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18 感染症学雑誌 第49巻 第1号
Varicella-Zoster Virusの 補 体 結 合 反 応
に よ る血 清 疫 学 的 研 究
川崎医科大学微生物学教室
小 野 義 三 高 橋 千 恵
川崎医科大学皮膚科学教室
三 好 薫
高知県衛生研究所微生物部
出 口 祐 男
高知学園短期大学保健科
佐 々木 盛 生 野 田 和 秀
Key words: Varicella-Zoster virus, CF antibody, Herpes zoster, Seroepidemiology
ヒト胎児肺初代培養細胞(以 下HELと 略す)
を用いてVaricella-Zoster Virus(以 下VZVと 略
す)の 補体結合(以 下CFと 略す)反 応抗原を作
成 し,帯 状庖疹患者の血中のCF抗 体価の推移に
ついて しらべるとともに,正 常人の各年令層別抗
体保有状況についての調査を行つた.VZVに つ
いての血清疫学的報告はわが国ではきわめて少な
いように思われるので以下報告す る.
実験材料 と方法
1) ウイルス
HS-1株:水 痘患者由来 ウイルスで東大医科
研,本 藤良博士 より分与を うけ教室でHELを 用
いて培養継代 したウイルス,帯 状庖疹患者のCF
抗体価の測定,各 年令層別の抗体価の測定,を す
るためのCF抗 原の作成,ま たCF抗 原の作成の
条件の検討のための実験には,す べてこのウイル
スを使用 した.
Z-13株:帯 状庖疹患者の水庖か らHELを 用
いて,教 室で分離培養 したウイルスでHS-1株
との抗原性の比較の実験のために使用 した.
2) 細胞 とメジウム
人 工 流 産 した2～5カ 月 令 の ヒ ト胎 児 か ら肺 を
摘 出 しPBSで 反 復 洗 浄 した あ とで,細 切,0.25
%の ト リプシ ンで反 復 消 化 を行 つ て 集 め た 細 胞
を,仔 牛 血 清10%を 加 え たEagle's MEM培 地 で
培 養 した.な お培 地 中 に は ペ ニ シ リン250U/ml,
ス トレプ トマ イ シ ン100μg/mlを 添 加 した.細 胞
は 通 常5～7日 で単 層 を形 成 す る。 この細 胞 単 層
を トリプ シ ンEDTAを 用 い て短 時 間接 触法 で分
散 し,同 じ処 方 の 培 地 で2倍 に稀 釈,す な わ ち1
本 の培 養 び んか ら2本 の培 養 び ん に ふ や す 方 法 で
継 代 を行 つ た.ウ イ ル スの 培 養 に は 主 と して5～
10回 この よ うに して 継 代 し た 細 胞 を 使 用 した.
Maintenance mediumと しては 上 記Eagle's MEM
に仔 牛 血 清 を2%に 加 えた も のを 用 い た.
3) ウ イル ス の培 養 お よびCF抗 原 の作 成 方 法
Z-13ウ イル ス の培 養:こ の ウイ ル ス の分 離 培
養 は,最 初,培 養 角 瓶 のHELの 単 層 培 養 細 胞 上
に帯 状 庖 疹 患 者 か ら採 取 した 水 庖 内容0.2mlを
接 種 し,37℃,1時 間 吸 着 を 行 つ た の ち,上 記
Maintenance medium 9mlを 加 え て培 養 す る こ
とに よ りVZV特 有 のFocal lesionが 出現(図
昭和50年1月20日 19
Fig. 1 Multinucleate giant cell with intranuclear
inclusions. 5 days after inoculation with V-Z
virus.
Fig. 2 Control uninfected HEL culture 5-day mo-
nolayer. Hematoxylin and eosin.
1,2参 照)し た もの を ウイ ル ス分 離 陽 性 と し,
つ ぎ に示 すHS-1株 の継 代培 養 と同 じ方 法 で培
養 した.
HS-1株 ウイ ル スの 培 養:ウ イ ル ス に よる細
胞 変 性 が50%以 上 出現 した 培 養 角 瓶 の1本 分 の細
胞 を ト リプシ ン,EDTA混 合 液 で カ ラ ス壁 か ら
剥離 し1,000rpm5分 遠 心 して集 め る.こ の 感 染
細 胞 を 培 養 角 瓶10本 分 の 正常 細 胞 浮 遊 液 の 中 に加
え る.そ して 新 しく培 養角 瓶10本 分 と して培 養 す
る と細 胞 は1日 後 に 単 層 を 形成 して3～4日 でC
PEが 約50～70%出 現 す る よ うな 条 件 で この ウィ
ル ス を培 養 す る こ とが で きた.ウ ィ ル スを保 存 す
る場 合 に は,ウ イル ス感 染 細 胞 を10%仔 牛 血 清 加
Eagle's MEM培 地 に10%にDMSOを 添 加 した
溶 液 中 に浮 遊 させ,-80℃ で 保 存 した.
CF抗 原 の作 成 方 法:HELでHS-1株 ウイ
ル ス を培 養 し,3～4日 で50～70%の 細 胞 がCP
Eを 起 こ した感 染 細 胞 を トリプ シ ン,EDTAで
ガ ラス 壁 よ り剥 離 し2,000rpm15分 遠 心 して細 胞
を 集 め る.こ の 細 胞 を 最 初 の 培 養 液 の1/10量 の10
%Sorbitolを 含 むHANKS液 に再 浮 遊 さす.ル ー
び ん1本 分 の感 染 細 胞 か ら 約5mlの 抗 原用 細 胞
浮 遊 液 が え られ る こ とに な る.こ の 感 染 細 胞浮 遊
液 をBranson B 12型Sonlfierで ミク ロチ ップを使
つ て氷 水 中 で30秒 ,超 音 波 処 理 を 行 い2,000rpm
15分 遠 心 した上 清 を抗 原Aと した.な お非 感 染 の
HEL細 胞 を 同 じ力 法 で処 理 を行 つた もの を正 常
抗 原 と して作 成 しCF反 応 の抗 原 対 照 と して使 用
した.抗 原Aの10%Sorbitol加HANKSをPB
Sと 変 えた もの を抗 原B,抗 原Bを 凍 結乾 燥 した
抗 原C,Sonicationを 行 うか わ り に 感 染 細 胞 の
Pelletを 作 りVibrogen cell millを 使 つ て0,5mm
のGlass Beadsで 細 胞 を こわ した 抗 原D,抗 原D
を凍 結 乾 燥 した 抗 原Eに つ い てCF抗 原 価 を 比 較
測定 してみ た.ま たZ-13株 ウィ ル スか ら抗 原A
の方 法 でCF抗 原 を作 成 し,HS-1株 ウイ ル ス
か ら作 成 した抗 原 とCF抗 原 性 の 比 較 実 験 を行 つ
た.
4) 被 検 血清
帯 状 庖 疹 患 者 血 清 は,川 崎 医科 大 学 付 属 病 院 皮
膚 科 で,帯 状 庖 疹 と診 断 され た患 者 の うち急 性 期
と回 復 期 の2回 以上 の 血 清 が え られ た もの22例 に
つ い て実 験 を 行 つ た.な お 病 日の 数 え 方 は皮 疹 の
出現 した 日を もつ て 第1病 日 と した.各 年 令 層 別
の抗 体 価 を測 定 した,456例 の 血 清 は,高 知 県衛
生 研 究 所 で,水 痘,帯 状 庖 疹 とは関 係 な く集 め ら
れ て いた 血 清 で,検 査 をす る まで 一20℃ に 保 存 し
て い た もの を56℃30分 非 動 化 を行 つ た 後,実 験 に
使 用 した.
5) CF反 応 の 術 式
マ イ クPタ イ タ ー法 で 行 つ た.抗 原価 の測 定 に
は抗 血清 の4単 位,抗 体 価 の測 定 に ば抗 原 の4単
位 の もの を 使 用 した.稀 釈 液 は ゼ ラチ ン ・ベ ロ
ナ ー ル緩 衝 液 を使 用 した.対 照 と して は じ め に
20 感 染症学 雑誌 第49巻 第1号
Microbiological社 のVaricella CF Antigen,CF
Control Antigen,Human Reference Serumを 使
用 して実 験 を行 つ た.被 検 血 清 の抗 体 価 は30%ま
た は それ 以 下 の溶 血 度 を 示 した 血 清 の 最 高稀 釈 倍
数 で示 した.
実 験 成 績
1) CF抗 原
HS-1株 ウイ ル スを 用 い てHEL感 染 細 胞 か
ら作 成 したCF抗 原 の抗 体 価 は表1に 示 した よ う
に抗 原Aが 最 も高 い抗 原 価 を示 した.ま た 水 庖 内
容 を比 較 的 多 く採 取 す る こ とが で きた 例(Z-13
とZ-14)に つ い て み る と水 庖 内 容液 そ の もの の
抗 原 価 は80～160倍 まで 稀 釈 して もCF抗 原性 を
Table 1 Comparison of VZV CF Antigens
1) Treatment of Infected Cells (Antigen Titer)
2) Zoster Vesicle Fluid & Isolated Virus
示すが,こ の水庖液中か らウイルスを分離培養 し
て抗原を作成すると私たちの今回の抗原の作成方
法では結果的には32～16倍 の抗原価の抗原となつ
た.Z-13株 ウイルス(帯 状庖疹患者由来)か ら
作成 した抗原とHS-1株 ウイルス(水 痘患者由
来)か ら作成 した抗原は,帯 状庖疹患者の血清に
対 して同 じパターンの反応を示 した(図3).
2) 帯状庖疹患者血清のCF抗 体
表2に 示す ように帯状庖疹患者22例 のCF抗 体
の推移をみると,発 病後1週 以内では15例中,11
例がCF抗 体価は8倍 以下であつた.し か し他の
4例 では32倍 のものが3例,64倍 のものが1例 で
あつた.13,14病 日になると4倍 のCF抗 体価の
ものが2例 あるが,128倍 以上の高い抗体価を示
Fig. 3 Relationship between varicella & zoster
antigens
すものが6例 になつている.最 もはや く抗体価の
上昇をみたものでは10病 日で≧512の 抗体価を示
した.ペ ア血清を採取することができた例では22
例中19例 がいつれも病 日の経過 とともに抗体価の
上昇がみとめ られた.抗 体価は一般に臨床診断の
重症度 と比例 して高い抗体価を示す 傾向が み ら
れた.汎 発性帯状庖疹 と診断された例(No.16,
T.Y.)で は9病 日ですでに128倍 の抗体価を示 し
ていた.不 全型 と診断 された例(No.21,S.T.)
と白血病の治療を受けていた例(No.22,K.H.)
では抗体の上昇はみられ な かつた.3回 以上採
血することができたもの6例(No.1,2,3,
13,14,16)に ついてみると発病後3週 か ら1カ
月あた りまで上昇 した抗体は推持されるが3ヵ 月
でCF抗 体は急激に下降 していた.
3) VZVの 各年令層別CF抗 体分布
VZVの 各年令層別の抗体価の測定を行つた結
果表3に 示す ような結果をえた.CF抗 体が8倍
以上あるものを抗体陽性 とすると平均 して37.1%
のものが抗体を保有 していることになる.し か し
なが ら,そ の保有率は年令によつてかな り差が認
められる.す なわち,4才 以下のものでは22.9%
であるが50～59才 では65.5%で あつた.し かも年
令が高 くなるにしたがつて抗体保有者が多 くなる
とい うような傾向はみられず年令層別の抗体保有
率は図4に みられるような状態で分布 している.
昭和50年1月20日 21
Table 2 CF Antibody in the Sera of Patients
* chronic Iymphatic Ieukemia
またCF抗 体 価 が64倍 以上 あ る もの が11例(2.41
%)に み られ た.
考 察
VZVの 培 養 細 胞 と してはWellerら の報 告1)
以 後,ヒ ト胎 児初 代 培 養 細 胞2),Vero細 胞3)4)な
どが用 い られ て い る.私 た ち はHE工 を用 い てV
ZVのCF抗 原 を で き るだ け 多 く作 りVZVの 血
清 疫 学 的 実 験 に応 用 した い と考 えた.
22 感染症学雑誌 第49巻 第1号
Table 3 Age Distribution of VZV Antibody
Fig. 4 Prevalence of CF antibody to VZV by age
VZVはCell-associatedの 性 質 が あ る た め に,
感 染 細 胞 をSonicationし たCell-lysateをCF抗
原 と して 使 用 して い る.本(藤 らはVZV感 染細 胞
を 凍 結 乾 燥 して ウイ ル ス保 存 の た め に も又 活性 ウ
イル ス を うるた め に も よい 方 法 で あ る こ と を 報
告5)し て い る.し か しCF抗 原 価 は 凍 結 乾 燥 を 行
うとや や抗 原価 が低 下 す る よ う で あつ た.私 た
ち は 今 回細 胞 を こわ す 条 件 と してVibrogen cell
millを 使 つ て み た がSonicationと 比 較 して高 い
CF抗 原 価 の 抗 原 を作 る こ とが で き な か つ た*
Tayler-Robinsonら は 帯 状 疱 疹 患 者 の 水 疱 液 を
36,000×Gで 遠 心 した 上 清 に1:80倍 ま でCF抗
原 性 を み とめ,水 疱液 中 に ウイ ル ス粒 子 とは別 の
可 溶 性 抗 原 が あ る こ とを報 告6)し て い る.私 た ち
も帯状疱疹患者の水疱液中には80～160倍 稀釈ま
でCF抗 原性があることを認めた.そ して,こ の
水疱液中からHELを 用いてウイルスを分離する
ことは比較的に容易であつた.し か しこのウイル
ス感染HEL細 胞か ら作つたCF抗 原は結果 とし
て1:32～1:16程 度の抗原価のものとなる.V
ZVの 感染とCF抗 体の動態についてはすでに多
数の報告1)7M3)が ある.私 たちは今回,臨 床的に
帯状疱疹 と診断された患者のうちで2回 以上採血
することのできた血清22例 を対象としてCF抗 体
の消長をみた.患 者の血清中の抗体は病 日が移行
するにしたがつて殆んどのものに上昇が認められ
る.し かし病 日と抗体価は平均的な関係はみられ
ずかな りバラツキがみられる.一 般的にCF抗 体
は臨床診断の重症度と比例 して高 く出現す る傾向
がみ られた。3回 以上採血することができた例か
ら推測すると,3週 か ら1ヵ 月あた りまでは上昇
したCF抗 体は維持されているが,3ヵ 月後では
急激に下降するようである。これらの点から考え
ると,VZVのCF反 応は感染の診断をする場合
には簡単で,し かも実用的な方法である.し か し
この疾病に対する感受性の検討を行 う場合には慎
重さを要することがわかつた.
わが国におけるVZVに ついての血清疫学的報
告はきわめて少ないようである.VZVの 年令別
抗体保有状況については1967年 船橋 らが虎の門病
院の皮膚科外来および入院患者を対象に任意に採
昭 和50年1月20日 23
血 して行つた161例 についての成績ではCF抗 体
陽性者は20～25%で 意外に少ないことを報告11)し
ている.ま た この報告の中で船橋 らは10～19才 で
抗体陽性率が急激に減少 していることか ら,帯 状
疱疹の症例が20才 代か ら増加する現象を説明 して
いる.私 たちの今回の実験結果では各年令層を平
均すると37.1%の ものがCF抗 体陽性 で あ つ た
が,年 令層別にみてみると5～9才 のものと20才
代,そ して50才代に抗体保有者が多 くなる山がみ
られ,0～4才 と10～14才 そ して30才代に谷がみ
られるような抗体保有の分布を示 していた.今 回
の実験のように患者を対象か らのぞいて任意に血
清を集めた場合には,水 痘 という病気はEpidemic
に発生することか ら,水 痘の好発年令層のCF抗
体陽性率がひ くく現われてきているものと考えら
れるが,帯 状疱疹は通常,水 痘感染後 ときを経て
発症 し,そ の発生はSporadicで あ り潜伏状態に
あるウィルスの再燃(Reactivation)あ るい は 再
感染であるとされている.20才 代か ら抗体陽性率
が高 くなつている点,ま た高年令層で急に抗体陽
性者 も多 くなり,CF抗 体価の高い例が比較的多
くなつているのはこれ らの年令層のもののあいだ
に一般的に帯状疱疹の発症例が多い事実とともに
かな りこのウイルスによる不顕性感染が起つてい
るか らであろ う.外 国のVZVの 年令別抗体分布
について調べた報告例をみると,Wentwarthら14)
は4,824例 の血清について,サ イ トメガロウイル
ス(CMV),単 純ヘルペスウイルス(HSV)と
VZVのCF抗 体保有状況はそのパターンが異つ
てお りCMV,HSVで は年令が高 くなるにした
がつて抗体保有者が多くなるがVZVで は5～9
才(59%),10～14才(70%),15～49才 では平均 し
て50%で,50才 以上そのパーセントはやや低 くな
ると報告 している.Tomlinsonら が308例 の血清
について調べた報告15)では0～10才 までは32%で
あるが,11才 以上ではほぼ50%以 上のものがCF
抗体陽性になつている.Trlifajovaら はゲル内沈
降反応によつてCMV,HSVとVZVの 年令別
抗体保有状況の比較を行つている16)がこの報告で
もCMV,HSVの 抗体保有者は年令が高 くなる
に したがつて多 くなつてお り15才以上では60%以
上のものが,抗 体陽性となるが,VZVで は平均
して15～20%で あつたと報告 している.Furukawa
らはIHA反 応によつて大人の約60%の ものにV
ZVの 抗体があることを報告17)している.私 たち
の今回の実験成績 とこれ らの外国での報告を比較
してみても,VZVのCF抗 体保有率は4才 頃ま
では比較的低いが5才 頃か らしだいに抗体保有者
が多くなつてくる.し か し,CMV,HSVの 場
合のように年令が高 くなるにしたがつて抗体保有
率が高 くな り,そ して殆んどのものが抗体陽性 と
なるような傾向はみられない.私 たちの今回の実
験成績でも,VZVのCF抗 体保有率は5～9才
33%,20～29才47.8%,50～59才65.5%で あ る
が,こ れらの年令層の前にあた る年令層 で は,
0～4才22.9%,10～14才28%,30～39才30.2%
であ り,各 年令層によつてかな りの差があつた.
また,平 均抗体保有率は37.1%で あつて欧米での
報告にくらべるとかな りひ くいことがわかつた.
帯状疱疹患者のCF抗 体の推移をみると,CF抗
体は比較的短期間に下降していたが,CF抗 体価
が32倍 以上を示すものが456例 中25例(5。48%)
64倍以上を示す例が11例(2.41%)あ つた.今 回
の実験では,水 痘および帯状疱疹の既往歴につい
ての個々の調査を行つていないので,こ れ らのす
べてをただちにいわゆる不顕性感染 とむすびつけ
ることはできないけれども,本 疾患は数多 く不顕
性感染とい うかたちで存在するものと思われる.
結 論
ヒト胎児肺初代培養細胞を用いてVZVのCF
抗原を作成 し,帯 状疱疹患者22例 についての血中
のCF抗 体価の推移をしらべて,VZVの 感染 と
CF抗 体形成の実態について考察するとともに,
正常人総数456例 の血清について各年令層別のV
ZVのCF抗 体価の測定を行つた.帯 状疱疹患者
22例中19例 のものが急性期か ら回復期にかけて抗
体の上昇がみとめ られた.そ してCF抗 体価は臨
床診断の重症度に比例 して高い価を示す ようであ
つた.3ヵ 月以降ではCF抗 体価は急激に下降 し
た.正 常人のCF抗 体保有率は,平 均すると37.1
24 感 染症学雑 誌 第49巻 第1号
%で あ り欧米の報告例に比較 して意外にひ くい陽
性率 で あつた.各 年令層別 のCF抗 体保有状況
は,20才 代 と50才代で抗体保有者が多 くなり,10
才代前半 と30才代では抗体保有者が比較的少なく
なつていることがわかつた.ま た高いCF抗 体価
を示す例(32倍 以上のもの5.48%,64倍 以上のも
の2.41%)が 存在することなどか ら,VZVの 再
燃(Reactivation)あ るいは 再感染は,抗 体が低
下 した ときにしか も,そ の多 くは不顕性感染のか
たちで起つていることを血清疫学的に推察するこ
とができた。
本論文の要旨は第26回日本細菌学会中四国支部総会
(昭和48年11月倉敷)に おいて発表した.
文 献
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昭和50年1月20貝 25
A Seroepidemiological Study on Varicera-Zoster Virus by the
Complement-Fixation Reaction
Yoshizo ONO*, Chie TAKAHASHI*, Kaoru MIYOSHI**, Sukeo IDEGUCHI***,
Morio SASAKI**** and Kazuhide NODA****
*Department of Microbiology and **Department of Dematology, Kawasaki Medical College,
Kurashiki. ***Kochi Prefectural Public Health Institute, Kochi. ****Department of
Health Science, Kochigakuen College, Kochi
The complement-fixating (CF) antigen was prepared in human embryo lung cells infected with
varicella-zoster virus (VZV). CF antibody titers in 22 patients with herpes zoster were examined,
followed up and the relation between VZV infection and CF antibody was studied. Four hundred
and fifty six normal sera were also examined for the control with the consideration of the age.
Out of 22, 19 were observed to have an increase in CF antibody titer during the period between
the acute and the convalescent phases. The titer seemed to be proportional to clinical severity of the
infection in the patients. After three months of infection, the CF antibody , decreased rapidly.
The percentage of positive CF titer (•†1:8) in normal persons was 37.1. This was unexpectedly
low compared with that appeared in reports abroad. Positive rates of CF antibody on age basis were
highest in the 20s and 50s, and lowest in the early teens and the 30s. Among healthy persons, 25
cases (5.48%) and 11 cases (2.41%) were found to show a high CF antibody titer of more than X32,
and X64, respectively. Presumably, this result can be interpreted as reactivation or reinfection of VZV
which would, in most cases, occur in non-manifested form when the antibody titer dropped low
enough to permit the virus to get active.
