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ver.2020/3/19 2 ものづくり スタートアップと 製造業等の連携 ケーススタディ Contract Casestudy for Maker Startups

startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

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ver.2020/3/19

2

ものづくりスタートアップと

製造業等の連携

ケーススタディ

C o n t r a c t

C a s e s t u d y

f o r M a k e r S t a r t u p s

Page 2: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

量産・ 事業化

01 02C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

スタートアップのものづくり

事業化に向けたポイント

ものづくりスタートアップの事業化に 向けたポイント

「ものづくり」 「ビジネス」・「人材・組織」

■最低限動く程度のものでよいので、試作品ができたら

 なるべく早く潜在顧客やVCとコミュニケーションを

 とる。

■試作品を見せることで、はじめて相手のニーズが

 具体的に見えてくることは多く、そのニーズを設計に

 反映させていくことで、試作品の改良が進んでいく。

試作品はコミュニケーションツール・早い段階で潜在顧客と接触する

■スタートアップが作ったプロダクトを、はじめから

 使ってくれる企業や人はとても少ない。事業化の

 見通しが立ちづらいときは、初期に関心を寄せて

 くれた潜在顧客と緊密な連携関係を築き、小規模な

 PoCプロジェクトを短期集中で行うところから

 始めると良い。良い結果が出ればそれを徹底的に

 PRする。そうすることで次の引き合いが舞い込む

 ようになり、さらにいくつかのPoCプロジェクトを

 回していくことで、大きなディールに結びつくことも

 少なくない。

「連携→PoC→PR」のサイクルを高速で回して大きなディールを引き寄せる

■次の量産化設計・試作段階では、必要な資金の桁が

 変わる。その段階に備えて資金調達の必要が出てくる

 のもこの頃である。

■日本には、シード期のものづくりスタートアップに

 投資できるVCはそう多くない。適切なVCを探し

 出していくつか巡れば、資金調達の可能性については

 だいたい見えてくる。国等の補助金を使うことを検討

 するのも良い。

VCへドアノックして資金調達の可能性を探る・補助金も使えるかも

■ものづくりのプロセスはスタートアップにとって

 難しく、また楽しい。だからといって、経営者がもの

 づくりに没頭しすぎると、「ものを作るだけの会社」

 になってしまう。経営者は、事業を成長させるための

 ビジネス開発に注力し、そのためのチームづくりにも

 早い段階で取り組む必要がある。

■逆もまた然りで、事業開発に注力しすぎるあまり開発

 リソースが不足するケースも多く、「ものづくり」と

 「ビジネス」のバランスは永遠の課題だ。

ものづくりができないとビジネスはできない逆もまた然り両部門のバランスを大切に

■ものづくりスタートアップは、目指す事業に必要な

 ハードウェアを構想し、試作品を作るところから

 始まる。

■開発をまるごと外部に委託することも可能といえば

 可能だが、それでうまくいくケースはとても少ない。

 まずは自分たちで手を動かして、失敗を繰り返し

 ながら試作品を作り上げることが重要。

■原理試作はもちろん1回きりで終わるものではない。

 設計→試作→評価・検証のサイクルを高速で回し、一号

 機、二号機、三号機と、どんどん改良を加えていく。

手をひたすら動かして試作品を作るのが第一歩

■ものづくりスタートアップが手掛けるプロダクトの

 多くは、多様な技術の集合体。知見やノウハウが足り

 なければ専門家にどんどん尋ねる。大学の研究者や

 製造事業者、身の回りのエンジニアに、「発注」よりは

 「相談」していくことで、適切な協力を得られること

 が多い。この段階での相談先が、後々までの協力者と

 なってくれるケースも。

■この段階で量産を見据えて製造事業者に相談して

 おくと、量産に適した設計ができ、後の工程で手戻り

 が発生しにくくなる。

「相談」を駆使して足りない技術とノウハウをどんどん吸収、協力者を獲得

■量産化試作の段階に入って試作用の金型なども作り

 始めると、これまでのように素早く身軽に試作サイ

 クルを回していくことは難しくなる。設計の軽微な

 見直しにも時間や費用がかかり、手戻りがたびたび

 発生すると資金はあっという間に枯渇する。

■この段階での連携先となる製造事業者探しは、でき

 るだけ慎重に進めたい。候補先をリスト化し、設備や

 技術だけでなく、コミュニケーションの取りやすさや

 スピード感も含めて総合的に判断することが大事。

ここからは、手戻りするたび出血する連携先選びは慎重に

■量産化試作や量産のパートナーが決まっても、相手に

 「任せきり」にしてはいけない。「量産のことは

 わからない」とパートナー任せにしていると、作り

 やすい方向に流れてしまい思った通りのものを作れ

 ない。細部までこだわるなら、しつこいほどのコミュ

 ニケーションで製造工程を理解し、具体的な要望を

 伝えきる必要がある。

粘り強いコミュニケーションで製造工程を理解細かいことは要望まで伝えきる

量産化設計・試作

原理試作

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ケーススタディ集について 経済産業省「スタートアップファクトリー構築事業」について

03 04C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

ケーススタディの使い方

スタートアップ・ものづくり

エコシステム構築事業の概要

ものづくりスタートアップ・エコシステム 構築事業の概要

 このケーススタディ集は、実在するものづくりスタートアップ

計14社に対して詳細なヒアリング調査を実施し、製品開発や

事業化の過程で起こった出来事(主にトラブル)と、そこから

スタートアップが得た学びを整理したものです。

 調査は2018年度と2019年度の2か年度にわたって実施

され、2018年度版が上巻(6社分収録)、2019年度版が

下巻(8社分収録)という形でまとめられています。

 想定されている読者層は、ものづくりスタートアップの経営者や

メンバー、そして、将来ものづくりスタートアップを作りたい・

参加したいと思っている方々です。

 ものづくりスタートアップが製品開発・事業化を進めていく

過程では、実に様々な課題が発生します。現状において、多くの

スタートアップは日々訪れるトラブルを自らの創意工夫で

なんとか乗り越えたり、ときに乗り越えられずに大きな痛手を

被る、ということを繰り返しています。しかし、これらの課題は、

実は多くのスタートアップが共通して経験するもので、その解決策

にも共通するポイントのようなものが存在するようです。

 ものづくりスタートアップが直面する課題のパターンや解決の

ポイントを明らかにし、わかりやすい形で整理することで、次に

同じ課題に直面したスタートアップが素早く・適切に解決策を

見出せるようにすること。このケーススタディは、そのような

目的で製作されました。

 経済産業省では、2018年度から、ものづくりスタートアップが

生まれ・育つためのエコシステム形成を目指す事業「スタート

アップファクトリー構築事業」を行っています。

 初年度の2018年度では、ものづくりスタートアップの開発・

試作環境を整備するというコンセプトから、製造事業者による

スタートアップ支援の取り組みに対して補助金を交付する事業を

行いました。この事業では、全国で37件の取り組みが採択され、

これらに参加した事業者が、今も多くのものづくりスタートアップ

の開発・試作・量産を支えています。

 2019年度には、上述のスタートアップ・エコシステムの強化に

向けて、スタートアップと製造事業者が連携して取り組む製品

開発・量産化の取り組みを資金的に支援して成功事例を生み

出すとともに、その連携過程で生まれるノウハウをレポートと

して取りまとめ、他のスタートアップに横展開するという事業を

行いました。この事業の成果を取りまとめたものが、本ケース

スタディです。

 このケーススタディ集では、企業ごとに2から4つの「ケース」を記述しています。基本的に時系列に並んでいるため、

前から順に読んでいけば各企業の開発・事業化のストーリーが共感をもって理解できるはずです。

 また、各ケースとそれに紐づく「スタートアップが得た学び」は大まかにカテゴライズされており、Indexページで

カテゴリごとに整理されています。読者の方は、このカテゴリから気になるケースへ飛んでいただき、それ単体として

読んでいただくことも可能です。

Index2では、ケースを「ものづくり」「ビジネス」

「人材・組織」に分けて整理している

Index3では「スタートアップが得た学び」を

連携先ごとに整理している

(2018年版の上巻は、2019年度事業のプロトタイプという位置づけで、2018年

下半期に先行して作成されたもの)

2019年度事業の実施スキーム

執行団体

補助(10/10)

補助(2/3以内)

委託

発注

活用

取材

METI

スタートアップ等

その他専門家等

スタートアップファクトリー等

レポートを取りまとめて公開して、ノウハウを共有他のプレーヤーへ波及効果

実案件を通じて連携加速

その他製造支援事業者等

シンクタンク等

なお、Indexは上巻・下巻共通です。上巻を読んでいて下巻

のケースが気になった場合や、その逆の場合は、下記QR

コードURLからダウンロードまたは閲覧してください。

Page 4: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

I n d e x 1 .

MAMORIO

(ケーススタディ1 P13~)

ロビット チャレナジー

(ケーススタディ1 P23~) (ケーススタディ1 P32~)

つつう ピクシーダストテクノロジーズ アクセルスペース

(ケーススタディ1 P43~) (ケーススタディ1 P51~) (ケーススタディ1 P55~)

ケーススタディ1 掲載企業

スタートアップ・ものづくり

エコシステム構築事業の概要

05 06C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

TELEXISTENCEP19

大学発スタートアップでも製品設計はゼロからスタート

「ものづくり」は「研究成果」の延長線上にあるとは限らない

P20エンジニア採用は地道なスカウト 地道なスカウトの成否を握るのは、共に実現する

ビジョンへの共感

P21時間軸が異なるハードとソフトの融合に苦労

ハードウェアとソフトウェアの考え方のギャップを前提とした対話・コミュニケーションが重要

規格・標準に沿ったリスクアセスメントの実施

自社単独で対応可能なリスクを絞り込むことで規格・標準に準拠

P22

企業名から探す

inahoP14

先の見えない共同研究を継続し、モチベーションと効率が低下

●大学との共同研究においては、前提条件の共有が必要●自分たちで解決策を考え、開発方針の取捨選択を行う

P15アグリテック特有の収穫サイクルの長さや圃場の変化への対応

アグリテック分野でも工夫次第でPDCAサイクルの高速化が可能

P16立て続けのデモが開発リソースを圧迫 営業サイドと開発サイドが目線を合わせることで、

資金調達と開発のバランスをとる

会社の拡大に伴い、スタッフの情報共有や連携にほころびが…

組織のあるべき姿は、その時々で変わるP17

GenicsP24

Consumer E lect ron ics Show(CES)出展PRを通じた協業候補先の獲得

●情報発信を効果的に行うことで協業候補先の方から接触してきてくれる●既存の信用力を借用するかたちでPRを仕掛け、拡散を狙う

P25

製造事業者への量産設計の発注が上手くコントロールできない事態

●製造事業者に頼り過ぎず、スタートアップ側がものづくりプロセスをコントロールすべき●ものづくりビジネスの意思決定経験者から支援を受けられる状態をつくりだす

P26評価検証を通じた改良・エビデンス蓄積による信頼性向上

エビデンス収集と適切な発信によって製品の評価を高めることが可能

ファーストアセントP28

国立研究機関との初めての共同研究 業界内のハブとなる組織・人物の力を借りて認知と信頼を獲得

P29大手企業との初のPoC案件獲得に頓挫 協業企業の状況、目指すゴール、メンバー個人の

立場を知り、リスク許容度を見極める

P30スタートアップファクトリーとの協業深化 スタートアップファクトリーの製造技術を用いて

効率的にハードウェア試作を繰り返す

tsumugP35

ハードウェア開発に注力しすぎるあまり事業開発が進まない

●ハードウェア開発自体を目的化してはならない●開発・量産面での大企業との連携をハードウェア開発の土台とする

P36福岡市 実証実験フルサポート事業への応募と採択

スタートアップに協力的な自治体と連携し、実証実験の環境を確保する

P37雇用形態にこだわらないチームづくり 相手に伝わるわかりやすい言葉で、委託業務の

認識を合わせる

トリプル・ダブリュー・ジャパンP32

初めての量産は最低ロット3,000台、調整も難航

大企業との連携は、大ロット・高品質の製造でこそ活きる

P33綿密なリサーチによる連携先企業の選定

工場に足を運び、総合的な視点から連携先を決定する

ジャパンヘルスケアP39

"個別"のカスタムメイド製品の"量産"化の検討

実現したいモノをものづくりのプロの助けを借りて製品として実現

P40ユーザーフィードバックを専門的知見から分析し市場性を見極め

専門的な知見がないとできない課題分析やプロダクト改善がある

SeismicP42

米軍研究開発プログラムの成果を基に、民生市場向け製品の開発を推進

新たなプロダクト開発で遭遇した学術的にも未解明な課題もアジャイル開発で乗り越える

P43米国スタートアップと日本老舗企業が開発を円滑に推進

●経営と現場の潤滑油となるマネジメント層の重要性●設計変更などを見越してSOWを契約に盛り込む

Page 5: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

スタートアップ・ものづくり

エコシステム構築事業の概要

「ものづくり」に関するケース

I n d e x 2 .

ケースの種類から探す

量産以降 サプライチェーン維持・見直し・次世代機開発

綿密なリサーチによる連携先企業の選定 TripleW②(P33)

製造コスト低減を目指してサプライチェーンを再度見直しMAMORIO 2.4(P22)

初号機量産時のノウハウとネットワークを活用して次世代機を開発ロビット 1.4(P28)

一部の販路では円滑な取引条件交渉に成功MAMORIO 2.3(P21)

安定した部品調達に向け発注先の分散と関係維持に努めるアクセルスペース 1.3(P59)

評価検証を通じた改良・エビデンス蓄積による信頼性向上Genics③(P26)

大手企業との初のPoC案件獲得に頓挫ファーストアセント②(P29)

国立研究機関との初めての共同研究ファーストアセント①(P28)

ハードウェア開発に注力しすぎるあまり事業開発が進まないtsumug ①(P35)

福岡市 実証実験フルサポート事業への応募と採択tsumug ②(P36)

ユーザーフィードバックを専門的知見から分析し市場性を見極めジャパンヘルスケア②(P40)

資金調達手段が限られる創業期に試作品製造コストが大きな負担にチャレナジー 1.3(P36)

量産規模の拡大によって資金繰りの問題が発生MAMORIO 2.2(P20)

「ビジネス」に関するケース

共同研究・実証実験・テスト販売・資金調達等を通じて試作品の改良と販売先の開拓を行う。

会社の拡大に伴い、スタッフの情報共有や連携にほころびが…inaho④(P17)

エンジニア採用は地道なスカウトTELEXISTENCE②(P20)

雇用形態にこだわらないチームづくりtsumug ③(P37)

社外のエンジニアをボランティア・スタッフとして巻き込むチャレナジー 2.5(P42)

ハードウェア・エンジニアの採用に向けた活動チャレナジー 2.4(P41)

「人材・組織」に関するケース

エンジニア人材の獲得・チームづくり。

原理試作 原理試作を何度も繰り返しつつ、要件定義書や仕様書、図面、部品リストを作り込む。

先の見えない共同研究を継続し、モチベーションと効率が低下inaho①(P14)

アグリテック特有の収穫サイクルの長さや圃場の変化への対応inaho ②(P15)

大学発スタートアップでも製品設計はゼロからスタートTELEXISTENCE①(P19)

時間軸が異なるハードとソフトの融合に苦労TELEXISTENCE③(P21)

Consumer Electronics Show(CES)出展PRを通じた協業候補先の獲得Genics①(P24)

米軍研究開発プログラムの成果を基に、民生市場向け製品の開発を推進Seismic ①(P42)

ピッチイベントを通じた有力なスタートアップ支援者との出会いチャレナジー 1.1(P34)

墨田区の町工場による設計・試作支援を受けて試作機を製作チャレナジー 1.2(P35)

初期段階では仕様を作り込まず、試作、実験、設計変更のサイクルを高速で回して仕様をブラッシュアップピクシーダスト 1.2(P54)

大企業の要望を受けて企画・提案を行うものの、資金面で折り合わず、自社資金によってスタートするつつう 1.1(P45)

量産化設計・試作 原理試作を経て具体化された仕様書、図面等を基に、量産化を見越した試作品、補助成果物(冶具、量産設備等)を作りこんでいく。

立て続けのデモが開発リソースを圧迫inaho③(P16)

規格・標準に沿ったリスクアセスメントの実施TELEXISTENCE④(P22)

製造事業者への量産設計の発注が上手くコントロールできない事態Genics②(P25)

スタートアップファクトリーとの協業深化ファーストアセント③(P30)

初めての量産は最低ロット3,000台、調整も難航TripleW①(P32)

"個別 "のカスタムメイド製品の"量産"化の検討ジャパンヘルスケア①(P39)

米国スタートアップと日本老舗企業が開発を円滑に推進Seismic②(P43)

委託先工場の切り替えにともない金型返還でトラブル発生MAMORIO 1.3(P17)

試作機の大型化にともない、専用部品を製造できる工場が見つからなくなる チャレナジー 2.1(P38)

確かに支払ったにもかかわらず注文した部品が中国から届かないチャレナジー 2.2(P39)

多くの企業と直接会って話をした末にビジョンや事業への共感を得られる連携先にたどりつくつつう 2.3(P50)

試作段階で問題を発見できないまま量産し製品が無駄にMAMORIO 1.1(P15)

取引先が納期を守ってくれないトラブルチャレナジー 2.3(P40)

EMSの話を鵜呑みにして量産試作を任せきりにした結果、不具合が発生ロビット 1.1(P25)

EMSへの委託中止交渉と金型の引き上げ作業が難航ロビット 1.2(P26)

競合企業等による リバースエンジニアリングのリスク対策ロビット 2.1(P30)

産業機器にRaspberry Piを採用しようとしたところ使用実績の少なさを理由に協力企業から猛反対を受ける つつう 2.1(P48)

ITリテラシーの低い工場に委託したところ、無駄な工程が多く時間を浪費してしまうアクセルスペース 1.1(P57)

品質基準を満たせない工場に発注してしまい、発注先を変更することにアクセルスペース 1.2(P58)

EMSへの委託を止め協力工場を自力で探索して初期量産を成功させた ロビット 1.3(P27)

開発支援も行う国内EMS企業と出会いスムーズに開発が進行MAMORIO 1.2(P16)

ハードウェアの製造を誰が担うべきかでユーザーと意見が割れるロビット 2.2(P31)

経験のない技術分野も専門家への質問攻めと外部協力者の獲得で対応つつう 1.2(P46)

設計・開発段階から経験豊富な専門人材の知見を活用できる体制を整備つつう 2.2(P49)

量産規模拡大と依存リスク解消のため製造委託先を新規開拓MAMORIO 2.1(P19)

07 08C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

Page 6: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

I n d e x 3 .

学びからケースを探す

ファクトリーとの連携における学び

どんなファクトリーと連携すべきかわからない

スタートアップファクトリーの製造技術を用いて効率的にハードウェア試作を繰り返すファーストアセント③(P30)

大企業との連携は、大ロット・高品質の製造でこそ活きるTripleW①(P32)

開発・量産面での大企業との連携をハードウェア開発の土台とするtsumug ①(P35)

実現したいモノをものづくりのプロの助けを借りて製品として実現ジャパンヘルスケア①(P39)

量産規模拡大と依存リスク解消のため製造委託先を新規開拓MAMORIO 2.1(P19)

経験のない技術分野も専門家への質問攻めと外部協力者の獲得で対応つつう 1.2(P46)

墨田区の町工場による設計・試作支援を受けて試作機を製作チャレナジー 1.2(P35)

品質基準を満たせない工場に発注してしまい、発注先を変更することにアクセルスペース 1.2(P58)

製造コスト低減を目指してサプライチェーンを再度見直しMAMORIO 2.4(P22)

ITリテラシーの低い工場に委託したところ、無駄な工程が多く時間を浪費してしまうアクセルスペース 1.1(P57)

開発支援も行う国内EMS企業と出会いスムーズに開発が進行MAMORIO 1.2(P16)

情報発信を効果的に行うことで協業候補先の方から接触してきてくれるGenics①(P24)

工場に足を運び、総合的な視点から連携先を決定する TripleW②(P33)

経営と現場の潤滑油となるマネジメント層の重要性 Seismic ②(P43)

試作段階で問題を発見できないまま量産し製品が無駄にMAMORIO 1.1(P15)

産業機器にRaspberry Piを採用しようとしたところ使用実績の少なさを理由に協力企業から猛反対を受ける つつう 2.1(P48)

試作機の大型化にともない、専用部品を製造できる工場が見つからなくなるチャレナジー 2.1(P38)

確かに支払ったにもかかわらず注文した部品が中国から届かないチャレナジー 2.2(P39)

設計・開発段階から経験豊富な専門人材の知見を活用できる体制を整備つつう 2.2(P49)

ピッチイベントを通じた有力なスタートアップ支援者との出会いチャレナジー 1.1(P34)

多くの企業と直接会って話をした末にビジョンや事業への共感を得られる連携先にたどりつくつつう 2.3(P50)

EMSへの委託を止め協力工場を自力で探索して初期量産を成功させたロビット 1.3(P27)

どうやって最適なファクトリーを探すかわからない

EMSに量産試作を頼むには、EMSの既存ビジネスモデルの壁、量産試作に必要な情報格差の壁を超える必要がある ピクシーダスト 1.1(P53)

自分たちで解決策を考え、開発方針の取捨選択を行うinaho①(P14)

設計変更などを見越してSOWを契約に盛り込むSeismic ②(P43)

製造事業者に頼り過ぎず、スターアップ側がものづくりプロセスをコントロールすべき Genics②(P25)

試作段階で問題を発見できないまま量産し製品が無駄にMAMORIO 1.1(P15)

EMSへの委託中止交渉と金型の引き上げ作業が難航ロビット 1.2(P26)

委託先工場の切り替えにともない金型返還でトラブル発生MAMORIO 1.3(P17)

資金調達手段が限られる創業期に試作品製造コストが大きな負担にチャレナジー 1.3(P36)

取引先が納期を守ってくれないトラブルチャレナジー 2.3(P40)

EMSの話を鵜呑みにして量産試作を任せきりにした結果、不具合が発生ロビット 1.1(P25)

安定した部品調達に向け発注先の分散と関係維持に努めるアクセルスペース 1.3(P59)

上手く連携していくためには何が必要なのかわからない

研究機関・事業会社等との連携における学び

大学・研究所・大企業・ユーザーとの連携

大学との共同研究においては、前提条件の共有が必要inaho①(P14)

自社単独で対応可能なリスクを絞り込むことで規格・標準に準拠TELEXISTENCE④(P22)

既存の信用力を借用するかたちでPRを仕掛け、拡散を狙うGenics①(P24)

エビデンス収集と適切な発信によって製品の評価を高めることが可能Genics③(P26)

業界内の情報ハブとなる組織・人物の力を借りて認知と信頼を獲得ファーストアセント①(P28)

協業企業の状況、目指すゴール、メンバー個人の立場を知り、リスク許容度を見極めるファーストアセント②(P29)

スタートアップに協力的な自治体と連携し、実証実験の環境を確保するtsumug ②(P36)

大企業の要望を受けて企画・提案を行うものの、資金面で折り合わず、自社資金によってスタートするつつう 1.1(P45)

資金調達手段が限られる創業期に試作品製造コストが大きな負担にチャレナジー 1.3(P36)

一部の販路では円滑な取引条件交渉に成功MAMORIO 2.3(P21)

量産規模の拡大によって資金繰りの問題が発生MAMORIO 2.2(P20)

社内体制に関する学び

エンジニア人材等の獲得・チームづくり

設計・開発段階から経験豊富な専門人材の知見を活用できる体制を整備つつう 2.2(P49)

アグリテック分野でも工夫次第でPDCAサイクルの高速化が可能inaho ②(P15)

営業サイドと開発サイドが目線を合わせることで、資金調達と開発のバランスをとるinaho③(P16)

組織のあるべき姿は、その時々で変わるinaho④(P17)

「ものづくり」は「研究成果」の延長線上にあるとは限らないTELEXISTENCE①(P19)

地道なスカウトの成否を握るのは、共に実現するビジョンへの共感TELEXISTENCE②(P20)

ものづくりビジネスの意思決定経験者から支援を受けられる状態をつくりだすGenics②(P25)

ハードウェア開発自体を目的化してはならないtsumug ①(P35)

ハードウェアとソフトウェアの考え方のギャップを前提とした対話・コミュニケーションが重要TELEXISTENCE③(P21)

専門的な知見がないとできない課題分析やプロダクト改善があるジャパンヘルスケア②(P40)

相手に伝わるわかりやすい言葉で、委託業務の認識を合わせるtsumug ③(P37)

新たなプロダクト開発で遭遇した学術的にも未解明な課題もアジャイル開発で乗り越えるSeismic ①(P42)

実際に組み上げて初めて気づく課題があることを念頭に、設計・開発を進めるべしピクシーダスト 2.1(P54)

ハードウェアの製造を誰が担うべきかでユーザーと意見が割れるロビット 2.2(P31)

社外のエンジニアをボランティア・スタッフとして巻き込むチャレナジー 2.5(P42)

ハードウェア・エンジニアの採用に向けた活動チャレナジー 2.4(P41)

スタートアップ・ものづくり

エコシステム構築事業の概要

09 10C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

Page 7: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

11 12C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

ケーススタディ編

ものづくりスタートアップと

製造業の連携ケーススタディ

Page 8: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

13 14C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

inahocase

1

 創業当初、エンジニアが不在だったinaho。「AIで対象を判断

し、アームで摘み取り、移動するロボット」の開発を目指し、最初に

取り組んだのが、専門家からの助言を乞うことだった。CEOの菱

木氏とCOOの大山氏は、インターネットで検索し、手あたり次第

に、大学の研究室を訪問。人脈が数珠繋ぎで広がり、開発に向け

ての知見を深めていった。

 そんななか、ロボットアームの製作に携わるA大学の研究者が、

inahoのコンセプトに共感してくれたことで、2016年、アームの開

発に向けた連携が始まった。

 1年目は奨学寄附金、2年目は共同研究費で大学での開発を進

めたが、開発途中に、大学製作のアームはコンプレッサーを使用

●大学の研究者は特定分野の専門家であって、個別のユースケースについては詳しくない。協働する場合には、開発の前提条件と

なる、製品のニーズ、使用環境についてスタートアップ側が十分に理解したうえで伝える必要がある。

●また、大学の開発体制、開発スピードは、スピード重視のスタートアップの期待とは異なる可能性もある。共同研究を行う前に、

双方で認識を合わせることが重要だろう。

スタートアップが得た学び

大学との共同研究においては、前提条件の共有が必要

●inahoは、開発を外部資源に依存していたため、いざというときに、開発リソースの選択と集中を行うことができなかった。

●ハードウェア開発のノウハウがないスタートアップは、外部に開発を“丸投げ”しがちであるが、製品が必要とされる社会的背

景、ターゲットユーザー、実現すべきソリューションを最も理解しているのは、発注側のスタートアップに他ならない。少なくと

も、どのような製品が必要かという「思考」部分は内部で行い、必要な作業を部分的に外注することが重要である。

自分たちで解決策を考え、開発方針の取捨選択を行う

するため電力のない畑では実用性に欠けることが判明する。ま

た、早期開発を目指すinahoにとっては、大学の開発スピードとリ

リースに向けたスケジュールに不安を抱えていた。

 2018年、新たに加入したエンジニアが共同開発の方向性に疑

問を抱き、inaho独自での、ロボットアームの開発に乗り出した。し

かし、独自開発が成功する確信が持てなかったために、共同開発

の中止を決断できず、共同研究と独自開発を同時に進めることに

なった。どちらか一方のアームは使用しないことが分かっていなが

ら、両方の製作を行う必要があり、結果として開発スタッフのモチ

ベーションと開発効率の低下を招いた。

図. ロボットアーム開発の流れ

inahoの独自開発

インターネットで検索し大学の研究室を訪問

大学との共同開発をスタート

スピード感の違い実用性に対する不安感

共同開発の継続

モチベーションと開発効率の低下

先の見えない共同研究を継続しモチベーションと効率が低下

原理試作:ものづくり inaho

ケーススタディ一覧

case

1case

2

ものづくり

case

4

人材・組織

原理試作

case

3

量産化設計・試作

製品・サービス概要選択収穫野菜向けの自動収穫ロボットを開発。ロボットは畑を自立走行し

ながら、AIで成熟度を判断し、ロボットアームで収穫を行う。

ロボットを農家へ貸し出し、収穫高に応じてサービス利用料を徴収する

RaaS型のビジネスモデルで、2019年9月にサービス提供を開始(ロボット

はレンタルであるため、製品開発は継続)。

農家を対象にした導入説明会の参加者のうち、9割超が導入意向を示して

おり、早期の量産化を目指している。

ビジネスモデル ハードウェアの役割/機能

安定的に畑を走行できる移動体と、野菜を傷つけることなく収穫ができるアームで構成されたロボット

収穫量を判定し、市場の取引価格を引き当てて利用料を算出(¥)

ロボットの稼働状況や圃場の状況の可視化

ロボット

農家

inaho

企業概要 Company Overview

Page 9: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

15 16C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

 inahoでは、ロボットを動かす“収穫時の環境”に合わせた開発

に苦労をした。

 アスパラガスは、苗を植えてから3~15年程の期間で収穫が可

能であり、比較的、栽培サイクルが長い作物である。また、株植え

からの年数に応じて、生えてくる位置が離れていくという特徴を

持つため、2~3年目の高密度での収穫と15年目の低密度での収

穫の両方に対応できなければならない。年単位で株の植え替えを

行うトマトのような作物であれば、収穫サイクルが短いのでPDCA

を回しやすく、また、生育環境をロボット側に寄せていくことが可

能である。しかし、アスパラガスは1つの株で15年間栽培を行うた

め、AIを環境に合わせる方法で開発を進めざるをえなかった。

●開発のPDCAを回せる回数は、農作物の収穫サイクルによって変わる。inahoのようにサイクルが長い品種をターゲットとする

場合は、データを蓄積し、シミュレーションによって収穫期の状況を再現することが重要である。これらのデータは、組織が拡

大する際の教育や知見の共有にも活用可能である。

●また、農作物を相手にする場合、開発拠点の近くに圃場を設けることもポイントだ。天候や屋外ならではの環境変化を物理的に

確認できることで、スムーズに課題抽出と改良を行えるようになる。

スタートアップが得た学び

アグリテック分野でも工夫次第でPDCAサイクルの高速化が可能

 また、農作物を育てる圃場は、天候一つで環境が変化してしま

う。雨天後の畑では、ぬかるみで走行ルートを示した白線が消え

てしまうなど、野外ならではの考慮すべき状況が多様であった。開

発拠点のある関東と協力農家のある佐賀では物理的な距離があ

り、圃場の変化をつかみきれなかった。

 これらの“収穫時の環境把握の重要性”を認識できていなかっ

たことで、別の課題も生じた。短期間でのスタッフ増員によって、

アスパラガスの収穫期を経験したことのない人が増えたのだ。1

年前は、収穫期を体験することの重要性を認識していなかったた

め、圃場の状況やアスパラガスの生育状況を記録しておらず、肝

心の収穫環境について共通認識が持てない状態に陥った。

 アスパラの収穫時期である10月に合わせて、inahoの営業担当

が、試作機デモのスケジュールを立案。協力農家のある佐賀県で、

10日間に4回のデモを行うことになった。

 デモの約2週間前にパーツが納品されるという状況で、佐賀県

に移動した後も開発を継続。デモの合間を縫って、画像処理の調

整や自律走行の開発を進めた。アームの故障や充電ができないと

いったトラブルも乗り切り、最終日のメディア向けのデモでは成功

を収めた。

 このままの勢いで開発を進めたいと思ったが、デモの成功を受

けて営業活動が次第に忙しくなり、そのことが開発にも影響し始

めた。

 メディア対応やアクセラレータプログラム参加によるデモの実

施が急増したほか、営業担当3名を新規雇用し、佐賀県に営業所

を開設。事業推進のために、デモに参加した農家に導入意向書を

書いてもらうなどの取組を進めた。その結果、デモの実施のために

開発スタッフが駆り出され、試作機の開発が遅延。画像処理、アー

ム、移動体のいずれも改良の必要があるものの、“デモを成功させ

るための開発”が優先され、長期的な開発が行えなくなった。

 後に一連のスケジュールを振り返ったところ、営業担当と開発担

●資金調達と開発を両輪で回すことで、スタートアップは成長していくが、そのバランスの取り方は難しい。

●営業スタッフは、量産や販路拡大に向けて資金調達や営業活動を進めるが、先行しすぎると開発に良くない影響を与えることが

ある。その典型的な事例が、上記のinahoの事例である。

●最小限の人員で構成されるスタートアップと言えど、営業サイドと開発サイドでは、見ている世界が違う。両者が定期的に、製品

の完成度、課題などを共有し、短期的、中長期的な目標に向けて、一体となって舵を切ることが重要である。

スタートアップが得た学び

営業サイドと開発サイドが目線を合わせることで、資金調達と開発のバランスをとる

立て続けのデモが開発リソースを圧迫case

3

当の情報共有が不足しており、営業担当が上記問題を十分に認識

できていなかったこと、そして、アスパラの収穫時期に無理に合わ

せなくとも、疑似的な収穫環境を作ることで、開発の進捗状況に

応じたデモが可能であったことなどが反省点として挙げられた。

図. アスパラガスの収穫サイクル

図. 2018年10月の営業・開発スケジュール(イメージ)

アグリテック特有の収穫サイクルの長さや圃場の変化への対応

case

2

量産化設計・試作:ものづくり原理試作:ものづくり inaho inaho

関東での開発

佐賀での開発

10/810/910/1010/1110/1210/1310/1410/1510/1610/1710/1810/1910/2010/2110/2210/2310/2410/2510/2610/2710/2810/2910/30

画像処理の調整

試作機の製作

自律走行部分の開発

壊れたアームの修理自律走行部分の開発充電器に接続できない移動体の改良

カメラと収穫のタイミングの調整

移動体の納品A大学製のアームの納品

関東から佐賀に移動

畑でのテスト

農家デモ①

農家デモ②

農水省デモ

メディア向けデモ

移動体の納品A大学製のアームの納品

関東から佐賀に移動

畑でのテスト

農家デモ①

農家デモ②

農水省デモ

メディア向けデモ 自律走行◎ 収穫◎

自律走行× 収穫×

自律走行× 収穫×

自律走行× 収穫◎

自律走行× 収穫◎

間隔が広がって生えるようになる

株植え 2年目 3年目 … …15年目

Page 10: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

17 18C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

TELEXISTENCE

 inahoは、サービス開始に向けて、エンジニア、営業、広報、人事

など、スタッフを増やした結果、組織的な課題が散見されるように

なった。

 例えば、少人数のころは“阿吽の呼吸”でできていたことが、

開発担当、広報担当など役割が分かれたことで、タスクが落ちて

しまうようになった。

 また、開発担当のなかでも、ソフトウェアとハードウェア、ソフト

ウェアのなかでも画像処理担当とアプリケーション担当など業務が

細分化され、業務の属人化や担当間の情報共有で課題が生じた。

 inahoでは、このような課題は組織的なリスクと認識してお

り、定期的なスタッフの振り返りのもと組織体系を変更し続けて

いる。

 2019年の夏頃は、役割と機能のマトリクス型の組織体系とし

たが、進捗とクオリティ管理が十分でないと判断し、秋頃から

は、優先順位付けしたタスクに対して、社員全員がコミットする“ス

クラム”を実践している。スクラムはソフトウェア開発のための手

法であり、ロボット開発には適さない部分も多い。しかし、属人化

とタスク漏れを避けるために部分的にでも行えれば良いと考え、

inaho流にアレンジして取り組んでいる。

●スタートアップは、試作、量産と進むなかで、その体制が大きく変化する。組織が急成長するため、通常の企業よりも、コミュニ

ケーション不足や、進捗管理・クオリティ管理のミスなどが生じやすい。

●inahoでは、組織の成長とともに、作業が属人化することでスタッフ退職時に開発ノウハウが損失することや、コミュニケーショ

ン不足による人間関係の悪化が懸念されていた。

●組織形態も開発と同じであり、試行錯誤が重要である。成長を継続していくには、阿吽の呼吸ではうまくいかなくなったとき、

ケアレスミスが頻出したときに、組織形態の変更、定期的なミーティングの実施、情報共有のルールの設定などの検討が必要で

ある。

スタートアップが得た学び

組織のあるべき姿は、その時々で変わる

 メンバー全員で打ち合わせを行い、次の開発目標と優先順位、

タスクを可視化したことで各人の業務の位置づけが明確になり、

組織としての一体感も増すようになった。

図. inahoにおけるスクラムの実施方法

会社の拡大に伴いスタッフの情報共有や連携にほころびが…

case

4

人材・組織 inaho

ケーススタディ一覧

case

1case

3

ものづくり ものづくり

case

2

人材・組織

原理試作 原理試作

case

4

量産化設計・試作

会社にとっての作業の位置づけがわからない

誰のタスクかが不明瞭に…

作業が属人化してしまう 誰が何を行えば

タスクが完了になるの?

スクラムの実践=メンバー全員が、開発目標とタスクの 優先度を把握できること

①カスタマージャーニーを考える●カスタマーである農家の行動をトレースし、気持ちよくロボットを使うために必要な機能を書き出す●重要な機能と判断したものを開発の対象とする

②工程の一覧表を作る●カスタマージャーニーをストーリー化し、各工程について、進捗状況やタスクを記入する一覧表を作成する

③優先順位をつける●開発スキルやスケジュール等を考慮して、タスクの優先順位をつける

④進捗管理を行う●一覧表をもとに、タスクごとの進捗管理を行う

製品・サービス概要人間と同等の手や腕・胴体の構造を持つ人型遠隔ロボット(テレイグジス

タンスロボット)。

TELEXISTENCE®テクノロジー、VR、通信、クラウド、ハプティクス技術

を活用した遠隔操作技術を搭載。

人間が遠隔操作ロボットで対象物をハンドリングする動作を教師データと

するAIによって、商品陳列や物流ピッキング作業などの自動化へ発展。

ビジネスモデル ハードウェアの役割/機能

高い精度と高い応答性での遠隔操作を実現しつつ、実際環境下で重量物の保持・移動作業を長時間連続して行うための強度や安全性を備える

企業概要 Company Overview

商品陳列、補充作業

¥(人件費相当)

機体利用/運営

¥(売上)

無人店舗運営ノウハウの蓄積・連携

小型店舗

(ユーザー)

自社店舗

TELEXISTENCE

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 特に量産経験がある機構設計エンジニアの採用には現在も苦

労している。こういった人材は転職市場にもほとんどおらず、仮に

いても当社が求める要件を適切に言語化してマッチングすること

のできるエージェント業務は極めて難しい。そのため、論文や特

許の内容、SNSの情報などを見て、直接メッセージを送り、遠方

でも出向いて面談をしている。

 面談したなかには、機構設計の経験が豊富な人材もいたが、社

内で蓄積された規格や仕様に従って設計しているため、当社でゼ

ロから設計することは難しいと思われるケースもあった。また、産

業用ロボットとサービス用ロボットでは、ロボットが使用される環

境が全く異なるため、求められる安全性や品質の考え方も大きく

異なる。「機構設計の経験」という要件ではマッチしていても、産

業用とサービス用の考え方の違いが埋まらないケースもあった。

 また、特に大手メーカーとは給与面のギャップが少なからずあ

り、選ばれにくいケースも少なくない。そんななかで入社してくれる

●スタートアップが求めるエンジニアには、特異的な経験とマインドセットが求められるため、その採用は個別スカウトや面談を地

道に繰り返していくしかない。

●最終的に人を惹きつけるのは、スタートアップの魅力的なビジョンやコンセプトである。

スタートアップが得た学び

地道なスカウトの成否を握るのは、共に実現するビジョンへの共感

のは、「テレイグジスタンス」というビジョンやコンセプトに共感し

てくれている人材である。

 なお、大手企業からの出向人材も開発とビジネスの隙間を埋め

る即戦力として活躍してくれている。これまで、大企業で5~10年

程度の勤務経験のある人材に、ローンディール*1経由で1年間出向

してきてもらったが、多岐に渡る業務であったが積極的に取り組

んでくれて大変助かった。まだ仕事が十分に専門化・細分化されて

いない業務も多くあるようなスタートアップにとって、幅広い業務

に対応してきた経験値のある大企業人材は大変助かっており、今

後も必要に応じて大企業人材を受け入れていく予定である。

*1:株式会社ローンディールが運営する、大企業の人材をベンチャー企業に

研修・出向の形で一時的に移籍させることを支援する企業間レンタル移籍

プラットフォーム

case

2

人材・組織

19 20C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

 当社名「TELEXISTENCE(テレイグジスタンス)」という技術

概念の生みの親でもある、東京大学 舘 暲 名誉教授の研究成果

をベースとしたスタートアップである。創業前の段階で、既に研究

室での試作を完了させており、遠隔で将棋の駒を指す程度の手先

の器用さや精度は有していた。このため、当初は「試作を改良して

いけば製品化できるだろう」と考えていたが、実際には、ハード

ウェア、ソフトウェア、システムアーキテクチャなど、全てを製品向

けに設計し直した。

 研究室での試作品は、学術的新規性を追求することが目的で

あったため、「テレイグジスタンス」という技術概念のコア部分に

特化して実装していた。そのため、遠隔操作を行うためのインター

ネット接続や、重量物の持ち上げや保持、安全性や耐久性、コスト

など、実際にプロダクトとして事業化するうえで不可欠な機能や

仕様が備わっておらず、最終製品を見据えて大きく方向転換、設

計の見直しが求められた。

 一方で、テレイグジスタンスというコンセプトやビジョンがある

ことは、エンジニア人材を惹きつけるうえで大変有難く、国内外問

わず、優秀なエンジニアや研究者が次々と入社してくれた。

●大学研究室の試作は学術的な研究目的で作られているため、製品化を見据えた場合、技術やノウハウを生かしながらも設計をや

り直した方が早いケースも少なくない。

●試作設計において、特にハードウェアは製造業分野で設計経験のあるエンジニアがいないと、プロダクトとして組み上げること

が難しい。

●試作設計と量産設計は別物である。量産設計は、関連分野で量産化の出口を経験した人材のナレッジがないと、止血処理なの

か、実用化に向けた前進なのかの判断がつかなくなり、適切な意思決定を下すことが難しい。

スタートアップが得た学び

「ものづくり」は「研究成果」の延長線上にあるとは限らない

 2018年のモデルHの完成により世の中に初めてテレイグジス

タンスの具体的な世界観を提示することができたが、産業で求め

られる要件を満たし、量産を可能にするには、越えなければいけ

ない壁は高く、果てしないという現実があった。量産設計の経験

がある人材の入社、社員自身の急速な学びと成長を通し、一つ一

つ壁を乗り越えてきた。

大学発スタートアップでも製品設計はゼロからスタート

case

1

原理試作:ものづくり

エンジニア採用は地道なスカウト

図. 試作品の変遷

部品の大半を金属にて構成

量産性なし

(大学での研究開発) (プロトタイプ1号機)

TELEXISTENCE TELEXISTENCE

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21 22C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

 当社のプロダクトは、ハードウェアとソフトウェアの高度な複合

技術であるため、これらが一体となって機能するためには、開発

段階から相当高度な水準での相互理解と擦り合わせが必要と

なってくる。

 エンジニアの人数が多くなってきた時期に、ハードウェアとソフ

トウェアの開発スピードやアプローチの違いを考慮して、タスクを

細分化して個々のエンジニアに割り振るようなマネジメントをし

た。その結果、タスク同士の間にヌケモレが散見され、プロダクト

全体として統合できない、機能しないという問題が生じた。「自分

自身のタスクは完了した」「責任は全うした」という意識が目立

ち、最終成果へのコミットメントが薄まってしまっていた。そこで、

敢えてタスクを細分化せず、ユーザー目線である程度の粗さで目

標を設定し、チームメンバー全員で目標を共有し、自分たちでタス

クを設定し、チームとして達成させるようにしている。

 また、ハードウェアは企業での経験がある日本人、ソフトウェア

は研究者出身の外国人が多いため、言語の違いも相まって、お互

いの考えが伝わらないことが少なくない。例えば、実証実験中に

不具合が生じた場合、ソフトウェアのエンジニアがハードウェアに

対して提案する修正案が量産性や設計から逆算して現実的でな

●新たなプロダクト開発で開発目標を細分化しすぎると、メンバーは目の前のタスクにばかり目が行き、最終成果へのコミットメント

が薄れがち。大きめの目標をチームメンバー全員で設定、共有し、メンバー間でコミュニケーションを取りながら開発を進めること

が重要である。従い社員の自律性は極めて必要な行動要件となる。

●ハードウェアとソフトウェアのエンジニア間には、開発の考え方に大きなギャップがあるため、その前提をお互いが理解し合うよう

なコミュニケーションを取らなければ、お互いの溝はどんどん深まってしまう。

スタートアップが得た学び

ハードウェアとソフトウェアの考え方のギャップを前提とした対話・コミュニケーションが重要

かったり、逆にハードウェアを修正せずに対処療法的にソフト

ウェアでなんとかハンドルする方法を考える必要性がでたりと、

専門領域の違いからくるアプローチの方法で衝突することも珍し

くない。ハードウェアとソフトウェアがお互いの考えを主張し合う

機会を設けて、考え方の違いからお互いを理解するように努めて

いる。

 ハードウェアの開発は、「絶対に壊れないもの」からコストダウ

ンするアプローチと、コストを重視して「壊れたら改善する」アプ

ローチがあると思うが、当社は後者で開発を進めている。各部品

の耐久性試験をいくらやっても、プロダクトに組み込んだ際に壊

れる条件までは分からないので、「まず動かして壊す」という発想

で、開発プロセスを高速に回している。

 なお、開発目標はハードウェアでもソフトウェアでもなく、事業

成立を前提として何が必要で、成し遂げなければならないのかと

いった逆算から設定している。エンジニア主導で開発目標を設定

すると、「できること」の積み上げになってしまい、開発のスピード

が落ちてしまう。このため、事業目線で多少無茶ぶりくらいの開発

目標が設定される方が、特にスタートアップの場合は良いと考え

ている。

 量産設計に取り掛かる段階で、「安全規格とは何か?」というこ

とを調査し始め、人と協調して動作するサービス用ロボットの国

際規格(ISO 13482)があることを学び、この規格ではリスクアセ

スメントを実施することになっていたため、東京都立産業技術研

究センターに依頼した。

 リスクアセスメントを実施するにあたっては、当社のプロダクト

単体ではなく、プロダクトが動作する周辺環境を含めた全体でリ

スクを担保することが求められた。例えば、足回りの自律移動機

能付き台座部分は、社外の既製品を調達していたが、この台座部

●スタートアップでも、プロダクトを国内外に広く展開していくためには、規格・標準に準拠した設計が不可欠。早めに公的試験機

関・研究機関などに相談することが望ましい。

●プロダクトの使用環境などが不確定であると、対応すべき規格・標準、リスクの項目は増えてくる。自社単独では対処しきれない

ケースも少なくないため、まずは使用環境を限定するなどによって、リスクを限定する対応を取ることが望ましい。

スタートアップが得た学び

自社単独で対応可能なリスクを絞り込むことで規格・標準に準拠

分を含めたシステム全体としてのリスクアセスメントを行う必要が

ある。そのため、台座部分の自律移動センシング方式や通行人の

存在、床面の傾斜角度、階段の有無など、当社単独では制御でき

ないような項目も含めてリスクが示された。

 リスクの全体像を理解できたことは良かったが、特に当社のよ

うなスタートアップが全てに対応することは難しかったため、当社

ではリスク源が限定できるようにロボットの周辺環境を調整する

ような対応をし、段階的に範疇を広めていく方針を取っている。

時間軸が異なるハードとソフトの融合に苦労

case

3 規格・標準に沿ったリスクアセスメントの実施

case

4

原理試作:ものづくり

図. リスクの限定・絞り込み

自社プロダクトのリスク

外部調達部品等におけるリスク

使用環境におけるリスク妨害電波走行中の転倒

電気出力安定

機能・品質

周囲との接触・破損

階段から転落

量産化設計・試作:ものづくりTELEXISTENCE TELEXISTENCE

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23 24C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

Genicscase

1

 株式会社Genicsは、次世代型全自動歯ブラシの原理試作を重

ね、大学OBが経営する大田区の町工場の協力を得てプロトタイ

プ2号機を完成させ、これをアメリカで開催される国際見本市

Consumer Electronics Show(以下、CES)に出展した。

 その際Genics社長の栄田氏は、CES出展に関するプレスリリー

スを打つことにしたが、まだ知名度が低いGenicsから発表するプ

レスリリースでは世間の注目を集めることが困難だと思われた。

 そこで、次世代型全自動歯ブラシ開発で共同研究を行う早稲田

大学からプレスリリースを出してもらうことを考えた。共同研究を

行う石井裕之准教授から大学の広報課に相談したところ、PRに

積極的な姿勢を持つ大学側の協力が得られ、プレスリリースを出

してもらうことができた。

 早稲田大学から発表されたプレスリリースは、栄田氏の狙い通

り、新聞3社、テレビに取り上げられ、Genicsの認知度を一気に

高めることにつながった。

 結果、プレスリリースを見た歯ブラシメーカーから多数のパンフ

レットが届き、介護施設から問い合わせが入った。そして、Genics

は、問い合わせがあった歯ブラシメーカーや介護施設運営会社と

●スタートアップは、常に、1社でも多くの協業候補先を開拓しなければならない。しかし、自社側からの探索・アプローチによって

協業候補先を見つけていくことにも限界がある。

●そのため、スタートアップは、Genicsのように情報発信を効果的に行うことで、協業候補先から接触してきてくれる状態を作る

ことが重要。

スタートアップが得た学び

情報発信を効果的に行うことで協業候補先の方から接触してきてくれる

●Genicsは、共同研究を行う大学の力を借りることで、歴史ある大学が新たなことに挑戦するというストーリーのもと、自社と

ハードウェアの信用力を担保。大手メディアを通じた報道、拡散に繋げることに成功した。スタートアップは、Genicsのように、

自社と協力関係にある個人・組織があらかじめ持つ信用力を借りつつPRを仕掛け、拡散へと繋げていくことが必要。

既存の信用力を借用するかたちでPRを仕掛け、拡散を狙う

接点を持ち、そのなかから、新たな協業パートナーを発掘。その後

の製造・評価の協業に繋げることに成功している。

図. 早稲田大学から発表されたプレスリリース

Consumer Electronics Show(CES)出展PRを通じた協業候補先の獲得

原理試作:ものづくり

ケーススタディ一覧

case

1case

2

ものづくり ビジネス

原理試作

case

3

量産化設計・試作

Genics

(出所)早稲田大学 2019/01/09 トピック“口にくわえるだけ”で通常の歯磨きと同じ効果。手による磨き動作不要の次世代型全自動歯ブラシの開発に成功

製品・サービス概要在宅介護者/高齢者施設、その他一般消費者向けに、現時点で世の中に存在していない、効率性、

効果性にフォーカスした次世代型全自動歯ブラシを提供。

次世代型全自動歯ブラシは、全自動であり、無思考型で、効率的かつ効果的なオーラルケアを実

現できる。

在宅介護者/高齢者施設に対しては、オーラルケアの簡素化、介護負担軽減、人員配置の最適化、その

他一般消費者に対しては、効率的(時短)かつ効果的なオーラルケアによる疾患予防が期待できる。

将来的には、使用状況データやオーラルデータによるヘルスモニタリングサービスの展開も視野

に入れている。

ビジネスモデル ハードウェアの役割/機能

30秒で効果的な歯磨き。使用者の負担低減を目指したデザイン。オーラルケア実施時のデータ蓄積

企業概要 Company Overview

全自動歯ブラシの使用から得たオーラルデータ ¥

全自動歯ブラシ

介護施設

高齢者・在宅介護者・一般人

病院・歯科医師・企業

Genics

¥

Page 14: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

 Genicsは、ハードウェアの量産試作と並行して、少人数での試

作品の評価検証を繰り返し行っている。例えば、CESを通じて接

点を持った介護施設運営会社と連携を取り、同社が運営する介護

施設にて歯科衛生士立会いの下、試作品の評価・検証を実施し

た。

 この実験では、①全自動歯ブラシが口に入れやすいかどうか、

②口に入れてみて痛くないかどうか、③違和感なく使えるかどう

か、などを確認した。検証の結果、口に入れた後の歯ブラシの保

持に問題はなく、口に入れてもらうタイミングで違和感があること

が確認された。そのため、現在、この違和感を取り除くための試作

品改良を行っている。

 また、Genicsでは、製品の信頼性を高めるためには、効果に関

するエビデンスの蓄積と、その効果的な発信が重要だと考えてお

り、新潟大学の歯科医師と連携して、試作品で歯垢が取れている

●Genicsは、検証を通じて製品を改良していくだけでなく、性能や効果に関するエビデンスを収集し、実験に協力する歯科医師

に学術論文を執筆してもらうことで、ハードウェアの信頼性向上を狙っている。

●ヘルスケア分野を始めとした、効果を学術的に検証することで信頼性を高められる分野のハードウェアは、Genicsのように、外

部研究機関と協働で研究・結果の論文化を狙いながら、開発を進めることも重要だと考えられる。

スタートアップが得た学び

エビデンス収集と適切な発信によって製品の評価を高めることが可能

かどうかの検証を少人数で行っている。今後は、同大学の歯学部

生の協力を得て、より大人数で評価検証を実施する予定。そして、

歯科医師に、検証で取得したデータを使った論文を歯科学会で発

表してもらうことを目指している。

case

3

ビジネス GenicsGenics

25 26C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

 CESからの帰国後、Genicsは全自動歯ブラシの量産化に向

け、社内で担当者を配置して量産設計のプロジェクトを立ち上げ、

製造・マネジメント面で支援してくれる企業を探索した。複数の企

業とコミュニケーションを取り、そのなかで対応や条件が合うと感

じたA社への発注を決定した。

 しかし、同プロジェクトは、想定したスケジュール通りには進ま

なかった。Genics側では、開発方針や細かな仕様に関して担当

者のみでの対応が難しく、栄田氏が都度確認・決断することにな

り、時間を要した。また、製造事業者側にとっても新しいことに関

しては、担当者が意思決定できるレベルでの提案や助言は限られ

スタートアップが得た学び

●スタートアップは、製造企業・製造経験者からものづくりの知識・経験を借り、ハードウェアの完成を目指す。しかし、製造企業

の役割は、あくまでも、過去の製造経験に基づいたものづくりの手法や実現方法を提案・実行することにある。

●そのため、スタートアップは、製造企業各社が提案・実行できることをベースに、自社主導でコア部分のハードウェアづくりを進め

ていかなければならない。

製造事業者に頼り過ぎず、スタートアップ側がものづくりプロセスをコントロールすべき

●製造企業・製造経験者のなかでも、ビジネス上の意思決定を行ったことがある方は、スタートアップのビジネス立ち上げプロセ

スに近しい実体験をベースに貴重な助言・支援をしてくれる。

●Genicsの場合、支援者の経験に基づいた助言のもと、製造企業との役割分担を整え、社内体制を変更したことで、栄田氏がス

ムーズにものづくりをコントロールできるようになった。

●スタートアップは、VC、支援者、協業パートナー、他のスタートアップなど、あらゆる関係をたどり、製造企業・製造経験者を見つ

けるだけでなく、ものづくりビジネスの意思決定経験を持った人材を見つけ、支援を得られるようにすることが必要。

ものづくりビジネスの意思決定経験者から支援を受けられる状態をつくりだす

ていた。

 そんなとき栄田氏は、大学OBの紹介で、大手メーカーでの開

発・量産や新規ビジネス立ち上げ経験を豊富に持つB氏と出会

う。B氏は他のものづくりスタートアップの顧問も務めており、ス

タートアップ支援も行っていた。

 栄田氏は、Genicsの事業に関心を持ったB氏に相談。ビジネス

上の意思決定経験を豊富に持つB氏の助言を参考に、まず、A社を

始め製造企業が得意な分野に合わせて各社への発注内容を整理

し、役割及び責任の所在を明確化した。社内の体制も変更し、栄田

氏がスムーズにものづくりをコントロールできる体制を整えた。

製造事業者への量産設計の発注が上手くコントロールできない事態

case

2 評価検証を通じた改良・エビデンス蓄積による信頼性向上

図. 評価検証の様子

図. 量産試作開始 ~ 体制・スケジュール再設計まで

(出所)ヒアリング内容をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

支援者の協力で社内体制・スケジュールを再設計

ものづくり~ビジネス立上経験豊富な支援者と出会う

開発スピードがあがらない事態に陥る

対応や条件が合うA社と協業が決定

担当者を配置して製造企業と協業を検討

量産化設計・試作:ものづくり

(出所)Genics

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27 28C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

ファーストアセントcase

1

ファーストアセント

ビジネスモデル

育児記録アプリ

泣き声診断ハードウェア

赤ちゃんの行動・泣き声・感情解析から発見した示唆

アプリに記録した赤ちゃんの行動・ハードに記録した赤ちゃんの泣き声

一般ユーザー

法人企業

ファーストアセント

ケーススタディ一覧

ものづくりビジネス

case

2case

1

国立研究機関との初めての共同研究

●スタートアップにとって、製品・サービスの試作・開発、量産化、事業拡大において大手企業との協業は欠かせない。そして、その

最初の協業となる取組が、PoCである。PoCを行うには、大手企業からの認知獲得、組織としての信頼獲得が必要になる。

●ファーストアセントは、国立成育医療研究センターという育児×ヘルスケア領域において高い信頼性を持った研究機関(情報の

ハブとなる組織)と共同研究し情報発信を行うことで、認知と信頼の両方を同時に獲得することに成功している。

●スタートアップは、自社が事業を展開する業界・領域において認知と信頼を持った組織、人物とつながり、その認知と信頼を一気

にレバレッジすることが重要。

スタートアップが得た学び

業界内の情報ハブとなる組織・人物の力を借りて認知と信頼を獲得

図. 育児ビッグデータ ビジネスコンセプト

(出所)ファーストアセント紹介資料

case

3

量産化設計・試作

ビジネス

¥

¥

製品・サービス概要これまでに、2万人のモニタユーザーから集めたデータを元に、赤ちゃんの泣き声

から感情を分析するアルゴリズムを開発。アプリサービスとして提供(ユーザー

フィードバックによるアルゴリズムの正答率評価は80%以上の正答率を記録)

上記アプリサービスは2018年7月にリリースを行っており、これまでに150カ

国以上、15万人以上のユーザーが利用。

上記アプリのアルゴリズム、新たに開発するハードウェアを用いて、世界初の

「赤ちゃんの泣き声を自動検知し、感情変化を分析する見守りサービス」を開発中。

ハードウェアの役割/機能

枕元においても気にならない消音性。赤ちゃんの泣き声を正確に分析できるようノイズキャンセリングを搭載

企業概要 Company Overview

 ファーストアセントは、育児記録の簡単登録・見える化を実現

するスマートフォンアプリ 「パパっと育児@赤ちゃん手帳」 をリリ

ースし、サービスを展開。社長を務める服部氏は、ユーザー数、

ユーザーメリットの観点から、広告表示やユーザー課金ではなく、

収集データを使った収益化を志向するようになった。そのために

は、収集データ(育児ビッグデータ)の価値を証明しなければなら

ない、と考えるようになった。

 育児ビッグデータが持つ価値を証明するには、少ないサンプル

による検証ではなく、統計的な検証を行うことと、育児ビッグデー

タが医療にもたらす影響について、学術的な研究も必要だと感じ

ていた。そこで服部氏は知人に頼み、大学や研究機関の先生や

研究者を紹介してもらった。結果、子供のライフログデータに強

い関心を持った国立成育医療研究センターの研究者に出会うこと

ができた。

 これまで、乳幼児の実態調査は、多数のデータ収集が困難であ

り、保護者からの聞き取り調査に依存していた。服部氏と研究者

は議論を重ね、同社のビッグデータを活用することで実態調査を

補完できると考え、共同研究を行うに至った。

 本共同研究は、ファーストアセントと、同研究センターの双方か

らプレスリリースを出しているが、研究センター側のリリースを見

た大手企業から問い合わせが入るようになり、その後のPoC案

件獲得へと繋がった。

 なお、この時の共同研究に必要となった資金は同社の持ち出し

(借入にて調達)で対応した。研究費を獲得する方法もあったが、

大量のレポーティングを要求される可能性もあり、スピード、工数

の観点から、同社は、研究費を選択しなかった。

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29 30C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

case

2 大手企業との初のPoC案件獲得に頓挫

 国立成育医療研究センターがプレスリリースを発表した後、大

手企業A社から本格的なPoC案件の引き合いがあった。プレス

リリースを見たA社の役員であるB氏は、すぐにファーストアセン

トへ連絡をし、PoCに向けて、非常に積極的な話し合いを行うこ

とになった。

 B氏は、ベビーテック領域でプロダクト開発を行うことがミッ

ションで、開発に向けたリサーチ過程で、ファーストアセントと同

センターとの共同研究を知り、コンタクトしてきた。B氏との話はト

ントン拍子に進んでゆき、開発に向けたリサーチなども共同で

行っていた。しかし、プロダクトを具体化していく過程で参加メン

バーが増えていくと、次第に、プロダクトの議論の風向きが変わっ

ていった。

●製品・サービスの試作開発におけるPoCで、スタートアップは、協業する大手企業のリソース確保のため、いかに大手企業内

で稟議を通すか、という課題に直面する。

●ファーストアセントもA社と提案準備を進めていたが、内容が実現可能性に傾斜する状態に陥った。その結果、提案の斬新さが

失われ、リスクだけに注目が集まり、PoC案件の実施が見送られることになった。

●このような事態に陥ってしまったのは、タイトなスケジュール、高い実現可能性を要求する姿勢、失敗した場合のキャリア保障が

ないリスクなど、A社関係者に多くのプレッシャーが重くのしかかっていたためと推察される。

●スタートアップは、協業する大手企業の状況、目指すゴール、リソース、関係者の立場を詳しく把握したうえで、相手方が、企業

として、ビジネスパーソン個人として、どれだけリスクを許容できる状態にあるか見極めることが必要。

スタートアップが得た学び

協業企業の状況、目指すゴール、メンバー個人の立場を知り、リスク許容度を見極める

 A社メンバーは、より確実に開発でき、かつ、尖りを抑えたプロ

ダクトを考えるようになったのである。本来、より斬新で、A社の

未来につながるプロダクトを企画・PoCを提案する方向で議論を

進めることが理想だった。しかし、厳格な開発期日が設定されて

いたこともあり、実現可能性が高いプロダクト開発が優先される

ようになった。

 最終的に、本PoC提案は、服部氏が予算を当初の半分以下に

抑えた案にまとめ直し、A社の役員稟議にかけられた。しかし、投

資回収期間、失敗時のリスクがネックとなり、実施が見送られた。

ファーストアセントは、約8か月、案件獲得のために注力してきた

が、同社初のPoC案件は頓挫した。

ビジネス ファーストアセント

(出所)ヒアリング内容をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図. 引き合い~案件獲得頓挫まで

大手企業から初PoC案件引き合い

案件企画の協業が素早く進展

企画が次第に実現可能な内容に傾斜

役員稟議でリスクを負い実行する案件と判断されず

実施見送りで約8か月間にわたる協業が頓挫

●スタートアップは、限られた資金と時間のなかで、サービス及びサービスを実現するために必要な開発を行わなければならない。

そのため、開発上の試行錯誤を効率的に行う必要がある。

●ソフトウェアに関しては、効率的な開発手法(アジャイル開発)が確立され、すでに普及しているが、ハードウェアに関しては、

その手法が発展途上にある。デジタルモールドは、効率的な開発を実現する手法の1つであり、今後、他の技術も含め、普及し

ていくと推察される。

●ハードウェア開発を行うスタートアップは、すでにハードウェア開発の経験があるスタートアップからの情報(製造事業者の評価)

を得ながら、スタートアップファクトリーを活用して、効率的なハードウェア試作を繰り返すことが重要。

スタートアップが得た学び

スタートアップファクトリーの製造技術を用いて効率的にハードウェア試作を繰り返す

case

3

ファーストアセント量産化設計・試作:ものづくり

 ファーストアセントは、現在、「赤ちゃんの泣き声を自動検知し、

感情変化を分析する見守りサービス」の開発に向けて、自社ハー

ドウェアの開発を進めている。ハードウェアの開発にあたっては、

以前協業した株式会社ノエックスに加えて、有限会社スワニーと

協業している。(ノエックスがハードウェア設計、スワニーが金型製

造を担当。)

 ファーストアセント社長の服部氏は、学生時代、材料工学・ナノ

テクを専攻し、大手電機メーカーに就職。当時、服部氏は、隣の研

究室で行われていた金属加工、製造ラインでのものづくりの様子

を見ていたため、射出成型に関する知識、金型製作のコスト感覚

を事前に持っていた。

 そのため、服部氏は、当初、スワニーがデジタルモールド(3Dプ

リント樹脂型を用いてABS、PS、POM、PPなど量産材料で射出

成形できる技術)で作る型の強度が弱くなることを不安視してい

た。しかし、服部氏が、スワニーの工場を訪問、工法・型の現物を見

たとき、不安は解消された。服部氏は、デジタルモールドの品質、

スピード、コスト感に驚き、ものづくりに関する知識や感覚が覆さ

れたと感じた。

 その後、ファーストアセントは、設定した予算枠のなか、約半年

の間に、2回のフルカラー3Dプリンターによる試作、複数回のデ

ジタルモールドを使った試作による金型設計へのフィードバックを

繰り返し、現物の感触を確かめながら仕様を固めていった。そし

て、CES展示用 兼 サービストライアル用のハードウェアを完成、

CESに出展。多くの方から反響を得ることができた。

 なお、その間、ファーストアセント、ノエックス、スワニーの3社

は、関係者間で、実現したいユーザーエクスペリエンスについて、

定期的、かつ、直接、認識合わせを行っていた。

図. 今回の試作開発を経て完成した金型 外観

(出所)ファーストアセント

スタートアップファクトリーとの協業深化

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計測データの共有サービス

レンタル・サービス費用

¥

31 32C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

トリプル・ダブリュー・ジャパン

ケーススタディ一覧

case

1

量産化設計・試作

ものづくり

case

2

量産以降

DFreeを販売

購入費用

一般ユーザー

介護施設等

トリプル・ダブリュー・ジャパン

¥

製品・サービス概要排せつ予測デバイス「DFree」は、超音波センサーによって膀胱の大きさを検

知することで、尿のたまり具合をリアルタイムで把握し、排尿のタイミングを通

知する。

介護施設向けにレンタル、個人向けに販売を行っており、累計3,000台を出

荷した(2019年3月末時点)。

ユーザーのニーズへの対応のために、低価格化や、歩行・移乗・寝返りなど

の姿勢変更による誤判定の削減を目指して、さらなる開発を進めている。

ビジネスモデル ハードウェアの役割/機能

超音波センサー部が、膀胱のふくらみを感知。本体部が、スマートフォンやPCに無線で情報を伝達する

センサー部

本体

企業概要 Company Overview

DFreeをレンタル

 Triple Wは、膀胱のふくらみを超音波で計測し、排せつのタイ

ミングを通知する、排せつ予測デバイスを開発している。社内で

設計、試作を行った後、1回目の量産に踏み出した。

 量産先となる製造事業者には、民生品での量産実績と低価格

見積りの2点から、A社を選定した。A社は、信頼性が高く実績も

豊富な大企業であり、量産はスムーズに進行するかと思ったが、

そうはいかなかった。

 まず、量産化にあたって誤算だったことは、過去に接点があっ

た部署がアサインされなかったことである。大企業には複数の部

●ハードウェアの量産において、スタートアップが、豊富なノウハウやリソースを持つ大企業に期待するところは大きい。しかし、実

際に大企業に量産を発注するか否かは、慎重に判断すべきである。スタートアップが求める小ロットでの製造や柔軟な対応は、

多くの大企業が不得手としており、想定外のトラブルが起こりやすい。

●大企業との連携を検討する際には、①ある程度大ロットでの量産の目途が立っているか、②大企業の持つ生産実績や信頼性の高

さが、製品の量産に必要かどうか、③希望する部署と連携できる確約があるか、といった点を参考に、先方とWin-Winの関係を

築けるかを見極めてほしい。

スタートアップが得た学び

大企業との連携は、大ロット・高品質の製造でこそ活きる

署があるため、依頼のタイミングや内容、スタートアップに対する

評価によって、希望した部署に対応してもらえるとは限らないよう

であった。

 また、発注予定数をA社と協議のうえ3,000台と設定したが、

その後、販売見込みの修正が発生し、小ロット生産に変更せざる

を得なくなった。しかし、こうした要望には柔軟に対応してもらえ

なかった。さらに、実証実験後に明らかになったニーズに合わせた

仕様変更が思うように進められないなど、Triple Wにとっては、

当初想定していなかった対応が続いた。

図. Triple WとA社の連携の状況

初めての量産は最低ロット3,000台調整も難航

case

1

量産化設計・試作:ものづくり トリプル・ダブリュー・ジャパン

Triple W A社の対応

小ロットに変更したい 小ロットへの変更対応が難しい

ニーズに応じた仕様変更をしたい 個別に柔軟に対応することが難しい

量産をお願いしたい部署がある 必ずしも希望の部署では受け付けられない

ミスマッチ

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33 34C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

 A社で二度の量産を経験した後、BtoC向けに製品改良を行う

ことになった。高齢者などのユーザー本人が使用できるように、デ

ザインと設計のシンプル化やデータの取得精度の向上を目指し

て、ハードウェアの改良を行うことにした。

 そのため、小ロットでの生産や量産試作時に製造側からの提案

をしてもらえるような量産先を選定することになった。

 まず、社内の知見やインターネット検索で、ニーズに合う形での

製品製造ができそうな企業を十数社選定した。その後、スタッフ

が工場まで足を運び、どのような設備があるか、製造はできそう

※1 調達力と柔軟性は、製造会社のサプライチェーンの状況、部品ごとの製造企業、協力会社との連携状況などを尋ねることで評価した ※2 アクセスは、移動時間と移動方法で評価した ※3 改善提案は、当該工場で製品製造をすることになった場合の対応を尋ねて評価した

●Triple Wは、二度の量産によって、ハードウェア開発と量産のノウハウを社内に蓄積できた。この経験を活かし、自社にとって

重要な選定項目を定め、視察結果をもとに選定したことで、良好な連携に至っている。

●製品化を急ぐあまり、リサーチが不十分な状態で連携先を決定すると、量産化の段階で二の足を踏むことになる。量産化の目途

が付きそうなタイミングで、量産先に求める要素を整理し、現地視察をしたうえで、選定することが重要である。

スタートアップが得た学び

工場に足を運び、総合的な視点から連携先を決定する

綿密なリサーチによる連携先企業の選定case

2

か、自社で作成した選定基準一覧表をもとに確認した(図参照)。

 最終的には、3社まで絞り込みを行い、一覧表をもとに選定担

当者と経営陣で協議して、連携先を決定した。決定の要因は、小

ロットでの生産について承諾が得られていたこと、仕様変更など

への柔軟な対応が可能であること、自社からのアクセスが良かっ

たことなどであった。

 入念に選定をしたことで、製造の観点から設計についての助言

を受けられるなど、二人三脚で量産を目指せる関係性を構築でき

ている。

図. 連携先の選定基準一覧(例)

トリプル・ダブリュー・ジャパン量産以降:ものづくり

B社 C社 D社

○ △ ○

○コスト ○ ○

△調達力※1 ○ ×

×柔軟性※1 ○ ×

△実装設備 △ ○

△組み立て設備 ○ ○

△無線機器生産実績 ○ ○

△アクセス※2 ○ ○

×改善提案※3 ○ ×

小ロット対応

賃貸住宅

オーナー・管理者

tsumug

ケーススタディ一覧

人材・組織ビジネス

case

3case

2case

1

ビジネスモデル

設置・サービス提供・保守

インセンティブ

サービス¥

¥

ユーザー(建物オーナー・入居者)

tsumug

サービス事業者

(宅配業者等)

tsumugは安心で豊かな世界を生むため、コネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)」シリーズと活用サービスを提供 モノと情報、体験を繋ぎ、シェアリングエコノミーの加速を目指している。住宅各戸の玄関ドアに設置するシリンダータイプのコネクティッド・ロック『TiNK C』、マンション等の集合機に設置するタイ プのコネクティッド・ロック『TiNK E』などを開発している。賃貸空物件に設置することにより、内見業務や物理鍵管理業務を効率化するほか、オーナー向けには物件価値の向上、入居者向けには生活の利便性向上といったメリットを与える。家族間の鍵共有、ハウスキーパーなどへの一時的な鍵共有を可能に。子供の帰宅や独居老人の見守りでも利用可能。TiNK C TiNK E

製品・サービス概要

ハードウェアの役割/機能

内部機構の改善。通信品位向上と静電対策を実現

企業概要 Company Overview

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35 36C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

case

1

tsumug

ハードウェア開発に注力しすぎるあまり事業開発が進まない

 tsumugでは、自社で開発したコネクティッド・ロック「TiNK」

(ティンク)の量産に向けて、SHARPのサポートのもと、ハード

ウェアの品質改良に取り組んでいる。両社は、tsumugの牧田社

長がSHARPのアクセラレーションプログラムに参加したときか

らの付き合いで、tsumugは国内での製造や海外工場への切り

換えなど、製造面でSHARPの支援を受けてきた。

 そうしたなかで、tsumugでは量産に向けた取組にフォーカス

するあまり、次第にハードウェア開発の課題=経営の最優先課題、

という意識がメンバー間に生まれていった。

 牧田氏は「tsumugは物売りだけの会社ではない」、「TiNKの

デバイスが持つ課題だけが経営課題ではない」と考え、ハード

●ハードウェアを通じてサービスを提供するスタートアップにとって、製品開発の進捗が重要であることは間違いない。しかし

製品開発の進捗が社業全体のボトルネックと捉えられ、それが解決しない限り事業全体が進捗しないと思い込んでしまうケース

がある。

●ハードウェア開発を目的化させるのではなく、並行して事業を進めていくことが重要になる。

スタートアップが得た学び

ハードウェア開発自体を目的化してはならない

●tsumugが、ハードウェア開発と平行して、ソフトウェア・サービス・事業開発を進められるのは、長年製造支援を行っている

SHARPの存在が大きい。

●スタートアップは、事業を推進するにあたり、自社の得意分野と製造支援事業者の得意分野を意識し、分担しながらさらなる飛躍

を目指す必要がある。

開発・量産面での大企業との連携をハードウェア開発の土台とする(SHARP)

ウェアの開発課題だけに囚われない環境を作っていった。

 牧田氏は、ハードウェア開発の進捗がその他の取組に過度に影

響を与えないようにした。直近で行ったオフィス移転は、サービス

を作っていくという意思を、社内へのメッセージとしてつたえる役

割も担った。

 サービス開発も並行して進めており、「TiNK Desk」(マンショ

ンの空室を活用し、誰でも短時間から利用できるワークスペース

を提供するサービス。TiNKを使って入退室を管理する。)を発表。

福岡市での実証実験を開始した。

 サービス立ち上げ経験のあるメンバーがいるtsumugは、その

強みを活かし、次なるサービス開発も並行していく予定である。

ビジネス

(出所)ヒアリング内容をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

図. SHARPによる支援~ハードウェア開発の切り離しまで

SHARP支援のもとハードウェア開発を進める

量産に向けたハードウェアの改良を継続

ハードウェア開発=経営という意識が蔓延

自社のミッション(サービス提供)を再確認

ハードウェア開発を他の取組から切り離す

case

2 福岡市 実証実験フルサポート事業への応募と採択

 tsumugは、自社で開発したコネクティッド・ロック「TiNK」

(ティンク)を用いたサービス検証を行うため、福岡市実証実験フ

ルサポート事業に応募した。

 福岡市実証実験フルサポート事業とは、福岡市が主催する、先

端技術を活用して社会課題の解決を目指す企業を支援する目的

で始めた事業。企画が採択された企業は、規制緩和を含めた

様々なサポートを受けながら実証実験を行うことができる。

 官公庁や自治体の補助事業に応募する場合、必要資料を揃え

るだけでも時間が掛かるため、専任の担当者が必要になるのが通

常である。スタートアップにとっては負担が大きい。しかし、福岡

市の場合、スタートアップがすでに資金調達などで作成するピッ

チブックと近い資料(事業提案書)で応募でき、負担が少ないと

いうことも後押しした。

 tsumugが提案した事業(第三期:「コネクティッド・ロック」を

活用した入居者向けの実証実験)は無事採択され、提出した事

業計画に沿って実験を進めた。福岡市は、実験エリアの選定に協

力し実験協力者への説明会の開催サポートや、PR・告知面の支

援を行った。

 本事業に協賛する福岡地域戦略推進協議会(以下、FDC)は、

協業できる可能性を持った地元企業を紹介するなど、福岡市とは

違った形で支援している。FDCは、地域活性化プロジェクトを行

うなど、地元企業の課題や悩みを熟知。実験を行う事業者が、

●製品やサービスの開発にあたっては、ユーザーからのフィードバックを受けながら、改良を積み重ねることが重要。そのためには、

開発段階からリアルなユーザーに利用してもらえる機会を設けることが必要になるが、その機会を自ら設けるハードルは高い。

●スタートアップは、スタートアップ支援に前向きで柔軟な姿勢を持った自治体・組織を見つけ、自社サービスを実験できる環境や

機会をより多く確保することが重要。

スタートアップが得た学び

スタートアップに協力的な自治体と連携し、実証実験の環境を確保する

サービスを通じて解決したいと考えている課題を理解し、実際に

その課題に悩む地元企業を紹介するなど、企業間のマッチングに

も力を入れている。

 tsumugはこの実証実験で、ユーザーからのフィードバックを

得ることができた。サービスを提供したときに起こるであろう課題

を収集し、サービス開発に繋げている。

ビジネス tsumug

図. 福岡市 実証実験 フルサポート事業

(出所)福岡市ホームページ mirai@(ミライアット)実証実験フルサポート事業

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37 38C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

●スタートアップは、正社員にこだわらず、参画メンバーを集めるケースが多い。しかし、中核メンバーは、稼働時間の確保、離脱

防止のために、正社員として迎えるケースが多い。

●ただ、フリーランスやパラレルワーカーが増える流れは今後も続くと推察される。tsumugのように、コアメンバーであっても

業務委託契約を選択する柔軟さが求められる。

●その際留意しなければならないことは、委託業務の認識合わせ、契約内容への落とし込みである。tsumugを参考に、委託側と

受託側で言葉のニュアンス、表現の抽象度を調整しながら、契約文言に変換していくことが必要となる。

スタートアップが得た学び

相手に伝わるわかりやすい言葉で、委託業務の認識を合わせる

case

3

人材・組織

雇用形態にこだわらないチームづくり

 tsumugは、正社員雇用だけではなく、業務委託などの契約で

も参画できるようにしており、メンバーは契約形態を選択すること

ができる。この背景には、自分の働き方や会社との関係性を思考

し続ける人を増やしたい、という牧田氏の想いがある。

 牧田氏は、会社員時代に海外勤務を経験したが、そのとき初め

て確定申告が必要になった。確定申告の経験がなかった牧田氏

は、その機会を通じて自分の資産、所得、課税額を意識するよう

になった。会社が税務対応してくれることは楽ではあったが、結果

思考停止していたのではないかと感じた牧田氏は、個人の働き方

が変わりつつある今の時代だからこそ、tsumugで働くメンバー

には、雇用形態も含めて自分の働き方を見つめ直して欲しいと考

えている。

 最近はパラレルワーカーが増えている。tsumugにジョインす

ることをきっかけに、業務委託契約を結んでフリーランスで働くこ

とに挑戦する人も増えている。ただ、業務委託契約は、締結に際

して検討事項が多く、運用が難しいという一面もある。

 tsumugの場合、契約にあたって、委託業務内容、契約期間

(自動更新有無を含む)、委託金額、権限範囲を中心に、双方で検

討・認識合わせを行っている。その際、牧田氏(委託者)と受託

者双方にとって分かりやすい言葉で記載し、合意するようにして

いる。また、業務やプロジェクトの区切りのタイミングで、業務内

容・契約内容の見直しを行うようにしている。

 なお、権限範囲を規定しているのは、同社が委託金額を「会社

における予算」として捉えており、その予算を契約の範囲内であ

れば自由に活用できるようにするためである。

図. tsumugにおける業務委託のイメージ

(出所)ヒアリング内容をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

tsumug

ジャパンヘルスケア

ケーススタディ一覧

ものづくり ビジネス

case

1

量産化設計・試作

case

2

ビジネスモデル

健康経営

インソール提供

足の写真データ

足の写真データ

インソール提供

個人ユーザー

法人ユーザー

ジャパンヘルスケア

¥

¥

製品・サービス概要放置すると膝や腰の痛みを引き起こすこともある足の歪みを矯正するイン

ソールを提供。

顧客からの足データの提供を受けて、個々人に最適化されたインソールを

独自アルゴリズムによって自動で設計。

同時並行で事業展開を進める、AIで歩き方を診断する「ミラーウォーク」

と組み合わせて、歩き方から潜在顧客を検出するなど、「足を支え続ける

企業」を目指している。

ハードウェアの役割/機能

個人の足骨格などのデータから、足の歪みを正すために最適設計・出力される「硬い」インソール。特にシェル部分は3Dプリンターにより完全カスタムメイド

企業概要 Company Overview

個々人に最適な設計

3Dプリンターでカスタムメイド

最終製品

従業員

Page 21: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

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case

1

ジャパンヘルスケア

‶個別”のカスタムメイド製品の‶量産”化の検討

 カスタムインソールは、カバー、クッション、シェルの三層構造

になっている。特に足の歪みを正すうえで鍵となる硬いシェル

の形状は、顧客・ユーザーの足骨格に合わせた完全カスタムメ

イドとなっており、カバーとクッションもシェルの形状に合わせ

てサイズ調整し、インソール全体として最適化している。一方で、

受託開発・製造ではなく、量産製品による市場展開ビジネスを

しているため、ゼロから製造プロセス・方法を検討する必要が

あった。

 特に特徴的な硬いシェルは、完全カスタムメイドとなるため3D

プリンターを使用することになる。しかし、短いリードタイムである

程度の量の製品を仕上げるためには、複数台の3Dプリンターが

必要となるため、少なくとも現段階でそのような多額の設備投資

を行うことは難しかった。そこで、DMM.makeの3Dプリント

サービスで、シェルの図面をオンライン入稿して出力することで、

当初の想定よりもコストダウンできることが検証できた。

 また、連携しているスタートアップファクトリーの浜野製作所を

始めとする製造事業者には、「良い製品を生み出すために」とい

う想いでとことん相談に乗ってもらった。例えば、当初は三層構

造の貼り合わせは市販品の接着剤を使用することを想定していた

が、浜野製作所から紹介された靴の製造事業者から「市販品だと

剥がれやすい」と助言していただき、靴専用ボンドを紹介してもら

い、想定していたやり方ではうまくいかないことを教えてもらっ

た。インソールのエッジ部分の仕上げについても、カット工法の種

類や貼り合わせの際の熱のかけ方など、コストも勘案して、最適

なプロセスをゼロから一緒に検討してもらった。さらに、浜野製作

所は、人体への毒性試験の実施を勧めるだけでなく、試験の条件

設定や評価まで伴走してもらっており、当社が想定すらしていな

い工程を教えてもらった。

 工業試験も試験研究のプロだけでなく、製造のプロ、靴のプロ

の知見や助言なしには実施できなかった。硬いインソールという

製品自体が日本にはなく、当然ながら製品の安全性や耐久性の工

業試験方法に関する規格・標準も存在しない。そこで、東京都立

産業技術研究センターと製造事業者に相談をし、実際の歩き方、

足裏への圧力のかかり方を模擬した独自の試験方法を考案し、無

事に実施することができた。

図. 旧プロトタイプ 図. 最終バージョン

●実現したいモノはあっても、実現するための適切な方法は、関連するプロの知見や経験が不可欠。量産性やコストばかりでなく、

品質・耐久性、安全性といった「製品」として必要となる要件を適宜助言してもらうことができた。

●製品化経験のない素人では想定し得ない検討事項が少なくなく、長年のものづくりの経験や勘所不可欠。助言や気づきを与え

てくれるばかりでなく、良い製品を生み出すという使命感や責任感から、期待以上のソリューションまで提示してくれる。

スタートアップが得た学び

実現したいモノをものづくりのプロの助けを借りて製品として実現

量産化設計・試作:ものづくり

case

2 ユーザーフィードバックを専門的知見から分析し市場性を見極め

 足のトラブルケアは米国では一大市場になっているが、日本で

は専門医が少なく、当社がターゲットとするインソールによる脚矯

正・ケア市場は、日本では未開拓市場である。そこで、テスト

ユーザーとの対話・コミュニケーションを重視し、ユーザーからの

フィードバックを大量に収集、分析することで、市場性の検証を進

めている。

 テストユーザーの発掘には、クラウドファンディングも活用して

いる。クラウドファンディングは、当社の熱烈なファンを獲得する

マーケティングとしての位置づけもあるが、そういったファン層か

らのフィードバックは非常に質が高いため、プロダクト改善の参考

になる意見が多いと考えている。

 また、深い課題を抱えている潜在顧客へのテストも開始してお

り、靴へのこだわりが強いランニングを趣味とする層に、本プロダ

クトをテストしてもらっている。そのなかでも、特に外反母趾や偏

平足気味のファッションに敏感な女性からは、かなりの高評価と、

具体的な改善提案が得られている。強いニーズを抱えている潜在

顧客が徐々にターゲティングでき始めている。今後は健康経営意

識の高い企業との実証も予定しており、ユーザー個々の身体デー

タに加えて、仕事のパフォーマンス向上も検証できれば良いと考

えている。

 このように多種多様なユーザーから大量のフィードバックを収

集しているが、その分析をして設計・開発の改善に生かすことが

●未開拓市場におけるプロダクトの市場性においては、自社プロダクトを熱烈に支持するファン層の獲得が欠かせないが、そのファ

ンの意見からプロダクトの課題点や改善点を導き出すには、専門的知見に基づく判別や判断が有効となる。

スタートアップが得た学び

専門的な知見がないとできない課題分析やプロダクト改善がある

できているのは、当社メンバーが「足の専門医」としての専門的

知見があるからである。フィードバックされた意見のなかには、プ

ロダクトの課題に起因するものもあるが、ユーザー自身の抱える

足の課題に起因するものも少なくない。足の専門医としての知見

によって、大量のフィードバックからプロダクトに起因するものを

判別し、ユーザーとの対話・コミュニケーションを通じた適切な方

向性でのプロダクト改善を可能にしている。

ビジネス ジャパンヘルスケア

Page 22: startup panf 2 01 02 200318...case 2 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあっ た。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし

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Seismic

ケーススタディ一覧

ものづくり

case

1

原理試作

case

2

量産化設計・試作

Powered Clothing

¥(スーツ初期費用)

健康関連情報

¥(会員費用)

会員コンテンツ

Seismic

Customer

製品・サービス概要アパレルとロボティクスを融合した、新しいタイプのアクティブウェアであ

るパワード・クロージングを開発。

既存の外骨格型アシストスーツでは対応できないような、デザイン自由度

の最大化を実現。

人々のライフスタイルに調和し、あらゆる年齢のあらゆる生活シーンに利

用される、アパレル製品としての普及を目指している。

ビジネスモデル ハードウェアの役割/機能

パワード・クロージングを支える人工筋肉モジュールには、高出力・小型・軽量・静粛なアクチュエーターが求められる

企業概要 Company Overview

製品の全体像

人工筋肉モジュール

 当社は米国非営利研究機関SRI Internationalのスピンオフ

である。コア技術である人工筋肉は、米国陸軍とDARPAのプロ

グラム「Warrior Web program」の研究成果がベースになっ

ている。プログラム終了後、研究を主導した当社CEO Rich

Mahoney氏が、市場性が高いと判断し、Seismic(旧社名

Superflex)を起業。アパレル分野の市場をターゲットにして製

品開発を進めたが、民生市場ならではの課題が次々と明らかに

なった。

 当初は、アシストする動作として「歩行」を想定していたが、複

数の筋肉が絡み合う複雑な動作であり、エネルギー消費が大きく

個人差も大きいことが判明。ハードルが極めて高いと判断し、「起

立(立つ、座る)」動作に対象を転換した。また、筋骨格の動きに

関する学術的知見は、特定かつ局所的な動きに限れば蓄積され

ているものもあるが、「起立」という動作単位での複雑なメカニズ

ムは学術的にも十分に研究されていない領域であった。人間の動

作の奥深さや難しさを知り、新たにバイオメカニクス分野のエン

ジニアも採用した。

 また、ターゲット市場に精通したアパレル・デザイン分野のプロ

も参画している。ハードウェアやエレクトロニクス、ソフトウェア、

バイオメカニクスのエンジニアと一緒に、常に密なコミュニケー

●研究開発成果をもとに特定の製品をターゲットとした開発を進めていくに従って、当初は想定しておらず、かつ学術的な研究もさ

れていない、学際的な課題が次々と浮き彫りになってくる。

●様々な分野のエンジニアを採用し、チームが一体となって、製品開発とモニター試験を高サイクルで回す、アジャイル開発を地

道に推進し続けることが肝要。

スタートアップが得た学び

新たなプロダクト開発で遭遇した学術的にも未解明な課題もアジャイル開発で乗り越える

ションを取っている。

 製品開発においては、「小さく・薄く・軽く・省エネ」に加えて、

「実際に効果的なアシストができるか」という点から、頻繁にモニ

ター試験を実施している。モニターに試作品を装着して様々な動

きをしてもらい、それをビデオ撮影し、筋肉の動きに関するデータ

を取得。そこから試作品の課題を抽出し、製品開発にフィードバッ

クし、機能だけでなくデザイン性も考慮して仕様を再検討すると

いうサイクルを高速で回し続けている。モニター試験は3年半で

300名を超えているが、もっと増やしていく必要があると考えて

おり、実際の生活や仕事のシーン、すなわち「リアルワールド」で

の検証テストも随時行っている。

図. 起立動作のアシストイメージ

米軍研究開発プログラムの成果を基に民生市場向け製品の開発を推進

case

1

原理試作:ものづくり Seismic

起立アシスト / Sit-to-Stand Assist

立位サポートStanding Support

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43 C o n t r a c t C a s e s t u d y f o r M a k e r S t a r t u p s

 シリーズAで日本のVCグローバル・ブレインから資金調達を行ったことに加えて、CEOのRich Mahoney氏が長年のロボット研究を通じて、製品のコアとなるモーターやアクチュエーターの技術は日本企業が長けていると認識していたこともあり、日本でモーターやアクチュエーターの開発及び製造に協力してくれるパートナー探しを始めた。  グローバル・ブレインからシナノケンシ(長野県の精密小型モーターの開発・製造などを行う企業)を紹介され、同社に見積りを打診したところ、極めて迅速かつ、米国のビジネス感覚を理解した回答が得られたことに驚いた。また、当社が求める「動き」を実現するために、過去の類似ケースを活かしてモーターとギアを最適に掛け合わせた、同社にしかできないアクチュエーターの技術力や提案力の高さにも驚き、シナノケンシをパートナーに選定した。その後も、日米の違い、老舗企業とスタートアップの違いがあるにもかかわらず、両社が経営層、マネジメント層、エンジニア層の三層構造を整えることによって迅速な意思決定が次々と下されている。  特にシナノケンシの場合、スタートアップとの協業を進める新規事業開発部門が窓口として対応しているが、この部門のトップは海外支社の社長であるため、グローバルでトップ同士のコミュニケーションが円滑に取れる。また、戦略担当取締役や開発部門トップもメンバーとして参画している独立の組織であるため、迅速な意思決定がされており、非常に助かっている。

●スタートアップとの協業においてはスピーディーな意思決定を必要とするため、協業先の経営や開発トップのコミットメントが必要。

●現場層には認識や文化的なギャップがあるため、双方の経営層と現場層を繋ぐ中間層の役割が大きく、経営層・マネジメント層・

エンジニア層の三層構造が共同開発を円滑に進める成功要因となった。

●特にマネジメント層は、経営、マーケット、製品、技術についての深い理解が必要であり、双方にエンジニア出身かつ英語に堪能なマ

ネジャーがアサインされていたことにより、タイムリーかつ端々に目の行き届いたマネジメントを相互信頼のもとで行うことができた。

スタートアップが得た学び

経営と現場の潤滑油となるマネジメント層の重要性

●SOW(Statement of Work)を明確に定義することによって、開発フェーズや責任主体を明確にしておくことで、ビジネス面のみな

らず、開発現場のコミットメントやモチベーションを高めることにも繋がる。

設計変更などを見越してSOWを契約に盛り込む

case

2

 一方、現場では、日米の仕様に対する考え方にギャップがあった。日本のエンジニアは、顧客の要求仕様を満たしていても「もし最終的に顧客の期待する機能が発揮できなければ自分たちの責任」だと考えるため、製品の使われ方など、仕様の背景情報も把握したうえで設計することが当たり前だと認識している。一方で、契約社会で情報管理も徹底されている米国のエンジニアは、「必要最低限の仕様や情報を提示し、その通りに仕上げてくれれば良い」と認識している。このため、当初、現場の開発は思うように進まなかった。  これに対し、両社の中間層が仲立ちして、両社のエンジニアが現場を見学し合って直接交流する機会を設けたり、当社トップ層にシナノケンシから要求のあった情報を開示するメリットを提示したりするなど、潤滑油的な役割を果たすことで徐々に現場もスムーズに回るようになった。  また、中間層は契約面でもSOW:Statement of Workを盛り込む工夫を凝らしている。SOWの締結は、米軍を始め同国での共同研究開発プログラムでは一般的な考え方であり、今回のプログラムのケースでは、最終目標から逆算して開発フェーズを6段階に区切り、各段階での目標や期間、必要な費用、責任の所在などを明確にした。責任の所在が明確になることで現場のコミットメントやモチベーションを高めるのみならず、事業ピボットによる設計変更ややり直しの際の費用交渉をスムーズにするなどの効果が期待できる。

米国スタートアップと日本老舗企業が開発を円滑に推進

量産化設計・試作:ものづくり Seismic memo

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