63
Vol.43 No.3 2018 (通巻 148 号) ISSN 2424-1083

Vol.43 No.3 2018 (通巻148号)tenbou.nies.go.jp/science/institute/region/journal/JELA... · 2018. 12. 9. · 巻頭言 長崎県環境保健研究センター所長 古 賀 浩 光

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Vol.43 No.3 2018 (通巻 148 号)

ISSN 2424-1083

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目 次

[巻頭言]

豪雨災害で思うことと大村湾に関する最近の話題 ……………………………………… 古賀浩光/ 1

[特 集/第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)]

はじめに / 2

1.調査目的 / 3

2.調査内容 / 5

2.1 調査概要/2.2 調査方法

3.気象概況および大気汚染物質排出量の状況 / 9

3.1 気象概況/3.2 SO2,NOXなどの排出量のトレンドと分布

4.湿性沈着 / 12

4.1 データの精度/4.2 ECおよびイオン成分濃度/4.3 イオン成分湿性沈着量/

4.4 高濃度現象について

5.乾性沈着(フィルターパック法) / 22

5.1 データ確定/5.2 大気中のガス状および粒子状成分濃度/5.3 乾性沈着量の推計

6.パッシブ法によるガス成分濃度 / 39

6.1 経緯/6.2 測定結果

7.まとめ / 42

7.1 湿性沈着/7.2 FP法によるガス状およびエアロゾル濃度/7.3 乾性沈着量/

7.4 ガス成分濃度(パッシブ法)

………………………… 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部会

岩崎 綾,久恒邦裕,堀江洋佑,西山 亨,宮野高光,北岡宏道,

木戸瑞佳,濱村研吾,三田村徳子,山口高志,横山新紀,佐藤由美,

松本利恵,山添良太,家合浩明,仲井哲也,宇野克之,紺田明宏

[報 文]

三波長紫外線吸光光度法による河川水中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の簡易定量

…………………………………………………………… 小澤秀明 ・川村 實/ 43

大村湾におけるアサリ生息場適性評価モデルの構築

………………………………………………………………………… 粕谷智之/ 48

2017年11月28日から29日におけるPM2.5高濃度事例について

………………………… 髙山賢太郎 ・村岡 悟 ・逸見祐樹 ・成田弥生 / 53

支部だより=東海・近畿・北陸支部/ 59,「全国環境研会誌」編集後記/ 60

第 43 巻 第 3 号(通巻 第 148号)

2018 年

季刊全国環境研会誌

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C O N T E N T S

Acid Deposition Survey in Japan, Phase 6 (2016) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Environmental Laboratories Association / 2 Simple Determination of Nitrate- and Nitrite-nitrogen in River Water by Three-wavelength UV

Spectrophotometry ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Hideaki OZAWA,Minoru KAWAMURA / 43

A Habitat Suitability Index Model for the clam Ruditapes philippinarum in Omura Bay, Nagasaki ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Tomoyuki KASUYA / 48

PM2.5 High Concentration Event from Novenber 28 to Novenber 29 in 2017

・・・・・ Kentaro TAKAYAMA,Satoru MURAOKA ,Yuki HENMI,Yayoi NARITA / 53

JOURNAL OF ENVIRONMENTAL LABORATORIES ASSOCIATION

Vol.43 No.3(2018)

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◆巻頭言◆ 長崎県環境保健研究センター所長 古 賀 浩 光

78

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 1

◆巻 頭 言◆

豪雨災害で思うことと大村湾に関する最近の話題

長崎県環境保健研究センター所長 古 賀 浩 光

長崎県環境保健研究センターは平成29年から全環研協

議会九州支部長を勤めておりますが,本年4月から前任者

から支部長の任を引き継ぎました。本協議会の活動が充

実するようがんばって参りますので,皆様どうかご指導,

ご協力のほどよろしくお願いいたします。

さて,7月6日から7日にかけて西日本を中心とした大規

模な豪雨災害が発生し,200名を超える方が亡くなられる

というたいへん痛ましい災害が発生しました。亡くなら

れた方々のご冥福をお祈りするとともに,被災された皆

様に対し,心よりお見舞い申し上げます。

ちょうど1年前,福岡県と大分県を中心に被害をもたら

した九州北部豪雨がまだ記憶に新しいところです。

地球の温暖化がベースにあると思われますが,近年,

こういった集中豪雨による災害が頻発するようになり,

そのたびに人的被害,住居や工場などの被災,災害廃棄

物の大量発生など,その社会的影響は計り知れません。

しかも今年は豪雨の後,地域によっては摂氏40度を超

えるような全国的な猛暑となり,1万名を超える方が救急

車で搬送され,熱中症で亡くなられた方は100名に届く勢

いだと報道されています。

地球温暖化の影響は,今後,頻度・規模ともに大きく

なると予想されており,気候変動に対する備えは待った

なしで,日本においても,いわゆる「気候変動適応法」

が今年6月に国会で可決,公布されたところです。

地方環境研究所としても,国や県の機関と協力し,海

水温,野生生物などに関する情報収集などから取り組み

が始まると思われます。今後,国際的な総合的な取り組

みが実を結んで,気候変動の影響が最小限に抑えられて

ほしいと思います。

さて,ここからは話題を変え,せっかくの機会ですの

で当センターで行っている研究について少し書いてみた

いと思います。

大村湾は県の中央部にある閉鎖性水域で,沿岸の人口

も多いことから,以前から水質が問題になっており,当

センターでは,長崎大学と共同研究を行うなど研究を進

めてきました。

近年は下水道と合併浄化槽の普及等の対策が実を結ん

で,COD,全リン,全窒素等,環境基準近くまで下がりつ

つありますが,海水の交換が悪い湾奥部は,水質が悪化

しやすい状況です。

水質浄化の取り組みのひとつとして,平成19年ごろか

ら二枚貝による水質浄化の研究を行ってきました。

研究の結果,二枚貝の浮遊幼生が集まりやすい海岸の

ひとつに湾中央の大村市周辺海岸があることがわかり,

大村湾の水質浄化を目的に,産業廃棄物税を活用し,海

上空港である大村空港の対岸にリサイクル品であるガラ

ス砂による約1haの浅場(人工砂浜)を造成する工事が平

成28年6月に完成しました。

砂は,県内の家庭から出された空瓶などを粉砕し,鋭

い破断面を丸く加工したリサイクル品ですので白(透明),

茶,緑など色とりどりです。

ガラスの砂が小さなシーグラスのようでロマンチック

という情報が若者を中心にネットで拡散したため,海岸

を訪れる人も多く,今年5月以降,新聞やテレビで取り上

げられ,大村湾の水質浄化や,当センターの研究につい

ての思わぬ広報効果がありました。

当センターでは浅場造成後は二枚貝であるアサリの生

息数の確認を行っており,詳細は本誌掲載の報文をご覧

ください。

今後の課題は,浅場で成長したアサリをどう活用する

かです。せっかくアサリが育っても,そのアサリを大村

湾の生態系の一部として循環させなければ水質浄化につ

ながりません。味噌汁用など生鮮品としては無理として

も,せめて佃煮など加工食品用として大村湾の特産品に

なればいいのですが・・・

本稿では地方環境研究機関の取り組みの一例として大

村湾の事例をご紹介しましたが,大村湾に限っても湾奥

部の汚濁や,夏場における貧酸素水塊の発生など未解決

の問題がまだ残っております。今回の事例などを通じ,

住民の環境への関心を深め,一層の水質の改善につなが

ればと願っております。

当研究センターは行政の施策を支援するための研究機

関ですので,今後ともやっている研究がどう事業や施策

に展開できるかを念頭に置きながら,今後も研究を展開

していかねばと考えております。

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 2

<特 集>

第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部会

岩崎綾,久恒邦裕,堀江洋佑,西山亨,宮野高光,北岡宏道,木戸瑞佳,濱村研吾,三田村徳子, 山口高志,横山新紀,佐藤由美,松本利恵,山添良太,家合浩明,仲井哲也,宇野克之,紺田明宏

は じ め に

全国環境研協議会による酸性雨全国調査は1991年度か

らの第1次調査に始まり,現在2016年度からの第6次調査

を実施しています。

当報告書では、第6次調査の初年度である2016年度の調

査結果を報告します。

この間の調査を振り返ると,第1次調査(1991~1993

年度)では,ろ過式採取法(バルク)による調査を行い,

全国的な降水の酸性化を明らかにしました。

第2次調査(1995~1997年度)では,夏季および冬季に

日単位調査や流跡線解析を行いました。この結果,冬季

に日本海側で沈着量が多く,硫酸イオンを多く含む気塊

が中国や朝鮮半島を通過していたこと,カルシウムイオ

ンを多く含む気塊は,モンゴルや中国北東部を起源とす

る場合が多かったことなどを明らかにし,酸性物質の移

流の可能性が示唆されました。

第3次調査(1999~2001年度)では,湿性沈着(降水時

開放型捕集装置法)に加えて,乾性沈着を把握するため

に,4段ろ紙法(フィルターパック法)によるガス・エア

ロゾル調査を実施しました。この結果,都市部における

酸性雨の状況,硫黄酸化物や窒素酸化物の地域特性,さ

らに大気中のガス成分,粒子状成分について全国的な濃

度分布とその季節変化を明らかにするとともに,乾性沈

着量の推定を行いました。

第4次調査(2003~2008年度)では,乾性沈着量の空間

分布について,より正確に把握するために,フィルター

パック法では測定できない窒素酸化物やオゾン濃度等が

測定可能であるパッシブ法を導入しました。また,乾性

沈着速度を算出するプログラムを共同開発し,乾性沈着

量の評価を実施しました。

第5次調査(2009~2015年度)では,これまでの湿性及

び乾性沈着の調査に加えて,窒素成分のより高度な沈着

量とバックグラウンドオゾン濃度の把握などを含めた調

査を行いました。乾性沈着調査のパッシブ法については

小川式(O式)に統一することにより,広域の解析・とり

まとめと,アンモニア・アンモニウムイオンの成分ごと

の評価を実施しました。

今回の調査では,フィルターパック法による乾性沈着

調査において,従来の4段ろ紙法から5段もしくは6段ろ紙

法への移行を推奨し,さらに高精度かつ広域的な全国調

査を実施しています。調査結果の解析では広域大気汚染

についても検討を行っており,今後も継続したデータ収

集および解析により,東アジア酸性雨モニタリングネッ

トワークの充実に貢献したいと考えています。

このように,本部会の取組は,日本における酸性雨調

査を全面的および項目的に補完しており,環境省および

国立研究開発法人国立環境研究所と連携して,全国的な

情報・知見の集積を行う上で,地方研究機関の役割・貢

献が極めて大きいことを示していると思われます。われ

われ地方環境研究機関が中心となって独自の調査研究を

行っていくことは,環境行政の推進に必要不可欠であり,

今後も継続していくことが重要であると思われます。

最後になりましたが,行財政状況の大変厳しい中,本

部会の活動にご参加いただきました全国環境研協議会会

員機関と調査担当の皆様,本調査の企画・解析等にご尽

力されました各委員,有益なご助言・ご指導をいただき

ました有識者の皆様,本調査に対し多大なご協力・ご支

援をいただきました環境省,国立環境研究所,(一財)日

本環境衛生センター/アジア大気汚染研究センター,な

らびに,その他の多くの皆様に,この場をお借りしまし

て,深くお礼を申し上げます。今後も引き続き,当部会

の活動に皆様のご支援・ご協力を賜りますようお願い申

し上げます。

平成30年7月

全国環境研協議会

酸性雨広域大気汚染調査研究部会

部会長 四宮 博人

(愛媛県立衛生環境研究所 所長)

79

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 3

1.調査目的

全国環境研協議会(以下,全環研)は,表1.1.1に示すよ

うに1991年度から酸性雨全国調査を行ってきた。その結

果,全国の湿性および乾性沈着について,地域特性,季

節変化,火山・大陸の発生源の影響,乾性沈着速度評価

などの多くの知見を得てきた。第1次から第3次調査まで

は3年の調査の後,1年間の準備期間を経て次の調査を行

ってきた。第4次調査は2003~2005年度の予定で開始した

が,急速に増大し始めた中国のSO2およびNOX排出量の影響

などが懸念されたことから,追加調査として3年,計6年

間の調査を2008年度まで実施した。その後は準備期間を

おかずに第5次調査を2009年度から実施し,これまでの調

査に加え,窒素成分のより高度な沈着量の把握やバック

グラウンドオゾン濃度の把握などを行った。調査の目的

が果たせたことから2015年度で第5次調査を終了し,第6

次調査を2016年度から開始した。

第6次調査は,日本全域における大気汚染物質濃度お

よびその沈着量の把握を目的として湿性沈着および乾性

沈着のモニタリングを実施している。湿性沈着に関して

は,国際標準の方法である降水時開放型捕集装置(ウェッ

トオンリーサンプラー)による湿性沈着の把握を,乾性沈

着に関しては,大気中のガス/エアロゾル濃度の測定によ

り沈着量の見積りを行う。なお,乾性沈着調査は(i)ガス

/エアロゾル濃度の測定を行うフィルターパック法(以下,

FP法),(ii)ガス濃度の測定を行うパッシブ法,(iii)自

動測定機による測定の3つの手法を併用して行う。第6次

調査の特徴としては,①第5次調査から準備年をおかずに

継続して実施していること,②窒素沈着の実態把握をテ

ーマの一つとしたこと,③FP法において粗大粒子と微小

粒子(PM2.5)とを分けた採取を推奨していることである。

②については,反応性窒素成分である湿性のNO3-および

NH4+,乾性の粒子状NO3

-およびNH4+,ガス状のHNO3(測定さ

表1.1.1 全国環境研協議会・酸性雨調査研究部会による酸性雨全国調査の主な調査内容

80

第1次酸性雨全国調査 第2次酸性雨全国調査

調査対象 降水成分 降水成分 湿性沈着 乾性沈着 湿性沈着

調査

地点数

1991年度:158地点

1992年度:140地点

1993年度:140地点

1995年度:52地点

1996年度:58地点

1997年度:53地点

1999年度:47地点

2000年度:48地点

2001年度:52地点

1999年度:25地点

2000年度:27地点

2001年度:29地点

2003年度:61地点

2004年度:61地点

2005年度:62地点

2006年度:57地点

2007年度:61地点

2008年度:60地点

2003年度:32地点

2004年度:34地点

2005年度:35地点

2006年度:28地点

2007年度:28地点

2008年度:29地点

2003年度:59地点

2004年度:61地点

2005年度:59地点

2006年度:39地点

2007年度:34地点

2008年度:37地点

調査手法 ろ過式採取法(バルク採取)に

よる原則1週間単位の試料採取

バケット(バルク採取)による1日

単位の試料採取

降水時開放型捕集装置

(ウェットオンリー採取)

による原則1週間単位

の試料採取

フィルターパック法によ

る原則1-2週間単位の

試料採取

降水時開放型捕集装置

(ウェットオンリー採取)

による原則1週間単位

の試料採取

フィルターパック法によ

るガスおよび粒子状成

分調査,原則1-2週間

単位の試料採取

パッシブサンプラー(O

式およびN式)によるガ

ス成分調査,月単位の

試料採取

調査期間 通年調査 夏季および冬季の2週間調査

データの

公表

国立環境研究所地球環境研究

センターホームページ

(http://www-

cger.nies.go.jp/acid/acid0.htm

l)に掲載

国立環境研究所地球環境研究

センターホームページ

(http://www-

cger.nies.go.jp/acid2/acid2-

0.html)に掲載

報告書の

公表

全国公害研会誌 VOL.19,

NO.2, (平成4年度酸性雨全国

調査結果報告書)

全国公害研会誌 VOL.20,

NO.2, (酸性雨全国調査結果

報告書(平成3年度~平成5年

度))

全国公害研会誌 VOL.21,

NO.4, (第2次酸性雨全国調査

報告書(平成7年度))

全国公害研会誌 VOL.22,

NO.4, (第2次酸性雨全国調査

報告書(平成8年度))

全国公害研会誌 VOL.23,

NO.4, (第2次酸性雨全国調査

報告書(平成9年度))

調査対象 湿性沈着 湿性沈着

調査

地点数

2009年度:72地点

2010年度:67地点

2011年度:66地点

2012年度:66地点

2013年度:67地点

2014年度:65地点

2015年度:68地点

2009年度:32地点

2010年度:35地点

2011年度:36地点

2012年度:34地点

2013年度:35地点

2014年度:34地点

2015年度:31地点

2009年度:42地点

2010年度:41地点

2011年度:38地点

2012年度:36地点

2013年度:30地点

2014年度:28地点

2015年度:26地点

2016年度:64地点 2016年度:30地点 2016年度:22地点

調査手法 降水時開放型捕集装置(ウェッ

トオンリー採取)による原則1週

間単位の試料採取

フィルターパック法によるガスお

よび粒子状成分調査,原則1-2

週間単位の試料採取

パッシブサンプラー(O

式)によるガス成分調

査,月単位の試料採取

降水時開放型捕集装置

(ウェットオンリー採取)

による原則1週間単位

の試料採取

フィルターパック法によ

るガスおよび粒子状成

分調査,原則1-2週間

単位の試料採取

パッシブサンプラー(O

式)によるガス成分調

査,月単位の試料採取

調査期間

データの

公表

報告書の

公表

通年調査 通年調査

通年調査

第3次酸性雨全国調査 第4次酸性雨全国調査

第5次酸性雨全国調査

乾性沈着

乾性沈着

国立環境研究所地球環境研究センターホーム

ページ(http://www-

cger.nies.go.jp/acid3/acid3-index.html)に掲載

国立環境研究所地球環境研究センターホームページ

(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/ja/04/index.html)に掲載

全国環境研会誌 VOL.26, NO.2, (第3次酸性雨

全国調査報告書(平成11年度))

全国環境研会誌 VOL.27, NO.2, (第3次酸性雨

全国調査報告書(平成12年度))

全国環境研会誌 VOL.28, NO.3, (第3次酸性雨

全国調査報告書(平成11~13年度)

全国環境研会誌 VOL.30, NO.2, (第4次酸性雨全国調査報告書(平成15

年度))

全国環境研会誌 VOL.31, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成

16年度))

全国環境研会誌 VOL.32, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成

17年度))

全国環境研会誌 VOL.33, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成

18年度))

全国環境研会誌 VOL.34, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成

19年度))

全国環境研会誌 VOL.35, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成

20年度))

全国環境研会誌 VOL.36, NO.3, (第5次酸性雨全国調査報告書(平成21年度))

全国環境研会誌 VOL.37, NO. 3, (第5次酸性雨全国調査報告書(平成22年度))

全国環境研会誌 VOL.38, NO. 3, (第5次酸性雨全国調査報告書(平成23年度))

全国環境研会誌 VOL. 39 , NO.3 , (第5次酸性雨全国調査報告書(平成24年度))

全国環境研会誌 VOL. 40 , NO.3 , (第5次酸性雨全国調査報告書(平成25年度))

全国環境研会誌 VOL. 41 , NO.3 , (第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度))

全国環境研会誌 VOL. 42 , NO.3 , (第5次酸性雨全国調査報告書(平成27年度))

第6次酸性雨全国調査乾性沈着

通年調査

国立環境研究所地球環境研究センターホームページに掲載予定国立環境研究所地球環境研究センターホームページ

(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/ja/04/index.html)に掲載

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 4

れている場合はHONOも含む),NO2,NOおよびNH3を対象に

窒素沈着量を評価することを目標にしている。③につい

ては,従来の4段ろ紙法の構成に加え,前段にインパクタ

(I0ろ紙)を装備した5段構成により行う。この利点とし

て,(i)粒径別の成分の挙動を把握するとともに,乾性沈

着量推計において粒径の影響を考慮することができる,

(ii)PM2.5成分データを得ることにより,PM2.5対策へ貢献

することが可能となる,という点が挙げられる。

なお,第1~5次調査結果(2015年度まで)は国立環境研

究所地球環境研究センターにおける地球環境データベー

ス(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/ja/i

ndex.html)にて公開されている。

81

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 5

2.調査内容

2.1 調査概要

2016年度の調査参加機関は表2.1.1に示す47機関であ

り,湿性沈着調査地点は64地点,乾性沈着調査地点は39

地点(FP法:30地点,パッシブ法:22地点,自動測定機:

19地点)であった。調査地点は1地点の場合は原則として

都市域で実施し,複数地点の場合は都市域および都市域

から20~30km離れた地点または(および)地方に特有の地

点で実施した。一部には他の学術機関との共同研究1,2)

や国設局との共用データも含まれる。なお,環境省のデ

ータとは降水量の算出方法(気象データを用いる場合と

貯水量を用いる場合)などデータの算出方法が一部異な

るため,数値が一致しない場合がある。

2016年度の調査期間は原則として2016年4月4日~2017

年4月3日であり,季節および月の区切りは表2.1.2に示す

とおりである。

表2.1.1 調査地点の属性および調査内容

乾性注2)注3)

利尻 北海道立総合研究機構 環境科学研究センター 1.27 0.51 0.02 NJ 45.12 141.21 ☆ ☆ ○ ☆ 40 0.8 地上高3m,FPのみ4m 未指定(草、笹)

天塩FRS 北海道立総合研究機構 環境科学研究センター 0.01 0.09 0.50 NJ 45.06 142.10 ■ 70 30 地上高8m 未指定(森林)

母子里 北海道立総合研究機構 環境科学研究センター 0.12 0.76 0.49 NJ 44.36 142.27 □ □ ○ 287 40 地上高8m 未指定(森林)

札幌北 北海道立総合研究機構 環境科学研究センター 5.18 25.61 1.07 NJ 43.08 141.33 ☆ ○ ○ ☆ 12 13 Wet:8m, FP・O式:9m 住居地域(市街地)

摩周 北海道立総合研究機構 環境科学研究センター 0.03 0.30 1.00 NJ 43.56 144.51 ▲ 550 30 地上高1.5m 未指定(森林)

黒松内 北海道立総合研究機構 環境科学研究センター 0.03 0.33 0.36 NJ 42.65 140.31 ▲ 87 13 地上高5m 未指定(森林)

青森東造道 青森県環境保健センター 1.18 3.59 0.44 NJ 40.83 140.79 ○ 3 0.7 地上高20m 住居地域(市街地)

鰺ヶ沢舞戸 青森県環境保健センター 0.20 1.15 0.51 NJ 40.78 140.24 ○ ▲ 30 0.4 地上高13m 都市計画未指定

岩手県 盛岡 岩手県環境保健研究センター 1.21 5.94 1.33 NJ 39.68 141.14 ○ 131 70 地上高12m 準工業地域 市街地

宮城県 涌谷 宮城県保健環境センター 1.83 5.75 2.45 NJ 38.55 141.18 ○ 165 19 地上高3m 未指定(草、雑)

秋田県 秋田千秋 秋田県健康環境センター 4.37 6.14 0.53 NJ 39.72 140.13 〇 16 5.5 地上高20m 商業地域

山形県 鶴岡 山形県環境科学研究センター 0.12 0.71 0.38 NJ 38.55 139.87 ○ 220 26 地上高5m 未指定(森林)

福島天栄 福島県環境創造センター 0.61 1.22 0.50 EJ 37.25 140.04 ○ 941 84 地上高1.2m 田園

三春注4) 福島県環境創造センター 1.31 6.42 1.48 EJ 37.43 140.52 ○ 423 46 地上高10m 工業地域

小名浜 いわき市環境監視センター 13.81 16.92 0.99 EJ 36.96 140.89 ○ ○ ○ 3 2.5 Wet:5m, O式:1.5m 第一種住居地域

新潟曽和 新潟県保健環境科学研究所 2.60 9.49 1.28 JS 37.85 138.94 ○ ○ ▲ 2 3.1 Wet:2.5m, FP:2.1m 市街化調整区域

長岡 新潟県保健環境科学研究所 1.87 4.94 0.62 JS 37.45 138.87 ○ ○ ○ 27 19 地上高5m 住居地域

新潟大山 新潟市衛生環境研究所 2.75 12.68 1.74 JS 37.94 139.08 ○ 10 1.2 地上高4m 住宅地域

新潟小新 新潟市衛生環境研究所 2.64 9.73 1.66 JS 37.87 138.99 ○ 0 1.7 地上高15m 住宅地域

日光注5) 栃木県保健環境センター 0.13 0.97 0.16 EJ 36.74 139.48 ○ 1300 95 地上高1m 住宅地

宇都宮注6) 栃木県保健環境センター 2.88 10.93 2.79 EJ 36.60 139.94 ○ 140 65 地上高10m 住宅地

小山 栃木県保健環境センター 3.13 12.59 3.08 EJ 36.31 139.83 ○ 35 63 地上高6m 住宅地

加須注7) 埼玉県環境科学国際センター 2.49 18.24 3.51 EJ 36.09 139.56 ○ ○ ▲ ○ 13 55 地上高11m 農業地域

さいたま さいたま市健康科学研究センター 7.46 48.21 5.19 EJ 35.86 139.65 ○ 15 35 地上高15m 商業地域

茨城県 土浦 茨城県霞ケ浦環境科学センター 1.44 7.73 3.20 EJ 36.08 140.27 ○ 18 31 地上高1m 未指定(草地)

群馬県 前橋 群馬県衛生環境研究所 4.13 12.96 7.55 EJ 36.40 139.10 ○ ○ ○ 102 110 地上高20m 市街化調整区域

市川 千葉県環境研究センター 8.63 59.68 4.64 EJ 35.72 139.93 ○ 5 6.1 地上高20m 住居地域

市原 千葉県環境研究センター 13.96 44.28 3.14 EJ 35.53 140.07 ○ ○ ▲ 5 1.2 Wet:5m, FP,O式:10m 工業地域

銚子 千葉県環境研究センター 10.17 8.98 3.92 EJ 35.74 140.74 ○ 50 4.5 地上高5m 農業地域

一宮 千葉県環境研究センター 0.23 1.97 0.97 EJ 35.35 140.38 ○ 5 1 地上高3m 農業地域

旭 千葉県環境研究センター 7.68 8.66 4.12 EJ 35.73 140.72 ○ ○ ▲ 58 4.7 地上高0m 農業地域

佐倉 千葉県環境研究センター 2.96 26.96 3.01 EJ 35.73 140.21 ○ ○ ▲ 25 19 地上高3m 住居地域

清澄 千葉県環境研究センター 0.16 1.14 0.92 EJ 35.16 140.16 ○ ○ 360 4.5 地上高0m 未指定(森林)

勝浦 千葉県環境研究センター 0.16 1.06 0.66 EJ 35.18 140.27 ○ ○ 97 4.4 Wet:5m, FP:3m, 農業地域

宮野木 千葉市環境保健研究所 12.33 42.86 3.97 EJ 35.65 140.10 ○ 21 4.1 地上高3m 住宅地域(市街地)

平塚 神奈川県環境科学センター 1.42 17.70 3.03 EJ 35.35 139.35 ○ 9 3.7 地上高22m 準工業地域

川崎注8) 川崎市環境総合研究所 16.98 74.45 3.11 EJ 35.54 139.75 ○ 4 3.2 地上高20m 準工業用地

長野県 長野 長野県環境保全研究所 1.35 4.76 0.61 CJ 36.64 138.18 ○ ○ ○ 363 52.5 Wet:15m, FP:3m 第一種住専

静岡小黒 静岡市環境保健研究所 3.29 10.23 1.42 CJ 34.97 138.40 ○ 14 3.6 地上高8m 住宅地

静岡北安東 静岡県環境衛生科学研究所 3.15 9.89 1.38 CJ 35.00 138.39 ○ ○ 10 7.1 Wet:9.3m, FP:20m 住宅地域(市街地)

富山県 射水注9) 富山県環境科学センター 6.11 15.55 1.80 JS 36.70 137.10 ○ ○ ▲ ○ 22 8 Wet:0m, FP・O式:12.5m 住宅専用地域

石川県 金沢 石川県保健環境センター 2.74 6.93 1.12 JS 36.53 136.71 ○ ○ 120 14 地上高14m 第2種住居専用地域

福井県 福井 福井県衛生環境研究センター 2.41 7.77 0.80 JS 36.07 136.26 ○ ○ ○ 11 18 地上高9m 市街化調整区域

岐阜県 伊自良湖 岐阜県保健環境研究所 2.00 5.52 1.54 CJ 35.57 136.70 ☆ ☆ ☆ 140 60 地上高4.3m 林地

豊橋 愛知県環境調査センター東三河支所 2.36 10.81 4.18 CJ 34.74 137.38 ○ ○ ▲ ○ 20 6 地上高8m 住居地域

名古屋南 名古屋市環境科学調査センター 10.23 51.61 4.70 CJ 35.10 136.92 ○ ○ 0 3 地上高19.2m 準工業地域

三重県 四日市桜 三重県保健環境研究所 4.10 17.71 2.31 CJ 34.99 136.49 ○ 190 15.1 地上高15m 原野

滋賀県 大津柳が崎 琵琶湖環境科学研究センター 3.92 17.74 1.34 CJ 35.03 135.87 ○ 87 53 地上高28m 住宅地

兵庫県 神戸須磨 (公財) ひょう ご環境創造協会 兵庫県環境研究センター 10.20 30.41 1.05 CJ 34.65 135.13 ○ ○ ○ 15 0.9 Wet:29m, FP:17m 準工業地域

和歌山県 海南 和歌山県環境衛生研究センター 9.97 14.10 1.12 CJ 34.16 135.21 ○ ○ ▲ ○ 3 0.4 地上高12.5m 商業

若桜 鳥取県衛生環境研究所 0.03 0.50 0.30 JS 35.35 134.49 ○ ○ ▲ 800 28.4 地上高2.5m 未指定

湯梨浜 鳥取県衛生環境研究所 0.25 1.30 0.86 JS 35.49 133.89 ○ ○ ○ 2 1.3 地上高11m 未指定

島根県 松江 島根県保健環境科学研究所 0.46 2.49 0.56 JS 35.47 133.01 ○ 5 6 地上高1.2m 区域外

広島県 広島安佐南 広島市衛生研究所 3.35 12.32 1.04 WJ 34.46 132.41 ○ 73 11 地上高10m 住居地域

山口県 山口 山口県環境保健センター 2.28 5.84 0.63 WJ 34.15 131.43 ○ 13 13 地上高1m 住居地域

徳島県 徳島 徳島県立保健製薬環境センター 2.04 8.03 1.76 CJ 34.07 134.56 ○ 2 3 地上高18m 住居地域

太宰府 福岡県保健環境研究所 3.94 21.34 1.90 WJ 33.51 130.50 ○ ○ ○ 30 15 Wet:16.4m, FP:5.1m 市街化調整区域

福岡 福岡市保健環境研究所 2.43 14.89 1.38 WJ 33.50 130.31 ○ 193 9.2 地上高1m 市街化調整区域

佐賀県 佐賀 佐賀県環境センター 2.50 6.92 1.63 WJ 33.27 130.27 ○ 4 11 地上高8.5m 第1種住居地域(市街地)

諫早 長崎県環境保健研究センター 5.88 7.58 1.30 WJ 32.86 130.04 ○ 23 4 地上高10m 住居地域(市街地)

長崎 長崎県環境保健研究センター 1.17 4.99 0.62 WJ 32.76 129.86 ◇ 4 1.3 地上高2.6m 商業地域

佐世保 長崎県環境保健研究センター 4.30 8.39 1.37 WJ 33.18 129.72 ◆ 38 1.3 地上高38m 住居地域(市街地)

阿蘇 熊本県保健環境科学研究所 0.30 1.33 1.72 WJ 32.97 131.05 ○ 481 46 地上高3m 未指定

宇土 熊本県保健環境科学研究所 2.07 8.38 1.47 WJ 32.67 130.65 ○ 20 2.7 地上高1m 未指定

画図町注10) 熊本市環境総合センター 1.65 8.71 2.93 WJ 32.76 130.73 ○ ▲ 5 12.0 Wet:14.7m, O式:15.7m 市街化調整区域

大分久住 大分県衛生環境研究センター 2.07 8.38 1.47 WJ 33.04 131.25 ○ 560 35 地上高4.7m 未指定(牧草地)

大分 大分県衛生環境研究センター 15.09 19.72 1.30 WJ 33.16 131.61 ○ ○ 90 11 地上高14.3m 住宅地

宮崎県 宮崎 宮崎県衛生環境研究所 0.56 3.25 1.14 WJ 31.83 131.42 ○ ○ 14 3.5 地上高14m 都市地域(準工業地域)

鹿児島県 鹿児島 鹿児島県環境保健センター 1.41 5.88 1.37 WJ 31.58 130.56 ○ ○ ▲ 1 0.1 Wet:4.5m, FP:21m 準工業地

大里注11) 沖縄県衛生環境研究所 6.30 7.83 2.08 SW 26.19 127.75 ○ ○ ▲ 109 1.8 地上高8m 未指定

うるま注11) 沖縄県衛生環境研究所 10.65 9.93 1.38 SW 26.38 127.83 ※ ※ ※ 34 3.0 地上高10m 未指定

辺戸岬 沖縄県衛生環境研究所 0.00 0.05 0.35 SW 26.87 128.25 ☆ ☆ ▲ ☆ 60 0.2 地上高4.5m 特別地域

64 30 22 19

注1)NJ:北部,JS:日本海側,EJ:東部,CJ:中央部,WJ:西部,SW:南西諸島

注2)☆:環境省の委託事業,□:北大との共同研究成果,■:国環研・地球環境研究センター,北大との共同研究成果,◇:長崎市からデータ提供,◆:佐世保市からデータ提供,▲:一部実施

   ※:地点変更に伴いデータが一部しかないため解析対象外

注3)FP:4段ろ紙法または5段ろ紙法,O式:パッシブ法,自動:常時監視局

注10)2016/3/7から測定地点変更(熊本→画図町) 注12)2017/3/6から測定地点変更(大里→うるま)

沖縄県

調査地点数

注4)2015/11/2から測定地点変更 注5)旧名称は日光中宮 注6)旧名称は河内 注7)旧名称は騎西 注8)2013/1/23から測定地点変更 注9)旧名称は小杉

静岡県

愛知県

鳥取県

福岡県

長崎県

熊本県

大分県

栃木県

埼玉県

北海道

青森県

福島県

新潟県

千葉県

神奈川県

SO2 NOX NH3 FP O式 自動

サンプラー設置位置

地上高土地利用など

地域

区分注1)

緯度

(度)

経度

(度)

湿性注2)

標高

(m)

海岸か

らの距

離(km)

排出量 (t km-2 y-1)支

部都道府県

名地点名 調査機関名

82

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 6

本調査および報告書の作成は全環研・酸性雨広域大気

汚染調査研究部会が主導して行われた。2016~2017年度

の部会組織および報告書の担当を表2.1.3に示す。

2.2 調査方法

2.2.1 湿性沈着

調査は通年調査とし,1週間単位での採取を原則とした。

2週間単位あるいはそれ以上での採取も可とし,その場合

冷蔵庫の設置等による試料の変質防止対策を推奨した。

試料採取日は原則月曜日とした。なお,解析に用いたデ

ータは表2.1.2に示す月単位であった。

降水の捕集装置は降水時開放型であり,降雪地域にお

いては,移動式の蓋の形状変更や凍結防止用ヒーターの

装備などの対策をとることが望ましいが,ヒーターの使

用が無理な場合は,冬季間バルク捕集となることも可と

した。また,ロート部および導管部の洗浄については,

月単位の切れ目の日に実施することとし,洗浄後にフィ

ールドブランク試料を採取し精度管理指標とした。

降水量は,貯水量を捕集面積で割って算出し,その他

の測定項目,分析方法および手順については,湿性沈着

モニタリング手引き書―第2版―3) (以下,手引き書)に従

った。また,イオンバランス(R1)および電気伝導率バラ

表2.1.3 全国環境研協議会・酸性雨広域大気汚染調査研究部会組織

表2.1.2 調査期間の季節・月区分

季節 月 週4 4月4日 ~ 5月2日 45 5月2日 ~ 5月30日 46 5月30日 ~ 6月27日 47 6月27日 ~ 7月25日 48 7月25日 ~ 9月5日 69 9月5日 ~ 10月3日 410 10月3日 ~ 10月31日 411 10月31日 ~ 11月28日 412 11月28日 ~ 12月26日 41 12月26日 ~ 2月6日 62 2月6日 ~ 3月6日 4

春 3 3月6日 ~ 4月3日 4注)週単位の試料交換日は原則として月曜日とした。

2016年度

部会役職 所  属 氏 名担当年度

報告書等担当部分

熊本市環境総合センター 藤井 幸三 H28愛媛県立衛生環境研究所 四宮 博人 H29宮崎県衛生環境研究所 濵田 洋彦 H28高知県環境研究センター 西森 郷子 H29岩手県環境保健研究センター 多田 敬子 H28 D,6章宮城県保健環境センター 佐藤 由美 H29 D,6章埼玉県環境科学国際センター 松本 利恵 H28-29 D,5.3章福井県衛生環境研究センター 藤田 大介 H28 D,4章滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 三田村 徳子 H29 D,2章徳島県立保健製薬環境センター 河野 明大 H28 D,4章広島市衛生研究所 宮野 高光 H29 D,4章沖縄県衛生環境研究所 友寄 喜貴 H28 D,1-3章熊本県保健環境科学研究所 北岡 宏道 H29 D,4章地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 環境・地質研究本部 環境科学研究センター

山口 高志 H28-29 2章,6章

新潟県保健環境科学研究所 家合 浩明 H28-29 総括千葉県環境研究センター 横山 新紀 H28-29 6章富山県環境科学センター 木戸 瑞佳 H28-29 5.1-5.2章三重県保健環境研究所 西山 亨 H28-29 4章公益財団法人 ひょうご環境創造協会 兵庫県環境研究センター

堀江 洋佑 H28-29 4章

名古屋市環境科学調査センター 久恒 邦裕 H28-29 4章鳥取県衛生環境研究所 山添 良太 H28-29 5.3章福岡県保健環境研究所 濱村 研吾 H28-29 5.1-5.2章沖縄県衛生環境研究所 岩崎 綾 H28-29 1-3,5.1-5.2章国立大学法人 東京農工大学 農学部 松田 和秀 H28-29法政大学 生命科学部 村野 健太郎 H28-29公立大学法人 北九州市立大学 藍川 昌秀 H28-29国立研究開発法人 国立環境研究所 地球環境研究センター

向井 人史 H28-29

一般財団法人 日本環境衛生センター アジア大気汚染研究センター

箕浦 宏明 H28-29

大気環境学会中国・四国支部 大原 真由美 H28-29環境省 石飛 博之 H29

〃 船越 吾朗 H28-29熊本市環境総合センター 甲斐 勇 H28

〃 濱野 晃 H28〃 吉田 芙美香 H28

愛媛県立衛生環境研究所 仲井 哲也 H29〃 宇野 克之 H29〃 紺田 明宏 H29

注)「報告書担当部分」におけるDはデータ収集,数字は報告書の章を表す。

支部委員

有識者

委 員

事務局

部会長

理事委員

83

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 7

ンス(R2)が許容範囲を超える場合は再分析を行うなど,

測定値の信頼性を確保した。分析精度の確保に関しては,

環境省のモニタリングネットワークの測定局を対象に行

われている分析機関間比較調査に本調査参加機関も多数

参加し,全環研として解析を行った。

2.2.2 乾性沈着

乾性沈着調査はFP法,パッシブ法および自動測定機に

よる方法を採用した。FP法およびパッシブ法における捕

集ろ紙を表2.2.1に示す。

2.2.2.1 フィルターパック法

FP法は,1段目で粒子状物質を,2段目でHNO3などを,

3段目でSO2とHClを,4段目でNH3を捕集する従来の4段ろ紙

法4,5)の構成に加え,前段にインパクタ(I0ろ紙)を装備

し,粗大粒子とPM2.5成分とを分けて採取する5段構成のFP

法を推奨した。なお,従来の4段ろ紙法による採取も可と

した。さらに,それらにHONO測定を加えた構成(F2で採

取された妨害分の一部のNO2ガス量を評価するためのF2’

ろ紙をF2の後段に加える)をオプションとして設定した。

調査地点は,可能な限り湿性沈着調査地点と同一地点

を選定することとし,通年調査で,採取単位は1週間~2

週間であった。なお,解析に用いるデータは月単位であ

った。試料採取は,表2.2.1に示した5種または4種のろ紙

を装着し,吸引速度は,インパクタを用いた場合は指定

された流量である2 L min-1で,その他の場合は1~5 L

min-1の範囲で設定して連続採取を行い,積算流量計ある

いは平均流量から採気量を求めた。

なお,全環研の4段ろ紙を用いたFP法に関するマニュア

ルは東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(以下,

EANET)でも英訳されて用いられている。詳細な手順など

はこれまでの報告4)およびEANETの技術資料6)などを参照

されたい。

2.2.2.2 パッシブ法

パッシブ法は,目的のガス成分を捕集,あるいは目的

のガス成分と反応する試薬が含浸されたろ紙を用い,捕

集量あるいは試薬反応量を測定し,大気中ガス濃度を求

める方法である。大気に直接ろ紙をさらすと風の影響や

粒子状物質による汚染を受ける。これらの影響を除くた

め,パッシブ法には目的ガス成分がろ紙にたどり着くま

でに適切な抵抗が必要である。本調査では抵抗として,

細孔による拡散長抵抗方法を用いた小川式パッシブ法

(以下,パッシブ法) を用いている。本方法は濃度と捕集

量の関係が理論的に証明されており,他の方法と比較す

ることなく濃度の算出が可能である。また分子拡散係数

が得られれば,他の成分でも測定が可能である。

パッシブ法の調査地点は大都市(例えば県庁所在地)・

工業地域,中小都市地域,田園地域,山林地域などから

目的に応じ1地点以上選定することとしている。複数地

点を選定する場合は,可能ならば1地点はFP法または自

動測定機による測定地点とすることとしている。調査は

通年であり,採取単位は原則1ヶ月であった。

SO2はNOXやオゾンに比べて大気中濃度が低く捕集量が

少ない。このため都市部以外では精度の高い測定が困難

であり,本調査では測定対象としていない。しかし,従

来のトリメタノールアミンに代わり,K2CO3により改良さ

れた低濃度用ろ紙によるSO2の測定結果と従来法との換

算式が報告され8),K2CO3含浸ろ紙が市販されている。こ

れを受け,従来のマニュアル7)に加えて,マニュアルとは

異なる点を含む全環研用マニュアル改定版を作成した。

詳細については全環研用パッシブ法のマニュアル改定版

を参照されたい。

2.2.2.3 自動測定機のデータ

自動測定機による測定値は,大気汚染常時監視測定局

データなどを月単位に集計し用いた。本データはFP法お

よびパッシブ法による測定結果の精度確認のために用い

た。また,一部は乾性沈着量の評価にも用いた。本デー

タには高濃度地域に対応するための常時監視データも含

まれており,一部はFP法より精度が低い場合もあった。

2.2.3 調査地点の属性および調査内容

広域的な環境調査データを解析する場合,目的に応じ

てデータおよび地点を選択することが有効である。

環境省の酸性雨モニタリング,EANETなどでは,モニタ

リングの目的,あるいは発生源(都市域)からの距離に応

じて調査地点を区分している。これは,モニタリングデ

ータを解析する場合に,この区分に応じて,近隣の発生

源の影響などを考慮し,対象地点を選択して解析するた

めである。

本調査では,Kannariら(2007)9)による2000年度ベース

表2.2.1 FP法およびパッシブ法の捕集ろ紙

捕集ろ紙名

1段目(F0) テフロン(PTFE)

2段目(F1) ポリアミド

3段目(F2) K2CO3含浸セルロース

4段目(F3) リン酸含浸セルロース

ポリカーボネート製PM2.5インパクタ

 +石英繊維ドーナツろ紙

2段目(F0) テフロン(PTFE)

3段目(F1) ポリアミド

4段目(F2) K2CO3含浸セルロース

5段目(F3) リン酸含浸セルロース

捕集ろ紙名

NO2 トリエタノールアミン(TEA)含浸ろ紙

NOx (TEA+PTIO)含浸ろ紙

NH3 クエン酸含浸ろ紙

O3 (NaNO2+K2CO3)含浸ろ紙

FP法

4段

構  造

ッシブ法

FP法5段

項  目

1段目(I0)

84

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 8

のSO2,NOXおよびNH3排出量の情報を用いて,必要に応じ

て排出量別の解析を実施した。それぞれの排出量は3次メ

ッシュ(約1km四方)で得られており,調査地点周辺(半径

20km相当:対象範囲は,測定地点を中心とした半径20km

の円内に3次メッシュの中心点が存在するメッシュとし

た。)の排出量を算出した。

- 引 用 文 献 -

1) 母子里のデータは,北大北方生物圏フィールド科学

センターとの共同研究による。

2) 天塩FRSのデータは,国立環境研地球環境研究センタ

ー,北大北方生物圏フィールド科学センターおよび北

大工学研究科との共同研究による。

3) 環境省環境保全対策課:湿性沈着モニタリング手引

き書(第2版),2001,http://www.env.go.jp/air/acid

rain/man/wet_deposi/index.html(2018.1.5アクセス)

4) 全環研:第3次酸性雨全国調査報告書(平成11~13年

度のまとめ),全国環境研会誌,28,2-196,2003

5) 松本光弘,村野健太郎:インファレンシャル法によ

る樹木等への乾性沈着量の評価と樹木衰退の一考察,

日本化学会誌,1998(7),495-505,1998

6) Acid Deposition Monitoring Network in East Asia

:東アジアにおけるフィルターパック法に関する技術

資料,http://www.eanet.asia/jpn/docea_f.html

(2018.1.5アクセス)

7) 平野耕一郎,斉藤勝美:短期暴露用拡散型サンプラ

ーを用いた環境大気中のNO,NO2,SO2,O3およびNH3濃

度の測定方法(改訂版),2010年8月,http://www.city

.yokohama.lg.jp/kankyo/mamoru/kenkyu/shiryo/pub/

d0001/d0001.pdf(2018.1.5アクセス)

8) 恵花孝昭, 野口泉, 樋口慶郎, 2009. O式パッシブサ

ンプラー法におけるSO2捕集剤の検討(第2報). 第50回

大気環境学会年会講演要旨集, p.437

9) A. Kannari, Y. Tonooka, T. Baba, K. Murano:

Development of multiple-species 1 km × 1 km

resolution hourly basis emissions inventory for

Japan, Atmos. Environ., 41, 3428-3439, 2007

85

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 9

3. 気象概況および大気汚染物質排出量の状況

降水量が多い場合,湿性沈着成分濃度は低下するが,

沈着量は増加する。また気温および日射は乾性沈着成分

の生成や存在形態に影響すると考えられる。一方,SO2,

NOXおよびNH3排出量の状況も成分濃度や沈着量に反映さ

れると考えられる。これらのことから,ここでは気象庁

発表の気象概況および大気汚染物質排出量の状況を示す。

3.1 気象概況

2016年の概況は,次のとおりであった。高温が持続し,

年平均気温は東日本以西でかなり高く,北日本で高くな

った。北日本では,8月に台風第7号,第11号,第9号,第

10号が相次いで上陸し,大雨や暴風となった。特に北海

道と岩手県では記録的な大雨となり,河川の氾濫,浸水

害,土砂災害などが発生した。秋は,低気圧や前線,台

風の影響を受けやすく西日本では,降水量がかなり多か

った。

春(3~5月)の概況は,次の通りであった。平均気温は,

全国的にかなり高かった。降水量は,東日本日本海側で

はかなり少なく,北日本太平洋側で少なかった。一方,

西日本太平洋側と沖縄・奄美では多かった。北日本日本

海側と東日本太平洋側,西日本日本海側は平年並だった。

日照時間は,北・西日本で多く,東日本日本海側ではか

なり多かった。東日本太平洋側,沖縄・奄美は平年並だ

った。

夏(6~8月)の概況は,次の通りであった。平均気温は,

沖縄・奄美でかなり高く,北・東・西日本でも高かった。

降水量は,北日本でかなり多く,西日本太平洋側でも多

かった。一方,沖縄・奄美で少なかった。東日本,西日

本日本海側では平年並だった。日照時間は,北・東日本

日本海側,西日本,沖縄・奄美で多かった。北・東日本

太平洋側では平年並だった。

秋(9~11月)の概況は,次の通りであった。平均気温は,

西日本,沖縄・奄美でかなり高く,東日本で高かった。

北日本で低かった。降水量は,西日本でかなり多く,東

日本太平洋側,沖縄・奄美で多かった。北日本では少な

かった。東日本日本海側では平年並だった。日照時間は,

北日本日本海側,東日本太平洋側,西日本でかなり少な

く,北日本太平洋側,東日本日本海側,沖縄・奄美で少

なかった。

冬(12~2月)の概況は,次の通りであった。平均気温

は, 全国的に高く,沖縄・奄美はかなり高かった。降

水量は, 西日本日本海側で多かった。沖縄・奄美で少

なかった。北・東日本,西日本太平洋側では平年並だっ

た。降雪の深さ合計は北日本でかなり少なく,東日本で

少なかった。西日本では平年並だった。最深積雪は,西

日本で多いところが多く,北日本日本海側で少ないとこ

ろが多かった。日照時間は,東・西日本太平洋側でかな

り多く,西日本日本海側で多かった。北日本日本海側で

少なかった。北日本太平洋側,東日本日本海側と沖縄・

奄美では平年並だった1)。 黄砂観測日数は2015年度が9日に対し,2016年度は11

日で,4月に9日の観測があった2)。

2016年度の各月における降水量,気温および日照時間

の概況を表3.1.1に示す。

3.2 SO2,NOXなどの排出量のトレンドと分布

北東アジアにおける人為起源のSO2およびNOX排出量は,

中国およびインド,極東ロシアが多い3)。また図3.2.1に

示す中国のSO2,NOX排出量のトレンド4,5)は,図3.2.2に示

す中国,韓国および日本のエネルギー消費のトレンド6)

ともほぼ合致している。1990年代半ばから2000年頃まで

は排出量がやや停滞したが,その後再び増加し,2007年

以降,SO2排出量が漸減したとの報告7)もあるが,その排

出量は多いままである。NOX排出量については,2010年度

以降減少傾向にあるが,排出量は多いままである。

国内における人為発生源由来のSO2,NOXおよびNH3排出

量では, SO2およびNOX排出量は関東から北九州にかけて

の工業地帯および高速道路などの幹線道路近傍の排出量

が多い8)。またNH3排出量は酪農などを含む農業部門から

の排出も多い傾向がみられている。なお,1995年度の分

布と比べると幹線道路近傍のSO2排出量は減少しており,

軽油の硫黄分削減効果が認められている9)。

図3.2.1 中国におけるSO2およびNOX排出量

図3.2.2 中国,韓国および日本のエネルギー消費の

トレンド

86

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 10

4月 全国的に高く、東・西日本と沖縄・奄美ではかなり高かった。館山、勝浦(以上、千葉県)では4月の月平均気温の高い方から1位の値を更新した。

5月全国的にかなり高かった。札幌(北海道)、長野(長野県)など25地点で5月の月平均気温の高い方から1位の値を更新し、釧路、根室(以上、北海道)、石垣島(沖縄県)など5地点で1位タイの値を記録した。

6月沖縄・奄美ではかなり高く、東・西日本では高かった。石垣島(沖縄県)で6月の月平均気温の高い方から1位の値を更新した。北日本では平年並だった。

7月沖縄・奄美ではかなり高く、東・西日本で高かった。久米島(沖縄県)では月平均気温の高い方から1位の値を更新し、与那国島、西表島、名護(以上、沖縄県)では1位タイの値を記録した。北日本では平年並だった。

8月沖縄・奄美でかなり高く、北・東・西日本でも高かった。釧路(北海道)、人吉(熊本県)、西表島(沖縄県)で月平均気温の高い方から1位の値を更新し、雲仙岳(長崎県)、枕崎(鹿児島県)で1位タイの値を記録した。

9月 沖縄・奄美ではかなり高く、北・東・西日本で高かった。名瀬(鹿児島県)では月平均気温の高い方から1位の値を更新した。

10月東・西日本、沖縄・奄美ではかなり高かった。福岡(福岡県)、那覇(沖縄県)など40地点では月平均気温の高い方から1位の値を更新し、厳原(長崎県)で1位タイの値を記録した。一方、北日本では低かった。

11月沖縄・奄美で高かった。北日本ではかなり低かった。紋別(北海道)では、月平均気温の低い方から1位の値を更新し、広尾(北海道)では1位タイの値を記録した。東・西日本では平年並だった。

12月東・西日本、沖縄・奄美でかなり高くかった。那覇、名護(以上、沖縄県)など5地点で月平均気温の高い方から1位の値を更新した。北日本で平年並だった。

1月 沖縄・奄美でかなり高く、東・西日本で高かった。西表島(沖縄県)で月平均気温の高い方から1位の値を更新した。北日本では平年並だった。

2月 北・東日本で高かった。西日本、沖縄・奄美で平年並だった。

3月 西日本、沖縄・奄美で低かった。一方、北日本では高かった。東日本では平年並だった。

4月全国的に多く、西日本日本海側と沖縄・奄美ではかなり多かった。西郷(島根県)、平戸(長崎県)では4月の月降水量の多い方から1位の値を更新した。

5月 北日本太平洋側と東日本で少なかった。西日本太平洋側では多かった。北日本日本海側と沖縄・奄美は平年並だった。

6月北日本、西日本太平洋側ではかなり多く、西日本日本海側では多かった。釧路(北海道)、福山(広島県)、高松(香川県)など6地点で6月の月降水量の多い方からの1位の値を更新した。東日本では平年並、沖縄・奄美では少なかった。

7月北日本日本海側、沖縄・奄美で多かった。一方、北・東日本太平洋側で少なかった。白河(福島県)では、月降水量の少ない方から1位の値を更新した。東日本日本海側、西日本で平年並だった。

8月北日本でかなり多く、東日本太平洋側でも多かった。網走、根室(以上、北海道)など8地点では月降水量の多い方から1位の値を更新した。一方、西日本太平洋側と沖縄・奄美では少なかった。東・西日本日本海側では平年並だった。

9月西日本でかなり多く、東日本と沖縄・奄美で多かった。延岡(宮崎県)では月降水量の多い方から1位の値を更新した。北日本は平年並だった。留萌(北海道)では月降水量の少ない方から1位タイの値を記録した。

10月西日本日本海側ではかなり多く、西日本太平洋側、沖縄・奄美で多かった。牛深(熊本県)では月降水量の多い方から1位の値を更新した。北日本太平洋側、東日本で少なかった。北日本日本海側では平年並だった。

11月東日本太平洋側、西日本日本海側で多かった。東日本日本海側でかなり少なく、北日本で少なかった。西日本太平洋側、沖縄・奄美で平年並だった。

12月

東日本太平洋側、西日本でかなり多く、北日本太平洋側で多かった。山口、萩(ともに山口県)では月降水量の多いほうから1位の値を更新した。沖縄・奄美では少なかった。北・東日本日本海側では平年並だった。稚内(北海道)で月降水量の少ない方から1位の値を更新した。降雪の深さ月合計は東・西日本でかなり少なく、北日本日本海側で少なかった。北日本太平洋側では平年並だった。月最深積雪は、北日本で多いところが多く、東・西日本では少ないところが多かった。

1月沖縄・奄美でかなり少なく、北日本で少なかった。留萌(北海道)、宮古島(沖縄県)で月降水量の少ない方から1位の値を更新した。東・西日本で平年並だった。降雪の深さ月合計は西日本太平洋側で多かった。北日本日本海側でかなり少なく、北日本太平洋側と東日本日本海側で少なかった。東日本太平洋側と西日本日本海側で平年並だった。月最深積雪は、西日本で多いところが多かった。

2月西日本日本海側で多かった。東日本太平洋側で少なかった。北日本、東日本日本海側、西日本太平洋側と沖縄・奄美で平年並だった。降雪の深さ月合計は西日本日本海側で多かった。北日本日本海側でかなり少なく、北日本太平洋側、東日本で少なかった。西日本太平洋側で平年並だった。月最深積雪は、西日本で多いところが多かった。

3月東日本日本海側と西日本でかなり少なく、北日本、東日本太平洋側で少なかった。沖縄・奄美では平年並だった。降雪の深さ月合計は、北日本日本海側でかなり少なく、北・東日本太平洋側と西日本日本海側で少なかった。東日本日本海側では平年並だった。月最深積雪は、北日本で少ないところが多かった。

4月 東日本太平洋側と西日本で少なかった。北日本と東日本日本海側、沖縄・奄美では平年並だった。

5月 北日本ではかなり多く、東日本と西日本日本海側で多かった。西日本太平洋側と沖縄・奄美では平年並だった。

6月 北日本日本海側、西日本では少なく、東日本日本海側、奄美・沖縄では多かった。北・東日本太平洋側では平年並だった。

7月 北日本日本海側、西日本、沖縄・奄美で多く、北日本太平洋側、東日本で平年並だった。

8月北日本日本海側と西日本でかなり多く、北日本太平洋側と東日本日本海側でも多かった。佐世保(長崎県)、牛深(熊本県)など6地点では8月の月間日照時間の多い方から1位の値を更新し、宿毛(高知県)で1位タイの値を記録した。東日本太平洋側と沖縄・奄美では平年並だった。

9月東・西日本と沖縄・奄美でかなり少なく、北日本で少なかった。松江(島根県)、那覇(沖縄県)など8地点で月間日照時間の少ない方から1位の値を更新した。

10月北日本太平洋側でかなり多く、沖縄・奄美で多かった。広尾(北海道)では月間日照時間の多い方から1位の値を更新した。一方、北日本日本海側、西日本でかなり少なく、東日本太平洋側で少なかった。山口(山口県)、佐世保(長崎県)など12地点で月間日照時間の少ない方から1位の値を更新した。東日本日本海側で平年並だった。

11月東日本日本海側、沖縄・奄美で多かった。北日本日本海側でかなり少なく、北・東日本太平洋側で少なかった。むつ(青森県)では月間日照時間の少ない方から1位の値を更新した。西日本で平年並だった。

12月 北日本日本海側、東日本で多かった。北日本太平洋側、西日本、沖縄・奄美では平年並だった。

1月 西日本でかなり多く、北日本日本海側と東日本で多かった。北日本太平洋側と沖縄・奄美で平年並だった。

2月西日本太平洋側でかなり多く、東日本太平洋側、西日本日本海側で多かった。軽井沢(長野県)、熊谷(埼玉県)で月間日照時間の多い方から1位の値を更新した。北日本日本海側で少なかった。北日本太平洋側、東日本日本海側と沖縄・奄美で平年並だった。

3月 北・東・西日本で多かった。沖縄・奄美では平年並だった。

平均気温

降水量

日照時間

表3.1.1 気象概況1)

87

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 11

- 引 用 文 献 -

1) 気象庁報道発表資料,http://www.jma.go.jp/jma/p

ress/tenko.html(2018.1.5アクセス)

2) 気象庁:黄砂,hhttp://www.data.jma.go.jp/gmd/e

nv/kosahp/kosa_table_1.html(2018.1.5アクセス)

3) J. Kurokawa, T. Ohara, T. Morikawa, S. Hanayama,

G. Janssens-Maenhout, T. Fukui, K. Kawashima, and

H. Akimoto:Emissions of air pollutants and

greenhouse gases over Asian regions during 2000–

2008: Regional Emission inventory in ASia (REAS)

version 2,Atmos. Chem. Phys, 13, 11019-11058, 2013

4) 国家环境保护总局:http://www.mep.gov.cn/gzfw_1

3107/hjtj/hjtjnb/(2018.1.5アクセス)

5) H. Tian, J. Hao, Y. Nie: Recent trends of NOX

Emissions from energy use in China, Proceeding of

7th International Conference on Acidic Deposition,

32, 2005

6) 環境省環境統計集,http://www.env.go.jp/doc/tou

kei/contents/(2018.1.5アクセス)

7) 大原利眞:東アジアにおける広域越境大気汚染モデ

リングの最新動向,水環境学会誌,35,6-9,2013

8) A. Kannari, Y. Tonooka, T. Baba, K. Murano:

Development of multiple-species 1 km × 1 km

resolution hourly basis emissions inventory for

Japan, Atmos. Environ., 41, 3428-3439, 2007

9) 都市環境学教材編集委員会:都市環境学,森北出版,

2003

88

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 12

4.湿性沈着

湿性沈着調査では,日本全域における湿性沈着による

汚染実態を把握することが主目的である。ここでは,湿

性沈着調査における,2016年度のとりまとめについて報

告する。

2016年度の湿性沈着調査に対し,45機関65地点の参加

があった。ただし,4.1で示すとおりデータの精度が基準

を満たしていない地点については,参考値として扱い,

解析からは除外した。

なお,報告値の一部には,他の学術機関との共同研究

および国設局との共用データも含まれている(表2.1.1

参照)。

4.1 データの精度

地域別・季節別のイオン成分の挙動等について解析す

る前に,各機関の測定データの精度について,以下の評

価を行った。

4.1.1 データの完全度

各機関から報告されたデータにおいて,月間または年

間データ同士を比較検討する場合,欠測を考慮したデー

タの完全度が高いことだけでなく,各データ間の測定(試

料採取)期間のズレ(適合度)が小さいことも重要であ

る。そこで,各機関から報告されたデータについて,全

国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会(以下,

全環研)で指定した月区切りに基づいて,完全度(測定

期間の適合度を含む)の評価を行った。定義については,

既報1)を参照頂きたい。

完全度を基に,月間データの場合は60 %未満,年間デ

ータの場合は80 %未満のデータについては解析対象から

除外した。ただし,月間データの完全度は基準以下であ

るがデータが存在する場合,年間データの集計には用い

ている。

2016年度は,月間データでは766個中23データ(3.0 %)が除外され,年間データでは65地点中3地点が除外された。

年間データが除外された3地点には,年度内でサンプリン

グ地点を変更したため完全度が基準を満たさなかった1

地点を含む。除外されたデータは参考値として扱った。

なお,装置の故障等により,ある期間常時開放捕集とな

った地点については,原則としてその期間のデータを参

考値扱いとした。

4.1.2 イオンバランス(R1)および電気伝導率バランス(R2) と分析精度管理調査結果

表4.1.1に示すように,「湿性沈着モニタリング手引き

書(第2版)」2)に従って,イオンバランス(以下,R1)

および電気伝導率バランス(以下,R2)による2つの検定

方法を用い,測定値の信頼性を評価した。なお,各機関

における試料の採取および分析は,原則週単位で行われ

ているため,本来,R1およびR2は個々の試料毎に評価すべ

きである。しかし,全環研への報告値は月区切りを採用

しているため,本報告では月単位の加重平均値を用いて,

R1およびR2を評価した。

完全度の基準を満たした地点の月間データにおいて,

R1による評価では,全ての項目が測定された766個のデー

タ中,R1が許容範囲内にあったデータは727個(適合率

94.9 %)であった。同様に,R2による評価では,R2が許容

範囲内にあったデータは743個(適合率97.0 %)であった。

R1およびR2の分布を図4.1.1に示す。2005~2015年度にお

けるR1およびR2の適合率は,R1: 92~97 %, R2: 94~99 %の範囲にあり高いレベルで保たれている1,3,-12)。

次に,分析精度管理調査について検討した。環境省が

国設大気環境・酸性雨測定所(以下,国設局)を有する

自治体を対象に行っている酸性雨測定分析機関間比較調

査は,全環研から環境省への要望により,国設局以外の

希望自治体についても分析精度管理調査(分析機関間比

較調査)として実施されている。同調査は,模擬酸性雨

試料(高濃度および低濃度の2種類)を各機関に配布し,

その分析結果を解析することにより,分析機関に存在す

る問題点や測定の信頼性の評価を行っている。環境省の

協力のもと,2016年度は全環研会員の自治体のうち国設

局を管理している機関(以下,国設局管理機関)18機関

を除き39機関(以下,精度管理参加機関)がこの調査に

参加した。このうち全環研に湿性沈着の結果を報告して

いる機関(以下,全環研報告機関)は31機関であった。

ΣCi+ΣAi  R1(%)= Λobs  R2(%)=

(μeq L-1) {(ΣCi-ΣAi)/(ΣCi+ΣAi)}×100 (mS m-1) {(Λcal-Λobs)/(Λcal+Λobs)}×100<50 ±30 <0.5 ±20

50~100 ±15 0.5~3.0 ±13>100 ±8 >3.0 ±9

ΣAi = [SO42-] + [NO3

-] + [Cl-]   但し,当量濃度(μeq L-1)

ΣCi = [H+] + [NH4+] + [Na+] + [K+] + [Ca2+] + [Mg2+]   但し,当量濃度(μeq L-1)

Λcal : 測定対象イオンの当量濃度に極限等量電気伝導率を乗じた積算値

Λobs : 降水試料の電気伝導率測定値

表4.1.1 イオンバランス(R1)および電気伝導率バランス(R2)の許容範囲

89

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 13

精度管理機関による測定成分毎のフラグ数と相対標

準偏差を表4.1.2に示す。フラグ数は,東アジア酸性雨モ

ニタリングネットワーク(EANET)の精度管理目標値(DQOs

:Data Quality Objectives,分析の正確さ:±15 %)を

用い,DQOsの2倍まで(±15 %~±30 %)の測定値にはフ

ラグEを,DQOsの2倍(±30 %)を超える測定値にはフラ

グXを付けて判定した。相対標準偏差を求める際には,分

析精度管理調査結果報告書13)の方法に従い,平均値から

標準偏差の3倍以上はずれている測定値は棄却した。高濃

度試料ではDQOsを満たすデータが97.4 %,フラグEまたは

フラグXが付いたデータは,それぞれ2.1 %および0.5 %であった。また,低濃度試料では,DQOsを満たすデータが

87.2 %,フラグEまたはフラグXが付いたデータは,それ

ぞれ8.5 %および4.4 %であった。2015年度12)に比較して,

フラグ付与率は高濃度試料で同程度であり,低濃度試料

では増加した。フラグは陽イオンに多く,特に低濃度試

料における付与数が多かったことは2015年度12)と同様で

あった。

一方,国設局管理機関(18機関)の2016年度分析精度

管理調査13)では,高濃度試料ではDQOsを満たすデータが

99.4 %,フラグEまたはフラグXが付いたデータは,それ

ぞれ0.6 %および0 %であった。低濃度試料では,DQOsを

満たすデータが98.3 %,フラグEまたはフラグXが付いた

データは,それぞれ0.6 %および1.1 %であった。低濃度試

料ではフラグは全て陽イオンの分析データに付与された。

次に,精度管理参加機関間でバラツキの大きな成分を

確認するため,各成分の測定結果の相対標準偏差を比較

した。高濃度試料については,陰イオンは3.5 %以下で陽

図4.1.1 イオンバランス(R1)と総イオン濃度(ΣAi+ΣCi)および電気伝導率バランス(R2)と実測値との比較

90

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 14

イオンは5.6 %以下,低濃度試料では陰イオンは7.3 %以下

で陽イオンは13.6 %以下であった。2015年度13)と同様に

K+,Ca2+およびMg2+のバラツキが大きかった。国設管理機

関が2016年度に行った分析精度管理調査13)では,相対標

準偏差は高濃度試料については4.2 %以下,低濃度試料に

ついては8.5 %以下であった。

以上の結果から,全環研報告機関と国設局管理機関の

フラグの付与率および相対標準偏差を比較すると,全環

研報告機関のほうがフラグ付与率および相対標準偏差精

度管理参加機関ともに高かった。おおむね精度よく測定

が実施されているが,各機関において分析精度管理調査

結果を有効に利用することでさらなる改善が期待できる。

特に低濃度試料に関してはより一層の改善が望まれる。

精度管理参加機関の測定結果のバラツキが大きい成分

は,表4.1.2に示すように,低濃度試料では陽イオンであ

り,陽イオンにフラグの付与数が多かった。これらの項

目の分析精度のさらなる向上により,全体の精度改善に

繋がることが期待される。また,pHではフラグ付与数が0

であり,バラツキも小さいが,H+濃度に換算すると,大

きなバラツキが予想される。R1およびR2の計算過程ではH+

濃度として効いてくること,実際の降水試料の評価では

H+沈着量としての評価も重要であることなどから,pHに

ついては,H+濃度として機関間のバラツキがより小さく

なるよう努力していく必要性が考えられる。

続いて,イオン成分の定量下限値とフラグ付与の関係

について調べた。定量下限値は,イオン成分分析用検量

線を作成する際の最低濃度標準液を5回以上の繰り返し

測定したときの標準偏差(s)から求められる。検出下限値

は3s (µmol L-1),定量下限値は10s (µmol L-1)として計

算される。このため,定量下限値は,イオン類測定の際

の定量値のバラツキ度合いとみなすことができる。イオ

ン成分の定量下限値が定量下限値に係るDQOsを満たして

いない機関数と,その機関のうち分析精度管理調査でフ

ラグが付与された機関数について表4.1.3に示した。定量

下限値がDQOsを満たしていない機関数は,Ca2+およびMg2+

でそれぞれ5機関および3機関と多く,次いでNa+で2機関,

Cl-およびK+でそれぞれ1機関であった。定量下限値がDQOs

を満たしていない機関のうち,分析精度管理調査の高濃

度試料と低濃度試料でフラグが付与された機関数は,定

量下限値がDQOsを満たしていない機関があった全ての測

定項目において1~2機関であった。フラグが付与された

からといって定量下限値>DQOsであるということではな

かったが,定量下限値>DQOsの機関はフラグが付与され

ることが多かった。

さらなる分析精度向上のためには,日常の実降水試料

測定においてのR1およびR2の管理だけにとどまらず,酸性

雨測定分析精度管理調査を積極的に活用し,配布される

模擬酸性雨試料などを「標準参照試料」として利用した

日常的な分析精度の管理を実施していくことが望ましい

と考える。

4.1.3 フィールドブランク

フィールドブランク(以下,FB)試験を実施する毎に,

各機関にて捕集装置の洗浄確認等の自主管理が実行でき

るようにとの目的から,FB試料濃度の上限値(暫定)を

提案した4)。

FB試料から高濃度が検出された場合や,鳥の糞,黄砂,

表4.1.2 分析精度管理調査におけるフラグ数と相対標準偏差

表4.1.3 定量下限値が精度管理目標値を満たしていない機関数,およびその機関のうち分析精度管理調査で

フラグが付与された機関数

n=39

SO42- NO3

- Cl- Na+ K+ Ca2+ Mg2+ NH4+

定量下限値がDQOsを満たしていない機関数 0 0 1 2 1 5 3 0

上記機関のうち,高濃度試料のフラグがついた機関数 0 0 0 0 1 0 1 0

上記機関のうち,低濃度試料のフラグがついた機関数 0 0 1 2 1 2 2 0

定量下限値に係るDQOs(μmol L-1) 0.3 0.5 0.5 0.3 0.3 0.2 0.3 0.8

DQOs:精度管理目標値

pH EC SO42- NO3

- Cl- Na+ K+ Ca2+ Mg2+ NH4+

フラグE 0 1 0 2 0 0 1 0 3 1

フラグX 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0

1.8% 3.6% 2.2% 3.5% 3.1% 4.7% 4.9% 3.6% 5.6% 3.0%

(n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39)

フラグE 0 2 1 0 3 3 6 9 8 1

フラグX 0 1 1 1 1 4 3 3 3 0

2.1% 6.3% 5.7% 4.4% 7.3% 11.0% 13.6% 12.4% 12.1% 5.4%

(n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39)

高濃度試料

相対標準偏差

低濃度試料

相対標準偏差

91

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虫,植物片,種子などの汚染に気付いた際は,採取装置

の洗浄を徹底し,チューブの交換などを実施することで,

流路からの汚染を低減化する必要があると考えられる。

また, 現場においてはFB試料に濁りや不溶性のコンタミ

ネーションがみられないかを確認することや,ポータブ

ルの電気伝導率計により電気伝導率を測定することによ

り,流路からの汚染が少なく保たれているかをチェック

することが望ましい。各機関にてFB試験を実施し,捕集

装置の自主管理を実行することを推奨する。

4.2 ECおよびイオン成分濃度

ここでは,2016年度の湿性沈着調査におけるpH,ECお

よびイオン成分濃度について報告する。

解析対象は,4.1.1で示したとおり,完全度(測定期間

の適合度を含む)が,月間データで60 %以上,年間デー

タで80 %以上の地点のデータを有効とした。なお,試料

採取時にオーバーフローがあり,降水量の算出ができな

い試料については,近接の気象観測所等の降水量データ

を採用した。

図4.2.1 地域区分

92

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表4.2.1 湿性イオン成分等の地点別年加重平均濃度

地点名 地域 降水量 pH EC SO42-

nss-SO42- NO3

- Cl- NH4+ Na+ K+ Ca2+

nss-Ca2+ Mg2+ H+

区分1) SO2 NOx NH3 (mm) (mS m-1)

利尻 NJ 1.27 0.51 0.02 1208 4.88 2.03 12.6 8.1 11.3 83.6 11.8 73.5 2.0 3.7 2.1 8.4 13.1母子里 NJ 0.12 0.76 0.49 (1563.0) (4.9) (2.7) (15.8) (9.7) (17.8) (114.1) (17.8) (100.5) (5.2) (7.2) (4.9) (11.7) (12.0)札幌北 NJ 5.18 25.61 1.07 1235 4.87 1.70 10.6 7.6 9.9 60.2 13.1 50.4 1.5 3.0 1.9 5.8 13.4青森東造道 NJ 1.18 3.59 0.44 1359 4.84 3.94 22.1 12.1 17.4 191.8 19.6 164.4 4.2 9.0 5.3 18.9 14.4鰺ヶ沢舞戸 NJ 0.20 1.15 0.51 1303 4.81 6.17 31.6 13.6 19.6 346.6 18.7 297.6 7.2 10.4 3.7 34.0 15.4涌谷 NJ 1.83 5.75 2.45 1035 4.97 1.08 7.7 6.4 9.7 26.3 11.5 21.9 0.8 1.7 1.2 2.6 10.7秋田千秋 NJ 4.37 6.14 0.53 1602 4.92 3.45 24.0 14.2 18.9 189.8 23.4 161.4 5.4 7.6 4.0 17.1 12.1三春 EJ 1.31 6.42 1.00 1086 5.03 0.75 6.7 6.3 10.6 8.9 9.1 7.6 0.7 3.3 3.1 1.4 9.3小名浜 EJ 13.81 16.92 0.99 1303 5.36 1.55 12.5 10.0 8.8 46.1 10.9 41.2 0.8 1.7 0.8 4.0 4.4新潟曽和 JS 2.60 9.49 1.28 1287 4.71 3.04 19.2 12.3 15.9 133.6 18.8 113.7 3.0 4.7 2.2 13.1 19.4長岡 JS 2.88 10.93 2.79 2447 4.70 3.73 24.2 15.1 20.1 174.1 23.6 149.4 3.8 6.0 2.6 17.1 20.2新潟大山 JS 2.75 12.68 1.74 1508 4.86 3.91 27.8 17.7 21.7 189.7 30.6 166.6 4.8 8.8 5.1 19.4 13.6新潟小新 JS 2.64 9.73 1.66 1406 4.68 3.66 23.6 15.0 20.1 159.6 23.1 140.9 4.0 6.5 3.3 16.4 20.9日光 EJ 2.49 18.24 3.51 1803 5.29 0.57 5.4 5.1 6.5 4.8 5.9 4.1 1.6 2.4 2.3 0.9 5.2宇都宮 EJ 2.88 10.93 2.79 1623 5.06 1.20 11.9 11.1 20.9 13.7 25.4 11.8 1.1 3.5 3.2 1.8 8.7小山 EJ 8.63 59.68 4.64 1226 5.31 1.09 12.8 11.9 21.2 16.4 30.8 13.7 1.4 7.9 7.5 2.8 5.0加須 EJ 2.49 18.24 3.51 1096 5.10 0.99 9.3 8.7 20.4 15.5 19.1 10.7 1.1 5.3 5.0 2.5 8.0さいたま EJ 7.46 48.21 5.19 1344 4.84 1.42 11.6 10.5 23.0 20.6 25.1 17.6 0.8 3.7 3.3 2.5 14.5土浦 EJ 1.44 7.73 3.20 1093 5.33 1.23 10.9 9.3 16.2 29.5 23.3 25.8 2.4 4.8 4.2 3.3 4.7前橋 EJ 4.13 12.96 7.55 1129 5.17 1.07 9.4 9.1 23.6 7.6 37.0 4.9 0.4 2.7 2.6 0.9 6.7市川 EJ 8.63 59.68 4.64 1317 5.05 0.82 8.6 7.6 10.6 21.1 11.7 15.4 0.4 1.6 1.2 1.8 9.0市原 EJ 13.96 44.28 3.14 1573 4.99 1.25 14.6 12.8 11.0 36.8 14.6 29.3 0.5 4.1 3.4 3.7 10.1銚子 EJ 10.17 8.98 3.92 1755 5.68 1.99 13.1 7.0 8.3 121.6 23.7 101.5 1.2 2.8 0.7 9.4 2.1一宮 EJ 0.23 1.97 0.97 1661 5.14 1.73 11.4 6.5 8.0 98.3 10.7 81.1 0.8 2.4 0.8 7.9 7.2旭 EJ 16.98 74.45 3.11 1947 5.86 1.92 11.3 6.2 12.7 101.9 39.3 83.6 0.8 2.2 0.5 6.7 1.4佐倉 EJ 2.96 26.96 3.01 1562 5.23 0.88 8.8 7.3 10.7 29.6 10.1 24.4 0.8 2.9 2.4 2.8 5.9清澄 EJ 0.16 1.14 0.92 1992 5.31 1.43 12.2 8.4 9.4 78.1 7.5 63.0 1.2 6.5 5.1 6.7 4.9勝浦 EJ 0.16 1.06 0.66 2194 5.18 1.60 9.5 4.5 4.6 100.8 4.6 82.4 0.7 2.4 0.6 8.8 6.5宮野木 EJ 12.33 42.86 3.97 1329 5.18 1.08 8.6 7.1 8.1 32.0 10.8 25.5 1.7 6.6 6.0 4.4 6.6平塚 EJ 1.42 17.70 3.03 1210 5.11 1.65 13.7 10.8 21.9 52.9 30.4 48.1 1.8 5.0 4.0 4.9 7.7川崎 EJ 6.11 15.55 1.80 1317 5.42 1.12 11.9 10.3 11.5 33.1 18.9 26.0 4.7 6.5 5.9 4.2 3.8長野 CJ 1.35 4.76 0.61 742 5.05 0.78 6.7 6.3 10.1 8.8 11.9 6.3 0.6 1.8 1.6 1.1 8.9静岡小黒 CJ 3.29 10.23 1.42 1930 5.02 1.22 9.1 7.3 10.8 36.1 8.6 30.6 1.1 2.4 1.7 4.0 9.6静岡北安東 CJ 3.15 9.89 1.38 2333 5.04 1.09 5.4 4.1 7.7 27.2 8.3 20.8 0.7 2.5 2.0 2.8 9.1射水 JS 6.11 15.55 1.80 1973 4.71 2.59 17.5 12.5 18.5 96.3 19.0 82.0 2.3 4.3 2.5 9.5 19.4金沢 JS 2.74 6.93 1.12 2675 4.67 2.93 18.3 12.3 16.5 109.4 16.6 98.4 3.2 4.6 2.4 11.9 21.4福井 JS 2.41 7.77 0.80 1141 4.67 2.54 16.6 12.0 18.7 86.9 13.6 75.7 2.2 3.4 1.7 8.5 21.4伊自良湖 CJ 10.23 51.61 4.70 3068 4.74 1.39 12.0 11.2 15.1 16.5 14.6 13.5 0.5 1.8 1.5 1.7 18.4豊橋 CJ 2.36 10.81 4.18 1571 5.15 1.22 10.0 8.2 14.5 34.6 14.2 30.9 1.2 6.0 5.3 4.4 7.1名古屋南 CJ 10.23 51.61 4.70 1526 5.24 1.07 9.9 8.6 14.7 24.6 17.9 20.9 1.0 3.2 2.8 2.7 5.7四日市桜 CJ 4.10 17.71 2.31 2225 4.68 1.56 12.1 10.4 16.1 28.6 23.6 26.8 1.3 1.6 1.0 2.7 21.0大津柳が崎 CJ 3.92 17.74 1.34 1678 4.93 1.13 9.3 8.3 14.5 20.3 12.9 17.4 1.2 2.3 1.9 2.1 11.8神戸須磨 CJ 10.20 30.41 1.05 1187 4.75 1.60 13.8 11.9 15.0 34.5 13.0 30.3 1.1 2.5 1.9 3.6 17.9海南 CJ 9.97 14.10 1.12 1441 4.82 1.19 9.5 8.4 11.4 24.9 10.8 17.7 0.6 3.0 2.6 2.2 15.2若桜 JS 0.03 0.50 0.30 2364 4.76 2.01 13.0 9.7 13.9 60.2 10.5 55.4 1.9 2.8 1.5 6.5 17.5湯梨浜 JS 0.25 1.30 0.86 2057 4.62 4.42 22.8 12.2 18.7 191.1 14.0 173.9 4.3 5.6 1.8 18.6 23.8松江 JS 0.46 2.49 0.56 1861 4.62 3.76 23.2 14.7 21.7 160.6 18.7 139.3 4.2 6.1 3.0 16.5 23.8広島安佐南 WJ 3.35 12.32 1.04 2353 4.60 1.71 12.1 11.0 18.4 20.4 8.5 17.9 0.8 2.3 1.9 2.4 25.0山口 WJ 2.28 5.84 0.63 2384 4.69 1.82 15.8 13.8 18.7 35.2 16.9 33.9 2.1 4.0 3.2 4.3 20.6徳島 CJ 2.04 8.03 1.76 1555 4.84 1.20 8.7 7.3 12.6 26.6 10.9 23.0 1.1 3.0 2.4 2.8 14.6太宰府 WJ 3.94 21.34 1.90 2396 4.82 1.25 11.0 9.8 11.4 21.2 11.5 18.8 1.0 2.7 2.3 2.3 15.1福岡 WJ 2.43 14.89 1.38 2903 4.84 1.22 10.7 9.2 11.6 30.4 13.9 26.2 1.3 2.1 1.5 3.3 14.4佐賀 WJ 2.50 6.92 1.63 2258 4.69 1.47 13.5 12.6 11.9 17.3 15.6 15.0 1.0 2.5 2.2 1.9 20.6諫早 WJ 5.88 7.58 1.30 1907 4.72 1.62 13.2 11.2 14.0 38.4 15.4 32.8 1.1 3.1 2.4 4.9 19.2長崎 WJ 1.17 4.99 0.62 1573 4.80 1.32 10.0 8.4 9.2 31.3 10.0 26.9 0.9 2.7 2.1 3.9 15.7佐世保 WJ 4.30 8.39 1.37 2344 4.87 1.45 13.6 11.8 13.7 40.0 11.8 28.9 2.3 5.9 5.3 7.5 13.4阿蘇 WJ 0.30 1.33 1.72 3802 4.61 1.56 15.3 14.7 10.7 15.5 16.1 8.8 0.9 1.9 1.8 1.3 24.8宇土 WJ 2.07 8.38 1.47 2650 4.85 1.11 10.4 9.7 10.4 15.0 12.6 12.0 0.9 2.2 2.0 1.6 14.3画図町 WJ 1.65 8.71 2.93 2426 4.87 1.03 11.0 10.4 10.5 11.5 13.8 8.9 1.0 2.2 2.0 1.5 13.5大分 WJ 15.09 19.72 1.30 2423 4.65 1.99 34.5 33.8 11.0 18.6 9.6 11.7 0.7 14.9 14.7 3.4 22.4宮崎 WJ 0.56 3.25 1.14 3400 5.04 1.24 10.3 8.2 9.6 39.8 11.7 35.0 1.1 2.5 1.8 4.4 9.0鹿児島 WJ 1.41 5.88 1.37 2028 4.71 1.96 15.3 12.4 10.5 58.7 13.8 47.9 1.4 3.1 2.0 5.4 19.7大里 SW 6.30 7.83 2.08 (2057.0) (5.8) (2.1) (10.8) (6.1) (8.7) (89.4) (46.4) (77.4) (16.0) (8.3) (6.6) (13.5) (1.8)辺戸岬 SW 0.00 0.05 0.35 1491 5.20 2.08 13.0 5.5 8.5 145.4 8.6 123.3 3.1 3.9 1.2 15.4 6.3うるま SW 10.65 9.93 1.38 (82.0) (5.1) (3.8) (31.8) (22.6) (32.3) (171.1) (51.2) (151.4) (4.8) (25.2) (21.8) (19.3) (8.8)

最 低 値 742 4.60 0.57 5.4 4.1 4.6 4.8 4.6 4.1 0.4 1.6 0.5 0.9 1.4最 高 値 3802 5.86 6.17 34.5 33.8 23.6 346.6 39.3 297.6 7.2 14.9 14.7 34.0 25.0

加重平均値※ 1800 4.87 1.81 13.8 10.7 13.6 61.4 15.5 52.3 1.7 4.0 2.8 6.2 13.91)地域区分 (NJ:北部、JS:日本海側、EJ:東部、CJ:中央部、WJ:西部、SW:南西諸島)※降水量は、単純平均値 最大値: 白抜き 最小値: 斜体 参考値:(括弧)

排出量(t km-2 y-1)

(μmol L-1)

93

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 17

4.2.1 降水量および酸性成分濃度による地域区分

地域毎の特徴を把握するために,全国に分布する調査

地点を,「北部(NJ:Northern Japan area)」「日本海

側(JS:Japan Sea area)」「東部(EJ:Eastern Japan

area)」「中央部(CJ:Central Japan area)」「西部

(WJ:Western Japan area)」および「南西諸島(SW:

Southwest Islands area)」の6つの地域区分に分類した。

地点毎の地域区分を,図4.2.1および表4.2.1に示す。な

お,地域区分の設定方法等については,既報1)を参照頂き

たい。

4.2.2 pH, ECおよびイオン成分濃度の年加重平均値

2016年度の年間データが有効となった地点(62地点)

における,降水量および湿性イオン成分濃度等の年加重

平均濃度を表4.2.1に示す。また,主要イオン成分濃度に

ついて,地域区分別に箱ひげ図を図4.2.2に示す。なお,

“nss-”は「非海塩性(nss:non sea salt)」を表し,海

塩性イオン(Na+をすべて海塩由来として海塩組成比から

算出)を差し引いた残りであることを示している。

2016年度の年間降水量は,742(長野)~3,802 mm(阿蘇)

の範囲にあり,単純平均は1,800 mmであった。地域別で

は,西部で多く,北部で少ない傾向を示した。

年間平均pHは,4.60(広島安佐南)~5.86(旭)の範囲で,

加重平均は4.87であった。最高値を観測した旭は周辺に

大規模な畜産施設があり,その影響を受けたと考えられ

る。H+濃度としては,加重平均は13.9 µmol L-1であり,

日本海側高く,東部で低い傾向がみられた。

年間平均ECは,0.57(日光)~6.17 mS m-1(鯵ヶ沢舞戸)

の範囲で,加重平均は1.81 mS m-1であった。

海塩粒子からの寄与を示す成分としてはNa+が用いら

れる。2016年度の年間平均Na+濃度では,4.1(日光)~

297.6 µmol L-1(鯵ヶ沢舞戸 )の範囲で,加重平均は

52.3 µmol L-1であった。

次に湿性沈着の汚染状況を把握するのに重要なイオン

成分(nss-SO42-,NO3

-,NH4+およびnss-Ca2+)について記す。

降水の酸性化の原因となる酸性成分については,次の

図4.2.2 主要イオン成分の年加重平均濃度の分布

94

※SWは2016年度の解析対象が1地点のみであった。

a:箱の端からの距離が箱の長さの1.5倍以上

b:外れ値を除いた最大値又は最小値

0

5

10

15

20

25

30

NJ JS EJ CJ WJ SW

H+ (µ

mol L

-1)

0500

1000150020002500300035004000

NJ JS EJ CJ WJ SW

precip

itat

ion

(mm

y-1) 外れ値a

最大値b

3/4位c

中央値c

平均値

1/4位c

最小値bc

05

10152025303540

NJ JS EJ CJ WJ SW

nss

-SO

42-(µ

mol

L-1)

0

5

10

15

20

25

NJ JS EJ CJ WJ SW

NO

3-(µ

mol L

-1)

05

1015202530354045

NJ JS EJ CJ WJ SW

NH

4+ (µ

mol L

-1)

02468

10121416

NJ JS EJ CJ WJ SW

nss

-C

a2+ (µ

mol L

-1)

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 18

とおりであった。

年間平均nss-SO42-濃度は,4.1(静岡北安東)~33.8

µmol L-1(大分)の範囲で,加重平均は10.7 µmol L-1であっ

た。大分で観測された高濃度は,2016年10月8日に発生し

た阿蘇山の噴火が大きく影響したと考えられる。地域別

では,日本海側および西部で高く,南西諸島で低い傾向

を示した。

年間平均NO3-濃度は,4.6(勝浦)~23.6 µmol L-1(前橋)

の範囲で,加重平均は13.6 µmol L-1であった。地域別で

は,東部および日本海側で高く,南西諸島で低い傾向を示

した。

降水中の塩基性成分については,次のとおりであった。

年間平均NH4+濃度は,4.6(勝浦)~39.3 µmol L-1(旭)の

範囲で,加重平均は15.5 µmol L-1であった。地域別では,

東部で高く,南西諸島で低い傾向を示した。

年間平均nss-Ca2+濃度は,0.5(旭)~14.7 µmol L-1(大

分)の範囲で,加重平均は2.8 µmol L-1であった。地域別

では,西部で高く,南西諸島で低い傾向を示した。

4.2.3 pHおよびイオン成分濃度の季節変動

湿性沈着による汚染実態を把握するのに重要と考えら

れる項目について,2016年度の季節変動を地域区分別に

図4.2.3に示す。地域区分別の月間代表値としては,地域

区分内での中央値を採用した。なお,中央値を採用した

理由は,データ数が比較的少ないため,平均値を採用す

ると1つの外れ値に引きずられて,代表性が乏しくなると

考えられるためである。

降水量は,西部,および南西諸島では春季に,北部,

東部,中央部では夏季に,日本海側では冬季に多い傾向

を示した。

H+濃度は,東部では夏季に,北部,日本海側,中央部,

西部および南西諸島では冬季に,高い傾向が見られた。

nss-SO42-濃度は,おおむねどの地域も,冬季に高い傾

図4.2.3 イオン成分濃度の地域別季節変動 (中央値)

95

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 19

向が見られた。

NO3-濃度は,東部では夏季に,北部,日本海側,中

央部,西部および南西諸島では冬季に,高い傾向が見

られた。

NH4+濃度はおおむねどの地域も,冬季に高い傾向が見

られた。

nss-Ca2+濃度は,他のイオン成分に比較して,年間を

通し,低い値で推移していたが,冬季に高濃度となる

傾向が見られた。

濃度の季節変動において特徴的なことの一つは,ほ

とんどの地域において冬季に,多くの物質の濃度が高

くなったことが挙げられる。地理的要因や冬季の風向

図4.3.1 主要イオン成分年間沈着量および降水量の分布

表4.3.1 降水量と主要イオン成分の年間沈着量

最小値 (地点名)

最大値 (地点名)

742 (長野)

3802 (阿蘇)

4.7 (長野)

81.9 (大分)

7.5 (長野)

49.2 (長岡)

8.8 (長野)

76.6 (旭)

1.0 (旭)

35.5 (大分)

2.7 (旭)

94.2 (阿蘇)H + (〃) 19.9

NH 4+ (〃) 25.2

nss-Ca 2+ (〃) 4.5

nss-SO 42-

(mmol m-2 y-1) 14.4

NO 3- (〃) 24.0

項目 (単位) 中央値

降水量 (mm y-1) 1573

96

a:箱の端からの距離が箱の長さの1.5倍以上

b:外れ値を除いた最大値又は最小値

※SWは2016年度の解析対象が1地点のみであった。

0

20

40

60

80

100

NJ JS EJ CJ WJ SW

H+ (m

mol m

-2y-

1)

外れ値a

最大値b

3/4位c

中央値c

平均値

1/4位c

最小値bc

0102030405060708090

NJ JS EJ CJ WJ SW

nss

-SO

42-(m

mol

m-2y-

1)

0

10

20

30

40

50

60

NJ JS EJ CJ WJ SW

NO

3-(m

mol m

-2y-

1)

0102030405060708090

NJ JS EJ CJ WJ SW

NH

4+ (m

mol m

-2y-

1)

05

10152025303540

NJ JS EJ CJ WJ SW

nss

-C

a2+ (m

mol m

-2y-

1)

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等を考慮すると,大陸からの汚染物質の移流が示唆され

た。なお,2005年度までは,この大陸からの越境大気汚

染を示唆する傾向は,日本海側で顕著であった1)が,2006

年度にはその傾向が西部でも確認され3),2007~2015年度

も引き続き同様の傾向がみられた4-12)。また,東部では

夏季にも小さなピークが見られており,特にNO3-で顕著な

ため地域汚染の影響を受けた可能性がある。

4.3 イオン成分湿性沈着量

イオン成分の年間沈着量や月間沈着量の,地点間や地

域間の比較を行った。解析対象は4.2と同様に扱った。

4.3.1 年間沈着量

2016年度の年間データが有効となった62地点における

年間降水量および主要イオン成分の年間沈着量について,

表4.3.1に要約した。また,図4.3.1には主要イオン成分

の沈着量について,地域区分別に箱ひげ図を示した。な

お,年間沈着量は,年平均濃度に年間降水量を掛け合わ

せることにより算出した。

H+,nss-SO42-およびnss-Ca2+沈着量は西部で多く,西部

に お け る 中 央 値 は そ れ ぞ れ 43.9 , 31.5 お よ び

7.8 mmol m-2 y-1であった。

NO3-沈着量は日本海側で多い傾向を示し,中央値は

34.5 mmol m-2 y-1,それ以外の地域では中央値が12.7~

30.2 mmol m-2 y-1の間であった。

NH4+沈着量は日本海側で多く中央値は34.7 mmol m-2 y-1,

それ以外の地域では中央値が12.8~32.6 mmol m-2 y-1の間

であった。

4.3.2 沈着量の季節変動

地域別の降水量(再掲)および主要イオン成分沈着量

0

100

200

300

400

500

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

Pre

cip

itation

(mm

)

Month

NJ

JS

EJ

CJ

WJ

SW

(再掲)

0123456789

10

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

H+

(mm

ol m

-2)

Month

NJ

JS

EJ

CJ

WJ

SW

0123456789

10

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

nss-

SO42-

(mm

ol m

-2 )

Month

NJ

JS

EJ

CJ

WJ

SW 0123456789

10

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

NO

3-(m

mol m

-2 )

Month

NJ

JS

EJ

CJ

WJ

SW

0123456789

10

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

NH

4+(m

mol m

-2 )

Month

NJ

JS

EJ

CJ

WJ

SW 00.10.20.30.40.50.60.70.80.9

1

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

nss-

Ca2+

(mm

ol m

-2 )

Month

NJ

JS

EJ

CJ

WJ

SW

図4.3.2 イオン成分沈着量の地域別季節変動(中央値)

97

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の季節変動を図4.3.2に示す。4.2.3章と同様に,月間

代表値として中央値を採用した。

H+沈着量は,日本海側では11月から2月に最も多い傾向

であり,次いで9月に多く,西部では6月から9月にかけて,

中央部では9月に多かった。同様の傾向がnss-SO42-沈着量

でみられた。

NO3-沈着量は日本海側で12月~3月に多い傾向であり,

NH4+沈着量でも同様の傾向が見られた。またNH4

+沈着量は

東部では7月~9月に多い傾向であり,西部と南西諸島で

は1月に多くなった。

nss-Ca2+沈着量は,多くの地点で4月に最も多くなった。

その他に多くなった月としては北部で11月,日本海側で

12月~3月,南西諸島は2月で多くなった。

4.4 高濃度現象について

本年度の調査では,H+, SO42-(nss-SO4

2-)およびCa2+

(nss-Ca2+)について,西部で外れ値となる高い値が見ら

れた(図4.2.2および図4.3.1)。これらはいずれも,大

分(大分県)で観測されたデータで,高濃度となったの

は2016年10月3日~11日に採取された雨である。この要因

として考えられるのは2016年10月8日午前2時ごろにあっ

た阿蘇山の爆発的噴火が挙げられる。しかし,測定地点

の阿蘇(熊本県)では,当該期間に採取された雨につい

て,イオン成分で特に高い値は測定されなかった。測定

地点近隣の気象庁のデータを確認すると,爆発的噴火が

起きてからは,両地点とも8日夕方から翌9日の未明ごろ

まで雨が降っていた。両地点共に,当該期間の雨が噴火

による影響を受けることは十分に考えられるが,大分の

みで影響が見られた。

この原因としては,火山噴出物への風の影響が挙げら

れる。阿蘇山の火山活動解説資料14)によると,降灰が確

認されたのは阿蘇山以東の範囲であった。火山噴出物の

多くは,同様に阿蘇山以東へ広がったと考えられる。大

分は阿蘇山の東に位置しているが,阿蘇は阿蘇山から見

て北に位置している。そのため,雨の降りだしたタイミ

ングも影響して,直近の阿蘇では噴火の影響が見られな

かったのに対し,大分で大きく影響が現れたと考えられ

る。火山活動解説資料14)によれば,降灰は香川県の方ま

で確認されており,瀬戸内海の南部は広域で影響を受け

ている。当該地域に酸性雨の測定地点があれば,同様に

噴火の影響を受けていた可能性がある。

- 引 用 文 献 -

1) 全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平

成17年度),全国環境研会誌,32,78-152,2007

2) 環境省地球環境局環境保全対策課,酸性雨研究セン

ター:湿性沈着モニタリング手引き書(第2版),2001,

http://www.env.go.jp/air/acidrain/man/wet_deposi

/index.html

3) 全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平

成18年度),全国環境研会誌,33,126-196,2008

4) 全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平

成19年度),全国環境研会誌,34,193-223,2009

5) 全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平

成20年度),全国環境研会誌,35,88-138,2010

6) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部

会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成21年度),全国

環境研会誌,36,106-146,2011

7) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部

会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成22年度),全国

環境研会誌,37,110-158,2012

8) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部

会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成23年度),全国

環境研会誌,38,84-126,2013

9) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部

会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成24年度),全国

環境研会誌,39,100-146,2014

10) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部

会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成25年度),全国

環境研会誌,40,98-142,2015

11) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部

会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度),全国

環境研会誌,41,3,2-37,2016

12) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部

会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成27年度),全国

環境研会誌,42,3,83-126,2017

13) 一般財団法人日本環境衛生センター アジア大気

汚染研究センター:平成28年度酸性雨測定分析精度管

理調査結果報告書(国設酸性雨測定所),2017

14) 福岡管区気象台 地域火山監視・警報センター:阿

蘇山の火山活動解説資料(平成28年10月),2016

http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/ST

OCK/monthly_v-act_doc/fukuoka/16m10/503_16m10.pd

f

98

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5.乾性沈着(フィルターパック法)

2016年度のフィルターパック法(以下,FP法)による乾

性沈着調査地点および地域区分を図5.1.1に示す。2016

年度は30地点で乾性沈着調査を実施した。地域区分は,

湿性沈着と同じく,北部[NJ],日本海側[JS],東部[EJ],

中央部[CJ],西部[WJ]および南西諸島[SW]の6地域とした。

なお,調査結果には国設局および他の学術機関との共

同研究データが含まれているが,データ確定を部会基準

(5.1に後述)で行ったため,特に国設局については環境

省が公表したデータ1)と異なる場合がある。また,成分名

に付してある(g)はガス状成分を,(p)は粒子状成分をそ

れぞれ表す。

5.1 データ確定

5.1.1 完全度および流量変動による判定

FP法の有効データ数を表5.1.1に示す。データ確定にお

いては,完全度(測定期間の適合度を含む)を指標として,

月データで60%以上,年データで80%以上の場合を有効デ

ータとし,それ以外を参考値として解析対象から除外し

た。ただし,月データの完全度が60%未満でも,年データ

が80%以上であれば,年平均値は解析対象とした。また,

サンプリングや測定に不具合があると考えられた場合は

参考値または欠測とした。

図5.1.1 FP法の調査地点(地域区分は表2.1.1のとおり)

99

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 23

これまでの調査結果から,FP法は吸引流量の変動が大

きいと異常値になりやすいことがわかっている2)。そのた

め,設定流量の変更等の明確な理由がないにも関わらず

流量変動が大きかった場合(年間の平均流量と標準偏差

から算出した変動係数が30%以上)は年間を通して参考値

としている。2016年度は,流量変動を理由として解析対

象から除外された調査地点はなかった。

5.1.2 定量下限値の設定

定量下限値は,EANET3)の基準値(粒子:0.01 μg m-3,

ガス:0.1 ppb)を用いた。吸引流量は1 L min-1を基準と

し,X L min-1の場合は1/X倍した値を定量下限値とした。

なお、定量下限値の判定は,月および年平均濃度に対

して行い,定量下限値未満の場合は解析対象から除外し

た。

5.1.3 非海塩成分の算出

SO42-(p)およびCa2+(p)については,試料中のNa+(p)濃度

と海水中でのモル濃度比とを用いて,以下の式により非

海塩(nss:non sea salt)由来成分濃度を算出した。

nss-SO42-(p)=SO4

2-(p)-0.0607×Na+(p)

nss-Ca2+(p)=Ca2+(p)-0.0224×Na+(p)

5.1.4 ガス・粒子間反応の測定結果への影響

サンプリング期間中,大気中と同様に,フィルター上

ではガスと粒子の間で様々な可逆あるいは不可逆反応が

生じていると考えられるが,フィルターに捕集された後

に生じるこれらの反応によるアーティファクトを分別し

て評価することは困難である。そこで,前年度4)までと同

様に,平衡関係にあると考えられるガスと粒子について

は,全硝酸(HNO3(g)+NO3-(p)),全アンモニア(NH3(g)+

NH4+(p)),全塩化物(HCl(g)+Cl-(p))のようにガスと粒子

の総計でも評価した。

15ptあき

5.2 大気中のガス状および粒子状成分濃度

5.2.1 年平均濃度の地域特性

ガス状成分について,地点別年平均濃度を表5.2.1に,

地域区分別の年平均濃度の箱ひげ図を図5.2.1に示す。粒

子状成分について,地点別年平均濃度を表5.2.2に,地域

区分別の年平均濃度の箱ひげ図を図5.2.2に示す。ガス状

および粒子状成分の総計について,地点別年平均濃度を

表5.2.3に,地域区分別の年平均濃度の箱ひげ図を

図5.2.3に示す。箱ひげ図は,各地域区分の地点別年平均

濃度の 25%点と75%点がボックスの両端で表され,そのボ

ックス内の黒線は中央値を、赤線は平均値を表す。エラ

ーバーは10%点と90%点を表し,10~90%点から外れる値は

○で示されている。

5.2.1.1 ガス状成分

SO2(g)の年平均濃度の範囲は5.7~109.6 nmol m-3(平均

値29.8 nmol m-3)であり,最高値は大分,次いで市原,最

低値は利尻であった。大分は阿蘇山等を起源とする火山

ガスの影響で,市原は重油ボイラーが多く存在する工業

地帯の影響でSO2(g)濃度が高いと考えられる。SO2(g)は西

部で高く,日本海側および南西諸島で低い傾向がみられ

た。

HNO3(g)の年平均濃度の範囲は2.3~34.1 nmol m-3(平均

値13.8 nmol m-3)であり,最高値は大分,次いで神戸須磨,

最低値は母子里であった。HNO3(g)は西部で高く,北部お

よび南西諸島で低い傾向がみられた。

HCl(g)の年平均濃度の範囲は5.5~39.6 nmol m-3(平均

値23.1 nmol m-3)であり,最高値は神戸須磨,次いで大分,

最低値は母子里であった。HCl(g)は西部で高く,北部で

低い傾向がみられた。

NH3(g)の年平均濃度の範囲は12.0~3510.8 nmol m-3(平

均値234.5 nmol m-3)であり,最高値は旭,次いで前橋,

最低値は利尻であった。NH3(g)濃度は東部の旭や前橋,

成分 地点数 欠測数 データ数

完全度60%未満

その他参考値

適合数定量下限値未満

有効データ

割合(%) 欠測数 データ数完全度

80%未満その他参考値

適合数定量下限値未満

有効データ

割合(%)HNO3(g) 30 8 352 18 0 334 42 95 0 30 3 0 27 1 90SO2(g) 30 8 352 18 0 334 7 95 0 30 3 0 27 0 90HCl(g) 30 8 352 18 0 334 3 95 0 30 3 0 27 0 90NH3(g) 30 8 352 18 0 334 0 95 0 30 3 0 27 0 90SO4

2-(p) 30 8 352 18 0 334 0 95 0 30 3 0 27 0 90NO3

-(p) 30 8 352 18 0 334 0 95 0 30 3 0 27 0 90Cl-(p) 30 8 352 18 0 334 2 95 0 30 3 0 27 0 90Na+(p) 30 8 352 18 0 334 0 95 0 30 3 0 27 0 90K+(p) 30 8 352 18 0 334 3 95 0 30 3 0 27 0 90

Ca2+(p) 30 8 352 18 0 334 1 95 0 30 3 0 27 0 90Mg2+(p) 30 8 352 18 0 334 1 95 0 30 3 0 27 0 90NH4

+(p) 30 8 352 18 0 334 0 95 0 30 3 0 27 0 90

月平均濃度 年平均濃度

表5.1.1 FP法による調査結果の有効データ数

100

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<特集> 第6次酸性雨全国調査報告書(平成28年度)

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 24

南西諸島の大里のように畜産業の影響を受けていると考

えられる地点や都市部で高い傾向がみられた。

5.2.1.2 粒子状成分

SO42-(p)の年平均濃度の範囲は16.8~83.5 nmol m-3(平

均値34.6 nmol m-3),nss-SO42-(p)は15.7~81.0 nmol m-3(平

均値31.5 nmol m-3)であり,いずれも最高値は大分,次い

で宮崎,最低値は母子里であった。

nss-SO42-(p)濃度は西部で高く,北部で低くなり,西高

東低の傾向がみられた。このようなnss-SO42-(p)濃度の分

布は,Aikawa et al.(2008)5) が指摘しているように,ア

ジア大陸の汚染大気の移流の影響を反映していると考え

られる。

NO3-(p)の年平均濃度の範囲は5.9~53.7 nmol m-3(平均

値27.7 nmol m-3)であり,最高値は市原,次いで太宰府,

最低値は母子里であった。NO3-(p)濃度は西部や東部で高

く,北部で低い傾向がみられた。

Cl-(p)の年平均濃度の範囲は1.9~152.1 nmol m-3(平均

値36.9 nmol m-3)であり,最高値は辺戸岬,次いで大里,

最低値は伊自良湖であった。Cl-(p)濃度は南西諸島で高

い傾向がみられた。

Na+(p)の年平均濃度の範囲は10.8~161.7 nmol m-3(平

均値50.6 nmol m-3)であり,最高値は辺戸岬,次いで大里,

最低値は伊自良湖であった。Na+(p)濃度は南西諸島で高

い傾向がみられた。

K+(p)の年平均濃度の範囲は1.1~6.1 nmol m-3(平均値

3.3 nmol m-3)であり,最高値は大分,次いで福井,最低

No. 都道府県市 地点名 SO2(g) HNO3(g) HCl(g) NH3(g)

1 北海道 利尻* 5.7 3.2 14.1 12.02 北海道 母子里* 9.9 2.3 5.5 17.93 北海道 札幌北* 49.7 5.8 12.6 52.14 新潟県 新潟曽和 11.5 8.0 23.1 62.85 新潟県 長岡 12.1 11.1 16.5 77.26 群馬県 前橋 16.6 24.4 20.6 454.17 埼玉県 加須* 21.6 30.2 29.0 177.58 千葉県 旭 15.2 5.0 16.1 3510.89 千葉県 勝浦 23.0 5.9 29.0 74.010 千葉県 清澄 34.1 6.8 26.9 61.811 千葉県 市原 88.1 9.4 23.5 141.212 千葉県 佐倉 29.6 13.2 34.0 134.213 長野県 長野 14.7 16.2 23.2 102.414 静岡県 静岡北安東* 17.0 12.4 19.3 75.215 富山県 射水* (15.8) (7.6) (11.6) (71.6)16 石川県 金沢 14.9 8.4 15.4 34.017 福井県 福井 29.8 14.5 31.7 80.318 岐阜県 伊自良湖 8.9 7.6 6.8 32.519 愛知県 豊橋 27.1 19.5 23.9 138.920 名古屋市 名古屋南 33.1 24.8 31.8 102.521 和歌山県 海南* 29.3 18.5 20.5 80.222 兵庫県 神戸須磨 70.9 32.1 39.6 83.523 鳥取県 湯梨浜 19.1 3.8 10.9 82.724 福岡県 太宰府 45.6 25.4 28.8 133.925 大分県 大分久住 (115.2) (15.8) (14.9) (69.9)26 大分県 大分 109.6 34.1 36.0 83.227 宮崎県 宮崎 43.3 12.8 27.5 138.628 鹿児島県 鹿児島* (60.7) (11.8) (25.5) (113.3)29 沖縄県 大里 13.9 3.3 26.3 343.830 沖縄県 辺戸岬* 10.3 4.7 31.7 43.3

全国最低値 5.7 2.3 5.5 12.0全国最高値 109.6 34.1 39.6 3510.8全国中央値 21.6 11.7 23.5 82.7全国平均値 29.8 13.8 23.1 234.5

注)定量下限値未満及び参考値は最低値,最高値,中央値,平均値から除外した。

注)*はインパクタ付フィルターパック法による。

(nmol m-3)

注)全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜き,定量下限値未満は斜字,参考値は( )で示した。

NJ JS EJ CJ WJ SW

SO2 (

nmol

m-3

)

0

50

100

NJ JS EJ CJ WJ SW

HN

O3 (

nmol

m-3

)

0

20

40

NJ JS EJ CJ WJ SW

HC

l (nm

ol m

-3)

0

20

40

NJ JS EJ CJ WJ SW

NH

3 (nm

ol m

-3)

0

3000

4000

図5.2.1 ガス状成分の年平均濃度の分布(地域区分別)

表5.2.1 ガス状成分の年平均濃度(地点別)

101

Page 28: Vol.43 No.3 2018 (通巻148号)tenbou.nies.go.jp/science/institute/region/journal/JELA... · 2018. 12. 9. · 巻頭言 長崎県環境保健研究センター所長 古 賀 浩 光

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 25

値は清澄であった。K+(p)濃度は西部や南西諸島で高い傾

向がみられた。

Ca2+(p)の年平均濃度の範囲は1.4~39.9 nmol m-3(平均

値7.4 nmol m-3),nss-Ca2+(p)は1.0~37.9 nmol m-3(平均

値6.3 nmol m-3)であり,いずれも最高値は市原,次いで

前橋,最低値は母子里であった。nss-Ca2+(p)濃度は,周

辺のセメント工場や石灰工場の影響を受けていると考え

られる市原を含むEJで高い傾向がみられた。

Mg2+(p)の年平均濃度の範囲は1.2~21.0 nmol m-3(平均

値6.2 nmol m-3)であり,最高値は辺戸岬,次いで大里,

最低値は伊自良湖であった。Mg2+(p)濃度は南西諸島で高

い傾向がみられた。

NH4+(p)の年平均濃度の範囲は23.2~134.8 nmol m-3(平

均値55.1 nmol m-3)であり,最高値は大分,次いで宮崎,

最低値は利尻であった。NH4+(p)濃度は西部で高く,北部

および南西諸島で低い傾向がみられた。

全国中央値をみると,調査地点は若干異なるが,SO42-,

K+およびNH4+の年中央値は昨年度と比べて17~20%減少し

ていた。

5.2.1.3 ガス状および粒子状成分濃度の総計

非海塩由来の全硫黄(SO2(g)+nss-SO42-(p))の年平均濃

度の範囲は23.3~190.5 nmol m-3(平均値61.3 nmol m-3)

であり,最高値は大分,次いで市原,最低値は利尻であ

った。全硫黄濃度は西部で高い傾向がみられた。

全硝酸(HNO3(g)+NO3-(p))の年平均濃度の範囲は8.2~

80.2 nmol m-3(平均値40.9 nmol m-3)であり,最高値は神

戸須磨,次いで太宰府,最低値は母子里であった。全硝

酸濃度は西部で高く,北部で低い傾向がみられた。

全塩化物(HCl(g)+Cl-(p))の年平均濃度の範囲は8.7~

183.8 nmol m-3(平均値60.0 nmol m-3)であり,最高値は

辺戸岬,次いで大里,最低値は伊自良湖であった。全塩

化物濃度は南西諸島で高い傾向がみられた。

全アンモニア(NH3(g)+NH4+(p))の年平均濃度の範囲は

35.3~3584.4 nmol m-3(平均値289.6 nmol m-3)であり,

最高値は旭,次いで前橋,最低値は利尻であった。全ア

ンモニア濃度は東部の旭や前橋,南西諸島の大里のよう

に周辺の畜産業の影響を受けている地点や都市部で高い

傾向がみられた。

No. 都道府県市 地点名 SO42-(p) nss-SO4

2-(p) NO3-(p) Cl-(p) Na+(p) K+(p) Ca2+(p) nss-Ca2+(p) Mg2+(p) NH4

+(p)

1 北海道 利尻* 21.5 17.6 8.4 57.1 63.2 2.9 2.5 1.1 7.2 23.22 北海道 母子里* 16.8 15.7 5.9 13.2 17.4 2.1 1.4 1.0 2.0 29.23 北海道 札幌北* 24.9 22.5 20.9 37.8 39.6 2.9 4.8 3.9 4.3 50.44 新潟県 新潟曽和 28.0 24.5 19.3 43.1 57.4 3.5 4.7 3.5 6.8 36.55 新潟県 長岡 26.4 24.3 19.8 23.9 35.9 3.0 4.7 3.9 4.4 41.56 群馬県 前橋 30.0 28.7 43.1 11.2 21.3 4.4 12.9 12.4 4.0 64.87 埼玉県 加須* 28.7 27.3 36.4 14.6 23.7 3.9 6.4 5.9 2.9 64.48 千葉県 旭 31.1 26.4 43.1 81.0 77.6 1.5 6.8 5.1 8.6 73.69 千葉県 勝浦 33.3 28.3 25.5 62.3 80.9 1.5 7.4 5.6 9.0 37.010 千葉県 清澄 30.2 26.8 23.2 33.0 56.1 1.1 5.1 3.9 6.1 33.911 千葉県 市原 41.6 36.2 53.7 83.7 88.7 2.0 39.9 37.9 12.8 47.512 千葉県 佐倉 30.9 28.7 32.1 15.7 36.4 1.6 6.0 5.2 4.5 44.013 長野県 長野 30.0 29.1 18.2 4.2 14.6 2.8 3.6 3.2 1.8 53.514 静岡県 静岡北安東* 25.9 24.6 17.0 8.7 20.5 5.0 3.9 3.4 2.8 44.615 富山県 射水* (19.4) (18.1) (12.8) (15.2) (21.8) (2.2) (2.7) (2.2) (2.6) (35.7)16 石川県 金沢 27.0 25.2 12.3 16.0 30.0 3.0 3.6 2.9 4.1 37.317 福井県 福井 40.1 36.3 26.8 52.5 63.3 5.6 11.0 9.6 7.5 58.718 岐阜県 伊自良湖 28.5 27.8 6.8 1.9 10.8 2.3 2.8 2.5 1.2 42.119 愛知県 豊橋 34.1 31.6 40.7 21.2 41.7 3.6 7.8 6.9 5.5 59.820 名古屋市 名古屋南 33.6 31.7 34.0 15.1 30.6 3.0 8.0 7.4 4.0 56.821 和歌山県 海南* 34.5 32.7 22.4 15.0 30.8 4.0 5.9 5.3 4.1 64.522 兵庫県 神戸須磨 41.5 37.8 48.1 32.8 60.2 3.0 6.0 4.6 6.3 71.623 鳥取県 湯梨浜 21.3 18.9 12.2 28.2 39.0 1.6 2.0 1.1 3.0 34.524 福岡県 太宰府 53.6 50.8 49.7 27.3 47.2 4.5 10.6 9.6 6.1 97.525 大分県 大分久住 (49.0) (48.0) (15.0) (3.0) (17.0) (2.5) (4.1) (3.8) (2.5) (78.8)26 大分県 大分 83.5 81.0 40.7 9.2 41.7 6.1 9.3 8.4 5.9 134.827 宮崎県 宮崎 60.6 56.5 44.2 45.2 68.1 4.3 6.2 4.7 7.3 117.128 鹿児島県 鹿児島* (44.8) (42.3) (29.9) (29.0) (41.3) (2.9) (6.7) (5.8) (4.4) (86.8)29 沖縄県 大里 35.4 29.0 21.9 89.3 106.8 4.0 8.9 6.6 13.5 33.430 沖縄県 辺戸岬* 40.2 30.4 21.7 152.1 161.7 4.9 7.2 3.6 21.0 35.5

全国最低値 16.8 15.7 5.9 1.9 10.8 1.1 1.4 1.0 1.2 23.2全国最高値 83.5 81.0 53.7 152.1 161.7 6.1 39.9 37.9 21.0 134.8全国中央値 30.9 28.7 23.2 27.3 41.7 3.0 6.0 4.7 5.5 47.5全国平均値 34.6 31.5 27.7 36.9 50.6 3.3 7.4 6.3 6.2 55.1

注)全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜き,参考値は( )で示した。

注)参考値は最低値,最高値,中央値,平均値から除外した。

注)*はインパクタ付フィルターパック法による。

(nmol m-3)

表5.2.2 粒子状成分の年平均濃度(地点別)

102

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 26

NJ JS EJ CJ WJ SW

nss-

SO42-

(nm

ol m

-3)

0

20

40

60

80

NJ JS EJ CJ WJ SW

NO

3- (nm

ol m

-3)

0

20

40

60

NJ JS EJ CJ WJ SW

Cl- (n

mol

m-3

)

0

100

200

NJ JS EJ CJ WJ SW

Na+ (n

mol

m-3

)

0

100

200

NJ JS EJ CJ WJ SW

K+ (nm

ol m

-3)

0

4

8

NJ JS EJ CJ WJ SW

nss-

Ca2+

(nm

ol m

-3)

0

20

40

NJ JS EJ CJ WJ SW

Mg2+

(nm

ol m

-3)

0

10

20

NJ JS EJ CJ WJ SW

NH

4+ (nm

ol m

-3)

0

50

100

150

図5.2.2 粒子状成分の年平均濃度の分布(地域区分別)

103

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表5.2.3 ガス状および粒子状成分の総計の年平均濃度(地点別)

No. 都道府県市 地点名 全硫黄 全硝酸 全塩化物 全アンモニア

SO2(g)+nss-SO42-(p) HNO3(g)+NO3

-(p) HCl(g)+Cl-(p) NH3(g)+NH4+(p)

1 北海道 利尻* 23.3 11.5 71.2 35.32 北海道 母子里* 25.7 8.2 18.8 47.13 北海道 札幌北* 72.2 26.7 50.4 102.54 新潟県 新潟曽和 36.0 27.3 66.2 99.35 新潟県 長岡 36.3 30.9 40.4 118.76 群馬県 前橋 45.3 67.5 31.8 518.97 埼玉県 加須* 48.9 66.6 43.6 241.98 千葉県 旭 41.6 48.1 97.1 3584.49 千葉県 勝浦 51.3 31.4 91.3 111.010 千葉県 清澄 60.9 30.0 59.9 95.811 千葉県 市原 124.3 63.0 107.2 188.712 千葉県 佐倉 58.3 45.3 49.7 178.313 長野県 長野 43.8 34.4 27.4 155.914 静岡県 静岡北安東* 41.7 29.4 28.0 119.815 富山県 射水* (33.9) (20.5) (26.7) (107.2)16 石川県 金沢 40.1 20.7 31.4 71.317 福井県 福井 66.1 41.3 84.2 139.018 岐阜県 伊自良湖 36.7 14.4 8.7 74.519 愛知県 豊橋 58.7 60.1 45.1 198.820 名古屋市 名古屋南 64.8 58.8 46.9 159.321 和歌山県 海南* 62.0 41.0 35.5 144.722 兵庫県 神戸須磨 108.7 80.2 72.4 155.123 鳥取県 湯梨浜 38.0 8.4 39.1 117.224 福岡県 太宰府 96.4 75.2 56.1 231.425 大分県 大分久住 (163.3) (30.8) (17.9) (148.7)26 大分県 大分 190.5 74.8 45.2 218.027 宮崎県 宮崎 99.8 57.0 72.7 255.728 鹿児島県 鹿児島* (103.0) (41.7) (54.5) (200.1)29 沖縄県 大里 42.8 25.3 115.6 377.230 沖縄県 辺戸岬* 40.7 26.3 183.8 78.8

全国最低値 23.3 8.2 8.7 35.3全国最高値 190.5 80.2 183.8 3584.4全国中央値 48.9 34.4 49.7 144.7全国平均値 61.3 40.9 60.0 289.6

注)参考値は最低値,最高値,中央値,平均値から除外した。

注)*はインパクタ付フィルターパック法による。

(nmol m-3)

注)全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜き,参考値は( )で示した。

NJ JS EJ CJ WJ SWSO2+

nss-

SO42-

(nm

ol m

-3)

0

50

100

150

200

NJ JS EJ CJ WJ SWHN

O3+

NO

3- (nm

ol m

-3)

0

40

80

NJ JS EJ CJ WJ SW

HC

l+C

l- (nm

ol m

-3)

0

100

200

NJ JS EJ CJ WJ SW

NH

3+N

H4+ (n

mol

m-3

)

0

3000

4000

図5.2.3 ガス状および粒子状成分の総計の年平均濃度の分布(地域区分別)

104

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5.2.2 経月変化および地域特性

地点別月平均濃度を見ると,ほとんどの成分は6つの地

域区分(NJ,JS,EJ,CJ,WJ,SW)ごとに濃度変動パター

ンが似ていた。ここでは,外れ値の影響を小さくするた

め,地域区分別の中央値をもとに,月変化や包括的な地

域特性を述べる。なお,気象庁の予報用語6)に従い,文中,

春季(春)は3~5月,夏季(夏)は6~8月,秋季(秋)は9~11

月,冬季(冬)は12~2月のことをそれぞれ指す。

5.2.2.1 ガス状成分

地域区分別のガス状成分濃度の経月変化を図5.2.4に

示す。SO2(g)濃度は,冬季から春季に高くなる傾向がみ

られた。北部では夏季に低く冬季に増加する傾向が顕著

であり,冬季の暖房等の使用に伴う地域汚染の影響が考

えられる。SO2(g)濃度は西部で最も高く,アジア大陸に

近いWJでは,大陸起源のSO2(g)の影響を強く受けている

可能性がある。また,西部では活発な噴火活動が継続す

る桜島や阿蘇山,霧島山7)を起源とする火山ガスの影響を

受けていることも考えられる。

HNO3(g)濃度は春季から夏季にかけて高く,秋季から冬

季にかけて低くなる傾向がみられた。春季から夏季にか

けての高濃度は中央部および日本海側で特に顕著であっ

た。春季から夏季にHNO3(g)濃度が高くなる要因としては,

気温の上昇によって光化学反応が活発になり窒素酸化物

からHNO3(g)への酸化が促進されるためや,揮発性粒子

であるNH4NO3などの解離が進むためなどが考えられる。

HCl(g)濃度は南西諸島を除いて冬季に低くなる傾向が

みられた。HCl(g)の発生源としては,廃棄物焼却施設,

火山ガス,海塩粒子のクロリンロスなどが考えられる。

NH3(g)濃度は,夏季に高く冬季に低くなる傾向がみら

れた。NH3(g)濃度の季節変化は,気温が上昇するとNH4NO3

などの揮発性粒子が解離することによりガス化し,逆に

気温が低下すると粒子化することによると考えられる。

NH3(g)濃度の高い南西諸島および東部では地域汚染の影

響が強いと考えられる。特に,東部の旭では,周辺に養

豚場,養鶏場および肥料工場が立地するため,ごく近傍

の発生源の影響を強く受けて一年中NH3(g)濃度が高い

(月平均濃度:2290~6309 nmol m-3)。南西諸島では春季

から夏季にかけての高濃度が顕著であるが,これは大里

で極めて高い濃度を示したためである。大里も周辺の畜

産業の影響を強く受けていると考えられる。

5.2.2.2 粒子状成分

粒子状成分の地域別年平均当量濃度を図5.2.5に,年平

均組成比を図5.2.6に示す。どの地域でも陰イオンと陽イ

オンは同量程度であり,分析した8成分でイオンバランス

はおおむねとれていた。総当量濃度は,南西諸島で最も

高かった。南西諸島ではNa+とCl-の占める割合が高く,海

塩粒子の寄与が大きいと考えられる。南西諸島を除く

図5.2.4 ガス状成分濃度の経月変化(地域区分別)

105

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 29

地域では,陰イオンはSO42-,陽イオンはNH4

+またはNa+の

占める割合が高かった。東部では,他の地域と比べてNO3-

の割合が高かった。

粒子状成分濃度の経月変化を図5.2.7に示す。

nss-SO42- (p)濃度は,西部と南西諸島を除いて春季か

ら夏季にかけて高かった。また,西部で高く,北部で低

い傾向がみられた。

NO3-(p)濃度はどの地域も,夏季に低くなる傾向がみら

れた。夏季の低濃度は,NH4NO3などの揮発性粒子が解離し

た影響が考えられる。

NH4+(p)濃度は西部で高い傾向がみられた。NH4

+(p)濃度

の変動は,nss-SO42-(p)濃度とよく似ていた。

nss-Ca2+(p)濃度は春季に高い傾向がみられた。2016年

度は4~5月に気象庁によって黄砂が観測されており8),黄

砂の飛来の影響を受けてnss-Ca2+(p)濃度は高くなったと

考えられる。また,年平均Ca2+(p)濃度が最も高い市原で

は,近傍のセメント工場や石灰工場の影響を受けている

可能性が高いことから,nss-Ca2+(p)の高濃度は,黄砂以

外に地域的発生源の影響も大きいと考えられる。

K+(p)濃度は,南西諸島や西部においてやや高かった。

K+(p)は,海塩粒子やバイオマス燃焼の影響が考えられる。

Na+(p),Cl-(p)およびMg2+(p)濃度は,1年を通してSWで

高かった。南西諸島の調査地点は海に近いため,海塩粒

子の影響が大きいと考えられる。

図5.2.6 粒子状成分の年平均組成比(地域区分別)

図5.2.5 粒子状成分の年平均当量濃度(地域区分別)

106

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図5.2.7 粒子状成分濃度の経月変化(地域区分別)

107

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5.2.2.3 ガス状および粒子状成分の総計

非海塩由来の全硫黄(SO2(g)+nss-SO42-(p)),全硝酸

(HNO3(g)+NO3-(p)),全塩化物(HCl(g)+Cl-(p)),全アンモ

ニア(NH3(g)+NH4+(p))濃度の経月変化を図5.2.8に示す。

非海塩由来の全硫黄(SO2(g)+nss-SO42-(p))濃度はどの

地域も,春季から夏季にかけて高い傾向がみられた。地

域分布をみると,越境汚染や火山ガスの影響を受けやす

いと考えられる西部で高かった。

全硝酸(HNO3(g)+NO3-(p))濃度は,西部以外の地域では,

春季に高くなる傾向がみられた。

全塩化物(HCl(g)+Cl-(p))濃度の季節変化は明確でな

かった。南西諸島では1年を通して高濃度であった。

全アンモニア(NH3(g)+NH4+(p))濃度は,東部と西部以外

の地域では,春季から夏季に高い傾向がみられた。地域

分布をみると,周辺の発生源からのアンモニアの寄与が

大きいと考えられる南西諸島で高く,北部で低かった。

5.2.2.4 微小粒子(PM2.5)状成分

ここでは,インパクタを使用して粗大粒子とPM2.5とを

粒径別に捕集した利尻,母子里,札幌北,射水,加須,

静岡北安東,海南,鹿児島および辺戸岬の結果について

述べる。PM2.5イオン成分の地点別年平均質量濃度を図

5.2.9に,各地点の組成比を図5.2.10に示す。参考値であ

る射水と鹿児島を除くと,年平均濃度の範囲は2.2~5.0

µg m-3(平均値3.7 µg m-3)であり,最高値は加須,次い

で海南,最低値は母子里であった。どの地点もSO42-の割

合が最も高く,PM2.5イオン質量濃度のうち48~68%を占め

た。どの地点もSO42-に次いで多いのはNH4

+(15~24%)であ

るが,加須および札幌北は他の地点と比べてNO3-の割合が

高く,辺戸岬はNa+の割合が高い傾向がみられた。

各地点における粒径別粒子状成分の年平均濃度を表

5.2.4に示す。イオン成分別にみると,PM2.5領域に優位に

存在するのはSO42-とNH4

+であり,粗大領域に優位に存在す

るのはCl-,Na+,Ca2+およびMg2+であった。NO3-とK+は両方

の領域に存在した。

PM2.5成分濃度の経月変化を図5.2.11に示す。PM2.5中の

nss-SO42-(p)濃度は,海南,鹿児島,辺戸岬で高かった。

nss-SO42-(p)濃度は,春季から夏季にかけて高くなる傾向

がみられた。NO3-(p)濃度は加須および札幌北で高かった。

ほとんどの地点で冬季に濃度が増加する傾向がみられた。

nss-Ca2+(p)濃度は,春季に高くなる傾向がみられた。

Na+(p)およびMg2+(p)濃度は1年を通して辺戸岬で高かっ

たが,どの地点も季節変化は明瞭でなかった。

全粒子状物質に占めるPM2.5の割合の経月変化を図

5.2.12に示す。SO42-およびNH4

+は1年を通してPM2.5の割合

が高く,Cl-,Na+,Ca2+およびMg2+は1年を通してPM2.5の割

合が低かった。

NO3-は夏季にPM2.5の割合が低く,冬季にPM2.5の割合が高

い傾向がみられた。NO3-の全粒子状物質に占めるPM2.5の割

図5.2.8 ガス状および粒子状成分濃度の総計の経月変化(地域区分別)

108

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合に季節変化がみられる要因は,NH4NO3等のNO3-を含む粒

子の温度依存性,海塩や黄砂粒子へのHNO3の吸着,発生

源の影響等が関係していると考えられる。特に,PM2.5中

のNO3-濃度もPM2.5の割合も冬季に顕著に高い加須および

札幌北では,窒素酸化物濃度との関係や発生源に興味が

持たれる。

K+は辺戸岬では季節に関係なくPM2.5の割合が50%以下

であった。これは辺戸岬のK+の起源が主に海塩であるた

めと考えられる。他の地点では,夏季にK+のPM2.5の割合

は低くなっているが,夏季以外のPM2.5の割合は50%以上で

あり,発生源の影響を受けている可能性がある。

粒径の季節変化については,乾性沈着量の見積もりや

発生源を推定する際に有用な情報となるため,今後も調

査を継続しデータを蓄積していく必要がある。

15ptあき

- 引 用 文 献 -

1) 環境省:平成28年度酸性雨調査結果について,

http://www.env.go.jp/air/acidrain/monitoring/h27

/post_24.html

2) 全国環境研協議会 酸性雨調査研究部会:第3次酸性

雨全国調査結果.全国環境研会誌,28,126-196,2003

3) Acid Deposition Monitoring Network in East

図5.2.9 PM2.5イオン成分の年平均質量濃度(調査地点別)(*:参考値)

図5.2.10 PM2.5イオン成分の年平均組成比(調査地点別)(*:参考値)

109

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 33

3) Acid Deposition Monitoring Network in East Asia

:東アジアにおけるフィルターパック法に関する技術資

料,http://www.eanet.cc/jpn/docea_f. html

4) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部

会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成27年度).全国

環境研会誌,42(3),2-45,2017

5) M. Aikawa, T. Hiraki, M. Yamagami, M. Kitase, Y.

Nishikawa, I. Uno: Regionality and particularity of

a survey site form the viewpoint of the SO2 and SO42-

concentrations in ambient air in a 250-km × 250-km

region of Japan.Atmos. Environ., 42, 1389-1398,

2008

6) 気象庁:予報用語, http://www.jma.go.jp/

jma/kishou/know/yougo_hp/mokuji.html

7) 気象庁:年間の日本の主な火山活動,

http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/ST

OCK/monthly_v-act_doc/annual.htm

8) 気象庁:[地球環境のデータバンク]黄砂,http://

www.data.jma.go.jp/gmd/env/kosahp/kosa_data_inde

x.html

図5.2.11 PM2.5成分濃度の経月変化(調査地点別)

110

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 34

図5.2.12 全粒子状物質に占めるPM2.5の割合の経月変化(調査地点別)

111

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 35

5.3 乾性沈着量の推計

5.3.1 乾性沈着推計ファイル

インファレンシャル法による乾性沈着量の推計を行っ

た。インファレンシャル法は気象データなどから沈着速

度(Vd)を算出し,乾性沈着量を求める方法である1)。

このモデルは以下の式で表される。

F=Vd(z)×C

F:沈着面への沈着物質のフラックス(沈着量)

Vd(z): 基準高さzにおける沈着速度

C:沈着物質の大気中濃度

したがって,Vdが決定されれば,大気中の物質濃度か

ら乾性沈着量が求められる。Vdは沈着成分の輸送されや

すさ,沈着しやすさによって変化し,風速や気温などの

気象データ,また対象成分の溶解度や地表面の被覆状況

(土地利用状況)などから推定する。

Vdの算出には,野口らが表計算ソフト(MS Excel)のフ

ァイルとして開発した乾性沈着推計ファイルVer.4-2を

用いた2)。このファイルは,北海道立総合研究機構環境科

学研究センターのHPで公開されており3),ダウンロードが

可能である。ファイルの詳細についてはそちらを参照し

ていただきたい。

この乾性沈着推計ファイルは,現在も改良が続けられ

ているため,今回用いたVer.4-2による計算は,過去に報

告した計算結果と必ずしも一致しない。また,乾性沈着

推計ファイルVer.4-2では,市街地の粒子状物質のVd に

上限値が設定されているが,本報告では上限値を設定せ

ずに計算した。

5.3.2 乾性沈着量の推計方法

乾性沈着量の推計は,FP法で大気濃度の測定を実施し

た31地点について実施した。また,FP法調査地点のうち

自動測定機またはパッシブ法でNO2,NO測定を実施した17

地点は,NO2,NOについても推計した。

Vdの算出において,乾性沈着推計ファイルに入力する

気象データ(風速,気温,湿度,日射量,雲量)は,調査

実施機関が指定する各調査地点に近い気象官署,アメダ

ス4),大気汚染常時監視測定局の1時間値を用いた。

季節区分(春,夏,秋,冬(積

雪なし),冬(積雪あり))は,温

量指数と季節区分指標を用いる

方法とした。

Vdは表面の状況により異なる

ため,土地利用状況別に,粒子

状物質(SO42-,NO3

-,NH4+,以後(p)

をつけて表示)およびガス状物

質(SO2,HNO3,NH3,以後(g)をつ

けて表示,NO,NO2)のVdをそれぞ

れ算出した。

このようにして算出した各調査地点における成分ごと

の土地利用状況別Vd(沈着速度,cm s-1)を集計して年平均

値を求め,参考として表5.3.1に示した。

乾性沈着量は,土地利用状況別Vdを調査地点周辺の土

地利用割合で加重平均し,大気濃度との積により求めた。

環境省の長期モニタリング報告書(平成15~19年度)5)で

は,測定局周辺約1kmの森林と草地の利用割合で計算され

ているが,本報告書では,測定局周辺半径約20kmを推計

対象として,土地利用の分類を市街地(建物用地,幹線交

通用地,その他),森林地域(森林),農地(田,その他の

農用地),草地(ゴルフ場などの草地,荒地),水面(河川

および湖沼,海浜)とした。土地利用状況によってVdが大

きく異なるため(表5.3.1),土地利用の割合は推計結果に

大きな影響を及ぼす。市街地はVd推計のためのパラメー

ターが十分に検証されていないなど不確実な部分が大き

いが,調査地点の多くが市街地にあることから,土地利

用分類を上記のように設定した。また,気象データの測

定点が,FP法の測定地点と異なる地点が多いことから,

半径20kmとした。土地利用割合は,国土地理院のデータ6)からFP法の測定地点周辺の海を除く半径20kmにかかる

メッシュ値を抽出して求めた。最多頻度の季節が冬(積雪

あり)となった月については,農地,草地のVdの代わりに,

積雪のVdを推計に用いた。なお,これらの条件設定につ

いては,さらに検討が必要である。

大気濃度は,FP法で測定したnss-SO42-(p),NO3

-(p),

NH4+(p),SO2(g),HNO3(g),NH3(g),自動測定機またはパ

ッシブ法で測定したNO2,NOの月平均濃度を用いた。月ご

とに乾性沈着量を求め,それらを合計して年間乾性沈着

量を算出した。

FP法では粒子状物質とガス状物質の完全な分別捕集は

難しい。しかし,乾性沈着ではガス状物質と粒子状物質

の沈着速度が異なるため,FP法で得られたHNO3(g)と

NO3-(p),NH3(g)とNH4

+(p)濃度を用いて乾性沈着量を算出

している。そのため,これらの乾性沈着量はFP法におけ

るアーティファクトの影響を受けている可能性がある。

(単位:cm s-1)

SO42-(p) NO3

-(p) NH4+(p) SO2(g) HNO3(g) NH3(g) NO2(g) NO(g)

市街地 0.17 0.17 0.17 0.18 4.5 0.047 0.031 5.2E-09森林地域 0.58 0.83 0.64 1.3 4.2 0.54 0.11 0.0025農地 0.14 0.14 0.14 0.65 1.3 0.39 0.15 0.0021草地 0.17 0.17 0.17 0.69 1.7 0.36 0.10 0.0021積雪 0.10 0.10 0.10 0.42 0.43 0.47 0.0014 0.00029水面 0.088 0.088 0.088 0.29 0.29 0.31 0.0012 0.00023

表5.3.1 土地利用状況別の平均沈着速度(2016年度)

注)各調査地点で,対象成分ごとに土地利用別に算出した日沈着速度Vd(cm s-1) の年間平均値

112

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 36

5.3.3 乾性沈着量の推計結果

各地点の年間乾性沈着量の推計結果は,表5.3.2のとお

りである。乾性沈着量は,FP法で測定した大気濃度の年

平均値が欠測または参考値となった調査地点を除いて評

価した。

ガス状物質の乾性沈着量は,SO2(g)が0.9(伊自良湖)~

23.8(大分)(平均値6.5)mmol m-2 y-1,HNO3(g)が1.0(母子

里)~44.0(神戸須磨)(平均値12.7)mmol m-2 y-1,NH3(g)

が2.3(母子里)~582.2(旭)(平均値32.7)mmol m-2 y-1だっ

た。

粒子状物質の乾性沈着量は,nss-SO42-(p)が0.5(伊自良

湖)~8.6(辺戸岬)(平均値3.2)mmol m-2 y-1,NO3-(p)が

0.2(伊自良湖)~9.1(宮崎)(平均値3.6)mmol m-2 y-1,

NH4+(p)が0.9(伊自良湖)~18.0(宮崎)(平均値5.8)

mmol m-2 y-1だった。

ガス状物質と粒子状物質を合わせた乾性沈着量は,非

海塩由来硫黄成分(SO2(g)+nss-SO42-(p))が1.4(伊自良

湖)~31.2(大分)(平均値9.7)mmol m-2 y-1,NOx (= NO2+

NO)を含まない酸化態窒素成分(HNO3(g)+NO3-(p))が1.4

(母子里)~50.5(神戸須磨)(平均値16.3)mmol m-2 y-1,還

元態窒素成分(NH3(g)+NH4+(p))が3.7(伊自良湖)~588.7

(旭)(平均値38.5)mmol m-2 y-1だった。

NOx測定地点のNO2乾性沈着量は,0.6(利尻)~19.2(神

戸須磨)(平均値6.7)mmol m-2 y-1,NO乾性沈着量は0.002

(辺戸岬,利尻)~0.036(神戸須磨)(平均値0.018)

mmol m-2 y-1だった。酸化態窒素成分にNOxを加えた窒素

酸化物成分は2.1(母子里)~69.7(神戸須磨)(平均値

21.8)mmol m-2 y-1だった。

表5.3.2 年間乾性沈着量(2016年度地点別)

注)全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜きで示した。参考値は( )で示した。

No. 都道府県市 地点名SO2

(g)

HNO3

(g)

NH3

(g)

nss-SO42-

(p)

SO42-

(p)

NO3-

(p)

NH4+

(p)

NO2

(g)

NO(g)

1 北海道 利尻 1.7 3.1 3.1 2.4 2.9 1.6 3.5 0.6 0.0022 北海道 母子里 1.1 1.0 2.3 0.8 0.9 0.4 1.6 0.7 0.035 PS3 北海道 札幌北 6.9 6.0 4.5 1.9 2.1 2.0 4.1 6.7 0.0194 新潟県 新潟曽和 2.1 6.2 6.4 1.4 1.6 1.2 2.1 7.2 0.0125 新潟県 長岡 3.2 9.3 10.8 2.6 2.8 2.8 4.9 5.4 0.0116 群馬県 前橋 2.5 18.3 44.0 2.0 2.1 3.5 4.7 6.9 0.0217 埼玉県 加須 2.2 17.3 11.1 1.3 1.4 1.7 2.9 10.2 0.0128 千葉県 旭 5.1 5.8 582.2 2.2 2.6 4.4 6.5 - -9 千葉県 勝浦 10.4 7.3 16.6 4.7 5.6 6.4 6.9 - -

10 千葉県 清澄 15.2 8.7 14.6 4.7 5.3 6.1 6.6 - -11 千葉県 市原 13.0 9.1 9.7 2.2 2.5 3.7 3.0 - -12 千葉県 佐倉 4.8 11.2 10.6 2.1 2.3 2.6 3.1 - -13 長野県 長野 3.1 14.8 12.9 2.6 2.7 2.0 5.0 3.9 0.03214 静岡県 静岡北安東 3.2 9.7 7.6 2.0 2.1 1.8 3.8 - -15 富山県 射水 (2.7) (5.8) (7.7) (1.1) (1.2) (0.9) (2.2) 8.7 0.02616 石川県 金沢 2.9 7.0 3.4 1.9 2.1 1.2 3.0 - -17 福井県 福井 6.3 12.6 9.4 2.9 3.2 2.7 4.9 8.0 0.02018 岐阜県 伊自良湖 0.9 1.5 2.8 0.5 0.5 0.2 0.9 1.1 0.01319 愛知県 豊橋 7.9 24.9 19.1 4.3 4.7 7.3 8.8 - -20 名古屋市 名古屋南 3.3 25.8 5.2 1.8 1.9 1.9 3.1 - -21 和歌山県 海南 3.5 13.8 5.6 2.2 2.3 1.8 4.4 10.2 0.00622 兵庫県 神戸須磨 12.9 44.0 6.2 4.2 4.6 6.5 8.1 19.2 0.03623 鳥取県 湯梨浜 8.7 5.7 14.8 4.3 4.8 4.1 8.6 3.6 0.01824 福岡県 太宰府 8.6 21.5 12.9 4.4 4.6 5.5 9.0 14.0 0.02625 大分県 大分久住 (16.6) (7.4) (5.5) (2.8) (2.8) (1.3) (5.1) - -26 大分県 大分 23.8 30.8 9.9 7.4 7.7 5.2 13.4 - -27 宮崎県 宮崎 14.3 13.1 23.3 7.8 8.3 9.1 18.0 - -28 鹿児島県 鹿児島 (13.0) (8.4) (12.2) (2.8) (2.9) (2.6) (6.3) - -29 沖縄県 大里 2.6 6.1 27.3 3.0 3.7 2.7 3.6 - -30 沖縄県 辺戸岬 6.5 8.4 7.6 8.6 11.4 8.9 11.1 1.0 0.002

最低値 0.9 1.0 2.3 0.5 0.5 0.2 0.9 0.6 0.002最高値 23.8 44.0 582.2 8.6 11.4 9.1 18.0 19.2 0.036中央値 4.8 9.3 9.9 2.4 2.7 2.7 4.7 6.8 0.018平均値 6.5 12.7 32.7 3.2 3.6 3.6 5.8 6.7 0.018

 mmol m-2

113

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 37

5.3.4 乾性沈着量と湿性沈着量との比較

湿性沈着およびFP法による大気濃度の年平均値が全て

有効となった25地点について,湿性沈着(以後(wet)をつ

けて表示)と乾性沈着を合わせた総沈着量を図5.3.1に示

す。ここで,総沈着量は,非海塩由来硫黄成分(SO2(g),

nss-SO42-(p),nss-SO4

2-(wet)), 酸化態窒素成分(HNO3(g),

NO3-(p),NO3

-(wet))および還元態窒素成分(NH3(g),NH4+(p),

NH4+(wet))に分類して考察した。また,NOxの乾性沈着量

は,NO2の乾性沈着量の年平均値が有効となった14地点に

ついて,酸化態窒素成分と合わせて示した。

総沈着量の年間値は,非海塩由来硫黄成分が10.4(長

野)~113.1(大分)(平均値29.3)mmol m-2 y-1,酸化態窒

素成分が18.3(利尻)~68.3(神戸須磨)(平均値40.7)

mmol m-2 y-1,還元態窒素成分が20.9(利尻)~665.3(旭)

(平均値66.7)mmol m-2 y-1だった。NOxの乾性沈着量を含

めた酸化態窒素成分は,18.9(利尻)~87.6(神戸須磨)

(平均値47.0)mmol m-2 y-1だった。

総沈着量に占める乾性沈着量の比率(=乾性沈着量/

(乾性沈着量 + 湿性沈着量)×100(%))は,非海塩由来硫

黄成分が4%(伊自良湖)~65%(辺戸岬)(平均値37%),NOx

を除く酸化態窒素成分が3%(伊自良湖)~74%(神戸須磨)

(平均値42%),還元態窒素成分が8%(伊自良湖)~88%(旭)

(平均値44%)だった。

湿性沈着および大気濃度の年平均値が有効となった

25地点を6つの地域区分(北部(NJ,2地点),日本海側(JS,

5),東部(EJ,7),中央部(CJ,7),西部(WJ,3),南西

諸島(SW,1))に分類して集計した年間総沈着量の中央値

を図5.3.2に示す。NOxの乾性沈着量についても酸化態窒

素成分に合わせて示した。

総沈着量は,非海塩由来硫黄成分はWJで,酸化態窒素

成分は西部,日本海側で,還元態窒素成分は西部,日本

海側,東部で多かった。北部では,いずれの成分の総沈

着量も他の地域区分に比べ少なかった。南西諸島では,

いずれの成分も粒子の乾性沈着量が他の地域区分に比

べ多かった。

中央値から算出した総沈着量に乾性沈着量が占める

割合は,非海塩由来硫黄成分は南西諸島で大きく,酸化

態窒素成分は日本海側で,還元態窒素成分は日本海側,

図5.3.1 調査地点の年沈着量(2016年度)

注)湿性沈着およびフィルターパック法による対象測定項目の年

間値がすべて有効となった調査地点

注)NOx(NO+NO2)は,自動測定器またはO式パッシブ法による測定を

実施した地点のみ表示(図内↓印)

図5.3.2 各地域区分別の年沈着量

(2016年度中央値)

注)総沈着量に占める乾性沈着量の割合 = 乾性沈着量

/(乾性沈着量 + 湿性沈着量),中央値より求めた。

114

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北部,中央部で小さかった。

5.3.5 乾性沈着量の経年変化

FP法による大気濃度測定の調査を継続して実施してい

る地点のうち,札幌北,新潟曽和,加須,豊橋,神戸須

磨,太宰府,辺戸岬の7地点について,2003年度からの乾

性沈着量の経年推移を比較した(図5.3.3)。

粒子状成分の乾性沈着量は,豊橋,神戸須磨,太宰府,

辺戸岬で多く,札幌北,新潟曽和,加須では少ない傾向

がみられた。経年変化をみると,nss-SO42-(p)とNH4

+(p)

は,豊橋と太宰府で2006~2007年まで増加し,それ以降

横ばいまたは減少に転じる傾向がみられた。NO3-(p)は,

豊橋,神戸須磨,太宰府,辺戸岬で増加傾向を示してい

たが,ここ数年は横ばいまたは減少している。

ガス状成分の乾性沈着量の経年変化は,横ばいまたは

減少傾向を示す地点が多かった。

- 引 用 文 献 -

1) EANET: Technical Manual on Dry Deposition

Flux Estimation in East Asia,

http://www.eanet.asia/product/manual/techacm.pdf

2) 野口泉,松田和秀:乾性沈着ファイルの開発.

北海道環境科学研究センター所報,30,23-28,2003

3) 全国環境研協議会:乾性沈着推計ファイルVer.4-2

http://www.ies.hro.or.jp/seisakuka/acid_rain/kan

seichinchaku/kanseichinchaku.htm

4) (財)気象業務支援センター:気象観測月報2016年3

月 – 2017年4月. (CD-ROM)

5) 環境省:長期モニタリング報告書(平成15~19年度).

2009

6) 国土交通省国土政策局国土情報課:国土数値情報ダ

ウンロードサービス,

http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html

図5.3.3 継続調査地点における乾性沈着量の経年変化

(2003~2016年度)

115

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6. パッシブ法によるガス成分濃度

6.1 経緯

パッシブサンプラー法ではFP法で測定できないNO2,

NOx,O3と,FP法と共通で測定できるNH3濃度の測定を行っ

ている。パッシブサンプラーは小型で電源が不要なため

設置場所の自由度が高いことと安価なことから多地点の

測定に有用な方法である。

FP法ではNH3(g)とアンモニウム塩粒子(NH4+(p))を分離

して測定する。しかしアーティファクトによりNH4+(p)の

一部はNH3(g)に変換されて測定される。パッシブサンプ

ラーは原理的にはNH3(g)のみを捕捉するため,FP法の測

定結果への検討データともなる。

測定値の定量下限値は全項目でEANETにおける定量下

限値(大気中濃度0.1 ppb)を用いた。データの有効判定は

FP法と同様に,月期間適合度60%以上を有効とした。測定

方法については第5次調査と同様とした。調査は通年で行

い,測定周期は1ヶ月(4週間または6週間)とした。

地点情報

第5次調査までは地域ごとの評価を行っていたが,項目

によっては地点数が少ない地域もあるため,第6次調査で

は地点毎の評価とする。図6.1.1に各項目の測定地点と年

平均濃度を示す。O3は比較的地域差が少ない一方でNOxと

NH3は地点ごとに大きく異なり,測定地点付近の排出量の

影響が大きいことがうかがえる。

項目ごとの地点数と欠測数を表6.1.1に示す。2016年度

はNOx,O3,NH3がそれぞれ12,11,20地点だった。欠測の

理由は月期間適合度が60%未満,年期間適合度が80%未満

もしくはサンプラー紛失や測定上の問題などである。年

間適合度が80%未満となったのは福島天栄のNH3だった。

6.2 測定結果

その他の測定結果の図表は以下のとおりである。

・ 月平均NOx濃度(図6.2.1)

・ 月平均O3濃度(図6.2.2)

・ 月平均PO濃度(図6.2.3)

・ 月平均NH3濃度(図6.2.4)

・ 旭以外の月平均NH3濃度(図6.2.5)

・ NOxの年平均濃度と周辺排出量の相関図(図

6.2.6)

・ NH3の年平均濃度と周辺排出量の相関図(図

6.2.7)

・ 表6.1.1:項目別の欠測数

・ 表6.2.1:全地点の年平均濃度

図 6.1.1 各測定項目の地点と年平均濃度(ppb)

116

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各地点の濃度

6.2.1 NOx

年平均濃度の最高値は札幌の16.0 ppbだった(表

6.2.1)。これは都市部で周辺排出量が高いためと考えら

れる(図6.2.5)。最小値は天塩FRSの0.4 ppbだった。

月平均濃度では札幌,盛岡で秋から冬にかけて高かっ

た。これは暖房などによる排出量増加と逆転層形成によ

る高濃度化など気象的要因が原因と考えられる。

図6.2.1 各地点の月平均NOx濃度(ppb)

6.2.2 O3およびPO

O3の年平均濃度では摩周の41.5 ppbが最も高く,これ

は標高が高いことが一因と考えられる。逆に最も低いの

は鶴岡の24.9 ppbだった。これらはおおむね例年通りで

ある。 月平均濃度(図6.2.2)では例年どおり冬~春季(2

~5月)に高く,夏季まで減少を続け,秋季(9~11月)以降

増加傾向だった。

図6.2.2 各地点の月平均O3濃度(ppb)

6.2.3 PO

PO(ポテンシャルオゾン)濃度は次式により算出した 。 PO = O3 + NO2 − 0.1NOx

濃度はO3とほぼ同程度であり(図6.2.3),排出ガス由来

のNOのNO2への酸化による消費の影響は小さいと思われ

る。このことから地点毎のオゾン濃度差はその地点にも

たらされるオゾンと地形や気象により決定されていると

考えられる。

図6.2.3 各地点の月平均PO濃度(ppb)

6.2.4 NH3

年平均濃度では旭が78.5 ppbで最も高く,最低は母子

里0.2 ppbだった。

低濃度の地点ではおおむね5 ppb未満程度で,鶴岡,佐

倉,母子里などは冬季に低い傾向があるが,特段の季節

変化は認められないところも多い。これは近傍の発生源

の状況や地域の気温によると思われる。

図6.2.4 各地点の月平均NH3濃度(ppb)

表 6.1.1 パッシブ法による調査地点数および有効データ数

項目 地点数 月平均濃度 年平均濃度

欠測数 有効データ数 有効割合 欠測数 有効データ数 有効割合

NH3 20 12 228 95% 1 19 95%

NOX 12 4 140 97% 0 11 100%

O3 12 5 139 97% 0 11 100%

117

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図6.2.5 旭以外のNH3濃度(ppb)

6.2.5 周辺排出量との相関

NOx

札幌北や盛岡は周辺排出量が大きく,また年平均濃度

も高い。一方で小名浜は周辺排出量が高い割には濃度が

低い。小名浜の濃度は季節を通しておおむね一定で札幌

や盛岡のように冬季に濃度が高くなるのとは異なるため

と考えられる。

図6.2.6 NOxの年平均濃度と周辺排出量の相関図

NH3

旭は78.5 ppbと他地点よりきわめて大きいため除外し

た。大里を除くとおおむね年平均濃度と周辺排出量は高

低がよく一致する。大里が周辺排出量の割に濃度が高い

のは排出源が測定地点に近いこと,周辺20km円内に海が

多いため,周辺排出量が低く計算されるためと考えられ

る。

図6.2.7 NH3の年平均濃度と周辺排出量の相関図

表6.2.1 地点別年平均濃度 (ppb)

自治体 地点 NOx O3 NH3 NH3

(FP)

北海道 利尻 0.7 36.9 0.4 0.3

北海道 天塩FRS 0.4 30.5 0.3

北海道 母子里 2.0 29.3 0.3 0.4

北海道 札幌北 16.0 25.6 1.2 1.3

北海道 摩周 – 41.5 –

北海道 黒松内 3.7 27.6 –

岩手県 盛岡 7.8 30.0 1.3

山形県 鶴岡 1.5 24.9 0.7

福島県 福島天栄 1.1 40.6 欠測

いわき市 小名浜 0.9 30.8 2.1

埼玉県 加須 – – 3.1 4.3

千葉県 市原 – – 3.7 3.5

千葉県 旭 – – 78.5 85.8

千葉県 佐倉 – – 3.0 3.3

富山県 射水 – – 1.4 1.8

愛知県 豊橋 – – 3.8 3.4

和歌山県 海南 – – 1.5 2.0

鳥取県 若桜 2.4 35.7 1.1

鳥取県 湯梨浜 3.5 31.6 1.4 2.0

熊本市 画図町 – – 2.2

沖縄県 大里 2.9 – 8.9 8.4

沖縄県 辺戸岬 – – 1.7 1.1

注)全国最低値は網掛け、全国最高値は白抜きで示した。

注)フィルターパック(FP)のNH3濃度を参考として併記した。

118

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7. まとめ

2016年度酸性雨全国調査の結果概要は以下のとおり

である。

7.1 湿性沈着

H+およびnss-SO42-は,日本海側および西部で高く,NO3

-

は東部で高くなり,例年と同様の傾向を示した。月ごと

の変動を見ると,多くの地点で冬季の濃度が高くなる傾

向があった。ただし,東部では7月に濃度が高くなってい

た。沈着量については,冬季の高濃度と降水量の影響か

ら日本海側で1月に高くなる傾向が,多くの成分で見られ

た。また,西部では春季~夏季に降水量が多かったこと

から,沈着量も同時期では高い値で推移する成分が多か

った。

2016年度はH+,nss-SO42-およびCa2+の濃度が大分で高く

なった。これは,10月8日に起きた阿蘇山の爆発的噴火の

影響だと考えられる。

7.2 FP法によるガスおよびエアロゾル濃度

全国30地点でFP法による乾性沈着調査を実施した。2016

年度のSO42-,K+およびNH4

+の年中央値は,昨年と比べて17

~20%減少した。地域区分別に解析したところ,粒子状成

分の総当量濃度は南西諸島で最も高く,北部で最も低か

った。南西諸島ではCl-とNa+の占める割合が高いが,その

他の地域ではSO42-とNH4

+の占める割合が高かった。東部で

は,他の地域と比べてNO3-の割合が高かった。

全国9地点においてインパクタを使用して粗大粒子と

微小粒子(PM2.5)とを分けて捕集した結果,年平均イオ

ン質量濃度は2.2~5.0 µg m-3であった。どの地点もSO42-

の割合が最も高く,PM2.5イオン質量濃度のうち48~68%

を占めた。SO42-とNH4

+は1年を通してPM2.5の割合が高く,

Cl-,Na+,Ca2+,およびMg2+は1年を通してPM2.5の割合が低

かった。NO3-は夏季にPM2.5の割合が低く,冬季にPM2.5の割

合が高い傾向がみられた。

7.3 乾性沈着量

FP法の測定結果から,乾性沈着推計ファイルを用いて

インファレンシャル法による乾性沈着量の推計を行った。

ガス状物質と粒子状物質を合わせた乾性沈着量の全国平

均値は,非海塩由来硫黄成分が9.7 mmol m-2 y-1,NOxを

含まない酸化態窒素成分が16.3 mmol m-2 y-1,還元態窒

素成分が38.5 mmol m-2 y-1だった。

7.4 ガス成分濃度(パッシブ法)

第6次調査からは地点ごとの評価とした。各地点の濃度

は概ね例年程度だった。地点ごとに比較するとNOxとNH3

の年平均濃度は数十倍の差があり,これは近隣の排出源

に強く影響されているためと考えられた。

119

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<報文> 三波長紫外線吸光光度法による河川水中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の簡易定量

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

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*Simple Determination of Nitrate- and Nitrite-nitrogen in River Water by Three-wavelength UV Spectrophotometry **Hideaki OZAWA,Minoru KAWAMURA(長野県環境保全研究所)Nagano Environmental Conservation Research Institute

<報 文>

三波長紫外線吸光光度法による河川水中の 硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の簡易定量*

小澤秀明**・川村 實**

キーワード ①硝酸性窒素 ②亜硝酸性窒素 ③紫外線吸光光度法 ④三波長 ⑤溶存有機物

要 旨

NO3-とNO2

-の吸収が強い領域の2つの波長(波長1,波長2)と,それらの吸収がほとんどなく溶存有機物の吸収がある,

より長い波長領域の1つの波長(波長3)を用いて,河川水中のNO3-N + NO2-Nを簡易に求める方法を検討した。

[NO3-N + NO2-N]=a・E1-b・E2-c・E3の形で定量でき,具体的には,220 nm,230 nm,および285 nmの三波長の吸光度を

測定することによりNO3-N + NO2-N(合量)は簡便に定量できると考えられた。また,NO3 - Nも同様の形式で簡便に求められ

ることがわかった。実際の河川水のNO3-N および NO2-Nの測定に適用したところ,銅・カドミウムカラム還元-ナフチルエチ

レンジアミン吸光光度法による測定とよい相関がみられた。

ただし,問題点としては溶存有機物の吸収に対する補正がある。溶存有機物によるUV吸収は対象とする環境水により地域

特性を持つ可能性があり,その影響が懸念されるような場合には測定対象とする水域に即した補正項を求めるとよいと考え

られる。

1.はじめに

天然水中の硝酸性窒素(NO3-N)および亜硝酸性窒素

(NO2-N)は,飲料水として利用した場合の健康影響(特

に乳児のメトヘモグロビン血症)が懸念されること,ある

いは水域の富栄養化の因子として植物による利用性の高

い無機態窒素であることなど,環境科学的に注目される項

目である。我が国では環境分野において,平成5(1993)年3

月に公共用水域の水質に対してNO3-NおよびNO2-Nが要監

視項目に定められ,さらに平成11 (1999)年2月には環境基

準が設定されるに至った。

NO3-NおよびNO2-Nの分析法を全般的にみると,銅・カド

ミウムカラム還元-ナフチルエチレンジアミン吸光光度法

(Cu・Cd-NEDA法)やあるいはイオンクロマトグラフ法など

が用いられている。一方,硝酸イオン(NO3-)あるいは亜

硝酸イオン(NO2-)の強い紫外線吸収を利用して直接的に

紫外線吸光光度法により測定する方法も古くから検討さ

れてきた1~8)。

筆者らは新たに三波長での紫外線吸光光度法により淡

水中のNO3-NおよびNO2-N(合量および各態量)の簡易な測

定法を検討した。220 nmにおける吸光度(E2 2 0) は全窒

素の定量におけるNO3-の測定波長として汎用的に用いら

れている9~10)ため,そのまま測定波長の一つとして用いる

こととし,他の測定波長と併せた吸光度測定を行うことに

より簡易に定量する方法を開発し,その適用性を検討する

とともに,実際の河川水でのモニタリングに使用した。

2.実験

2.1 装置 日立分光光度計U-3000,フローセル(光路長10 mm,容

量約50 µL),スリット 2.0 nm

2.2 試薬など

精製水は使用直前にイオン交換した蒸留水(DIW)を用

いた。

各試薬類は特級以上のものを用いた。KNO3,NaNO2は105

℃でおよそ4時間乾燥した塩を用いて200 mg/L標準溶液を

調製して冷蔵保存し,適宜 DIWで希釈して使用した。

120

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<報文> 三波長紫外線吸光光度法による河川水中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の簡易定量

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

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2.3 定量操作法

NO3-NおよびNO2-Nの標準溶液を調製し,蒸留イオン交換

水(DIW)を対照として各波長での吸光度(小数点以下4桁

まで)を3回測定し,その平均値を用いた。

河川水試料は,信濃川水系の千曲川の4地点,犀川の1

地点で1995年4月~1996年9月に毎月1回採水し,よく洗

浄したガラス瓶に採水し,ガラス繊維ろ紙GF/F(450℃で

2時間処理)でろ過したろ液を測定試料とした。一方,NO3-N

およびNO2-N の定量はCu・Cd-NEDA法(JIS K 0102)に拠

った。

さらに,上記の地点に加え,千曲川の上流域の河川水

の調査を行った(1996年8月および1997年1月)。

3.結果および考察

3.1 係数の算出

陸水の紫外部吸収(200~350 nm)を主にNO3-あるいは

NO2-,および溶存有機物(DOM)によると考え,NO3-Nおよ

びNO2-N(合量および各態量)の定量法について検討した。

波長1および波長2における吸光度E1およびE2は

Lambert-Beerの法則が成立すると考えると,水中のNO3-

やNO2-による吸収とDOMによる吸収の和で表されるとして

E1=E1 ( NO3-)+E1 ( NO2

-)+E1( DOM)

=a1[NO3-N]+b1[NO2-N]+E1 (DOM) ・・ ①

E2=E2 (NO3-)+E2 (NO2

-)+E2 (DOM)

=a2[NO3-N]+b2[NO2-N]+E2(DOM) ・・ ②

と表される。 ここで定数Aを用いて,①②式より

E1 -AE2=(a1-A・a2)[NO3-N]+(b1-A・b2)[NO2-N]

+E1 (DOM)-A・E2 (DOM) ・・・・・・ ③

となる。

ここで③式の[NO3-N]と[NO2-N]の2つの係数が等しい

とき,即ちA=(a1-b1)/(a2-b2)の時,

E1-A・E2=〔(a1b2-a2b1)/(b2-a2)〕・[NO3-N + NO2-N]

+ E1 (DOM)-A・E2 (DOM) となる。

即ち,

[NO3-N+NO2-N]=〔(b2-a2)/(a1b2-a2b1)〕・{E1-

A・E2- 〔 E1 (DOM)-A・E2 (DOM)〕}

=〔(b2-a2)/ (a1b2-a2b1)〕・E1-〔(b1-a1)/( a1b2-a2b1)〕

・E2

-〔(b2-a2)/ ( a1b2-a2b1)〕・〔 E1 (DOM)-A・E2 (DOM)〕

・・・・ ④

NO3-およびNO2

-のUV吸収スペクトルをみると,前者は約

201 nm,後者は約210 nmに吸収極大11)があり,これらを考

慮しながら用いる波長を選択した。NO3-の定量は従来の単

波長による測定例やT-Nの定量などで220 nmを用いている。

そこで,波長1を220 nm,また波長2を230 nmとして,NO3-N

およびNO2-Nの標準溶液(0.1~2.0 mgN/Lの5段階濃度列)

より検量線を作成し,最小二乗法により係数a1,a2,b1,

b2を求めた。その5回の測定結果から,a1=0.255 (RSD=1.0%),

a2= 0.056 (RSD=1.9%),b1=0.285 (RSD=0.5%),および

b2=0.117 (RSD=1.0%)となった。即ち,A= (a1-b1)/(a2

-b2)=0.492,(a2b1-a1b2)/(a2-b2)=0.227となった。

ところで,標準溶液の場合,DOMによる吸収はないので,

④式は次式のとおりとなる。

[NO3-N + NO2-N]=〔(b2-a2)/( a1b2-a2b1)〕・(E1-

A・E2 )・・ ⑤

ここで,NO2-とNO3

-の混合溶液(NO3-N + NO2-N=2.0

mg/L)でその混合比を変化させた場合の簡易定量値を図1

に示す。混合比が異なってもE2 2 0-A・E2 3 0による定量値は

一定の値を示すことがわかる。

3.2 溶存有機物による吸収の補正

3.1で検討した波長領域を含め,溶存有機物(DOM)の吸収

は短波長ほど大きく,波長が長くなるにつれ単調に減少し

ていく12)。DOMに由来するUV吸収は250 nmあるいはそれよ

り長い波長(E2 5 0~E3 0 0くらい)でDOCと相関が強く,NO3-

やNO2-の影響をほとんど受けずに指標化できるため13),こ

こでは285 nmを波長3として用いた。E285と他の吸光度の関

係を一例として図2に示した。E285は補正前,即ち直接の測

定値のE2 2 0とは相関があまりない。

これに対し,NO3-やNO2

-をCu・Cd-NEDA法により定量し

て,その吸光度分を逆算し減じて補正したE2 2 0あるいは

E2 3 0はE2 8 5と相関が強く,E1(DOM)=m・E3(DOM),E2(DOM)=

n・E3(DOM)と表されると考えられる。

そこで,実河川水(長野県内の信濃川水系の千曲川,犀

川)においてNO3-およびNO2

-を定量して,E2 2 0,E2 3 0の測

定値からNO3-やNO2

-による吸光分を減じた。補正E2 2 0お

図 1 NOx-N 混合試料の簡易定量

(NO2-N + NO3-N = 1.0 mg/L)

121

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<報文> 三波長紫外線吸光光度法による河川水中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の簡易定量

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

45

よ び 補正E2 3 0とE2 8 5の比を比較検討した(表1)。調査時

期は95年4月から96年9月の1.5年である。

表1 溶存有機物(DOM)によるUV吸収の補正

比m(=補正E2 2 0/E2 8 5)は2.9~3.3で,平均値が3.0で

あった。また,比n(=補正E2 3 0/E2 8 5)は2.1~2.2で,

平均値は2.1であった。ばらつきはnに比べmの方が大き

かった。これにより,m-n・Aは1.8~2.2となり,溶存有

機物による吸収はE1(DOM)-A・E2(DOM)=(m-n・A)E3(DOM)

≒2.0・E3により補正し[NO3-N + NO2-N] を求めることとし

た。

[NO3-N + NO2-N]

=〔(b2-a2)/(a1b2-a2b1)〕・(E1-A・E2- 2・E3)

=〔(b2-a2)/( a1b2-a2b1)〕・(E2 2 0-A・E2 3 0- 2・E2 8 5 )・・

・⑥

=〔(b2-a2)/(a1b2-a2b1)〕・E2 2 0-〔(b1-a1)/( a1b2-

a2b1)〕・E2 3 0- 2(b2-a2)/(a1b2-a2b1)・E2 8 5

=(E2 2 0-0.493・E2 3 0- 2・E2 8 5 )/ 0.227

=4.40・E2 2 0-2.17・E2 3 0- 8.80・E2 8 5

3.3 硝酸性窒素の簡易定量

①,②式より[NO3-N]

=〔b2 E1- b1 E2+(b1・n-b2・m)・E3〕/(a1b2-a2b1)

=〔b2/(a1b2-a2b1)〕・{E1- (b1/b2)E2- 〔m-(b1/b2)

・n〕・E3}

=〔b2/(a1b2-a2b1)〕・E1-〔b1/(a1b2-a2b1)〕・E2

+ 〔(n・b1- m・b2)/(a1b2-a2b1)〕・E3・・・⑦

となる。

a1,a2,b1,b2,m,nの各値により,⑦式は次のような

式となった。

[NO3-N]= 8.43・E2 2 0-20.5・E2 3 0 + 17.0・E2 8 5

同様にして

[NO2 - N]=〔a2 E1- a1 E2+(a1・n-a2・m)・E3〕/(a2b1-

a1b2)

=〔a1/(a1b2-a2b1)〕・{E2-( a2/a1)・E1-〔n-( a2/a1)

・m〕・E3}

=〔a1/(a1b2-a2b1)〕・E2-〔a2/(a1b2-a2b1)〕・E1

- 〔(n・a1-m・a2)/(a1b2-a2b1)〕・E3 ・・・⑧ とな

り,同様にして⑧式は次のような式となった。

[NO2 - N]=-4.04・E2 2 0 +18.4・E2 3 0-26.1・E2 8 5

3.4 共存物質の影響

3.4.1 有機物質

陸水中に存在するとされるアミノ酸や糖類,尿素などを

NO3-N + NO2-N の標準溶液に共存させて吸光度を測定し,

式④によりNO3-N + NO2-Nの濃度を求めた。これと共存さ

せない場合の定量値との差を偏差とした(表2)。

NO3-N + NO2-N=1.0 mg/Lとし,その内訳は(1.0 + 0)

mg/L,(0.5 + 0.5)mg/L,(0 +1.0)mg/Lの三段階と

した。表2から明らかなようにほとんど影響しなかった。

また,NO3-N濃度を式⑦により求めて,同様に偏差を検

討したところ,およそ1%以内であり,ほとんど影響しなか

った。NO2 - N濃度もほぼ同様であった。

3.4.2 無機物質

無機化合物として4種のものの影響を上記と同様に検討

した(表2)。この中で,3価のFeは0.5 mg/Lで12%の負の偏

差を与えた。また,Brは20 mg/Lで15%の正の偏差を与えた。

通常の河川水試料では両者とももっと低いレベルと考え

られ,総じて共存物質の影響は比較的少ないと考えられる。

また,NO3-N濃度を式⑦により求めて,同様に偏差を検

調査地点

m

E220(-NOx)/E285

n

E230(-NOx)/E285

データ

数 m-An

平均値 RSD

(%) 平均値

RSD

(%) N

St.A 生田(千曲川) 2.9 23 2.1 8.2 18 1.8

St.B 千曲橋(千曲川) 3.3 29 2.2 10 18 2.2

St.C 立ヶ花橋(千曲川) 3.0 36 2.2 11 18 1.9

St.D 飯山中央橋(千曲川) 3.0 20 2.2 6.7 18 2.0

St.E 小市橋(犀川) 3.1 23 2.1 8.2 18 2.1

平均 3.0 2.1

2.0

図 2 補正前後の E285と他の紫外吸光度との関係

122

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討したところ,Fe(3+)で-1.3%程度の負の偏差,Br- 20

mg/Lで23%の正の偏差を与えた。通常の淡水ではほとんど

影響が無いと考えられる。一方,NO2 - N濃度,はNO3-Nより

も偏差が大きい傾向にあった。

表2 共存物質の影響

3.5 定量性の確認と実際の環境試料(河川表流水)

への適用

本法の定量性を標準溶液を用いて検討したところ,2

mg/L程度の濃度範囲までは各波長の吸光度が0.6以下で,

定量の直線性がよかった。

さらに高濃度域での定量性を検討した。NO3-NとNO2-Nの

混合標準溶液で合量N濃度>2.0 mg/L の高濃度域の定量

性を検討した。合量N濃度5 mg/LではE220>1を超えるが,

そのまま⑤式で合量N濃度を求めると相対偏差が-1%未満

の低値となった。さらに合量N濃度8, 10 mg/Lで同様にみ

ると相対偏差がそれぞれ,-2%程度,-4%程度の低値となっ

た。一方,個別のNO3-N あるいはNO2-Nの定量ではより大

きな相対偏差となり,前者では-30%を超える低値,後者で

+15%を超える高値となる場合があった。

即ち,環境基準値10 mg/L付近まで直接吸光度で定量す

ると誤差を含む可能性があるが,スクリーニング法として

は十分使用可能である。この過程で濃度が高い試料につい

ては,2 mg/L程度以下になるように希釈して再測定すると

よい。

図3 Cu・Cd-NEDA法と簡易分析法(本法)の

定量値の比較(上図:夏期,下図:冬期)

一方,検出下限について検討した。NOx-N=0.05 mg/L

で0.01以上の吸光度があり,この濃度で検出感度は十分に

あるが,E285による有機物補正の係数にある程度の幅があ

ることを考慮すると,定量下限は0.1 mg/L程度となると考

えられる。NO2 - Nについては通常の河川水の濃度レベルは

測定限界以下と考えられる。例えば観測地点を固定して

DOM等があまり変化しないような条件では定量下限はより

低い濃度となると考えられる。

実際の環境試料として,信濃川水系の千曲川の河川水の

NO3-N + NO2-Nの縦断流程変化を夏期と冬期に本法を用い

て測定した結果,源流部では0.1~0.2 mg/L前後であった

が,流下に伴い濃度は上昇し,県境付近では1.5 mg/L前後

となった。これらの結果をCu・Cd-NEDA法の実測値と比較

してみるとよい相関が得られた(図3)。

* N O 3-N + N O 2-N = 1.0 mg/L (1.0+0.0 mg/L、 0.5+0.5 mg/L、 0.0+1.0

mg/L)溶液に共存物質を添加しない場合の定量値に対する相対偏差( 平均%)

共存物質

NOx-N 濃度

共存 濃度

相対 偏差*

(mg/l) (mg/l) (%) 有機化合物

Glycine 1.0 1.0 -0.1

Serine 1.0 1.0 0.0

Aspartic acid 1.0 1.0 -0.3

Glutamic acid 1.0 1.0 -0.3

Starch

1.0 5.0 -0.2

Alginic acid (Na salt) 1.0 5.0 0.7

Urea

1.0 1.0 -0.2

無機化合物

Mn(+2) 1.0 1.0 -1.3

Fe(+2) 1.0 1.0 -1.1

Fe(+3) 1.0 0.5 -12

Br- 1.0 1.0 0.9

1.0 20 15

HCO3- (pH 6.9) 1.0 10 0.4

(pH 7.9) 1.0 100 0.4

123

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4.引用文献

1) R. C. Hoather and R. F. Rackhan: Oxidised nitrogen

in waters and sewage effluents observed by

ultra-violet spectrophotometry. Analyst, 34,

548-551, 1959

2) 日色和夫,川原昭宣,田中 孝:紫外吸収法による水

中の硝酸態窒素と亜硝酸態窒素の合量の簡易測定法.

分析化学,27(5),283-287, 1978

3) 安藤忠男,尾形昭逸:紫外吸光度法による水耕培養液

硝酸イオン濃度の測定. 日本土壌肥料学雑誌, 56(1),

56-58, 1985

4) 恋田和憲,三島香奈恵, 徳森裕子, 細末次郎, 関川恵

子, 高野義夫, 上野博昭,岡 新: 飲料水中の硝酸性

窒素及び亜硝酸性窒素の紫外吸収法による定量法の検

討.広島市衛研年報, 第6号,36-39, 1987

5) 姫野恵子,松浦洋文, 武田耕三, 山本圭吾, 市村國俊

: 紫外吸光光度法による水中の硝酸性窒素の定量.奈

良県衛生研究所年報, 第23号, 82-85, 1988

6) 正藤英司,森川 久,伊藤一明, 益本正憲,砂原広志

: 紫外吸収法による亜硝酸態,硝酸態窒素の簡易定量

と共存物の影響除去 -生活系廃水とその処理水への

適用-. 水処理技術,33(8),381-385, 1992

7) 日本下水道協会編:下水試験方法 上巻 1997年版,

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8) A. C. Edwards, P. S. Hooda and Y. Cook:

Determination of Nitrate in Water Containing

Dissolved Organic Carbon by Ultraviolet

Spectroscopy.International Journal of

Environmental Analytical Chemistry, 80(1),

548-551, 2001

9) 大槻 晃: アルカリ性ペルオキシ二硫酸カリウム分解

を用いる環境水中の全窒素測定法における硝酸イオン

の紫外吸光光度定量法の応用.分析化学,30,688-689,

1981

10) 日本規格協会編:工場排水試験方法 JIS K 0102

(1985改正版以降) 全窒素,日本規格協会,東京

11) 日本化学会編:化学便覧基礎編 改訂3版,pp.Ⅱ

-593-598,丸善,東京,1984

12) 福島武彦,今井章雄,松重一夫,井上隆信,小澤秀明

:湖水溶存有機物の紫外部吸光度:DOC比の特性とそれ

の水質管理への利用.水環境学会誌, 20(6), 397-403,

1997

13) J. Buffle, P. Deladoey, J. Zumstein and W.

Haerdi:Analysis and characterization of

natural organic matters in freshwaters

Ⅰ .Study of analytical techniques.Schweiz.

Z. Hydrol., 44(2), 325-362, 1982

124

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<報文> 大村湾におけるアサリ生息場適性評価モデルの構築

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

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*A Habitat Suitability Index Model for the clam Ruditapes philippinarum in Omura Bay, Nagasaki **Tomoyuki KASUYA(長崎県環境保健研究センター)Nagasaki Prefectural Institute of Environment and Public Health

<報 文>

大村湾におけるアサリ生息場適性評価モデルの構築*

粕谷智之**

キーワード ①HSI ②干潟 ③底生生物 ④二枚貝 ⑤被捕食

要 旨

大村湾の潮間帯におけるアサリを対象として,アサリの生息密度と環境要素との関係から,生息環境の棲みやすさを点

数化する SI(Suitability Index: 適合指数)モデルを作成するとともに,SI モデルを統合した大村湾に適用した HSI

(Habitat Suitability Index: 生息域適性指標)モデルを構築した。環境要素には中央粒径,強熱減量,そして含水率

を採用し,3つの環境要素の SI の積から HSI を算出した。得られた HSI モデルを大村湾の覆砂場に適用した結果,アサリ

生息密度の減少には底質以外の要因,例えば,アカエイなどによる捕食が関わっていることが示唆された。

1.はじめに

長崎県本土中央に位置する大村湾は,佐世保湾を介し

て針尾瀬戸および早岐瀬戸のみで外海と通じている非

常に閉鎖性が強い湾である(図1)。湾内には形上湾や

津水湾などの支湾があり,平均水深は 14.8 m,面積は

およそ 320 km2で琵琶湖の約 1/2 である。近年,栄養

蓄積進行にともなう水環境の悪化が問題となっており,

2001年度に海洋シンクタンク事業の一環として行われ

た海の健康診断において,「生息する生物にとって貴重

な存在である自然の浅場が減少した影響に加えて,かつ

て陸域から多くの栄養が流れ込んだことによって,過剰

な栄養が湾内に蓄積し,貧酸素化が進行している」と診

断され,処方箋として,「生物による栄養の取り込みを

促進して,余分な栄養を分解や食物連鎖の過程で消費す

る」ことや,「既に湾内に余剰となっている栄養を取り

上げる」ことなどが提言された1)。

これを受けて,長崎県環境保健研究センターでは,

2007年度より,アサリ(Ruditapes philippinarum)な

どの二枚貝類を増やして,漁獲することによって海から

栄養物質を取り上げる環境改善手法の開発に着手し2,3),

得られた成果は,2014年度から開始された,長崎県環境

部主体による「再生砂による浅場づくり実証試験事業」

に発展した。この事業は,アサリの幼生が集まりやすい

と予想される大村湾内の数カ所の海域に,廃ガラスなど

を砕いた再生砂を覆砂して二枚貝の生息場とするもの

であり,1カ所目として,2016年6月に長崎空港に近い大

村市森園地先に1ヘクタール規模の浅場を造成した。

事業を効果的に進めるにあたり,覆砂した場所がアサ

リの生息場として機能しているのか検証する必要があ

るが,アサリの生息密度の変動には,底質のみならず,

被捕食や青潮などの突発的な環境悪化など,様々な要因

が関わっている4)。そこで本研究では,米国において開

発事業の影響評価と計画に用いるために開発された生

物生息地適性評価手法である HEP(Habitat Evaluation

Procedures)を参考に5),大村湾におけるアサリの生息

密度と環境要素との関係から,生息環境の棲みやすさを

点数化する SI(Suitability Index: 適合指数)モデル

を作成するとともに,SI モデルを統合した大村湾に適

図1 アサリ生息密度および底質調査地点

佐世保湾

大 村 湾

長崎空港

津水湾

形上湾

早岐瀬戸

針尾瀬戸

129.7 129.8 129.9 130°E

32.9°N

33

33.1

長 崎

佐世保

東シナ海

大崎海水浴場

東大川河口

琴海教育センター裏

玖 島

旧東彼杵海水浴場

鈴田川河口ゴルフ場跡地横

森 園

125

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<報文> 大村湾におけるアサリ生息場適性評価モデルの構築

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

49

用した HSI(Habitat Suitability Index:生息域適性指

標)モデルを構築した。さらに,作成した HSI を用いて,

「再生砂による浅場づくり実証試験事業」で造成した浅

場の状況を検証した。

2.材料と方法

2.1 現場観測

2.1.1 アサリ生息密度

調査は2010年5月~10月にかけて,大村湾内の6調査地

点(東大川河口,大崎海水浴場,玖島,鈴田川河口ゴル

フ場跡横,琴海教育センター裏,旧東彼杵海水浴場)で

行った(図1)。各地点では,目合 1 mm のコドラート

付きサーバーネット(30 cm×30 cm)を用いて深さ 10 cm

までの底質を3ケ所から1回ずつ採取した。試料は冷凍保

存した後,解凍してアサリをソーティングし,個体数を

計数するとともに殻長を計測した。なお,アサリは潮干

狩りなどの対象種であることから,大型個体が漁獲され

ている可能性を考慮して,一般的な漁獲禁止サイズであ

る,殻長 20 mm 以下のアサリを対象として生息密度を

求めた。

2.1.2 底質

底質の採集は上記の6調査地点において,アサリ採集

時に同時に行った。各調査地点では口径 35 mm のアク

リルパイプを用いて,深さ 10 cm までの底質を3ケ所か

ら1回ずつ採取し,3サンプルを1本の広口プラスチック

ボトルに合わせ入れて1試料とした。試料は冷凍保存し

た後,中央粒径,泥分率,強熱減量,含水率の測定に供

した。

酸化還元電位はポータブル ORP計(東亜 DKK製 HM-21P)

を用いて,センサー部を底質中に 2 cm 程度挿入して測

定した。

2.2 環境要素の検討

新保ら6)が,神奈川県横浜市の金沢八景周辺に生息す

るアサリを対象として作成した HSI モデルでは,環境要

素として,底質では中央粒径,泥分率,強熱減量,酸化

還元電位,水質では水温,塩分,その他,干出時間が取

り入れられている。本研究では,アサリの着底や潜砂な

どに影響する要素として,中央粒径と泥分率,および含

水率を,成長などに関わる要素として強熱減量と干出時

間を,生残などに関わる要素として水温と塩分,および

酸化還元電位を当てはめ,選択の検討を行った。

3. 結果と考察

3.1 アサリ生息密度と底質

各調査地点におけるアサリ生息密度は,0~595 個

体/m2の範囲であり,最大密度は旧東彼杵海水浴場,最

小密度は東大川河口で得られた(表1)。

底質については,中央粒径は 0.08~1.17 mm,泥分率

は 1.0~43.7%,強熱減量は 1.3~7.7%の範囲であっ

た。また,含水率はおよび酸化還元電位は,それぞれ,

14.6~34.6%および -150~105 mV の範囲であった。泥

分率から底質を区分すると7),アサリが採集されなかっ

た東大川河口は泥分率が 40%以上であることから泥質

系の干潟,それ以外は砂質系の干潟であった。

3.2 環境要素の選択

大村湾の6調査地点から得られた底質データを用いて

各環境要素間の相関を求めた(表1,2)。

表2 環境要素間の相互相関行列。数値は相関係

数(r)を表す。

中央粒径 泥分率 強熱減量 含水率酸化還元

電位

中央粒径 1

泥分率 -0.81 1

強熱減量 0.11 0.12 1

含水率 -0.36 0.66 0.75 1

酸化還元

電位0.28 -0.67 -0.64 -0.72 1

*: p<0.05

*

中央粒径 強熱減量 含水率

東大川河口 0 0.08 43.7 4.2 34.6 -150 0.04 1.00 0.54

大崎海水浴場 11 0.70 1.0 1.3 14.6 8 0.68 0.53 0.10

玖 島 163 0.75 3.9 7.7 31.5 -79 0.73 0.35 0.85

鈴田川河口ゴルフ場横 185 0.56 5.2 3.1 23.6 11 0.53 1.00 1.00

琴海教育センター裏 425 0.68 2.3 1.8 22.8 105 0.66 0.86 1.00

旧東彼杵海水浴場 595 1.17 2.5 4.7 26.6 -69 1.00 1.00 1.00

SIアサリ密度

(個体/m2)

中央粒径(mm)

強熱減量(%)

酸化還元電位(mV)

含水率(%)

泥分率(%)

表1 各調査地点におけるあさり生息密度と低質の実測値,および各環境要素のSI。あさり生

息密度は各町 20 mm以下の個体を対象として算出した。

126

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<報文> 大村湾におけるアサリ生息場適性評価モデルの構築

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

50

泥分率は中央粒径に対して統計的に有意な負の相関

(r =-0.81,p =0.04)を示した。泥分率は中央粒径で

代用されると考えられることから,選択しないこととし

た。

酸化還元電位は底質の好気性・嫌気性を表す指標であ

るが,本研究では大村湾の潮間帯を対象としたアサリ生

息環境の定量化を目的としていることから,酸化還元状

態の影響はそれほど大きくないと思われる。そこで,酸

化還元電位は選択しないこととした。

水温と塩分はアサリの生理状態に影響することから,

環境要素として選択される事例が多い6)。しかし,大村

湾では大きな河川の流入がないことから,降雨などによ

る水温や塩分の変化は長期間続くことはない3)。また,

干満差が最大で 0.7 m 程度しかなく8),アサリの生息

場所が長時間干出することはないと考えられることか

ら,水温と塩分,および干出時間については選択しない

こととした。

3.3 SI モデルの作成

SI とは環境要素ごとに生息場としての質を数値化し

たものであり,0.0~1.0 の値で表す。生息場としての

価値が全くない場合は SI=0,最適な生息場の場合は

SI=1.0 となる。本研究で選択した3つの環境要素,中央

粒径,強熱減量,および含水率と,大村湾におけるアサ

リ生息密度との関係を基に,既存の知見を参考にして

SI モデルを構築した(図2)。

(中央粒径) 中央粒径とアサリ生息密度との関係を

表1および図2に示す。大村湾におけるアサリは,粒径

1.17 mm で最も高い生息密度 595 個体/m2を示した。ア

サリは粒径 0.25 mm以下の底質では着底数が減少する9)。

また,藤本ら10)は粒径約 0. 3 mm 以下では,アサリの

分布が少ないと報告している。そこで,中央粒径の下限

値は粘土となる 0.05 mm とし,SI=0.0 とした。また,

生息密度が最大となった,粒径が 1~2 mm の範囲では

SI=1.0,潜砂が困難となる粒径 4.2 mm 以上 11)では

SI=0.0 として,その間を線形に補間した。

(強熱減量) 強熱減量は底質中の有機物量を表すこ

とから,アサリの餌量の指標となるとともに,有機汚濁

の指標ともなる。大村湾では強熱減量が 4.7%の底質に

おいて,最も高いアサリ生息密度となった(表1,図2)。

新保ら6)によると,金沢八景周辺海域においては,アサ

リは強熱減量が約 0.5~9%の範囲に生息し,個体数は

3.5%で最大となった。そこで,強熱減量 2~5%で

SI=1.0,0.5%で SI=0.0,%で SI=0.0 として,その間は

線形に補間した。

(含水率) 含水率は底質の硬さの指標となる。底質

が硬化している場合,アサリの潜砂が阻害され,生息密

度の低下につながる可能性がある。大村湾では含水率

26.6%でアサリ出現密度は最大となった(表1,図2)。

山口県の椹野川河口域においては,アサリは含水率

17.8~24.8%の底質環境で生残が確認されている12)。ま

た,島根県の宍道湖においては,砂を入れたカゴ内で垂

下式養殖されたアサリは,含水率 29~2%の環境下で生

残した13)。そこで,含水率 20~30%で SI=1.0,含水率

14%で SI=0.0,含水率 40%で SI=0.0 として,その間

を線形に補間した。

中央粒径(mm)

生息

密度

(個

体/m

2)

SI

0.01 0.1 1 10

0

200

600

400

0

0.5

1.0

強熱減量(%)

生息

密度

(個

体/m

2)

SI

0

200

600

400

0

0.5

1.0

0 2 4 106 8

生息

密度

(個

体/m

2)

SI

0

200

600

400

0

0.5

1.0

0 10 20 30 40

含水率(%)

図 2 大村湾におけるアサリ生息密度に対する

各環境要素の SI モデル

127

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<報文> 大村湾におけるアサリ生息場適性評価モデルの構築

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

51

3.4 HSI モデルの作成

HSI は SI モデルによって評価された環境要素を総合

し,アサリ生息地としての適性を数値化したものであり,

0.0(不適)~1.0(最適)で表される。SI モデルの統

合手法としては,一般に,

積:HSI = SI 中央粒径 × SI 強熱減量 × SI 含水率

最小値:HSI = min(SI 中央粒径 or SI 強熱減量 or SI 含水率)

幾何平均:HSI = (SI 中央粒径 × SI 強熱減量 × SI 含水率)1/3

算術平均:HSI = (SI 中央粒径 + SI 強熱減量 +SI 含水率)/3

などが用いられる14)。そこで,これら4つの方法を用い

て HSI を求めて,アサリ生息密度との関係を検討した。

HSI は積算と最小値選択で決定係数 r 2がそれぞれ

0.95 と0.96 となり,アサリ生息密度と高い相関を示し

た(図3)。アサリの生息密度には様々な要素が相互に

作用していると考えられる。従って,一つの環境要素の

値を採用する最小値選択は,本研究のように環境要素を

3つに絞り込んだケースでは,生息地の適性を過大,ま

たは過小に評価する可能性がある。そこで本研究では積

算による HSI を採用する。

3.5 本 HSI モデルの適用範囲

本研究で作成した HSI モデルは,大村湾における浅

場造成事業の覆砂効果を検証するためものである。従っ

て,大村湾の泥質干潟および砂質干潟の潮間帯が対象と

なる。また,HSI に対応するアサリ生息密度は,大村湾

の潮間帯において5月~10月にかけて測定したデータで

あることから,適用はこの期間内に限定される。

3.6 本 HSI モデルの実海域への適用

長崎県環境部はアサリなどの二枚貝を増やすことを

目的として,大村市森園地先の海岸に,幅 200 m×沖出

し 50 m の規模で,廃ガラスを砕いた再生砂を用いて覆

砂した(図1,4)。覆砂工事は2016年6月に終了し,翌

年1月には殻長 5 mm 前後のアサリ稚貝が 522 個体/m2

出現した。同海域は覆砂以前にはアサリは殆ど生息しな

長崎空港

図4 大村市森園地先に再生砂を覆砂して造成した

浅場。写真は工事終了直前の2016年 5月の様子。

100

200

300

400

500

600

700

00.2 0.4 0.6 0.8 1.00

y = 414xr 2=0.83, p =0.007

幾何平均

100

200

300

400

500

600

700

00.2 0.4 0.6 0.8 1.00

最小値

y = 558xr 2=0.96, p =0.0002

y = 585xr 2=0.95, p =0.0005

100

200

300

400

500

600

700

00.2 0.4 0.6 0.8 1.00

積 算

y = 368xr 2=0.75, p =0.017

100

200

300

400

500

600

700

00.2 0.4 0.6 0.8 1.00

算術平均

HSI

アサ

リ生

息密

度(個

体/m

2)

HSI

図 3 大村湾におけるアサリ生息密度と HSIとの関係

128

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<報文> 大村湾におけるアサリ生息場適性評価モデルの構築

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

52

かったことから,覆砂によるアサリ増殖効果が確認され

た。

しかしアサリ生息密度は,2017年8月には 24 個体/m2

まで激減した。この時の底質は強熱減量が 0.8%と低く,

SI=0.2 となったものの,中央粒径および含水率とも適

性範囲で,いずれも SI=1.0 であった(表3)。従って,

HSI は 0.2 であり,底質環境から予測されるアサリ生

息密度は 117 個体/m2である。覆砂場におけるアサリ生

息密度の減少には底質以外の要因も関わっていると考

えられる。

2017年8月に覆砂場でアサリ生息密度の調査を行った

際は,軟骨魚類のアカエイ(Dasyatis akajei)が複数

個体観察された他,甲殻類のタイワンガザミ(Portunus

pelagicus)なども観察された。これの生物はアサリを

捕食することから4),覆砂場におけるアサリ個体群は高

い捕食圧を受けている可能性がある。今後,有明海など

のアサリ漁場において行われている捕食対策4)を,大村

湾においても実施する必要があると思われる。

4. 引用文献

1) 海洋政策研究財団,長崎県:平成22年度「海の健康

診断」を活用した大村湾の環境評価に関する調査研究

報告書 -海の健康診断 大村湾モデル-.海洋政策研

究財団,54 pp.,2011

2) 粕谷智之,川井 仁,山口仁士,高橋鉄哉,中田英

昭:大村湾における底生水産生物浮遊幼生に関する研

究.長崎県環境保健研究センター所報,53,54-61,

2007

3) 粕谷智之:リサイクル材を活用した二枚貝生息場造

成の可能性について-IV 底質およびアサリ出現密

度の推移について.長崎県環境保健研究センター所

報,59,80-83,2013

4) 水産庁漁港漁場整備部 整備課:干潟生産力改善の

ためのガイドライン.水産庁,206 pp.,2008

5) U.S. Fish and Wildlife Service : Habitat Eva-

luation Procedures Handbook, https://www.fws.gov/

policy/ESMindex.html(2018.7.14アクセス)

6) 新保裕美,田中昌宏,池谷 毅,林 文慶:アサリ

を対象とした生物生息地適性評価モデル.海岸工学論

文集,47,1111-1115,2000

7) 水産庁,(社)マリノフォーラム21:砂質系干潟の

健全度評価手法マニュアル,http://www.mf21.or.jp/

pdf/amamo/manual.pdf(2018.7.25アクセス)

8) 松岡数充:大村湾 -超閉鎖性海域「琴の海」の自

然と環境-.長崎新聞社,189 pp.,2004

9) 上田 拓,山下輝昌:アサリ漁場の造成事例.日本

水産工学会誌,33,213-218,1997

10) 藤本敏昭,中村光治,小林 信,林 功,瀧口克

己,尾田一成,鵜島治市:アサリの漁場形成について.

昭和58年度福岡県豊前水産試験場研究業務報告,

34-106,1985

11) 高橋清孝,佐藤陽一,渡辺 競:アサリの生存限

界に関する実験的検討.宮城県水産試験場研究報告,

11,44-58,1986

12) 椹野川河口域・干潟自然再生協議会事務局:椹野

川河口干潟再生実証試験の結果.第17回椹野川河口

域・干潟自然再生協議会会議 資料,3-16,2014

13) 山根恭道,福井克也,中村幹雄,清川智之,内田

浩,重本欣史:宍道湖・中海水産振興対策検調査事業

-垂下式貝類飼育試験-.平成10年度島根県内水面水

産試験場事業報告,55-61,1998

14) 国土交通省:浅海化・干潟化による影響緩和のため

の一体的な基盤政治方策検討調査.平成19年度 社会資

本整備事業(調査の部)報告書,水1-水64,2007

中央粒径  強熱減量  含水率

測定値 1.2 mm 0.8 % 20 %

SI 1.0 0.2 1.0

表 3 大村市森園地先に造成した覆砂場

における底質の実測値と,その SI

129

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<報文> 2017年11月28日から29日におけるPM2.5高濃度事例について

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

53

*PM2.5 High Concentration Event from Novenber 28 to Novenber 29 in 2017 **Kentaro TAKAYAMA,Yuki HENMI(山形県環境科学研究センター)Environmental Science Research Center of Yamagata

Prefecture ***Satoru MURAOKA(山形県環境エネルギー部水大気環境課) Environment and Energy section Water Atmospheric

Environment Division of Yamagata Prefecture ****Yayoi NARITA (山形県最上総合支庁)Mogami Area General Branch Administration Office of Yamagata Prefecture

<報 文>

2017年11月28日から29日におけるPM2.5高濃度事例について*

髙山賢太郎**・村岡 悟***・逸見祐樹**・成田弥生****

キーワード ①PM2.5 ②広域的汚染 ③後方流跡線解析 ④光化学オキシダント ⑤2017年11月28日から29日

要 旨

2017年環境大気常時監視において,山形県内のPM2.5の測定値が11月28日から29日にかけ高濃度を記録した。同期間に他

県でも高濃度が観測されており,広域的な汚染であることが示唆された。本県におけるPM2.5 高濃度の要因について,今後

の知見とするため,後方流跡線や,他の汚染物質(光化学オキシダント)の動向から解析した結果,28日と29日は異なる

経路による汚染と推測した。

1.はじめに

2017年11月28日から29日にかけ,本県の環境大気常時

監視局中,PM2.5測定局(13局)において質量濃度の1時

間値の最高値が20~40µg/m3と,高い値が観測された。

また,そらまめくん1)に掲載された速報値によると,同

期間に国内の常時監視局でPM2.5質量濃度が100µg/m3を超

えた地点が確認された。

本報では,山形県においてPM2.5が高濃度となった要因

について,当日の気象状況や大気汚染物質の濃度推移等

から解析した結果を報告する。

2.期間内のPM2.5の概況

2.1 PM2.5質量濃度の1時間値

11月28日から29日の県内各測定局におけるPM2.5質量濃

度について,1時間値の最高値を図1に示す。山形下山家

局は自動車排ガス測定局であり,その他の局は一般局で

ある。この期間では,山形市(山形十日町,山形下山家)

及び周辺地域(天童市,上山市)が高い値を示していた。

また,本県は気象特性から4地域に区分(日本海に面

する沿岸部と内陸部,更に内陸は村山,最上,置賜の3

地域)されているが,その中で日本海に面している庄内

地方は28日はそれほど高い値を示さず,29日に上昇した

傾向がみられた。

図1 山形県内の常時監視局における

PM2.5質量濃度の一時間値の最高値

130

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<報文> 2017年11月28日から29日におけるPM2.5高濃度事例について

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

54

11月28日から29日にかけての全国のPM2.5質量濃度を調

べたところ,北陸地方(富山県婦中速星局),九州地方

(福岡県柳川局),中国地方(岡山県倉敷美和局)にお

いて100μg/m3を超える値を記録するなど,国内の広い範

囲で高濃度となっていた。

2.2 PM2.5濃度の推移

県内のPM2.5の1時間値の濃度推移をみると,内陸部(村

山,置賜,及び最上地方)では28日午前から29日夜にか

けて高濃度を記録した。一方,日本海に面した庄内地方

では,28日は顕著な濃度上昇はみられず,29日午後から

同日夕方にかけて高い値が記録された。(図2)

PM2.5濃度推移が同様な傾向を示した内陸部と,庄内地

方に区分して1時間値の最高値を比較したところ,28日

は,内陸部が34µg/m3(山形下山家局:16時),庄内地方が

15µg/m3(遊佐局:16時,鶴岡錦町局:13時)であった。ま

た,同様に,29日においては内陸部が40µg/m3(山形下山

家局:11時),庄内地方が29µg/m3(鶴岡錦町局:14時)

であった。

3.高濃度発生時の状況及び解析

3.1 天候及び気象概況

11月28日及び29日の天気図2)を図3に示す。29日におい

ては,日本列島の西側に高気圧が存在し,全国的に西

からの風が吹きやすい状況であった。

また,山形市における気温,風速,天気概況は表1の

とおりである。両日とも風速は小さいことから,大気が

拡散されにくい状況となっていたことが考えられる。

図3 11月28日及び29日の天気図

(気象庁ホームページより)

図2 山形県内の測定局におけるPM2.5質量濃度の推移

11月28日 11月29日

131

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〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

55

3.2 高層気象

本県に最も近い高層気象観測地点である秋田県におけ

る高層気温3)を図4に示す。

11月28日21時には,地表から高度約300m及び約1300~

1700mにおいて気温の上昇が認められ,逆転層が観測され

ていることから,その時間帯は大気が拡散されにくい状

況であったと考えられる。

一般的に逆転層が起こると,大気が拡散しないため

PM2.5の二次生成が起こりやすく,そのことが28日の濃度

上昇に寄与していると推測される。

29日21時には,高度2000mを超える高層で逆転層がみら

れるが,高度が高いため,地表付近の大気環境への影響

は考えにくい状況であった。

3.3 後方流跡線解析

米国海洋大気庁(NOAA)のHYSPLIT MODELを用いて,気塊

の後方流跡線解析を行った。

起点を庄内地方の鶴岡市とし,28日及び29日の6時,12

時,18時を基準とし,過去72時間分の解析を行った結果を

図5に示す。なお,省略するが,内陸にある山形市を起点

にした場合も,数時間のずれがあるが,図5と類似した解

析結果が得られている。

この結果より,山形県の大気は,11月28日と29日の夕

方は中国北部から,29日の日中は中国南部から流入した

気団の影響を受けたと考えられる。

表1 気温,風速及び天気概況

図4 秋田県における11月28日~29日の高層気温

図5 後方流跡線解析結果(過去72時間分)

天気概況風速 風向 昼(06:00-18:00) 夜(18:00-翌日06:00)

11月28日 0.9 1.4 北北西 霧後薄曇一時晴 晴後霧11月29日 3.9 1.5 西南西 曇一時雨、霧を伴う 曇一時雨

風向・風速(m/s)(12:00時点)平均気温(℃)

132

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56

3.4 光化学オキシダント濃度推移との比較

自動測定局において測定しているPM2.5以外の測定項目

の濃度推移を確認したところ,光化学オキシダント(Ox)

において,28日と29日は全く異なる傾向がみられた。

Oxの自動測定機を設置している8局のPM2.5とOxの濃度

推移を示す(図6)。

Ox濃度推移に着目すると,全県的に28日は昼間に上昇

し,夜間は下降するという,日常的にみられるような濃

度推移をしている。しかし,29日は時間のずれはあるも

のの,昼間から夕方のある時間に濃度が急上昇し,さら

に夜間の光化学反応がおきにくい状況となっても,濃度

が低下しなかった。

このことから、29日のOx濃度の上昇は光化学反応によ

り他地域で生成して高濃度となった大気の流入による寄

与の方が大きいことが示唆され,夜間もその大気が拡散

せず漂っていたと推測された。さらに前述の後方流跡線

解析の結果も加味すれば,Ox濃度が急上昇した時間帯は,

中国南部からの気塊の流入があった時刻とほぼ一致する

ことから,Ox濃度の上昇はこの気塊の影響によるものと

推測される。

一方,PM2.5濃度推移は,28日はOxと連動している様子

はないが,29日は28日に濃度が上昇していなかった庄内

地方も含め,Ox濃度推移との間に類似性がみられた。こ

のことから,29日にOx濃度の上昇をもたらした気塊の中

には高濃度のPM2.5も含まれており,その寄与により濃度

上昇が起こったことが推測される。

補足として,二次生成大気汚染物質としてのPM2.5生成

には,光化学オキシダント(Ox)との関連性がある4)とい

われているが,今回は、気象状況等から二次生成による

粒子の影響は小さいと推測され,二次生成による濃度上

昇の可能性については,考察に至っていない。

4.まとめ

気象概況や後方流跡線解析,逆転層の発生状況などか

ら,この期間におけるPM2.5濃度の上昇の原因は,28日は

大陸北部から高濃度のPM2.5を含む気団が国内及び本県に

おいては内陸部を中心に流入し,滞留したことであると

考えられる。

しかし,29日における濃度上昇は,上記の影響は薄く,

むしろ,PM2.5とOxの濃度推移の類似性や後方流跡線解析

の結果などから,大陸南部からの気団が流入した影響が

大きいことが考えられる。

133

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<報文> 2017年11月28日から29日におけるPM2.5高濃度事例について

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

57

図6 PM2.5と光化学オキシダント濃度の推移

PM2.5(μg/㎥) Ox(ppb)

134

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58

引用文献

1) 環境省大気汚染物質広域監視システム(そらまめくん)

http://soramame.taiki.go.jp/

2)気象庁ホームページ(天気図)

http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/wxchart/quick

monthly.html

3) 気象庁ホームページ(高層の気温)

http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/upper/i

ndex.php?year=2017&month=11&day=&hour=&atm=&poin

t=47582

4)若松伸司,岡﨑友紀代:二次生成大気汚染物質(オゾ

ン,PM2.5)に関する近年の研究の状況.日本マリンエン

ジニアリング学会誌, 49,pp.54-59, 2014

135

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<支部だより>東海・近畿・北陸支部

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018)

59

<支部だより>

東海・近畿・北陸支部

全国環境研協議会東海・近畿・北陸支部の活動として,

第32回支部研究会について報告します。

(支部事務局:兵庫県環境研究センター)

1.開 催 日:平成30年1月25日(木)から26日(金)

2.会 場:奈良県文化会館(奈良市)

3.参 加 者:延べ46名(17機関)

4.発表演題:17題

(1) 第1日:1月25日(木)

① 岐阜県南部地域のPM2.5の状況について

(岐阜県保健環境研究所)

② 奈良県におけるPM2.5中シュウ酸イオンのモニ

タリング結果について

(奈良県景観・環境総合センター)

③ 北陸三県における微小粒子状物質に関する共同

解析結果 (富山県環境科学センター)

④ 夏季夜間の海風とともに京都南部へ流れ込む人

為起源汚染物質 (京都府保健環境研究所)

⑤ HBCDの溶出・分解試験結果について

(福井県衛生環境研究センター)

⑥ 排水中の窒素・燐含有量等分析への流れ分析法

(FIA法)の導入について (堺市衛生研究所)

⑦ 迅速前処理カートリッジを用いた水質中PCBsの

分析事例 (兵庫県環境研究センター)

⑧ 環境測定分析外部委託検査機関における精度管

理の実施状況について (神戸市環境保健研究所)

⑨ 油ヶ淵及び油ヶ淵流域の水質状況について

(愛知県環境調査センター)

⑩ 廃棄物溶出試験における重金属類測定手法の確

立に関する研究 (三重県保健環境研究所)

⑪ 埋立処分場における1,4-ジオキサンの挙動調査

(石川県保健環境センター)

(2) 第2日:1月26日(金)

⑫ 生息場に応じた人工干潟における生物量の相違

(兵庫県環境研究センター)

⑬ 琵琶湖における植物プランクトンについて(平

成26年度から平成28年度) (滋賀県琵琶湖環境科

学研究センター)

⑭ 地下水汚染におけるVOCの嫌気的脱塩素化の検

討 (名古屋市環境科学調査センター)

⑮ 概況調査による岐阜県内の地下水質の状況につ

いて (岐阜県保健環境研究所)

⑯ 解体現場等における大気中石綿濃度の測定時間

短縮化の検討 ((地独) 大阪府立環境農林水産総

合研究所)

⑰ 仕上塗材(リシン)中のアスベスト含有検査に

ついて (大阪市立環境科学研究センター)

136

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<編集後記>

〔 全国環境研会誌 〕Vol.43 No.3(2018) 60

編 集 後 記

「酷暑」。7月中旬くらいから,この言葉を頻繁に見聞

きするようになりました。屋外に出ると,厳しい日差し

に焼かれて,早々にクーラーの効いた室内に逃げ込むこ

とも少なくありません。しかし調べてみると,気象庁の

正式な予報用語には「酷暑日」という区分はありません。

かつてマスコミなどでは,最高気温が35度以上の日を「酷

暑日」と言っていたようですが,平成19年4月に気象庁が

放送用語を改正して以降は,正式には「猛暑日」を用い

るようになったようです。ただし,気温の高い日でなく,

激しい暑さを表す言葉として,「酷暑」が定義されてい

ます。

さらに気象庁のHPから,8月に全国で猛暑日を記録した

観測地点数が100を超えた日数を見ると,昨年の3日から

今年の14日に大幅増加しています。同様に,「2018年夏

の最高気温のランキング」(8月30日時点)に日最高気温

の順位と気温を見ると,上位10地点までが40度を超えて

おり,この夏の暑さがどれ程異常なものだったかが分か

ります。

* * *

このランキングでは,三重県桑名市が日最高気温で16

位(39.8度),日平均気温で10位(33.0度)に位置づけ

られました。同市では,毎年,暑さ真っ盛りのこの時期

に,「日本一やかましい」と言われる「石取祭(いしど

りまつり)」が催されていま

す。市内各町から繰り出す絢

爛豪華な祭車は,総数43台を

数え,大音響で響き渡る鉦・

太鼓の音と人々が上げる歓

声で熱気のるつぼと化す瞬

間を捉えようと,シャッタ

ーチャンスを狙う観光客も多くなりました。昨年12月に

は,石取祭の祭車行事を含む「山・鉾・屋台行事」がユ

ネスコ無形文化遺産に登録されていますので,来年あた

り,訪れてみてはいかがでしょうか。

* * *

最後になりましたが,巻頭言をご執筆いただきました

長崎県環境保健研究センター所長様,特集の「第6次酸

性雨全国調査報告書(平成28年度版)」を担当いただき

ました全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究

部会の皆様,報文を投稿いただきました皆様,「支部だ

より」を執筆いただきました兵庫県環境研究センター様

には,お忙しいところご協力をいただき,誠にありがと

うございました。今後とも,会誌へのより一層のご協力

を賜りますよう担当一同よりお願い申し上げます。

(三重県保健環境研究所)

平成30年度

全国環境研協議会広報部会 < 部 会 長 > 三重県保健環境研究所長 <広報部会担当理事> 石川県保健環境センター所長

季 刊全国環境研会誌 Vol.43 No.3(通巻148号)

Journal of Environmental Laboratories Association 2018年9月25日発行

発行 全国環境研協議会

編集 全国環境研会誌 編集委員会

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