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ISSN 1346-9029 研究レポート No.436 January 2017 電子政府から見た土地所有者不明問題 法的課題の解決とマイナンバー 主席研究員 榎並 利博

No.436 January 2017 - FujitsuISSN 1346-9029 研究レポート No.436 January 2017 電子政府から見た土地所有者不明問題 -法的課題の解決とマイナンバー

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ISSN 1346-9029

研究レポート

No.436 January 2017

電子政府から見た土地所有者不明問題

-法的課題の解決とマイナンバー-

主席研究員 榎並 利博

Page 2: No.436 January 2017 - FujitsuISSN 1346-9029 研究レポート No.436 January 2017 電子政府から見た土地所有者不明問題 -法的課題の解決とマイナンバー

電子政府から見た土地所有者不明問題

― 法的課題の解決とマイナンバー ―

主席研究員 榎並利博

要旨

近年、外国資本による日本の水源地域の買占めや東日本大震災の被災地復興の妨げとし

て、不動産登記簿における土地所有者が不明なままになっているという問題がクローズア

ップされた。実はそれだけでなく、自治体の固定資産税業務、公共事業や民間の開発、農

業・林業の効率化などへの影響も大きく、きわめて広範囲かつ深刻な問題となっている。

さらに、官民データ活用推進基本法が成立し、オープンデータやビッグデータなどデー

タが重要な資源として今後の利活用が期待されているにも関わらず、土地所有者の情報と

いう我が国における最も基本的なデータがこのような状態であることに危機感を強く感じ

る。

本研究では、土地所有者不明問題が起きる原因を明らかにし、実際に現場ではどのよう

な問題が起きているのかをインタビュー調査などをもとに整理した。そして、行政におけ

る土地所有者の情報がどのように流通し活用されているのかを明らかにし、問題の根源と

なっている不動産登記制度見直しの重要性を指摘するに至った。

ただし、不動産登記制度の見直しについて、現在の法理では所有者の登記義務と登記官

の管理義務を法的に根拠づけることができない。これを解決するためには、「強い所有権」

と「登記の公信力」という法的な壁を乗り越える必要がある。

具体的には、次の短期的解決方法と長期的解決方法を同時に開始し、土地所有者不明問

題を解決していくべきと考える。

短期的解決方法

権利者に登記簿への所有者登録(マイナンバーも登録)を義務付け、登記官には実質的

な審査権限を付与して登記内容と現状との一致を図り、登記簿に実質的な公信力を与える。

その際には不動産登記簿へのマイナンバー導入を図り、すでに導入計画のある戸籍マイナ

ンバー(戸籍クラウド)を同時に活用していく。

長期的解決方法(強い所有権と意思主義に関する法理の再構築)

「強い所有権」問題について、国民の意識改革を含め憲法議論のなかで国民のコンセン

サスを得ていく。さらに、物権変動の意思主義と公信力の問題についても、民法(物権法)

見直しの議論のなかで、現代の社会情勢を考慮しながら再検討していく。

キーワード: 土地所有者不明、マイナンバー、不動産登記、強い所有権、物権法

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目次

1 研究の背景・目的と研究の枠組みについて

1.1 土地と電子政府に関する問題意識

1.2 研究の背景と目的

1.3 研究の枠組み

2 本研究の対象と先行研究の整理

2.1 本研究の対象と方法

2.2 先行研究について

3 土地所有者不明の原因と残された課題

3.1 問題のきっかけとこれまでの対応

3.2 相続未登記とは

3.3 相続と民法

3.4 放置される土地の問題

3.5 残された課題

4 土地所有者不明による影響と所有者情報の流れ

4.1 固定資産税業務

4.2 林業

4.3 農業

4.4 開発と公共事業

4.5 地籍調査

4.6 土地所有者情報の流れ

5 問題解決への糸口となる法的背景の整理

5.1 「強い所有権」という思想

5.2 不動産登記制度の問題と改革の可能性

5.2.1 物権変動における公信力に関する学説

5.2.2 現行登記制度への批判と疑問

5.3 行政による民民問題への不介入

6 具体的な解決方法について

6.1 法的問題の整理

6.2 具体的解決方法の提案

・・・・・ 1

・・・・・ 2

・・・・・ 3

・・・・・ 3

・・・・・ 4

・・・・・ 6

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・・・・・ 11

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6.2.1 短期的解決方法

6.2.2 長期的解決方法

6.3 実現可能性と今後の課題について

補遺 土地に関する情報提供について

参考文献

・・・・・ 37

・・・・・ 39

・・・・・ 40

・・・・・ 42

・・・・・ 46

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1.研究の背景・目的と研究の枠組み

1.1 土地と電子政府に関する問題意識

近年、東日本大震災の被災地の復興がなかなか進まない原因として、土地所有者が不明

なため事業開始の了解が得られないという問題がクローズアップされた。それ以前にも、

外国資本が日本の水源地域を買い占めているという噂が広がり、その実態を把握するのに

手間取るという事案が起きた。

筆者としては、2000 年の IT 基本法(正式名称は「高度情報通信ネットワーク社会形成基

本法」)の制定および 2001年の e-Japan戦略を契機として我が国が国家戦略として ITを推

進し、各分野において情報システムが稼働していながら、なぜ国家の基盤である国土に関

するデータが正確に管理できていないのかという疑問を大いに感じている。

2016 年 12 月には「官民データ活用推進基本法」が成立し、オープンデータやビッグデ

ータなどデータが重要な資源として利活用されていく期待があるのは周知の通りだが、さ

まざまな土地に関する情報システムが稼働していながら、土地所有者という基本的なデー

タが不明であるという状態に危機感さえ感じるのである。

筆者の専門分野は電子政府であるが、国際連合が発表する各国の電子政府ランキングに

ついて研究者の関心は薄れている。Osmaniほか(2012)が指摘しているように、これまで電

子政府の発展段階として、ウェブによる情報発信、コミュニケーション(双方向性)、電子

手続き、変革の 4 段階で議論されることが多かったが先進国ではほとんどが第 4 段階に達

してしまったからだ。

実際に、国際連合の電子政府指標として E-Government Development Index (EGDI)と

E-Participation Index(EPI)の 2 種類1があり、日本は 2014 年に EGDI で 6 位、EPI で 4

位というランキングに急上昇し、2016年には EGDIで 11位、EPIで 2位に位置付け2られ

た。しかし、我々日本人にとって電子政府になって我々の生活が豊かになった、政府がよ

り身近になったという実感は乏しい。

電子政府の推進を論じる上で、IT技術をいかに適用するかという関心から、IT技術の実

効性、つまりどれだけ役に立っているかという関心に移っていくべきであり、場合によっ

ては現在の政府や法制度のあり方まで再検討していかなくてはならない。

例えば、e-Taxの利用率は平成 26年度で 71.8%という高い率になっているが、便利さの

実感が乏しい理由は「自宅でインターネット環境を利用して申告書を作成した件数」を使

1 前者は、オンラインサービスの範囲と内容、通信インフラの整備状況、人的資源の 3つの

サブ指標から構成され、それぞれ重みづけされて数値化される。後者は、電子政府指標の

補助的な指標と位置付けられており、国民への積極的な情報提供による参加促進、政府の

政策やサービスへの国民の関与、国民との協働による政策やサービスの立案という 3つの

サブ指標から構成される。 2 United Nations Department of Economic and Social Affairs(2016)

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って利用率を計算しているためで、e-Taxを使って申告書類を作成・プリントアウトして書

面提出している分を含んでいるからだ。本来の電子申告である公的個人認証を使った電子

データの提出は、税理士を除くとほんのわずかだという。このような状況で電子政府と言

えるのか、法制度を含むシステム全体を再検証する必要がある。

つまり、IT という技術を政府にいかに適用するかという発展段階論を脱し、これからは

社会的課題解決のために IT技術が活かされているのかを検証し、IT技術を活かすための方

策、例えばデータや法制度をどのように再整備するのかを議論していかなくてはならない。

本研究レポートはその一つとして、土地の所有者不明問題を取り上げて論じていく。

1.2 研究の背景と目的

被災地復興や水源地域の買い占め問題で発覚した土地所有者不明という国土に関する情

報管理の不備は、復興事業や買い占めの実態把握だけでなく、多方面への影響がある。特

に、固定資産税、公共事業や開発管理、森林管理、農地管理などを行っている自治体にと

っては、土地所有者が不明であることによって業務に大きな支障が出ており、住民生活に

もその影響が及んでくるものと考えられる。

被災地復興と水源地域買い占め問題は対症療法的な手法によって落ち着きを取り戻して

いるが、今後の社会情勢の変化や自然環境の変化によって、いつまた同様な問題が生起す

るかわからない。将来同様な問題が発生しても、すぐに実態を把握でき、根本的な対策を

検討・シミュレーションできるような土地に関するデータの整備について、今こそ考える

べき時であると思われる。

本研究では、まず土地所有者不明問題が起きる原因を明らかにし、実際にどのような問

題が起きているのかを現場の声をもとに整理するとともに、現在の土地所有者に関するデ

ータの生成・流通の実態を明らかにしていく。つまり、土地所有者という情報を基点に、

この情報の流れを追いかけて影響範囲を確認し、土地所有者を正確に把握するために(法

制度を含む)データ管理のあり方を検討し、提言することを目的とする。

現状では、すでに土地に関する様々な情報システムが整備されているにも関わらず、な

ぜ土地所有者情報が正確に管理できないのかを、現行の法制度や運用・慣習なども含めて

検証するとともに、現行の情報システム、法制度、運用・慣習を改革する視点、理想形を

実現するための方策についても提案していきたい。

IT の世界では、現在オープンデータやビッグデータの潮流が注目を集め、今後データが

重要な資源となると予想されている。データが民間分野にとって新たな産業のための資源

となる一方、公共分野にとっては社会課題解決のための資源となる。しかし、データをオ

ープンにし、とにかく片端からデータを収集し、人工知能を使えば何か良い解決策が見つ

かるだろうという誤解が世間一般に渦巻いている。人工知能を使うにしても、あいまいで

不正確なデータを使えば、あいまいで不正確な解決策しか導き出すことはできない。

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より正確に適切な解決策を導き出すためには、より精緻なデータを社会として共有して

いかなければならない。人に関しては個人を確実に特定できるマイナンバーが必要であり、

土地に関してはその所有者を確実に特定するための仕組み3が要求される。土地という国家

基盤に関する最も基本的な情報を社会の財産として活かしていくために、本研究が役立つ

ことを期待したい。

1.3 研究の枠組み

研究の枠組みとしては、次のようなステップで進めていく。

① 本研究の対象・目的の確認および先行研究の整理

② 土地所有者不明が生じる原因の明確化

③ 土地所有者不明が引き起こす問題と土地情報の流れの把握

④ 問題解決の糸口となる法的背景の整理

⑤ 具体的な解決方法の提案と実現可能性について

2.本研究の対象と先行研究の整理

2.1 研究の対象と方法

土地に関して所有者が不明であるという問題に関連して、近年空き家問題が顕在化して

おり、空き家の所有者が不明であるという問題も起きている。これらをまとめて不動産所

有者不明問題として捉えることも可能であるが、土地と家屋は登記上も異なる物件として

扱われ、その性質も異なるため、ここでは「土地」のみに焦点を当てて研究していくこと

にする。

また、土地所有者不明に関する研究としても、法律・制度的側面、経済的側面、不動産

実務の側面、土地政策の側面、税制の側面など様々な側面があり、すべてを網羅的に研究

することは不可能である。ここでは筆者の専門分野である電子政府という視点から、土地

所有者に関する情報の生成と流通、および情報システムの連携も含め、行政分野における

精度の高い土地所有者の情報管理のあり方を研究していく。特に、2016 年からマイナンバ

ー制度が開始となり、今後の拡大が検討されているが、土地の所有者情報へのマイナンバ

ー導入が本問題の解決に役立つことを想定している。

方法としては、文献調査(政府検討会資料を含む)とインタビュー調査を主とする。イ

ンタビューは、自治体および全国農地ナビと森林クラウドに関係する団体や民間企業を対

3 土地は人と異なり勝手に移動しないため、場所については地番でほぼ特定できる。しかし、

地理空間上正確な場所を特定するためには地籍調査が必要であり、地籍調査を実施するた

めにも土地所有者の特定が必要となる。

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象に行った。自治体のインタビュー調査は、人口規模約 5 万~15 万の 3 市(静岡県 2 市、

三重県 1市)を対象とし、2016年 5月~6月に実施したものである。

「土地所有者不明」という事象についてもここで定義しておく。これは「所有者の所在

の把握が難しい土地が存在する」ことを意味し、「所有者の所在の把握が難しい土地」の定

義については、下記の国土交通省「所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に関す

る検討会」の定義をそのまま使うこととする。

「所有者の所在の把握が難しい土地」とは、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有

者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」をいい、具体的

には以下のような土地を指す。

所有者の探索を行う者の利用できる台帳が更新されていない、台帳間の情報が異な

るなどの理由により、所有者(登記名義人が死亡している場合は、その相続人も含

む。以下同じ。)の特定を直ちに行うことが難しい土地

所有者を特定できたとしても、転出先・転居先が追えないなどの理由により、その

所在が不明である土地

登記名義人が死亡しており、その相続人を特定できたとしても、相続人が多数とな

っている土地

所有者の探索を行う者の利用できる台帳に、全ての共有者が記載されていない共有

地 など

(「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン(第1

版)」平成 28年 3月 所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に関する検討会)

2.2 先行研究について

土地の所有については、民法によってその法的根拠が与えられており、法律問題がその

まま土地所有者不明問題の背景になっているともいえる。その法理論を論じたものとして、

フランス法とドイツ法を含め歴史的観点から物権取引を論ずる川島(1987)、明治以降の土

地関連の法制度を整理・解説した稲本ほか(2016)、物権法に関して解説する田山(2008)

と宇都宮(2006)、土地所有権に関して論ずる甲斐ほか(1979)と五十嵐(1990)などが

ある。これらは土地所有者不明が起きる原因としての法的背景や歴史・法理論を解説する

ものであるが、現在の所有者不明問題に直接的な解決の糸口を与えるものとはなっていな

い。

また、所有者不明そのものを対象とするものではないが、それに関連して土地の所有権

放棄問題について論じたものとして、小柳(2014)、岡本(2014)、田處(2015)がある。

そして、相続法の観点から物権変動の問題を論じたものとして水野(2005、2014)がある。

筆者の問題意識と最も近いのが小柳(2015)であり、登記と実態の乖離について問題意

識を持ち、「登記が土地情報の基盤としての機能を果たすことへの期待がある」という認識

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を示しながらも、「権利登記について、申請主義の建前もあり、登記をどこまで実態に合致

させるべきとするかは、問題がある」として、フランスの事例を挙げるに留め、それ以上

の追及はしていない。

このように法学者においては、自分の専門領域から物権法への問題提起を行う、海外事

例との比較から日本の登記制度への問題提起を行うという先行研究はあるものの、土地所

有者不明問題に正面から立ち向かった研究は見当たらない。

一方、実務の立場からは、不動産登記制度改善の提案をしている新井(2016)の事例が

あるが、改善アイデアとしては十分参考になるものの、土地所有者情報の流れを把握した

上で、全体的な問題の解決策を提示しているとは言い難い。

また、国のレベルでは、国土交通省が「所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策

に関する検討会」(2015年 4月から 2016年 2月まで 8回の検討会)を開催し、土地所有者

不明問題を直接取り上げて議論した。議事録には「登記制度に例外的な思想を持ち込み強

制的に登記できるようにすることはあり得るのではないか」という法制度改革に触れる意

見もあるが、法律や制度の改正はこの検討会の目的ではないとの理由で制度改革について

は触れていない。検討会の成果は「最終とりまとめ」として「所有者の所在の把握が難し

い土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」とともに 2016年 3月に公表されたが、

結局現行の法制度の枠内で土地所有者を探索する実務的なガイドラインを策定することだ

けに留まった。

この問題に関して正面から研究を行ってきたのは、法学者や実務家よりも民間の研究者

である。特に、東京財団が精力的に研究を進めており、その成果を東京財団(2012, 2013,

2014, 2016)として発表している。そのほかに阿部(2014)や米山(2016)の研究もある。

東京財団では、外国資本による水源地の買収や国土の所有実態を国が正確に把握できて

いないことに問題意識を持ち、早くから土地所有者不明問題に取り組んでいる。東京財団

(2012)では、国土保全という大きな枠組みで過疎国土保全法や国家安全保障土地法など

の政策提言を行ったが、土地所有者不明問題へ焦点を当てて具体的な解決策を提示するも

のではなかった。次の東京財団(2013)では、地籍の不備、売買届出の不徹底、登記の任

意性など土地や不動産登記に関する情報の不透明さに焦点を当て、不動産登記制度や土地

関連法の見直しなどを提言したが、不動産登記制度にまつわる法的な問題まで踏み込まな

かった。さらに東京財団(2014)では、不動産登記の現状に踏み込み、登記情報と実態の

乖離という問題を明らかにしたが、これまでの政策提言について何も着手されない現状を

踏まえ、本論文の結論として国土基盤情報の整備や所有者不明関連法の整備などの検討課

題が存在することを指摘するに留まっている。東京財団(2016)は、土地所有者不明の実

態を定量的に把握するため、自治体へのアンケート調査と分析を行い、対象は固定資産税

という限られた部分であるが全国の自治体に広がる広範囲な問題であることを示した。結

論として、国土情報基盤の未整備や土地継承に関する法的課題を指摘し、新たな土地法制

の整備が必要なことを訴えている。しかし残念ながら、具体的な法律の内容や法整備の方

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法論について触れるまでに至っていない。

阿部(2014)は東京財団(2014、2016)の問題意識と同じであるが、税だけでなく農地

や森林にまで広がる問題であることを指摘している。しかし、特にここでは森林の課題を

中心に分析しているため、地域による管理あるいは地域による共有という土地所有者不明

問題全体から見ると部分的な解決策に留まってしまっている。

米山(2016)でも土地所有者不明問題を扱っているが、その主旨は所有と利用を分離し

て利用を進めていくべきという方向性であり、土地の所有から利用優先の考え方に転換す

るための根本的な土地所有権の法概念見直しについては今後の課題としている。しかし、

所有者不明という問題は依然として残ったままとなり、利用を進めるための前提となる地

籍調査も進展しないことになってしまう。

以上見てきたように、先行研究における民間研究者と筆者の問題意識はほぼ共通してい

るが、研究の視点として以下の 2 つの視点が抜け落ちているため、実効性のある具体的な

政策提言になり切れていないと考える。

土地所有者に関する情報の流れとその影響範囲についての全体像を捉え、土地所有者

の把握においてマイナンバー(および法人番号)という新たな情報基盤の活用を考慮

すること。

政策提言が実行されない(実行できない)理由について、その背景となる憲法や民法

(物権法)の法的な分析を踏まえて追及し、その解決策を見出していくこと。

本項で整理した先行研究の成果も踏まえながら、上記 2 点を視座に置いて改めて問題を

明確にし、政策を現実的に動かすための実効性のある提言をしていきたい。なお、日本民

法はフランス法とドイツ法の影響を受けているため、海外との比較ではフランスとドイツ

の事例が多く取り上げられることを付記しておく。

3.土地所有者不明の原因と残された課題

3.1 問題のきっかけとこれまでの対応

近年、2011年 3月に起きた東日本大震災の復興事業が進まないことをきっかけに、土地

の所有者不明問題が取り上げられるようになった。事業を進めようと土地の買収をしよう

としても、土地の所有者や相続者が亡くなっていたり、行方不明のままであったりという

理由で、用地買収が進まないことがその原因となっている。

土地の所有者不明問題とは、相続手続きがされていない土地、つまり相続未登記が数多

くあることが問題となる。例えば、登記上の所有者が数十年前に死亡しており、その相続

関係を辿ると相続人が 100 人以上にも及んでおり、全員の同意を得なければ用地取得がで

きないため事業を開始するのに長い年月がかかってしまう。あるいは土地を共有している

場合、所有者は「・・・ほか○名」と記載されており、全員分を探し出して相続人を特定

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しなければ土地の処分ができないため、同様な事態となる。明治時代や江戸時代の所有者

が記載されている場合もあり、その場合には相続人を特定するだけでも想像を絶する作業

になってしまう。

このような事態を打開するため、被災地対策として復興特区法が 2014 年に改正された。

申請手続きにおいて土地の面積や地権者などを記す土地調書などの添付が省略されること

になり、「緊急使用」で手続きが終わる前に事業を開始することが可能となった。しかし、

地権者を探す作業は改正後も必要であり、依然として将来的に膨大な労力がかかることに

は変わりない。

このように被災地復興を契機として土地所有者不明問題が浮上したが、現実には被災地

域だけではない日常的かつ広範囲な問題である。これまでも自治体などの現場では、公共

工事や開発事業などで地権者の了解が必要であり、所有者が不明の場合に相続人まで調査

しなければならないことがあった。また、空き家対策において、その土地や家の所有者が

特定できないと危険な空き家の取り壊しもできない。さらに、最近では農業・林業の生産

性を向上させるため、農地・林地の利用集積・集約化を進めていこうという政策が実施さ

れているが、遊休農地や森林の所有者が不明のため農地・林地の有効利用ができないこと

が問題となっている。

なお、空き家問題については、空き家対策特別措置法(2015 年 2 月施行)で所有者が特定

できない特定空家等4については行政代執行で取り壊しが可能となった。

3.2 相続未登記とは

土地所有者が不明であるという土地の情報管理における根本的な原因について、整理を

しておく。まず、登記は任意であり義務ではないため、相続未登記が発生するという構造

的な問題がある。日本の登記制度は、自分の権利を主張したい者が第三者対抗のために登

記をするという制度になっている。その背景には、日本の民法は物権変動に関して意思主

義を採用しており、登記簿という形式を前提としないという考え方をとっていることにあ

る。

さらに、日本では「強い所有権」という思想(日本人の意識)があるため、たとえ相続

放棄された土地であっても、国や他者が勝手に利用したり処分することはできないという。

民法では「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」が、現実は簡単ではなく、国に帰属

するには相続財産管理人による煩雑な手続きが必要となっている。

また、相続財産管理人が機能しない現実的な理由として、売却見込みのない土地は煩雑

4特定空家等:そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著

しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく

景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切

である状態にあると認められる空家等。

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な事務手続きを行って処分をしても報酬が得られないため、相続財産管理人のなり手が無

いという事情がある。また、相続登記しない理由としては、物権法における土地の所有権

に対する考え方が所有者を保護しており、手続きの煩雑さや登記手数料などを考慮すると、

所有者にとって登記のメリットがないことも挙げられる。

このように現行の制度には、民法の物権変動の考え方や「強い所有権」という思想が根

を下ろしており、これらについては後述する。

3.3 相続と民法

そして土地の相続に関して、民法の規定では直系卑属の代襲相続は永遠に続く(図表 1)

ため、相続未登記を放置すると相続権者が何十人も出現してしまう。これらの根本的な問

題を解決しようにも、現場で問題に直面する自治体における権限は小さく、制度改善で対

応できる状況にはなっていない。

例えば、所有者不明の土地に対して、相続人の調査および相続人に対する相続登記の推

奨くらいしか権限を持っておらず、強制力はない。そして、相続登記の制度的欠陥に対し

ては何の権限も持っておらず、相続人の不満(手続きが任意で煩雑、大きな費用負担など)

に対して相続人にメリットを付与することもできない。

図表 1 相続の範囲と相続の順位

(出所 筆者作成)

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また、住民登録外者である納税義務者(不在地主)が死亡した場合、その死亡通知を行

うよう制度改正もできないため、自治体側ではその事実を知ることができず、相続未登記

の状態がそのまま放置される。このような場合、死亡者名義で固定資産税を課税すること

になり、これを「死亡者課税」というが、法的には無効であり違法である。さらに、グロ

ーバル化の進展で海外居住者や外国人が所有者となっている場合、国際的にその住所を辿

るための制度もないため、まったく対応できない。そのため、税務部門ではやむを得ず死

亡者課税を実施するほかなく、東京財団(2016)は全国では約 200 万人が死亡者課税であろ

うと推定している。

また、図表 1 に示した相続関係は一般に戸籍で確認できるが、最近は遺言が増加してお

り、戸籍だけでは相続人が確認できないという事態になっている。水野(2005)によれば、

これまで「戸籍から判明する法定相続分の範囲でだけ登記を信頼した第三者が保護される

ことにより、戸籍制度が登記と結びついて一種の公信力を持つ存在として機能してきた」

が、現在は「遺言の増加によって法定相続が必ずしも実態と一致しない事態」によって紛

争が起こっており、構造的な問題があると指摘している。このように相続未登記の放置は、

相続という場においても紛争を引き起こす原因となっている。

3.4 放置される土地の問題

さらにこれから懸念されるのは、人口減少による土地の過少利用、すなわち空き家問題

と同様に、管理できない土地が増えてくるという問題である。土地の荒廃が進むという問

題のほかに、所有者が土地の所有権を放棄したいという意思を持っていても、法的には放

棄できないという大きな問題があり、相続未登記として放置されるケースが増えてくる。

岡本(2014)は「不動産の所有権は放棄できない」という問題に対して、法の陥穽を埋

める対策が急務だと訴えている。この問題では不動産の所有権放棄が問われた事案(法務

省による 1966年 8月 27日付民事甲第 1953号民事局長回答)が引き合いに出されるが、「所

有地の一部が危険な崖地で崩壊寸前であり、それを防止する工事の資力がないため所有権

を放棄したい」との照会に対して、国は「所有権の放棄はできない」と回答したことが前

例となっている。

放棄できないなら国や自治体へ寄付するという手段もあるが、下記のように、国や自治

体は行政目的で使用する予定が無い限り、寄付を受けることはないという考え方をとって

いる。

国に土地等を寄付したいと考えていますが、可能でしょうか

【答】

国が国以外の方から土地等の寄附を受けることは、強制、行政措置の公正への疑惑等

の弊害を伴うことがあるため、閣議決定によって原則として抑制しております。

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しかし、前述の制限に反しないような寄附の申出があった場合、土地、建物について

は、国有財産法第 14条及び同法施行令第 9条の規定により、各省各庁が国の行政目的に

供するために取得しようとする場合は、財務大臣と協議の上、取得手続をすることとな

ります。

また、行政目的で使用する予定のない土地等の寄付を受けることには合理性がなく、

これを受け入れることはできないと思われます。

(出所:財務省ホームページ http://www.mof.go.jp/faq/national_property/08ab.htm)

つまり、所有者は土地を所有することのリスクから逃れる手段は無く、国も自治体も受

け入れてくれないという事態に直面することになる。このような状態を放置すると、土地

の所有権は宙に浮くことになり、危険な土地のリスクはそのまま放置され、地域社会にと

って大きな災害を招きかねないことになる。

小柳(2014)は、先の民事局長回答についてその理由が明示されていないと指摘し、所

有権放棄が可能という考え方もあることも紹介して、日本の土地所有権放棄については結

局はっきりしないという。そしてフランスでは、不動産放棄について一般論として確立し

ていないとしながらも、実際には無主財産の市町村への帰属など、一定の条件のもとに不

動産所有権の放棄を可能にする制度があると紹介している。

田處(2015)も、物権法の解説書で「所有権放棄された不動産は民法 239条 2項により

国の所有になる」とする記述が普通に見られることを挙げ、日本の所有権放棄に関する考

え方が混乱していることを指摘している。そして、ドイツ民法では登記簿に登記されるこ

とによって放棄が認められることを挙げ、「ドイツのように明文で許容されていなくても、

逆に明文でこれを禁ずる規定がない以上、一般論としては可と解すべき」とし、「不動産所

有権も一つの財産権である以上、放棄できるはずだ」という論を展開している。

このように土地の所有権放棄を見ても、法制度や解釈が明確ではなく、放置される土地

の問題に対処できていない。地方では、現実問題として原野商法(後述)による細切れ状

態で放置された土地(=相続未登記)の対応に苦慮している。

3.5 残された課題

前述した通り、被災地対策としては復興特区法の改正、空き家問題については空き家対

策特別措置法で、所有者が特定できなくても事業を開始できたり、取り壊しが可能となる

などの対応が取られた。後述する農地や林地の問題でも、取りあえず土地を利用できるた

めの措置が取られているが、このような対症療法的措置では限界があると思われる。

不動産登記簿において土地所有者が管理できていないという事態は、次のような問題を

残したままとなる。

市町村の各部局(資産税、農政、林政、地籍調査、公共工事など)、農家・農業事業体、

林業事業体、民間の開発会社などは、それぞれ業務を遂行するため独自に土地所有者

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を探さなくてはならない。特に、民間では戸籍を利用できないため、相続人の調査が

困難となる。

ある事業で土地所有者が判明しても、不動産登記簿に反映されないため、別の事業で

は所有者不明として再度調査することになる。

問題が起きるたびに対症療法的措置で土地の利用を可能としても、所有者不明状態を

放置することは、後世に(相続者を含めた)所有者の調査という膨大なコストを付け

回すことになる。

土地を有効利用するには地籍調査による境界確定が必須であるが、所有者が不明であ

ることによって地籍調査も進展しない。

相続登記を放置している土地所有者を調査するために税金を使うことの是非が問われ

ている。

不動産登記簿およびそこから派生する各システムにおいて、土地所有者データの活

用・分析ができない。例えば、外国人による土地の買占めや領土問題など、国土を管

理するという国家的な観点からデータを活用した調査ができない。

生活保護の認定などで、申請者の正確な資産の調査ができない。例えば、土地を所有

しているという資力があるにもかかわらず(本人もそれを知らず)、認定してしまうケ

ースがでてくる。

相続放棄状態で管理不能になった土地について把握できず、土地の荒廃など地域問題

が生じる。特に、崖地などリスクのある土地に関して責任の所在があいまいとなる。

近年では遺言の増加により法定相続人以外にも相続人が出現して相続不動産をめぐる

紛争が起きており、水野(2005)の表現を借りれば「複雑骨折をしたかのような混迷

を呈している」問題を招いている。

4.土地所有者不明による影響と所有者情報の流れ

本章では土地所有者不明問題の影響範囲の広さを確認するとともに、土地所有者情報の

流れを整理し、根本的な問題の所在を明らかにする。

4.1 固定資産税業務

東京財団(2016)による自治体へのアンケート調査によれば、63%の自治体が土地所有者

不明による問題があると回答している。具体的な問題として、固定資産税徴収の困難、老

朽空き家の危険性増大、土地の荒廃などが挙げられている。しかし、このアンケート調査

は、固定資産税に着目したアンケートのため、固定資産税担当部署以外の問題には触れて

いないことに注意が必要である。

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図表 2 土地所有者不明による問題

(出所 東京財団(2016))

具体的に自治体の現場ではどのような実務を行い、どのような問題意識を持っているの

か、自治体へのインタビュー調査の結果をまとめたものを次に示す。

① 土地に関する情報管理・流通の問題

土地に関する情報は、月に 1回法務局へ出向いて紙の登記済通知書を入手し、固定資

産課税台帳を更新して管理している。登記済通知書は電子データではなく、紙で情報

を流通している。法務局では電子データ(CSV形式)を提供しているが、課税システ

ムへそのまま取り込めず、手作業によるデータ変換作業が必要となるためである。具

体的には、外字修正、文字列変換(課税物件コードへ)、照合基準日調整(電子データが

1月 1日基準の指定不可)、附属家データの追加、用途による課税分割などの手作業が

必須であり、これらのデータ変換サービスを行う業者もある。

土地所有者の住所・氏名変更について、法務局から連絡が来ることは無い。納付書が

返戻された場合に、住民であれば住民基本台帳、住登外者であれば他市町村へ自治体

が照会を行って新しい住所や氏名を把握している。また、土地所有者の死亡について

も法務局からの連絡は無いため、納付書返戻による調査ではじめて死亡したことを確

認する。

② 土地に関する相続未登記の問題

相続未登記により登記された所有者情報と納税者が異なるケースがかなりあり、具体

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的には次のようなケースがある。

住登外者の場合、死亡情報が通知される制度になっていないため、納付書の宛先

が更新できずにそのままになっているケース。

納付書返戻で死亡発覚の場合、住民票や戸籍附票を追いかけても 5 年で廃棄され

てしまうため納税者を追いきれず、そのままになってしまうケース。

所有者死亡で相続者が海外にいる場合、海外に居住する日本人(あるいは外国人)

の住所を追いかけることが困難でそのままになってしまうケース。

所有者死亡の場合、相続者が決定するまでは相続代表者宛に納付書を送付する。

しかし、登記は任意のため、相続者が登記するとは限らず、宛先が相続代表者の

ままになるケース。

所有者ではなく、納税管理人や相続人代表者に納税通知書を送達しているケース。

③ 土地の相続放棄の問題

土地の価値が低い場合に相続放棄が起きている。特に最近は、少子化、離婚、核家族

化、転出などの理由で、相続放棄は増えている。

相続放棄の場合、相続権のある人をすべて確認しなければならず、全員放棄あるいは

相続意思のある人を確認するまで戸籍を調査しなくてはならない。

全員放棄の確認が取れた場合、相続人がいないために課税保留としている自治体もあ

るが、所有権を移転して国庫に帰属させるなどの手続きは行っていない。また、実態

として放棄された土地については公示送達し、課税保留はしていない。

④ その他、土地情報に関する問題

登記されているが、現地が無い(地番があるにも関わらず公図には掲載されていない)

ものがあり、これは非課税としている。

4.2 林業

国の経済政策の一環として、林業に復活への期待が寄せられている。国内の森林資源が

本格的な利用期を迎え、住宅用だけでなく、CLT(直交集成板)や木質バイオマスなどの需要

が見込まれているからである。木材自給率も 26年ぶりに 30%台を回復し、国産材の安定供

給体制の構築により、産業として復活することが期待されている。

国産材の安定供給体制を築くには、林業事業体(森林組合等)による施業の集約化を促

進することが求められ、森林の所有者を的確に把握し、事業説明会を開催し、境界確認、

作業道ルートの確保、森林現況調査、森林プラン提示、施業の実施という手順を踏んで集

約化が行われる。

しかし、ここでも土地の所有者不明問題や所有者台帳の不備の問題が立ちはだかってい

る。図表 3に示すように、Aと Bの間伐を行う場合に Cの間伐も同時に行った方が効率的

である、あるいは Aと Bの間伐を行う際に C に路網を整備しなければならない場合、Cの

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所有者に承認を求めなくてはならない。しかし、所有者の情報が統一的に管理されていな

いため、都道府県が管理する森林簿や市町村が管理する林地所有者台帳(2012年 4月から制

度開始)から所有者を特定しようとしても、情報が無かったり、古かったりする場合がある。

そして、所有者が変更となった場合の手続きも確立されていないため、法務局の不動産登

記簿や市町村の固定資産税台帳まで調査しなければならず、結局所有者や共有者が不明の

ままで施業が困難となる場合もある。

そして、持続的な森林経営の実現を目指して森林に関する情報システムを標準化してい

こうという取組みにおいても、同様な問題がある。平成 27年度森林情報高度利活用技術開

発事業の事業報告会5では、森林クラウドシステム標準仕様6や森林クラウドシステム実証事

業7に関する報告があったが、所有者不明問題や個人情報保護の問題で情報収集に苦労して

いるという指摘があった。

図表 3 集約施業における所有者不明問題

(出所 筆者作成)

5 https://www.jipdec.or.jp/topics/event/20160314forest.html 6林野庁の補助事業として住友林業と日本情報経済社会推進協会(JIPDEC) が「森林クラウ

ドシステム標準化事業」で作成したもの。 7 林野庁の補助事業として一般社団法人日本森林技術協会が行っているものであり、「森林

クラウドシステム標準仕様」を実証する事業という位置づけになっている。

http://rashinban-mori.com/pc/public/

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このように自治体が森林簿や林地所有者台帳を管理しているとしても、所有者に関する

おおもとは不動産登記簿であり、不動産登記の制度から見直さなければ、抜本的な解決に

は至らないと考えられる。

自治体で管理している台帳について、ここで確認しておく。都道府県が管理する森林簿

は、法的な台帳としての位置づけを持っていない。下記の森林法第 5 条第 3 項に示すよう

に、森林簿は地域森林計画に付属する資料という位置づけである。

森林法第 5条第 3項 地域森林計画においては、前項各号に掲げる事項(区域、整備・保

全の目標、伐採立木材積、造林面積など)のほか、森林の整備及び保全のために必要な

事項を定めるよう努めるものとする。

具体的には、農林水産省の通知に基づいて各都道府県が整備しており、掲載している情

報やその精度などについては基準が無いため、各都道府県で記載事項が異なっているのが

実態である。そのため、内容が昭和初期やそれ以前の情報のまま更新されていないことも

あるという。

林地所有者台帳は、2012 年から市町村が整備しているものである。平成 23 年(2011 年)

の森林法改正による「森林の土地の所有者となった旨の届出制度」で、森林所有者になっ

た際に届け出を義務付けたものである。新たに所有者になった者が、地番、面積、所有者

(氏名・住所・所有年月日・持ち分)を記載した届出書を市町村へ提出し、市町村がこれ

を管理している。この制度は、当時問題視されていた外資による水源地・森林買収を把握

するという目的で創設された。

林地台帳は、2017 年から市町村が整備を予定している台帳である。平成 28 年(2016 年)

の森林法改正で、2017 年から市町村が所有者等の情報を林地台帳として整備、公表するこ

とが義務付けられた。所有者の氏名・住所、土地の所在・面積・境界測量の実施状況等を

記載することになっているが、林地台帳整備の具体的な実務については現在検討中であり、

森林簿や登記情報をもとに、どれだけの精度の林地台帳が整備できるか未知数の状況であ

る。

この林地台帳については、2016 年 2 月 25 日に全国市長会が政府に対して「森林法等の

一部を改正する法律案に対する申入れ―林地台帳(仮称)の整備について―」を提出し、

自治体に対する過度な負担への懸念を表明している。

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図表 4 林地台帳の整備手順

(出所 「林地台帳の検討状況」 2016年4月 林野庁計画課)

自治体における林業担当者のインタビューから、次のような実態がわかった。

① 森林関係の台帳について

「森林の土地の所有者となった旨の届出書」をファイルしたものが林地所有者台帳で

ある。ある市ではその内容を県のシステムに入力し、県ではそのデータをもとに森林

簿を更新している。また、ある市では、県で更新した森林簿の情報がフィードバック

されている。

届出書は林地所有者から直接提出されるのではなく行政書士・司法書士などから提出

されるのが実態である。

都道府県の森林簿は航空写真の林相をもとに作成したもので、林班→準林班→小班に

区分されている。森林簿の図面は、記載が代表地番のみのところもあり、不動産登記

の地番とは必ずしも一致していないという精度の荒さがある。

ある市では林業(しいたけ栽培含む)を行っていないため、林地所有者台帳や林地台

帳を作成するメリットはないという指摘があった。

② 自治体にとっての林地所有者不明問題

景観間伐を事業として行っている市があるが、相続未登記などで所有者の確認・承諾

が得られず事業が実施できない場合がある。

林業事業体は国庫補助を求めて森林経営計画を作成するが、所有者不明の問題が障害

となっており、市として相続未登記の場合の戸籍調査や資産税課税台帳の調査などで

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協力せざるを得ない状況にある。

③ 林業事業体にとっての林地所有者不明・所在不明の問題

施業にあたっては、現地立会にて境界を確定し委託契約を締結して実施しているが、

所有者の把握や境界確定に時間を要するため、施業の集約化・団地化がなかなか進ま

ない実態がある。

林業事業体では、森林簿を元に森林の管理をしているが、森林簿に付属している図面

は縮尺精度が荒く(1/2500の精度)、境界が明確にはわからない。さらに、森林のなか

は目印が無いため、所有者さえ場所がよくわからないという実態がある。

林業事業体は民間なので戸籍の調査ができない。そのため所有権者と連絡が取れず、

集約化した施業や路網の整備などができない場合がある。

4.3 農業

農業においても林業と同様、農業の競争力を強化するため、農地の利用集積や集約化を

推進する政策が実施されており、やはり同様な問題が起きている。遊休農地や耕作放棄地

を減らし、利用集積や集約化を進めるためには、農地情報を整備して農地の買い手(借り

手)と売り手(貸し手)をマッチングさせる必要がある。すでに全国農地ナビ8が稼働し、

市町村および農業委員会が整備している農地台帳の情報を農地法に基づいて公表し、農地

の売買・賃借などを全国にあっせんしている。具体的には、下記項目を色分けして画面表

示できるようになっている。今後は、土壌・気象・道路情報、過去の作付け履歴、農薬使

用履歴などの機能を開発していく予定となっている。

地目、面積、農振法区分、都市計画法区分

所有者の農地に関する意向

賃借権等の権利の種類、賃借権等の終期年月日

農地中間管理権の状況、遊休農地かどうか、利用状況調査日

所有者等の確知の状況、所有者等を確知できない旨の公示を行った日

遊休農地の所有者等の意向、利用意向調査日

農地中間管理機構との協議の勧告日、農地中間管理権を設定すべき旨の知事裁定日、措

置命令日、所有者等を確知できない場合に市町村長が措置を行う旨の公示を行った日

所有者(共有地の場合は過半の持ち分を有する者)がわからない遊休農地への対応とし

ては、利用を重視した農地法へ改正(図表 5)されており、森林よりも一歩踏み込んだ対策

を取っている。所有者不明の土地については公示を行い、都道府県知事の裁定により、農

地中間管理機構が借り受けることができる。しかし、この対策も実態としては進捗が芳し

くないという現場の声があり、利用重視の政策へ転換はしたものの、所有権問題は依然と

して残ったままという問題もある。また、農地(田・畑)の地目であっても実質山林や原

8 https://www.alis-ac.jp/

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野になっているものがあり、地目変更しようとしても農業委員会や所有者の同意など手続

きが煩雑なため、農業情報を最新状態に保持できないという問題も抱えている。

図表 5 平成 25年農地法改正:耕作放棄地対策を強化

(出所 農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/yukyu.html)

2016 年 12 月 26 日に農林水産省が「相続未登記農地等の実態調査」について公表した。

それによれば、相続未登記農地(登記名義人が死亡)は約 48 万 ha、相続未登記のおそれ

のある農地9が 46 万 ha で、合計すると約 93 万 ha となる。東京都の面積が約 22 万 ha で

あるから、東京都の 4 倍以上の面積にあたる農地の所有者がわからない状態で管理されて

いることになる。

また、自治体の農業委員会へのインタビューでは、次のような実態が明らかになった。

農業委員会は市長部局とは別組織とされるため、市長部局の持つ個人情報に簡単にアクセ

スできず、所有者を探すことがままならないという現状がある。

① 農地台帳の管理について

土地の異動情報(分筆・合筆、所有権移転など)は、資産税課から情報を入手してい

るが、情報が不一致の場合(一つの地番に対して、資産税課では一部を宅地課税する

など)は、農業委員会でこの土地の農地・宅地の区別を独自に判断している。

9 登記名義人の市町村外転出、住民票除票の不存在等により、住民基本台帳上ではその生死

が確認できず、相続未登記となっているおそれのある農地。

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資産税課の台帳は 1 月 1 日の課税に合わせて年 1 回の情報更新だが、農地台帳につい

ては農地転用の申請に基づいてその都度農地台帳を更新している。住民の死亡情報は

月に 1回、住民基本台帳から情報が来るため、その情報を使って更新している。

農業委員会では農地の地目を管理しているが、地目が畑であっても現況が山林・原野

となっているものがあり、その整理が課題となっている。地目変更にあたっては、農

業委員会の判断と所有者の同意が必要であり、手続きが煩雑である。

農地台帳の情報は、農地ナビへ統合し、全国統一的なクラウドが実現する見通し(2017

年 4月に本格スタート)となっている。

② 所有者不明問題と個人情報の利用

ある自治体では遊休農地問題で不在地主のリストを整備しなくてはならない(2016 年

8月をめど)が、不在地主で所有者が不明なケースは 1割くらいあるという。

農業委員会は市長部局とは別組織のため、土地所有者を探すために個人情報保護法や

市の条例で規制されている資産税課の個人情報を使うことができなかった。しかし、

平成 28年(2016年)から、農地法施行規則第 102条により、市が保有する所有者に関す

る情報(固定資産税と住民基本台帳の情報)を入手できるようになった。

(農地台帳の正確な記録を確保するための措置)

第 102条 農業委員会は、農地台帳の正確な記録を確保するため、毎年一回以上、農

地台帳について、固定資産課税台帳及び住民基本台帳との照合を行うものとする。

ただし、固定資産課税台帳との照合は、同法第二十二条 の規定に違反しない範囲内

で行うものとする。

しかし、農地台帳は上記対策で個人情報を利用できるようになったが、遊休農地リス

トの整備のために個人情報が利用できるのか、相続未登記の土地所有者を探すために

戸籍を利用することが可能なのかは不明であるという。

③ 遊休農地対策と所有者不明問題

農地中間管理機構が権限を持って遊休農地対策を実施しているが、圃場の整備など進

捗状況はあまりよくない。その理由として、土地の慣習として所有者が不明のままだ

と手をつけるのは難しいからだという。また、戸籍を使って調べることができないた

め、相続未登記の場合は、所有者を確定することができないという。

④ その他の問題

不動産登記の公図と現況が異なっているため、権利問題が発生することがある。

4.4 開発と公共事業

課税・林業・農業以外でも、土地所有者が不明であることによる問題は起きており、ま

た土地の所在がわからないという問題も起きている。

例えば、民間の開発では民間が土地の所有権を取得しなければならず、開発に伴う地権

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者の調査作業が煩雑であるという話は良くある。それだけでなく、地方では原野商法10の後

遺症で新たな問題が発生している。図表 6 に示すように、新たに土地を取得し開発する場

合、隣接する A~Fの地権者の承諾が必要となる。しかし、これらの土地は原野商法で販売

された土地であり、ほとんど価値が無いため相続未登記の状態になっている。現実的に所

有者を探すことが困難なため、Gを分筆登記したうえで開発することになる。

図表 6 原野商法による後遺症

(出所 筆者作成)

また、公共用地に関して、現況道路や河川敷地として使っているにも関わらず、所有権

が民のまま所有権移転していない「未登記道路」の場合がある。この場合、土地を所有権

移転しなければならないが、所有者が明治時代のままだったりすると、相続人を探す事務

手続きが大変であるだけでなく、立会人をお願いするためにも所有者を突き止めなければ

ならないことになっている。

4.5 地籍調査

自治体では、不動産登記簿に備え付ける地図を作成するため、固定資産税台帳をもとに

所有者を探し、地籍調査を行って法 14条地図を作成し、法務局に収めている。この地籍調

査作業が捗らないため、地番の境界がわからない、地番があるにも関わらず公図には掲載

されていないなど、不動産登記においては土地の所在(地理空間)に関する情報があいま

いなまま管理されている。問題を指摘する前に、地図あるいは図面に関する用語の混乱に

10 1960~80年代に横行した詐欺的商法で、ほとんど価値のない原野を別荘あるいは投機目

的で売りつける商法。細切れの分筆登記がなされ、土地の所有権は分散されている。

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ついてここで整理しておく。

不動産登記法第 14条では、次のように「地図」と「地図に準ずる図面」という 2つの用

語が出現している。

(地図等)

第 14条 登記所には、地図及び建物所在図を備え付けるものとする。

2 前項の地図は、一筆又は二筆以上の土地ごとに作成し、各土地の区画を明確にし、地

番を表示するものとする。

(中略)

4 第一項の規定にかかわらず、登記所には、同項の規定により地図が備え付けられるま

での間、これに代えて、地図に準ずる図面を備え付けることができる。

一般に、不動産登記では次の 3 種類の用語が使われるが、地図と地図に準ずる図面を総

称して「公図」という場合もあり、法務局に必ずどちらかが備え付けられている。ここで

は「公図」を総称として使い、特に①を指す場合には「法 14条地図」、②を指す場合は「古

い公図」という言い方をしておく。

① 地図(法 14条地図:旧法 17 条地図):現地復元性(自然または人為的要因で境界が不

明となっても、地図から境界を復元できること)を持つ、測量法による高い精度をもっ

た地図。

② 地図に準ずる図面(いわゆる公図):もともと租税徴収のための図面であり、地理空間

的精度は期待されていない。法 14 条地図がない場合には、原資料として使わざるを得

ない。

③ 地積測量図:土地の地積の変更(更正)の登記、分筆の登記等の登記簿上の地積に異動

を生じる登記の申請書に添付される図面。地籍変更や分筆登記がされた場合のみ、備え

付けられる。

問題は、地籍調査による法 14条地図がない地域では、古い公図(明治時代などに作成さ

れた精度の悪い地図)がそのまま残存しており、場所の確定ができないことにある。例え

ば、戸田(2008)によれば、東京六本木ヒルズの再開発では土地買収のための境界線確定に 4

年半が費やされたといい、地籍調査が進まないことによる経済的損失がいかに大きなもの

であるかがわかるだろう。地籍調査の全国の進捗状況(図表 7)を見ると、関東や関西など

の DID(人口集中地区)での進捗率が悪く、DID以外では林地の進捗が悪いことがわかる。

また、国土交通省では「公図と現況のずれ公表システム」を公開しているが、古い公図

と現況がいかに異なっているかがわかる。図表 8 では、現況では河川改修により川が上か

ら下へと太い直線になっているにも関わらず、古い公図では昔の蛇行した川がそのまま表

現され、その食い違いがいかに大きいかがわかる。

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図表 7 地籍調査:全国の進捗状況

(国土交通省 地籍調査ウェブサイト http://www.chiseki.go.jp/situation/index.html)

図表 8 公図と現況のずれ公表システム

「都市再生街区基本調査および都市部官民境界基本調査の成果提供サイト」

(出所 国土交通省 http://gaikuchosa.mlit.go.jp/gaiku/index.html)

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このように地籍調査の進捗が捗らない原因として、財政問題・境界紛争以外に所有者不

明の問題が影を落としている。例えば、自治体では調査工程の一環として土地所有者に通

知を送付するが、返戻された場合は資産税課で把握している納税者から所有者を辿ってい

かなくてはならない。それでも不明な場合には、法務局の登記簿の情報をもとに戸籍を調

査し、所有権者を探している。

また、相続未登記の場合には、所有権者が 20人くらいになることもあり、この場合は所

有者に最も近い人を代表者として、立会い(または、立会い者の選任)を依頼していると

いう。さらに、相続未登記で相続放棄された土地の場合、代表者になってくれる人もいな

いため、法務局の登記官や県に確認しながら調査を進めているというのが実態である。

4.6 土地所有者情報の流れ

行政における土地所有者情報の流れを整理すると図表 9 のようになり、その大もとは不

動産登記簿であることがわかる。不動産登記簿の情報が市町村の固定資産税台帳に反映さ

れ、それが農地台帳や地籍調査などに活用されるとともに、一方では都道府県の森林簿に

反映される。さらに、農地台帳システムは全国農地ナビに集約され、農地情報が全国規模

で集約されることにより、農地の有効活用を促進している。なお、森林簿システムを元と

した森林クラウドはシステム標準化のためのプロトタイプという位置づけであり、全国の

森林簿情報を集約したものではない。

この不動産登記簿の所有者情報が最新状態に管理されないと、そこから派生する各シス

テムの所有者情報も不正確になる。つまり、相続未登記で所有者が不明の場合、市町村の

各部局、農家や農業事業体、森林組合などの林業事業体、民間の開発会社は独自に所有者

を探さなくてはならない。しかも、民間では戸籍を閲覧できないため、相続者の調査に限

界があり、たとえ相続者が発見できても、不動産登記簿に登録されないと同じような作業

がまた繰り返されることになる。

全国農地ナビを管理している全国農業会議所とのインタビュー調査では、所有者が死亡

しても相続者が決まらずそのままになっている場合や所有者が外国に居住して連絡が取れ

ないなど、農地においても所有者不明の問題があるという。具体的には、次のような問題

が指摘されている。

遊休農地になって使われなくなった土地については、農業委員会が調査し地目変更の

判断をしなければならない。しかし、地目変更は所有者が登記しなければならず、所

有者が不明だと地目がそのままになり、情報が不正確な状態になる。

土地改良事業では土地所有者の了解が必要であり、土地所有者不明によって土地改良

事業が進められない。

全国農地ナビでは農地を面ではなくピンで表示しているが、(所有者不明がその一因と

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なっている)地籍調査が進まないため境界確定できず、このような表現になってしま

っている。

農地の利用にあたっては、賃借料を支払う関係上、所有者が不明であると利用しにく

いという事情がある。

また、現場の実態として、本当に所有者がわからないというケースはほとんどが荒地で

耕作に適さないという。そして、耕作できなくなった土地の寄付については、中間管理機

構など地域による管理が望ましいという。

そのほか、遊休農地についてデータを集約したところ 10a未満の狭小の土地がほとんど

であり、農業人口が減少すれば利用効率の悪い土地は遊休化して当然であるという指摘も

あった。

図表 9 行政における土地所有者情報の流れ

(註)森林クラウドは森林簿を代表とする森林情報に関するデータやシステムを標準化し、データ整備・

システム開発のコスト低減や、行政・森林所有者・林業事業体・木材需要者間における情報の共有化促

進を目的として開発されたプロトタイプシステムであり、全国農地ナビのように全国を統合したシステ

ムではない。しかし、今後全国農地ナビのような位置づけになる可能性があると考えられる。

(出所 筆者作成)

森林クラウドとは、森林簿を代表とする森林情報に関するデータやシステムを標準化し、

データ整備・システム開発のコスト低減や、行政・森林所有者・林業事業体・木材需要者

間における情報の共有化促進を目的として開発されたプロトタイプシステムであり、農地

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ナビのように、全国自治体のシステムを一つに統合しようというものではない。

また、森林簿は都道府県によって使う目的が異なり、データ項目も標準化されていない

のが実態であるということで、このプロトタイプ開発に参加した民間企業も所有者不明問

題への意識はあまり強くない。

ただし、今後市町村で導入される林地台帳は所有者を入力する必要がある。林地台帳の

システム化については未定であるが、今後林地の有効活用を図っていく方向が打ち出され

ており、林地台帳と森林簿システムが統合化され、森林クラウドが全国農地ナビのような

位置づけになっていく可能性があるだろう。

このように農地や林地をより有効に利用しようとシステムが拡張されていくことは望ま

しいことであるが、そこで利用される基本的なデータが精緻に整備されていないと、いく

ら良いシステムを開発しても有効な活用は望めない。さらに、社会的課題の解決やビジネ

ス創出のためにデータの活用や分析が叫ばれている昨今、あらゆるシステムに波及する基

本データの整備は待ったなしの状況にある。現状の問題を解決することは無論のこと、こ

のような観点からも、不動産登記簿における土地所有者情報を正確に最新状態に管理すべ

く、法制度のあり方を見直すべきだろう。

5.問題解決への糸口となる法的背景の整理

具体的な解決方法については第 6 章で示すが、そこでの議論における 2 つの法的な背景

について、本章で整理をしておく。その理由は、第 4 章の最後に示した図表 9 行政におけ

る土地所有者情報の流れで明らかなように、不動産登記簿の土地所有者情報を最新状態に

保持すれば良いのだが、それが簡単に実現できないからだ。簡単に実現できない背景とし

て、我が国には「強い所有権」と「不動産登記に公信力が無い」という特殊な事情がある

からだと言われる。

5.1 「強い所有権」という思想

民法第 239 条第 2 項では「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」となっている。し

かし、日本人には「強い所有権」という思想・意識があるため、所有者が不明であっても

勝手に処分できず、法と現実が乖離した状況がある。そのため相続未登記のままでも所有

権が守られることになり、相続登記を行うという動機づけが薄れてしまう。

甲斐(1979)によれば、大日本帝国憲法では「第 27条日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルヽコ

トナシ 公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル」と外形的には自然権論的人権の

所有権思想を表現しているが、憲法の起草者は「所有権を国家=天皇の国民に与えた恩恵」

と捉えており、自然権論的人権による所有権とはまったく異なるという。そして、明治期

以来、寄生地主的所有、つまり全く生産に基礎を持たない、利用と結びつかない所有が支

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配的であったため、「土地の現実的な利用ではなく、所有すること自体を重んぜしめる」思

想が根付くことになったという。

その後、社会権を規定したワイマール憲法の影響を受け、公共福祉のために個人所有権

に制限を加える「所有権の社会化」という考え方が出現するも、ファッショ化の潮流に飲

み込まれてうやむやになってしまう。戦後の農地改革でも、寄生地主制は全面的に解体さ

せられたが、創出された自作農の小土地所有は「地主的土地所有の性格を残存せしめ、か

えって保守的小農的な所有意識を作り出す」ことになったという。結論として、1960 年代

以降の高度経済成長による深刻な住宅難・土地の入手難などにより、土地の私的所有権に

は社会公共的立場から厳しい制限が課せられるべきことがほぼ共通の認識になっていると

しながらも、「戦後の土地所有権思想がどのように変化し、どのような方向に向かって進み

つつあるのかを知ることは決して容易ではない」と締めくくっている。

また、大澤(1979)も同様な見解を示しており、「所有権は国家によって与えられたものと

いう恩恵的な思想が強く」、「所有権を自然的基本権としてみるフランス民法的思想は国民

の間に定着していなかった」という。そして、「明治憲法の所有権不可侵性の思想と結合し、

土地所有権を必要以上に尊重する風潮をつくりだし」、これが国民の間に定着していったと

いう。結論として、「土地は国民の生存に密接に関連するものであるにも拘わらず、商品と

しての地位を与えられ…憲法でもこれを保障されている」という現実があり、国民の土地

に対する執着心が強いこともあいまって、土地所有権への制限は困難だという見解を示し

ている。

その一方で土地の暴騰などの社会問題に対する問題意識から、憲法 29条 2項の「財産権

の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」を再考すべき、「土地は、

(中略)個人に所有されるのは不合理であり、私的所有の対象から除外すべき」といった

考えも主張しており、個人の生存権保障の観点から土地所有のあり方について見なおす方

向性を訴えている。

甲斐も大澤も、土地が高騰した日本のバブル経済(1980年代後半~1990年代初頭)以前

の論であるが、五十嵐(1990)はバブル経済を踏まえ『検証土地基本法-特異な日本の所

有権』を発表している。そこでは、「日本では経済的価値にのみ執着した『絶対的土地所有

権』の観念が強く、諸外国と異なり自由・平等・博愛といった価値と切り離した思想とな

っている」ことを鋭く指摘している。

欧米では、所有権は自由・人権の基礎と捉える自然法的な所有権思想11が基本となってい

11 たとえば、ロックの『社会契約論』では「所有権の主要な対象は、(中略)土地そのもの

であるが、土地の所有権も同じように獲得されたことは明白だと思う。ひとが耕し、植え、

改良し、開墾し、そうしてその産物を使用し得るだけの土地は、その範囲だけのものは、

彼の所有である」、「私のあえて断言したいことは、所有権(property)について前述したの

と同じ法則、すなわち各人は自分の利用し得るだけのものを持つべしという法則が、今日

なお通用していて、それで何人をも困難に陥れることはないだろうということである」と

記述されており、個人の手に余る無制限な所有まで認めるものではない。そして、共有地

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る。そして、フランス・ドイツでは「土地に対して使用・収益・処分がまったくの自由で

ある」という絶対的土地所有権の立場をとるが、都市の秩序を守るためにこれらが一定の

制約を受けることは、絶対的土地所有権と矛盾しないと考えられている。つまり、権利と

義務がセットで受け入れられており、内在的に義務を負う制限内在説と言われる。

これに対し、イギリス・アメリカでは「時間的な限定などを含めて、それぞれの局面に

おいて絶対性や自由性が限定される」相対的土地所有権という立場をとる。例えば、使用

の自由(=建築の自由)が否定されており、計画の策定によってはじめて建築が可能とな

る。これは建築する権利が外部(計画)から与えられて初めて発生するという考え方で、

可能性外部説と言われる。

一方、日本はフランスやドイツと同様、絶対的土地所有権の立場を取るが、フランスや

ドイツのように「利用が所有に対して優先」・「土地は自由には利用しない義務」という考

え方はなく、所有に絶対的な価値を置いている。つまり日本には制限内在説も可能性外部

説も無く、日本は土地所有権そのものを極度に尊重して「権利」ばかりに執着し、「権利と

義務」について同等の重きを置いていないということになる。

五十嵐の説では、憲法自体にも問題があるのではないかと指摘している。ドイツの基本

法が「所有権には義務が伴う」と権利と義務がセットであることを強調しているのに対し、

日本国憲法では「所有権は公共の福祉に従う」という表現になっているだけで、(制約があ

り得るという意味で)義務という強い表現にはなっていない。

以上、法学者の論調を要約すると、日本の民法がフランス法とドイツ法を基礎としたも

のであるにも関わらず、土地所有権については自然法的な所有権思想とは程遠く、権利と

義務がセットであるという観念も無く、所有権という「権利」のみを主張する偏った(日

本独特の)思想であるということになる。そして、土地の暴騰を引き起こしたバブル経済

を契機に、この偏った思想を見直すべきだという論も起きたが、この議論は憲法問題にま

で及ぶことからそれ以上に発展することがなかったと考えられる。

5.2 不動産登記制度の問題と改革の可能性

5.2.1 物権変動における公信力に関する学説

強い所有権が日本独特のものであることを見てきたが、公信力の問題もまた日本独特の

問題を持っている。宇都宮(2006)によれば、物権に関して第三者が不測の損害を被らないよ

う、その存在・変動は外部から認識できるように一定の表象を伴わなければならないとい

う原則(公示の原則)があり、この公示方法が不動産物権に関しては「登記」(民法 177条)

として荒地になっているよりは、「自分の労働によって土地を専有するものは、人類の共有

財産を減少させるのではなくかえって増加する」という考え方、つまり社会全体の利益に

なるから土地の専有が認められるという考え方をとっていることがわかる。

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ということになっている。この公示の原則に対応するのが公信の原則であり、公信の原則

とは「物権の存在・変動の表象(公示)を信頼した者は、たとえその表象が真実の権利関

係と一致しなくとも、保護される」という原則である。

つまり、不動産登記を信頼して取引をおこなったものの、登記内容が真実の権利関係と

異なっていた場合、「登記に公信力がある」という考えでは信頼した者の権利を保護し、「公

信力が無い」という考えでは信頼した者の権利を保護しないという立場を取る。

日本では「不動産登記に公信力が無い」とされるが、本当に公信力が無いとするならば、

法務局の登記官は登記情報を正確に管理する法的根拠が無くなる。そして、登記情報の利

用価値が下がり、取引における安全性も確保できないことになるが、現実には我々は不動

産登記を信用し、取引をしているという実態がある。

宇都宮(2006)を参考に、土地の所有権と公信力の問題について基本的な事項について整理

をしておく。土地の所有権について、民法では下記のように記されている。

(物権の設定及び移転)

第 176条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第 177 条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する

法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

物権(所有権)とは支配権であり、支配を確保するために他人の干渉を排斥することであり、

不動産においては登記という対抗要件を備えている。そして、不動産の物権変動について

は、「当事者間ではお互いの意思表示のみによって効力が生じる(民法 176条)」とされ、「第

三者に対する関係ではその旨の登記をしなければこれを対抗することができない(民法 177

条)」となっている。つまり、登記は第三者に対する対抗要件であるが、不動産物権変動の

成立要件ではないという立場を取っている。

物権変動を生じる法律行為の考え方として、意思主義と形式主義がある。意思主義とは、

当事者の意思表示があればそれで充分とし形式を必要としないというフランス民法の考え

方である。一方、形式主義とは、当事者の意思表示だけでは足りず、登記や引き渡しなど

何らかの形式を必要とする考え方で、ドイツ民法がこれに該当する。

一方、日本の民法では、物権の設定及び移転は意思主義を採用し、不動産の物権変動に

は登記がなくとも、意思表示だけで物権変動が生ずると考える。そして、物権変動を第三

者に対抗するには、不動産については登記を必要とすることとなっている。つまり、登記

とは物権変動とは関係が無く、第三者に対する対抗要件としてのみ意味を持つことになる。

繰り返しになるが、公示の原則とは「物権の存在・変動は、外部から認識できるように

一定の表象を伴わなければならない」とされ、不動産物権については「登記」(民法 177条)

がこれに該当する。公信の原則とは「物権の存在・変動の表象(公示)を信頼した者は、

たとえその表象が真実の権利関係と一致しなくとも、保護される」という原則である。

日本の民法では、動産物権については占有に公信力を認め(民法 192 条)ているが、不

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動産物権については登記に公信力を認めていない。不動産は、登記簿自体が不完全であり、

また、登記官の審査権も形式的なものであるため、不実の登記を生じさせることもあるか

ら、真実の権利者よりも第三者の信頼を保護することは妥当でないという考え方である。

日本民法においては、物権変動に関して意思主義を取ってきたため、物権行為の独自性

を認めるべきか否かで争われてきた。判例では物権行為の独自性が否定されているが、そ

の一方で、実務においては「売買契約の締結だけでその所有権が買主に移転すると考えて

いる者はほとんどおらず、不動産の所有権移転という物権変動は登記所において登記を完

了することにより行われ、登記完了証を得てはじめて物権変動を第三者に主張できると考

える」という不動産取引の意識と慣行から、物権の独自性を主張する説もあるという。

田山(2008)が学説について整理をしており、冗長になるがここで紹介しておく。なお、こ

れらの学説の理解が本項の目的ではなく、法学者(特に物権法の学者)がどのような議論

に関心を持っているのか、公信力があるという解釈が成り立つ条件とは何かを確認してお

くためである。

まず、法的な基礎理論として、日本は意思主義を採用しているため「意思表示」のあり

方が問題となる。土地の売買に関する「意思表示」は売買契約(=債権契約)であり、物

権的効果は生じない。Aは所有権を Bへ移転する債務を負担し、B は対価として Aへ代金

を支払う債務を負担すると考える。土地の所有権移転に関する「意思表示」は物権契約で

あり、売買契約により A は負担した債務を履行し、B は取得した債権の実現という双方の

合致で成り立つ。

この債権契約と物権契約との関係については、次の学説がある。

債権的契約説:土地売買の意思表示(債権契約)で物権契約が成立。物権的法律効果

を持つ。債権契約を物権契約の外形とみる。ドイツ法では登記=物権契約。

実益否認説:形式主義を採用していないので、物権契約の外形は不要。債権契約と物

権契約の両者を区別する実益は無い。

独自性肯定説(物権契約独自性説):物権契約は債権契約とは別に存在する。日本民法

の構造上、物権と債権を峻別しているから。しかし、民法 533 条(同時履行の抗弁)

は物権と債権を峻別しておらず、売買契約による所有権移転を認めないという矛盾も

はらんでいる。

そして、民法の構造上、物権と債権を峻別しているため、とりあえず物権契約独自性説

を前提とせざるを得ないが、その前提で実務的には下記の説がある。

取引慣行合致説:外部的徴表(代金の支払い、登記申請書類の交付、目的物の引き渡

しなど)を伴う行為があった時に、当事者間において所有権の移転の合意(=物権契

約)があったと解する。フランス法やドイツ法における概念とも異なる日本独自の概

念(独自性説)とされる。そして、売買契約が効力を失った場合、既発生の所有権移

転効果にどのような影響を与えるかで次の 2つの説がある。

無因説:債権契約と物権契約は因果関係には立たないため、影響は与えない。絶

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対的無因説(ドイツの形式主義の考え方。登記に公信力を付与する)。相対的無因

説(当事者の合意により因果関係に立たせることは可能)。

有因説:債権契約と物権契約は因果関係に立つ。債権契約が取り消しとなれば、

物権契約も遡及的に効力を失う。

観念的物権契約説:外部的徴表とは切り離して考える。所有権移転は物権契約の成立の

問題と切り離し、登記の移転、引き渡し、または代金の支払いのときに生じると解する。

また、所有権の移転時期については次の 3つの説があるという。

契約成立時説:意思主義(独自性否認説)に立脚する学説

代金支払時原則説(有償説):物権契約独自性説に立脚する学説。ただし、意思主義(独

自性否認説)に立脚する一部もこの説を支持している。

果実収取権移転時説:意思主義(独自性否認説)に立脚する学説。民法に所有権の移

転時期に関する規定はない。ただし、所有権の一つである果実収取権について、引き

渡しにより移転する規定がある。代金支払い、引き渡し、移転登記で移転したとみな

せる。

このように学説については諸説あり、時代によって各学説の優位性も異なってくるとい

う。「登記に公信力はない」というのが定説であるが、物権の二重譲渡問題においては公信

力を認めるような学説もあるという。「Aが B に所有地を売り、Bは代金を支払い済み(=

所有権移転済み)。Cが A名義になっている所有地を Aから購入し、登記を取得。この場合、

C が所有権を取得する」という問題について、「第 177 条 不動産に関する物権の得喪及び

変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなけ

れば、第三者に対抗することができない」を対抗力の問題として理解する立場と、公信力

の問題として理解する立場があるという。

①民法 177条を対抗力の問題として理解する立場

債権的二重譲渡説:登記を取得するまで物権的効力はない。この場合は C に所有権が

ある。ただし、これは形式主義とほぼ同じであり、意思主義に反するという反論があ

る。

相対的効力説:当事者間では登記がなくても物権変動の効力を有する。しかし、第三

者との関係では登記を取得しない限り、効力を生じない。この場合は C に所有権があ

る。ただし、当事者間と第三者に対する効力の差について説明できない。

物権的二重譲渡説:当事者間も第三者との関係においても物権変動の効力が生じる。

この立場はさらに 4つの立場に分かれる。

②民法 177条を公信力の問題として理解する立場

公信力説:登記に公信力があるから、Cが所有権を取得できる。

ただし、公信力説が解釈論として成立するために、下記の反対論を克服しなければなら

ないという指摘がある。

登記に公信力を認めてまで不動産取引の保護を図らなければならない社会的必

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要性はない。

公信力を認めると、不動産取引を容易にし、不動産の商品化を助長してしまう。

登記官に実質的審査権が認められていないため、登記に公信力を付与すると安

全が脅かされる。

民法の意思主義(=対抗要件主義)と矛盾する。

地積などを含む権利の実態が正確に登記に反映されていないため、公信力を付

与するのは危険である。

では、判例ではこのような場合にどのような解釈をしているのか。A-B 間の土地売買が

虚偽表示であった場合、第三者 C がこれを有効なものと信じてこの土地を購入した場合、

民法 94条 2項によってこの土地の所有権を取得できる。また、虚偽表示でなくても、Aの

所有地が登記簿上 B の名義になっていることを、A が知りながら放置している場合、B が

権利者らしい概観を信頼した Cを保護するために、民法 94条 2項を類推適用する判例が出

現している。

(虚偽表示)

第 94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。

2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

5.2.2 現行登記制度への批判と疑問

以上述べた学説は物権法を専門とする法学者の整理であり、同じ民法でも家族法を専門

とする法学者からは大きな批判がある。水野(2005)は、先の対抗問題について「この領

域における奔放な解釈論の展開は、学説が技巧を繰り広げる運動場のような観を呈する」

と評し、司法による民法 94条 2項類推適用は「超絶技巧の解釈論」だと切り捨てる。いわ

ば、物権に関する民法規定がフランス法とドイツ法の折衷案で矛盾をきたしているにも関

わらず、学説の技巧を繰り広げて日本の登記制度の根本的な欠陥を正そうとしないため、

司法としては取引の安全性を確保するために超絶技巧の解釈論を持ち出さざるを得ない状

態に陥っているということである。

水野は、「これまで日本の登記制度の公信力は不動産登記と戸籍によって実質的に担保さ

れてきた」と指摘する。ところが近年、遺言相続が激増したために戸籍だけでは相続者が

特定できず、公信力の低下により相続不動産をめぐる紛争が「複雑骨折したかのような混

迷」状態になっており、実務的に登記制度の根本的な改革が急務だと訴えている。

ちなみに、フランスとドイツの状況についても確認しておく。フランスでは「公信力な

し」という立場であるが、不動産取引においては公証人が関与する場面が多い。大杉(2013)

によれば、「公証人は、不動産取引にあっては、当事者の人的同一性、行為能力ないし処分

権能の制限の有無、夫婦財産制、代理権の有無、目的物の同一性、物理的状況、土地利用

規制の有無と内容、すくなくとも過去 30年間にわたる権利関係の変遷と現況、区分所有建

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物に関する規約及び管理組合への負債の有無を調査し、先買権者への通知および行政上の

許認可の申請および、場合によって、融資手続きを代行すること」を行って「契約に真実

性を付与」し、不動産登記についても関与している。

また、小川(2013a)は、ドイツでも公証人が大きな役割を果たしていることを指摘し、「わ

が国の不動産取引において、契約は公正証書化する必要がないので公証人が不動産取引に

関与する機会がない。ドイツの公証人に類似するのが司法書士だが、司法書士はドイツの

公証人のような権限は認められていない」と日本との違いを強調している。また、公信力

については「登記の公信力を認めることで、登記簿を信頼した善意の第三者を保護し、取

引の安全を図るものである。(中略)他方、わが国では、登記に公信力が認められないため、

登記は対抗要件にすぎない。それゆえ、登記と実体が合致しない状態が生じやすく、取引

に入った者に対する保護が不十分である」と日本における保護のあり方に疑問を投げかけ

ている。

川島(1987)は物権変動について、日本・フランス・ドイツの状況を含め歴史的な観点

から整理しているが、もともと土地の取引は個人間の取引が中心であり、債権と物権は未

分化の状態であったという。その後土地が商品として流通するようになると、債権と物権

が分離し、そこでは取引の安全性が重要な関心事となった。日本でも民法制定時点では、

個人(おもに親族)間での取引が中心であったため、形式的審査主義でも、公信力が無く

ても問題は無く、フランス民法の考え方と矛盾するところはなかったという。

しかし、土地が商品として流通するようになると、フランスではそれまでの考え方では

安全性を確保するのに不十分となり、公証人制度でそれを補完するようになった。それに

対し、ドイツは当初から登記に公信力を認め、商品流通を媒介する近代的な第三者公示と

して機能しているが、それは当初から近代的観念を持っていたというより、従来の慣習に

よるものだという。一方、日本では不十分なままであり、実質的に戸籍制度が公信力を補

完してきたが、法的矛盾を抱えたままのため判例で安全性を確保する事態になっている。

しかし、戸籍による補完機能も、水野(2005)が指摘するように遺言の増加で危機的状況

になっている。

次の図表は、諸外国の登記における真正性の担保を整理したものである。日本と同じく

登記における公信力を認めていない国として、フランス、アメリカ、韓国がある。アメリ

カでは、公信力を認めない代わりに、権原保険制度を充実し、万が一の場合の取引者を保

護する仕組みが整備されている。

このように民法学者からも現在の物権法の考え方に疑問が出されており、小柳(2015)

も「登記制度に土地情報基盤としての役割が期待されているにも関わらず、登記と実態と

の乖離が災害対策や地域環境整備などの障害になっている」と登記簿の実態との乖離に対

して批判している。

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図表 10 登記の真正性の担保

(出所 法務省 http://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI43/minji43-7-2.html)

5.3 行政による民民問題への不介入

なお、登記簿に公信力を与え、登記官に実質的な審査権限を与えるということに対し、

行政が民と民との問題に介入できるのかという指摘もあるだろう。つまり、不動産の取引

を私法の問題と捉えるか、公法の問題と捉えるかという問題である。換言すれば、私人間

の取引の問題なので国として関与しないと捉えるか、個人の生存権にも関わる重要な取引

のため国として関与すべきと考えるかという問題である。

現代の社会構造からすれば、個人の一般的な不動産の取引は居住用であり、多額の資金

を必要とする。つまり、個人にとって、土地に関する取引は生存権にも関わる重大な取引

であるが、それにも関わらず「公信力が無いから取引する者を保護しない」ことは、憲法

25 条で規定されている「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を損なうことにもつ

ながると考えられる。

不動産学の立場から、小川(2013b)は「登記に私法の領域の事項のみを登記すべきである

という考え方は今日の土地取引にとって時代遅れのものとなっている。登記から読み取る

ことができない土地に対する負担と公法上の制限が増えており、登記を前提とした私法上

の土地取引の安全性が脅かされている。そこで、登記を公法の領域の法律関係を明確にす

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るためにも利用し、登記手続を法治国家の原則と手続法の解釈に適合させる努力が必要と

なる」と指摘している。

いくら民と民との問題とはいえ、「個人の自由」ばかりが尊重されることによる弊害も現

代社会においては多く見られ、その行き過ぎを是正すべきという考え方に傾きつつある。

例えば、行政機関を対象とする個人情報保護法が制定されたのは 1988年であるが、民間を

含む個人情報保護法が 15 年遅れの 2003 年に成立している。これも、民間だけに任せてい

ては社会的な問題が大きくなるというコンセンサスがあったからこそである。

また、自民党の憲法改正草案でも、次に示すように行き過ぎた「個人主義」を改めよう

という方向性が示されており、権利には責任と義務が伴うことも明記されている。無論、

安易な行政の介入は問題であり、社会的な要請であるのかについて議論を尽くし、国権の

最高機関で判断すべきと考える。

図表 11 自民党憲法改正草案

自民党改正草案 現行憲法

(国民の責務)

第十二条

この憲法が国民に保障する自由及び権利

は、国民の不断の努力により、保持されな

ければならない。国民は、これを濫用して

はならず、自由及び権利には責任及び義務

が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩

序に反してはならない。

(国民の責務)

第十二条

この憲法が国民に保障する自由及び権利

は、国民の不断の努力によつて、これを保

持しなければならない。又、国民は、これ

を濫用してはならないのであつて、常に公

共の福祉のためにこれを利用する責任を負

ふ。

(人としての尊重等)

第十三条

全て国民は、人として尊重される。生命、

自由及び幸福追求に対する国民の権利につ

いては、公益及び公の秩序に反しない限り、

立法その他の国政の上で、最大限に尊重さ

れなければならない。

(人としての尊重等)

第十三条

すべて国民は、個人として尊重される。生

命、自由及び幸福追求に対する国民の権利

については、公共の福祉に反しない限り、

立法その他の国政の上で、最大の尊重を必

要とする。

(出所 「日本国憲法改正草案(現行憲法対照)」自由民主党 平成 24 年 4月 27日決定)

6. 具体的な解決方法について

土地所有者に関する問題を解決するためには、次の図表 12に示すように「土地情報の大

もとである不動産登記簿に常に最新の土地所有者が記載されている」状態にしなければな

らない。そうすれば、各自治体で管理している土地情報のシステム、全国農地ナビ、全国

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森林クラウド12へと最新の所有者情報が自動的に流通し、土地の有効活用が図られることに

なる。

そのためには、土地所有者が「不動産登記をしなければならない」という意識づけ、お

よび登記官が「登記簿が常に最新の正確な情報であるよう管理しなければならない」とい

う意識づけにおいて、法的な担保が必要となる。現状ではこの 2 つの行為において、法的

な担保がなされていない。

その理由は、民法が土地所有者の権利を保護することのみに重点を置いており、土地所

有者にとっては現在の法律で何ら問題を生じないからである。しかし、土地を利用しよう

とする側から見れば、前述したように様々な問題が生じている。民法第 1 条の「公共の福

祉」に照らし合わせて考えるとともに、「所有者の登録」と「登記簿の適正な管理」につい

て法的な担保をすることが土地所有者の権利保護にもなるのであれば、2つの法的な担保を

行うことは民法の主旨に則ったものと考えるべきだろう。

しかし、これらの法的な担保については、民法の根幹に関わる問題も含んでおり、単な

る法改正だけでは解決することが難しい。以下に法的な問題を整理するとともに、現実的

な解決策について提案する。

図表 12 不動産情報の流れのあるべき姿

(出所 筆者作成)

12 現在の森林クラウドは標準化のためのプロトタイプであり、この「全国森林クラウド」

は将来的な姿として筆者が想定したものである。

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6.1 法的問題の整理

まず、土地所有者が不動産登記をしなければならないという意識づけを法的にどのよう

に担保するかが問題となる。民法の性格上、義務付けはできても、罰則規定を設けること

は好ましくない。土地の商品価値が高い地域では、自分の権利を主張するため登記を行う

ことが一般的である。しかし、そうでない地域では、所有権は強いものであるから他人が

簡単に侵害できず、煩雑な手続きと費用負担がかかる登記をわざわざする必要がないとい

う意識がある。

つまり、簡易な手続きと安価な手続き費用という環境を整えるとともに、「強い所有権」

思想を変えていく必要がある。このような思想があるため、土地に関する情報提供も阻む

傾向13があると指摘する学者もおり、この思想を改革していかない限り、単に義務付けをし

ても登記が進まないことになりかねない。その一方で、農地法や森林法の改正などで見ら

れるように所有から利用を重視した土地政策へと変化しつつあり、強い所有権が逆に「所

有権放棄」の足かせとなる場合もある。

方向性としては、「登記を義務付ける」一方で、「所有権放棄を認める」法的政策および

「簡素な手続きと低廉な登記費用14」の政策を実施するとともに、長期的には思想的な変革

も促していく必要がある。「義務付け」は私法に対する官による不当な介入と受け取られる

可能性があるが、「未登記放置」は他者の利用権を侵害するものであり、民法1条「私権は、

公共の福祉に適合しなければならない」の基本原則に反すると考えることができる。

次に、法務局の登記官が、不動産登記簿と現状とを合致させるための法的な裏付けが必

要となる。現状では、「不動産登記簿に公信力はない」という解釈が定説となっており、登

記官が不動産登記簿と現状とを合致させ、最新状態に保持するための法的裏付けがない状

況にある。「不動産登記簿に公信力はない」という解釈の法的根拠として、民法では物権変

動について意思主義を採用していることが指摘されている。すなわち、登記官に不動産登

記簿と現状との一致を義務付けるだけでなく、長期的には民法の物権変動に関する法理論

を再構築しなければならないという問題を抱えている。

この問題を抜本的に解決しようとすると、民法の基本法理にまでさかのぼって再検討が

必要となり、かなり時間を要すると考えられる。そこで具体的な方策としては、短期的解

決方法と長期的解決方法に分け、抜本的な解決策は長期的解決方法としてそれぞれを実行

していくべきと考える。特に長期的解決は議論に時間がかかると考えられ、短期的解決方

法と長期的解決方法は同時に検討を開始すべきである。

13 このため日本における土地情報の提供は諸外国に比べてかなり遅れている。その実態に

ついて巻末の「補遺 土地に関する情報提供について」で補足したので参照されたい。 14 登録免許税は、相続による所有権移転登記の場合、固定資産税評価額×0.4%。そのほか、

登記簿謄本手数料と司法書士報酬がかかる。手続きコストが一律であるにもかかわらず、

固定資産税評価額と連動することに疑問がある。

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6.2 具体的解決方法の提案

6.2.1 短期的解決方法

権利者に登記簿への所有者登録(マイナンバーも登録)を義務付け、登記官には実質

的な審査権限を付与して登記内容と現状との一致を図り、登記簿に実質的な公信力を与

える。その際には不動産登記簿へのマイナンバー導入を図り、すでに導入計画のある戸

籍マイナンバー(戸籍クラウド)を同時に活用していく。

実質的な公信力の付与

不動産登記法においては、台帳の正確な記録を確保するための措置として登記官の「責

務」や「正確な記録」という記載も見当たらず、実質的な公信力を与えるものとはなって

いない。登記官に実質的な審査権限を与えるため、現状の調査権限の拡充を図ることも重

要である。住民基本台帳法を参考に、下記の文言を追加する。

「不動産所有者に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、不動産所有者

に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければな

らない。」

「不動産所有者は、常に、不動産所有者としての地位の変更に関する届出を正確に行

なうように努めなければならず、虚偽の届出その他不動産登記簿の正確性を阻害する

ような行為をしてはならない。」

「登記官は、その事務を管理し、及び執行することにより、又は第 24条若しくは第 29

条の調査によつて、不動産登記簿に脱漏若しくは誤載があり、又は誤記若しくは記載

漏れがあることを知つたときは、届出義務者に対する届出の催告その他不動産登記簿

の正確な記録を確保するため必要な措置を講じなければならない。」

「(調査事項の拡充)

第○条 登記官は、定期に、第○条の規定により記載をすべきものとされる事項につい

て調査をするものとする。

2 登記官は、前項に定める場合のほか、必要があると認めるときは、いつでも第○条

の規定により記載をすべきものとされる事項について調査をすることができる。

3 登記官は、前二項の調査に当たり、必要があると認めるときは、当該職員をして、

関係人に対し、質問をさせ、又は文書の提示を求めさせることができる。

4 当該職員は、前項の規定により質問をし、又は文書の提示を求める場合には、その

身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければな

らない。」

相続未登記への対処

相続未登記について、登記官によって相続権者を特定し、職権による共同登記(所有者

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のマイナンバーも登録)を行う。一定期限内に登記の整理を要請し、登記内容の変更を促

す。また、近年遺言の激増により戸籍だけでは相続者が特定できない状況にあり、相続者

における遺言の調査も必須とする。

なお、マイナンバー法附則第 6条 1項で、「政府は、この法律の施行後三年を目途として、

(中略)範囲を拡大すること」について検討し、措置を講ずるとしている。相続者の特定

において必要となる戸籍については、すでにマイナンバー導入(および戸籍クラウドの実

現)が検討され、2019年通常国会に法案が提出される予定である。不動産登記においても、

戸籍のマイナンバー導入と同期を取り、マイナンバー導入の法改正を準備していく。

重要なことは、マイナンバーがあれば権利者への連絡が確実にできることである。マイ

ナンバーが無い場合、権利者を探索するために多大な労力がかかることになる。なお、外

国人のマイナンバーについては、パスポートを介して国籍地の IDと連携できるよう法務省

で検討を進めること。

不動産登記簿の定期的な内容確認

不動産登録されたマイナンバーを活用して、逐次自治体の住民基本台帳情報(または、

地方公共団体情報システム機構の保有する情報)とチェックし、基本 4 情報を最新状態に

保つ。また、死亡が確認され、かつ相続未登記状態の場合は、相続権者に連絡を行って代

表相続人を確定し、登記を促すとともに、一定期間内に登記しない場合には職権で相続権

者全員の共同登記を行う。さらに、情報に変更があった場合には、更新情報を速やかに自

治体へ電子データで送付する。

放置された土地の処分

所有者不明で相続財産管理人制度や不在者財産管理人制度が活用できず、放置されたま

まである土地の場合、または相続放棄された土地の場合、民法 239 条 2 項「所有者のない

不動産は、国庫に帰属する」により、登記官によって国庫帰属の事務手続きを行う。また、

原野商法によって販売された土地など管理不能となった土地の所有権放棄については、民

法でその手続きを規定し、国庫に帰属させる。また、土地が危険な状態などの場合は、所

有者の負担についても規定する。なお、国庫に帰属した土地について、最終的な帰属や土

地の管理について国と自治体でルールを策定することとする。民法では、「所有者のない不

動産は、国庫に帰属する」となっているが、実質的に自治体が管理せざるを得ない場合も

あり、農地の場合は中間管理機構などが管理する場合もあると考えられる。

国民にとって使いやすい制度への改革

登記簿の簡易化、登記手数料の低廉化または無料化、情報提供の無料化等、所有者の利

便性を考慮した制度へ変革する。

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6.2.2 長期的解決方法

(強い所有権と意思主義に関する法理の再構築)

「強い所有権」問題について、国民の意識改革を含め憲法議論のなかで国民のコンセ

ンサスを得ていく。さらに、物権変動の意思主義と公信力の問題についても、民法(物

権法)見直しの議論のなかで、現代の社会情勢を考慮しながら再検討していく。

① 「強い所有権」問題について

強い所有権は、これまでの慣習も大きな影響を及ぼすものと考えられ、農地法や森林法

が「利用」に重心を置く方向に改正されたことも踏まえ、憲法に関する議論や民法(物権

法)見直しの議論のなかで、国民のコンセンサスを得ていく必要がある。

特に、これまでも法学者から指摘されている日本の所有権の特異性について、民法第 1

条の公共の福祉の観点および欧米法との比較の観点から、現代の社会的課題を解決する方

向性で見直していくべきである。

また、私法に対する官の介入はなるべくすべきではないという思想で現在の民法は制定

されているが、土地の商品化の進展とともに自由権だけでなく社会権的な観点からの要請

があることを考慮し、その思想を再考していくべきである。

② 公信力の問題について

民法(物権法)の見直しのなかで、民法 176 条の意思主義および 177 条の第三者対抗に

ついての考え方を再検討し、現代の不動産取引における判例や実態を踏まえた内容に改め、

不動産登記の公信力についても民法で裏付ける。

(物権の設定及び移転)

第 176条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第 177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する

法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

実際に、「(実質的に)公信力がある」という定説に反論する学説も存在し、日本人の慣

習として不動産登記によって所有権が移動したと認識しているという学説もある。また、

水野(2005、2014)は「日本では戸籍によって、不動産登記簿の公信力を担保している」

ことを論証している。そして、判例では 94条 2項の類推適用によって(実質的に)公信力

を認めているように、現代社会においては土地取引の信頼性を担保するために、登記簿の

公信力を認めざるを得ない状況になっている。

また、177条の解釈について、学説としては対抗力として解釈する立場と公信力として解

釈する立場がある。そして第 5 章で前述したように、田山(2008)によれば対抗力派の反

論として、公信力説が解釈論として成立するためには次の 5 つの反対論を克服する必要が

あると指摘しており、これについてここで克服を試みる。

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① 登記に公信力を認めてまで不動産取引の保護を図らなければならない社会的必要

性はない。

② 公信力を認めると、不動産取引を容易にし、不動産の商品化を助長する。

③ 登記官に実質的審査権が認められていないため、登記に公信力を付与すると安全が

脅かされる。

④ 民法の意思主義(=対抗要件主義)と矛盾する。

⑤ 地積などを含む権利の実態が正確に登記に反映されていないため、公信力を付与す

るのは危険。

まず、②についてはすでに不動産は商品化しており、いまさら助長するまでもない。そ

して不動産取引を容易にしなければ、土地の有効活用も図れない。このような土地の有効

活用および適切な管理という社会的背景があるため、①の保護も必要となる。実際、司法

ではそれに対応した判例を構築している。

③については、過去の判例15でも偽造印鑑証明書を看過した登記官(国)に対する損害賠

償が認められており、登記官に実質的審査権を与えるべきと考える。

④は物権変動の考え方から民法を見直すべきである。そもそも公証人制度の無い日本に

おいてフランス法の考え方をそのまま踏襲すること自体が現代にそぐわなくなっている。

もともとフランス法とドイツ法の折衷案という中途半端であった物権法の体系を今こそ見

直すべきである。

⑤については、法 14条地図を完全に整備することは無い物ねだりにしかならない。地図

が法 14条地図なのか、いわゆる古い公図であるのかを明確にしたうえで公信力を付与する

しかない。古い公図の場合は、所有権については公信力を付与するものの、地理空間的な

所在や面積・形状まで信頼を担保するものではないことを明確にすべきである。

6.3 実現可能性と今後の課題について

これまで不動産登記に関しては様々な社会問題が生じているにも関わらず、抜本的な対

策が取られなかった背景として、土地の問題は憲法解釈や民法の改正という大きな法的問

題に発展するために意識的に避けられてきたと考えられる。確かにこれまでは、憲法改正

という命題自体がタブー視され、国会の状況を見ても現実性はゼロに等しかった。また、

民法についても制定以来 100 年以上も大きな改正が行われることなく、根底から考え直す

ことは非現実的であると捉えられても不思議ではなかった。しかし、現在の社会はこれら

の環境が一変しており、大きな法的問題に立ち向かう条件が揃いつつある。

強い所有権問題と憲法解釈について言えば、2016 年の参議院選挙で改憲勢力が初めて衆

参両院で 2/3に達し、実効性のある憲法議論ができる環境が整ったことである。憲法 96条

で「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、

15 千葉地判 平 12.11.30 判タ 1110-150

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国民に提案してその承認を経なければならない」と厳格な改正手続きを定めているため、

これまでは憲法議論が起きても現実味がゼロであったが、今回はその現実味が大いに増し

ている。たとえ憲法条文が改正されなくとも、国民の権利と公共の福祉に関する憲法議論

のなかで、これまでの強い所有権という思想が修正される可能性もあると考えられる。

また、強い所有権が国民の足かせになりつつあるという現実的な問題の存在も大きい。

第 3 章で取り上げたが、所有権が強いということは、換言すれば「所有権の放棄ができな

い」ことにもつながる。人口減少社会にあって管理不能の土地を所有することはリスクで

あり、リスクを減らしたいと考える国民も多くいるはずである。所有権が放棄できるのか

できないのか、法学者によっても見解が異なるが、「公共の福祉」の観点から考えた場合、

ドイツやフランスの事例を参考に一定の条件のもとに所有権の放棄を可能とする制度を制

定すべきだろう。そして、所有権放棄を認める代わりに、強い所有権という思想を同時に

改めさせることを制度設計のなかに組み込むという取引が可能であると考えられる。

もう一つの民法改正については、「民法の一部を改正する法律案」が 2015年 3月 31日に

閣議決定され、現在も継続審議扱いとなっている。改正項目は 300 項目以上に及び、実に

120年ぶりの大改正と言われている。今回の改正は債権法の分野に限られているが、積み重

ねられてきた判例を条文として明記し、国民にわかりやすいものにしようという主旨であ

る。この主旨に則るならば、債権法だけでなく物権法も国民にわかりやすくすべきという

議論が出てきても矛盾は無い。「超絶技巧」と評される司法によるアクロバット的な解釈で

取引の信頼性を担保するのではなく、むしろ土地の取引の信頼性という現代的な要請に基

づいて、土地に関する物権変動の法理論から構築し直し、国民にわかりやすい法制度へと

改正すべきである。今やその環境が整ったと考えてよいだろう。

また、前述した通り、遺言の激増によって現状の制度(登記簿と戸籍による実質的な公

信力)が揺らぎ、相続訴訟が混乱状態になっているという社会問題が指摘されている。民

法制定当時では、農業中心の社会であった土地の取引も親族間で行われ、戸籍の存在が登

記簿に実質的な公信力を与えるものとして機能し、社会問題は生じなかった。それから社

会構造は大きく変化しており、登記簿の公信力について現代的な社会背景を踏まえて見直

ししなければならない機運が生じているということができる。

今後の課題としては、土地所有者不明が引き起こす経済的な損失について定量的な把握

が必要である。自治体の税業務だけでなく、開発事業や農業・林業にまで及ぶ広範囲な問

題であることは示したとおりだが、その問題の大きさを経済的に定量化することが非常に

難しい。あまりにも範囲が広すぎることが一つであるが、所有者の調査という事務を見て

も、1件あたり一日で終わることもあれば何年もかかる場合があり、かなりばらつきがある

のが実態である。しかし、定量的な把握がある程度できなければ、社会を動かす原動力と

はならない。今後、自治体、研究者、関係者などのネットワークを通じて、この難題に取

り組んでいきたい。

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補遺 土地に関する情報提供について

研究レポートの主旨とは異なるため、土地に関する情報提供についてここで補足してお

く。土地所有者不明問題を解消することは、土地を効率的に活用するために必要であると

ともに、不動産取引を行う者の権利を保護するためにも必要である。この主旨から考える

ならば、不動産に関する正確な情報を公開していくこともまた重要な視点であると考えら

れる。

不動産学からの立場からも、小川(2013a)は「そもそも不動産登記制度は、不動産取引の

安全と円滑化のための制度であるから、登記簿は不動産取引に関与する者に対してこれを

公開し、不動産について完全な情報を与えるものでなければならない」、「不動産取引市場

の透明性を高め、不動産取引の活性化・効率性を図るには、権利関係のみならず、売買価

格、取引不動産の特性、品質など様々な周辺情報の公開も必要であるし、その制度設計も

なすべきである」と指摘している。

ここでは日本とアメリカの事例を比較し、日本における情報公開・情報提供における制

約がいかに多いかを確認してみたい。

日本における不動産情報は、インターネットの登記情報提供サービスで閲覧できる。こ

のサービスは一般財団法人民事法務協会によって運営されている。情報の入手は有料であ

り、図表 13に示すように、それぞれの情報料金のほか 1件につき民事法務協会の手数料(17

円)が含まれている。また、図表 14と図表 15のようなサンプルがインターネットで入手可

能であるが、取引価格等の情報は無い。

図表 13 登記情報提供サービスの利用料金

(出所 http://www1.touki.or.jp/)

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図表 14 登記情報提供サービスが提供する全部事項のサンプル

(出所 http://www1.touki.or.jp/)

図表 15 登記情報提供サービスが提供する地積測量図のサンプル

(出所 http://www1.touki.or.jp/)

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一方、アメリカでは各自治体が不動産情報を提供しており、インターネットで無料で情

報提供している。一つの事例として、バージニア州フェアファックス郡における不動産情

報の提供を概観する。図表 16に示すように GISで不動産の位置や所有者・取引価格が公示

されているだけでなく、図表 17のように所有者や取引価格の履歴まで公開されている。事

例では、ネルソン・ホーン氏からジャック・ゴールドストーン氏が 2003年に 95 万 5千ド

ルで購入したことがわかる。それだけでなく、2000 年以降の土地と建物の価格推移まで明

示されており、土地と建物のトータルでは 2008年に 129万ドルまで価格が上昇したことが

わかる。そして、現在の価値としては土地が約 51 万ドル、建物が約 65 万ドルであること

も示されている。

図表 16 アメリカの不動産情報提供

(出所 Fairfax County, VAのウェブサイト)

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図表 17 所有者名と所有者の履歴、土地・家屋の価値の推移まで公開

(出所 Fairfax County, VAのウェブサイト)

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研究レポート一覧

No.436 電子政府から見た土地所有者不明問題 -法的課題の解決とマイナンバー-

榎並 利博 (2017年1月)

No.435 森林減少抑制による気候変動対策 -企業による取り組みの意義-

加藤 望(2016年12月)

No.434 ICTによる津波避難の最適化 -社会安全の共創に関する試論-

上田 遼(2016年11月)

No.433 所有者不明の土地が提起する問題 -除却費用の事前徴収と利用権管理の必要性-

米山 秀隆(2016年10月)

No.432 ネット時代における中国の消費拡大の可能性について 金 堅敏 (2016年7月)

No.431 包括的富指標の日本国内での応用(一) 人的資本の計測とその示唆 楊 珏 (2016年6月)

No.430 ユーザー・市民参加型共創活動としてのLiving Labの現状と課題

西尾 好司 (2016年5月)

No.429 限界マンション問題とマンション供給の新たな道 米山 秀隆 (2016年4月)

No.428 立法過程のオープン化に関する研究 -Open Legislationの提案-

榎並 利博 (2016年2月)

No.427 ソーシャル・イノベーションの仕組みづくりと企業の 役割への模索-先行文献・資料のレビューを中心に-

趙 瑋琳李 妍焱

(2016年1月)

No.426 製造業の将来 -何が語られているのか?-

西尾 好司 (2015年6月)

No.425 ハードウエアとソフトウエアが融合する世界の展望 -新たな産業革命に関する考察- 湯川 抗 (2015年5月)

No.424 これからのシニア女性の社会的つながり -地域との関わり方に関する一考察-

倉重佳代子 (2015年3月)

No.423 Debt and Growth Crises in Ageing Societies: Japan and Italy Martin Schulz (2015年4月)

No.422 グローバル市場開拓におけるインクルーシブビジネスの活用-ICT企業のインクルーシブビジネスモデルの構築-

生田 孝史大屋 智浩加藤 望

(2015年4月)

No.421 大都市における空き家問題 -木密、賃貸住宅、分譲マンションを中心として-

米山 秀隆 (2015年4月)

No.420 中国のネットビジネス革新と課題 金 堅敏 (2015年3月)

No.419 立法爆発とオープンガバメントに関する研究 -法令文書における「オープンコーディング」の提案-

榎並 利博 (2015年3月)

No.418 太平洋クロマグロ漁獲制限と漁業の持続可能性 -壱岐市のケース-

濱崎 博加藤 望生田 孝史

(2014年11月)

No.417 アジア地域経済統合における2つの潮流と台湾参加の可能性

金 堅敏 (2014年6月)

No.416 空き家対策の最新事例と残された課題 米山 秀隆 (2014年5月)

No.415 中国の大気汚染に関する考察 -これまでの取り組みを中心に-

趙 瑋琳 (2014年5月)

No.414 創造性モデルに関する研究試論 榎並 利博 (2014年4月)

No.413 地域エネルギー事業としてのバイオガス利用に向けて 加藤 望 (2014年2月)

No.412 中国のアジア経済統合戦略:FTA、RCEP、TPP 金 堅敏(2013年11月)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/

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