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Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 理論と方法 3312018年 数理社会学会 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Japanese Association for Mathematical Sociology 2 会長講演 保守主義者は反学問的なのか: 政治と科学に関する意識調査より 太郎丸 博(京都大学) [要約] 日本において保守的な人ほど学問に対して否定的な態度をとりやすいのかどうかを検討 した.保守的な態度の指標として安倍内閣支持,保革自己イメージ,権威主義,排外意識の 4 つを用い,学問に対する態度の指標として学問効用認知と環境学,医学,経済学,歴史学, 憲法学に対する相対的な信頼度を用いた.分析の結果,ある程度は保守的であるほど学問に 対して否定的になりやすい傾向が見られたが,一貫したものではなかった.権威主義の直接 効果は存在せず,保革自己イメージは,中間が最も学問に否定的で,保守と革新の両方で肯 定的になることもあった.排外意識が有意な効果を持ったのは,歴史学と憲法学に対する相 対的な信頼度だけであった.安倍内閣支持は医学に対する相対的な信頼度以外では有意な効 果を持ったが,学問効用認知をむしろ高めていた.以上から,政治的な態度と学問に対する 支持のあいだに関係があることは明らかであるが,それは分野によって異なっているだけで なく,むしろ保守的な人のほうが肯定的な場合もあることがわかった. [キーワード] 政治的態度,科学の政治化,科学への信頼 1 問題 : 科学の政治化 ? これは会長講演なので,本来であれば数理社会学に関する格調高い議論をすべきところ であろうが,現在私が関心を持っている,科学と政治の関係について論じることをお許し 願いたい.数理社会学者に限らず,研究者であれば学問の自由が学問の発展にとって重要 な条件であることに異論ないだろう(Merton 1979).その一方で,多くの大学や研究所が 税金によって賄われていたり,少なくとも補助を受けている以上,学問の価値について政 府と納税者の理解と支持が不可欠であることもまた明らかである.しかし,残念ながらこ のような理解と支持は常に得られるものではない.米国では共和党が政権をとると科学 関連予算が削減されるという事態が何度か続いており(Gauchat 2015),さらに共和党の 支持層にとって不都合な研究に対する政府の介入も批判されている(Union of Concerned Scientists 2004).こういった状況は科学の政治化と呼ばれ,多くの研究者の関心をひいて いる.さいわい,日本ではここまで激しい介入は起きていないが,歴史修正主義や安保関 連法案の審議の過程を見ていると,あながち対岸の火事とも言い切れない,というのが私

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Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018

理論と方法 33巻1号 2018年 数理社会学会Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018Japanese Association for Mathematical Sociology

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会長講演

保守主義者は反学問的なのか:

政治と科学に関する意識調査より

太郎丸 博(京都大学)

[要約]日本において保守的な人ほど学問に対して否定的な態度をとりやすいのかどうかを検討

した.保守的な態度の指標として安倍内閣支持,保革自己イメージ,権威主義,排外意識の4 つを用い,学問に対する態度の指標として学問効用認知と環境学,医学,経済学,歴史学,憲法学に対する相対的な信頼度を用いた.分析の結果,ある程度は保守的であるほど学問に対して否定的になりやすい傾向が見られたが,一貫したものではなかった.権威主義の直接効果は存在せず,保革自己イメージは,中間が最も学問に否定的で,保守と革新の両方で肯定的になることもあった.排外意識が有意な効果を持ったのは,歴史学と憲法学に対する相対的な信頼度だけであった.安倍内閣支持は医学に対する相対的な信頼度以外では有意な効果を持ったが,学問効用認知をむしろ高めていた.以上から,政治的な態度と学問に対する支持のあいだに関係があることは明らかであるが,それは分野によって異なっているだけでなく,むしろ保守的な人のほうが肯定的な場合もあることがわかった.

[キーワード]政治的態度,科学の政治化,科学への信頼

1 問題 : 科学の政治化 ?

これは会長講演なので,本来であれば数理社会学に関する格調高い議論をすべきところであろうが,現在私が関心を持っている,科学と政治の関係について論じることをお許し願いたい.数理社会学者に限らず,研究者であれば学問の自由が学問の発展にとって重要な条件であることに異論ないだろう(Merton 1979).その一方で,多くの大学や研究所が税金によって賄われていたり,少なくとも補助を受けている以上,学問の価値について政府と納税者の理解と支持が不可欠であることもまた明らかである.しかし,残念ながらこのような理解と支持は常に得られるものではない.米国では共和党が政権をとると科学関連予算が削減されるという事態が何度か続いており(Gauchat 2015),さらに共和党の支持層にとって不都合な研究に対する政府の介入も批判されている(Union of Concerned Scientists 2004).こういった状況は科学の政治化と呼ばれ,多くの研究者の関心をひいている.さいわい,日本ではここまで激しい介入は起きていないが,歴史修正主義や安保関連法案の審議の過程を見ていると,あながち対岸の火事とも言い切れない,というのが私

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保守主義者は反学問的なのか

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の印象である.米国では,自分自身を「保守的」と考え,共和党を支持している人ほど科学の価値を

認めなかったり,科学者や大学を信頼しない,という研究結果が繰り返し得られており(Gauchat 2008; 2012; McCright et al. 2013),このような保守派の科学に対する不信感は,科学関連予算の削減を招く憂慮すべき事態となっている.それでは日本でも同じような事態が生じているのであろうか.これがこの小論で追及する問いである.もちろん,周知のように米国と日本では政治と科学をとりまく状況は大きく異なっているので,単純に米国の議論を日本に一般化することはできない.例えば共和党の支持基盤の中には,聖書の記述はすべて歴史的事実であると信じている人々がいるが,これらの人々は進化論やビッグバンの研究者たちと対立している(OʼBrien and Noy 2015).しかし,日本ではこれにそのまま対応するような対立はほとんど存在しない.また,地球温暖化やタバコの健康リスクに関する研究成果を全面否定するようなロビイストたちも,日本には存在しないと言っていいだろう.さらに,日本で科学に対して批判的な発言をしてきたのは,保守というよりは革新である.公害や原子力発電所に対する反対運動,科学的知識の社会学,科学・技術・社会論,等々の担い手は,右派ではなく左派というべきであろう(金森 2000).もちろん歴史修正主義や安保関連法案審議で学問と対立したのは,右派の人々であったが,右派の人々が批判したのは進化論や医学や環境学ではなく,歴史学や憲法学であった.こういった議論に鑑みれば,単純に米国の議論を日本に敷衍することはできない.

とはいえ,だからといって日本で特定の政治的態度をもった人々と学問が対立していないという保証はない.日本会議や新しい歴史教科書を考える会が歴史学に対して否定的であるのは明らかであるが(菅野 2016),保守的であるほど学問に対して否定的になる,といった線形の関係があるのかどうかは,こういった事例からはわからない.それゆえ,本稿では「保守的な人ほど学問を信頼していない」という仮説を検証する.以下では,歴史学や憲法学や医学,物理学 … といったあらゆる学問とその研究者を総称して「学問」,「研究者」「学者」と呼び,「科学」,「科学者」という言葉はいわゆる理系の学問とその研究者をさして使う.私は理系と文系をアプリオリにわけたり,自然科学と社会科学の相違を本質化したりするような議論に対して批判的であるが,先行研究の多くが「科学」に対する信頼を研究する際に,人文学や社会科学を対象として想定していないので,混乱を避けるためにこのような用語法を用いることにする.

2  理論2.1 米国での先行研究

米国では保守派が学問に否定的である理由に関連する研究の蓄積があり,それらをもとにいくつかの仮説が考えられる.第一の説は,認知能力(「頭の良さ」に概ね対応する概念)による疑似相関によって保守 vs リベラルといった態度と 1),学問に対する信頼や支持が相関しているとするものである.Kanazawa(2010) によれば,認知能力が高いほどリベラルになりやすい.なぜなら,認知能力が高いほど伝統や常識を批判的な観点から見ることが可能になり,それがリベラルな政治的態度につながる,というわけである.一方,認知能力が高いほど学問的知識が豊富で,そのような知識は学問への信頼や支持につながりやすい(Bak 2001)2).それゆえ,認知能力によって,保守かリベラルか,といった政治的態度と科学への信頼/支持が相関するということが考えられる.

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しかし一方で,OʼBrien and Noy(2015)によれば十分に科学的知識はあるが,信心深く進化論やビッグバンは否定するといった態度を持つ人々が一定の規模で存在しており,このような人々が最も保守的であるという.だとすれば,科学的知識と政治的保守性は米国でも同居しうるということになり,認知能力による疑似相関説は疑わしくなる.

認知能力や知識といった概念を導入しなくても,リベラルは科学/学問的知識にもとづく社会制度の改革といった考え方に親和的であるのに対して,保守は「伝統」的秩序の復権や維持を好むので,伝統と科学や学問が対立する場合は科学/学問に対して否定的になりやすい,といった理屈は成り立ち得よう.ただ,学問がリベラルにとって不都合な説を唱えることもあるし,日本の文脈で考えれば,保守は革新よりも経済成長を重視するので(蒲島・竹中 2012),経済成長と結びつきそうな学問に対してはむしろ保守のほうが肯定的であっても不思議はない.

また,米国では研究者はリベラルであるというイメージが映画やテレビのようなメディアによって確立されており,そのせいでリベラルな若者が研究者を志しやすく,保守と科学は対立しやすいといった説もある(Gross 2013).日本での研究者のパブリック・イメージが米国と類似しているのかどうかは不明であるが,これらの仮説は,日本にあてはまっていてもおかしくはない.

これまでは科学ないしは学問全体に対する不信や否定的な態度を問題にしてきたが,学問分野によって信頼される度合いが異なるということは当然考えられる.McCright et al.(2013) は科学を生産科学とインパクト科学に分類し,保守派が否定しているのはインパクト科学であって生産科学にはむしろ肯定的であると論じている.生産科学とは経済成長につながるような技術につながる科学のことであり,インパクト科学とは生産科学が生態系や人間自身に及ぼす影響を調べる科学のことである.資本家にとって生産科学は有益であるが,インパクト科学は不都合な存在なので,資本家の利益を代表することの多い保守は生産科学を肯定し,インパクト科学を否定するという.

2.2 日本的文脈上記のような研究は米国を中心に進められてきたため,日本にはそのままあてはまらな

い可能性がある.まず「学問」の分野によって信頼のあり方が異なりうるのは,日本でも米国でも同じであろうが,どのような分野が保守から不信感を持たれているかは,両国で異なるかもしれない.日本では文系の学問,特に近年保守派との対立が話題になった憲法学や歴史学,あるいはもっと広く人文学や社会科学系の学問に対する信頼が保守派の人々の間で低い可能性を検討する必要があろう.それゆえ,以下ではいくつかの学問分野に対する信頼を従属変数として別々に分析していく.

また,すでに述べたようにむしろ革新派のほうが科学に対して否定的である場合も考えられる.実際,世界価値観調査の結果からは有効なデータの得られた 49 か国平均では,むしろリベラルのほうが科学を信頼していない,という分析結果が示されている(Price and Peterson 2016).つまり,米国の状況が特殊という可能性も考えられる.さらに,保守 vs リベラル,あるいは保守 vs 革新,といった概念はあいまいで,人によって取り方は様々である.先行研究では後で述べるような自分自身がどの程度「保守」あるいは「革新」なのか判断してもらった結果(保革自己イメージと呼ぶ)がしばしば用いられているが,そのような尺度の妥当性を批判することは容易である(Gauchat 2015).それゆえ,本稿では保守的態度を多元的なものとみなし,保革自己イメージの他に,安倍内閣の支持度,権威主義,排外意識も保守的態度の指標として用いることにする.

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3 データデータは 政治と科学に関する意識(Political Identity and Attitudes toward Sciences: PIAS)

調査の結果である.この調査は 2016 年 2 月 8 ~ 10 日におこなわれた.サンプルは,インターネット・モニターから無作為抽出された 20 ~ 69 歳の男女である.ただし,性別と年齢は総務省による 2015 年 10 月 1 日の人口推計に近似するように割り当て,学歴は 2010年の国勢調査の分布に近似するように割り当てた.有効サンプル・サイズは 1752 で,回収率は 29.7% であった.

3.1 従属変数従属変数は,学問効用認知と相対的学者信頼度という私が作った指標群である.学問効

用認知は先行研究でも用いられている尺度に近いもので,「科学技術のおかげで,新しい世代はより豊かな選択肢を得ることができる」「学校で日本史や世界史を学ぶことで,私たちの文化はより豊かになっている」「未知の領域を切り開く科学の研究は,すぐに利益を生み出さなくても,政府が支援するべきだ」という意見に対する賛否を 7 点尺度で尋ねたもの(-3 ~ 3 の整数をとる)を単純に加算したものである(-9 ~ 9 の整数をとる).項目間の相関は順に組み合わせると 0.37, 0.53, 0.46 で,クロンバックのアルファは 0.71 である.この指標は学問の効用を認め,政府による学問の支持を肯定する態度であると考えられる.文系か理系かによって支持の程度が異なることも予想されたが,あとでも確認するように,理系の学問を支持する人ほど文系の学問も支持しやすいという関係が見られるため,あわせて一つの尺度とした.このような関係は学生を対象としたパイロット調査でも確認されている.

2 つ目の従属変数である相対的学者信頼度とは,学者に対する信頼度から国会議員に対する信頼度とマスコミ関係者に対する信頼度の平均値をひいたものである(信頼度はいずれも 5 点尺度).すなわち,

相対的学者信頼度 = 学者信頼度 − 議員信頼度 + マスコミ信頼度2

(1)

である.学者に対する信頼度と議員,マスコミに対する信頼度の平均値が等しいときに,相対的学者信頼度はゼロをとり,最大で 4,最小で -4 の値をとりうる.

このような尺度を作った理由は,一般的信頼感の影響を排除し,学問以外の権威と比較したときの学問の信頼度を測るためである.このような相対的学者信頼度を,環境学,医学,経済学,歴史学,憲法学の 5 分野に関してそれぞれ作った.学者,議員,マスコミの信頼度は以下のようなワーディングで尋ねた.「以下に挙げる人びとが,地球温暖化の原因について見解を表明したとして,あなたはそれをどれくらい信頼しますか.」と尋ね,「環境学者」「国会議員」「マスコミ関係者」に関して 5 段階で信頼度を答えてもらう.表 1 のように以下同様にあわせて 5 つの分野に関して答えてもらっている.

すなわち,5 つの学問的なイシューに関して,3 つの対象をどの程度信頼するか尋ねている.これら 15 の信頼度変数から 5 つの相対的学者信頼度尺度を作る.これら 15 変数の相関行列は割愛するが,これらの相関係数の最小値,第一,第二,第三四分位点および最大値はそれぞれ,0.19, 0.32, 0.42, 0.58, 0.75 であった.

また,5 つの相対的学者信頼度と学問支持度の相関係数と記述統計は,表 2 の通りで

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理論と方法

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あった.学問効用認知と相対的学者信頼度のあいだには弱い相関があり,相対的学者信頼度のあいだにはそれよりも強い相関がある.特に理系どうし,文系どうしで強い相関があるとは言えないのがわかるだろう.

6 つの指標の平均値はすべて正の値である.学問効用認知は 3 つの測定項目すべてに「どちらともいえない」としたときにゼロになるように作ってあるので,それよりも若干科学に肯定的な結果である.相対的学者信頼度も,学者に対する信頼度と議員とマスコミの平均信頼度が等しい時ときにゼロになるように作ってあるので,学者に対する信頼度のほうが 0.7 ~ 1.1 高いことを示している.相対的学者信頼度の平均値の差を検定すると,歴史学と憲法学の差は有意ではないが,それ以外の組み合わせではすべて 0.1% 水準で有意差があった.つまり,医学の相対的信頼度がもっとも高く経済学のそれがもっとも低いといってよい.

3.2 独立変数保守主義の指標は,安倍内閣支持度,保革自己イメージ,権威主義,排外意識であり,

ワーディングは表 3 の通りである.これらの指標間の相関係数と記述統計を示したのが表 4 である.保守主義の指標のあい

だには多少の相関があるが,一つの指標にまとめられるほどの強い相関はないことがわかる.なお,分析では保革自己イメージと排外意識の二乗項もモデルに投入している.これは予備的分析でいくつかの従属変数に関してこれらの二乗項が有意になることがわかった

表 1 相対的学者信頼度の質問項目質問文 信頼の対象以下に挙げる人びとが,地球温暖化の原因について見解を表明したとして,あなたはそれをどれくらい信頼しますか 環境学者,国会議員,マスコミ関係者

以下に挙げる人びとが,iPS細胞の研究の動向や意義について発言したとして,(以下同文) 医学研究者,国会議員,マスコミ関係者

以下に挙げる人びとが,景気対策について見解を表明したとして,(以下同文) 経済学者,国会議員,マスコミ関係者

以下に挙げる人びとが,太平洋戦争中の日本軍の行為について見解を表明したとして,(以下同文) 大学の歴史学者,国会議員,マスコミ関係者

以下に挙げる人びとが,憲法の解釈について見解を表明したとして,(以下同文) 憲法学者,国会議員,マスコミ関係者

表 2 学問効用認知と 5分野の相対的学者信頼度の相関係数学問効用認知 環境学 医学 経済学 歴史学 憲法学

学問効用認知 0.25 0.28 0.19 0.23 0.22

環境学 0.25 0.58 0.50 0.53 0.54

医学 0.28 0.58 0.44 0.52 0.47

経済学 0.19 0.50 0.44 0.48 0.46

歴史学 0.23 0.53 0.52 0.48 0.56

憲法学 0.22 0.54 0.47 0.46 0.56

最小値 -9.00 -2.00 -2.00 -2.50 -2.00 -2.00

平均値 2.71 1.03 1.11 0.69 0.81 0.77

最大値 9.00 4.00 4.00 4.00 4.00 4.00

標準偏差 3.05 1.00 1.04 0.86 0.91 0.97

(注)相関係数はすべて 0.1% 水準で有意.

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保守主義者は反学問的なのか

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からである.理論的に考えても特に線形の関係を積極的に仮定する必要はないだろう.

3.3 統制変数統制変数として男性ダミー,年齢,教育年数,従業上の地位,在学中ダミー,相対的は

く奪度,理科知識,社会科知識,中間回答選好を用いる.従業上の地位は,自営(農業を含む自営業主,家族従業者,内職,経営者・役員),正規雇用,非正規雇用(臨時雇用・パート・アルバイト,契約・嘱託社員,派遣社員),無職の 4 つに分類した.在学中の人は学問に接する機会が多く,相対的学者信頼度が高くなると考えられる.

相対的はく奪度とは,以下の 4 変数を単純加算したものである(α = 0.83).「過去 1 年間の間にあなたご自身あるいはあなたのご家族は,どのぐらいの頻度で次のような状況に置かれましたか.」【十分な食料・飲料がない】【家にいて,犯罪に巻き込まれる恐れを感じる】【必要な薬や治療を受けられない】【現金収入がない】のそれぞれにかんして 3 = 頻繁にあった ~ 0 = 全くなかった,までの 4 択で答えてもらっている.先行研究では科学の恩恵にあずかれない人々のほうが科学を支持しにくいという可能性が示唆されていたのでこのような統制変数を用いた(Bak 2001).個人収入と世帯収入も予備的分析では統制変数としてモデルに投入したが,相対的はく奪度を統制すると有意にならないので,分析

表 3 保守主義の指標尺度 質問文 選択肢

安倍内閣支持度 あなたは安倍内閣を支持していますか 4 = かなり支持している ~ 1 = 支持していない,までの 4 択

保革自己イメージ

政治的立場を表わすのに保守的や革新的などという言葉が使われます.0 を「革新的」,10 を「保守的」とすると,あなたの政治的立場は,どこにあたりますか.0 から 10 までの数字でお答えください.

0 = 革新的 ~ 10 = 保守的,までの 11 択.

権威主義α = 0.73

「権威のある人々にはつねに敬意をはらわなければならない」「以前からなされてきたやり方を守ることが,最上の結果を生む」「伝統や慣習にしたがったやり方に疑問をもつ人は,結局は問題をひきおこすことになる」への賛否を単純加算

5 = そう思う~ 1 = そう思わない,までの 5 択

排外意識α = 0.88

「次にあげる国の人が増えれば,犯罪発生率が高くなる」と「次にあげる国の人は,日本人から仕事を奪っている」という意見に対する賛否を,中国,韓国,ブラジル,アメリカに関して尋ねたものの単純加算

5 = そう思う ~ 1 = そう思わない,までの 5 択

表 4 保守主義の指標の相関係数と記述統計

安倍内閣支持 保革自己イメージ 権威主義 排外意識

安倍内閣支持 0.32 0.16 0.08

保革自己イメージ 0.32 0.16 0.09

権威主義 0.16 0.16 0.23

排外意識 0.08 0.09 0.23

最小値 -1.50 -5.00 -6.00 -16.00

平均値 -0.31 0.18 -0.96 0.73

最大値 1.50 5.00 6.00 16.00

標準偏差 0.94 1.77 2.20 6.35

(注)相関係数はすべて 1% 水準で有意,変数はすべて測定項目で真ん中の選択肢を選だときゼロになるようにセンタリング.

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理論と方法

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から除外している.理科知識は,13 問の理科や確率に関する問題の正答数(α = 0.79),社会知識は社会に

関する 7 問の問題の正答数である(α = 0.78).回帰分析ではこれに 0.5 を足して対数変換してある.問題の詳細は山本他(2018)を参照されたい. これらの変数の記述統計は表 5のとおりである.

3.4 中間回答選好統制変数として,中間回答選好を投入する.中間回答選好とは私が作った用語で,3 つ

以上の選択肢を提示されたとき,真ん中の回答を好む程度のことである.日本人が選択肢の両端を避け,中間的な回答を好む傾向はよく知られているが(林 1996),その程度には個人差がある.科学に対して同じように信頼している人々がいたとしても,中間回答選好が強い人はそのような信頼をはっきり表明するのを避けるのに対して,中間回答選好が弱い人は,はっきりと「信頼する」という選択肢を選ぶだろう.科学への信頼のように全体の平均値が「どちらともいえない」のような中間回答から離れている場合,中間回答選好の強い人は,全体の平均よりも中間回答よりの回答をするはずである.こういった現象は意識間の関係の推定に無視しえない影響を及ぼす.中間回答選好を統制できればこのようなバイアスは緩和できるはずである.

中間回答選好は,以下のように測定している.16 の政策に対する賛否を 0 ~ 10 の 11択で尋ねた質問項目を用いる.個人 i の j 番目の質問に対する回答を zij ,個人 i の中間回答選好をmi =10−

j=116 (zij −5)

2∑16とすると,

mi =10−j=116 (zij −5)

2∑16

と操作化している.右辺の二番目の項は標準偏差とよく似ているが,平均からの偏差をとるのではなく,真ん中の選択肢である 5 からの偏差をとっているという点が異なる.また,これは個人間のバラツキではなく,個人内の中間回答からの平均的な離れ具合を見ているという点が標準偏差とは異なる.この平均偏差の平方根に-1 をかけることで,数値が大きくなるほど中間回答選好が強くなるようにし,10 を足すことで最小値がゼロより大きくなるようにしているが,10 という数字に意味はなく,何も足さなくても回帰分析の結

表 5 コントロール変数の記述統計最小値 平均値 最大値 標準偏差

男性ダミー 0 0.50 1 0.50

年齢 20 46.01 69 13.92

教育年数 9 13.52 18 2.39

在学中ダミー 0 0.04 1 0.20

相対的はく奪 0 1.58 12 2.39

理科知識 0 5.81 13 3.08

社会知識 0 3.85 7 2.23

自営(基準カテゴリ) 0 0.14 1 0.34

正規雇用 0 0.30 1 0.46

非正規雇用 0 0.23 1 0.42

無職 0 0.32 1 0.47

中間回答選好 5 7.65 10 1.30

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保守主義者は反学問的なのか

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果は切片が変わるだけで,その他の係数の推定値には影響しない.zij にあたる変数は従属変数と実質的に関係なく,相関も低いほうがよいが,今回用いる

16 の変数と 6 つの従属変数との相関係数の絶対値は最大で 0.29,平均で 0.1 であった.一方,中間回答選好と 6 つの従属変数との相関係数は,

表 6 学問効用認知と環境学・医学の相対的学者信頼度の回帰分析(OLS)学問効用認知 環境学 医学

モデル 1 モデル 2 モデル 1 モデル 2 モデル 1 モデル 2

(Intercept) 7.18 *** 5.42 *** 2.56 *** 1.91 *** 2.78 *** 2.14 ***

(0.80) (0.82) (0.27) (0.27) (0.27) (0.28)

男性ダミー (0.14) (0.34)* (0.23)*** (0.25)*** (0.14)** (0.18)***

(0.15) (0.15) (0.05) (0.05) (0.05) (0.05)

年齢 0.02 ** 0.01 0.00 0.00 0.01 ** 0.00

(0.01) (0.01) 0.00 0.00 0.00 0.00

教育年数 0.07 * 0.00 0.02 * 0.01 0.02 0.00

(0.03) (0.03) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

在学中ダミー 0.27 0.09 0.06 0.03 0.43 ** 0.39 **

(0.40) (0.39) (0.13) (0.13) (0.13) (0.13)

相対的はく奪 (0.07)* (0.05) (0.05)*** (0.05)*** (0.05)*** (0.05)***

(0.03) (0.03) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

正規 (0.10) (0.10) 0.12 0.12 0.12 0.11

(基準:自営) (0.22) (0.22) (0.07) (0.07) (0.08) (0.07)

非正規 0.24 0.17 0.21 ** 0.18 * 0.23 ** 0.20 *

(0.23) (0.23) (0.08) (0.08) (0.08) (0.08)

無職 0.19 0.14 0.15 0.12 0.09 0.07

(0.23) (0.22) (0.08) (0.07) (0.08) (0.08)

安倍内閣支持 0.35 *** 0.20 ** (0.09)*** (0.12)*** 0.02 (0.02)

(0.08) (0.08) (0.03) (0.03) (0.03) (0.03)

保革自己 0.00 0.01 (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

イメージ (0.04) (0.04) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

保革イメージ 0.03 ** 0.04 ** 0.00 0.01 0.00 0.00

二乗 (0.01) (0.01) 0.00 0.00 0.00 0.00

権威主義 (0.01) 0.02 (0.03)* (0.02) (0.03)* (0.02)

(0.03) (0.03) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

排外意識 0.02 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00

(0.01) (0.01) 0.00 0.00 0.00 0.00

排外意識二乗 0.00 * 0.00 0.00 * 0.00 0.00 * 0.00

0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

中間回答選好 (0.79)*** (0.57)*** (0.23)*** (0.16)*** (0.28)*** (0.20)***

(0.06) (0.06) (0.02) (0.02) (0.02) (0.02)

log 理科知識 0.50 *** 0.24 *** 0.22 ***

(0.10) (0.03) (0.03)

log 社会知識 0.54 *** 0.00 0.09 **

(0.10) (0.03) (0.04)

R2 0.17 0.21 0.15 0.18 0.17 0.21

N 1752 1752 1752 1752 1752 1752

(注)*** p < 0.001, ** p < 0.01, * p < 0.05.

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理論と方法

Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018

学問効用認知 環境学 医学 経済学 歴史学 憲法学-0.37 -0.31 -0.36 -0.22 -0.27 -0.27

でもとの 16 変数よりもずっと強く科学効用認知と相関しているのがわかるだろう.

表 7 経済学・歴史学・憲法学の相対的学者信頼度の回帰分析(OLS)経済学 歴史学 憲法学

モデル 1 モデル 2 モデル 1 モデル 2 モデル 1 モデル 2

(Intercept) 1.55 *** 1.13 *** 1.80 *** 1.29 *** 1.65 *** 1.14 ***

(0.24) (0.25) (0.25) (0.25) (0.25) (0.26)

男性ダミー (0.16)*** (0.17)*** (0.11)* (0.15)** (0.16)*** (0.19)***

(0.04) (0.04) (0.05) (0.05) (0.05) (0.05)

年齢 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 ** 0.00

0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

教育年数 0.02 0.01 0.02 * 0.00 0.03 *** 0.02

(0.01) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

在学中ダミー 0.22 0.21 0.25 * 0.21 0.28 * 0.25 *

(0.12) (0.12) (0.12) (0.12) (0.13) (0.12)

相対的はく奪 (0.02)** (0.02)* (0.03)*** (0.03)** (0.03)*** (0.03)**

(0.01) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

正規 0.15 * 0.14 * 0.09 0.08 0.09 0.09

(基準:自営 ) (0.07) (0.07) (0.07) (0.07) (0.07) (0.07)

非正規 0.19 ** 0.17 * 0.07 0.04 0.07 0.05

(0.07) (0.07) (0.07) (0.07) (0.07) (0.07)

無職 0.14 * 0.12 0.08 0.06 0.06 0.04

(0.07) (0.07) (0.07) (0.07) (0.07) (0.07)

安倍内閣支持 (0.08)*** (0.10)*** (0.11)*** (0.14)*** (0.21)*** (0.24)***

(0.02) (0.02) (0.02) (0.02) (0.02) (0.02)

保革自己 (0.02) (0.02) (0.01) (0.01) (0.05)*** (0.04)***

イメージ (0.01) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

保革イメージ 0.01 0.01 * 0.01 0.01 0.01 0.01

二乗 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

権威主義 0.00 0.00 (0.01) 0.00 (0.02) (0.01)

(0.01) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01) (0.01)

排外意識 0.00 0.00 (0.01)* (0.01)** (0.01)** -0.01**

0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

排外意識二乗 0.00 * 0.00 0.00 ** 0.00 * 0.00 ** 0.00 *

0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

中間回答選好 (0.15)*** (0.10)*** (0.18)*** (0.12)*** (0.20)*** (0.14)***

(0.02) (0.02) (0.02) (0.02) (0.02) (0.02)

log 理科知識 0.16 *** 0.16 *** 0.18 ***

(0.03) (0.03) (0.03)

log 社会知識 0.00 0.09 ** 0.06

(0.03) (0.03) (0.03)

R2 0.08 0.10 0.11 0.14 0.17 0.20

N 1752 1752 1752 1752 1752 1752

(注)*** p < 0.001, ** p < 0.01, * p < 0.05.

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保守主義者は反学問的なのか

Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018

4 分析結果回帰分析の結果が表 6 と表 7 である.保守的態度と科学に対する肯定的な態度の間の関

連が知識による疑似相関である可能性を調べるため,理科知識と社会知識を投入していないモデル 1 とそれらを投入したモデル 2 を推定している.まず学問効用認知に対する保守的な態度の影響を見てみよう.安倍内閣支持が正の有意な効果を示している一方で,保革自己イメージの二乗の係数は正で有意である.つまり,真ん中あたりで科学効用認知が低く,保守と革新の両方で高いという結果である.統制変数の効果は男性のほうが,そして中間回答選好が強いほうが科学効用認知が低く,理科と社会の知識があるほど高い.

理科と社会の知識をモデルに投入することで,係数の絶対値に減少が見られるのは,安倍内閣支持と排外意識の二乗だけである(曲線的効果の詳細は図 1 を参照).そもそも予測とは反対に安倍内閣を支持しているほど科学効用認知が高く,排外意識も予測とは異なる曲線的効果でしかも排外意識の係数はプラスであるから,排外意識が強いほど科学効用認知が高いという,やはり予測とはむしろ反対の分析結果である.総じて,知識による疑似相関という当初の仮説は支持できない.

次に 5 分野の相対的学者信頼度に対する保守的な態度の効果を見てみよう.統制変数の効果は,学問効用認知の場合とよく似ているが,相対的はく奪の効果がすべて有意であるという点,そして在学中ダミーが医学と憲法学で有意であるという点,社会知識が環境学,経済学,憲法学で有意になっていない点は異なっている.また,正規雇用や非正規雇用の効果がいくつか正の有意な値を示している点も異なる.ただ,これらの相違も係数の差はわずかで,それほど顕著な違いとはいいがたい.

保守的な態度の効果を見ると,安倍内閣支持が経済学以外ですべてマイナスの有意な値を示している.保革自己イメージは憲法学でだけ有意であり,その二乗は経済学で有意であった(図 1 も参照).権威主義はモデル 1 では環境学と医学で有意であったが,モデル2 ではすべて有意ではない.排外意識と排外意識の二乗が,歴史学と憲法学で有意であった.これらの効果は図 1 に図示したとおり,真ん中あたりまでは排外意識の高まりは相対的学者信頼度に影響をほとんど及ぼさないが,さらに排外意識の高い層では信頼度が低下すると推定されている.

5 議論以上の分析結果から,日本において保守的であるほど反学問的であると言えるだろうか.

ある程度はそのような傾向が見られるが,現実はこの仮説よりも複雑なようである.確かに安倍内閣を支持しているほど,そして排外意識が強いほど相対的学者信頼度が低い傾向が見られたが,すべての分野というわけではない.学問効用認知に関しては安倍内閣支持がむしろプラスの効果を示している.つまり,日本では保守派のほうが積極的に学問の効用を認めているということになる.また,保革自己イメージの二乗が正の効果を持っており,保革の両端で学問効用認知が高い.つまり,この指標に関してはむしろ保守派のほうが科学に対して否定的とは到底いえない.これは日本の革新派の科学/学問に対する不信感を反映しているということなのかもしれない.

医学に対する相対的学者信頼度には,保守的態度がどれも影響しておらず,その平均値も 5 分野中で最大であったことから,保守と革新をとわず高い信頼を得ていることがわかる.逆に憲法学には権威主義以外の保守的態度の効果が見られ,概ね仮説通りの結果と

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理論と方法

Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018

いえる.調査が行われたのは,安保関連法案の成立から約 1 年後であり,まだその時のイメージが残っている人が多かったのかもしれない.歴史学も憲法学ほどではないが,安倍内閣支持と排外意識の有意な効果が見られ,概ね仮説と整合的である.当初は文系と理系で保守的態度の効果が違うのではないかという可能性も考えられたが,分析結果を見る限りは,文系か理系かということよりもメディアでいつどのように取り上げられたか,といったことがらのほうが,相対的学者信頼度には影響がありそうである.

先行研究からは,学問に関する知識が科学に対する信頼と保守的態度の相関を生み出している可能性が示唆されたが,そのような仮説と整合的な結果が得られたのは,権威主義が環境学や医学の相対的学者信頼度に及ぼす影響だけであった.これは中間回答選好の統制が十分ではないからかもしれないが(中間回答選好の強い人ほど「わからない」を選択しやすいので知識が少ないことになる),この点についてはさらに検討が必要であろう.

統制変数の効果で特に印象的であったのは,相対的はく奪のそれである.相対的学者信頼度に対して一貫して負の効果を示しており,困窮している人たちに私たちはあまり信頼してもらえていないということを意味する.学問とは,困窮しているかどうかに関係なく,すべての人にとって意味のある知識を提供してくれるはずのものであるが,現実には困窮している人々にはあまり恩恵を与えられていないということなのかもしれない.

以上のような結果は,インターネット調査から得られたもので,代表性が十分に高いとは言えないし,相対的学者信頼度,中間回答選好といった尺度についても,今後検討の余地がある.しかし,暫定的にではあるが,今回の分析結果からは,学問への信頼や支持は,人々の政治的な態度と関連しているということが言える.これは学問的な知識では説明がつかない現象である.特に安倍内閣支持者の間で相対的学者信頼度が低いという事実は,日本での今後の学問の発展を考えれば,決して良いニュースとは言えない.どうすれば学問に対する信頼と支持を高めていくことができるのか,さらに研究を進めていく必要があろう.

図 1 保革自己イメージと排外意識の曲線的効果(モデル 2 からの予測値)(注)図中の予測値は最小値がゼロになるように標準化してある.

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保守主義者は反学問的なのか

Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018 Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018

[注]1) 米国では保守の対義語はリベラルだが,日本では革新である.さらに右派,左派,右翼,左翼といっ

た用語もあり,これらの意味はある程度異なっているといわれている.しかし,この論文ではそういった区別はせずに同じ意味で用いている.

2) 先行研究では科学や確率論に関する知識があるほど科学を支持しやすいという傾向が確認されているだけで,社会科学や人文学でも同様の傾向があるかどうかは確認されてはいない.

[文献]Bak, H.-J., 2001, “Education and Public Attitudes toward Science: Implications for the ”Deficit Model” of Education

and Support for Science and Technology,” Social Science Quarterly, 82(4): 779–95.Gauchat, G. W., 2008, “A Test of Three Theories of Anti-Science Attitudes,” Sociological Focus, 41(4): 337–57.Gauchat, G. W., 2012, “Politicization of Science in the Public Sphere: A Study of Public Trust in the United States,

1974 to 2010,” American Sociological Review, 77(2): 167–87.Gauchat, G. W., 2015, “The Political Context of Science in the United States: Public Acceptance of Evidence- Based

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Use, Trust in Scientists, and Perceptions of Global Warming,” Public Understanding of Science, 23(7): 866–83.蒲島郁夫・竹中佳彦, 2012, 『現代政治学叢書 8: イデオロギー』東京大学出版会.金森修, 2000, 『サイエンス・ウォーズ』東京大学出版会.Kanazawa, S., 2010, “Why Liberals and Atheists Are More Intelligent,” Social Psychology Quarterly,73(1): 33–57.McCright, A. M., K. Dentzman, M. Charters, & T. Dietz, 2013, “The Influence of Political Ideology on Trust in

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Administration’s Misuse of Science.山本耕平・池田裕・荻原宏章・藤田智博・太郎丸博, 2018, 『政治と科学に関する意識調査コードブック』,

京都大学, (2018年3月9日取得,http://hdl.handle.net/2433/229505).

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理論と方法

Sociological Theory and Methods Vol.33 No.1 2018

Presidential Address

The Influence of Political Attitudes on Trust in Sciences and Humanities

Hiroshi Tarohmaru (Kyoto University)

Abstract

This paper examines the effects of conservative political ideologies on attitudes to sciences and humanities

in Japan. As the conservativeness is multidimensional, we measure it with four scales: self identification

with liberal/conservative, support for a coservative regime (Abe cabinet), authoritarian attitudes, and

chauvinism. The attitudes to sciences and humanities are measured with six scales: recognition of utility

coming from sciences and humanities and relative trust on ecologists, life scientists, economists, historians,

and scholars of constitutional law. The results show the tendencies that the more conservative are, the more

negative to sciences and humanities, while several exceptions are observed. Conservative recognize more

utility of sciences and humanities than liberal, and conservative trust life scientists as much as liberal.

Keywords

political attitudes, politicization of sciences, trust in sciences

太郎丸 博(たろうまる ひろし).京都大学文学系(文学研究科) 教授.〒606-8501 京都市左京区吉田本町.[email protected].研究関心:社会階層論,科学社会学,社会学方法論.