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Architectural Institute of Japan NII-Electronic Library Service Arohiteotural nstitute of Japan 本 建 築 学 会 計 画 系 論文 集 487 79 861996 9 J Archit Plann Environ Eng AIJ No 487 79 86 Sep 1996 係性 20 世紀初 頭における 空間に 関す る研 1 THE RELATION BETWEEN STAGE AND AUDITORIUM IN ADOLPHE APPIA S THEORY OF LA MISE EN SCENE Astudy on the theatrical space at the beginning of the 20th century Part1 永井聡子 清水裕之 *’ Satofeo NA GAI and HiroyuleiSHIMIZU This study is an attempt to clarify the rela1i (川 between s age and audi orium in Adolphe Appia s t theory of LA MISE EN SCENE 1 Appia aimed at an unity betweenthem His idea cleaIed lhrough Bayreuth festspielhaus and developped intoIhe new sIep by experiencing Dalcroze met 血od eurhylhmics in 1906 From he architectual point of view there are two point abOut the unily 1 prosceni m arch 2 the side wall of he aud toium A he bottom lhere are his co cideration ofthe livingbOdy actor and audience New space appeared by e connection among bOdy lighting and space baced on Ihe rhythm keywordsAdolphe APP a nuditoriut 】卍 proscenium ar h body Bayreuhf 診stspielhaus ピア 客席 ト祝祭劇場 1 じめ 1 1 研究 客席 にお いて 間席 重層す 桟敷席 をも わゆる馬蹄型形式 劇場では 封建社会 視覚 均質 さに対 認 があ しか 18 世紀後半 19 けて 社会 ら市 社会が中心 社会情勢 化に 舞台 術分野 たな 指向 が生 れた 即ち従来 点透 によ る空間概念や封建的社会制度 ら開放され質性 劇場 間表 現 構築 を しよ うとす動きそれは 中央視覚 優先する空 観客 して 同視覚条件 を用 しよ うとす 空間構成 変化 1 19 にお 劇場 1821 )や ドレ 1878 )などは基本的 には まだ 劇場 構成原理 を受 しか しR グナ 祝祭 劇 場 1876 いて 従来 馬蹄 型から均質な 席 空間 を 目指 客席 命的な変遂げ られ た また ここでは 特徴 装飾性 排除代表 され る 機能性 形態表現 追求 と う点 20 世紀建 性も 示し2 D 時代的して 19 世紀後半 演劇改革 にお 3 によ 台装置 演 出要 素 して 照明 機能 追求 行 われ 台と 体化 即ちプ 排 除 な ど様 目指 された様な 舞台 演出家 1862 1928 19 世紀末 から 1920 年代 にか 独自 台空間 と客席空間 を目 られ て るよ う 祭劇揚 デザグナ 反対 実際 また 1920 年代 にお いて ラ座 なオ 劇場 では 単純化 化 され た 装 置 は全 体 得 られず4 しか ピア 演出 5 劇場空 デザ名古屋大学 学部建築学科 大学院 文修 t 名古屋 学工 学部 築学科 教授 Graduate Student Deptof Architecture Faculty of Engineering Nagoya Univ M Art Prof Dep of Architecture Faculty of Engineering Nagoya Univ Dr E 79 N 工工 Eleotronio Library

THE RELATION BETWEEN STAGE AND AUDITORIUM IN ADOLPHE …

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Arohiteotural エnstitute   of   Japan

    日本建築 学会計画 系論文 集  第487号,79−86,1996年 9 月

J.Archit. Plann. Environ, Eng 、, AIJ, No .487,79−86, Sep.,1996

ア ドル フ ・ ア ッ ピ ア の 演 出理 念に お け る舞台 と客席 の 関係性

20世紀初頭 にお け る劇空 間 に関す る研 究 その 1

THE  RELATION  BETWEEN  STAGE  AND  AUDITORIUM  IN

  ADOLPHE  APPIA ’S THEORY  OF “ LA  MISE  EN  SCENE ”

Astudy  on  the theatrical space  at the beginning of the 20th century   Part 1

    永 井 聡 子*

, 清 水 裕 之*’

Satofeo NA  GAI  and  Hiroyulei SHIMIZU

This study  is an  attempt  to clarify  the rela1i(川 between  s亡age  and  audi 重orium  in Adolphe Appia ’s

           t

theory  of”LA  MISE  EN  SCENE

「1.Appia  aimed  at an unity  between them. His idea cleaIed  lhrough

Bayreuth festspielhaus and  developped into Ihe new  sIep  by experiencing  Dalcroze met 血od ,eurhylhmics  in 1906 ,From [he  architectual point of view . there are two  point abOut  the unily ;

1 ) prosceniロ m  arch   2 )the side  wall  of 【he aud 重toium   A ロ he bottom, lhere are  his

co 皿 cideration  ofthe  living bOdy;actor  and  audience . New  space  appeared  by山e connection  among

bOdy.lighting and  space  baced on  Ihe rhythm .

keywords; Adolphe APP ゴa ,  nuditoriut 】卍 , proscenium ar℃h , body , Bayreu酵h f診stspielhaus

ア ドル フ ・ア ッ ピア,客席 ,  プ ロ セ ニ ア ム アー

チ  , 身体 ,バ イ ロ イ ト祝祭劇場

1 ,は じめ に

1 . 1  研 究 背 景 ・目的

 客席 空 間 に お い て 、平土 間席 を 囲み 、重層す る桟敷席

を も つ い わ ゆ る 馬 蹄 型 形 式 の 劇 場 で は、封 建 社 会 の ヒ エ

ラ ル キー

下 で の 、視覚 の 不 均質 さに 対 す る 容認 が あ っ

た。し か し、18世紀後半か ら19世紀に か けて 、貴族社会

か ら市 民 社会が中心 とな る社会情勢 の 変化 に伴 い 、舞 台

芸 術分野 に 新 た な 指向が 生 まれ た。即ち、従来の一

点透

視に よ る空間概念や封建的社会制度 か ら開放され、よ り

均 質性 の 高い 劇場空 間表現の 構築 を し よ うとする 動きで

あ る。そ れ は 中央に 座 っ た 者の 視覚 を優先す る 空 間構 成

か ら、すべ て の 観客 に対 して 同質 の 視覚条件 を用 意 しよ

うとす る 空間構成 へ の 変化 で あっ た1}。19世 紀に お い て

は 、ベ ル リ ン 国 立劇場 (1821 )や ド レ ス デ ン 国 立 オ ベ ラ

ハ ウ ス (1878) な ど は基 本 的 に は ま だ、旧 来 の 劇場空 間

の 構成原 理 を受 け継 い で い る。しか し、R.ワーグナーに

よ る バ イ ロ イ ト祝祭劇場 (1876) に お い て 、従 来 の 馬 蹄

型 か ら均 質 な 客席 空 間 を 目指 し た 扇型 の 客席へと い う革

命的な変化 が 遂げ られ た。ま た こ こ で は 特徴で あっ た 内

部空 間の 装飾性 の 排 除に 代表 され る、機能性の 形態表現

の 追 求 と い う点で 、20世紀建築の 先駆 性 も示 して い た2)

D

 同時代的に 進行 して い た 19世紀後半 の 演劇改革 に お い

て も、演出家 3}に よ っ て舞台装置の 立 体化、演出要素と

して の 照 明 の 機能 の 追求 が 行われ る と同時 に、舞台 と客

席の一

体化、即ちプ ロ セ ニ ア ム アーチ の 排除など様 々 な

変更が 目指 された。こ の 様な背景 の 中で 、ス イス の 舞台

演出家 ア ドル フ ・ア ッ ピ ア (1862〜1928) は 、19世紀末

か ら 1920年代 に か けて 、独 自の 理 念 に 基づ い た舞台空間

と客席空間 との 融合を 目指 し た。よ く知 られ て い る よ う

に、バ イ ロ イ ト祝祭劇揚 で は ア ッ ピ ア の 舞台 デザイ ン や

ア イ デア は ワー

グナ ーの 未 亡 人 コ

ージ マ の 反対 で、実際

の 上 演に は 至 ら なか っ た。ま た、1920年代 に お い て も ス

カ ラ座 の よ うな オ ペ ラ劇場 で は、ア ッ ピ ア の 単純化 ・抽象 化 され た 装 置 は全 体 の 評 価 を得 られずに終わ っ た。4 ,

し か し、ア ッ ピ ア の 演出理 念5)

及 び 劇場空 間 の デザイ ン

“名古屋大 学 工 学 部 建 築 学 科  大学 院生

・文修

* t名 古 屋 大学 工 学部建 築学 科  教授 ・工 博

Graduate  Student,  Dept.  of  Architecture,  Faculty  of  Engineering,Nagoya  Univ,, M . Art .Prof., Depし of  Architecture, Faculty of  Engineering, Nagoya  Univ,,Dr. E   .

一 79

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は 、同時代の フ ラ ン ス の ジ ャ ッ ク ・コ ポーの 建築的装 置

や 1950 年代 に お け る ワーグナ ー

の 孫 の ヴィー

ラ ン ト・

ワー

グナー,ア メ リ カ の 舞台装置家 リ

ー ・シ モ ン ソン な

ど の 演出に み られ る よ うに、.欧米 の 演劇 に お け る 装 置 や

劇場形態 な ど に 影響 を与 え た ば か りで なく、日本 の 演劇

に 対 し て も照明家 の 遠山静雄等 を通 し て 多大な 影響を及

ぼ して お り、近代演劇における影響 は 極めて 大きい 。そ

こ で 、現代に おける 劇場空間を知る上 で 極 め て 重要と思

わ れ る ア ッ ピア の 演出理念 に 関する言説に着 目 し、劇場

空 間 にお け る舞台 と客席との 関係 性 を考察す る こ とが 本

稿 の 狙 い で あ る。

1 .2  既往 の 研究

 ア ッ ピア に 関す る 研 究 は、2 次元 の 背景幕に よ る 表現

方法の 否定か ら の 考察や 、近代照明の 活動 性 を求 め た 先

駆者 とし て 捉 え た もの が 多い 。R,C .Beacham ”ADOLPHE

APPIA 「,6 }R .C.Beacham , Marco 1]te Michelis, Martin Dreier,

Gernot Giertz, Jacques Gubleret Jbrg Zutter,’嚠Adolphe Appia/

ou le renouveau  de 1’esth6tique th6atrale dessins et esquisses  de

d6cors”7 } に お い て は 美術面 か ら の 考察が な され て い る

が、建築的側 面 は 資料 の 提 示 に 止 ま っ て い る。遠 山静雄

は 『ア ドル フ ・ア ッ ピア』8)の 中で、佐藤正 紀は、山内

登 美雄編 『ヨー

ロ ッ パ 演劇 の 変貌一ゲ オ ル ク ニ 世か ら ス

トレー

ル ま で一

』の 「未来の 演劇 の 孤 独 / ゴードン ・ク

レ イ グ とア ドル フ・ア ッ ピ ア 」

9 )の 中で 演出理 念 を中心

に 考察を進 め て お り、建築的側 面 は 二 次的 に 捉 え て い

る。本研 究 は 、特 に 劇 場 建 築 の 空 間 変化 に お け る ア ッ ピ

ア の 位置 づ け を 考察す る こ とに 特色が ある。

1 .3  分析対象・方 法

 ア ッ ピ ア は 主 に 理 念 か らの ア プ ロー

チが多 く、実践

は 、1903年パ リ ・ベ アー

ン 伯爵夫人私設劇場、]9]2年 ・

1913年 ドイ ツ ・ドレ ス デ ン に お ける ダル ク ローズ 研究

所、1923年 ミラ ノ ・ス カ ラ座 、1925年 ス イ ス ・バ ーゼ ル

市立 劇場 にお い て 演 出 及 び 劇 場 空 間 に お け るデザイ ン を

行 っ て い る程度 で 、極 め て 少ない 。ア ッ ピア の 活動 は 、

む しろ 著作 の 方が 多 い た め 、本論文 で は ア ッ ピ ア の 著述

を主な資料源 と し て 、劇場空 間 に対 す る理 念 の 抽 出 を試

み た。

 ア ッ ピ ア の 演出理念 を 通観す る と、一

生 を 通 じ理倉〔ρ一

貫性 が 感 じ られ る が、後 述 す る 1906年 の ユ ーリズ ミ ッ

ク ス の 経験 を境 に 劇 空 間に お け る言 説 に 進展 が 見 られ る

た め 、本 論 文 で は 進 展 す る 以 前 の バ イ ロ イ ト祝 祭 劇 場 に

関す る言説 と、以後 の ユー

リズ ミ ッ ク ス に 関す る言説 と

の 比 較 ・分析 に 焦点 を 当 て た。ア ッ ピ ア の 主 な 著 述 を

1906年 以 前 ・以 後 に分けて 示 す と表一1 の よ うに なる。こ

れ らの 著述 の 中で 、本 論 文 の 考察 に 主 と し て 用 い た の は

次 の 2 点 で ある。1901年 『La sall du Prinzregenten−Thξatre

一 80 一

表一1  ア ッ ピ ア の 主 な 著述 リス ト

(プ リン ツ レ ゲン テ ン 劇場 の 観客席』1 ω

で は 、舞台 と

客席 の 融合 に 関 し て 、具体的な劇場 の 名 が 取 り上 げ られ

評価 が 与 え られ て い る。こ れ は、ア ッ ピ ア がダル ク ロー

ズ 研究所 の ホール 建 設 (1911年) に あ た り、建築的側 面

を含 む 芸 術 的 側 面 が 実 践 に移 され る 以 前 に 、ア ッ ピ ア が

影響 を受け た劇場に 関する 考察を確認 で きる とい う点 で

重要で ある。もう一

つ は、19n 年 『La gymnastique euryth −

mics  et le th6atre (ユ ーリズ ミ ッ ク ス と劇場)』11 》で あ

る。これ を俳優 の 動きと空間 の 関連か ら劇場空 間 の 改革

を導 くこ とになっ た重要な記述 として 取 り上げる こ と に

し た。また 『音楽 と 演 出』、 『演 出 改 革 に お け る 考

察』、 『音 楽 へ の 回 帰』、 『演劇経験と個人的研究』等

12 }を補 足 的 に利用 した。

2 .ア ッ ピア とそ の 歴 史的位置づけ

 ア ッ ピ ア は 、音楽家R .ワーグナ

ー(1813〜1883) の

音楽 と言葉の 融合 を 達成 した 作品 を い か に 上演す る か と

い うこ とか ら出発 し、音楽 を べ 一ス 13 )に した 舞台 の 上

演を考察するこ とに 主 眼 を お い て 生 涯 を送 っ た 。 途中、

ア ッ ピ ア は音楽教育家で あ り舞踊家で あるE.Jダル ク ロー

ズ 〔1865〜1950) 14 ) と 出会い、

バ レ エ の 伝統 とは 逆 の

立 場 に 立 つ ダル ク ロ ーズ の ユー

リズ ミ ッ ク ス とい う身体

訓 練を体験す る。こ の 身体訓練 を、俳優の 身体 を い か に

空間 に 表 現す る か とい う訓 練 と して の 必要性か ら採用

し、リズ ム を劇 場 空 間 に還 元 す る 方法 に適用させ た。ド

イ ツ・ドレ ス デ ン 郊外 の ヘ レ ラウに設立 され た ダル ク

ローズの 研究所

15 〕にお い て 、ダル ク ロ

ーズ に 欠 け て い

た、照 明 、装置、ホー

ル 内の ア イディ ア を提供 して 芸術

的側 面 をサ ポート し た。

一方 、ダル ク ロ

ーズ は、教育 面

を 担当 した 。ア ッ ピ ア の 演 出 に伴 う建築的側面 の 変更を

受 け入 れ つ つ も、リズ ム 体 操 を 芸 術的表 現 と し て で は な

く、あ くま で も教育の T 環 と して 捉 え て い た。従 っ て、

劇場改革 とし て の 立揚 に い な い 。こ の 研 究 所 は 1914年 に

は 、第一

次世界大戦勃発 で 閉鎖 とな る 。

  次 に、ア ッ ピ ア の 生 き た 時 代に お け る舞 台 演 出の 流 れ

との 中に お い て、ア ッ ピ ア は 「音楽の 正 確 な比 率」16 }

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に基づ くた め、 「実生活 で観察 した変 化 を 取 り 入 れ る こ と

で は な く、日 々 の 経験か ら得た もの を‘再創造

’す る融通

性」17 レを 指向す る。即 ち、ア ッ ピ ア は音楽テ キ ス トの 観

念か ら舞台化 を行 う。また ア ッ ピ ア は 照明 に注 目し、 「照

明の リア リズ ム は、それ故、装置の 具体的な リア リズム と

違 う性質 で ある 。 つ ま り、後者 は 状況 の模倣に 根拠を置く

が、前者は 観念 の 存在 に根拠を置 くの で ある 」】 B) とい う

言説 に代表 され る ように、照明の 表現性を求める。こ こ か

らす で にリア リズ ム を脱出 した ア ッ ピ ア の 演出理 念 は 「反

リア リズ ム 」 の 見方 に立 つ もの と位置付 け られ る。 19 世

紀後半か ら 20 世紀初頭 の 舞台芸術 にお い て 、史実 に 基づ

き現実を呈示 す る 「リア リズ ム 」 と対 抗す べ く、現実を抽

象的 に呈 示 す る手 法 を採 る 「反 リア リズ ム 」 を標榜す る演

劇人 が 現 れ た の で あ る。

表一2  ア ッ ピ ア の 位置づ け〈 略年表 〉

3.ア ッ ピア の言説の検討

3.1 『プ リン ツ レ ゲ ン テ ン 劇 場の 観客席 (1901)』

    の 検討

3. 1,1 言説内容

 ア ッ ピ ア は こ こ で バ イ ロ イ ト祝祭劇 場 の 空 間 に お け る

プ ロ セ ニ ア ム アーチ の 形 態及 び 客席の 側 壁 に 焦 点 を 当て

て 評価す る と同 時に 、プ リン ツ レ ゲ ン テ ン 劇場 との 比 較

を行 っ て い る。特 に 、バ イ ロ イ ト祝祭 劇 場 に お け る‘オー

ケ ス トラ ピ ッ ト’

に着 目 し、客席 の 側 壁 ・内部装

飾 との 関連 を 述 べ て い る。  似 下、バ イ ロ イ ト祝祭 劇 場

を 「バ イ ロ イ ト」 、プ リン ツ レ ゲ ン テ ン 劇 場 を 「プ リン

ツ レ ゲ ン テ ン 」 と した )

3 . 1 .2   バ イ ロ イ トに 対 す る 指 摘

1 ) プ ロ セ ニ ア ム ア ーチ

 劇場空 間に お い て 、 「演奏家の 存在を観客に趣

立 に 、オ ーケ ス トラ を ど こ に 置 くか 」19 ) と述 べ て い

る。ア ッ ピ ア は、ワーグナ ーが 舞台=理想、客席 = 現実 と

分ける 役割 を与 え た オーケ ス トラ ピ ッ ト (以下オ ケ ピ ッ

ト)を 「天才的創意」2 ω と述べ て い る が、  「天才的」

と評価 し た要因 と して、プ ロ セ ニ ア ム アーチの 存在を挙

げて い る 。 プ ロ セ ニ ア ム アー

チの 柱が客席 に繋が る 印象

を与えて い る た め、その 間に 位置す る オケ ピ ッ トに よっ

て 「仲介」21 ) と し て の 空間を達成 して い る点 を指 摘 し

て い る。従 っ て 、ア ッ ピ ア に とっ て 、ワ ーグナーに よっ

て‘神 秘 の 淵

’と称され た オ ケ ピ ッ トは、オーケ ス トラ

を隠す単な る 穴 と し て の 存在 で は な か っ た と い え る 。ア ッ ピ ア の 場合は む し ろ舞台 と客席を積極的に近づ けよ

うと した 立 場 にい る。2 ) 客席側壁の 形態

  バ イ ロ イ トの 客席 の 側壁を 「進歩 した側壁 」22 } とす

る ア ッ ピ ア の 言説 で は、その 理由と し て プ ロ セ ニ ア ム

アー

チの 柱が、客席空間 に入 り込 み、客席 の 柱 の 流れ に

連結 して い る こ とが 挙げられ て い る。ア ッ ピア は こ れを

1総合的な調和」23 〕 と述ぺ 、オ ケ ピ ッ トを舞台 と客席

の 仲介 を果 たす存在と して 捉えて い る。図 1 に み られ る

よ うに 、バ イ ロ イ トで は 、客席側壁 の 扉 が 奥 に 引 っ 込

み、客席側 壁 を形 成 す る 柱 が 舞台に 近 づ く に従 っ て 客 席

.側 へ 突 き 出 て、プ ロ セ ニ ア ム アーチ の ライ ン に 繋が っ て

い る。こ れ は、ア ーチ の 存 在 が独 立 した 印象 を 与 え ず、

自然に 視線を舞台に向か わ せ る効果を上 げて い る。また

「柱が 天 井まで 至 る 部分は 、 観客の 視界 を広 げる もの 」

Z4 )として お り、舞台 と客席を繋ぐ要素の 建築的重要性

を 述 べ て い る。舞台=理 想,客席 ; 現 実 と して分 け る 要素

で あ る プ ロ セ ニ ア ム アー

チは 、ア ッ ピア の言説 に お い

て、舞台 と 客席 とを有機的 に繋げて い る要素 と して 捉 え

られ て い る の で あ る。

3 )そ の 他 の 空 間 要 素 の デザイ ン

 緞帳の ス タイル や色の 調 子 など が 客席の 側壁 とバ ラ ン

ス を とっ て い る点 を 挙 げ、そ れ が 「完全 に 調和 の 印象」

Z5 ) を 与 え る と述 べ て お り、舞台 と客 席 と の 関 連 性 を帯

び る こ と を強 調 して い る。ま た 、舞台 へ 向か う天 井 の ラ

イ ン を 嘸 意識 に 引き寄せ る雰囲気を与え る」26 }

要素

と して 挙げ、自然に観客の 視線を舞台に 向か わせ る役割

を もつ もの と して 指摘 して い る 。

4 )舞台美術

 バ イ ロ イ トの 舞台 と客席に お ける建 築的側面に つ い て

「驚 くべ き天 才の 総和 」27 > と賞賛 して い るが、欠点 と

して 「ワーグ ナー

は 観客をス ペ ク タ クル に結び っ け る ラ

イ ン に 欠 けて い た 」28 ) と し、舞台美術に お け る 改良の

必 要性を指摘 して い る。

一 81 一

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3 . 1 .3 プ リン ツ レ ゲン テ ン に 対す る指 摘

1 ) プ ロ セ ニ ア ム ア ーチ

  ア ッ ピ ア は 、プ リ ン ツ レ ゲ ン テ ン の プ ロ セ ニ ア ム アー

チ 周 辺 の 装飾 に つ い て 、  「金 色 の 重 た い 枠 」29 > と述

べ 、装飾 と共に、幕が開い た時に 観客の 目に 飛 び 込 む俳

優 との バ ラ ン ス の 悪 さを指摘 して い る 。 そ の た め オ ケ

ピ ッ トは 、  「穴 と して 舞台の 前 に 存在 し、視界か らた だ

隠れ て い る だけで ある 」 、 「客席 の 構 造 とは 関係 を もた

ない 」3 ω とオケ ピ ッ トの存在を 否定的に 捉 え て い る。

ア ッ ピ ア は 、プ リン ツ レ ゲン テ ン に お け る オ ケ ピ ッ ト

を、舞台 と客席 を分離する要素と し て み な して い る。そ

の 理 由に プ ロ セ ニ ア ム アー

チ の 装飾 が 観客 の 舞 台 へ の 集

中を妨げ る点 を 挙げて い る。図 4 ,図 5 ,図 62 ) 客席 側 壁 の 形 態

  側 壁 の 柱 の 間 に 人 物像 が 「水平 に 置か れ て い る 」3D

た め 、それ は 「一種 の バ ル コ ニー

」32 )

とな り、客席の

側 壁 が プ ロ セ ニ ア ム アーチ か ら切 り放 され,独立 した存

在 と なる と指摘 して い る。ま た 側壁 に置 か れた 人物像の

存在の 重 さを強調 して い る 。 観客は 人物像 と舞台 上 の 本

物 の 人間 とを同時に 目の 当た りに す る こ とに な る。同 様

に天井もその 装飾 が観客 の 注意を引い て しま うこ とを 挙

げそれ ら を 「不必 要 」  「邪魔にな る 」33 ) と述 べ て い

る。

 客席内 で 完結したデザイ ン は 舞台と客席 との 有機的結

合 を 見出せ な い もの と考 えて い る こ と が伺 わ れ る。舞 台

と客席の 各 々 で 完結 した デ ザ イ ン を否 定す る 態度 は 、舞

台 と客席 の 関係性を失 わ せ る要因と し て 、劇場空間にお

ける装飾性を否定す る考 えに基づ い て い ると考えられ

る。図 4

図 1 バ イ ロ イ ト祝祭劇 場 内部

出典 ;Edition elaboi道e et comment6e  par Mavic L. Babict−Hahn

,”ADOLPHE  APPIA 〔c£ UVRES  COMPL 直TES ,L’AGE  D’HOMME ,n 「

 1986

3 .1 .4  2 劇場 に 対す る ア ッ ピア の 捉 え方 の 比 較

 オケ ピ ッ トは、両者 とも深 く沈め られ、図面上 の 大 差

は な い 。しか し、ア ッ ピ ア の 言 説 で は 、バ イ ロ イ トで は

‘神秘の 淵

’と し、プ リン ツ レ ゲ ン テ ン で は

‘穴’

とオ

ケ ピ ッ トを区別 した要因に、客席空間 の 形態を挙げて い

る。ア ッ ピ ア は 、プ ロ セ ニ ア ム アーチ の 存在を、舞台 と

客席を結び つ ける要素 と して 見な して い る た め 、プ リン

ツ レ ゲ ン テ ン の プ ロ セ ニ ア ム アーチ 周辺 の装飾を舞台 と

客 席の 融合 関係 を失わせ る存在 と して 強 く拒ん で い る。

特 に 、演 出理 念 の 中 心 に 動 的 な 人 間 の 身体 を 据 え た ア ッ

ピ ア は 、客席 側 壁 に 置か れ た動 か ない 人間像に 大きな こ

だ わ りを 見せ て い る。バ イ ロ イ トとプ リ ン ツ レ ゲ ン テ ン

は、一

見 極 め て 類 似 して い る よ うに 見 え な が ら、ア ッ ピ

ア は 舞台 と客席 の 関係性 にお い て 、舞台枠の 構造,客席

の 側壁 の 扱 い に か な り の 相 違 を 抱 い て い た こ と に 注 目 し

た い 。

図 2 バ イ ロ イ ト祝 祭劇 場 平 面 図

出典 ;MODERN  OPERA  HOUSES  AND  THEATRES , Amopl £ ss,

Ncw  York ,1981

図3 バ イ ロ イ ト祝祭劇 場 断 面 図

出典 ;図 2 に 同 じ

一 82 一

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図4 プ リ ン ツ レ ゲ ン テ ン 劇 場 内部

出典 ;図 1 に同 じ

e v 質聯

図 5 プ リン ツ レ ゲ ン テ ン 劇 場  平面 図

出典 ;Handbuch  der Ai℃hitektur】V −65 ,1904

図6 プ リ ン ツ レ ゲン テ ン 劇 場  断 面図

出典 ;図5に 同 じ

3 .2 『ユ ーリズ ミ ッ ク ス と 劇場 (1911)』 の 検討

3 .2 . 1  言説内容

 ア ッ ピ ア の 劇場 に対す る捉 え方は 、ダル ク ロ ーズ の

ユー

リズ ミ ッ ク ス の 影響によ り大 き く進展 した。ア ッ ピ

ア は、ユー

リズ ミ ッ ク ス とい う身体訓練を、俳 優 の 感 受

性 を養 い 、俳優 の 動 き を空 間 に 対 して敏感 に させ る もの

で あ る と同時に、観 客 へ の 受動 性 を能動的 に もす る も の

と捉 え、こ れ を劇場空間 へ の ア プ ローチ の 前提 と した。

その 結果、空間は生命を与え られ た 感 の 様 相 を呈 し、必

然的に 劇場空間 の 変更 も要求す る こ とを 述 べ て い る。1 )舞台芸術 の 改 革

 舞台 芸 術 に 必 要 な全 体 の 調 和 に、ユー

リ ズ ミ ッ ク ス を

採 用 し、劇場空間に 関連づ けて い る。  「ユー・

リズ ミ ッ ク

ス と従来 の 劇場 は 、互 い に 両 立 し ない 二 っ の 概念 で あ

る 」3’1 ] と述 べ 、馬蹄型 の オ ペ ラ劇場か ら新 しい 空間 の

改革 の 必 要 性 を指摘 して い る。改革 の 中心 に 、ユーリズ

ミ ッ ク ス に よ っ て 表現力 を増 し た俳優 を置くこ と に よ

り、2 次 元 の 装置 を 排除す る.  「垂 直 の キ ャ ン バ ス に描

か れ る絵画の 活気 の 無 さを誇示 す る代 わ りに 、演出は 常

に 空 間に お け る人間の 可塑的肉体 を上 手 く引き立 て るの

1で ある 」35 レ と述 べ 湯 体 の 可 塑 勝 意識 され て い る・

 ユー

リズ ミ ッ ク ス と俳優の 結びつ きは 、よ り舞台 芸 術に

 お ける空間表現 に 配 慮 を もた ら し た とい え る。

  2 )舞台芸術の 構成 要 素

  a.作家

  作家は 、ア ッ ピ ア の 言説 にお い て 「le po壱te musician 」

 S6 〕

の こ と を 指 し 、言 葉 と音楽 を融合 させ た ワーグ ナ

 に 代表 され る。俳優 と同様 「作家も装置 (こ こで は 背景

 幕) との 不調和な並置を意識 しな くて は い けない 」 「作

 家自身の 中で リズ ム を確認す る」37 } とい う言説か ら、

  ア ッ ピ ア は 作家 に 空 間 へ の 意 識 を 求 め て い る こ とが判

  る。

  b.俳優

  背景幕の 使用など 2 次元 的な表 現 の 伝統 に 対 し て 、背

 景幕 と立 体 で 動的な身体 との 不 調 和 を指摘する。  「リズ

 ム の 規則 に よ っ て 俳優 は、継 続 的 な音楽 の 無限 の 多様性

 に 呼 応 した 空 間に 敏感 に な る 」38 ) と 述 べ 、俳優 は、

  ユ ーリズ ミッ ク ス に よ り 3 次元 との 有機的なつ なが りの

 可 能性 を悟 るべ きで あると考えて い る 。

 c.観客

  ア ッ ピ ア は 、 「 (俳優が 獲得 した) リズ ム の 規則 は、

 観客 の 受け身 の 態度 を覆す 」S9 ) 、  「芸術作品とな っ た

 観 客は 活動的とな り、受 け身 を強制 され て も反逆す る 権

 利を獲得す る」4 ω

と述 べ て 、俳優 の 表現性 が 観客を舞

 台に 引 き込 む こ と に注 目 し、現状の 観客の 姿勢 を芸 術作

 品 との 分離 とみ て 、それ を参加 に転換 して い くべ き と考

  え て い る。

一 83 一

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d.照明

  「光 は も う絵 画 を 見 せ る とい う義務 を負 わ ず、空間 に

生 き た 色 が 行 き 渡 り、そ こ に 動的な雰 囲 気 が 生 み 出さ

れ 、無 限 の バ リエー

シ ョ ン が もた ら され る よ うに な る の

だ」41 ) と照明 の 表現性を述べ 、  「光 は 流動的な明 か り

と 影 で 空 間 を満 た す 」42 レ と い う言 説 に み られ る よ う

に.照明の 活動的役割とい う近代的な側面 を予見 して い

る43 )。

3 .2 .2 ダル ク ロ ーズ との 出会 い に よ る劇 場 観 の 変化

 以上 に み た よ うな、ア ッ ピア の 舞台芸術への 改革 は、

当時の 音楽劇 を 上演す る劇場で は 空間 と身体 と の 関係が

失 わ れ て い る と感 じた と こ ろから出発 して い る。俳優の

動きと周 りの 空間の 改革に は、リズ ム へ の 知 覚 が 考え の

根底 に あっ た が、そ れを具体的な空間 に 還元す る 鍵 と

な っ た の が 、ユ ーリズ ミ ッ ク ス で あ る 。1921年 に お い て

「ユーリズ ミ ッ ク ス は 私 を確 固 と した 伝統 か ら 自由 に し

た。特 に ワーグナーの 装 飾 的な ロ マ テ ィ シ ズ ム か ら 」

44 )とあるように、1906年の ダル ク ロ ーズ に よる デモ ン

ス トレー

シ ョ ン に参 加 し 、 自 らそ の 空間 の 体験を通 し、

「参加 して い る」45 〕 と 自覚す る こ とに よっ て、新 しい

空間を 知覚した の で ある。ユー

リズ ミ ッ ク ス と結 び つ く

こ とに よ り、ダル ク U 一ズ 研究所における、人間 の 立 体

性 の 表 現 をべ 一ス と した共同作業 が 完 全 な オープ ン ス

ペ ース を誕 生 させ る こ とに なっ た とい え る。俳優の 空 間

を意 識 した 動 き、観客の 能動性及び 照 明 の 表現 性 へ の 要

求 は、近 代 の 劇場空間に 求 め られ た舞台 と観客 の 融合関

係を導 くこ とに な っ た。

図 7.ダル ク ローズ研 究所 平面 図

出典 ;Edition 61abo婚 e et cemmentec  par Marie L. BabLet−Hahn

                              t

.・・ADOLPHE  APPIA OeUVRltS  COMPLETES ・L ’AGE  D’HOMME ・

皿.1986

 

 

F i 「 .   レ

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需.[ll・11「「

1 ・i 曼 A

甜 「¶マ

日3

4 .  ダ ル ク ローズ研 究 所 に お け る ア ッ ピア の 理念の

   実現

 ア ッ ピア の 舞台 と観客 の 融合 へ の 指向は 、19董2〜1913

年ダル ク ロ ーズ 研 究所46 }で 開催 され た フ ェ ス テ ィバ ル

で 実現 され る 。 ダル ク ローズ研究所の 平面図 , 断面 図及

び 内部写真を み る と図 7,図 8 ,図 9 、音楽をベ ース と

す る ア ッ ピ ア の 演出理念 か ら、  プ ロ セ ニ ア ム アー’

チの

除去  オー

ケス トラ ピ ッ トの 融通 性  階段座席 (馬蹄型

か ら の 脱 出)  ホー

ル 内全側壁 を用 い た.照明効果

47 }

(電 球が 、側 壁,天 井及 び舞台側を包 む 布 と ホール 全 体

の 内側 の 壁 との 間 に 配 置 され て 均質 な 照 明 効 果 が 与 え ら

れ た ) に よ り、舞台 と客席 の一

体化 を図 っ て い る。図 9

 即ち、バ イ ロ イ トの 舞 台 と客席 の 融合 は、両者 をつ な

ぐ空 間 及 び 客 席 の 側 壁 の 形態 に 見 い だ せ た が 、こ こ で

は 、プ ロ セ ニ ア ム アーチ を取 り除 き、舞 台 と客席 を一

化 した裸空間 とホー

ル 空 間全 体 を 包 む 均質な照明 が、舞

台 と客席 に 有機的結合 を 与 え て い る 。こ の 劇 場 空 間 で

は、天 井及 び 舞台 と 客席 の 側 壁 は 同質 の もの と し て 、人

間 (俳優 ・観客) を包 囲 して い る とみ る こ と が で き る。

図 8 .ダル ク ローズ研 究所 断 面 図

出典 ;・Ad ・lphe・ApPi・f。 ・ 1・・r・n・・… ud ・1

’・・th・呻 ・ theat「ale

the dessins et esquisses  de d壱cers”,1992

図 9 .ダル ク ローズ 研 究 所 内部

出典 ;図7に 同 じ

84 一

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5 .結論

   ア ッ ピア は ワーグナ

ーの 作 品 をい か に上 演 す るか とい

 う問題 か ら出発 して い る 。 言葉と音楽の 融合をベ ース と

す る 劇の 舞台化 に お い て 、ワーグナー作 品 の 観劇経験 か

ら改革を要 したの は、俳優 の 動 きと劇場空 間 で あ る 。

ア ッ ピ ア は舞台と観客との 有機的結合を主張 し 、 作家一

俳優一空間 とい うヒ エ ラル キ

ーを据えて 、作家 が リズ ム

を意識す る こ と , 俳優 に 空 間 を意識 し た 表現力 を与 え る

こ と、2 次元 の 背景幕の 否定、俳優と 3次元装置に 照明

に よっ て 表現力を与える こ と、劇場空 間の 変更などを必

要 とした。

  1901 年の バ イ ロ イ ト とプ リ ン ツ レ ゲ ン テ ン を 比 較 す る

ア ッ ピア の 言説で は 、バ イ ロ イ ト.に舞台 と客席 間 の 有機

的結合 をみ て い た 。 そ の 根拠は、 以下の 2 点1こ 要約で き

る。音楽 をベ ース とす る ア ッ ピ ア の 舞台 芸術に お い て 、

そ れ を解決す る の は 、1 )プ ロ セ ニ ア ム アー

チ  2)客

席側壁 の 形態 として い る。即ち、プロ セ ニ ア ム アーチ の

形態 が 客席 の 側壁 に 連結すべ くそ の.形態 を有 し、客席側

壁 は 舞台 に 向か っ て 流れ、プ ロ セ ニ ア ム アー

チ に 融合 し

な くて は な らない 。深 く沈め られ たオ ケ ピ ッ トは、プ ロ

セ ニ ア ム アーチ と客席の 側 壁 の 柱 の 仲介 と し て そ の 存在

を意識 させ ない もの と なる。

  し か し、プ リン ツ レ ゲ ン テ ン の 側 壁 に み られる 人 物 像

の ように、側壁 自体が 「バ ル コ ニ ー」 の ごと く装飾 され

て 観客の 注意 を 引 く こ と が あ っ て は な らな い。 ま た 、人

間の 柔軟な 身体 の 動きに 注 目 し た ア ッ ピア に とっ て 、こ .の 堅固な人物像 の 存在 に 対 し強 く問題 提 起 して い る 。 空

間 に おい て 動的な面を強調 して い る こ とか ら、音楽に 動

機 を 与え られ て 動く生 身 の 人間への 注 目は 建築的側面 に

変更をもた らした。プ ロ セ ニ ア ム アー

チと馬蹄型の 客席

を有す る劇 場 空 間か ら の 脱 出で あ る、即 ち、ア ッ ピア の

演劇理 念 に み て とれ る指向性 は、ギ リシ ャ・

ロー

マ 劇場

に み られ る、プ ロ セ ニ ア ム アーチ を持 た ず、扇型 の 客席

を有 し た 空間 へ の 回 帰 の 流 れ に 位 置 す る。4S }

  次に、俳優を い か に 空間に 解放 し、自由に す る か 、そ

して劇場 空 間 の 変更を行 うか に つ い て 、 具体的な形 に で

き る契機 とな っ た の が ダル ク ローズ の ユ

ーリズ ミ ッ クス

で あ る 。 リズ ム を知 覚 し空 間に 敏感 に なるの は俳優だけ

で な く観.客で もあ っ た と い うこ と を自ら体験するこ とに

よ り.

、 ワーグナーの 影響 か ら脱却す る

.。ユ

ーリズ ミ ッ ク

ス と結び っ く こ とで、バ イ ロ イ トに お い て 有機的結合 に

寄与 した とす る舞台 と客席 の 側 壁 の 形 態 は、ダル ク ロー

ズ研究所 で は 、舞台と客席間を一

体化す ぺ く均質な もの

.と され た。人間の 動的で 可 塑的な表現 力 を 空 間 に 結 び っ

ける ア ッ ピ ア の 演 出理 念 の 形 成 過 程か ら、建 築的側面 の

変 更 に 対す る 必 然性 が理解で き るの で あ る。

謝辞 1 本論文 を進 め るにあた り、御協力頂い た金善一氏及び、御示 唆を

賜 っ た名 古屋大 学 工 学部溝 口正 人 助 手 (当時) に感謝 致 します。

註 11

}田 邊健雄,小谷喬 之助,吉井澄雄,関 口克 明 ,杉 山浩一

著 , 新建築学大系編集委員会編 『新建築学大 系 33 /劇場の 設計』,彰国社,1961,PP.3−222)清水裕之 著 『劇場 の 構図 』鹿島出版会」988,pp.186−220

3)演出家は .バ イ ロ イ ト祝祭劇 場 で上 演 され る 、ワーグナー

の 作品解釈

に代表 され るよ うに、過去 の 作品に新解釈を加え た り、独 自の解釈を持

ち込 む存在 とし て 捉えられ てい る。また、最近で は演出家が 俳優の エ ネ

ル ギーを触発す る者 と して の 存在を示 して い る者 もい る。こ の よ うに、一

口 に演出家と い っ て も単 に全体 の構 成 を コ ーデ ィネイ トす るだけで は

な く、人 間 との 関わ り合い を軸に多様に な っ て くると同時に、舞 台芸術

創造の 上演に必須 の もの となっ て きて い る。4 )New  Yerk Times、19315} 「演出 亅 とい う語は 、一般 的 に 〈 r6gie レ ジ ー

〉 が用 い られ て い る。こ

れ は .西欧 で は特 に 19 世紀後 半 以 降、舞 台 の上 演 にお ける全体構成を

行 うもの として 示 され、20 世紀初頭にかけ て確 立 され た概 念で あ b 、歴 史 とともに 重要性を増 し て きてい る。今 世紀 も終末に 至 っ て 「演出」

の 言葉は定 着 し、演出家め名 が ク ローズ ・ア ッ プ され て 上 演 され て い

る。ア ッ ピ ア の 言 説 に も 「演出 」 に対応す る語が 見 られ 、同 時代的な演

出重視の 傾向の 端緒に位置す る。しか し、ア ッ ピア は 「演出」 に対応す

る 語 を〈 lamiseenscene ミザ ン セー

ヌ 〉 と呼ん で い る。そ れ は彼 独特の

表現方法 を指 し.舞台空 間内に納まるもの ではな く、む しろ舞台と客席

を積 極的 に近 づ け る もの で あ り、俳 優と観 客の 空 間内に存在 する 人 間の

身 体 と劇 空間 との 関係性 とい う観点で 捉 える ことができ るe 即ち前代の

遠近法 に よる ウイ ン グ ・ボーダー

シ ス テ ム や ボ ッ ク ス シ ス テ ム (箱舞

台) に よ る 「リア リズ ム 1 に対抗 しようとす る改革の 理念で ある。こ こ

で は 、そ の 違い を認識 した 上で 日本 語 と し て は 「演出」 を用 い た。6}Canコbi’idge UniVCisity,198S7)PAYOT  LAUSANNE ,1992S湘 模書房,1977

9)白鳳 社二」994

10 〕lt }12 )Edition ξlabor6e er cornment6e  par Marie L. Bablet−Hahn                              ノ

、”ADOLPHEAPPIA 〔£ uvREs  COMPLETES .L’AGED ’HOMME

’1,ll.皿,

N 「’,L’AGE  D’HOMME ,1986に収録 され て い る もの を取 り上 げた 。 分 析

に 取 り上げた 10)11)の原 著 は フ ラ ン ス 語。先 に ドイツ 語 訳 が出 版 され

た 。ア ッ ピア の 直筆 が存在 しない た め フ ラ ン ス 語 で編成 され た もの を用い た。10}の プ リン ツ レゲ ンテ ン 劇 場は、1901年バ イ ロ イ ト祝祭劇場の

構 造 を模 して 遣設 され た 。設計は.マ ッ クス ・リッ トマ ン。こ こが ミュ

ン ヘ ン に お ける ワーグナー

上演 の 拠点 とな っ た 。13}ア ッ ピア の 「演 出」 理 念の 前 提 として音楽が存在す る。ア ッ ピア の

言説に・ 「音楽は、1・ W ・ rt−T ・ nd ・・ ma 惨 考 文 献 1)lp.8。; 1・ w 。 ,卜

Tendrama は、ア ッ ピア が言葉 と音楽の 融 合 を成す 作品 につ い て 呼ん だ

もので 、ワーグナー

の 作 品を代表と した )に関わ る重要 な先天 的思考で

あ る1 とあ る。ワー

グナー作晶 の 上 演で は 見い 出せな か っ た俳優 の 動 きの 表現性 は、1906 年ダル ク n 一ズの ユ ー

リズ ミ ッ クス を 体験す る こ とに

よ り進展す る。ユー

リズ ミ ッ ク ス は .「音 楽は人 の 内 に ある 」 (同1)皿

p、33) と述ぺ 身 体の 内 で リズ ム を知覚す る ことか ら出発す るこ とが重

要で あ る とす る もの で あ る e1906 年以 前にお い て ユ ーリズ ミ ッ ク ス の 存

在 に対す る予 見 を 「gymllaslique mu $icale(音楽体操)」 (同 1)lp.49)と捉えて い た 。14 }E」ダル ク ロ ーズ は 、ユ ーリズ ミ ッ クス とい うリズ ム感 覚 を養 う音楽教 育法の 創始者で ある。ユ

ーリズ ミ ッ ク ス は 、初期 の モ ダ ン ダン ス に位

置づけ られ、音楽教育だけで な く舞 踊の 訓練に 効果 を上げた方 法で 、目

的に向か っ て 形に 表す とい う伝統的な音楽 教育方注 で は な く、ま ず身体の 内部に 感覚を発 達 させ る訓練で あ る。最近 で は 幼児 の 音楽教 育に採用され て い る 。ダル ク ロ ーズ に よるヘレ ラウ ・フ t ス テ ィ バ ル は 「重要 な

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段階 を構成 して い る 亅 「生 き生 き とした (1’art vivanL )芸術 を 生み 出す

前進 した劇 的 な試 み亅 とい うア ッ ピ アの 言説 でわ か るよ うに、ダル ク

ローズ 研 究所 にお ける試み がア ッ ピ ア に と っ て 重要 な時期で あ っ た こ と

がわか るe 参考文 献 ])皿 16)参 照

15)研 究所 の 建設 に 櫨 力 した建築 家 ハ イ ン リッ ヒ・テ ッ セ ノ ウ (IS76−v

1950)は、ドイツ エ 作連盟の 指導的メン バ ーで 、ダル クロ

ーズ 研究所が

代表 的作 品。                                      .    、16}Edition 6LabOrEe e 【 comment6e  par Marie  L、 BabteL −Halin 、門ADOLPHE            l

APPIA  r}UVRES  COMPLETES 、L’AGE  D’HOMME  H 

I’.且986 .p.S7

17,lbid..Wpp.208−2旦518)lb溘d、,Ip.9819)lbid.、ll p.318   

20)21)置bid.,llp.31822,lbid.,正Ip.3査823,Ibid、. IIp.31824)lbid..匸【p.3172S ,26 )27 )28 )lbid.,II p.31929 )30)31)32)lbid.,【【p、32033)Quand nous 自von ε 価 dc con 【cmp 【er  ccs  6LξmcnIs 雌 、麒 cl,so 孟l

dil en  passan【,d’une  valeur  artistique  douteuse.c ’est  le plafonU  gui s

「impose  a

no 監re  a匚Len【ion, Ibid,. 1 ,P_32034)Ibid、.皿,P,15235)Au lieu d’un  6tuLage de peinturcs mertcs  sur  toiLe: vcrlicales 、 la mise  cm

scene  se rapprochera  toujours diavantage de la plaStlel匚6 du cel’ps humain Pt)urfaire valoir  cette  plasLicit6 dans l

’espace . lbid.,皿,p」 52

36>ア ッ ピ ア が 言葉 と音の 一体を 目指 した ワ ーグナ ーの よ うな 音楽劇 の

作家を 指 した もの 。37)lbid.,田.p,14738)La  disdipline du rythmc  1

’allra  rendu  particulierement sensible  aux  diimen−

sions  dans 1’espace  qoi currespondent  aux  variEtEs  infinies des successions

musicaLcs .lbid..皿,p.14739 )lbid.,田,P.15040)lbid.,皿,p.且5041)L

’6c】airagen

’etant  ptus absorb6  par l

’obligation  de faire voir  de■a  peilltul

’e、

pou叮 a SF  TepandTe   ges 匚alIend  .dans 「 espacc .  lc P6n6匸rant  de 】a c 。 ulcur

vivanle  en  cr6ant  llne  atinos  hEre mobile.aux Ψariations ioflnies、cnllcremc 叫

セ ニア ム アー

チの フ レー

ム で 剥奪 されて い る 。ギ リシ ャ 人 は ス ペ ク タ ク

ル とそ の 境 界線 との 融 含に気付 い て い た Qだ」 (ibid..Up.92) とい う言

説に 代表 され る よ うに 、プ ロ セ ニ ア ム ア ーチ を舞台と客席 との 融合を分

離す る も の と捉 えて い る 。参考文 献)

1)佐藤武夫著 『ヨー

ロ ッ パ の劇場』相模書房,19591pp.141−1592)ポール ・ブ ラ ン シ ャ

ール ,安藤信也訳 『演 出の 歴 史』,臼水 社、19603)日本建 築学 会編 :建 築 設計資 料集成 2..丸善,1960,pp.208−2294)ロ ベ ;

ル・ピ ニ ャ

ール ,岩 瀬孝訳 『世 界演劇 史』,自水 社,1969

5)遠 山静雄 『ア ドル フ・ア ッ ピ ア 』.相模 書房.1977,pp.161−203

6)神澤和夫 『20 世紀の 舞踊』.未来社,1994,pp.37497 )J .ラ ド リ ン 著 .清 水 芳 子 訳 『評 伝 ジ ャ ッ ク ・コ ポ ー

』 ,未 来

社,tg94.PP」37−3量5

8 >’「Handbueh  der ArchLteklurN ・6−5卩’.Arno ■d Bergstrtisscr Verlagsgesel レ

schafl 、S【ut 【gurt、1904.pp.S 10−5 且1

9)1’HAROLD  BURRIS −MEYER  AND  Edward  C . Cole,Seenery for the

lhf註[refrhc  Organization,precesscs、Materials,and  Tcchniques Used tr)Set dle

S軸 ge1 Revlsed Editi’on ,1971.Lill]e.Broun & Cempany ,Ca皿 ada ,p.143

1(〕}”MODERN  OPERA  HOUSES  AND  THEATRES 「’. Arnopress, New

York、L98t,pp.29−311.1)Edition  61aber6e et  commcnt6c  par MaricL .Babtet −H ぬ 皿,”ADOLPHE

APPIA   UVRES  COMPL 直TES  I,H,n1,N ”.VAGE  D’HOMME .1986■2)R 」C.Beaeham,”ADOLPHE  APP 置A 門,Cambridge University,198813)R、C、Bcacham 、Marco  De  Michclis.Ma 而 皿 D 【eier, GemQI  Gie【tzJacques

Gub ]c【 c し亅org  Zutter、”Adolphc  Appialou  lc renouveau  de l’es 巳hetiquc 血 6Atrale

jes’sins  cl esquisscs  de dEcorsF

’,PAYOT  LAUSANNE ,1992且4)R .C .Beacham .”ADOLPHE  APPIA !rexts on  Thea鵬

卩F, Routlege, LON −

DON 」993

(1995年10月1  日 原稿受理,1ggq年 5 月10日採 用 決 定 )

au ・se [・ice ne ・l plus du pcintre de dE・・… als_d・d・am ・tu・uge .lbid.』 、P」 52

42)...La lumiらre qui pcuplc t’espace  de  clart ξs et Urombres mouvuoLs .且bid、.

乢 P.15243)遠 山静雄 『舞 賞照 明学』、リブ ロ ポ

ート、pp.、25〔ト 25Z

44 )lbid.、Np.SO4S)lbid..INp.5046)照 明は、ロ シ ア の照 明家ア レ キサ ン ダー・フ ォ ン ・.ザル ツ マ ン の 協

ヵを 得て い る e 色 に 関 し て は 、ア ッ ピア は決 して 無彩色を選択 したの で

は ない 。ダル ク ローズ 研究所 で は、明るめ の 紺 色や赤 な どが 演 出に 使わ

れ てお り、あくまで も全体の 調和 とい うこ とで 考えて い た 。註4D43 参

47)メイ ン ホ ール ,ク ラス ル ーム 等で 構成されて い る。メ イン ホー

ル の

奥行 き は 50m 、幅 16m 、高 さ 12m で ある 。客席数 は 560 席 (階

段 座 席) と長方形 の 小規模 な もの で 、床 は リノ リウム敷 き で あ る。オ ケ

ピッ トは沈 め られ.必要 に応 じて .蓋 が閉め られ、そ の 上で演球が でき る

よ うに な っ て い る。装置は 、階段や カー

テ ン な どが用 い られた。装置が

俳優 の 行為 の 場 を決 定づ け る た め 、装置が 従 来の よ うに 背景幕 に 描か れ

た情景 を厳 密 に示 す 手段 をと らず、また照 明の 表現性 を生か す た め、2

次元で は な く 3 次 元 の装 置 が求 め られ た。  (文献 D 口p,34g)4S)ア ッ ピ ア は 、ギ リシ ャ

・ロ.一マ 劇 場の ア ン フ ィ シ ア ター

を賞 賛 して

い る。舞台 と客席を境界づ けるプ ロ セ ニ ア ム アー

チ を空間の重 要性 を失

わせ る もの とし て否 定 して い るe 即 ち、 「劇場 の 空 間的重要性 は .プ ロ

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