39
酸塩基平衡 2つのアプローチ 慈恵ICU勉強会 2015/01/27 児島千里 Tradi0onal Approach Stewart Approach

Tradi0onal$ Stewart Approach Approach$…¸塩基平衡の異常の鑑別のために$ 7つのステップを順にみていく 1 まずは病歴と身体所見から 2 原発性なのか二次性なのか

Embed Size (px)

Citation preview

酸塩基平衡 2つのアプローチ

慈恵ICU勉強会  2015/01/27  児島千里

Tradi0onal  Approach

Stewart  Approach  

•  酸の定義 (acid:acidus=sour  taste)  1880年代~  Arrhenius「酸とは水に溶けたときにH+を増加させるもの」(HClが酸)  Naunynは「イオン自体の性質が酸を定義する」(Cl-­‐  が酸)  Van  Slyke「電解質が酸塩基平衡で重要な役割を果たす」  BronstedとLowry「酸は陽子を与えるもの、塩基は受け取るもの」(  1910年)  

• Henderson-­‐Hasselbalch  1909年Henderson「Acid-­‐Base  Balance」  Hasselbalch「pHという概念」(Henderson-­‐Hasselbalchの式)  

•  Great  Trans-­‐Atlan0c  Acid  Base  Debate(1950-­‐60年代)  Copenhagen  Approach(Base  Excess  Approach)をAstrupとSiggaard-­‐Andersenが提唱  Boston  Approach(Bicarbonate  Approach)をSchwartzとRehmが提唱  

•  Stewart  approach  1970年代Stewart 「H+濃度を決定する因子はPaCO2、SID、ATOTの3つ  であり、H+やHCO3

-­‐はそれらによって決められる従属因子である。」

歴史

きっかけは Cholera  pandemic(1829年~)

NEJM.  2014;  371:  1434-­‐45.

Tradi0onal  Approach

酸塩基平衡の異常の鑑別のために  7つのステップを順にみていく

1 まずは病歴と身体所見から

2 原発性なのか二次性なのか

3 代謝性の中身(Anion  Gapの話)

4 代謝性が複数存在するかも?

5 それでも説明がつかないとき

6 呼吸性の中身

7 臨床所見と矛盾がないか

•  糖尿病  •  心疾患  •  肺疾患  •  肝障害  •  腎障  •  妊娠  

• 数字を読む前に病歴、症状、身体所見などを評価               ⇩    起こりうる酸塩基平衡障害の鑑別をあげる

Step1 まずは病歴と身体所見から 

•  バイタルサイン  •  神経学的所見  •  感染兆候  •  呼吸パターン  •  消化器症状

•  薬物投与歴  •  中毒  

u 原則として、代償性変化でpHが完全に正常化することはないため、  原発性の判断は容易。  

u 代償の予測値を計算し、実測値と異なれば、混合性を疑う。

Step2 原発性か代償性か 

代謝性acidosisのとき 呼吸性代償 PaCO2  =  HCO3-­‐  +  15

代謝性alkalosisのとき 呼吸性代償 PaCO2  =  HCO3-­‐  +  15

急性呼吸性acidosisのとき PaCO2  が10  mmHg  上昇する毎に

HCO3-­‐  は1  mmol/l上昇

慢性 HCO3-­‐  は4~5  mmol/l上昇

急性呼吸性alkalosisのとき PaCO2  が10  mmHg  低下する毎に

HCO3-­‐  は2  mmol/l  減少

慢性 HCO3-­‐  は4~5  mmol/l減少

ベッドサイドで便利 J  Crit  Care.  2013;  28:  1103.

呼吸性代償は即座に起こる(数時間)

代謝性代償はゆっくり(2~5日間)

低酸素血症では呼吸性代償は計算通りにはいかない。

【予測値の計算式】

1 まずは病歴と身体所見から

2 原発性なのか二次性なのか

3 代謝性の中身(Anion  Gapの話)

4 代謝性が複数存在するかも?

5 それでも説明がつかないとき

6 呼吸性の中身

7 臨床所見と矛盾がないか

•  anion  gap(mmol/l) =  [UMA]  =  [Na+]-­‐[Cl-­‐]-­‐[HCO3-­‐]

Step3 代謝性の中身

[Na+] [K+]  [Ca2+] [Mg2+]  [H+]   [unmeasured  ca0ons:UMC]

[Cl-­‐] [HCO3-­‐] [CO3

2-­‐] [OH-­‐]  albumin phosphate sulfate  lactate   [unmeasured  anions:UMA]

※AG正常値は色々ある。Clin  Chim  Acta.  2001;  307:  33-­‐36.  ➡ここではAG  10以上で診断的意義があるとしている。

•  anion  gapが有用

<代謝性アシドーシス>

•  3タイプ考える ①High  AG      (②Nega0ve  AG) ③Normal  AG

①High  AG [Na+]-­‐[Cl-­‐]-­‐[HCO3-­‐]⇩

Lancet.  2008;  372:  892.

「GOLD  MARRK」  G:glycols(ethylene  and  propylene)  O:5-­‐oxoproline(pyroglutamic  acid)  L  :L-­‐lactate  D:D-­‐lactate(short-­‐bowel  syndrome)  M:methanol  A:aspirin  R:renal  failure  R:rhabdomyolysis  K:ketoacidosis

(GFR<20ml/min)

半分が乳酸アシドーシス

Use  of  penicillin-­‐derivered  an0bio0cs

有用なケース  ・糖尿病性ケトアシドーシスの診断  ・ケトーシスのフォロー  ・生食の大量投与によるAG正常の   アシドーシスとの鑑別

・飲酒歴がある場合   アルコール性 ケトアシドーシス   (この場合ケトン尿反応は陰性)

・pHが正常化しているかもしれない場合も有用   嘔吐による代謝性アルカローシスの合併   肝障害、妊娠、高熱、Sepsisによる呼吸性アルカローシスの合併

・短腸症候群患者(D-­‐lactate)では   「乳酸値(L-­‐lactate)」は正常な   High  AGアシドーシス

Anion  Gap使用に関する注意

①乳酸アシドーシスでAGの感度は高くない。  High  AG代謝性アシドーシスの半分は乳酸アシドーシス。  しかしAGの乳酸値上昇を予測する感度・特異度は80%程度。    ※乳酸値が3.0~5.0mmol/lであっても、半数はAG正常範囲!  

②AGはアルブミン濃度で補正する必要がある。   アルブミンはAG(unmeasured  anions)の75%を占める。1)2)     アルブミン濃度が1g/dl  低下する毎に、AGの計算値は   2.3~2.5mmol/l  増加させなければならない。1)2)  3)

2)  J Emerg  Med.  2009;  36:  391-­‐394.

1)BMC  Emerg  Med.  2008;  8:  18.

3)Best Pract  Res  Clin  Endocrinol  Metab.  2003;  17:  559-­‐574.

AG補正値=AG計算値+2.5×[Alb正常値(g/dl)-­‐Alb測定値(g/dl)]

(②Nega7ve  AG)

AGが低すぎる(むしろマイナス)場合=             Na以外のca0onの増加によるCl増加  

【高Cl血症】  リチウム中毒、モノクローナルIgG  免疫グロブリン血症  高Ca血症、高Mg血症    【偽性高Cl血症】  ブロマイド中毒、ヨード中毒

[Na+] -­‐[Cl-­‐]-­‐[HCO3-­‐]

③Normal  AG [Na+]-­‐[Cl-­‐]⇧-­‐[HCO3-­‐]⇩ (⇧と⇩が釣り合う )

高Cl  性アシドーシスと呼ばれることも

   

【原因が腎か腎以外かを鑑別するために・・・尿に注目】    高Cl性アシドーシスでは、  正常腎では遠位尿細管からのアンモニウム排泄が増加するはず                       ⇩       尿中アンモニウム増加あり=原因が腎ではない                  増加なし=原因が腎(遠位尿細管)                        ⇩         一般的には尿中アンモニウムを測定しないため、             『尿のAG』や『尿浸透圧gap』で代用しよう

NH4++Cl-­‐  =NH4Cl(として尿中へ)

・HCO3-­‐  の喪失(下痢 尿路変更 type2RTA)  

・腎での酸の排泄増加(type1RTA:Sjogren  etctype4RTA:hypoaldosteronism)  ・生食輸液                

・・・原因はいろいろ  

•  尿AG  =  [Na+]+[K+]-­‐[Cl-­‐] 腎正常は尿AGがnega0ve(ゼロ以下)                 腎性は尿AGがposi0ve

尿AGを信頼できないとき:  多尿のとき、尿pHが6.5以上のとき、尿中NH4+  がCl以外(ケト酸・アセチルサリチル酸・  D-­‐lactate・大量のペニシリン)と結合しているとき、尿Naが20mmol/l以下のとき

尿のAG

尿浸透圧gap

•  (2×[Na+]+2×[K+])+UN/2.8+Glu/18   mOsm/L                    UNとGluの単位はmg/dl  

•  40mmol/l以下:尿へのアンモニウムの排泄障害 信用できないとき:  非遊離酸が大量のとき

そんな時に有用なのは

(尿浸透圧の計算値と実測値のgap)

•  治療方針決定のために、分類は尿中Cl濃度に基づいて行う

Step3 代謝性の中身

<代謝性アルカローシス>

主な原因は、胃液の喪失           利尿薬(ループ・サイアザイド系)など

尿中Cl  低い   25mmo/l  以下  (Cl感受性)

胃液の喪失→Cl-­‐の喪失→  腎でのHCO3

-­‐再吸収up  Hypovolemia→RAA系亢進  →Na+、HCO3

-­‐、Cl-­‐の再吸収up  

治療:  生食輸液  (volumeとCl補充)

尿中Cl  高い  40mmol/l以上  (Cl抵抗性)

腎からCl  だだもれ  (重症低K  、Barher、Gitelman、重症高Ca、重症低Mgが原因)

原疾患の治療

例外:利尿薬による場合、尿中Clは初期は増加するが、徐々に減少し、      最終的には25以下となる。

•  High  AG  アシドーシスに他の代謝性の要因がないか  •  AGの増加分とHCO3

-­‐の減少分は相関するはず  

   ΔAG  -­‐  Δ[HCO3-­‐] (デルタデルタ)

Step4 代謝性の異常が複数あるか

ΔAG=(AG  -­‐12)   Δ  HCO3-­‐  =(HCO3

-­‐  -­‐24)  

ケトアシ  ドーシス

ΔAG:Δ[HCO3-­‐]  =  1:1  

(AGが1上昇ごとに[HCO3-­‐]  

が1減少する) ΔAG  -­‐  Δ[HCO3

-­‐] 0±5: 混在なし  5以上:    HCO3

-­‐がΔAGに比して減少が  少ない、つまり代謝性アルカ  ローシス が混在  -­‐5以下:    HCO3

-­‐がΔAGに比して減少が  多い、つまりnormalAG代謝性  アシドーシスが混在

乳酸アシドーシス

ΔAG:Δ[HCO3-­‐]  =  1:0.6  ※  

(AGが1上昇ごとに[HCO3-­‐]  

が0.6減少する) 0.6  ΔAG  -­‐  Δ[HCO3

-­‐]

※痙攣後や運動直後の乳酸アシドーシスの場合は1:1

もとのAG値やHCO3-­‐値  

によらず正確といえる。

ケトアシドーシスと乳酸アシドーシスでは計算が異なるので注意

•  それでも説明がつかない高いAGがある場合、  昏睡、アルコール(毒物)摂取の疑いがある場合、  プロピレングリコール(ロラゼパム)中毒の疑いのある場合・・・  

Step5 それでも説明がつかないとき

•  血漿浸透圧の予測値と、実測値のgapをみる(浸透圧gap)  

浸透圧=2×[Na+]  +  UN/2.8  +  Glu/18  

Gapが10以下(-­‐10から10  mOsm/L)が正常  

ü アルコール中毒などでは上昇する。初期に異常値となるので有用。  ちなみに3.7をかけるとエタノール摂取量(mg/dl)になる。  

・感度、特異度は高くない  ・正常範囲が広い  ・エチレングリコールやメタノールなど少量でも毒性の強いとき過小評価になる  ・乳酸アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシス  でも若干陽性になってしまう

1 まずは病歴と身体所見から

2 原発性なのか二次性なのか

3 代謝性の中身(Anion  Gapの話)

4 代謝性が複数存在するかも?

5 それでも説明がつかないとき

6 呼吸性の中身

7 臨床所見と矛盾がないか

• 急性か慢性か、Ⅰ型かⅡ型か  • A-­‐aDO2 (alveolar-­‐arterial  oxygen  difference)  =FiO2×(大気圧-­‐水蒸気圧)-­‐PaO2-­‐(PaCO2÷ガス交換率)  =FiO2×(760  -­‐      47) -­‐PaO2-­‐(PaCO2÷0.8)  =FiO2  ×713  -­‐    PaO2    -­‐  1.25×PaCO2  (37℃として)   

Ø   5-­‐10mmHg(young)、15-­‐20mmHg(elderly)  

Ø   Age/4  +  4  

•  呼吸性アルカローシスの場合は  重症基礎疾患がベースにある場合があるので注意。  

Step6 呼吸性の中身

呼吸性の異常がある場合は、以下もcheck

• 以上のステップと臨床所見を照らし合わせて評価する  

•  段階を踏んで病態を理解するこの方法は有用であるが、  診断の助けになるその他の情報も常にcheckするべきである。(例:エチレングリコール中毒での乳酸gapや、一酸化炭素中毒/      メトヘモグロビン血症/青酸カリ中毒での酸素飽和度gapなど)

Step7 矛盾する所見はないか

Stewart  Approach  

NEJM.  2014;  371:  1821-­‐31.

Stewart  が着目したもの

Strong  ion  (fully  dissociated)  

Strong  ca0ons:    Na+  、K+  、Mg2+  、Ca2+    Strong  anions:    Cl-­‐  、lactate、sulfate、ketones  etc  SID=  Na+  +K+  +Mg2+  +Ca2+  -­‐Cl-­‐  -­‐Lac-­‐ ※  

Weak  Acid  (not  fully     dissociated)  

albumin、phosphate、globulin  ATOT=  Alb-­‐  +Pi-­‐  

一. 全ての水溶液は電気的に中性である  二. 全ての水溶液中の物質は保存される  三. 電解質は容易に電離する

※StewartオリジナルではSID=Na+  -­‐Cl-­‐    だったが、   血ガス装置で測定できるようになり、現在では    K+  、Mg2+  、Ca2+  だけでなくLac-­‐  も含めている。   その場合のSID正常値:38~44  mEq/L(文献により前後)  

[HCO3-­‐]は結果にすぎない

Independent  variables

 ①PaCO2    ②SID    ③ATOT 

dependent  variables

 緩衝系   HCO3

-­‐  CO32-­‐  

     OH-­‐    H+

影響

[H+]や[HCO3-­‐]は水の電離状態によって容易に変化する。  

(=dependent  variable  )  

Na+

Ca2+ K+

Mg2+

Cl-­‐

 HCO3-­‐

UMA

Alb-­‐ Pi-­‐

ATOT

SID

Lac-­‐  

シンプルに図で考えていく!

「全ての溶液は電気的に中性である」(陽イオン=陰イオン)  

140

100

Na+

Ca2+ K+

Mg2+

Cl-­‐

 HCO3-­‐

UMA

Alb-­‐ Pi-­‐

ATOT

SID

Lac-­‐  

SID  =  [Na+]+[K+]+[Mg2+]+[Ca2+]    -­‐[Cl-­‐]-­‐[Lac-­‐]  

シンプルに図で考えていく!

「全ての溶液は電気的に中性である」(陽イオン=陰イオン)  

Na+

Ca2+ K+

Mg2+

Cl-­‐

 HCO3-­‐

UMA

Alb-­‐ Pi-­‐

ATOT

SID

Lac-­‐  

SID  =  [Na+]+[K+]+[Mg2+]+[Ca2+]    -­‐[Cl-­‐]-­‐[Lac-­‐]  

シンプルに図で考えていく!

「全ての溶液は電気的に中性である」(陽イオン=陰イオン)  

Na+

Ca2+ K+

Mg2+

Cl-­‐

 HCO3-­‐

UMA

Alb-­‐ Pi-­‐

ATOT

SIDa SIDe

Lac-­‐  

SIG

•  SIDaとSIDeの間のわずかな差をstrong  ion  gap(SIG)とし、これにより測定できない陰イオン(unmeasured  anion:UMA)の総量が計算される。2)  

UMA:unmeasured  anion  (硫酸、ケトン、サリチル酸)

Na+

Ca2+ K+

Mg2+

Cl-­‐

 HCO3-­‐

UMA

Alb-­‐ Pi-­‐

ATOT

SIDa SIDe

Lac-­‐  

SIG

•  SIDaとSIDeの間のわずかな差をstrong  ion  gap(SIG)とし、これにより測定できない陰イオン(unmeasured  anion:UMA)の総量が計算される。  

UMA:unmeasured  anion  (硫酸、ケトン、サリチル酸)

1)Figge  J,  et  al.  J  Lab  Clin  Med.1991;  117:  453-­‐67.

SIG  =  SIDa-SIDe  =  UMA   SIDeはPi-­‐もAlb-­‐も定量化されているので(1)、計算が可能※  

※[Pi-­‐](mEq/L)     =  10/30.97×[P](mg/dl)×(0.309×pH-­‐0.469)  

[Alb-­‐](mEq/L)     =  10×[Alb](g/dl)×(0.123×pH  -­‐  0.631)

Na+

Ca2+ K+

Mg2+

Cl-­‐

 HCO3-­‐

UMA

Alb-­‐ Pi-­‐

ATOT

SIDa SIDe

Lac-­‐  

SIG

•  SIDaとSIDeの間のわずかな差をstrong  ion  gap(SIG)とし、これにより測定できない陰イオン(unmeasured  anion:UMA)の総量が計算される。  

UMA:unmeasured  anion  (硫酸、ケトン、サリチル酸)

1)Figge  J,  et  al.  J  Lab  Clin  Med.1991;  117:  453-­‐67.

SIG  =  SIDa-SIDe  =  UMA   SIDeはPi-­‐もAlb-­‐も定量化されているので(1)、計算可能※  

[Alb-­‐](mEq/L)     =  10×[Alb](g/dl)×(0.123×pH  -­‐  0.631)

※[Pi-­‐](mEq/L)     =  10/30.97×[P](mg/dl)×(0.309×pH-­‐0.469)  

最終的にこれらの  Strong  ionやATOTの  増減の結果、  HCO3

-­‐が変化する  

SID増加:アルカローシス SID減少:アシドーシス  

乳酸増加でアシドーシス 低アルブミン血症で  アルカローシス  

ICU患者ではアシドーシスがカバーされやすい

Case  1 vomit 31歳女性。胃腸炎で2日前から嘔吐。衰弱している。  

pH 7.54

PaCO2 48

HCO3-­‐ 40

Na+ 125

K+ 2.6

Cl-­‐ 72

薬局2014.vol65(6)

呼吸性代償 予測PaCO2=HCO3-­‐+15  

40+15=55 実際48→過換気状態かな?

ICUでの胃管からの吸引も同様

Case  2 saline 22歳女性。事故による外傷で6Lの生食を輸液された。  

pH 7.28

PaCO2 39

HCO3-­‐ 18

Na+ 135

K+ 3.8

Cl-­‐ 115

呼吸性代償:18+15=33  予測値より代償できていない→実は肋骨骨折もあった!

NEJM.  2014;  371:  1434-­‐45.

SID40未満の輸液製剤は輸液すれば  するほどSIDは低下しアシドーシスへ

•  Clの上昇が相対的に問題となる製剤(生食や多くの外液)  

•  Naの減少が相対的に問題となる製剤(マンニトールなど)  

+

+

メイロン®:NaHCO3 •  Stewart  では、「HCO3

-­‐を投与」ではなく「Na+を投与」  する結果、HCO3

-­‐が増加してくれる

生食輸液によるアシドーシスのケースではメイロンが必要か?  →輸液の大量負荷がなくなればおのずと改善するはずなので必要ではない。  アシデミアが強いケースや、依然として輸液負荷が必要な症例では考慮しよう!

Case  3 AKI 急性腎障害(AKI)の患者に透析を行った。  

UMA、Pの除去が  代謝性アシドー  シスを改善させる

P、UMAの増加  により代謝性  アシドーシスに。

透析前 透析後

pH 7.30 7.4

PaCO2 38 39

HCO3-­‐ 18.9 24.8

Na+ 139 137

K+ 4.7 4.0

Cl-­‐ 102 99

Lac-­‐ 3.7 3.2

Alb 2.3 2.3

P(mmol/L)

2.1 1.4

SID 42.0 42.8

SIG 13.4 8.8

Case  4 ARDS 75歳男性。数日前からの呼吸苦で来院。肺炎の診断にて病棟にて  管理されていたが、数時間前から呼吸状態の増悪を認め、  意識レベルも低下している。ICU入室前の血ガス分析の結果が以下。  

pH 7.26

PaCO2 115

HCO3-­‐ 44

Na+ 139

K+ 3.5

Cl-­‐ 87

Lac-­‐ 1.1

Alb 2.1

P(mmol/L) 0.8

高二酸化炭素血症を  低Cl と低Albで代償している

Case  5 SEPSIS •  Sep0c  shockによるLac増加  •  AKIをきたしてリン酸と不揮発酸の排泄低下によるP増加、UMA増加  

•  大量の輸液などによるCl  増加    

•  肝臓でのタンパク合成低下、異化亢進、血管透過性亢進によるAlb低下  

Tradi7onal  Approach Stewart  Approach  

○  

•  より臨床的  •  既往歴や原疾患から鑑別して  

いくことで、原因不明の酸塩基  平衡の障害を診断可能  

•  複雑な重症患者でも理解可能  

•  定量的に酸塩基平衡を把握  することができる  

•  それにより適切な治療が行える  

×  

•  Anion  gapはアルブミンと乳酸の  問題があり、集中治療領域では  適切な補正なしには理解が  難しい  

•  例外や注意事項が多い  

•  詳細な評価のためには多くの  計測値が必要  

•  原因不明の酸塩基平衡の障害  を診断はできない、あくまでも  病態を確認するというかたち  

まとめ

私見

•  Stewart  ApproachはTradi0onal  Approachを否定するものではなく、同じ現象を違った見方をすることで違った解釈をするということであった  • しかし従来、Anion  gapの考え方では理解に苦しん

でいた病態も、Stewart  Approachを用いることで  簡単に理解できることもある  • 複雑で重症なICU患者ではStewart  Approachは有用  • 一生懸命病態を説明しようとするTradi0onal  Approachより、Stewart  Approachでどう対処すべきか理解できる方が、実はより「臨床的」かもしれない