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1Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2020/4/28 調査部:原田大輔 公開可 ロシア:OPEC プラスによる新たな「協力宣言」に基づき、ロシアは史上最大の能動的減産へ OPEC プラス協調減産崩壊からたった 1 カ月、20 ドル台という 20 年前の油価水準への暴落・ 停滞という事態発生を受けて、新たな「協力宣言」で協調減産枠組みが復活。減産幅は 2020 5 月及び 6 月は日量 970 万バレルという史上最大規模。他方、当初、 G20 諸国もこの OPEC プラスの協調減産の動きに加わるとの見方も出ていた。しかし、G20 諸国によるエネルギー大 臣会合は、結果的に何ら数的コミットメントを行わないまま終了。 ・ロシアが負った減産義務である 5 月及び 6 月に行われる日量 970 万バレル削減の内、ロシアは 日量 1,100 万バレルを基準に日量 250 万バレル削減を担うと表明しているが、これまでロシア の減産対象に含まれてきたコンデンセートについては対象外となることで合意を取り付けてお り、日量 1,100 万バレルからコンデンセート分(日量 79 万~90 万バレル)を差し引き、正味 日量 163 万~174 万バレル減産を実行することになる。 ・コンデンセートの除外によって、ロシアの総生産量の約 5 分の 1 に当たる日量 253 万バレルの 減産は免れたが、それでも総生産量の 15%を削減しなければならないという難問が横たわる。 ロシアの生産体制は産業体制と気候・地質条件から生産調整が容易にはできない。約 1316 万余りの生産井が稼働し、その 85%1 日当たりの平均生産量が日量 5075 バレルという古 い油田。自噴井は 2%未満であり、 82%はポンピングによる人為的生産が必要。 2 カ月の生産停 止を敢行する場合には、生産再開ができないような損傷を井戸にもたらす可能性がある。 ・前例のない生産量削減を行うという課題に直面した石油会社は生産を最適化しながら、永久的 な生産喪失のリスクに直面することになる。各社は生産停止に向けた候補としてウォーターカ ット率の高い坑井及び鉱床を選定しながら、それら生産井閉鎖に伴う影響(主に油層圧力の維 持と生産井自体の養生が可能かどうか)分析を進めているのだろう。一方、新型コロナ・ウイ ルスによる影響により現場も混乱する中、西シベリアでは作業用のウィンターロードも溶融が 始まっており、移動や重機輸送といった作業も容易に進まない状況にある。また、一部の企業 5 月の原油販売予定全量を成約している。このような中で、今回課せられた削減がスケジュ ール通りに達成できるとは考えられない。

OPEC...プラス協調減産合意(2019 年12 月:基準原油生産水準(2018 年10 月時点の原 油生産量)から日量約120 万バレル減産)を約50 万バレル拡大)が3

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Page 1: OPEC...プラス協調減産合意(2019 年12 月:基準原油生産水準(2018 年10 月時点の原 油生産量)から日量約120 万バレル減産)を約50 万バレル拡大)が3

-1- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2020/4/28 調査部:原田大輔

公開可

ロシア:OPECプラスによる新たな「協力宣言」に基づき、ロシアは史上最大の能動的減産へ

・OPECプラス協調減産崩壊からたった 1 カ月、20 ドル台という 20 年前の油価水準への暴落・停滞という事態発生を受けて、新たな「協力宣言」で協調減産枠組みが復活。減産幅は 2020

年 5 月及び 6 月は日量 970 万バレルという史上最大規模。他方、当初、G20 諸国もこの OPEC

プラスの協調減産の動きに加わるとの見方も出ていた。しかし、G20 諸国によるエネルギー大臣会合は、結果的に何ら数的コミットメントを行わないまま終了。

・ロシアが負った減産義務である 5 月及び 6 月に行われる日量 970 万バレル削減の内、ロシアは日量 1,100 万バレルを基準に日量 250 万バレル削減を担うと表明しているが、これまでロシア

の減産対象に含まれてきたコンデンセートについては対象外となることで合意を取り付けてお

り、日量 1,100 万バレルからコンデンセート分(日量 79 万~90 万バレル)を差し引き、正味日量 163 万~174万バレル減産を実行することになる。

・コンデンセートの除外によって、ロシアの総生産量の約 5 分の 1 に当たる日量 253 万バレルの

減産は免れたが、それでも総生産量の 15%を削減しなければならないという難問が横たわる。ロシアの生産体制は産業体制と気候・地質条件から生産調整が容易にはできない。約 13~16

万余りの生産井が稼働し、その 85%が 1 日当たりの平均生産量が日量 50~75 バレルという古い油田。自噴井は 2%未満であり、82%はポンピングによる人為的生産が必要。2 カ月の生産停

止を敢行する場合には、生産再開ができないような損傷を井戸にもたらす可能性がある。

・前例のない生産量削減を行うという課題に直面した石油会社は生産を最適化しながら、永久的な生産喪失のリスクに直面することになる。各社は生産停止に向けた候補としてウォーターカ

ット率の高い坑井及び鉱床を選定しながら、それら生産井閉鎖に伴う影響(主に油層圧力の維持と生産井自体の養生が可能かどうか)分析を進めているのだろう。一方、新型コロナ・ウイ

ルスによる影響により現場も混乱する中、西シベリアでは作業用のウィンターロードも溶融が

始まっており、移動や重機輸送といった作業も容易に進まない状況にある。また、一部の企業は 5 月の原油販売予定全量を成約している。このような中で、今回課せられた削減がスケジュ

ール通りに達成できるとは考えられない。

Page 2: OPEC...プラス協調減産合意(2019 年12 月:基準原油生産水準(2018 年10 月時点の原 油生産量)から日量約120 万バレル減産)を約50 万バレル拡大)が3

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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

1.OPECプラス協調減産崩壊からたった 1カ月、新たな「協力宣言」で協調減産復活

既存の OPECプラス協調減産合意(2019 年 12 月:基準原油生産水準(2018 年 10月時点の原油生産量)から日量約 120万バレル減産)を約 50 万バレル拡大)が 3 月末で期限を迎えるのを

受けて、3 月 5 日、OPEC加盟国は臨時総会を開催するも、減産措置強化を主張する OPEC産油

国と、既存の減産措置の 6 月末迄の延長のみの実施を主張するロシアとの間での議論の隔たりが解消しなかった結果、交渉が事実上決裂。2016年 12 月から 3 年余り続いてきた OPEC及び非

OPEC諸国との協調減産枠組みが崩壊した 1。既存の減産措置が 3 月末で終了することとなった

こと、そして、新型コロナ・ウイルス肺炎拡大による世界経済成長及び石油需要の伸びの鈍化観測と併せ、世界石油需給緩和懸念が市場で強まったことを受け、さらには、その後はロシア及び

サウジアラビア双方の増産に関する情報の発露・市場シェア戦争突入によって、原油価格(WTI

終値)は 3 月 5 日の 1 バレル当たり 45.90ドルから 3 月 30 日には同 20.09 ドルと 2002 年以来の

低水準となった他、一時 20 ドルを割り込み、特に 3 月下旬以降、概ね 20~25 ドルの領域で推移

する状態が続いている。

このような 20 年前の油価水準への暴落・停滞という事態発生を受けて、米国を含め産油国全

体が危機感を共有する中、前月のOPECプラス協調減産崩壊から 1 カ月余りしか経っていない

2020 年 4 月 9 日及び 12 日、OPEC及び一部非 OPEC(OPECプラス)産油国は、テレビ会議形式による臨時閣僚級会合を実施。4 月 10 日には、サウジアラビアが議長国となり、G20 エネルギ

ー大臣会合がテレビ会議形式で開催され、安定的な原油市場に向けた対策の実施を支持する旨表明する。最終的に OPECプラス協調減産体制は関係国との間で新たな「協力宣言(Declaration of

Cooperation)」という形で復活し、2020 年 5 月 1 日~6 月 30 日につき合計で日量 970 万バレル

程度原油生産を削減する他、7 月 1 日から 2020年 12 月末にかけ日量 770 万バレル程度、2021

年 1 月 1 日以降 2022 年 4 月 30 日まで同 580 万バレル程度という史上最大規模の減産に合意す

る 2。

当初、G20諸国もこの OPECプラスの協調減産の動きに加わるとの見方も出ていた。しかし、G20 諸国によるエネルギー大臣会合は、結果的に何の数的コミットメントに合意せぬまま終了す

ることとなった。ロシアとサウジアラビアは、世界最大級の産油国である米国に対し協調減産に応じることを要請していたが、自然減の形で日量 200 万バレルの減産を実施するという米国側の

約束に満足せざるを得なかった。OPECプラス諸国の間でも見解の相違が生じている。例えば、

OPECプラスの最終的な声明の発効には、メキシコの参加が条件として加えられている。臨時閣僚会議において、メキシコは日量 40 万バレルの減産義務の引き受けを拒否し、OPECプラスか

1 「ロシア:石油ガス産業を巡る最近のトピックス(OPECプラス崩壊、露中ガス価格判明他)」(拙稿/2020年 3月

25日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008604/1008717.html 2 「原油市場他:OPEC及び一部非OPEC(OPECプラス)産油国で日量 970万バレル程度の減産実施で合意(速報)」

(野神隆之/2020年 4月 13日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008604/1008733.html

Page 3: OPEC...プラス協調減産合意(2019 年12 月:基準原油生産水準(2018 年10 月時点の原 油生産量)から日量約120 万バレル減産)を約50 万バレル拡大)が3

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

らの脱退の意向を表明。トランプ大統領が 4 月 10 日に、米国にはメキシコの減産義務の一部を

肩代わり(日量 25万バレル)する準備ができているとの発言を行ったが、それを実施するための具体的道筋については一切言及しなかった(米国の自発的な減産と言うよりは原油価格の下落

による石油会社の経済的理由に伴う原油生産削減か)。最終的にメキシコとサウジアラビア等との

間でさらに協議が行われ、メキシコが日量 10万バレルの減産を実施するということで、4 月 12

日に妥協が成立した。10 日の午後にロシア政府(ぺスコフ大統領報道官)は、「プーチン大統領

は OPECプラスの協調減産合意を、ひとつの成果であると肯定的に評価している」との声明を発

表。この合意を受けて、三大産油国である米・露・サウジアラビアが首脳電話会談を実施し、ロシア大統領府は、「各三首脳は、世界市場の安定と世界経済の継続を確保するため、OPECプラス

で合意した段階的な原油生産の削減を支持する。トランプ大統領とプーチン大統領は、二者間の電話会談を別途に行い、石油市場の状況についての意見交換を続け、OPECプラスでの石油削減

の実行の多大な重要性を確認した。今後も 3 国首脳で接触を継続することで合意した」と発表し

たが 3、その成果は、詰まるところ「この問題につき今後も協議を続けることで合意した」という発表が行われるにとどまっている 4。

<参考>OPECによる OPECプラス協調減産復活に関する発表(2020年 4月 12日)

「第 10回 OPEC及び非 OPEC諸国閣僚会合の結果について」5

第 10 回臨時 OPEC及び非 OPEC閣僚会議は、2020 年 4 月 12 日にサウジアラビア・アブドゥ

ルアジズ・エネルギー大臣を議長として、ロシア・ノヴァク・エネルギー大臣共同議長の下、ビデオ会議を介して開催。会議では安定した市場、生産国の相互利益、消費者への効率的・経済的

な安定供給、投資資本の公正なリターンに関して「協力宣言」の中で参加する生産国の継続的な

コミットメントを再確認。

会合は、4 月 9 日及び 10 日に開催された第 9 回臨時 OPEC及び非 OPEC閣僚会合における生

産調整のための重要性かつ責任ある決定を強調。

さらに、4 月 10 日に開催された G20 臨時エネルギー大臣会合に留意し、OPECプラス諸国の

生産者のエネルギー市場の安定化への取り組みを認識し、エネルギーシステムの回復力を確保す

るための国際協力の重要性を認めた。

現在のファンダメンタルズと市場の見通しに関する共通認識を考慮し、第 9 回臨時 OPEC及び

3 ロシア大統領府(2020年 4月 12日)http://kremlin.ru/events/president/news/63190 4 コメルサント(2020年 4月 11日) 5 OPECリリース:https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/5891.htm

Page 4: OPEC...プラス協調減産合意(2019 年12 月:基準原油生産水準(2018 年10 月時点の原 油生産量)から日量約120 万バレル減産)を約50 万バレル拡大)が3

-4- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

非 OPEC閣僚会議での決定に従って、全ての参加国は以下の点について合意した。

1.2016 年 12 月 10 日に署名され、その後の会議でさらに承認された「協力宣言」のフレームワークについて、2019 年 7 月 2 日に署名された協力憲章同様に再確認する。

2.2020 年 5 月 1 日から 2020 年 6 月 30 日に終了する最初の 2 カ月間、原油生産全体を日量 970

万バレル下方調整する。その後の 6 カ月間(2020 年 7 月 1 日から 12 月 31 日まで)は日量770 万バレルへ調整。その後、2021 年 1 月 1 日から 2022 年 4 月 30 日までの 16 カ月間は日

量 580 万バレルへ調整(※1)。調整の計算のベースラインは、サウジアラビア及びロシアを

除き、2018 年 10 月の石油生産量(※2)。ロシア及びサウジアラビアはどちらも同じベースラインレベルである日量 1,100 万バレルとする(※3)。本合意は 2022 年 4 月 30 日まで有効だ

が、延長については 2021 年 12 月中に見直す。

3.全ての主要生産者に対し、石油市場の安定化に向けた取り組みに相応のタイムリーな貢献を

提供するよう要請する。

4.共同閣僚監視委員会とそのメンバーの任務を再確認・拡大し、共同技術委員会と OPEC 事務局の支援の下、一般的な市場状況、石油生産レベル、「協力宣言」と本声明への遵守レベルを

綿密にレビューする。

5.OPEC 加盟国に適用されている方法論に従って、二次情報源からの情報に基づいて、原油生産を考慮し、「協力宣言」遵守が監視されることを再確認する。

6.2020 年 6 月 10 日に TV 会議を開催し、必要に応じて、市場のバランスを取るためのさらなるアクションを決定する。

(上記下線及び以下注釈は筆者によるもの)

※1:3 段階に分割された減産幅は縮小していくことから、産油国はその割合に応じて基準となる

5 月~6 月の減産量から増産していく(5 月~6 月に比べて、7 月~12 月は日量 200 万バレ

ル、2021 年 1 月~2022 年 4 月 22 日は同 390 万バレル増産)。

※2:後述の通り、今回の減産にコンデセートが含まれるかが重要なポイントとなる。アゼルバ

イジャン・エネルギー省の発表によれば、ロシアを含む全ての参加国でコンデンセート生産量は対象外 6。

※3:2018 年 10 月の生産量については、次の石油ガス資源情報を参照されたい。「原油市場他:

OPEC及び一部非OPEC産油国が日量 120万バレルの減産で合意(速報)」(野神隆之/2018

年 12 月 10 日)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1004762/1007656.html。当該会

合の声明では明らかになっていないが、減産率については OPEC プラス産油国で 2018 年

10 月の生産量から一律 23%と設定された。

6 Prime(2020年 4月 10日)

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

※4:ザンギャネ・イラン石油相によれば「イラン、ヴェネズエラ、リビアは削減義務を負わな

い」。

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありませ

ん。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果につ

いては一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

図 1 OPECプラス協調減産合意前後のロシアの原油生産量の推移

出典:エネルギー省統計から筆者取り纏め(※換算係数:1t=7.34 バレル)

(注)エネルギー省統計ではコンデンセート生産量も含んでいる点に留意されたい。

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

この合意を受けて、ノヴァク大臣は、「(ロシア国内については、)近く、我々はロシアの石油企

業を集めて各社の減産計画を議論する。各社はそれぞれ独立して自社の生産量を調整する計画を持っており、各社はロシアが負っている削減量をすぐに履行できる。減産の履行に長い時間はか

からない。ロシアの石油各社はこれまでの減産にも合意しているが、各社の考えを聴きながら柔

軟に考えたい」と述べている 7。早速、4 月 14 日にはエネルギー省が主要ロシア石油会社と TV

会議を開催し、今回合意した減産に関して協議を行い、同省は石油会社が減産をサポートし、「市

場のリバランスのための劇的な対策をこれからすぐに行う必要がある」ことで合意したと発表。

但し、最大の争点となるだろう各社への減産割り当てが為されたのかどうかについての言及は為されなかった 8。

2.今回の合意におけるロシアとサウジアラビアの実質減産量の解釈と実現に向けた難題

ここで、OPECが発表した合意内容に基づいて、また周辺情報を加味しながら、ロシアが実際

にいくら減産する必要があるのか、また、それが実現可能なのかどうか検討してみよう。

上記参考の通り、OPEC発表では調整の計算のベースラインは、「サウジアラビア及びロシアを

除き、2018 年 10月の石油生産量。ロシア及びサウジアラビアはどちらも同じベースラインレベ

ルである日量 1,100万バレルとする」。また、声明では明らかになっていないが、各国の減産比率はメキシコを除き OPECプラス産油国で一律 23%とすることで合意されており、従って、この 5

月及び 6 月におけるロシア及びサウジアラビアの減産量は次の通りとなる。

日量 1,100万バレル✕23%=日量 847万バレル=日量 253万バレル減産(表向きの減産量)

この点については、ノヴァク大臣の発言をエネルギー省が引用する形で、「(5 月及び 6 月に実

施する OPECプラス協調減産の)日量 970 万バレルの削減の内、ロシアは日量 250 万バレルを

担う」と述べている 9。

しかし、この数字には天然ガスに随伴して生産・地上で液化するコンデンセートをどう取り扱

うかという問題(カラクリ)があることに留意が必要である。

これまでの OPECプラス協調減産では減産の基準となる原油生産量について、サウジアラビア

をはじめOPEC諸国はこのコンデンセートを含まず(つまりコンデンセートは自由に生産できた)、

ロシアは含んできたという経緯がある。このことについては、3月の OPECプラス枠組み崩壊について紹介した拙稿(文注 1 参照)にても詳細を触れているが、ロシアではヤマル半島を中心に

7 Lambert(2020年 4月 12日) 8 Lambert(2020年 4月 14日) 9 Prime(2020年 4月 14日)

Page 8: OPEC...プラス協調減産合意(2019 年12 月:基準原油生産水準(2018 年10 月時点の原 油生産量)から日量約120 万バレル減産)を約50 万バレル拡大)が3

-8- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

天然ガス生産を拡大しており、ガス生産増加とともに随伴するコンデンセート生産量が増加傾向

にある。OPECプラス協調減産枠組みではこのコンデンセート生産相当分についてもロシアの原油生産量にカウントされてきた(つまり減産クォータ対象)ため、ロシアは原油生産を行ったと

しても(実際には原油も増産するカラクリで対応してきたわけだが)、増産基調にあるコンデンセ

ートの存在が自国の減産遵守を低下させる方向で影響してきたとして不満があった。実際、2019

年 12 月の協調減産では、ロシアが基準となる原油生産から OPEC同様にコンデンセートを除外

するよう主張したと言われているが、最終的にはコンデンセートの取扱いについては議論が平行

線を辿った結果、曖昧なままとなっていた。今回の合意においては、会談後、アゼルバイジャンのエネルギー省がコンデンセート生産量は対象外となると発表しており 10、前回のロシアの希望

が受け入れられた形となったと推察される。そして、ロシアの 3 月末時点の原油生産量は図 1 の通り、日量 1,131 万バレル(原油及びコンデンセートを含む)と今回の基準値(日量 1,100 万バ

レル)と近似であり、ここから減産を行う、そこには包含するコンデンセート生産量は含まれな

い、という合意が為されたと考えられる。

では、ロシアのコンデンセート生産量はいくらか。エネルギー省の統計では原油及びコンデン

セートが合算され、内訳は公開されていない 11。ノヴァク大臣は以前、「ロシアの原油・コンデン

セートの総生産量に占めるコンデンセートの割合は 7~8%である」と発言しており 12、3 月末のエネルギー省統計の生産量である日量 1,131万バレルからコンデンセート生産量は 79 万~90 万

バレルと推定することができる。この分を差し引くと、次の通り、ロシアが合意した 5 月及び 6

月の実質減産量を明らかにすることができる。

日量 1,100万バレル-コンデンセート分(日量 79万~90万バレル)-生産上限日量 847万バレル

=日量 163万~174万バレル減産(実際の減産量)

このことを裏付けるように、Gazprom Neftのデューコフ社長がエネルギー省と石油会社との間で 14 日開催された TV会議後にインタビューに答える中で、「今回の OPECプラス協調減産の日

量 970 万バレル削減量におけるロシアの「物理的削減シェア」は 18%(=日量 175万バレル)になる。Gazprom Neftが同生産削減量でいくら減産するのかについてはコメントできない」と述

べている 13。

ただし、仮にコンデンセートを除外したとしても、ロシアにとってこの規模の減産はソ連崩壊による混乱と資金不足から急激に生産が減退した 90 年代(1987 年の日量 1,145 万バレルから 10 Prime(2020年 4月 10日) 11 エネルギー省 HP統計:https://minenergo.gov.ru/activity/statistic 12 ヴェードモスチ(2020年 4月 12日) 13 Lambert(2020年 4月 14日)

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

1996 年の同 609 万バレルへ減少)した「受動的」減産を除けば、史上最大の能動的減産となる

と言える。

他方、サウジアラビアについてもロシア同様に減産量は日量 1,100 万バレル-日量 847 万バレ

ル=日量 253 万バレルだが、3 月末の同国の原油生産量は日量 980 万バレル程度に抑制されてお

り、実質減産幅は日量 980 万バレル-日量 847万バレル=日量 133 万バレル程度となると予想される。

3.ロシアは日量 163万~174万バレルもの減産を本当に実現できるのか

コンデンセートの除外というカラクリによって、ロシアの総生産量の約 5 分の 1 に当たる日量

253 万バレルの減産は免れたが、それでも総生産量の 15%、最大の石油会社 Rosneftの生産量(日量約 460 万バレル)の約 4 割に当たる量を削減しなければならないという難問が横たわる。サウ

ジアラビアと異なり、ロシアの生産体制は生産調整が容易にはできず、スウィングプロデューサ

ーになり得ない次のような特徴があるためだ。

(1)複数の国営・民営の企業(垂直統合型で 7 社。中小を入れれば 200 社余り)が混在しなが

ら生産。

(2)特に垂直統合型企業は国営企業であっても国内外で上場しており、株主の利益を優先。株主

に不利益な経営判断を行った場合には、訴訟にも発展。

(3)政府による生産調整は税制(増税・減税)による間接的な手法に限定される(効果が出るま

でに時間を要する)。あるいは米国企業と同様、経済的に不合理な油井の抽出による「受動

的な減産」・「Shut-in」をロシア政府主導で進めることが想定される(後述)。

(4)主力油田は西シベリア・永久凍土帯に位置し、成熟(減退)油田が多い。油層圧力が低く、

ウォーターカット比率が高い。高温の原油生産を継続することで生産を維持しているが、一

度生産を止めてしまうとパラフィン分の凝結や多いところで 90%を超える水分が凍結し、物理的に生産再開が困難となるリスクがある。

モスクワベースのエネルギーコンサルタントの RusEnergy・クルーチヒン編集長は今回の合意

によるロシア史上最大の減産に対して、「自噴井のサウジアラビアの場合は 2,000トン/日(1.5

万 BD)を得るのに 150 井あれば足りるところ、ロシアでは同程度量を確保するには約 2,000井が必要。ロシアでは自噴井は 2%未満であり、82%はポンピングによる人為的生産を行っている。

このような井戸を休止すれば、パラフィンが堆積、北方では凍結し、生産を再開するにはさらに

費用がかかるか、それが不可能なものもある。もし減産を実施し、井戸を停止した場合、その 20%

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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

が再開できればよい方だろう」と述べている 14。

また、英国・オクスフォードエネルギー研究所も今回の合意を受けて「The New Deal for Oil

Markets: implications for Russia’s short-term tactics and long-term strategy」というテーマでレポ

ートを出しており 15、ロシアの減産の実現性について詳細に次のような指摘を行っている。

写 1 西シベリアの油田(左:夏季)とネネツ自治管区の生産井(右:冬季)

白い点がそれぞれ生産井を示している(夏季)。

生産される原油の温度で冬も施設周辺は氷が融けている。

出典:筆者撮影

・この規模(レポートではコンデンセート抜きで日量 200 万バレルと想定)で短期間に急激な

減産を実施することは、ロシアの石油会社にとって深刻な技術的課題に直面する。

・(減産により得られるはずだった生産ができなくなり)「埋蔵量の喪失」につながる可能性のある行為に対する刑事責任を伴う可能性もある。しかし、この規制問題は減産を主張した政

府機関によって一時的に無効にされるだろう。

・中核となる石油生産地域である西シベリアが総生産量のシェアのために減産の大部分を負担しなければならないと予想される。

・春にはなったが、主要生産地域(西シベリア・東シベリア・ネネツ自治管区)の気温は 6 月まで零下になることもある。特に西シベリアでは、水攻法による増進回収を行っている多く

の油井で減産する場合に問題が生じるだろう。低温で井戸を閉めると、坑井や稼働中の機器

を損傷するリスクが高まる。特に西シベリアやヴォルガ・ウラルなどの成熟した生産地域では、水攻法による生産が大部分を占める。

14 ノ ー ヴ ァ ヤ ・ ガ ゼ ー タ ( 2020 年 4 月 10 日 ) :

https://novayagazeta.ru/articles/2020/04/08/84795-rossiyu-prosto-uberut-rynka 15

https://www.oxfordenergy.org/wpcms/wp-content/uploads/2020/04/Insight-67-The-New-Deal-for-Oil-Markets-implications-for-Russias-short-term-tactics-and-long-term-strategy.pdf?v=24d22e03afb2

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・前例のない生産量削減を行うという課題に直面した石油会社は、生産を最適化しながら、永

久的な生産喪失のリスクに直面していくだろう。

・ロシアには 2,600 以上の油田があり、約 13 万の生産井が稼働している。それら生産井の約

85%を古い井戸が占めている(1日あたりの平均生産量は 7~10トン(日量 50~75バレル))。

新しい井戸でも約 30~40 トン(日量 225~300バレル)16。成熟した鉱床の一般的な自然減退率は年間 20~25%のオーダーにある。もし 2 カ月の生産停止を敢行する場合には、生産再

開ができないような損傷を井戸にもたらす可能性がある。

・減産を敢行する場合の候補は、ウォーターカット率(生産量に占める水分の割合)の高い坑井と鉱床となるだろう。西シベリア・ハンティマンシースク自治管区では、ロシアの半分以

上の原油がされているが、ウォーターカット率は 2005 年の 84.2%から 2019 年には 90%以上に増加している。

・ロシアの原油生産量の約 15%(日量 170万バレル)は、90%をはるかに超えるウォーターカ

ット率の限界坑井から生産されており、これらが減産対象となるだろう。

・いかに減産を企業間で配分するのかが更なる課題となる。Rosneftや他の国営企業(Gazprom

Neft)といった強力な組織が、自分たちの利益に有利な削減を主張するだろう。

13 日付けのコメルサントは「揺らぎが生じないように~ロシアは史上最大規模の石油の減産に

踏み切る~」というタイトルの記事を寄稿しており、今回の協調減産協定の場合も前回同様に、

減産義務はロシアの大手 7 社(Rosneft、LUKOIL、Surgutneftegas、Gazprom Neft、Tatneft、Russneft、NOVATEK)に振り分けられることになり、ガスコンデンセートは協調減産取引の対象とはなら

ないので、ガスプロムには減産義務は課せられないと分析している。また、ガスコンデンセートの生産量の多い NOVATEKも当該取引から受ける影響も軽微なものであり、さらに、PSA(生産

物分与契約)プロジェクト(S-1、S-2 及びハリヤガ)や中小の石油会社にも減産義務が課せられ

ることはないであろうと予想している。結果、最終的にロシアの減産義務のほぼ半分をロスネフチが引き受けることになるが、ロシアの大手石油会社が 5 月までの残された 3 週間で大幅な減産

に向けた準備を終えることは難しく、実際の減産幅は予定された数字よりも小さくなる可能性が

あるという業界関係者の意見を掲載している 17。しかし、17 日付けの RBK dailyは、今週行われた石油会社とエネルギー省との会議に参加した石油会社の情報として、エネルギー省はロシアで

の減産について例外を作らないという提案を行っており、従って、主要石油会社だけでなく、中 16 Wood Mackenzieの分析によれば、2020年 3月 1日現在、ロシアには 165,000の生産井が存在。2019年には全坑井の 98%でポンピングが必要という状況。平均流量が一坑井当たり 65BDであり、(単純計算で)ロシアが合意した減産を遵守するためには全体の 18%に当たる約 30,000の井戸を閉鎖する必要がある。

17 コメルサント(2020年 4月 13日):https://www.kommersant.ru/doc/4320694

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小企業及び PSAプロジェクトについても生産削減が求められると指摘している。 図 2 ロシア主要石油ガス会社指標(2019年年次報告書より)及び今次減産シェアの一想定

※Slavneftは Rosneft及び Gazprom Neftが保有。

<参考>今次減産実現のための各社(7 社)負担シェアの一想定

対象会社想定 2018 年生産量実績 (コンデンセートを含む)

7 社での シェア

日量 163万~174万バレル減産実現のための割当

最大生産 削減率

1 Rosneft 日量 463 万バレル 46.9% 76.4万~81.6 万バレル

≒▲17.6%

2 LUKOIL 日量 173 万バレル 17.5% 28.5万~30.5 万バレル

3 Gazprom Neft 日量 127 万バレル 12.9% 21.0万~22.4 万バレル

4 Surgutneftegas 日量 125 万バレル 12.7% 20.7万~22.1 万バレル 5 Tatneft 日量 60 万バレル 6.1% 9.9 万~10.6 万バレル

6 Russneft 日量 15 万バレル 1.5% 2.4 万~2.6 万バレル

7 NOVATEK 日量 24 万バレル 2.4% 3.9 万~4.2 万バレル

合計 日量 987 万バレル(※) 100% 163 万~174 万バレル

※2018 年のロシア全体の原油・コンデンセート生産量は日量 1143.8 万バレルであったことから(BP統計 2019)、この 7 社の生産がロシア全体の生産量に占める割合は 86%となる。また、ガスに随

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伴するコンデンセート生産がメインである Gazprom(日量 97 万バレル)を入れれば 95%となる。 ※アレクペーロフ LUKOIL 社長は 20 日、OPECプラス合意を受けて、日量 4 万 t(29.2 万バレル)削減すると発表している 18。

※21 日の IOD報道によれば、各石油会社はエネルギー省から生産量を来月 18%~20%削減するよう指示されている。ロシアのある石油会社代表は、エネルギー省の指示に従って、生産量を 20%削減すると語った。別の石油会社は、削減は合計で 19%になると語っている 19。

※ロイターの報道によれば、エネルギー省は石油企業に対して、原油生産を 2 月の水準(ロシア全体で月間 44.7 百万トン≒日量 1,132 万バレル)から約 20%削減することを指示したとされている 20。

出典:筆者取り纏め Assoneft(中小石油企業連盟)のコルズン代表も「減産への中小石油会社の参加に関する議論について聞いているが、各企業の割当の決定はまだ為されていない」と語っている。また、生産量

に比例して全社で減産を行うと、中小企業の収益性や利益が失われ、大企業に吸収されてしまう。

この場合、OPECプラス取引に基づくロシアの義務は、同国の石油生産市場の統合と主要石油会社の拡大に繋がるという専門家のコメントを引用している 21。

図 2 下表にて、大手 7 社を前提として今回の合意に基づく 5 月から 6 月に課された減産実現のための割当を過去の生産シェアから想定してみた。この想定では全社一律 17.6%程度の減産を行

うことができれば、ロシアは OPECプラスによる新たな「協力宣言」での公約を実現できる。他

方、生産量削減シェア割当は、生産者の政治的影響力に比例して配分されるという指摘もある 22。Rosneftのセーチン社長は、3 月の OPECプラス協調減産枠組み崩壊におけるロシアによる強硬

な対応をプーチン大統領に進言した役割を演じたと見られており、時経ずして結ばれた今回の新

たな「協力宣言」に至る混乱を招いた当事者であるのにもかかわらず、批判もなく、現在もなお影響力を失っていない。前渡金を受け取っている中露の原油供給長期契約(東シベリアからESPO

パイプラインで大慶へ輸出)を盾に減産削減義務をできるだけ回避する動きに出る可能性もある。 減産の技術的実現性については、メジャーでは最もロシアの地質を知り尽くしていると言って

も過言ではない BP、そのロシア CIS担当エコノミストは「原理的にはロシアは減産を実現する

ことができるだろう。しかし、技術的には可能であっても困難を伴う。すでにロシアの石油会社は技術的な生産カットの方法を研究している。カットはできるが、問題は生産カットした場合に

18 ロイター(2020年 4月 20日) 19 IOD(2020年 4月 21日) 20 ロイター(2020年 4月 20日)https://jp.reuters.com/article/global-oil-russia-idJPL4N2C90QK 21 RBK Daily(2020年 4月 17日)https://www.rbc.ru/business/17/04/2020/5e997e879a79475fbe2064b4 22 Horizon(2020年 4月 15日)

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将来生産が再開できるのか、経済性のある判断かどうかである」と述べている 23。前述の各専門

家の意見の通り、前例のない生産量削減を行うという課題に直面した石油会社は生産を最適化しながら、永久的な生産喪失のリスクに直面していくだろう。生産再開ができないような損傷を井

戸にもたらす可能性があり、停止した生産井の 8割が復活できないかもしれない。

5 月に突入しようという今、エネルギー省及び減産に協力することになるロシアの石油会社は減産の即時遵守という問題に対して昼夜データの洗い出しに追われていると想像される。各社は

生産停止に向けた候補としてウォーターカット率の高い坑井及び鉱床を選定しながら、それら生

産井閉鎖に伴う影響(主に油層圧力の維持と生産井自体の養生が可能かどうか)分析を進めているのだろう。しかし、新型コロナ・ウイルスによる影響により現場も混乱する中、西シベリアで

は作業用のウィンターロードも溶融が始まっており、移動や重機輸送といった作業も容易に進まない状況にある。また、Gazprom Neftをはじめ一部の企業は 5 月の原油販売予定全量を成約して

いる。このような中で、今回課せられた削減がスケジュール通りに達成できるとは考えられない。

(了)

23 POG(2020年 4月 14日)