4
NIDEC SANKYO ●[日本電産サンキョー] SINCE1946 ~ VOL.127 14 3Photo/Tomoaki Tsuruda(WPP) NIDEC SANKYO Archives Text/Teruhiko Doi 1950年代長野県下諏訪町の同社工場内にて オルゴール製造風景。写真/NIDEC SANKYO 「三協精機製作所」として オルゴール製造を行っていた同社は、 2004年に日本電産のグループ会社となる。 2005年から「日本電産サンキョー」に社名変更。 91

NIDEC SANKYONIDEC SANKYO [日本電産サンキョー] SINCE1946~ VOL.127 少なくないと思う。が最初だ、と思う人はツールはエジソンのロウ管実験機械を通した音楽を聴くための生の演奏以外で、

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: NIDEC SANKYONIDEC SANKYO [日本電産サンキョー] SINCE1946~ VOL.127 少なくないと思う。が最初だ、と思う人はツールはエジソンのロウ管実験機械を通した音楽を聴くための生の演奏以外で、

NIDEC SANKYO●[日本電産サンキョー]SINCE1946~

VOL.127

生の演奏以外で、

機械を通した音楽を聴くための

ツールはエジソンのロウ管実験

が最初だ、と思う人は

少なくないと思う。

〝録音〞という観点で見れば

それは正しい。

しかし〝自動演奏〞という観点なら

「オルゴール」の方が

ずっと歴史は古い。

14世紀のカリヨンを源流とする

オルゴールの長い歴史はいま、

スイスのリュージュ社と

中国のユンシェン社、

そして日本の

「日本電産サンキョー(ブランド名NIDEC)」の

3社が世界をリードしている。

市販される中高級機では

世界のトップシェアを誇る

日本電産サンキョーの

懐かしくて心温まる

オルゴールの世界を覗いてみた。

Photo/Tomoaki Tsuruda(WPP)    NIDEC SANKYO ArchivesText/Teruhiko Doi

1950年代長野県下諏訪町の同社工場内にてオルゴール製造風景。写真/NIDEC SANKYO

「三協精機製作所」としてオルゴール製造を行っていた同社は、2004年に日本電産のグループ会社となる。2005年から「日本電産サンキョー」に社名変更。

91

Page 2: NIDEC SANKYONIDEC SANKYO [日本電産サンキョー] SINCE1946~ VOL.127 少なくないと思う。が最初だ、と思う人はツールはエジソンのロウ管実験機械を通した音楽を聴くための生の演奏以外で、

93

シェイスクピアの戯曲、

ロミオとジュリエットの舞台となった

北イタリアのベローナは古くから

象嵌細工で模様を付けた木製家具製造で

知られており、職人も多い。

そんな歴史ある象嵌細工が施された

「オルフェウス30弁イタリア製象嵌オルゴール」。

シンプルなデザインながらも

エレガントな造形で目を引く。

アールデコを彷彿させるような放射模様や

格子模様など、クラシックが主流の

オルゴールデザインが多い中、

イタリア風の洒落っ気が新鮮だ。

ちなみに同社の30弁以上の高級オルゴールは、

ギリシャ神話の吟遊詩人「オルフェウス」の

名がシリーズ名となっている。

19世紀ヨーロッパの工匠たちが磨き上げた

熟練の〝針打ち技術〞を現代に再現した、

繊細なメカニズムに注目したい。

羽生結弦監修モデル

 昨年の平昌オリンピックにおける鬼気迫

る演技で世界中を魅了した、男子フィギュ

アスケートの金メダリスト羽生結弦。その

羽生選手が初めてオリジナル監修したオル

ゴールが昨年秋に日本電産サンキョーから

発売。「YUZURU

羽生結弦写真集」の撮

影を担当したフォトグラファー能登直氏に

よる2017〜2018シーズンの競技写

真と、羽生選手の演技に欠かせないプログ

ラム曲を組み合わせたオリジナルオルゴー

ルだったが、10月販売分は即完売。11月以降

も引き続き販売が続けられている。左の写真

の製品は『羽生結弦・30弁クリスタルオルゴ

ール/SEIMEIタイプ』(価格4万86

00円)。氷上のビジュアル、同社高級品オ

ルフェウス30弁が奏でるあの「SEIME

I」、さらにファンには嬉しいサイン入り。

 羽生選手監修のオルゴールは全3タイ

プ6アイテム。30弁クリスタルオルゴール

の製品は他に「バラード第一番タイプ(ビ

ジュアル無し)価格4万8600円」があ

る。18弁の羽生結弦・ジュエリーケースオ

ルゴールは「ピュアホワイト/バラード第

一番」(価格1万5120円)、「パープル

/SEIMEI」(価格1万5120円)。

18弁の羽生結弦・ショッピングバッグオル

ゴールは「バラード第一番」(価格2376円)、

「SEIMEI」(価格2376円)。

問羽生結弦選手監修オルゴール専用お客様

窓口☎03-

6893-

3112(AM9:00

PM5:00

土日祝除く)

30弁象嵌 格子(EX190-I)曲=トップオブザワールド/カノンB/Summer(久石譲) 価格6万3000円

30弁象嵌 モノトーン(EX189-I)曲=ゴッドファザー愛のテーマ/月の光/ライムライト 価格6万3000円

30弁象嵌 カラフル(EX188-I)曲=L-O-V-E/ニューシネマパラダイス/星に願いを 価格6万3000円

92

Page 3: NIDEC SANKYONIDEC SANKYO [日本電産サンキョー] SINCE1946~ VOL.127 少なくないと思う。が最初だ、と思う人はツールはエジソンのロウ管実験機械を通した音楽を聴くための生の演奏以外で、

リンダーオルゴールを開発。

1995年には世界初の電

動式80弁ディスクオルゴー

ルの開発など、オルゴール

の歴史そのものを体現する

ような企業へと成長してい

ったのだった。

 現在、世界の市場は工芸

的な高級品のスイス・リュ

ージュ社、中高級品から廉

価版まで品質で名を馳せて

いる日本電産サンキョー、そ

して18弁を中心とした廉価

版の製造を手掛ける中国の

ユンシェン社によるほぼ寡

占状態。ちなみに日本電産サ

ンキョーの18弁の一部は中

国生産だが、コアパーツは日

本で作っている。そんな中、

世界の愛好家が認める逸品

が日本電産サンキョー社製

の「オルフェウス/ORP

HEUS」シリーズ。〝技能

者の感性〞という数値化で

きない職人技で仕上げられ

た世界最高峰のオルゴール

は、あらゆる面で他製品と

は一線を画している。

 オルゴール製造の肝は〝編

曲〞、〝ドラム〞、〝振動板作り〞

の3つ。オルゴールは楽曲

を最小限の音で表現する機

械なので、実は編曲者の感

性はいい製品の絶対的条件。

専門の編曲者が毎年400

曲以上も新たに音源を作り

上げ、2019年現在で1万

6000曲のストックが同

社内にあるという。この蓄積

は、他では絶対に真似でき

ないアドバンテージだ。音を

工業製品化しているという

点では、世界でも稀有な企

業と言えるのではないだろ

うか。工場内を見学すると、

100分の1㎜以下の精度

で揃えられたピンの打ち込

みと研磨、コンピュータ制

御された振動板の調律工程、

その後職人による手作業の

調律では1セント(半音の

100分の1)単位で調整

が行われている、0・05㎜単

位の振動板とピンの噛み合

い調整など、そこはまさに精

密機械と職人たちの手作業

による、技術と感性に支えら

れたモノ作りの現場だった。

 オルゴールはいま、ニッ

チなマーケット内にある製

品だ。音楽を聴く文化は、オ

ルゴール⬇蓄音機⬇レコー

ド⬇CD⬇メモリと進化し

ているが、鼓膜の振動で音

を聴く人間の構造が変わら

↑オルゴール製造の最初の工程は、まず編曲を行うこと。18弁で約15秒、50弁で60秒~135秒で楽曲をシェイプしていくのが編曲者の仕事。ちなみに1964年東京オリンピックのファンファーレは、同社編曲者の今井光也さんが作曲した。

ない限り、空気を伝わって

くる〝音〞は信号ではなく

情緒。そして情緒は、機械

を通して再現されたもので

はなく、機械そのものが鳴

る音に感じるもの。オーデ

ィオの究極は「原音再生」

だが、オルゴールは最初か

ら原音なのだから、それが

ライブであり、人の情緒に

より訴える音であることは

揺るぎない事実。いい楽器

といい演奏が人を感動させ

るように、いい編曲がなさ

れた最高級のオルゴールは

人を感動させてくれる存在。

どうやら我々はまた、世界

に誇るべき日本製品を再発

見したようだ。

日本電産サンキョーオルゴール株式会社代表取締役社長安藤勉氏

日本電産サンキョー株式会社オルゴール事業推進部事業統括部長長田重幸氏

平成最後の新製品おそらく平成最後となる新製品は、「吉祥文様をモチーフとした23弁オルゴール 青い蝶 こうもり 2種類」。西洋で生まれたオルゴールと、中国から世界へ広がった陶磁器、古来から大切にされてきた吉祥文様の融合。新しいオルゴールの世界が広がる。陶芸作家・森野彰人氏による製作。価格各5万4000円(青い蝶、こうもり)

わが母校の校歌が…?毎年400曲以上追加される同社の持ち曲の内、半分くらいは全国の小中高大学の卒業記念などで使われる学校校歌。母校の校歌がかなりの確率で発見できるかも?

 オルゴールの命

はムーブメントで

ある。要するに音

を奏でる仕組み。

主流は金属製の円

筒にピンを取り付

けて回転させ、鉄琴の弁を

弾いて音を出す「シリンダ

ーオルゴール」。クラシック

なタイプで突起の付いた円

盤を回して音を出す「ディ

スクオルゴール」もあるが、

現在では目にすることが少

なくなった。オルゴールは

精密機械だ。14世紀のベル

ギーで生まれたカリヨン

(音の違う鐘を打つ時計台

などの時計)を原型に、18

世紀末にはスイスの時計職

人が鐘の代わりに調律した

金属片を用いることを思い

つき小型化。このとき考案

された仕組みが、現代のシ

見よ! この精密なるシリンダーとピンを。見学時に撮影したこのシリンダーは、羽生結弦監修モデルの「SEIMEI」だった。

上:1950年代のオルゴール製造風景。諏訪の町ぐるみでオルゴール製造していたような時代。写真/NIDEC SANKYO下:1946年創業の地。ガレージというより山小屋創業。

日本電産サンキョー18弁オルゴールの変遷

感性で聴く〝オルゴール〞の世界を

ずっと追い求めて続けている、日本ブランド

リンダーオルゴールの原型

となった。その後ドイツか

ら安価で曲の変更も容易

なディスク式が登場。こち

らはジュークボックスの原

型として発展していった歴

史がある。いずれにしても

19世紀〜20世紀初頭には

多くのメーカーが乱立す

るほどのオルゴールブー

ムとなったが、やがてエジ

ソンの蓄音機発明によって

〝録音〞という概念が広まり、

オルゴール産業は衰退の一

途となる。

 そんな20世紀も中頃の1

946年(昭和21年)、戦後

GHQ支配下の日本で突然

オルゴール製造が始まる。

きっかけはGHQから〝帰

国する兵士のお土産〞とし

てのオルゴール製造の打診。

日本国内で本格的なオルゴ

ール生産がスタートしたこ

の年に創業した『三協精機

製作所(現日本電産サンキ

ョー)』は、その2年後に試

作第一号を完成させた。「バ

ケツの底を叩くような音だ

った」と当時を知る人は懐

かしむが、どうにかGHQ

に注文の200台を納入し、

帰国した兵士のオルゴール

を見た本国のバイヤーから

注文が入るようになった。

当時はメイドインオキュパ

イドジャパンの時代。ブラ

ンド名の「SANKYO」

の文字から、すでに大企業

だった三共製薬に海外から

の問い合わせが殺到したと

いう笑い話も残っている。

 同社が創業した長野県の

諏訪地域は、戦前は製糸業、

戦後は精密技術が集結して、

高度経済成長期には世界を

席巻するほどのハイテクタ

ウンとなった。その中心と

なったのがカメラ、時計、そ

してオルゴールだった。1

950年代、三協精機のオ

ルゴール製造は月産数万台

という量産ペースを実現。

しかし、ハイテクタウンと

はいってもその実情は、町

ぐるみで人員を導入した数

千人による手作業が生産体

制の中心。自社内のリソー

スを用いて機械化、自動化

ラインへの取り組みに着手

したのが1965年のこと

だった。このとき年産10

00万台。1990年には

年産9000万台、199

1年には年商150億で世

界シェア90%以上を誇るオ

ルゴールの一大製造メーカ

ーとなっていた。技術的に

は最小の18弁からスタート

し、日本企業らしく研究開

発に熱心でその技術力を高

めていき、1985年には

国内初となる50弁の高級シ

Sタイプ(1940年代~)/創業当時の一番古いモデル。骨とう品店でも発見できるかどうか。

2Sタイプ(1960年代~)/大量生産化された頃のモデル。一番売れたのではないか。

3Sタイプ(1980年代~)/40年近く経ってもその基本構造が変わっていないことに驚く。

94

Page 4: NIDEC SANKYONIDEC SANKYO [日本電産サンキョー] SINCE1946~ VOL.127 少なくないと思う。が最初だ、と思う人はツールはエジソンのロウ管実験機械を通した音楽を聴くための生の演奏以外で、

長野・原村にある日本電産サンキョーのオルゴール工場。ちなみに平昌金メダリストの髙木那菜選手は同社所属。

↑日本電産サンキョーオルゴール記念館「すわのね」広報部長の井桁道和氏(右)と同館支配人の長島邦英氏。魅力たっぷりの同施設の見どころを熱く語っていただいた。

メリーゴーランドが小さなオルゴールに。ピューターはスズを主成分とする低融点合金として産業革命時の英国で工芸品などの製造によく使われた。素材もデザインもレトロ。楽曲=カノン。 価格6696円。サイズ=W95×D95×H107㎜。

前に転がしても後ろに転がしても続けてメロディが流れる幼児向けオルゴール。人体に無害の塗料を使用し、幼児の「掴む」動作を促す。耳と手の協調性にも効果が期待できる。楽曲=となりのトトロ/ミッキーマウスマーチ/アンパンマンのマーチから選曲。価格5184円。サイズ=W100×D110×H90㎜。

ひとつの動力(ゼンマイ)で2つの50弁シリンダーを駆動。つまり合計100弁となるこの機構は世界初。ピアニストが奏でるクラシックの名曲をオルゴールで再現できるほど繊細な音色。マホガニー製。価格36万7200円。サイズ=W413×D195×H120㎜。

グランドピアノを模した30弁のオルフェウス。材質はMDFで象嵌の模様が印象的。楽曲はお好みのものを。価格4万3200円。サイズ=W160×D206×H96㎜。

クラシックな宝石箱を思わせるデザインの50弁オルフェウス。材質はMDFで象嵌、ピンクのボディはレトロな雰囲気。価格7万7760円。サイズ=W323×D184×H91㎜。

ピューターメリーゴーランド/05 ころころオルゴール リング 赤

50弁オルフェウス× 2 Concerto100

30弁オルフェウス EX1961 50弁オルフェウス EX242D/F/G/H

 オルゴールの製造と販売以外に、同社の重要な広

報事業であるオルゴール記念館「すわのね」の活動に

も注目したい。「すわのね」は中央本線下諏訪駅より

徒歩10分、諏訪大社下社秋宮参道沿いに位置する。内

外の貴重なオルゴールによるコンサートや、現在上

演中のミステリー仕立てのオルゴールライブ「ロー

ズの不思議な世界旅行」、オルゴール組み立て体験工

房、品揃え豊富なオルゴールショップ、オープンテラ

スもあるカフェなど、充実した内容。ここを目的に下

諏訪を訪れるのもありだ。

問日本電産サンキョーオルゴール記念館「すわのね」/

入館料=大人1000円、小中学生500円。団体割引

あり。開館時間=9:00〜17:30(3〜10月)、9:00〜17:

00(11月〜2月)。休館日=11月〜翌2月、毎週月曜日

(祝日の場合は翌火曜日)。住所=長野県諏訪郡下諏訪

町5805

☎0266-

26-

7300

http://www.nidec-sankyo.co.jp/m

useum/

お問い合わせは●日本電産サンキョー オルゴール事業推進部☎03-6893-3112

オルゴール記念館すわのね

メリーゴーランドやオルフェウスなどのオルゴール製品が4月より価格改定の予定。96