chequeと手数料■24時間対応テレフォン・バンキング24-hourCitiPhoneBanking■インターネット・バンキングlnternetBankjng
■支店窓口ln-branchcountersと営業時間■電信送金TelegraphicTransfer、(送金)小切手Cheque/BankDraftと手数料
STEP4口座開設にチャレンジしてみよう………201■口座開設に必要なもの・口座開設時に最低限必要な会話
STEP5シティバンクのサービスを徹底的に活用しよう………204■ATMとキャッシュカードの利用法■本支店窓口の利用法■テレフォン・バンキングの利用法・インターネット・バンキングの利用法■口座を100%活用する方法
目次
4 . H S B C イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
HSBCBanklntemationalLimited………242
S T E P I 口 座 の 種 類 を 理 解 し よ う … … … 2 4 4■オフショア・バンクロ座OffshoreBankaccount
■小切手預金口座ChequeDepositaccount■インスタント・アクセス晋通預金口座lnstantAccessSavingsaccount■30日通知口座30DayNoticeaccount
■定期預金口座FixedDepositsaccount
S T E P 2 口 座 ヘ ア ク セ ス す る 方 法 … … … 2 4 8■デビットカードDebitcardとATMと手数料
■小切手Chequeと手数料■テレフォン・バンキングTelephoneBanking■ファクスFAXと郵便Post
■インターネットlntemet・電信送金TelegraphicTransfer、(送金)小切手Cheque/BankDraftと手数料
S T E P 3 口 座 を 開 設 し て み よ う … … … 2 5 2
■OffshoreSavingsAccountsApplicationFormの記入方法・ServiceAgreementの記入方法
■口座開設からの流れ
S T I P 4 英 ポ ン ド 口 座 を 徹 底 的 に 活 用 し よ う … … … 2 6 8■ATMおよび小切手の利用法■テレフォン・バンキングの利用法■OffshoreBank口座を100%活用する方法
P a r ・ 2 オ ン ラ イ ン 証 券 会 社 編
5.マンションハウス証券MansionHouse恥(3urities(F目Limited………290
STEPI口座開設法………2941同意書と申込書のダウンロード■申込書の記入方法■口座開設に必要なもの・マンションハウス訪問法■資金の送金方法■マンションハウスの手数料
STEP2オンライン・トレードの使い方………309■ログイン方法■株価情報を利用できるようにする■トラッカー・ファンドを購入する❼トラッカー・ファンドを売却する
金融シティ香港Note① “オフショア金融センター ”としての香港………63■香港の「政治リスク」■香港はオフショアか?・“マネーセンター”香港の誕生■香港のグローバル金融機関■香港の「税務リスク」
金融シティ香港Note②「香港ドル」とは何か?………1361民間銀行が発行する通貨■カレンシーボード制■アジア通貨危機とドルペッグ制■ヘッジファンドを撃退した香港・国内産業を犠牲にするシステム■「買い物天国」は今は昔・香港ドルと人民元■香港ドルの運命
目次
金融シティ香港Note③「中国人」とはいったい誰か?………222■y不夜城』の世界■邪馬台国の秘密・漢民族は絶滅した■中国人は漢文を読めない■道教と秘密結社■中華文明はネットワークである■客家とフリーメーソン・ネットワーク社会で生きるのも楽じゃない
金融シティ香港Note④香港経済と株式市場………2ァ3■“アジアの製造拠点”となった香港■“香港のスーパーマン”李嘉誠■香港証券取引所の取引■H株とレッドチップス・ハンセン指数とトラッカー・ファンド■GEM、NASDAQ、B株■情報収集をするには
金融シティ香港Note⑤「異文化」から「コピー文化」ヘー日本人の香港体験………3261妓生ツアーとヒッピー旅行・「自分さがし」とアジア再発見の旅■日本文化の膨大なコピー❼おたくカルチャーとアジア■「異文化」を求めて日本文化のコピーに出会う
あとがきにかえて一香港はやはり謎たった………337
本書で紹介した金融機関一覧………347
prolo9ue“金融シティ ”香港の旅は、
ら始まった
|香港の空港にはなぜATMがないのか?何年か前までは、ひしめきあう下町のビル群をかすめるようにして啓徳(カ
イタック)空港に舞い降りていく旅客機からのスリリングな光景が、世界中の
旅行者を魅了し、かつ不安に陥れていました。しかし1998年4月にはこの有名
な飛行場も閉鎖され、九龍(カオルーンKowloon)半島の西側にある大嶼島
(ランタオ島L21ntaulsland)に建設された近代的な香港国際空港(チェクラプ
コク空港)にその地位を譲りました。
ところで、かつてこの啓徳空港には、これまた世界的に悪名高い両替商が店
を開いていました。この両替商の交換レートは間違いなく香港最悪で、バック
パッカー向けのガイドブックにはことごとく「啓徳空港で両替するな口と大
書されるありさまでした。しかもこの両替商は片言の日本語を話し、右も左も
わからない日本人旅行者を「今日はモウ銀行オシマイネ」「明日、銀行ヤスミ。
モット両替必要ネ」などと言葉たくみに誘惑し、法外なレートで日本円を香港
ドルに両替させていたのです。
80年代以降の香港ブームのなかで、こうした「被害報告」が旅行者の問で広
く知られるようになると、自衛の手段として、香港市街の両替ショップ(銭荘)
を利用する方法が普及してきました。香港では両替商の市場競争が激しいため、
あやしげなインド人が経営する街角の両替ショップでも、市中銀行と遜色のな
いレートで外貨と香港ドルを交換してくれます。
とはいうものの、やはり現金を持ってあやしい店には近づきたくないという
旅行者もいます。そういう人は、こぞって地元の恒生(ハンセン)銀行に殺到
しました。香港マニアたちの徹底的な調査の結果、「香港では恒生銀行の両替
12
“金融シティ”香港の旅は、国際空港の両替商から始まった
レ ー トがもっともいい」とのご託宣が下されたからです。
と こ ろ が 、 「 バ ッ クパ ッ カ ー 御 用 達 」 に な っ た こ と に 危 機 感 を 持 っ た か ら か
ど う か 知 り ま せ ん が 、 恒 生 銀 行 は い つ の 間 に か 、 口 座 を 保 有 して い な い 顧 客 の
両 替 に 手 数 料 を 取 る よ う に な っ て し ま い ま し た 。 と な る と 、 当 然 「 口 座 が あ れ
ば 文 句 な い んで し ょ 」 と い う こ と に な り 、 一 時 、 恒 生 銀 行 に 口 座 を 開 設 す る こ
とが香港マニアの間で流行しました。
香 港 で は 、 パ ス ポ ー ト さ え あ れ ば 旅 行 者 で も 簡 単 に 銀 行 口 座 を 開 設 で き ま す
し 、 キ ャ ッ シ ュ カ ー ド も つ く ってくれ ま す か ら 、 余 っ た 香 港 ドル はそ の ま ま 自
分の口座に預金しておけば、次に来るときにATMで引き出せます。こうして、
90年代半ばには、日本では郵便貯金の口座くらいしか持っていないのに、なぜ
か 恒 生 銀 行 の キ ャ ッ シ ュ カ ー ド は 持 っ て い る と い う 貧 乏 旅 行 者 が い っ ぱ い 出 現
し た の で す。 こ れ が 、 ご く ふつ う の 日 本 人 が 香 港 の 金 融 機 関 と 出 会 っ た 、 最 初
の体験でした。
で は 、 恒 生 銀 行 に 口 座 を 持 ち 、 キ ャ ッ シ ュ カ ー ド が あ れ ば 、 あ の 悪 名 高 い 空
港 の 両 替 商 の お 世 話 に な らず に す む の で し ょ う か?
いつも旅行者でごったがえしている香港国際空港到着ロビー。
13
と こ ろ が 、 こ こ が 香 港 の 恐 ろ し い と こ ろで、 そ う は 問 屋 が 卸 し ま せ ん 。 な ぜ
な ら 、 香 港 の 空 港 に は 銀 行 の A T M が 置 か れて い な い か ら で す。 こ れで は 、 せ
っかくのキャッシュカードもなんの役にも立ちません。
両 替 商 た ち の 既 得 権 を あ く ま で も 守 ら ん と す る こ の 「 伝 統 」 は 、 現 在 の 香 港
国際空港にも立派に引き継がれています。この近代的な空港の到着ロビーには、
「ForeignExchange」と大書された両替商はいくらでもあるのに、銀行の
A T M は ど こ を 探 して も あ り ま せ ん 。 香 港 で は 地 下 鉄 の 駅 や デパー ト 、 シ ョ ッ
ピ ン グセ ン タ ー は も ち ろ ん 、 街 の い たる と こ ろで A T M を 見 か け ま す か ら 、 そ
ん な は ず は な い だ ろ う と 、 私 た ち も 香 港 上 海 銀 行 の キ ャ ッ シ ュ カ ー ド を 握 り し
め 、 重 い 荷 物 を ひ き ず り な が ら 空 港 中 を 探 し 回 り ま し た 。 し か し 努 力 の 甲 斐 も
空 し く 、 疲 れ 果 て た 私 た ち は 、 香 港 市 街 ま で 移 動 す る た め に 泣 く 泣 く 無 愛 想 な
両替商のお世話になるほかなかったのです。
その後の調査によれば、香港国際空港内でも、到着フロア圧eve15)の2階
上にある出発(チェックイン)フロア庄eve17)の一角に、ただ1ヵ所だけ
ATMが置かれていることがわかりました。「不条理な両替レートは断固拒否す
る 」 と の 固 い 決 意 で 香 港 に 降 り 立 っ た 人 は 、 わ ざ わ ざ 荷 物 を 担 いで 出 発 フ ロ ア
ま で 上 が り 、 香 港 ドル を 引 き 出 さ な く て は な ら な い の で す。 も ち ろ ん 私 た ち の
よ う な 軟 弱 者 は 、 「 お そ れ い り ま し た 」 と 頭 を 垂 れて、 両 替 商 の も と に 急 ぐ ほ
かありません。
と は い え 、 香 港 国 際 空 港 か ら 香 港 市 街 ま で は 、 エ ア ポー ト ・ エ キス プ レス で
70HK$(約910円)、地下鉄(束涌線TungChungLine)やエアバスを使えば
30HK$(約390円)~40HKS(約520円)なので、1、000円札を1枚か2枚、両替す
るだけで事は足ります。たとえ到着が深夜になっても、香港ではATMは24時
間 稼 動 して い る の で、 ひ と た び 市 街 ま で た ど り 着 け ば 、 あ と は ど う に で も な り
ます。
し か し 、 香 港 国 際 空 港 の 両 替 商 も 、 そ の 態 度 の 悪 さ に お いて、 啓 徳 空 港 の 名
声を充分に引き継いでいるようです。カウンター越Lハこ1、000円札を1枚出した
と こ ろ 、 「 ナ ーン ダ、 コ レ シ カ お 金 ナ イ の ? 」 と 面 と 向 か っ て 言 わ れ た と の 報
告もありますから、油断はできません。「侮りがたし、香港」です。
14
“ 金融シティ ”香港の旅は、国際空港の両替商から始まった
ところで、恒生銀行に口座をつくることは、実はあまりお勧めできません。
香港の代表的な株価指数「ハンセン指数」で知られるこの銀行は、もともとは
華人系の地場銀行で、その後、香港上海銀行に買収されてローカル部門を担当
するようになりました。100%地元の人のための銀行ですから、海外送金など
の外為業務にほとんど対応できず、海外から電話やFAXで口座にアクセスす
ることも不可能です。そのため、香港が中国に返還され、一時のブームが下火
になると、バックパッカーたちのつくった恒生銀行の口座も、わずかな残金を
残したまま捨て置かれることになったのです。
|香港はなぜ“超過密都市”になったのか?香港 国 際 空 港 か ら エ ア ポ ー ト ・ エ キス プ レス に 乗 っ て 終 点 の 香 港 駅 で 降 り る
と、そこから歩いて、地下鉄港島線lslandLineの中環(セントラルCentraD
駅 に 乗 り 継 ぐ こ と が で き ま す。 実 は こ の 中 環 ( セ ン ト ラル ) こそ が 香 港 の 金 融
街の巾心地で、本書の舞台となります。
15
ここで簡単に述べておくと、私たちがイメージする「香港」は、九龍(カオ
ルーン)半島南端の一角と、ヴィクトリア湾をはさんで九龍と向かい合う香港
島北部のことです。香港には香港島以外に大小200以上の島がありますが、これ
らの高々はほとんど開発されておらず、リゾート客以外に訪れる人もいません。
阿片戦争の結果、1842年8月に南京条約が締結され、イギリスは清朝から香
港島を譲り受けます。さらに1860年の北京条約で九龍半島南部が割譲され、
これが現在の香港の原型となりました。この南京条約や北京条約による領土の
割譲は、清国政府がイギリス商人の阿片ビジネスを妨害したことに対する目獣
罰」ですから、イギリスは未来永劫、これらの領土を「返還」する必要はあり
ません。
ところがその約40年後、1898年に結んだ「香港境界拡張専門協約」では、日
本を含む「国際世論(帝国主義国家同士の利害対立)」の批判もあり、さしも
のイギリスもこうした強引な手法を取ることができませんでした。そこでやむ
なく、「九龍半島北部を99年問租借する」という契約を結んだのです。
この九龍半島の新たな租借地を「新界NewTerl-itories」、それ以前に割譲さ
れた半島南部を「九龍Kowloon」と呼びます。この「租借地」と「害り譲地」の
境界は、現在でも「界限街BoundaryStreet」という通りの名前として残って
います。
1997年7月1日の「香港返還」とは、国際条約のうえでは、この「新界」の租
借期限が切れて中国に返還する日、ということになります。事実、イギリスの
保守派の中には、「“正式な”条約で割譲された香港島と九龍は大英帝国の財産
であるから中国に返す必要はない」という議論もありました。
ところが1世紀近い時の流れのなかで、租借地の「新界」と割譲地の「九龍」
は融合し、香港の社会生活は九龍半島の90%以上を占める新界なしでは維持で
きなくなっていました。水や食料の大部分を新界側に依存する以上、割譲地だ
けで自給自足していくことが不可能なのは、誰の目にも明らかだったのです。
そのことを熟知している中国は、文化大革命の熱狂の最中ですら拙速な反英
活動を行なわず、じっくりと租借期限が切れる日を待ちました。阿片戦争で手
に入れた土地ですから、もとよりイギリスに租借延長を申し入れる大義名分は
16
ありません。こうして、84年12月の「英中共同宣言」によって香港の全面返還
が定められたのです。
このような歴史的経緯もあり、植民地香港を経営するイギリスは、割譲地で
ある九龍や香港島に集中的な投資を行ない、その狭いエリアにすべての機能が
集中することになりました。租借地の新界地区には、「割譲地」に水や食料、
労働力を供給するバックオフィス以上。の発展が許されなかったのです。このよ
うにして世界有数の超過密都市・香港が生まれました。
|“風水の危険地帯”セントラルヘようこそ!香港最大の繁華 街 は 、 九 龍 半 島 南 端 の 尖 沙 咀 ( チムサ ア チ ョ イ T s i m S h a
Tsui)で、東京でいえば新宿にあたります。この尖沙咀から北に延びる九龍の
メインストリート弼敦道(ネイザン・ロードNathanRoad)に沿って、油麻地
(ヤウマティYauMaTei)、旺角(モンコクMongKok)、深水捗(サムシュイ
ポーShamShuiPo)などの下町が広がります。このあたり一帯の、人いきれ
と 排 気 ガ ス と 大 衆 レス ト ラ ン と あ や し げ な 商 店 街 と 屋 台 に あ ふ れ る コ ピー 商 品
こそ が 「 香 港 」 で あ る と さ れ た た め 、 香 港 島 ( ホ ン コ ン ・ サイ ド ) は ずっ と 、
ピークトラム(登山電車)に乗ってヴィクトリア・ピークに登り、「100万ドル
の 夜 景 」 を 楽 し む 以 外 は 、 観 光 客 か ら 見 向 き も さ れ ま せ んで し た 。 香 港 に 年 何
回 も 通 う “ ヘ ビー ・ リ ピー タ ー ” の 中 に も 、 「 ホ ン コ ン ・ サ イ ド の こ と は な に
も知らない」という人がけっこういます。
1980年代後半からの香港ブームによって九龍の下町は徹底的に研究し尽くさ
れ ま し た が 、 こう し た 香 港 マ ニ ア た ち も 、 実 は 、 金 融 シ テ ィ と して の 香 港 は ほ
とんど知らないのです。
地 下 鉄 の 中 環 駅 を ス タ チ ュ ー ・ ス ク エ ア ( 皇 后 像 広 場 ) 側 に 降 り る と 、 目 の
前が香港上海胆豊銀行有限公司TheHongkongandShanghaiBanking
Corp()l‘ationT.、imited(略称:「ホンシャン」)の本社ビルです(「胆豊銀行」は、
も と も と の 香 港 上 海 銀 行 の 名 称 で、 胆 豊 < ウ イ ホ ン > の 瀧 は 本 来 「 流 れ が ひ と
と こ ろ に 集 ま る 」 と い う 意 味 が あ り 、 現 在 で は 「 為 替 」 を 意 味 し ま す ) 。 内 部
が 吹 き 抜 け に な っ て お り 、 夜 に な る と 梯 子 型 の ネ オ ン で 縁 ど ら れ る た め 、 地 元
17
では「油田基地」と呼ばれています。
香 港 上 海 銀 行 の 左 手 に 見 え る 鏡 張 り の 斬 新 な 建 物 が 、 中 国 銀 行 B a n k o f
China(略称:「バンチャイ」)香港支店です。この建物を見た香港の風水師た
ち が 、 「 三 角 形 の 鏡 は 毒 を 塗 ら れ た 剣 の 象 徴 だ 。 そ の 剣 の 矛 先 は 香 港 総 督 邸 に
向 け ら れ て い る 」 と 指 摘 し た た め 、 返 還 前 の 香 港 ぱ 風 水 論 争 ” に 沸 き 返 り ま
し た 。 中 環 周 辺 の オ フィス ビ ル が 色 ガ ラス で 覆 わ れて い る の は 、 中 国 銀 行 の 建
物 か ら 発 散 さ れ る “ 邪 気 ” を 払 う た め だ と も い わ れ て い ま す。
香 港 上 海 銀 行 の 隣 が 、 イ ギ リ ス 系 の ス タ ン ダ ー ド ・ チ ャ ー タ ー ド 銀 行
55tandardChrteredBank(香港直打銀行、略称:「スタチャン」)の香港本店
(デ・ヴュー・ロード店DesvoeuxRoadBranch)で、この3つの銀行が、中
央銀行のない香港で、「発券銀行」の役割を担っています。このため香港では、
発券銀行ごとに3種類の紙幣が流通しているのです(コインは1種類です)。
ク イーンズ ロ ー ド を 隔 て た 向 こう 側 に は 、 シ ティバ ン ク ・ タ ワ ー と 、 香 港 最
大 の 財 閥 で あ る 長 江 ( チ ョ ン コ ン ) 実 業 の 本 社 ビ ル が 聳 えて い ま す。
中 環 駅 を 海 側 に 降 り る と 、 す ぐ 目 の 前 が ヴィ ク ト リ ア 湾 で す。 香 港 島 の 中 環
と 九 龍 半 島 の 尖 沙 咀 を 結 ぶ ス タ ーフ ェ リ ー ( 天 声 小 輪 ) 埠 頭 の 手 前 に 「 ジャ ー
ディン・ハウスJardineHouse」があります。アジア有数の証券会社ジャーデ
ィン・フレミングム121rdineFlemingを興したウィリアム・ジャーディンは、ジ
ェ イム ズ ・ マ セ ソ ン と 並 ぶ 、 阿 片 商 人 の 大 物 で し た 。 阿 片 戦 争 の 記 憶 を ひ き ず
るこの貿易商社は、西暦2000年の現在も、ジャーディン・マセソン商会として
香港経済に大きな影響力を持っています。
中 環 の オ フィス 街 が 手 狭 に な る と 、 地 下 鉄 港 島 線 に 沿 って、 金 鐘 ( ア ド ミ ラ
ルティAdl’rliralty)、湾仔(ワンチャイWanChaDへと高層ビル街が広がって
いきました。この中環、金鐘、湾仔のビル街が、香港の「100万ドルの夜景」
を演出します。“ 金 融 シ テ ィ ” 香 港 を 探 検 す る な ら 、 実 は こ の 3 つ の 街 で、 すべ て の 用 は 足 り
てしまいます。湾仔の隣の銅錫沢(コーズウェイ・ペイCausexvayBay)には
三越やそごうなどの[]系デパートが集まり、香港に赴任した日本人ビジネスマ
こ/には馴染みの街になっています。
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|香港の金融サービスは銀行が中心香港の金融機関を分類してみると、銀行、証券会社、ファンド運用・販売会
社、保険会社、投資顧問会社に大きく分けることができます。
リテール向けの金融業務の中心を担っているのは銀行です。香港の町を歩い
ていると銀行の看板やATMが視界に入らないところはない、といっても過言
ではないほど、支店もATMもいたるところにあります。しかも、ATMはほと
んどが24時間稼動。出金や入金はもちろん、口座間の振替や暗証番号の変更な
どもすべてATMで可能です。
香港の銀行はいわゆる証券業務を兼ねているところが多く、個人投資家は株
式やファンドなども銀行を通して購入することができるようになっています。
銀行によってはファンドの販売手数料を割引して顧客に還元しているところも
あります。購入する側にしてみても、資金移動の面倒な手続きがいらないうえ
に手数料サービスもあるとなれば、銀行のサービスを利用するメリットは大き
いでしょう。
それでは、香港の証券会社やファンド会社はいったい何をしているのでしょ
うか?
実は、香港には日本の証券会社のようなリテール向けの総合証券業務をやっ
ている会社はありません。香港の証券会社が扱っている商品は香港市場の株式
が中心ですが、銀行に口座を持っていれば、テレフォン・バンキングやFAX
で株式の売買もできるようになっています。そのような事情もあり、香港の証
券会社は、機関投資家向けの「投資銀行」か、地元の個人投資家に密着したい
わゆる「地場証券」に分かれます。香港でも株式売買手数料が自由化されつつ
あり、インターネットを利用したディスカウント証券会社も登場してきました。
(本書ではその中のひとつ、マンションハウスMansionHouse証券を紹介しま
す)。
香港にはヨーロッパ、とくにイギリス系のオフショアファンド会社のアジア
拠点としてかなりの数の支店や営業所がおかれており、そうしたファンド会社
では、チャンネル諸島やマン島にある本社にFAXなどで資料請求をしても、
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全面鏡張りの中国銀行ピル。
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ス タ テ ュ ー ・ ス ク エ ア 前 に そ び え 立 つ 香 港上 海 銀 行 ビ ル ( 正 面 ) と ス タ ン ダ 一 ド ・ チャータード銀行(右)。
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香 港 支 店 ( 営 業 所 ) の 管 轄 と さ れ る こ と に な り ま す。 し か し 私 た ち が 調 べ た か
ぎ り で は 、 香 港 に 本 支 店 を 持 つ フ ァン ド 会 社 の う ち リ テ ール 業 務 を や って い る
の は 、 ジ ャ ー ディ ン ・ フ レ ミ ン グ だ け で、 ほ と ん ど が 銀 行 を 通 して 売 買 さ れて
います。
こうした金融事情からもわかるように、香港で資金を運用するにあたっては、
銀行の果たす役割は非常に大きくなります。
で は い よ い よ こ れ か ら 、 “ ア ジ ア 最 大 の オ フ シ ョ ア 金 融 セ ン タ ー ” 香 港 の 旅
を始めましょう。
まずは、イギリス最大の金融グループHSBCの旗艦である、香港上海銀行です。
オフィス街中環(セントラル)の通勤風景
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