3
38 UACJ Technical Reports,Vol.2 (2015) UACJ Technical Reports, Vol.2 (2015),pp. 38-40 Products Products 1.はじめに 近年,地球温暖化などの環境問題を背景にCO2 排出 量削減のため,電気機器の消費電力削減が厳しく求め られている。例えば一般家庭では,ルームエアコンは 特に冬期の外気温が低い場合,COP(エネルギー消費 効率)が低下し,消費電力が大きくなっている。これは 暖房運転時,蒸発器として作動する室外機では,外気 よりさらに低い氷点下の蒸発温度で運転するため,空 気中の水分が昇華した霜がフィン表面に付着,堆積し てフィン間を閉塞させ(Fig. 1),熱交性能を低下させ るためである。このため,定期的にホットガスを流し て霜を融解させる除霜運転(Fig. 2)が必要になるが, この除霜運転時は暖房ができないため,快適性が低下 する問題も併せ持っている。従って,熱交性能が低下 せず,フィン間が霜により閉塞するまでの時間(着霜時 間)が長く,除霜しやすい性質を有するフィン材の適用 が暖房運転時の COP 向上に効果的と考えられる。 2.特 徴 冷房運転時の室内機では,フィンに親水性を付与す ることで,凝縮水は薄膜化して落下するため,水滴成 長によるブリッジを無くすことができ,通風抵抗を低 下させている。しかし,暖房時の室外機では,外気が 氷点下近くの低温の場合,親水性を有するフィンでは 凝縮水がフィン表面に濡れ拡がって氷結し,その膜の 上に徐々に着霜して霜が成長し,経時的に通風抵抗が 増加する。一方,撥水性を有するフィンでは,凝縮水 がフィン表面に保持されにくいため着霜しにくいが, 低密度の霜層のため空気側の熱交性能が低く,単位時 間当たりの霜成長量が低下し,フィン間が閉塞するま での時間は結果として長くなっている。 今回開発した親水滑水フィンは,撥水フィンのよう に凝縮水がスムーズに滑落し,かつ親水フィンのよう に濡れ拡がることにより薄い霜膜を形成する性質を合 わせ持っている(Fig. 3)。 難着霜性塗装フィン 笹崎 幹根* Frost-Formation-Suppressed Coating Fin Mikine Sasazaki* * (株)UACJ 技術開発研究所 第五研究部 No. 5 Research Department, Research & Development Division, UACJ Corpration Fig. 1 Appearance of frost on the air conditioner outdoor unit. Frosting state Non-frosting state Fig. 2 Heating operation and defrosting cycle. 1000 20:29 22:53 1:17 3:41 Time Heating operation Defrosting operation Defrosting operation 6:05 8:29 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 Electric power/kW

UACJ Technical Reports Vol.2 No.1(2015年度)

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

38   UACJ Technical Reports,Vol.2 (2015)

UACJ Technical Reports, Vol.2 (2015),pp. 38-40

ProductsProducts

1.はじめに

近年,地球温暖化などの環境問題を背景にCO2排出量削減のため,電気機器の消費電力削減が厳しく求められている。例えば一般家庭では,ルームエアコンは特に冬期の外気温が低い場合,COP(エネルギー消費効率)が低下し,消費電力が大きくなっている。これは暖房運転時,蒸発器として作動する室外機では,外気よりさらに低い氷点下の蒸発温度で運転するため,空気中の水分が昇華した霜がフィン表面に付着,堆積してフィン間を閉塞させ(Fig. 1),熱交性能を低下させるためである。このため,定期的にホットガスを流して霜を融解させる除霜運転(Fig. 2)が必要になるが,この除霜運転時は暖房ができないため,快適性が低下する問題も併せ持っている。従って,熱交性能が低下せず,フィン間が霜により閉塞するまでの時間(着霜時間)が長く,除霜しやすい性質を有するフィン材の適用が暖房運転時のCOP向上に効果的と考えられる。

2.特 徴

冷房運転時の室内機では,フィンに親水性を付与することで,凝縮水は薄膜化して落下するため,水滴成長によるブリッジを無くすことができ,通風抵抗を低下させている。しかし,暖房時の室外機では,外気が氷点下近くの低温の場合,親水性を有するフィンでは凝縮水がフィン表面に濡れ拡がって氷結し,その膜の上に徐々に着霜して霜が成長し,経時的に通風抵抗が増加する。一方,撥水性を有するフィンでは,凝縮水がフィン表面に保持されにくいため着霜しにくいが,低密度の霜層のため空気側の熱交性能が低く,単位時間当たりの霜成長量が低下し,フィン間が閉塞するまでの時間は結果として長くなっている。

今回開発した親水滑水フィンは,撥水フィンのように凝縮水がスムーズに滑落し,かつ親水フィンのように濡れ拡がることにより薄い霜膜を形成する性質を合わせ持っている(Fig. 3)。

難着霜性塗装フィン笹 崎 幹 根 *

Frost-Formation-Suppressed Coating Fin

Mikine Sasazaki*

* (株)UACJ 技術開発研究所 第五研究部 No. 5 Research Department, Research & Development Division, UACJ Corpration

Fig. 1 Appearance of frost on the air conditioner outdoor unit.

Frosting state

Non-frosting state

Fig. 2 Heating operation and defrosting cycle.

1000

20:29 22:53 1:17 3:41Time

Heating operation

Defrosting operationDefrosting operation

6:05 8:29

900800700600500400300200100

0

Elec

tric

pow

er/k

W

 UACJ Technical Reports,Vol.2 (2015)   39

難着霜性塗装フィン

3.性 能

3.1 着霜時間

各供試フィン材について,着霜時間を比較した結果をFig. 4に示す。着霜時間は,撥水フィンが最も長く(親水フィン比165%),次いで親水滑水フィン(親水フィン比116%),親水フィンの順に短くなった。

3.2 熱交換量

各供試フィンについて熱交換量を比較した結果をFig. 5に示す。親水滑水フィンは親水フィンと比較して熱交換量の低下は認められなかったが,撥水フィンについては,親水フィン比で5.6%の低下が確認された。

3.3 除霜性能

各供試フィン材の除霜開始直前の着霜状態をFig. 6に示す。親水フィンおよび親水滑水フィンでは,フィン表面に初期に形成された薄い凝縮水の膜が徐々に緻密に成長しているのに対し,撥水フィンではフィンに付

着した凝縮水が水滴状のまま凍っている状況が観察された。除霜時には,親水フィンおよび親水滑水フィンでは霜の内面から融け出し,徐々に表面が融けながらフィン上を流れ落ちたのに対し,撥水フィンではフィンとの接触近辺のみで融け出し,氷が融けきらないままにフィン上を滑り落ちる状況が観察された。その結果,試験後に熱交換器を取り外し,装置内を観察すると,撥水フィンの場合のみ熱交換器の下側には氷が融けずに残っている状況が観察された(Fig. 7)。

4.おわりに

「難着霜性塗装フィン」は,室外機の筺体設計を変更することなく,フィン材の置換えのみで着霜時間の延長が可能となり,その特性からエアコンおよびエコキュートの室外熱交換器や冷蔵庫用熱交換器など,様々な用途に適用可能である。現在,寒冷地のエアコン室外機用

Fig. 3 Characteristic of Hydrophilic & Water sliding fin.

Hydrophilic& Water sliding

【Merit】 ・Low ventilation resistance

・High heat transfer rate【Demerit】・Easy to frost (Water film on fin surface)

【Merit】・Hard to frost【Demerit】・High ventilation resistance・Low heat transfer rate

Requested performance

(conventional)

HydrophobicHydrophilic

Water drops slide offthe surface easily

Sideview

Frontview

【Merit】 ・Hard to frost ・Low ventilation resistance ・High Heat transfer rate

【Demerit】

Fig. 4 Difference in frost time by the surface treatment.

165

116

100

80

90100

110

120130

140

150

160170

180

Hydrophilic fin Hydrophilic & Water sliding fin

Hydrophobic fin

Fros

t tim

e ra

tio/%

Fig. 5 Difference in heat exchange by the surface treatment.

100.0 100.3

94.4

85

8789

91

9395

97

99

101103

105

Hydrophilic fin Hydrophilic & Water sliding fin

Hydrophobic fin

Hea

t T

rans

fera

te r

atio

/%

Fig. 6 Enlarged image of the fin edge when the ventilation resistance reached to 500 Pa.

(a) Hydrophilic fin

(c) Hydrophobic fin

(b) Hydrophilic & Water sliding fin

40   UACJ Technical Reports,Vol.2 (2015)

途として量産しており,高い評価を頂いている。

お問い合わせ

(株)UACJ 営業本部 第二部 〒100-0004 東京都千代田区大手町1丁目7番2号 東京サンケイビル TEL:03-6202-2672 FAX:03-6202-2031

UACJ Corporation, Marketing & Sales Division,No. 2 Sales Department Tokyo Sankei Bldg., Otemachi 1-7-2, Chiyoda-ku, Tokyo 100-0004, Japan

TEL: +81-3-6202-2672 FAX: +81-3-6202-2031

笹崎 幹根 (Mikine Sasazaki)(株)UACJ 技術開発研究所 第五研究部

Fig. 7 Appearance after defrost (Hydrophobic fin).