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32 写真:赤松 孝 6 Chapter Development of Compact Fuel Cell Stack Enabled to be Mounted under the Front Hood

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32

6Chapter

写真:赤松 孝

6Chapter

(株)本田技術研究所/ホンダエンジニアリング(株)

多動力展開を

見据え、

新しい形を

ホンダが発売したクラリティは︑

ユーザーの声を反映して5人乗りを実現した︒

それだけではなく︑燃料電池自動車︑電気自動車︑

プラグインハイブリッドという違う動力を

同じプラットフォームで展開する戦略車でもある︒

そのためには燃料電池スタックを︑

フロントフードの下に収められるように

小型化しなければならない︒

衝突安全の確保も重要である︒

開発陣は経験のない小型化と安全性を求め続けた︒

それは時間との戦いでもあった︒

Developm

ent of Com

pact Fuel Cell Stack E

nabled to be M

ounted under the Front Hood

フロントフード下への搭載を可能とした

新型自動車用小型燃料電池スタックの開発

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33 AUTO TECHNOLOGY 2018

5人乗りセダンのための

燃料電池スタック

 

ホンダが、2016年3月に発売した燃料電池車、ク

ラリティフューエルセルは、セダン型燃料電池車として

世界で初めて5人乗りとし、また、一回の水素充填で走

行できる距離については世界最高水準の約750㎞を実

現した。また、クラリティフューエルセルは、燃料電池

専用車ではない、同じプラットフォームの電気自動車と、

プラグインハイブリッド車へも適応できる車体構造を

持っている。そのため、燃料電池スタックは、従来以上

に小型化が求められた。

 

この開発を指揮した本田技術研究所四輪R&Dセン

ター第5技術開発室第3ブロックの主任研究員である菊

池英明が、開発の背景を説明する。

「今回の燃料電池スタック開発の使命は、フロントフー

ド下に搭載することでした(図1)。また、ホンダは、

個人ユーザーへの実証も早くから行ってきており、そこ

から、セダンであるなら5人乗りであってほしいとの声

も届いていました。さらには、将来への大量普及を視野

に入れると、エンジンに置き換えて搭載できることも重

要です。

 

以上の開発要請に対し、まずは燃料電池スタックを小

さくすること。次いで、それによってフロントフード内

に納めることができたとしても、衝突の衝撃に対し、従

来の車体中央への搭載に比べ、より壊れにくい耐衝撃性

を実現しなければなりません。そして、大量生産をする

ためには、生産性を高める生産技術の構築も必要です」

 

燃料電池スタックを小さくする点については、最小単

位であるセルの厚みを小さくすること、また、そのセル

の積層枚数を減らしながら、発電性能を高めることだと

菊池は言う。

「そこで課題となったのは、発電によって発生する水を

いかに排出するかです。水素と空気の化学反応によって

発電する際に湿度が必要なのですが、発電の結果発生す

る余分な水が抜けてくれないと、空気のガス流路に水が

溜まり、発電反応ができなくなります。

 

小型化のためセルを薄くしながら、いかに余分な水を

処理するか、ここが開発の重要項目になりました」と、

菊池は説明する。

水ではなく

水蒸気として排出

 

余分な水の排出方法について、第5技術開発室第3ブ

ロック主任研究員の加地勇人は、

「水の排出方法について、前型のFCXクラリティでは、

燃料電池スタックを車中央にあるセンタートンネル内に

縦に搭載し、水素と空気を同じ方向へ流すことにより、

余分な水は重力の力を借りて排出するようにしていまし

た。

 

しかし今回はフロントフード下に

搭載することが大命題ですので、燃

料電池スタックを縦に搭載すること

はできません。そこで、今回はスタッ

クの小型化と同時に、搭載方向や角

度など色々な置き方と廃水特性につ

いて検討しました。また、小型化の

ためにガス流路を狭くすると、表面

張力の影響で水が抜けにくくなりま

す。廃水のためにガス量を増やすと

発電効率が低下するので、できるだ

け少量で成立させることが求められ

ます。主に空気側にできる余分な水

をどのように外へ排出するか、ここ

にそうとう頭を悩ませました。

 

そして考え付いたのが、水という

液体ではなく、水蒸気の気体のまま

排出できないかということです。水

素と空気の反応によって生まれる水は、水蒸気の状態で

出てくるからです」と、語る。

 

それを実現する上で採られた方法が、水素と空気の流

れを互いに逆方向から行う、対向流というガスの流し方

である(図2)。

 

菊池は、

「対向流の考え方自体は、燃料電池の業界では知られて

いることで目新しいことではありません。これを使って、

発電によって発生する水が、水蒸気で生まれるそのまま

を空気側の出口へ流していき、その間に膜を通して水素

側へ移っていくので、水素側の水蒸気濃度が薄いところ

へ水蒸気を導くことになり、イオン交換膜全体に均一な

湿度を保つことができます。発電に水分は不可欠なので、

発電によって生じた水を有効利用することになります」

と、効用を説明する。

 

燃料電池スタックの構造評価や衝突などの試験を担当

多動力展開を見据え、新しい形を―(株)本田技術研究所/ホンダエンジニアリング(株)―

図2 水素と空気の対向流化セル構造

新型FCスタック

VCU FC STACK

MOTOR H TANK H TANKBATTERY 2 2

図1 フロントフード下搭載レイアウト

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34

6Chapter

した第5技術開発室第3ブロック主任研究員の小此木泰

介は、

「乾かしすぎても発電できなくなりますので、ちょうど

よい湿度を保持できるようなギリギリの状態を狙って、

水蒸気で余分な水を排出することを行いました。その流

路の形状や長さ、幅を、水の揮発性を見ながら調和させ

られる状況を、環境適合を含め調整していきました」と

話す。

 

菊池は、

「クルマの運転状況によって、ガス圧等負荷によって変

わるので、燃料電池スタックだけでは調和し切れないた

め、そこはシステム制御で湿度調整をしてもらうように

しました」と言い、加地は、

「この対抗流レイアウトとシステム制御の組み合わせに

より、セル内の液滴を最小限にすることでガスの拡散性

が高まり、出力特性も向上しました。特に低負荷領域に

おける電圧安定性と出力の向上に寄与したと思います」

と、付け加える。

ガスの流路ピッチで

性能を上げる

 

発電性能面では流路ピッチが効果的だと、菊池は言う。

「水素や空気のガスは、流路から膜/電極接合体(ME

A)の拡散層を入り電極に供給されるのですが、流路の

山部と拡散層が接触している部分はガスが入りにくい。

流路ピッチを狭くすることで、そこへのガスは流れやす

くなるため、性能が上がります。一方で、流路ピッチを

狭くすると、金属セパレータの成形性が悪くなり、何回

もプレスすれば精度高くできますが、生産効率を考える

と一発で成形することを、前型のFCXクラリティのこ

ろから取り組んできました。

 

今回の開発では、水が液体になる前の水蒸気の状態で

余分を排出するため、薄くできる分、プレス成型もしや

すくなって、ピッチを狭くして、性能向上しております。

ここは10年以上の経験が活

きた部分です(図3)」

 

小此木も、

「金属セパレータの板厚、

流路のピッチ、その深さに

ついて、成形限界を狙い、

もっとも性能を出せる流路

に出来上がっています」と

力説する。

 

ただし、プレスの試作品

には苦労したと、第5技術

開発室第3ブロック研究員

の西山隆之は振り返る。

「原寸で試作を作るのは大

変ですから、多くはシミュ

レーションで方向づけを行

い、そのあとに小さな模型を作って、流路を切削で形づ

くり試験しましたが、これが大変でした」

 

菊池は、

「カーボン素材の板に、試作ではプレスではなく三次元

マシンで切削して流路を作るため、製作会社に張り付い

て、切削マシンを占有するかたちでやってもらいました。

とにかく早く仕様を決めなくてはならなかったからで

す」と現場の様子を語ると、西山も、

「1セルに2枚セパレータが必要で、それを積層した一

つの仕様を作るだけでも1週間ほどかかりました。カー

ボンの板の片面を切削するだけでも一日かかりました。

ほかの自動車部品に比べ時間のかかる作業なので、試作

も時間との戦いでした」と話す。

数十ミクロンの薄い電極を

限りなく平らに積層するか

 

こうして、フロントフード下に搭載するための燃料電

池スタックの開発は進むが、次はその量産をいかに行う

 燃料電池自動車は、世界の中で日本からのみ市販されるに至っている。それに際して、ホンダは、普及の手掛かりとして、一つのプラットフォームで燃料電池車、電気自動車、プラグインハイブリッド車を成立させることに取り組んだ。このため、発電装置となる燃料電池スタックを、エンジンと置き換えフロントフード下に搭載するための小型化が不可欠となった。今回の開発では、限られた空間に納める小型燃料電池スタックを開発し、なおかつ、万一の衝突に際し衝撃が燃料電池スタックに及んでも、水素漏れや感電をさせないセル・ケースの開発が求められた。燃料電池スタックにおいては、水素と空気を対向に流す手法を採り入れ、生成水の排出を促すことで小型化と発電効率の向上を両立させた。耐衝撃性については、衝撃力を適切に逃がす構造と、ケース内のセルが衝撃で崩れない工夫を施すことにより、安全性を高めている。フロントフード下への搭載により、5人乗りセダンを成立させた。

FCV、EV、PHEVを一つのプラットフォームで

20% 薄型化

従来 FCスタック 新型 FCスタック

セパレータ

従来モデル空気

冷媒空気

水素

冷媒 水素

1 mm

1 mmMEA

MEA

図3 セル厚みの低減化

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35 AUTO TECHNOLOGY 2018

かである。

 

ホンダエンジニアリング生産技術部パワーユニット生

産技術BLの技師である原田仁は、

「薄い拡散層と電極を組み合わせる上で、厚さが数十ミ

クロンという薄い電極を、いかに平らに積層するか。ま

た、それを管理できるかが重要です。電極は平面の大き

さがA4サイズ程度で、それに対し厚みは数十ミクロン

ですから、縦横比でみるとものすごく薄い紙のようなも

のを平らに重ねる難しさがあります(図

4、5)。

 

さらに、拡散層のカーボンペーパー

は多孔質で、そこに電極となる平坦な

膜を塗り広げなければなりません。電

極を塗る際に、塗る液(インク)の濃

度によっては多孔質の孔から漏れてし

まったり、濃すぎれば粘度によって表

多動力展開を見据え、新しい形を―(株)本田技術研究所/ホンダエンジニアリング(株)―

原田 仁 Hitoshi HARATA

ホンダエンジニアリング株式会社生産技術部パワーユニット生産技術BL 技師

「賞を戴き、光栄に思います。設計の方たちと一緒に苦労した開発で、量産へ持ち込めたことも嬉しかったです。生産技術は縁の下の力持ち的な立場ですから表に出ることは少ないのですが、一緒に受賞できたことが嬉しいです。同じように苦労している生産技術の人がいるので、彼らの意気込みや活力にもなればいいと思っています」

西山 隆之 Takayuki NISHIYAMA

株式会社本田技術研究所四輪R&Dセンター 第5技術開発室第3ブロック 研究員

「開発の現場は困難の繰り返しで、沈みがちな面もありますが、受賞によって晴れやかな気持ちになり、次への活力が湧いてきました。すごく有り難いと思いました」

小此木 泰介 Daisuke OKONOGI

株式会社本田技術研究所四輪R&Dセンター 第5技術開発室第3ブロック 主任研究員

「公の賞を戴くのは初めてでしたので、光栄なことで嬉しかったです。苦労を分かち合った仲間と受賞できたことも嬉しさの一つです。機密のため、開発中は家族や友人に何をやっているのか聞かれても答えられずにいましたが、受賞したことで胸を張って報告することができました。一つの節目となり、有難いと思っています」

加地 勇人 Hayato KAJI

株式会社本田技術研究所四輪R&Dセンター 第5技術開発室第3ブロック 主任研究員

「先行研究から担当させてもらい、足かけ7年ほどの成果としての受賞であり、とても嬉しいです。入社以来ずっと燃料電池の開発にかかわってきて、これまでの経験や関連メンバーの想いをすべて注ぎ込めたと思っていたので、なおさら嬉しかったです。一緒に開発を頑張ってくれた職場の仲間とサポートしてくれた家族と共に受賞の喜びを分かち合いたいと思います。今回受賞は今後の開発業務への励みになりました。ありがとうございました」

菊池 英明 Hideaki KIKUCHI

株式会社本田技術研究所四輪R&Dセンター 第5技術開発室第3ブロック 主任研究員

「受賞することができ、ただただ嬉しい限りです。この受賞は、開発メンバー全員の成果です。ありがとうございます。先代のFCXクラリティの際にも技術開発賞を戴いており、家に持ち帰ったら、妻が玄関に前のと一緒に二つ楯を棚に置いていてくれ、妻も喜んでくれたのだと嬉しかったです」

図4 A4サイズで厚みは数十ミクロンという          薄い電極が塗られた膜/電極接合体

図5 新開発のセル・MEAの厚みの比較

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6Chapter

面が平らにならずデコボコになったりします。

 

まず漏れ対策としては、カーボンペーパーに超撥水の

表面処理を施しました。塗るインクについては、電極と

して電気を通すことのできる適切な厚みを実現できる、

カーボンと白金のパウダーが溶媒に均一に分散する粘度

に調整していきました。程よくという塩梅にするのに苦

労しました」と、物づくりの苦労を語る。

 

また、電極と固体高分子膜を一体化した膜/電極接合

体(MEA)では、生産性を高める改良が施された。

 

菊池は、

「これまでのMEAは、電極部は四角く塗工していまし

たが、外形は複雑な形状をしていました。今回は生産

性を考えて四角い簡素な形にし、カーボンペーパーに

インクを塗って、四角く切っていけば作ることができま

す。端材も削減でき、歩留まりも改善されました(図6)。

一方で、その外周部分を樹脂枠に替えていますが、その

樹脂枠とMEAの接合の難しさがありました」と話す。

 

原田は、その詳細を語る。

「膜/電極接合体(MEA)と樹脂枠の組み合わせは、

ガスを漏らさないための密閉に苦労しました。接着剤を

使って接合するのですが、そもそも薄いものをつなぎ

合わせるうえで、接着剤を薄く塗ったのではガスが抜け、

厚く塗ってしまえばスタックに収まらなくなることにな

ります。平らに密着しガス漏れしないように、電極の外

側に幅を持たせながらガスが抜けないよういかに貼り付

けるかは、設計のみなさんとだいぶ協議を重ねました」

 

西山は、

「原田は簡単に説明しましたが、厚みが数百ミクロン程

度しかないものに、密閉部分は1ミリ程度しか幅がない

というものをどのように接着するか、接着剤の量はどれ

くらいか、それを実現するのは容易ではありません。ま

た、最後には樹脂枠を拡散層に融かし込んで接合するこ

ともやっています。そのための温度管理にも技術開発が

必要でした」と付け加える。

 

そして原田は、

「接着剤については、中に気泡があるとガスが抜けてし

まいます。また樹脂の融かし方では、融かしたりないと

くっつかず、融かしすぎると膜/電極接合体(MEA)

に影響を及ぼす、非常に繊細な取り組みが必要で、ここ

も設計の皆さんと議論した点です」と、振り返る。

どこに積もうが

スタックは壊れてはいけない

 

こうして燃料電池スタックの開発は進んだが、次に、

車両へ搭載した際の振動や衝撃に対する対応が必要にな

る。

 

小此木は、

「従来は、車中央にあるセンタートンネル内に燃料電池

スタックを搭載していましたから、

万が一の際でも燃料電池スタック

は乗員と一緒に守られているとこ

ろがありました。しかし今回のよ

うにフロントフード下に搭載する

となると、衝突時には車体の変形

により燃料電池スタックには大き

な荷重がかかりますし、衝突によ

る衝撃も格段に大きくなります。

 

それによって水素が漏れるよう

ではお客様に安心して車を使って

いただけません。燃料電池スタッ

クは、衝突時も壊れてはいけない

というのが我々の考え方であり、

開発の課題でした。

 

車体の変形から電池スタックを

守るのは、ケースの役割です。し

かしフロントフード下には空間の

余地がなく、強度を確保しながら

狭い空間に収めるには緻密な設計

が必要でした。そこに西山たち設

計者の苦労があったと思います。

 

また、燃料電池スタックはセパレータとMEAを組み

合わせた積層構造となっており、セルの間は水素を漏ら

さないためにゴムで密封されています。しかし衝撃で積

層が崩れると、水素が漏れてしまいます。たとえケース

が頑丈でも、中でセルの積層が崩れてはいけないので、

積層を崩さない工夫が必要でした。

 

薄いセルの積層体をどうやって崩れないようにするか。

衝撃は一方向からとは限らないため、あらゆる方向から

の入力に対しても備えておかなければなりません。

 

アイデアを出し合い議論した結果、セル外周に樹脂の

突起を設け、それをケース内側の締結バーに固定する方

法を採用しました(図7)」と、思考の様子を語る。

 

菊池は、

従来 MEA 新型 MEA

発電部 発電部 樹脂枠

下地層 下地層 電極層端材 トリミングトリミングMEAを矩形化

拡散層 材料ロス(歩留まり低下)

拡散層

間欠塗工(下地層のみ) 複列連続塗工

従来MEA塗工工程(水素極側)

新型MEA塗工工程(水素極側)

従来 FCスタック 新型 FCスタック

セルのずれを抑制

締結バー締結バーパネル

エンドプレート

エンドプレートエンドプレート

エンドプレート

セル

セル

セル

図6 MEA(膜/電極接合体)の生産性向上技術

図7 耐衝撃性を向上させたセル保持構造

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37 AUTO TECHNOLOGY 2018

「そんなに薄い紙のようなセルを、強靭なバーで押さえ

るのは無理だよと初めは思いましたが、彼らはやり遂げ

ました」と、労をねぎらう。

 

小此木は、

「セパレータ一枚を用いた樹脂突起の評価で、衝撃に耐

えるのに十分な強度を持つことはすぐに確認できたので

すが、積層して燃料電池スタックにしてからが苦労の連

続でした。積層することでバーと接触した際の樹脂突起

の変形モードが変化して思うような強度が出なかったり、

積層時の僅かなズレで当たり所が悪くなって強度が低下

したり、一つ対策すると新たな問題が発生する、積層体

の難しさを痛感した開発でした。それでも、燃料電池ス

タック単体で苦労した分、車両に搭載してからの衝突試

験には自信をもって挑むことができました」と振り返る。

過去の知見のない中で

時間との戦いが続いた

 

それでも時間との戦いが厳しかったと、菊池は言う。

「燃料電池の開発では、何かを一から始めるとき、図面

を出してから物ができるまでの試作は、エンジン試作よ

り長い期間を要するので、失敗すると、また長い期間、

物が出てきません。その間に、車両開発への燃料電池ス

タック供給が遅れてしまいかねません。もちろん、その

分先行して開発は進めているのですが、初めてのことに

は試行錯誤もあるので、車両開発に影響が出ないように

燃料電池スタックを供給するのは厳しいものでした」

 

外側のケースでは、西山が苦労していた。

「衝突の衝撃はかなり大きな力が掛かるので、頑丈に固

めたいところですが、フロントフード下という限られた

空間に納め、なおかつ材料もあまり高価なものを使わず

にやる点で苦労しました。どのようにリブを立て、力を

どう逃がしていくか、そして安価に仕上げるためには簡

素な形でなければなりません。開発期間が限られていた

ので、思い切った構造にしたらやりすぎて、失敗したこ

ともあります。燃料電池は新しい技術なので過去の知見

も少なく、何でも自分たちで考え、解決する日々でした」

 

菊池は、

「とにかく軽く作るように指示していたので、限界を攻

めて失敗もあったのだと思います。車両開発に影響ない

ように、早く問題点をあぶりださなければならないとい

う状況がありました。

 

また、我々は技術者なので、小さくするなら世界一を

狙おうと考えて取り組んでいました」と矜持を語る。

 

量産の面で、原田は、

「大量生産することを念頭に、自動化を考えながら生産

技術に挑戦しました。しかしながら、人がやっていた作

業をロボットにさせるのは難しいことです。燃料電池は

繊細な作業が多く、たとえば異物を嫌うので表面にカ

バーテープが貼ってあるのをはがすだけでも、ロボット

では掴むこともはがすことも難しくなります。物を掴む

場合にも、人の持ち方と違うので、どのように掴むか。

あるいは、多孔質の拡散層部分を空気で吸い上げて持と

うとしても、孔が開いているので吸い上げることができ

ません。世の中にある手法を駆使しながら、試行錯誤で

生産技術を構築していきました」と、苦心の様子を語る。

エンジンと置き換える

将来の可能性

 

こうして完成した小型燃料電池スタックの将来への可

能性はどうであるのか。菊池は、

「フロントフード下への搭載を確立できたので、車種拡

大のため、エンジンと置き換えることによる将来への可

能性は見えてきたと思います。

 

量産技術においては、普及を考えると何万台、何十万

台のためには、セルを何百万枚という数で生産できなけ

ればならず、今回の成果は、今後への基盤技術が出来上

がったところだと認識しています。ここを、原田が一生

懸命取り組んでくれました。それが重要だと思っていま

す。

 

この先は、さらに小さくすることも重要ですが、まだ、

正直、燃料電池スタックはコストが安いとは言い切れな

いため、それらのほうに開発の軸は向っていくでしょう。

水素社会を実現したいというのが、かかわった我々共通

の想いです。燃料電池車を普及拡大できるように取り組

んでいきたいと思います」と、抱負を述べるのであった。

多動力展開を見据え、新しい形を―(株)本田技術研究所/ホンダエンジニアリング(株)―