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輸血について 高松赤十字病院 血液内科 日本輸血・細胞治療学会認定医 井出 眞

輸血について...RCC-LR 10E+FF-LRP4E+PC-LR 10Eで 凝固因子を補充しながら輸血する事もある 照射濃厚血小板「日赤」Irradiated Platelet Concentrate “Nisseki”

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輸血について

高松赤十字病院 血液内科

日本輸血・細胞治療学会認定医 井出 眞

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保存してある血液

赤血球濃厚液:

A型:8-10単位

B型:4単位

O型:10単位

AB型:2-4単位

FFP:

A,B,O,AB各10単位以上

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血小板保存用震とう器

血小板は基本的に保存が

できない(4日間)

オーダーのたびに

血液センターから持ってくる

(室温保存)

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輸血をオーダーすると輸血課の端末にオーダーが飛び、口頭で確認した指示と照らし合わせます。

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血液センターから輸送された血液のクロスマッチ

手作業です!

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検査が終了すれば、病棟に連絡して技師より看護師または医師に渡されます。この時、伝票の番号と血液型、名前などをダブルチェックします。

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病棟に運搬してから、再度医師とダブルチェックを行います。さらにPDAで認証し輸血します。

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最終的に医師または看護師が輸血をつなぎます。(当院では連続した輸血の場合、一本目は医師がつなぐ事になっています)。

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1999年(平成11年)6月、厚生省は「血

液製剤の使用指針」と「輸血療法の実施に関する指針」を都道府県知事に通知し、すべての血液製剤の国内完全自給に向け、さらなる血液製剤の使用適正化の推進を計った。

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1)目的 輸血療法の主な目的は,血液中の赤血球などの細胞成分や凝固因子などの

蛋白質成分が量的に減少又は機能的に低下したときに,その成分を補充することにより臨床症状の改善を図ることにある。

EX)輸血は血液成分の補充療法であり、疾患に対する治療ではない事を銘記する。

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EX)本当に輸血が必要か?感染症などのリスクを考える。

通常、白血病などの化学療法時には

Hb 7.0g/dl

血小板 1万/μl

再生不良性貧血などの慢性貧血では

Hb 5.0g/dlがひとつの基準になる

外傷などによる急速な出血ではHb値はあてにならない

2) 輸血による危険性と治療効果との比較考慮 輸血療法には一定のリスクを伴う

ことから,リスクを上回る効果が期待されるかどうかを十分に考慮し,適応を決める。輸血量は効果が得られる必要最小限にとどめ,過剰な投与は避ける。また,他の薬剤の投与によって治療が可能な場合は,輸血は極力避けて臨床症状の改善を図る。

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説明と同意(インフォームド・コンセント) 患者又はその家族が理解できる言葉で,輸血療法にかかわる以下の項目を十分に説明し,同意を得た上で同意書を作成し,一部は患者に渡し,一部は診療録に添付しておく(電子カルテにおいては適切に記録を保管する)。

注)一連の治療による輸血時には高松赤十字病院で定められた同意書を取る。

毎日輸血する様な血液疾患では、入院時および外来での輸血開始時に取り直す。

必要な項目 (1)輸血療法の必要性 (2)使用する血液製剤の種類と使用量 (3)輸血に伴うリスク (4)副作用・感染症救済制度と給付の条件(5)自己血輸血の選択肢 (6)感染症検査と検体保管 (7)投与記録の保管と遡及調査時の使用 (8)その他,輸血療法の注意点

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1)輸血の必要性 Ex)急性白血病の化学療法後にHb 5g/dlまで低下し全身倦怠

感の自覚症状も出現している。

2)輸血量設定の根拠及び輸血前後の臨床所見と検査値の推移

Ex)患者体重は50kgであり、4単位で3g/dlのHbの上昇

が見込めるため、濃厚赤血球液CRC-LRを4単位輸血した。

3)輸血効果を評価し,診療録に記載する。 Ex)輸血後、全身倦怠感は改善し翌日の血液検査ではHb

8.0g/dlまで上昇し回収は良好であった。

3) 輸血の必要性と記録 輸血が適正に行われたことを示すため,輸血の必要性,

輸血量設定の根拠及び輸血前後の臨床所見と検査値の推移から輸血効果を評価し,診療録に記載する。

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主な輸血の種類

• 赤血球輸血

自己血輸血

照射濃厚赤血球液 Ir-RCC-LR(Leukocytes Reduced)

照射洗浄赤血球輸血 Ir-WRC-LR

照射血小板濃厚液 Ir-PC

(照射洗浄血小板濃厚液)

• 新鮮凍結血漿 FFP-LR

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照射赤血球濃厚液-LR「日赤」Irradiated Red Cells Concentrates-Leukocytes Reduced, “Nisseki” (Ir-RCC-LR

全量(2単位) 約280ml(Hb 19g/dl程度 すなわち53g) 予測上昇Hb値(g/dl)=投与Hb量(g)/循環血液量(dl 70ml/kg) 体重50kgの成人では53/35 g/dl=1.5 g/dl

輸血速度 最初の10-15分 1ml/min 後は5ml/minすなわち約一時間で2単位輸血

クロスマッチの保存可能は3日間 外傷などでは100ml/minの大量輸血が必要となる事もある

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アレルギーの元になる血漿成分を取り除き、赤血球を生理食塩水に浮遊させた製剤

全量(2単位):280cc

製造後24時間で使用

照射洗浄赤血球-LR「日赤」 Irradiated Washed Red Cells-Leukocytes Reduced, “Nisseki” (Ir-WRC-LR)

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新鮮凍結血漿-LR「日赤」Fresh Frozen Plasma- Leukocytes Reduced, “Nisseki” (FFP-LR)

現時点での適応は凝固因子(フィブリノーゲンなど)の補充のみ 凝固因子を20-30%上昇させるには8-12ml/kg投与する ???循環血液が70mg/kg 循環血漿が40ml/kg その20-30%という計算 全量:FFP-LR1 約120ml FFP-LR2 約240ml アルブミン、蛋白の補充には使わない 例外) 血栓性血小板減少性紫斑病などの血漿交換 大量輸血時 RCC-LR 10E+FF-LRP4E+PC-LR 10Eで 凝固因子を補充しながら輸血する事もある

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照射濃厚血小板「日赤」Irradiated Platelet Concentrate “Nisseki” (Ir-PC)

全量:10単位 約200mL 1袋 (含有血小板数 2.0×1011個以上)

輸血速度:最初の10~15分間は1分間に1mL程度で行い、その後は1分間5mL

予測血小板増加数(/μl)=輸血血小板総数/循環血液量(ml)×103×2/3

例えば10単位を体重50kgの人に入れると循環血液量は3500mlなので

2.0×1011/3500×103×2/3=3.8万/μlの増加

効果があるかどうかの評価は

CCI(Corrected count increment)(/μl)=

輸血血小板増加数(/μl)×体表面積(m2)/輸血血小板総数(×1011)

輸血1時間後 ≧7500/μl

輸血24時間後 ≧4500/μl

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輸血をしようと思ったら

1)まず患者もしくは家族に説明し輸血承諾書を取る 2)血型の確認、ABO型 Rh型 血液型が解らない時は0型赤血球を輸血する 不規則抗体(抗D、抗E、抗E+c、抗Duffy、抗Lewis抗体など、過去の妊娠や輸血に関連してできる)

3)輸血前保管検体の採血(凍結保存している) 4)感染症のチエック HBs抗体、HBc抗体、HCV抗体、HBs抗原 HCV抗原、HIV抗原・抗体(HTLV-Ⅰ梅毒 TP抗体 RPR法) 2)3)4)は一回の採血で 4)クロスマッチ(血液型とは違う採血で行う)

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輸血後の感染症チエック

3ヶ月後にHBs抗原 HCV抗原 HIV抗体(ガイドラインではPCRだが、血清で調べている)

注)輸血指示医がしなくても、採血があれば輸血課で指示している。採血指示がなければできない。

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輸血の副作用

1)溶血性輸血副作用

1)即時型(数分から数時間 ABO不一致など)

輸血直後に状態が急変するのはほぼABO

不一致

2)遅発型副作用(24時間から数日後)

異型適合血などで数日間、溶血が続く事も

ある

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2)非溶血性輸血副作用 (1)即時型(あるいは急性型)副作用 アナフィラキシーショック(血漿輸注による蕁麻疹などは開始後、30分以上経過しておこる事が多い)

細菌汚染血輸血 TRALI 輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury)など ⅰ細菌感染症 血小板濃厚液(室温での保存のため) ⅱ 輸血関連急性肺障害(TRALI) TRALIは輸血中もしくは輸血後6時間以内(多くは1~2時間以内)に起こる非心原性の肺水腫を伴う呼吸困難を呈する,大半の症例は後遺症を残さずに回復するとされているが,死亡率は十数%あるという。なお,当該疾患が疑われた場合は血漿中の抗顆粒球抗体や抗HLA抗体の有無について検討する。

TACO(transfusion-associated circulatory overload、輸血関連循環過負荷) 輸血の容量負荷により併発する循環心不全症状 (2)遅発型副作用 輸血後数日から数ヵ月後に発症してくる移植片対宿主病,輸血後紫斑病,各種のウイルス感染症がある。

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輸血後数日から数ヵ月後に発症してくる移植片対宿主病,輸血後紫斑病,各種のウイルス感染症がある。 ⅰ輸血後移植片対宿主病 輸血前放射線照射などの予防策の徹底により2000 年以降,確定症例の報告はない。 ⅱ輸血後肝炎(B、C型) ⅲヒト免疫不全ウイルス感染(HIV) ⅳヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV-Ⅰ)

(2) 遅発型副作用

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副作用対策 1)輸血をしない

2)できるだけ安全な輸血製剤を選ぶ

洗浄血小板、洗浄赤血球など

3)慌てない事

高松赤十字病院血液内科に限っても2年に一回くらい、呼吸

停止まで進展する重篤なアナフィラキシーが起きているが、ほとんどはアンビューバッグで2-3回の呼吸補助で回復する。その後、ステロイドなどの投与。

4)予防処置

頻回に蕁麻疹などをおこす人は、輸血前にステロイド、抗ヒスタミン剤を投与するが効果は不明

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結論

輸血はしないのが、第一(自己血輸血を含めて)。するならば決断は慎重に、決断してからは早く。