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“Mixed oligopoly” の有効性に 関する分析*

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Page 1: “Mixed oligopoly” の有効性に 関する分析*

論文

“Mixed oligopoly” の 有 効 性 に

関 す る 分 析*

太 田耕 史郎..

論 文1“Mixed oligopoly” の 有効 性 に 関す る分 析

1.は じ め に

し ば し ば 公 企 業(政 府 が 主 要 な 株 主 で あ る 企

業)と 私 企 業 が1つ の 寡 占 市 場 を 形 成 し,競 争 を

展 開 して い る.と りわ け 西 欧 の大 陸 部 で は 民 営 化

の 波 を経 た 現 在 で も 金 融,自 動 車,エ ネ ル ギ ー な

ど の 分 野 で 多 く の 事 例 を見 る こ とが 可 能 で あ り,

わ が 国 で も 金 融 部 門 に 民 間 銀 行 と 公 的 機 関 で あ る

郵 便 局 が 併 存 し,競 争 して 預 金 の 獲 得 に 努 め て い

る,こ う し た い わ ゆ る “mixed oligopoly(MO)”

は イ デ オ ロ ギ ー を 除 い て は 国 家 の 資 金 力 に依 拠 し

た 産 業(企 業)の 再 生 ・発 展 や 雇 用 の確 保 な どが

目 的 と さ れ て き た が1),Merrill and Schneider

(1966)以 降,理 論 的 に は 私 企 業 に 対 す る 規 制 や

公 企 業 の 独 占 に 代 わ る 市 場 介 入 の 手 段 と して1つ

の 正 当 化 が 図 られ て お り(そ の た め “regulation

by participation” と も 呼 ば れ る)2),そ こで は 公 企

業 の 資 金 力 で は な く,利 潤 を 追 及 す る私 企 業 と 社

会 的 厚 生 を 最 大 化 す る(と 期 待 さ れ る)公 企 業 の

行 動 原 則 の 相 違 が 重 要 な 意 味 を持 つ こ と にな る.

あ る い は,Galbraith(1962)が 買 手 側 に 見 い 出 し

た 独 占 ・寡 占 企 業 の 市 場 支 配 力 に対 す る 拮 抗 力

(countervailing power)を 同 じ売 手側 に創 出 す る も

の と み な す こ と もで き よ う.な お,同 様 の 効 果 は

租 税 ・補 助 金 政 策 に も期 待 で き る が,MOの 利 点

は 政 府 が 公 企 業 の 経 営 を通 じて 当該 市 場 に 関 す る

種 々 の 情 報 を 獲 得 で き る こ と に あ る と さ れ て い る.

本 稿 で は クー ル ノ ー ・モ デ ル を用 いた 基 礎 的 な

分 析(2節)でMOの 有 効 性 を 指 摘 し た 後 で,

そ れ が 公 企 業 と私 企 業 に生 産 効 率 の 格 差 が 存 在 す

る 場 合(3節),私 企 業 と公 企 業 の 複 占 か ら私 企

業 数 が(n-1)に 増 大 す る場 合(4節)に どの よ う

に影 響 され る か が検 討 さ れ る.こ れ ら に つ いて は

*本稿 の作成 に 当た り,筆 者 は本誌 の匿 名の レ フリー と郵 政省

郵 政研 究 所 の春 日教 測 主任 研 究官 よ り貴 重 な コ メン トを 戴い

た.記 して感 謝 した い.も ち ろ ん,本 稿 に 係わ るす べ て の責

任 は筆者 のみが 負 うもので ある.

**著者 は広 島修 道大学経 済科学部助 教授.

※ 本 稿は レフェ リーの 審査 を経た もので ある.1999年10月

受理.

1

) Parris,Pestieau and Saynor(1987)で は 西欧 にお ける公 企 業

(化)の 経繰や 目的が詳 し く紹介 されて いる.2}こ れ に関 する簡 潔 なサ ーベ イはSertel(1988)で 与え られ て

いる.Cremer,Marchand and Thisse(1989)も 参照 の こと.残 念

なが ら,わ が国 の 金融 部 門 に関 す る議 論 は郵便 貯 金 の肥 大化,

つ ま りそれ が 制度 の 趣 旨 に反 しな いか,民 間 の銀 行 を圧 迫 し

な いか,財 政投 融 資 の放 漫 化 を招 かな いか,と 言 っ た点 に集

中 して いる.た だ し,本 稿 で はあ る1市 場 を分析 対象 とす る

の に対 して,「 あ まね く公平 」な サー ビス の提 供 を責務 とす る

郵便 貯金 につ いて は採 算 地 域 と不採 算 地域 に市場 を 分割 して

,;義論す る必 要が あ る.こ れ につ いては,藤 田(1998)を 参照 の

こ と.

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Page 2: “Mixed oligopoly” の有効性に 関する分析*

公共選択の研究 第33号1999年

それぞれDe Fraja and Delbono(1987),(198g)と

Sertel(1988)に 類似の分析があるが,わ れわれは

限界費用が逓増するモデルではしばしば等閑視 さ

れる利潤(収 支制約)に 注 目し,前 者では巷間言

われるように公企業が非負の利潤 を計上する限 り

その存在は社会的厚生か ら見て問題がないのか,

後者ではある企業数でのMOが かえって社会的

厚生を悪化 させるとして,そ れではいかなる状況

でそれが望 ましい成果 を実現しうるのかという点

に検討を拡大する.

最後に,モ デルについて簡単に言及 してお こう

3).こ の種の研究では市場競争をクールノー競争

かシュタッケルベルク競争で描写するのが通例で

あるが,本 稿で前者を採用す るのは専 ら分析上の

便宜 による.公 企業を先導者とするシュタッケル

ベル ク競争が私企業同士のクール ノー競争よりも

社会的厚生を増大するのは当然であるが,井 手 ・

林(1992)は 「公企業に受動的な役割 を担わせな

が ら,社 会的厚生を改善」(p.241)し うることも

指摘 している.わ れわれは公企業の意思決定が主

導的か受動的かには関心を寄せないが,以 下のク

ールノー競争での議論はシュタッケルベルク競争

にも同様に適用が可能である.た だし,公 企業を

追従者とすると,3節 のMOが 有効 となる θの

範囲の特定はより繊細な問題 とな り(こ れは関連

する式での0の 次数による),4節 では(n-1)の

私企業をカルテルのような1つ の意思決定者とし

て取 り扱わざるをえな くなる.

2.基 本的分析

市場介入の手段 としてのMOの 効果 は私企業

と公企業の行動原則の相違に基づ く反応関数の相

違 よ り説 明 が な さ れ う る.本 節 で は 複 占 市 場 を 想

定 し,簡 単 な ク ー ル ノ ー ・モ デ ル を 用 い てMO

の 潜 在 的 な 有 効 性 を 確 認 して み よ う.

ま ず,対 称 的 な 私 企 業 を仮 定 し,市 場 の 需 要 関

数 と 各企 業 の 費 用 関 数,利 潤 関 数 が そ れ ぞ れ

.P=a-bq(1)

〓(2)

〓(3)

で 与 え られ る も の とす る4).こ こ で,pは 価 格,

qは 生 産 量,Fは 固 定 費 用,a,b,cは そ れ ぞ れ 正

の パ ラ メ ー タ で,添 字iは 企 業 を 示 す.こ の う ち,

U-字 型 の 費 用 関 数 を 仮 定 す る の はDe Fraja and

Delbono(1987,PP.418-419)で 説 明 され るheuristic

な 理 由 に よ る(脚 注4も 参 照 の こ と).(1)~(3)

式 よ り各 企 業 の 反 応 曲 線 は

〓(4)

とな り,(1),(4)式 よ り均 衡(安 定 か つ 一 意)で

の 生 産 量 と価 格 は

〓(5)

qC=2a/α(6)

pc=a(b+c)/α(7)

(3),(5),(7)式 よ り企 業 の 利 潤 は

〓(8)

(α=3b+c)と な る.

次 に,企 業2は 公 企 業 で あ り,社 会 的 厚 生

3)こ の他 に,Harris and Wiens(1980)の 支 配的企 業モデ ルで は

支 配的 企 業で あ る公企 業が 予 め最適 な 総供 給 量 と私 企業 の 生

産 量の 差 分 を生産 す る こ とを公 表 し,そ れ ゆえ私 企 業 は(最

適水 準 で の)価 格 を所 与 と して,そ れ と限 界 費用 が 一致 す る

よ う生 産 量 を設定 す る こ とにな るが,こ の とき 当然 なが ら各

企 業 の生 産 量 は 最適 とな る.し か し,Cremer,Marchand and

Thisse(1989)は 私 企 業の 生産 量(そ して,も ち ろん,公 企 業

の 費用 関数)に よ っ て は公企 業 に多 大 な損 失 が計 上 され るた

め,こ う した 戦略 は “hardly credible”(p.284)で あ る と述 べて

いる.

4)Cremer,Marchand and Thisse(1989)は 限界 費用が 一定 とな る

費 用条 件の 下で,ク ール ノー ・モ デル を用 いてMOの 効 果 を

分 析 して い るが,そ こで も収 支制 約 がな け れ ば公企 業 は価 格

が 限界 費 用 と一 致す る よ う生 産量 を 設定 す るの で,固 定 費用

分 の損 失 が発 生 す る こと にな る.他 方 で,社 会 的厚 生 水 準 は

価 格が 限 界 費用 に一 致 す るま で生 産 量の 増加 関 数 とな る ので,

収 支 制約 が あれ ば公 企 業 に とって それ は常 に拘 束 的 とな る.

そ の場 合,公 企 業 の生産 量 は 収支 制約 を満た す 最大 の 水 準 と

な るが,こ れ は均衡 ではa,bと 一定 の限界 費用Cの 複雑 な 関

数 となる.

46

Page 3: “Mixed oligopoly” の有効性に 関する分析*

論 文:“Mixed oligopoly” の 有効 性 に 関す る分 析

〓(9)

を最大化するものとすると5),企 業2の 反応曲線

〓(10)

とな り,(4),(10)式 より均衡での生産量と価格は

〓(11)

q2=a(b+c)/β(12)

q=α(b+2c)/β(13)

p=ac(b+c)/β(14)

(3),(11),(14)式 よ り私 企 業 の利 潤 は

〓(15)

(β=b2+3bc+c2)と な る6).こ こ で,(5),(6)式,

(11)~(13)式 をそ れ ぞ れ(9)式 に代 入 す る と

〓(16)

〓(17)

とな り,両 者 を 比 較 す る と

〓(18)

が 得 られ る.(6),(13)式 よ りq-c>Cqと な る の で,

こ の社 会 的 厚 生 の 増 大 は 総 生 産 量 の 増 大 に 帰 す ご

とができるが,こ こにMOの 有効性 と政策的価

値が示 されるので ある.た だし,(2),(11),(12),

(14)式 よ り価格 は公企業の限界 費用 と一致 し,

私企業のそれを上回るが,最 適な生産量では価格

は2企 業の限界費用と一致す るので,均 衡は最適

から乖離することになる.ま た,(8),(15)式 より

〓(19)

となるので,こ こでは競合す る公企業の存在が私

企業の経営 を圧迫す るという 「官業の民業圧迫

論」 自体は正 しいが,(18)式 よ りこれを含 めた

社会的厚生からの擁護を得ることはできない.

3.生 産効率格差の導入

行動原則を除 く対称的なMOは 社会的厚生を

増大することが示されたが,し ばしば指摘される

ように公企業の生産効率が私企業のそれよ り劣る

場合にはどうであろうか7).本 節では前節のクー

ルノー ・モデルを修正 して,こ の問題を検討 して

みよう.

いま公企業である企業2の 費用関数を

〓(20)

で示す ことにすると(公 企業の生産効率が劣る場

合はθ>1),こ の企業の反応関数は

〓(21)

とな り,こ れ と(4)式 で示される企業1の 反応

関数より均衡での生産量と価格 は

Qc1= aθc/γ(22)

5)井 手 ・林(1992)は 公企 業の 目的 関数を

Z=(1-θ)W+θ π2,θ∈[0,1]

に一 般化 して 分析 を行 い,「 社会 的厚 生の最 大化 を行 動 目的 と

す る純 粋な 公企 業は,目 的 関数 にわず かな 利 潤追 及 を認 め る

こと によ って,さ らに 高 い社 会 的厚 生 を実 現 で きる 」(p.240)

ことを見 い出 して いる.6)限 界 費 用 が一 定 の場 合,公 企 業 に 予算 制約 が な けれ ば私 企

業 は市場 か ら駆逐 され る(た だ し,脚 注1で 示 した理 由で 均

衡 は最適 とな る).限 界 費用 が逓 増す る場合 には私企 業 も正 の

生産 を行 う こと にな る が,こ れ は 各企 業が 生 産 を分担 す るこ

と で総 生産 費用 が 低 下 し,社 会 的厚 生 に正 の 影響 を 及 ぼす た

めで ある.

7)Waterson(1988)は 公企 業 と私 企 業の 生産 効 率の格 差 を外 的

な制 約構 造,最 高経 営 責任 者 の 報酬 を 決定 す る メカ ニ ズム と

経 営 者 と従 業員 の 内的 な関 係 か ら議 論 して いる.も っ と も,

外 的 な 制約 に は生産 物 市場 で の 制約(競 争圧 力 の有 無)が 含

まれ るが,こ れ はMOで は両 者 に同様 に 課 され る ことにな る.

なお,井 手 ・林(1992)は 金融 機 関 に つ いて「民 間 機 関で は

内的効 率性 は高 い と思 われ るが,反 面,倒 産 の危 機 がな いこ

とな どが 公 的機 関 の対 外的 契 約 の信 頼性 を高 め る」 と も考 え

られ る の で,「 いず れ が費 用 面 で優 位 に あ るか の 判 断 は難 し

い」(P.244)と して いる.

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Page 4: “Mixed oligopoly” の有効性に 関する分析*

公共選 択の研 究 第33号1999年

〓(23)

〓(24)

〓(25)

(γ=b2+(2θ+1)bc+θc2)と な る.そ れ ゆ え,社 会 的

厚 生 水 準 は(9),(20),(22)~(24)式 よ り

〓(26)

となる.こ れを(16)式 のW(qc)と 比較すると,

〓(27)

となり8),こ れが正となる0の 条件(g(θ)>0)は

〓(28)

で与え られる.そ れゆえ,公 企業の生産効率が相

対的に優る場合はもちろん,そ うでな くて も0が

(28)式 を満たす限 りMOは 社会的厚生を増大す

るが,θwcを 超える場合にはかえって社会的厚生

を減少させて しまうのである9).な お,(28)式

より必ずθwc>1と なるが,こ れはMOを 導入する

うえで重要な意味を持つ.

さて,MOが 有効 となる状況 を特定する,つ ま

り現実のθとθWcを 比較するため には各パ ラメー

タの値を把握する必要があるが,こ れは極めて繊

細な問題である.こ れに関連 して,わ が国では郵

便貯金が非負の利潤 を計上する限 り,郵 便局の貯

金サー ビスは社会的厚生を増大するという論調が

しばしば見 られる.そ こで,次 に,こ の命題 を簡

単 に 検 証 して お こ う.公 企 業 の 利 潤 が 非 負 とな る

条 件 は(3),(20),(23),(25)式 よ り

〓(29)

と な り,こ れ を θに つ い て 解 く と

〓(30)

が 得 られ る.命 題 は θπc∈(0,θwc)を 意 味 す る が,

これ は 常 に 成 立 す る わ け で は な い.表1はθwcと

θπcの 大 小 を 比 較 す る た め に そ れ ら を 決 定 す る 各

パ ラ メー タ に適 当 な 数 字 を 代 入 した もの で あ る が,

こ こで は この 関 係 は相 対 的 にaが 小 さ く,b,C,F

が 大 き い 場 合 に 限 ら れ る(厳 密 で は な い.θwcが

b,cの み の 関 数 で あ る の に対 してθπcはa,Fの 関

数 で も あ る こ と に 注 意 せ よ).つ ま り,公 企 業 と

私 企 業 の 生 産 効 率 に格 差 が あ る 場 合,公 企 業 の 利

潤 は 必 ず し もMOの 有 効 性 の 指 標 と は な らな い

の で あ る.

表1θwcθπcの 比較

4.寡 占市場への拡張

これまで一貫 して複 占市場を想定 してきたが,

De Fraja and Delbono(1987),(1989)は 企業数がn

に一般化される場合,生 産効率が同一でもその数

によってはMOは かえって社会的厚 生を減少さ

せるという興味深 い結論を導 出している.そ こで,

本節ではこれを詳 しく説明 し,ま た2節 で捨象さ

れた私企業の利潤制約を市場が維持可能な企業数

という形で議論に組み入れることにしよう.

8)g(θ)=b5 -b4c(5θ-6)-b3C2(5θ2+2θ-10)-b2C3(13θ2-8θ-6)

-bc4(7θ2-6θ-1)-c5θ(θ-1)9)井 手 ・林(1992)は 「公 企 業 の 市 場 占有 率 が 常 に 十 分 に 小 さ

い と き に は,官 民 均 衡 は 民 民 均 衡 よ り も 低 い 社 会 的 厚 生 しか

実 現 す る こ と が で き な い 」(p.240)と い う 命 題 を導 出 して い る

が,(22),(23)式 よ り ∂qc1/∂θ>0,∂qc2/∂θ<0と な る の で,こ れ は

わ れ わ れ の 分 析 結 果 と 一 致 す る.も ち ろ ん,公 企 業 の 市 場 占

有 率 は 各 パ ラ メ ー タ に よ り内 生 的 に 決 定 され る も の で あ る.

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Page 5: “Mixed oligopoly” の有効性に 関する分析*

論文:“Mixed oligopoly” の 有効 性 に 関す る 分 析

ま ず,n私 企 業 が ク ー ル ノー 競 争 を 行 う 場 合,

q-i=q -qiと す る と,各 企 業 の 反 応 関 数 は

〓(31)

と な り,こ れ を 集 計 し た も の と(1)式 よ り 均 衡

で の 生 産 量 と価 格 は

〓(32)

qc=na/δ(33)

pc=a(b+c)/δ(34)

(δ=(n+1)b+c)と な る.次 に,1公 企 業 と(n-1)

私 企 業 が クー ル ノー 競 争 を 行 う場 合10),私 企 業

全 体 の 公 企 業 に対 す る 反 応 関 数 は

〓(35)

と な り,他 方 で 公 企 業 の 反 応 関 数 は 私 企 業 の 数 と

は 独 立 で あ る の で,こ れ と(10)式 よ り均 衡 で の

生産 量 と価 格 は

〓(36)

〓(37)

〓(38)

〓(39)

〓(40)

(ε=b2+(n+1)bc+c2)と な る.(32),(36)式,(32),

(38)式,(33),(39)式 を 比 較 す る と

〓(41)

〓(42)

〓(43)

が,ま た(32),(33)式,(36),(38),(3g)式 を そ れ

ぞ れ(9)式(i=n)に 代 入 したW(qc)とW(qc)を 比

較すると

〓(44)

が 得 られ る が,こ の符 号 は複 占の場 合((18)

式)と は異なり,各 パ ラメータの値に依存するこ

とになる.企 業数については,(44)式 よ り

〓(45)

が満たされなければ,公 企業が社会的厚 生の最大

化を目指す よ りも,(私 企業が)自 己の利潤 を最

大化する場合の方が社会的に望ましい成果を実現

することになるのである.こ の幾分奇妙な結果を

図1(た だし,n=3)を 用いて解説 してみよう.n

私企業がクールノー競争を行 う場合 には,社 会的

厚生は需要曲線(D),各 企業の限界費用を水平方

向に加算 した市場の供給 曲線(Sn)と 生産量に対

応する垂線(qnC)で 囲まれた領域で測定されるが,

1公 企業が競争に参加 している場合 には,こ れに

(1)総 生産量の増加((43)式)に よる正の効果,

(2)私企業 の減産((41)式)に よ る費用減 少の正

の効果,(3)公 企業の増産((42)式)に よる費用

増加の負の効果が作用する.そ して,nが 大き く

なるとSn,Sn-1曲 線 とq,q,(n-1)q1k,(n-1)qciは 右

方に,qci,qc2は 左方に移動 し,あ る範囲内ではそ

れに伴 う(1),(2)の 減少分11)が(3)の 減少分12)を 凌

駕することになるのである(De Fraja and Delbono

は企業数 と(2),(3)の関係には言及していない).

次に,市 場が維持可能な企業数 を考慮に入れ,

その範囲内でMOの 有効性を検討してみよう.

10) Cremer , Marchand and Thisse(1989)は 脚 注4)で 触 れたモ デ

ル を用 いて,n企 業 内の何 社 を公企 業 とす るのが 望 ましいか を

分析 して いるが,こ れ も各パ ラメータの値 に依存す る.

11)〓12)〓

49

Page 6: “Mixed oligopoly” の有効性に 関する分析*

公共選択の研究 第33号1999年

図1W(qc)とW(qc)の 比較

市 場 にn私 企 業 が 維 持 さ れ る 条 件 は(3)式 に

(36),(40)式 を代 入 し た

〓(46)

とな り,こ れ をnに つ いて 解 く と,n〓2よ り

〓(47)

つ ま り市 場 の 企 業 数 と各 パ ラ メー タ の 値 は 前 者 が

後 者 に 従 属 す る 関 係 と な る.そ して,(45),(47)

式 よ り私 企 業 数 がn〓nπ〓nWで あ れ ば 市 場 がMO

をredundantと す る 程 度 に 望 ま し い企 業 数 を 維 持

す る こ と に な り,n〓nπ<nWま た はn<nw〓nπ で あれ

ば そ の1つ を 公 企 業 に転 換 す る,あ る い は新 た に

公 企 業 を 設 立 す る こ と で 社 会 的 厚 生 を 増 大 す る こ

とが 可 能 と な る13).し か し,n〓nπ の 場 合 に はMO

は 私 企 業 の 利 潤 を 負 に す る 可 能 性 が あ り,ま た

θwcとθπcの場 合 と同 様 に,nqwとnπ の 比 較 は 決 し

て容易でない.

5.お わ りに

単純な複 占モデルではMOは 社会的厚生を増

大するという命題が得 られるが,本 稿では,(1)公

企業 と私企業に生産効率の格差が存在する場合,

(2)私企業 と公企業の複 占か ら私企業数が(n-1)

に増大する場合にその有効性がどう影響 されるか,

そ してそれはなぜかということが分析された.(1)

では公企業の生産効率が劣る場合にそれがどの程

度まで許容 されるべきかは需要関数,費 用関数を

特定する各パラメータ(a,b,c,F)の 値 に依存す

ること,そ して公企業が非負の利潤 を計上する こ

とが必ず しもMOの 有効性の指標 とはならない

ことが指摘された.た だし,複 占においてθwc>1

となる ことは特筆してよいであろう.(2)で は先の

命題が妥 当す るの は各パ ラメータ と企業数(n)

の関係が2〓n<nu(b,c)と なる場合であり,ま た

市場が維持可能な企業数(nπ(a,b,c,F))を 考慮

すると,私 企業数がnWとnπ のいずれより少ない

場合にはMOが 私企業を退出させ ることな く社

会的厚生を増大 しうることが指摘された.そ れゆ

え,現 実にMOを 正当化するためには当該市場

を適切に記述するモデルを作成し,各 パ ラメータ

を算定 し,そ してそれが社会的厚生を増大するか

どうか,つ まり(27),(44)式 が正 となるか どうか

を確認する必要がある.し かし,こ れ らは決 して

簡単な作業でないので,本 稿で導出された関係式

をいささかでも明確な結論が得 られるよう解釈 し

直す必要があるかもしれない.こ れは今後の課題

としたい.最 後に,本 稿での分析 とは直接関係し

ないが,MOの 実施に当たっては,Galbraithの 次

の言葉 にも耳を傾 けるべきであろう.「 もとよ り

他の力を相殺するために育まれ,鼓 舞された力が,

独 自の道を歩みはじめる可能性は残 っている.こ

れは拮抗力の概念にたいするほとんどすべての批

判者,さ らには最も好意的な人び とさえもが不安

に思っていることである.… …それ については誰

も明快に語ることができない」.

13)こ こで簡単 に過剰 参入定 理(excess entry theorem)に 言及 し

てお こう.過 剰 参 入定 理 とは同 質的 寡 占市 場 では 均衡 企 業数

(nπ)が 次 善 の 企業 数 を超 過す る こと をい い,そ れ ゆ え企 業数が均 衡水 準 に ある 場合 に新 た に(公)企 業 を 設立 す る と社 会

的厚 生 は悪 化 して しま う.し か し,公 企業 か ら私 企 業へ の転

換 は新 たな 固定 費 用 を発 生 させ な いの で,社 会的 厚 生 を増大

す る余地 が 残 され る.も っ と も,そ れ は 当該 企業 の 生産 量 と

限界 費用 の増大 を伴 うの で,常 にそ うな るわ けで はな い.例

えば,b=1,c=0.1,F=1か つa=10で あれ ばnπは4,a=20で あれ

ば9と な り,こ れ らの値 を(44)式 に代入す る と,前 者 は正,

後者 は 負 とな る.過 剰 参 入定 理 につ い て は,伊 藤 ・清 野 ・奥

野 ・鈴村(1988,ch.13)を 参照 のこと.

50

Page 7: “Mixed oligopoly” の有効性に 関する分析*

論 文:“Mixed oligopoly” の 有 効 性 に関 す る分 析

参考文献

Cremer, H., M. Marchand and J.-F. Thisse, •gThe Public Firm

as an Instrument for Regulating an Oligopolistic Mar-

ket,•h Oxford Economic Papers, Vol.41, No.2,1989.

De Fraja, G. and F. Delbono, •gOligopoly, Public Firm and

Welfare Maximization: A Game-Theoretic Analysis,•h

Giornale Degli Economisti e Annali di Economia,

Vol.66, No.7-8,1987.

De Fraja, G. and F. Delbono, •gAlternative Strategies of a

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(お お た こ う し ろ う)

An Analysis of the Validity of •gmixed oligopoly•h

Koshiro Ota

Private firms and a public firm sometimes form an

oligopoly market, and compete one another. Espe-

cially on the European Continent, we can find many

cases even now after the trend of the privatization,

and we Japanese also have private banks and public

post office in financial market. The so-called •gmixed

oligopoly (MO)•h have aimed at the revivals and pro-

gresses of some industries (firms) or the securance of

employments depending on ample funds of the state,

but after Merrill and Schneider (1966), some examine

its validity as means of market intervention instead of

the regulation on private firms or the public monopoly;

and there the difference of their action principles, not

the funds of the public firm, became an important

matter.

In this paper, after pointing out the validity of MO

in use of the simple Cournot model, we examine

whether the validity is preserved when production ef-

ficiencies are different between the two types of firms,

and when the number of the private firm increases

form 1 to n-1. Also, we focus on the profit (con-

straint), which is often neglected in such studies, and

extend to examine whether Din the former case, the

existence of the public firm is preferable as far as it

earns non-negative profit, ©2 in the latter case, given

that at certain numbers of firms, MO deteriorates so-

cial welfare, how the numbers are determined.

As a result, we prove that in such cases, the varid-

ity of MO depends on demand, cost and the number

Df firms, and in relation to (1), non-negative profit of

the public firm does not necessary indicate it.

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