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目指すべき社会像を作り上げる船頭役を果たそう ~産官学民のつなぎ役に~ 小倉亜紗美 広島大学国際センター 連絡先:[email protected] キーワード:地域連携、地域団体、街づくり、協労 持続可能な社会とは、地球の許容量を超えない資源の使い方をして、将来世代も自然の恩恵 を受けながら暮らせる社会である。現在の私たちの社会、すなわち高度経済成長以降の日本の 社会は、資源は無限にあり、経済成長を続けることは当たり前、科学は全ての問題を解決する ことができ、自然さえ操ることが出来るという価値観の元に社会を形成してきた。それは、世 界中の人々が日本と同じ生活をすると、地球が 2.3 個も必要なほど資源を消費する社会を作り 上げた(WWF ジャパン「エコロジカル・フットプリント・レポート-日本 2009」より)。そ れに伴い、大気汚染、水質汚濁、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少といっ た様々な環境問題が引き起こされてきた。しかし、私たちの社会生活は、海や森、山などの自 然資源なしに成り立たないのは明白であるので、持続可能な社会を形成していくことが、私た ちの社会生活を持続していくことにも欠かせないことである。 その認識を急速に広めたのが 2011 3 11 日に発生した東日本大震災であろう。東日本大 震災の後、日本中でエネルギー・食についての勉強会や講演会が数多く開催され、それまでデ モに興味を持っていなかった学生や主婦などがデモに参加するようになった。このように日本 の社会は急激に変わりつつあるが、これまでのように目指すべき国がなく、目指すべき社会の 形を自ら模索する時代に入ってきている。そんな時代に大学がすべきことは、目指すべき社会 の形を市民・事業者・行政そして学生の枠を超え、様々な立場・役割・年代の意見を取り入れ て合意形成を図る際に、科学的知見を提供し、目標とする社会像を創り上げる作業を導いてい くことではないだろうか。 これまで、大学教員は研究をし、そして学生へ授業をしていれば良かった。しかし、社会の ニーズはそれだけでなく、大学の多様で多彩な人材を活かした地域づくりに及んできている。 実際に広島大学では、こういった要望に対応するため、「広島大学地域連携推進事業 http://www.hiroshima-u.ac.jp/ccc/intro/tie/index.html#B)」という、地域住民から提案され た研究や活動を、広島大学の教職員・学生を活用して連携・協働しながら行うプロジェクトを 実施している。筆者も、平成 23 年度「広島大学地域連携推進事業」で、市民・団体・事業者 と市が協力、連携して持続可能な社会を目指したまちづくりに取り組むネットワーク組織であ る「エコネットひがしひろしま(http://go-eco.me/)」が提案したテーマに大学職員として取り 組み、プロジェクト B-9「広大生の生活エコ化で CO2 削減」という事業を実施した。「エコネ ットひがしひろしま」は、平成 22 年に立ち上げられた組織であるので、事業を行った時期は 立ち上げ期の今後の事業展開の基礎を固めていく上で非常に重要な時期であった。そこで、こ の事業の目的を「今後の活動の元になるツール『方法論』の提供」と定め、会員の一人として 「緑のわっか WG」を立ち上げて、学生と地域住民が共に温暖化やゴミ問題について考える機

CO - CANPAN FIELDS€¦ · の事業の目的を「今後の活動の元になるツール『方法論』の提供」と定め、会員の一人として 「緑のわっかwg」を立ち上げて、学生と地域住民が共に温暖化やゴミ問題について考える機

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Page 1: CO - CANPAN FIELDS€¦ · の事業の目的を「今後の活動の元になるツール『方法論』の提供」と定め、会員の一人として 「緑のわっかwg」を立ち上げて、学生と地域住民が共に温暖化やゴミ問題について考える機

目指すべき社会像を作り上げる船頭役を果たそう

~産官学民のつなぎ役に~

小倉亜紗美

広島大学国際センター

連絡先:[email protected]

キーワード:地域連携、地域団体、街づくり、協労

持続可能な社会とは、地球の許容量を超えない資源の使い方をして、将来世代も自然の恩恵

を受けながら暮らせる社会である。現在の私たちの社会、すなわち高度経済成長以降の日本の

社会は、資源は無限にあり、経済成長を続けることは当たり前、科学は全ての問題を解決する

ことができ、自然さえ操ることが出来るという価値観の元に社会を形成してきた。それは、世

界中の人々が日本と同じ生活をすると、地球が 2.3個も必要なほど資源を消費する社会を作り

上げた(WWFジャパン「エコロジカル・フットプリント・レポート-日本 2009」より)。そ

れに伴い、大気汚染、水質汚濁、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少といっ

た様々な環境問題が引き起こされてきた。しかし、私たちの社会生活は、海や森、山などの自

然資源なしに成り立たないのは明白であるので、持続可能な社会を形成していくことが、私た

ちの社会生活を持続していくことにも欠かせないことである。

その認識を急速に広めたのが 2011年 3月 11日に発生した東日本大震災であろう。東日本大

震災の後、日本中でエネルギー・食についての勉強会や講演会が数多く開催され、それまでデ

モに興味を持っていなかった学生や主婦などがデモに参加するようになった。このように日本

の社会は急激に変わりつつあるが、これまでのように目指すべき国がなく、目指すべき社会の

形を自ら模索する時代に入ってきている。そんな時代に大学がすべきことは、目指すべき社会

の形を市民・事業者・行政そして学生の枠を超え、様々な立場・役割・年代の意見を取り入れ

て合意形成を図る際に、科学的知見を提供し、目標とする社会像を創り上げる作業を導いてい

くことではないだろうか。

これまで、大学教員は研究をし、そして学生へ授業をしていれば良かった。しかし、社会の

ニーズはそれだけでなく、大学の多様で多彩な人材を活かした地域づくりに及んできている。

実際に広島大学では、こういった要望に対応するため、「広島大学地域連携推進事業

(http://www.hiroshima-u.ac.jp/ccc/intro/tie/index.html#B)」という、地域住民から提案され

た研究や活動を、広島大学の教職員・学生を活用して連携・協働しながら行うプロジェクトを

実施している。筆者も、平成 23 年度「広島大学地域連携推進事業」で、市民・団体・事業者

と市が協力、連携して持続可能な社会を目指したまちづくりに取り組むネットワーク組織であ

る「エコネットひがしひろしま(http://go-eco.me/)」が提案したテーマに大学職員として取り

組み、プロジェクト B-9「広大生の生活エコ化で CO2削減」という事業を実施した。「エコネ

ットひがしひろしま」は、平成 22 年に立ち上げられた組織であるので、事業を行った時期は

立ち上げ期の今後の事業展開の基礎を固めていく上で非常に重要な時期であった。そこで、こ

の事業の目的を「今後の活動の元になるツール『方法論』の提供」と定め、会員の一人として

「緑のわっかWG」を立ち上げて、学生と地域住民が共に温暖化やゴミ問題について考える機

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会の提供を試みた(図 1)。その中で、2011年 10月 15日に行った「東広島のゴミ事情を学ぼ

う!野菜畑の野菜で BBQ」では、留学生、日本人学生、エコネットひがしひろしまの会員で

ある地域住民が集まり、地球温暖化と東広島市のゴミ問題について学び、留学生に母国のゴミ

処理の方法について紹介してもらう機会を設けた。それを元に東広島のゴミ事情とそれに対す

る留学生の感想、そして世界のゴミ処理についてまとめたチラシを作製した(図 2)。これを、

市民が参加するイベントでの発表・配布を通じて広く市民への普及啓発を行った。この事業に

より、エコネットひがしひろしまは、学生に対するアプローチ方法を知ることが出来、さらに

緑のわっかWGの活動推進することが出来たうえ、街作り進める上で抜けがちな外国人の視点

についても知ることが出来た。一方で、広島大学としては、日本人学生と留学生はもちろん普

段交流をすることが少ない大学生以外の地域住民との交流をすることが出来たうえ、東広島の

ゴミ処理について知ることが出来たので、学生のゴミ分別のマナーの向上に繋がったのではな

いかと考えられる。この事業を受け、それまで、広報WG、新規会員発掘WGの 2つしかなか

ったエコネットひがしひろしまの WG は、今では緑のわっか WG、出前講座コーディネート

WG、エコショップ認定WG、西条で天の川を見ようWG、籾殻クン炭活用WGの 7つに増加

している(2013年 4月 1日)。これは,本事業の目的が達成され,エコネットひがしひろしま

の活動の基礎作りに貢献できたことが具体的に成果として表れている結果と言える。

エコネットひがしひろしまには、大学の教員はもちろん、企業の社員や大学生も幹事として

参加しており、年齢や立場にとらわれず、それぞれの意見を言い合える場となっている。そし

て、会員は持続可能な社会を作るために、それぞれの業種・立場を超えて繋がり、お互いの強

みを活かしながら協力し合っている。その際に科学的知見に基づき情報提供が出来る大学教員、

これからの社会を担って行く大学生がいることで、目標とする社会像が多様な意見を取り入れ、

さらに社会の批判にも耐えられるような信憑性の高いものにしていくことが出来る。実際に、

東広島市の環境基本計画の中で、市民が推進する環境目標はエコネットひがしひろしまで行っ

た事業を元にその達成度の判断を行っている。

このように、最先端の研究をすることが大学に求められているのはもちろんであるが、その

科学的知見を実社会と結びつけ、これから目指すべき持続可能な社会像を作り上げるその船頭

役を果たすことが、今後大学に求められる役割の一つではなかろうか。

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図 1.平成 23年度「広島大学地域連携推進事業」プロジェクト B-9「広大生の生活エコ化で CO2

削減」の概要

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図 2.「東広島のゴミ事情を学ぼう!野菜畑の野菜で BBQ」を元に作成した、東広島のゴミ事情

とそれに対する留学生の感想、そして世界のゴミ処理についてまとめたチラシ