2
7 化学療法と帯状疱疹の発症頻度に 関連はあるのか? 悪性リンパ腫症例における 帯状疱疹合併例の検討 悪性 リンパ治療はリツキシマブの導入により 向上 して いるが、化学療法後免疫不全うウイルス 感染症合併 はしばしば難治性 となり 、患者生活質(Quality of Life: QOL) 低下 させる 。特 帯状疱疹化学療法 けた患者 くみられ、帯状疱疹関連痛QOLしく 低下させる ため 問題 となる 1) しかしながら 、化学療法後帯状疱疹発症 頻度やリスク因子についての報告ないそこで我々 当院悪性 リンパ化学療法中あるいは化学療法後帯状疱疹発症 した症例をもとに、発症頻度およびリスク 因子 検討 した 2) 2007年4月 から 2009年12月 までに 当院受診 、化学療法 った初発悪性 リンパ腫患者188名をレトロスペクティブに 解析 した。統計解析、2群間比較には χ 2 検定、Fisher 検定、p<0.05 有意 とした。患者年齢17~91歳 (中央値65歳)、男性106名、女性82名であった。病理組織 ホジキンリンパ腫16名、非ホジキンリンパ腫172名あった。非ホジキンリンパのうちびまん性大細胞型B細胞 リンパ腫(Diffuse Large B-cell Lymphoma:DLBCL) 115名 くを めた。化学療法しては、R-CHOP112名 、CyclOBEAP-R31名、CHOP12名、 BEACOPP11名などであった悪性リンパ腫症例の患者背景 初発悪性 リンパ腫患者188名のうち 、帯状疱疹発症 した のは23名(12.2%) であった 1)。発症例年齢28~82歳 (中央値63歳) 、男性8名、女性15名であった。組織型ホジキンリンパ腫5名(21.7%)、非ホジキンリンパ腫18名 (78.3%) であった。非ホジキンリンパのうち DLBCL10名 かった。帯状疱疹発症時期、化学療法中13名 1 帯状疱疹合併例の患者背景(23名) 悪性リンパ腫症例における 帯状疱疹合併例の検討 高橋 直樹 先生 埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 造血器腫瘍科 准教授 基礎疾患(医原性含む)と帯状疱疹 Session 3 高橋直樹他. 埼玉医科大学雑誌. 37 293 2011(56.5%) 、化学療法後10名(43.5%) であった。帯状疱疹 発症パターンは、限局型20名(87.0%)、汎発型3名 (13.0%)、内臓型はなかった。化学療法別発症頻度R-CHOP:13名(56.5%)、BEACOPP:5名 (21.7%)、CyclOBEAP-R:2名(8.7%) であったリツキシマブ 濾胞性リンパ腫 節性辺縁帯B細胞リンパ腫 マントル細胞リンパ腫 節外性NK/T細胞リンパ腫 末梢性T細胞リンパ腫 皮膚T細胞リンパ腫 結節硬化型ホジキンリンパ腫 混合細胞型ホジキンリンパ腫 リンパ球豊富型ホジキンリンパ腫 リンパ球減少型ホジキンリンパ腫 FL NMZL MCL ENKL PTCL CTCL NS MC LR LD 病変が1 ヵ所に限局している 病変が横隔膜を越えない 同じ側に限局 病変が横隔膜を越えて 逆側にもある リンパ節以外に病変がある 合併症 転帰 帯状疱疹の治療 リツキシマブの使用 化学療法 帯状疱疹の 発症パターン 発症時期 臨床病期 組織型 性別(男性/女性) 2882 8/15 5 18 4 14 3 2 2 16 13 10 20 2 3 6 7 2 3 0 1 13 1 2 5 1 15 8 15 4 3 1 6 2 1 23 0 6321.7%NS 2MC 2LR 1LD 078.3%FL 3NMZL 1DLBCL 10MCL 1ENKL 1PTCL 1CTCL 113.0%8.7%8.7%69.6%56.5%43.5%87.0%13.0%0.0%4.3%56.5%4.3%8.7%21.7%4.3%65.2%34.8%65.2%17.4%13.0%4.3%26.1%8.7%4.3%100.0%0.0%ホジキンリンパ腫 非ホジキンリンパ腫 低悪性度 中・高悪性度 化学療法中 化学療法後 限局型 顔部 頸部 胸部 腰部 仙骨部 汎発型 内臓型 CHOP R-CHOP CyclOBEAP CyclOBEAP-R BEACOPP その他 あり なし アシクロビル点滴 アシクロビル内服 バラシクロビル塩酸塩内服 局所療法のみ 帯状疱疹後神経痛(PHN運動神経障害 眼病変 改善 改善せず 年齢(中央値)

Session 3 悪性リンパ腫症例における 帯状疱疹合併例の検討...115名と最も多くを占めた。化学療法に関しては、R-CHOPが 112名と最も多く、CyclOBEAP-Rが31名、CHOPが12名、

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7

化学療法と帯状疱疹の発症頻度に関連はあるのか?

悪性リンパ腫症例における帯状疱疹合併例の検討

 悪性リンパ腫の治療はリツキシマブの導入により向上しているが、化学療法後の免疫不全に伴うウイルス感染症の合併はしばしば難治性となり、患者の生活の質(Quality of Life:QOL)を低下させる。特に帯状疱疹は化学療法を受けた患者に多くみられ、帯状疱疹関連痛はQOLを著しく低下させるため問題となる1)。しかしながら、化学療法後の帯状疱疹の発症頻度やリスク因子についての報告は少ない。そこで我々は、当院で悪性リンパ腫の化学療法中あるいは化学療法後に帯状疱疹を発症した症例をもとに、発症頻度およびリスク因子を検討した2)。

 2007年4月から2009年12月までに当院を受診し、化学療法を行った初発悪性リンパ腫患者188名をレトロスペクティブに解析した。統計解析は、2群間の比較にはχ2検定、Fisher検定を用い、p<0.05を有意とした。患者の年齢は17~91歳(中央値65歳)、男性106名、女性82名であった。病理組織型は、ホジキンリンパ腫16名、非ホジキンリンパ腫172名であった。非ホジキンリンパ腫のうち、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Diffuse Large B-cell Lymphoma:DLBCL)が115名と最も多くを占めた。化学療法に関しては、R-CHOPが112名と最も多く、CyclOBEAP-Rが31名、CHOPが12名、BEACOPPが11名などであった。

悪性リンパ腫症例の患者背景

 初発悪性リンパ腫患者188名のうち、帯状疱疹を発症したのは23名(12.2%)であった(表1)。発症例の年齢は、28~82歳(中央値63歳)で、男性8名、女性15名であった。組織型はホジキンリンパ腫5名(21.7%)、非ホジキンリンパ腫18名(78.3%)であった。非ホジキンリンパ腫のうちDLBCLは10名と最も多かった。帯状疱疹の発症時期は、化学療法中が13名

表1 帯状疱疹合併例の患者背景(23名)

悪性リンパ腫症例における帯状疱疹合併例の検討高橋 直樹 先生 埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 造血器腫瘍科 准教授

基礎疾患(医原性含む)と帯状疱疹Session 3

高橋直樹他. 埼玉医科大学雑誌. 37(2)93(2011)

(56.5%)で、化学療法後は10名(43.5%)であった。帯状疱疹の発症パターンは、限局型が20名(87.0%)、汎発型が3名(13.0%)、内臓型はなかった。化学療法別の発症頻度は、多い順にR-CHOP:13名(56.5%)、BEACOPP:5名(21.7%)、CyclOBEAP-R:2名(8.7%)であった。リツキシマブ

濾胞性リンパ腫節性辺縁帯B細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫節外性NK/T細胞リンパ腫末梢性T細胞リンパ腫皮膚T細胞リンパ腫結節硬化型ホジキンリンパ腫混合細胞型ホジキンリンパ腫リンパ球豊富型ホジキンリンパ腫リンパ球減少型ホジキンリンパ腫

FLNMZLMCLENKLPTCLCTCLNSMCLRLD

::::::::::

ⅠⅡ

病変が1ヵ所に限局している病変が横隔膜を越えない同じ側に限局病変が横隔膜を越えて逆側にもあるリンパ節以外に病変がある

::

合併症

転帰

帯状疱疹の治療

リツキシマブの使用

化学療法

帯状疱疹の発症パターン

発症時期

臨床病期

組織型

性別(男性/女性)28~828/155

18 414

322161310202367230113125115815431621230

(63)

(21.7%)(NS 2、MC 2、LR 1、 LD 0)(78.3%)(FL 3、NMZL 1)(DLBCL 10、MCL 1、 ENKL 1、PTCL 1、 CTCL 1)(13.0%)(8.7%)(8.7%)(69.6%)(56.5%)(43.5%)(87.0%)

(13.0%)(0.0%)(4.3%)(56.5%)(4.3%)(8.7%)(21.7%)(4.3%)(65.2%)(34.8%)(65.2%)(17.4%)(13.0%)(4.3%)(26.1%)(8.7%)(4.3%)

(100.0%)(0.0%)

ホジキンリンパ腫

非ホジキンリンパ腫 低悪性度 中・高悪性度

ⅠⅡⅢⅣ化学療法中化学療法後限局型 顔部 頸部 胸部 腰部 仙骨部汎発型内臓型CHOPR-CHOPCyclOBEAPCyclOBEAP-RBEACOPPその他ありなしアシクロビル点滴アシクロビル内服バラシクロビル塩酸塩内服局所療法のみ帯状疱疹後神経痛(PHN)運動神経障害眼病変改善改善せず

年齢(中央値)

8

悪性リンパ腫症例における帯状疱疹発症のリスク因子

 悪性リンパ腫症例における帯状疱疹発症のリスク因子を単変量解析により調査した(表2)。その結果、統計学的に有意差を認めた因子は、性別では女性(p=0.0261)、組織型ではホジキンリンパ腫(p=0.0152)、ステロイド投与期間では61日以上(p<0.001)であった。ホジキンリンパ腫に対する化学療法のBEACOPPも有意な傾向が認められた(p=0.0509)。リツキシマブ使用の有無では発症頻度に差はなかった。次に、各化学療法の「ステロイド投与期間」および「積算量」「治療

 初発悪性リンパ腫症例における帯状疱疹の発症頻度は12.2%(23/188名)であった。また、リスク因子は、女性、ホジキンリンパ腫、初回化学療法がBEACOPP、ステロイドの投与期間が長い、などであることが明らかとなった。リツキシマブの投与は帯状疱疹の発症には関連しないと考えられた。 今後、さらに症例を集積し、発症リスクが高い患者、特にステロイドの投与期間が長い患者に対する内服抗ヘルペスウイルス薬の予防投与について、至適投与方法や有効性を検討する必要がある。

まとめ

1) Johnson RW et al. BMC Med. 8 37(2010)2) 高橋直樹他. 埼玉医科大学雑誌. 37(2)93(2011)

注: CHOP=シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロンR-CHOP=リツキシマブ+CHOPCyclOBEAP-R=シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン+ブレオマイ       シン+エトポシド+リツキシマブABVD=ドキソルビシン+ブレオマイシン+ビンブラスチン+ダカルバジンBEACOPP=シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン+ブレオマイシン      +エトポシド+プロカルバジンR-HyperCVAD/MA(以下のコースA→コースB)R-HyperCVAD(コースA)=リツキシマブ+シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+            デキサメタゾンR-MA(コースB)=リツキシマブ+メトトレキサート+シタラビン

表2 帯状疱疹発症のリスク因子(単変量解析)

高橋直樹他. 埼玉医科大学雑誌. 37(2)93(2011)

表3

使用別の発症頻度は、あり15名(65.2%)、なし8名(34.8%)であった。 帯状疱疹の合併症として、帯状疱疹後神経痛(Post-Herpetic Neuralgia:PHN)を6名(26.1%)に認めた。ビンクリスチンにより軸索障害を起こしている神経細胞に水痘・帯状疱疹ウイルスが感染することでPHNに移行しやすくなっていると考えられる。なお、PHNは帯状疱疹発症後1ヵ月以上、痛みが持続する場合とした。帯状疱疹治療には主にアシクロビル点滴静注を用い、全例で皮膚症状は改善した。

BEACOPP

R-CHOP

CyclOBEAP-R

R-HyperCVAD/MA

ABVD

5199.0

2488.9

2476.9

8966.0

0

8.3

16.7

25.0

16.7

12.5

84~112

30~40

42

32

0

*1 ステロイド積算量は、プレドニゾロン換算量で計算*2 治療強度は、ドキソルビシンの用量強度で計算

帯状疱疹発症頻度(%)

(5/11名)

(13/112名)

(2/31名)

(0/4名)

(0/5名)

ステロイド投与期間(日)

ステロイド積算量*1(mg)

治療強度*2 (mg/m2/週)

強度」と帯状疱疹発症との関連性を調べた(表3)。BEACOPPはステロイド投与期間が84~112日と最も長く、帯状疱疹の発症頻度が最も高い化学療法であった。ステロイド積算量が最も多いのはR-HyperCVAD/MA、治療強度が最も高いのはCyclOBEAP-Rであったが、発症頻度はそれぞれ0%(0/4名)および6.5%(2/31名)と低かった。したがって、ステロイドの積算量や治療強度よりもステロイド投与期間が帯状疱疹発症に関連すると考えられた。

年齢

性別

組織型

組織型(ホジキンリンパ腫)

組織型(非ホジキンリンパ腫)

臨床病期

合併症

診断時IgG値

リツキシマブの使用

化学療法

ステロイド投与期間(日)

ステロイド積算量(mg)

45.5

11.6

6.5

0.0

0.0

<6060≦男性女性ホジキンリンパ腫非ホジキンリンパ腫LRMCNSLD低悪性度中・高悪性度Ⅰ、ⅡⅢ、Ⅳありなし<800800≦CHOPR-CHOPCyclOBEAPCyclOBEAP-RBEACOPPR-HyperCVADABVDその他ありなし0~3031~6061~0~2,9993,000~

10/7113/1178/10615/825/16

18/1721/22/42/90/14/28

14/1445/63

18/1258/80

15/10812/798/411/12

13/1121/82/315/110/40/51/5

15/1478/41

12/1035/766/9

10/7513/113

(14.1)(11.1)(7.5)(18.3)(31.3)(10.5)(50.0)(50.0)(22.2)(0.0)(14.3)(9.7)(7.9)(14.4)(10.0)(13.9)(15.2)(19.5)(8.3)(11.6)(12.5)(6.5)(45.5)(0.0)(0.0)(20.0)(10.2)(19.5)(11.7)(6.6)(66.7)(13.3)(11.5)

0.5493

0.0261

0.0152

0.6198

0.4764

0.2017

0.1985

0.1078

0.0509

0.1078

<0.001

0.7079

各化学療法のステロイド投与期間、積算量、治療強度と帯状疱疹発症頻度

因子 症例数(%) p値