8
9 特集:SKYACTIV TECHNOLOGY マツダ技報 No.302012減速エネルギ回生システム “i-ELOOP” のデバイス開発 Development of the “i-ELOOP” Device 高橋 正好 1 藤田 弘輝 2 鈴木 正悟 3 Masayoshi Takahashi Hiroki Fujita Seigo Suzuki 西田 史彦 4 Fumihiko Nishida 要約 マツダは,技術開発の長期ビジョンである「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」に基づき,「ビルディン グブロック戦略」を推進している。 新世代技術「SKYACTIV TECHNOLOGY(スカイアクティブ テクノロジー)」で,クルマの基本性能 となるパワートレインの効率向上や車両の軽量化などのベース技術を徹底的に向上し,更に段階的に電気デ バイス技術を組み合わせて,CO2 の総排出量を削減していく。その STEP2 となるクルマの減速時に発生す るエネルギを電気として回収し,クルマが必要とする電気エネルギとして再利用する新たな減速エネルギ回 生システム「“i-ELOOP”」(Intelligent Energy LOOP)を開発した。今回はその「ビルディングブロック 戦略」の STEP2 となる減速回生技術「“i-ELOOP”」のデバイス技術として低抵抗大容量電気二重層キャパ シタ(以下 EDLCElectric Double Layer Capacitor )と DC-DC コンバータについて技術紹介する。 Summary Based on the “Sustainable Zoom-Zoom” plan, Mazda’s long-term vision for technology development, we have been advancing what is called a “Building Block Strategy”. With use of a new-generation technology called “SKYACTIV TECHNOLOGY”, we intend to thoroughly improve Mazda’s base technologies with an eye to improving the powertrain efficiency, reducing the vehicle weight, and eventually combining them with electric device technologies in a phased manner so as to reduce total CO 2 emissions. As the second step of this approach, Mazda has developed a new regenerative braking system called “i-ELOOP”, where the energy generated during deceleration is recovered and reused as electric energy necessary for a vehicle to move. This paper introduces the Electric Double Layer Capacitor (hereinafter referred to as EDLC) and the DC-DC converter as device technologies of the “i-ELOOP”, a regenerative braking technology developed as the second step of the Building Block Strategy. 1. はじめに 世界的な低燃費志向の高まりを受けマツダでも数々の燃 費低減策が提案されてきた。Fig.1 はスカイアクティブ クノロジーのコンセプトを示している。このコンセプトと “i-ELOOP”との関連をはじめに説明する。これらの改善ア イテムの中で電気システムでの改善が効率的にできる領域 として,「廃棄していたエネルギの再利用」と,「エンジ ンの仕事量削減」と,「エンジンの駆動力不要時燃料カッ ト」を関連付けてシステム化し改善できる領域があると考 え,オルタネータによる燃料での発電をゼロにするコンセ プトの“i-ELOOP”の開発となった。その柱となる低抵抗大 容量 EDLC DC-DC コンバータについて紹介する。 43 1, 34 車両システム開発部 *2 技術研究所 Vehicle System Development Dept. Technical Research Center

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9 特集:SKYACTIV TECHNOLOGY

マツダ技報 No.30(2012)

減速エネルギ回生システム “i-ELOOP” のデバイス開発 Development of the “i-ELOOP” Device

高橋 正好*1 藤田 弘輝*2 鈴木 正悟*3 Masayoshi Takahashi Hiroki Fujita Seigo Suzuki

西田 史彦*4 Fumihiko Nishida

要約

マツダは,技術開発の長期ビジョンである「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」に基づき,「ビルディン

グブロック戦略」を推進している。

新世代技術「SKYACTIV TECHNOLOGY(スカイアクティブ テクノロジー)」で,クルマの基本性能

となるパワートレインの効率向上や車両の軽量化などのベース技術を徹底的に向上し,更に段階的に電気デ

バイス技術を組み合わせて,CO2 の総排出量を削減していく。その STEP2 となるクルマの減速時に発生す

るエネルギを電気として回収し,クルマが必要とする電気エネルギとして再利用する新たな減速エネルギ回

生システム「“i-ELOOP”」(Intelligent Energy LOOP)を開発した。今回はその「ビルディングブロック

戦略」の STEP2 となる減速回生技術「“i-ELOOP”」のデバイス技術として低抵抗大容量電気二重層キャパ

シタ(以下 EDLC;Electric Double Layer Capacitor )とDC-DCコンバータについて技術紹介する。

Summary

Based on the “Sustainable Zoom-Zoom” plan, Mazda’s long-term vision for technology

development, we have been advancing what is called a “Building Block Strategy”.

With use of a new-generation technology called “SKYACTIV TECHNOLOGY”, we intend to

thoroughly improve Mazda’s base technologies with an eye to improving the powertrain efficiency,

reducing the vehicle weight, and eventually combining them with electric device technologies in a

phased manner so as to reduce total CO2 emissions.

As the second step of this approach, Mazda has developed a new regenerative braking system

called “i-ELOOP”, where the energy generated during deceleration is recovered and reused as

electric energy necessary for a vehicle to move.

This paper introduces the Electric Double Layer Capacitor (hereinafter referred to as EDLC) and

the DC-DC converter as device technologies of the “i-ELOOP”, a regenerative braking technology

developed as the second step of the Building Block Strategy.

1. はじめに

世界的な低燃費志向の高まりを受けマツダでも数々の燃

費低減策が提案されてきた。Fig.1 はスカイアクティブ テ

クノロジーのコンセプトを示している。このコンセプトと

“i-ELOOP”との関連をはじめに説明する。これらの改善ア

イテムの中で電気システムでの改善が効率的にできる領域

として,「廃棄していたエネルギの再利用」と,「エンジ

ンの仕事量削減」と,「エンジンの駆動力不要時燃料カッ

ト」を関連付けてシステム化し改善できる領域があると考

え,オルタネータによる燃料での発電をゼロにするコンセ

プトの“i-ELOOP”の開発となった。その柱となる低抵抗大

容量EDLCとDC-DCコンバータについて紹介する。

― 43 ―

*1, 3~4 車両システム開発部 *2 技術研究所 Vehicle System Development Dept. Technical Research Center

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マツダ技報 No.30(2012)

1.Improving the efficiency of the engine

2.Use of the high efficiency aria of the engine

3.Work load reduction of the engine

4.The engine-free time fuel cut

5.Disposal energy reduction or reuse

Generator load reduction

Energy efficiency world one

Fuel cut time extention

i-ELOOPRegeneration system dev.To collect energy at acceleratorOFF time.To use the energy in accelerator ON.

Fig.1 Improvement Items of Energy Efficiency vs

"i-ELOOP" Fig.2 Module Form

3. 電気二重層キャパシタ(EDLC)選定理由 i-ELOOPのシステムについては、「減速エネルギ回生シス

テム“i-ELOOP”の開発」を参照願います。 3.1 性能要求からの選定理由

2. “i-ELOOP”用EDLCの仕様について 上記仕様を満足する蓄電デバイスの検証を行った。蓄電

デバイスとして,物理反応原理の EDLC と化学反応原理

の Li イオン電池(以下 LiB),ニッケル水素電池(以下

Ni-MH)及び鉛バッテリで比較を実施した(Table 2)。

選定のポイントは,①低電圧系で,大電流(200A)での

受入れ性,②エンジンルーム搭載を想定した寿命性能の実

現性である。

2.1 要求仕様

“i-ELOOP”システムは,燃料による発電をなくし回生

エネルギだけで車両消費電流をカバーすることを柱として

おり,加減速が頻繁で 40A 程度の電流消費時に 10%程度

の燃費向上を目標とした。そのため,Table 1 に示すよう

に,EDLC に求められるエネルギ量は,モジュール容量

120F以上,エネルギ量 23kJ以上とした。 まず,①受入れ性であるが,Ni-MH電池は、電流受入れ性

を考えると、2 並列以上で対応する必要があり,モジュー

ルが大型化する懸念があることから候補からはずした。ま

た鉛バッテリは,受入れ性を高めると寿命が短くなるため,

本システム用途には適用できないと考えた。EDLCとLiB

は,パワー密度が 4,000W/kg以上であり,本システムへの

適用は可能である。ただし、LiBは、寿命末期では回生効

率の低下が懸念される。次に②寿命性能であるが,エンジ

ンルーム搭載場所は,通常走行であれば走行風が当たるた

め,温度は上昇しにくいが,渋滞やアイドリング停車では,

80を超える高温環境に曝される場合がある。そのため,

蓄電デバイス自身の耐熱特性のみで寿命性能を満足する必

要がある。更に,本システムは低電圧系のため,通常の

HEVよりも平均電流値が大きくなり,発熱量の増加が懸念

される。よって使用環境温度の上限が 60であるLiBと

Ni-MH電池は,専用の冷却システムが必要となり大型化す

ることと安全性面で選定から外した。一方EDLCは自動車

用途として高温での寿命性能の向上が検討されており,使

用範囲が 70以上まで拡大したものも報告されている(1),

(2)。また,LiBやNi-MHに比べて内部抵抗が小さいことが

特徴であるとともに,長寿命,環境への負荷低減などに優

位性がある。従って,エンジンルーム内への搭載が可能性

で,本システムのような短時間大電流回生用途に適してい

ると考え,EDLCを選定した。

回生する機能は最大 25V 発電の可変電圧オルタネータ

に持たせた。パルス幅制御により励磁電流を制御しレギュ

レータレスの可変電圧としている。EDLC モジュールは,

鉛バッテリと並接し,回収機能をメインで持たせるため,

12~25V の範囲で 200A(オルタネータの制約のため)の

回生が可能な事が要求される。また,居住空間(車室内/

トランク)の広さを優先し,エンジンルーム内搭載を目指

した。

そのため,特に 85のような高温環境下でも,特性劣

化しにくく,自身の発熱による性能悪化を最小限にするた

め,従来より低い内部抵抗を要求仕様とした。これらの要

求を満足させることで,軽量コンパクトなモジュールが実

現可能となった(Fig.2)。

Table 1 Requirements specification of i-ELOOP capacitor

module

1) Input Voltage 0~25V

2) Module Capacity 120F

3) Energy amount min.23kJ

(At 14-25V)

4) Resistance 12mΩ

5) Charge electric current level maximum 200A

6) Temperature security range -30~70 Fig.3 に“i-ELOOP”と従来車の比較イメージ図を示す。

7) Storage Temperature Max.85

― 44 ―

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マツダ技報 No.30(2012)

Table 2 Performance Comparison of Storage Device

type

Energy density(Wh/kg) × 5~10 100~200 50~80 30~40

Voltage(V) 2.5 3~3.7 1.2 2

Maximum Output(W/kg) 10,000> 4,000 1,000~2,000 × 200

Resistance(mΩ) 1 2.5 3 5

Operating temperature() -30~70 -30~60 -30~60 -30~80

Cycle life(soc 0 ⇔ 100% @25) 1,000,000> 3,000> 1,000> × 300>

Safety ― ― ― ―

Environmental load ― × Li,Co,Ni,Mn × Ni × Pb

HEV application Vent type

CapasitorLithium-ion

batteriesNickel-metal

hydride bateriesLead-acid

storage batteries

Electric double layer HEV application

Fig.3 Comparison between Conventional Car and i-ELOOP

従来車における鉛バッテリは,ポリタンクのようなもの

で出入り口は小さいが容積は大きい。従って,今回の減速

回生用途では,回生量が限定され回収効率が低い。そこで,

回収と車両負荷に機能を分け,それぞれの蓄電デバイスに

担当させる手法を考案した。”i-ELOOP”における

EDLC は,出入り口の大きなバケツのようなもので出入り

は容易だが貯めることのできる容積は小さい。従って,回

収機能に特化させ,鉛バッテリと並接させるシステムを今

回新たに構築した。

4. 電気二重層キャパシタ(EDLC)について

4.1 EDLCの原理と構造

Fig.4に示すように EDLCの基本的なセル構成は,セパ

レータを介した 2 枚の分極性電極と電解液からなる。電圧

を印加すると,電解液中のイオンが電荷補償のため電極表

面へ引き寄せられ,電極と電解液界面にそれぞれ電荷層が

形成される。これを電気二重層(electric double layer)と

呼び,正極・負極上での電気二重層形成により EDLC は

電荷を蓄える。Fig.5 に EDLC の構造を示す。電極には,

高比表面積の活性炭にバインダ及び導電助剤を混錬し,そ

のスラリーを集電板(アルミ箔)に塗布したものを用いる。

その他の材料としては,セパレータとしてセルロース系,

電解液には TEMABF4(トリエチルメチルアンモニウムテ

トラフルオロボレート)を溶解した PC(プロピレンカー

ボネート),アルミケース,封口板などから構成されてい

る(Fig.6 EDLC外観)。

今回,自動車の回生システム用途への適用を目指し,日

本ケミコン(株)と共同でセル・モジュールの設計・開発を

― 45 ―

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マツダ技報 No.30(2012)

Fig.4 Principle of Electric Double Layer Capacitor(3)

Activated carbon grain

【Pore of the active carbon】Inside surface

Outside surface

Micro-aperture(<2nm)

Meso aperture(2~50nm)Macro aperture(>50nm)

separator

【EDLC image】

Carbon electrodeElectrolyte Solution

Current collector

Fig.5 Structure of Electric Double Layer Capacitor(3)

Fig.6 EDLC Cell for Vehicle Made in Nippon Chemi-Con(3)

実施した。エンジンルーム内への搭載を実現するためには,

酷暑地域においても内部発熱による温度上昇を抑える必要

がある。そのためには,セル当たり 1mΩ以下の低抵抗化

が理想である。しかし,これまでの EDLC では,モジュ

ールでの内部抵抗が約 25mΩ以上が一般的であった。そこ

で,集電構造の改良及び電極材組成の最適化による接触抵

抗の低減を実施することで,単セル 0.9mΩ以下を実現し

て大電流に対する効率を高められた。更に,高温での耐久

性をこれまでの 60から 70に向上させ,頻繁な回生に

よる自己発熱への許容度も向上した。

4.2 活性炭について

電極に使用されている活性炭(Activated carbon)は脱

臭剤などで知られているが,石炭やヤシ穀などを二酸化炭

素や水蒸気,空気,燃焼ガス等を約 1,000の温度で反応

させ炭化賦活して作られる微細孔を持つ炭素のことである。

この微細孔の壁の活性炭面積が,EDLC の静電容量に大き

く関係し,セル1本分の表面積は東京ドーム約 3 個分に相

当する。今回開発の EDLC はヤシの実の内果皮(Fig.7)

から製造する活性炭を使用しており,その内果皮は木や竹

より硬く,良い活性炭原料となる。

内果皮以外も例えば中果皮はスポンジなど,胚乳はヤシ

油,石鹸等にいろいろ使われ無駄にするところがほとんど

ない。フィリピンでは 2010 年ヤシ油用に 120 億個のヤシ

の実が使用されているが,その廃材の内果皮約 30 億個

(Fig.8)が活性炭用として使用されており,今後 EDLC

が増産されても廃材利用率が向上し環境破壊等が発生する

懸念は少ない。EDLC は鉛電池やリチウム電池等と比べ比

較できないくらい環境にやさしい材料で構成されている。

Fig.7 Coconut Structure

Fig.8 2010 Production and Use of the Philippine Coconut

5. 信頼性

5.1 基本特性

開発したEDLCの基本特性について以下に示す。

Fig.9 には,EDLC 容量の電流値依存性を示す。電流値

が大きくなるほど,電圧降下が大きくなるため容量が小さ

くなるが,電圧降下も小さく良好な放電直線を示す。

Total amount

15,500,000,00

Coconut oil

12,000,000,000

Active carbon

300,000,000

Mesocar

Albume

Endocarp

― 46 ―

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マツダ技報 No.30(2012)

Fig.10 には,EDLC 容量の温度依存性を示す。放電容

量は,-30 から 70の間で容量値の変化は小さいが,充電

容量は,温度が低くなると共に小さくなった。これは,

100A の測定電流値に対して,イオンの活性炭細孔内部へ

の拡散が追いつかないためと考える。しかし,冷間時での

容量低下率は小さく,冷間時での回生量の低下は問題ない

レベルであると考える。Fig.11には,EDLC内部抵抗の温

度依存性を示す。これまでのモジュール内部抵抗の半減以

下を実現した。低温時の内部抵抗の増加率は,3 倍(-30

と 20比較)以下であり,LiBやNi-MHと比較しても小

さく,低温時の受入れ性の悪化を抑えることが可能である。

0

5

10

15

20

25

30

0 0.2 0.4 0.6

Capacity / Ah

Potential / V

0.8

15A

50A

100A

200A

Fig.9 Current Dependency of Capacity

50

60

70

80

90

100

110

120

-40 -20 0 20 40 60 80

Temperature []

Capacity [F]

Charge

Discharge

Fig10. Temperature Dependency of Capacity (at 100A)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

-40 -20 0 20 40 60 80

Temperature []

Internal resistance [mΩ]

Fig.11 Temperature Dependency of Resistance (at 100A)

5.2 劣化特性

Fig.12 にサイクル試験結果を示す。サイクル時間と共に

容量は一様に低下している。Fig.13 には,横軸を√t にし

た時のサイクル劣化試験結果を示す。横軸√t に対して直

線的に低下し, LiB と同様に√t 則に従うことを明らかに

し,使用範囲内であれば劣化予測が可能であることを確認

した。Fig.13 より,切片部と傾き部に大別でき,切片部は

初期の劣化に傾き部は主劣化と表現できる。初期劣化は,

製造過程で活性炭の表面に吸着した官能基や水分及び不純

物と電解液との反応が主であり,EDLC に特有の劣化と推

定される。主劣化は,電解液の分解により電極表面に堆積

物やガスが生じ,電極面積の減少による容量の低下を引き

起こし,イオン拡散性が低下して内部抵抗の増加を導くメ

カニズムと推定している。

60

70

80

90

100

0 500 1000 1500 2000

Time[hour]

Capacity maintenance ratio(%)

Fig.12 Deterioration of Cycle Test (at 70 ave.70A

12-25V)

60

70

80

90

100

0 10 20 30 40 50

Time[√h]

Capacity maintenance ratio(%)

Fig.13 Deterioration of Cycle Test (√t as the abscissa)

次に,主劣化に及ぼす劣化因子の調査を行った。Fig.14

~16には,制御因子である,温度・電圧・電流による影響

度を調査した結果を示す。影響度に関しては,温度>電圧

>電流の順であることを見出した。特に,電流に関しては,

10~200Aの電流範囲で 1.6%の変化率であり,非常に小さ

いことを明らかにした。これは,EDLCが物理反応原理の

ため,高レート対応可能なことから,充放電時の副反応が

少ないためと推定される。以上のことから,制御因子とし

て温度と電圧を制御できれば劣化をコントロールできる可

能性を示した。今回開発したEDLCは,高温での性能保証

を 70まで向上させたが,エンジンルーム内への搭載のた

めにはまだ不十分であった。そこで,70以上から,段階

的に上限電圧を下げていき,85以上では 16V以下で制御

する劣化コントロールを組み合わせることで,10 年 24 万

kmの保障を実現することが可能となった。

― 47 ―

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マツダ技報 No.30(2012)

60

70

80

90

100

0 10 20 30 40 50Time[√h]

Capacity maintenance ratio(%)

50

60

70

Fig.14 Temperature Dependence of the Life in Float Examination (at 2.5V)(3)

60

70

80

90

100

0 10 20 30 40 50Time[√h]

Capacity maintenance ratio(%)

2V

2.3V

2.5V

Fig.15 Voltage Dependence of the Life in Float Examination (at 70)(3)

80

85

90

95

100

105

110

0 50 100 150 200 250Current[A]

Rate of change (assumed capacity in

10A 100)[%]

Fig.16 Current Dependence of the life in Cycle

Examination (at60,after10,000cy)(3)

次に,自動車用途を想定した劣化試験による寿命の検証

を実施した。劣化試験は,エンジンルーム搭載で,ハード

ユーザの実車走行を想定した走行モードと,停車時を想定

した保存モード組み合わせた複合モードである。複合モー

ドによる容量劣化は時間の平方根に比例して減少し,内部

抵抗劣化は時間の平方根に比例して増加した。10 年 24 万

km 相当の劣化後でも,回収能力は確保できる事を確認し

た。以上より,今回新規に開発した EDLC と劣化制御を

組み合わせることで,エンジンルーム内への水冷や油冷の

ような特殊な冷却機能が不要な搭載が可能な i-ELOOP 用

EDLCシステムを開発することができた。

6. DC-DCコンバータ

6.1 DC-DCコンバータ仕様

DC-DC コンバータの仕様は,定格電圧 DC12.5V にお

いて,入力電圧範囲 0~25V,出力電圧範囲 11~14.8V,

作動温度範囲-40~85,最大定格MAX.50Aとした。

今回開発した DC-DC コンバータは降圧型のコンバータ

である。車両に搭載するために,DC-DC コンバータ自体

の発熱とラジオに対する輻射ノイズを特に注意して開発し

た(Fig.17)。

Fig.17 DC-DC Converter

6.2 DC-DCコンバータ容量決定について

全世界の車両消費電流調査を実施し容量を決定した。

Fig.18 はベルリンでの四季による消費電流の例で,Fig.19

は大阪での消費電流例である。通常 40A でほとんどのシー

ンをカバーできるが,今後の電子部品の増加を考えて

MAX.50A とした。消費電流が 50A を超える状態が続く時

はオルタネータとバッテリを直結し車両側に電流供給される。

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

0.4

0.45

0.5

20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

Current(A)

use ratio/year

Max 30A 80% / year

84%

Spring,autumn,w interLamp,Audio

SummerLamp・A/C

16%

Elec.Load 20A 30A 40A 50A

Use scene modespring,autumnearly summer

summerw inter

summernight

Lamp - ON ON ON

A/C(Ratio) - ON(30%) ON(50%) ON(70%)

Heater - - ON -

Audio - ON ON ON

Fig.18 Electric Load VS Annual Use Frequency @ Berlin

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

0.4

0.45

0.5

20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50

Current(A)

use ratio/year

Max 30A 60% / year

40%

Spring,autumn,w interNavi,Audio

SummerLamp・A/C

20%

40%

Spring,autumn,w interLamp,A/C,Audio

Fig.19 Electric load VS Annual use Frequency @ Osaka Japan

― 48 ―

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マツダ技報 No.30(2012)

6.3 輻射ノイズ対応について

Fig.20 は降圧式 DC-DC コンバータの基本回路である。

今回のDC-DCコンバータはスイッチング制御で降圧してい

るが1チャンネルでのスイッチングでは輻射ノイズと発熱量

が多いため,今回は 4 チャンネル(Fig.21)でのスイッチング

としエネルギを分散させる対応とした。4 チャンネル化で発

熱を分散させるとともに,輻射ノイズも約1/4とした。

L=10μH

Capa 120F ESR=0.0156Ω

coil

F=125Khz

Fig.20 DC-DC Converter Circuit

8μsec  T1 T2 

Fig.21 DC-DC Converter Basics Output Wave Pattern

DC-DC コンバータの出力は車両電装品に供給されてい

る。よって出力の電源リップルは各電装補機類に大きな影

響を及ぼす可能性がある。以下にリップルの机上検証結果

を示す。最大入力電圧 Vin(max)=25V。リップル電流

yとすると y と Vout の関係は次式となる(125kHz 時)。

よって Vout が 12.5V のときリップル電流が最大となり

5.0A 出力コンデンサ ESR=0.0156Ωからリップル電圧最

大値は 0.0156×5=0.078V と小さく適正である。ただし実

回路では車両負荷やバッテリ内部抵抗があり,0.078V 以

上となるが,実車での評価結果もオルタネータリップル基

準値より充分小さいことが確認できている。

6.4 各機能ごとの出力波形

各箇所の電流波形例を示す(Fig.22)。今回の DC-DC コ

ンバータでは4チャンネル化しておりこの IC を 2 個使い

している。

入力電圧 Vin の MAX は 25V。スイッチング周波数は

125kHz/110kHz である。本図との実回路との大きな違い

は負荷側には鉛バッテリが接続されているため Vin が鉛バ

ッテリの電圧以下になると電流が逆流する。実回路では逆

流防止のFETを設置している。

Generator

L1

L2

Lord &

Battery

DC‐DC Converter

A

B

C

D

Capacitor

AB

C D

Fig.22 DC-DC Converter Wave Pattern

6.5 DC-DCコンバータ放熱特性

DC-DC コンバータの重要な管理仕様として放熱特性が

ある。今回の DC-DC コンバータでは降圧用のコイルが一

番発熱する。放熱は DC-DC の放熱フィンを介して行われ

るがコイル,FET,コンデンサの温度分布を見ながら放熱

特性を確認する必要がある。コイル,FET,コンデンサの

中で一番熱的に弱いのはコンデンサであるため発熱源から

充分必要な距離を取ることが重要である。Fig.23 は放熱フ

ィンの温度測定結果で FET,コイルに近接するサーミスタ

での測定の CAN 値である。約 50A 連続通電で 85付近

で熱平衡状態となる。 1 Vinmax - VoutL*F Vinmax

20

30

40

50

60

70

80

90

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16→(t)

deg()

Security tempFET 175 Coil 130

Elec.Filed condenser 105

-131.3

× Vout ×y =

y = ×(Vout-12.5) + 5.02

Fig.23 DC-DC Converter Heat Radiation Performance

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マツダ技報 No.30(2012)

7. まとめ

システム紹介で“i-ELOOP”の機能や効果を説明したが,

システムを支える重要なデバイスとして本編では EDLC

と DC-DCコンバータについて触れた。EDLCは,将来更

なる大容量,高電圧化されると予測される。また,DC-DC

コンバータも車両の機能がどんどん増加しており消費電流

が増えることで大出力化していく傾向にある。システムで

賄える電力を増加させ,これから増加していくであろう環

境対応システムや安全システムへの対応や駆動力補助等へ

の対応を可能とし,“i-ELOOP”を通じて環境に優しく

“Zoom-Zoom”な走りの車作りに今後も貢献していきたい。

参考文献

(1) 日清紡ホールディングスホームページ N's CAP の特

徴より

(2) JM エナジーホームページ ULTIMO ラミネートセル

のご紹介より

(3) 日本ケミコン(株) 提供資料

著 者

高橋 正好 藤田 弘輝 鈴木 正悟

西田 史彦