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2966 日 本 機 械 学 会 論 文 集(C編) 70巻698号(2004-10) 論 文No.04-0120 木材粉 の成形 に関す る研 究* (第3報,射 出成 形 の 可 能 性 と その 問題 点) 木恒 久*1,高倉 雄*2,飯塚 志*2 口克 彦*2,金山 公 三*3 Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood Powders Tsunehisa MIKI*4, Norio TAKAKURA, Takashi IIZUKA, Katsuhiko YAMAGUCHI and Kouzou KANAYAMA *4 Department of Mechanical and System Engineering, Kyoto Institute of Technology, Matsugasaki, Sakyo-ku, Kyoto-shi, Kyoto, 606-8585 Japan Injection tests of mixed wood powders of Cryptomeria japonica with Hinoki (Chamaecyparis) were carried out at various injection conditions ; injection pressure and its holding time, container and cavity temperatures, moisture content of wood powders, in order to confirm the possibility of near net shape forming of wood powders. Effects of injection conditions on the injection pressure- punch stroke relationships, the mechanical properties, bending strength and bulk density of injected products were discussed. The experimental results showed that the wood powders could not be injected into the cavity when a initial moisture content was 12% due to less fluidity of wood powders. The optimum conditions of container and cavity temperature existed regarding of the initial moisture content of wood powders. Successful injection mouldings were performed within the container temperature Tc=90~130℃ and the cavity temperature Tv 150±20℃ when the initial moisture content 100% powders were used. And also the injection pressure became small at the optimum mould temperature conditions since the fluidity of wood powders became improve. The bulk density and bending strength of injected product increase with increasing container and cavity temperature. However, an optimum condition existed for the initial moisture content of powders where the bulk density and bending strength became max. Maximum relative density and bending strength were 0.95 and 25 MPa at the container temperature Tc=130℃andthe cavity temperature Tv=170℃with initial moisture content MLA wood powders. Finally, it was also found that it the arbitrary cavity was using under appropriate injection conditions, it was possible to obtain the wood powders products with arbitrary shape. Key Words : Wood Powders, Injection, Near Net Shape, Environmental-Friendly, Initial Moisture Content, Temperature 1.緒 樹木に代表される木質バイオマスは持続的使用が可 能 な材 料 で あ る.こ の こ とか ら,木材 の 幅 広 い利 用 が 望 まれ るが,木材 は プ ラ スチ ッ クや 金 属 の よ う に塑 性 変 形 を与 え る こ とが 困 難 で あ る.し た が っ て,木材 の 持 続 性,低 環境 負荷 ・無 公 害 とい う利 点 を損 なわ な い 塑 性 加 工 技術 の 開発 が 期 待 され る. 木 材 の 塑性 加 工 に は,プ レス や 圧 延 を用 い た板 材 の 圧 密 技 術 の 開 発 が 進 ん で い る(1)(2).こ れ は,木材 本 来 が有 す る細 胞 壁 の 空 げ き な どを 強 制 的 に押 し つ ぶ し, 密 度 を高 め る こ とに よ って 強 度 を向上 させ る こ とが で きる.し か し,単に圧 縮 す る だ け で は,細胞 壁 の 形 状 回復 に よ って 所 定 の板 厚 に 固定 で きな い た め,圧密 後 の形 状 固 定 も同 時 に研 究 す る必 要 が あ るく3).ま た,木 材 を チ ッ プ状 に粉 砕 して,それ を金 型 に充 て ん し圧 縮 して 密度 を高 め る研 究 もな さ れ,こ の方 法 で は接 着 剤 を使 用 せ ず に木 材 チ ップ の固 形 化 が 可能 で あ る(4). 著 者 らは これ まで に 木材 粉 末 の み を原 料 と して,石 油 系 の接 着 剤 な ど を一切 使 用 せ ず に固形 化 させ る成 形 技 術 の 開発 に取 り組 ん で きた.木 材 粉 末 に適 当 な 圧力 お よび 熱 を加 え る こ とで硬 質 プ ラ スチ ックの よ うな成 形 体 が得 られ,加工 条 件 に よ っ て そ の強 度 は木 材 を し の ぐ こ とが わか った(5).こ の よ うな木 材 粉 末 の み を原 料とした成形技術が実用化できれば,木質材料におけ る使 用 時 のVOC(Volatile Organic Compounds)等 発 生 や 廃 棄 時 の 環 境 汚 染 問題 な どが 改 善 で き る.ま た,木 材 を粉 末 状 に し て使 用 す る た め,木質 バ イ オ マ スの よ り効 率 的 な利 用 が 可 能 にな る と と も に,金属 粉 末 な どの 粉末 成 形 技 術 に応 用 す る こ と に よ って,複雑 形 状 の木 質 製 品 のNear Net Shape成 形が可能にな る と考 え られ る(6). 本研究では,木材粉末のみを原料 として複雑形状の 木 質 製 品 を製 造 す るた め に射 出 成 形 を 試 み た.そ し て,射出 成形 に よ って 得 られ た成 形 体 の機 械 的性 質 に 及 ぼ す 射 出 圧 力,金 型(コ ン テ ナ,キ ャ ビテ ィ)温度 木材粉末の初期含水率 保圧力およびその保持時間の * 原 稿 受 付2004年2月12日. *1 正員,京都 工芸 繊 維 大 学工 芸 科 学 研 究科(〓606-8585京 市 左京 区松 ヶ崎 御所海 道町). *2 正員,京都工芸 繊維 大学 工芸 学部. *3 産業 技術 総 合研 究 所 中部 セ ン ター(〓463-003名 古屋 市 守 山区大 字下 志段 味字穴 が洞2266-98). E-mail : miki @ fm.mech.kit.ac.jp 176

Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood

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Page 1: Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood

2966

日本機械学会論文 集(C編)

70巻698号(2004-10)

論 文No.04-0120

木 材 粉 末 の 成 形 に 関 す る 研 究*

(第3報,射 出成形の可能性 とその問題点)

三 木 恒 久*1,高 倉 章 雄*2,飯 塚 高 志*2

山 口 克 彦*2,金 山 公 三*3

Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood Powders

Tsunehisa MIKI*4, Norio TAKAKURA, Takashi IIZUKA, Katsuhiko YAMAGUCHI and Kouzou KANAYAMA

*4 Department of Mechanical and System Engineering, Kyoto Institute of Technology, Matsugasaki, Sakyo-ku, Kyoto-shi, Kyoto, 606-8585 Japan

Injection tests of mixed wood powders of Cryptomeria japonica with Hinoki (Chamaecyparis) were carried out at various injection conditions ; injection pressure and its holding time, container and cavity temperatures, moisture content of wood powders, in order to confirm the possibility of near net shape forming of wood powders. Effects of injection conditions on the injection pressure- punch stroke relationships, the mechanical properties, bending strength and bulk density of injected products were discussed. The experimental results showed that the wood powders could not be injected into the cavity when a initial moisture content was 12% due to less fluidity of wood powders. The optimum conditions of container and cavity temperature existed regarding of the initial moisture content of wood powders. Successful injection mouldings were performed within the containertemperature Tc=90~130℃ and the cavity temperature Tv 150±20℃ when the initial moisture

content 100% powders were used. And also the injection pressure became small at the optimum mould temperature conditions since the fluidity of wood powders became improve. The bulk density and bending strength of injected product increase with increasing container and cavity temperature. However, an optimum condition existed for the initial moisture content of powders where the bulk density and bending strength became max. Maximum relative density and bending strength were0.95 and 25 MPa at the container temperature Tc=130℃ and the cavity temperature Tv=170℃ with

initial moisture content MLA wood powders. Finally, it was also found that it the arbitrary cavity was using under appropriate injection conditions, it was possible to obtain the wood powders products with arbitrary shape.

Key Words : Wood Powders, Injection, Near Net Shape, Environmental-Friendly, Initial Moisture Content, Temperature

1. 緒 言

樹木 に代表される木質バイオマスは持続的使用が可

能 な材料である.こ の こ とか ら,木 材の幅広 い利用 が

望 まれ るが,木 材 はプラスチ ックや金属 のように塑性

変形 を与 えることが困難 である.し たがって,木 材 の

持続性,低 環境 負荷 ・無公害 とい う利点 を損 なわ ない

塑性加工技術 の開発が期待 され る.

木材の塑性加工 には,プ レスや圧延 を用 いた板材 の

圧密技術 の開発が進 んで いる(1)(2).これ は,木 材本来

が有 す る細胞壁 の空 げきな どを強制的 に押 しつぶ し,

密度 を高め ることによって強度 を向上 させ ることがで

きる.し か し,単 に圧縮 するだけでは,細 胞 壁の形状

回復 によって所定の板厚 に固定 で きないため,圧 密 後

の形状 固定 も同時 に研究す る必要が あるく3).また,木

材 をチップ状に粉砕 して,そ れ を金型 に充 てん し圧縮

して密度 を高 める研究 もなされ,こ の方法 では接着剤

を使用せずに木材チ ップの固形化が可能 である(4).

著者 らは これ までに木材 粉末のみ を原料 として,石

油系の接着剤 などを一切使用せず に固形化 させ る成形

技術の開発 に取 り組んで きた.木 材粉末に適当な圧力

お よび熱を加 えることで硬質 プラスチ ックの ような成

形体が得 られ,加 工条件によってその強度 は木材 を し

の ぐことがわか った(5).こ の ような木材粉 末のみを原

料 とした成形技術が実用化で きれば,木 質材料 におけ

る使用時のVOC(Volatile Organic Compounds)等 の

発生 や廃棄時 の環境汚染 問題 な どが改 善 で きる.ま

た,木 材 を粉末状 にして使用 するため,木 質バ イオマ

スの より効率的 な利用が可能 にな るとともに,金 属粉

末 などの粉末成形技術 に応用す ることによって,複 雑

形状 の木質製 品のNear Net Shape成 形が可能 にな

ると考 えられる(6).

本研究では,木 材粉末のみを原料 として複雑形状 の

木質 製品 を製造 す るた めに射 出成形 を試 みた.そ し

て,射 出成形 によって得 られた成形体 の機械 的性 質に

及 ぼす射 出圧 力,金 型(コ ンテナ,キ ャ ビテ ィ)温度

木材粉末の初期含水率 保圧 力お よびその保持時 間の

* 原稿受 付2004年2月12日.

*1  正員,京 都工芸繊維大学工芸科学研究科(〓606-8585京 都

市左京区松 ヶ崎御所海道町).*2  正員,京 都工芸繊維大学工芸学部.*3  産業技術総合研究所中部センター(〓463-003名 古屋市守

山区大字下志段味字穴が洞2266-98).

E-mail : miki @ fm.mech.kit.ac.jp

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Page 2: Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood

木材 粉 末の 成形 に関 す る研 究(第3報) 2967

影響 につ い て調 査 した.そ して,木 材 粉 末 の射 出 成 形

に よ る複 雑形 状 部 品 の 製造 の 可能 性 と問題 点 に つい て

検 討 した.

2.  木 材粉 末 お よび 射 出 実験

2・1  木材 粉 末 実 験 で使 用 した 木 材 粉 末 は,ス

ギ お よび ヒ ノキ の 混 合 粉 未.ス ギ:ヒ ノキ(重 量%)=

1:1,で あ る.そ の 写 真 お よび 粒 径 分 布 を 図1, 表1

に示 す.粉 末 は,ま ず 乾燥 した スギ材 お よび ヒ ノキ 材

を か ん な盤 に通 しか ん な くず を 作 製 し,そ の 後,か ん

な くず を 自 由粉 砕 機 に投 入 して φ300umの ス ク リー

ンを通 過 す る ま で粉 砕 して 作製 した .木 材'粉末の 初 期

含 水 率 の 設 定 は,上 記 の 方法 で 作 製 した 粉 末 を一 目..

全 乾状 態(含 水 率0%)ま で 乾 燥 させ た あ と,ス ギ.ヒ

ノキ,蒸 留 水 を それ ぞ れ所 定 の 含 水 率 に 見合 う重量 比

で 混 合 す る 全 乾 重 量法 に よ って 行 っ た.初 期 含 水 率

(Initial Moistue Contcnt,I .M.C.)は 約12%(気 乾

状 態),50%,100%,200%(飽 水 状 態)を 使 用 した(7).

2・2 射 出 金 型 射 出実 験 川 金 型 の 諸 元 を図2に

示 す.装 置 は,コ ンテ ナ,ゲ ー ト,キ ャ ビテ ィか ら構

成 され て い る.コ ンテ ナ は 赤 外 線 加 熱 炉,キ ャ ビテ ィ

は棒 ヒー ダに よ っ て別々 に1川熱 され,設 定 温 度 を個 々

に 変化 で き るよ う にな っ て い る.な お,い ず れ の 金 型

も実 験 後 に 成形 体 を取 出 しや す くす るた め に割 型 とな

っ て い る.

2・3  射 出実 験 方 法 射 出実 験手 順 を 図3に 示 す.

(1)  木 材 粉 末(充 て ん 量:I M , C-12%:5gf,

50%:7.5gf.100%;10gf.200%:15gf)を コ ン テ

ナ 内 に 充 て ん す る.そ して,コ ン テ ナ 表 面 温 度(コ ン

テ ナ 温 度)がTc[℃]キ ャ ビ テ ィ表 面 温 度(キ ャ ビ テ

ィ温 度)がTv,[℃]に な る まで加 熱 す る.

(2)  キ ャ ビテ ィ温 度 がTv[℃]に 到 達 す る と ポ

ン チ を加 圧 し(速 度10mm/分),コ ン テ ナ 内 の 木 材 粉

未 を キ ャ ビテ ィ内 に射 出 す る.所 定 の 保 圧 力Pに な

る とt分 間保 持 す る.

(3) 除荷 して 金型 全 体 を冷 却 し.そ の 表 面 温 度 が

室 温 まで 下 が っ た後.成 形 体 を取 出す.

2・4 成 形 体 の 評 価 方 法 得 られ た 射 出成 形 体 の

機 械 的 性 質 と して,平 均 か さ密 度 ρ,曲 げ強 度 σ を測

定 した.平 均 か さ密 度 は,キ ャ ビ テ ィに射 出 され た木

材 粉 末 の 重 量 を測 定 し,か さ密 度 ρ(=W/tw)で 算 出

した.こ こで,Wは 重 量[gf], t ,w は成 形 体 の 高 さ

お よ び幅(16mm)で あ る.な お,実 験 結 果 は木 材 粉 末

の圧 粉 成 形 時 の 最 大 か さ密 度D,を1.45g・cm-3と し

て相 対 密 度R(=ρ/D)で 評価 した.

曲 げ強 度 は,長 方形 断 面 の 射 出成 形 体 に つ い て3点

曲 げ試 験 を行 い,σ=3FL/2dut2uで 算 出 し た.Fは 最

Table 1 Distribution of powder particle size. weight

Fig. I NVood Powders

Fig. 2 Injection moulds

Fig. 3 Injection process

177

Page 3: Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood

2968 木 材粉 末 の成 形 に関 す る研 究(第3報)

大 曲 げ荷重,Lは 支点 間 距 離(10mm)で あ る.こ こ

で,曲 げ強度値 は2回 の平均値 を用 いた.

3. 射出成形条件の検討

一般に射 出成形 では,可 塑化→射出→圧縮→保圧→

冷却の各工程 を経 て成形が なされ る(8).木材粉末 の射

出成形では可塑化工程 にお いて,木 材粉末 を熱分解 さ

せず に軟化 させてキャビテ ィ内に射出す ることので き

る可塑化温度(コ ンテナ温度)が 重 要 となる.ま た,射

出時 に木材粉 末に流動性 を持たせ るためには,適 当な

含水率が必要である.さ らに,射 出 された木材粉末 を

固形化 させ るためにキャビテ ィを適切 な温度に加 熱す

る必 要が あ る.そ こで,コ ンテナ温度,キ ャビティ温

度 および木材粉末 の初期含水率を変化 させて射 出実験

を行 い,得 られた成形体の概 観お よびその かさ密度 を

調査 し,射 出成形が可能 な条件について検討 した.

図4に 良好な射出成形体 を得 るためのコンテナおよ

びキ ャビティ温度 と木材粉末の含水率 の関係 を示す.

図4(a)は 得 られた射 出成形体 の一例 である.● 印で

見 られる成形体の クラ ックは,実 験後 に取出 した後 に

生 じる もので あ り,原因 としては残存含水率が多 いこ

とによって起 こる.○ および◎印は比較的良好な射出

成形体 である.ま た,△ 印 はキャビテ ィ形状 に粉末 は

充満 した ものの,密 度 が低 い成形 体で あ る.◇ 印 は,

キャビティ温度が高 い場合 に見 られ る成形体 で あ り,

ゲー ト付近 にクラックが生 じて いる.本 実験で得 られ

た射出成形体 はおおむね上記の4種 類 に分類 される.

図4(b),(c)お よび(d)は,図4(a)に 示 した成形体

が得 られるコンテナ温度 とキャビテ ィ温度の関係を初

( a ) Examples of injected product

( b ) Initial moisture content 50%

( c ) Initial moisture content 100%

( d ) Initial moisture content 200%

Fig. 4 Relationships among container and cavity temperature and initial moisture content of wood

powders for successful injection moulding

178

Page 4: Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood

木材 粉 末 の 成 形 に 関 す る研 究(第3報) 2969

期 含 水 率50%.100%お よ び200%に つ い て 整 理 した

もの であ る.な お,初 期 含 水率12%の 場 合 は,コ ンテ

ナ お 共びキ ャ ビテ ィ温 度 に関 係 な く射 出 す る こ とが 全

く不 可能 で あ った.

図4(b)(初 期 含 水率50%)に お い て,コ ンテ ナ 温 度

が140℃ 以上 で は図 中× 印 で 示 す よ うに 全 く射 出 で き

な か 一,た.ま た,コ ン テナ温 度 が低 い場 合 に お い て も

射 出 で きな い 条件 が 存 在 す る.こ れ は,木 材 粉 木 の 熱

流動 性 に起 因 す る.成 形 時 の 熱 流 動 性 は.温 度 と 含水

率 の上 昇 に 伴 い 向上 す る が.本 実 験 の場 合,コ ン テ ナ

温度 が 低 い場 合 は低温の た め に熱 流 動性 が 悪 く,一 方,

140℃ 以上 で は 水分 の 蒸 発 に よっ て 木材 粉 末 の 含 水 率

が 低下 した た め,射 出 で きな か ったと 塔え られ る.

射 出 で き た 条 件(●,○,△,◎ お よび◇ 印)に お い

て,キ ャ ビ テ ィ温 度 が110℃ 以下ぐお よび コ ン テ ナ 温 度

Tc=100℃ 以下 で は,キ ャ ビ テ ィか ら成 形 体 を取 出 し

た 後 に側 部 か ら クラ ッ クが 発 生 した(図 中● 印).こ の

クラ ッ クの 発 生 は得 られ た 成形 体 の 含水 率 が 高 い ため

に 生 じる体 積膨 張 に よ る もの で あ る.コ ンテ ナ温 度 が

高 くな る と.成 形 中 に 水 分 が よ り蒸 発 す るた め に,成

形 後 に体 積 膨 張量 が少 な く得 られ る成 形 体 に クラ ッ ク

が 見 られ な くな り,相 対 密 度0.9以上(図 中◎ 印)の良

好 な成 形 体 が 得 られ た.し か し,さ ら に高 い コ ン テ ナ

温 度 で は成 形 体 の か さ密 度 が 低 くな る(図 中△ 印).こ

れ は,射 出時 の 含 水 率 不足 の た め に,粉 末 の 流 動'1生が

低下 した ため と 号え られ る.キ ャ ビテ ィ温 度Tlを 高

くす る と,コ ン テナ温 度 が 低 くて も射 出 成 形 体 が 得 ら

れ る 条件が 増 加 す る こ ヒが わ か る.し か し,キ ャ ビテ

ィ温 度 が190℃ 以上 に な ると 図 中◇印 に示 した よ うに

成 形 体 内 部 に ク ラ ッ ク が 生 じた 。 この クラ ッ クは 図

4(a)で 示 す よ う に ゲ ー ト近 傍 に 発 生 して お り,高 温

に よ る熱 分解 が原 因 と 考 え られ る.

図4(c)お よ び(d)に,初 期 含 水 率 が100%, 200%

での 実験 結 果 を示 す.そ れ ぞ れ の傾 向 は 図4(b)の 含

水 率50%の 場 合 と同 じで あ り,コ ン テ ナ温 度 お よび キ

ャ ビテ ィ温 度 が 低 い 場 合 は,● 印 で 示 す 成 形 体 が 多

い.ま た,コ ンテ ナ温 度 が 高 す ぎ る場 合 は射 出 が 不 可

能 で あ っ た.初 期 含水 率 に 着 目 す る と,図4(c)の 含

水率100% の 場 合 が 最 も射 出可 能 条件 が 多 く,ま た相

対 密 度 の 高 い 成 形 体 が 得 られ て い るの が わ か る.図

4(d)の 含水 率200%の 場 合 で は,キ ャ ビ テ ィ温 度Tv

が170℃ 付 近 で熱 分 解 が 生 じ,ク ラ ッ クの 発 生 が よ り

低 温 で起 こ った.こ れ は,含 水 率 が 高 くな る と木 材 の

構 成 要素 が 熱 分解 しや す くな る こ とに起 因 す る.以上

の よ う に,良 好 な木 材 粉 未 の 射 出 成 形 体 を得 る た め に

は,そ の初 期 含 水率 に対 して適 当 な コ ン テ ナ お よび キ

ャ ビテ ィ温 度 を設 定 す る こ とが 重要 で あ る こ とがわ か

る.

4.  射 出圧 カ ーポ ンチ ス トロー ク関 係

4・1  コ ンテ ナ 温 度 乳 の 影 響 図5に 射 出 圧 力

ボ ンチ ス トロー ク曲線 に 及 ぼす コ ンテ ナ 温度 の影 響 を

示 す.射 出圧 力 は,実 験 時 の ポ ンチ荷 重 をそ の 断 面 積

で 除 した もので あ る.図5か ら,コ ンテ ナ 温 度 にか か

わ らず ポ ン チ ス トロー クが大 き くな る と射 出圧 力 が 増

/川す る こ とが わ か る.コ ン テ ナ 温 度Tcが55℃ の 場

合,射 出圧 力 が100MPa付 近 で い っ たん 低 下 し(図 中

印),そ の後 再 び上 昇 して い る.こ の 圧 力低 下 は,コ

ン テ ナ に存 在 す る木 材 粉 末 が コ ン テ ナ 内 で圧 粉 され,

この 粉 末 が ゲ ー トを通 じて キ ャ ビテ ィ内 に射 出 され る

ときに 発 生 す る.こ の 圧 力 低下 に着 目 す る と,コ ン テ

ナ 温 度 Tcが90℃ お よ び100℃ の 場 合 で は,約50

MPa付 近 で 生 じ,温 度Tcが120℃ で は100MPa で

生 じる.一 方,温 度Tcが13〔}℃ で は明 確 な 圧 力 低 下

は 生 じな い が,Tc、 が90℃ お よび100℃ と比 べ て 射 出

圧 力 が 大 きな値 とな っ て い る.す な わ ち,木 材 粉 未 を

キ ャ ビテ ィ内 へ射 出す る た め に必 要 な圧 力 が,コ ン テ

ナ温 度 η に よ っ て変 化 す る こ とがわ か る.

図5に 示 し た キ ャ ビテ ィ温 度Tv=150℃ お よび 初

期 粉 末 含 水 率50%の 条 件 で は,コ ン テ ナ 温 度Tcは

90℃ か ら100℃ で射 出圧 力 が 最 も小 さ くな っ て い る.

す なわ ち,木 材粉 末 が コ ン テ ナ内 で適 度 に可 塑 化 され

た こ とを示 して い る.な お,コ ンテ ナ温 度90℃ お よび

100℃ に お い て相 対 密度0.9以上 の射 出 成 形 体 が得 ら

れ た[図4(a)].

Fig.5 Effect of container temperature T, on injection

pressure punch stroke curve

179

Page 5: Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood

2970 木材 粉末 の成形 に関 す る研 究(第3報)

4・2 キャ ビテ ィ温 度Tvの 影響 図6に 射 出圧

カーポ ンチス トロー ク曲線 に及 ぼすキ ャビテ ィ温度 の

影響 を示す.こ の射出実験 は,木 材粉末 が適度 に可塑

化 され るコ ンテナ温度Tc=100℃ 一定 で行 った.キ

ャビティ温度Tvが500℃ の場合,可 塑化 された木材粉

末がゲー ト出 口で冷却 され流動性 が悪 くなるため に,

射 出圧力 の値が大 き くなっている.し か し,キ ャビテ

ィ温度Tvが 高 くなるにつれて射 出に必 要な圧 力 は低

下 する ことがわか る.ま た,キ ャビテ ィ温度 が高 くな

るにつれて保圧力156MPaに 達す る ときの ポンチ ス

トロークは大 き くなる ことがわか る.こ の こ とは,キ

ャビテ ィ温度が高 いほど,キ ャビティ内に射 出 された

木材粉末 がよ り圧粉 されてい ることを示 している.な

お,キ ャビティ温度Tc=150℃ の場合にお いて相対密

度0.9以 上 の射出成形体 が得 られた.キ ャビテ ィ温度

Tv=190℃ の場合 は,木 材粉末 を熱 分解 したため に成

形体 にクラ ックが存在 した.

4・3 木材粉末 の初期含 水率I.M.C.の 影響 図

7に 射 出圧力-ポ ンチ ス トロー ク曲線 に及 ぼす木材粉

末の初期含水率の影響 を示 す.射 出条件 は,コ ンテナ

温度Tc=100℃ お よびキ ャビテ ィ温度150℃ である.

図7に 示 すように,初 期含水率12%(気 乾状 態)で は木

材粉末 は全 く射 出 されないた めに保 圧力156MPaに

達 して もポ ンチス トロー クは小 さい値 となっている こ

とがわかる.初 期含水率が50%に おいて,射 出圧 力約

50MPa付 近 に圧力低下が見 られる.し か し,100%お

よび200%の 場 合 は,こ の ような圧力低下 も見 られ ず

に射 出工程 が行われ る.こ の ことは粉末の初期含水率

を大 きくずるほど,成 形時の流動性が良 くなる ことを

示 している.

5. 射出成形体の機械的性質に及ぼす

成形条件の影響

5・1 相対密 度 図8に 成形体 の相対 密度 に及 ぼ

す射 出条件 の影 響 を示 す.図8か ら,含 水率I.M.C,

お よびキャ ビテ ィ温度Tvに か かわ らず,相 対密度が

極大 とな るコ ンテナ温度Tcが 存在 す る こ とがわ か

る.そ の相対 密度 が極 大 とな るときのコ ンテナ温度

Tcは,初 期含水 率が大 き くなる と高温側 へ移 行 して

い る.

また,相 対密度 の極大値 は,キ ャ ビテ ィ温度が高 く

な るにつれて大 き くなる傾 向が見 られ る.し か し,初Fig. 6 Effect of cavity temperature Tv on injection

pressure-punch stroke curve

Fig. 7 Effect of initial moisture content on injection

pressure-punch stroke curve

Fig. 8 Effects of container and cavity temperature and

initial moisture content on relative density of

injected wood powder product

180

Page 6: Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood

木 材粉 末 の成 形 に関 す る研 究(第3報) 2971

期含水率 が200%で はキャ ビティ温 度が 高 くな る と,

相対密度 は低 くなる.こ れ は,含 水率が高い場合 は木

材の構成要 素が熱分解 を始 める温度 が低下 す るた め

に,含 水率200%キ ャ ビテ ィ温 度150℃ 以上 におい て

すでに熱分解が生 じたためである と考 えられ る(9)(10).

な お,本 実験 で は初 期 含 水率100%,コ ンテ ナ温 度

130℃ およびキ ャビテ ィ温度170℃ の射 出条件 にお い

て最大の相対 密度の成形体が得 られた.

5・2 曲げ強度 図9に 得 られ た成 形体 の曲げ強

度に及 ぼす射 出条件 の影響 を示す.図9か ら,曲 げ強

度に対す る射 出条件の影響 は,図8で 示 した相対密度

と同様の傾向を示す こ とがわ かる.つ ま り,初 期含水

率I.M.C.お よびキ ャビテ ィ温度Tvに 対 して,曲 げ

強度が極 大 とな るコ ンテナ温度Tcが 存在 す る.ま

た,そ の曲げ強度が極 大 とな る ときの コンテ ナ温 度

Tcは,初 期含水率が大 き くなると高温側 へ移行 す る.

曲げ強度の極大値 は,キ ャビテ ィ温度 が高 くなるにつ

れて上昇する.な お,キ ャビテ ィ温度Tv=170℃ で高

含水率200%の 場 合には熱分 解のため に,成 形体 に ク

ラックが生 じたため測定不可能であった.

本実験 で得 られ た射 出成形体 の曲 げ強度 の最大値

は,圧 粉成形体の最大値 の約1/4程 度 であ った.し か

し,射 出時の木材粉末の流動性 を良好 に して成形体 の

密度 を高めることで,さ らなる曲げ強度 の向上 が期待

できる.

5・3 保圧力および保圧時間 図10に 得 られた成

形体の相対密度 に及ほす 保圧力 と保圧時間の影響を示

す.図10か ら,成形体 の相対密度 は,保 圧時間 を長 く

すると高 くなることがわか る.し か し,保 圧力 が低 い

場合 には,成 形体の相対密度 は低い もの となる.一 方,

保圧 力156MPaの 場合 には保圧時 間にかかわ らず一

定の相対密度が得 られてい る.こ の ことか ら,成 形体

の相対密度 を高め るためには,保 圧力 を大 きくす るほ

うが有効で あるといえる.

6. 複雑形状部品の製造の可能性

以上 の実験結果 を基 に して,複 雑 な形状 のキャ ビテ

ィを有す る金型 を用 いて木材粉 末の射 出実験 を行 っ

た.図11に 得 られた射 出成形体 の一 例 を示す.図11

に示す よ うに,形 状 付与 は可 能 であ る ことがわか っ

た.し か し,成 形体 の先端部や角部 にお いて相対密度

の低 い部分が見 られ た.こ の ような相対密度の低 い部

分 を改善す るためには,保 圧力お よびその時間 の最適

な設定が必 要である と考 えられる.

7. 結 言

木材粉末のみを原料 として複雑形状の木質製 品を製

Fig. 9 Effects of container and cavity temperature and

initial moisture content on bending strength of

injected wood powder product

Fig. 10 Effects of holding pressure P and its time t on

relative density R of product

Fig. 11 Tree and cup shape of the wood powder pro-

ducts

181

Page 7: Possibility and Problems in Injection Moulding of Wood

2972 木材 粉末 の 成形 に 関 す る研 究(第3報)

造 するた めに射出実験 を試みた.そ して,射 出可能 条

件,射 出圧カース トロー ク関係 お よび得 られた成形体

の機械的性質 に及ぼす射出条件の影響 について調査 し

た.そ の結果,以 下の知見 を得た.

(1) 良好な射 出成形体 を得 るためには,使 用す る

木材粉末の初期 含水率 に対 して,こ の粉末 を可塑化 す

るための最適なコ ンテナ温度が存在 する.コ ンテナ温

度が低 い場合は,木 材粉末の流動性が悪 いため射 出す

る ことはで きない。逆 に高 いコンテナ温度 では,粉 末

内の水分が蒸発 して含水率が低下するために粉末の流

動性が悪 くな り射 出できない.

(2) 良好な射 出成形体 を得 るためには,使 用する

木材粉末の初期含水率 に対 して,固 形化 するための最

適 なキャビテ ィ温度が存在す る.含 水率 の高い木材粉

末 を用 いる場合,キ ャビティ温度が高 くなる と熱分解

が生 じるため,成 形体 にクラ ックが発生 する.逆 にキ

ャビティ温度が低 い場合,射 出 された木材粉末 が十分

に固形化 されていないた めに,成 形体 に体積膨張 によ

るクラックが成形後 に生 じる.

(3) 射出に必要 な射出圧力 は,コ ンテナおよびキ

ャビティ温度 が最適 に設定 され た場合,約50MPaで

ある.し か し,成 形体 の相対 密度 を高 め るため には,

保圧 力156MPaが 必 要で ある.ま た,保 圧力 が低 い

場合,所 要の相対密度 を得 るまでの保圧時間が長 くな

る.

(4) 任意 の含水率I.M.C.お よび キャビテ ィ温度

Tvに 対 して,か さ密度お よび曲げ強度が極大 となる

コンテナ温度 が存在 し,こ の コンテナ温度 は,初 期含

水率が大 きくなる と高温側 へ移行 す る.ま た,か さ密

度お よび曲げ強度 はキャビテ ィ温度が高 くなるにつれ

て上昇 する.し か し,キ ャビテ ィ温度170℃ で高含水

率200%に 設定す ると熱分解が生 じ,か さ密度 お よび

曲 げ強度 は低下す る.

(5) 最適 なコンテナおよびキャビテ ィ温度 に設定

す ることに よって複雑形状 の成形体 を得ることの可能

性が確かめ られ た.

(6) 本実験 で使用 した木材 は,ス ギ ・ヒノキ とい

った針葉樹であ り,そ れぞれの構成 要素の化学成 分は

ほぼ等 しいので,ス ギお よび ヒノキを単体 で用いる場

合 で も本実験結 果 は有 用であ る と考 え られ る.し か

し,広 葉樹 な どの化学成分の異 なる木材 に対 しては再

度検討する必要が ある(11).

本研究の一部 は,NEDO平 成15年 度産 業技術助成

事業お よび科学研究費基盤研究(c)の 研究助成 を受け

て得 られた結果 であ る.

文 献

(1) 浅葉 将之 ・西村 尚.圧 縮 本 材 の曲 げ強 度 に及 ぼす加 工 条

件の影 響,機 論,67-654,A(2001),83-88.

(2) 塩崎 宏 行 ・河瀬 忠弘 ・池 田元 吉 ・三上 昌 夫,圧 延 ロー ル

出 口に お け る変 形 固定(圧 延 に よ る木材 の 圧縮 加 工II).

平成9年 度 塑性 加工 春季講 演会 論文集,(1997-5), 197-

198.

(3)  北 澤 君 義 ・ほか3名,信 州 カ ラマ ツ圧 縮 角柱 材 の簡 易 永

久 固 定 法,平 成16年 度 塑 性 加 工 春 季 講 演 会 論 文 集.

(20045),303304.

(4)  横 溝 大樹 ・西村 尚,木 材 チ ップの圧 密加 工 に よる無 接 着

剤 ボー ドお よび容器 の製造.機 論67-662.C(2001), 237

242.

(5)  三木 恒 久 ・高 倉章 雄 ・金山 公 三 ・山 口 克彦 ・飯 塚 高 志.

木材粉 末 の成形 に関 す る研 究(第1報.圧 粉特 性 に及ぼ す

成形 条件 の影響),機 論69-678,C(2003), 206-212.

(6)  己 木 恒 久 ・高 倉 章雄 ・金 山 公 三 ・山 口 克彦 ・飯 塚 高 志.

本材粉 末の 成形 に関 する研 究(第2報.流 動特 性 に及ぼ す

成 形 条件の 影響),機 論69-679,C(2003), 210-216.

(7)  日本 木材 加 工 技 術 協 会 関 西 支 部 編,木 材 の 基 礎 科 学.

(1995).3864.海 青社。

(8)  本間精 一,木 材特性 を活 か した射出成 形技 術.(2000),87-

112,シ グマ出版.

(9)中 戸莞 二編 著,新 編 木材 工学,養 賢 堂,206-227.

(10) Miki, Takakura, N., lizuka, T., Yamaguchi, K. and

Kanayama, K., Mechanical Properties of Binderless

Compacted Product only using Wood Powders, Proc.

2nd Int. Workshop On Given Composites, (2004), 68-73.

(11) 古 野毅 ・澤辺 攻,木 材科学 講座2組 織 と材 質(1996),89-

108,海 青社.

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