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高血圧かどうか、高血圧であればどのような病型なのかを診断するため、まずは病歴を確
認します。高血圧の原因となる疾患や生活習慣、出来事の有無を確かめることは、特に本
態性高血圧か二次性高血圧かを診断する材料として重要です。
二次性高血圧については『9.高血圧の種類』をご参照ください。
診察では身体所見を中心に確認します。血圧は安静座位の状態で測定します。初診時には
脈拍および血圧の左右差や、血圧と脈拍の起立性変動を確かめます。肥満度はBMIと腹囲に
よって程度を評価します。
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高血圧の検査は心血管リスクの評価と二次性高血圧の診断のための検査を費用対効果も踏
まえて検討し、実施します。
一般検査は初診時のほか、経過観察中に年に数回実施します。血液生化学検査、血球数算
定、尿一般検査、胸部X線写真(心胸郭比)、心電図を行います。
血液生化学検査項目:血球検査、ヘモグロビン、ヘマトクリット、クレアチニン(Cr)
(またはシスタチンC)、尿酸、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、空腹時トリグリセ
ライド(TG)、HDLコレステロール、総コレステロール(またはLDLコレステロール)、
空腹時血糖、ALT、γ-GT、血清CrあるいはシスタチンCからeGFRを算出。
臓器障害およびリスク評価推奨項目では、認知機能テスト、頭部MRI、眼底検査などの脳お
よび眼底の評価、頸動脈エコーなどの血管の評価、心電図や心エコーなどの心臓の評価、
eGFRや尿蛋白・尿中微量アルブミンなどの腎臓の評価、HbA1cや75gOGTTなどの糖代謝
評価、起立試験などの自律神経の評価を行います。
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高血圧治療ガイドライン2014では、複数の大規模臨床試験の結果から、一般的な降圧目標
は140/90mmHg未満とされています。ただし、心血管病のリスクが高い糖尿病、蛋白尿
陽性のCKD患者では、130/80mmHg未満を降圧目標としています。臓器障害を伴うことの
多い後期高齢者では、150/90mmHg未満を降圧目標として慎重に降圧治療を進め、最終的
な降圧目標は140/90mmHg未満とします。
家庭血圧の降圧目標は、観察試験の結果より、一般高血圧では135/85mmHg未満、糖尿病
合併高血圧では125/75mmHg未満と設定されています。他の病態ではエビデンスは無いも
のの、家庭血圧による高血圧診断時の血圧差を考慮して、家庭血圧の目標値は診察室血圧
よりも5mmHgずつ低い値を目安としています。
<参照>10.高血圧の診断(高血圧基準と分類)
<異なる測定法における高血圧基準(mmHg)>
収縮期血圧 拡張期血圧
診察室血圧 ≧140 かつ/または ≧90
家庭血圧 ≧135 かつ/または ≧85
自由行動下血圧
24時間 ≧130 かつ/または ≧80
昼間 ≧135 かつ/または ≧85
夜間 ≧120 かつ/または ≧70
高血圧治療ガイドライン2014, P20, 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編, 日本高血圧学会発行
診察室外血圧には家庭血圧と自由行動下血圧があり、いずれも診察室血圧と同等かそれ以
上の臨床的価値があるとされています。
日本では高血圧患者の77%(4人に3人)が家庭血圧計を所有しており、家庭血圧の測定が
普及しています。家庭血圧は長期にわたる多数回の測定が可能であり、季節変動などの長
期の血圧変動性の評価にも有用とされています。家庭血圧による平均値は再現性に優れて
いることから、家庭血圧は生命予後の優れた予知因子であると報告されています。
このような背景から、高血圧治療ガイドライン2014では、診察室血圧と家庭血圧の間に診
断の差がある場合は家庭血圧が優先されることになっています。
<血圧測定と高血圧診断手順>
15 高血圧治療ガイドライン2014, P21, 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編, 日本高血圧学会発行
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血圧は測定時の条件で変化することがあり、それぞれの条件で基準値も異なります。高血
圧は診察室血圧と診察室外血圧によって、正常域血圧、白衣高血圧、仮面高血圧、(持続
性)高血圧に分けられます。
診察室血圧が高血圧、診察室外血圧が正常域血圧を示す状態を白衣高血圧としています。
逆に、診察室血圧が正常域血圧、診察室外血圧が高血圧である状態を仮面高血圧としてい
ます。その病態は多様であり、早朝高血圧や夜間高血圧などが挙げられます。早朝高血圧、
昼間高血圧、夜間高血圧は仮面高血圧を構成する病態で、診察室外血圧が上昇している時
間帯がそれぞれ異なります。
仮面高血圧の高リスク群としては
降圧治療中の高血圧患者、正常高値血圧者、喫煙者、アルコール多飲者、精神的ストレス
(職場、家庭)が多い者、身体活動度が高い者、心拍数の多い者、起立性血圧変動異常者
(起立性高血圧、起立性低血圧)、肥満・メタボリックシンドロームや糖尿病を有する患
者、臓器障害(特に左室肥大)や心血管疾患の合併例など
が挙げられ、これらの対象者には診察室血圧に関わらず、家庭血圧やABPMを積極的に測定
することが重要です。
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初診時における高血圧管理計画は、高血圧の原因と種類を診断し、全ての患者に生活習慣
の修正を指導した上でリスク別に分けて治療していきます。血圧測定は初診時に血圧が高
くても日を改めて複数回測定し、血圧高値であることを確認します。
<参照>11.高血圧の診断
心血管病リスク層別化(低リスク群・中等リスク群・高リスク群の詳細)
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高血圧の発症に関わる“環境要因”は生活習慣の影響を受けるため、全ての高血圧患者に対し
て生活習慣修正の教育や指導を行います。
特に食塩の過剰摂取は血圧上昇と強く関連し、減塩の降圧効果が証明されています。様々
な大規模臨床試験の結果から、欧米のガイドラインでは食塩摂取量6g/日未満あるいはそれ
以下が推奨されており、2012年発表のWHOのガイドラインでは5g/日未満が強く推奨され
ています。JSH2014では日本の実情を考慮し、減塩目標値は6g/日未満と設定されました。
日本では依然として平均食塩摂取量が10g/日を超えており、達成には大きな努力が求めら
れます。メタ解析の成績では減塩1g/日ごとに収縮期血圧が約1mmHg減少するという報告
もあることから、少しずつでも減塩できるように長期的な指導が必要です。
DASH食は野菜、果物、低脂肪乳製品などを中心とした食事摂取(飽和脂肪酸とコレステ
ロールが少なく、カルシウム、カリウム、マグネシウム、食物繊維が多い)のことであり、
高血圧の食事療法にも取り入れられています。ただし、DASH食は欧米を中心に検討されて
いるため、日本では資料として推奨されるものが乏しく、健常者を対象にしている『食事
バランスガイド』などが参考になります。
一方、重篤な腎障害を伴う患者の場合、高カリウム血症を防ぐためにも野菜・果物の積極
的摂取は推奨されません。同様に肥満者や糖尿病患者などのカロリー制限が必要な患者で
は、糖分の多い果物の過剰摂取も勧められません。
n-3多価不飽和脂肪酸(魚油に多く含まれる)の摂取量が多い人は血圧が低い傾向にあり、
介入試験のメタ解析で魚油の摂取増加は高血圧患者に降圧効果をもたらすことが示されて
います。
その他、減量、運動、節酒、禁煙も高血圧の改善・予防に重要です。
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降圧薬治療における第一選択薬には、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬のいずれかを
用います。これらの薬剤は単剤あるいは併用で十分な降圧効果と忍容性、豊富な心血管病
発症抑制のエビデンスを有しています。
また、これらの第一選択薬にβ遮断薬を加えた5種類は主要選択薬と位置付けられ、積極的
な適応や禁忌、慎重使用となる病態や合併症の有無に応じて使用されます。
降圧目標値を達成するために、異なる種類の降圧薬の併用が多く行われます。併用療法に
よる厳格な血圧管理は、心血管イベントのさらなる抑制に寄与するとメタ解析により報告
されています。現在、第一選択薬の間で併用が推奨される組合せは①ACE阻害薬あるいは
ARB+Ca拮抗薬、②ACE阻害薬あるいはARB+利尿薬、③Ca拮抗薬+利尿薬となります。
第一選択薬の併用療法を行っても目標血圧に達しない場合は、β遮断薬、α遮断薬、アルド
ステロン拮抗薬、直接的レニン阻害薬、その他として非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、中
枢性交感神経抑制薬、ヒドララジンなどの追加が考慮されます。
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降圧薬の投与にあたっては、合併症のないⅠ度高血圧(160/100mmHg未満)の場合は、
第一選択薬(Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬)の中から1剤を選んで少量から開始
します。副作用が出現する、あるいはほとんど降圧効果が得られない場合は他の降圧薬に
変更します。降圧効果が不十分であれば、増量するか、もしくは他の種類の降圧薬を少量
併用投与します。ただし、ACE阻害薬やARB以外の降圧薬は、増量した場合、副作用の出
現頻度が増加します。
Ⅱ度以上(160/100mmHg以上)の高血圧の場合、通常用量の単剤もしくは少量の2剤併
用から開始してよいとされていますが、降圧薬の配合剤は保険適応上第一選択薬となって
いませんので注意が必要です。2剤併用でも降圧目標を達成できなければ3剤を併用し、さ
らに必要により4剤を併用します。
降圧薬を服用していても、家庭血圧や24時間血圧測定で得られたトラフの血圧が高値の場
合、朝に服用している降圧薬を晩に服用したり、朝晩の2回に分服、または晩や就寝前に追
加投与することが試みられます。
降圧速度は、降圧目標には数ヵ月で達成するくらい緩徐なほうが副作用もなく望ましいと
され、特に血圧調節機能が減弱している高齢者は急激な降圧は避けるべきでしょう。
しかし、心血管病発症リスクが高い患者においては、治療開始後1-3ヵ月の間の降圧度の差
が疾患発症に影響したという成績があり、数週以内に降圧目標に達することが望ましいと
考えられます。
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それぞれ大規模臨床試験の成績などから、積極的適応あるいは不適応となる病態があり、
禁忌や慎重使用例を考慮した上で適した薬剤を選択するようにします。
主要降圧薬にはそれぞれ禁忌や慎重使用例があり、薬剤選択の際には注意が必要です。
非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の場合、心抑制作用を伴うため心不全や高度徐脈例に対し
て禁忌となり、潜在性心疾患を有する高齢者やジギタリス、β遮断薬と併用する際には十分
に注意します。
ARBは妊婦、授乳婦への投与は禁忌となり、重症肝障害患者には慎重投与となります。
eGFRが30mL/分/1.73m2以下の場合は、低用量から慎重に開始し、投与量を減らすなどの
配慮が必要です。
ACE阻害薬はARBとほぼ同様の禁忌と慎重投与ですが、まれに血管神経性浮腫による呼吸
困難が出現することがあるので注意します。また、最も多い副作用は空咳で20~30%に投
与1週間~数か月以内に出現しますが、中止により速やかに消失します。
利尿薬は電解質異常のほか、耐糖能低下や高尿酸血症などの代謝系への悪影響があります。
β遮断薬は利尿薬との併用、あるいは単独でも糖・脂質代謝に悪影響を与えることがありま
す。気管支喘息、Ⅱ度以上の房室ブロック、レイノー症状、褐色細胞腫に対しては禁忌で、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)には慎重投与となります。突然中止すると離脱症候群として狭
心症や高血圧発作が起こることもあるため、中止する場合は徐々に減量するようにします。
また、ベラパミルやジルチアゼムとの併用は徐脈や心不全をきたしやすいため注意が必要
です。
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上記に主な薬物相互作用の例を挙げています。降圧薬同士の組み合わせは降圧治療におい
てよく用いられる治療法ですが、β遮断薬+非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、RA系阻害薬
+K保持性利尿薬、中枢性交感神経抑制薬+β遮断薬では副作用を増強する可能性があるの
で特に注意が必要です。
そのほかには、他疾患の治療薬と降圧薬の組み合わせによっても降圧効果への影響などが
起こりうるため、患者さんが降圧薬以外にどのような薬剤を使用しているか確認する必要
があります。
また、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬を服用する患者さんには、グレープフルーツのジュー
スや果肉を摂取する場合は時間をあけるよう注意を促すことも重要です。