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理Jpn J Clin Pharmacol Ther 34(4) July 2003 155 ●特集/薬物代謝 4. CYP2E1, ADHお よ びALDHと その遺伝子 多 型:ア ル コ ー ル 性 肝 疾 患 との 関 係 日本医療伝道会総合病院衣笠病院内科 1. は じめ に 飲 酒量,飲 酒 期 間 が 同 じ で も,肝 硬 変 に 進 展 す る例 と脂 肪 肝 な どの軽 症 の肝 病 変 に と どま る例 が あ る こ と は,臨 床 上 遭 遇 す る 事 実 で あ る.す な わ ち,大 酒 家 が す べ て 肝 硬 変 に な る わ け で は な く,先 天 的(遺 伝 的, 体 質 的)お よび 後 天 的 な(環 境 因 子 な ど)種 々の risk factorが,ア ルコール性肝硬変への進展に関与 してい る ことが明 らかに されてい る1).後天的 な要 因 と し て は,栄 養 因 子(高 脂 肪,不 飽 和 脂 肪 酸,低 蛋白 食)や 肝 炎 ウ イ ル ス(HCV,HBV)な どの関与 が報 告 さ れ て い る.先 天 的 な 要 因 と し て は,性 差 お よ び 遺 伝 的 因 子 の 関 与 が 最 近 明 らか に さ れ て き て い る.臨 床 疫 学 的研 究 か ら,女 性 は男 性 に比 べ て1日 飲 酒量 が よ り少 量,か つ短期間でアルコール性肝硬変になること が 明 ら か に さ れ て い る.そ の 機 序 に つ い て は,最 近, ラ ッ ト胃瘻 か ら持 続 的 に ア ル コー ル を負 荷 す るTsu- kamoto-Frenchmodelに よ り,雌 の ほ うが ク ッパ ー 細 胞 の エ ン ド トキ シ ン レ セ プ タ ー の 発 現 の 増 強(CD 14),TNFα分泌 の亢進が よ り認 め られ,さ らに女性 ホ ル モ ン に よ りCD14の発 現 が増 強 す る こ とが 証 明 さ れ,ア ル コ ー ル 性 肝 障 害 の感 受 性 に お け る性 差 で の 違 い に つ い て の 機 序 が 解 明 さ れ た2β).本 稿 で は,先 天 的 な 要 因 と し て 最 近 明 らか に さ れ た ア ル コ ー ル 代 謝 関 連 酵 素 遺 伝 子 多 型 に つ い て 概 説 す る. 2. ア ル コ ー ル 脱 水 素 酵 素(ADH) ADHは20種 以 上 の ア イ ソ ザ イ ム が あ り,α,β, γサ ブ ユ ニ ト蛋 白の任 意 の組 み合 わ せ に よ る2量 体, お よ び π,χ,μ,δ サ ブ ユ ニ ッ ト蛋 白 そ れ ぞ れ の2 量 体 の 形 で 構 成 さ れ て い る.エ タ ノ ー ル 代 謝 のmain pathwayは,β お よ び γサ ブ ユ ニ ッ ト蛋 白 が お もに 働 い て い る が,こ の β お よ び γサ ブ ユ ニ ッ ト蛋 白 を コ ー ドす るADH2とADH3遺 伝 子 に は,そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 の1個 の塩 基配 列 の違 い に よ りmutant type が 存在 し,酵 素 活 性 の異 な るサ ブ ユニ ッ ト蛋 白 を決定 し て い る4). 1)ADH2遺伝 子 多 型 β サ ブユ ニ ッ ト蛋 白 は374個の ア ミノ酸 か らな り, 分 子 量 は 約4万,2分 子 の 亜 鉛 を含 有 し,こ の部 位 が 活 性 中 心 と な っ て い る.ADH2遺 伝 子 は 第4常 染色 体 長 腕 に位 置 し,β サ ブ ユ ニ ッ トの多 型 は47番 目 の ア ミノ 酸 を決 定 し て い る 第3exon上の コ ド ン と, 369番目 の ア ミノ酸 を決 定 し て い る第9exon上の コ ド ン の1個 の塩 基 配 列 の 違 い に よ る と考 え られ て い る.す な わ ち,コ ド ン47がCGCの 配 列 を と る もの はADH21,CACと な れ ばADH22遺伝 子 と区別 れ,β1と β2サ ブ ユ ニ ッ ト蛋 白 を コー ド し,ま たコ ド ン369がCGTの 配 列 を と る も の はADH21,TGT とな れ ばADH23遺伝 子 とな り,そ れ ぞ れ β1と β3サ ブ ユ ニ ッ ト蛋 白 を コ ー ド し て い る.ADH22/22で コー ドされ る β2β2蛋白は,ADH21/21で コ ー ドす る β1β1 蛋 白 よ り もア セ トア ル デ ヒ ド産 生 能(エ タノール酸 化 能)が20倍 も強 く,Vmaxは40倍で あ る こ とが明 らか に され て い る4).わか りや す く表 現 す る とす れ ば,エ タ ノ ー ル 酸 化 能 はADH22/22>ADH21/22> ADH21/21で あ る. 2) ADH3遺伝 子 多 型 γサ ブ ユ ニ ッ ト蛋 白 は,そ の構造がβサブユニッ ト蛋 白 と極 め て 類 似 し て い る.ま た,そ の遺伝子座位 もADH2遺 伝 子 の 近 傍 に 位 置 し,exonとintronの 構 成,塩 基 配 列 も極 め て 近 似 し て い る.補 酵 素NAD 結 合 部 位 の 構 造 的 な 違 い に よ り,酵 素 活 性 の 違 い が 生 じ る.す な わ ち,第6exon上 の コ ド ン271がCGG の 形 を と る も の は,ADH31,CAGと な れ ばADH32 遺伝 子 と区分 され,そ れ ぞれ γ1とγ2サブユ ニ ッ ト蛋 〒238-8588 横 須 賀 市 小 矢 部2-23-1

4. CYP2E1, ADHお よびALDHと その遺伝子 多型:ア ルコール性肝 …

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臨 床 薬理Jpn J Clin Pharmacol Ther 34(4) July 2003 155

●特集/薬 物代謝

4. CYP2E1, ADHお よびALDHと そ の 遺 伝 子

多 型:ア ル コー ル 性 肝 疾 患 との 関係

日本医療伝道会総合病院衣笠病院内科

山 内 眞 義

1. は じめ に

飲 酒量,飲 酒期間が同 じで も,肝 硬変 に進展す る例

と脂肪肝 な どの軽症の肝病変 に とどまる例が あるこ と

は,臨 床上遭遇す る事実である.す なわち,大 酒家が

すべて肝硬変 になるわ けではな く,先 天的(遺 伝 的,

体 質 的)お よび 後 天 的 な(環 境 因 子 な ど)種 々の

risk factorが,ア ル コール性肝 硬変へ の進展 に関与

してい る ことが明 らかに されてい る1).後 天的 な要 因

としては,栄 養因子(高 脂肪,不 飽和脂肪酸,低 蛋白

食)や 肝炎 ウイル ス(HCV,HBV)な どの関与 が報

告 されている.先 天的な要因 としては,性 差お よび遺

伝 的因子 の関与が最近明 らか にされて きている.臨 床

疫学 的研究か ら,女 性 は男性 に比 べて1日 飲酒量 が よ

り少量,か つ短期 間でアル コール性肝硬変 にな ること

が明 らかにされてい る.そ の機序 については,最 近,

ラッ ト胃瘻 か ら持続 的 にアル コール を負荷 す るTsu-

kamoto-Frenchmodelに よ り,雌 のほ うが クッパ ー

細胞 のエ ン ド トキシ ンレセプターの発現 の増強(CD

14),TNFα 分泌 の亢進が よ り認 め られ,さ らに女性

ホルモンによ りCD14の 発現 が増強す ることが証明 さ

れ,ア ル コール性肝障害 の感 受性 における性差 での違

い につい ての機序 が解 明 され た2β).本 稿 で は,先 天

的な要因 として最近明 らか にされたアル コール代謝関

連酵素遺伝 子多型 について概 説す る.

2. アル コール脱水素酵素(ADH)

ADHは20種 以上 のアイ ソザイムが あ り,α,β,

γサブユニ ト蛋 白の任意 の組 み合わせに よる2量 体,

お よび π,χ,μ,δ サ ブユニ ッ ト蛋 白そ れ ぞれ の2

量体 の形 で構成 されてい る.エ タノール代謝 のmain

pathwayは,β お よび γサ ブユニ ッ ト蛋 白が お もに

働 いてい るが,こ の βお よび γサ ブユ ニ ッ ト蛋 白 を

コー ドす るADH2とADH3遺 伝子 に は,そ れぞれの

遺伝 子 の1個 の塩 基配 列 の違 い に よ りmutant type

が存在 し,酵 素活性の異 な るサブユニ ッ ト蛋 白を決定

してい る4).

1) ADH2遺 伝子多型

βサ ブユニ ッ ト蛋 白は374個 のア ミノ酸 か らな り,

分子量 は約4万,2分 子 の亜鉛 を含有 し,こ の部位 が

活性 中心 となってい る.ADH2遺 伝 子 は第4常 染色

体長腕 に位 置 し,β サブユニ ッ トの多型 は47番 目の

ア ミノ酸 を決 定 して い る第3exon上 の コ ドン と,

369番 目のア ミノ酸 を決定 してい る第9exon上 の コ

ドンの1個 の塩 基配列 の違 い に よる と考 え られて い

る.す なわ ち,コ ドン47がCGCの 配 列 を とる もの

はADH21,CACと な れ ばADH22遺 伝 子 と区別 さ

れ,β1と β2サ ブユニ ッ ト蛋 白 を コー ドし,ま た コ

ドン369がCGTの 配 列 を とる ものはADH21,TGT

となればADH23遺 伝子 とな り,そ れぞれ β1と β3サ

ブユニ ッ ト蛋 白を コー ドしてい る.ADH22/22で コー

ドされ るβ2β2蛋 白は,ADH21/21で コー ドす るβ1β1

蛋 白 よ りもア セ トアルデ ヒ ド産 生能(エ タ ノール酸

化能)が20倍 も強 く,Vmaxは40倍 で あ る こ とが明

らか に され て い る4).わ か りや す く表 現 す る とす れ

ば,エ タ ノール 酸 化 能 はADH22/22>ADH21/22>

ADH21/21で ある.

2) ADH3遺 伝子多型

γサ ブユニ ッ ト蛋 白は,そ の構 造 が βサ ブユニ ッ

ト蛋白 と極 めて類似 している.ま た,そ の遺伝子座位

もADH2遺 伝 子 の近 傍 に位 置 し,exonとintronの

構成,塩 基配列 も極 めて近似 している.補 酵素NAD

結合部位 の構造的な違 いによ り,酵 素活性の違いが生

じ る.す な わ ち,第6exon上 の コ ドン271がCGG

の形 を とる もの は,ADH31,CAGと なれ ばADH32

遺伝 子 と区分 され,そ れ ぞれ γ1とγ2サブユ ニ ッ ト蛋〒238-8588 横 須 賀 市 小 矢 部2-23-1

156 特集/薬 物代謝

白が決定 され る4).ADH2とADH3遺 伝子 を各個体

で 同時 に解 析 す る と,ADH22のhomozygoteの 群 で

はADH32遺 伝子 を同時 に持 つ ものは認 め られず,逆

にADH21のhomozygoteの 群 でADH32遺 伝 子 を同

時 に持つ頻 度が高 い ことか ら,ADH21とADH32遺 伝

子 は高率 に連鎖 して い ると考 え られて い る.ADH32

遺 伝 子 の頻 度 が 日本 人 にお い て極 め て低 い た め,

ADH32はADH21遺 伝子 の一部 に連 鎖 してい るこ とか

ら,本 邦でのgeneticlinkage研 究 についてはADH2

につ いての報 告が多 い.

3) σ-ADH遺 伝子多型

ヒ ト胃ADHに はい くつ かのisozymeが 存 在 す る

が,上 部消化管 に特異的 に存在 するのがClass IVに 分

類され る σ-ADHで ある5).First pass ethanol meta-

bolismと し て,胃 粘 膜ADHが 関 与 し,経 口 エ タ

ノール投与後の血 中エタノール濃度 に対 して大 きな影

響 を及 ぼ し,H2受 容 体遮 断薬 が阻害作 用 を示 す こと

が明 らか にされてい る6).こ の σ-ADHに は人 種差が

認 め られ,American blackお よびwhiteに おいては

全例検 出され るの に対 して,日 本人 では21例 中14例

(66.7%)で 欠 損 して い るこ とが報告 されて い る7).

本 邦 の欠損 例 で は,σ-ADH遺 伝 子 の コ ドン287の

GGG(Glycine)がGTG(Valine)に 変 異 し た

ADHで あ る ことが示唆 され て いるが8),こ れ らの臓

器 障害 との関連 についての臨床的意義 は明 らかで はな

い.

3. ALDH2遺 伝子多型

ALDHに は少 な くとも4つ のアイ ソザ イムが存在

す るが,飲 酒時 にお けるアセ トアル デ ヒ ドの代 謝 に

は,ALDH2遺 伝 子が コー ドす るlow Km ALDHが

関与 して いる.こ のALDHは517個 のア ミノ酸 か ら

なるサ ブユ ニ ット蛋 白の4量 体 で構成 され,ALDH2

遺伝子 は第12常 染 色体長 腕 に位 置 し,487番 目のア

ミノ酸 を決定 している第12exon上 の コ ドン487の1

個の塩基配列 の変 異,す なわ ちGAAあ るい はAAA

の違 い に よ りALDH21,ALDH22遺 伝 子 に分類 され

る4).ALDH22はmutant typeと も呼 ばれ,こ の遺伝

子 にコー ドされた蛋 白はアセ トアルデ ヒ ド代謝能 を欠

いてい る.日 本人の約半数 で飲酒後 に顔面紅潮,動 悸

な どのいわゆるブラッシング症状 を呈す るが,こ れ は

ALDH2活 性が欠損あ るいは低下 してい るこ とに起 因

してい る.こ の遺伝子 にコー ドされた蛋白はアセ トア

ルデ ヒ ド代 謝能 を欠 いてお り,い わ ゆるflusherで あ

り,ALDH22のhomozygoteは 全 く飲 酒 で き な い

"下 戸"で あ る.一 方,ALDH22のheterozygoteは

飲酒 によ りブラ ッシング を呈 するが,鍛 えれば常習飲

酒が可能である.ア セ トアルデ ヒド代謝能 としては,

ALDH21/21>ALDH21/22>ALDH22/22の 順で高い.

さ らにALDH2のpromoter領 域-357に 新 た に見

い 出 さ れ たG→A変 異 は,転 写 活 性 因 子 の1つ

MAZ(Mic Associated Zincfinger) transcriptional

factorの 結 合 す るcis-elementのcore配 列

(GGGAGG)に 生 じた もの(GGAAGG)で あ り,転

写活性 に差異 を生 じるこ とが明 らか にされ てい る9).

ALDH22/22の 頻 度 の高 い 集 団 で は,MAZ binding

cis-elementのcore配 列 でG型 が 高 く,逆 にALDH

21/ALDH21の 多 い 集 団 で はA型 の頻 度 が 高 く,

exon12に おけるAとMAZ binding cis-elementの

Gと が連鎖 してい る.

4. P4502E1遺 伝子

ミ ク ロ ゾーム に存 在 す る アル コール 代 謝 のsub-

pathwayで あ るcytochrome P4502E1(CYP2E1)

の5'-flanking regionの1塩 基変異 によ り,制 限酵素

RsaIで 切断 され るC1遺 伝子 と切 断 されないC2遺 伝

子 に よ る多型 の存在 す る こ とが 明 らか に さ れ て い

る10).HepG2細 胞 を用 いたCAT assayで は,C2遺

伝 子 はC1遺 伝 子 に比 べ て転 写活性 が約10倍 高い こ

とが報告 され てい る.ま た上 嶋 ら11)は,CYP2E1が

代 謝 に関与 す るアセ トア ミノ フェンの代 謝率 がC2/

C2型 で高 い と報告 してい る.ま た上 野 ら12)は,血 中

エ タ ノール濃 度 が低 濃 度 で は差 は認 め ない が,2 .5

mg/mL以 上 の高 濃度 におい て はC1/C2型 の代 謝速

度がC1/C1型 よ りも高 い として い る.最 近,転 写 開

始点 か ら数 えて-1,946~-2,173の 間 に6つ のサ ブ

ユ ニ ッ トの組 み合 わせ か らな る4種 類 のallele(A1

~A4)の 存在 が明 らか に され た13).日 本 人 で はA2

alleleが75.2%,A4 alleleが22.7%で あったの に対

して,米 国 白人 で はA2 alleleが97.6%,A4 allele

が1.6%で あ り,遺 伝子頻度 で有意差 を認 めてい るが

疾患 との関連 は明 らかではない.

5. Social drinkerに おけるアル コール代謝

関連酵素遺伝子多型

某企業 の男性130名 にお ける飲 酒習 慣,飲 酒 量 と

ADH2お よびALDH2遺 伝 子多型 との関連 につ いて

み る14)と,週3回 以上 の飲 酒 習慣 を有 す る ヒ トは,

Fig.1に 示 す よう に,ALDH21/21型83.8%,ALDH

21/22型34.9%,ALDH22/22型0%で あ り,ALDH21

特集/薬 物代謝157

Fig.1健 常 男 性130名 にお け るALDH2遺 伝 子 型 と

週3回 以 上 の飲酒 習慣 を有 す る頻 度

Fig.2健 常 男性130名 に お け るALDH2遺 伝 子 型 の

出現頻 度 と飲酒 量

Fig.3ア ル コー ル代 謝 関連 酵素 遺伝 子多 型 とア セ トア

ルデ ヒ ドの蓄積 の程 度 との関 連

Fig.4大 酒家 に おけ るADH2とALDH2遺 伝子 型 の頻 度

遺伝子が常習飲酒習慣 を獲得 する遺伝 的背景 であるこ

とが明 らかである.1週 間の平均合計飲酒量(g/週)

について も,Fig.2の ごと く,ALDH21/21型260±22

g/週,ALDH21/22型140±24g/週,ALDH22/22型

14±8g/週 で あ り,飲 酒 量 に お いて もALDH21遺 伝

子 を有 す るヒ トで は飲酒量 の増加す ることが明 らかで

ある.一 方,ADH2遺 伝子 型 で週3回 以 上 の飲 酒 習

慣 を有 す る頻 度 は,ADH21/21型66.7%,ADH21/22

型56.5%,ADH22/22型60,3%で あ り,飲 酒 習 慣 と

の関連性 はない.し か しなが ら,non-flusherで あ る

ALDH21/21型74名 に限ってADH2遺 伝子 型 と飲 酒

量 との関連 をみ る と,ア セ トアルデ ヒ ド産生能の最 も

低 いADH21/21型 が最 も飲酒 量 が 多 く,ADH2遺 伝

子型 は飲酒量 の多寡 に関与す る と考 え られ る.ADH2

とALDH2遺 伝子 多型 と理論 的 な体 内 アセ トアル デ

ヒ ドの濃 度 は,Fig.3の ご と くま とめ る こ とが で き

る.す なわ ち,ALDH22/22型 はADH2遺 伝子型 にか

かわ らず著 し くアセ トアル デ ヒ ドが蓄積 す る ことか

ら,ブ ラッシング症状 を呈 し飲酒で きず常習飲酒で き

な い.一 方,ALDH21/21型 とALDH21/22型 で は,

ADH2遺 伝子 多型 の組 み合わせ によ りアセ トアル デ

ヒ ドの蓄積 の程度 に差 を認 めるものの,常 習飲酒可能

で あ り,ア ル コール による臓 器障害 の発症 に関与 して

い る.CYP2E1遺 伝子 多型 に ついて は,飲 酒行 動 に

は影響 を及ぼ さない との報告が多い.

6.大 酒家 におけるアル コール代謝関連酵 素

遺伝子多型 と臓器障害

Social drinkerで 認 めた遺伝 的背景 は,大 酒家にな

158特 集/薬 物代謝

Table1ア ル コー ル性 肝硬 変 にお けるADH2遺 伝 子頻 度

*aalcoholic liver disease,*bnumber of cases,*csee text,*dalcoholic liver diseases,including ll cases with non-

cirrhotic ALD and 20 cases with cirrhosis,★statistically significant vs.non-cirrhotic ALD

Fig.5ADH2とALDH2遺 伝 子型 の組 み 合 わせ に よ るア ル コー ル

性肝硬 変 の発症 頻度

る とさ らに明 らか とな り,大 酒家 で はADH21/21型

(大酒家31.2%vs健 常対 照3.3%),ALDH21/21(大

酒家79.2%vs健 常対照56.7%)が 有意 に多 くな り,

ALDH22/22型 は大酒家 には認 め られ ない15)(Fig.4).

また,ALDH2のpromoter領 域-357に 新 た に見 い

出 されたG→A変 異 につ いては,ALDH21と 連 鎖す

るA型 が 占める頻度が高 くなる9).こ のよ うな大酒家

において も,肝 硬変,慢 性膵炎,高 尿酸血症,ミ オパ

チー,脳 萎縮 な どのアル コールに よる障害 は大酒家 す

べてに起 こるのではな く,一 部 の飲酒者 に起 こること

か ら遺伝的背景 の差 の関与が考 えられている.

Table1に,常 習飲酒家 においてアル コール性肝硬

変 と軽度の肝機能障害 また は肝機能障害 のない大酒家

例 におけるADH21,ADH22の 遺伝子頻度 を比較 した

報告 を ま とめた16).ア ル コール性肝 硬 変へ の進 展 に

は,Chaoら17),Tanakaら18)は 有意 差 を認 め なか っ

たが,我 々の検 討ではADH22がrisk factorと して意

味 の あ る 因 子 と考 え ら れ た19).ADH22は,ADH21と

比 較 して エ タ ノ ー ル 代 謝 能 が 高 く(ア セ トア ル デ ヒ ド

産 生 能 が 高 い),エ タ ノ ー ル か らADH22を 有 す る 大

酒 家 で は ア セ トア ル デ ヒ ドお よ びNADHが よ り産 生

さ れ,肝 硬 変 へ 進 展 し や す い と 考 え ら れ る.Sher-

manら20)は,制 限 酵 素Pvu IIで 処 理 後 に1.3 kb

genomic DNA probe(pADH36)でSouthern

hybridizationを 行 い,restriction fragment length

polymorphism(RFLP)を 検 討 し,5.1/0.8kbに バ

ン ド を 認 め る も の をAA,3.1/2.9kbに 認 め る も の

をBB,す べ て の バ ン ド を認 め る もの をABと し て 検

討 し た と こ ろ,B alleleの 出 現 頻 度 が 大 酒 家 で 多 く,

し か も肝 硬 変 で の 出 現 頻 度 も高 く,ア ル コ ー ル 性 肝 硬

変 のrisk factorと し て 有 意 な 因 子 で あ る と報 告 し て

い る.

一 方,肝 硬 変 へ の 進 展 因 子 と し てEnomotoら21)

は,ALDH21/22の ヘ テ ロ接 合 体 の ほ う がALDH21/21

特集/薬 物代謝159

Table2ア ル コール性 肝硬 変 にお け るP4502E1遺 伝子頻 度

*aア ル コール 性肝 障害,*ρ<0.002vs健 常者,**ρ<0.05vs肝 硬 変群

Flig.6ア ル コール性 臓器 障害 とADH2 allele頻 度

すべての臓器障害 において,合 併例 と非合併例 との間で有意差(ρ<0.05)あ り.

のホモ接合体 に比べ て少量,短 期間で肝硬変 へ進展す

る こ とか ら,ALDH22が ア ル コール性 肝 硬 変 へ の

risk factorで あ る として い る.我 々の検 討 で も,

ADH2とALDH2遺 伝 子型 の 組 み合 わ せ に よ り,

Fig.5に 示す ように,最 もアセ トアルデ ヒ ドが蓄積 し

や すいADH22/22か つALDH21/22で は肝 硬変 の発 症

頻度 は75.0%で あ るのに対 して,最 も蓄積 しに くい

ADH21/21か っALDH21/21で は16.7%と 低 率 で あ

る22).欧 米 にお けるDayら23),Pouponら24)の 報告で

は,ADH31 alleleの 出現頻度 はいず れ もアル コール

性肝硬変で非硬変 アル コール性肝障害 と比較 して高率

で ある と報告 しているが,有 意 な差で はなかった とし

ている.し か し,彼 らの報告 を合計 して検討 する と,

アルコール性肝 硬変 にお けるADH31 alleleの 出現頻

度 は0.65で あ り,非 硬 変 アル コール性肝障害 の0.55

よ りも有 意 に高率 で あ り(ρ<0.07),欧 米 にお ける

アル コール性肝硬変 のrisk factorと 考 え られ る.

P4502E1のC1遺 伝子 とアル コール性肝 障害 につ い

て は,我 々の検討 で はC1/C2型 が非硬 変群 に多 く認

め られ,C1遺 伝子 が アル コール性 肝硬変 へ の進 展 に

関与 す る因子 であ るとの結果 であ った25).Table2に

CYP2E1遺 伝 子多型 とアル コール性 肝 障害 との報 告

をま とめて示 す.Tsutsumiら26)は,非 硬変 群 と肝 硬

変群で の比較 はしていないが,ア ルコール性肝 障害で

は逆 にC2遺 伝子が高率 であった としてお り,成 績 が

一 定 して い な い.最 近 の 報 告 で は,Lucasら27)は

160特 集/薬 物代謝

Caucasianで はC1遺 伝子頻度 が極 めて高 く,各 群 で

の差 は認 め られ ない と報告 し,台 湾人,韓 国人での検

討で もアルコール性肝 障害へ の進展 には関与 しない と

の報 告が 多 い28~31).―2,178~ ―1,945の 反 復配 列 に

よる多型 について も,ア ル コール性肝 障害 との関連性

は認 め られ な い32).さ らに最 近,CYP2E1ノ ック ア

ウ トマ ウスにアル コール を投与 して もアル コール性肝

障害 を発症 した との報告33)があ り,ア ル コール性肝障

害 の発症 におけ るCYP2E1の 意義 を再検討 す るこ と

が必要 にな って きている.

アル コール性肝 障害以 外 の臓 器 障害 につ いて は,

ADH22遺 伝子 が肝硬 変以外 で は高尿酸 血症34),慢 性

膵炎16,35),ADH21遺 伝 子が脳 萎縮36)と ミオパチー16)の

genetic risk factorで あ る こ とが報 告 され てい る16)

(Fig.6).

7.お わ りに

飲 酒行動 には,ADH2お よびALDH2遺 伝 子 多型

が強 く関与 し,常 習飲酒習慣の獲得 や飲酒量 に強 く影

響 を及 ぼ してい る.さ らにアル コールによる臓器 障害

の発症 に も同遺伝子 多型が関与 してい ることも事実で

あ るが,環 境要因やTNFな どのサイ トカイ ン遺伝子

多型 な ど36,37),複数 の因子 によ り進展 する ことも念頭

に入 れてお くことが重要 である.

文 献

1) 山内眞義,前 澤良彦,戸 田剛太郎.ア ルコール性肝障害のrisk

factor.戸 田剛太郎ほか(編).Annual Reviw消 化器.中 外

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