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新入生の皆さん、ご入学おめでとうございま す。このコーナーでは、言語を科学的・実証的 に明らかにしようとする言語学について、分か りやすくお伝えしています。少しでも言語学に 興味を持って頂ければ幸いです。 Q:前回は「概念メタファー (conceptual metaphor)」の話でTIME IS MONEY(時 は金なり)を例に説明していただきました。 A:「概念メタファー」とは、ある概念を別の概 念を通して理解するメタファーのことでし たね。 Q:ジョージ・レイコフ(George Lakoff)とマー ク・ジョンソン(Mark Johnson)の二人が 1980年に出版したMetaphors We Live By中で論じたということでしたね。 A:彼らはその本の中で「構造のメタファー (structural metaphor)」、「方向性のメタ ファー(orientational metaphor)」、「存の メ タ フ ァ ー (ontological metaphor)」 という三つの概念メタファーを提示してい ます。TIME IS MONEYメタファーは構造 のメタファーの一つです。私たちは「時間」 は「お金」と同様に限られた貴重なもので あるということを経験的に知っています。 このような「時間」に関する経験の構造が「お 金」の構造と一致するわけです。 Q:構造のメタファーの例として他にはどのよ うなものがありますか? A:レイコフとジョンソンはARGUMENT IS WAR(議論は戦争である)というメタファー を挙げています。では戦争の構造とはどの ようなものですか? Q:まず敵対する二つの集団がありますね。そ れぞれに陣地があり、作戦を立てて相手に 攻撃を仕掛けたり、反対に攻撃を受けた際 は防御したりします。そして最終の目的は 勝利を勝ち取るということでしょうか? A: そうですね。ARGUMENT IS WARメタ ファーは「議論」をこのような「戦争」と 同じ構造で捉えているということです。こ のメタファーを基盤とする表現としてレイ コフとジョンソンは次のような例を挙げ て い ま す。He attacked every weak point in my argument.( 彼 は 私 の 主 張 の 弱 点 をことごとく攻撃した)、I’ ve never won an argument with him.( 私 は 彼 と の 議 論に勝ったことがない)、If you use that strategy, he will wipe you out.( そ ん な 戦 略では、彼にやっつけられるよ)、He shot down all of my arguments.(彼は私の主 張をすべて撃破した(=論破した))。 Q:確かにARGUMENT IS WARですね。 A:LOVE IS A JOURNEY(恋愛は旅である) という構造のメタファーもあります。 Q:これはなるほどという感じがします。「交際 がスタートした」とか「あのカップルはつ いにゴールインした」とか言いますね。旅 にも出発地と目的地がありますよね。 A: We’ ll just have to go our separate ways.(私たちは別々の道を行く必要がある だろう)やWe’ re stuck.(私たちは行き詰っ ている)のように途中で別々の目的地を目指 すことになったり、目的地に辿り着けない 場合もあります。また旅にもいろいろな旅 があるわけで、We’ ve gotten off the track. (私たちは脱線してしまった)は電車の旅が 基盤になっていますし、Our marriage is on the rocks.(私たちの結婚は暗礁に乗り上 げている)は船旅ですね。 Q:「恋愛」を「旅」と同じ構造で捉えている ということがよく理解できます。このメタ ファーは、意味を豊かにしてくれる事を実 感しました。では参考文献をお願いします。 A: 『認知意味論』、松本曜編、大修館書店(2003年) です。 今回の参考文献は『シリーズ認知言語学』の 第3巻です。6章から成る本書は、先ず認知意味 論とは何かというテーマから始まり、様々な研 究をコンパクトに解説しています。このコーナー で以前に扱ったメトニミー等も解説されている ので、違った例文でおさらいするのにも適してい ます。各章の末尾には「読書案内」が掲載され ていていますが、簡単なコメントが付されてい るのは初学者へのちょっとした配慮です。本書 の請求記号は801‖Shir‖3で、資料IDは490753 です。本館の第一閲覧室に配架されています。 にゅうがく なおや (福井工業大学准教授・英語学・英語史) ふじい たつや(司書・課長補佐・アジア関係図書館入学直哉、藤井達也 言語学、はじめの一歩(23) 32

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    図書館員の文献紹介と

         

    資料の活用

     新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。このコーナーでは、言語を科学的・実証的に明らかにしようとする言語学について、分かりやすくお伝えしています。少しでも言語学に興味を持って頂ければ幸いです。

    Q:前回は「概念メタファー (conceptual metaphor)」の話でTIME IS MONEY(時は金なり)を例に説明していただきました。

    A:「概念メタファー」とは、ある概念を別の概念を通して理解するメタファーのことでしたね。

    Q:ジョージ・レイコフ(George Lakoff)とマーク・ジョンソン(Mark Johnson)の二人が1980年に出版したMetaphors We Live Byの中で論じたということでしたね。

    A:彼らはその本の中で「構造のメタファー(structural metaphor)」、「方向性のメタファー (orientational metaphor)」、「存在の メ タ フ ァ ー (ontological metaphor)」という三つの概念メタファーを提示しています。TIME IS MONEYメタファーは構造のメタファーの一つです。私たちは「時間」は「お金」と同様に限られた貴重なものであるということを経験的に知っています。このような「時間」に関する経験の構造が「お金」の構造と一致するわけです。

    Q:構造のメタファーの例として他にはどのようなものがありますか?

    A:レイコフとジョンソンはARGUMENT IS WAR(議論は戦争である)というメタファーを挙げています。では戦争の構造とはどのようなものですか?

    Q:まず敵対する二つの集団がありますね。それぞれに陣地があり、作戦を立てて相手に攻撃を仕掛けたり、反対に攻撃を受けた際は防御したりします。そして最終の目的は勝利を勝ち取るということでしょうか?

    A: そうですね。ARGUMENT IS WARメタファーは「議論」をこのような「戦争」と同じ構造で捉えているということです。このメタファーを基盤とする表現としてレイコフとジョンソンは次のような例を挙げて い ま す。He attacked every weak point in my argument.(彼は私の主張の弱点をことごとく攻撃した)、I’ve never won

    an argument with him.( 私 は 彼 と の 議論に勝ったことがない)、If you use that strategy, he will wipe you out.( そ ん な 戦略では、彼にやっつけられるよ)、He shot down all of my arguments.(彼は私の主張をすべて撃破した(=論破した))。

    Q:確かにARGUMENT IS WARですね。A:LOVE IS A JOURNEY(恋愛は旅である)

    という構造のメタファーもあります。Q:これはなるほどという感じがします。「交際

    がスタートした」とか「あのカップルはついにゴールインした」とか言いますね。旅にも出発地と目的地がありますよね。

    A: We’ll just have to go our separate ways.(私たちは別々の道を行く必要があるだろう)やWe’re stuck.(私たちは行き詰っている)のように途中で別々の目的地を目指すことになったり、目的地に辿り着けない場合もあります。また旅にもいろいろな旅があるわけで、We’ve gotten off the track.

    (私たちは脱線してしまった)は電車の旅が基盤になっていますし、Our marriage is on the rocks.(私たちの結婚は暗礁に乗り上げている)は船旅ですね。

    Q:「恋愛」を「旅」と同じ構造で捉えているということがよく理解できます。このメタファーは、意味を豊かにしてくれる事を実感しました。では参考文献をお願いします。

    A: 『認知意味論』、松本曜編、大修館書店(2003年)です。

     今回の参考文献は『シリーズ認知言語学』の第3巻です。6章から成る本書は、先ず認知意味論とは何かというテーマから始まり、様々な研究をコンパクトに解説しています。このコーナーで以前に扱ったメトニミー等も解説されているので、違った例文でおさらいするのにも適しています。各章の末尾には「読書案内」が掲載されていていますが、簡単なコメントが付されているのは初学者へのちょっとした配慮です。本書の請求記号は801‖Shir‖3で、資料IDは490753です。本館の第一閲覧室に配架されています。

     にゅうがく なおや(福井工業大学准教授・英語学・英語史)

    ふじい たつや(司書・課長補佐・アジア関係図書館)

    入学直哉、藤井達也

    言語学、はじめの一歩 (23)

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