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Title 慣用句と比喩 : 慣用化の度合の観点から Author(s) 坂本, 勉 Citation 言語学研究 (1982), 1: 1-21 Issue Date 1982-12-01 URL http://hdl.handle.net/2433/87896 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

Title 慣用句と比喩 : 慣用化の度合の観点から 言語学研究 …repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/...ところが,こ のように統語的に逸脱した句や,`spic

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Title 慣用句と比喩 : 慣用化の度合の観点から

Author(s) 坂本, 勉

Citation 言語学研究 (1982), 1: 1-21

Issue Date 1982-12-01

URL http://hdl.handle.net/2433/87896

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

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慣用句 と比喩:慣 用化 の度合の観点か ら

坂 本 勉

0.本 稿 の 目的

従来,慣 用 句 に関 す る研究 は,十 分 に行 われ て きた とは言い難 い 。 この 研究 分野 が,言 語研 究 に

とっ て周辺 的 な もの とみな され て きたのが その 不十 分 さの原 因 で あ ろ う。 とい うの は,多 くの 研究

者 た ちは,慣 用句 は言語 に特 有 の 生産 性 を喪失 し,固 定 化 した表 現形 式 で あ る とい う表面 的な 定義

に 満 足 し,さ らに深 く考 察 を進 め よ うと しなか った か らで あ る1)。 従来 の研 究 は,慣 用句 そ れの み

を取 り出 して 論ず る こ とが 多 く,し か も,そ の 表 現 と して の固 定化 を静 的 に しか捉 えて お らず,そ

の力動 的 な面 を無 視 しが ちで あ った 。

本 稿 では,他 の表 現形 式,特 に比喩表 現 との 関 連 で慣用 句 を考察 す る こ とを第一 の 目的 とす る 。

慣 用句 も比喩 も,そ れ ぞれ の構 成 要素 の意 味 を単 に寄 せ集 め ただ け では その全体 的 な意味 を得 る こ

とはで きな い点 で は同 じ条件 に ある 。したが っ て,慣 用 句 を研究 す る こ とに よ って,逆 に,比 喩の

読 みの可能 性 を探 究 で きるで あろ う とい う前提 にた って,こ の 両者 が いか に して 関連 づ け られ るか

を考 察す る。 その際 に,逸 脱(deviance)と い う概 念 が 重要 な役割 を果 す ことにな る。

上述 した よ うに,慣 用 句 は,あ る表 現形 式 が言語 社 会 的 に固定 化 した もの,す な わ ち慣用 化 した

もの で あ る と老 えられて い る。確 か に,こ の考 えは 問違 い ではな い が,そ うした慣 用 化に も様 々 な

程 度が あ って,す べ て の慣用 句 を一 律 に論 ず る ことは で きない 。本 稿 では,日 本語 の 慣用句 を中心

として,慣 用 化の 度合 の 問題 につ い て考察 す る ことを第 二の 目的 として い る。

1.慣 用 句 の定姜

Weinreich(1966,p.450)は,慣 用 句 に 次 の よ う な 定 義 を与 え て い る 。

… segmentally complex expressions whose semantic structure is not deducible

jointly from their syntactic structure ana the semantic structure of their

comリnents,

ま た,Katz and Postal(1963,p.275)に よれ ば,投 射規 則(projection rule)に よっ

て,単 純 に読 み(reading)を 積 み 重 ねてい って も,全 体 と して の読 みが 得 られ な い もの が慣 用 句

とな る。 しか し,こ れ らの 定 義に 従 う限 り,慣 用 句 と比 喩 とを区別 す る こ とは困 難 で ある 。確 か に

両者 に は共通 点が あ るが,相 違 点 もま た存 在 す る 。 この 問題 に 関 して は後 の章 で論ず る。

本 稿 で は,Katz(1973,p.360)に 従 っ て,語 彙 的 慣 用 句(lexical idioms)で あ る 「熟 語j

と 非 語 彙 的 慣 用 句(nonlexical idioms)で あ る 「慣 用 句 」と を 区別 す る 。 例 え ば,「 石 頭 」な ど

一1一

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坂 本 勉

の よ うに単 一の 文法 範 疇(動 詞,名 詞,形 容 詞,等 々)に 属 す る もの は熟語 で あ り,「 油 を売 る 」

な どの よ うに,二 つ 以上の 文法 範 疇の 連 鎖 に よって表 現 され る もの を慣用 句 と して扱 う。両者 の 関

係 は,慣 用句 の 複合 語 化の 問題 と して,後 に考察 され る こ とにな る。

一般 に慣用 句 と呼 ばれ る もの は,各 言語 にお いて様 々な文法 的 形態 を と って 現 れ るが,本 稿 で は,

「名詞 句+助 詞+動 詞句(ま たは形 容詞 句)」 とい う構造 を持 っ 日本 語の 例 を中心 と して考 察 す る 。

す なわ ち,一 定 の文 構 造 を持 っ た慣 用表 現 を扱 うの で,「 慣用 文 」とで も呼ぶべ きだが,従 来 の用

語 法 に従 って,「 慣用 句 」とい う用 語 を用 い る こ とにす る。

慣用 句 につ いて 論ず る時,そ の 分類 に関す る こ とが しば しば問題 とな る。例 えば,身 体 用語 に よ

る慣用 句(「 顔 を立 て る 」 ・「 目を配 る 」な ど)や 動 物 名 に よ る慣用 句(「 猫 をか ぶ る 」 ・「馬が

合 う 」な ど),そ の他 種 々の意 味分 野 に よる分 類 があ る 。 また,あ る種 の動 作 が,あ る種 の 心理 的

状況 を表 わ してい るか否 かに よ る分類 も考 え られ る。例 えば,「 手 を揉 む 」は 「こび へっ ら う 」と

い う心理 的 状況 を表 現 してい るが,「 手 を切 る 」は 「関 係 を断 っ 」とい う行 為 を示 してい る 。その

他 様 々な分 類基 準 が考 えられ る し,言 語学 的 に有 意義 な分 類 基準 を見 出す こ とや考 案 す る こ とは,

重 要 な仕事 で あ るか もしれ な いが,本 稿 で は,こ の間 題 は扱 わ ない 。

2.慣 用 句 の解 釈

Weinreich(1969)は,慣 用 句 の 意 味 を分解 して,各 構 成要 素 に分 け与 え よ う とす る と,不 自

然 な結 果 が 生 じる の で,慣 用 句 の意 味 は直 接 その 慣用 句全 体 と結 び付 け られね ば な らな い と考 えて

い る。 そ うす る と,慣 用句 と して の意 味 を記 載 し た慣用 句 目録(id蚩m list)が,言 語 記述 に必 要

とな る。 この 目録 に は,形 態 素の 連鎖,句 構 造,文 脈 素 性,変 形 に 関す る情報,慣 用句 と しての意

味の 記述 な どが 含ま れ る。例 え ば, `shoot the hreeze'(「 おしゃべ りをす る」)と い う慣 用句 は次

の よ うに表 示 され る2)。

(1)

匸+animate ,+plural

"chat idly"

, Nm-of]passive;T

次 に彼 は,慣 用 句 比 較規 則(idiom comparison rule)を 設定す る 。 この 規則 は,句 構造 標識 の

終端 記号 連 鎖 を慣 用句 目録 と比較 し,そ のす べ て,あ るい は :tが 慣 用 句 目録 と一 致 すれ ば,そ の

字義 的 な意 味 を消 去 し,慣 用句 と して の意 味 を付 与す る働 きを持 っ 。 ただ し,こ の規 則 は随意 的 な

一2一

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慣用句と比ロ兪 慣用化の度合の観点から

もの であ るか ら,こ の適用 を受 けなか った場合 には字 義 的 な意 味 が付 与 され る。 この ことは,慣 用

句 は一 般 に字 義的 に対 応す る意 味 を も持 ってい る とい う事 実 に合 致 してい る と彼 は論 じてい る 。

しか し,`by and large'(「 全 般 的ld)の ように字義 的 に対 応 す る意 味 を持 たな い慣 用句 の 場合

は,上 述 の方 法 で は処理 で きない 。 そ こで彼 は,複 合 辞書 項 目(complex dictionary entries)を

設定 し,次 の よ うな形 で単 一 の形 態 素 か らな る語 彙 部 門 に記載 され,他 の語 彙項 目 と同 じよ うに語

彙挿 入 が な され る方法 を とる 。

(2) Adverb‐Manner

Adi ConPr�

by and large

と こ ろ が,こ の よ う に 統 語 的 に 逸 脱 し た 句 や,`spic and span'(「 真 新 し い 」),`hem and haw'

(「口 ご もる」),`tit for tat'(「 し っぺ い 返 し 」)な どの よ うに,両 方 の 構 成 素 が 一 義 的 に 規 定 され

て い る もの に は対 応 す る字 義 的 意 味 が な く,両 義 的 な 表 現 に な っ て い な い とい う理 由 か ら,定 義 上,

慣 用 句 と は言 えな い と彼 は 主 張 し て い る 。

こ こで略述 したWeinreichの 方 法 に よれ ば,慣 用 句 とそ れに対 応 す る字義 的 な意 味 を持 つ表 現 に

別 々の 構造 記述 を与 え る必要 が な く,文 法記 述 の レベ ル では 問題 がな い よ うに思 えるが,い くつ か

の 問題 点 があ る 。まず 第 一の 問題 点 は,慣 用 句比 較規 則 の適 用 を健 す契 機 とな る もの.す な わ ち,

字義 的解 釈 で は な く,慣 用 句 的解 釈 を採 らねば な らな い よ うにな る条件 が どの よ うな もの で あ るの

か を彼 は 明示 的 に述 べ てい ない こ とで あ る。 どちらの解 釈 を とるかの選 択 が ま った く恣意的 に決定

され るの で あ れば,情 報 伝 達の 機 能 は著 し く阻害 され る。 この選択 の決 定 に は何 らか の要 因が 働 い

て い る と考 え るべ きであ る。

次 の 問題 点 は,字 義 的 な意 味 を持 た ない慣 用 句 は,定 義 上,慣 用句 では ない と彼が 主張 してい る

こ とで あ る。一 般 に慣 用 句 は両義 的 で あ るこ とが 多い の は 事実 で あ るが,す べ ての 慣用 句 が そ うで

あ るわ けでは ない 。ま た,両 義 的 表現 の すべ てが 慣用 的 表現 とな って い るわ けで はな い こ と も明臼

で あ る。両義 性(ambiguity)と 慣用 性(idiomaticity)と の 関係 は もっ と明 白 に されね ばな らな

い 。必 ず一定 の組 み合 せ で現 れ る表 現 形 式が 慣用 句 で あ る とす る,項 目連結(collocation)の 観

点 か らの直 観的 判断 と も,彼 の主 張 は矛 盾す る ことにな る5)。 また,本 来比 喩 的 で あ った表 現 が慣

用 句 とな った もの も,字 義的 解釈 を受 けっ けな いの で,や は り慣 用句 では な い とい うこ とに な る。

次 章 で は,こ れ らの 問題 点 を どの よ うに 処理 すべ きか を中心 に考 察 を進 めて い きたい 。

3.慣 用 句 と比喩

まず,次 の 二 っ の文 を比 較,考 察 して み る 。

③ 少 年 が泣 く

(4) 鉛 筆 力玉泣 く

一3一

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坂 本 勉

文 脈 的情報 な どを考慮 せ ず に これ らの文 を単 独 に取 り上 げた場合,(3)は これ だ けで適格 な文 と呼

ぶ こ とが で きるが,(4)は 完 全 な適 格 文 とは言 い難 い 。Leech(1974)の 提 案す る依 存規 則(de-

pendence rule)に 従 って(4)の逸 脱 性 を説 明す る な らば,次 の よ うに述 べ る こ とが で きる だ ろ う。

「鉛 筆 」 とい う項(argument)の 中 に は,―ANIMATEに 依 存 す る[―HUMAN]と,「 泣 く」 とい

う述語(predicate)に 文 脈的 に依 存 す る[+HUMANコ とが同 時に存 在 す る。 この よ うに,相 反す

る二 つの 素性が 共 起 してい る こ とに よ って,こ の 文 は逸 脱文 とな って い る。

これ で,(4)の 例 文の 解釈 の 問題 は措 くとして,こ の文 の逸 脱性 に 関す る一 応 の説 明 は与 え られ る 。

しか し,こ こで さ らに次の 例文 を考察 してみ る。

(5) 看板 が泣 く

上述 したLeechの 観 点か らす れ ば,こ の 文 は逸 脱文 に な る。 しか し なが ら,現 代 日本 語 にお い て,

この文 は慣用 句 と して 受容 可能 な文 で あ る。Firth(1957)に 従 っ て,「 少年 」と 「看板 」は,

ともに 「泣 く」と連 結 され る が,「 鉛筆 」は 「泣 く 」とは連 結 され ない とす る と,上 の三 つの例 文

の関係 は一応 説 明 で き る。 しか し,な ぜ そ うし た項 目連結 可能 性(collocability)の 相 違 が 存 在

す るの か を明示 的 に述べ るの は困難 であ る。 しか も,同 一 の 語彙 項 目に連 結 され る一群 の語 彙 項 目

は,同 ― の語 彙集 合 をなす とい うHalliday(1966)の 論 に従 うな らば 「少年 」と 「看 板 」 は 同 じ

語彙の 集 合 に属す る こ とにな る。 これ は言語 直 観 的 にみ て,納 得 しが たい 。

Dijk(1972)の 拡 張規 則(extension rule)に 従 えば,「 泣 く」が 持 つ,十HUMAN とい う

素性 が 「看 板 」に も拡 張 され,⑤ は比 喩的 解釈 を受 け る と説 明 され る 。 これは,(4)の 解 釈 を行 う時

と同 じ システ ム であ る。実 際,慣 用句 と呼 ば れ る ものの 多 くは,本 来 比喩 で あっ た もの が,多 数 の

人 に長 い間 使 われ るこ とに よって,死 ん だ比 喩(dead metaphor),あ るいは,色 褪 せ た比喩(fad一

。dm。 、。ph。,)と な 。 た もの で あ る こ と1ま し ば し ば 指 摘 され て い る4).し カ・し,こ の よ うに,逸

脱文の 比リ的 解釈 が 固定 化 して慣用 句 とな ってい る場 合 だ けで な く,完 全 な適格 文 が慣用 句 とな っ

てい て,字 義 的 な読 み と慣用 句 的な読 みの 双方 を持っ よ うな場 合 は どの よ うに考 えれ ば よいの で あ

ろ うか 。 そ こで,慣 用 句 に 関連 した読 みの 可能 性 に よ って,次 の 三種類 の表 現 を 区別 して考 察 して

み る 。

(D慣 用句的読みと字義的読みの双方を持つ表現

骨 を折 る,手 が出 る,花 を持 たせ る

(ii)慣 用 句的 読 み だけ を持 つ表 現

た か を くくる,腹 が立 つ,や ま を張 る

(iii)字 義 的読 み だ けを持 つ表 現

服 を着 る,川 が流 れ る,山 に登 る

ここで,慣 用 句 的読 みだけ を持 つ(iDの 型 の表 現 は,本 来,比 喩的 表 現 で あっ た と考 え られ る。

これ らの例 は,(4),(5)の 例 と同 じ く,字 義 的解 釈 の不 可能 な逸 脱 文 であ るか ら,比 喩 的 解 釈 を受 け

るしか ない 。 この 表 現 型 にお いて は,比 喩 と慣 用 句 との 区別 は曖 昧 で あ る。 なぜ な ら,比 喩が 言語

―4―

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慣用句 と比喩:慣 用化の度合の観点か ら

社 会 の中 で固定 化 して 慣用 旬 とな っ てい く過程 に は様 々な段 階 が あ り,そ の過程 は多様 な もの だか

らであ る 。

で は,(i)の 型 の表 現 が 持つ 慣用 句 的読 み は どの よ うに して得 られ るの であ ろ うか 。 この読 み も

や は り,こ の表 現 が比 喩 的解 釈 を受 け た結 果 出 て くる もの であ る と考 え られ る。字 義的 解 釈 が 不可

能 な場 合 に,す なわ ち,な ん らかの 逸脱 が その表 現 に存在 す る時,そ の逸 脱 を解 消 す る手段 と して

比リ的 解釈 が行 われ る 。(iDの 例 で は その 構成要 素 ど うしの 間 に,つ ま り,文 の レベ ルに お け る逸

脱 が 見 られ るが,(Dの 例 で は,そ の よ うな逸 脱 は現 れ てい ない 。(i)の 例 が持 つ 逸脱 とは,文 脈

的 逸 脱(contextual deviance)と 呼 ぶべ き性 質の もの で あ る。例 えば,次 の二 っ の例 文 に おい て

(6) 彼 は足 を洗 った 。風 呂場 を 出 た 。

(7) 彼 は 足 を洗 った 。商売 を始 めた 。

「足 を洗 った 」だ け を取 り出 せ ば,こ の表 現 は両 義 的 で あ る。 ど ちらの 読 み を与 えるかの 選択 は

文 脈 に よって決 定 され る 。⑥ では字 義的読 みが,(7)に は慣 用句 的読 みが与 え られ るで あろ う。 この

泱 定 は,そ の内 的 システ ム は かな り複雑 な もの で あ ろ うが,母 国語 話者 に と って は,直 観 的 に な さ

れ る もの と思 われ る。 ここ では,ご く簡 単 に この シ ステ ム につ いて述 べて み たい 。

㈲ の二 つ の文 の 間 の関係 に はな ん ら逸 脱 はな い 。 こ こで は,「 洗 う 」とい う語 彙項 目の持 つ意 味

範 囲 と「風 呂場 」の それ との 間 に隣接 的 関係 が 認 め られ る。 つ ま り,換 喩(metonymy)的 関 係に

よっ て この 二 つの文 は結 び付 い てい る と言 える5)。 この 時,「 足 を洗 っ た 」に は字義 的解 釈 が 与 え

られ る。 と ころが,(7)に お いて,「 足 を洗 っ た 」が 字 義的 に解 釈 され る と,二 つの文 の 間 の意 味的

関連 性 が ほ とん ど(全 く とは言 わ ない が)失 わ れ て しま う。っ ま り,「 足 を洗 っ た 」は その 通常 の

意 味 か ら逸 脱 して い るの で あ る 。

こ こで,(7)の 前 の文 をA,後 の 文 をBと し,Aは[i十 α]と[十 β],Bは[+r]と[十 δコ とい う要

素(そ れが どの よ うな もの であ るか を 明確 にす るの は 困難 であ るが,意 味 に関 す る ものであ る)を

持 つ と仮 定す る。Dijkの 拡 張 規則 を応 用 して,(7)が 慣用 句 的意 味 を持 つ に至 る過 程 を 非 常 に 単 純

化 して述 べれ ば,次 の よ うに な る 。

(8)A[+α,+β]+B[+r,+δ] →A/B[[+α,+β,〈+r>]+[+r,+δ]]

Bの 影響 で,/で に は新 しい要 素 〈+r>が 加 わ った た め,字 義 的解 釈 は行 わ れ ず,比 喩的 解 釈 が適

用 され る。 この 比喩 的 解釈 が 言語 社会 的 に 固定化,す な わ ち慣用 化 され る こ とによ って,「 堅 気 に

な る 」とい う慣 用句 的 読 みが 与 え られ る 。

以 上 の考察 か ら,慣 用 句 は本 来,字 義的 表現 で あ った ものか,比 喩的 表 現 で あ った ものか に大 別

で き る。 そ して ど ち らの表 現 も比 喩 的解釈 を受 け,そ れが 言語 社会 的 に固 定化 す る ことに よっ て慣

用 句 とな る。 この比 喩 的解 釈 を促 す契機 と なるの が逸 脱 性の 存在 で ある 。 この概念 は,共 起制 限 と

い う観 点か ら考察 され る。項 目連結 可 能性 は語 彙 項 目 どうしの共 起 制限 に 関す る もので あ るが,素

性 分 析の 観 点か らす る と,語 彙 項 目が 持 つ様 々 な素性 間 の関係 として,共 起 制 限が 捉 え られ る 。

Chomsky(1965)は,四 種 類 の主 要 な素性 を設定 して,こ の関係 を説 明 し よ う とした 。 これ ら

の 素性 に よ って 規定 され る制約 に 違反 す る こと に よって 逸脱 が生 じる と彼 は述 べ る 。 ここで,範 疇

一5一

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坂 本 勉

素 性(categorial features)と 厳 密 下 位 範 嚼 化 素 性(strict subcategorization features)の 数 は1

各 言 語 に よ り多 少 は 異 な る もの で は あ ろ う が,有 限 な もの で あ る し,ま た あ る 程 度 の 普 週 性 も見 ら

れ る 。 だ が,固 有 素 性(inherent features)お よび 選 択 素 性(selectional features)は,各 言 語

に よ り大 き く異 な る ば か り で な く,そ の 数 も多 く,有 意 義 な一 般 化 は 困 難 で あ る 。 もち ろ ん,主 な

もの は,あ る程 度 ま で は 経 験 的 に 認 定 で き る6)。 し か も,比 喩 な どに 見 ら れ る逸 脱 し た表 現 を 説 明

し よ うとす る時,こ うした素性 を利 用 す る こ とに よ り,有 効 な考察 の 手掛 りを得 る こ とが で きる。

し か し,Chomskyの 選 択 制 限(selectional restriction)の 概 念 は,解 釈 可 能 な逸 脱 文 を 説 明

す る た め に は,あ ま りに も制 限 が 強 す ぎ る と い う理 由 か ら,Weinreich(1966)は,転 移 素 性

(transfer features)の 概 念 を 提 起 す る 。 この 素 性 は,選 択 素 性 が そ の 語 彙 項 目 に 固定 さ れ た もの

で あ っ た の に対 し,他 の 語 彙 項 目へ と移 動 す る こ とが で き る特 徴 を 持 つ 。例 え ば,`pretty'は,

通 常,[+Maleコ と い う固 有 素 性 を 持 つ語 と は 共 起 し な い が,[±Male]に 関 して 文 脈 の 指 定 が な

け れ ば,`prettジ そ れ 自身 が,そ の 文 脈 が[―Maleコ で あ る こ と を 指 定 す る 。 そ うす る と,`pret―

ty neighbor'と い う句 に お い て は,`neighbor'は[‐Maleコ で あ る と解 釈 さ れ る が,そ の シス

テ ム は 次 の よ うに 表 わ さ れ る 。

(9) A匸u〈v>]/K匚uノ コ → ACuコ/K[u/v]

u,uノ = inherent features

v=transfer feature:‐Male

A=`pretty' K=`neighbor'

とこ ろが,こ の 転移 素―リを送 り出 した元 の語 彙 項 目か らその素 性が 失 わ れて しま うの は,復 元 可

能性(rec(>verability)の 観 点 か ら も支 持 しが たい とし て, Dijkは 拡 張規 則 を提 案 した 。 この 規則

は,転 移 素性 を元 の 語彙 項 目に保 持 した まま,そ の素 性 を他の 語 彙項 目に付 与 す る働 きを持 つ 。例

えば,A, B二 っの 語彙項 目が 共起 す る時,そ れ らが 持 つ素性 間 に は,次 の 三 つの移 動 関係 が 認 め

られ る 。

(i) ABノ[[+α,+β]+匸 〈十 α〉,十r,+δ]コ

(ii) A/B [匸 十 α,+β,〈+r>]+[十r,十 δ]コ

<iii) A'Bノ[匚+a,+β,〈 十r>]+[<+a>,+r,+δ]]

以上 の よ うな拡 張 規則 に よって二 つの 語彙 項 目間の 逸脱 性 を解 消 す るこ と もで きるが,ま た,あ

る素性 を消去 す る こ とに よって も逸脱 性 は解 消 で きる と して,Dijkは 次 の規 則 を設 定す る 。

(10) A匚+α,十 βコ,B[匸+_[― αコ],+r]→AB'匚[+α,+β],Eφ,+rコ コ

こ こでは,素 性 の 数 を増 やす 「拡 張規 則 」と,素 性 の数 を減 らす 「素性 消 去規 則 」とい う,逆 方

向に作 用 す る二っ の規 則 が設 定 されて い るわ けだ が,ど ち らの規則 を適用 す るかは,文 脈 に よ って

一6一

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慣用句と比喩:潰 用化の度合の観点から

決 定 され る と彼 は述 べ る。 さ らに また,こ の2っ の規 則 が協 同 してひ とつ の解釈 が な され る場 合 も

あ る と彼 は論 じるア)。

しか し,Dijkの システ ムで は,素 性 の移 動 が その 場 限 り(ad hoc)で あ るか ら,Leech(1974)

は,素 性 間の 依存 規則 を設定 して,規 則 性 を保 持 し よ うとす る。 この規 則 に よ る と,素 性 は移 動 す

る こ と も,消 去 され る こ と もな く,潜 在 的に 存在 す る素 性が 顕在 化 され る だけ であ る 。そ して,同

一 語彙 項 目内 に二つ の相 反 す る素 性が この 規 則 に よっ て導 き出 され る時,そ こに逸 脱 が生 じる 。例

え ば,`The horse owned the man'と い う文 は次 の よ うに表 わ され る。

(11) P

十DEFINITE

口SPECIES

-PLURAL

[-HUMAN]

匚+HETMAN 7

→OWN

十PAST

`owned'

十DEFINITE

-f-HUMAN

十ADULT

-MALE

`the man'

`The horse'

P=Predicate, A1,Az=Arguments

ここ で逸 脱の 原 因 は,A1に おい て,[-HUMAN](こ れは □SPECIES(`horse'を 特 徴づ

け る素 性)に 依 存 してい る)と 匸十HUMANコ(こ れ は,文 脈 的 に→OWNに 依 存 し てい る)と い

う相反 す る二 つの 素性 が 共起 してい る こ とに よ る 。

以 上 で考察 し た従来 の提 案 の な か で,逸 脱性 の原 因 を説明 す る もの(Chomsky,Leech)と,逸 脱

表 現 を解釈 す る た めの もの(Weinreich:Dijk)と を区 別 しな けれ ば な らない 。 本 稿 では, Leech

に 従 って,同 一 語 彙項 目内 に,依 存 規則 に よっ て導 か れた二 つ の相反 す る素性 が同 時 に存 在す る こ

とに よ り逸 脱 が生 ず る とす る立 場 を採 る。 ただ し,こ れ らの素性 は必 ず し も明確 な二 項対 立 を なす

もの ばか りとは限 らな い 。そ して,こ う した逸 脱 性 を解 消す るた めに,Dijkが 述 べ る よ うな 素 性

の移 動 が行 われ る と考 えられ る 。 これが逸 脱文 の 解釈 に関係 して くる。Chomskyは,選 択 制 限 違

反 に よる逸 脱 文 は,そ の 違 反 のな い適 格文 か らの類推 に よっ て,比 愉的 に 解釈 され る として い るが

彼 自身 はその 解釈 の システ ム にっ い ては何 も述 べ て い ない 。 この問題 を扱 って,実 際 に比リ的 解釈

の シ ス テ ム を 示 して い るの は,Leech(1969)で あ る8). Leechの 方 法 は,必 ず し もChomsky

の 枠組 みの中 で行 われ た もの で はない が,比 喩 を適格 文 か らの類 推 で解 釈 す る点 で は,根 本 的 な違

い は ない。

しか し,選 択制 限違 反 に よる逸脱 文 がす べて,適 格 文 か らの類 推 に よっ て解 釈 酊能 か どうか には

問 題 が あ る。 とい うの は,比 愉 的解 釈 は あ る任 意 の表 現 を解 釈 す る ための ひ とつ の手 段 で あ って,

その表 現 が適 格文 であ るか,逸 脱文 で あるか とい う ことに は関係 ない か らで あ る。適 格文 で あって

も比 喩的 解釈 を受 け る もの もあ る し.逸 脱 文 で あっ て も比喩 的 解釈 を受 けない もの もあ る 。 も ちろ

一7一

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坂 本 勉

ん,逸 脱 文 に は 字 義 的 解 釈(literal interpretation)が 不 可 能 な の で,あ え て 解 釈 を 施 そ う とす

れ ば,比リ的 解 釈 と い う手 段 に よ っ て そ の 逸 脱 性 を 解 消 す る以 外 に 方 法 は な い 。 も し,そ う し な け

れ ば,そ の 文 は,無 意 味 文(nonsense sentence)と な る 。

4.慣 用 化

Hockett(1956)は,す べ ての言 語 は新 しい 慣用 句 を造 るにあ た って,あ る型 の もの を他 の型

の もの よ り好 むが,こ れ は その言語 を観察 した 時点 にお け る その 言語 の 意 匠(design)の 一部 であ

る として,様 々 な慣 用 句形 成(idiom―formation)の 例 を挙 げてい る 。承 前 的代 用 語(anaphoric

substitution),命 名(naming),縮 約(abbreviation),そ の他 多 くの 例 が,慣 用 句 の 源

(source)に なった ものとして彼 の論 文の 中 に 出て くる。 彼 は,一 度だ け現 れ て後 は忘 れ られ て しま う

よ うな`jargon'ま で も慣用 句 として扱 っ てい るが,あ る表 現 が慣用 句 とし て認 定 され るた めに は,

ある程 度言語 社 会 的に 固定 化 され る こ とが 必要 で ある と思 われ る。

あ る言語 に おい て慣用 化 された表 現 の中 に も,慣 用 句 として よ り固定 し た もの と,そ れ程 固定化

して い ない もの との 間 にい くつ かの 段階 が認 め られ る。例 え ば,日 本 語 に おい て,否 定形 のみ で用

い られ る慣 用句(「 首 が 回 らな い 」)や,一 般 に 受身 形 で用 い られ る もの(「 煮湯 を飲 ま され る」)

な どが あ り,文 の変換 が 自由 に行 な えな い とい うこ とは,そ れ だけ慣 用句 とし て特 殊性 を保 持 して

い る こ とに な る。

4.1 慣用句 と文法的変換

Fraser(1970)は,慣 用句 にあ る種の 変形 操 作 を加 える と,そ の 慣 用句 的意 味 が失 わ れ る場合

が あ る こ とを指 摘 し た 。彼 は関 与的 な 五種類 の 変 形操 作 を挙 げ,こ れ らの うちのい ず れの 操作 を受

け るか に よって,慣 用句 を次 の 七種類 に階 層的 に 分類 してい る9)。

L6-Unrestricted, L5-Reconstitution, L4-Extraction, L3-Permutation,

L2-Inserti on, L 1-Adjunction, Lリ‐Comptetely Frozen

L1~L5は,こ こに示 きれ たそれ ぞれの変 形 操 作の適 用 を受 け る慣用 句 で ある。 L6の 表示 を持

っ慣 用 句 は,い か なる変形 操 作 も可能 な慣 用 旬 で あ り,Lリの 表 示 を持 つ 慣用 句 は,い か な る変 形

操 作 も適用 で きない慣 用 句 であ る。例 えば,`trip the light fantastic'(「 踊 る 」)の ように,

字 義的 に解 釈 で きな い もの は,Lリに 属す る。一 方, L 6に 属す る もの として分 類 され る慣用 句 は

存在 しな い 。なぜ な ら,こ の レベル で は,話 題 化(topicalization)や 分裂 化(clefting)な ど,

慣用 句 に は適 用 不可 能 な変 形操 作が 前提 と されて い るか らであ る と彼 は述 べ て い る。

ま た,こ の段 層 化 は,下 か ら上へ と,当 該 の変 形 を受 け た構造 の,元 の構 造か らの変 化の 度 合が

大 き くな ってい る こ とを示 してい る。 すな わ ち,L5の 変 形操 作 を受 けた慣 用 句が,元 の 構造 か ら

もっ と も大 き く変 化 してい る ことにな る。

さ らに,こ の 段 層 関係 に おい て は,あ る レベ ル(Ln)で 変 形操 作 を受 け る こ との で き る慣用 句 は,

一8一

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慣用句と比喩:慣 用化の度合の観点から

自動 的 に そ れ 以 下 の す べ て の レ ベ ル(Ln-1~L1)で 変 形 操 作 が 可 能 で あ る とい う規 則 が あ る 。例

え ば,`bring down the house'(「 満 場 のか っ さい を 博 す る」)と い う慣 用 句 は, L 3に 属 す る と表

示 され て い る 。 そ こ で ・ こ の 慣 用 句 は ・Permutation, Insertion,Adjunctionな どの 変 形 操 作 の

適 用 は 受 け る が,Extraction,Reconstitutionな どの 適 用 は 受 け な い 。 つ ま り,こ の 段 層 の 下 の

レ ベ ル に 行 くほ ど,慣 用 句 は 凍 結 度(degree of frozen)の 度 合 が 高 く な る 。

同一 の構 造記 述 を持 つ慣 用 句 に対 す る変形 操 作の 適用 可能 性 の連 い とい う問題 を 説明 す る た めに,

Weinreich(1969)は,ど の変 形 操作 の適 用 を受 けない か とい う情報 を慣 用句 目録 に記載 す るこ

とを提 案 し た。Fraserは,こ れ とは逆 に,ど の変 形操 作 の適 用 が可 能 か を各 慣 用 句 に指定 す ると

い う方 法 を とる。

Katz(1973)は,こ の 問 題 は,慣 用 句 の 要 素 聞 の 統 語 的 関 係 に よ る もの で は な く,あ る 固 有 の

素 性 に よ る もの で あ る と し て,[±Idiom]と い う統 語 素 性 を 導 入 す る こ と に よ っ て 問題 の 解 決 を

は か ろ う とす る 。例 え ば,`blow off(some)steam'(「 う さ晴 し を す る 」)と,`lay down

the law'(「 し か りつ け る 」)と は,と もに,不 変 化 詞 移 動 変 形(Particle movement trans-

formation)の 適 用 を 受 け る こ との で き る 構 造 を 持 っ て い る 。

(12)X―V Part NPーY→1324(optional)

1 2 3 4

し か し,`off'に[+Idiom],`down'に は[-Idiom]と い う指 定 が あ り,匚+Idiom]と い

う指 定 を 持 つ 構 成 素 に 関 与 す る変 形 は 適 用 され な い とい う規 約 を設 定 し て お く と,`lay the law

down'は 派 生 さ れ る が,`*blow(some)steam off'は 生 成 さ れ な い こ と が 示 さ れ る と彼 は 論 じ

て い る 。

日本語 の慣 用句 に変形 操 作 を適 用 し て考 察 した もの として は,Tagashira(1973)が ある 。彼

女 は,名 詞 句の後 に動 詞 が 続 く(anoun phrase followed by a verb)と い う構造 を破壊 しない よ

うな規則の みが適 用 されて も非 文法 性 を生 じない と述 べ て い る。 また,Fraserに よ っ て提 案 され

た,変 形操 作 に よ る慣 用 句 の 階層 的分 類 は,日 本語 の例 に 関 して は適切 でない と彼 女 は論 じてい る。

いず れに して も,あ る変 形 操 作 の適用 可能 性(あ る いは 不可能 性)に よ っ て,慣 用 化の 度合 が あ

る程 度示 され る とは言 え る10)。ただ し,従 来考 え られて きた よ うに,あ る変 形操 作 を受 けない もの

の 方が,そ の操 作 を受 け る もの よ り慣用 化 が進 ん で い る とみなす こ とには 問題 が あ る。 とい うの は,

Levin(1977, p,30~32)が 指 摘 す る ように,逸 脱文 の 比喩 的解 釈が 言 語 社会 的 に 固定 化 して,

慣用 句 として文 法 の体 系 の 中の組 み込 ま れて行 くこ とはす なわ ち,文 法 化(aggrammatization)さ

れ て い くことだか らで あ る。 この 文 法 化が進 行 して行 けば,す なわ ち慣用 化 の度 合 が 高 くな ってい

け ば,当 然,慣 用 句的 意 味が 保持 され た まま で多 くの 文法 的変 換 が行 われ る こ とに な る。す なわ ち,

よ り多 くの 変形 操作 の 適用 が 可能 であ り,Fraserが 言 う凍 結 度 の低 い慣 用句 ほ どよ り慣用 化 の度

合 が高 い と言 え る。次 節 で は,慣 用句 とそれに対 応 す る複 合語 と関 連 して慣用 化 の 度合 の 問題 を考

察 して み る 。

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坂 本 勉

4.2 慣用句 と複合語

現代 日本語 に お いて は,動 詞の 連用 形 は その まま名詞 と して用 い られ うる。 よ って,「 名 詞句+

助 詞 十動 詞句 」(こ れ以 後,「 動 詞型 慣 用句 」と呼ぶ)と い う構成 を持 つすべ ての慣 用 句か ら複 合

名 詞 句 を形成 す る こ とは文法 的 には可 能 で あ る。す なわ ち,助 詞 を消 去 し,動 詞 を連用 形 に変 えて,

直 接名 詞 句 と結合 させ る とい う操 作 を行 えば よい 。 しか し,意 味的 な 観点 か らす れ ば,動 詞 型慣 用

句 を次 の 三種 類 に分 け る こ とが で きる 。

Cj)

C13)

(14)

C15)

Cヘフ〉

<16)

C17)

C18)

Cヘヘヘ)

C19)

C20)

C21)

複 合名 詞 化の 司能 な動 詞型 慣 用句

目力∫禾暫く シ目禾凵き

足 に まか せ る―一一一一→ 足 まか せ

猫 をか ぶ る 一 一一-――→猫 か ぶ り

複合名詞化の不可能な動詞型慣用句

歯カヌ浮 く 夢*歯浮き

鼻 に か け る 一一一一― ―ー→*鼻 か け

顔 を た て る ― ――――-→*顔 た て

複合 名 詞 句 との間 に意 味 のず れが 生 じ る動詞 型慣 用句

手が か か る 一―-一 一―→?手 がか り

口に合う ・?口合い

手 を打 っ 一 ―-一 ―一→?手 打

複 合名 詞句 の形 成 は,名 詞 化変 形 の適 用 に よってな され る と考 える と,「 す ねか じ り 」は 「す ね

をか じる人 」か ら派 生 され る行為 者 名詞(agentive nomina1)で,「 手入 れ」は 「手 を入 れ るこ と」

か ら導 き出 され る行 為名 詞(action nomina1)で あ る と言 え る とTagashiraは 論 じてい る 。 しか

し,「 目利 き 」や 厂猫 か ぶ り」の場 合 には 行為 者 と行 為 の双 方の意 味 を持 っ た複合 名詞 句 であ る と

思 われ る。ま た,「目か け」(=「 妾」)の 場 合 には,「 目をか け られ る人 」とい う被行 為 者 名詞 の 意

味 とな る こ とに も注 意 しなけ れば な らな い。

慣 用 化の度 合 とい う観 点 か らす れ ば,複 合語 に も慣 用句 的 意味 が付 与 され てい る(i)の 型 が,そ

うした意 味 を与 え られ て い ない(iDの 型 よ り も慣用 化 が 進 ん でい る と言 え る。本 稿 の用 例 の頭 に付

け られ た 星印 は,そ の 用例 が 現代 日本 語 では意 味的 に受 容 不可能 であ る こ とを示 す 。 しか し,受 容

可能 性 の判 定 は,個 人 ・時代 ・地域 な どの差 に よって異 な りうる もの で あ るか ら,こ う した用 例 も

潜在 的 に は受容 可 能で あ るが,た また ま顕在 化 し てい ない だ けで あ る と言 え るか も しれ な い 。ま た,

(―1フ〉の 型 では,複 合語 化 は可能 であ るが,慣 用句 と複合 語 の持…つ それ ぞれの 意味 が完 全 に は一致 せ

ず に,両 者 の 間 にず れが 冕 られ る 。例 えば,「 手 を打 っ 」に は 「手 段 を構 じる 」とい う意 味 が あ る

が,「 手打 」か らは その よ うな意 味 は失 わ れて い る 。本稿 では,こ うした意 味の ず れ を,用 例 の頭

に疑問 符 を付 け る こ とに よっ て示 してい る。 よ って,慣 用 句 的意 味の 不変 性 とい う観 点 か らす る と,

一10一

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慣用句と比喩:慣 用化の度合の観点から

(ID→(iD→(Dの 順 序 で慣 用 化の 度合 が進 ん でい る と考 え られ る 。

ここ でさ らに,(Dの 型 の 複合 名 詞句 にお い て,(14)や(15)な どは,構 成 素 の 順序 を入 れ換 え

る とい う操 作 を行 う と,「*ま か せ足 」,「*か ぶ り猫 」とい うふ うに,意 味的 に 不適格 にな るが,

「腹 が立 つ 」― 「腹立 ち 」― 「立 腹 」の例 の よ うに,こ の操作 が な されて も慣 用 句 的意 味が保 持 さ

れ る場 合 もあ る 。た だ し,こ の例 で も「*立 ち腹 」とい う複合 語 化は 不可 能 で あ る。 こ こで は お そ

ら く漢語 の 影響 で,「 腹 ヲ立 ッ 」か ら,「 立 腹 」が 形成 され た もの と思 われ る 。 また,(13)の 場 合

に は,「 目利 き 」一 「?利 き目 」の よ うに,両 者 の 聞 に意 味的 なずれが 生 じてい る。つ ま り,(D

の 型 の 慣用 句の 内部 で もさ らに,複 合名詞 句 の 構成 素 の順 序 を入 れ換 える こ との で きない もの,入

れ 換 え る と意 味が ずれ る もの,そ して この操 作 の可能 な もの とい うふ うに三段 階 の慣 用 化の 度 合が

認 め られ る。

上では,動 詞型慣用句から複合名詞句が形成される際の問題点を考察したが,慣 用句的意味を持

った複合名詞句に対応する慣用句が存在しないように思える場合がある。例えば,

(iv)

(22)美 間が 違 う一 間違 い

(23)美 口 を止 め る-― 一― ―→ 口止 め

(24)暑 気 が 落 ちる一 ――-→ 気落 ち

こ うした例 は(iDの 諸例 と逆の 関係 にな って い る よ うに見 える。慣用 句 か ら複 合語 の形 成過 程 は

一義 的 に決定 され るが ,複 合語 か ら慣 用 句 の再 構成 は,復 元 可能 性 の問題 が あっ て,一 義的 に は行

わ れ ない。例 えば,「 問 が 違 う」の か,「 間 に合 う」のか,あ るい は,「 間 で違 う」 の かの いず れ であ

るか は一義 的 に は決 定 で きな い。また,「 気落 ち」は意 味的 に は 「気 を落 とす」 に 対応 す る と思 われ

るが,文 法 的 に は,「 気 が 落 ちる」に対 応 す る可能 性 が強 い。なぜ な ら,先 に述 べ た よ うに,動 詞 句 か

ら名詞 句 を派生 させ る場 合,そ の動詞 の連用 形 が名 詞 と して用 い られ るの で,五 段 活用 の他動 詞 で

あ る 「落 とす 」(otos-u)か ら派生 され る名詞 は 「落 とし」(otos-i)と な り,上 一 段 活用の 自動 詞 で

あ る 「落 ちるJ(oti-ru)か ら派 生 され る名詞 が 「落 ち」(oti)と なる か らで ある。そ れ にま た,「 頭

打 ち」に対応 す る と思 われ る 「頭 を打 つ」には慣 用句 的意 味 はな く,字 義 的意 味 しか 認 め られ ない。

この ような複合 名 詞 句 は,Weinreichが 指 摘 す る よ うに,単 一 の語彙 項 目 と同 様 に扱 われ るべ き

な の であ ろ うか 。 しか し,そ うす る と,語 彙 部門 が非 常 に煩 雑 な もの にな らざ るを えない 。 ここ で

はや は り,こ う した複合 名詞 句 に も,そ の基底 には,「 名詞 句+助 詞+動 詞句 」とい う構 造が 存在

して い る と考 え るの が 妥当 であろ う 。この ような基底 構 造 に直 接対応 す る慣 用 句 は,現 代 日本 語 に

は現 れて い な いが,過 去 に お い て存在 したか もしれな い し,あ るい は将来 用 い られ る可能 性 もある 。

ま た,こ の ような基底 構 造 に直 接対 応 す る表現 が慣用 句 として の意 味 を持 っ言語 が存 在す る こと も

十 分考 えられ る。 こ うした 複合 名詞 句 は,(Dの 諸例 か らの 類 推 に よって,本 来,慣 用句 的意 味 を

持 ってい なか っ た文か ら形成 され た もの と考 え る こと もで きる。 しか し,本 稿 で は,(ゆ の諸例 は

本来(Pの 諸例 と同 じ もので あ ったの が,文 構造 の 方 が持 って い た慣 用句 的 意 味が しだい に失 わ れ

て い っ た もの で あ る と考 えたい 。 とい うの は,複 合 名詞 句 の持 つ慣用 句 的意 味 は それ に対 応 す る文

一11一

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の持 つ慣用 句意 味 か ら派生 す る と仮定 す る方 が,そ の 逆 よ り自然 であ り,有 意 義 な一般化 が可能 で

あるか らであ る。す な わ ち,(IV)は(1)よ り もさらに慣 用 化が 進行 した例 であ る と見なす こ とが で

きる。

以上 の こ とか ら,Gi)→(iii)→(D→(iv)の 順序 で慣 用 化の 度合 が大 き くな って い く と言 える 。

っま り,文 構造 を持 つ表現 に の み慣 用 句 的意 味 が あ る もの か ら,複 合語 は 形成 し うるが,完 全 には

慣用 句 的意 味 を保 持 して い ない ものへ,文 と複合 語が と もに慣 用句 的意 味 を持 つ ものへ,さ らに複合

語 のみ が慣用 句 的意 味 を持 つ もの へ と慣 用 化 が進 ん でい く と考 え られ る。

次 に,動 詞 型 慣用 句 か ら形成 され る複合 動詞 に関 して も,上 述 し た 四種 類 の もの が認 め られ,そ

の慣 用 化の度 合 につ い て も同様 の こ とが 言 える 。

Cj)

C25)

(26)

C27)

複合動詞化の可能な動詞型慣用句

目が覚める一 →目覚める

気が付く一 →気付く

骨を折る一 骨折る

Cフフ)

<28>

C29)

(30)

複合動詞化の不司能な動詞型慣用句

山が見える― ―――-―→*山 見える

さじを投げる――一――→*さ じ投げる

肩を持つ一*肩 持つ

Cフフフ)

C31)

<32)

(33)

複合動詞句との間に意味のずれが生 じる動詞型慣用句

手にかける一?手 がける

目にかける一?目 がける

息がっまる― 一―一―→?息 づまる

CIV)

C34)

C35)

C36)

複合動詞句に対応する動詞型慣用句が存在しない場合

値を切る )値切る

間を違 える―一一―一→間違える

気を取る一 気取る

次 に,「 名 詞 句+助 詞十 形容 詞句 」とい う構造 を持 つ慣 用句(こ れ以後,「 形 容詞型 慣用 句 」と

呼ぶ)に お け る複 合語 化の 問題 につ い て考 察す る 。 この型 の慣 用 句か らは,複 合 形容 詞 と複合名 詞

が形成 され るわ けだ が,そ の両者 の 関係 は一 見 し た とこ ろ明 らか では ない 。例 えば,「 腹 が黒 い 」

か らは 「腹 黒 い 」とい う複 合形 容詞 が形 成 され るが,「 腹 が太 い 」は,「*腹 太い 」と複合 形容 詞

化 で きない 。 しか し,こ の 例 では,「 太 っ腹 」とい うふ うに構 成 素の 順 序 を入 れ換 える こ とに よっ

て,複 合名詞 が 形 成 され る。 これ に対 して,「*黒 っ腹 」とい う複合 名詞 は存在 しな い 。 さ らに,

「気が 弱 い 」か らは,「 気 弱 」一 「弱 気 」 と い うふ う に,二 種類 もの 複合名 詞 が形 成 され る場

合 もあ る 。 ここで,こ の 問 題 を処理 す るため に,ま ず,慣 用句 的意 味 を持 って い ない 「色 が白 い 」

一12一

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慣用句と比喩:慣 用化の度合の観点から

を例 として,そ れ ぞれの複 合語 の相 関関係 を考察 して み る。 この例文 か らは,「 色 白い 」とい う複

合 形 容詞 と,「 色 白 」,「 白 い色 」,「 白色 」の三 種 類 の複 合 名詞が 形 成 され る わ けだが,そ の派

生 の た めに次 の三 つ の操 作 が必 要 で あ る と考 えられ る 。

C-)

(二)

(三)

助詞の消去

構成素の順序の入れ換え

形容詞の活用語尾の消去

そ うす る と,次 の よ うな 派 生が 考 えられ る 。

C-) (三)(37) 色が 白い 一(A)色 白い 一 一一 ―→(B)色 臼

・二)

(!、白い色__色

こ こで,「 色 が 白い 」(名 詞 句+助 詞+形 容 詞句)と,「 臼い色 」(形 容 詞 句+名 詞 句)と を別

々の 基底 構造 とみ なす こ と も可能 であ るが,両 者 の間 に認 め られ る直感 的 関連性 を説明 する た めに

は,や は り上 の よう に述べ るのが 適切 であ ろ う 。そ うす る と,形 容詞 型 慣 用句 に お いて次 の六 種類

の複 合 語化 が考 え られ る 。

(D

(38)

C39)

(40)

ql)

C41)

C42)

C43)

CIII>

Cリ)

(45)

C46)

CフV)

C47)

C48)

C49)

(V)

複合語化がまったく不可能なもの

嚇が黄色い

顔が広い

目が堅い

(A)の み

腹 が黒 い-― ――一→腹 黒 い

耳 が遠 い 一 →耳 遠 い

口が うる さい 一――一一→口 うる さい

(A)→(B)

身 が軽 い ―― ――・*身 軽 い 一一一→ 身軽

尻 が軽 い 一一一―→*尻 軽 い 一一-―→尻軽

気 が長 い 一 一― →*気 長 い ―――→気 長

(タ)→(c)

口が 重 い ――一一 〉*口 重 い ―― 一一ウ重い 口

腰が 重 い― 一一-→*腰 重 い 一―一-→ 重い 腰

点が 甘 い ― ――→*点 甘い 一 ― 一 →甘い点

(*A)→(*C)→(D)

一13一

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(リ)

C51)

C52)

(vD

C53)

C54)

C55)

耳 が早 い ―一一→*耳 早 い 一 ― 一→*早 い耳一 一-→ 早 耳

腹 が太 い 一 ―一→*腹 太 い ― ――→*太 い腹 汰 っ腹

気が 若 い ― ――→*気 若 い ― ― 一 →*若 い気 ―一一→若気

(A)→(B)and(*A)→(発)→(D)

気が 弱 い--一 →*気 弱い ―一一→ 気 弱

*弱楓_弱 気

腰が弱い__→*麟 い― ― →腰弓§

*弱鹸__弱 腰

気が短い__*気,.い ―_顯

*短巉__短 気

こ こで気 が付 くこ とは,(A)の 段 階 の複 合語 が 顕在 化 す る と,(B),(C),(D)の 複 合語 は現

れ な くな り,(A)が 顕在 化 しない場 合 に,(B),(C),(D)が 現 れ る とい う こ とであ る 。た とえ.

ば,(41)の 例 で,(A)「 腹 黒 い 」とい う複 合 形容 詞 が形 成 され る と,そ れ以後 の 派生 形 で あ る,

(B)「*腹 黒 」 ・(C)「*黒 い腹 」 ・(D)「*黒 腹 」は形成 されな い が,(44)の 例 の よ うに(A)

「*身 軽 い 」とい う複 合形容 詞 が顕在 化 しない 時 に は(B)「 身軽 」が形 成 され る。お そ ら く(A)の

段 階で形 成 され る複合形 容詞 とその 他 の複 合名 詞 とは相補 分 布 をな して い るの で はない か と思 わ れ

る。ま た,(C)の 複合 名詞 形 と(D)の 複合 名 詞形 も同様 に相 補分 布 を な してい る と言 える か も し

れない 。 た とえ ば,(47)の 例 で,(C)「 重 い口 」が形 成 され る と,(D)「*重 口 」は形 成 され な

い が,(50)の 例 の ように,(C)「*早 い耳 」が顕 在 化 し ない時 には(D)「 早耳 」が形 成 され る 。

次 に,(B)の 段 階 の複合 名 詞形 を形 成 す る形容 詞 型慣 用句,す なわ ち(iii>に おい て は,「 軽 い 」と

い う形 容詞が 主 と して用 い られ る傾 向 があ る 。 た とえば,「 気 が 軽 い 」→ 「気 軽 」な ど。 これ に対

し,(C)を 形成 す る(フV)に お いて1ま,主 として,「 重 い 」が 多用 され る よ うで あ る 。た とえば 「足

が 重い 」→ 「重 い 足 」。 しか し,「 気 が重 い 」→ 「*重 い 気 」の よう な例 もあ る。 よっ て,そ れ ぞ

れの複 合 語化 に対 して,語 彙 の意味 的 な要 素が 関 連 してい る可 能 性が あ るのか もしれ ない 。 しか し

なが ら,こ こで観 察 された こ とを確 証 す る方法 は今の と ころ見 当 らな い。 その 理 由の ひ とつ は,そ

れ ぞれの 表 現が 適格 であ るか ど うかの 判断 は,個 人差,地 域 差,時 代 差 な どが あっ て明 白に決 定 で

きな い とい うこ とで あ る。

こ こで は,(Dか ら(Vフ)に 向っ て慣 用 化が 進 んで い くと考 え られ るわ けだが,動 詞型 慣用 句 と同

様 に,次 の(V1ヘ〉の よ うに慣 用句 と複合語 の 意 味が ず れ る もの や,複 合 語 のみ が 存在 し,そ れに 対応

す る慣 用 句 的意 味 を持 った文 が 存在 しない と思 わ れ る(Vヘフi>の よ うな場 合が ある。

CVフフ>

C56)

C57)

(58)

手 が 早 い 一一 ―→?手 早 い (A)

頭 が 痛 い 一―― →?頭 痛 (B)

緑 が細 い-― ―→?細 い線 (C)

一14一

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慣用句と比喩:慣 用化の度合の観点から

(59) 足 が遠 い 一―ー― →?遠 足 (D)

(60) 足が 早 い ―一 ― →?足 早/?早 足

NIID

C61)

C62)

C63)

(64)

C65)

(B)/(D)

*手 が堅 い ―――→ 手堅 い (A)

*目 が くらい 一 →目 くら (B)

*性 が青 い ―一一一 →青 い性 (C)

*手 が 苦 い 一 → 苦 手 (D)

*口 が 無 い ――一一 → 口無 し/無 口 (B)/(D)

以上 の考 察か ら,形 容 詞型 慣用 句 に おけ る慣用 化 の度 合 は,(1)→(VII>→q1)→(11l)→(iv)

→(V)→(VP→(Vl1Pと 進 行 して い くもの と思 われ る。

ここ で考 察 し た慣 用 化の 度 合 とい う観 点か らの,慣 用 句 と複 合語 の 問題 を要 約 す れ ば,次 の よ う

に述 べ るこ とが で きるだ ろ う。複 合語 化 の まっ た く不可 能 な慣 用句 は,最 も慣用 化 の進 んでい ない

もの で,い まだに慣 用 句 として の特 殊性 を保 持 してい る もので あ る。 これ よ り慣用 化 が進 んだ状 態

で は,複 合語 は形 成 され るが,そ の意 味 は それ に対応 す る慣 用 句 と完 全 には一 致 しない段 階 となる 。

さ らに慣 用 化が 進 む と,慣 用 句か ら同 じ慣 用 句 的意 味 を保持 した ま ま複合 語が 形 成 され る 。但 し,

この 段 階 での複 合語 化 も一 様 で は な く,そ の中 に もさ らにい くつ か の段 階 が認 め られ る。最 も慣 用

化 が 進 む と,複 合語 の みが 存 在 し,そ れに対 応す るは ずの 慣用 句 が存在 し ない とい う段 階に至 る。

4.3 慣用句 と語彙的置 換

前 節 では,慣 用 句 に対 す る変形 操作 の可能 性 に よ る慣 用 化 の度 合 につい て考 えた 。 ここでは,慣

用 句 の構 成 要素 の うち,ど の 要素 を入 れ換 える と,慣 用 句 とし ての意 味が 失 われ るか を簡単 に 見て

み る 。例 えば,Kooij(1968)は,`sweetheart 9`sweetmeat',`sweet corn',`sweet

coffee'の 順 に慣 用化 の 度合 が 減少 して い くと述べ て い る 。 また,中 村(1976)に よれ ば,次 の

例 に おい て,上 か ら下へ と慣 用 化の 度合 が 減少 してい く とい う ことで あ る。

C66)

(67)

C68)

平和が来る

幸福が来る

頬笑みが来る

(69) 気分 が重 い

(70) 声 が 重い

(71) 空 気 力三重 し、

本稿 では,ひ とつの モデ ルケ ー ス と して 「手 」と 「足 」をそ の構成 要素 として持 つ動 詞型 慣用 句

を取 り上 げ て考察 して み る。 そ うす る と,次 の三種 類 の型 に分 け られ る。

Cj)

C72)

C73)

C74)

「手」を「足 」に換えることによって

手がかかる *足 がかかる

手が回る *足 が回る

手に余る *足 に余る

慣用旬的意味を喪失するもの。

一 ユ5―

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坂 本 勉

(フフ)

C75)

C76)

(77)

Cフフフ)

(78)

(79)

(80>

「足 」を 「手 」に換 える こ とに よ って,慣 用 句 的意 味 を喪 失す る もの 。

*手 が向く 足が向 く

*手 に任せる 足に任せる

*手 を洗う 足を洗う

相互に入れ換えて も,ど ちらも慣用句的意味を持っているもの。

手が付く 足が付く

手を入れる 足を入れる

手を抜く 足を抜 く

こ こで,(i)とGDの 型 の ものは,そ の 構成 素 の置換 に よって慣 用 句 として の意 味 を喪 失す る こ

とか ら,同 程 度 の慣 用化 を示 して い る と考 え られる 。 これに対 し,(川)の 型 の ものは,構 成 素 を

入 れ換 えて も,慣 用 句 としての意 味 を持 ってい る ことか ら,(D・(一Dの 型 の もの よ り慣用 化 の度

合が 進 ん でい る と言 える 。

Tagashi raは,「 金 を食 う 」,「 世話 を焼 く 」,「 不興 を買 うJの 諸例 で は動詞 句 の 部分 が慣 用

的意 味 を担 って お り,「 袖 にす る 」,「 あ ごで使 う 」,「 よ りが戻 る 」で は名詞 句の 部分 が その 意

味 を担 って い る と述 べて い る。す なわ ち,前 者 では,「 食 う 」,「 焼 く 」,「 買 う 」が,後 者 で は,

「袖 」,「 あ ご 」,「 よ り」が,字 義的 な意 味 には 解 釈 されな い とい う ことだが,こ れ を判 定す る

た めの客 観的 な 基準 とし て,本 稿 で用 い た語 彙 的置 換 の方 法が 有効 であ る。(1)で は 「手 」,(iフ)

では 「足 」とい う名詞 句 の 部分が,そ して(iii)で は動詞 句 の部 分が 字 義的 でない意 味 を担 ってい る

と考 え られ る 。 また,高 木(1974)が 指摘 す る ように,「 どじを ふむ 」や 「自腹 を き る 」な どの

例に お い ては,「 どじ 」や 「自腹 」は この慣 用 旬の な か で しか 使 われ ない 特別 な語 彙 で あ るか ら,

これ を他 の語彙 と置 き換 え るこ とは で きず,こ れ らの名 詞 句の 部分 が慣 用 句的 意 味 を担 ってい る こ

とは 明 らか であ る11).こ のよ うに,語 彙 の連 合 的(,。,adigm。,i、)な 置拠,よ 。て 韻 用化 の 度合 を

計 る こ とが で きる。

5.結 論

本 稿の 第一 の 目的 であ った,慣 用 句 と比 愉 との関 連 性 につい ては,次 の よ うに述 べ る こ とが で き

る。一般 に慣用 句 とされて い る ものは,本 来,字 義 的表 現 であ った もの か,比 喩 的表 現 で あっ た も

のかに 分 け られ る。比愉 的表 現 は その 内部 に,字 義 的表 現 は文 脈的 に逸 脱 が存 在 す る場合,そ の逸

脱 性 を解 消す るた め,共 に 比喩 的解 釈 を受 け る 。す なわ ち,あ る表 現 が慣 用句 として用 い られ るか

どうか は,そ の表 現 の 内的 構造 に依 るの では な く,ま ず第 一 に,そ の 表現 に比 喩 的解 釈 が ほ どこ さ

れ るか否 か に依 って い る 。字義 的表 現 に比 喩的 解釈 が 与 え られ なけれ ば,そ れ は その まま字 義的 表

現 とな る し,比 喩 的 表現 に比 喩 的解 釈 が与 え られな けれ ば,そ れ は無意 味 表現 とな る 。

しか し,あ る表 現 に比 喩 的解 釈が 与 え られ た だけ では,そ れ はい わゆ る比 喩 で あって,慣 用 句 で

はな い 。 その表 現が 言語 社会 の 中 で定着 して,一 般 の文 法体 系 の中 に組 み込 ま れてい く過 程 を経 て

一16一

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慣用句と比喩:慣 用化の度合の観点から

は じめ て,そ の表 現 は慣 用 句 とし て認 め られ る。 その過 程 が いわ ゆ る慣 用 化 で あ り,こ の 慣用 化 の

度 合 を考 察す る こ とが本 稿 の第 二の 目的 であ った。 この 慣用 化 に は段 階性 が あ り,そ れは,文 法 的

変 換 や語 彙的 置換 な どに よ って あ る程 度 明 らか にす る ことが で きる 。本 稿 で は特 に,「 名詞 句+助

詞十 動詞 句(形 容 詞 句)」 とい う構造 を持 っ慣用 句 か ら形 成 され る複合 語 の 問題 を中 心 に考察 した 。

こ こで 明 らか にな った の は,複 合語 を まっ た く形 成 しない慣 用 句が 最 も慣用 化 の 度合 が低 く,慣 用

句 と複合 語 の意 味 がず れ る ものへ と進 み,慣 用 句的意 味 を保 持 した まま複 合語 が 形成 され る段 階 を

経 て,複 合 語の み に慣用 句 的 意味 が 存在 す る段 階 に至 るこ とで あ る。以上 の こ とを要約 して 図示 す

る と次 の よ うに な る。

字義 的表 現

字義的表現 字義的慣用句

比崘的慣用句

比喩的表現 比喩

無意味表現

比喩的解釈 慣用化(段 階的性質)

註 釈

1)も ち ろ ん,慣 用 句 研 究 の 必 要 性 を 説 い て き た学 者 もい る 。例 え ば,Roberts(1944,p.304)

は 次 の よ う に 述 べ て い る 。

Idiom, the combinatorial government of language, deserves to become, and at

some future day may wellbecome, the object of a special science,

2)Weinreich(1969,p.58)。`_TNom-of'は,`of-nominalization'力 玉不 可 能 な こ と を

示 す 。

3)Lehrer(1974)に よ る と,項 目 連 結 と い う概 念 は 次 の 二 つ の 基 準 を 与 え て く れ る 。

(一) 同音異義語を区別する基準

・・g,makeupぐ:1:upherf

uphert:ce,am

(ii> 慣 用 句 の 判 定 基 準:あ る項 目 が 常 に 他 の あ る項 目 と共 起 す る 時,そ の 項 目連 結 は 慣 用 句

で あ る 。

e,g, spic and span, to and fro

4)「 死 ん だ 比 喩 」と慣 用 句 との 関 連 に つ い て は,Jespersen(1922, p.431-2), Bickerton

一17一

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坂 本 勉

(1969,p.48),Leech(1974,p.213)な ど を 参 照 。

5)隣 接 性 に 基 礎 を 置 く換 喩 と,等 価 性(相 似 性 と相 異 性)に 基 礎 を 置 く隠 喩 とい う 区分 は,

Jakobson and Halle(1956),Jakobson(1960)を 参 照 。

6)Chomsky(1965,p―83),Leech(1974,p。121),池 上(1975,p.221)な どに,固

有 素 性 の 簡 単 な 分 類 表 が あ る 。例 え ば,Chomskyで は 次 の よ う に示 され る 。

on

7)例 え ば,`larmes du matin'と い うReverdyの 詩 句 の 解 釈 に は,次 の 二 種 の 過 程 が 必 要 と さ

れ る 。

(D素 性 消去 規則 に よっ て,`larmes'か ら[+Human]と い う素 性 を消 去 し,`drops'へ と

一般 化す る。

(1)テ クス ト全 体 の情報 か ら,[+Natureコ とい う 「同位体 」(isotopy)を 認 め,拡 張規 則

に よって,こ の素性 を再 指定 す る。

larmes dewdrops

[+a,+β,+r] a匚+a,+β,+δ]

drops匚+a,+β]

+r=十Human,+δ=+Nature

こ れ を 一 般 化 し た 規 則 で 示 す と,

A[+α,+β,+γ]/B匚 ― γ,+δ]

A,[+a,十 β, φ コ

A"C十a,-1一゚,-1-8]

8)Leechは,`The sky rejoices in the morning's birth'と い うWbrdsworthの 詩 句 を,次 の

3段 階 に 分 け て,そ の 比 喩 的 解 釈 の 仕 組 み を 示 して い る 。

一18一

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慣用句と比喩:慣 用化の度合の観点から

9)

Stage I Segarate literal from figurative us�

L The sky the morning

F ¥rejoices in/ ¥'s birth

StageII Construct tenor and vehicle, by postulating semantic elements to fill

in the gaps of the l iteral and figurative interpretations

TEN The sky [looks bright at] the morning's [beginning] o ,

匚animate] rejoices in [animate]'s birth

Stage lll:State the ground of metaphor

the brightness or clearness of the sky= a person's rejoicing dawn

=abirth :both are beginnings

これ らの 変 形 操 作 と そ の 例 に つ い て 簡 単 に 記 し て お く。

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

10)こ の ほ か,

変 形 操 作 の 適 用 を 受 け る 可 能 性 を持 つ 慣 用 句 の 例 を い くつ か 挙 げ て い る

specifie

(1971)な どが あ る

Chafe C 1968)に 述 べ ら れ て い る。

11)Bickerton(1969, p.49)で は,`green thumb"に お い て は,`green'の 持…つ あ る 素 性 が

`thumb'に 永 続 的 に 付 与(permanent assigrunent)さ れ て い る た め に 慣 用 句 と な って お り,`green

thought'で は,一 時 的 に 付 与(temporal assignment)さ れ て い る の で 比 喩 と な っ てい る と い う説

Adjunction of some non‐idiomatic constituent to the idiom,

e.9.John hit the bail.→ John,s hitting the ball

Insertion of some constituent into the idiom.

e.g.We depend on him implicitly.→We depend implicitly onhim.

Permutation of two successive constituents of the idiom

e,g, put on some weighty put some weight on

Extraction of some constituent of the idiom tb some extra‐idiom position in

the sentence ・

e.g―look up the information→look the information up

Reconstitution of the idiom into another constituent structure organization,

e,g. He laid down the law to his daughter.

→His laying down the law to his daughter

慣 用 句 と変 形 に 関 す る もの と し て,Dong(197i)が, Fraserで 扱 わ れ な か っ た

。 ま た,不 定 名 詞 句(un-

dNP)の 消去の 可能 性 につ いて論 じ た もの として, Fraser and Ross(1970),Mittwoch

。なお,変 形生 成文 法 の枠組 み で慣 用 句 を扱 うの は 困難 であ る とす る議論 が,

一19一

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坂 本 勉

明が な されて い る 。

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