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Applying IFRS アセットマネジメント業 新たな収益認識基準 アセットマネジメント業 2015 1

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Applying IFRS アセットマネジメント業

新たな収益認識基準 — アセットマネジメント業

2015 年 1 月

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1 2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業  

概要

国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)(以下、総称して「両

審議会」という)が共同で公表した新たな収益認識基準である IFRS 第 15 号「顧客との

契約から生じる収益」の適用により、ファンドマネージャーは、収益認識に関する会計方

針や実務の変更が求められる可能性がある。新たな収益認識基準により、ファンドマネ

ージャーが現在適用している可能性のある業界特有の規定をはじめとする、実質的に

すべての IFRS 及び米国会計基準(US GAAP)における収益認識に関する現行の規定

が置き換えられることになる。

IFRS 第 15 号は、顧客との契約から生じるすべての収益に関する会計処理を定めてい

る。同基準書は、IAS 第 17 号「リース」など他の IFRS の適用範囲に含まれる契約を除

く、顧客に財又はサービスを提供する契約を締結するすべての企業に影響する。また、

IFRS 第 15 号は不動産や設備、無形資産など、一定の非金融資産の売却から生じる

利得及び損失の認識及び測定モデルも定めている。

IFRS 第 15 号は、顧客にサービスを提供するために契約を締結するすべてのファンドマ

ネージャーに影響を及ぼす。特に重要な変更が生じる可能性がある会計処理は、成功

報酬、アップフロント・フィー(販売手数料)、契約コストに関するものである。IFRS 第 15号は、収益として認識する金額を、認識した収益の累計額に重要な戻入れが発生しない

可能性が非常に高い金額に制限しており、この判断を行う上で考慮すべき要因を定め

ている。そのため、成功報酬を収益として認識する際には重要な判断が求められ、IFRS第 15 号の適用により、ファンドマネージャーによる収益認識パターンに変更が生じる可

能性がある。

また、IFRS 第 15 号では、履行義務を識別し、各履行義務に収益を配分することも求め

られる。ここで、ファンド持分の販売時に稼得されるアップフロント・フィー(販売手数料)

は、ファンドマネージャーが継続的に提供する管理サービスと区別できると考えられる場

合も、そうでない場合もあるため、これらの手数料に関する収益認識時期が変更される

可能性がある。

さらに、ファンドマネージャーによっては、一部の契約コストの会計処理が変更される可

能性がある。IFRS 第 15 号は、契約獲得のための増分コスト及び一定の直接的な契約

履行コストについて、当該コストが回収されると見込まれる場合には資産として認識す

ることを求めている。なお、これらのコストが資産化された場合には、減損の評価を行う

必要がある。

IFRS 第 15 号の適用にあたっては、個々の事実及び状況に基づく、多くの判断と見積り

が要求される。たとえば、どの当事者を顧客として識別するかは、アップフロント・フィー

の認識時期や契約コストの会計処理に影響を及ぼす可能性があることから、非常に重

要である。詳細は本編を参照のこと。

なお、投資ファンドについては、利息及び配当収益ならびに投資に係る利得及び損失は、

IFRS 第 15 号の適用範囲外の取引により創出されるため、新基準により重要な影響が

生じることはないと予想される。

本書では、IFRS 第 15 号がファンドマネージャーに及ぼす主要な影響について解説す

る。IFRS 第 15 号の収益認識モデルの概要を説明するとともに、ファンドマネジメント業

界特有の特に留意すべき論点についても解説する。本冊子は、弊法人の刊行物

「Applying IFRS: IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」」(2015 年 4 月)1 を補

足するものであり、当該刊行物と併せてお読みいただきたい。IFRS 第 15 号は重要な

開示規定を定めているが、これについては上記刊行物にて取り扱っている。

1 本冊子は www.shinnihon.or.jp/services/ifrs で入手可能である。

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2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業 2  

両審議会は、関係者による IFRS 第 15 号の適用に資するように、収益認識新基準に関

する移行リソースグループ(TRG)を創設した。両審議会は TRG の議論を参考に、利害関

係者から提起された本基準適用上の論点やその他の事項に関して、追加の解釈指針、

適用ガイダンス及び教育の必要性について検討する。TRG が両審議会に対して正式な

提言を行ったり、適用ガイダンスを発行することはない。なお、TRG が作成した見解に強

制力はない。

本書における弊社の見解は、 終的なものでないことに留意されたい。この新たな収益

認識基準書をさらに評価し、また企業が同基準書の適用を開始するにつれて、新たな論

点が特定され、そうしたプロセスを通じて弊社の見解が変わる可能性もある。

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目次

概要 ................................................................................................ 1

1. IFRS 第 15 号の要約 ................................................................... 5

2. 発効日及び経過措置 ................................................................... 5

3. 適用範囲 ................................................................................... 7

4. 顧客との契約の識別 .................................................................... 8

4.1 契約の結合 ........................................................................ 8

4.2 契約の変更 ........................................................................ 9

5. 契約における履行義務の識別 ..................................................... 10

5.1 その他の報酬に関する取決め .................................................... 11

5.2 アップフロント・フィー(販売手数料) ....................................... 11

5.3 その他のサービス .............................................................. 11

6. 取引価格の算定 ........................................................................ 12

6.1 管理報酬 ......................................................................... 12

6.2 成功報酬 ......................................................................... 13

7. 取引価格の履行義務への配分 .................................................... 15

8. 履行義務の充足 ........................................................................ 16

9. 契約コスト ................................................................................ 17

9.1 契約獲得コスト .................................................................. 17

9.2 契約履行コスト .................................................................. 17

10. 今後に向けて ............................................................................ 18

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2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業 4  

重要ポイント • IFRS 第 15 号は、さまざまな業界に属するすべての企業に適用される収益認

識に関する単一の基準書である。新たな収益基準は、現行 IFRS から大きく変

更されている

• 新たな収益基準は、顧客との契約から生じる収益に適用され、IAS 第 11 号「工

事契約」、IAS 第 18 号「収益」及び関係する解釈指針を含む、IFRS におけるす

べての収益認識に関する基準書及び解釈指針書が置き換えられる

• IFRS 第 15 号の下では、成功報酬は、収益の累計額に重要な戻入れが発生し

ない可能性が非常に高いと判断できるまで認識されない

• IFRS 第 15 号は、一般的には収益基準に関連しないと考えられる一部の項目、

たとえば契約獲得及び履行に関連する一定のコスト、及び一定の非金融資産

の売却に関する会計処理についても定めている

• IFRS 第 15 号は、2017 年 1 月 1 日以後開始する事業年度から適用される。

早期適用も認められるが、その場合にはその旨を開示しなければならない

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1. IFRS 第 15 号の要約

IFRS 第 15 号は、収益及び関係するキャッシュ・フローを認識及び測定するために企業

が適用すべき規定を定めている。その基本原則は、顧客への財又はサービスの移転と

交換に、企業が権利を得ると見込む対価を反映した金額で、収益を認識することである。

IFRS 第 15 号に定められる原則は、以下の 5 つのステップを用いて適用される。

1. 顧客との契約を識別する

2. 契約における履行義務を識別する

3. 取引価格を決定する

4. 取引価格を契約における履行義務に配分する

5. 各履行義務が充足された時点で(又は充足されるにつれて)収益を認識する

企業は、黙示的なものを含む契約条件や関連する事実及び状況を検討する際には判

断が必要となる。さらに、企業は IFRS 第 15 号の規定を、類似の特徴を有し、かつ類似

の状況におかれている契約に対して首尾一貫して適用しなければならない。期中及び

年度の両方において、企業は、一般的に現行の IFRS より多くの情報の開示が求めら

れる。年次の開示には、企業の顧客との契約、重大な判断(及び当該判断の変更)及び

契約の獲得コスト又は履行コストに関して認識した資産に関する定性的及び定量的情

報が含まれる。

2. 発効日及び経過措置

IFRS 第 15 号は、2017 年 1 月 1 日以後開始する事業年度から適用される。IFRS に

準拠して報告している企業及び IFRS の初度適用企業には早期適用が容認されている。

なお、早期適用した場合にはその旨を開示しなければならない。2

US GAAP を適用する上場企業に対する当該新基準書の発効日は 2016 年 12 月 15日より後に開始する事業年度であり、これは IFRS に準拠して報告する企業に適用され

る発効日と実質的に同じである。ただし、米国上場企業については早期適用は認められ

ていない。 3

すべての企業は、完全遡及適用アプローチ又は修正遡及適用アプローチのいずれかを

用いて、IFRS 第 15 号を遡及適用しなければならない。両審議会は、企業が完全遡及

適用アプローチを適用しやすくするために、一定の実務上の便宜を定めている。

修正遡及適用アプローチでは、財務諸表は適用開始年度からのみ、IFRS 第 15 号を用

いて作成されることになり、過年度については調整を必要としない(すなわち、従前の収

益認識基準に従って引き続き表示される)。その場合、企業は、企業による履行が引き

続き要求される契約(すなわち完了していない契約)に関しては、累積的なキャッチアッ

プ調整を、適用開始日を含む事業年度の利益剰余金期首残高(又は適切な場合には、

資本の他の内訳項目)の修正として認識する。さらに、企業は、現行 IFRS(IAS 第 18号、IAS 第 11 号及び関連する解釈指針)に従って作成した場合の適用開始年度にお

けるすべての表示科目を開示する。

発効日及び経過措置に関する詳細については、弊法人の刊行物を参照されたい。

2 2015 年 7 月、国際会計基準審議会(IASB)は IFRS 第 15 号の発効日を 1 年延期することを決定した。

したがって、IFRS 第 15 号は 2018 年 1 月 1 日以後開始する事業年度から適用される(早期適用も認

められる)。 3 2015 年 7 月、米国財務報告基準審議会(FASB)は当該新基準書の発効日を 1 年延期することを決定

した。

したがって、US GAAP を適用する上場企業に対する当該新基準書の発効日は 2017 年 12 月 15 日よ

り後に開始する事業年度である。ただし、2016 年 12 月 15 日より後に開始する事業年度以降、早期適

用が認められる。

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一方、US GAAP を適用する非上場企業については、当初、2017 年 12 月 15 日より後に開始する事業

年度(及び、2018 年 12 月 15 日より後に開始する事業年度に関する期中報告期間)から新基準の適

用が求められるとされていたが、上述の FASB による決定にともなって、2018 年 12 月 15 日より後に

開始する事業年度(及び、2019 年 12 月 15 日より後に開始する事業年度に関する期中報告期間)から

新基準の適用が求められることになった。なお、2016 年 12 月 15 日より後に開始する事業年度に関し

ては早期適用が認められる点には変更がない。

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3. 適用範囲

IFRS 第 15 号は、適用範囲から明確に除外されている以下の契約を除く、通常の事

業の過程で財又はサービスを提供するために締結されるすべての顧客との契約に適

用される。

• IAS 第 17 号「リース」の範囲内のリース契約

• IFRS 第 4 号「保険契約」の範囲内の保険契約

• IFRS 第 9 号「金融商品」(又は IAS 第 39 号「金融商品:認識及び測定」)、 IFRS 第 10 号「連結財務諸表」、IFRS 第 11 号「共同契約(ジョイント・アレンジメント)」、IAS 第 27 号「個別財務諸表」及び IAS 第 28 号「関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資」の範囲内の金融商品及びその他の契約上の権利・義務

• 同業他社との非貨幣性の交換取引で、顧客又は潜在的顧客への販売を容易に

するためのもの

ファンドマネージャーは、通常、法人、トラスト又はパートナーシップ(ヘッジファンド、プ

ライベート・エクイティ・ファンド、オープンエンド型投資法人など)の形態で組成され、多

様な商品への投資を行う投資ビークルに対して投資管理及びその他のサービスを提

供するための、さまざまな契約を締結している。契約の法的形態は異なるものの、こう

したビークルは、一般に投資家のために、当該投資家から集めた資金をプールし、投

資することによってリターンを稼得している。ファンドは、通常、ファンドマネージャー(又

はファンドがリミテッド・パートナーシップの形態で組成されている場合はジェネラル・パ

ートナー)に管理報酬と成功報酬を支払う。

ファンドマネージャーは、投資家によるファンド持分の引受時にアップフロント・フィー

(販売手数料)を受領する場合がある。

さらに、ファンドマネージャーと同一グループ内の企業が、投資家サービス、証券代行、

保管などのその他のサービスを提供する場合がある。以下のセクションでは、収益認

識モデルの 5 つのステップのそれぞれの基本原則を、ファンドとジェネラル・パートナ

ー(以下「GP」)、及びインベストメント・マネージャー(以下「IM」)間の仮想の取決めを

用いて説明する。なお、当該仮想の取決めの主な条件は以下に要約したとおりである。

例 3-1 — 仮想シナリオの前提

あるファンドマネージャーは、2 つの完全子会社を通じて、ファンドにサービスを提供

している。完全子会社である GP 及び IM には特定の管理業務が割り振られている。

IM は、管理報酬を稼得しており、これは四半期ベースで、ファンドの期末純資産総額

(NAV)の 0.5%に基づき請求され、支払われている(年率 2%の報酬)。GP は、12 月

31 日時点で、ファンドの NAV の前年比増加分に対して 20%の成功報酬を受領す

る権利を得る。

以下の例では、IFRS 第 15 号が GP 及び IM を含むファンドマネージャーの連結数

値に及ぼす影響について検討している。ただし、IM 又は GP 等の単体企業の財務

数値へ及ぼす影響については取り扱っていない。

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2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業 8  

ファンドマネージャーにとって

の顧客とは、みずからが管理

しているファンドであるかもし

れないし、そうしたファンドに

投資する投資家であるかもし

れない。顧客が誰であるかは、

収益の認識時点に影響する

可能性がある。

4. 顧客との契約の識別

IFRS 第 15 号のモデルは、顧客との契約ごとに適用される。契約は文書による場合も

あれば、口頭や企業の取引慣行により含意される場合もあるが、法的に強制力を有し、

特定の要件を満たすものでなければならない。

収益は、顧客との契約における履行義務が充足された場合に限り認識されることか

ら、適切に顧客を特定することは非常に重要である。ファンドマネージャーにとっての

顧客とは、みずからが管理しているファンドであるかもしれないし、そうしたファンドに

投資する投資家かもしれない。顧客が誰であるかは収益が認識される時点に影響す

る可能性がある。 法人形態で組成されたファンドを想定してみる。こうしたファンドには、通常、取締役会

はあるが、その他の従業員はおらず、多数の株主(投資家)が存在している。こうした

状況では、通常、サービスを受けるために(ファンドマネージャーを含む)当事者と契

約を締結するのはファンドであり、投資家がファンドの設立に関与したり、契約の当事

者になる可能性は低い。 したがって、(ファンドの投資家ではなく)ファンドがファンドマネージャーの顧客として

みなされる可能性がある。そうしたファンドへ保管や証券代行などのその他のサービ

スを提供するための契約も、同じように評価される可能性がある。 対照的に、1 名のリミテッドパートナー(以下「LP」)のために GP が設立したファンドを

想定してみる。この場合、LP がファンドの設立及び契約交渉に関与する可能性が高

いため、LP が顧客であると結論付けることが合理的かもしれない。

弊法人のコメント 顧客の特定にあたっては、取決めの条件を慎重に評価すべきである。特に、アップ

フロント・フィー及び契約獲得コストについては、それにより会計処理が異なる可能

性があるため、適切に顧客を特定することが重要である。

4.1 契約の結合 IFRS 第 15 号は、次の要件のいずれかに該当する場合には、同一の顧客(又は顧

客の関連当事者)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約を結合して、単一の契

約として会計処理することを求めている。(1)契約が単一の商業的な目的を有するパ

ッケージとして包括的に交渉されている。(2)ある契約で支払われる対価の金額が、

他の契約の価格又は履行に左右される。(3)複数の契約に含まれる財又はサービス

の全部(又は一部)が、下記で説明しているような単一の履行義務である。

例 4-1 — 顧客との契約の識別

例 3-1 による前提に基づくと、以下の理由から、ファンドマネージャーは、収益を認識

するにあたり、IM との契約(管理報酬に関するもの)と GP との契約(成功報酬に関す

るもの)を結合する。

• 契約は単一の商業的な目的を有するものとして交渉されている

• 契約に含まれるサービスは、通常、単一の履行義務に該当する(ファンドマネ

ージャーは別個の契約によって異なるタイプ及び金額の報酬に対する権利を

得ているが、両方の報酬の源泉であるサービスは、通常、ファンドの資産管理

という単一のサービスである)

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9 2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業  

弊法人のコメント IFRS 第 15 号は、1 つ以上の要件を満たす場合には、同一の顧客との契約を結

合することを求めている。したがって、サービス契約がそれぞれ経済的に異なって

いても(たとえば、管理報酬は NAV に基づくが、成功報酬は NAV の増加分だけ

に基づくようなケース)、各報酬の源泉であるサービスが単一の履行義務である

場合には複数の契約を結合することになると考えられる。契約を結合する必要が

あるかどうかは、事実及び状況によって決まり、判断が求められる。

契約の結合を求める規定は、現行の IFRS における基本原則とおおむね整合して

いるものの、企業は新基準を適用する際に、契約結合の要件が満たされるかどう

かを慎重に評価すべきである。

ファンドは、投資家サービス、証券代行、保管などのその他のサービスに関するサー

ビス契約を締結することも多い。多くの場合、ファンドは、こうした複数の契約を同時

に締結しており、かつ各サービス提供企業は共通の親会社によって支配されている

かもしれない。 契約を結合する必要があるかどうかを判定するためには、具体的な事実及び状況を

評価する必要があるが、独立した別個の契約は、以下の場合、結合されない可能性

が高いと考えられる。

• 各サービス契約の商業的な目的が異なる

• 一般に契約間に価格面での相互依存関係が存在しない

• 各契約は別個の履行義務を有している

例として、EY は、同一のファンドに対する管理契約と保管契約は、たとえカストディア

ンがファンドマネージャーの関係会社であったとしても通常は結合されないであろうと

考えている。なぜなら、管理契約は、ポートフォリオ取引の事務管理一般をはじめとし

て、主にファンド資産を監督・管理することであるのに対して、保管契約は、資産を安

全に保管することである。そのため、両契約の取引価格が共に NAV に基づき決定さ

れる場合であっても、両契約の商業的な目的は異なっているといえる。

4.2 契約の変更 契約の変更とは、契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更をいう。企業は、

当該変更によって独立した契約が創出されるのか、それとも契約変更を既存の契

約の一部として会計処理すべきなのかを判断しなければならない。契約変更が独

立した契約として会計処理されるためには、契約変更によって区別できる財又はサ

ービスが追加され、かつ独立販売価格を反映して価格設定されているかを検討しな

ければならない(セクション 7 参照)。

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2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業 10  

5. 契約における履行義務の識別

企業は顧客との契約を識別した時点で、契約内において約定したすべての財又はサ

ービスを識別し、約定した財又はサービス(もしくは約定した財又はサービスの組み合

わせ)のうちどの部分を独立した履行義務として取り扱うか判断するため、契約条件や

取引慣行を評価する。

約定した財及びサービスは、以下のいずれかに該当する場合、独立した履行義務に該

当する。

• (当該財及びサービス単独で、もしくは財又はサービスの組合せの一部として)区

別できる • 実質的に同一で、顧客への移転パターンが同じである、一連の区別できる財又は

サービスの一部を構成する(下記セクション 8 参照)。

顧客が財又はサービス(又は財及びサービスの組み合わせ)から生じる便益を、それ

単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と共に得ることができ(すなわち、

財又はサービスを区別でき)、かつ、財又はサービスを顧客に移転するという企業の

約定が、契約に含まれる他の約定から区別して識別できる(すなわち、財又はサービ

スが契約の観点から見て区別できる)場合、財又はサービス(又は財及びサービスの

組み合わせ)は区別できることになる。

投資ファンドに対する管理サービスは、契約期間にわたり継続的に提供されるため、契

約におけるこのサービスは、通常、単一の履行義務を表す。

IFRS 第 15 号の設例 25(特に IE129 項及び IE130 項)では、5 年の投資管理契

約により、IM が四半期ベースの管理報酬及び 5 年の契約期間にわたる累積パフォ

ーマンスに基づく成功報酬の両方を獲得する例を用いて、この概念が説明されてい

る。この例では、企業は内容が実質的に同じで顧客への移転パターンも同じである一

連の区別できるサービスを提供していることから、管理サービスは単一の履行義務に

該当すると結論付けている。

例 5-1 — 契約における履行義務の識別

上記例で示した事実に基づき、契約には実質的に同一で顧客への移転パターンが

同じである、一連の区別できる財又はサービス(管理活動)から構成される単一の履

行義務が存在すると判断される。

2 つの別個の報酬形態が存在するものの、提供されるのは通常、単一のサービス、

すなわちファンド資産の管理だけである。ファンドマネージャーは通常、基本管理サ

ービス又は成功報酬型サービスのいずれかを単独で提供することはない。よって、フ

ァンドは、基本管理サービス又は成功報酬型サービスのいずれかからの便益を、容

易に入手可能な他のサービスと組み合わせて得ることは、通常不可能である。した

がって、基本管理サービス及び成功報酬型サービスは、相互に区別できないと考え

られる。

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11 2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業  

販売手数料の収益認識は、

ファンド持分の販売が管理サ

ービスとは別個の履行義務

に該当するかに左右される。

5.1 その他の報酬に関する取決め すべての約定された財又はサービスを識別し、(存在する場合には)どのような独立し

た履行義務が存在するかを判断するためには、ファンドとファンドマネージャーの間で

締結されたその他の報酬に関する取決めについても分析する必要がある。区別でき

る履行義務は、内容が実質的に同一で、顧客への移転パターンが同じである、一連

の区別できる財又はサービスの一部である場合を除き、結合することはできない。し

たがって、複数のサービスが類似する条件及び同一の報酬算定基礎(例:NAV)を有

していても、内容が実質的に同じではない複数のサービスを結合することはできない。

5.2 アップフロント・フィー(販売手数料) ファンドマネージャーは、みずからのファンドの持分を直接投資家に販売することも

あれば、販売業務をファンドマネージャーと同じグループに属する企業又は第三者に

委託することもある。自ら販売活動を行う場合、ファンドマネージャーは投資家から

販売手数料を受領する可能性がある。

販売手数料の認識方法は、ファンド持分の販売が管理サービスから独立した履行義

務であるかどうかによって左右される。

販売業務が独立した履行義務として評価される場合には、その履行義務はファンド持

分の販売時点で充足され、販売手数料が直ちに収益認識される。

一方、販売業務が管理サービスの補助的業務であると評価される場合には、販売業

務は別個の履行義務ではなく、販売手数料は管理サービスに対する報酬の前払いで

あると考えられる。

ファンドマネージャーは、取決めごとに固有の事実及び状況を考慮する必要がある。

こうした事実及び状況は、ファンド又は投資家のいずれが顧客であるかによって影響

を受ける場合がある。

販売業務がファンドマネージャーと同じグループに属し、その他のサービスも提供して

いる企業により実施される場合にも、同様の評価が必要となる。

5.3 その他のサービス セクション 4 で詳述したとおり、その他のサービスは別個の契約に従って提供され、そ

の報酬は NAV の一定比率に基づき算定されることが多い。これらは区別できるサー

ビスであることから、管理サービスに対する補助的なサービスであるとみなされる可能

性は低い。

一般的に、その他のサービスに関する収益認識上の論点は、管理サービスについて

前述した事項と類似している。すなわち、各々の契約につき、内容が実質的に同一で

顧客への移転パターンも同じである一連の区別できる財又はサービスであると判断さ

れる可能性がある。

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2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業 12  

成功報酬の認識に際しては

重要な判断が必要であり、

IFRS 第 15 号の適用によっ

て、ファンドマネージャーによ

る収益認識パターンに変更が

生じる可能性がある。

6. 取引価格の算定

取引価格とは、企業が権利を得ると見込む対価の金額をいう。取引価格には、変動対

価の見積り、重要な金融要素(すなわち、貨幣の時間価値)の影響、現金以外の対価

の公正価値、及び顧客に支払った又は支払われることになる対価の影響が含まれる。

IFRS 第 15 号は、取引価格に含めることのできる変動対価を、その変動性に関する不

確実性が解消される時点で、大幅な収益の戻入れが生じない可能性が非常に高い金

額に制限している。すなわち、新しい収益認識基準の下では、認識される変動対価に

関して制限が課されるのである。

この判断を行うにあたっては、収益の戻入れが生じる可能性とその重要性の両方につ

いて考慮する必要がある。認識される変動対価に関する制限では、変動対価にのみ

着目するのではなく、認識される収益の累計額と比較した場合に重要と判断される戻

入れも考慮する。したがって、固定対価と変動対価の両方が対価に含まれる場合は、

変動対価に係る収益の戻入れが発生する可能性の重要性を、対価総額(変動対価及

び固定対価の合計)と比較して評価しなければならない。

IFRS 第 15 号は、収益の戻入れが発生する可能性又はその規模を増大させる可能

性のある要因についても規定している。そのような要因の 1 つとして、変動対価の金

額が、企業にとっての外部要因(例:市場の変動性)による影響を非常に受けやすい場

合が挙げられている。そのほかの要因としては、企業における類似の契約に関する経

験が限定的であるか、あるいは、あったとしてもそのような経験が予測のためにほとん

ど役立たない場合や、契約から生じうる対価の金額が様々、かつ、広範囲に存在し、

その不確実性が長期間にわたり解消しないと見込まれる場合が挙げられる。

こうした要因が存在することは、必ずしも変動対価を取引価格に含めることができない

ことを意味するわけではない(両審議会は「要件」ではなく「要因」という用語を使用して

いる点に留意)。しかし、こうした要因が存在する場合には、企業は認識される変動対

価に関する制限の適用を慎重に評価する必要がある。

ファンドマネージャーは、契約開始時に取引価格を算定し、その後の各報告期間末日

時点においても見直さなければならない。さらに、ファンドマネージャーは、各報告期間

の末日時点で、認識される変動対価に関する制限についても判断しなければならない。

当該制限を原因として変動対価の全額は取引価格に含まれない場合であっても、その

一部が取引価格に含まれる可能性はある(たとえば、当該制限のために成功報酬の全

額は認識されない場合であっても、その一部が認識される可能性はある)。

6.1 管理報酬 管理報酬は、各期の NAV に基づき算定される変動対価を表す。取引価格は、通常、

報告期間の末日時点で算定される金額を含んでいるが、例外的に、算定日が報告期

間の末日と異なっており、認識が複雑になる場合がある。将来期間における管理報酬

の見積りは、通常は、認識される変動対価に関する制限の対象となるため、取引価格

に含まれることはない。

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13 2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業  

6.2 成功報酬 ファンドの運用成績に基づいて算定される成功報酬は、ベンチマークやファンド投資の

増価に関連しており、変動対価の一種である。多くの場合、このような成功報酬は、確

定した状態となるか、又はクローバック条項の対象外になるまでは、市場の変動性に

よる影響を非常に受けやすく、また、このような状況は報告期間の末日以降も存続す

る可能性がある。クローバック条項の下では、ファンドマネージャーは一定の運用成績

を達成しない場合には、それまでにファンドから受領した分配の一部について返還を求

められる可能性がある。したがって、現金を受領したとしても、成功報酬として収益認

識できるとは限らない。

IFRS 第 15 号は、不確実性が解消された時点で認識された収益の累計額に重要な

戻入れが発生しない可能性が非常に高いと判断されるまで、変動対価を認識すること

を禁止している。

IFRS 第 15 号の設例 25(特に IE132 項)では、一定期間にわたるファンドの運用成

績に基づく成功報酬について説明している。本設例では、収益の累計額に重要な戻入

れが発生しない可能性が非常に高いと企業が判断できなかったことから、契約開始時

点とその後の報告期間の末日時点の両方において、変動対価の見積額を取引価格

に含めないとの結論が導かれている。これは、成功報酬が市況に依存しており、企業

の影響力が及ばない要因の影響を非常に受けやすいためである。また、この設例は、

企業は類似する契約に係る経験を有しているとしても、そのような経験がほとんど予

測に役立たない場合があることも示唆している。

しかし、IFRS 第 15 号における用語(「要件」ではなく「要因」という用語を使用している

こと)に鑑みると、一定の状況下では、その報酬がクローバック条項の対象外となる前

であっても、ファンドマネージャーが収益(成功報酬の一部)を認識できる余地が残され

ていると考えられる。IFRS 第 15 号では、こうした判断を行うための特定の適用指針は

設けられていないが、認識された収益の累計額に重要な戻入れが発生しない可能性

が非常に高いと判断する上で、ファンドマネージャーが考慮したいと考える要因として

は、次のようなものが想定される。

• ファンドの 終清算が近いかどうか

• ファンドの残存資産の公正価値が、ファンドマネージャーが成功報酬を稼得できる

水準を大幅に超過しているかどうか

• ファンドの残存資産のリスクが低いかどうか

• ファンドの残存投資について、クローバック条項が適用されない価格で売却される

売却契約が締結されているかどうか

ファンドマネージャーはこの評価を行うにあたり、その他の要因も考慮する可能性がある。

収益の累計額に重要な戻入れが発生しない可能性が非常に高いと結論付けるため

には、単一の要因を考慮するだけでは決定的とはならず、上記の要因の組み合わせ

が、その他の要因と共に存在していることが必要となる可能性が高い。このような評

価は重要な判断を必要とするものであり、個々の事実及び状況に基づいて行われな

ければならない。ファンドマネージャーが、一部の成功報酬について戻入れが発生し

ない可能性が非常に高いと判断する場合には、当該金額を収益として認識する。

成功報酬を認識するには、重要な判断が必要とされるため、IFRS 第 15 号の適用に

よって、ファンドマネージャーによる収益認識パターンに変更が生じる可能性がある。

成功報酬は、確定した状態となるか、クローバック条項の対象外になるまでは、その全

額が収益認識される可能性は低い。しかし一方で、ファンドマネージャーは、それより

前の段階で成功報酬の一部について収益認識できると判断する可能性もある。

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2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業 14  

例 6-1 — 取引価格の算定

四半期ベースの管理報酬と年次ベースの成功報酬は、共に NAV を参照して算定さ

れるため、それらは変動対価に該当する。管理報酬と成功報酬の両方が市場の変

動性にさらされ、かつ、起こりうる結果が広範囲わたることなど、さまざまな要因を考

慮した結果として、GP 及び IM は、管理報酬については四半期の末日時点で、また、

成功報酬については 12 月 31 日時点で、それぞれ NAV が算定されるまでは、重

要な収益の戻入れが発生しない可能性が非常に高いとの結論を下すことはできな

いものとする。

この場合、四半期ごとに見積られる当年の残りの期間で稼得されると見込まれる管

理報酬及び成功報酬は、取引価格に含まれない(すなわち、それらの報酬は認識さ

れる変動対価に関する制限の対象となる)。変動対価の見積りは、各報告期間の末

日時点で再評価される。したがって、各四半期の末日時点での取引価格は、市場の

変動性による影響を受けなくなった金額となる。

年初におけるファンドの NAV を CU100,000 と仮定する。単純化のため、管理報酬

は四半期末日時点の NAV(下記表を参照)に基づくものと仮定する。また、前述の

通り、成功報酬は 12 月 31 日現在の NAV に基づき受領権が確定する。各四半期

の末日時点における取引価格は、次のように見積ることができる。

見積取引価格 受領した 期間 NAV 管理報酬 管理報酬 成功報酬 合計

CU CU CU CU CU

Q1 100,000 500 500 — 500 Q2 300,000 1,500 2,000 — 2,000 Q3 50,000 250 2,250 — 2,250 Q4 150,000 750 3,000 10,000 13,000

6.2.1 その他の報酬

その他のサービスに関する対価は、NAV の一定比率に基づき算定されることが多い

(たとえば、保管サービス、事務サービス、投資家サービスの報酬)。したがって、これ

らの報酬も変動対価であると考えられる。当該変動対価は、重要な戻入れが発生しな

い可能性が非常に高くなった時点で、取引価格に含められ、区別できるサービス期間

に配分される。収益は、各報告期間の末日時点で認識されることから、結果として、こ

うしたサービスに関する IFRS 第 15 号に基づく収益認識は、現行の実務と概ね一致

する可能性がある。

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15 2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業  

7. 取引価格の履行義務への配分

履行義務を識別し、取引価格を算定したら、次のステップとして企業は、取引価格を

履行義務に配分しなければならない。通常、当該配分は、独立販売価格に比例して

(すなわち相対的な独立販売価格に基づき)行われる。ただし、2 つの例外規定が存

在する。1 つ目は、一定の状況(下記参照)においては、企業は変動対価を、すべて

の履行義務ではなく、契約に含まれる 1 つ又は複数の特定の履行義務にのみ配分

することが認められている。2 つ目は、一定の要件を満たした場合、企業は契約に含

まれる値引を、すべての履行義務ではなく、1つ又は複数の履行義務にのみ配分す

る。なお、契約開始後は独立販売価格の変動に関して、取引価格の配分は見直さない。

独立販売価格を算定するにあたり、企業は可能な限り客観的な情報を使用しなけれ

ばならない。独立販売価格が直接観察可能ではない場合、企業は合理的に入手可

能な情報に基づき見積りを行う必要がある。考えられるアプローチとして、調整後市

場評価アプローチや予想コストにマージンを加算するアプローチなどが挙げられる。

企業は、類似した状況において、首尾一貫した見積方法を適用しなければならない。

変動対価をすべての履行義務ではなく、1 つ又は複数の履行義務に配分するために

は、次の両方の要件を満たしていなければならない。(1)変動対価の支払条件が、特

定の履行義務の充足もしくは区別できる財・サービスの移転のための企業努力に明

確に関連している(又は、履行義務の充足もしくは区別できる財・サービスの移転から

生じる特定の結果に明確に関連している)。(2)変動対価全体に関する特定の履行

義務又は区分できる財・サービスへの配分が、約定した財・サービスの移転と交換に

企業が権利を得ると見込む対価の金額を表している。

例 7-1 — 取引価格を契約における履行義務に配分する これまでの例で示した事実関係における履行義務は、単一の履行義務の一部を

構成する一連の区別できる財又はサービス(四半期ごとのサービス)であると判断

される。したがって、管理報酬に関する変動対価で構成される取引価格は、各四

半期に配分されることになる。管理報酬は、各四半期において管理サービスを提

供するための企業努力に明確に関連しているためである。成功報酬は、重要な戻

入れが発生しない可能性が非常に高くはないため、取引価格に含まれない。

弊法人のコメント 上記で挙げた要件を満たす場合、複数年契約における変動報酬は(管理報酬であ

るか成功報酬であるかに関係なく)、収益の重要な戻入れが発生しなくなった時点

で、その全体が既に発生した区別できるサービス期間(たとえば、過去の四半期)

に配分される。取引価格の履行義務、あるいは単一の履行義務の一部を構成する

区別できる財又はサービスへの配分は、個々の事実及び状況に応じて決定される。

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2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業 16  

8. 履行義務の充足

企業は、約定した財又はサービスへの支配を顧客に移転し、履行義務を充足した時

にのみ収益を認識する。支配は、一定期間にわたり移転される場合もあれば一時点

で移転される場合もある。履行義務が一定期間にわたって充足されることに関する以

下の要件のいずれも満たさない場合には、履行義務は一時点で充足される。

• 企業が履行するにつれ、顧客が企業の履行による便益を受けると同時に費消

する

• 企業の履行により、資産が創出されるか又は増価し、当該資産の創出又は増価

につれて顧客が当該資産を支配する

• 企業の履行により企業にとって代替的な用途がある資産が創出されず、かつ企

業が現在までに完了した履行に対して支払を受ける法的に強制可能な権利を有

している

履行義務が一定期間にわたり充足される場合、企業は IFRS 第 15 号に従って各履

行義務の進捗を測定するために、インプット法又はアウトプット法のうち、一定期間に

わたる財又はサービスの移転における企業の履行パターンを も忠実に表す方法を

選択しなければならない。選択した方法は、類似の状況における同様の履行義務に

対して、首尾一貫して適用しなければならない。

投資管理サービスについては、ファンドマネージャーがサービスを履行すると同時に、

顧客がファンドマネージャーにより提供される便益を受け取り消費するか、あるいは、

ファンドマネージャーによる履行によってファンドが支配する資産が増価するため、一

般に、一定期間にわたり充足される履行義務であると判断される。

インプット法を使用する場合、予想される投入労力の合計に対する既に投入した労力

の比率に基づき収益が認識される。アウトプット法を使用する場合、現在までに移転

した財又はサービスの顧客にとっての価値に係る直接的な測定値に基づき、収益が

認識される。このような直接的な測定値には、達成したマイルストーン、経過時間、生

産した単位数や引き渡した単位数などが含まれる。

アウトプット法の適用に際して、IFRS 第 15 号は実務上の便宜を定めている。この実

務上の便宜を用いると、企業が現在までに完了した作業のうち、顧客にとっての価値

に直接対応する金額で顧客から支払を受け取る権利を有している場合(たとえば、提

供したサービス提供時間ごとに又は各々の取引の進捗ごとに固定金額を請求できる

サービス契約)、企業は請求する権利を有する金額で収益を認識することができる。

例 8-1 — 履行義務が充足された時点で収益を認識 前述の見積取引価格に基づき、管理報酬及び成功報酬はアウトプット法の下では、

次のとおり認識される。

期間

NAV

管理報酬

成功報酬

四半期末時点 見積取引価格

収益認識 金額

CU CU CU CU CU Q1 100,000 500 – 500 500 Q2 300,000 1,500 – 2,000 1,500 Q3 50,000 250 – 2,250 250 Q4 150,000 750 10,000 13,000 10,750

合計 13,000 CU 成功報酬は、第 2 四半期における取引価格には含まれない。これは、本例において、

企業は収益の重要な戻入れが発生しない可能性が非常に高いと主張できないため

である。この結論については例 6-1 で先述している。

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17 2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業  

契約を獲得するための増分

コストは、回収が見込まれる

場合、資産計上される。

9. 契約コスト

IFRS 第 15 号は、顧客に対して財又はサービスを提供する契約の(1)獲得及び(2)

履行に際して発生するコストの会計処理についてもガイダンスを定めている。

9.1 契約を獲得するためのコスト 契約を獲得するための増分コスト(すなわち、契約を獲得していなければ発生してい

なかったであろうコスト)は、回収が見込まれる場合、資産計上される。増分コストには、

直接的に回収される場合(すなわち、契約に基づく返還を通じた回収)と、間接的に回

収される場合(すなわち、契約から得られるマージンを通じた回収)がある。IFRS 第

15 号では、実務上の便宜として、契約獲得コストについては、資産として認識したと

してもその償却期間が 1 年以内である場合には、これを発生時に費用として認識す

ることが認められている。

資産化されたコストは、関連する財又はサービスの移転パターンと整合する規則的な

方法で償却され、減損評価の対象にもなる。ファンドマネージャーは、契約獲得コスト

の償却期間を決定するにあたり、判断を行使する必要がある。

資産の帳簿価額が、関連する財又はサービスの提供と交換に企業が受領すると見

込んでいる対価の金額から、それらの財及びサービスの提供に直接関連する残りの

コストを差し引いた金額を上回る場合、減損損失が認識される。両審議会は、事後的

な期間における減損損失の戻入れに関しては、意見が一致しなかった。米国会計基

準では、過去の減損損失の戻入れは禁止されている。一方、IFRS では、IAS 第 36号の下で、資産の回収可能価額を算定するために用いた見積りが変更された場合

には、資産(のれんを除く)又は資金生成単位に係る過去の減損損失の一部又はす

べてを戻し入れることが認められている。

企業が受領すると見込む対価の金額は、取引価格の算定に関する原則(セクション 6参照)に基づいて見積られるが、ただし、変動対価の見積りに課される制限に関する

規定は適用されない。すなわち、減損テストを実施する上では、見積変動対価を含む、

制限適用前の取引価格を用いる。制限は課されないが、当該金額について顧客の信

用リスクを反映した減額は行わなければならない。

9.2 契約を履行するためのコスト 契約履行コストは、次の要件のすべてを満たす場合に資産として認識される。(1)当

該コストが、契約又は企業が具体的に特定できる予想される契約に直接関連してい

る。(2)当該コストが、将来において履行義務の充足(又は充足の継続)に使用される

企業の資源を創出するか又は増価する。(3)当該コストが、回収されると見込まれる。

通常、ファンドマネージャーが発生させる契約履行コスト(例:従業員に支払う給与)は、

将来において履行義務の充足に使用される企業の資源を創出するか又は増価する

ものではないため、上記 2 つ目の要件を満たさない。さらに、IFRS 第 15 号は、契約

における充足された履行義務(又は部分的に充足された履行義務)に関連するコスト

(すなわち、過去の履行に関連するコスト)は、発生時に費用として認識すると定めて

いる。

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2015 年 1 月 新たな収益認識基準 –アセットマネジメント業 18  

弊法人のコメント IFRS 第 15 号に定められる契約コストの規定によって、一部の企業においては現行実務が変更される可能性がある。この分析において重要なのは、顧客を適切に識別することである。特定のコストは、資産化したうえで、償却し、定期的に減損の評価をしなければならない可能性がある。これには、追加の記録の保持が必要となる。

新たな投資家を既存のファンドに呼びこむ際に発生したコストについて、ファンド

が顧客とみなされる場合、契約を獲得するためのコストとは捉えられない可能性

が高い。

契約を履行するためのコストについては、ファンドマネージャーは、通常、その多く

を発生時に費用処理することになると予想される。ファンドマネージャーは、契約

履行コストについて回収が見込まれ、かつ当該コストが将来において履行義務の

充足に使用される資源を創出又は増価する場合に限り、それらのコストを資産化

する。

10. 今後に向けて

本書が、ファンドマネージャーの当該新基準書の規定に関する理解の一助となり、

収益認識に関する会計方針や当該基準書が実務にもたらす影響を検討する際の

参考となれば幸いである。

企業は会計方針、会計システム、財務報告に係る内部統制について変更する必要

があるかどうかを検討しなければならない。

企業はまた、IFRS 第 15 号の解釈や一般的な取引への適用を議論している、両審

議会、TRG 及び米国公認会計士協会(AICPA)が創設したアセットマネジメント業界

のタスクフォースの動向にも注視されたい。4

4 詳細については、以下のサイトを参照されたい。 http://www.aicpa.org/interestareas/frc/accountingfinancialreporting/revnuerecognition/pages/revenuerecognition.asp

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