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マンション管理組合の役員の皆様におかれましては、日頃、管理組合及び理事会の適正な運営 にご尽力されておられることと拝察いたします。 マンションは、同じ屋根の下に異なった価値観や意見の異なる人々が居住することから、管理 組合の運営には何かとご苦労されておられると思います。 近年、マンションは全国で約 654.7 万戸のストック(平成 30 年国交省調査)となっており、横 浜市のマンションの状況についてみると、約 6 千以上の管理組合があります。今やマンショシは、 重要な居住形態となっております。 しかし、一方では、マシションの状況は、「二つの老い」が大きな課題となってきております。 「二つの老い」とは、居住者の高齢化であり、建物・設備の老朽化です。 平成 30 年度に国交省が実施した「マンション総合調査」によると、完成年次が古いマンション ほど 70 歳代以上の居住者の割合が高くなっており、昭和 54 年以前のマンションにおいては、70 歳代以上の居住者の割合は 47.2%となっていると報告されております。 この「二つの老い」を背景とした管理組合の担い手不足、管理費等の滞納、災害時における意 思決定のルールの明確化など、さまざまな課題も指摘されております。 このため、横浜市ではマンション管理組合支援に関する諸施策を実施しております。横浜市と マンション管理の専門家である四団体による「横浜市マンション管理組合サポートセンター事業」 SC)もその施策の一つです。 マンションが抱える課題に対応して、いかに快適な住環境をつくりあげていくかは役員の皆様 の双肩にかかっているといっても過言ではありません。 SC では、管理組合及び理事会の運営に携わる皆様のお役に立てることを願って、新任役員に就 任された皆様を対象に、マンション管理基礎セミナーとして 7 月のソフト編と今回のハード編を 開催しております。 このテキストは、主としてマンションの修繕等に係わるハード面を中心に編集したものです。 管理組合及び理事会の運営活動にご活用いただければ幸いです。 なお、当 SC では、毎月、原則として第一日曜日に、横浜市内 18 区の会場において、管理組合 の皆様同士の交流及び管理組合の皆様と相談員との情報交換を目的とした交流会を開催しており ます。 これを機会に、ぜひとも、管理組合の所在区の交流会にご参加頂きますようお願い申し上げま す。

まえがき - Yokohama › kurashi › sumai-kurashi › ...2020/01/23  · まえがき マンション管理組合の役員の皆様におかれましては、日頃、管理組合及び理事会の適正な運営

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まえがき

マンション管理組合の役員の皆様におかれましては、日頃、管理組合及び理事会の適正な運営

にご尽力されておられることと拝察いたします。

マンションは、同じ屋根の下に異なった価値観や意見の異なる人々が居住することから、管理

組合の運営には何かとご苦労されておられると思います。

近年、マンションは全国で約 654.7 万戸のストック(平成 30 年国交省調査)となっており、横

浜市のマンションの状況についてみると、約 6 千以上の管理組合があります。今やマンショシは、

重要な居住形態となっております。

しかし、一方では、マシションの状況は、「二つの老い」が大きな課題となってきております。

「二つの老い」とは、居住者の高齢化であり、建物・設備の老朽化です。

平成 30 年度に国交省が実施した「マンション総合調査」によると、完成年次が古いマンション

ほど 70 歳代以上の居住者の割合が高くなっており、昭和 54 年以前のマンションにおいては、70

歳代以上の居住者の割合は 47.2%となっていると報告されております。

この「二つの老い」を背景とした管理組合の担い手不足、管理費等の滞納、災害時における意

思決定のルールの明確化など、さまざまな課題も指摘されております。

このため、横浜市ではマンション管理組合支援に関する諸施策を実施しております。横浜市と

マンション管理の専門家である四団体による「横浜市マンション管理組合サポートセンター事業」

(SC)もその施策の一つです。

マンションが抱える課題に対応して、いかに快適な住環境をつくりあげていくかは役員の皆様

の双肩にかかっているといっても過言ではありません。

SC では、管理組合及び理事会の運営に携わる皆様のお役に立てることを願って、新任役員に就

任された皆様を対象に、マンション管理基礎セミナーとして 7 月のソフト編と今回のハード編を

開催しております。

このテキストは、主としてマンションの修繕等に係わるハード面を中心に編集したものです。

管理組合及び理事会の運営活動にご活用いただければ幸いです。

なお、当 SC では、毎月、原則として第一日曜日に、横浜市内 18 区の会場において、管理組合

の皆様同士の交流及び管理組合の皆様と相談員との情報交換を目的とした交流会を開催しており

ます。

これを機会に、ぜひとも、管理組合の所在区の交流会にご参加頂きますようお願い申し上げま

す。

令和元年 12 月 7 日

横浜市マンション管理組合サポートセンター 新任役員研修会セミナー(ハード編)

マンションにおける計画修繕の基礎知識

----- プログラム -----

司会 澤 與志博 9:15~9:30 主催者挨拶 横浜市マンション管理組合サポートセンター・・本部長 堀内 敬之 横浜市建築局住宅再生課・・・・・・・・・・・・課長 竹下 幸紀 9:35~10:50 ① 第1部 長期修繕計画と修繕積立金 一般社団法人神奈川県マンション管理士会・・・・・・・神宮 一男 10:55~12:10 ② 第2部 建物の維持管理と計画修繕 NPO 法人建物ドクターズ横浜・・・・・・・・・・・・小笠原 修司 12:10~12:30 〈質疑応答〉 12:30~13:30 昼食休憩 13:30~14:20 ③ 第3部 給排水等設備の維持管理と改修 NPO 法人横浜マンション管理組合ネットワーク・・・・・伊藤 和彦 14:25~14:50 ④ 第4部 電気設備・消防設備 NPO 法人建物ドクターズ横浜・・・・・・・・・・・・小笠原 修司 14:50~15:10 〈質疑応答〉 15:15~15:30 ⑤ 横浜市のマンション関連支援事業について

横浜市建築局住宅部住宅再生課 ・・・・・担当係長 佐藤 智宏 15:35~16:00 ⑥ マンション管理に関する情報 公益財団法人マンション管理センター ・・・技術部長 藤野 晶成 16:05~16:25 ⑦ マンション修繕のための資金計画 住宅金融支援機構・・・・・・・・・・・・・・推進役 野上 雅浩 16:30 閉会

目 次

第1部 長期修繕計画と修繕積立金 ・・・・・・・・・・・

第2部 建物の維持管理と計画修繕 ・・・・・・・・・・・

第3部 給排水等設備の維持管理と改修 ・・・・・・・・・

第4部 電気設備・消防設備 ・・・・・・・・・・・・・・

1

27

51

79

1

第 1 部 長期修繕計画と修繕積立金

目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

第1章 建物としてのマンション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

1.構造躯体に使用されている材料による分類

1)鉄筋コンクリート造

2)鉄骨鉄筋コンクリート造

3)鉄骨造

2.構造形式による分類

1)ラーメン構造

2)壁式構造

3.施工方法による分類

1)現場施工方式

2)プレキャスト工法

第2章 管理費及び修繕積立金の経理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

1.専有部分と共用部分

2.管理費及び修繕積立金の経理

3.駐車場(機械式駐車場)の区分経理

第3章 マンションの資産価値を維持するための長期修繕計画と修繕積立金 ・・7

1.マンションの資産価値を維持するための改修の重要性

2.長期修繕計画に基づく修繕積立金と計画修繕

1)長期修繕計画

2)修繕積立金

3)計画修繕

3.法律等による定め

4.長期修繕計画と修繕積立金の現状

5.新築マンションでの修繕積立金の目安

第4章 長期修繕計画の作成と修繕積立金の算出 ・・・・・・・・・・・・・・11

1.長期修繕計画を作成するときの基本的な考え方

1)長期修繕計画の対象範囲

2)長期修繕計画を作成するときの前提条件

3)長期修繕計画の精度

4)設計図書の保管

2.長期修繕計画の作成

1)計画期間の設定

2)推定修繕工事項目の設定

3)推定修繕工事費の算定

1

2

(1)数量計算の方法

(2)単価の設定の考え方

(3)算定の方法

4)長期修繕計画の総括表

5)修繕積立金の設定方法

(1)修繕積立金の額の算出方法と積立方法

(2)積立方式

第5章 長期修繕計画の見直しと修繕積立金の見直し ・・・・・・・・・・・・15

1.長期修繕計画の見直し

2.長期修繕計画の見直しに伴う修繕積立金の見直し

第6章 大規模修繕工事(計画修繕工事)の進め方 ・・・・・・・・・・・・・17

1.専門委員会の設置

2.マンション管理士の活用

3.長期修繕計画に基づく大規模修繕工事(計画修繕工事)

4.設計監理方式の場合のコンサルタントの役割

5.不適切コンサルタント対策

6.調査・診断

7.保管しておくべき設計図書等

8.既存の長期修繕計画(管理会社作成の長期修繕計画等)の見方と注意点

第7章 専有部分の設備と一体化した共用部分の設備工事 ・・・・・・・・・・22

1.給排水配管の枝管(専有部分)の工事費と修繕積立金との関係

2.「長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス」について

おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

参考資料

【参考①】 エントランスホールの内装の修繕工事を計画したA管理組合とB管理組合の事例

【参考②】

「監理」と「管理」の違いについて

横浜市マンション管理組合サポートセンター(SC)のご案内 ・・・・・・・・25

2

3

第 1 部 長期修繕計画と修繕積立金

はじめに

皆様がお住みのマンションは建築物です。 建築物を人間の体にたとえると次のようになります。

人間 骨格・筋肉 皮膚 血管・内蔵 神経系統 建築物 構造躯体 内外装仕上げ 給排水衛生設備 電気設備

「構造躯体」と「内外装仕上げ」を含めて、一般に「建築」と称しています。 「建築物」とは、「建築」+「給排水衛生設備」+「電気設備」ということになります。

人間と同じで、建築物も手入れを怠ると老化が早く進みますので、適切な維持管理を継

続的に行う必要があります。 建物であるマンションの形態や維持管理の考え方及びその方法等、基礎的なことを以下

に纏めました。

第 1 章 建築物としてのマンション

マンションの構造は、構造躯体に使用されている材料及び構造形式から、以下のように

分類することができます。

1.構造躯体に使用されている材料による分類

1)鉄筋コンクリート造(RC:Reinforced Concrete)

鉄筋コンクリートは、鉄筋とコンクリートを組み合わせた材料です。

コンクリートは圧縮力(押される力)には強いですが、引張りの力には弱いので、

引張力に強い鉄筋を組み合わせることで、構造躯体に適した材料となります。

主に、高さが 6 階建て以下の建物に使用されます。但し、超高層マンションでは、

高強度、超高強度コンクリートを用いた鉄筋コンクリート造が一般的です。

2)鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC:Steel Reinforced Concrete)

鉄骨鉄筋コンクリート造は、鉄筋コンクリートに鉄骨を組み合わせた材料です。

SRC造の柱を例にとると、柱の芯に鉄骨があり、その周りをRCで包んだ構造で

す。鉄骨のしなやかさと、鉄筋コンクリートの強さを兼ね備えています。鉄骨造、鉄

筋コンクリート造、両方の良さを組み合わせた建物構造です。

主に、高さが 7 階建て以上の建物に使用されます。

3)鉄骨造(S:Steel)

鉄骨造は、大きな力に耐えることができ、軽くて強度、靭性が高い特徴があり、低

層、中層、高層、超高層建物(高さが 60m以上)に使用され、柔構造と呼ばれている

建物になります。弱点は、耐火性に劣り、揺れ・振動も大きいので超高層マンション

では使用されなくなりました。

2.構造形式による分類

1)ラーメン構造

3

4

ラーメンの語源は、ドイツ語の「枠」「額縁」からきています。柱と梁を強く固定

すること(剛接合)で建物の骨格を形成するこの構造は、強靭な「枠」を形成し、こ

の点がラーメン構造の特徴といえます。

ラーメン構造は、「床」を支えて水平方向にかけられる「梁」、

その「梁」を支えて垂直方向に立つ「柱」、この床・梁・柱で構

成されるシンプルな構造形式です。鉄筋コンクリート造、鉄骨

造、鉄骨鉄筋コンクリート造のいずれでも採用されます。

メリットは、壁がなくてもよいことで、大きな開口を取るこ

とができ、室内の間取りも自由に決めることができます。

デメリットは、部屋内に柱形や梁型が出てくることです。

2)壁式構造

壁式構造は、ラーメン構造とは違って柱や梁を使用せず、床と壁を結合して、構造

体としています。

メリットは、比較的地震に強いことと、柱を用いないので四隅に柱形が出ず、又梁

を用いないので天井に梁型が出ず、すっきりした室内空間が確保

できることです。

デメリットは、壁を取り壊したり、窓をくり抜いたりすること

はできないので、大規模なリフォーム(リノベーション)ができ

ず、ラーメン構造に比べて空間構成の自由度が制限されることで

す。

また、壁式構造は、法令等により一般的には 5 階以下の建物に制限されています。

注)一般のマンションはラーメン構造が多いのですが、戸境壁に厚さ 20cm 前後の構造

壁(耐震壁)を設けているマンションも多数あります。

以上を纏めると以下のようになります。

構造方式 ラーメン構造 壁式構造

躯体材料 RC造、SRC造、S造 RC造

メリット

・外壁の開口部や室内空間の自

由度が大きい

・高層が建てられる

・室内に柱形や梁型が出ず、す

っきりした室内空間がとれる

・地震に比較的強い

デメリット ・室内に柱型や梁型が出る

・外壁の開口部や室内空間の自

由度が小さい

・一般に、5 階建てまでとなる

主なマンション ・一般の中高層マンション

・超高層マンション

・低・中層の階段室型の公団マ

ンション

備考 ・免震構造や制震構造も併用で

きる

・階段室型の場合は、エレベー

ターが取り付けづらい

4

5

3.施工方法による分類

上記の他、施工方法により、主に次の方式があります。

1)現場施工方式

古くから行われている施工方法で、現場で型枠、鉄筋を組み上げ、その中にコンク

リートを打設し、コンクリートが硬化後型枠を外し、構造躯体とする方法です。

2)プレキャスト工法

構造躯体の部分となる、柱、梁、壁等を工場で生産し、それを現場へ搬入しそれぞ

れを結合して構造躯体を組み上げていく方法です。

工場で製造するため、コンクリート等の品質管理が行き届くことと、工期の短縮も

できるという利点があります。

第2章 管理費及び修繕積立金の経理

1.専有部分と共用部分

マンションは、区分所有法に定める区分所有権が成立する「専有部分」と、それ以外の

「共用部分」に分けられます。この共用部分が後述する管理の対象となり、その部分は一

般に、標準管理規約の別表第 2 で明示されています。

区分所有法第 1 条(建物の区分所有)

一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫そ

の他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この

法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

【参考】

区分所有法で定める専有部分と共用部分(網がけ部分が共用部分)

建物

建物

本体

専有部分(部屋番号を附した住戸等)

共用部分(含、一部

共用部分)

〔専有部分以外の

建物の部分全て〕

法定共用部分

(エントランス等)

規約共用部分

(集会室等)

附属物

(配線、配管等)

専有部分に属する附属物

専有部分に属しない附属物

付属の建物 共用部分とされる附属の建物(別棟の管理棟等)

共用部分とされない附属の建物

敷地 法定敷地、規約敷地

附属施設 (塀、フェンス、駐車場、通路 等)

なお、区分所有法第 3 条では、管理対象を「建物並びにその敷地及び附属施設」と

定めており、専有部分も、その用法等については管理規約や使用細則等で制限を加え

5

6

ることができることに注意してください。

標準管理規約 別表第 2 共用部分の範囲

1 エントランスホール、廊下、階段、エレベーターホール、エレベーター室、

共用トイレ、屋上、屋根、塔屋、ポンプ室、自家用電気室、機械室、受水槽室、

高置水槽室、パイプスペース、メーターボックス(給湯器、ボイラー等の設備

を除く。)、内外壁、界壁、床スラブ、床、天井、柱、基礎部分、バルコニー等

専有部分に属さない「建物の部分」

2 エレベーター設備、電気設備、給水設備、排水設備、消防・防災設備、イン

ターネット通信設備、テレビ共同受信設備、オートロック設備、宅配ボックス、

避雷設備、集合郵便受箱、各種の配線配管(給水管については、本管から各住

戸メーターを含む部分、雑排水管及び汚水管については、排水管継手及び立て

管)等専有部分に属さない「建物の付属物」

3 管理事務室、管理用倉庫、清掃員控室、集会室、トランクルーム、倉庫及び

それらの附属物

2.管理費及び修繕積立金の経理

標準管理規約では、管理費に充当する経費と修繕積立金に充当する経費を分別し、個別

に管理することを定めています。

以下に述べる、マンションを継続的に維持管理するための長期修繕計画の策定及びそれ

に基づく修繕積立金の位置づけを良く理解しておく必要があります。

標準管理規約(単棟型)では以下の通り、経費の使用目的が定められています。

(管理費)

第 27 条 管理費は、次の各号に掲げる通

常の管理に要する経費に充当する。

一 管理員人件費

二 公租公課

三 共用設備の保守維持費及び運転費

四 備品、通信費その他の事務費

五 共用部分等に係る火災保険料、地震

保険料その他の損害保険料

六 経常的な補修費

七 清掃費、消毒費及びごみ処理費

八 委託業務費

九 専門的知識を有する者の活用に要す

る費用

十 管理組合の運営に要する費用

(修繕積立金)

第 28 条 管理組合は、各区分所有者が納

入する修繕積立金を積み立てるものと

し、積み立てた修繕積立金は、次の各号

に掲げる特別の管理に要する経費に充当

する場合に限って取り崩すことができ

る。

一 一定年数の経過ごとに計画的に行う

修繕

二 不測の事故その他特別の自由により

必要となる修繕

三 敷地及び共用部分等の変更

四 建物の建替え及びマンション敷地売

却(以下「建替え等」という。)に係る

合意形成に必要となる事項の調査

6

7

十一 その他第 32 条に定める業務に要す

る費用(次条に規定する経費を除く。)

五 その他敷地及び共用部分等の管理に

関し、区分所有者全員の利益のために特

別に必要となる管理

経費区分を纏めると、以下のようになります

3.駐車場(機械式駐車場)の区分経理

駐車場(機械式駐車場)に関しては、標準管理規約に次のように定められています。

(使用料)

第 29 条 駐車場使用料その他の敷地及び共用部分等に係る使用料(以下「使用料」

という。)は、それらの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立て

る。

〈同条コメント〉

機械式駐車場を要する場合は、その維持及び修繕に多額の費用を有することから、管

理費及び修繕積立金とは区分して経理することもできます。

機械式駐車場がある場合は、この部分を区分経理し、その経理内容の実態を把握し、

駐車料金へ反映させることも検討する必要があります。

第3章 マンションの資産価値を維持するための長期修繕計画と修繕積立金

1.マンションの資産価値を維持するための改修の重要性

改修工事を適切に実施することで、マンションの物理的な老朽化の防止に加え、陳腐化

を防止することができます。このため、建築後一定の年数を経過したマンションでは、単

なる修繕工事だけではなく、修繕と改良を含めた改修工事を実施することが、マンション

を住みよいものにし、その質及び価値を長持ちさせていくうえでの重要なポイントになり

ます。

マンションの

維持管理

A 日常管理

B 調査診断

C 修繕・改修

工事

D 居住性向上

(住環境改善)

E 建替え検討

a.日常点検

b.定期点検(建物、設備の保守、点検)

c.定期清掃(通路、排水管等の定期清掃)

d.経常修繕(日常の小修繕)

e.計画修繕(年次的に計画して実施する

中規模修繕・大規模修繕)

f.災害復旧(突発事故による復旧・修繕)修繕積立金会計

(特別会計)

管理費会計

(一般会計)

7

8

特に、マンションで一般化している大規模修繕工事は、修繕と呼ばれていますが、その

実施回数を追うにつれて、改良の割合を大きくした改修工事として実施する必要がありま

す。

その方法を示したのが、「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」

(2010(H22).7 改訂 国土交通省)による以下の概念図です。

2.長期修繕計画に基づく修繕積立金と計画修繕

前述の「改修」を着実に実行し、マンションの資産価値を維持するためには、長期修繕

計画を策定し、計画的に改修を実施していかなければなりません。

1)長期修繕計画

マンションは、前述したとおり、「建築」「給排水衛生設備」「電気設備」で成り立

っています。

長期修繕計画とは、マンションを構成するそれらの部材や設備の耐久性にあわせ、

マンションごとに設定される長期の修繕計画であり、通常 25~30 年程度の長期展望

に立ち、マンション共用部分等の各部分の修繕周期と概算費用を設定します。

この長期修繕計画は、総会での承認を要します。

2)修繕積立金

計画修繕の必要額は毎年一定ではなく、この費用をその都度徴収していたのでは、

個々の生活に影響するだけでなく、未納等により費用の不足が発生して、計画修繕の

適正な実行に支障をきたすおそれもあります。

そのため、定期的に少額を徴収し、纏めて計画修繕に充てる修繕積立金の仕組みが

一般的になっています。

8

9

長期修繕計画が、必要とされる修繕積立金の算出根拠となります。

この修繕積立金も、長期修繕計画とともに総会の承認を要します。

3)計画修繕

計画修繕は長期修繕計画に基づいて実施されますが、実際の工事を行う上では、建

物各部の傷み具合に対応した有効な修繕を実施するために、事前に調査や診断を行い、

それに基づいた修繕設計により工事部位や工事内容を確定します。

計画修繕では、効率的な工事実施のため、複数の部位や工事項目を纏めて実施する

ことが多く、修繕積立金を充当して行う、このような大掛かりな計画的修繕工事を大

規模修繕工事と呼び、外壁等の大規模修繕工事は通常 12~15 年周期で実施されます。

3.法律等による定め

マンションの資産価値を維持するためには、前述したとおり、適切な維持管理を継続的

に行う必要があり、法律等で以下のように定められています。

マンション管理の主体に関しては、区分所有法第 3 条において、「区分所有者は、全員で、

建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成する」ものと規定されて

います。

また、2001(平成 13)年 8 月 1 日に施行された「マンションの管理の適正化の推進に関

する法律」では、管理組合等の努力について次のように示されています。

(管理組合の努力)

第四条 管理組合は、マンション管理適正化指針の定めるところに留意して、マンシ

ョンを適正に管理するよう努めなければならない。

2 マンションの区分所有者等は、マンションの管理に関し、管理組合の一員とし

ての役割を適切に果たすよう努めなければならない。

さらに、同法に基づき、国土交通省が公表した「マンションの管理の適正化に関する指

針」では、管理組合および区分所有者の役割が、より具体的に示されています。

一 マンションの管理の適正化の基本的方針

1.マンションの管理の主体は、マンションの区分所有者等で構成される管理組合

であり、管理組合は、マンションの区分所有者等の意見が十分に反映されるよう、

また、長期的な見通しを持って、適正な運営を行うことが重要である。(以下略)

2.管理組合を構成するマンションの区分所有者等は、管理組合の一員としての役

割を十分認識して、管理組合の運営に関心を持ち、積極的に参加する等、その役

割を適切に果たすよう努める必要がある。

要するに、管理組合は、構成員である区分所有者の意思の「合意」によって管理を行う

ものですから、各区分所有者は、管理組合の一員として組合運営に積極的に参加する等、

その役割を適切に果たさなければなりません。

9

10

4.長期修繕計画と修繕積立金の現状

2018(平成 30)年度マンション総合調査(国土交通省)による、「マンション管理の状

況」では以下のように報告されています。

5.新築マンションでの修繕積立金の目安

マンションの修繕積立金に関するガイドライン(2011(H23).4 国土交通省)では次のよ

うに修繕積立金の目安が示されています。

これは、マンションの購入時には、分譲事業者から、長期修繕計画とそれを基に設定さ

れた修繕積立金の額が提示されますが、分譲事業者から提示された修繕積立金の額の水準

について、購入予定者が判断する際の参考になるよう、「修繕積立金の額の目安」を示して

います。

(1)長期修繕計画の作成

今回の調査では 90.9%(平成 25 年度は 89.0%)のマンションで長期修繕計画を作

成している。また、長期修繕計画を作成していない管理組合の割合は 7.0%(平成 25

年度は 8.0%)となっている。

(2)月/戸当たり修繕積立金の額

今回の調査による修繕積立金の額の平均は 11,243 円(平成 25 年度は 10,783 円)、

駐車場使用料等からの充当額を含む修繕積立金の総額の平均は 12,286 円(平成 25 年

度は 11,800 円)となっている。

(3)計画期間 25 年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定している割

合は、今回の調査では 53.6%(平成 25 年度は 46.0%)でした。

10

11

第4章 長期修繕計画の作成と修繕積立金の算出

1.長期修繕計画を作成するときの基本的な考え方

長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン活用の手引(2008(H20).7 財団法人マンショ

ン管理センター)には次のように定められています。

1)長期修繕計画の対象範囲

単棟型のマンションの場合、管理規約に定めた組合管理部分である敷地、建物の共

用部分及び附属施設(共用部分の修繕工事又は改修工事に伴って、修繕工事が必要と

なる専有部分を含む。)を対象とします。

また、団地型のマンションの場合は、多様な所有・管理形態(管理組合、管理規約、

会計等)がありますが、一般的に、団地全体の土地、附属施設及び団地共用部分並び

に各棟の共用部分を対象とします。

2)長期修繕計画を作成するときの前提条件

長期修繕計画の作成に当たっては、次に掲げる事項を前提とします。

① 推定修繕工事は、建物及び設備の性能・機能を新築時と同等水準に維持、回復さ

せる修繕工事を基本とする。

② 区分所有者の要望など必要に応じて、建物及び設備の性能を向上させる改修工事

(修繕+改良工事)を設定する。

③ 計画期間において、法定点検等の点検及び経常的な補修工事を適切に実施する。

④ 計画修繕工事の実施の要否、内容等は、事前に調査・診断を行い、その結果に基

づいて判断する。

3)長期修繕計画の精度

長期修繕計画は、作成時点において、計画期間の推定修繕工事の内容、時期、概算

の費用等に関して計画を定めるものです。

推定修繕工事の内容の設定、概算の費用の算出等は、新築マンションの場合、設計

図書、工事請負契約書による請負代金内訳書及び数量計算書等を参考にして、また、

11

12

中項目

標準的な対応部材の耐用年数、修繕履歴等を踏まえ、調査・診断の結果に基づき設定している。

大項目 四 建物・設備の維持管理 (二)長期修繕計画の作成・見直し

小項目  1 計画の作成・見直し  ③ 修繕周期

既存マンションの場合、保管されている設計図書のほか、修繕等の履歴、劣化状況等

の調査・診断の結果に基づいて行います。

したがって、長期修繕計画は、次に掲げる事項の通り、将来実施する計画修繕工事

の内容、時期、費用等を確定するものではありません。また、一定期間ごとに見直し

ていくことを前提としています。

① 推定修繕工事の内容は、新築マンションの場合は現状の仕様により、既存マンシ

ョンの場合は現状又は見直し時点での一般的な仕様により設定するが、計画修繕

工事の実施時には技術開発等により異なることがある。

② 時期(周期)は、おおよその目安であり、立地条件により異なることがある。

③ 収支計画には、積立金の運用利率、借入金の金利、物価及び消費税率の変動など

不確定な要素がある。

4)設計図書の保管

管理組合は、分譲業者から交付された設計図書、数量計算書等のほか、計画修繕工

事の設計図書、点検報告書等の修繕等の履歴情報を整理し、区分所有者等の求めがあ

れば閲覧できる状態で保管することが重要です。なお、設計図書等は、紛失、損傷等

を防ぐため、電子ファイルにより保管することが望まれます。

2.長期修繕計画の作成

長期修繕計画は、前述の基本的な考え方を踏まえ、以下の指針を参考にして作成します。

作成された長期修繕計画は理事会でよく検討し、総会に諮り承認を得ておきます。

1)計画期間の設定

マンション管理標準指針 コメント 四 建物・設備の維持管理(H17.12 国土交

通省)には、次のように定められています。

〈コメント〉

① 修繕周期は、立地条件等を加味したうえで、建物・設備の部材の耐用年数から推

測し、修繕工事項目の部位ごとに設定する。近い周期の複数の工事をまとめて行

うことは仮設費用等の節減になる。

② 計画された 25 年先の修繕工事はあくまでも推測で、調査・診断の結果と修繕履歴

等を踏まえて工事の修繕周期を設定することが重要。

③ 長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン活用の手引(2008(H20).7 財団法人

マンション管理センター)が参考になる、としている。当該ガイドラインでは、

新築マンションの場合は 30 年、既存マンションの場合は 25 年としている。

2)推定修繕工事項目の設定

推定修繕工事項目は、新築マンションの場合は、設計図書等に基づいて、また、既

存マンションの場合は、現状の長期修繕計画を踏まえ、保管されている設計図書、修

12

13

中項目

別表 長期修繕計画の修繕工事項目

123456789101112131415161718

大項目

小項目

標準的な対応

望ましい対応

(二)長期修繕計画の作成・見直し 四 建物・設備の維持管理

 1 計画の作成・見直し  ② 修繕工事項目

調査・診断の結果に基づいて、別表に掲げる18項目のうち、必要な項目の工事内容を定めている。

社会的背景や、生活様式の変化等に応じ、性能向上(グレードアップ)工事の項目を計画に含めている。

情報・通信設備等消防設備

外壁等床防水等鉄部等建具・金物等共用内部等給水設備

修繕工事項目

排水設備ガス設備空調・換気設備等電気設備等

屋根防水

電話、テレビ共聴、インターネット設備等自動火災報知器、屋内消火栓、連結送水管等

躯体、タイル、塗装、シーリング等開放廊下・階段、バルコニーの床等手すり、扉、盤、鉄骨階段等(塗替)玄関扉、窓サッシ、郵便受等(交換)管理人室、エントランスホール等の内装給水管、受水槽、高置水槽、給水ポンプ等

例示

雑排水管、雨水管、汚水管、桝等ガス管等換気扇、ダクト等電灯、電気幹線、避雷針等

屋根葺き替え、防水等

駆動装置、カゴ等自走式の構造体、機械式の構造体・駆動装置等駐車場、自転車置場、ゴミ置場、通路、公演等調査・診断、設計、工事監理等作成、見直し

昇降機設備立体駐車場設備外構・付属施設診断・設計・監理等費用長期修繕計画作成費用

繕等の履歴、現状の調査・診断の結果等に基づいて設定します。

マンション管理標準指針 コメント 四 建物・設備の維持管理(2005(H17).12

国土交通省)には、次のように定められています。

3)推定修繕工事費の算定

(1)数量計算の方法

数量計算は、新築マンションの場合、設計図書、工事請負契約による請負代金内

訳書、数量計算書等を参考として、また、既存マンションの場合、現状の長期修繕

計画を踏まえ、保管している設計図書、数量計算書、修繕等の履歴、現状の調査・

診断の結果等を参考として、「建築数量積算基準(一般財団法人建築コスト管理シス

テム研究所発行)」等に準拠して長期修繕計画用に算出します。

(2)単価の設定の考え方

単価は、修繕工事特有の施工条件等を考慮し、部位ごとに仕様を選択して、新築

マンションの場合、設計図書、工事請負契約による請負代金内訳書、数量計算書等

を参考として、また、既存マンションの場合、過去の修繕工事の契約実績、その調

査データ、刊行物の単価、専門工事業者の見積価格等を参考として設定します。

なお、現場管理費及び一般管理費は、見込まれる推定修繕工事ごとの総額に応じ

13

14

た比率の額を単価に含めて設定します。

(3)算定の方法

推定修繕工事費は、推定修繕工事項目の詳細な項目ごとに、算出した数量に設定

した単価を乗じて算定します。

修繕積立金の運用益、借入金の金利及び物価変動について考慮する場合は、作成

時点において想定する率を明示します。また、消費税は、作成時点の税率とし、会

計年度ごとに計上します。

4)長期修繕計画の総括表

以上の結果を纏めて「総括表」を作成し、これを修繕積立金の算出根拠とします。

一般的な総括表(イメージ図)を以下に示します。

5)修繕積立金の設定方法

(1)修繕積立金の額の算出方法と積立方法

修繕積立金の総額は、長期修繕計画における計画期間の推定修繕工事費の累計額

を基に算出します。

積立方法は、計画期間に均等に積み立てる「均等積立方式」を基本とします。

したがって、各住戸の月当たりの修繕積立金額は、計画期間の推定修繕工事費の

累計額を計画期間の月数で除し、各住戸の負担割合を乗じた額となります。

又、算出した修繕積立金も理事会でよく検討し、総会に諮り承認を得ておきまし

ょう。

14

15

一般に、総括表を基にした次のような表を用いて算出します(イメージ図)。

(2)積立方式

積立金方式には均等積立方式(上図参照)と段階増額積立方式がありますが、段

階増額積立方式の場合は、計画通りに増額しようとする際に区分所有者間の合意形

成ができず修繕積立金が不足する場合があるので注意が必要です。

第5章 長期修繕計画の見直しと修繕積立金の見直し

1.長期修繕計画の見直し

長期修繕計画は、以下に示すとおり定期的に見直し、経年とともに変化する状況に合わ

せ、予測と実態のズレを修正する必要があります。なお、計画期間は、見直し時点から 25

年程度となるよう更新します。

又、見直した長期修繕計画も理事会でよく検討し、総会に諮って承認を得ておきます。

長期修繕計画の見直しについては、以下の通り指針、規約でその方法が定められていま

す。

適正化指針二の5(長期修繕計画の策定及び見直し等)

(略)長期修繕計画の策定及び見直しにあたっては、必要に応じ、マンション管理士

等専門的知識を有する者の意見を求め、また、あらかじめ建物診断等を行って、その

計画を適切なもとするよう配慮する必要がある。

長期修繕計画の実効性を確保するためには、修繕内容、資金計画を適正かつ明確に

定めそれらをマンションの区分所有者等に十分周知させることが必要である。(略)

15

16

標準管理規約第 32 条(業務)第三号

管理組合は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため、次の各号に掲げる業務

を行う。

三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理

同上コメントには次のように定められている

② 長期修繕計画の内容としては次のようなものが最低限必要である。

3 全体の工事金額が定められたものであること。

また、長期修繕計画の内容については、定期的な(おおむね 5 年程度ごとに)見直

しをすることが必要である。

マンション管理標準指針 コメント 四 建物・設備の維持管理(2005(H17).12 国土交通

省)には、次のように定められています。

コメント

◆長期修繕計画は、作成時点での 25 年程度の劣化の予測ですので、経年とともに状況が変

化していくこともあり、予測と実態のズレによる見直しが必要となります。

◆ついては、適切かつ効果的な修繕工事を行うために、5 年程度ごとに、建物及び設備の

調査・診断を行って、劣化状態、区分所有者等の要望、社会情勢の変化、修繕技術の進歩

などについて把握し、これらについて十分な検討を行ったうえで、長期修繕計画を見直す

ことが必要です。

◆見直しは、大規模修繕工事(周期 12 年程度)の前に、その大規模修繕工事の基本計画の

作成と併せて行うこともありますし、大規模修繕工事の終了後にその結果を踏まえて行う

こともあります。したがって、5 年ごとが原則ですが、大規模修繕工事の実施時期により、

見直しの時期を前倒し、又は先送りすることもあることから、「5 年ごとに見直しを行って

いる。」を「標準的な対応」としています。

◆なお、計画期間は、見直し時点から 25 年程度となるよう更新します。

2.長期修繕計画の見直しに伴う修繕積立金の見直し

前述の通り、適正化指針二の5(長期修繕計画の策定及び見直し等)では、長期修繕計

16

17

画の実効性を確保するためには、修繕内容、資金計画を適正かつ明確に定めそれらをマン

ションの区分所有者等に十分周知させることが必要である、と定められています。

場合によっては、修繕積立金が不足することもありますので、値上げ等、その対策等を

理事会で十分検討し、その結果を総会に諮り、承認を得ておく必要があります。

第6章 大規模修繕工事(計画修繕工事)の進め方

1.専門委員会の設置

マンションでは、毎年、理事等の役員が替わるケースが多いため、理事会だけで大規模

修繕に取り組むのが困難なことが多く、修繕のタイミングを逃すことにもなりかねません。

そのためにも、大規模修繕に取り組む体制を整えることが必要となり、一般に、「大規模修

繕専門委員会」を理事会の諮問機関として設置しています。こうすることで、計画途中で

全理事が交代して、決めてきたことがスタートに戻るのを避けることや、居住者の中の専

門家を活用することができます。

2.マンション管理士の活用

マンション管理士とは、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に次のように

定められています。

第二条(定義)

五 マンション管理士 第三十条第一項の登録を受け、マンション管理士の名称を用

いて、専門的知識をもって、管理組合の運営その他マンション管理に関し、管理組

合の管理者等又はマンションの区分所有者等の相談に応じ、助言、指導その他の援

助を行うことを業務(他の法律においてその業務を行うことが制限されているもの

を除く。)とする者をいう。

後述するコンサルタントを適正に活用し、管理組合運営を円滑に行うためにもマンショ

ン管理士の活用は有用と思われます。

3.長期修繕計画に基づく大規模修繕工事(計画修繕工事)

大規模修繕工事を進める方法としては、主に以下の方式がありますが、それぞれ長所、

短所がありますので、どの方式で行くかは、理事会、委員会、区分所有者間で十分検討を

し、合意形成をして実施する必要があります。

① 責任施工方式

・管理会社や施工会社が設計及び施工を行う方式で、設計施工方式ともいい、工事に

対して全責任を負う方式です。

・一括してまかせるために手間は省けますが、競争相手がいないため工事費は割高に

なる傾向があります。

② 設計監理方式

・通常、コンサルタントと呼ばれる設計事務所が設計及び工事監理を行い、施工会社

17

18

は施工のみを行う方式です。設計事務所は、施工会社選定協力も行うのが一般的で

す。責任の分担がはっきりしています。

・最も公明性、公正さが期待でき、高品質な工事が期待されている方式です。

③ 管理会社主導方式

・管理会社が管理組合から任されて、工事は行わないが、診断、施工会社選定協力、

工事監理を行う方式です。

・一見して設計監理方式のように見えますが、設計事務所、施工業者選定方法、責任

の範囲等に関して様々なケースがあります。

④ 設計・工事監修方式

・設計施工会社を初めに決め、その会社の責任施工としますが、設計段階、施工段階

で設計事務所等の第三者チェック(監修)をいれ、工事の適正さと安心を得ようと

する方式です。監修費は設計監理費よりかなり低くなるので小規模マンションで期

待される方式です。

・基本的に監修者は修繕委員のような立場で参加し、責任は負いません。

4.設計監理方式の場合のコンサルタントの役割

大規模修繕工事は、管理組合及び居住者にとって最大の組合事業の一つです。費用が多

大であることもさることながら、期間も、準備段階から工事の完成までは短くても 2~3

年を要します。これを成功させるには、専門的、技術的な知識も必要なので、管理組合だ

けでは無理があり、外部のコンサルタントあるいはパートナーの協力が求められます。

18

19

コンサルタントとしては、建築設計事務所又は管理会社の建築士等が該当すると考えら

れます。

設計監理方式の業務フローは、主に以下のようになります。

(「事例に学ぶマンションの大規模修繕」 公益財団法人住宅総合研究財団マンション大規

模修繕研究委員会)

5.不適切コンサルタントについて

マンションの大規模修繕工事の発注等において、設計監理方式の場合、施工会社の選定

に際して、発注者たる管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が

指摘されています。

国土交通省は、2017(平成 29)年 1 月 27 日付で、「設計コンサルタントを活用したマン

ション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」を発出し、注意喚起を図ると

ともに相談窓口を周知しています。

それに引き続き、管理組合等の大規模修繕工事の発注等の適正な実施の参考となるよう、

「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」実施し提供しています。

管理組合等は、自らと同規模のマンション群のデータと、設計コンサルタントや施工会

社から提出される見積り内容とを比較して、事前に検討し、適正な工事発注等に活用され

ることが期待できます。

19

20

主な目的 調査方法 調査対象

現状把握、本調査・診断の要否

資料調査、目視調査、アンケート調査

設計図書、修繕等履歴情報、外観

現状把握、劣化の危険性の判断

資料調査、目視調査、軽微な機器

設計図書、修繕等履歴情報、外観

2次診断劣化の危険性の判断、修繕の要否の判断

非破壊試験、微破壊試験

主に共用部分

3次診断 より詳細な診断、評価 局部破壊試験を伴う主に共用部分、一部の専有部分を含む

1次診断(簡易診断)

詳細診断

本調査・診断

診断レベル

予備調査・診断

「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知

について」及び「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」

http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

《相談窓口》

(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター

https://www.chord.or.jp/reform/consult.html

(公財)マンション管理センター

http://www.mankan.or.jp/06_consult/tel.html

6.調査・診断

大規模修繕工事の実施前に行う調査・診断のレベルは、一般的に次表のように分類され

ています。

1次診断(簡易診断)は、建物の劣化の状況を大まかに把握し、2次・3次診断(詳細診

断)は、劣化の要因を特定し、修繕工事の要否や内容等の判断を行う目的で行います。

長期修繕計画の見直しのために単独で行う場合は、長期修繕計画に必要とされるすべて

の項目について漏れのないように行います。なお、著しい劣化がないかぎり目視調査など

簡易なものにとどまります。また、計画修繕工事の実施のために行う場合は、劣化状況に

応じて、目視調査から非破壊試験、破壊試験とより詳細になります。

なお、自主点検を行う場合、「マンション管理組合による自主点検マニュアル」(財団法

人マンション管理センター)が参考になります。

7.保管しておくべき設計図書等

大規模修繕工事に係る設計図書・書類等の引渡は、その後の長期修繕計画の見直しをす

る際に必要となり、それらが適切に管理・保管されていることが重要となります。

管理組合は、分譲事業者から交付された設計図書、数量計算書等のほか、計画修繕工事

の設計図書、点検報告書等の修繕等の履歴情報を整理し、区分所有者等の求めがあれば閲

覧できる状態で保管することが重要です。なお、設計図書等は、紛失、損傷等を防ぐため

に、電子ファイルにより保管することが望まれます。(作成ガイドライン活用の手引)

2000(平成 12)年に国土交通省が、新築マンションを対象にどのような設計図書が必要

20

21

となるのかを以下のように定めていますので、それ以前のマンションにおいても保管して

おくべき設計図書として参考にすると良いでしょう。

マンション管理の適正化の推進に関する法律(2000(H12) 国土交通省)第 103 条には次

のように定められています。

(設計図書の交付等)

第百三条 宅地建物取引業者は、自ら売主として人の居住の用に供する独立部分があ

る建物(新たに建設された建物で人の居住の用に供したことがないものに限る。以下

同じ。)を分譲した場合においては、国土交通省令で定める期間内に当該建物又はそ

の附属施設の管理を行う管理組合の管理者等が選任されたときは、速やかに、当該管

理者等に対し、当該建物又はその附属施設の設計に関する図書で、国土交通省令で定

めるものを交付しなければならない。

2 前項に定めるもののほか、宅地建物取引業者は、自ら売主として人の居住の用に

供する独立部分がある建物を分譲する場合においては、当該建物の管理が管理組合

に円滑に引き継がれるよう努めなければならない。

又、同法施行規則では以下のように定められています。

(法第百三条第一項の国土交通省令で定める期間)

第百一条 法第百三条第一項の国土交通省令で定める期間は、一年とする。

(法第百三条第一項の国土交通省令で定める図書)

第百二条 法第百三条第一項の国土交通省令で定める図書は、次の各号に掲げる、工

事が完了した時点の同項の建物及びその附属施設(駐車場、公園、緑地及び広場並び

に電気設備及び機械設備を含む。)に係る図書とする。

一 付近見取図

二 配置図

三 仕様書(仕上げ表を含む。)

四 各階平面図

五 二面以上の立面図

六 断面図又は矩計図

七 基礎伏図

八 各階床伏図

九 小屋伏図

十 構造詳細図

十一 構造計算書

又、建築基準法第 2 条第十二号では、設計図書に「仕様書」も含まれています。

設計図書に関することで注意すべきことが、「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」

(2012(H24).9.4 国土交通省)の「その他の留意すべ事項」の6に以下のような文言で追

21

22

加されました。

1~5(略)

6 マンションの管理の適正化の推進に関する法律関係について宅地建物取引業者

は、新築マンションの分譲に際し、マンションの管理の適正化の推進に関する法律

(平成 12 年法律第 149 号)第 103 条第 1 項の規定により、同法施行規則第 102 条

に定める図書を当該マンションの管理者等に対し交付することとされている。この

場合において、交付すべき図書に該当するか否かについては、図書の形式的な名称

に関わらず、記載されている内容により判断する必要があるので留意すること。ま

た、他の資料の内容を当該図書に引用している場合はその引用部分を併せて交付す

ること。

8.既存の長期修繕計画(管理会社作成の長期修繕計画等)の見方と注意点

既にお手元にある長期修繕計画は、何時、誰が、どのような指示に従って作成されたも

のかをよく見て利用する必要があります。

管理会社は、管理組合の財務状況を熟知していますので、長期修繕計画に予定をされて

いるというだけで、今実施しなくても良いような工事も提案してくることがありますので、

管理組合としては専門家のアドバイス等も参考にしながら十分な検討が必要となります。

第7章 専有部分の設備と一体化した共用部分の設備工事

1.給排水配管の枝管(専有部分)の工事と修繕積立金との関係

マンション内の配管類は、給水管、雑排水管ともに本管と枝管が構造上一体となってい

るのが普通で、枝管の管理については、管理組合が行う共用部分である本管の管理と一体

として行った方が効率的ですが、工事を行うこととその費用の負担とは、必ずしも連動し

ているわけではありません。

標準管理規約第 21 条第 2 項及びそのコメントでは次の通り定められています。

(敷地及び共用部分等の管理)

第 21 条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担におい

てこれを行うものとする。(略)

2 専有部分である設備のうち、共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部

分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。

(略)

〈コメント〉

⑧ 配管の清掃等に要する費用については、第 27 条第三号の「共用設備の保守維持費」

として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち

専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものであ

る。

22

23

しかし、現実問題として、専有部分の費用を一時金として各戸で負担することにも問題

がありますので、以下のような手順を踏まえ、あくまでも全員の合意形成の基に実施する

ようにすることをお勧めいたします。

① 長期修繕計画で、共用部分と専有部分の給水管、雑排水管の工事を一体として実施す

ることを位置づける。

② 本管と一体的に工事をする場合の、枝管工事費用を修繕積立金の取り崩し事由とする

こと。

③ 一体工事のための枝管工事費用に充当するための修繕積立金の取り崩しを、総会の決

議事項とすること(特別決議)。

④ 修繕積立金を取り崩した場合、その分、予定されていた計画修繕工事の資金不足が生

じる場合があり、修繕積立金の増額を検討する必要がでてきますので、十分な説明と

合意形成が必要となります。

2.「長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス」について

公益財団法人マンション管理センターが行っている「長期修繕計画作成・修繕積立金算

出サービス」を利用して作成した概略の長期修繕計画とを比較して、その見直しの必要性

について検討することができます。

また、見直し後の長期修繕計画の内容及び設定した修繕積立金の額を、その概略の長期

修繕計画と比較してチェックすることができます。

おわりに

皆様がお住みのマンションがどう造られていて、どのような維持管理が必要なのかをご

理解頂けるように基礎的なことを纏めてみました。法律関係の文言や、行政の指導による

文章が多く、馴染みづらい部分もあったかと思いますが、本来あるべき姿をご理解頂ける

ように敢えて原文を掲げました。

これらを基に、それぞれの管理組合の現状にあった対応をして頂ければ幸甚に存じます。

《参考資料》

・マンションの管理の適正化に関する指針(国土交通省)

・改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(国土交通省)

・2018(平成 30)年度マンション総合調査(国土交通省)

・マンションの修繕積立金に関するガイドライン(国土交通省)

・長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン活用の手引(公益財団法人マンション管理セ

ンター)

・マンション管理標準指針(国土交通省)

・宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(国土交通省)

・マンション管理組合による自主点検マニュアル(公益財団法人マンション管理センター)

・新・マンション管理の実務と法律(弁護士 篠原みち子)

・事例に学ぶマンションの大規模修繕(公益財団法人住宅総合研究財団マンション大規模

修繕研究委員会)

23

24

【参考①】 エントランスホールの内装の修繕工事を計画したA管理組合とB管理組合の事例 〔A管理組合〕

理事長が、内装工事屋さん3社に声をかけ、現場を見て貰い見積をして貰った。 出てきた見積金額は倍ほども違い、何処を選んで良いか分からなくなった。 原因は、修繕箇所や使用材料の仕様が各社バラバラで、入居者への周知行為や通行人

の誘導等、安全対策費は含まれておらず、それを誰がやるのか等、素人では判断が付かなくなり途方に暮れてしまった。 〔B管理組合〕

管理会社にも手伝ってもらい、事前に専門家に相談し、修繕箇所や修繕方法、安全対策の方法等を工事仕様書としてまとめた。(管理組合の分担範囲も明確になった。)

その上で、独自に工事業者を数社選定し、その工事仕様書を基に見積を徴収した。工事会社は、仕様と数量が決まっているので、工事単価と自社の経費を入れるだけで見積書が作成できた。その結果、管理組合は単純に見積金額の比較だけで工事会社を決めることができた。 【参考②】 「監理」と「管理」の違いについて

「監理」と言うのは、設計者の視点からお客さま(施主様)の立場に立って、品質面・資金面・工程面で適正に工事が行われているかを、設計図書をもとに確認することをいいます。 〔品質面での監理〕

品質面での監理では、設計図書のとおりに施工されているかを確認します。 その際、構造や設備等も含めて、設計図面や仕様書のとおりに施工されているか、法

的な要件を満たしているか、手抜き工事がないか等をつぶさにチェックします。 〔資金面での監理〕

資金面での監理では、請負契約等で約束された金額から増加することがないかを確認します。

もしも増加する場合には、後出しじゃんけんのように終わってから請求するのではなく、その都度増加要因を確認し、お客さまの了承を取ってから施工する必要があります。〔工程面での監理〕

工程面での監理では、計画された工事工程の通りに進んでいるか確認します。

「監理」は建築士法で定められおり、「建築士の責任において工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないか確認すること」とされています。

他方、「管理」とは工事を管理することで、施工する者が工事現場をまとめるために行う「工程管理」「品質管理」「安全管理」「予算管理」をいいます。

この違いを簡単に表現すれば、「監理」は設計した者の立場から行い、「管理」は施工する者(現場監督など)の立場から行うものです。 (業界用語では、監理を「サラカン」、管理を「タケカン」とも言います。)

24

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横浜市マンション管理組合サポートセンター(SC)のご案内

SCとは、横浜市内に存するマンションの適正な維持管理及び良好な住環境の確保を図

るために、横浜市とマンション管理組合等を支援する事業を提案した団体(一般社団法人

神奈川県マンション管理士会、特定非営利活動法人日本住宅管理組合協議会神奈川県支部、

特定非営利活動法人横浜マンション管理組合ネットワーク、特定非営利活動法人建物ドク

ターズ横浜)とが協働して行う事業で、市内 18 区で、原則、毎月第 1 日曜日に下記の会場

で交流会を開催していますので、是非ご参加ください。

各区交流会開催場所一覧表

横浜市マンション管理組合サポートセンター(SC)

〒231-0028 横浜市中区翁町 1-5-14 新見翁(しんみおきな)ビル 3 階

E-mail:[email protected] HP:http://www.yokohama-ysc.jp/index.html

行政区 会場名 住所 電話番号

青 葉 区 山内地区センター 青葉区あざみ野 2-3-2 045-901-8010

旭 区 白根地区センター 旭区白根 4-6-1 045-953-4428

泉 区 中川地区センター 泉区桂坂 4-1 045-813-3984

磯 子 区 横浜市社会教育コーナー 磯子区磯子 3-6-1 045-761-4321

神 奈 川 区 神奈川地区センター 神奈川区神奈川本町 8-1 045-453-7350

金 沢 区 金沢地区センター 金沢区泥亀 2-14-5 045-784-5860

港 南 区 港南地区センター 港南区日野 1-2-31 045-841-8411

港 北 区 菊名地区センター 港北区菊名 6-18-10 045-421-1214

栄 区 本郷地区センター 栄区桂町 301 045-892-5310

瀬 谷 区 瀬谷センター 瀬谷区瀬谷 3-18-1 045-303-4400

都 筑 区 仲町台地区センター 都筑区仲町台 2-7-2 045-943-9191

鶴 見 区 鶴見中央コミュニティハウス鶴見区鶴見中央 1-31-2

シークレイン 2 階 045-511-5088

戸 塚 区 男女共同参画センター横浜 戸塚区上倉田町 435-1 045-862-5050

中 区 中区不老町地域ケアプラザ 中区不老町 3-15-2 045-662-0161

西 区 西地区センター 西区岡野 1-6-41 045-314-7734

保土ケ谷区 ほどがや地区センター 保土ケ谷区天王町 1-21 045-333-0064

緑 区 白山地区センター 緑区白山 1-2-1 045-935-0326

南 区 浦舟コミュニティハウス 南区浦舟町 3-46

浦舟複合福祉施設 10 階 045-243-2496

25

1

第2部 建物の維持管理と計画修繕

目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

第1章 建物維持の仕組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

1.修繕・改修に関する用語と解説

1)日常修繕(日常の小修繕工事)

2)計画修繕(中規模、大規模修繕工事)

3)修繕

4)改修

2.保守・点検に関する用語と解説

1)日常清掃・定期清掃

2)日常点検・定期点検

3)定期保守点検

4)建物診断

3.建物の設計図書や関連書類

1)設計図書

2)関連図書

第2章 建物としての仕組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

1.基礎構造

2.専有部分と共用部分

3.専用使用権

4.建物の基本的な仕組み

第3章 大規模修繕工事 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

1.大規模修繕工事を検討する

2.体制をつくる

3.建物の劣化状況を見て建物を知る

4.区分所有者、居住者に認識してもらう

5.大規模修繕の内容を検討する

6.大規模修繕の基本方針を決定する

7.工事の詳細な設計をする

8.施工会社、工事費を決める

9.総会で決議、工事を発注する

10.工事の準備段階で行うこと

11.工事中の取り組み

12.工事完了時の取組み

13.良好な建物維持管理に向けて

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29

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34

27

2

第4章 建物各部分の劣化と対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

1.工事項目と各部分の劣化と対応

1)仮設工事

(1)共通仮設工事

(2)直接仮設工事

2)屋根防水工事

(1)屋上防水(保護)

(2)屋上防水(露出)

(3)傾斜屋根

(4)庇・笠木等防水

3)床防水工事

(1)バルコニー床防水

(2)開放廊下・階段等床防水

4)外壁塗装等工事

(1)コンクリート補修

(2)外壁塗装

(3)軒天塗装

(4)タイル張補修

(5)シーリング

5)鉄部塗装等工事

6)建具・金物等工事

(1)建具関係

(2)手すり

(3)屋外鉄骨階段

(4)金物類(集合郵便受等)

(5)金物類(メーターボックス扉等)

7)共用内部工事

8)エレベーター(昇降機設備)工事

9)機械式駐車場工事

10)付帯施設工事

(1)駐輪場、バイク置き場

(2)平面駐車場

11)外構工事

(1)車路・歩道等の舗装

(2)サイン(案内板等)、フェンス、遊具・ベンチ等

(3)植樹

参考資料、出展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【参考①】大規模修繕マニュアル(作成:住宅金融公庫住宅環境部ストック管理課)

【参考②】これで完璧!大規模修繕(著者:マンション大規模修繕研究会)

【写真出展】マンションの不具合・劣化総覧(発行:日経 BP 社)

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28

3

第2部 建物の維持管理と計画修繕

はじめに

マンション管理組合役員の役割の一つとして、『マンションの維持管理』は大きな要素で

す。建物を良好な状態で維持管理してゆくには、一つには、『備え』の面、他方としては、

『対応』が重要です。 『備え』とは、第1部の内容にも有りますが、「補修・改修工事」や「保守・点検・診断」

の事を言い、事前に劣化や不具合発生を予防するための仕組みと言えます。 『対応』とは、建物各部分に発生した劣化や不具合に対し、状況を的確に判断し、対処

してゆくことです。その知識を持ち、判断してゆくことが管理組合役員に求められます。 その判断の一助となる事を願い、考え方及びその方法等、基礎的なことを以下に纏めま

した。

第 1 章 建物維持の仕組み

マンション建物を維持管理する為には、緊急性や費用面、不具合の規模など、そして、

工事目的から以下のように分類されます。ここでは、用語紹介と内容の説明をします。

1.修繕・改修に関する用語と解説

1)日常修繕(日常の小修繕工事)

破損部品の修理や取り替えなど、日常的に行われる小規模な修繕や、緊急時に対応

する修繕のことを指します。日常的な修繕というと重要性を高く感じないかもしれま

せんが、小さな不具合箇所でも放置しておくと、そこから劣化が広がり、結果として

多額の修繕費がかかる可能性もあります。そのため経常修繕もしっかりと行うことが

大切です。

工事費には、管理費を修繕費に充当します。

経常修繕の一例

◆ 雨漏りの部分修繕

◆ 水漏れ事故などの応急的修繕

◆ 照明器具や各種機器の部品交換

◆ 設備の軽微な破損部分の補修

◆ 給水ポンプなど設備の不具合への対応

2)計画修繕(中規模、大規模修繕工事)

大規模修繕工事とは、マンションの経年による劣化などにあわせて実施する、計画

的でまとまった修繕工事のことです。

分譲マンションでは、建物や設備の老朽化による劣化や重大な不具合の発生を防ぐ

ために、管理組合が主体となって、長期修繕計画にもとづいた計画修繕を行います。

計画修繕は管理組合が集めた修繕積立金を充当して行われ、中でも工事内容が大規模、

工事費が高額、工期が長期間にわたるものを大規模修繕と呼びます。具体的には外壁

29

4

補修工事、屋上防水工事、鉄部塗装工事、給水管取り替え、排水管取り替えなどがあ

ります。 計画修繕の一例

◆ 外壁の塗り替え工事

◆ 屋根などの防水層の修繕工事

◆ 給水・排水管の修繕工事

◆ エレベーターの修繕工事

◆ 機械式駐車場の修繕工事

3)修繕

経年や何らかの外的要因によって劣化、不具合が発生した建物、建物の一部、設

備、部材などに対して修理や取り替えなどの処置を行って、問題部分の性能や機能

を支障なく利用できる状態にまで回復させることを言います。 つまり、「修繕」はマンションの性能を維持し、以前の状態に回復するために行

うものです。いわゆる「リフォーム」が「修繕」に対応すると言えます。

4)改修

マンションに求められる性能・機能は、住まい方の変化や設備機器の進歩等によ

り年々高まっております。これに伴い、高経年マンションでは性能・機能面での陳

腐化が進行し、資産価値が低下することにもなりかねません。こうしたことから、

高経年マンションの質及び価値を長持ちさせていくためには、「修繕」による性能

の回復に加えて、現在の居住水準・生活水準に見合うよう、マンションの性能をグ

レードアップし、住みよいマンションにしていくことが重要になります。「修繕」

及び「改良」により建物全体の性能を改善する工事のことを「改修」といいます。 つまり、「改修」は社会や時代の変化によって向上していく住環境の水準に合わ

せて、初期性能よりも高い性能や機能、居住性を獲得することを目指すものです。

いわゆる「リノベーション」が「改修」に対応すると言えます。

2.保守・点検に関する用語と解説

1)日常清掃・定期清掃

マンションにおける清掃は、エントランス・通路階段など共用部分に対し、日常的

かつ定期的メンテナンス清掃を行っていくものです

日常清掃とは、日常的に清掃する事により、建物の美観を維持し、清潔感を保つ事

です。継続的な清掃によって汚れやすい部分、汚れの元となる原因など問題点を解決

することが出来ます。

定期清掃とは、日常清掃を補完するための清掃です。

日常清掃だけではまかないきれない部分や、床やカーペットなど人の出入りの多い

時間に行う事の出来ない作業などは、定期清掃で専用機械、専用洗剤を使って洗浄作

業、 ワックス掛けなどを行います

30

5

2)日常点検・定期点検

マンションには、多くの人が快適に暮らすためにいろいろな設備があります。安心

して暮らすらすには、事故が起こらないように日常からきちんと点検を行う必要があ

ります。

建築基準法では、エレベーターや換気設備などを点検し、報告をすることが義務づ

けられており、消防設備(消防法)、給水設備(水道法)、電気工作物(電気事業法)な

どについても点検・報告義務があります。

これら行政の取り決めに従って行う点検を『法定点検』と称されます。 法定点検は、

建築基準法や消防法、水道法、電気事業法などのそれぞれの法律によって定期的な検

査が決められているものなので、検査を省いたり回数を減らしたりする事はできませ

ん。

検査をする人は有資格者に限られ、市区町村や消防署などの各機関に検査結果を報

告します。

各種定期報告・定期点検例

◆建築基準法

・エレベーター保守点検(年 1 回)

・建築設備点検(年 1 回)

・特殊建築物定期検査(3 年に1回)

◆水道法

・専用水道定期水質検査(水質検査:月1回、消毒検査: 日 1 回)

・簡易専用水道管理状況検査(年 1回)

◆浄化槽法

・浄化槽の保守点検

(半年1回)、清掃(半年 1回 or年1回)、定期検査(年1回)

◆消防法

・消防設備点検(総合点検年 1 回、機器点検半年 1 回)

◆電気事業法

・自家用電気工作物定期点検(日常巡視点検:月 1 回 、定期点検:年1回、精

密点検:3 年に 1 回)

3)定期保守点検

法的には点検が義務づけられていなくても、設備が順調に作動するように、設備業者など

に委託して自主的に行うのが『定期保守点検』です。

定期保守点検は、マンションに付帯する設備や施設を少しでも長く、しかも安全に保てるよ

うに任意点検し、維持管理に努めます。

点検する個所はマンションによって異なりますが、主に給水設備、浄化処理装置、エレベ

ーター、機械式駐車場、消防設備等、共用設備などの保守点検を定期的に行ないます。ま

た、点検実績の履歴を残すことも、今後の点検サイクルを見直す上で大切です。

31

6

4)建物診断

建物診断は、測定機器などを使用し、建物の劣化状況を調査します。ただし、基本は目視、

打診、触診などで専門家による調査が基本となります。また、実際に調査する前には全居住

者に対しアンケート調査を行い、専有部分の劣化度も確認し、ひどく劣化が予測される場合

は専有部分の調査も必要です。

3.建物の設計図書や関連書類

1)設計図書

『設計図書』とは、建物の新築に際しての工事契約書、確認申請及び検査済証を含

む設計図面一式を言います。これらの図書は建物が完成した時点で、建て主から管理

組合へ渡されるべき図書です。図面としては、意匠図、構造図、給排水衛生換気空調

図、電気設備図等が主なものです。

2)関連書類

『関連図書』とは、建物が完成した後の変化を綴った記録書類の事を言います。修

繕履歴書や定期点検・報告書、大規模修繕工事図書等の事を言います。

※これらの図書は、建物のことを検討するうえで必要不可欠のものですので、有無を確

認し、良好な状態で保管することが大切です。

第2章 建物としての仕組み

マンションの維持管理に際し、管理組合役員として管理すべき建物の箇所、その範囲は区

分所有法や規約等に規定されています。ここでは、基本的な建物の仕組みや管理組合とし

て管理するべき区分について紹介させていただきます。 1.基礎構造

土地の上にマンションの構造物は立

っていますが、実は地中の固い支持地

盤によって支えられています。 代表的な工法としては、杭を打ち込

んでその上に立っている杭基礎と支

持地盤に直接建物基礎が乗っている

直接基礎があります。 従って、支持地盤が悪かったり、杭

が折れたりするとマンションは傾い

たりすることになります。 建物にとって重要な役割を果たす各

基礎構造体ですが、補修する場合の工

事費は莫大な金額になる事が多くよ

ほど重大な不具合が無い限り、通常の修繕工事の対象にはなりません。 しかし、建物にとっては大切な部分ですので、竣工図書などの構造図で基礎の工法や、

ボーリング柱状図で、支持地盤の深さや土質などを確認することができますので把握

基礎敷地

支持地盤

道路

隣地

建物

32

7

しておくことが必要です。

2.専有部分と共用部分

上部構造や基礎構造は躯体(構造体)と呼ばれ、管理組合が管理すべき共用部分に入っ

ています。鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートの部分が構造体と言われます。

共用部分には、建築基準法や消防法等により規制がか

かっている部分がありますので、共用部分を居住者が勝

手に改修や変更することはできません。

その他にも屋上、開放廊下、バルコニー、エントランス、

駐車場、駐輪場、集会室、管理人室、受水槽室、ポンプ

室など共用使用される諸スペースが共用部分であり、管

理組合で維持管理するべき部分です。

一方、区分所有者の専用使用である住戸内は専有部分

です。居住室内に面するものは専有部分となります。

3.専用使用権

共有敷地・共用部分の一部を特定の区分所有者が独占的に使用できる権利が、「専用

使用権」です。

共用部分とされているバルコニーやルーフバルコニーをそこに接続する住戸の居住

者が独占的に利用するケースです。

共有敷地の駐車場や一階住戸の庭などを利用す

る場合なども専用使用権が発生します。

4.建物の基本的な仕組み

コンクリートでできた建物の多くが、コンクリート

の構造体(躯体)に、仕上材を付けて出来てい

ます。

屋上は、漏水防止ために、防水材として防水

シートを下地材として敷き、仕上げ材として保護

塗装や保護コンクリートが施工されています。

バルコニーや開放廊下も雨水浸入によるコン

躯体

仕上材

33

8

クリート躯体の劣化防止のために、ウレタン塗膜防水材や長尺塩ビシート等が、仕上材として

施工されています。

外壁や手摺壁は、デザイン性や耐候性確保のため、タイル張や塗装材が、仕上材として施

工され雨水浸入防止をしています。

屋上 開放廊下 バルコニー

第3章 大規模修繕工事

大規模修繕工事は、マンションの維持管理には欠かせない大切な工事です。また、管

理組合にとっては一大事業でもあります。大規模修繕工事を知ることで、経常修繕に対す

る対処方法なども習得していただけると考え、以下に大規模修繕工事についてのポイント

をまとめました。 1.大規模修繕工事を検討する

マンションは、年数が経過してくると躯体(コンクリート部分や鉄骨鉄筋コンクリー

ト部分)や設備等に傷みが生じます。長く快適に住み続けていくためには適切な計画修

繕が必要ですが、まずは、マンションの現状を把握し、大規模修繕の必要性や今後の維

持管理を考えることが大切です。

1)大規模修繕工事を検討する状況

(1)長期修繕計画の修繕予定時期が迫ってきた

(2)その他の状況

・日常点検の中で劣化が目立つようになってきた

・居住者からの要望やクレームが多くなってきた

・定期点検報告で指摘を受けた

・管理会社や施工会社などから提案を受けた

2)スケジュールには余裕を持って

工事の2~3年ほど前から理事会で検討をしましょう。長期修繕計画がある場合は、

修繕の時期に向けて早めに検討をスタートしましょう。

2.体制をつくる

大規模修繕の目的は、不具合の改善、グレードアップ、緊急的措置などがあります。

目的をはっきりと明確にすることが大切です。 また、理事役員のみで行うことは困難

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9

が伴います。大規模修繕をどのような体制で進めて行くのか、パートナーを誰に依頼す

るのかも重要です。

1)理事役員を支える支援体制を作る

(1)事業が複数年度にまたがるため継続性が必要

(2)役員としての通常業務の他に作業量が増える

(3)通常の理事会と別に頻繁に会合が必要になる

(4)修繕のパートナーなど外部の人との打ち合わせや、居住者へのきめ細やかな対

応なども必要

2)大規模修繕の進め方の理解を深める

3)工事の発注方式とパートナーを決める

3.建物の劣化状況を見て、建物を知る

大規模修繕を成功に導くには、建物の傷み具合などを十分に把握しておく必要があり

ます。そのためには、まず、建物に関する資料を整理し確認しておくことが重要です。

また、マンションの現状を客観的に調査するとともに、区分所有者の意向を把握してお

くことも大切です。

1)建物の設計図書や関連書類がそろっているかどうか確認します

2)管理組合の修繕担当者の目でマンションの状況を確認します

3)区分所有者や居住者の要望などをアンケート調査します

4)専門家(建物診断会社や設計時事務所など)に建物診断を依頼します

(1)事業が複数年度にまたがるため継続性が必要

(2)役員としての通常業務の他に作業量が増える

4.区分所有者、居住者に認識してもらう

建物診断結果やアンケート調査結果等を周知します。建物の状況について区分所有者

等が、共通の理解ができるようにしましょう

1)建物診断結果や区分所有者・居住者アンケートの結果などを次のような方法で公表

します。

(1)広報誌や修繕委員会ニュースなどを配布

(2)区分所有者・居住者への報告会を開催

区分所有者・居住者へこの時点で知らせること

(1)マンション維持保全の取組み(今までの経緯)

(2)建物診断の結果

(3)アンケートの結果

(4)修繕の時期、工事範囲・内容、優先順位

(5)今後の進め方

2)建物診断結果を踏まえ、区分所有者等の意向を把握したうえで、具体的な検討に入

ります。

35

10

5.大規模修繕の内容を検討する

修繕委員が中心になって修繕の時期、内容、資金計画などを含めた基本計画を作成し

ます。この基本計画の策定は専門知識を必要とするため、パートナーに原案作成を依頼

し、十分に説明を受けつつ修繕委員会で検討します。なお、単なる修繕に留まらず、グ

レードアップの検討など、楽しい夢のある計画をつくりましょう。

1)基本計画を決めるための主な検討事項

(1)工事の範囲・仕様の検討

(2)概算費用の検討

(3)資金計画の検討

6.大規模修繕の基本方針を決定する

修繕委員会の検討結果を踏まえて理事会などで基本計画を決定します。場合によって

は総会の決議が必要になる場合がありますので併せて確認しておきます。

1)修繕委員会の検討結果を踏まえて基本計画を作成し、理事会などで決定します。

(1)工事計画の内容

・修繕を行う意義、基本計画の考え方、根拠

・計画立案を進めるにあたって準備してきた経緯

・計画している工事範囲、内容、工期

(2)資金計画

・必要工事の概算額

・修繕積立金の残高

・資金計画の内容(調達方法、支払方法)

・資金を借り入れる場合は、借入先、金利、返済期間、融資額

(3)その他

・実施設計費の支払い

・施工会社の選定方針

・長期修繕計画や修繕積立金の徴収額を改正する場合は、その内容

2)トラブルを防ぐためには総会で決議しておくことが良いでしょう。

以下のような場合は、総会決議が必要になります。

(1)共用部分の変更に該当する場合

(2)管理規約に改正が必要な場合

(3)既に決議を受けた内容から大幅に変わる場合

7.工事の詳細な設計をする

大規模修繕の実施設計を勧めます。実施設計は、材料、工法等を具体的に決定してい

く作業で、設計事務所等のパートナーが中心になります。施工会社の選定の際に比較検

討が可能となる見積書をとるためにも、きちんとした設計図書の作成が重要です。

管理組合は、実施設計が提案されたときは、わからない点などについてパートナーと

よく打ち合わせをした上で、設計内容について承認していきます。

1)パートナーに実施設計業務を発注します。

36

11

(1)改修設計を行う設計事務所等は、修繕の検討経過を含めてそのマンションの事

をよく知っていることが重要です。当初から協力を依頼しているパートナーが

工事監理まで行うのが望ましいです。

(2)設計の成果は、「仕様書」と「設計図」です。また、パートナー(設計事務所等)

に「設計見積」の積算も依頼します。

2)実施設計の内容について承認します。

(1)不明な点については説明を求め、あいまいな点の内容にすることが肝要です。

(2)必要に応じ、カタログやサンプルを取り寄せます。

(3)外壁塗装の色などはカラーシュミレーションやカタログサンプルなどを見て確

認できます。

(4)設計図書がそろったらパートナーに工事予定額の積算を依頼しましょう。

8.施工会社、工事費を決める

施工会社の選定は、まず施工会社のリストアップから始まり、見積もり依頼に移りま

す。見積もりの徴収、面接・ヒアリング、最終決定の順で進みます。理事会で施工会社

を選定した後総会に諮り、承認を得た後請負契約を締結するのが、基本的な流れです。

良い会社を選ぶことも大切ですが、みなが納得する方法でえらぶことが重要です。

1)施工会社選定の流れ

(1)リストアップ→書類の取り寄せ→書類選考→見積依頼

→見積もり徴収と面談→最終調整→内定

2)施工会社のリストアップと情報収集

次のような方法で施工会社の情報を得ます。

(1)区分所有者の推薦

(2)近隣マンション管理組合からの実績情報

(3)公募((例)インターネット、業界誌、掲示などで募集)

この時期の行うこと。

(1)設計図書がそろったらパートナーに工事予定額の積算を依頼しましょう。

3)見積依頼会社の絞り込み

リストアップした施工会社から会社案内などを取り寄せ、以下を踏まえて、書類

選考を行い、工事の規模の大小に応じ数社に絞り込みます。

(1)会社概要(建設業登録、技術者数)

(2)経営方針

(3)財務内容

(4)マンション大規模修繕実績

(5)他のマンションでの評判

(6)マンション近くの営業所、支店の有無

4)見積もり依頼

(1)見積もりを依頼する内容を決める(見積要項書の作成)

(2)説明会を開催し見積依頼をする

見積もりを依頼するために施工会社をマンションに呼び、現場説明会を開催す

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12

る。見積要項書、設計図書を渡して設計内容を説明する。施工会社に現場の状

況を確認してもらう。施工会社は、後日質疑応答した上で、見積書を作成し、

指定日までに管理組合へ提出します。

5)見積もりの徴収と審査

見積書の以下の内容について施工会社に面接の際に確認し、パートナーの協力を

得て比較します。

(1)工事仕様や数量が正しいか

(2)見積項目に漏れがないか

(3)見積単価が当初の設計見積と大きく異なっていないか

6)施工会社の内定

面接を経て最終決定します。現場代理人(施工会社側の代理人として窓口になる

人)にも同席してもらうようにします。施工会社を決定するチェックポイントに

は次のようなものがあります。

(1)見積金額

(2)現場代理人(資質、作業員への指導力、居住者とのコミュニケーションがとれ

るか)

(3)施工会社としてのマンション大規模修繕の実績、熱意、取組姿勢

(4)技術力(一級施工管理技士などの技術者数、工事部門)

(5)工事内容をきちんと理解しているか(どのような点が大変か、危険かなど)

(6)工事計画(工程、検査、人員、安全管理、品質管理)

(7)区分所有者、居住者向け連絡広報計画

(8)工事中の事故対策内容(損害賠償保険などを含む)

(9)施工管理体制や工事後のアフターサービス体制

9.総会で決議、工事を発注する

総会決議を経て工事請負契約を取り交わし、本当の意味での工事が始まります。工事

請負契約は管理組合と施工会社との間で交わされるものです。あわせて工事監理者も設

置します。

1)総会決議

次の事項について、区分所有者から承認を得ます。

(1)工事内容(目的および経過、工事の範囲や種目、工程)

(2)予定工事費と資金計画(借入れを行う場合はその内容を含む)

(3)理事会で内定している施工会社とその選定方針

(4)管理組合における工事実施体制や工事監理者の設置

(5)その他理事会や修繕委員会に一任する事項

1)工事請負契約

次のような書類を取り交わし、契約を結びます。

(1)契約書本文

(2)工事請負契約約款

(3)設計図書

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13

(4)工事費内訳書

(5)工事工程表

10.工事の準備段階で行うこと

工事期間中は生活に不便が生じます。また、近隣にも迷惑が掛かることもあり、きめ

こまかな対策が必要です。また、共用部の修繕であっても、居住者等の協力を得なけれ

ば工事出来ない個所がある場合が多々あります。工事中に生じる状況を想定して、居住

者等に事前に知らせておくことが大切です。

1)工事説明会の開催

次の事項について、工事説明会で説明します。

(1)住戸内への立ち入る場合についての説明

(2)洗濯物を干したりするバルコニーの使用制限

(3)エアコンの移設と使用制限

(4)窓開閉の制限

(5)共用部分の通行制限(開放廊下、階段、バルコニーなど)

(6)エレベーターの使用制限

(7)工事用車両の進入

(8)足場や養生シートの設置

(9)工事による騒音、臭気など

2)工事用掲示板の設置

共用部分の見易いところに、工事用お知らせ掲示板やご意見用紙を入れるポストを

設置し、広報・情報発信や意見収集用とします。

3)工事に備える

工事前に下記のことを行う必要があります。

(1)居住者が行うこと

・バルコニーやポーチ、専有庭の片付け

(2)共用部分の準備

・工事用仮設物(資材置き場、廃材置き場、仮設トイレなど)が設置される

予定の場所を確保する

・居住者の車移動が発生する場合は、使用料の取り扱いを検討しておく

(3)近隣への挨拶

・管理組合と相談の上挨拶先をリストアップ

・工事の内容、工事時間、工程、工事車両の経路や停車場所などの説明

11.工事中の取組み

工事期間中は、居住者、管理会社、施工会社、工事監理者間の情報共有が重要になり

ます。そのためには、居住者からの意見聴取、定期的な会議の開催が不可欠です。

1)定例会議の開催

管理組合(修繕委員会など)、施工会社、工事監理者が出席して会議を開催し、下

記の事項等を協議します。

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14

(1)工事工程について

(2)工事施工状況について

(3)区分所有者や居住者からの要望・意見やクレームについて

(4)工事費の増減について

2)工事中の広報活動

工事中に居住者の生活に影響を及ぼす問題については、事前に周知しておくこと

が大切です。下記のような方法で周知を図ります

(1)物干し可能日時などを住戸ごとに分かる内容で工程表を掲示する

(2)在宅を必要とする工事など、重要なお知らせは各戸にお知らせを配布する

12.工事完了時の取組み

工事が完了したら、管理組合として確認をし、その旨を、区分所有者や居住者へ通知

します。工事完了報告会などを開催することも検討しましょう。

1)竣工検査

工事が最終段階を迎えて次期に、発注者として契約通りに完成しているか検査を

しましょう。

2)竣工図書受領

工事が終了すると施工会社からは竣工図書、工事監理者からは業務完了報告書等

が提出されます。内容について説明を受け、図書は大切に保管しましょう。

竣工図書内容例

(1)工事請負契約書

(2)工事費内訳書

(3)色彩計画書、施工計画書

(4)メーカーリスト、材料リスト、カタログ

(5)保証書

(6)工事費清算書

(7)アフターケア体制リスト

(8)工事記録写真

(9)議事録、アンケート、広報チラシ 等

3)最終工事費の審査、確認

(1)工事監理者による工事費清算書の内容確認と説明

(2)管理組合として承認、支払い

4)工事完了の通知

工事完了したことを区分所有者や居住者へ通知します。主な内容は下記の通りで

す。

(1)工事完了までの経過、最終工事金額

(2)瑕疵処理の方法

(3)アフターサービス、定期点検の内容

40

15

13.良好な建物維持管理に向けて

大規模修繕工事を経験すると日常の建物維持管理に際しての考え方が変わると言われ

ています。一方で,大規模修繕工事を経ると、居住者間のコミュニティー活動が活発に

なることも多々あります。

大規模修繕という一大事業で得られた経験をこれからの建物維持管理に有効に利用で

きるような体制、環境づくりに心掛けましょう。

1)アフター点検

工事に際し取り決めた保証期間やアフター点検実施予定により、定期点検が実施

されます。立ち合い者は、管理組合と施工会社が基本となりますが、工事監理者

も立ち会うことで、発見された瑕疵などについて公正に責任の所在を協議、決定

できます。取り決めについては、管理組合役員が変わっても分からなくならない

ように引き継ぎをしましょう。

2)長期修繕計画の見直し

大規模修繕工事で、その実勢費用が分かったこの時点で、長期修繕計画見直しを

することで実際に即した計画の作成が可能になります。また、やり残した工事を

次回に組み込んだ計画とすることも大切なことです。

3)竣工図書などの記録、資料の保管

今後の建物維持管理にとって、大規模修繕工事の設計図書などは、重要な内容を

持った資料です。必要な時に管理組合として参照できるように整理して保管しま

しょう。

(1)大規模修繕工事の竣工図面

(2)使用材料一覧表

(3)数量調書

(4)施工会社連絡先

(5)その他工事に関する記録

4)良好なマンション生活環境維持の活動

大規模修繕工事で生まれた居住者間の繋がり、関係性をさらに活発化させる取

組みを、続けましょう。

(1)建物修繕や長期修繕計画を検討する専門委員会の立ち上げ

(2)共用部分の活用(正月の門松飾り、クリスマスツリー飾りなど)

(3)イベント企画(夏祭り、餅つき大会、等)

(4)防災訓練などの定期的実施

第4章 建物各部分の劣化と対応

管理組合として、建物に発生した損傷や故障、劣化に対して的確に判断し対処方法を

選択することは大切なことです。管理会社などの第三者による建物点検診断調査報告の内

容についても、建物の劣化についての基本知識があると、管理組合として的確な判断がで

きると考えます。この章では、大規模修繕工事の項目に即し、用語の説明や建物の劣化と

対処策について述べます。 なお、工事項目は、国交省推奨の「長期修繕計画標準様式」の項目に準拠しました。

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16

1.工事項目と各部分の劣化と対応

1)仮設工事

(1)共通仮設工事:

・役割:工事を円滑に進めるための重要な施設

・内容:現場事務所、作業員詰所、資材置き場、

トイレ、洗い場など

・その他:仮設用電源、仮設用水道、警備員・

交通誘導員、養生、発生材処分、

各種官庁届け出

(2)直接仮設:

・役割:施工時の安全性確保、施工品質確保など

のために重要な施設

・内容:枠組み足場、昇降用階段、朝顔、侵入防

止鋼製ネット、養生シート、揚重機、

ゴンドラ、移動式昇降足場、ローリング

タワー足場など

・その他:足場運搬、場内運搬、

2)屋根防水工事

屋根防水の最重要機能は、下階への漏水防止です。下階へ漏水した場合、しか

も住戸への漏水の場合、居住者の生活への影響や内装材、家財、衣料などへの影

響による補償問題まで関係し、大きな問題となります。従って、漏水事故を避け

るために、屋上防水は要望的観点に立ち早めの改修が理想的です。

屋上防水は、外壁の修繕工事と併せて実施する場合と、屋上防水のみ単独で実

施する場合があります。

屋上防水に使われる防水層の種類には、「アスファルト防水」、「シート防水」「塗

膜防水」など多様です。

斜め屋根(勾配屋根)に使用される材料も多種あります。

改修工法は、既存防水層を全面的に撤去する方法と、部分的な撤去或は不具合

部を補修したうえで既存防水層の上に新規防水層を施工する被せ工法に大きく分

けられます。

(1)屋上防水(保護):

・対象部位:屋上、塔屋、ルーフバルコニー

・使用材料:アスファルト防水の上に保護コンクリート

・修繕周期:24 年程度

・劣化状況:保護コンクリートひび割れ、伸縮目地劣化

・改修工法:ウレタン塗膜防水にて被せ工法、更新工事

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(2)屋上防水(露出):

・対象部位:屋上、塔屋、ルーフバルコニー

・使用材料:アスファルト防水の上に塗装(トップ

コート)シート防水、ウレタン塗膜

防水 等

・修繕周期:12 年程度

・劣化状況:防水層の膨れ、ひび割れ、塗膜の劣化

・改修工法:アスファルト防水やシート防水にて被せ工法、

不具合箇所を補修し塗装

(3)傾斜屋根:

・対象部位:屋根

・使用材料:アスファルトシングル葺き、金属板、

コロニアル葺き

・修繕周期:24 年程度

・劣化状況:ひび割れ、剥がれ、ずれ落ち、表面劣化、

・改修工法:アスファルトシングル葺きやウレタン塗

膜防水にて被せ工法、

既存撤去後アスファルトシングル葺き

タイル面は、ウレタン塗膜防水など施工

(4)庇・笠木等防水:

・対象部位:庇天端、笠木天端、パラペット天端・

アゴ、架台天端等

・使用材料:ウレタン塗膜防水、アスファルトシン

グル葺き、コロニアル葺き

・修繕周期:12 年程度

・劣化状況:ひび割れ、剥がれ、ずれ落ち、表面劣化、

・改修工法:アスファルトシングル葺きやウレタン塗膜防水にて被せ工法、

既存撤去後アスファルトシングル葺き

タイル面は、ウレタン塗膜防水など施工

3)床防水工事

下階に居室が無いバルコニーや開放廊下、屋外階段の床仕上げ材に求められる

機能は、コンクリート躯体への浸水防止が主です。その他として防滑性、防汚性、

美観が求められます。

開放廊下、屋外階段床は、日常清掃により美観を保っている場合が多く、周期

を伸ばすこともあります。

仕上げ材として使われる防水材の種類としては、平場は「長尺塩ビシート」、側

溝と巾木は「ウレタン塗膜防水」などが主流です。20 年程前に完成したマンショ

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ンでは、防水性能を持ったモルタル塗りやウレタン塗膜防水が平場、側溝、巾木

まで使われていた場合もありました。

改修工法は、既存の劣化状況により、長尺塩ビシートは、既存防水層を全面的

に撤去する方法と、部分的な撤去或は不具合部を補修するのみで対応する場合が

あります。ウレタン塗膜防水の場合は、塗り重ねるか、トップコート(塗装)の

みで対応する場合もあります。

開放廊下、屋外階段は足場無しでも施工可能ですが、バルコニー床の施工に際

しては、足場無しで工事を行う場合は、住戸内を通る必要がありますので足場の

かかる大規模修繕工事時に行うことが望ましいでしょう。

(1)バルコニー床防水:

・対象部位:バルコニー床、側溝、巾木

・使用材料:長尺塩ビシート、ウレタン塗膜防水

・修繕周期:12 年程度

・劣化状況:膨れ、剥がれ、ずれ落ち、表面劣化、

・改修工法:長尺塩ビシート張替工法(既存:長尺

塩ビシート張)

長尺塩ビシート新設(既存:ウレタン塗膜防水、モルタル)、

ウレタン塗膜防水塗り増し施工(既存:ウレタン塗膜防水)

(2)開放廊下・階段等床防水:

・対象部位:バルコニー床、側溝、巾木

・使用材料:長尺塩ビシート、ウレタン塗膜防水

・修繕周期:12 年程度(劣化状況により 24 年程

度も可)

・劣化状況:膨れ、剥がれ、ずれ落ち、表面劣化、

・改修工法:長尺塩ビシート張替工法、

長尺塩ビシート新設、

ウレタン塗膜防水塗り増し施工

4)外壁塗装等工事

外装材には、建物の美観維持と躯体コンクリートの強度維持という機能が求め

られます。建物完成後の経年で塗膜(塗装材の膜)の付着力が低下し浮いている

場合があります。そのような塗膜の現状を十分に把握し、改修方法や材料を選択

する必要があります。また、タイル面に関しても、浮きやタイルのひび割れ、目

地モルタルの欠損などの不具合発生は、コンクリート躯体の劣化やタイル落下に

よる人身への危害発生を引き起こします。従って、工法採用に関しては十分に注

意を払い行うことが必要です。

塗装材は、耐候性に優れる物、ひび割れに対応できるもの、汚れに強いものな

ど多様です。マンションに求められる機能と経済性等を検討して選定します。

改修工法は、脆弱塗膜層を撤去し、補修したうえで塗装材をローラーなどで施

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工します。塗料の飛散がある吹き付け塗装は改修工事の場合はほとんど採用され

ません。タイル面不良個所については、張替、接着力強化などの工法を、状況に

より採用します。

(1)コンクリート補修:

・対象部位:コンクリート面、モルタル面

・使用材料:無収縮モルタル、樹脂モルタル、

エポキシ樹脂等

・修繕周期:12 年

・劣化状況:爆裂、欠損、亀裂、浮き、

・改修工法:無収縮モルタル成形工法、U カットシール工法、アンカーピン

ニング工法、樹脂注入工法、セメントフィラー擦り込み工法

(2)外壁塗装:

・対象部位:外壁、手摺壁等

・使用材料:塗装材

・修繕周期:12 年

・劣化状況:膨れ、剥がれ、表面劣化、

・改修工法:清掃、下地処理、塗り替え、

(3)軒天塗装:

・対象部位:バルコニー、開放廊下、階段等の軒天

(上げ裏)

・使用材料:塗装材(透湿性を有する材料が好ましい)

・修繕周期:12 年

・劣化状況:膨れ、剥がれ、表面劣化、

・改修工法:清掃、下地処理、塗り替え、

(4)タイル張補修:

・対象部位:バルコニー床、側溝、巾木

・使用材料:長尺塩ビシート、ウレタン塗膜防水

・修繕周期:12 年

・劣化状況:膨れ、剥がれ、ずれ落ち、表面劣化、

・改修工法:浮き部分全面張り替え工法、

アンカーピンニング工法、

ピンネット工法

(5)シーリング:

・対象部位:外壁目地、建具周り、スリーブ回り、

部材接合部等

・使用材料:変性シリコン、アクリルウレタン等

各種樹脂シール材

・修繕周期:12 年

・劣化状況:硬化、剥離、破断、変形、

・改修工法:打ち替え工法、ブリッジ工法、

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5)鉄部塗装等工事

鉄部の塗装塗り替えは、5~7 年毎に塗り替えるのが一般的です。錆が発生して

からの塗り替えでなく、塗装表面にチョーキングと言われる塗装表面にチョーク

の粉のような状況が発生したら塗り替え時期と判断しましょう。

塗装材の種類は多様ですが、近年、錆止め塗料を含め、機能向上した塗料が開

発されています。

鉄部の塗り替えで大切なのが、ケレン作業(錆落とし)です。旧塗膜の状況で

第 1 種から第 4 種までの仕様が決められていますが、通常の塗り替えでは、第 3

種か第 4 種です。

改修工法は、既存塗膜面をケレンし、錆止め材塗り、中塗り、上塗り塗料を塗

る工程が一般的です。

(1)鉄部塗装(雨掛かり部分):

・対象部位:バルコニー、開放廊下、階段などの鋼製

手すり 、各種フェンス

竪樋支持金物、設備架台、隔て板枠、

ドレイン、物干金物

・使用材料:塗装材

・修繕周期:4~5 年

・劣化状況:剥がれ、割れ、汚れ、

・改修工法:塗り替え、

(2)鉄部塗装(非雨掛かり部分):

・対象部位:住戸玄関ドア(枠)、

共用部分ドア、メーターボックス扉、

照明器具、配電盤類、屋内消火栓箱等、

・使用材料:塗装材

・修繕周期:6~7 年

・劣化状況:剥がれ、割れ、汚れ、

・改修工法:塗り替え、

(3)非鉄部塗装(アルミ製、ステンレス製等):

・対象部位: 面格子、換気口、換気ガラリ等、

・使用材料:清掃(専用錆取り材及び塗料)、取替え

・修繕周期:12 年程度(取り換えは 36 年程度)

・劣化状況:点食(アルミ製品の錆)、皮膜劣化、汚れ、

・改修工法:専用錆取り材及び塗料による更生工法、取替え、

6)建具・金物等工事

既製品、工場生産品が多く、劣化が目立つのは部分的に使われている鉄部など

で、その部分の改修対応が必要とされます。アルミ部分やステンレス部分に劣化

が発生した場合は、取替えを検討することも必要です。

(1)建具関係(鋼製建具等):

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玄関扉は、扉表面と枠の塗り替えが一般的ですが、近年、断熱性向上や美観向

上が求められ、扉は塩ビシート貼り仕上げの扉が多く改修に際しては、表面シー

トの張替も採用される傾向にあります。また、コスト面、機能向上の点から既存

枠を残して改修するカバー工法によるドア交換工事を採用することが多いです。

・対象部位:住戸玄関ドア、共用部分ドア、自動ドア

・使用材料:共用部鋼製建具の場合:鉄部塗装材、

アルミ製、

ステンレス製自動ドアの場合:取替え

住戸玄関ドアの場合:鋼製枠、ドア

・修繕周期:12 年程度(交換の場合は 36 年程度)

・劣化状況:動作不良、丁番など付属金物劣化、塗装劣化、表面劣化、

・改修工法:鉄部塗装工法、カバー工法、

(2)建具関係(アルミサッシ):

・対象部位:窓サッシ、面格子、網戸、

・使用材料:専用錆取り材及び塗料、付属部品交換、

取替え

・修繕周期:12 年程度(取り換えは 36 年程度)

・劣化状況:動作不良、付属金物劣化、点食、皮膜劣化、汚れ、

・改修工法:専用錆取り材及び塗料による更生工法、取替え、

(3)手すり:

・対象部位:開放廊下・階段・バルコニーの手すり、

防風スクリーン

・使用材料:アルミ製

・修繕周期:12 年程度(取り換えは 36 年程度)

・劣化状況:点食、皮膜劣化、汚れ、

・改修工法:専用錆取り材及び塗料による更生工法、取替え、

(4)屋外鉄骨階段:

・対象部位:屋外鉄骨階段

・使用材料:鉄部塗装材

・修繕周期:6~7 年程度

・劣化状況:塗膜剥がれ、錆発生、表面劣化、

・改修工法:塗り替え、長尺塩ビシート張替、

(5)金物類(集合郵便受等):

・対象部位:集合郵便受、掲示板、宅配ロッカー、階段ノンスリップ、

避難ハッチ、タラップ、室名札、竪樋・支持金物、物干金物

・使用材料:

・修繕周期:24 年程度

・劣化状況:錆、点食、皮膜劣化、汚れ、

・改修工法:取替え

(6)金物類(メーターボックス扉等):

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・対象部位:メーターボックス扉、パイプシャフト扉等

・使用材料:鋼製建具の場合:鉄部塗装材、

・修繕周期:6~7 年

・劣化状況:丁番など付属金物劣化、塗装劣化、表面劣化、

・改修工法:塗り替え、取替え、

7)共用内部工事

共用部分はマンションの資産価値にも影響する大切な部分です。時代の変化に

より居住者のニーズが変わりその変化に追従すべく改修を考える必要があります。

美観的な改修目的のみならず、バリアフリーの観点からの改修など機能面の向

上も居住者にとって重要な改修です。

集会室の増設、トランクルームの増設など、改修内容によっては関係官庁への

届け出や総会の議決が必要なものもありますので注意が必要です。

(1)内装関係:

・対象部位:エントランス、屋内廊下・階段、集会室等

・使用材料:床、壁、天井の塗り替え、張替材等

・修繕周期:12年程度

・劣化状況:汚れ、機能低下、

・改修工法:リフォーム工事

8)エレベーター設備(昇降機設備)工事

エレベーターには、安全性・耐震性・防犯性・省エネ性等が求められ、これら

の性能は日々進化しています。

エレベーターの改修工法には全面リニューアル、準撤去リニューアル、制御リ

ニューアルの3方式が代表的分類です。

(1)エレベーター:

・対象部位:カゴ内装、扉、三方枠等

・使用材料:フィルムシート、塗装材

・修繕周期:12 年程度

・劣化状況:汚れ、剥がれ、傷、表面劣化、

・改修工法:フィルムシート張、

塗装工事

(2)全構成機器:

・対象部位:制御盤、モーター、巻き上げ機、ロープ、カゴ、その他一式

・使用材料:エレベーター設備一式

・修繕周期:25~30 年程度

・劣化状況:機能低下、安全性欠如、動作不良、表面劣化等

・改修工法:全面交換

9)立体駐車場設備工事

立体駐車場の種類には、自走式駐車場と機械式駐車場があります。自走式駐車

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場は建物と同様な修繕工事が必要となります。主に、塗装工事が多いですが、消

防や照明設備も改修対象となります。機械式駐車場は、保守点検や部品交換につ

いてはメンテナンス会社が行いますが、パレットなどの鉄部塗装がなされている

部分の塗装は鉄部塗装改修周期と同程度の周期で行います。

(1)自走式駐車場:

・対象部位:鉄部、車止め等

・使用材料:塗装材

・修繕周期:12 年程度

・劣化状況:剥がれ、割れ、汚れ、

・改修工法:塗装塗り替え

(2)機械式駐車場:

・対象部位:鉄部、パレット等

・使用材料:塗装材

・修繕周期:12 年程度(パレット等は 5~6 年)

・劣化状況:錆発生、剥がれ、割れ、汚れ、

・改修工法:塗装塗り替え

10)付帯施設工事

居住者の年齢構成や利便性、ニーズの変化により規模の変更や機能の改善、安

全性の見直し等の根本的な見直しが必要になる部分です。

駐輪場、バイク置き場は、経年によりアスファルトの劣化、建屋の劣化などが

発生します。必要な台数確保計画や美観上の観点からも検討することが必要です。

ゴミ置き場は、収納する物による分別機能を高め、居住者にとっての利便性を

考えながら且つ清潔性を検討し、改良してゆくことが必要です。

(1)駐輪場・バイク置き場:

・対象部位:建屋、舗装、区画線、照明器具等

・使用材料:アスファルト舗装、区画ライン、塗装材

・修繕周期:24 年程度

・劣化状況:ひび割れ、陥没による水溜り、区画線か

すみ、表面劣化、

・改修工法:舗装替え、塗り替え

(2)平面駐車場:

・対象部位:舗装、車留め、区画線等

・使用材料:アスファルト舗装、区画ライン、車留め

・修繕周期:24 年程度

・劣化状況:ひび割れ、陥没水溜り、区画線かすみ等

・改修工法:舗装替え、塗り替え

11)外構工事

外構の改修を計画的に行うことはなかなか難しいことが一般的と思われます。

しかし、築 20 年を超すと用途の変更や景観の整備を含めたグレードアップを

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行うことが求められるところです。

フェンスや各種サインは近隣住民や来訪者に対してのマンションの顔と言える

ものです。デザイン性の優れたものへ改修することで、マンションのグレードア

ップに繋がります。

植栽は、経年に伴い豊かな緑の区間はできますが、反面、無秩序に成長した樹

木は日照被害、防犯性の悪化、植栽管理費の増大等の問題を起こします。適正な

管理が必要です。

(1)車路・歩道等の舗装:

・対象部位:道路・歩道、側溝、排水溝

・使用材料:アスファルト舗装、縁石、インターロッ

キングブロック、タイル

・修繕周期:24 年程度

・劣化状況:ひび割れ、陥没による水溜り、等

・改修工法:舗装替え、塗り替え、インターロッキングブロック、

タイルによるグレードアップ工事、歩道の段差解消

(2)サイン(案内板等)、フェンス、遊具・ベンチ:

・対象部位:各施設

・使用材料:既製品

・修繕周期:24 年程度

・劣化状況:破損、塗装劣化、汚れ、

・改修工法:取替え

(3)植栽:

・対象部位:樹木、土留め等

・使用材料:樹木、既成土留め材

・修繕周期:24 年程度

・劣化状況:傾斜、腐朽、崩れ、繁茂等

・改修工法:剪定、植え替え、伐採、整地等

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1

第3部 給排水等設備の維持管理と改修

― 目 次 ―

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

第1章 マンションに設置されている設備とその仕組み・・・・・・・・・3

1.マンションに設置されている設備

2.マンション設備の仕組み

第2章 設備の維持・管理区分(共用と専有の区分)・・・・・・・・・・12

1.維持・管理区分と費用負担区分

2.共用設備と専有設備の維持管理範囲

第3章 長期修繕計画策定時の設備改修のポイント・・・・・・・・・・ 16

1.長期修繕計画作成件数と数量拾い

2.設備改修項目の項目建て

3.長期修繕計画策定時の調査

4.策定時の設備改修のポイント

第4章 設備改修工事の体制作り・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

1.設備改修の手順

2.委員会とパートナー

第5章 設備の傷みを知る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

1.設備機器類の調査・診断と更新時期

2.設備配管等の調査・診断方法

3.設備配管等の調査・診断の必要性

第6章 設備改修工事の改修基本計画・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

1.基本計画の必要性

2.基本計画の検討項目と内容

第7章 給排水設備システムの変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

1.設備供給方式の移り変わり

2.設備配管材料の移り変わり

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はじめに

マンションが建設され約 60 年以上が経過し 2018 年(平成 30 年)末時点の国土交通

省発表のマンションストック総数推定では 654.7 万戸、居住人口は 1,525 万人と発表

されています。

マンションは、マンション管理適正化法(2000 年制定)で「区分所有者が 2 戸以上

居住している分譲共同住宅をマンションという」と定義されていますが、国土交通省

マンショストック統計では、中高層(3 階建て以上)・分譲・共同建て、鉄筋コンク

リート造、鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄骨造の住宅を指しています。

設備は一般に搬送設備のことを言います。機械設備として、液体を搬送する給排

水・給湯・消火設備、気体を搬送するガス・空調・換気設備、人や物を搬送するエレ

ベータ・機械式駐車設備等があり、電気設備として、電気を搬送する電灯・動力など

の強電(48V以上)設備、電波や信号を搬送するTV・インターネット・自動火災報

知・警報・自動制御・防犯カメラ・自動車管制などの弱電(48V未満)設備があって

マンションに設置されています。

マンションは雨風を防ぎ地震に耐える建築に、ライフラインと呼ばれる設備のほか

様々な設備が設けられて、初めて居住者が安心で安全な快適生活を営むことができる

のです。

その設備は、ライフライン(給水・排水・ガス・電気)などの公共と接続されてい

る設備とマンション内だけで完結する設備(給湯・換気・空調・消火)があります。

マンションに設置されている設備は、建設年代や使用されている材料によって性能

や耐久性に違いがあり、築 30 年以上の高経年マンションでは設備の老朽化などによ

り不具合が生じ、大規模な最新設備改修が行われます。

また、マンションの設備配管・配線類は露出されているものが少なく、その多くは

隠された場所に設置されているため、改修を行う際に隠蔽材の解体復旧等の道連れ工

事が必要で、大工事となります。

2018 年(平成 30 年)時点で、設備改修が必要と思われるストック数は、昭和時代の

184 万戸と 1989 年(平成 1 年)から 2003 年(平成 15 年)までのストック数の約半数

の 131 万戸で、合計 315 万戸と推定されます。

改修工事(※1)は、人任せではなく住民(区分所有者と居住者)が全員参加の行事

として行う必要があるので、管理組合は広報等で工事の内容や工事期間、必要な協力

等を住民に周知し理解・協力して貰うことが大切です。

改修工事は、区分所有者が毎月積み立てた修繕積立金で工事を行いますので、住民

の利益になるような工事を行い、二重投資や無駄な費用の支出を無くす事が肝心です。

当、第 3 部では、これから実施するマンションの給排水等設備改修を失敗しないよ

うに行うための参考資料として作成しています。個々のマンションの諸事情に全て対

応した資料ではありません。

長期修繕計画策定や改修工事実施の際、パートナー(設計コンサルタント等)や施工

者が説明する内容を、管理組合の皆さんがより理解・判断できる参考資料としてご利

用ください。※1:改修工事:必要な修繕工事と改善工事を合わせて行う工事。

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3

第1章 マンションに設置されている設備とその仕組み

1.マンションに設置されている設備

マンションに設置されている設備を表 1 にまとめましたので、ご自分のマン

ションの設備竣工図(機械設備:給排水他、電気設備)の仕様書に記載されてい

る設備をチェックして、以降の本書資料の設備項目を重点的に確認して下さい。

表 1 は、国土交通省監修(公財)マンション管理センター2008 年(平成 20 年)

7 月発刊の「長期修繕計画標準様式」に準じていますが、設備項目建ては国土交

通省大臣官房営繕部 2016 年(平成 28 年)3 月発刊の「公共建築工事標準仕様書

(機械備編)に準拠して、主なマンション機械設備を記載しています。

番号 設 備 項 目 一般

区分

自分のマンショ

ンの設備の有無

Ⅰ 機械設備

1 給水設備 共用

2 給湯設備(※2) 共用

3 排水設備 共用

4 ガス設備 共用

5 消火設備(※3) 共用

(1) 屋内消火栓設備 共用

(2) 連結送水管設備 共用

6 空調・換気設備 共用

(1) 空調設備 共用

(2) 換気設備 共用

7 昇降設備 共用

(1) エレベータ―設備 共用

(2) 機械式駐車場設備(※4) 共用

8 住戸内専有設備配管(※5) 専有

(1) 給水管 専有

(2) 給湯管 専有

(3) 排水管 専有

(4) ガス管 専有

(5) 追い焚き管・バスヒーター管 専有

(6) 暖房管 専有

表 1 機械設備の種類

※2:マンション全体または棟毎のセントラル給湯暖房設備であるが、設置している

マンションは少ない。

※3:消火設備には、(1)(2)の他にスプリンクラー設備や泡消火設備などを設置して

いる場合があるので、管理会社や改修設計者に確認する必要がある。

53

4

※4:機械式駐車場設備は、建築工事の範囲とするのが一般的。

※5:配管の他、各戸で専有・専用している設備機器の取外し再取り付け(脱着)や建

築の内装解体復旧工事も合わせて行う必要があり、全て専有区分となる。

2.マンション設備の仕組み

本項では、設備の仕組み図とその説明文を記載していますので、公共からマ

ンション共用を経て専有部に来るまで、専有部からマンション共用を経て公共

に出るまでなどの機器・器具名称や配管部位の名称を覚えてください。

1)給水設備

給水設備は、給水施設(受水槽・高架水槽)・装置(ポンプ類)と給水管で構

成され、給水方式により設置されている施設や装置に違いがあります。

また、給水管も水道本管(水道配水管)と直接接続され、水質管理責任が水道

事業会社にある直結給水管と、水質管理責任が管理組合にある水槽以下給水管

があり給水方式により給水管の名称に違いがあります。

(1)高架(高置)水槽給水方式の仕組みと管理区分

①公道内水道本管(配水管)から敷地内第一止水栓までの給水管は、直結直圧給水

管と呼ばれ、配管及び水質の維持管理は水道事業会社(水道局)が行います。

②第一止水栓から定水位弁を経て受水槽に水道水を供給までの給水管は、直結直

圧給水管と呼ばれ、配管類(※6)と受水槽の維持管理は管理組合、受水槽供給

までの水質管理は水道事業会社、受水槽に貯水された水質管理は管理組合です。

③受水槽から揚水ポンプを経て、給水塔または建物屋上の高架(高置)水槽供給ま

での給水管は、揚水管と呼ばれ配管類と揚水ポンプ及び高架水槽の維持管理は

管理組合です。水質管理は受水槽以下の給水管なので管理組合が行います。

④高架水槽から各戸量水器(水道事業会社貸与品)までの給水横主管と給水立て

管及び量水器接続までの給水枝管の維持管理は管理組合です。水質管理は受水

槽以下の給水管なので管理組合です。

⑤各戸量水器から住戸内各所給水栓類までの給水管や給水器具は、専有部分で給

水配管等の維持管理は区分所有者ですが、水質管理は受水槽以下の給水管なの

で管理組合です。

※6:配管類は給水管と給水管に取付けられる継手・弁類などを合わせた呼称。

一般的には、給水管・排水管・給湯管等を特定しないときの管類の呼称。

54

5

図 1 高架(高置)水槽給水方式説明図

(2)ポンプ圧送(加圧)給水方式の仕組みと管理区分

①公道内水道本管(配水管)から敷地内第一止水栓までの給水管は、直結直圧給水

管と呼ばれ、配管及び水質の維持管理は水道事会社(水道局・部)です。

②第一止水栓から定水位弁を経て受水槽に水道水を供給までの給水管は、直結直

圧給水管と呼ばれ、配管類と受水槽の維持管理は管理組合、受水槽供給までの

水質管理は水道事会社、受水槽に貯水された水質管理は管理組合です。

③受水槽からポンプ圧送給水装置を経て、給水横主管・給水立て管から各戸量水

器までの給水配管と加圧給水ポンプの維持管理は管理組合です。水質管理は受

水槽以下の給水管なので管理組合です。

④各戸量水器から住戸内各所給水栓類までの給水管や給水器具は、専有部分と

いわれ維持管理は区分所有者です。水質管理は受水槽以下の給水管なので管理

組合です。

高架水槽給水方式

55

6

図 2 ポンプ圧送(加圧)給水方式説明図

(3)直結増圧給水方式の仕組みと管理区分

①公道内水道本管(配水管)から敷地内第一止水栓までの給水管は、直結直圧給水

管と呼ばれ、配管及び水質の維持管理は水道事業会社(水道局・部)です。

②第一止水栓から増圧給水ポンプ装置までの給水管、増圧給水ポンプ装置から給

水横主管・給水立て管を経て各戸量水器までの給水配管と増圧給水ポンプ装置

維持管理は管理組合、水質管理は水道事業会社です。

③各戸量水器から住戸内各所給水栓類までの給水管や給水器具は、専有部分とい

われ維持管理は区分所有者です。水質管理は水道本管から直接各住戸内の給水

栓まで供給されますので水道事業会社です。

ポンプ圧送給水方式

56

7

図 3 直結増圧給水方式説明図

2)排水設備

マンション内の排水設備は、通気口・通気管・排水管・排水器具・排水桝・屋外

排水管路で構成され、排水方式により違いがあります。

排水管は、通常空気が排水管内に入っているだけで、排水器具から排水すると

排水管に初めて排水管内に水が流れます。この排水をスムーズに流すには、排水

管内の空気の流通を妨げないようにする必要があります。

その装置が通気管と屋上又は最上階の外壁に取り付けられている通気口です。

排水器具から排水すると排水の上流側の空気は負圧になりますので通気口から

外気を吸い込み、下流側は正圧になり屋外排水桝に向かいスムーズに流れます。

但し、同一立て管系統の住戸の方が同時に長時間排水(浴槽や便器や流し水槽

に貯めた水)をすると、排水と排水の間の空気は途中階住戸の排水枝管に押され

ますので、排水器具のトラップの溜り水(封水)が吹き上げ、トラップに水が無く

直結増圧給水方式

57

8

なり立て管内の臭気が出たりすることになります。このような排水不具合が起こ

らないようにするため、次のような排水方式があります。

(1)伸頂通気排水方式(図 5 参照)

1本(単管)の排水立て管の内、排水が流れる管の上から通気口までの空気管

部分を通気管と呼んでいます。この方式は、中層住宅で多く採用されています。

(2)通気立て管排水方式(図 6 参照)

排水管と通気管の2本(二管)の立て管で構成され、2~3 階毎に排水管と通気

管をよこ管で結び同時排水時の空気を通気管に逃がして排水をスムーズに流す

方式で、高層住宅向けの排水方式です。

(3)伸頂通気特殊継手排水方式(図 4、7 参照)

1本(単管)の排水立て管の継手に特殊排水継手を使用し、各戸からの排水を

立て管の内面に旋回流で流し、管中央部を通気層にして排水をスムーズに流す方

式で、中層・高層・超高層建物の排水方式に採用されています。

図 4 特殊排水継手の説明図

58

9

図 5 伸頂通気排水方式

59

10

図 6 通気立て管排水方式

通気接続横管

60

11

図 7 伸頂通気特殊継手排水方式

マンション改修では、2 本・3 本の立て管を 1 本に集約するケースが増えています。

61

12

第2章 設備の維持・管理区分(共用と専有の区分)

1.維持・管理区分と費用負担区分

下表は、団地型マンションの区分表例で、管理区分は団地共用と住棟共用と専有

部分に分けています。区分には、費用負担区分や使用区分などもありますので、各

管理組合で検討し作成しておくとよいでしょう。

表 2 共用・専有区分表

(例)

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13

2.共用設備と専有設備の維持管理区分

専有部から見た一般的な共用部と専有部の維持管理区分図を添付しますので、

自分のマンションの区分図を作成する際の参考資料にしてください。

1)専有給水管の範囲(図 8、9 参照)

住戸内の専有給水管は、共用メーターボックス内の量水器から住戸内の各所給

水栓までが専有管理区分となります。メータボックス内とバルコニーは共用部分

ですので、管理組合に届け出の上で給水管の更新(取替)を行うことができます。

図 8 住戸内給水設備区分図①(バルコニーに給湯器)

図 9 住戸内給水設備区分図②(メーターボックスに給湯器)

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14

2)専有給湯管の範囲(図 10、11 参照)

住戸内の専有給湯管は、共用メーターボックス内またはバルコニーに設置され

ている給湯器から住戸内の各所給湯栓までが専有管理区分となります。メータボ

ックス内とバルコニーは共用部分ですので、管理組合に届け出の上で給湯管の更

新(取替)を行うことができます。

図 10 住戸内給湯設備区分図①(バルコニーに給湯器)

図 11 住戸内給湯設備区分図②(メーターボックスに給湯器)

64

15

3)専有排水管の範囲(図 12、13、14 参照)

住戸内の専有排水管は、排水器具から共用排水立て管接続までが専有維持管理

区分となります。但し、高経年マンションで自宅の排水管が下階天井内を通って

共用排水立て管に接続している場合の排水管は、最高裁の判例で共用部分と判断

されているため、共用部分の床コンクリートスラブ部分貫通部の床上で自宅の排

水管が接続できる部分を分岐点とすることになります。

図 12 住戸内排水設備区分図①(下階天井配管)

図 13 住戸内排水設備区分図②(自階スラブ上配管)

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図 14 住戸内排水設備区分図③(自階スラブ上配管、特殊排水継手)

図 14 住戸内排水設備区分図③(自階スラブ上配管、特殊排水継手)

第3章 長期修繕計画策定時の設備改修のポイント

1.長期修繕計画作成件数と数量拾い

長期修繕計画(以降「長計」)については、第1部で詳細に説明されています

ので、ここでは管理組合により異なる長計の作成件数と設備の数量拾いについ

て説明します。

設備の長計策定では、繰り返し行う建築の大規模修繕と違い過去の数量調書

類が殆どありませんので、概算工事費を算出するため新たに数量を拾う必要が

あります。

1)修繕積立金会計区分数と長計策定件数

第 1 部第 4 章参照

2)団地型の長計策定件数

団地型は複雑で区分も多く、作成件数は管理組合により大きく異なります。

その他については、第 1 部第 4 章参照

3)複合用途型の策定件数

複合用途型では、全体共用で 1 件、住戸共用で 1 件、店舗共用で 1 件の 3 件

の策定が一般的です。

4)単棟型の作成件数

住戸単棟型では、1 件の策定で済みます。

2.設備改修項目の項目建て

1)大項目

長計作成時の設備改修項目の大項目は、各管理組合が第1章の設備項目の内、

自分のマンションに設置されている設備項目を選出し、大項目とします。

66

17

機械設備例:1.給水設備、2.排水設備、3.ガス設備、4.消火設備、

5.空調・換気設備、6.エレベータ設備、7.住戸内設備配管(専有)

☆機械式駐車場は建築の長計項目とするのが一般的です。

☆電気設備は第 4 部参照

2)中項目

中項目は、大項目を修繕部位ごとに別けます。改修工事を設備ごとに全部改

修する場合は不要ですが、設備部位によっては修繕周期に違いがあるため項目

の細分化が必要となります。

例:大項目給水設備の中項目は、給水管改修と給水施設・装置となります。排水

も同じですがマンションによっては、排水施設・装置が無い場合があります。

3)小項目

小項目は中項目を修繕周期が違う修繕部位毎に策定します。

例:大項目「給水設備」、中項目「給水管」の小項目①直結給水管(引込から受

水槽まで)、②揚水管(受水槽から高架水槽まで)、③埋設給水管(付帯工事があ

り、団地の場合受水槽から住棟主弁まで)、④共用給水管(高架水槽から各戸量

水器配管分岐部まで、ポンプ圧送の場合受水槽から各戸量水器配管分岐部まで)、

⑤量水器周り給水枝管(異種金属接続部が多く傷みが早い)

3.長期修繕計画策定時の調査

修繕周期を策定するために、書類等調査・目視調査の他詳細調査を行う場合が

あります。(調査方法等詳細については、3 部第 5 章参照)

4.策定時の設備改修のポイント

1)設備の改修項目の見直し時のポイント

(1)管理組合が保管している最新の長計の設備大項目が、現状設備が網羅されてい

るかの確認を行います。(第1章の表1の設備大項目参照)

(2)機械設備は管と機器で構成されている設備と、管のみで構成されている設備が

ありますので、管と機器で構成されている設備は中項目を行います。

(3)小項目では、管では修繕時期の違う部位の管毎に、機器類は施設・装置・機器毎

に小項目建てを行います。

(4)一般管理費の修繕費扱い項目や、清掃関係項目を入れる管理組合がありますが、

これは本来の長計の項目建てとしては異なものです。但し、高経年マンション

では、一般管理費の修繕費では賄いきれない修繕が発生する場合に備え、予備

費や事故修繕費として 5,000~10,000 円/戸・年を計上する場合があります。

(5)各設備項目の修繕は、更新・更生・整備・事故修繕に区分して計上を行います。

①更新:既存の管類や機器類を更に新しくする(取り替え)こと

②更生:既存の劣化しつつある管類を更に生かす(延命)こと

③整備:既存の機器類の消耗部品の取り換えや分解清掃整備を周期的に計上して

機器類の延命を行うこと

④事故修繕:長計策定期間内に改修工事を想定しなくてもよい項目がある場合、

当面事故修繕扱いにすること

2)修繕時期設定のポイント(第 5、6 章参照)

67

18

第4章 設備改修工事の体制作り

1.設備改修の手順

設備改修工事を行う際、管理組合(理事会)の皆さんが判らないことや実務をお手

伝いしてくれる組織を作り、組合員のための設備改修を進める必要があります。

そのためには、理事会の皆さまが本項の設備改修の手順(進め方)を知り準備を始

メルセデスことができるよう、設備改修工事の始まり(第一ステップ)から終り(第

五ステップ)までの流れと、その都度の作業の内容を説明しています。

第一ステップ:準備段階

改修工事の発案 ①長期修繕計画の設備改修予定年度の 4~3 前

②設備事故が起きてきた。

委員会の立上げ ①理事会の諮問機関として立上げ

②勉強

③理事会と協働でパートナー選び

パートナー ①改修設計事務所:設計監理方式

②管理会社:設計監理方式? 設計責任施工方式?

③施工会社:設計責任施工方式

第二ステップ:調査・基本計画段階(組合とパートナーの協働作業)

調査診断 ①改修予定設備の傷みの現状を把握くします。

②調査診断結果により改修工事を実施するか、延期するかの判断

を行います。

基本計画 ①改修工事内容の方針決定:改修方式、改修工法、改修工事範囲

(設備・建築・電気)、改修材料、改修工期、概算工事費を組合

とパートナーが協議検討し方針を決めます。

居住者説明会 ①調査結果と改修基本方針が決まった段階で、居住者に工事内容

と協力依頼事項の説明を行います。

第三ステップ:改修設計・施工者選定段階(組合とパートナーの協働作業)

改修設計 ①改修工事仕様書

②改修設計図

③設計積算内訳書

④居住者説明会:実施工事内容と協力依頼事項の説明

68

19

施工者選定 ①見積参加希望者募集:見積参加条件、公募方法、希望者一覧表

②見積依頼会社選出:見積参加希望者から見積依頼会社選出

③見積依頼:見積条件(要項)書、仕様書、改修設計図、参考数量

見積項目書、既存竣工図など見積依頼図書を渡し

見積依頼をします。

④ヒアリング会社選出:見積比較表・提出書類から、話を聞く業

施工者内定 者を 2~3 社選びます。

⑤施工者内定:ヒアリングを行った後、工事会社を内定します。

内定通知、お断り通知を理事長印で郵送

契約までの準備 ①工事内容の確認

②契約書案、工事着手説明会資料案の確認

③工事着手までの予定表、実施工程表、工事着手時提出図書確認

第四ステップ:工事実施期間段階(組合とパートナーと施工者の協働作業)

工事準備 ①工事着手説明会開催

②共通仮設物設営

③工事個所事前(住戸内)調査、先行工事

④住戸内立ち入り工事がある場合は、工事日お知らせ説明会

工事中 ①共用部分、専有住戸内工事実施

②共用部分、専有住戸内工事監理

工事完了 ①竣工検査

②工事費清算

③竣工図書作成

④定期点検覚書

第五ステップ:工事完了引き渡し

2.委員会とパートナー

大規模な設備改修工事は、1年間でできる工事ではなく、2~3 年かかりますので、

管理組合の体制も見直す必要があります。管理組合の継続対応が必要となりますが

1年交代や2年交代の理事会では対応できない場合があります。それには、理事会

の諮問機関として区分所有者による委員会の設置が望まれます。

それでも専門的知識に薄い管理組合だけで実施するのは難しいため、外部の技術

コンサルタントをパートナーとして協働作業で実行するのが一般的です。改修工事

は、パートナーの良し悪しでその成否が決るとも言われています。

69

20

1)組合内の委員会作り

①居住者の中から設備・建築・経理・理事経験者等、数人規模+理事会設備担当理事

により組織することが望ましい。

②理事会の諮問機関の位置づけとして、委員会規則を作っている組合もあります。

③委員会で学習

a.セミナー、現地見学会への参加

b.同じような改修実績のあるマンションへのヒアリング

c.給水給湯設備改修関係の事例本での学習

d.勉強会

2)パートナーの選び方

パートナーとなるコンサルタントは、設備改修実績のある設備設計事務所や建

築設計事務所から設計監理方式で選ぶのが望ましいが、責任設計施工方式で行う管

理会社や工事会社から管理組合が選ぶ場合があります。

(1)パートナー募集要項の作成

①募集要項:建通新聞・マンション管理新聞・アメニテイ等の募集欄を参考に作成。

②募集要項内容例

委託内容:マンション規模、工事内容

参加条件:組合が委託する工事の設計・監理実績があること

提出書類:事務所案内、委託工事の設計・監理実績 3 年分

(2)パートナーの選定

①見積依頼先の選定:上記(1)で提出された資料から数社を選び見積依頼を行う。

②ヒアリング先の選定:見積書と業務計画書から、2~3 社程度に絞り管理組合に

来てもらいヒアリング(話を聞く)を行う。

③パートナーの選定:ヒアリング後に内定 1 社を選びます。(決定は、総会承認が

必要。)

④パートナーの選定する際の留意事項

a.管理組合と直接契約した改修設計・工事監理実績があるか?

b.理事会・委員会の皆さんとコミュニケーションがとれるか?

c.設計業務を自分の事務所で行うパートナーか?

d.工事会社または下請け設計事務所などから、お金を貰わないパートナーか?

決算書で実務以外の収入が多い。

e.見積書の事務所経費等見積もり金額が適正か?(※7)

f.設計事務所の代表が資格者で設計実務を行っているか?

以上のことに留意し信頼がおけるコンサルタントを選ぶことが大事です。

(3)パートナーと作業内容の確認を行う。

(4)パートナー会社の業務費用の総会承認

※7:建築士法に基づき国交省告示 15 号で、建築士事務所の業務報酬算定方法が示

されている。その略算方式によれば事務所経費は直接人件費と同額、技術料等

経費が 50%程度となっている。

70

21

第5章 設備の傷みを知る

1.設備機器類等の調査・診断と更新時期

1)性能試験

各種ポンプ、送排風機、エアコン、衛生器具等は年を重ねる度に設置時の性能や

機能が落ちてきますが、許容範囲内に保たれているかの確認をするためには性能

試験を行わなければなりません。

但し、機器によっては現地で行うことができず、工場持ち込みとなるケースも

あります。その間、代替え品の設置も必要で調査・診断費用も高くなり、費用対効

果を考慮すると現実的ではありません。

2)法定点検、自主点検

点検者の報告により異常や不具合があった場合は、その都度適切な処置が必要

になります。ほとんどが部分修理で処理することが多いのですがその場合、本体

やシステム全体の交換を予測するためにも修繕履歴の記録を残すことが重要です。

3)長期修繕計画の基本周期

設備の機器、器具等は遅かれ早かれ壊れてしまうものですから、基本周期に沿

ってまだ壊れていなくても交換するのも一つの方法です。

4)故障時期が交換時期

ライフラインにさほど影響を与えない機器、器具等に関しては、長期修繕計画

に基づいて原資を確保した上で使用可能な間は故障時に交換するのも一つの方法

です。

2.設備配管等の調査・診断方法

設備配管等の調査・診断として、次の代表的な方法を紹介します。

①外面腐食目視調査

②エックス線透過試験調査

③内視鏡調査

④抜管サンプリング調査

1) 外面腐食目視調査

目視による基本的な調査です。配管外部(特にネジ接合部)の腐食状況を確認す

る調査で、調査中の給排水使用停止はありません。

外面に保温・防露材が巻かれている場合はその取外し、復旧が伴います。

目視調査のため、残存管厚の判断はできません。

PS 内 配管目視調査 ピット内 配管目視調査 ラッキング保温材の解体

71

22

2)エックス線透過試験調査

エックス線は電磁波と呼ばれる一種の波で物を透過してフイルムに感光させる

作用があり、その透過度合いによりフイルムに白黒濃淡の影像を写し出します。

3)内視鏡調査

配管の内面状況を内視鏡により観察、記録します。内面の劣化状況が視覚的に

判断できるため、居住者への説明がしやすくなります。

4)抜管サンプリング調査

実際に使用している配管を切り出し、内面の腐食状態を確認します。

切り出したサンプル管は、半割りし、その後ブラスト又は酸洗いによる内面スケ

ール除去行い測定機器による腐食深さ、残存厚さ測定を行います。

Ⅹ線検査装置 装置の装着 ネガフイルム上の可視像

給水用内視鏡 給水管内部撮影 給湯管内部撮影

排水用内視鏡 屋上伸頂通気金物部より 排水管内部撮影

給水管の抜管サンプル 給水管の抜管サンプル 排水管の抜管サンプル

72

23

3.設備配管等の調査・診断の必要性

どんな建物でも時間がたつにつれ様々な部分が劣化していきますが、マンショ

ンの立地条件、周囲の環境、使い方、保守等によってその劣化速度も変わっていき

ます。

長期修繕計画上の基本周期は一般的年数、経験上の年数等で設定しますので修

繕時期(改修設計)に入る前に調査診断が必要になります。

特に設備の場合は殆どの部分が目視できない状況ですので、調査診断を経て改

修時期、改修範囲等を計画します。

第6章 設備改修工事の改修基本計画

1.基本計画の必要性

設備の改修設計に着手する際、検討不十分のまま実施設計を行うと管理組合の意

向に沿っていない事柄が出て、その都度修正や変更をすることになり時間も費用も

予想以上に掛かってしまいます。

よって、改修設計に入る前に、複雑多数な条件項目を整理把握し、当該マンショ

ン がどのような方向へ進んでいくべきかを管理組合と共に検討し、確認しながら各

項目を決めていくことが基本計画には必要になります。

2.基本計画の検討項目と内容

前述で、2017 年時点における設備改修が必要と思われるマンションは 315 万戸と

推定されるとありましたが、同じ設計図でそのまま改修ができるというマンション

は殆んどありません。それは建物条件の他に、近隣の環境、立地条件、居住者の生

活条件等ソフト的な要素も改修設計に反映させる必要があるからです。

基本計画を作成するにあたり次のような項目を検討するとよいでしょう。

1)事前調査

①竣工図書と現状の相違を確認する(管材、工法、ルート等)

②修繕履歴から改修工事の必要性を予測する

③既存状況を調査し改修範囲を確認する

④配管劣化調査にて改修時期を確認する

2)改修方式の検討

現状の方式を確認し、この方式のまま改修するか、将来を見据え他の方式を

採用するかの検討を行います。

①給水方式:高架水槽方式、加圧給水方式、直結直圧方式、直結増圧方式

②排水方式:単管式伸頂通気方式(従来継手方式・特殊継手方式)

二管式通気立管方式

尚、変更内容によっては諸官庁等との打合せが必要になる場合があります。

3)改修範囲の検討

改修工事に使える修繕積立金等を含め、改修範囲を検討します。

また、不要になった機器等を残置或いは撤去するかの検討も必要です。

73

24

①既存再使用と改修部分の境界

同一材料、工法であれば全てを改修する方をお薦めします。

例:排水立管が鉄管の場合、防火区画の関係で専有部の横引き配管(1m)

も同じ鉄管が使われていることがあります。その場合、専有部を含め同時

に改修することをお薦めします。

②不要機器等の撤去の検討

建築大規模修繕時に撤去する考え方もあります。

空いたスペースの有効利用も含め検討するとよいでしょう。

4)配管ルートの検討

既存と同じルートがよいか、それ以外のよいルートはないかを検討します。

5)配管材料の検討

現状設備より将来を見据え、よりよい管材、工法がないかを検討します。

6)工期の検討

設計期間、承認期間、施工者選定期間、定時(臨時)総会承認期間、住民説明

会、工事期間等の検討も必要です。

7)概算工事費の検討

①方式が複数あればライフサイクルコスト(LCC)の検討

②長期修繕計画の修繕積立金との検討

8)住民への広報検討

①住民説明会開催方法の検討

②理事会報告だより等の広報活動の検討

第7章 給排水設備システムの変遷

1.設備給水方式の移り変わり

給水方式は、横浜市がマンションの直結化を導入した 2000 年(H12 年)以前は、

高置水槽給水方式とポンプ圧送給水方式(加圧給水方式)が多かったのですが、2000

年以降の新築マンションはもとより既存マンションで改修する際の給水方式は直結

直圧給水方式や直結増圧給水方式に変換する管理組合が多くなってきています。

74

25

図 15 各給水方式の比較表

2.設備配管材料の移り変わり

1)給水・給湯に使われている主な配管材料

当初のマンションの給水配管はねじ込み工法、給湯配管は銅管のロウ付け溶接

工法が主流でありましたが、配管工の技術に左右されるため漏水の原因が技術の

未熟さで起きることもありました。現在ではメカニカル継手や電気融着継手等に

より簡単で信頼のおける工法に変わっています。

図 16 各種給水・給湯管リスト

75

26

2)給水管の材質と工法の移り変わり

当初のマンションに使用されていた配管用炭素鋼鋼管(白ガス管)のねじ込み

工法は水道水の消毒用塩素で錆が発生するためビニールライニング鋼管や防食継

手が開発されました。現在では錆びない、耐震性、施工性、信頼性の良いポリエ

チレン系、ポリブデン系の樹脂管が多く採用されています。

図 17 各種給水管・継手経年図

3)排水に使われている主な配管材料

当初のマンションに使用されていた排水管の管材は防火区画貫通や耐熱温度

の関係で鉄管が使用されていました。現在では錆びない、耐火区画貫通も可能な

樹脂系の材料が多く使われています。

図 18 各種排水管リスト

76

27

4)排水管の材質と工法の移り変わり

当初のマンションでは流し台の前面に瞬間湯沸し器を設置したため 60°C 以上

の高温水が流れビニール管では対応できませんでした。よって台所流し系の配管

は配管用炭素鋼鋼管(白ガス管)や塗覆鋼管を使用してきました。

25 年を過ぎたころから錆で漏水が起こり始めています。現在では給湯器にて給

湯するため高温水は流さず、ビニール管で十分対応できます。排水管材もビニー

ルライニング鋼管や耐火VPパイプを使用し錆に強い管材を使用しています。

今後の改修計画では排水用特殊継手を採用し、立管本数を減らすことや、通気

立管を簡略化したりして、よりよい取り組みをしていきます。

図 19 各種排水管経年図

◇参考資料

1.国交省監修、マンション管理センター2008 年発行

「長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン活用の手引き」

2.日本建築家協会メンテナンス部会 2017 年発行

「マンション大規模修繕 30 年の軌跡」

3.マンションリフォーム技術協会編著、建設物価調査会 2010 年発行

「マンション改修見積」

4.マンションリフォーム技術協会 2014 年発行

「マンション住戸内設備改修」

5.マンションリフォーム技術協会、ぎょうせい 2014 年発行

「マンション設備改修の手引き」

77

1

第4部 電気設備・消防設備の維持管理

目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

第1章 各種電気設備の仕組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

1.受変電設備

2.幹線設備

3.電灯設備

4.避雷針設備

第2章 情報・通信設備の仕組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

1.電話設備

2.テレビ共聴設備

3.インターネット設備

4.インターホン設備

第3章 消防設備の仕組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

1.消火設備の種類

2.警報設備の種類

90

86

80

80

79

2

第4部 電気設備・その他設備の維持管理

はじめに

電気設備というと、専門的知識が無いと分か

りづらく、その仕組みや成り立ち、生活との関

連性等が感じとらえられずにマンションにお

いては置き去りにされてしまいがちな部分で

はないかと感じます。しかし、電気設備の各部

分要素は、建物を人間の体に例えると、神経に

似た役割を果たすものと思われます。マンショ

ンという建物に明かりを灯し、警報を発し、快

適な生活が営めるように情報の伝達や制御す

る役割を担っています。 また、マンションには情報・通信設備や消防

設備も備わっています。そのような重要な役目

を担う各種設備について適正な維持管理をし

てゆく一助となる事を目的とし、基礎的な知識

を纏めました。

第 1 章 各種電気設備の仕組み

マンション建物を維持管理する為には、緊急性や費用面、不具合の規模など、そして、

工事目的から以下のように分類することができます。

1.受変電設備

一般住宅では電力会社より低圧(交流のものは 600V 以下、直流のものは 750V 以下)で

供給されるが、マンション等の建物についてはその扱いは均一でありません。

電源供給は、供給電圧によって「低圧引き込み」「高圧引き込み」「特別高圧引き込

み」の 3 種類に区別されます。区別の方法は、建物の使用電力により決定し、マンション

の場合は各住戸の契約電力の合計と共用部分の総量で引き込み方式が決定します。

当該マンションの電力総量が 50kW 以上になると高圧引き込みに方式になり、敷地内に

電力会社の借室変電設備(借室電気室)を設け、高圧から低圧に電圧を変換して各住戸に

送電します。

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3

1)借室電気室

電力会社が建物内に必要なスペースを無償で借り、住戸部分及び共用部分に必要な電

圧の電力を供給する変電設備で、維持管理は電力会社が全て実施します。借室内には高

圧電力から低圧電力へ変圧するトランスが設置されています。マンション内の施設とい

えども危険ですので居住者の入室は禁止となっています。

2)自家用受変電設備

共用部だけで負荷の合計が 50kw 以上になる店舗があるような大規模マンションでは、

より電力使用量が増えるため、借室電気室に加え、さらに「自家用受変電設備」を設置す

る必要があります。

「自家用電気工作物」の所有者は、電気事業法によって、経済産業資源エネルギー部施

設課に対して、電気主任技術者の選任及び保安規定を工事着工前に届出し、建物完成後は

保安規定に則った維持・運営を行わなければなりません。

【自家用受変電設備の例】

・共同住宅用変圧器、パッ マウント

近年、50~80 戸程度のマンションでは、借室電気室を設けず、パットマウントな

どコンパクトな受変電設備の開発に伴い、道路の脇などに設置されるケースが増え

てきています。

・キュービクル

キュービクル式高圧受電設備は、高圧で受電するための機器一式を金属製の外箱

に収めたもので、単に「キュービクル」(Cubicle)とも呼ばれます。 6,600V で受電

した電気はキュービクル内で 100V または 200V に変圧され、施設に供給されます。

建物内に変電室のためのスペースがない場合等に置かれるもので、小型軽量な箱型

に全部を収納してある受電装置である。屋内型は地下室、階段室、屋上塔屋等に設置

でき、屋外型は建物外の地上に据え付けられる。ともに函体に収納されユニット部分

が可能なため増設移設が自由にできるという便利な、そして経済的な都市型の受変

電設備です。

借室電気室 集合住宅用変圧器 キューピクル

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4

2.幹線設備

電気幹線とは、受変電や電気室に設置された配電盤から、主観遮断機(電灯分電盤や動

力制御盤など)までの電路のことを指します。

マンションの場合は大きな電力を供給するため、電気設備の中でも特にコストの影響が

大きい設備といえます。 一方で、共有部の電気幹線設備は日頃目に見えない場所に設置さ

れているため、定期的に劣化状況の調査確認が重要になります。調査で、幹線ブレーカー

や幹線ケーブル、ヒューズ式ブレーカーなどの交換や的確な対策をとっていくことが必要

です。

中長期の維持管理として、定期的に電気幹線を改修することで、古くなった配線設備を

更新し危険を防止することができます。また、電気の容量を大きくすることでオール電化

住宅を実現でき、住宅の資産価値を上げることも可能です。

1)配電盤(開閉器)

受変電設備で低圧電気に変換された電気を建物内のそれぞれの機

器用の回路に分ける役割を担う電気設備。その内部には、決められた

電気容量が送られているかを見守り、漏電をしていないかをチェック

する役割を担うブレーカーが設置されている。

・幹線ブレーカー

幹線ブレーカーは、とくにケーブル接続部分の

サビの発生やほこりの付着により加熱や不動作

を導き、焼損やケーブル事故に繋がる場合があ

ります。

・ヒューズ式ブレーカー

ヒューズ式ブレーカーでは、ヒューズの溶断に

よる長時間の停電事故となる場合があります。

また、ヒューズや機器の取替えには時間を要し

ます。

ヒューズ式ブレーカーのメンテナンスは、電気

工事士による交換作業が必要です。また、交換

ヒューズも入手困難な状況であり、復旧までに数ヶ月必要な場合も発生してい

ます。現在は、ノーヒューズ式への移行が多いです。

2)幹線ケーブル

配電線路に使われる電線の事を幹線ケーブルと称します。幹線設備は大きな電力を配

電することが多く、ケーブルサイズが大きくなりやすいです。幹線設備は、設計によっ

て大きな価格変動がある部分のため、敷設方法の検討は電気設計の重要な要素となりま

す。

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幹線ケーブルは、幹線経路の接続部分を中心に検査します。漏電や感電により火災発

生にも繋がるヒビや割れのほか、水の侵入による劣化の有無を確認します。

幹線ケーブルには、単相 2 線式と単相 3 線式があります。築 30 年以上のマンション

では、単相 2 線式の場合が多く、40A 以上の契約容量や IH 調理器具にも対応する 200V

の電気を通すには、単相 3 線式への変更が必要な場合もあります。

・ハンドホール

地中埋設の電線・ケーブル・電線管の接続や点検を行う場所として設置される地中箱

のことです。コンクリート製箱状の物が主流、蓋は鋳鉄製、耐荷重性や防水性を要しま

す。

3)制御盤設備

給水設備や汚水処理設備に設置されている電気を自動的に

コントロールする設備です。

制御盤が故障するとポンプなどが作動せず断水するなど、日

常生活に支障をきたします。

これらの設備は、日常の清掃や点検を怠らないことで長持ち

させることができます。さらに業者に定期的に点検を依頼す

ることで、大きな事故を未然に防ぐこともできます。

・専有部内メインブレーカーおよび漏電遮断機能付き分電盤

メインブレーカー未装着の場合、主幹

線への負荷が増加し損傷する可能性が考

えられます。また、漏電による人体への

感電や重大事故発生の可能性がありま

す。事故予防には漏電遮断機能は欠かせ

ない装備として専有部分内の設備ですが

調査点検が必要です。

4)幹線設備の修繕周期

各電気幹線設備の改修基準は、設置からの耐用年数でガイドラインが定められていま

す。

これまで、配線用遮断器は 15 年、電線・ケーブルは布設状況による目安耐用年数は 15

~30 年が通例でしたが、平成 20 年 6 月に発行された国交省策定の「長期修繕計画作成ガ

イドライン」により、幹線ブレーカーなどの配電盤類の取り替え、そして幹線ケーブルな

どの幹線設備の取り替えは、ともに 30 年を目安にした取替えが推奨されています。

これにより、不要な修繕機会での費用発生が抑えられるだけでなく、計画的に集約した工

事が可能になったため、総費用軽減はもちろん、入居者様へのご不便の軽減も実現しまし

た。

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5)幹線設備の改修方法

電気幹線の修繕は現在の電力幹線ケーブルを撤去して新しくする方法と、既存の電力幹

線ケーブルを再利用して行う方法があります。

全幹線を交換した方が信頼性の高い設備に再構築することができますが、既存のケーブ

ルを利用する方がコストを抑え、短い工事期間で修繕を行えます。

6)停電の対応

改修工事を行うと、工事する場所の各系統、またはマンション全体の停電が数回発生し

ます。系統ごとの停電の場合は共用部分の電気を使用することが可能ですが、全館停電の

場合は共用の電気もすべて止まってしまいます。そのため、居住者の理解を求めた上で工

事を行わなくてはなりません。

できるだけ居住者への影響が少ない平日の昼間に工事を行い、周知を徹底しておくよう

にしましょう。

3.電灯設備

1)一般共用灯・屋外灯

建物の階段や廊下、エレベーターホール等に設置されている共用灯や、外灯、防犯灯な

どの屋外灯は、風雨やほこりなどで汚れたり、錆(さび)が発生したりすると、照度が落

ちて照明効果が低下します。

器具が汚れると絶縁不良となり漏電などの事故につながることもあるため、一年に一度

は清掃をすることが必要です。

また、階段や廊下には、火災の時などに安全に避難するための誘導灯や非常用照明器具

が設置されています。これらの器具には蓄電池が内蔵されており、停電の際、自動切り替

えで点灯するようになっています。

・照明器具

照明器具の交換の目安は、JIS(日本工業規格)によると約 10 年とされています。

昨今の照明器具の寿命は非常に長くなり、外観からの判断では交換時期の判断がつ

かないのが実情です。ただし、海浜地域では潮風によって劣化が早まったり、外観の

変化が無くても内部部品の劣化は進んでいると言われています。従って推奨寿命年

月になったら、点検や交換を行うことが望ましいと言われています。

不具合による発火・感電などの症状が出る場合もありますので、注意しましょう。

2)特殊な照明灯

・非常照明

非常照明は、マーケット・病院・劇場・ホテルなど多数人が集まる場所で、火災な

どにより停電した時にそこにいる人達を速やかに安全に避難できるように部屋や通

路に配置するよう義務付けられています。その為に停電時に点灯するようにバッテ

リーが内蔵されています。マンションにおいては、建物規模などの条件により、共用

部分への設置が必要とされる場場合があります。

点検報告義務は、建物所在行政庁の方針において変わりますが、自主的に器具の不

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具合や電球の不具合等を年1回は行うことをお勧めします。非常照明の管理は、管理

組合の役目ですので怠らないことが大切です。

交換時期は、一般照明と同じと考えられています。非常照明器具にも LED を用いた

ものが出てきました。

・避難口誘導灯

誘導灯とは、急な災害時に避難がしやすいよう、避難口や避難方向を指示するため

の照明設備を指しています。多くは避難口に通じる通路に設置されており、非常時に

は誘導灯が指し示す方向を辿(たど)ることで、避難口にたどり着くことができるの

です。

マンションにおける設置基準としては、11 階を超える階での設置や、店舗を併設す

るマンションの店舗階において設置が義務付けられることがあります。

4.避雷針設備

雷が落ちてきた場合に、建物を直撃させず、受けた電撃を導線で地面と接続し、地中へ

放電させ、逃がすことで、建物や電気回路、人身への悪影響を無くすための設備が避雷設

備です。建築基準法 33 条「高さ 20m を越える建築物には、有効な避雷設備を設けなけれ

ばならない。」と定められています。「ただし、周囲の状況によって安全上支障がない場合

においては、この限りでない。」とも記載されています。

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マンションには 2 種類の避雷システムがあり、ひとつが

『避雷針』で、もうひとつが『避雷導体』です。マンショ

ンには、このふたつのうち、どちらかが整備されています。

・避雷針

屋上から空に向かって立っている設備です。

落雷は地上と上空の電位差によって発生します。避雷

針は空中に放電し、地上と上空の電位差をなくしたり、

少なくしたりして、落雷を避けます。避雷針は保護範

囲があり、回転球体の45度の角度の円錐形の部分に

ついては安全と言われています。

・避雷導体

屋上の外壁立ち上がり部分に金属製の笠木を用い、

これを避雷針の代わりにしています。

マンションのデザイン上、避雷針をどうしても立てたくない、ということが

ありますが、避雷導体を使えば、外観にこだわったマンションが建てられます。

性能は避雷針と同じです。

・避雷設備の検査及び保守

避雷設備の検査及び保守基準は日本工業規格 JIS A-4201 により次のように定めら れ、下記の点検を実施することとしています。

(a)接地抵抗の測定

(b)地上各接続部の検査

(c)地上における断線・溶融その他の損傷個所の有無の点検

検査の結果は記録して、3 年間保存しなければなりません。

検査では次のような内容もチェックします。

突針に傷みはないか?

避雷針ポールの支線は腐食して傷んでいないか?

避雷針ポールは腐食して錆びていないか?

避雷針ポールの取付金物、取付台が腐食して錆びていないか?

避雷針の配線に異常はないか?

接触部はしっかり接触しているか?

設地局部の設地抵抗値は正常か?

第2章 情報・通信設備の仕組み

近年は携帯電話やスマートフォンを使うため、固定電話を導入しない世帯も増えている。

一方で、大容量を早く送信できる『光回線』の活用で、後述するテレビ共聴設備やインタ

ーネット設備を統合した形で供給されるシステムが多くのマンションで採用されている。 ここでは、各設備の個々について基本を説明します。

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1.電話設備 1)電話回線の種類

電話回線には、メタルケーブルに音声信号を乗せて伝送するアナログ回線と、0 と 1 の

デジタル信号によってデータ伝送を行うデジタル回線がある。

・アナログ回線

アナログ回線による電話には、パルス方式(ダイヤル方式)とプッシュ方式(ト

ーン方式)がある。ダイヤル電話などが代表的であるが、ボタン方式の電話機でも、

ボタンを押した際に「ジジジジ」という音がするタイプは、パルス方式の電話とな

る。この「ジジジジ」音の回数により、NTT など通信事業者の電話交換機が、ダイヤ

ルされた番号を認識する。

・デジタル回線

デジタル信号を用いて通話を行う方式で、一般に ISDN と呼ばれている。デジタル

通信では、1 本の回線に多数の情報通信路を割り当て、複数の通信機器を使用した

り、同時に多数の通信サービスを受けられる。ノイズに強く、通話だけでなく電話

番号の付帯情報が送信できるなど、高品位な通話環境を構築でき、音声を多重化で

きるため、INS64 や INS1500 といった通信事業者のサービスを契約することで、ISDN

規格の通信を使用できる。

2)関連機器の種類

・電話配線盤(MDF)

NTT 回線の引込点にある電話用端子盤で(Main Distributing Frame)の略称であ

る。MDF には NTT 関連機器のみ収容するようにし、必要であれば別に端子盤を設け

るようにすべきである。

・中間端子盤(IDF)

(Intermediate Distribution Frame)の略称である。MDF 以降の各階に電話端子

を振り分けるために設置する盤で、電話端子以外にも LAN 用ハブやテレビ配線の中

継として共用する。

2.テレビ共聴設備

1)テレビ放送の受信

テレビアンテナで受信するチャンネルとして、VHF 放送・UHF 放送・BS 放送・CS 放送が

ある。VHF は 12 チャンネル、UHF は 50 チャンネルの計 62 チャンネルが、標準テレビジ

ョン放送として使用されている。

VHF と UHF アンテナは、テレビ放送を送信している近くの放送アンテナに受信用アンテナ

を向けることで、テレビ電波を受信できる。基本的に国内の全域が受信範囲となっている

が、ケーブルテレビが普及している地域もあり、有線による供給を受ける地域も存在す

る。

2)関連機器の種類

・アンテナ

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テレビアンテナには、VHF アンテナと UHF アンテナ、衛星放送用のパラボラアンテ

ナがある。UHF アンテナは、アナログ放送の他、デジタル放送を受信するために使

用するアンテナである。20 素子の UHF アンテナを選定するのが一般的である。素子

数が多いほど受信に有利になるが、大型・高価となるため、20 素子で十分な事が多

く、30 素子を選定することは稀である。

衛星放送用のパラボラアンテナは、900φ を標準として選定すれば、比較的大規

模なマンション等でも十分な信号強度を維持できる。詳細は物件ごとに設計が必要

であるが、テレビ共聴用アンテナとしては 900φ~1,200φ が一般的かつ、コストも

安価に抑えられる。

・混合器

VHF、UHF、パラボラアンテナなど、異なるアンテナで受信した電波を、ひとつの

電線で伝送させるための混合装置である。U/V 混合器、UV/BS 混合器など、アンテナ

の種類毎に混合器が存在する。混合器はアンテナ直近に設置し、電波ができる限り

強い状態で、混合することが望まれる。

・増幅器(ブースター)

ブースターは、受信電波の電界強度が低かったり、伝送中に減衰してしまったり

する場合に、電波を増幅する装置である。特定の周波数帯だけを増幅するブースタ

ーもあるため、用途に応じた選定が必要である。

・分配器

電線の途中に挿入し、信号を均等に分配するための装置である。主幹線の末端部

などで、幹線を 2 つに分けたい場合などで使用する。2 分配、4 分配、6 分配、8 分

配の 4 種類が標準品として販売されている。

・分岐器

伝送路を通る信号を、必要分だけ分岐するための装置である。分岐側は比較的大

きな減衰を示すが、伝送幹線の減衰は小さく抑えられている。主幹線からケーブル

を分岐したい場合に使用する。

3.インターネット設備

1)マンションにおけるインターネット設備

集合住宅において、各部屋にインターネットに接続するための設備が備え付けられ

ている場合、居住者は煩雑な手続きを経ずにインターネットを利用することができる。

竣工時にインターネット設備が備わっていなかったマンションでは、近年、マンション

で一括してインターネット関連会社と契約し、専用電話線の設置を無償で行い、共住者は、

その会社のサービスを利用する内容ごとに利用料を支払うシステムが導入される事例が多

い。

2)インターネット回線方式と維持管理

・LAN 方式

建物内に LAN ケーブルを敷設し、各部屋に直接繋ぐ方式。

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竣工当時から回線が設置されていることが多く、維持するのは管理組合。

・VDSL 方式

建物内に張り巡らされた既存の電話回線を利用して各部屋に敷設する方式(各部

屋内にはコンバーターと呼ばれる専用の機器が必要となる方式もあり)。

昨今のインターネット関連会社を介し導入する場合は、回線設置から利用できる

までの諸工事はインターネット関連会社が負担するケースが多いです。

4.インターホン設備

現在のインターホンは呼出し音が鳴るだけでなく録画

機能付カメラが付いていたり、室内の親機がハンズフリー

タイプ(従来は受話器型)のものや外部が暗くても訪問者

を確認できるよう LED ライトが点灯するタイプのものな

ど、さまざまな種類があります。

オートロック設備のあるマンションで消防設備と連動

するタイプのインターホンは交換できる種類が限られる

等、マンションによっては導入できないものも多くあります。

管理会社担当者にもアドバイスを求めていきながらインターホンリニューアル工事を進

めていきましょう。

1)インターホンリニューアルの目安

一般社団法人インターホン工業会の定めた目安では、一般的な家庭で使われているイン

ターホンは 10 年、マンションなど集合住宅用インターホンは 15 年が寿命といわれていま

す。それ以上使用し続けると、経年劣化によって修理が必要になったり、摩耗による故障

発生率が増加したりするとされます。

インターホンの故障原因を年数ごとに見てみると、最初の 5 年で起こるのは製造上の欠陥

などによる初期故障が多いです。購入後 5 年から 15 年間は偶発故障期とよばれ、何か特

別な損傷や事故がなければほとんど故障しないといわれています。そして 15 年経過した

ころから摩耗故障が多々起きるようになります。15 年が交換目安になっているのはそのた

めです。親機を 15 年以上交換していないと、呼び出し・通話ができなくなるなどの故障が

起こることがあります。このような場合はインターホンとしての機能がほとんど使えなく

なってしまいます。

マンションのエントランスに設置してあるインターホンは集合玄関機といい、各部屋に

呼び出しができるものですが、こちらも 15 年以上使い続けると不調が起こりやすくなり

ます。オートロック機能が使用できない、呼び出しができない、通話音声に雑音が混じ

る、パネルの文字が変色・変形して見えにくくなるなど、さまざまな不具合が起こるので

す。

2)インターホンを交換するメリット

インターホンを交換すると起こるメリットには、以下のようなものがあります。

・防犯面からみたメリット

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インターホンを交換・リフォームすると防犯面で大きなメリットがあります。モ

ニター付きのインターホンの採用で訪問者を部屋の中で確認でき、不審者対策にな

ります。

・利便面からみたメリット

最新の機種は、TV モニターは当たり前のこと、ワイヤレスの子機が付いている

等、どこにいても出ることができるようになっています。料理などで手が離せない

ときでも、ワイヤレス子機で対応することができるのが便利です。

3)オートロック設備があるマンションのインターホンリニューアル

インターホンが故障した場合、オートロック設備のあるマンションでは以下の問

題が発生します。

・部屋内からオートロックを解錠できない。

・エントランスから部屋内への呼出しができない、エントランスからの呼び出し

の応答ができない。

・共用部の自動火災報知設備と連動している場合警報音が鳴らないため、消防設

備点検において指摘事項に該当してしまう。

またエントランスの集合玄関機、自動火災報知設備と連動するため、個別で新しいもの

に交換できません。もし交換部品が無く修理できない場合は全戸一斉交換を総会で決議す

る必要があり、突然の故障発生の際には臨時総会を開催しなければならなくなるため、適

切な時期にインターホンのリニューアル工事が実施できるよう、計画的な準備が必要で

す。

4)オートロック設備が無いマンションのインターホンリニューアル

オートロック設備の無いマンションのであれば一戸建てと同じように各戸でインターホ

ンの交換が可能なため個別で交換を進める管理組合もありますが、マンション内で住戸に

よってインターホンがバラバラであると統一感が無くなり、お勧めではありません。

全戸一斉交換を行う事でマンション全体の統一感が保たれるだけでなく、まとめて発注

することで 1 住戸あたりの工事費用の圧縮できるという集合住宅ならではのメリットもあ

るため、全戸一斉交換の検討をお勧めします。

第3章 消防用設備の仕組み

1.消火設備の種類 1)屋内消火栓設備

消火器では消火不可能な段階の消火を目的として、屋内に設置され建物の内部に及ん

だ火災を人が操作することによって消火する設備です。

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水源、加圧送水装置(消火ポンプ)、起動装置、屋内消火栓(開閉弁、ホース、ノズ

ル等)、配管・弁類及び非常電源等から構成されています。

屋内消火栓には、2 人で操作する 1 号消火栓と、1 人で操作する易操作性 1 号消火栓

と 2 号消火栓があります。

ポンプの起動方式は、主にポンプ起動押しボタン(専用)

によるもの・自動火災報知設備の発信機を押す事によるもの

があります。 また、最近では消火栓弁を開放する過程で自動

起動するものや、ホースの延長操作による自動起動等もあり

ます。

2)消火器

消火器・簡易消火設備の設置基準については、消防法施行令 10 条

(消火器具に関する設置基準)に定められています。

マンションで最も普及している消火器と言えば、粉末 ABC 消火器(10

型・加圧式)かと思われます。

◇消火器に使われる用語等

・ABC消火器とは ABCとは国の定める規格で、どのよう

な火災に対応できるかを表しています。

A(普通)・B(油)・C(電気)火災となり、ABC消火器はあらゆる原因の

出火に対応できます。 ・10型とは

薬剤重量に関する数値で、10 型は 3kg~3.5kg の薬剤重量を持ちます。

他に 3 型(1kg)、4 型(1.2kg)、5 型(1.2kg)、6 型(2kg)、20 型(6

kg)があります。

・加圧式とは ABC粉末消火器には、ガス加圧式と蓄圧式があります。ガス加圧式の10型

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は、レバーを握ると全量が放出される解放型が主流です。 蓄圧式は、圧力計(ゲージ)がついていて、レバーの手を離すと噴出が止まり

ます。ガス加圧式より価格は高くなります。 ・粉末について

使用後は、周囲が白く汚染されます。これを避けたい場合は強化液タイプの消

火器を選択します。 ◇消火器の耐用年数

設計標準使用期限は「10 年」です。 これまで消火器の耐用年数は 8 年とされ

ておりましたが、法改正に伴い、設計標準使用期限が 10 年に定められました。

製造から 10 年を経過した消火器は耐圧試験が必要となります(以降は 3 年ご

と)。

なお、既存の旧型式は 2012 年 12 月 31 日までに新型式への交換が必要です。

◇消火器の設置本数

マンションに設置しなければならない消火器の本数は、延べ床面積より算出さ

れます。 ◇消火器の設置位置

通常、共用部分歩行距離 20m ごとに消火器の設置が必要となりますが、各住戸

に消火器を設置した場合、共同部分の設置が免除されます。

その場合に設置する消火器は「住宅用消火器」と指定されています。 構造は使

用時の反動が少ない蓄圧式となっていて、耐用年数は 5 年です。

3)連結送水管

連結送水管は、火災発生時に消防隊が使

用する設備で、送水口・放水口及び配管か

ら構成されます。ハシゴ付消防自動車など

による外部からの注水では建物内部の消

火活動に限界があり、また、消防ポンプ自

動車からホースを延長するのが難しいた

め、設けられます。

◇11 階以上の放水口

11 階以上の部分に設ける放水口は、双口形とし放水用器

具を格納した箱を設置します。

◇耐圧性能点検

連結送水管は、かつてから定期点検が義務付けられていま

したが、外概点検のみで、いざ火災の際に連結送水管が有効に使えない事態が発

生しました。このような状況に鑑み、2002 年 3 月に消防法令が改正され、設置後

10 年を経過した物件についてはその後 3 年毎に、耐圧性能点検が義務付けられま

した。

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4)駐車場用消火設備

地階又は 2 階以上の階で 200 ㎡以上、1 階で 500 ㎡以上、屋上部分で 300 ㎡以

上、昇降機等の機械装置で車輛を駐車させる構造で収容台数が 10 台以上の駐車場

においては、次のうちいずれかの消火設備を設置することが規定されています。

水噴霧消火設備

泡消火設備

不活性ガス消火設備

ハロゲン化物消火設備

粉末消火設備

一般に、常時人が出入りする自走式駐車場では泡消火設備が使われることが多く、

常時人がいない機械式駐車場などでは、不活性ガス消火設備等のガス系消火設備が

使用されています。

◇第三種移動式粉末消火設備

屋外や開放式の屋内駐車場では、第三種移動式粉末消火設備が多く使用されてい

ます。 第三種とは、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備および消火器等を除く消火設備

の総称で、移動式とは、煙が充満しない等、固定式消火設備を設置しなくても、人

が安全に消火作業ができる防護対象などに設置される、ホース架式またはホースリ

ール式の消火設備です。

2.警報設備の種類

1)自動火災警報設備

自動火災報知設備は、火災発

生前の異常現象(煙・炎の発生、

異常な温度上昇)をとらえて警

報を発し、火災の予防、早期発見

に役立てるための設備です。

◇基本的な設備概要

自動火災報知設備は、感

知器が熱や煙を感知し、受

信機に火災信号などを送り

知らせます。 受信機は警報

を発し、火災地区を表示し

地区ベルなどを鳴動させ建

物内にいる人に火災の発生を知らせます。

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2)感知器

熱感知器、煙感知器があります。熱感知器には、温度の上昇率を感知する差動式と、

一定温度(60~70℃)以上で感知する定温式があります。

火災では温度が上がるより先に煙が出るので、煙感知器のほうが早く火災を発見でき

ます。

しかし、煙でなくても空気中の小さな粒子なら何でも感知してしまうので、台所や浴

室のそばでは使えません。そのような場所では熱感知器を使用します。

直接火を使うキッチンなどでは定温式感知器を使用します。

3)発信器

火災を発見した人が押しボタンを押すこ

とにより火災を通報する装置です。

P 型 1 級発信機:押しボタン、応答ランプ、

電話ジャック

P 型 2 級発信機:押しボタンのみ

4)火災受信器

感知器や発信機からの火災信号を受信し、主音響 (ブザー)と地区表示により、火災の発生とその場

所を管理者に知らせるとともに、建物内に設置された

地区音響装置(ベル)を鳴動させ、避難と初期消火活

動を促す装置です。 さらに、火災信号を受け、屋内消火栓のポンプを始動

する、防排煙設備の防火扉や防火シャッター等を制御

する、通報装置と連動し警備会社へ通報する等、他設

備と連動するための信号も出力します。 システム全体に電源を供給する役割も担っており、平

常時は AC100V 商用電源で動作するが、停電に備えて

一定時間火災の発生を警戒できるように予備電源(蓄

電池)を内蔵しています。予備電源には寿命があり、5 年前後に 1 度交換が電池メー

カーにより推奨されています。

5)地区音響装置

建物内の各所に配置され、受信機が受信した火災信号を 受けて鳴動するベルで、建物全体に火災を知らせ、避難と 初期消火活動を促します。

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6)消防機関へ通報する火災報知設備について

電話回線を使用して消防機関を呼び出し、蓄積音声情報により通報するとともに、

通話を行うことができる装置です。

この設備は火災の際引き起こすパニックのため、火災現場の住所等の情報を正確に

伝達できないケースが多々発生しているので設置義務が生じました。

マンションでは述べ床面積 1,000 ㎡以上の場合に設置が義務付けられています。

ただし、その対象物が消防機関からの歩行距離が 500m以下か、著しく離れている場

所 (約 10km)の場合や、消防機関へ常時通報することができる電話を設置したとき

は設置しないことが出来ます。

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