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PRDV検査におけるHot-Start-PCRと Cool-Start-PCRの感度比較(短報) 濱田 豊市 (豊前海研究所) Comparison of Hot-Start-PCR and Cool-Start-P in PRDV Inspection Toyoichi HAMADA (Buzenkai Laboratory) 現在,クルマエビ類の急性ウイルス血症(PAV;Pen aeid acutu viremia)の迅速診断法の一つとして,各機 関でPCR(polymerase chain reaction)法によるウイ ルス検査が実施されている。 現法1)の,Cool-Start法は2段階の増幅(2Step- PCR)が必要であるため,1Step-PCRに比べコストが 高く,2段階目となる再接種時に何等かの汚染(コンタ ミ)が生じる危険性もある。そこで,1Step-PCRで2 Step-PCRと同等の検査感度を得るために,増幅回数 を増やすことができる耐熱性DNAポリメラーゼの特徴 を利用するHot-Start-PCRを試験的に導入し,Coo1- Start-PCRとの検査感度を比較した。 材料及び方法 Hot-Start-PCR(以下,H-Sと略記。)とCool- Start-PCR(以下,C-Sと略記。)のプロトコール (操作手順)を図1に対比させて示した。また,反応液 の割合を表1に示した。 C-S法におけるTaq DNAポリメラーゼは,増幅サ イクル後期になると熱により酵素の大半が失活してしま うため,その増幅可能回数には制限があるといわれてい る。一方,H-S法の耐熱性Taq DNAポリメラーゼは, 増幅回数に合わせて活性が向上する特性を有しているの で増幅回数を極限まで増やすことができるといわれてい る。したがって,目的増幅産物を多量に得るためには, C-S法は2ステップ(2段階)の増幅を必要とするの に対し,H-S法では1ステップでそれが可能である。 なお検査材料には,従来のC-S法で,1stでは陰性 プレヒート 1 熱変成 アニーリング 伸張反応 1 伸張反応 CooL-Start法 Hot-Start サ信 94℃ 7min 95℃lOmin 1 940C30sec , 940C30sec サ票ル〔 570C 60sec 72℃ 60sec 57cc 60sec 72℃ 60sec 1 72℃ 5min 72℃ 5min J 1 4℃lOmin 4℃lOmin TaqDN掴.Uマラ寸 Takara(EX)TadM pEAmp ステップ数 2 1 *サーマルサイクラーは、パーキンエルマー社製(PCR System2400)を使用 区‖ プロトコールの違い(Hot,Cool-Start) 表1反応液の割合(Hot,Co01-Start) Cool-Start法*1Hot-Start 滅菌蒸留水 10×反応バッファー dNTP プライマー プライマー 79!∠1 77!ノ1 10!∠1 10!月 8!月 10!月*2 1!バ 1/∠1 1〃1 1〃1 Taq DNAポリメラーゼ*3 0.5FL1 0.5FLl *1;水産庁研修による調整割合 *2;GeneAmplOXPCR Bufferll&M *3;HoトStart法;AmpliTaqGold(PE C00トStart法;Takara TaqTM(Taka でNested-PCRにおいてのみ陽性が確認された6社7 種類の配合飼料及び1社4種類の原料(ただし,オキア ミミールは試験的)を用いた。また,ヨシエビを用いて -87-

PRDV検査におけるHot-Start-PCRと Cool-Start-PCRの感度比較 ...尾程度とした。試験中の飼育水温は21.0~21.1 であっ た。結 果 配合飼料及びその原料についてのPCR検査結果を表

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PRDV検査におけるHot-Start-PCRと

Cool-Start-PCRの感度比較(短報)

濱田 豊市

(豊前海研究所)

Comparison of Hot-Start-PCR and Cool-Start-PCR Sensitivity

in PRDV Inspection

Toyoichi HAMADA

(Buzenkai Laboratory)

現在,クルマエビ類の急性ウイルス血症(PAV;Pen

aeid acutu viremia)の迅速診断法の一つとして,各機

関でPCR(polymerase chain reaction)法によるウイ

ルス検査が実施されている。

現法1)の,Cool-Start法は2段階の増幅(2Step-

PCR)が必要であるため,1Step-PCRに比べコストが

高く,2段階目となる再接種時に何等かの汚染(コンタ

ミ)が生じる危険性もある。そこで,1Step-PCRで2

Step-PCRと同等の検査感度を得るために,増幅回数

を増やすことができる耐熱性DNAポリメラーゼの特徴

を利用するHot-Start-PCRを試験的に導入し,Coo1-

Start-PCRとの検査感度を比較した。

材料及び方法

Hot-Start-PCR(以下,H-Sと略記。)とCool-

Start-PCR(以下,C-Sと略記。)のプロトコール

(操作手順)を図1に対比させて示した。また,反応液

の割合を表1に示した。

C-S法におけるTaq DNAポリメラーゼは,増幅サ

イクル後期になると熱により酵素の大半が失活してしま

うため,その増幅可能回数には制限があるといわれてい

る。一方,H-S法の耐熱性Taq DNAポリメラーゼは,

増幅回数に合わせて活性が向上する特性を有しているの

で増幅回数を極限まで増やすことができるといわれてい

る。したがって,目的増幅産物を多量に得るためには,

C-S法は2ステップ(2段階)の増幅を必要とするの

に対し,H-S法では1ステップでそれが可能である。

なお検査材料には,従来のC-S法で,1stでは陰性

プレヒート

1

熱変成

アニーリング

伸張反応

1

伸張反応

保  存

CooL-Start法    Hot-Start法

サ信

94℃ 7min        95℃lOmin

↓            1

940C30sec      , 940C30sec

サ票ル〔570C 60sec

72℃ 60sec

57cc 60sec

72℃ 60sec

↓            1

72℃ 5min         72℃ 5min

J            1

4℃lOmin         4℃lOmin

TaqDN掴.Uマラ寸     Takara(EX)TadM pEAmpliTaqGoldTM

ステップ数          2           1

*サーマルサイクラーは、パーキンエルマー社製(PCR System2400)を使用

区‖ プロトコールの違い(Hot,Cool-Start)

表1反応液の割合(Hot,Co01-Start)

Cool-Start法*1Hot-Start法

滅菌蒸留水

10×反応バッファー

dNTP

プライマー

プライマー

79!∠1   77!ノ1

10!∠1   10!月

8!月   10!月*2

1!バ    1/∠1

1〃1   1〃1

Taq DNAポリメラーゼ*3 0.5FL1  0.5FLl

*1;水産庁研修による調整割合

*2;GeneAmplOXPCR Bufferll&MgC12Solution

*3;HoトStart法;AmpliTaqGold(PERKINELMER)

C00トStart法;Takara TaqTM(Takara)

でNested-PCRにおいてのみ陽性が確認された6社7

種類の配合飼料及び1社4種類の原料(ただし,オキア

ミミールは試験的)を用いた。また,ヨシエビを用いて

-87-

濱田 豊市

配合飼料摂餌後の胃(内容物を含む)及び排植物につい

ても経時的に両方法による検査を行った。なお,試験に

用いたヨシエビは,研究所内で種苗生産した平均全長が

32.5mmのもの200尾で,1回当たりのサンプル数は10

尾程度とした。試験中の飼育水温は21.0~21.1℃であっ

た。

結    果

配合飼料及びその原料についてのPCR検査結果を表

2に,示した。なお,陽性は1ポイント,陰性は0ポイ

トとし,感度を得点方式で集計した。同様に,配合飼料

摂餌後の胃及び排泄物の経時的な検査結果を図2及び表

3に示した。

表2に示したように,従来のC-S法のNested-PCR

で配合飼料については5種類(4社),原料については

エビ殻ミールのみに陽性が見られ,7点であった。また,

H-S法でも,同点の結果(7点)が得られた。

表2にでは,C-S法のNested-PCRでは5点である

のに対し,H-S法では7点とC-S法より高い得点が得

られた。

考    察

C-S法とH-S法の検査感度得点の比較を表2,3の

合計点でみると,H-S法は14点で,C-S法は12点とH-

S法が2点多く,検査感度が優れていると考えられた。

また,DNA増幅時間だけをとってみても,C-S法が1

ラウンド2時間を2回実施するため,4時間程度を要す

るのに対し,H-S法では,一度の3時間程度と約1時

間の短縮となり,二次増幅を実施する必要がないことか

らコンタミの危険性もなくなり,使用器具についても一

度で済むため節約できる等,副次的効果も期待される。

以上のことから,現在実施しているPRDV(Penaeid

rod shaped DNA virus)のDNA検出を目的とした

PCR検査においては,同じプライマーを使用するとい

う条件下では,H-S法の方がより簡便で感度も優れて

いると考えられた。

文    献

1)木村武士ら;PCR法におけるPRDVの検出。魚病

研究,31,93-98(1996)

表2 C-S法とH-S法の配合飼料と原料のPCR検査結果

ネガティブコントロール

配合飼料1     A社

配合飼料2      A社

配合飼料3      B社

配合飼料4      C社

配合飼料5      D社

配合飼料6      E社

配合飼料7      F社

+

+

+

+

+

原料1 魚粉    F社

原料2 イカミール F社

原料3 エビ殻ミール F社       +

原料4 オキアミミール F社

配合飼料7,     F社       +

得   点             7    7

表3 C-S法とH-S法による胃と排泄物のPCR検査結果

ヨシエビ(胃) 給餌前

給餌後  0時間         +

1時間    +    +

3時間

6時間    +    +

12時間

20時間

32時間

44時間

ヨシエビ(排泄物)給餌後 0~1時間  +

1~3時間   +

3~6時間

6~12時間   +

12~20時間

20~32時間

32~44時間

+

+

+

+

得     点            5

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PRDV検査におけるC-S法とH-S法の感度比較

(   (   (   (   (   (   (   (

董善幸妻妻≡善幸幸三)  )  )  )  ) F→N m寸

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図2 PCR検査(電気泳動)結果

-89-

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