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FUJITSU. 63, 1, p. 17-23 01, 201217 あらまし 製造業における「ものづくり」が現在直面している課題として,「増大する開発コスト」 「製品の複雑化」「開発期間の短縮」「企業間の協業」そして「災害対策を含めた事業継続性」 がある。これらの課題を解決するためには,「シミュレーション」「情報共有/活用」「ツー /部門連携」が重要と考える。当然ながら,これらは相互に深く連携・関係することでよ り高い効果が得られる。例えば,装置内発熱や静電気による素子破壊の可能性を設計段 階で早期に発見するために熱流体/静電気シミュレーションを実施するが,分散設計環境 下では,プリント板と筐体の設計情報を収集し,シミュレーション環境に転送する作業 が入り,コピーの手間や情報管理(セキュリティ)に課題がある。このような課題に対し, 富士通ではエンジニアの設計環境をクラウド化することにより,シミュレーションの迅 速化,情報共有/活用,ツール/部門連携性をより高め,設計品質の高いものづくりを実現 できると考える。本稿では,製品開発における課題に焦点を当て,それを解決するため のアプローチとして,富士通が現在取り組んでいるエンジニアリングクラウドについて 紹介する。 Abstract Product design is currently facing some issues: higher development costs, increasingly complex products, a faster time to market, cooperation between enterprises, and business continuity including measures to deal with natural calamities. To solve these issues, it is important to have simulations, information sharing and use, and linkage between tools and sections. Of course, greater effects can be obtained by having deep mutual cooperation between them. For example, electrostatic or thermal fluid simulations are performed in order to detect at an early stage of design the possibility of a device being damaged by the heat generated within it or electrostatic discharge. However, in the distributed design environment, information on housing and printed circuit board design is collected and then work begins to transfer this information to the simulation environment. This gives rise to the issues of the effort needed to copy information and information management (security). To solve them, Fujitsu thinks that by shifting the engineering design environment to the cloud, the speed of simulations, information sharing and use, and linkage between tools and sections will be enhanced. It believes this will achieve product design that has a high design quality. This paper focuses on the issues in product development. As an approach to solving them, it introduces Fujitsus Engineering Cloud, a tool that Fujitsu is working on now. 安田 満 富士通のエンジニアリングクラウド Fujitsu’s Engineering Cloud

富士通のエンジニアリングクラウド - Fujitsu解析精度向上のための微細メッシングに伴うモデ ルの大規模化,さらに全体最適化設計時の連携・

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FUJITSU. 63, 1, p. 17-23 (01, 2012) 17

あ ら ま し

製造業における「ものづくり」が現在直面している課題として,「増大する開発コスト」

「製品の複雑化」「開発期間の短縮」「企業間の協業」そして「災害対策を含めた事業継続性」

がある。これらの課題を解決するためには,「シミュレーション」「情報共有/活用」「ツール/部門連携」が重要と考える。当然ながら,これらは相互に深く連携・関係することでより高い効果が得られる。例えば,装置内発熱や静電気による素子破壊の可能性を設計段

階で早期に発見するために熱流体/静電気シミュレーションを実施するが,分散設計環境下では,プリント板と筐体の設計情報を収集し,シミュレーション環境に転送する作業

が入り,コピーの手間や情報管理(セキュリティ)に課題がある。このような課題に対し,

富士通ではエンジニアの設計環境をクラウド化することにより,シミュレーションの迅

速化,情報共有/活用,ツール/部門連携性をより高め,設計品質の高いものづくりを実現できると考える。本稿では,製品開発における課題に焦点を当て,それを解決するため

のアプローチとして,富士通が現在取り組んでいるエンジニアリングクラウドについて

紹介する。

Abstract

Product design is currently facing some issues: higher development costs, increasingly complex products, a faster time to market, cooperation between enterprises, and business continuity including measures to deal with natural calamities. To solve these issues, it is important to have simulations, information sharing and use, and linkage between tools and sections. Of course, greater effects can be obtained by having deep mutual cooperation between them. For example, electrostatic or thermal fluid simulations are performed in order to detect at an early stage of design the possibility of a device being damaged by the heat generated within it or electrostatic discharge. However, in the distributed design environment, information on housing and printed circuit board design is collected and then work begins to transfer this information to the simulation environment. This gives rise to the issues of the effort needed to copy information and information management (security). To solve them, Fujitsu thinks that by shifting the engineering design environment to the cloud, the speed of simulations, information sharing and use, and linkage between tools and sections will be enhanced. It believes this will achieve product design that has a high design quality. This paper focuses on the issues in product development. As an approach to solving them, it introduces Fujitsu’s Engineering Cloud, a tool that Fujitsu is working on now.

● 安田 満

富士通のエンジニアリングクラウド

Fujitsu’s Engineering Cloud

FUJITSU. 63, 1 (01, 2012)18

富士通のエンジニアリングクラウド

ま え が き

製造業における「ものづくり」が,現在直面している課題として,「増大する開発コスト」「製品の複雑化」「開発期間の短縮」「企業間の協業」そして「災害対策を含めた事業継続性」がある。これらの課題を解決するためには,シミュレーション,情報共有/活用,ツール/部門連携が重要と考えている。当然ながら,これらは相互に深く連携・関係することでより高い効果が得られる(図-1)。例えば,高性能LSIを搭載した製品の装置内発熱や静電気による素子破壊の可能性を設計段階で早期に発見するためにシミュレーションを実施する。その準備作業として,プリント板CADデータから3次元(3D)化したデータと3次元筐体設計データを結合し,装置全体のモデリングを行い,そして熱流体/静電気シミュレーションを実行していく。この設計プロセスをスムーズに行うためには設計・解析環境と部門間協調が重要である。また,プリント板単体解析から装置全体解析,解析精度向上のための微細メッシングに伴うモデルの大規模化,さらに全体最適化設計時の連携・連成シミュレーションなど,これらシミュレーションを徹底活用し,設計手戻りの削減を実現するには,すべての設計情報を統合化した環境が重要と考えている。このような課題に対し,富士通ではエンジニア

ま え が きの設計環境をクラウド化することにより,シミュレーションの迅速化,情報共有/活用,ツール/部門連携性をより高め,設計品質の高いものづくりを実現できると考える。(1)

本稿では,製品開発における課題に焦点を当て,それを解決するためのアプローチとして,富士通が現在取り組んでいるエンジニアリングクラウド(以下,Eクラウド)について紹介する。

Eクラウド概要

本章では,エンジニアリング分野の特異性を述べ,Eクラウドのサービス提供に必要な新たな技術,環境について紹介する。● エンジニアリング分野の特異性(1) 設計ツールの多様性商品開発では,装置を構成するASIC・FPGA・プリント板など個別電子部品の設計を専門のエンジニアが分担して行う。担当エンジニアは,それぞれの設計対象ごとに,先端テクノロジーから汎用テクノロジーまで幅広い設計技術とCAD,シミュレーションツールを選択し,設計していく。富士通では,設計環境の標準化を徹底・推進しているが,それでも約200種以上のツールを活用している。これらツール群(市販・内製ソフト)は,Windows,Linux,SolarisのOS環境,そして32ビットOS,64ビットOSの使い分け,更にはシミュレーションや検証ツール特有の大規模解析環境(PCク

Eクラウド概要

企画 設計 試作 生産準備

製造 保守

設計

検証

情報

電気系

構造系

シミュレーション

プロジェクト管理

設計データ管理

製造系

構造,熱,ノイズ,電磁波,静電気,製造ライン,作業負荷

仕様書,電気/構造系データ,BOM,図面,ドキュメント

電気/構造系設計~製造~保守

障害,品質,設計/製造/規格/ノウハウへフィードバック 分析

情報共有/活用,ツール/部門連携

LSI設計CAD/プリント板設計CAD

筐体/ハーネス設計 3D-CAD

製造ライン設計/手順書/検証

BOM:部品表

図-1 富士通のものづくり概要

FUJITSU. 63, 1 (01, 2012) 19

富士通のエンジニアリングクラウド

・設計者が必要とするアプリケーション・各アプリケーションが動作するOS,計算機 (Windows,Linux,Solaris,32ビットOS,64ビットOS,PCクラスタ,グリッドコンピューティング,超並列処理計算機,超64 Gバイトメモリ搭載機)

・設計データやドキュメント,設計処理結果を格納するストレージ(すべての情報をクラウドで管理)

・高性能グラフィック処理やGPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)処理のためのGPU搭載サーバつまり,従来設計拠点で投資・管理していたリソースを,クラウド側に設計ツール(ライセンス)や処理サーバ(グラフィック処理用GPUを含め),ストレージを集約し,統合管理する。これにより設計拠点側のTCO削減を実現できる。(3) クライアント端末の変革従来設計拠点で共有管理・活用していたWSが不要になり,低消費電力型のOA端末と共存が可能になる。さらに,Eクラウドにネットワーク接続できる環境であれば,どこでも参照や設計が可能になり,変化するワークスタイルへもクラウド環境を活用することで柔軟に対応できる。● 高速画像表示技術商品開発の現場では多種多様な設計ツールを活用しているため,各ツールへの特殊な組込み作業,およびクラウドサーバと端末側に専用機器の導入を不要とする方針で高速画像表示技術の開発を行った。(1) 基本概要従来のクライアント端末で行っていた処理を,サーバ側と端末側に機能分担させた。特に端末側ではサーバから送信された圧縮データを復元し,ディスプレイに表示させる機能に絞り,負荷の軽減を図った。したがって,クライアント端末では,グラフィック処理専用の拡張ボード(GPU搭載)や,高い処理能力のCPUが不要であり,メモリ容量はオフィス処理程度で済み,従来WS端末で運用していた業務をOA業務用PCで可能となった。(2) 富士通独自の高速表示技術「RVEC(レベック:

Remote Virtual Environment Computing)」富士通グループの数千人規模の設計者が,クラ

ラスタ,超並列計算機)が必要である。また,大規模な設計・検証では必要メモリサイズが64 Gバイトを超えるツールがあり,更に大規模化に対応してメモリサイズが増加する傾向にある。総括すると,エンジニアリング分野には顧客要望に対応する技術変化の激しい商品開発において,ヘテロジニアス(異種混在)な計算機環境と高性能化・大規模化への継続したリソース投資が要求される。(2) 高速レスポンスを要求する対話型設計

3D-CADに代表されるように,設計者は高解像度ディスプレイで設計内容を確認し,マウスやキーボードを操作して,設計改善を繰り返している。この対話型設計(コンピュータと設計者)においては,高速に応答する処理能力と表示性能が要求される。先に述べた電子部品の設計や構造系の設計では,対話型設計が設計プロセスに必ず組み込まれ,製品品質や性能を高めていく重要な設計手法となっている。(3) エンジニアが利用するワークステーション端末対話型設計では,従来,高性能なワークステーション(WS)を必要としてきた。WS端末は,画像処理(3D)を高速に処理する高性能グラフィックボードと大容量メモリを搭載し,エンジニアが利用する設計ツール(3D-CADなど)をインストールする非常に高価な端末である。このため,複数の設計者が共有する設計環境であった。● Eクラウドの仕組みここでは,従来の設計環境を設計拠点で分散管理されている高額なWS端末から,クラウド環境にすべて移設するための要件と必要技術を述べる。(1) Eクラウドの基本要件・商品開発に必要な設計環境をクラウド内に構築・アプリケーション(CAD,シミュレーション)はすべてクラウド内のサーバで実行

・処理結果(画面情報)をサーバから設計者の端末へ転送

・設計者の端末は,処理結果の画面を参照するだけのため,OA業務用PCで設計可能

(2) クラウド側の計算機環境商品開発で活用する設計ツールが要求するヘテロジニアスな設計環境をクラウド側に準備する。

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富士通のエンジニアリングクラウド

ウド環境(現有のネットワーク活用)で設計作業を従来と同様に進めることを前提として,使用帯域の最少化,かつスムーズな表示処理速度を目標に,富士通研究所で技術開発,実用化を行った。今回開発した高速表示技術RVEC(レベック)の一つである使用帯域の最小化の技術を紹介する。サーバ側で処理した表示画面全体を動画として圧縮・送信する単純な方式では,現有のネットワーク容量を超過するため,今回新たに静止画と動画領域のハイブリッド処理(富士通独自)を考案した。対話型設計処理において,メニューバーなど画面変動が非常に少ない領域と,マウスポインタを中心に画面が激しく変化する領域に識別し,画面変動の少ない領域を静止画,変動の激しい領域を動画として処理を行う。このサーバ側の処理では,画面を複数のブロックに分割し,各ブロック単位で画面変動を監視し,時間単位に静止画処理と動画処理を行い,端末側に転送データを圧縮・暗号化し送信する。端末側では逐次復元し,静止画と動画を合成して表示処理を行う(図-2)。この方式により,使用帯域の大幅な削減を実現した(単純な動画転送方式と比べ約10分の1に削減)。(2) レスポンス時間の配分

RVEC(レベック)を活用したレスポンス時間(クライアント端末のコマンド選択~再表示)は,

図-3の①~⑤の総和である。一般的に設計者のストレスフリーなレスポンス時間は150 msと報告(2)されており,この数値を目安に評価を実施した。ただし,設計者や熟練度に

より微妙な判断差がある。Eクラウドサーバの設置拠点を関東地域に,ストレスフリーなレスポンス時間を150 msに,サービスエリアを日本全域と仮定とした場合,ネットワーク遅延は約50 ms,そのほかの処理時間は100 msの配分と想定される。この数値目標を達成すべく,RVEC(レベック)の性能強化,富士通内製ツールの処理速度向上に取り組み,ストレスフリーなクラウド環境の開発に成功した。今後テクノロジーの進展により,ネットワークの高速化,利用帯域の拡張,CPU・GPUの高性能化が追求され,ストレスフリーの適用範囲が拡大し,グローバルな設計環境,設計情報の共有などサービス展開が期待できる。

富士通のEクラウドの取組み

富士通グループでのエンジニアリング分野のクラウド化は,「ライセンス統合とサーバ集約(社内ASP)」と「Eクラウドへの展開」に分けて取組みを実施した。以下にその取組みを紹介する。

● ライセンス統合,サーバ集約(2000年~)1980年以降,市販CADツールの導入が始まり,ライセンス管理と実行サ―バ導入・管理や定期的な更新管理を各部門の設計者が兼務で作業していた。

2000年当時,保有ライセンス種類の増加と管理工数の増大,低稼働率と課題が多く,これらを解決するため,社内ASPを立ち上げ,ライセンスの統合,サーバ集約を徐々に展開すべく,電気系CADから着手し,さらにCAE系,そして3D-CAD

富士通のEクラウドの取組み

配線作業エリア

静止画動画

(a)サーバ側での画面の送信準備 (b)サーバ側での動画領域の識別 (c)復元後のクライアント画面

図-2 動画と静止画のハイブリッド方式

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富士通のエンジニアリングクラウド

キュリティなど課題がある。これに対し,設計データやドキュメント(仕様書)を統合化した環境で一元管理し,一連の設計作業もその環境の中で完結できる統合設計を目指す目的で,Eクラウドを立ち上げた。以下にEクラウドのシステム構成を述べる。富士通では,携帯電話からスパコンまで一つの統合設計開発環境(FTCP:Flexible Technical Computing Platform)で設計している。このFTCPを社内ASPからクラウド環境へ移行した。大きな特徴としては,(1) 大規模シミュレーションは社内外リソースを活用できる環境

(2) ユーザ認証/ライセンス管理システム(3) セキュアな設計データ管理(4) 設計者の端末に処理画面を送信する高速表示技術RVEC(レベック)

(5) 画像処理を高速に行うGPU搭載サーバの設置などがある。このEクラウド設計環境を活用し,高度化する設計手法や今後のワークスタイルに今後対応していく(図-4)。(3)

クラウド導入のメリット

クラウドを導入することによるメリット(今後の取組みも含め)を以下に紹介する(図-5)。

クラウド導入のメリット

に適用を拡大した。(1) シミュレーション環境の強化計算機リソースの共有化を進める過程で,設計最適化シミュレーション分野に要求される数千~数万ジョブの並行処理環境(グリッドコンピューティング)や大規模シミュレーションの並列処理環境(PCクラスタ)の要求に対応し,統合設計環境の強化を実施した。(2) ガバナンスの強化,運用の効率化部門ごとに導入したツールの適正化(標準化)を行い不要ライセンスの廃却,高稼働率の維持・向上を利用部門と共同で進めている。● Eクラウドへの展開(2010年~)社内ASPが富士通社内に定着したが,製品開発段階にある設計データは依然として設計部門に分散している状況にあった。今後,筐体を含めた装置全体のシミュレーション(熱流体,電磁界など)と結果分析,そして製品設計へのフィードバックの設計プロセスを効率的に行う設計環境がますます重要になると考え,Eクラウドへの展開に取り組んだ。設計データが設計部門内に分散している場合,電気系CADと構造系CADとの連携処理,モデリング,シミュレーションなどの設計プロセスごとに設計データのコピー処理が入り,設計効率性やセ

ネットワーク処理

クライアント側 サーバ側

アプリケーション処理

RVEC(レベック)処理 (静止画,動画識別,画像圧縮,暗号化)

1

ア2(含む,画像化)

R3

計算機処理

4

コマンド選択

RVEC(レベック)処理 5(画像復元)

レスポンス時間= ネットワーク遅延(①と④)+アプリケーション処理時間(②)+RVEC(レベック)画像処理(③と⑤)

図-3 レスポンス時間の構成要素

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富士通のエンジニアリングクラウド

がロードされるため,迅速に処理が実行される。(3) 情報流出へのリスク対策・企業の生命線である設計データの情報漏えいの対策

・設計データを社外・海外に持ち出さない(4) 個人PCに情報が残らない,残さない・設計環境をクラウドに構築,紛失リスクへの対策に

・PC故障時,別PCで即時作業再開

(1) だれでも,どこでも,均一な環境を利用可能・国内外の出張先から設計情報を参照・修正・迅速な設計再開が可能(事業継続性)・新プロジェクト発足,即日設計スタート(従来

2週間→数時間で準備)・低消費電力化(高性能WSからOA用へ)(2) 設計データの集合化で連携処理が容易社内ネットワーク(WAN)を使用しないで,

Eクラウドのデータセンター内(LAN)でデータ

社内リソース 社外リソース

設計者

Eクラウドポータル

汎用 スパコン

高速表示技術RVEC(レベック)

・PT板CAD ・LSI-CAD

・構造CAD ・部品情報

・電気/物理 シミュレーション

多並列ソルバ 電気/物理

シミュレーション

IAサーバ (X86)

IAサーバ (X86)+GPU

クラスタマシン

ペタコン (公共)

スパコン (大学)

IAモデルライブラリラ

設計データ

・電磁界解析

計算機リソース

(OA用PC)(OA用PC)

設計ツール

ジョブ制御,認証・セキュリティ・ライセンス管理・データ管理 クラウド基盤

設計ポータル

社内統合プライベート クラウド

⑤多用なワークスタイル への対応

海外拠点協業からの活用

サテライトオフィス・在宅勤務

利便性の向上による効率化

②設計データの集合化で連携処理が容易

無線

現場での活用(保守,工場)

⑥ライセンスの統合管理

⑦膨大なクラウド情報から新たな価値の創出

④個人 PCに情報が残らない,残さない

③情報流出へのリスク対策

①だれでも,どこでも 均一な環境を利用

図-4 Eクラウドのシステム構成

図-5 クラウド導入のメリット

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富士通のエンジニアリングクラウド

計技術,製造・生産技術)を生み出し,そしてそれぞれの現場へフィードバックすることで,更なる効果が期待できる。

む  す  び

本稿では,富士通グループでの商品開発における設計環境のクラウド化の取組みを紹介した。当面の課題としては,GPU仮想化対応,ストレスフリーを実現する負荷調整がある。従来,クライアント端末に搭載されていたGPUをサーバ側に移設するとともに仮想環境でGPUを効率的に活用する新たな取組みであり,その環境の整備と実用化に時間を要している。また,富士通社内への適用において,現行ネットワーク環境の活用を前提にEクラウドを推進しているが,設計拠点の帯域と設計人員と業務量に応じて,ストレスフリーを実現する最適な負荷調整をシステム側で自己診断し,自動調整する技術が重要課題だと考える。今後,クラウドの利用には国境を越えたサービスの広がり,企業枠を越えた協業の場としてのつながりを目指し,標準技術を活用したクラウド基盤の上に,柔軟かつオープンな接続性を装備したEクラウドの環境を継続して強化していく。

参 考 文 献

(1) 斎藤精一ほか:エンジニアリングクラウド開発環境.FUJITSU,Vol.62,No.3,p.288-296(2011).

(2) N. Tolia et al.:Quantifying Interactive User Experience on Thin Clients.IEEE Computer,Vol.39,Issue3,p.46-52(2006).

(3) 山口高男ほか:ものづくり革新を支える統合設計環境.FUJITSU,Vol.56,No.6,p.573-579(2005).

む  す  び

(5) 多様なワークスタイルへの対応・企業枠を越えた協業,大規模開発のマルチサイト開発(設計情報をクラウドで管理運用,情報共有化)

・家庭事情(育児,介護)による在宅勤務が可能・タブレットPCやスマートフォンから情報参照(営業,修理,設計レビューなどの業務改革に活用)

(6) ライセンス統合管理の実現・ライセンスの共有化のメリットクラウドにアプリケーションの実行環境を移すことにより,ライセンスの集中管理が従来の分散設計環境に比べ,容易になる。富士通社内事例では,ライセンスの集約と共有化により,30~ 40%の費用抑制の効果実績があった。この抑制した費用をIT強化(例えば,設計検証強化に先進的なシミュレーションの新規購入)に投資を行い,設計品質の向上や設計期間の短縮を図っている。・ライセンス管理サーバの統合化各部門のライセンス管理業務を一括して行うことで,管理工数の大幅な削減効果が得られる。富士通では統合化前には11部門ごとにそれぞれ管理していたが,現在は1部門に集約した。このライセンスサーバの運用・管理業務としては,サーバOSの更新,アプリケーションの障害対応や機能強化版のシステム更新と正常動作確認の作業などがあり,統合以前にこの作業をそれぞれの設計拠点で,設計作業の合間にエンジニアが担当していた。(7) 膨大なクラウド情報から新たな価値の創出富士通内製のツール運用では,全設計者のCADの運用ログをリアルタイムで収集し,障害が発生している設計者にCADサポート担当から直接問合せを行うサービスや,CAD機能の活用頻度,設計難易度の傾向調査(信号周波数,設計期間など)など多方面に収集・分析・活用し,開発・サポート現場にフィードバックし活用していた。クラウド化の進展に伴い,更に膨大で広範囲な情報がクラウドに集積され,設計から生産,保守まで様々な活動の意思決定への支援,予測処置などに活用できる情報や新たな価値を創出することを検討している。例えば設計情報と製造・生産情報との相関(設計・製造・フィールド品質)から得られる新たな知見(設

安田 満(やすだ みつる)

富士通アドバンストテクノロジ(株) 所属現在,主にエンジニアリングクラウドのプロジェクト総括に従事。

著 者 紹 介