5
©IYASAREE Inc. 学校の先生に至っては、食事の強要などしようものなら、すぐに親からクレームが飛んでくる世の中であ る。さらに一人っ子の多くなった子供たちは、将来のため、と習い事や塾に忙殺される。その結果、減った 時間と言えば、家族と共に、様々な話をしながら様々な料理を味わう、食事の時間である。 21世紀の子供たちにとっての最初の受難とは、我々大人によって恐ろしいまでに「食の経験値」を削られ てしまったということではないだろうか。 中高年層に比べ、若年層は食の経験値が少ないのではないか、という仮説。これを踏まえた上で、若年 層(19歳から27歳の男性74名、女性204名、計278名)の「嫌いな食べ物」をご覧いただきたい(図1)。 図1:嫌いな食べ物 上図は、2012年から2016年にかけて、「嫌いな食べ物を理由とともに最大3個教えてください」という自 由記述形式の設問によるアンケート結果を基に、3回以上出現した食べ物を抽出し、左から出現数の多い 順に並べたものだ。まず第1位が33人で「レバー」。次に2位の「パクチー」(30人)、そして3位の「セロリ」 27人)と続く。ここまでは特徴的な食材ばかりだ。苦味と生臭さを持つレバー、強い苦味と香りを持つセロ リ、独特の匂いと食感を持つ納豆。噛むたびに強い香りが鼻に抜けるパクチー。味やにおい、食感のいず れか、もしくはいずれもの出力が強い食べ物が多数の人に嫌われる傾向にあることがわかる。ちなみに、 2016年ぐるなびの「今年の一皿Ⓡ」に選ばれたパクチーではあるが、若年層には御覧の嫌われようだ。全 体のトレンドと若年層の味覚が違ういい例と言えるだろう。 そして、第4位の「納豆」「トマト」である。特にトマトは野菜の中で最も人気があり、また世界的にも他の野 菜と比較して桁外れに大きな市場を持つが、トマトが苦手な若年層も多いようだ。 第一章「若者たちの好きな食べもの・嫌いな食べもの」 33 30 27 21 21 20 16 16 13 12 9 9 8 7 7 7 7 6 6 6 5 5 5 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 3 3 3 3 3 3 3 3 0 5 10 15 20 25 30 35

PowerPoint プレゼンテーションネットや書籍で頒布されており、情報化社会が1日2食に拍車をかけていることは間違いないだろう。 また、

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: PowerPoint プレゼンテーションネットや書籍で頒布されており、情報化社会が1日2食に拍車をかけていることは間違いないだろう。 また、

©IYASAREE Inc.

学校の先生に至っては、食事の強要などしようものなら、すぐに親からクレームが飛んでくる世の中であ

る。さらに一人っ子の多くなった子供たちは、将来のため、と習い事や塾に忙殺される。その結果、減った

時間と言えば、家族と共に、様々な話をしながら様々な料理を味わう、食事の時間である。

21世紀の子供たちにとっての最初の受難とは、我々大人によって恐ろしいまでに「食の経験値」を削られ

てしまったということではないだろうか。

中高年層に比べ、若年層は食の経験値が少ないのではないか、という仮説。これを踏まえた上で、若年

層(19歳から27歳の男性74名、女性204名、計278名)の「嫌いな食べ物」をご覧いただきたい(図1)。

図1:嫌いな食べ物

上図は、2012年から2016年にかけて、「嫌いな食べ物を理由とともに最大3個教えてください」という自

由記述形式の設問によるアンケート結果を基に、3回以上出現した食べ物を抽出し、左から出現数の多い

順に並べたものだ。まず第1位が33人で「レバー」。次に2位の「パクチー」(30人)、そして3位の「セロリ」

(27人)と続く。ここまでは特徴的な食材ばかりだ。苦味と生臭さを持つレバー、強い苦味と香りを持つセロ

リ、独特の匂いと食感を持つ納豆。噛むたびに強い香りが鼻に抜けるパクチー。味やにおい、食感のいず

れか、もしくはいずれもの出力が強い食べ物が多数の人に嫌われる傾向にあることがわかる。ちなみに、

2016年ぐるなびの「今年の一皿Ⓡ」に選ばれたパクチーではあるが、若年層には御覧の嫌われようだ。全

体のトレンドと若年層の味覚が違ういい例と言えるだろう。

そして、第4位の「納豆」「トマト」である。特にトマトは野菜の中で最も人気があり、また世界的にも他の野

菜と比較して桁外れに大きな市場を持つが、トマトが苦手な若年層も多いようだ。

第一章「若者たちの好きな食べもの・嫌いな食べもの」

33

30

27

21 2120

16 16

1312

9 98

7 7 7 76 6 6

5 5 54 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

3 3 3 3 3 3 3 3

0

5

10

15

20

25

30

35

レバー

パクチー

セロリ

納豆

トマト

にんじん

しいたけ

貝類

ナス

ピーマン

ウニ

グリーンピース

ゴーヤ

梅干し

きのこ

チーズ

ホルモン

マヨネーズ

オクラ

牛乳

焼き魚

春菊

メロン

魚 漬物

バナナ

ラーメン

アボカド

いくら

うなぎ

えび

ネギ

ヨーグルト

牡蠣

銀杏

刺身

しそ

しょうが

スイカ

ブロッコリー

タコ

ワサビ

嫌いな食べ物

Page 2: PowerPoint プレゼンテーションネットや書籍で頒布されており、情報化社会が1日2食に拍車をかけていることは間違いないだろう。 また、

©IYASAREE Inc.

図6:「好きな食べ物」「嫌いな食べ物」の旨味の味マップ

にんじんA

にんじんB

にんじんC

ピーマンA

ピーマンB

ピーマンC

ホタテ貝柱

ホタテヒモ

トマトA トマトBトマトC

からあげA からあげB

からあげC

チョコレートA

チョコレートB

チョコレートC

しょうゆラーメンA

しょうゆラーメンBしょうゆラーメンC

-5

0

5

10

15

20

0 5 10 15 20 25 30

旨味

旨味の余韻

第一章「若者たちの好きな食べもの・嫌いな食べもの」

もちろん同センサーは万能ではない。おいしさの構成要素のうち、見た目、においや食感といった他の

感覚については測定が不可能であるし、痛覚に近い感覚である辛味は測定ができず、電位を持たない甘

味の測定はあまり得意とはしていない。高感度甘味料の甘味を測定することもできない。しかし、世界中の

センサーが苦手としてきた苦味の測定を可能にし、口に含んださまざまな呈味物質の相互作用を測定でき

るようになったということは、味覚センサー誕生から25年以上たった現在においても、画期的と言える技術

なのである。

本センサーを用い、前述のアンケート「好きな食べ物」「嫌いな食べ物」のランキングにあった、ラーメン、

トマト、チョコレート、からあげ、にんじん、ピーマン、魚介類(ホタテ)のデータを二次元散布図に展開した。

まず、先味(一口目に感じる味)の「旨味」と後味(ごくんと飲み込んだ後に残っている味)の「旨味の余

韻」について、データをご覧いただきたい。

なお、味分析を行う際、X、Y2軸の味データによる二次元散布図を「味マップ」と定義しているため、ここで

も以下は同じ呼称を用いることとする。

Page 3: PowerPoint プレゼンテーションネットや書籍で頒布されており、情報化社会が1日2食に拍車をかけていることは間違いないだろう。 また、

©IYASAREE Inc.

前頁表3は2013年に行った五味識別テストの結果である。先程と同じく、図表の中の「○」は正解、それ

以外の単語は各パネルの誤答を示している。2012年度に比べ、パネルは2人減って15名となっている。ま

た、男性が2名減っているため、やや女性比率が上がっている。

全体の正答数を見ると、正答数が激減していることがわかるだろう。正答数平均は1.2。前の年の半分以

下になってしまっている。さらに、正答数0と正答数1のパネルが9名。60%のパネルが基本五味について

ほとんど認識することができなかったのだ。

この正答数の低さをどう読み取るべきか。少なくとも、「年々味オンチになっている」と断ずるにはデータ

が少なすぎる。しかし、2012年の結果は下限ではなかったということは言える。そして、2013年の結果が下

限であるとも限らないのだ。食の経験不足、もしくは経験過多による、若年層とそれ以外の世代の味覚認

知の違いは、予想以上に大きくなってしまっているのではないか。そういった驚愕さえも含む推測を、この

結果は示唆しているのである。我々食品業界に携わる者の、現在持っている危機感さえも、ひょっとしたら

足らないのかもしれない。そして、最も高い正答数も「3」が1名存在するだけだ。今回行った五味識別テスト

においては、ほとんどのパネルが味を認識することができなかったと言える。ここから、2013年の五味識別

テストに参加してくれたパネル15名は全員の味覚識別能力に大きな差異はなく、平均を逸脱したパネルは

いなかったものと考えられる。ということは、突出した人間のいない彼らが、「若年層」の平均的な能力値を

示している可能性だってあるのだ。続いて2012年時と同様に正誤表についても検討してみたい。

第二章「『若者の味覚はおかしい』という話は本当なのか?」

甘味 酸味 苦味 塩味 旨味

正解 0 2 4 11 2

水 11 8 8 0 2

旨味 3 0 0 2 0

酸味 1 0 2 2 3

塩味 0 2 0 0 1

苦味 0 2 0 0 2

甘味 0 1 1 0 5

正答率 0.00 13.33 26.67 73.33 13.33

表4:五味識別テスト正誤表(2013年)

まず、特筆すべきは「甘味」の正答率が「0」であったという事実であろう。さらに、73%以上の人間が、

0.4%濃度ショ糖水溶液を「水」と回答していることも注目すべき点だ。2012年に行った五味識別テストのと

きよりも、さらに仮定した特徴が如実に現れている。やはり若年層は甘い食べ物に慣れすぎていて、わず

かな甘味が認知できなくなっているのだ。

また、「旨味」の正答率も低かったが、2012年時と違い「酸味」の正答率も極端に下がっている。また「苦

味」の正答率も下がり、なおかつ酸味についても苦味についても、8人のパネルが「水」と回答しているのだ。

Page 4: PowerPoint プレゼンテーションネットや書籍で頒布されており、情報化社会が1日2食に拍車をかけていることは間違いないだろう。 また、

©IYASAREE Inc.

図22:一日何食食べるか

では、ここで全体では一日何食を摂っているのかを見ていこう。毎日3食を摂っているパネルは42%。筆

者としては予想以上に少ないと感じた。朝食欠食者の割合から考えても少ない数字である。「多くの日が3

食」のパネルを合わせても74%。朝食以外の食事を抜くパネルも多いようで、「2食の日が多い」と答えた

パネルは23%にも及んだ。

その原因を推測するに、まず「朝食抜き健康法」と呼ばれる、1日2食を推奨する情報もかなりインター

ネットや書籍で頒布されており、情報化社会が1日2食に拍車をかけていることは間違いないだろう。また、

ダイエットに対する執着から、夕食を抜く者も少なからずいるのではないだろうか。さらに、食への関心そ

のものが薄くなり、「面倒くさい」「お金がもったいない」などの理由で食事を少なくしている者もいるのでは

ないだろうか。

各年の変化を追っていくと、増減を繰り返しながらの減少傾向にある。直近3年は「毎日3食」が30%台。

それに比例して「2食の日が多い」パネルも増えている。このまま若年層の間で一日の喫食回数が減って

いく傾向は避けられないのではないだろうか。

第三章「若者たちを取り巻く食環境」

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年

42%

32%

23%

1%

2%

一日何食

毎日3食

多くの日が3食

2食の日が多い

1食の日が多い

3食以上の日が多い

51%

29%

16%4%

一日何食2012

毎日3食

多くの日が3食

2食の日が多い

1食の日が多い

3食以上の日が多い

60%20%

16%4%

一日何食2013

毎日3食

多くの日が3食

2食の日が多い

1食の日が多い

3食以上の日が多い

37%

41%

21%0%1%

一日何食2014

毎日3食

多くの日が3食

2食の日が多い

1食の日が多い

3食以上の日が多い

31%

30%

31%

4%

4%

一日何食2015

毎日3食

多くの日が3食

2食の日が多い

1食の日が多い

3食以上の日が多い

37%

29%

32%

2%

0%

一日何食2016

毎日3食

多くの日が3食

2食の日が多い

1食の日が多い

3食以上の日が多い

Page 5: PowerPoint プレゼンテーションネットや書籍で頒布されており、情報化社会が1日2食に拍車をかけていることは間違いないだろう。 また、

©IYASAREE Inc.

さらにもうひとつ、確かめなければならないことがある。第二章で述べたように、現在の若者たちは甘味

について鈍感になっている可能性がある。となれば、幼少期の頃から、引いては現在の食生活まで、必要

以上に甘いものを摂っているのではないかと考えた。そこで2016年は、「週に甘いものを何回食べるか」を

調査項目に加えた。まずは2016年、41名のパネル全体のグラフをご覧頂こう。

図34:1週間に甘いものを食べる回数・全体

第三章「若者たちを取り巻く食環境」

7%

39%42%

7%5%

甘いものを週に何回

ほぼ毎食

ほぼ毎日

週に2、3回

週に1回程度

ほとんど食べない

なんと、「ほぼ毎食」と答えたパネルが7%、「ほぼ毎日」と答えたパネルが39%に上った。5割弱の人間が

毎日甘いものを口に入れている計算になる。「週に2、3日」と回答したパネルを含めると、9割弱の若者た

ちが3日に1回は必ず甘いものを食べている計算になるのだ。これは確かに甘いものの摂取回数が多いと

言えそうだ。さらに、属性ごとの甘いもの摂取回数を追っていこう。

図35:1週間に甘いものを食べる回数・居住環境別

一人暮らし 同居