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2010 大学院 22 4 30 People-Centric Sensing のための携帯端末を用いたコミュニティ構造の推定手法 A Method for inferring Community Structure Using Mobile Devices for People-Centric Sensing 48-096432 Abstract In People-Centric Sensing applications, people are not only both the producer and consumers of the sensed data, but alse enable extended sensing and communication opportunities through their mobility. In order to make it possible everyone to paticipate sensing, there should be a kind of incentive to enable their sensor devices on. On the other hand, social networks have became very famous recently. The potential functionality of mobile devices as ubiquitous infrastructure is dramat- ically increasing. Using such devices, we are possibly able to make social networks using proximity data. Considering the popularity of social networks, this can be incentive to struct People-Centric Sensing. Keywords People-Centric SensingProximitySocial Net- works1 はじめに People-Centric Sensing つデバイスを して する いう,センサネットワー 一つ ある.People-Centric Sensing をセンサネットワークを する一つ して え,あたか センサが移 するか ように扱う.こ れによって, にセンサを して うシ ナリオを しているセンサネットワークに する ノード コスト メンテナンスコストが る.一 People-Centric Sensing センサノー がコストを っているに わらず,それ に対する りが いために,あまり いか いう がある. ,そ よう People-Centric Sensing にお いて をさせる する.こ ため りを えて をして らおう いう いた により ソーシャルネットワークを し,そ ソーシャルネッ トワークからコミュニティを する について る. ,まず 2 People-Centric Sensing 題について る. 3 ソーシャルネット ワークを する し, いたソーシャルネットワーク る.そ して,3.2 いたソーシャルネットワー クからコミュニティを するシステム す. 5 コミュニティ けて する システム った について る.6 についてま めたあ 7 題について し,ま める. 2 People-Centric Sensing の概要と課題 People-Centric Sensing してそ 題について る.そ ,一 センサ する センサネットワーク Social Comput- ing それぞれ People-Centric Sensing 較し, People-Centric Sensing す.以 センサを する センサネットワークを センサネットワーク センサネットワー している いう People- Centric Sensing にしているため,こ 2 較するこ People-Centric Sensing する るこ きる.また,So- cial Computing People-Centric Sensing ちら するこ にして されているため,こ 2 つを 較するこ People-Centric Sensing する いう して ある. 2 から People-Centric Sensing 1

People-Centric Sensingmine/Denjo/rinkodata/rinko... · 2010. 12. 16. · People-Centric Sensingのための携帯端末を用いたコミュニティ構造の推定手法 A Method

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2010年度大学院修士論文中間報告資料 平成 22年 4月 30日

People-Centric Sensingのための携帯端末を用いたコミュニティ構造の推定手法A Method for inferring Community Structure Using Mobile Devices for

People-Centric Sensing

情報理工学系研究科電子情報学専攻 瀬崎研究室 48-096432 江口洋平

Abstract

In People-Centric Sensing applications, people are

not only both the producer and consumers of the

sensed data, but alse enable extended sensing and

communication opportunities through their mobility.

In order to make it possible everyone to paticipate

sensing, there should be a kind of incentive to enable

their sensor devices on.

On the other hand, social networks have became

very famous recently. The potential functionality of

mobile devices as ubiquitous infrastructure is dramat-

ically increasing. Using such devices, we are possibly

able to make social networks using proximity data.

Considering the popularity of social networks, this

can be incentive to struct People-Centric Sensing.

Keywords

People-Centric Sensing,Proximity,Social Net-

works,

1 はじめに

People-Centric Sensingは,人の持つデバイスを利用

して環境の情報を利用するという,センサネットワー

クの手法の一つである.People-Centric Sensingでは,

人をセンサネットワークを構成する一つの要素として

考え,あたかもセンサが移動するかのように扱う.こ

れによって,環境中にセンサを設置して計測を行うシ

ナリオを採用しているセンサネットワークに存在する

ノードの設置コストとそのメンテナンスコストがなく

なる.一方で,People-Centric Sensingではセンサノー

ドの所有者がコストを払っているにも関わらず,それ

に対する見返りがないために,あまり環境計測に協力

的にならないのではないかという危惧がある.

本研究は,そのような People-Centric Sensingにお

いて人に環境計測をさせる事を目的とする.このため

に人に見返りを与えて環境計測をしてもらおうという

考えのもと,携帯端末を用いた近接関係の推定により

ソーシャルネットワークを生成し,そのソーシャルネッ

トワークからコミュニティを推定する手法について述

べる.

本稿では,まず 2節で People-Centric Sensingの概

要とその課題について述べる.3節でソーシャルネット

ワークを構成する際に必要な単語を定義し,近接関係

を用いたソーシャルネットワークの構成を述べる.そ

して,3.2節で近接関係を用いたソーシャルネットワー

クからコミュニティを推定するシステムの設計を示す.

5節でコミュニティ推定に向けて近接関係を取得する

システムの実装と,行った予備実験について述べる.6

節で関連研究についてまとめたあと,7節で今後の課

題について議論し,まとめる.

2 People-Centric Sensingの概要と課題

本節では,People-Centric Sensing に着目してその

概要と課題について述べる.その後,一般的なセンサ

を設置する型のセンサネットワークと Social Comput-

ingのそれぞれと,People-Centric Sensing戸を比較し,

People-Centric Sensingの特徴を示す.以後,本稿では

このセンサを設置する型のセンサネットワークを設置

型センサネットワークと呼ぶ.設置型センサネットワー

クは環境情報の取得を目指しているという点でPeople-

Centric Sensingと目的を共にしているため,この 2つ

を比較することで People-Centric Sensingの環境情報

を取得する効果の特徴を見ることができる.また,So-

cial Computingと People-Centric Sensingはどちらも

人が参加することを前提にして設計されているため,こ

の 2つを比較することで People-Centric Sensingの人

が貢献するという面に関しての検討が可能である.本節

の最後で,上記 2つの検討からPeople-Centric Sensing

1

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が持つ課題について考察する.

2.1 People-Centric Sensingの概要

無線センサネットワークでは,無線通信機能を持った

センサノードを観測したい地域に設置し,機器同士の

通信機能により環境情報を観測し,それをどこかにい

る人が利用するというシナリオが一般的である.この

場合,人はセンサデータの単なる利用者として存在して

いる.環境情報の収集に対して,違った形で人が関わる

ように設計されているのが,People-Centric Sensingと

いう手法である [1].People-Centric Sensingでは Fig.

1のように,人にセンサノードを装着し,人を観測シ

ステムの要素の一つとしてみなして環境情報の観測を

行う.つまり,人はセンサデータの単なる利用者では

なく供給者でもある.さらには人の移動を利用するこ

とで,設置型のセンサノードでは不可能であったよう

な観測を可能にし,新たな通信の機会を与えることに

なる.例えば,BikeNet[2]では,GPS,CO2センサ等

10 種類にも及ぶセンサを自転車及び搭乗者に備え付

けた.その状態で街中を走ることで,搭乗者の運動量

の推定をすると同時に,それぞれの自転車からとれた

環境情報を収集し時系列と位置を追うことで,街の環

境を観測することにも成功している.もちろん,運動

量の把握は設置型センサネットワークではなし得ない

ことである.このように,People-Centric Sensing は

設置型センサネットワークよりも応用の範囲を広くす

る.また,近年の携帯端末の大きな発展により人々の

持つ携帯端末に様々なセンサを搭載することが可能に

なったため,People-Centric Sensing において人が持

つセンサノードは環境情報を収集するために作成され

たもののみではなく,携帯端末の形で今後発展してい

くことが期待される.現在ではほぼ全ての人が何らか

の携帯端末を持っているため,その携帯端末を用いて

People-Centric Sensingに参加するシナリオが考えら

れ,より広範に広がっていくことが期待される.

2.1.1 設置型センサネットワークとの比較

管理手法と配置に関する性質の違いに着目して,設

置型センサネットワークと People-Centric Sensingの

比較を行う.

まず,管理手法に関する比較を行う.設置型センサ

ネットワークで広範囲の観測を行う場合には対象範囲

にセンサノードを一つ一つ設置するコストと,センサ

ノードを正常に動作し続けられるように定期的にメン

テナンスするコストは全て無線センサネットワークの

Sensor Database Location awareusing GPS

Fig. 1: Conceptual figure of People-Centric Sensing

管理者が負う事になる.さらに,このようなセンサ機

器の設置コスト,メンテナンスコストは膨大なものに

なり,すべてのセンサノードを正常に動作させておく

ことは困難である.特に,無線センサノードはバッテ

リー駆動になるため,電源管理にかかるコストが非常

に大きくなることが予想される.言い換えると,コス

トをかけることを厭わなければセンサノードは正確に

動作し続け,安定した観測情報を収集することが可能

である.つまり,設置型センサネットワークは高コス

トではあるが安定した環境情報収集を提供することが

できる.People-Centric Sensingではセンサノードを

個人が持つために,管理をその所有者に一任すること

になる.したがって,機器の設置コスト及びメンテナ

ンスコストをセンサネットワークの管理者が負う必要

が無くなる.しかし,People-Centric Sensing におい

てセンサノードのを起動させるかどうかはセンサノー

ドの所有者が決定する.センサノード所有者がノード

を起動させない限りセンサとしての機能を発揮しない.

次に,それぞれの配置の性質について比較する.設

置型センサネットワークでは,センサノードの移動を

考慮する必要はない.そのため,センサノードの設置

時点での位置は(もし動かさなければ,)撤去の日まで

変わることはない.したがって,センサノードの位置情

報は時間や資金のコストが許すだけ正確に計測するこ

とが可能である.加えて,設置時点で設置場所に関す

る検討が可能であるために,観測範囲におけるセンサ

ノードの密度の偏りを排除することが可能であり,全

範囲に対して均質な観測が可能になる.逆に,People-

Centric Sensingではセンサが特定の場所と対応付けら

れて設置されるのではなく,人と対応付けられるため

に,その正確な分布を事前に把握することはできない

2

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したがって,環境観測を実際の地理的な位置と対応さ

せるためには,GPSに代表されるような位置測位の技

術と複合的に利用することが不可欠である.

2.1.2 Social Computingとの比較

Social ComputingとPeople-Centric Sensingの人の

貢献という面から見た違いを述べる.

そもそも,Social Computingは様々な定義が与えら

れている [3, 4, 5].それらに共通する部分を抜き出すと,

Social Computingは人の社会的行動の助長及び社会的

文脈を考慮するための ICTの利用である.Social Com-

putingでは,システムに依存するある一定数以上の人

の参加がなければ成り立たない.例えば,Wikipedia

[6]のようなサービスでは記事を編集する人がいなけれ

ばならないし,Twitter [7]や facebook [8]のような他

人とのコミュニケーションを目的としてりよするよう

なサービスも他人がいなければ成立しない.こういった

点では,Social Computingと People-Centric Sensing

は非常に良く似た性質を持っている.しかし,Social

Computingは人同士が共同作業をしてWikipediaとい

う百科事典を作ることや,Web上でコミュニケーショ

ンを取ることのように,人間同士の交流が少なからず

存在している.そして,Social Computingが広がりつ

つあるのはこの人間同士の交流の存在は無視するには

大きすぎる.一方,People-Centric Sensingでは,確か

にセンサノードを持った多数の人により環境情報の集

約が可能になっており一見共同作業をしているかのよ

うに見える.ここでセンサノードを持った人物の立場

で状況を考えてみると,自分は環境情報の集約に一役

買っているのは確かであるが,そこに報酬は全くない

という状況である.

このように,Social Computingでは自分の貢献に対

する報酬が存在しているが,People-Centric Sensingに

は自分の貢献に対する報酬が存在しないという違いが

ある.

2.2 People-Centric Sensingの課題

2.1.1,2.1.2でPeople-Centric Sensingの環境情報を

取得するという面の特徴と人が貢献するという面での

特徴を述べた.環境情報を取得するという面では,

• センサノードの管理はその所有者が担う.センサノードとして駆動させるためには,所有者が起動

する必要がある.

• センサノードの分布が一定ではなく,かつセンサノードの所有者が移動するため,地理情報と環境

情報を対応させるためには位置情報の取得が必要.

人の貢献という面では,

• People-Centric Sensingでは,人に対する報酬が

ない.

という特徴があった.

さらに,2.1で述べたように携帯端末を利用して環

境情報の取得をするようになった場合,携帯端末をセ

ンサとして利用する場合にも電力を消費する.携帯端

末では,限られた電力で通信や計算を行っているため

に,直接所有者に利益のないことに進んで電力を割く

ことは考えにくい.そこで,所有者がセンサを起動する

ように仕向けるインセンティブが必要になる.そこで,

携帯端末を用いて環境情報の計測を行う人に,Social

Computingにおける報酬と同じように,人間同士の交

流を与えるという方法が考えられる.

3 携帯端末を用いたコミュニティ抽出手法の検討

本節では,携帯端末を用いてコミュニティ抽出する

手法についての検討を行う.

用語の定義

無線ノードとは,無線通信機能を持った端末であり,

一定の半径内の他の端末に対して自端末の IDを広告

するものである.また,他端末からの広告を受けた場

合,その端末の IDと広告を受けた時刻を端末内の記

憶領域に保存する.行為者とは,無線ノードを持って

いる人物(若しくは動物)のことである.近接関係が

存在するとは,ある時刻において2人の行為者 iと j

の持つ無線ノードが互いを検出できる位置に存在して

いることである.この近接関係は,行為者 iと j につ

いて対称でなければならない.つまり,行為者 iから

行為者 j の近接関係が存在している場合,行為者 j か

ら行為者 iへの近接関係も存在していなければならな

い.なぜならば,行為者 iの無線ノードの IDを行為者

j の無線ノードが検出可能な場合には,行為者 j の無

線ノードの IDを行為者 iの無線ノードからも検出可能

だからである.したがって,ある 2人の行為者間の近

接関係は無向である.本研究におけるソーシャルネッ

トワークは,行為者とそれらの間の近接関係が与えら

れた場合に決定される,行為者間の関連の総体のこと

である.無線ノードにより断続的に近接関係が測定さ

れるので,このソーシャルネットワークは時々刻々と

変化していく.属性とは,行為者の性別やその他の特

3

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1n 2n3n

4n5n

6n7n

Fig. 2: ある時刻 taにおける,g = 7,mta = 11であ

る Gta と,Cta1, Cta2 への分割の例

徴などをいう.コミュニティとはあるソーシャルネッ

トワークの中で,他の行為者の集合と比べて,より強

い連結度を持つ行為者の集合とする.

3.1 ソーシャルネットワークの構成

一般的にソーシャルネットワークはグラフとして扱

われる.本節で,近接関係を用いたソーシャルネット

ワークの特徴とそのグラフとしての定式化を試みる.

いま,g 人の行為者の集合を頂点集合 N =

{n1, n2, . . . , ng}で表す.無線ノードによる近接関係の収集を時刻 0 ≤ t ≤ T の範囲で行ったとする.ある

時刻 tを中心とする幅 ∆tの時間内に,行為者間の全

体に mt 組の近接関係が存在したとする.(0 ≤ mt ≤g(g−1)

2 ) 行為者 iと行為者 jの間の近接関係は頂点間の

辺 ltk = (ni, nj), (0 ≤ k ≤ mt)として表される.ltk の

集合Lt = {lt1, lt2, . . . , ltm}が,グラフの辺集合となる.N,Ltを用いて,時刻 tにおけるソーシャルネットワー

クは,グラフ Gt = (N,Lt)として表される.この Gt

は T∆t を超えない整数 τ 個だけ生成される.0 ≤ a ≤ τ

と,ta = (2a+1)∆t2 を用いると,τ 個のソーシャルネッ

トワークは G = {Gt1 , Gt2 , . . . , Gtτ }と表される.

3.2 コミュニティ推定手法の検討

あるグラフから,その他の部分よりも連結度の高

い頂点の部分集合を抜き出すことを目的とした研究

として [13]がある.[13]では,頂点数 400000と辺数

2000000を持つグラフから,効率的にコミュニティを

推定する手法が示されている.ある Gta が与えられ

たとき,[13]を用いて,Gta から α個のコミュニティ

Cta = {Cta1, Cta2, . . . , Ctaα}が推定できる.コミュニティは行為者の集合であるから,1 ≤ β ≤ αを用いて,

Ctaβ ⊆ N である.例えば,Gta を N = {n1, . . . , n7}とその間の辺として表されたとする.その図を Fig.2

に示す.図中では,点で頂点を点を結ぶ線で辺を表して

いる.このGta 中でのコミュニティをN の部分集合で

完全グラフとなりかつ極大なものをコミュニティと定義

する.この定義を用いるとCta1 = {n1, n2, n3} , Cta2 =

{n4, n5, n6, n7}の二つのコミュニティを推定できる.コミュニティの推定結果はコミュニティの定義方法によっ

て変わるが,全てのGtaについて同様にコミュニティを

推定できる.しかし,Gの中での特徴的なコミュニティを推定するためには,G の要素それぞれからコミュニティを推定し,それらを全て考慮に入れなければならな

い.ある Ns ⊆ N について,Ns = Ctaβ = . . . = Ctbγ

だったとする.0 ≤ a ≤ τの中で,Nsと等しいコミュニ

ティが出現した回数 σsをコミュニティの重複度と呼ぶ.

ある重複度 σを設定し,σ < σsを満たすNsは頻出す

るコミュニティであり,活発度の高いコミュニティを推

定することが可能になる.また,あるNr ⊆ N と定数

δ について,Nr = Ctaβ = C(ta+δ)γ = . . . = C(ta+dδ)ϵ

だったとする.このコミュニティNrは,ある周期 δ毎

に定期的に現れるものであり,規則正しいコミュニティ

である.G全体を考慮に入れることでNs, Nrのように,

実世界である特徴を持つコミュニティを推定すること

が可能になる.

次に,G でのコミュニティの時間による変遷を追う.Cta と Cta+1 の中で,その要素間の関連を調べる.

Ctai, Cta+1j ∈ N に対してそれらの関連度を,Rij =|Ctai∩Cta+1j ||Ctai∪Cta+1j | と定義する.ただし,| · |は集合の要素数を示す記号である.あるしきい値Rthreshを用いて,

Rthresh ≤ Rij であったとき,Ctaiが時間∆tのうちに

Cta+1j に変化したと考える.このように考えると,時

間を経たコミュニティの変化を追うことができる.こ

れによって,ある組織内での人間関係の移り変わりの

把握や,猿の群れの分割などを考えることができるよ

うになると考えられる.

4 コミュニティ抽出システムの設計

Fig.3 にコミュニティ抽出システムの外観を示す.

想定するコミュニティ抽出システムは,大きく分けて

2つの部分からなっている.

• センサ端末同士が近距離無線通信を利用して近接関係を取得し,それを端末内に蓄えると同時にProx-

imity Data Serverに送信する部分.

• Proximity Data Serverから行為者の近接関係を

取得しソーシャルネットワークの生成及びその解

析を行いコミュニティを抽出する部分.

4

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Proximity Data ServerProximity Data Analyzer

Sensor Device Sensor Device Sensor DeviceFig. 3: System overview

本研究では携帯端末を用いて近接関係を取得すること

を想定している.携帯端末には携帯電話や小型のラッ

プトップなど多くの種類が存在しているが,それらの

間で近接関係を取得するためには,それらの間のイン

ターフェイスとなる近距離無線通信が同一の規格であ

ることが必要である.したがって,近接関係取得に用

いられる近距離無線通信には独自の規格ではなく,す

でに規格が定まっているものが適する.

5 近接関係取得システムの実装と評価

前節で述べたコミュニティ抽出システムを実現するた

めに,近接関係取得システムを実装し評価した.5.1で

5.1 実装

近接関係を取得してProximity Data Serverにアップ

ロードするアプリケーションを携帯端末である iPhone

OS上に実装した.iPhone OSで動作している機器と

しては,現在 iPhoneと iPod Touchがある.以下での

iPhoneという記述は iPod Touchも含めている.

iPhone OS 3.0以降で Bluetoothを使用するための

APIが公開され,利用することができる.Fig. 4が近

接関係収集アプリケーションの動作を示す図である.ア

プリケーションが起動されるとGame Kit Framework

により,iPhone上のBluetooth機能が起動する.Game

Kit Frameworkでは,Bluetoothを用いた iPhone同士

の Peer to Peer機能がサポートされており,これによ

り周辺の同アプリケーションの起動している iPhoneを

検索しながら,自分の存在を周囲に広告する.周辺に

同アプリケーションが検知されると,相手の IDと自

機の位置を取得して時刻とともに Proximity/Location

Databaseに記録する.以後,15秒ごとに相手に Ping

iPhoneOS

Core Location FrameworkGame KitFrameworkProximity/Location Database

LocationProximity

Fig. 4: Proximity data collecting application imple-

mentation

を打ち相手と通信可能であるかを確認する.確認できな

くなった時点で,発見した場合と同様に ID,位置,時刻

を記録する.以上の動作により,行為者がいつ,どこで,

だれと近接関係を持っていたかが Proximity/Location

Databaseに記録される.最後に,Fig.3にあるよう

にその情報を Proximity Data Serverに送信すること

で各個人の近接関係がサーバ上に集約される.

Fig. 5 が,iPhone OS の動作している iPhone と

iPod Touchが互いにBluetoothで通信し,近接関係を

取得している様子である.また,Fig.6に動作中の近

接関係収集アプリケーションのスクリーンショットを

示した.太字が近接関係の取得できた iPhoneの IDで

あり,小さな字で表示されているものは左からどうレ

コードの取得された日付,時刻,緯度,経度及び接続

ログか切断ログかの別である.

5.2 予備実験

5.1で述べた実装を用いて近接関係を取得する実験を

行った.この実験の目的は実装したアプリケーション

が取得する近接関係が,感覚的な “一緒にいる”という

評価とどの程度合致するかを調べることである.実験

は,東京大学生産技術研究所の西棟にある長い廊下で

行った.廊下の様子を Fig.7に示す.図に示されたよ

うに,実験した場所は見通しが効く狭い廊下である.2

台の iPhoneを用いて全く障害物のない屋内で行った.

10の距離を定め,近接関係取得アプリケーションを複

5

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Fig. 5: A picture of iPhone/iPod touch on which

proximity collecting application is running

Fig. 6: A sample screen shot of proximity data col-

lecting application

数回動作させ,近接関係の取得出来た割合を求めた.結

果が Fig.8である.

グラフの横軸が 2台の iPhoneの間の距離,縦軸がそ

の距離での 10回の試行のうち近接関係の取得に成功し

た確率を示している.グラフから分かるように,40m

程度まではほぼ確実に近接関係の取得が可能である.

しかし,40mを超えたあたりから確率が急峻に低下し

始め,100mあたりでは 10%程度の成功確率になる.

このグラフから分かることは,Bluetoothを利用した

近接関係取得は,見通しの効く屋内では遠くまで届き

すぎるということである.40m先の人物とは,もはや

大声を上げても会話が成立するかしないかである.そ

れほど遠くの距離にいる人物まで近接関係と判断して

しまう.これでは,実際に自分が”一緒にいた “と認知

Fig. 7: The corridor in which experiment was took

place.

している人以外との近接関係を取得してしまう可能性

が非常に大きい.

6 関連研究

People-Centric Sensing という言葉こそ使っていな

いものの,他のデバイスとの連携動作を行いながら,

ソーシャルネットワークを推定する研究が存在する.

[9]では,肩に装着するタイプの無線ノードを開発し

た.以下,この無線ノードを Sociometer と呼ぶ.So-

ciometer には IR (赤外線)の送受信機とマイクが搭

載されている.Sociometer が自分の IDを IR で送信

すると同時に,他の端末からの IR を受信することで

近接関係を取得している.Sociometer では,近接関係

以外に会話の頻度や持続時間などの行為者間の関係の

取得も目指したため,会話の情報を取得するためにマ

イクが搭載されている.[9]では,行為者の会話の頻度

や持続時間による解析が主であり,コミュニティの推

定は行われていない.

Reality Mining[10]では,Bluetoothによる通信機能

を組み込んだ携帯電話を用いて,それぞれの被験者の

6

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0102030405060708090100

0 20 40 60 80 100 120 140 160

Ratio of successRatio of success

Probability of success to get Proximity data (%)

Distance (m)Fig.8: Result graph: Destance between two iPhones

v.s. Probability of success to get proximity data

行動や,行為者間の関係性を推定している.近接関係の

推測は,他の行為者の端末と Bluetoothによる通信が

確立したかどうかにより判断している.また,Reality

mining では,携帯電話の利用履歴等の行為者の属性も

考慮されている.その後,行為者間の近接関係と行為

者の属性から,行為者の行動に関する考察がなされて

いる.また,彼らによる後の研究 [12]では,主に個人

個人の生活習慣の比較により,行為者間の友人関係を

推測することが行われているが,コミュニティの推定

については行われていない.

日本では,ビジネス顕微鏡 [11]として,実際に商用

のシステムとして販売されている.ビジネス顕微鏡で

は,赤外線通信機能を持った名刺型のデバイスを首か

ら下げることで対面の近接関係を取得している点で本

研究と異なっている.

7 まとめと今後の課題

本稿では People-Centric Sensingにおいて,実空間

から人と人との関係を抽出するために,ソーシャルネッ

トワークを用いることにより People-Centric Sensing

の応用範囲が広がることを指摘し,応用の一つの可能

性として,ソーシャルネットワークを用いてコミュニ

ティを推定する手法について検討した.そして,携帯

端末を用いてソーシャルネットワークを生成するため

に必要になる近接関係取得システムの実装と評価につ

いて述べた.

今後は 3.2節で述べた手法を用いて実際にコミュニ

ティを推定した場合の評価を行う.コミュニティ抽出に

関する既存の研究の多くは時間によって変化しないグ

ラフを対象としているために,時間軸を加えた際の検

討を加える必要があると考えられる.具体的には,本

ではある時間幅内にある行為者間に近接関係が存在す

るかしないかと,ソーシャルネットワーク内の頂点間

の辺の存在を対応させていた.しかし,この対応では

その時間幅内にその行為者間の近接関係がただ 1度検

出された場合と多数検出された場合の区別がつかない.

従って,∆t 内での特定の近接関係の検出された頻度

から計算される値を辺の重み wk として採用し,ソー

シャルネットワークを重み付きグラフとして扱うこと

で,より詳細な解析が可能になる.また,∆tの大きさ

を 1日,1週間,1ヶ月と変化させることで,推定され

たコミュニティの意味合いも変わってくる.したがっ

て,∆tに関するより詳細な検討が必要である.

参考文献[1] Shane B. Eisenman, Nicholas D. Lane, Emiliano

Miluzzo, Ronald A. Penterson, Gahng-Seop Ahn andAndrew T. Campbell “MetroSense Project: People-Centric Sensing at Scale,” World-Sensor-Web, Oct,2006

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[6] Wikipedia, http://ja.wikipedia.org/

[7] Twitter, http://twitter.jp/

[8] facebook, http://www.facebook.com/

[9] Tanzeem Choudhury and Alex Pentland, “Sensingand Modeling Human Networks using the Sociome-ter,” Proc. Seventh IEEE International Symposiumon Wearable Computers (ISWC’03), pp. 216-222,2003.

[10] Nathan Eagle and Alex (Sandy) Pentland, “RealityMining: Sensing Complex Social Systems”, Personaland Ubiquitous Computing, Vol.10, no.4, pp. 255-268, 2006.

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[11] 森脇 紀彦, 佐藤 信夫, 脇坂 義博, 辻 聡美, 大久保 教夫and 矢野 和男, 組織活動可視化システム「ビジネス顕微鏡」(対面コミュニケーション-顔を中心的メディアとした), 信学技報, vol.107, no.241, pp. 31-36, 2007.

[12] Nathan Eagle and Alex (Sandy) Pentland, “InferringSocial Network Structure using Mobile Phone Data”,Proc. of the National Academy of Sciences, Vol. 106,No. 36, pp. 15274-15278, 2009.

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発表文献

[P1] 江口洋平, 岩井将行, 瀬崎薫, “無線センサノー

ドを用いた近接関係によるコミュニティ推定手法,” 情

報処理学会 全国大会, March, 2010.

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