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2018 August 1 る人手不足が影響している可能性があるだろう。 老後の生活を豊かにする上で、退職後の自営業と いうのは、勤め上げた企業での再雇用や同業での再 就職に加え、一つの選択肢になり得るだろう。人生 100 年時代の到来で多様な働き方が模索される中、 第二の人生に備えて、計画的にスキルや資格を取得 しておくことがますます重要となる。 みずほ総合研究所 経済調査部 主任エコノミスト 酒井才介 [email protected] 労働市場の改善が続いている。総務省「労働力調 査」によると、2017年度の就業者数は6,566万人と過去 最高を記録した。その中でも特徴的な動きの一つが 自営業者数の下げ止まりだ。自営業者は一貫して減 少傾向にあったが、2017年度は女性の自営業者が増 加し、全体としても20年ぶりの増加に転じた(図表)。 こうした動きの背景にあるのが労働力人口の高齢 化だ。各年齢別に自営業者数の対就業者数比率をみ ると、高齢者(65歳以上人口)層が2017年度で25%超 と群を抜いて高い。つまり、高齢者の労働参加が多く なるほど自営業者が増加しやすいというわけだ。 高齢者の自営業と言えば、定年退職して農業や小 売店を営むといったケースが思い浮かぶかもしれな い。しかし、近年はその構図に変化の兆しがみられ る。高齢者について、自営業者の業種別割合の推移を みると、最近は、農林業の割合が減少する一方で、建 設業、学術研究・専門・技術サービス業、教育・学習支 援業の割合が増加している。 こうした変化は、会社を退職後、長い間に培った専 門的なスキルや資格を活用して、「第二の人生」とし て自営業を営むケースが増えている可能性を示唆し ている。退職後に法律事務所や税理士事務所、経営 コンサルタント業、あるいは学習塾などを開業する ケースがこれに該当する。建設業については、震災復 興やアベノミクスにおける公共事業の積み増しによ みずほ銀行 みずほ総合研究所 人生100年時代の新たな働き方 ― 高齢自営業者の増加が示唆すること ― ●人生100年時代の新たな働き方 ………………………… 1 ― 高齢自営業者の増加が示唆すること ― ●第2次安倍政権で6度目の骨太方針 ……………………… 2 人づくり革命と生産性革命が柱、外国人材受け入れにも踏み込み ●RCEP交渉の年内妥結は可能か? ……………………… 3 ― 東京で第5回中間閣僚会合開催 ― ●再び難民・移民問題に揺れる欧州 ………………………… 4 ●民 泊………………………………………………………… 4 日本経済 自営業者数の推移 (資料)総務省「労働力調査」より、みずほ総合研究所作成 (万人) (万人) (年度) 520 530 540 550 560 570 580 6,200 6,250 6,300 6,350 6,400 6,450 6,500 6,550 6,600 2010 11 12 13 14 15 16 17 就業者 自営業者(右目盛)

2018 August みずほ総合研究所...2018 August 1 る人手不足が影響している可能性があるだろう。老後の生活を豊かにする上で、退職後の自営業と

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Page 1: 2018 August みずほ総合研究所...2018 August 1 る人手不足が影響している可能性があるだろう。老後の生活を豊かにする上で、退職後の自営業と

2018August

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る人手不足が影響している可能性があるだろう。

老後の生活を豊かにする上で、退職後の自営業と

いうのは、勤め上げた企業での再雇用や同業での再

就職に加え、一つの選択肢になり得るだろう。人生

100年時代の到来で多様な働き方が模索される中、

第二の人生に備えて、計画的にスキルや資格を取得

しておくことがますます重要となる。

みずほ総合研究所 経済調査部主任エコノミスト 酒井才介[email protected]

労働市場の改善が続いている。総務省「労働力調

査」によると、2017年度の就業者数は6,566万人と過去

最高を記録した。その中でも特徴的な動きの一つが

自営業者数の下げ止まりだ。自営業者は一貫して減

少傾向にあったが、2017年度は女性の自営業者が増

加し、全体としても20年ぶりの増加に転じた(図表)。

こうした動きの背景にあるのが労働力人口の高齢

化だ。各年齢別に自営業者数の対就業者数比率をみ

ると、高齢者(65歳以上人口)層が2017年度で25%超

と群を抜いて高い。つまり、高齢者の労働参加が多く

なるほど自営業者が増加しやすいというわけだ。

高齢者の自営業と言えば、定年退職して農業や小

売店を営むといったケースが思い浮かぶかもしれな

い。しかし、近年はその構図に変化の兆しがみられ

る。高齢者について、自営業者の業種別割合の推移を

みると、最近は、農林業の割合が減少する一方で、建

設業、学術研究・専門・技術サービス業、教育・学習支

援業の割合が増加している。

こうした変化は、会社を退職後、長い間に培った専

門的なスキルや資格を活用して、「第二の人生」とし

て自営業を営むケースが増えている可能性を示唆し

ている。退職後に法律事務所や税理士事務所、経営

コンサルタント業、あるいは学習塾などを開業する

ケースがこれに該当する。建設業については、震災復

興やアベノミクスにおける公共事業の積み増しによ

みずほ銀行みずほ総合研究所

人生100年時代の新たな働き方― 高齢自営業者の増加が示唆すること ―

●人生100年時代の新たな働き方 ………………………… 1 ― 高齢自営業者の増加が示唆すること ―

●第2次安倍政権で6度目の骨太方針 ……………………… 2 ― 人づくり革命と生産性革命が柱、外国人材受け入れにも踏み込み ―

●RCEP交渉の年内妥結は可能か? ……………………… 3 ― 東京で第5回中間閣僚会合開催 ―

●再び難民・移民問題に揺れる欧州 ………………………… 4●民 泊………………………………………………………… 4

日本経済

●自営業者数の推移

(資料)総務省「労働力調査」より、みずほ総合研究所作成

(万人) (万人)

(年度)

520

530

540

550

560

570

580

6,200

6,250

6,300

6,350

6,400

6,450

6,500

6,550

6,600

2010 11 12 13 14 15 16 17

就業者自営業者(右目盛)

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ハードルを現行制度よりも下げて、就労目的の在留

を認めるものである。最長5年の技能実習を終えた

外国人の場合、技能や日本語の試験を受けずに新資

格へ移行できる。政府は、2019年4月の導入を目指す

この制度によって、2025年頃までに50万人超の外国

人受け入れを想定しているようである。

財政政策に関しては、来年秋の消費税率引き上げ

に伴う需要変動(駆け込み需要・反動減)を平準化す

る方策を今後検討していく旨が明記されたほか、3

年ぶりに財政健全化計画が改訂され、2025年度に基

礎的財政収支(政策経費を税収でどの程度まかなえ

るかを表す指標)の黒字化を目指すとされた。

毎年6月に策定される骨太方針は、翌年度予算の

青写真となる極めて重要な政策文書である。安倍政

権が目指す「経済再生と財政健全化の両立」や少子高

齢化の克服に向けて、人づくり革命と生産性革命を

中心に実効性ある施策がムダのない形で2019年度

予算に盛り込まれるかどうか、8月の概算要求から

スタートする今後の予算編成作業が注目される。

みずほ総合研究所 政策調査部上席主任研究員 野田彰彦[email protected]

政府は6月15日に、「経済財政運営と改革の基本方

針2018」(骨太方針)を閣議決定した。第2次安倍政権

下で6度目の策定となる。

これまで安倍政権は、わが国の中長期的な成長制

約要因である少子高齢化をいかに克服するかという

難題と向き合ってきた。2015年秋には、女性や高齢

者を含む全ての国民が存分に活躍できる「一億総活

躍社会」構想を掲げ、その具体的な取り組みとして、

まずは「働き方改革」に注力し、さらに昨年には「人づ

くり革命」と「生産性革命」を重点政策の新たな2本

柱に掲げ、今日に至っている。

今回の骨太方針も、これらの改革に焦点を当てて

いる。人づくり革命では、消費税率を10%に引き上

げる2019年10月から幼児教育無償化を全面実施す

る方向性を打ち出した。また、低所得世帯を対象とす

る高等教育無償化の詳細な制度設計や、リカレント

教育(社会人の学び直し)の促進、高齢者雇用の拡大、

大学改革などに関する具体策も盛り込まれた。

生産性革命は、成長戦略の中軸ともなる取り組み

である。安倍政権は近年、「Society5.0」(ロボットや

人工知能などの革新的技術を取り込んだ極めて利便

性の高い将来社会像)という概念を提唱しており、今

回はSociety5.0の実現に向けた具体的施策として、

自動運転やヘルスケア、行政のデジタル化といった

重点分野におけるフラッグシップ(旗艦)・プロジェ

クトの推進などを示した。

働き方改革では、6月末に成立した働き方改革関連

法を念頭に、長時間労働の是正や同一労働同一賃金

の実現などに向けた取り組み方針を確認している。

そのほかに注目されるのは、「移民政策とは異な

る」と断りつつ、深刻化する人手不足への対応策とし

て、外国人材の受け入れ拡大のため「新たな在留資格

の創設」を打ち出したことだ。限定された業種(建設、

農業、介護など)を対象に、求められる日本語能力の

第2次安倍政権で6度目の骨太方針― 人づくり革命と生産性革命が柱、外国人材受け入れにも踏み込み ―

政策動向

●骨太方針2018の概要

《経済政策》

《財政政策》

人づくり革命(教育負担の軽減、学び直し、大学改革)

生産性革命(AIやロボット等の経済社会への普及)

働き方改革(長時間労働の是正、同一労働同一賃金)

外国人材の受け入れ(新たな在留資格の創設)

その他(不断の規制改革、官民挙げた研究開発の推進)

2019年10月の消費税率引き上げと需要変動の平準化

財政健全化計画(2025年度に基礎的財政収支を黒字化)

2019年度予算編成の考え方(ムダ排除、メリハリ付け)

(資料)「経済財政運営と改革の基本方針2018」(2018年6月15日閣議決定)より、   みずほ総合研究所作成

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3

る防波堤としての役割も期待されており、その早期

実現が一層重要になっている。

交渉加速で合意も課題は多い

今回の閣僚会合では、年内の大筋合意を目指して

交渉を加速させることが合意された。しかし、克服す

べき課題は依然多い。

物品貿易の自由化、つまり、関税の削減・撤廃につ

いては、自由化に消極的なインドと、高い水準の自由

化を求める他の参加国との間で折り合いがついてい

ない。他方、IT技術者などの「人の移動」を含むサー

ビス貿易の自由化を進めたいインドは、これに慎重

なASEAN諸国などの姿勢に不満を示している。

日本は、高水準の自由化とともに、知的財産保護や

電子商取引などに関する質の高いルールの構築を目

指しているが、中国などの一部の参加国との間で意

見の隔たりがある。

年内大筋合意に向けて、残された時間は少ないが、

その実現は容易ではない。

みずほ総合研究所 政策調査部主席研究員 菅原淳一[email protected]

日本が共同議長に

7月1日に東京において、東アジア地域包括的経済

連携(RCEP)交渉の第5回中間閣僚会合が開催され

た。今回は、東南アジア諸国連合(ASEAN)域外で開

催される初めての閣僚会合であり、シンガポールと

ともに日本が共同議長を務めた。これは、RCEP交渉

の早期妥結を目指す日本の決意を示すものと言える

だろう。

RCEP交渉には、ASEAN10カ国とASEANと自由

貿易協定(FTA)を締結していた6カ国の計16カ国が

参加している(図表)。RCEPが実現すれば、世界の約

5割の人口(約34億人)と約3割の国内総生産(GDP、

約20兆ドル)を占める巨大な経済圏が構築される。

日本にとっては、いまだFTAを締結していない中

国、韓国を含むRCEPを締結する意義は大きい。

RCEPによって参加国が貿易投資障壁の削減・撤

廃を進め、貿易投資に関連するルールを共有すれば、

域内市場の一体化が進み、いくつもの国境を越えて

サプライチェーン(バリューチェーン)を構築してい

る日本企業は、域内分業体制を最適化することが可

能になる。また、成長著しいアジア諸国との結びつき

を強めることにより、日本経済が活性化することが

期待される。

RCEP交渉は、開始からすでに丸5年が経過してい

るが、自由化やルールの水準を巡る参加国間の意見

の隔たりが依然大きく、交渉は難航している。このま

ま妥結のめどが立たなければ、RCEP交渉は漂流し

かねない。この状況を打開するには、政治レベルで交

渉を加速させる必要がある。そのために開かれたの

が今回の閣僚会合である。

最近の米国と中国などの間での貿易制限措置の応

酬は、世界の自由貿易体制を深刻な危機にさらして

いる。RCEPには、こうした保護主義的な動きに対す

RCEP交渉の年内妥結は可能か?― 東京で第5回中間閣僚会合開催 ―

経済連携

●RCEP交渉参加国

(注)CPTTP:環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11)(資料)みずほ総合研究所作成

インド

ASEAN

インドネシアフィリピン タイ

カンボジアラオスミャンマー

韓国 中国

メキシコ カナダ

オーストラリアニュージーランド

日本

日中韓

チリ ペルー

ブルネイ ベトナムシンガポールマレーシア

CPTPP

米国

RCEP

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4

みずほリサーチ 第 197 号 2018 年 8 月 1 日発行発行:みずほ銀行・みずほ総合研究所 編集:みずほ総合研究所 TEL:03-3591-1400 製作:株式会社 白橋 ISSN 1347-2488

6月28〜29日にブリュッセル(ベルギー)で開かれ

た欧州連合(EU)首脳会議は、難民・移民問題が焦点と

なった。

2015年、シリア情勢の悪化などを背景に100万人を

超える難民が欧州に押し寄せ、各国はその対応に追わ

れた。トルコからギリシャに流入した不法難民の強制

送還が2016年春に始まったことなどから、欧州に到

着する難民の数は峠を越えたが、今でも相当数の難民

が欧州を目指す。

今回の首脳会議では、28日の夕食会から始まった議

論が9時間以上にわたり、29日未明になってようやく

声明文の内容で合意した。議論が紛糾したのは、地中

海を渡る難民の救助の最前線に立つイタリアが他の

加盟国に負担を求めたためである。また、ドイツでは、

キリスト教民主同盟(CSU)の党首ゼーホーファー内

務相が他のEU加盟国で登録された難民の移動を防ぐ

対策をメルケル首相に求め、連立政権崩壊の危機にひ

んしていた。

結局、難民資格を審査する施設を北アフリカ、EU加

盟国の双方に設置する方針などで合意したが、具体策

に乏しく、問題収束のめどは立っていない。ドイツは

連立解消をとりあえず免れたが、政権内の不協和音は

続きそうだ。イタリアで連立政権の一角を担う同盟だ

けでなく、オーストリアやハンガリー、チェコなどで

も難民や移民に反対する政党が勢力を強めている。対

応を誤れば、2019年5月の欧州議会選挙でこうした政

治勢力が伸張するリスクがある。

みずほ総合研究所 ロンドン事務所所長 山本康雄[email protected]

再び難民・移民問題に揺れる欧州

Q:近年注目を集めている民泊と

はどのようなものですか

A:住宅の全部もしくは一部を宿

泊サービス用に提供することが民

泊と呼ばれています。ホームステ

イなど似たような形態はこれまで

もありましたが、貸し手と借り手

のマッチングが容易ではなく、民

泊はマイナーな存在でした。

 しかし、両者をマッチングする

スマートフォン向けアプリの登場

で、民泊の利用が広がりました。民

泊の長所として、貸し手には不稼

働資産の活用が、借り手には比較

的手頃な価格での宿泊があげられ

ます。海外では民泊アプリの利用

が増加しています。

 また、近年、訪日外国人が大きく

増加していることから、民泊アプ

リに慣れ親しんだ外国人を主な

ターゲットに、民泊として活用さ

れる住宅が急増しています。

Q:6月施行の民泊新法(住宅宿泊

事業法)の特徴は何ですか

A:従来の旅館業法では住居専用

地域で営業できないなど民泊には

不向きであったため、新法が制定

されました。

 民泊新法では、事前届け出と営

業日数の上限(年間180日)に加

え、曜日やエリアの制限など自治

体ごとの上乗せ規制が認められた

ほか、住居専用地域での営業が合

法化された点が大きな特徴です。

 自治体の上乗せ規制で多いのは、

住民の不安に配慮した近隣への周

知の義務付けです。その作業の煩雑

さなどから届け出の出足は鈍く、民

泊アプリへの登録施設は民泊新法

施行前に比べて急減しています。

 しかし、人口減少による空き家

の増加や訪日外国人増加に伴う宿

泊施設不足への懸念から民泊への

期待が根強いのも事実です。上乗

せ規制の緩い自治体を中心に届け

出、登録される施設は、今後徐々に

増加していくでしょう。

みずほ総合研究所 政策調査部主任研究員 岡田 豊[email protected]

民 泊

海外通信

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